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特開2022-45847エレクトレット濾材、フィルタ、及びエレクトレット濾材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022045847
(43)【公開日】2022-03-22
(54)【発明の名称】エレクトレット濾材、フィルタ、及びエレクトレット濾材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/14 20060101AFI20220314BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20220314BHJP
   B03C 3/28 20060101ALI20220314BHJP
   D06M 15/256 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
B01D39/14 E
B01D39/16 A
B03C3/28
D06M15/256
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020151684
(22)【出願日】2020-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】増森 忠雄
【テーマコード(参考)】
4D019
4D054
4L033
【Fターム(参考)】
4D019AA01
4D019AA02
4D019BA13
4D019BB02
4D019BB03
4D019BB07
4D019BB08
4D019BB10
4D019BC01
4D019BC06
4D019BC20
4D019CA02
4D019CB06
4D054AA11
4D054BC16
4L033AA05
4L033AB07
4L033AC15
4L033CA17
(57)【要約】
【課題】高い帯電性を有し、高い捕集効率を有し、かつ、耐オイルミスト性に優れたエレクトレット濾材を提供する。
【解決手段】本発明のエレクトレット濾材は、フッ素含有成分を担持した担体からなり、2-プロパノール蒸気暴露試験前の下記品質係数値が0.4以上であり、2-プロパノール蒸気暴露試験後の下記品質係数値が0.2以上であり、かつ、2-プロパノール蒸気暴露試験前後の下記品質係数値の比(試験後/試験前)が0.2~0.8である。
品質係数値=-Ln((100-捕集効率〔%〕)/100)/圧力損失〔mmAq〕
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有成分を担持した担体からなるエレクトレット濾材であって、
2-プロパノール蒸気暴露試験前の下記品質係数値が0.4以上であり、
2-プロパノール蒸気暴露試験後の下記品質係数値が0.2以上であり、かつ、
2-プロパノール蒸気暴露試験前後の下記品質係数値の比(試験後/試験前)が0.2~0.8であることを特徴とするエレクトレット濾材。
品質係数値=-Ln((100-捕集効率〔%〕)/100)/圧力損失〔mmAq〕
【請求項2】
前記担体は、前記フッ素含有成分としてポリテトラフルオロエチレンを0.1~2.0g/m担持していることを特徴とする請求項1に記載のエレクトレット濾材。
【請求項3】
前記担体は、融点320℃以下の熱可塑性樹脂からなるメルトブローン不織布であるこ
とを特徴とする請求項1または2に記載のエレクトレット濾材。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のエレクトレット濾材を用いたフィルタ。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載のエレクトレット濾材の製造方法において、
前記担体に前記フッ素化合物を担持させた後に、液体接触荷電にてエレクトレット化することを特徴とするエレクトレット濾材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトレット濾材、フィルタ、及びエレクトレット濾材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、防塵マスク、各種空調用フィルタ、空気清浄機用フィルタ、キャビンフィルタ等において気体中の塵埃を捕集するために多孔質フィルタが用いられている。
【0003】
多孔質フィルタのうち、不織布等の繊維状物からなるフィルタは高い空隙率を持ち低圧力損失、高集塵性能という利点を有しており、幅広く用いられている。これら繊維状物からなるフィルタは、さえぎり、拡散、慣性衝突などの機械的捕集機構により繊維上に粒子を捕捉するが、実用的な使用環境において捕捉する粒子の空気力学相当径が0.1~1.0μm程度の場合にフィルタ捕集効率の極小値をもつことが知られている。
【0004】
上記の極小値におけるフィルタ捕集効率を向上させるため、電気的な引力を併用する方法が知られている。たとえば、被捕集粒子に電荷を与える方法、または、フィルタに電荷を与える方法、さらには両者の組み合わせが用いられる。フィルタに電荷を与える方法としては、電極間にフィルタを配置し通風時に誘電分極させる方法や絶縁材料に長寿命の静電電荷を付与する方法が知られており、特に後者の手法は外部電源などのエネルギーを必要としないため、エレクトレットフィルタとして幅広く用いられている。
【0005】
エレクトレットフィルタは、初期捕集効率を高め、また、フィルタ加工や保管時における静電電荷の減衰による性能低下を抑制するため、エレクトレット化が可能で耐湿安定性および耐熱安定性に優れたエレクトレット濾材が用いられる。
【0006】
エレクトレット濾材の耐熱安定性を高めるために各種添加剤を添加する方法が開示されており(たとえば特許文献1)、静電電荷量を向上させフィルタ捕集効率を向上させるために、帯電強化添加剤を混合し液体接触時の電荷量を高める方法が知られている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1-287914号公報
【特許文献2】特表2011-522137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者が検討したところ帯電強化添加剤を混合した場合にはエレクトレット濾材の表面張力が増加し、とりわけ表面張力の小さなオイルミストを捕集した場合に繊維表面が薄く被覆されることで電荷の消失が著しく促進されるという問題を有することがわかった。
【0009】
すなわち、これらのエレクトレットフィルタは、各種鉱油、植物油、ポリαオレフィン(PAO)、フタル酸ジオクチル(DOP)およびタバコ煙などに代表されるオイルミストに対しては材料特性として十分な撥油性を示さないため、初期捕集効率は高いものの、オイルミスト存在下における耐久性(以下、「耐オイルミスト性」という)が低く、オイルミストの付着量の増加と共に捕集効率が低くなるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに到った。すなわち本発明は、以下の通りである。
1.フッ素含有成分を担持した担体からなるエレクトレット濾材であって、2-プロパノール蒸気暴露試験前の下記品質係数値が0.4以上であり、2-プロパノール蒸気暴露試験後の下記品質係数値が0.2以上であり、かつ、2-プロパノール蒸気暴露試験前後の下記品質係数値の比(試験後/試験前)が0.2~0.8であることを特徴とするエレクトレット濾材。品質係数値=-Ln((100-捕集効率〔%〕)/100)/圧力損失〔mmAq〕
2.前記担体は、前記フッ素含有成分としてポリテトラフルオロエチレンを0.1~2.0g/m担持していることを特徴とする上記1に記載のエレクトレット濾材。
3.前記担体は、融点320℃以下の熱可塑性樹脂からなるメルトブローン不織布であることを特徴とする上記1または2に記載のエレクトレット濾材。
4.上記1から3のいずれか1つに記載のエレクトレット濾材を用いたフィルタ。
5.上記1から3のいずれか1つに記載のエレクトレット濾材の製造方法において、
前記担体に前記フッ素化合物を担持させた後に、液体接触荷電にてエレクトレット化することを特徴とするエレクトレット濾材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、高い帯電性及び高い捕集効率を有し、かつ、耐オイルミスト性に優れたエレクトレット濾材およびフィルタを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態について説明するが、本発明の趣旨に則り用途毎に最適な構成を選択することができる。
【0013】
本発明のエレクトレット濾材は、フッ素含有成分を担持した担体からなるエレクトレット濾材であって、2-プロパノール蒸気暴露試験前の品質係数値が0.4以上であることが好ましく、0.6以上がより好ましい。さらに好ましくは、0.8以上であり、最も好ましくは1.0以上である。もし、2-プロパノール蒸気暴露試験前の品質係数値が0.4未満であれば、捕集効率が低いという問題がある。
【0014】
品質係数値は、濾材通過線速10.4cm/s時の粒子径0.3μmの大気塵粒子の捕集効率(%)と圧力損失(mmAq)を用いて下記式から算出される。
品質係数値=-LN((100-捕集効率)/100)/圧力損失
【0015】
本発明のエレクトレット濾材は、2-プロパノール蒸気暴露試験後の品質係数値が0.2以上であり、かつ、2-プロパノール蒸気暴露試験前後の品質係数値の比(試験後/試験前)が0.2~0.8であることが好ましい。2-プロパノール蒸気暴露試験後の品質係数値が0.2未満、もしくは、2-プロパノール蒸気暴露試験前後の品質係数値の比(試験後/試験前)が0.2未満であれば、耐オイルミスト性が十分でない。2-プロパノール蒸気暴露試験前後の品質係数値の比(試験後/試験前)が0.8以上のものは製造が困難である。
【0016】
本発明のエレクトレット濾材は、多孔性誘電体シートからなることが好ましい。多孔性誘電体シートとして、例えば、繊維シート(例えば、織物、編み物、不織布、及び、これらの複合体)、多孔フィルム(例えば、穴開きフィルム)、発泡体、またはこれらの複合体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
本発明のエレクトレット濾材として、好ましくは、スパンボンド法、メルトブロー法により作製された不織布である。それは、これら不織布は繊維表面積が大きいため、捕集効率が向上するからである。
【0018】
本発明のエレクトレット濾材は、一枚であっても、複数枚積層した構成であってもよい。また、シート強度を高めるために、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、ネット等の補強材を積層してもよい。
【0019】
本発明のエレクトレット濾材は、一種類、あるいは、複数の種類の材料から構成されてもよいが、電荷保持の点から体積抵抗率1014Ωcm以上の材料を少なくとも一種類以上含むことが好ましい。もし、上記エレクトレット濾材が体積抵抗率1014Ωcm未満の材料のみで構成されていれば、電荷が蓄積しにくく、高度に帯電化することはできず、捕集効率が低下する。また、電荷寿命が極端に短くなってしまうという問題が生じる。
【0020】
本発明のエレクトレット濾材の具体的な材料としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等が挙げられる。これらのうち、ポリオレフィンが好ましく、中でもポリプロピレン、ポリメチルペンテンがより好ましい。
【0021】
本発明のエレクトレット濾材が、ポリプロピレンからなるスパンボンドまたはメルトブロー不織布の場合、目付は、好ましくは5~200g/mであり、より好ましくは10~100g/mである。平均繊維径は、好ましくは1~30μmである。
【0022】
本発明のエレクトレット濾材には、特に定めないが、帯電強化剤として、一般的なポリマー添加剤を含有することが好ましく、例えば、ヒンダードアミン系もしくはトリアジン系安定剤、ヒンダードフェノール系安定剤、硫黄系安定剤、リン系安定剤、脂肪酸金属塩、結晶核剤のうち少なくとも一種類の添加剤が含有されることが好ましい。これらの添加剤を含有することにより、エレクトレット濾材の帯電性が向上する。
【0023】
上記ヒンダードアミン系もしくはトリアジン系安定剤としては、特に限定するわけではないが、具体的には、ポリ〔((6-(1,1,3,3,-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル)((2,2,6,6,-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6,-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ)〕(BASF社製、キマソーブ(登録商標)944)、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン,N,N‘-1,2-エタンジルビス[N-[3-[[4,6-ビス[ブチル(1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン-4-イル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2-イル]アミノ]プロピル]-N’,N’-ジブチル-N‘,N’-ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル(BASF社製、キマソーブ(登録商標)119)、コハク酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物(BASF社製、チヌビン(登録商標)622)、2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-n-ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)(BASF社製、チヌビン(登録商標)144)、ジブチルアミン・1,3,5-トリアジン・N,N’-ビス(2,2,6,6ーテトラメチル-4-ピペリジル-1,6-ヘキサメチレンジアミン・N-(2,2,6,6ーテトラメチル-4-ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物(BASF社製、キマソーブ(登録商標)2020)、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-((ヘキシル)オキシ)-フェノール(BASF社製、チヌビン(登録商標)1577)
などが挙げられる。
【0024】
上記ヒンダードフェノール系安定剤として、特に限定するわけではないが、具体的には、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](BASF社製、Irganox(登録商標)1010)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(BASF社製、Irganox(登録商標)1076)、トリス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-イソシアヌレイト(BASF社製、Irganox(登録商標)3114)、N,N‘-ヘキサン-1,6-ジルビス(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド(BASF社製、Irganox(登録商標)1098)、2,6-ジ-t-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール(BASF社製、Irganox(登録商標)565)、、3,9-ビス-{2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ-[5,5]ウンデカン(住友化学社製、スミライザー(登録商標)GA-80)等が挙げられる。
【0025】
上記硫黄系安定剤として、特に限定するわけではないが、具体的には、ジ-ラウリル-3,3-チオジプロピオン酸エステル(DLTDP)、ジ-ステアリル-3,3-チオジプロピオン酸エステル(DSTDP)等が挙げられる。
【0026】
上記リン系安定剤として、特に限定するわけではないが、具体的には、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト(BASF社製、Irgafos(登録商標)168)、ジ(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)-ペンタエリストール-ジフォスファイト(アデカ社製、PEP-36)、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイド(三光社製、HCA)等が挙げられる。
【0027】
上記脂肪酸金属塩として、特に限定するわけではないが、直鎖状脂肪酸基を有するものが好ましい。また脂肪酸基は炭素数10~20のものが好ましい。具体的には、ラウリル酸アルミニウム、ミリスチン酸アルミニウム、パルミチン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、ラウリル酸マグムシウム、ミリスチン酸マグムシウム、パルミチン酸マグムシウム、ステアリン酸マグムシウム等が挙げられる。
【0028】
上記結晶核剤として、特に限定するわけではないが、具体的にはリン酸ビス(4-t-ブチルフェニル)ナトリウム(アデカ社製、NA-10)、リン酸2,2'-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ナトリウム(アデカ社製、NA-11)、ロジン系結晶核剤パインクリスタルKM-1500(荒川化学社製)等が挙げられる。
【0029】
上記添加剤の含有量は、多孔性誘電体シート100重量部に対して、0.01~5重量部であり、好ましくは0.025~4重量部、さらに好ましくは0.05~2重量部である。含有量が少ないとエレクトレット化効果が十分ではなく、逆に含有量が多くても効果は飽和し、コストが上昇するため好ましくない。
【0030】
本発明のエレクトレット濾材は、耐オイルミスト性を付与するために、エレクトレット濾材表面の少なくとも一部にフッ素原子を含むフッ素含有成分が繊維表面に担持されてなる。フッ素含有材料は、フッ素含有多環化合物、又はフッ素含有オレフィン、もしくはフッ素含有側鎖を有する(メタ)アクリレートを含むモノマー成分から得られたフッ素含有重合体からなる。また、環境や人体に悪影響を及ぼすのを避ける観点から、上記フッ素含有重合体及び上記フッ素含有多環化合物は、加水分解によって、炭素数が8以上で、かつ、全ての水素が炭素に置換されているフッ素テロマーが発生しないことが好ましい。
【0031】
フッ素含有成分のエレクトレット濾材表面への担持状態として、具体的にはエレクトレット濾材表面にフッ素含有材料により実質的に均一なコーティング層が形成されている場合、コーティング層により凹凸を有しており、少なくとも一方がフッ素含有材料である場合、コーティング層により凹凸を有しており、両者がフッ素含有材料である場合を例示することが出来る。
【0032】
凹凸を作成する具体的な例としては、(1)エレクトレット化前の濾材、もしくは、エレクトレット化後の濾材(以下、担体)に予め平滑なフッ素含有面を得た後に凸部となる成分を付着させる方法、(2)コーティング溶液に融点もしくはガラス転移温度、および、溶解性の異なる2以上の成分を混在させ溶解度の差により凹凸を形成する方法、(3)コーティング液をエマルジョンもしくはサスペンションとし、融点もしくはガラス転移温度の低い成分を加熱処理により平滑面とする方法、(4)予め凸成分を担体表面に形成させたのち、溶液を付着させる方法、(5)予め凸成分を担体表面に形成させた後、融点、もしくは、ガラス転移温度の低い成分を付着させ、加熱処理により平滑化する方法、(6)担体より耐酸化性や耐スパッタ性の材料を表面担持した後に、担体側をエッチング処理する方法などを例示することができる。
【0033】
上記において、予め平滑なフッ素含有面を得る方法としては、(1)担体の樹脂成分にフッ素含有成分を混合しておく方法、(2)フッ素ガスにより担体表面をフッ素化する方法、(3)フッ素プラズマにより担体表面をフッ素化する方法、(4)表面重合により担体表面にフッ素含有樹脂層を得る方法、(5)フッ素含有成分の溶液により担体表面をコーティングする方法、(6)フッ素含有成分のエマルジョンもしくはサスペンションを担体表面に付着させたのち、熱処理により平滑化させる方法、(7)フッ素含有成分の粒子状物を気相にて担体表面に付着させたのち、熱処理により平滑化させる方法、(8)フッ素含有成分を担体表面に蒸着し平滑化させる方法などを例示することができる。このうち、好ましくは上記(5)~(8)の方法である。
【0034】
上記において、凸部となる成分を予め加工されたフッ素含有面に付着させる方法としては、(1)エマルジョン、サスペンションなどをコーティング液として塗布する方法、(2)エマルジョン、サスペンション、溶液等をスプレーにより噴霧、粒子化する方法、(3)蒸散や昇華などを用い、蒸気や液滴から表面に析出させる方法、などを例示することができる。
【0035】
上記において、予め凸部を形成する方法としては、(1)担体表面にエッチング処理を施したものを用いる方法、(2)2以上の成分を担体表面に付着させておき、溶解度もしくは蒸気圧の差により少なくとも1成分を除去する方法、(3)担体の樹脂成分に予め凸成分を混合しておく方法、(4)エマルジョン、サスペンション、溶液等をスプレーにより噴霧、粒子化する方法、(5)蒸散や昇華などを用い、蒸気や液滴から表面に析出させる方法、などを例示することができる。
【0036】
上記フッ素含有成分の蒸着加工の手法としては、各種熱源によりフッ素含有成分を加熱することで蒸気を発生させ、より低温に保持した担体表面に液滴または結晶として析出させる方法が用いられる。かかる手法は、加工面全体を一度に処理するバッチ法であっても、担体または反応槽を移動させることで、担体の異なる加工面を連続的に処理する方法のいずれであっても好ましく用いられる。
【0037】
本発明における蒸着加工は加圧、常圧、減圧、真空状態およびその圧力のスイング、大気中および不活性ガスいずれの雰囲気においても好ましく実施することができる。減圧または真空状態とすることで、蒸散速度の向上および蒸散温度の低減が可能であり、加圧により蒸散物の析出を促進することができる。また、真空または不活性雰囲気とすることでフッ素含有成分や担体の酸化を抑制することが可能であるが、本発明は熱分解温度以下で低温処理が可能であるためコスト面で大気雰囲気を用いることも可能である。
【0038】
フッ素含有成分は、電荷安定性ならびに耐オイルミスト性の観点から、金属及び金属酸化物への被覆粒子ではないことが好ましく、また、フッ素含有成分は、金属及び金属酸化物との混合物ではないことが好ましい。フッ素含有成分100質量%中、金属及び金属酸化物の含有量は10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、0質量%(金属及び金属酸化物を全く含まない)であることがより好ましい。
【0039】
金属や金属酸化物表面にフッ素系のコート層を用いてフッ素含有成分を作製すると、(1)金属酸化物表面に均一なコーティングを行うことが困難であり微細液滴に対する耐オイルミスト性を発揮することが困難であること、(2)金属との反応性を利用する化合物では、C6以下の単一直鎖化合物において常温粘性を有しており、エレクトレット濾材の電荷安定性や粒子同士の付着分散性を阻害すること、(3)タバコ煙に対する反応性や酸・塩基性を有する物質に対する耐加水分解性が劣ること、などの問題点が生じる。
【0040】
また、フッ素含有成分は、界面活性剤を少量含む又は含まないことが好ましい。具体的には、フッ素含有成分100質量%中、界面活性剤の含有量は25質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、0質量%(界面活性剤を全く含まない)であることがより好ましい。上記範囲を超える界面活性剤を含有する粒子は、粒子自体や基材の耐オイルミスト性や電荷安定性を阻害するおそれがある。
【0041】
フッ素含有多環式化合物は、電荷安定性と撥油性の観点から、水素原子のフッ素置換率として80%以上が好ましく、より好ましくは90%以上であり、最も好ましくは95%以上である。また、電荷安定性と耐オイルミスト性の観点から、フッ素含有多環化合物は、40℃以上の融点を有していることが好ましく、より好ましくは60℃以上であり、さらに好ましくは80℃以上であり、最も好ましくは100℃以上である。具体的な物質としては、三次元構造体であれば、フッ素化グラファイト、フッ素化フラーレン、フッ素化カーボンナノチューブなどが好ましく、平面構造体であればフッ素化グラフェンなどが好ましい。
【0042】
また、フッ素含有重合体は、40℃以上の融点又はガラス転移温度を有していることが好ましく、より好ましくは60℃以上であり、さらに好ましくは80℃以上、最も好ましくは100℃以上である。この理由は下記効果を有するためである。(1)エマルジョンやサスペンションの粘性が低減されるため、分散液中における粒子のブロッキングが軽減される。(2)フッ素含有重合体の流動性が低くなり、エレクトレット加工後の繊維上におけるフッ素含有重合体の広がりによる電荷の消失を抑制できる。(3)フッ素含有重合体の分子運動性が低いため、フッ素含有重合体自身がエレクトレット化されるためオイルミスト付加時の劣化がより抑制される。(4)フッ素含有重合体の加工によって繊維の剛性とヒートセット性が向上し、プリーツ加工性や耐風性に優れる。(5)成型加工時及び保管時におけるフィルタ同士やフィルタと包装材等とのブロッキングが抑制され、かつ、加工装置や金型の汚染が低減される。例えば、PTFE、FEP、PFA、ETFE、PCTFE、PVDF、THV、少なくとも側鎖にC7以下(好ましくはC6以下)のパーフルオロ構造を有する(メタ)アクリル酸系重合体、フッ素溶剤に可溶性を有する変性PTFEなどを例示することができる。
【0043】
特にフッ素含有(メタ)アクリル酸系重合体においては、ランダム重合の場合にガラス転移温度を上昇させるために、重合体の主鎖にハロゲン原子を導入することや、剛直な短鎖メチルメタクリレート、トリフルオロメチルメタクリレート、立体障害の大きなスチレン含有オレフィン、ジシクロペンテニル基含有オレフィン、ジシクロペンタニル基含有オレフィンなどのモノマーとの共重合体とすること、立体規則性重合の導入により結晶性を発現させることなどが好ましい方法である。
【0044】
フッ素含有(メタ)アクリル酸系重合体の具体的な例としては、フッ素含有オレフィンを含む(共)重合体などが挙げられ、フッ素含有(メタ)アクリル酸の具体的な例としては、フルオロアルキル基を側鎖に有する(メタ)アクリレートを含む(共)重合体などが挙げられる。
【0045】
耐オイルミスト性の観点から、フッ素含有オレフィンは、パーフルオロアルキル基及び/又はパーフルオロアルキレン基を有することが好ましい。パーフルオロ基の炭素数は1個以上7個以下であれば好ましく用いられるが、より好ましくは4~6個の炭素数からなるパーフルオロアルキル基を側鎖の末端に有してなることがより好ましい。また、フッ素含有(メタ)アクリレートは、トリフルオロメチル基が末端に位置する(メタ)アクリル基を有してなることが好ましい。
【0046】
フッ素含有重合体は、連結基として酸素、珪素、窒素原子などを含んでも良いが、より好ましくは水素、フッ素、炭素のみからなる構造である。このような構造である場合、不対原子ならびに非対称な極性成分を持たないため、表面張力および吸湿性が低減し、その結果、耐オイルミスト性及び帯電性が向上する。
【0047】
フッ素含有重合体は、主鎖とのスペーサーとして、1以上の芳香族炭化水素基、直鎖状・分岐状・環状脂肪族炭化水素基を有してなることも好ましい。また、α-クロロ(メタ)アクリレートを主鎖とした場合には、立体障害の大きな塩素原子を主鎖に組み込むことが可能であるため、フッ素含有モノマーの含有比率を高く維持しつつ、重合体として高いガラス転移温度を得ることができ、電荷安定性及び耐オイルミスト性を向上させやすい。
【0048】
短鎖のフッ素含有アルキル基又はフッ素含有アルキレン基を有するモノマーを用いる場合、所望のガラス転移温度又は結晶性を得るため、これらのフッ素含有モノマーに共重合させるモノマーとして、炭素数12~30の直鎖脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートを用いることも好ましく、例えば、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートを挙げることができる。長鎖脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートを用いることによって、共重合体における側鎖の結晶性を高め、かつ、共重合体のガラス転移温度の向上にも寄与することに加えて、エステル基を遮蔽し、かつ、分子運動性を低減するため、帯電性の安定度が向上する。
【0049】
また、フッ素含有モノマーに共重合させるモノマーとして、分岐状脂肪族炭化水素基、環状脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基を有してなる(メタ)アクリレートを用いることもでき、具体的な例としては、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;ノルボルニル基、ボルニル基、イソボルニル基、アダマンチル基などの炭素数7~20の多環式の脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基、ベンジル基などの芳香族炭化水素基;を有する(メタ)アクリレートである。これらの(メタ)アクリレートは、大きな立体障害を有するため、融点又はガラス転移温度が高くなり、さらに、エステル基を遮蔽し、かつ、分子運動性を低減するため、帯電性の安定度が向上する。上記(メタ)アクリレートとして、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-t-ブチルフェニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0050】
このうち、より好ましくはジシクロペンタニルアクリレート(ホモポリマーのガラス転移温度=120℃)、ジシクロペンタニルメタクリレート(ホモポリマーのガラス転移温度=175℃)、イソボルニルアクリレート(ホモポリマーのガラス転移温度=94℃)、イソボルニルメタクリレート(ホモポリマーのガラス転移温度=180℃)であり、直鎖脂肪族炭化水素基を有するホモポリマーよりも環状脂肪族炭化水素基を有するホモポリマーの方が、ガラス転移温度が顕著に高いという特徴があり、フッ素含有モノマーの含有比率を高く維持しつつ、重合体として高いガラス転移温度を得ることができる。
【0051】
また、フッ素含有モノマーに共重合させるモノマーとして、分岐状脂肪族炭化水素基、環状脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基を有してなるハロゲン非含有オレフィンを用いることもでき、例えば、スチレン(ホモポリマーのガラス転移温度=100℃)などを挙げることができる。芳香環という大きな立体障害基を有し、かつ、極性成分の少ない炭化水素構造のみからなるため、共重合体のガラス転移温度が上昇しつつ、共重合体の吸湿性も低減されるため、帯電性の安定度が向上する。
【0052】
他のモノマーとして、ハロゲン化オレフィン、架橋性を有する官能基、酸化防止作用、および、電荷安定性を付与するヒンダードフェノール構造やヒンダードアミン構造を有する非フッ素系モノマーを用いることもできる。ハロゲン化オレフィンとしては、2以上の炭素数を有するものであれば好ましく用いられるが、例えば、塩化ビニル、臭化ビニル、ヨウ化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニリデン、ヨウ化ビニリデンなどを挙げることができ、ガラス転移温度の向上作用の点で塩化ビニル(ホモポリマーのガラス転移温度=87℃)などのハロゲン化ビニルが好ましく用いられる。
【0053】
フッ素含有モノマーと非フッ素系モノマーとの共重合比は、モル比で100:0~10:90の範囲であることが好ましく、より好ましくは100:0~20:80、更に好ましくは100:0~30:70である。
【0054】
また、粒子を表面に付着させ凹凸部を形成する場合には、粒子径0.1nm以上500nm以下のフッ素含有粒子を担体に付着させていることが好ましい。粒子径は0.5nm以上300nm以下であることがより好ましく、1nm以上200nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上100nm以下であることが最も好ましい。粒子径が500nmより大きい場合には分散時における粒子径の均一性を図りにくくなり、コーティングの層厚みが過大となりやすく取り扱いが困難になる。また、捕集対象とする浮遊オイルミストは通常500nm以下であるため凹凸による耐オイルミスト性の発現が困難となる。一方で粒子経が0.1nm未満であると溶解性および融点や蒸気圧の面でコーティング用途として適しておらず、耐オイルミスト性が劣るおそれがある。
【0055】
とりわけ、担体が繊維状物であって通気性や濾過特性を求められる用途においては繊維状物と粒子の直径比が重要であり、繊維径(繊維直径)を粒子径(粒子直径)で除した値(繊維径/粒子径)が1以上であることが好ましく、より好ましくは10以上であり、最も好ましくは100以上である。また、一般的に繊維径が小さいほど濾過特性(単位通気抵抗あたりの捕集効率)が向上することが知られており、コーティング層による繊維径増加を抑制する。
【0056】
上記粒子径を調整する手法としては、(1)乳化重合や懸濁重合を行うことにより、重合時に粒子径を調整する方法、(2)衝撃、摩擦などの物理的作用によりフッ素含有ポリマーを粉砕する方法、(3)フッ素系溶媒、超臨界二酸化炭素などにフッ素含有ポリマーを溶解後、担体に噴霧することにより粒子化する方法、(4)フッ素系溶媒、超臨界二酸化炭素などにフッ素含有ポリマーを溶解後、貧溶媒と混合することにより再析出により粒子化する方法、(5)融点以上の温度に加熱した後に担体に噴霧する方法、(6)圧力温度変化による蒸散および凝縮を利用する方法が好ましいなどが挙げられ、目的とする粒子径に応じて好ましい手法を用いることができる。乳化重合、懸濁重合、再析出などにより得られる粒子の場合には、固液混合状態で担体に付着させてもよく、乾燥工程を経て粒子として取り出してもよい。なお、フッ素含有ポリマーは上記のモノマーを用いて公知の方法で作製することができる。
【0057】
物理的作用により粉砕する方法としては、湿式もしくは乾式の各種粉砕機を用いることが可能であり、具体的にはボールミル、ビーズミル、ジェットミル、ホモジナイザーなどを例示することができ、粉砕と同時に乳化、懸濁させることもできる。
【0058】
液体に分散して用いる場合には分散媒として、水、炭化水素系有機溶媒、ハロゲン系有機溶媒などを好ましく用いることができ、2種以上の分散媒を混合して用いることもできる。分散媒として有機溶媒を用いる場合には、担体の樹脂成分との親和性により、浸透性やコーティングの均一性を高めることができる。分散媒として水を用いる場合には、各種界面活性剤を用いることもできる。界面活性剤は耐オイルミスト性の発現および電荷安定性を阻害するため、最終的にはフッ素含有成分から界面活性剤を除去、および/または、不活性化することが好ましく、その方法として、例えば、担体への付着前もしくは付着後に熱処理により界面活性剤を蒸散させる方法、熱分解や酸化分解によりフッ素含有成分から界面活性剤を除去する方法、水、または、溶媒による洗浄でフッ素含有成分から界面活性剤を除去する方法、イオン性官能基を遷移金属イオンや反応性有機物で封止する方法などを用いることができる。界面活性剤を用いずフッ素含有成分を分散させる方法としては、分散媒にもフッ素含有溶媒を用いることが好ましい。
【0059】
噴霧により粒子化する方法としては、エアレス式又はエア圧式のスプレー、超音波霧化式、ラスキンノズル式、衝突式、静電噴霧式などの方法を例示することが可能である。この場合は、溶液もしくは予め粒子化された懸濁液を用いることで、容易に溶液濃度に比例した粒子径を調整することができる。特に0.1nm以上500nm以下の単分散粒子を得る手法として溶液や懸濁液を噴霧する方法が好適であり、溶液状態、半蒸散状態、固体化した状態のいずれの状態で付着させてもかまわない。
【0060】
蒸散により粒子化する方法としては、加熱、または、減圧によりフッ素含有材料を気化させた後、冷却又は加圧により直接担体表面に析出させる方法、又は気体中で粒子化させた後に担体に付着させる方法などを用いることができる。
【0061】
本発明においては、フッ素含有成分を分散させた気相を用いて、担体にフッ素含有成分を付着させる工程(気相法)を含んでいる。気相法によって粒子を担体に付着させると、界面活性剤を用いず加工でき、かつ、担体自身の粒子捕集特性を生かすことができるため、好ましい。
【0062】
本発明におけるエレクトレット濾材は、担体またはフッ素含有成分の少なくとも一方がエレクトレット化され、すなわち、静電電荷が付与されている。エレクトレット化の方法は使用時に所望の特性が得られるものであれば特に制限されず、フッ素含有成分の担持前でも担持後でもよい。前者であれば、フッ素含有粉末を静電的な引力にて引き寄せることで付着や加工に利点があり、後者であれば担体の電気力線が遮蔽されないため、エレクトレット効果をより発現させることができる。
【0063】
本発明におけるエレクトレット濾材のエレクトレット化の方法としては、高電圧による分極、荷電イオンの衝突、荷電粒子の注入など電気的作用による方法、摩擦、衝突など固体との相互作用による方法、液体との接触および衝突を利用した方法など、公知の方法を好ましく用いることができる。高帯電性、耐オイルミスト性の観点から、より好ましくは液体との接触や摩擦を利用した方法であり、極性を有した酸化生成物を増加させずにエレクトレット化することが可能となるため、耐オイルミスト性の観点からより好ましい。
【0064】
上記エレクトレット濾材のエレクトレット化の方法における、液体との接触を利用した方法について、接触させる液体については、特に限定しない。例えば、逆浸透膜処理をした水、その水に化合物を添加した液体等が好ましい。液体への添加物としては、金属酸化物ゾル、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、次亜塩素酸塩、アンモニア、アンモニウム塩、アミン類、炭酸塩、炭酸水素塩、クエン酸等のカルボン酸、および、その塩が挙げられる。なお、界面活性剤や有機溶剤は多孔性誘電体シートへの水溶液の浸透性を高めるだけでなく、シート表面に被膜を形成し、シートの高帯電化を妨げるため、上記水溶液中に含有されるべきではない。なお、添加物の濃度は1~10000ppmであることが好ましい。添加物の濃度が前記範囲内であれば、多孔性誘電体シートを高度に帯電化することができる。
【0065】
上記エレクトレット濾材のエレクトレット化の方法における、液体との接触を利用した方法において、多孔性誘電体シートと液体を接触させる場合、シートを通気度50~400cm/cm/秒の網状支持体に載せ、この上方より液体を噴射するとともに、該網状支持体の下方を減圧状態とすることが好ましい。通気度はJIS-L1096に記載のフランジール形試験機を用いて測定される。なお、上記水溶液の多孔性誘電体シートへの接触について、液体が多孔性誘電体シート内を通過するのに十分な圧力で接触させることができれば、噴射以外の方法を用いてもよい。例えば、液体と接触させた多孔性誘電体シートについて、多孔性誘電体シートの液体と接触している面の反対側を減圧状態にし、液体を多孔性誘電体シートと接触させるという方法でもよい。
【0066】
網状支持体とは具体的には金属ヤーンやプラスチックヤーンの織物からなる多孔構造物であり、平織り、綾織り、朱子織りなどの織り形状が挙げられる。金属素材としてはステンレス、ブロンズ等、またプラスチック素材としてはポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン、ナイロン、ポリフェニレンサルファイドなどがある。
【0067】
上記液体の噴射は多孔性誘電体シートの数cm上方に設置した、シートの幅方向に沿って多数のオリフィスを有するノズルより、上記液体が該シートを通過するのに十分な圧力で噴射する。通過するのに十分な圧力は、特に定めないが、多孔性誘電体シートの目付によって異なる。例えば、目付が5~50g/mのシートに対しては、0.3~3MPa、50~200g/mのシートに対しては、1~4MPaであることが好ましい。噴射の圧力が高すぎると、多孔性誘電体シートにピンホールが開き、濾過性能が低下してしまう。また圧力が低すぎることが原因で多孔性誘電体シート内を液体が十分に通過することができなければ、多孔性誘電体シートを高度に帯電化することができない。
【0068】
ノズルは直径0.05~0.2mmのオリフィスを、ピッチ0.5~3mmで1列あるいは複数列配置したものが好ましい。また、例えば網状支持体を可動とし、多孔性誘電体シートをその長手方向に搬送させることにより噴射処理を連続的に行うことができるものが好ましい。その搬送速度は特に限定されないが、好ましい範囲を挙げると、1~100m/分である。また最適な噴射回数や処理面(片面か両面か)は多孔性誘電体シートの目付や平均繊維径に依存するため、特に限定されない。
【0069】
また液体の噴射と同時に、網状支持体の下方を、排気ブロアー等を用いて減圧状態とすることが好ましい。吸引負圧は特に限定されないが、0.1~10mAqが好適である。減圧状態にすると、多孔性誘電体シート内を液体が十分に通過でき、多孔性誘電体シートを高度に帯電化することができる。
【0070】
上記多孔性誘電体シートに上記液体の噴射処理後の乾燥方法については、従来公知の方法がいずれも使用可能である。例えば、熱風乾燥法、真空乾燥法、自然乾燥法等の方法が適用可能である。これらのうちでも熱風乾燥法は、連続処理が可能であるため好ましい。熱風乾燥法の場合、乾燥温度としてはエレクトレットを消失させない程度の温度にする必要がある。好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは80℃以下にするのがよい。また、熱風乾燥前に、予備乾燥として、吸液ロール、サクション吸引等によって過剰な液体分を取り除いておくと、より好ましい。
【0071】
液体との接触処理を施す前に行う多孔性誘電体シートの前処理として、直流コロナ処理を行うことが好ましい。直流コロナ処理を行うことによってシート表層部分が親液性に変化し、多孔性誘電体シートと液体との接触性が向上し、高度に帯電化することができる。
【0072】
本発明のエレクトレット濾材は、さらに必要に応じて、プレフィルター層、繊維保護層、機能性繊維層、補強層などの層と組み合わせて用いることもできる。プレフィルター層、および、繊維保護層としては、例えば、スパンボンド不織布、サーマルボンド不織布、発泡ウレタンなどが挙げられる。機能性繊維層としては、例えば、抗菌、抗ウイルス、識別や意匠などを目的とした着色繊維層などが挙げられる。補強層としては、例えばサーマルボンド不織布、各種ネットなどが挙げられる。
【0073】
本発明のエレクトレット濾材は集塵、保護、通気、防汚、防水などの機能により幅広く用いることができる。本発明のエレクトレット濾材は、例えば、防塵マスク、各種空調用エレメント、空気清浄機、キャビンフィルタ、各種装置の保護を目的としたフィルタとして好適に用いることができ、空気清浄機、空調用エレメント用途などに好ましく用いることができる。
【0074】
本発明のフィルタは、本発明のエレクトレット濾材を用いるものであり、例えば、プリーツ加工や、枠などへの取り付け加工が施されていてもよい。また、本発明フィルタは、本発明のエレクトレット濾材に他の材料を組み合わせて形成されてもよい。
【実施例0075】
以下、実施例によって本発明の作用効果をより具体的に示す。下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に沿って設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0076】
(濾過特性の評価)
圧力損失PD(mmAq)は、エレクトレット濾材サンプルをダクト内に設置し、濾材通過線速度が10.4cm/秒になるようコントロールし、エレクトレット濾材上流と下流との静圧差を圧力計で読み取ることで求めた。
【0077】
また粒子捕集効率E(%)の評価は、フィルターテスターにて、平均粒子径0.3μmの大気塵粒子を用いて、風量10.4cm/秒の条件で行った。品質係数値QF(1/mmAq)は、圧力損失PD(mmAq)と粒子捕集効率E(%)とを用いて、下記式より算出した。
【0078】
QF=-Ln((100-E)/100)/PD
【0079】
(平均繊維径の評価)
平均繊維径の評価として、SEM写真により拡大した繊維100本について繊維径を測定し、その相加平均値Dfs(μm)を求めた。
【0080】
(2-プロパノール蒸気暴露試験)
密閉容器中(容積10L)に、2-プロパノール100mLを入れた300mLと、エレクトレット濾材サンプルを入れ、容器ごと25℃雰囲気中に72時間静置することにより、2-プロパノール蒸気暴露試験後サンプルを作製した。
【0081】
(オイルミスト負荷試験)
個数中央径0.15~0.25μmのジオクチルフタル酸(DOP)のエアロゾルを不織布サンプル1m当たりに1g負荷させた。
【0082】
(実施例1)
メルトフローインデックス700のポリプロピレン樹脂100重量部に対してIrganox1010(BASF社製)を0.5重量部配合した樹脂を使用して、目付18g/m、平均繊維径(Dfs)2.7μmのメルトブロー不織布を従来公知の方法で作製した。
次に、n-C1838(融点149℃)をパーフルオロヘキサンに溶解させた溶液を作製した後、上記で得られた不織布に上記溶液を浸漬させ、乾燥させることで、フッ素化合物を不織布に固形分で0.30g/m付着させ、フッ素含有成分担持不織布を得た。
その後、上記で得られたフッ素含有成分担持不織布を、アルミ平板の接地極上に敷いた厚み0.5mmのシリコンシート上に置き、不織布の上方1cmに設置した針状電極を用いて+15kVの直流高電圧を10秒間印加した。さらに、通気度120cm/cm/秒の網状支持体(96メッシュ)に載せ、不織布の上方2cmに位置する直径0.1mmφ、ピッチ0.6mmのノズルから、1MPaの圧力で液体の噴射処理を行った。なお、使用した液体は、一般的な水道水を逆浸透膜処理、次いでイオン交換膜処理を施した高純度の水に炭酸カリウムを添加し、濃度100ppmとした水溶液である。網状支持体の搬送速度を4m/分とし、ノズル直下の網状支持体の下方を2mAqの減圧状態とした。この処理をシートの表裏について各2回ずつ行った。その後このシートを80℃の熱風オーブン中に1分間滞留させて乾燥し、エレクトレット濾材を作製した。
得られたエレクトレット濾材について、2-プロパノール蒸気暴露試験前後の濾過特性評価、及び、オイル負荷試験後の濾過特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
(実施例2)
メルトフローインデックス700のポリプロピレン樹脂100重量部に対してChimassorb944(BASF社製)を1.0重量部配合した樹脂を使用して、目付30g/m、平均繊維径(Dfs)2.3μmのメルトブロー不織布を従来公知の方法で作製した。
次に、n-C1838(融点149℃)をパーフルオロヘキサンに溶解させた溶液を作製した後、上記で得られた不織布に上記溶液を浸漬させ、乾燥させることで、フッ素化合物を不織布に固形分で0.30g/m付着させ、フッ素含有成分担持不織布を得た。その後、通気度120cm/cm/秒の網状支持体(96メッシュ)に載せ、不織布の上方2cmに位置する直径0.1mmφ、ピッチ0.6mmのノズルから、1MPaの圧力で液体の噴射処理を行った。なお、使用した液体は、一般的な水道水を逆浸透膜処理、次いでイオン交換膜処理を施した高純度の水である。網状支持体の搬送速度を4m/分とし、ノズル直下の網状支持体の下方を2mAqの減圧状態とした。この処理をシートの表裏について各2回ずつ行った。その後このシートを80℃の熱風オーブン中に1分間滞留させて乾燥し、エレクトレット濾材を作製した。
得られたエレクトレット濾材について、2-プロパノール蒸気暴露試験前後の濾過特性評価、及び、オイル負荷試験後の濾過特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
(実施例3)
メルトフローインデックス1300のポリプロピレン樹脂100重量部に対してChimassorb944(BASF社製)を1.0重量部、および、ステアリン酸マグネシウムを0.1重量部配合した樹脂を使用して、目付25g/m、平均繊維径(Dfs)1.4μmのメルトブロー不織布を従来公知の方法で作製した。
次に、n-C1838(融点149℃)をパーフルオロヘキサンに溶解させた溶液を作製した後、上記で得られた不織布に上記溶液を浸漬させ、乾燥させることで、フッ素化合物を不織布に固形分で0.30g/m付着させ、フッ素含有成分担持不織布を得た。
その後、通気度120cm/cm/秒の網状支持体(96メッシュ)に載せ、不織布の上方2cmに位置する直径0.1mmφ、ピッチ0.6mmのノズルから、1MPaの圧力で液体の噴射処理を行った。なお、使用した液体は、一般的な水道水を逆浸透膜処理、次いでイオン交換膜処理を施した高純度の水である。網状支持体の搬送速度を4m/分とし、ノズル直下の網状支持体の下方を2mAqの減圧状態とした。この処理をシートの表裏について各2回ずつ行った。その後このシートを80℃の熱風オーブン中に1分間滞留させて乾燥し、エレクトレット濾材を作製した。
得られたエレクトレット濾材について、2-プロパノール蒸気暴露試験前後の濾過特性評価、及び、オイル負荷試験後の濾過特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
(実施例4)
メルトフローインデックス700のポリプロピレン樹脂100重量部に対してChimassorb944(BASF社製)を1.0重量部、および、ステアリン酸マグネシウムを0.3重量部配合した樹脂を使用して、目付15g/m、平均繊維径(Dfs)1.7μmのメルトブロー不織布を従来公知の方法で作製した。
次に、上記で得られた不織布を30℃に保った恒温板に張り付け、円筒セラミック製の反応容器天井に設置した。底部に250℃に加熱した熱板を設置し、n-C1838(融点149℃)を金属性ボート上から蒸散させることによって、フッ素化合物を不織布に固形分で0.30g/m付着させた。付着させた後、60℃雰囲気中に15分間静置し、フッ素含有成分担持不織布を得た。
その後、通気度120cm/cm/秒の網状支持体(96メッシュ)に載せ、不織布の上方2cmに位置する直径0.1mmφ、ピッチ0.6mmのノズルから、1MPaの圧力で液体の噴射処理を行った。なお、使用した液体は、一般的な水道水を逆浸透膜処理、次いでイオン交換膜処理を施した高純度の水である。網状支持体の搬送速度を4m/分とし、ノズル直下の網状支持体の下方を2mAqの減圧状態とした。この処理をシートの表裏について各2回ずつ行った。その後このシートを80℃の熱風オーブン中に1分間滞留させて乾燥し、エレクトレット濾材を作製した。
得られたエレクトレット濾材について、2-プロパノール蒸気暴露試験前後の濾過特性評価、及び、オイル負荷試験後の濾過特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
(実施例5)
メルトフローインデックス1300のポリプロピレン樹脂100重量部に対してChimassorb944(BASF社製)を1.0重量部、および、ステアリン酸マグネシウムを0.3重量部配合した樹脂を使用して、目付30g/m、平均繊維径(Dfs)0.95μmのメルトブロー不織布を従来公知の方法で作製した。
次に、上記で得られた不織布を30℃に保った恒温板に張り付け、円筒セラミック製の反応容器天井に設置した。底部に250℃に加熱した熱板を設置し、n-C1838(融点149℃)を金属性ボート上から蒸散させることによって、フッ素化合物を不織布に固形分で0.30g/m付着させた。付着させた後、60℃雰囲気中に15分間静置し、フッ素含有成分担持不織布を得た。
その後、通気度120cm/cm/秒の網状支持体(96メッシュ)に載せ、不織布の上方2cmに位置する直径0.1mmφ、ピッチ0.6mmのノズルから、0.5MPaの圧力で液体の噴射処理を行った。なお、使用した液体は、一般的な水道水を逆浸透膜処理、次いでイオン交換膜処理を施した高純度の水である。網状支持体の搬送速度を4m/分とし、ノズル直下の網状支持体の下方を2mAqの減圧状態とした。この処理をシートの表裏について各2回ずつ行った。その後このシートを80℃の熱風オーブン中に1分間滞留させて乾燥し、エレクトレット濾材を作製した。
得られたエレクトレット濾材について、2-プロパノール蒸気暴露試験前後の濾過特性評価、及び、オイル負荷試験後の濾過特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
(実施例6)
メルトフローインデックス1300のポリプロピレン樹脂100重量部に対してChimassorb944(BASF社製)を1.0重量部、および、ステアリン酸マグネシウムを0.3重量部配合した樹脂を使用して、目付18g/m、平均繊維径(Dfs)1.8μmのメルトブロー不織布を従来公知の方法で作製した。
次に、上記で得られた不織布を30℃に保った恒温板に張り付け、円筒セラミック製の反応容器天井に設置した。底部に250℃に加熱した熱板を設置し、n-C1838(融点149℃)を金属性ボート上から蒸散させることによって、フッ素化合物を不織布に固形分で0.30g/m付着させた。付着させた後、60℃雰囲気中に15分間静置し、フッ素含有成分担持不織布を得た。
その後、上記で得られたフッ素含有成分担持不織布を、アルミ平板の接地極上に敷いた厚み0.5mmのシリコンシート上に置き、不織布の上方1cmに設置した針状電極を用いて+15kVの直流高電圧を10秒間印加し、エレクトレット濾材を作製した。
得られたエレクトレット濾材について、2-プロパノール蒸気暴露試験前後の濾過特性評価、及び、オイル負荷試験後の濾過特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
(実施例7)
メルトフローインデックス100のポリプロピレン樹脂100重量部に対してChimassorb944(BASF社製)を1.0重量部配合した樹脂を使用して、目付25g/m、平均繊維径(Dfs)3.1μmのメルトブロー不織布を従来公知の方法で作製した。
次に、上記で得られた不織布を30℃に保った恒温板に張り付け、円筒セラミック製の反応容器天井に設置した。底部に250℃に加熱した熱板を設置し、n-C1838(融点149℃)を金属性ボート上から蒸散させることによって、フッ素化合物を不織布に固形分で0.30g/m付着させた。付着させた後、60℃雰囲気中に15分間静置し、フッ素含有成分担持不織布を得た。
その後、通気度120cm/cm/秒の網状支持体(96メッシュ)に載せ、不織布の上方2cmに位置する直径0.1mmφ、ピッチ0.6mmのノズルから、0.5MPaの圧力で液体の噴射処理を行った。なお、使用した液体は、一般的な水道水を逆浸透膜処理、次いでイオン交換膜処理を施した高純度の水である。網状支持体の搬送速度を4m/分とし、ノズル直下の網状支持体の下方を2mAqの減圧状態とした。この処理をシートの表裏について各2回ずつ行った。その後このシートを80℃の熱風オーブン中に1分間滞留させて乾燥し、エレクトレット濾材を作製した。
得られたエレクトレット濾材について、2-プロパノール蒸気暴露試験前後の濾過特性評価、及び、オイル負荷試験後の濾過特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例8)
リンを含有する難燃性の丸断面ポリエステル短繊維(東洋紡株式会社製「ハイム」(登
録商標)、繊度1.7dtex、繊維長44mm)と丸断面ポリプロピレン繊維(宇部日
東化成株式会社製、繊度2.2dtex、繊維長51mm)を1:1の重量比で混綿、カ
ーディングして目付65g/m2の混繊ウェブを作製し、これに15g/mのポリプ
ロピレンスパンボンド不織布(シンワ株式会社製、繊度5.5dtex)を積層後、3
MPaの高圧水を連続的に噴霧して交絡させると同時に油剤を除去、乾燥し不織布を作製した。
次に、上記で得られた不織布を30℃に保った恒温板に張り付け、円筒セラミック製の反応容器天井に設置した。底部に250℃に加熱した熱板を設置し、n-C1838(融点149℃)を金属性ボート上から蒸散させることによって、フッ素化合物を不織布に固形分で0.30g/m付着させた。付着させた後、60℃雰囲気中に15分間静置し、フッ素含有成分担持不織布を得た。
その後、フッ素含有成分担持不織布を2層積層し、針密度50本/cmにてニードルパンチ処理を行い、摩擦帯電と交絡を同時に行って、総目付123g/mのエレクトレット濾材を得た。なお、ニードルパンチ処理時の温湿度は、27℃、55RH%とした。
得られたエレクトレット濾材について、2-プロパノール蒸気暴露試験前後の濾過特性評価、及び、オイル負荷試験後の濾過特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
(比較例1)
メルトフローインデックス700のポリプロピレン樹脂100重量部に対してChimassorb944(BASF社製)1.0重量部を配合した樹脂を使用して、目付18g/m、平均繊維径(Dfs)2.0μmのメルトブロー不織布を従来公知の方法で作製した。
次に、上記で得られた不織布を通気度120cm/cm/秒の網状支持体(96メッシュ)に載せ、不織布の上方2cmに位置する直径0.1mmφ、ピッチ0.6mmのノズルから、1MPaの圧力で液体の噴射処理を行った。なお、使用した液体は、一般的な水道水を逆浸透膜処理、次いでイオン交換膜処理を施した高純度の水である。網状支持体の搬送速度を4m/分とし、ノズル直下の網状支持体の下方を2mAqの減圧状態とした。この処理をシートの表裏について各2回ずつ行った。その後このシートを80℃の熱風オーブン中に1分間滞留させて乾燥し、エレクトレット濾材を作製した。
得られたエレクトレット濾材について、2-プロパノール蒸気暴露試験前後の濾過特性評価、及び、オイル負荷試験後の濾過特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
(比較例2)
リンを含有する難燃性の丸断面ポリエステル短繊維(東洋紡株式会社製「ハイム」(登録商標)、繊度1.7dtex、繊維長44mm)と丸断面ポリプロピレン繊維(宇部日東化成株式会社製、繊度2.2dtex、繊維長51mm)を1:1の重量比で混綿、カーディングして目付65g/mの混繊ウェブを作製し、これに15g/mのポリプロピレンスパンボンド不織布(シンワ株式会社製、繊度5.5dtex)を積層後、3MPaの高圧水を連続的に噴霧して交絡させると同時に油剤を除去、乾燥し不織布を作製した。
次に上記で得られた不織布を3層積層し、針密度50本/cmにてニードルパンチ処理を行い、摩擦帯電と交絡を同時に行って、総目付155g/mのエレクトレット濾材を得た。なお、ニードルパンチ処理時の温湿度は、23℃、46RH%とした。
得られたエレクトレット濾材について、2-プロパノール蒸気暴露試験前後の濾過特性評価、及び、オイル負荷試験後の濾過特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
表1からわかるように、実施例1~8では、2-プロパノール蒸気暴露試験前の品質係数値が0.4以上であり、2-プロパノール蒸気暴露試験後の品質係数値が0.2以上であり、かつ、2-プロパノール蒸気暴露試験前後の品質係数値の比(試験後/試験前)が0.2~0.8であることより、試験前とオイル試験負荷後の品質係数値を比較すると、試験後に大きく低下していない。一方で、比較例1および2は、2-プロパノール蒸気暴露試験後の品質係数値が0.2未満であり、かつ、2-プロパノール蒸気暴露試験前後の品質係数値の比(試験後/試験前)が0.2未満であり、試験前とオイル試験負荷後の品質係数値を比較すると、試験後に大きく低下している。実施例1~8は、比較例1~2に対して、高い粒子捕集効率を有し、耐オイルミスト性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のエレクトレット濾材は、低圧損ながら高い粒子捕集効率を有し、また、耐オイルミスト性に優れているため、様々なフィルタ用途で幅広く利用することができ、産業上大きく貢献できる。