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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022045576
(43)【公開日】2022-03-22
(54)【発明の名称】クラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/12 20060101AFI20220314BHJP
【FI】
F16D41/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020151243
(22)【出願日】2020-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000154347
【氏名又は名称】株式会社ユニバンス
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】特許業務法人しんめいセンチュリー
(72)【発明者】
【氏名】野寄 英人
(72)【発明者】
【氏名】大池 栄弥
(72)【発明者】
【氏名】加藤 侑
(57)【要約】
【課題】圧縮ばねの弾性力のばらつきを低減できるクラッチを提供する。
【解決手段】クラッチは、第1面に第1穴が設けられた第1部材と、第1面と軸線方向に対向する第2面を有し軸線方向に貫通する第2穴が設けられた本体、及び、第1部材の反対側の軸線方向に本体から突出する突出部を備える第2部材と、第2穴に配置されトルクの伝達時に第1穴と第2穴とに係合する係合子と、第2部材の第2面の反対側に配置され第2穴を塞ぐ第3部材と、第2穴に配置された係合子と第3部材との間に配置された圧縮ばねと、を備える。第3部材は、突出部にはまり合う結合部を備え、結合部と突出部との間に締め代がある。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクの伝達と遮断とを切り換えるクラッチであって、
軸線に交差する第1面に第1穴が設けられた第1部材と、
前記第1面と軸線方向に対向する第2面を有し前記軸線方向に貫通する第2穴が設けられた本体、及び、前記第1部材の反対側の前記軸線方向に前記本体から突出する突出部を備え、前記軸線を中心に前記第1部材と相対回転する第2部材と、
前記第2穴に配置され、トルクの伝達時に前記第1穴と前記第2穴とに係合し、トルクの伝達を遮断するときに前記第1穴と前記第2穴との係合が解除される係合子と、
前記第2部材の前記第2面の反対側に配置され前記第2穴を塞ぐ第3部材と、
前記第2穴に配置された前記係合子と前記第3部材との間に配置された圧縮ばねと、を備え、
前記第3部材は、前記突出部にはまり合う結合部を備え、前記結合部と前記突出部との間に締め代があるクラッチ。
【請求項2】
前記突出部は、前記結合部の径方向の内側に位置する請求項1記載のクラッチ。
【請求項3】
前記第1穴は、第1内穴と、前記第1内穴よりも径方向の外側に設けられた第1外穴と、を含み、
前記第2穴は、前記第1内穴と軸方向に対向する第2内穴と、前記第2内穴よりも径方向の外側に設けられ前記第1外穴と軸方向に対向する第2外穴と、を含み、
前記本体は、前記第2内穴が設けられた内周部と、前記第2外穴が設けられた外周部と、を備え、
前記係合子は、前記内周部の前記第1部材を向く第3面に配置された第1係合子と、前記外周部の前記第1部材を向く第4面に配置された第2係合子と、を含み、
前記第1係合子は、トルクの伝達時に前記第1内穴と前記第2内穴とに係合し、トルクの伝達を遮断するときに前記第1内穴と前記第2内穴との係合が解除され、
前記第2係合子は、トルクの伝達時に前記第1外穴と前記第2外穴とに係合し、トルクの伝達を遮断するときに前記第1外穴と前記第2外穴との係合が解除され、
前記第4面と前記第3部材との間の前記軸線方向の距離は、前記第3面と前記第3部材との間の前記軸線方向の距離と異なる請求項1又は2に記載のクラッチ。
【請求項4】
前記第3部材は、前記内周部に配置された第1部と、前記外周部に配置された第2部と、前記第1部と前記第2部との間に設けられた屈曲部と、を備える請求項3記載のクラッチ。
【請求項5】
前記軸線と平行に前記係合子および前記圧縮ばねを投影したときに、前記係合子の投影が、前記圧縮ばねの投影の全体に重なる請求項1から4のいずれかに記載のクラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトルクの伝達と遮断とを切り換えるクラッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
第1面に第1穴が設けられた第1部材と、第1面と軸方向に対向する第2面を有し軸方向に貫通する第2穴が設けられた第2部材と、第2穴に配置された係合子と、第2面の反対側の面に配置され第2穴を塞ぐ第3部材と、第3部材と係合子との間に配置された圧縮ばねと、を備えるクラッチは知られている(特許文献1)。特許文献1の技術では、軸や穴に溝を加工し、その溝にはめたスナップリングによって、軸方向に抜けないように第3部材が固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/155604号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし上記技術では、溝の加工精度、スナップリングの厚さ、第1部材および第2部材の軸方向の長さが原因で、第2部材と第3部材との間に軸方向の隙間が生じ易い。この隙間の大きさのばらつきによって圧縮ばねの伸び縮みの長さがばらつき、圧縮ばねの弾性力のばらつきが生じ易い。圧縮ばねの弾性力は、第1部材と第2部材とが相対回転するときに、圧縮ばねによって第1部材に押し付けられた係合子と第1部材との間の摩擦力に影響する。この摩擦力のばらつきは、第1部材と第2部材とが相対回転するときのエネルギー損失のばらつきの原因となる。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、圧縮ばねの弾性力のばらつきを低減できるクラッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明のクラッチは、軸線に交差する第1面に第1穴が設けられた第1部材と、第1面と軸線方向に対向する第2面を有し軸線方向に貫通する第2穴が設けられた本体、及び、第1部材の反対側の軸線方向に本体から突出する突出部を備え、軸線を中心に第1部材と相対回転する第2部材と、第2穴に配置され、トルクの伝達時に第1穴と第2穴とに係合し、トルクの伝達を遮断するときに第1穴と第2穴との係合が解除される係合子と、第2部材の第2面の反対側に配置され第2穴を塞ぐ第3部材と、第2穴に配置された係合子と第3部材との間に配置された圧縮ばねと、を備える。第3部材は、突出部にはまり合う結合部を備え、結合部と突出部との間に締め代がある。
【発明の効果】
【0007】
第1の態様によれば、第2穴が設けられた本体から軸線方向に突出する第2部材の突出部に、第3部材の結合部がはまり合う。結合部と突出部との間に締め代があるから、溝を設けなくても、第2部材に第3部材が結合する。第3部材の固定のために軸や穴に溝を加工する必要がなく、また、その溝にはめたスナップリングによって軸方向に抜けないように第3部材を固定する必要がないので、軸線方向の長さに影響する部材を少なくできる。これにより第2部材と第3部材との間に軸線方向の隙間が生じ難いので、圧縮ばねの伸び縮みの長さのばらつきが低減し、圧縮ばねの弾性力のばらつきを低減できる。
【0008】
第2の態様によれば、突出部は結合部の径方向の内側に位置する。結合部の径方向の外側に突出部が位置する場合の、突出部および結合部の位置よりも径方向の内側に突出部および結合部を配置できる。第1の態様の効果に加え、突出部および結合部が径方向の内側に位置する分だけ、クラッチの慣性モーメントを小さくできる。
【0009】
第3の態様によれば、第2内穴が設けられた本体の内周部の第3面に第1係合子が配置され、第2外穴が設けられた本体の外周部の第4面に第2係合子が配置される。第1部材と第2部材とが相対回転するときに、第2係合子が第1部材に擦れる距離と、第1係合子が第1部材に擦れる距離と、は異なるので、第2係合子と第1部材との間の摩擦力と、第1係合子と第1部材との間の摩擦力と、を異ならせると、係合子の摩擦力によるエネルギー損失を総合的に低減できる。係合子の摩擦力は圧縮ばねの弾性力に比例する。外周部の第4面と第3部材との間の軸線方向の距離は、内周部の第3面と第3部材との間の軸線方向の距離と異なるので、第2内穴と第2外穴に同じ圧縮ばねを配置しても、第2係合子を第1部材に押し付ける圧縮ばねの変形と、第1係合子を第1部材に押し付ける圧縮ばねの変形と、を異ならせることができる。よって第1又は第2の態様の効果に加え、係合子と第1部材との間の摩擦力を低減できる。
【0010】
第4の態様によれば、第3部材は、内周部に第1部が配置され、外周部に第2部が配置される。第1部と第2部との間に屈曲部が設けられているので、第3の態様の効果に加え、屈曲部のたわみの復元力を利用して第1部および第2部と第2部材との間の軸線方向の隙間を低減できる。
【0011】
第5の態様によれば、軸線と平行に係合子および圧縮ばねを投影したときに、係合子の投影が、圧縮ばねの投影の全体に重なる。圧縮ばねの弾性力およびその反力が作用する部分を最小限にできるので、第1から第4の態様の効果に加え、第1部材と第2部材とが相対回転するときの摩擦力によって生じるエネルギー損失を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施の形態におけるクラッチの軸線を含む断面図である。
図2】第2部材および係合子の斜視図である。
図3】クラッチの断面図である。
図4】第2部材に第3部材が結合する前のクラッチの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。まず図1を参照してクラッチ10の概略構成について説明する。図1は一実施の形態におけるクラッチ10の軸線Oを含む断面図である。図1では軸線Oを境にして片側が図示され、もう片側の図示が省略されている。
【0014】
クラッチ10は、第1部材20、第2部材30、係合子50、圧縮ばね55及び第3部材60を備えている。クラッチ10は、共通の軸線O上にある第1部材20と第2部材30との間のトルクの伝達と遮断とを切り換える機能をもつ。第1部材20は第1軸11に結合し、第2部材30は第2軸12に結合している。
【0015】
第1部材20は、軸線Oに交差する第1面21に第1穴22が設けられた円盤状の部材である。本実施形態では、第1穴22は、第1内穴23と、第1内穴23よりも径方向の外側に設けられた第1外穴24と、を含む。第1内穴23は、軸線Oからの距離が一定の第1の円周上に複数設けられている。第1外穴24は、軸線Oからの距離が一定の円周上であって第1の円の直径よりも大きな第2の円周上に複数設けられている。
【0016】
第2部材30は、第1面21と軸線方向に対向する第2面31を有する円盤状の部材である。第2部材30は、第2穴36が設けられた本体32と、第1部材20の反対側の軸線方向に本体32から突出する突出部33と、を備えている。本実施形態では、突出部33は本体32の径方向の内側の部分から軸状に突出している。突出部33は第2軸12に結合し、本体32は突出部33の径方向の外側に隣接している。
【0017】
本実施形態では、本体32は、円環状の内周部34と、内周部34の径方向の外側に隣接する外周部35と、を備えている。第2穴36は本体32を軸線方向に貫通する。第2穴36は、内周部34を軸線方向に貫通する第2内穴37と、外周部35を軸線方向に貫通する第2外穴39と、を含む。第2内穴37は、軸線Oからの距離が一定の第1の円周上に複数設けられている。第2外穴39は、軸線Oからの距離が一定の円周上であって第1の円の直径よりも大きな第2の円周上に複数設けられている。
【0018】
内周部34には、第1部材20を向く第3面38が設けられている。第3面38は第2内穴37の一部である。第2内穴37は、第2部材30の第2面31から、第3面38を介して、第2面31の反対側の本体32の第5面41まで突き抜けている。外周部35には、第1部材20を向く第4面40が設けられている。第4面40は第2外穴39の一部である。第2外穴39は、第2部材30の第2面31から、第4面40を介して、第2面31の反対側の本体32の第5面41まで突き抜けている。外周部35の第4面40と第5面41との間の軸線方向の距離は、内周部34の第3面38と第5面41との間の軸線方向の距離よりも長い。
【0019】
第2部材30の第2穴36には係合子50が配置されている。本実施形態では、係合子50は、第2内穴37に配置された第1係合子51と、第2外穴39に配置された第2係合子52と、を含む。第1係合子51は第3面38に配置され、第2係合子52は第4面40に配置されている。第2係合子52は、第1係合子51に比べて幅が小さめに設定されている。第1係合子51及び第2係合子52が配置されているから、係合子50の数を増やすことができ、トルク容量を大きくできる。
【0020】
第3部材60は、第2部材30の第2面31の反対側に配置され、第2穴36を塞ぐ。係合子50と第3部材60との間に圧縮ばね55が配置されている。本実施形態では、圧縮ばね55は圧縮コイルばねである。圧縮ばね55は、係合子50を第1部材20に押し付ける弾性力(復元力)を係合子50に加える。
【0021】
第3部材60は、第2部材30の突出部33にはまり合う結合部61を備えている。結合部61と突出部33との間に締め代がある。これにより第3部材60は第2部材30に結合する。本実施形態では、突出部33は結合部61の径方向の内側に位置する。つまり突出部33は結合部61に圧入されている。
【0022】
第3部材60は、第2部材30の内周部34に配置された第1部62と、第2部材30の外周部35に配置された第2部63と、第1部62と第2部63の間に設けられた屈曲部64と、を備えている。本実施形態では、結合部61は円筒であり、第1部62、屈曲部64及び第2部63は円板状のフランジである。第1部62は結合部61の径方向の外側に隣接している。屈曲部64は、第1部62から第2部63へ近づくにつれて、第1部材20から離れる方向へ屈曲している。第1部62は第2部材30の内周部34の第5面41に密着し、第2部63は第2部材30の外周部35の第5面41に密着している。
【0023】
図2は第2部材30及び係合子50の斜視図である。第1係合子51の構成は第2係合子52の構成と同様であり、第2内穴37の構成は第2外穴39の構成と同様である。従って第2外穴39及び第2係合子52を説明し、第2内穴37及び第1係合子51の説明は省略する。
【0024】
第2係合子52は、矩形の板状の支柱53と、支柱53の端から支柱53の幅方向の両側へ突出する腕54と、を備えている。第2部材30に設けられた第4面40は、第2係合子52を配置する広さがある。第4面40と第2面31との間の距離は、第2係合子52の厚さより大きく設定されている。第2部材30には、第2係合子52の腕54を収容する凹み42が設けられている。第4面40に第2係合子52が配置された第2外穴39に圧縮ばね55が配置される。
【0025】
図3はクラッチ10の断面図である。第2係合子52は、第1部材20の第1面21と第2部材30の第4面40との間に配置される。圧縮ばね55は、第2係合子52と第3部材60(第2部63)との間に配置され、第2係合子52の支柱53の、腕54と反対側の部分に弾性力を加える。腕54は第1部材20の第1面21に押さえられるので、第2係合子52は腕54を支点にして、第2面31を超えて支柱53が起き上がる。起き上がった第2係合子52及び圧縮ばね55を、軸線O(図1参照)と平行に第2部63(第3部材60)に投影したときに、第2係合子52の投影が、圧縮ばね55の投影の全体に重なる。
【0026】
第2係合子52が第1外穴24と第2外穴39とに係合すると、第2係合子52はトルクを伝達する。第2係合子52の第1外穴24と第2外穴39との係合が解除されると、第2係合子52はトルクの伝達を遮断する。本実施形態におけるクラッチ10は、第1係合子51及び第2係合子52の腕54と支柱53が全て同じ向きに配置された一方向クラッチである。
【0027】
図4は第2部材30に第3部材60が結合する前のクラッチ10の断面図である。クラッチ10を組み立てるには、第2部材30の第3面38に第1係合子51を配置し、第4面40に第2係合子52を配置した後、第1部材20の第1面21に第2面31を向かい合わせて第2部材30を配置する。次いで、第2部材30の第2内穴37及び第2外穴39の中に圧縮ばね55を入れる。圧縮ばね55は、第4面40と第5面41との間の軸線方向の距離よりも自由長が長いばねであり、形状および仕様が同一のばねである。
【0028】
第2部材30に第3部材60が結合する前の状態において、第3部材60の第1部62と第2部63との間の軸線方向の距離D1と第2部材30の内周部34と外周部35との間の軸線方向の距離D2との関係は、D1≦D2である。
【0029】
第3部材60の結合部61と第2部材30の突出部33とをはめ合わせ、第2部材30に対して第3部材60を軸線方向に移動させ、第3部材60の第1部62及び第2部63と第1係合子51及び第2係合子52との間に挟んだ圧縮ばね55を縮めて、第3部材60の第1部62及び第2部63を第2部材30の第5面41に密着させる。結合部61と突出部33との間に締め代があるので、結合部61と突出部33とのはめ合いの位置で突出部33に結合部61が結合する。突出部33に結合部61が結合する位置は部材ごとに決まるので、第2部材30の第5面41と第3部材60との間に軸線方向の隙間が生じ難い。これにより圧縮ばね55の伸び縮みの長さのばらつきが低減するので、圧縮ばね55の弾性力のばらつきを低減できる。
【0030】
圧縮ばね55の弾性力のばらつきが低減すると、第1部材20と第2部材30とが相対回転するときに、圧縮ばね55によって第1部材20に押し付けられた係合子50と第1部材20との間の摩擦力のばらつきを低減できる。その結果、第1部材20と第2部材30とが相対回転するときのエネルギー損失のばらつきを低減できる。
【0031】
軸状の突出部33と円筒状の結合部61との間に締め代があるので、突出部33と結合部61とがはまり合うときの円周方向の位置合わせは不要である。よって第2部材30に第3部材60を組み付けるときの作業性を向上できる。
【0032】
互いに結合した突出部33は結合部61の径方向の内側に位置する。結合部61の径方向の外側に突出部33が位置する場合の、突出部33及び結合部61の位置よりも径方向の内側に突出部33及び結合部61を配置できる。突出部33及び結合部61が径方向の内側に位置する分だけ、クラッチ10の慣性モーメントを小さくできる。
【0033】
第1部材20と第2部材30とが相対回転するときに、第2係合子52が第1部材20に擦れる距離は、第1係合子51が第1部材20に擦れる距離より長いので、第2係合子52と第1部材20との間の摩擦力を、第1係合子51と第1部材20との間の摩擦力より小さくすると、係合子50の摩擦力によるエネルギー損失を低減できる。係合子50の摩擦力は圧縮ばね55の弾性力に比例する。外周部35の第4面40と第3部材60との間の軸線方向の距離は、内周部34の第3面38と第3部材60との間の軸線方向の距離よりも長いので、第2内穴37と第2外穴39に仕様が同じ圧縮ばね55を配置しても、第2係合子52を第1部材20に押し付ける圧縮ばね55の変形を、第1係合子51を第1部材20に押し付ける圧縮ばね55の変形よりも低減できる。その結果、第2係合子52と第1部材20との間の摩擦力を低減し、係合子50の摩擦力によるエネルギー損失を低減できる。
【0034】
第2内穴37と第2外穴39に仕様が同じ圧縮ばね55を配置できるので、第2内穴37と第2外穴39に仕様が異なるばねを配置する場合に比べ、ばねの種類を増やすことなく径方向の内側と外側のばね荷重を変えることができる。さらにクラッチ10を組み立てるときに圧縮ばね55を配置する作業を簡易にできる。
【0035】
第3部材60は、内周部34に第1部62が配置され、外周部35に第2部63が配置される。第1部62と第2部63との間に屈曲部64が設けられているので、屈曲部64のたわみの復元力を利用して第1部62及び第2部63と第2部材30の第5面41との間の軸線方向の隙間を低減できる。特に、第2部材30に第3部材60が結合する前の状態においてD1≦D2なので、結合部61と突出部33とがはまり合ったときに屈曲部64のたわみの復元力が確実に得られ、第3部材60と第2部材30の第5面41との間の軸線方向の隙間を低減できる。
【0036】
係合子50及び圧縮ばね55を軸線O(図1参照)と平行に投影したときに、係合子50の投影が、圧縮ばね55の投影の全体に重なるので、圧縮ばね55の弾性力およびその反力が作用する部分を最小限にできる。よって第1部材20と第2部材30とが相対回転するときの摩擦力によって生じるエネルギー損失を低減できる。
【0037】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、第1係合子51や第2係合子52の形状、第1穴22や第2穴36の形状は例示であり、適宜設定できる。
【0038】
実施形態では、第1部材20及び第2部材30が、相対回転する第1軸11及び第2軸12にそれぞれ結合する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1部材20及び第2部材30の片方を軸に結合し、第1部材20及び第2部材30のもう片方を、軸の周りを回転可能に配置することは当然可能である。
【0039】
実施形態では、突出部33が、第2部材30の本体32の径方向の内側の部分から軸線方向に軸状に突出する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。突出部33を、第2部材30の本体32の径方向の外側の部分から軸線方向に筒状に突出させることは当然可能である。この場合の第3部材60の結合部61は、突出部33に圧入されるように、第3部材60の径方向の外側の部分に設けられる。この場合も突出部33と結合部61との間に締め代があるので、第2部材30の第5面41と第3部材60との間の軸線方向の隙間を低減できる。この場合も突出部33と結合部61とがはまり合うときの円周方向の位置合わせは不要である。
【0040】
実施形態では説明を省略したが、締め代がある突出部33と結合部61との間を、さらに、溶接などの手段を用いて接合したり留め具を用いて結合したりすることは当然可能である。
【0041】
実施形態では、圧縮ばね55として圧縮コイルばねを用いる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。圧縮コイルばねの代わりに、ねじりコイルばね等の他の圧縮ばねを用いることは当然可能である。
【0042】
実施形態では、第1係合子51が配置される第3面38及び第2係合子52が配置される第4面40が第2部材30に設けられる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。圧縮ばね55がねじりコイルばねの場合には、特開2001-193761号公報に記載されているように、第3面38や第4面40を省略して、第2内穴37の中に入れた第1係合子51や第2外穴39の中に入れた第2係合子52を、第3部材60に接するように配置することは当然可能である。
【0043】
実施形態では、第2係合子52に弾性力を加える圧縮ばね55、及び、第1係合子51に弾性力を加える圧縮ばね55が、形状および仕様が同一の場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第2係合子52に弾性力を加える圧縮ばねのばね定数を、第1係合子51に弾性力を加える圧縮ばねのばね定数よりも小さくすることで、第2係合子52に加える弾性力を、第1係合子51に加える弾性力よりも小さくすることは当然可能である。この場合は、第2部材30の第4面40と第5面41との間の軸線方向の距離を、第2部材30の第3面38と第5面41との間の軸線方向の距離より長くする必要はない。同様に、第2係合子52に弾性力を加える圧縮ばねのばね定数を、第1係合子51に弾性力を加える圧縮ばねのばね定数よりも大きくすることは当然可能である。
【0044】
実施形態では、外周部35の第4面40と第5面41との間の軸線方向の距離が、内周部34の第3面38と第5面41との間の軸線方向の距離よりも長い場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。外周部35の第4面40と第5面41との間の軸線方向の距離を、内周部34の第3面38と第5面41との間の軸線方向の距離よりも短くすることは当然可能である。
【0045】
実施形態では、係合子50が、第1係合子51、及び、第1係合子51の径方向の外側に配置される第2係合子52と、を含む場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1係合子51、第2係合子52のいずれかを省略することは当然可能である。
【0046】
実施形態では、一方向クラッチからなるクラッチ10の場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。係合子50を2組に分け、各組の腕54と支柱53を別の向きに配置し、クラッチ10を二方向クラッチにすることは当然可能である。
【0047】
実施形態では説明を省略したが、係合子50の起き上がりを規制するアクチュエータを設けることは当然可能である。アクチュエータを作動して係合子50の起き上がりを規制すると、トルクの遮断ができる。
【0048】
実施形態では、第1係合子51及び第2係合子52の幅が異なる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1係合子51及び第2係合子52の幅を同じにすることは当然可能である。
【符号の説明】
【0049】
10 クラッチ
20 第1部材
21 第1面
22 第1穴
23 第1内穴
24 第1外穴
30 第2部材
31 第2面
32 本体
33 突出部
34 内周部
35 外周部
36 第2穴
37 第2内穴
38 第3面
39 第2外穴
40 第4面
50 係合子
51 第1係合子
52 第2係合子
55 圧縮ばね
60 第3部材
61 結合部
62 第1部
63 第2部
64 屈曲部
図1
図2
図3
図4