IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社チップトンの特許一覧

<>
  • 特開-テイラー反応装置 図1
  • 特開-テイラー反応装置 図2
  • 特開-テイラー反応装置 図3
  • 特開-テイラー反応装置 図4
  • 特開-テイラー反応装置 図5
  • 特開-テイラー反応装置 図6
  • 特開-テイラー反応装置 図7
  • 特開-テイラー反応装置 図8
  • 特開-テイラー反応装置 図9
  • 特開-テイラー反応装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022045591
(43)【公開日】2022-03-22
(54)【発明の名称】テイラー反応装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/18 20060101AFI20220314BHJP
【FI】
B01J19/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020151261
(22)【出願日】2020-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】396019631
【氏名又は名称】株式会社チップトン
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】特許業務法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 海里
【テーマコード(参考)】
4G075
【Fターム(参考)】
4G075AA13
4G075AA63
4G075BA10
4G075BD09
4G075CA03
4G075DA02
4G075EA06
4G075EB01
4G075EB27
4G075EB50
4G075EC11
4G075EC30
4G075ED01
4G075ED09
4G075FA01
4G075FC17
(57)【要約】
【課題】テイラー渦に乱れを生じさせるのを防止する。
【解決手段】テイラー反応装置は、外筒61と、外筒61内に回転可能に配置され、外筒61との間に環状の反応室84を形成する内筒70と、外筒61の内周面に形成され、反応室84内に流体を流入させる流入口100とを備え、流入口100は、内筒70の回転中心軸Rと平行に見た軸方向視において、内筒70の回転中心軸Rとは異なる位置を指向する向きに開口している。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外筒と、
前記外筒内に回転可能に配置され、前記外筒との間に環状の反応室を形成する内筒と、
前記外筒の内周面に形成され、前記反応室内に流体を流入させる流入口とを備え、
前記流入口は、前記内筒の回転中心軸と平行に見た軸方向視において、前記内筒の回転中心軸とは異なる位置を指向する向きに開口しているテイラー反応装置。
【請求項2】
1つの前記流入口に、複数の流入孔が連通している請求項1に記載のテイラー反応装置。
【請求項3】
前記複数の流入孔の中心線が、前記外筒の内周面上で交差している請求項2に記載のテイラー反応装置。
【請求項4】
前記流入孔の中心線と、前記外筒の内周面の前記流入口における接線とのなす角度が、複数の前記流入孔の相互間で異なる角度である請求項2又は請求項3に記載のテイラー反応装置。
【請求項5】
複数の前記流入口が、周方向において異なる位置に開口している請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のテイラー反応装置。
【請求項6】
前記流入口の開口方向と、前記外筒の内周面の前記流入口における接線とのなす角度が、複数の前記流入口の相互間で異なる角度である請求項5に記載のテイラー反応装置。
【請求項7】
複数の前記流入口が、前記内筒の回転中心軸と平行な方向において離隔して開口している請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のテイラー反応装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テイラー反応装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、外筒と、外筒内で回転する内筒とを備え、外筒と内筒との間に隙間空間を形成したテイラー反応装置が開示されている。隙間空間内には、供給口から反応前の流体が供給されるようになっている。隙間空間内では、内筒の回転によってテイラー渦が発生し、テイラー渦流によって流体の混合、分散、乳化、化学反応等が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6229647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のテイラー反応装置は、供給口が、内筒の回転中心に向かって開口している。そのため、隙間空間内で生じたテイラー渦が、供給口から隙間空間内に流入する流体によって乱れを生じることが懸念される。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、テイラー渦に乱れを生じさせるのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
外筒と、
前記外筒内に回転可能に配置され、前記外筒との間に環状の反応室を形成する内筒と、
前記外筒の内周面に形成され、前記反応室内に流体を流入させる流入口とを備え、
前記流入口は、前記内筒の回転中心軸と平行に見た軸方向視において、前記内筒の回転中心軸とは異なる位置を指向する向きに開口している。
【発明の効果】
【0007】
流体が流入口から反応室へ流入する向きは、内筒の回転中心軸とは異なる位置を指向する向きである。したがって、流体は、反応室内で生成されているテイラー渦の周方向の流れに対して、逆らわずに合流する。本発明によれば、反応室に流入する流体によってテイラー渦に乱れが生じることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1のテイラー反応装置の断面図
図2】スピンドルユニットの拡大断面図
図3】反応室ユニットと温調ユニットの拡大断面図
図4】シール構造の拡大断面図
図5図3のX-X線断面図
図6】内筒の交換手順をあらわす拡大断面図
図7】内筒の交換工程において、内筒をスピンドルから離脱させた状態をあらわす拡大断面図
図8】実施例2のテイラー反応装置のX-X線相当断面図
図9】実施例3のテイラー反応装置の部分断面図
図10図9のY-Y線断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
1つの前記流入口に、複数の流入孔が連通していることが好ましい。この構成によれば、複数の流入口を周方向に間隔を空けて開口させる場合に比べると、外筒の内周面の形状が複雑にならずに済むので、テイラー渦の乱れを抑制することができる。
【0010】
前記複数の流入孔の中心線が、前記外筒の内周面上で交差していることが好ましい。この構成によれば、複数の流入孔の中心線が外筒の内周面よりも径方向内側で交差する場合に比べると、流入口の開口面積を小さくすることができる。したがって、テイラー渦の乱れを、より効果的に抑制することができる。
【0011】
前記流入孔の中心線と、前記外筒の内周面の前記流入口における接線とのなす角度が、複数の前記流入孔の相互間で異なる角度であることが好ましい。この構成によれば、複数の流入孔を、内筒の回転中心軸と直角な仮想二次元平面と平行に配置することができる。つまり、流入口から反応室への流体の流入方向を、螺旋方向ではなく、内筒の回転中心軸と直角な周方向にすることができる。これにより、テイラー渦の周方向の流れを乱すことなく、流体を反応室に流入させることができる。
【0012】
複数の前記流入口が、周方向において異なる位置に開口していることが好ましい。この構成によれば、異種の流体を複数の流入口から個別に反応室へ流入させることができる。複数の流入口の開口位置が周方向に異なっているので、第1の流体によるテイラー渦が生成されている状態で、そのテイラー渦に第2の流体を合流させることによって、第1の流体と第2の流体を均一に反応させることが可能である。また、異種の流体が、渦流未生成状態の反応によって固化し易い組み合わせ、又は高粘度化し易い組み合わせであっても、流入口の詰まりを防止できる。
【0013】
前記流入口の開口方向と、前記外筒の内周面の前記流入口における接線とのなす角度が、複数の前記流入口の相互間で異なる角度であることが好ましい。この構成によれば、複数の流入口を周方向において近接した位置関係で開口させることができる。
【0014】
複数の前記流入口が、前記内筒の回転中心軸と平行な方向において離隔して開口していることが好ましい。この構成によれば、異種の流体を複数の流入口から個別に反応室へ流入させることができる。複数の流入口の開口位置が、内筒の回転中心軸と平行な方向において異なっているので、第1の流体によるテイラー渦が生成されている状態で、そのテイラー渦に第2の流体を合流させることによって、第1の流体と第2の流体を均一に反応させることが可能である。また、異種の流体が、渦流未生成状態の反応によって固化し易い組み合わせ、又は高粘度化し易い組み合わせであっても、流入口の詰まりを防止できる。
【0015】
<実施例1>
以下、本発明を具体化した実施例1を図1図7を参照して説明する。尚、以下の説明において、前後の方向については、図1~4,6,7における右方を前方、左方を後方と定義する。上下の方向については、図1~7にあらわれる向きを、そのまま上方、下方と定義する。
【0016】
本実施例1のテイラー反応装置は、図1に示すように、駆動装置10と、温調ユニット40と、反応室ユニット60とを備えている。駆動装置10は、出力軸12を前方へ突出させたモータ11と、スピンドルユニット15とを有する。スピンドルユニット15は、スピンドル16と、スピンドル16を回転可能に支持する軸受部30とを有する。
【0017】
スピンドル16は、軸線を前後方向(水平方向)に向けた細長い円柱形の単一部材である。図2~4に示すように、スピンドル16には、スピンドル16の後端部(基端部)から前端部(先端部)に向かって順に、連結部17、本体部18、繋ぎ部19、温調機能部20、ガイド部21及びテーパ部24が形成されている。連結部17と出力軸12は、カップリング13を介すことによって、同軸状に且つ一体回転し得るように連結されている。
【0018】
図2に示すように、軸受部30は、複数の部品からなる固定筒31と、固定筒31の内周面における前端部及び後端部に設けたベアリング32とを有する。ベアリング32の内輪は、スピンドル16の本体部18の前後両端部に一体回転し得るように取り付けられている。スピンドル16の本体部18は、回転中心軸Rを前後方向(水平方向)に向けた状態で軸受部30によって回転可能に支持されている。
【0019】
固定筒31の内部には、前後両ベアリング32を冷却するためのジャケット34が形成されている。ジャケット34は、全周に亘って連続する複数の環状通路と、軸線方向に延びて環状通路を連通させる直線通路とから構成されている。ジャケット34の前後両端部は、固定筒31の外周面に開口する前後一対の軸受用通水口35と連通している。一方の軸受用通水口35とジャケット34と他方の軸受用通水口35を順に流動させる冷却液によって、ベアリング32が冷却されるようになっている。
【0020】
図4に示すように、温調ユニット40は、温調部41と、スピンドル16の温調機能部20と、前後対称な一対の温調用シール部材50とを備えている。温調部41は、ハウジング42と、伝熱部材48とを備えている。ハウジング42は、複数の部品を組み付けて構成されたものである。ハウジング42は、ハウジング42を前後方向に貫通する貫通孔43を有する。貫通孔43には、貫通孔43の内周面のうち前後両端部以外の部位を同心円形状に凹ませた形態の温調室44が形成されている。貫通孔43の内周壁における前後両端部には、一対の温調用シール面45が形成されている。ハウジング42には、ハウジング42の外周面下端部から温調室44に連通する温調用流入路46と、ハウジング42の外周面上端部から温調室44に連通する温調用流出路47とが形成されている。
【0021】
貫通孔43には、スピンドル16の温調機能部20が貫通した状態で収容されている。温調機能部20の外周には、円筒形の伝熱部材48と、伝熱部材48を前後に挟むように配置された一対の温調用シール部材50が、スピンドル16と一体回転し得るように取り付けられている。伝熱部材48と一対の温調用シール部材50は、温調室44内の流体に接するように配置されている。一対の温調用シール部材50が温調用シール面45に接触することによって、温調室44内が気密状又は液密状にシールされている。
【0022】
伝熱部材48は、スピンドル16とは別体の部品である。伝熱部材48は、スピンドル16よりも熱伝導率の高い材料からなる。具体的な材料の組み合わせとしては、スピンドル16の材料をステンレスとし、伝熱部材48の材料をアルミニウム合金とすることができる。伝熱部材48の内周面は、スピンドル16の温調機能部20の外周面に対して面当たり状態に接触している。伝熱部材48の外周面、つまり温調室44内の流体に接する面は、伝熱面49として機能する。伝熱面49は、周方向の凹部と周方向の凸部をスピンドル16の軸線方向(前後方向)に交互に配置した形状である。
【0023】
温調用シール部材50は、基部51と、保持部52と、リップ部53とを有する円環形の単一部品である。基部51をスピンドル16の回転中心軸Rに沿って切断したときの断面形状(以下、単に「断面形状」という)は、スピンドル16の回転中心軸Rと平行な前後方向の長さ寸法に対して、回転中心軸Rと直交する径方向の厚さ寸法の小さい長方形である。
【0024】
保持部52は、基部51の外周面における前後両端部のうち、いずれか一方の端部から径方向外方へ突出した形態である。保持部52の断面形状は、前後方向の長さ寸法に対して、基部51の外周面からの径方向への突出寸法の小さい長方形である。保持部52の前後両端面のうち一方の端面は、スピンドル16の回転中心軸Rと直交し、且つ基部51の端面に対して面一状に連なる平面で構成されている。保持部52と、基部51のうち前後方向において保持部52に連なる部位は、高剛性部54として機能する。高剛性部54は、基部51のうち保持部52が形成されていない部位に比べると、径方向の厚さ寸法が大きいので剛性も高い。
【0025】
リップ部53は、薄板状をなし、基部51の外周面の後端部、即ち前後方向における保持部52とは反対側の端部から、径方向外方へ片持ち状に突出した形態である。リップ部53は、基部51の外周面から径方向外方へ且つ保持部52に向かって突出した四半円弧形状の湾曲部55と、この湾曲部55から保持部52に向かって基部51の外周面と平行に延出した平行部56とからなる。リップ部53の曲げの内側の面、即ち基部51の外周面及び保持部52と対向する面は、受圧面57となっている。
【0026】
一対の温調用シール部材50は、保持部52同士が前後方向に対向するように配置されている。前後一対のリップ部53の曲げの外側の面(受圧面57とは反対側の面)が、前後一対の温調用シール面45に対して弾性的に当接することによって、温調機能部20の外周面と貫通孔43の内周面との隙間が気密状又は液密状にシールされている。一対の保持部52は、伝熱部材48の前後両端面に当接し、伝熱部材48を前後方向への移動を規制した状態に保持している。一対の保持部52と伝熱部材48は、一対のリップ部53の間に配置され、温調室44内の流体に直接的に接する。
【0027】
基部51の外周面と保持部52とリップ部53とによって囲まれた空間は、リップ部53の突出端と保持部52との間の隙間を介すことによって温調室44と連通している。受圧面57には、温調室44内の流体の圧力が作用するので、リップ部53は、受圧面57に作用する温調室44内の圧力によって温調用シール面45に押し付けられる。
【0028】
図3に示すように、反応室ユニット60は、外筒61と、スピンドル16のガイド部21及びテーパ部24と、内筒70と、固定部材81と、反応室用シール部材90と、閉塞部材85とを備えて構成されている。外筒61は、複数の部品を組み付けて構成されている。外筒61は、軸線を前後方向に向けて回転しない状態で設けられている。外筒61の内部には、流体を流動させるための温調用流動室62が形成されている。外筒61は、外筒61の前端面から後端面まで貫通した形態の収容孔63を有する。収容孔63の内径寸法は、収容孔63の前端から後端まで一定の寸法である。収容孔63の内周面のうち後端部の領域は、反応室用シール面64として機能する。
【0029】
収容孔63内には、スピンドル16のガイド部21とテーパ部24が収容されている。ガイド部21は、温調機能部20の前端から前方へ同軸状に突出している。ガイド部21の前端部は、ガイド部21の後端部よりも小径となっている。
【0030】
テーパ部24は、ガイド部21の前端から前方へ同軸状に突出している。テーパ部24は、前方に向かって外径寸法が次第に小さくなる形状をなしている。テーパ部24の後端の外径寸法は、ガイド部21の前端の外径寸法と同じ寸法である。テーパ部24の外周面は、外周テーパ面25として機能する。テーパ部24は、テーパ部24の前端面をテーパ部24と同軸状に凹ませた形態の雌ネジ孔26を有する。スピンドル16の前後方向における前端の位置は、外筒61の前端及び内筒70の前端よりも後方の位置である。
【0031】
内筒70は、外筒61及びスピンドル16と同軸状の円筒形をなす単一部品である。図6,7に示すように、内筒70の後端部にはシール機能部71が形成されている。内筒70のうちシール機能部71よりも前方の領域は、シール機能部71よりも前後方向の寸法の大きい反応室構成部72として機能する。反応室構成部72の外径寸法は、外筒61の収容孔63の内径寸法よりも小さく、シール機能部71の外径寸法よりも大きい。反応室構成部72の外径寸法は、反応室構成部72の前端から後端まで一定の寸法である。シール機能部71の前端と反応室構成部72の後端との間には、スピンドル16の回転中心軸Rと直交する平面からなる位置決め面86が形成されている。
【0032】
内筒70は、前端面から後端面まで貫通した形態の中心孔73を有する。中心孔73の内周壁の後端部には、被ガイド部74が形成されている。被ガイド部74の前後方向の形成領域は、内筒70の後端から、シール機能部71の前端よりも前方の位置までの範囲である。被ガイド部74の内径寸法は、被ガイド部74の前端から後端まで一定の寸法である。
【0033】
内筒70の中心孔73の内周壁のうち被ガイド部74よりも前方の領域には、内周テーパ面75が形成されている。内周テーパ面75の形成領域は、被ガイド部74の前端から、内筒70の前端よりも後方の位置迄の範囲である。内周テーパ面75は、前方に向かって外径寸法が次第に小さくなるように傾斜している。内周テーパ面75の後端の外径寸法は、外周テーパ面25の後端の外径寸法と同じ寸法であり、被ガイド部74の内径寸法よりも小さい寸法である。内周テーパ面75の前端の外径寸法は、外周テーパ面25の前端の外径寸法と同じ寸法である。
【0034】
内筒70の内周壁の前端部には、内筒70と同軸状の円形断面をなす収容凹部76が形成されている。収容凹部76は、内周テーパ面75に連なる小径部77と、内筒70の前端面に開口した大径部78とを有する。小径部77の内周壁には雌ネジ部79が形成されている。大径部78は、小径部77よりも内径寸法が大きく、小径部77の前端に連なっている。大径部78の内周壁には、シールリング80が装着されている。
【0035】
内筒70は、外筒61及びスピンドル16の前方から軸線方向にスライドさせることによって、外筒61とスピンドル16との隙間に収容され、スピンドル16に取り付けられている。内筒70をスピンドル16に取り付けた状態では、外周テーパ面25に対して内周テーパ面75が全面に亘って面当たり状態で密着することにより、内筒70がスピンドル16に対して後方への相対変位を規制された状態に保持される。図4に示すように、内筒70のシール機能部71が、シールリング87を介すことによって、スピンドル16のガイド部21における後端部に外嵌されている。シール機能部71は、ガイド部21のうち前端を除いた領域を包囲している。内筒70の収容凹部76は、スピンドル16の前端よりも前方に位置する。
【0036】
図3に示すように、内筒70とスピンドル16は、固定部材81によって組付け状態に固定される。固定部材81は、円形断面の頭部82と、頭部82から後方へ突出した雄ネジ部83とを有する。固定部材81は、内筒70の前方から収容凹部76内に差し込まれ、雄ネジ部83がスピンドル16の雌ネジ孔26にねじ込まれる。固定部材81を締め付けると、頭部82が、大径部78の奥端面を後方へ押圧するので、内筒70の内周テーパ面75がスピンドル16の外周テーパ面25に対して強く密着する。以上により、内筒70とスピンドル16が一体的に回転し得るように取り付けられている。内筒70をスピンドル16に取り付けた状態では、外筒61の収容孔63の内周面と内筒70の反応室構成部72の外周面との間に、円筒状の反応室84が構成されている。
【0037】
固定部材81を締め付けて内筒70とスピンドル16を固定した状態では、頭部82の前端面と内筒70の前端面とが面一状の位置関係となる。固定部材81の全体が収容凹部76内と雌ネジ孔26内に収容される。換言すると、固定部材81は、内筒70とスピンドル16の内部に収容され、内筒70の前端面からは突出していない。
【0038】
外筒61の前端部には、閉塞部材85が取り付けられている。閉塞部材85は、反応室84の前端を前方から覆い、内筒70の前端面と固定部材81の前端面に対して僅かな隙間を空けて対向するように配置されている。閉塞部材85と内筒70及び固定部材81との間の隙間は、反応室84の前端と連通しているが、反応室84内に生じるテイラー渦流の生成に影響を及ぼすことはない。
【0039】
反応室84の後端は、内筒70のシール機能部71の外周に取り付けた反応室用シール部材90によって、気密状又は液密状に閉塞されている。反応室用シール部材90は、基部91と、遮熱部92と、リップ部93とを有する円環形の単一部品である。図4に示すように、基部91をスピンドル16の回転中心軸Rに沿って切断したときの断面形状は、スピンドル16の回転中心軸Rと平行な前後方向の長さ寸法に対して、回転中心軸Rと直交する径方向の厚さ寸法の小さい長方形である。
【0040】
遮熱部92は、基部91の外周面の前端部から径方向外方へ突出した形態である。遮熱部92の断面形状は、前後方向の長さ寸法に対して、基部91の外周面からの径方向への突出寸法の小さい長方形である。遮熱部92の前端面は、スピンドル16の回転中心軸Rと直交し、且つ基部91の前端面に対して面一状に連なる平面で構成されている。遮熱部92と、基部91のうち前後方向において遮熱部92に連なる部位は、高剛性部94として機能する。高剛性部94は、基部91のうち遮熱部92が形成されていない部位に比べると、径方向の厚さ寸法が大きいので剛性も高い。
【0041】
リップ部93は、薄板状をなし、基部91の外周面の後端部、即ち前後方向における遮熱部92とは反対側の端部から、径方向外方へ片持ち状に突出した形態である。リップ部93は、基部91の外周面から径方向外方へ且つ遮熱部92に向かって突出した四半円弧形状の湾曲部95と、この湾曲部95から遮熱部92に向かって基部91の外周面と平行に延出した平行部96とからなる。リップ部93の曲げの内側の面、即ち基部91の外周面及び遮熱部92と対向する面は、受圧面97となっている。
【0042】
反応室用シール部材90は、内筒70のシール機能部71に対し一体的に回転し得るように取り付けられている。反応室用シール部材90は、係止リング99によって、内筒70に対して後方への相対変位を規制されている。高剛性部94の前端面は、内筒70の位置決め面86に対して後方から当接している。リップ部93の曲げの外側の面(受圧面97とは反対側の面)は、反応室用シール面64に対して弾性的に当接している。この当接作用によって、内筒70のシール機能部71の外周面と、外筒61の収容孔63の内周面との隙間が気密状又は液密状にシールされている。
【0043】
基部91の外周面と遮熱部92とリップ部93とによって囲まれた空間は、受圧室98となっている。受圧室98は、収容孔63の内周面と遮熱部92の外周面との間の僅かな隙間を介すことによって、反応室84と連通している。受圧面97には、反応室84内の流体の圧力が作用するので、リップ部93は、受圧面97に作用する反応室84内の圧力によって反応室用シール面64に押し付けられる。
【0044】
収容孔63の内周面と遮熱部92の外周面との間の隙間は非常に狭いので、反応室84と受圧室98との間では、流体の流動は殆ど生じない。したがって、受圧室98の存在が反応室84内におけるテイラー渦流の生成に影響を及ぼすことは殆どない。受圧室98と反応室84との間には遮熱部92が介在しているので、受圧室98と反応室84との間での熱伝達が抑制されている。受圧室98とスピンドル16との間には基部91が介在しているので、受圧室98とスピンドル16との間での熱伝達が抑制されている。
【0045】
外筒61の後端部には、反応室84へ流体を供給するための4つの流入口100と、四対の流入孔101,102が形成されている。図5に示すように、スピンドル16及び内筒70の回転中心軸Rと平行に見た軸方向視において、4つの流入口100は、90°の等角度ピッチで回転対称な位置関係で配置されている。反応室84の軸線方向(前後方向)において、4つの流入口100は、同じ位置に配置され、収容孔63の内周面における後端部に開口し、反応室84の後端部に連通している。
【0046】
図4,5において、1つの流入口100には、第1流入孔101の下流端と第2流入孔102の下流端とが連通している。軸方向視において、共通の流入口100に連通する第1流入孔101と第2流入孔102は、互いに異なる角度で、外筒61の外周面から流入口100に向かって直線状に延びている。第1流入孔101の中心線と、外筒61の内周面の流入口100における接線103とのなす角度をθ1とし、第2流入孔102の中心線と上記接線103とのなす角度をθ2としたときに、角度θ1と角度θ2は異なる角度に設定されている。第1流入孔101の中心線の延長線も第2流入孔102の中心線の延長線も、回転中心軸Rとは交わらない。第1流入孔101の中心線と第2流入孔102の中心線は、外筒61の内周面上の点104で交差している。第1流入孔101の中心線と第2流入孔102の中心線は、内筒70の回転中心軸Rと直交する共通の仮想二次元平面上に配置される。
【0047】
図3に示すように、外筒61の前端部には、反応室84内の流体を排出するための1つの流出口105と、これに続く流出孔106が形成されている。反応室84の軸線方向(前後方向)において、流出口105は、外筒61の収容孔63の内周面に開口し、反応室84の前端部に連通している。流出孔106は、流出口105から外筒61の外周へ直線状に延びている。
【0048】
モータ11を起動してスピンドル16と内筒70を回転させ、第1流入孔101と第2流入孔102を通して流入口100から異種の流体を反応室84内に供給すると、反応室84内にはテイラー渦流が生成される。第1流入孔101から反応室84への流体の流入と、第2流入孔102から反応室84への流体の流入は、同時に行ってもよい。また、先に第1流入孔101から流入した流体によってテイラー渦流を生成しておき、生成されたテイラー渦流に第2流入孔102から流入した流体を合流させてもよい。これとは逆に、第2流入孔102から流入した流体によってテイラー渦流を生成しておき、生成されたテイラー渦流に第1流入孔101から流入した流体を合流させてもよい。反応室84内では、テイラー渦流による剪断力によって流体の混合、撹拌、分散、乳化、化学反応等の各種反応が行われる。
【0049】
上記の各種反応を良好に実行するためには、内筒70の回転速度、反応室84の径方向の寸法、反応室84の温度を適正に設定することが必要である。内筒70の回転速度は、モータ11の回転数を調整することによって設定することができる。反応室84の径方向の寸法の設定に関しては、本実施例1では、反応室構成部72の外径寸法が異なる複数種の内筒70が用意されている。この複数種類の内筒70の中から適正な外径寸法を有する内筒70を選択し、この選択した内筒70を交換することによって、反応室84の径方向の寸法を適正に設定することができる。
【0050】
内筒70の交換は、次の手順で行われる。まず、閉塞部材85を外筒61から取り外し、次に、外筒61を温調ユニット40のハウジング42から取り外す。外筒61の取り外しと前後して、固定部材81をスピンドル16及び内筒70から取り外す(図6を参照)。この状態では、内筒70の内周テーパ面75とスピンドル16の外周テーパ面25が強固に密着しているので、手作業で内筒70をスピンドル16から外すことは困難である。
【0051】
そこで、図7に示すように、離脱用ボルト107を、内筒70の雌ネジ部79にねじ込んでスピンドル16の前端面(先端面)に当接させる。この状態で、離脱用ボルト107を回転させることによって、内筒70を離脱用ボルト107に対して前方へ相対変位させる。離脱用ボルト107は、スピンドル16に対して後方へ相対変位できないので、内筒70はスピンドル16に対して相対的に前方へ変位する。これにより、内周テーパ面75と外周テーパ面25が密着状態から解放されるので、内筒70をスピンドル16から取り外すことができる。このとき、反応室用シール部材90は内筒70に取り付けられた状態のままである。
【0052】
この後、反応室構成部72の外径寸法が異なる別の内筒70を、スピンドル16に取り付ける。内筒70を取り付ける際には、手作業によって内筒70を前方からスピンドル16に外嵌させる。このとき、内筒70の後端部(基端部)のシール機能部71が、外周テーパ面25に接触しないようにする。内筒70のシール機能部71の被ガイド部74が、スピンドル16のガイド部21に外嵌されると、内筒70とスピンドル16が同軸状に位置決めされる。この後、内周テーパ面75が外周テーパ面25に密着するまで、内筒70を後方へスライドさせる。
【0053】
内周テーパ面75を外周テーパ面25に密着させた後、固定部材81を雌ネジ孔26にねじ込むことによって、内筒70をスピンドル16に固定する。以上により、スピンドル16に対する内筒70の取り付けが完了する。この後は、温調ユニット40のハウジング42に外筒61を固定し、外筒61に閉塞部材85を固定する。以上の手順によって、内筒70の交換作業が完了する。
【0054】
反応室84の温度の管理は、外筒61の温調用流動室62と、スピンドルユニット15のジャケット34と、温調ユニット40とに対して、夫々、適温に管理した温調用流体を流動させることによって行われる。反応室84内の温度をモータ11や軸受部30の温度よりも低い温度に保持する場合、温調用流動室62では、反応室84において設定すべき適正温度と同じ温度、又はそれよりも少し低い温度の流体(冷却水)を流動させる。反応室84内において外筒61に接する流体は、温調用流動室62内の流体によって熱を奪われるので、温度上昇が抑えられる。
【0055】
反応室84内において内筒70に接する流体については、内筒70が接触しているスピンドル16の温度を管理することによって、温度上昇が抑えられる。スピンドル16の温度管理は、下記のようにして行われる。スピンドル16の本体部18は、モータ11から伝わる熱と、軸受部30のベアリング32から伝わる熱によって温度上昇する。そのため、反応室84を低温に設定する場合には、本体部18の温度を下げるとともに、本体部18から繋ぎ部19、温調機能部20、ガイド部21、テーパ部24を介して内筒70に伝わることを抑制する。
【0056】
本体部18の温度を下げるために、ジャケット34に所定の温度の流体を流動させることよって、軸受部30の温度上昇が抑えられている。軸受部30の温度が抑えられることによって、軸受部30から本体部18への熱伝達が抑えられ、本体部18の温度上昇が抑えられる。本体部18の熱が反応室84側へ伝達されることを抑制する手段として、軸受部30と反応室84との間に温調ユニット40が配置されている。温調ユニット40で、温調室44に所定温度の流体(冷却水)を流動させる。温調室44の流体は、本体部18から繋ぎ部19を介して温調機能部20に伝わった熱を奪うので、温調機能部20の温度上昇が抑えられる。
【0057】
温調機能部20の外周には、温調機能部20よりも熱伝導率の高い伝熱部材48が取り付けられ、この伝熱部材48が温調室44内の流体に直接的に接触しているので、温調機能部20の熱は、伝熱部材48を介して温調室44内の流体へ効率的に伝達される。また、伝熱部材48の外周面は、凹凸形状によって表面積を広く確保した伝熱面49となっており、この伝熱面49が温調室44内の流体に直接的に接触しているので、伝熱効率が更に向上している。さらに、伝熱部材48がスピンドル16と一体に回転し、凹凸形状の伝熱面49によって温調室44内の流体が撹拌されるので、この撹拌作用によっても伝熱効率が更に向上している。以上により、温調機能部20は、反応室84において設定すべき適正温度と同じ温度、又は適正温度よりも低い温度に抑えられる。
【0058】
温調機能部20の温度が上記のように管理されると、温調機能部20に連なるガイド部21とテーパ部24の温度も、温調機能部20と同じ温度に抑えられる。内筒70はテーパ部24に直接的に接触しているので、内筒70も温調機能部20と同じ温度、即ち反応室84に設定すべき適正温度、又はそれよりも低い温度となるように管理される。
【0059】
また、内筒70と一体に回転する反応室用シール部材90は、外筒61の反応室用シール面64に摺接するので、反応室用シール部材90のリップ部93と反応室用シール面64との間の摩擦抵抗によって、リップ部93の温度が上昇する。リップ部93の熱は、受圧室98内の流体に伝わるが、受圧室98と反応室84との間では流体の流動が殆どないので、受圧室98から反応室84への熱伝達が抑制されている。受圧室98と反応室84との間には、スピンドル16及び内筒70よりも熱伝導率の低い材料からなる遮熱部92が存在しているので、この遮熱部92の存在によっても、受圧室98から反応室84への熱伝達が抑制されている。受圧室98と内筒70との間には、スピンドル16及び内筒70よりも熱伝導率の低い材料からなる基部91が存在しているので、基部91の存在によって、受圧室98から内筒70への熱伝達が抑制されている。
【0060】
上記とは逆に、反応室84内の温度をモータ11や軸受部30の温度よりも高い温度に保持する場合、温調用流動室62では、反応室84において設定すべき適正温度と同じ温度、又はそれよりも少し高い温度の流体を流動させ、温調用流動室62内の流体から反応室84内の流体へ熱を伝達する。スピンドルユニット15のジャケット34と、温調ユニット40においても、スピンドル16よりも高い温度の流体を流動させ、この高温の流体の熱をスピンドル16に伝え、スピンドル16から内筒70を介して反応室84内の流体に伝達する。また、スピンドルユニット15(ベアリング32)を冷却しながら反応室84の温度を高める場合には、ジャケット34に冷却水を供給する一方、温調用流動室62に高温の流体を流動させて外筒61の温度を上昇させるとともに、温調室44内に高温の流体を流動させ、その熱をスピンドル16のガイド部21及びテーパ部24を介して内筒70に伝達すればよい。スピンドルユニット15と反応室84内の温度管理に際しては、スピンドルユニット15、温調部41及び外筒61に流動させる各流体の温度を個別に設定することによって、温度管理を効率的に実行することができる。
【0061】
本実施例1のテイラー反応装置は、外筒61と、外筒61内に同軸状に配置され、外筒61との間に環状の反応室84を形成する内筒70と、内筒70を回転駆動する駆動装置10とを備えている。駆動装置10は、外筒61内に収容されて外筒61と同軸状に回転するスピンドル16を有する。内筒70は、内筒70の回転中心軸Rと平行に変位させることによって、スピンドル16に対して着脱可能である。スピンドル16の外周面は、スピンドル16の前端側(先端側)に向かって縮径した形態の外周テーパ面25を有し、内筒70の内周面は、スピンドル16の前端側に向かって縮径した形態の内周テーパ面75を有する。外周テーパ面25と内周テーパ面75は、互いに面接触する。
【0062】
内筒70は、内周テーパ面75をスピンドル16の外周テーパ面25に対して面接触させた状態でスピンドル16に装着される。内周テーパ面75と外周テーパ面25を面接触させることによって、内筒70の内周面の内径とスピンドル16の外周面の外径の寸法公差が吸収される。これにより、内筒70を、スピンドル16に対して径方向のガタ付きを生じることなく同軸状に取り付け、内筒70と外筒61の径方向の隙間寸法を全周に亘って高い精度で一定に保つことができる。本実施例1のテイラー反応装置によれば、内筒70の交換を、外筒61に対して軸振れなく簡単に行うことができる。
【0063】
スピンドル16のうち外周テーパ面25よりも後端側(基端側)の領域には、外周テーパ面25の最大外径寸法よりも大径であり、内筒70の後端部(基端部)を外嵌させるガイド部21が形成されている。内筒70をスピンドル16に取り付ける過程では、内筒70の後端部(被ガイド部74の内周縁)をガイド部21に外嵌させることよって、内筒70の内周テーパ面75がスピンドル16の外周テーパ面25に対して片当たりすることを防止できる。
【0064】
外筒61の前端部(先端部)には、反応室84の前端部(先端部)を閉塞する閉塞部材85が取り付けられている。スピンドル16の前端部(先端部)には、内筒70をスピンドル16に固定するための固定部材81が取り付けられている。内筒70の前端面(先端面)には、固定部材81を収容する収容凹部76が形成されている。固定部材81は、内筒70の前端面と閉塞部材85とを大きく離隔させるような形態で露出することがないので、内筒70の前端面と閉塞部材85との隙間を極力狭めることができる。これにより、反応室84の前端部における内周側の形状が複雑になることを回避できるので、反応室84の前端部においても良好なテイラー渦流を生成することができる。
【0065】
固定部材81と内筒70との間には、内筒70の内周面とスピンドル16の外周面との接触領域を、反応室84から気密状又は液密状に隔絶するシールリング80が装着されている。シールリング80を設けたことによって、反応室84内の流体が、内筒70の内周面とスピンドル16の外周面との接触領域に到達することが防止される。これにより、反応室84内の流体が、内筒70の内周面やスピンドル16の外周面に付着することを防止できる。
【0066】
本実施例1のテイラー反応装置は、内筒70を回転駆動するスピンドル16と、スピンドル16を支持する軸受部30と、温調用の流体を流動させることが可能な温調部41とを有している。温調部41は、軸受部30と反応室84との間に配置されている。反応室84内を軸受部30よりも低温に設定する場合には、軸受部30からスピンドル16に伝達された熱を、温調部41内で流動する温調用の流体へ逃がすことによって、反応室84内の温度上昇を抑えることができる。反応室84内を軸受部30よりも高温に設定する場合には、温調部41内で流動する温調用の流体の熱を、スピンドル16と内筒70を介して反応室84内へ伝達することができる。本実施例1のテイラー反応装置によれば、軸受部30と反応室84との間における熱伝達を抑制することができる。
【0067】
温調部41は、温調用の流体を流動させるための温調室44を有する。スピンドル16の外周面には、温調室44に面する伝熱部材48が一体回転可能に設けられている。軸受部30からスピンドル16に伝達された熱は、伝熱部材48から温調室44内の温調用の流体に伝達されるので、反応室84まで伝わることがない。
【0068】
伝熱部材48のうち温調室44内の流体に接する面には、凹凸形状の伝熱面49が形成されている。凹凸形状の伝熱面49によって、伝熱部材48と温調用の流体との接触面積を広く確保できるので、伝熱部材48から温調用の流体への伝熱効率が良い。また、伝熱面49の凹凸形状によって温調用の流体が撹拌されるので、伝熱部材48から温調用の流体への伝熱効率が、更に向上する。
【0069】
伝熱部材48は、スピンドル16よりも熱伝導率が高く、スピンドル16とは別体の部品によって構成されている。伝熱部材48の熱伝導率がスピンドル16と同じである場合に比べると、スピンドル16と温調用の流体との間の熱抵抗が小さいので、スピンドル16から温調用の流体への伝熱効率に優れている。
【0070】
スピンドル16には、温調室44内を気密状又は液密状にシールするリング状の温調用シール部材50が一体回転可能に設けられている。温調用シール部材50は、スピンドル16の外周面に接触する基部51と、基部51の外周面から突出するリップ部53とを有している。リップ部53は、温調部41の温調用シール面45に対して弾性的に接触する。温調用シール部材50は、基部51をスピンドル16の外周面に接触させ、リップ部53を温調部41の温調用シール面45に接触させることによって、温調室44内を気密状又は液密状にシールする。スピンドル16と一体となって温調用シール部材50が回転すると、リップ部53と温調用シール面45との間に摩擦熱が発生する。しかし、リップ部53とスピンドル16との間には基部51が介在しているので、リップ部53に生じた摩擦熱はスピンドル16に伝わり難い。
【0071】
本実施例1のテイラー反応装置は、リング状の反応室用シール部材90を備えている。反応室用シール部材90は、内筒70に一体回転可能に取り付けられ、反応室84内を気密状又は液密状にシールする。反応室用シール部材90は、内筒70の外周面に接触する基部91と、遮熱部92と、リップ部93とを有する。遮熱部92は、基部91の外周面から突出し、反応室84内の流体に接している。リップ部93は、基部91の外周面のうち遮熱部92を挟んで反応室84とは反対側の位置から突出し、外筒61の反応室用シール面64に対して弾性的に接触する。
【0072】
反応室用シール部材90は、基部91を内筒70の外周面に接触させ、リップ部93を外筒61の反応室用シール面64に接触させることによって、反応室84内を気密状又は液密状にシールする。内筒70と一体となって反応室用シール部材90が回転すると、リップ部93と反応室用シール面64との間に摩擦熱が発生する。しかし、リップ部93と反応室84との間には遮熱部92が介在しているので、リップ部93に生じた摩擦熱が反応室84に伝わることが抑制される。本実施例1のテイラー反応装置によれば、反応室用シール部材90に生じた熱の影響が反応室84に及ぶのを抑制することができる。また、外筒61には、反応室用シール面64を冷却することが可能な温調用流動室62が形成されている。温調用流動室62に流動させる冷却水によって、リップ部93と反応室用シール面64との間に生じる摩擦熱を奪うことができる。これにより、リップ部93と反応室用シール面64との間の摩擦熱に起因する内筒70の温度上昇を抑えることができる。温調部41による内筒70の温度管理の効果も、損なわれずに済む。
【0073】
反応室用シール部材90の軸線方向(前後方向)における遮熱部92の寸法は、基部91からの遮熱部92の径方向の突出寸法よりも大きい。遮熱部92は、軸線方向へ傾くような変形を生じ難く、高い剛性を有しているので、反応室用シール部材90全体が円環形の形状を保つことができ、ひいては、高いシール性能を発揮することができる。
【0074】
遮熱部92のうち反応室84内の流体に接する前端面は、内筒70の回転中心軸Rと直交する平面で構成されている。反応室84の先端部における形状が複雑にならないので、良好なテイラー渦を生じさせることができる。リップ部93は、反応室84内の圧力を受けることによって、リップ部93を反応室用シール面64に押圧する受圧面97を有している。反応室用シール部材90は、反応室84内の圧力を受圧面97で受けることによって、高いシール性能を発揮することができる。
【0075】
受圧面97は、基部91から外周側へ向かうほど反応室84に接近するように傾斜している。受圧面97が反応室84内の圧力を受けることによって、リップ部93が反応室用シール面64に対して確実に押圧されるので、反応室用シール部材90は高いシール性能を発揮することができる。
【0076】
外筒61の内周面には、反応室84内に流体を流入させる流入口100が形成されている。流入口100は、内筒70の回転中心軸Rと平行に見た軸方向視において、内筒70の回転中心軸Rとは異なる位置を指向する向きに開口している。流体が流入口100から反応室84へ流入する向きは、内筒70の回転中心軸Rとは異なる位置を指向する向きである。したがって、流体は、反応室84内で生成されているテイラー渦の周方向の流れに対して、逆らわずに合流する。これにより、反応室84に流入する流体によってテイラー渦に乱れを生じることを防止できる。
【0077】
1つの流入口100に、複数の流入孔(第1流入孔101と第2流入孔102)が連通している。複数の流入孔に対して1つの流入口100を個別に開口させると、複数の流入口100を周方向に間隔を空けて開口させることになり、外筒61の内周面の形状が複雑になる。本実施例1では、複数の流入孔(第1流入孔101と第2流入孔102)に対して1つの流入口100を共用したので、外筒61の内周面の形状が複雑にならずに済む。これにより、テイラー渦の乱れを抑制することができる。
【0078】
第1流入孔101の中心線と第2流入孔102の中心線が、外筒61の内周面上の点104で交差している。複数の流入孔の中心線が外筒61の内周面よりも径方向内側で交差する場合に比べると、本実施例1のテイラー反応装置は、流入口100の開口面積を小さくすることができる。したがって、テイラー渦の乱れを、より効果的に抑制することができる。
【0079】
第1流入孔101と第2流入孔102の中心線と、外筒61の内周面の流入口100における接線103とのなす角度θ1,θ2は、第1流入孔101と第2流入孔102の相互間で異なる角度である。この構成によれば、第1流入孔101と第2流入孔102を、内筒70の回転中心軸Rと直角な仮想二次元平面と平行に配置することができる。つまり、流入口100から反応室84への流体の流入方向を、螺旋方向ではなく、内筒70の回転中心軸Rと直角な周方向にすることができる。これにより、テイラー渦の周方向の流れを乱すことなく、流体を反応室84に流入させることができる。
【0080】
<実施例2>
次に、本発明を具体化した実施例2を図8を参照して説明する。本実施例2のテイラー反応装置は、流入口111,112と流入孔113,114を上記実施例1とは異なる構成としたものである。その他の構成については上記実施例1と同じであるため、同じ構成については、同一符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0081】
外筒61の後端部には、反応室84へ流体を供給するための四対の流入口111,112と四対の流入孔113,114が形成されている。スピンドル16及び内筒70の回転中心軸Rと平行に見た軸方向視において、四対の流入口111,112は、90°の等角度ピッチで回転対称な位置関係で配置されている。反応室84の軸線方向(前後方向)において、四対の流入口111,112は、同じ位置に配置され、収容孔63の内周面における後端部に開口し、反応室84の後端部に連通している。
【0082】
対をなす第1流入口111と第2流入口112は、周方向において近接して配置され、且つ互いに独立した開口となっている。対をなす第1流入孔113と第2流入孔114は、下流端同士が接近するように配置されている。第1流入口111には第1流入孔113の下流端が連通し、第2流入口112には第2流入孔114の下流端が連通している。軸方向視において、対をなす第1流入孔113と第2流入孔114は、互いに異なる角度で、外筒61の外周面から第1流入口111及び第2流入口112に向かって直線状に延びている。
【0083】
第1流入孔113の中心線と、外筒61の内周面の第1流入口111における接線115とのなす角度をθ3とする。第2流入孔114の中心線と、外筒61の内周面の第2流入口112における接線116とのなす角度をθ4とする。角度θ3と角度θ4は異なる角度に設定されている。第1流入孔113の中心線の延長線も第2流入孔114の中心線の延長線も、回転中心軸Rとは交わらない。第1流入孔113の中心線と第2流入孔114の中心線は、内筒70の外周面上の点117で交差している。第1流入孔113の中心線と第2流入孔114の中心線は、内筒70の回転中心軸Rと直交する共通の仮想二次元平面上に配置される。
【0084】
複数の流入口(第1流入口111と第2流入口112)が、周方向において異なる位置に開口しているので、異種(2種類)の液体を第1流入口111と第2流入口112から個別に反応室84へ流入させることができる。第1流入口111の開口位置と第2流入口112の開口位置が周方向に異なっているので、例えば、第1流入口111から反応室84に供給した第1の液体によるテイラー渦が生成されている状態で、そのテイラー渦に第2流入口112から反応室84に供給した第2の液体を合流させることによって、第1の液体と第2の液体を均一に反応させることができる。また、異種の液体が、渦流未生成状態の反応によって固化し易い組み合わせ、又は高粘度化し易い組み合わせであっても、第1流入口111及び第2流入口112が詰まる虞がない。
【0085】
第1流入口111及び第2流入口112の開口方向と、外筒61の内周面の第1流入口111及び第2流入口112における接線115,116とのなす角度θ3,θ4は、第1流入口111と第2流入口112の相互間で異なる角度である。この構成によれば、第1流入口111と第2流入口112を周方向において近接した位置関係で開口させることができる。
【0086】
<実施例3>
次に、本発明を具体化した実施例3を図9図10を参照して説明する。本実施例3のテイラー反応装置は、流入口121,122と流入孔123,124を上記実施例1とは異なる構成としたものである。その他の構成については上記実施例1と同じであるため、同じ構成については、同一符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0087】
外筒61の後端部には、反応室84へ流体を供給するための二対の流入口121,122と二対の流入孔123,124が形成されている。図10に示すように、スピンドル16及び内筒70の回転中心軸Rと平行に見た軸方向視において、二対の流入口121,122は、90°の等角度ピッチで回転対称な位置関係で配置されている。二対の流入口121,122のうち左右一対の第1流入口121は、反応室84の軸線方向(前後方向)において同じ位置に配置されている。二対の流入口121,122のうち上下一対の第2流入口122は、反応室84の軸線方向(前後方向)において同じ位置に配置されている。
【0088】
図3に示すように、左右一対の第1流入口121は、上下一対の第2流入口122よりも後方に配置されている。反応室84内のテイラー渦流は、周方向の流れを生成した状態で、流入口121,122が形成されている反応室84の後端部から、流出口(図9,10には図示省略)が形成されている反応室84の前端部へ移動する。このテイラー渦流の前後への移動方向において、第2流入口122は、第1流入口121よりも移動方向下流側の位置、即ち第1流入口121よりも前方の位置に開口している。
【0089】
図10に示すように、軸方向視において、二対の流入孔123,124は、90°の等角度ピッチで回転対称な位置関係で配置されている。二対の流入孔123,124のうち一対の第1流入孔123は、外筒61の外周面から一対の第1流入口121に向かって上下方向へ直線状に延びている。一対の第1流入孔123の下流端は、一対の第1流入口121に個別に連通している。二対の流入孔123,124のうち一対の第2流入孔124は、外筒61の外周面から一対の第2流入口122に向かって左右方向へ直線状に延びている。一対の第2流入孔124の下流端は、一対の第2流入口122に個別に連通している。
【0090】
軸方向視において、各流入孔123,124の中心線の延長線は、反応室84内のテイラー渦流に対して周方向に合流するように延びており、スピンドル16及び内筒70の回転中心軸Rとは交わらない。左右一対の第1流入孔123の中心線は、内筒70の回転中心軸Rと直交する1つの仮想二次元平面上に配置される。上下一対の第2流入孔124の中心線は、内筒70の回転中心軸Rと直交し、且つ第1流入孔123とは異なる1つの仮想二次元平面上に配置される。
【0091】
本実施例3のテイラー反応装置は、複数の流入口(一対の第1流入口121と一対の第2流入口122)が、内筒70の回転中心軸Rと平行な前後方向に離隔して開口している。この配置によれば、異種(二種類)の液体を複数の流入口(一対の第1流入口121と一対の第2流入口122)から個別に反応室84へ流入させることができる。複数の流入口(一対の第1流入口121と一対の第2流入口122)の開口位置が、内筒70の回転中心軸Rと平行な方向において異なっているので、第1流入口121から反応室84に供給した第1の液体によるテイラー渦が生成されている状態で、そのテイラー渦に第2流入口122から反応室84に供給した第2の液体を合流させることによって、第1の液体と第2の液体を均一に反応させることが可能である。また、異種の液体が、渦流未生成状態の反応によって固化し易い組み合わせ、又は高粘度化し易い組み合わせであっても、第1流入口121及び第2流入口122での詰まりを防止できる。
【0092】
<他の実施例>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
上記実施例1では、1つの流入口に連通する流入孔の数は2本であるが、1つの流入口に連通する流入孔の数は、1本だけでもよく、3本以上であってもよい。
上記実施例1では、複数の流入孔の中心線が外筒の内周面上で交差するが、複数の流入孔の中心線が外筒の内周面よりも径方向内側で交差するようにしてもよい。
上記実施例1では、複数の流入孔を、内筒の回転中心軸と直角な仮想二次元平面と平行に配置したが、複数の流入孔のうち少なくとも一部の流入孔を、内筒の回転中心軸と直角な仮想二次元平面に対して斜め方向に配置してもよい。
上記実施例2では、2つの流入口が周方向に近接した位置関係で開口しているが、全ての流入口が、他の流入口に対して周方向に大きく離隔した位置で開口するようにしてもよい。
上記実施例1では、4つの流入口を形成したが、流入口の数は、3つ以下でもよく、5つ以上でもよい。
【0093】
上記実施例2では、近接して開口する2つの流入口に連通する2本の流入孔の中心線が、内筒の外周面で公差するようになっているが、近接して開口する2つの流入口に連通する2本の流入孔に関して、この2本の流入孔の中心線が交差する位置は、内筒の外周面よりも径方向外方の位置でもよく、内筒の外周面よりも径方向内側の位置でもよい。
上記実施例2では、流入口の開口方向(流入孔の中心線)と、外筒の内周面の流入口における接線とのなす角度が、近接して開口する2つの流入口の相互間で異なる角度となっているが、流入口の開口方向と、外筒の内周面の流入口における接線とのなす角度は、近接して開口する2つの流入口の相互間で同じ角度であってもよい。
上記実施例2では、1つの流入口に連通する流入孔が1本だけであるが、1つの流入口に複数本の流入孔が連通してもよい。
上記実施例2では、複数の流入孔を、内筒の回転中心軸と直角な仮想二次元平面と平行に配置したが、複数の流入孔のうち少なくとも一部の流入孔を、内筒の回転中心軸と直角な仮想二次元平面に対して斜め方向に配置してもよい。
上記実施例2では、四対(8つ)の流入口を形成したが、流入口の数は、7つ以下でもよく、9つ以上でもよい。
【0094】
上記実施例3では、内筒の回転中心軸と平行に視た軸方向視において、上下一対の流入口と左右一対の流入口が周方向に90°ピッチで配置されているが、二対の流入口の周方向における位置関係は90°ピッチに限らない。また、複数の流入口が軸方向視において周方向に同じ位置に配置されていてもよい。
上記実施例3では、流入口の開口方向(流入孔の中心線)が、内筒の回転中心軸とは異なる位置に向かう方向であるが、流入口の開口方向(流入孔の中心線)は内筒の回転中心軸に向かう方向であってもよい。
上記実施例3では、1つの流入口に連通する流入孔が1本だけであるが、1つの流入口に複数本の流入孔が連通してもよい。
上記実施例3では、複数の流入孔を、内筒の回転中心軸と直角な仮想二次元平面と平行に配置したが、複数の流入孔のうち少なくとも一部の流入孔を、内筒の回転中心軸と直角な仮想二次元平面に対して斜め方向に配置してもよい。
上記実施例3では、4つの流入口を形成したが、流入口の数は、3つ以下でもよく、5つ以上でもよい。
【符号の説明】
【0095】
61…外筒
70…内筒
84…反応室
100…流入口
101…第1流入孔(流入孔)
102…第2流入孔(流入孔)
103…外筒の内周面の流入口における接線
111…第1流入口(流入口)
112…第2流入口(流入口)
113…第1流入孔(流入孔)
114…第2流入孔(流入孔)
115…外筒の内周面の第1流入口における接線
116…外筒の内周面の第2流入口における接線
121…第1流入口(流入口)
122…第2流入口(流入口)
123…第1流入孔(流入孔)
124…第2流入孔(流入孔)
R…内筒の回転中心軸
θ1…第1流入孔の中心線と、外筒の内周面の流入口における接線とのなす角度
θ2…第2流入孔の中心線と、外筒の内周面の流入口における接線とのなす角度
θ3…第1流入孔の中心線と、外筒の内周面の第1流入口における接線とのなす角度
θ4…第2流入孔の中心線と、外筒の内周面の第2流入口における接線とのなす角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10