(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022045786
(43)【公開日】2022-03-22
(54)【発明の名称】力覚提示システム,制御プログラム及び制御方法
(51)【国際特許分類】
G06F 3/01 20060101AFI20220314BHJP
G01C 21/36 20060101ALI20220314BHJP
G08G 1/0968 20060101ALI20220314BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20220314BHJP
G09B 9/04 20060101ALN20220314BHJP
【FI】
G06F3/01 510
G01C21/36
G08G1/0968
G08G1/16 A
G09B9/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020151560
(22)【出願日】2020-09-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和1年9月10日、第24回日本バーチャルリアリティ学会大会WEB予稿集 令和1年9月11日、第24回日本バーチャルリアリティ学会大会 令和1年11月26日、第26回国際ディスプレイワークショップ(IDW’19)(The 26th International Display Workshops)予稿集 令和1年11月28日、第26回国際ディスプレイワークショップ(IDW’19)(The 26th International Display Workshops) 令和1年12月12日、第20回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演(SI2019)予稿集 令和1年12月13日、第20回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演(SI2019) 令和2年3月2日、日本バーチャルリアリティ学会ハプティクス研究会第24回研究会 令和2年5月27日、日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会(ROBOMECH2020)WEB予稿集 令和2年5月29日、日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会(ROBOMECH2020)
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】昆陽 雅司
(72)【発明者】
【氏名】矢内 智大
(72)【発明者】
【氏名】堀江 新
(72)【発明者】
【氏名】多田隈 健二郎
(72)【発明者】
【氏名】田所 諭
【テーマコード(参考)】
2F129
5E555
5H181
【Fターム(参考)】
2F129AA03
2F129EE43
2F129EE50
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2F129GG17
2F129HH20
2F129HH21
5E555AA08
5E555AA71
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5E555EA05
5E555EA09
5E555FA00
5H181AA01
5H181EE02
5H181FF21
5H181FF27
5H181LL01
5H181LL04
5H181LL08
5H181LL20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ヒトへのせん断変形による刺激量の調整を効率的に行なう力覚提示システム,制御プログラム及び制御方法を提供する。
【解決手段】力覚呈示システム100においては、ヒトの臀部皮膚にせん断変形による力覚を提示する着座式力覚提示装置2と、ヒトが受容した力覚に関する情報に基づき、着座式力覚提示装置2の変位量を調整する制御装置1と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの臀部皮膚にせん断変形による力覚を提示する着座式力覚提示装置と、
前記ヒトが受容した力覚に関する情報に基づき、前記着座式力覚提示装置の変位量を調整する制御装置と、
を備える、力覚提示システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記着座式力覚提示装置によって力覚を提示させるための一以上の規定の刺激強度に基づき、前記変位量を調整する、
請求項1に記載の力覚提示システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記一以上の規定の刺激強度により、変位量と力覚との関係を示す関数を同定することで、前記変位量を調整する、
請求項2に記載の力覚提示システム。
【請求項4】
前記制御装置は、外乱の大きさに応じて、前記変位量を調整する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の力覚提示システム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記着座式力覚提示装置による力覚の提示の時間経過に応じて、前記変位量を調整する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の力覚提示システム。
【請求項6】
前記着座式力覚提示装置は、ナビゲーションシステムを搭載した乗り物に備えられ、
前記制御装置は、前記ナビゲーションシステムが示す前記乗り物の移動方向へ前記着座式力覚提示装置が力覚を提示するように制御する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の力覚提示システム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記ナビゲーションシステムが示す前記乗り物の案内地点が近づくに応じて、前記着座式力覚提示装置が提示する力覚を大きくするように制御する、
請求項6に記載の力覚提示システム。
【請求項8】
前記着座式力覚提示装置は、走行に対する危険を検知するためのセンサを搭載した乗り物に備えられ、
前記制御装置は、前記センサによって前記危険が検知された場合に、前記着座式力覚提示装置に力覚を提示させるように制御する、
請求項1~7のいずれか1項に記載の力覚提示システム。
【請求項9】
前記着座式力覚提示装置は、乗り物に備えられ、
前記制御装置は、前記乗り物の走行により前記ヒトによって知覚される加速度又は遠心力を増幅させるよう、前記着座式力覚提示装置に提示させる力覚を制御する、
請求項1~8のいずれか1項に記載の力覚提示システム。
【請求項10】
前記着座式力覚提示装置は、乗り物に備えられ、
前記制御装置は、前記乗り物の走行により前記ヒトによって知覚される加速度又は遠心力を減少させるよう、前記着座式力覚提示装置に提示させる力覚を制御する、
請求項1~8のいずれか1項に記載の力覚提示システム。
【請求項11】
前記着座式力覚提示装置は、モーションプラットフォーム型のドライビングシミュレータに備えられ、
前記制御装置は、前記ドライビングシミュレータにより前記ヒトによって知覚される並進加速度を増幅させるよう、前記着座式力覚提示装置に提示させる力覚を制御する、
請求項1~8のいずれか1項に記載の力覚提示システム。
【請求項12】
前記着座式力覚提示装置は、固定型のドライビングシミュレータに備えられ、
前記制御装置は、前記ドライビングシミュレータによって仮想される乗り物の走行に応じた力覚を前記着座式力覚提示装置に提示させる制御を行なう、
請求項1~8のいずれか1項に記載の力覚提示システム。
【請求項13】
ヒトが受容した力覚に関する情報に基づき、前記ヒトの臀部皮膚にせん断変形による力覚を提示する着座式力覚提示装置の変位量を調整する、
処理をコンピュータに実行させる、制御プログラム。
【請求項14】
ヒトが受容した力覚に関する情報に基づき、前記ヒトの臀部皮膚にせん断変形による力覚を提示する着座式力覚提示装置の変位量を調整する、
処理をコンピュータが実行する、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載する技術は、力覚提示システム,制御プログラム及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライビングシミュレータには、地面に固定したモーションプラットフォーム型のものや、地面に対してスライダ等で並進運動可能な可動式のモーションプラットフォーム型のものがある(例えば、特許文献1)。固定式のモーションプラットフォーム型のドライビングシミュレータでは、車体又は運転席を傾けることで、運転時の加速度を搭乗者に体感させる。また、可動式のモーションプラットフォーム型のドライビングシミュレータでは、広い敷地内で筐体を並進運動せることで、実際の自動車の加速度をほぼ正確に搭乗者に体感させる。
【0003】
また、運転中に触覚を提示する従来技術として、バイブレータが実際の自動車等の乗り物に適用されることがある。例えば、シートに内蔵されたバイブレータにより感覚情報をシートに着座している搭乗者に提示することで、搭乗者による運転をサポートするものがある。
【0004】
上述のようなドライビングシミュレータや乗り物に搭載可能である、臀部皮膚にせん断変形を加える着座式の力覚提示装置がある(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Arata Horie, Akito Nomura, Kenjiro Tadakuma, Masashi Konyo, Hikaru Nagano, and Satoshi Tadokoro, AsiaHaptics 2018「Enhancing Haptic Experience in a Seat with Two-DoF Buttock Skin Stretch」2018年11月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、固定式のモーションプラットフォーム型のドライビングシミュレータでは、可動範囲が狭いため並進加速度の再現が困難となり、シート又は車体を運動させるために装置が巨大化するおそれがある。また、可動式のモーションプラットフォーム型のドライビングシミュレータでは、並進加速度を再現するために巨大な敷地・設備が必要になるおそれがある。
【0008】
実際の自動車のシートに内蔵されたバイブレータでは、車体振動が外乱となって振動刺激による知覚感度が低下するおそれがある。
【0009】
ドライビングシミュレータや乗り物に対して、臀部皮膚にせん断変形を加える着座式の力覚提示装置を単に適用したとしても、ヒトへの刺激量の調整が適切に行なわれない場合には、ヒトに不快感を与えてしまうおそれがある。皮膚せん断変形と知覚される力覚との関係には個人差があるため、皮膚変位と知覚される力覚との関係を心理物理実験で求めることが想定される。しかし、事前に心理物理実験により変位-知覚関数を同定することは実用上難しく、個人に合わせて調整することが困難であった。
【0010】
1つの側面では、本明細書に記載する技術は、着座した状態でヒトの臀部へのせん断変形による刺激量の調整を効率的に行なうことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1つの側面において、力覚提示システムは、ヒトの臀部皮膚にせん断変形による力覚を提示する着座式力覚提示装置と、前記ヒトが受容した力覚に関する情報に基づき、前記着座式力覚提示装置の変位量を調整する制御装置と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
1つの側面として、ヒトへのせん断変形による刺激量の調整を効率的に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態としての力覚提示システムの構成例を模式的に示すブロック図である。
【
図2】並進機構及び回転機構の着座式力覚提示装置を説明する図である。
【
図3】(a)~(d)は
図2に示した並進機構の着座式力覚提示装置における駆動部のハードウェア構成例及び駆動例を示す図である。
【
図4】(a)は2つの刺激での変位-知覚関数の同定処理を例示するグラフであり、(b)は1つの刺激での変位-知覚関数の同定処理を例示するグラフである。
【
図5】変位-知覚関数の補正処理を例示するグラフである。
【
図6】ユーザによる変位-知覚関数の補正処理のためのモニタにおける画面表示の第1及び第2の例である。
【
図7】ユーザによる変位-知覚関数の補正処理のためのモニタにおける画面表示の第3の例である。
【
図8】ユーザによる変位-知覚関数の補正処理の第3の例を簡単に示すグラフである。
【
図9】(a)はユーザによる変位-知覚関数の補正処理の第1の例を示すグラフであり、(b)はその第2の例を示すグラフであり、(c)はその第3の例を示すグラフである。
【
図10】ユーザによる変位-知覚関数の補正処理を説明する図である。
【
図11】(a)は外乱発生に伴う変位-知覚関数の補正処理を例示するグラフであり、(b)は時間変化に伴う変位-知覚関数の補正処理を例示するグラフである。
【
図12】(a)は
図1に示した力覚提示システムによるナビゲーション処理の第1の例を説明する図であり、(b)は
図1に示した力覚提示システムによるナビゲーション処理の第2の例を説明する図である。
【
図13】
図1に示した力覚提示システムにおけるセンサ装置を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して実施の形態を説明する。ただし、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、実施形態で明示しない種々の変形例や技術の適用を排除する意図はない。すなわち、本実施形態を、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0015】
また、各図は、図中に示す構成要素のみを備えるという趣旨ではなく、他の構成要素を含むことができる。以下、図中において、同一の符号を付した部分は特に断らない限り、同一若しくは同様の部分を示す。
【0016】
〔A〕実施形態
図1は、実施形態としての力覚提示システム100の構成例を模式的に示すブロック図である。
【0017】
力覚提示システム100は、制御装置1,着座式力覚提示装置2及びモニタ3を備える。
【0018】
モニタ3は、制御装置1から出力された映像をユーザ(別言すれば、ヒト)に提示する。モニタ3は、タッチパネルであってもよく、ユーザからの入力を受け付けてもよい。なお、ユーザからの入力は、不図示の種々の入力デバイスにより受け付けられてもよい。
【0019】
着座式力覚提示装置2は、制御装置1による制御によってユーザに力覚を提示する。着座式力覚提示装置2は、例えば2つの駆動部20を備える。着座式力覚提示装置2は、ユーザの左右の臀部が2つの駆動部20にそれぞれ設けられた駆動可能な接触子200に接触されることにより、ユーザの皮膚へせん断変形を与える。臀部の皮膚へせん断変形を与える動作は、スキンストレッチと称されてもよい。
【0020】
駆動部20の周囲には、支持部201が形成される。支持部201は、臀部の外周を支えて、支持部201の内側に包含される皮膚を効果的に変形させる。支持部201の存在によって、接触子200が動かされても臀部全体は並進せず、支持部201によって囲まれる(別言すれば、拘束される)皮膚が効果的にせん断変形を起こす。この際、接触子200に発生するせん断力は支持部201に発生する力と打ち消し合う。よって、着座式力覚提示装置2は、臀部全体に加わるせん断力を物理的に再現するとは限らず、力覚をユーザの錯覚により提示する。また、支持部201は、ユーザの上半身の体重を支えることで、接触子200に加わる加重を低減し、接触子200の並進に必要な駆動力を下げることができる。これにより、比較的小さなアクチュエータによって接触子200を駆動させることができる。
【0021】
2つの駆動部20は、同様に駆動して、左右の臀部に対称なせん断変形を与える。2つの駆動部20を非対称に動かしてもよい。例えば、左右差を設けることで、遠心力感覚をより強調してもよい。駆動部20は皮膚を左右,前後,又はその両方向に移動し引き連れさせることにより、皮膚にせん断変形を与える、また、駆動部20は皮膚にせん断変形を与えるローラであってもよい。駆動部20と臀部皮膚の間に衣服があってもよい。駆動部20,支持部201やこれらを支える部材には、臀部形状に適合する、又は、快適性を高めるために柔軟性のある素材や機構が使用されてよい。なお、着座式力覚提示装置2の詳細例については、
図3を用いて後述する。着座式力覚提示装置2は、ドライビングシミュレータや自動車のシートの上に設置されてもよいし、シートのカバー内に設置されてもよい。
【0022】
制御装置1は、着座式力覚提示装置2の接触子200の変位量を調整することによって、着座式力覚提示装置2がユーザに提示する力覚を制御する。制御装置1は、Central Processing Unit(CPU)11,メモリ12及び記憶装置13を備える。
【0023】
メモリ12は、Read Only Memory(ROM)及びRandom Access Memory(RAM)を含む記憶装置である。
【0024】
記憶装置13は、データを読み書き可能に記憶する装置であり、例えば、Hard Disk Drive(HDD)やSolid State Drive(SSD),Storage Class Memory(SCM)が用いられてよい。記憶装置13は、ユーザ毎に調整されて同定された変位-知覚関数に関する情報等を記憶してよい。
【0025】
CPU11は、種々の制御や演算を行なう処理装置であり、メモリ12に格納されたOperating System(OS)やプログラムを実行することにより、種々の機能を実現する。
【0026】
CPU11は、コンピュータの一例であり、例示的に、制御装置1全体の動作を制御する。制御装置1全体の動作を制御するための装置は、CPU11に限定されず、例えば、MPUやDSP,ASIC,PLD,FPGA,専用プロセッサのいずれか1つであってもよい。また、制御装置1全体の動作を制御するための装置は、CPU,MPU,DSP,ASIC,PLD,FPGA及び専用プロセッサのうちの2種類以上の組み合わせであってもよい。なお、MPUはMicro Processing Unitの略称であり、DSPはDigital Signal Processorの略称であり、ASICはApplication Specific Integrated Circuitの略称である。また、PLDはProgrammable Logic Deviceの略称であり、FPGAはField Programmable Gate Arrayの略称である。
【0027】
図2は、並進機構及び回転機構の着座式力覚提示装置2を説明する図である。
【0028】
符号A1には並進機構の着座式力覚提示装置2を臀部背面から見た図が示され、符号A2には並進機構の着座式力覚提示装置2を臀部側面から見た図が示されている。符号A1では接触子200がユーザから見て左右に並進することによって臀部に左右方向の力覚を与え、符号A2では接触子200がユーザから見て前後に並進することによって臀部に前後方向の力覚を与える。
【0029】
符号A3には回転機構の着座式力覚提示装置2を臀部背面から見た図が示され、符号A4には回転機構の着座式力覚提示装置2を臀部側面から見た図が示されている。符号A3では接触子200がユーザから見て左右に回転することによって臀部に左右方向の力覚を与え、符号A4では接触子200がユーザから見て前後に回転することによって臀部に前後方向の力覚を与える。
【0030】
なお、これらの並進機構の接触子200と回転機構の接触子200とは、組み合わされてもよい。
【0031】
図3の(a)~(d)は、
図2に示した並進機構の着座式力覚提示装置2における駆動部20のハードウェア構成例及び駆動例を示す図である。
図3の(a)~(d)においては、
図1に示した2つの駆動部20のうち、1つの駆動部20に限って図示している。
【0032】
図3の(a)は前方向への駆動例を説明する図であり、
図3の(b)は後ろ方向への駆動例を説明する図であり、
図3の(c)は左方向への駆動例を説明する図であり、
図3の(d)は右方向への駆動例を説明する図である。なお、前後左右の方向は、着座式力覚提示装置2に着座するユーザを基準としている。ユーザは、
図3の紙面上方向に脚部を向けて、紙面下方向に背部を向けて、駆動部20の上に着座する。
【0033】
駆動部20は、第1モータ21,第2モータ22,第1入力軸23,第2入力軸24,第1ステージ25,第2ステージ26,2つのリニアガイド27,28及び動作部29を備える。
【0034】
ボールネジに接続された第1入力軸23は、破線で示すタイミングベルトを介して第1モータ21によって回転させられることによって、第1ステージ25を左右に動かす。同様に、ボールネジに接続された第2入力軸24は、破線で示すタイミングベルトを介して第2モータ22によって回転させられることによって、第2ステージ26を左右に動かす。これにより、第1ステージ25及び第2ステージ26の距離と位置とが制御される。
【0035】
動作部29は、第1ステージ25と第2ステージ26との距離に応じて、45度に斜交した2つのリニアガイド27,28によって上下に移動する。第1ステージ25と第2ステージ26との距離が一定に保たれるように、第1ステージ25及び第2ステージ26が左右に動かされると、動作部29は左右に移動する。
【0036】
図3の(a)に示す例では、第1ステージ25と第2ステージ26との距離が広がることにより、動作部29が前方向に移動する。
図3の(b)に示す例では、第1ステージ25と第2ステージ26との距離が縮まることにより、動作部29が後ろ方向に移動する。
図3の(c)に示す例では、第1ステージ25と第2ステージ26とが距離を保ちながら左方向に移動することにより、動作部29が左方向に移動する。
図3の(d)に示す例では、第1ステージ25と第2ステージ26とが距離を保ちながら右方向に移動することにより、動作部29が右方向に移動する。
【0037】
図4の(a)は2つの刺激での変位-知覚関数の同定処理を例示するグラフであり、
図4の(b)は1つの刺激での変位-知覚関数の同定処理を例示するグラフである。
図4の(a)及び(b)において、横軸は接触子200の変位を示し、縦軸は知覚された力の強度を示す。
【0038】
図4の(a)に示すように、2つの点(ユーザが選択した刺激#1及び#2)を求め、これらの点を繋げることで、変位-知覚関数が同定されてよい。また、
図4の(b)に示すように、1つの点を求め、予め定義した標準の変位-知覚関数(別言すれば、標準関数)から想定する別の1点を仮定することにより、変位-知覚関数が同定されてよい。
【0039】
変位-知覚関数は、次式の感覚尺度(スティーブンスのべき法則)で表されてよい。S(x)は力の主観量[-](単位なし)であり、xは接触子200の変位[mm]であり、α,βは感覚定数である。
【数1】
【0040】
図5は、変位-知覚関数の補正処理を例示するグラフである。
【0041】
図5の実線で示すように、1点以上の接触子200の変位と知覚された力との関係が求められる。そして、
図5の破線及び一点鎖線で示すように、各個人の体格や好み、人間の感覚特性、外界の状況等に応じて、数1で示した間隔尺度の数式におけるαやβが補正されて、変位-知覚関数が補正される。
図5の破線では刺激を強める場合の変位―知覚関数の例が示され、
図5の一点鎖線では刺激を弱める場合の変位-知覚関数の例が示されている。これにより、ユーザの臀部への刺激量が調整される。
【0042】
ドライビングシミュレータ等によって算出される外力等の物理量を変位に変換する際には、上記変位-知覚関数に加えて、物理量と知覚強度の関係式に応じて、変位量が調整されてもよい。
【0043】
図6は、ユーザによる変位-知覚関数の補正処理のためのモニタ3における画面表示の第1及び第2の例である。
図6に示す補正処理のための操作は、ユーザによって、モニタ3のタッチパネルの機能を用いて実施されてもよいし、不図示のダイヤル等を用いて実施されてもよい。
【0044】
ユーザによる変位-知覚関数の補正処理は、標準刺激に基づいて実施される。標準刺激は、標準関数に基づいて、最大強度や中強度等の刺激が用いられてよい。標準刺激が1つの場合にはステップ#1及び#2の処理が実施され、標準刺激が2つの場合にはステップ#1~#4の処理が実施される。
【0045】
ステップ#1において、標準の最大強度の位置まで接触子200が徐々に移動すると、現状の変位量を表すインディケータが初期位置から最大強度を示す位置まで移動する。これにより、ユーザは、標準の最大強度の刺激を知覚する。
【0046】
ステップ#2において、標準の最大強度の位置を示すインディケータをユーザが微調整で移動させることで、ユーザの好みの最大強度が決定される。
【0047】
以上のステップ#1及び#2により、1つの刺激に基づいたユーザによる変位-知覚関数の補正処理が完了する。
【0048】
ステップ#3において、標準の中強度の刺激を与える位置まで接触子200が徐々に移動すると、インディケータが中強度を示す位置まで移動する。これにより、ユーザは、標準の中強度の刺激を知覚する。
【0049】
ステップ#4において、ユーザは、最大強度に比べて、中間だと考える刺激の位置にインディケータを移動させる。
【0050】
以上のステップ#1~#4により、2つの刺激に基づいたユーザによる変位-知覚関数の補正処理が完了する。
【0051】
図7は、ユーザによる変位-知覚関数の補正処理のためのモニタ3における画面表示の第3の例である。
【0052】
ステップ#1において、現在の変位量を示すインディケータが、初期位置から標準の基準刺激の位置まで移動されることにより、座面が徐々に移動する。基準刺激の位置までインディケータが移動すると、ユーザは基準刺激を知覚する。
【0053】
ステップ#2において、基準刺激に対して2倍の強度を感じる標準位置までインディケータが移動されると、座面もゆっくりと移動する。そして、ユーザは標準の2倍強度刺激を知覚する。
【0054】
ステージ#3において、ユーザは、基準刺激に対する2倍強度刺激位置をインディケータで微調整する。インディケータをダイヤルやタッチパネルで移動させると、2倍強度刺激位置も移動し、2倍強度刺激の位置が決定される。
【0055】
図8は、ユーザによる変位-知覚関数の補正処理の第3の例を簡単に示すグラフである。
【0056】
基準刺激の変位とそれに対応する基準強度(
図8では10)から求まる1点と、選択された2倍強度刺激の変位及び2倍強度(
図8では20)から求まる1点との、2つの点を用いて、変位-知覚関数の関数が同定される。
【0057】
図9の(a)はユーザによる変位-知覚関数の補正処理の第1の例を示すグラフであり、
図9の(b)はその第2の例を示すグラフであり、
図9の(c)はその第3の例を示すグラフである。
【0058】
制御装置1は、単独又は複数の標準刺激に対して変位量を調整した結果から、変位-知覚関数を同定する。
図9の(a)では、ユーザが選択した最大刺激と中間刺激とに基づいて、変位-知覚関数が同定される。
図9の(b)では、ユーザが選択した最大刺激と、標準関数から想定する別の1点とに基づいて、変位-知覚関数が同定される。
図9の(c)では、基準刺激とユーザが選択した2倍刺激とに基づいて、変位-知覚関数が同定される。
【0059】
図10は、ユーザによる変位-知覚関数の補正処理を説明する図である。
【0060】
符号B1に示すように、ユーザが座席に着座する。符号B2に示すように、ユーザは、刺激量が反映された表示器を見ながら、自身が受容可能な最大刺激量に着座式力覚提示装置2の出力を調整する。符号B3に示すように、ユーザは、最大刺激量の半分の刺激を感じる刺激量に着座式力覚提示装置2の出力を調整する。なお、1つの刺激で同定が行なわれる場合には、符号B3に示す処理は省略される。そして、符号B4に示すように、最大刺激量と半分の刺激量とに基づき、変位-知覚関数が同定される。
【0061】
なお、変位-知覚関数の同定が基準刺激と2倍強度刺激とに基づいて行なわれる場合には、符号B2に示す処理では基準刺激の出力が調整されてよく、符号B3に示す例では2倍強度刺激の出力が調整されてよい。また、符号B2~B4に示した出力の調整及び変位-知覚関数の同定は、臀部の前後方向と左右方向とについて、それぞれ個別に行なわれてもよい。
【0062】
図11の(a)は外乱発生に伴う変位-知覚関数の補正処理を例示するグラフであり、
図11の(b)は時間変化に伴う変位-知覚関数の補正処理を例示するグラフである。
【0063】
制御装置1は、外乱(別言すれば、力覚提示システム100の外部からの振動)の大きさに応じて、着座式力覚提示装置2が提示する力覚を制御してよい。自動車の振動等の外乱によって臀部の皮膚感度が悪くなるため、制御装置1は、力覚提示システム100が設置されている環境における振動強度を測定し、接触子200の変位量を調整してよい。
図11の(a)に示す例では、実線で示された変位-知覚関数が破線で示された変位-知覚関数に補正されている。
【0064】
外乱発生に伴う変位-知覚関数は、例えば、次式で表わせる。なお、H(I)は、振動強度I(別言すれば、外乱強度)に依存する補正関数である。
【数2】
【0065】
また、制御装置1は、時間経過に応じたユーザの感覚の順応に応じて、接触子200の変位量を増減させてよい。順応現象によって、同じ変位量が長時間提示されると、ヒトは刺激に順応して知覚される刺激が弱くなる。そこで、定常的な変異が一定以上継続する場合には、変位量が時間関数によって徐々に強く補正されてよい。
図11の(b)に示す例では、変位-知覚関数が、時間依存の順応関数G(t)によって補正されている。
【0066】
一定時間以上同じ変位を与え続けた際の順応を考慮した変位-知覚関数は、例えば、次式で表わされる。
【数3】
【0067】
図12の(a)は
図1に示した力覚提示システム100によるナビゲーション処理の第1の例を説明する図であり、
図12の(b)は
図1に示した力覚提示システム100によるナビゲーション処理の第2の例を説明する図である。
【0068】
自動車等の乗り物における進路のナビゲーションシステムにおいて、音声等による進路案内に同期して、臀部に方向性のある刺激が与えられてよい。
【0069】
図12の(a)に示す例では、自車がナビゲーションシステムによる案内地点に近づいて、音声による「100メートル先左です」という案内に同期して、着座式力覚提示装置2による左方向への臀部刺激が発生させられる。
【0070】
図12の(b)に示す例では、自車がナビゲーションシステムによる案内地点に例えば200m・・・100m・・・50mと近づくにつれて、着座式力覚提示装置2による左方向への臀部刺激を徐々に強くする。
【0071】
図13は、
図1に示した力覚提示システム100におけるセンサ装置5を説明するブロック図である。
【0072】
図1に示した制御装置1には、
図13に示すような、自動車等の乗り物の走行に対する危険を検知するためのセンサが搭載されてよい。センサ装置5は、例えば、衝突検知センサ511,車間距離センサ512,眠気検知センサ513及び車線逸脱センサ514を備える。
【0073】
衝突検知センサ511は、自車の他車や障害物との接近による衝突の可能性を検知する。制御装置1は、衝突検知センサ511によって衝突の可能性が検知された場合に、着座式力覚提示装置2にユーザへの力覚を提示させる。接触子200の移動方向は、例えば、他車や障害物と離れる方向であってよい。
【0074】
車間距離センサ512は、自車の他車との車間を検知する。制御装置1は、車間距離センサ512によって車間が閾値以下になったと検知された場合に、着座式力覚提示装置2にユーザへの力覚を提示させる。接触子200の移動方向は、例えば、他車と離れる方向(例えば、後方)であってよい。
【0075】
眠気検知センサ513は、例えばカメラであり、乗り物の運転者であるユーザの瞼の開き具合等に応じて、ユーザの眠気を検知する。制御装置1は、眠気検知センサ513によってユーザの眠気が検知された場合に、着座式力覚提示装置2にユーザへの力覚を提示させる。接触子200の移動方向は、例えば、ランダムであっても、左右の動揺であってもよい。
【0076】
車線逸脱センサ514は、自車の走行する車線からの逸脱を検知する。制御装置1は、車線逸脱センサ514によって車線の逸脱が検知された場合に、着座式力覚提示装置2にユーザへの力覚を提示させる。接触子200の移動方向は、例えば、走行中の車線に戻る方向であってよい。
【0077】
制御装置1は、着座式力覚提示装置2が自動車等の乗り物に備えられる場合に、乗り物の走行によりユーザによって知覚される加速度又は遠心力を増幅させるよう、着座式力覚提示装置2に提示させる力覚を制御してよい。一方、制御装置1は、着座式力覚提示装置2が自動車等の乗り物に備えられる場合に、乗り物の走行によりユーザによって知覚される加速度又は遠心力を減少させるよう、着座式力覚提示装置2に提示させる力覚を制御してもよい。なお、着座式力覚提示装置2は、自動車等の乗り物において、運転席だけでなく、助手席や後部座席に備えられてもよい。
【0078】
制御装置1は、着座式力覚提示装置2がモーションプラットフォーム型のドライビングシミュレータに備えられる場合に、モーションプラットフォーム型のドライビングシミュレータによりユーザによって知覚される並進加速度を増幅させるよう、着座式力覚提示装置2に提示させる力覚を制御してよい。一方、制御装置1は、着座式力覚提示装置2が固定型のドライビングシミュレータに備えられる場合に、固定型のドライビングシミュレータによって仮想される乗り物の走行に応じた力覚を着座式力覚提示装置2に提示させる制御を行なってよい。
【0079】
〔B〕その他
開示の技術は上述した各実施形態に限定されるものではなく、各実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。各実施形態の各構成及び各処理は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
【0080】
上述した実施形態においては、着座式力覚提示装置2が自動車やドライビングシミュレータに備えられることとしたが、これに限定されるものではない。着座式力覚提示装置2は、例えば、Virtual Reality(VR)システムや、遊園地の乗り物、ゲームセンターのレーシングマシンに備えられてよい。
【0081】
〔C〕効果
実施形態の一例における力覚提示システム100,制御プログラム及び制御方法によれば、例えば、以下の作用効果を奏することができる。
【0082】
着座式力覚提示装置2は、ヒトの皮膚にせん断変形による力覚を提示する。制御装置1は、ヒトが受容した力覚に応じて入力された情報に基づき、着座式力覚提示装置2の変位量を調整する。これにより、ヒトへのせん断変形による刺激量の調整を効率的に行なうことができる。
【0083】
制御装置1は、着座式力覚提示装置2によって力覚を提示させるための一以上の規定の刺激強度に基づき、変位量を調整する。これにより、ユーザの体格等による力覚知覚の個人差や、好みに応じた変位量に調整できる。
【0084】
制御装置1は、一以上の規定の刺激強度により、変位量と力覚との関係を示す関数を同定することで、変位量を調整する。これにより、変位-知覚関数の同定を簡易的に行なうことができる。
【0085】
制御装置1は、外乱の大きさに応じて、変位量を調整する。これにより、外部からの振動の強い環境でもユーザの所望の刺激感覚を伝えることができる。
【0086】
制御装置1は、着座式力覚提示装置2による力覚の提示の時間経過に応じて、変位量を調整する。これにより、順応現象によって、ユーザの刺激感覚が低下することを防ぐことができる。
【0087】
制御装置1は、ナビゲーションシステムが示す乗り物の移動方向へ着座式力覚提示装置2が力覚を提示するように制御する。これにより、ナビゲーションシステムの音声や画面表示に注意していなくても、方向性のある進路案内にユーザを気づかせることができる。
【0088】
制御装置1は、ナビゲーションシステムが示す乗り物の案内地点が近づくに応じて、着座式力覚提示装置2が提示する力覚を大きくするように制御する。これにより、曲がり角等の案内地点までの距離をユーザに感覚的に提示できる。また、案内地点までの距離に応じて画面における案内表示が大きくなったり音声案内が大きくなったりすると煩わしいが、力覚による提示であれば不快感を低減できる。
【0089】
制御装置1は、センサによって乗り物の走行に対する危険が検知された場合に、着座式力覚提示装置2に力覚を提示させるように制御する。これにより、方向性のある力覚を提示して、ユーザによる危険からの素早い回避行動が可能になる。また、音や視覚と連動して力覚を提示することで、ユーザに対して、より強い警告を与えることができる。
【0090】
制御装置1は、乗り物の走行によりヒトによって知覚される加速度又は遠心力を増幅させるよう、着座式力覚提示装置2に提示させる力覚を制御する。これにより、ユーザに対して、運転時の楽しさを増強させることができる。
【0091】
制御装置1は、乗り物の走行によりヒトによって知覚される加速度又は遠心力を減少させるよう、着座式力覚提示装置2に提示させる力覚を制御する。これにより、乗り物の乗り心地の改善や車酔いの軽減ができる。
【0092】
制御装置1は、モーションプラットフォーム型のドライビングシミュレータによりヒトによって知覚される並進加速度を増幅させるよう、着座式力覚提示装置2に提示させる力覚を制御する。これにより、傾斜感と加減速感と遠心力感とのうち、モーションプラットフォーム型のドライビングシミュレータにおいて提示されにくい加減速感と遠心力感を効率的に提示できる。
【0093】
制御装置1は、モーションプラットフォームを使用しない簡易型のドライビングシミュレータによって仮想される乗り物の走行に応じた力覚を着座式力覚提示装置2に提示させる制御を行なう。これにより、仮想的に乗り物の運転を体験させる際に、簡易的にユーザの没入感を増幅させることができる。
【符号の説明】
【0094】
100 :力覚提示システム
1 :制御装置
11 :CPU
12 :メモリ
13 :記憶装置
2 :着座式力覚提示装置
200 :接触子
20 :駆動部
21 :第1モータ
22 :第2モータ
23 :第1入力軸
24 :第2入力軸
25 :第1ステージ
26 :第2ステージ
27,28:リニアガイド
29 :動作部
3 :モニタ
5 :センサ装置
511 :衝突検知センサ
512 :車間距離センサ
513 :眠気検知センサ
514 :車線逸脱センサ