(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022046012
(43)【公開日】2022-03-23
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 29/04 20060101AFI20220315BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20220315BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20220315BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20220315BHJP
D06M 15/333 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
C08L29/04 A
C08K7/02
C08L1/02
C08K9/04
D06M15/333
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020151827
(22)【出願日】2020-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】特許業務法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真
(72)【発明者】
【氏名】石内 聡史
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健太郎
【テーマコード(参考)】
4J002
4L033
【Fターム(参考)】
4J002AB012
4J002BE031
4J002FA042
4J002FB262
4J002FD012
4J002GG02
4L033AA02
4L033AB01
4L033AC15
4L033CA12
4L033CA29
(57)【要約】
【課題】ガスバリア性に優れるとともに、所定のヤング率を維持しつつ、耐屈曲性が向上した樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のマトリックス中にセルロースナノファイバー(B)が分散してなる樹脂組成物であって、セルロースナノファイバー(B)の平均繊維径が1~1000nmであり、平均繊維長が0.01~1000μmであり、
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)に対するセルロースナノファイバー(B)の質量比(B/A)が0.01/99.99~2/98であり、前記樹脂組成物を用いて得られる厚み20μmのフィルムのヤング率Y(MPa)とエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン含有量x(モル%)が下記式(I)
Y≧4000-40・x (I)
を満たし、かつ前記フィルムに対して100回のゲルボ処理を行った後の該フィルム中のピンホール数が、セルロースナノファイバー(B)を含まないこと以外は前記フィルムと同じものである基準フィルムに対して100回のゲルボ処理を行った後の該フィルム中のピンホール数の半分以下である、樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のマトリックス中にセルロースナノファイバー(B)が分散してなる樹脂組成物であって、
セルロースナノファイバー(B)の平均繊維径が1~1000nmであり、平均繊維長が0.01~1000μmであり、
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)に対するセルロースナノファイバー(B)の質量比(B/A)が0.01/99.99~2/98であり、
前記樹脂組成物を用いて得られる厚み20μmのフィルムのヤング率Y(MPa)とエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン含有量x(モル%)が下記式(I)
Y≧4000-40・x (I)
を満たし、
かつ前記フィルムに対して100回のゲルボ処理を行った後の該フィルム中のピンホール数が、セルロースナノファイバー(B)を含まないこと以外は前記フィルムと同じものである基準フィルムに対して100回のゲルボ処理を行った後の該フィルム中のピンホール数の半分以下である、樹脂組成物。
【請求項2】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のマトリックス中にセルロースナノファイバー(B)が分散してなる樹脂組成物であって、
結晶化したエチレン-ビニルアルコール共重合体(A2)で被覆されたセルロースナノファイバー(B)からなる被覆繊維と、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A1)とを溶融混合してなり、
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A1)及び(A2)の合計に対するセルロースナノファイバー(B)の質量比[B/(A1+A2)]が0.01/99.99~2/98である、樹脂組成物。
【請求項3】
セルロースナノファイバー(B)のアスペクト比が3以上600未満である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A1)に対するエチレン-ビニルアルコール共重合体(A2)の質量比(A2/A1)が0.001/99.999~2/98である、請求項2又は3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A1)及びエチレン-ビニルアルコール共重合体(A2)のエチレン含有量の差が6モル%以下である、請求項2~4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A1)及びエチレン-ビニルアルコール共重合体(A2)のエチレン含有量がいずれも18~50モル%である、請求項2~5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記被覆繊維が、結晶化したエチレン-ビニルアルコール共重合体(A2)で長さ方向に沿って周期的に被覆されたセルロースナノファイバー(B)からなるものである、請求項2~6のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項8】
セルロースナノファイバー(B)に対するエチレン-ビニルアルコール共重合体(A2)の質量比(A2/B)が0.3以上3未満である、請求項2~7のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項9】
セルロースナノファイバー(B)が未変性セルロースナノファイバーである、請求項1~8のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の樹脂組成物からなる層を少なくとも1つ有する、多層構造体。
【請求項11】
請求項10に記載の多層構造体からなる、包装材料。
【請求項12】
結晶化したエチレン-ビニルアルコール共重合体(A2)で被覆された未変性セルロースナノファイバーからなり、
前記未変性セルロースナノファイバーに対するエチレン-ビニルアルコール共重合体(A2)の質量比が0.3以上3未満である、被覆繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-ビニルアルコール共重合体のマトリックス中にセルロースナノファイバーが分散してなる樹脂組成物及びそれを用いた多層構造体に関する。また、エチレン-ビニルアルコール共重合体で被覆されたセルロースナノファイバーからなる被覆繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略記することがある)は、優れたガスバリア性を有し、しかも、塩化ビニル樹脂のように焼却処分時に有害なガスを発生することもない。そのため、EVOHはフィルムなどに加工され、食品包装材料等として広く利用されている。しかし、EVOHのフィルムは高い結晶性を有するために剛直であり、屈曲によりピンホールを生じやすいという欠点を有していた。
【0003】
EVOHの耐屈曲性を改善する方法として、エラストマー等の柔軟成分をEVOHにブレンドする方法が知られている。特許文献1には、主としてビニル芳香族モノマー単位からなる重合体ブロックと、主としてイソブチレン単位からなる重合体ブロックとを有するブロック共重合体、及びエチレン-ビニルアルコール系共重合体を含有する重合体組成物は、柔軟性及びゴム弾性に優れるとともに、ガスバリア性にも優れていたと記載されている。
【0004】
ところで、樹脂等に混合される充填材として、セルロースナノファイバー等と呼ばれる繊維径の極めて細いセルロース繊維が知られている。特許文献2には、アニオン性官能基を有する微細繊維状セルロースと、セルロース以外の高分子化合物の結晶化物により形成される複合体が記載されており、その実施例には、セルロース以外の高分子化合物として、EVOHを用いた例が記載されている。そして、特許文献2には、微細繊維状セルロースの表面を前記高分子部分が覆うことで微細繊維状セルロースの凝集力を減少させ、樹脂に混合された際に良好な分散状態を得ることができることから、樹脂組成物の曲げ強度及び弾性率等の物性を向上させることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-1579号公報
【特許文献2】特開2018-145531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の重合体組成物は柔軟成分を添加することによって、得られるフィルムのヤング率が低下するため、当該重合体組成物は、スタンドアップパウチなどの比較的高いヤング率が求められる包装材料等に用いることが難しかった。特許文献2には、EVOH樹脂組成物の耐屈曲性を向上させるために、セルロースナノファイバーを用いることについて何ら記載されていない。また、特許文献2に記載の複合体をEVOHに添加した場合、得られるフィルムにブツが発生する場合等があった。
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、ガスバリア性及び外観に優れるとともに、所定のヤング率を維持しつつ、耐屈曲性が向上したフィルムを得ることができる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、EVOH(A)のマトリックス中にセルロースナノファイバー(B)(以下、セルロースナノファイバーをCNFと略記することがある)が分散してなる樹脂組成物であって、CNF(B)の平均繊維径が1~1000nmであり、平均繊維長が0.01~1000μmであり、EVOH(A)に対するCNF(B)の質量比(B/A)が0.01/99.99~2/98であり、前記樹脂組成物を用いて得られる厚み20μmのフィルムのヤング率Y(MPa)とEVOH(A)のエチレン含有量x(モル%)が下記式(I)
Y≧4000-40・x (I)
を満たし、かつ前記フィルムに対して100回のゲルボ処理を行った後の該フィルム中のピンホール数が、CNF(B)を含まないこと以外は前記フィルムと同じものである基準フィルムに対して100回のゲルボ処理を行った後の該フィルム中のピンホール数の半分以下である樹脂組成物を提供することによって解決される。
【0009】
上記課題は、EVOH(A)のマトリックス中にCNF(B)が分散してなる樹脂組成物であって、結晶化したEVOH(A2)で被覆されたCNF(B)からなる被覆繊維と、EVOH(A1)とを溶融混合してなり、EVOH(A1)及び(A2)の合計に対するCNF(B)の質量比[B/(A1+A2)]が0.01/99.99~2/98である樹脂組成物を提供することによっても解決される。
【0010】
前記樹脂組成物において、EVOH(A1)に対するEVOH(A2)の質量比(A2/A1)が0.001/99.999~2/98であることが好ましい。EVOH(A1)及びEVOH(A2)のエチレン含有量の差が6モル%以下であることも好ましい。EVOH(A1)及びEVOH(A2)のエチレン含有量がいずれも18~50モル%であることも好ましい。前記被覆繊維が、結晶化したEVOH(A2)で長さ方向に沿って周期的に被覆されたCNF(B)からなるものであることも好ましい。CNF(B)に対するEVOH(A2)の質量比(A2/B)が0.3以上3未満であることも好ましい。
【0011】
上述した樹脂組成物における、CNF(B)のアスペクト比が3以上600未満であることが好ましい。CNF(B)が未変性CNFであることも好ましい。
【0012】
上述した樹脂組成物からなる層を少なくとも1つ有する多層構造体が本発明の好適な実施態様であり、前記多層構造体からなる包装材料がより好適な実施態様である。
【0013】
上記課題は、結晶化したEVOH(A2)で被覆された未変性CNFからなり、前記未変性CNFに対するEVOH(A2)の質量比が0.3以上3未満である被覆繊維を提供することによっても解決される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂組成物を用いることにより、ガスバリア性及び外観に優れるとともに、所定のヤング率を維持しつつ、耐屈曲性が向上したフィルムを得ることができる。したがって、当該樹脂組成物は、スタンドアップパウチ等の包装材料等として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の樹脂組成物は、EVOH(A)のマトリックス中にCNF(B)が分散してなる樹脂組成物であって、CNF(B)の平均繊維径が1~1000nmであり、平均繊維長が0.01~1000μmであり、EVOH(A)に対するCNF(B)の質量比(B/A)が0.01/99.99~2/98であり、前記樹脂組成物を用いて得られる厚み20μmのフィルムのヤング率Y(MPa)とEVOH(A)のエチレン含有量x(モル%)が下記式(I)
Y≧4000-40・x (I)
を満たし、かつ前記フィルムに対して100回のゲルボ処理を行った後の該フィルム中のピンホール数が、CNF(B)を含まないこと以外は前記フィルムと同じものである基準フィルムに対して100回のゲルボ処理を行った後の該フィルム中のピンホール数の半分以下であるものである。
【0017】
本発明の樹脂組成物に含有されるEVOH(A)は、エチレン単位及びビニルアルコール単位を含有する共重合体である。EVOH(A)は、公知の方法にて製造することができる。例えば、エチレンとビニルエステルを共重合させてエチレン-ビニルエステル共重合体を得た後、当該共重合体をアルカリ触媒等を用いてケン化することによりEVOH(A)が得られる。前記ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステルが挙げられ、酢酸ビニルが好ましい。EVOH(A)は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、エチレン及びビニルアルコール以外の共重合成分を含有していてもよい。そのような他の共重合成分として、例えばビニルシラン化合物に由来する単位が挙げられる。ここで、ビニルシラン化合物に由来する単位としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン又はγ-メタクリルオキシプロピルメトキシシランに由来する単位が挙げられる。中でも、ビニルトリメトキシシラン又はビニルトリエトキシシランに由来する単位が好適である。さらに、EVOH(A)は、他の共重合成分として、プロピレン、ブテン等のα-オレフィン;(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸メチルなどの不飽和カルボン酸又はそのエステル;及びN-ビニルピロリドンなどのビニルピロリドンに由来する単位を含有していてもよい。EVOH(A)中のエチレン単位及びビニルアルコール単位以外の共重合成分の含有量は、10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましく、1モル%以下がさらに好ましい。
【0018】
EVOH(A)のエチレン単位含有量xは18~50モル%であることが好ましい。含有量xが18モル%以上であることにより、得られるフィルムの耐屈曲性がさらに向上する。含有量xは20モル%以上がより好ましく、25モル%以上がさらに好ましい。一方、含有量xが50モル%以下であることにより、前記樹脂組成物のガスバリア性がさらに向上する。含有量xは45モル%以下がより好ましい。
【0019】
EVOH(A)のケン化度は、90モル%以上が好ましい。これにより、前記樹脂組成物のガスバリア性がさらに向上する。前記ケン化度は、95モル%以上であることがより好ましく、99モル%以上であることがさらに好ましい。EVOH(A)のエチレン単位含有量及びケン化度は、溶媒にDMSO-d6を用いた1H-NMR測定により求めることができる。
【0020】
EVOH(A)のメルトフローレート(温度210℃、荷重2.16kg、以下、メルトフローレートをMFRと略記することがある)は、0.1~200g/10分が好ましい。EVOH(A)のMFRが上記範囲であると、前記樹脂組成物の成形性や加工性が良好となる。EVOH(A)のMFRは、0.5g/10分以上がより好ましく、1g/10分以上がさらに好ましい。一方、EVOH(A)のMFRは、50g/10分以下がより好ましく、30g/10分以下がさらに好ましく、15g/10分以下が特に好ましい。本発明においてMFRは、JIS K7210に準拠して測定される。本発明の樹脂組成物のMFR(温度210℃、荷重2160g)の範囲もEVOH(A)と同じであることが好ましい。
【0021】
EVOH(A)の融点は100~230℃が好ましい。当該融点が230℃を超える場合、溶融成形性及び熱安定性が低下するおそれがある。一方、前記融点が100℃未満の場合、バリア性が低下するおそれがある。EVOH(A)の融点はJIS K7121に基づいて測定される。
【0022】
後述するようにEVOH(A)が、2種以上のEVOHの混合物からなるものであっても構わない。この場合、エチレン含有率、ケン化度、MFR及び融点の値は、配合質量比から算出される平均値とする。
【0023】
本発明の樹脂組成物に含有されるCNF(B)の平均繊維径は1~1000nmであり、平均繊維長が0.01~1000μmである。このように通常のセルロース繊維と比較して極めて細いCNF(B)を含有させることにより、驚くべきことに、前記樹脂組成物の耐屈曲性が顕著に向上する。しかも、CNF(B)を分散させることによるヤング率の変化が小さいため、得られるフィルムは適度なヤング率を有する。
【0024】
CNF(B)の平均繊維径が1nm未満のセルロース繊維は、通常の方法で得ることが難しく、工業的に使用するのは現実的ではない。前記平均繊維径が5nm以上であることが好適であり、10nm以上であることがより好適である。一方、前記平均繊維径が1000nmを超える場合には、前記樹脂組成物の耐屈曲性が低下する。前記平均繊維径が500nm以下であることが好適であり、400nm以下であることがより好適であり、300nm以下であることがさらに好適であり、200nm以下であることが特に好適であり、100nm以下であることが最も好適である。なお、CNF(B)の平均繊維径は、顕微鏡観察により算出した数平均繊維径である。
【0025】
CNF(B)の平均繊維長が0.01μm未満の場合には、得られるフィルムのヤング率が低下する。CNF(B)の平均繊維長が0.1μm以上であることが好適であり、0.2μm以上であることがより好適である。一方、CNF(B)の平均繊維長が1000μmを超える場合には、CNF(B)が凝集することにより、得られるフィルムの耐屈曲性が低下したり、ブツ数が増加したりする。前記平均繊維長が500μm以下であることが好適であり、100μm以下であることがより好適であり、50μm以下であることがさらに好適であり、5μm以下であることが特に好適であり、2μm以下であることが最も好適である。なお、CNF(B)の平均繊維長は、顕微鏡観察により算出した数平均繊維長である。
【0026】
CNF(B)のアスペクト比、すなわち、前記平均繊維径に対する前記平均繊維長の比が3以上600未満であることが好ましい。得られるフィルムのヤング率が高くなる観点からは、当該アスペクト比は5以上がより好ましく、7以上がさらに好ましい。一方、得られるフィルムの耐屈曲性がさらに向上する観点やブツ数がさらに低減する観点からは、前記アスペクト比は300以下がより好ましく、100以下がさらに好ましく、50以下が特に好ましく、30以下が最も好ましい。
【0027】
CNF(B)は、カルボキシル基等で変性されたものであっても構わないが、得られるフィルムのブツ数が低減する観点から、未変性のものであることが好ましい。
【0028】
本発明に用いられるCNF(B)は、上述の平均繊維径及び平均繊維長を有するものであれば特に限定されず、一般的な、フィブリル化セルロース繊維を好適に使用することができる。フィブリル化セルロース繊維の原料としては、例えば、木材、藁、竹、バガス、笹、葦又は米殻などが挙げられる。フィブリル化は、得られたセルロース繊維に叩解機やホモジナイザー等を用いて機械的なせん断力をかけることにより行うことができる。また、化学的処理により、セルロース繊維のフィブリル化を行うこともできる。CNF(B)は、リグニンを含有していてもよい。リグニンは、原料に含まれる成分である。フィブリル化を行う際に、リグニンの除去率を調整することにより、その含有量を調整することができる。
【0029】
本発明の樹脂組成物において、EVOH(A)に対するCNF(B)の質量比(B/A)が0.01/99.99~2/98である必要がある。質量比(B/A)が0.01/99.99未満の場合、得られるフィルムの耐屈曲性が不十分になる。この観点からは、質量比(B/A)は0.03/99.97以上が好ましい。一方、質量比(B/A)が2/98を超える場合、得られるフィルムの透明性及びガスバリア性が低下するとともに、ブツ数も増加する。これらの観点からは、質量比(B/A)は1.5/98.5以下が好ましく、1/99以下がより好ましく、0.5/99.5以下がさらに好ましく、0.25/99.75以下が特に好ましい。
【0030】
本発明の樹脂組成物中のCNF(B)の含有量は、0.01~2質量%であることが好ましい。当該含有量が0.01質量%未満の場合、得られるフィルムの耐屈曲性が不十分になるおそれがある。当該含有量は0.03質量%以上がより好ましい。一方、当該含有量が2質量%を超える場合、得られるフィルムの透明性やガスバリア性が低下したり、ブツ数が増加したりするおそれがある。当該含有量は1.5質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましく、0.5質量%以下が特に好ましく、0.25質量%以下が最も好ましい。
【0031】
本発明の効果を阻害しない範囲であれば、前記樹脂組成物はEVOH(A)及びCNF(B)以外の他の成分を含有していてもよい。当該他の成分としては、EVOH以外の樹脂、CNF以外の充填剤、多価金属イオン、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤及び滑剤等が挙げられる。前記樹脂組成物中の他の成分の含有量は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、2質量%以下が特に好ましい。
【0032】
前記樹脂組成物に含有される多価金属イオンとしては、マグネシウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。前記樹脂組成物が多価金属イオンを含有する場合、その含有量は、通常5~200ppmである。
【0033】
前記樹脂組成物を用いて得られる厚み20μmのフィルムのヤング率Y(MPa)とEVOH(A)のエチレン含有量x(モル%)が下記式(I)
Y≧4000-40・x (I)
を満たし、かつ前記フィルムに対して100回のゲルボ処理を行った後の該フィルム中のピンホール数が、CNF(B)を含まないこと以外は前記フィルムと同じものである基準フィルムに対して100回のゲルボ処理を行った後の該フィルム中のピンホール数の半分以下であることが必要である。
【0034】
前記樹脂組成物は、上記ヤング率Y及びゲルボ処理後のピンホール数の条件をともに満たし、EVOH(A)と同等のヤング率Yを維持しつつ、耐屈曲性が向上している。これは、EVOH(A)のマトリックス中に極めて細いCNF(B)が分散しているためと考えられる。前記フィルムは、単軸押出機を用いて200℃で本発明の樹脂組成物を溶融押出することにより得られる単層フィルムであり、具体的には、後述する実施例に記載された方法により得られる。また、基準フィルムは、CNF(B)を添加しないこと以外は本発明の樹脂組成物を用いて得られる前記フィルムと同様にして得られる。ゲルボ処理は、ASTMF392-74に準じて、フィルムの屈曲を100回繰り返すことにより行われる。そして、屈曲後のフィルムの横210mm、縦297mmの長方形(A4サイズ)の範囲内のピンホールの数が計測される。本発明の樹脂組成物を用いて得られる前記フィルムに対して100回のゲルボ処理を行った後の該フィルム中のピンホール数が、前記基準フィルムに対して100回のゲルボ処理を行った後の該フィルム中のピンホール数の1/4以下であることがより好ましく、1/5以下であることがさらに好ましく、1/10以下であることが特に好ましい。
【0035】
本発明の樹脂組成物を用いて得られる厚み20μmの前記フィルムのASTMD1003-61に準じて測定されるヘイズが30以下であることが好ましく、25以下であることがより好ましく、10以下であることがさらに好ましい。
【0036】
本発明の樹脂組成物を用いて得られる厚み20μmの前記フィルムの酸素透過度(以下、OTRと略記することがある)が1.5cc.20μm/m2.day.atm以下であることが好ましく、1.0cc.20μm/m2.day.atm以下であることがより好ましい。
【0037】
EVOH(A)のマトリックス中にCNF(B)を凝集することなく均一に分散させることが可能であれば、本発明の樹脂組成物の製造方法は、特に限定されないが、結晶化したEVOH(A2)で被覆されたCNF(B)からなる被覆繊維と、EVOH(A1)とを溶融混合する方法が好ましい。CNF(B)が結晶化したEVOH(A2)で被覆されていることによって、CNF(B)の凝集が抑制されるとともに、溶融混合した際に、マトリックス中におけるCNF(B)の分散性が向上する。
【0038】
EVOH(A1)及びEVOH(A2)のエチレン含有量の範囲はそれぞれ上述したEVOH(A)と同じであることが好ましい。これにより、EVOH(A1)とEVOH(A2)の相溶性が向上するため、CNF(B)の分散性がさらに向上する。同様の観点から、EVOH(A1)及びEVOH(A2)のエチレン含有量の差が6モル%以下であることが好ましく、3モル%以下であることがより好ましく、1モル%以下であることがさらに好ましく、EVOH(A1)及びEVOH(A2)のエチレン含有量が実質的に同じであることが特に好ましい。
【0039】
CNF(B)の分散性がさらに向上する観点から、EVOH(A1)及びEVOH(A2)のケン化度の範囲がそれぞれ上述したEVOH(A)と同じであることが好ましい。同様の観点から、EVOH(A1)及びEVOH(A2)のMFRの範囲もそれぞれ上述したEVOH(A)と同じであることが好ましい。
【0040】
前記被覆繊維は、CNF(B)が分散したEVOH(A2)溶液を作製した後、CNF(B)の表面にEVOH(A2)を析出させる方法等により製造することができる。
【0041】
CNF(B)を安定して分散させることが可能であれば、EVOH(A2)との混合に供するCNF(B)の態様は限定されないが、CNF(B)の分散液であることが好ましい。CNF(B)を安定して分散させることができることから、このとき用いられる分散媒は、極性溶媒が好ましく、CNF(B)の表面に析出するEVOH(A2)の形態を制御できる点から、水;モノエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、グリセリンなどのアルコール;ジメチルスルホキシド;N-メチル-2-ピロリドンがより好ましい。中でもアルコールが好ましく、1,3-ブタンジオールが特に好ましい。また、前記分散媒がEVOH(A2)を溶解可能なものであることが好ましい。CNF(B)の分散液とEVOH(A2)溶液とを混合する場合、これらに用いられる分散媒と溶媒の種類が同じであることも好ましい。
【0042】
前記CNF(B)の分散液中のCNF(B)の含有量は、少なすぎると分散媒の分離回収の費用が増加するおそれがあるため、好ましくは0.00005質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上である。一方、前記含有量は、多すぎるとCNF(B)を安定して分散させることができなくなるおそれがあるため、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0043】
CNF(B)との混合に供するEVOH(A2)の態様は特に限定されず、固体であっても溶液であっても構わない。後者の場合に用いられる溶媒としては、1,3-ブタンジオール、メタノール、プロパノール、グリセリン等のアルコール等が挙げられ、中でも1,3-ブタンジオール及びグリセリンが好ましく、1,3-ブタンジオールがより好ましい。CNF(B)との混合に供するEVOH(A2)溶液中のEVOH(A2)の含有量は、通常0.025~1質量%である。
【0044】
CNF(B)が分散したEVOH(A2)溶液を作製する方法としては、(1)CNF(B)の分散液とEVOH(A2)を混合してからEVOH(A2)を溶解させる方法や、(2)EVOH(A2)溶液とCNF(B)分散液とを混合する方法等が挙げられ、中でも、(1)の方法が好ましい。(1)の方法において、CNF(B)の分散液と混合されたEVOH(A2)を溶解させる方法として、当該分散液を加熱する方法が好ましい。
【0045】
CNF(B)が分散したEVOH(A2)溶液中のCNF(B)やEVOH(A2)の含有量は、EVOH(A2)の析出方法や、CNF(B)に対する析出させるEVOH(A2)の質量比等に応じて適宜調整すればよいが、通常CNF(B)の含有量は0.00005~1質量%であり、EVOH(A2)の含有量は0.025~1質量%である。
【0046】
CNF(B)が分散したEVOH(A2)溶液を作製した後、CNF(B)の表面に結晶化したEVOH(A2)を析出させる。その具体的な方法としては、EVOH(A2)の溶解度が低下するように前記溶液の温度を変化させる方法、前記溶液に対して、EVOH(A2)の貧溶媒を添加する方法、前記溶液中の溶媒を留去する方法などが挙げられる。CNF(B)が分散したEVOH(A2)溶液を撹拌しながらCNF(B)の表面に結晶化したEVOH(A2)を析出させてもよい。
【0047】
こうして得られる前記被覆繊維における、CNF(B)に対するEVOH(A2)の質量比(A2/B)が0.01以上5未満であることが好ましく、0.3以上3未満であることがより好ましい。これにより、本発明の樹脂組成物において、EVOH(A)のマトリックス中のCNF(B)の分散性がさらに向上する。結晶化したEVOH(A2)で被覆された未変性CNFからなり、未変性CNFに対するEVOH(A2)の質量比が0.3以上3未満である被覆繊維は、EVOH等の樹脂に対する添加剤等として好適に用いられる。
【0048】
前記被覆繊維において、CNF(B)の表面の少なくとも一部がEVOH(A2)で被覆されていればよい。
図1に前記被覆繊維の一例の模式図を示す。
図1に示されるように、前記被覆繊維は、結晶化したEVOH(A2)2で長さ方向に沿って周期的に被覆されたCNF(B)1からなるものであることが好ましい。
【0049】
こうして得られる被覆繊維と、EVOH(A1)との溶融混合は、押出機、ニーダールーダー、ミキシングロール、バンバリーミキサーなどの既知の混合装置又は混練装置を使用して行うことができる。溶融混合する際の温度は、EVOH(A1)やEVOH(A2)の融点などに応じて適宜調節すればよいが、通常、120~300℃である。
【0050】
前記被覆繊維と、EVOH(A1)とを溶融混合する際の、EVOH(A1)に対するEVOH(A2)の質量比(A2/A1)が0.001/99.999~2/98であることが好ましい。質量比(A2/A1)が0.001/99.999未満の場合、CNF(B)の分散性が不十分になるおそれがある。質量比(A2/A1)は0.01/99.99以上がより好ましい。一方、生産性の観点から、質量比(A2/A1)は2/98以下が好ましく、1/99以下がより好ましい。
【0051】
上述した方法により得られる樹脂組成物、すなわち、EVOH(A)のマトリックス中にCNF(B)が分散してなる樹脂組成物であって、結晶化したEVOH(A2)で被覆されたCNF(B)からなる被覆繊維と、EVOH(A1)とを溶融混合してなり、EVOH(A1)及びEVOH(A2)の合計に対するCNF(B)の質量比[B/(A1+A2)]が0.01/99.99~2/98である樹脂組成物によれば、ガスバリア性及び外観に優れるとともに、所定のヤング率を維持しつつ、耐屈曲性が向上したフィルムを得ることができる。したがって、当該樹脂組成物もまた、スタンドアップパウチ等の包装材料等として好適に用いられる。
【0052】
前記樹脂組成物からなる層を少なくとも1つ有する多層構造体が本発明の好適な実施態様であり、前記樹脂組成物からなる層とEVOH以外の他の熱可塑性樹脂からなる層を有する多層構造体がより好適な実施態様である。
【0053】
前記多層構造体の厚み構成は特に限定されないが、成形性及びコスト等の観点から、全層厚みに対する前記樹脂組成物層の厚み比は2~20%が好適である。前記多層構造体の層構成は特に限定されないが、他の熱可塑性樹脂層をA、前記樹脂組成物層をB、接着性樹脂層をCとすると、A/B、A/B/A、A/C/B、A/C/B/C/A、A/B/A/B/A、A/C/B/C/A/C/B/C/Aなどの層構成が例示される。これらに、さらに他の層を付加することは何ら差しつえない。他の熱可塑性樹脂層を複数設ける場合は、異なるものを用いてもよいし、同じものを用いてもよい。さらに、成形時に発生するトリムなどのスクラップからなる回収樹脂の層を別途設けてもよいし、回収樹脂と他の熱可塑性樹脂とのブレンド物からなる層を他の熱可塑性樹脂層としてもよい。
【0054】
上記接着性樹脂としては、カルボン酸変性ポリオレフィンが好ましい。カルボン酸変性ポリオレフィンとしては、オレフィン系重合体にエチレン性不飽和カルボン酸、そのエステル又はその無水物を化学的(例えば付加反応、グラフト反応等)に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体を好適に用いることができる。エチレン性不飽和カルボン酸、そのエステル又はその無水物としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル等が挙げられ、無水マレイン酸がより好ましい。これらの接着性樹脂は単独で用いてもよいし、また二種以上を混合して用いてもよい。
【0055】
前記他の熱可塑性樹脂としては、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリエステルエラストマー;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド;ポリスチレン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;アクリル系樹脂;ビニルエステル系樹脂;ポリウレタンエラストマー;ポリカーボネート;塩素化ポリエチレン;塩素化ポリプロピレンが挙げられる。中でも、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリスチレン及びポリエステルが好ましく用いられる。
【0056】
上記多層構造体を製造する方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
(1)前記樹脂組成物と他の熱可塑性樹脂とを共押出する方法
(2)前記樹脂組成物からなる成形体上に他の熱可塑性樹脂を溶融押出する方法
(3)前記樹脂組成物と他の熱可塑性樹脂とを共射出する方法
(4)前記樹脂組成物からなる成形体と他の熱可塑性樹脂からなる成形体とを接着剤を用いて積層させる方法
【0057】
中でも、(1)が好ましい。共押出方法としては、例えばマルチマニホールド合流方式Tダイ法、フィードプロック合流方式Tダイ法、インフレーション法等を挙げることができる。
【0058】
こうして得られる多層構造体は、ガスバリア性及び外観に優れるとともに、所定のヤング率を維持しつつ、耐屈曲性が向上しているため、スタンドアップパウチ、バッグインボックス等の包装材料等として好適に用いられる。
【実施例0059】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0060】
実施例1
(1)結晶化したEVOH(A2)で被覆されたCNF(B)の製造
未変性CNF(旭化成株式会社製、「セオラス」、アスペクト比約10、繊維径20~30nm、繊維長0.3~0.4μm)3gに、純水200gを加え、超音波洗浄機(BRANSON社製、型番:2510J-MT)を用いて超音波を1時間照射することで十分に混合した。その後、7日間静置し、上澄み液をCNFが0.09g含まれるように分取することで、CNF水分散液を調製した。なお、上澄み液の分取量は次のようにして計算した。予め、風袋であるシャーレの質量w1(g)を量り、次いで、前記シャーレに、静置した後の上澄み液を適量入れ、前記シャーレを含む全体の質量w2(g)を量った。その後、前記シャーレを60℃で4時間真空乾燥し、上澄み液に含まれる水を完全に蒸発させ、前記シャーレを含む全体の質量w3を量った後、下記式を用いて上澄み液中のセルロースナノファイバーの濃度C(質量%)及び上澄み液の分取量W(g)を算出した。
C(質量%)=(w3-w1)/(w2-w1)×100
W(g)=0.09×100/C
【0061】
なお、濃度Cの実測値は0.098質量%であり、実際の分取量Wは91.8gであった。ナスフラスコに、分取した上澄み液30.6gと1,3-ブタンジオール30mlを添加し、40℃のウォーターバス中で減圧蒸留し、水を留去することで、CNFの1,3-ブタンジオール分散液を調製した。前記CNFの1,3-ブタンジオール分散液0.0972gにEVOH(A2)(株式会社クラレ製、「EVAL」F101、エチレン単位含有量32モル%、ケン化度99.9モル%、MFR(温度210℃、荷重2.16kg)3.8g/10分、融点183℃)0.0005gと、1,3-ブタンジオール4.9023gを添加して混合した。得られた溶液をオイルバス中で加熱し、185℃まで昇温することでEVOH(A2)を完全溶解させた。その後、142℃まで5℃/hの速度で降温した後、室温まで降温することにより、CNF(B)の表面に結晶化したEVOH(A2)を析出させた。降温の後、吸引濾過により、1,3-ブタンジオールを除去し、分離された固形分を純水で洗浄した後、凍結乾燥することで、結晶化したエチレン-ビニルアルコール共重合体(A2)で被覆されたセルロースナノファイバー(B)を得た。
【0062】
(2)樹脂組成物の製造
(1)で得られた、結晶化したEVOH(A2)で被覆されたCNF(B)1.8gをEVOH(A1)(株式会社クラレ製、「EVAL」F101)898gに対して添加し、25mmφ二軸押出機を用いて押出温度=200℃、回転数=100rpm、吐出4kg/hrの条件で溶融混練し、ストランド状に押出し、ペレタイザーでカットすることで、樹脂組成物のペレットを製造した。
【0063】
(3)単層フィルムの製造
単軸押出装置(株式会社東洋精機製作所製、D2020、D(mm)=20、L/D=20、圧縮比=3.0、スクリュー:フルフライト)を用いて、上記(2)で得られた樹脂組成物ペレットを製膜することにより厚み20μm、及び100μmの単層フィルムを得た。押出条件は以下に示すとおりである。
押出温度:200℃
ダイス幅:30cm
引取りロール温度:80℃
スクリュー回転数:45rpm、100rpm
引取りロール速度:2.5m/分、1.25m/分
【0064】
(4)MFR
(2)で得られた樹脂組成物ペレットについて、JIS K7210:2014に準じて、210℃、2.16kg荷重下でMFRを測定した。結果を表1に示す。
【0065】
(5)ゲルボ試験
(3)で得られた厚み20μmの単層フィルムを21cm×30cmのサイズに切り出し、試験用の単層フィルムを6枚作製した。ASTMF392-74に準じて、テスター産業社製「BE1006恒温槽付ゲルボフレックステスター」を使用し、23℃で、前記単層フィルムの屈曲を50回又は100回繰り返した。屈曲後の単層フィルムの横210mm、縦297mmの長方形(A4サイズ)の範囲内のピンホールの数を計測した。計測は各3サンプルについて行い、その平均値から屈曲性を評価した。結果を表1に示す。
【0066】
(6)ヘイズ
ASTMD1003-61に準じて、ポイック積分球式光線透過率・全光線反射率計(村上色彩技術研究所製、「HR-100型」)を使用し、(3)で得られた単層フィルムの内部ヘイズ値を測定した。結果を表1に示す。
【0067】
(7)ブツ数
欠点検査装置(フロンティアシステム株式会社製)を使用し、(3)で得られた厚み20μmの単層フィルムの800cm2あたりのブツの個数を計測した後、以下の基準に基づいて評価した。結果を表1に示す。
A:100個/800cm2未満
B:100個/800cm2以上500個/800cm2未満
C:500個/800cm2以上
【0068】
(8)酸素透過度(OTR)
(3)で得られた厚み20μmの単層フィルムを20℃/65%RHの条件下で調湿した後、酸素透過度測定装置(ModernControl社製、「OX-Tran2/20」)を使用し、20℃/65%RHの条件下で酸素透過度(OTR)を測定した。結果を表1に示す。
【0069】
(9)ヤング率
(3)で得られた厚み100μmの単層フィルムを15mm(幅)×50mm(高さ)の短冊状に切り出し、オートグラフ(株式会社島津製作所製、「AGS-H」)を用い、ASTMD-638に準じて、試験速度5mm/minの条件でMD方向のヤング率を測定した。測定は5つのサンプルについて行い、その平均値で評価した。結果を表1に示す。
【0070】
実施例2
未変性CNFとしてダイセル社製「セリッシュ」(型番:KY100G、固形分10%、アスペクト比約500、繊維径40~50nm、繊維長約10μm)を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物ペレット及び単層フィルムの製造及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
実施例3
(2)において、結晶化したEVOH(A2)で被覆されたCNF(B)の添加量を5.4g、及びEVOH(A1)の添加量を895gに変更した以外は実施例2と同様にして樹脂組成物ペレット及び単層フィルムの製造及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0072】
実施例4
(2)において、結晶化したEVOH(A2)で被覆されたCNF(B)の添加量を10.8g、及びEVOH(A1)の添加量を889gに変更した以外は実施例2と同様にして樹脂組成物ペレット及び単層フィルムの製造及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
比較例1
(2)において、結晶化したEVOH(A2)で被覆されたCNF(B)を添加しなかった以外は実施例1と同様にして樹脂組成物ペレット及び単層フィルムの製造及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
比較例2
(2)において、結晶化したEVOH(A2)で被覆されたCNF(B)の添加量を54g、及びEVOH(A1)の添加量を846gに変更した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物ペレット及び単層フィルムの製造及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
比較例3
(2)において、結晶化したEVOH(A2)で被覆されたCNF(B)の代わりに、未変性CNF(旭化成株式会社製、「セオラス」、アスペクト比約10、繊維径20~30nm、繊維長0.3~0.4μm)を0.18g添加したこと、及びEVOH(A1)の添加量を900gに変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物ペレット及び単層フィルムの製造及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
EVOH(A)に対するCNF(B)の質量比(B/A)が0.01/99.99~2/98の範囲内にある実施例1~4の樹脂組成物を用いて得られた単層フィルムは、CNF(B)を含有しないこと以外は、これらと同じものである基準フィルム(比較例1)と比較して、ヤング率がほぼ同等であるにも関わらず、100回のゲルボ処理を行った後のピンホール数が顕著に低減した。また、実施例1~4で用いられた、結晶化したEVOH(A2)で被覆されたCNF(B)からなる被覆繊維を顕微鏡観察したところ、
図1に示されるように、CNF(B)1の表面が、結晶化したEVOH(A2)2によって、長さ方向に沿って周期的に被覆されていた。質量比(B/A)が2/98を超える場合(比較例2)、ヘイズが高く、ブツ数も多い上に、ガスバリア性も低かった。EVOH(A2)で被覆されていない未変性CNFを添加した場合は、ヤング率が低下し、ピンホール数が多く、ブツ数も多かった(比較例3)。
【0077】