(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022045899
(43)【公開日】2022-03-22
(54)【発明の名称】計時器用アセンブリー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G04B 18/08 20060101AFI20220314BHJP
G04B 17/06 20060101ALI20220314BHJP
G04B 17/22 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
G04B18/08
G04B17/06 A
G04B17/22 Z
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021127245
(22)【出願日】2021-08-03
(31)【優先権主張番号】20195332.0
(32)【優先日】2020-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス-ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ジョナ・ヴァンノ
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン・シャルボン
(57)【要約】
【課題】 外面に欠陥がない計時器用アセンブリーを提供する。
【解決手段】 本発明は、機械的応力下で組み付けられる第1のコンポーネントと第2のコンポーネントを備える計時器用アセンブリー(1)に関する。このアセンブリーの面の少なくとも一部は、組み付け後にクラックや初期クラック(8)のような欠陥を覆うように意図された保護層(7)で被覆される。さらに、このアセンブリーを製造する方法に関する。
【選択図】
図4B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械的応力下で組み付けられる第1のコンポーネントと第2のコンポーネントを備える計時器用アセンブリー(1)を製造する方法であって、
前記第1のコンポーネントは、慣性ねじ(3)である前記第2のコンポーネントを受けるように意図された溝(4)の境界を定める弾性アーム(2a)があるバランス(2)であり、
前記方法は、
a)バランスと慣性ねじを用意するステップと、
b)前記弾性アームの弾性変形と前記慣性ねじの前記溝への挿入によって、機械的応力の下で前記慣性ねじを前記バランスに組み付けるステップと、
c)前記慣性ねじと前記第2のコンポーネントのアセンブリーの面の少なくとも一部に、第2の層である保護層(7)を堆積させるステップと
を順に行う
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記組み付けるステップb)の前に、前記第1のコンポーネント及び/又は前記第2のコンポーネントの少なくとも一部に第1の層(6)を堆積させるステップa’)を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記堆積させるステップa’)の前に、前記第1のコンポーネント及び/又は前記第2のコンポーネントの前記少なくとも一部に副層(5)を堆積させるステップa”)を行う
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記堆積させるステップa’)の後であって前記組み付けるステップb)の前に、30分~5時間の間、150~300℃の範囲内で熱処理を行うステップa''')を行う
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記堆積させるステップc)の後に、30分~5時間の間、150~300℃の範囲内で熱処理を行うステップd)を行う
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記保護層(7)は、ALD、PVD、CVD、化学的堆積、又は電気めっき堆積によって堆積される
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の層(6)と前記副層(5)は、ALD、PVD、CVD、化学的堆積、又は電気めっき堆積によって堆積される
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項8】
第1のコンポーネントと第2のコンポーネントを備える計時器用アセンブリー(1)であって、
前記第1のコンポーネントは、溝(4)の境界を定める弾性アーム(2a)があるバランス(2)であり、前記溝(4)に、慣性ねじ(3)である前記第2のコンポーネントが配置されて機械的な応力によって保持され、
前記計時器用アセンブリー(1)は、前記慣性ねじと前記バランスのアセンブリーの面の少なくとも一部に、保護層(7)が被覆される
ことを特徴とする計時器用アセンブリー(1)。
【請求項9】
前記計時器用アセンブリー(1)の面全体が前記保護層(7)で被覆される
ことを特徴とする請求項8に記載の計時器用アセンブリー(1)。
【請求項10】
前記保護層(7)には、クラック及び初期クラック(8)がない
ことを特徴とする請求項8又は9に記載の計時器用アセンブリー(1)。
【請求項11】
前記第1のコンポーネント及び/又は前記第2のコンポーネントの少なくとも一部上に、前記保護層(7)の下に配置される第1の層(6)を備える
ことを特徴とする請求項8~10のいずれか一項に記載の計時器用アセンブリー(1)。
【請求項12】
前記第1の層(6)の下に配置される副層(5)がある
ことを特徴とする請求項11に記載の計時器用アセンブリー(1)。
【請求項13】
機械的応力下で組み付けられる第1のコンポーネントと第2のコンポーネントを備える計時器用アセンブリー(1)を製造する方法であって、
前記第1のコンポーネントは、前記第2のコンポーネントに圧力下で組み付けられる要素であり、
前記第1のコンポーネントがインパルスピンであって前記第2のコンポーネントがローラーであり、又は
前記第1のコンポーネントがバランスであって前記第2のコンポーネントはシャフトであり、
前記方法は、
d)前記第1のコンポーネントと前記第2のコンポーネントを用意するステップと、
e)前記第1のコンポーネントと前記第2のコンポーネントを応力下で組み付けるステップと、
f)前記第1のコンポーネントと前記第2のコンポーネントを備えるアセンブリーの面の少なくとも一部に、第2の層である保護層(7)を堆積させるステップと
を順に行う
ことを特徴とする方法。
【請求項14】
前記保護層(7)は、SiO2、Al2O3、Rh、Au、Ni又はNiPを含む
ことを特徴とする請求項1~7及び13のいずれか一項に記載の方法、又は請求項8~12のいずれか一項に記載の計時器用アセンブリー(1)。
【請求項15】
前記保護層(7)は、それぞれがSiO2、Al2O3、Rh、Au、Ni又はNiPを含む複数の層の積層体によって形成される
ことを特徴とする請求項1~7及び13のいずれか一項に記載の方法、又は請求項8~12のいずれか一項に記載の計時器用アセンブリー(1)。
【請求項16】
前記保護層(7)の厚みは、20nm~3μmの範囲内であり、好ましくは100nm~500nmの範囲内である
ことを特徴とする請求項1~7及び13のいずれか一項に記載の方法、又は請求項8~12のいずれか一項に記載の計時器用アセンブリー(1)。
【請求項17】
前記第1の層(6)は、Au又はRhを含む
ことを特徴とする請求項2~7のいずれか一項に記載の方法、又は請求項11又は12に記載の計時器用アセンブリー(1)。
【請求項18】
前記第1の層(6)の厚みは、100nm~2μmの範囲内である
ことを特徴とする請求項2~7のいずれか一項に記載の方法、又は請求項11又は12に記載の計時器用アセンブリー(1)。
【請求項19】
前記副層(5)は、Ni又はAuを含む
ことを特徴とする請求項3~7のいずれか一項に記載の方法、又は請求項12に記載の計時器用アセンブリー(1)。
【請求項20】
前記副層(5)の厚みは、100nm~2μmの範囲内である
ことを特徴とする請求項3~7のいずれか一項に記載の方法、又は請求項12に記載の計時器用アセンブリー(1)。
【請求項21】
第1のコンポーネントと第2のコンポーネントを備える計時器用アセンブリー(1)であって、
前記第1のコンポーネントは、前記第2のコンポーネントに圧力下で組み付けられる要素であり、
前記第1のコンポーネントがインパルスピンであって前記第2のコンポーネントがローラーであり又は前記第1のコンポーネントがバランスであって前記第2のコンポーネントがシャフトであり、
前記計時器用アセンブリー(1)における、組み付けられるコンポーネントのアセンブリーの面の少なくとも一部に、保護層(7)が被覆される
ことを特徴とする計時器用アセンブリー(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力下で組み付けられる、2つのコンポーネント、特にバランスと慣性ねじ、を備える計時器用アセンブリーに関する。本発明は、さらに、前記アセンブリーを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バランスの慣性及び/又は平衡性を調整する手段があるバランスの構成が数多く知られている。特に、バランスの外縁において各構成にねじ込まれたり入れ込まれたりする慣性ねじとも呼ばれる慣性ブロックがあるバランスが知られている。一部の形態においては、クランプによって慣性ねじの保持を確実にしようと試みている。このような状況で、スイス特許文献CH705238は、慣性ねじのシャフトを適切な位置にて受けてクランプするための少なくとも1つの溝があるバランスを開示している。この溝は、一方では、バランスの剛体部分によって境界が定められ、他方では、この溝の境界を定めているバランスの前記剛体部分の方に恒久的に付勢される弾性アームによって境界が定められており、これによって、ねじを保持する。慣性ねじが挿入されると、弾性アームは、動かされることで大きく変形する。この変形によって、クラックや初期クラックのような材料の欠陥を発生させてしまうことがある。また、このような変形によって、バランスを覆う保護層に欠陥を発生させてしまうこともある。この層の目的は、特定の外観を与えることと、バランスの変色や腐食に対する耐性を向上させることである。この層は、通常、ニッケル層が下にある金層であり、これによって、美しい外観と耐食性を組み合わせる。慣性ブロックをバランスに組み付けると、この保護層における、アームの変形時に応力がかかる部分や局所的に損傷する可能性がある支持領域や把持領域において、欠陥が発生してしまう。この場合、保護層は、下地材の応力腐食を発生させてしまうおそれがあるアンモニアや塩素のような腐食性物質に対して不透過性ではなくなってしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、バランスと慣性ねじのペアのように、応力下で組み付けられる2つのコンポーネントを備える計時器用アセンブリーを製造する方法であって、2つのコンポーネントを組み付けるステップの後に保護層を堆積させるステップを行う方法を提案することによって、前記課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この保護層は基本的に、SiO2、Al2O3、Rh、Au、Ni又はNiPによって構成され、又はこれらの材料の複数の層の積層体によって構成される。
【0005】
組み付け後にこの層を加えることで、組み付け前に堆積させた層のバリア効果が強化され、特に、組み付けのときに損傷を受けるおそれがある部分において強化される。このような組み付け後に堆積される保護層によって、完成品に対する組み付けに起因する面欠陥が発生しないことが確実になる。この保護層は、潜在的なクラックや初期クラックを埋め、このことによって、攻撃的な環境と下地との接触を防ぐ。
【0006】
保護層の厚みは、20nm~3μm、好ましくは、100nm~500nmの範囲内である。この薄い厚みによって、慣性ねじがバランスに溶接されることを避けることが可能になり、このような溶接は、慣性ねじの調整機能に影響を与えてしまう。
【0007】
本発明は、さらに、応力下で組み付けられる第1のコンポーネントと第2のコンポーネントを備える計時器用アセンブリーに関し、この計時器用アセンブリーの面の少なくとも一部が、組み付けステップの終わりにおいて欠陥を覆うように意図された保護層で被覆される。
【0008】
添付の図面を参照しながら例として与えられる以下の説明を読むことによって、他の特徴や利点が明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】バランスと2つの慣性ねじを備える本発明に係る計時器用アセンブリーを上から見た図である。
【
図2】
図1の計時器用アセンブリーの慣性ねじの3次元図である。
【
図3】本発明の方法によって複数の層で被覆される計時器用アセンブリーのコンポーネントの概略断面図である。
【
図4A】
図4Aは、本発明に係る計時器用アセンブリーのバランスの断面についての電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、応力下で組み付けられる少なくとも2つのコンポーネントを備える計時器用アセンブリーに関する。例えば、
図1に示しているように、第1のコンポーネントは、溝4の境界を定める弾性アーム2aがあるバランス2であり、この溝4は、組み付けのときに、
図2にも示している慣性ねじ3である第2のコンポーネントを受ける。この第2のコンポーネントは、ローラーにおけるインパルスピン、スタッフ上のバランスのように、押し込まれる要素であることもできる。
【0011】
これらのコンポーネントは、銅、真鍮や洋白のような銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金、炭素鋼、及びフェライト系及びオーステナイト系のステンレス鋼を含む群から選ぶことができる。
【0012】
本発明によると、計時器用アセンブリーは、組み付け後に、保護層で少なくとも部分的に被覆される。この保護層は、組み付けプロセスに起因していたり、又は可能性としては組み付け前から存在していたりする、クラック、初期クラック、剥離のような欠陥をいずれも覆うことを意図している。
図4A及び4Bはそれぞれ、コンポーネントの1つ(参照符号2)の基材と、組み付け前に堆積される第1の層6と呼ばれる保護層における、クラック8の形成についての電子顕微鏡画像とその模式図である。本発明によると、第2の層と呼ばれる保護層7は、クラックがある面上に堆積されて、組み付け後に外部環境に対して不透過性のバリアを形成する。
【0013】
図3は、計時器用アセンブリー1に堆積される層を模式的に示している。組み付け前に、計時器用アセンブリーを構成している2つのコンポーネントのうち、少なくとも1つのコンポーネントに一又は複数の層を任意に堆積させることができる。このようにして、計時器用アセンブリーの基材は、第1の層6で被覆することができ、また、随意的に、第1の層6の下にて副層5で被覆することができる。第1の層6は、ロジウム、純金、又はコバルトやニッケルのような微量元素を含む金を含むことができ、副層5は、NiPや純粋な電気めっきされたNiのようにニッケルを含むことができ、又は純金、又は微量元素を含むように金を含むことができる。第1の層の厚みは100nm~2μmの範囲内であり、副層の厚みは100nm~2μmの範囲内である。
【0014】
保護層7は、特に本発明の主題であり、組み付け後に堆積されるバリア層である。この層は、単層によって形成することができ、また、複数の層からなる積層体によって形成することができる。各層はそれぞれ、SiO2、Al2O3、Rh、Au、Ni、又は低P(2~4重量%)、中P(5~9重量%)又は高P(10~13重量%)であるNiPを含む。好ましくは、各層はそれぞれ、SiO2、Al2O3、Rh、Au、Ni、又は低P(2~4重量%)、中P(5~9重量%)又は高P(10~13重量%)であるNiPによって構成している。保護層の厚みは、20nm~3μm、好ましくは、100nm~500nm、の範囲内である。複数の層の積層体を用いる形態の場合、すべての層の厚みは、20nm~3μm、好ましくは、100nm~500nm、の範囲内である。
【0015】
本発明によると、組み付けプロセスの終わりにおいて、アセンブリーの面の少なくとも一部が、欠陥を覆うように意図された保護層で被覆される。好ましいことに、少なくとも、組み付けのときに変形するコンポーネントの面が被覆される。好ましくは、計時器用アセンブリーの外面全体が保護層で被覆される。
【0016】
このように、組み付け後に堆積される保護層7には、欠陥がなく、特に、クラックや初期クラックがない。
【0017】
本発明は、さらに、以下のステップを行う計時器用アセンブリーを製造する方法に関する。
a)第1のコンポーネントと第2のコンポーネントを用意するステップ
b)前記第1のコンポーネントと前記第2のコンポーネントを応力下で組み付けるステップ
c)前記第1のコンポーネントと前記第2のコンポーネントとを備えるアセンブリーの面の少なくとも一部に、第2の層である保護層7を堆積させるステップ
【0018】
本発明によると、保護層は、ALD(原子層堆積:Atomic Layer Deposition)、PVD(物理的蒸着:Physical Vapour Deposition)、CVD(化学的蒸着:Chemical Vapour Deposition)、化学的堆積又は電気めっきによる堆積によって堆積される。
【0019】
また、この方法は、前記組み付けステップb)の前に、前記第1のコンポーネント及び/又は第2のコンポーネントの少なくとも一部上に、第1の層6を堆積させるステップa’)を行うことができる。
【0020】
また、この方法は、ステップa’)の前に、前記第1のコンポーネント及び/又は前記第2のコンポーネントの前記少なくとも一部上に、副層5を堆積させるステップa”)を行うことができる。
【0021】
また、前記副層と前記第1の層は、ALD、PVD、CVD、化学的堆積又は電気めっき堆積によって堆積されることができる。
【0022】
また、この方法は、第1の層と副層が存在する場合、これらの層の密着性を向上させることを意図された熱処理を行うステップa''')を行うことができる。このステップは、組み付けステップb)の前に行う。前記熱処理は、30分~5時間の間、150~300℃の範囲内で行う。実施形態の1つにおいて、この方法は、保護層を堆積させるステップc)の後に、この同じ熱処理を行うステップd)を行う。別の実施形態において、この方法は、前記組み付けステップb)の前にこの熱処理を行うステップa''')と、前記保護層を堆積させるステップc)の後にこの熱処理を行うステップd)を行う。
【符号の説明】
【0023】
1 計時器用アセンブリー
2 バランス
2a 弾性アーム
3 慣性ねじ
3a シャフト
4 溝
5 組み付け前に堆積される副層
6 第1の層である、組み付け前に堆積される層
7 保護層や第2の層である、組み付け後に堆積される層
8 クラック又は初期クラック
9 電子顕微鏡画像で見たサンプルの被覆材料
【外国語明細書】