(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022046046
(43)【公開日】2022-03-23
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20220315BHJP
【FI】
F16H57/04 Q
F16H57/04 D
F16H57/04 K
F16H57/04 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020151887
(22)【出願日】2020-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】特許業務法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 将也
(72)【発明者】
【氏名】平野 貴久
(72)【発明者】
【氏名】米野 中央人
(72)【発明者】
【氏名】立松 和高
【テーマコード(参考)】
3J063
【Fターム(参考)】
3J063AA04
3J063AB12
3J063AC04
3J063BA11
3J063XD03
3J063XD22
3J063XD23
3J063XD43
3J063XD45
3J063XD62
3J063XD72
3J063XD73
3J063XE14
3J063XE18
3J063XF03
(57)【要約】
【課題】第1軸を回転自在に支持するベアリングに第2軸の軸内油路から潤滑油を供給するものであっても、ベアリングの潤滑油量を十分に確保することが可能な車両用駆動装置を提供する。
【解決手段】車両用駆動装置1は、ロータ軸3と、ロータ軸3を回転自在に支持する第1ボールベアリングB1と、少なくとも回転が固定された状態となる回転軸4と、回転軸4に対して固定されたサンギヤSを有するプラネタリギヤPRと、を備えている。ロータ軸3と回転軸4との間には、ロータ軸3と一体的に回転するオイルレシーバ50が備えられ、オイルレシーバ50には潤滑油を回転軸4の第2軸内油路4bから供給する。そして、オイルレシーバ50は、潤滑油を溜める油溜まり部55,56から第1ボールベアリングB1に向けて潤滑油を供給する第1供給油孔58を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、
回転する第1軸と、
前記第1軸を前記ケースに対して回転自在に支持するベアリングと、
少なくとも前記ケースに対して回転が固定された状態となり、かつ前記第1軸と同軸上に並列に配置された第2軸と、
前記第2軸に設けられたサンギヤと、リングギヤと、前記サンギヤと前記リングギヤとの少なくとも一方に噛合するピニオンギヤを回転自在に支持するキャリヤと、を有するプラネタリギヤと、
軸方向において前記第1軸と前記第2軸との間に配置され、前記第1軸と一体的に回転するオイルレシーバと、を備え、
前記第2軸は、軸方向に形成されると共に、潤滑油を前記第1軸とは軸方向の反対側から前記オイルレシーバに導通させる軸内油路を有し、
前記オイルレシーバは、前記潤滑油を溜める油溜まり部と、前記油溜まり部から前記ベアリングに前記潤滑油を供給する供給油孔と、を有する、
車両用駆動装置。
【請求項2】
前記第1軸の外周においてスプライン係合するスプライン部が形成された円筒部を有する回転部材を備え、
前記円筒部は、前記ベアリングと軸方向に並んで配置され、
前記第1軸は、軸方向に形成される軸内油路を有し、
前記オイルレシーバは、前記第2軸の軸内油路と前記第1軸の軸内油路とを仕切る隔壁部と、前記円筒部に外周面が圧入される圧入部と、を有し、
前記供給油孔は、前記油溜まり部と、前記第1軸と軸方向に対向する前記オイルレシーバの側面とを軸方向に連通するように前記第1軸の軸内油路の内周面より径方向外側に設けられる、
請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記円筒部は、軸方向において前記スプライン部から前記ベアリングに向かって形成される先端部を有し、
前記ケースは、前記先端部の径方向外側に、前記ベアリングに当接して位置決め支持するように形成されるフランジ部を有し、
前記フランジ部は、内周面における軸方向の前記ベアリングとは反対側の端部に径方向内側に突出する突出部を有し、
前記先端部は、前記フランジ部の径方向内側かつ前記突出部よりも軸方向の前記ベアリングの側に、内径側と外径側とを連通するように形成された連通油路を有する、
請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記供給油孔は、第1供給油孔であり、
前記オイルレシーバは、前記油溜まり部から前記プラネタリギヤに潤滑油を供給する第2供給油孔を有する、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記油溜まり部は、内周側が周方向に異なる位置で開口した第1油溜まり部と第2油溜まり部とを含み、
前記第1供給油孔は、前記第1油溜まり部に連通し、
前記第2供給油孔は、前記第2油溜まり部に連通した、
請求項4に記載の車両用駆動装置。
【請求項6】
前記第1油溜まり部の内周側の開口面積は、前記第2油溜まり部の内周側の開口面積よりも小さい、
請求項5に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される車両用駆動装置にあって、例えばモータのロータが固定されたロータ軸を回転自在に支持するベアリング(第1軸受(B1))を、ロータ軸の内部に形成された油路から外周側に潤滑油を供給することで潤滑するものが開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、モータの回転をプラネタリギヤのリングギヤに入力し、サンギヤの回転をブレーキによりケースに対して固定してキャリヤから減速回転を出力する状態と、サンギヤとキャリヤとをクラッチにより一体に係合させて直結回転を出力状態と、を切換えることで2段変速するものが開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/061443号
【特許文献2】独国特許出願公開第102016212867号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1のようなロータ軸を回転自在に支持するベアリングに対して、構造的にロータ軸の内部の油路から潤滑油を供給できない或いは供給しない場合は、プラネタリギヤのサンギヤが固定される軸の内部の油路から潤滑油を供給する必要が生じる。しかしながら、上記特許文献2のようにサンギヤの回転を固定する状態があるものでは、サンギヤが固定された軸の回転が停止するため、その軸が停止している間は遠心力が生じず、ベアリングへの潤滑油の供給量を十分に確保することが困難となる虞がある。
【0006】
そこで、第1軸を回転自在に支持するベアリングに第2軸の軸内油路から潤滑油を供給するものであっても、ベアリングの潤滑油量を十分に確保することが可能な車両用駆動装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本車両用駆動装置は、
ケースと、
回転する第1軸と、
前記第1軸を前記ケースに対して回転自在に支持するベアリングと、
少なくとも前記ケースに対して回転が固定された状態となり、かつ前記第1軸と同軸上に並列に配置された第2軸と、
前記第2軸に設けられたサンギヤと、リングギヤと、前記サンギヤと前記リングギヤとの少なくとも一方に噛合するピニオンギヤを回転自在に支持するキャリヤと、を有するプラネタリギヤと、
軸方向において前記第1軸と前記第2軸との間に配置され、前記第1軸と一体的に回転するオイルレシーバと、を備え、
前記第2軸は、軸方向に形成されると共に、潤滑油を前記第1軸とは軸方向の反対側から前記オイルレシーバに導通させる軸内油路を有し、
前記オイルレシーバは、前記潤滑油を溜める油溜まり部と、前記油溜まり部から前記ベアリングに前記潤滑油を供給する供給油孔と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本車両用駆動装置によると、第1軸を回転自在に支持するベアリングに第2軸の軸内油路から潤滑油を供給するものであっても、オイルレシーバの油溜まりに軸内油路からの潤滑油を溜めてから、その潤滑油を供給油孔を介してベアリングに供給するので、ベアリングの潤滑油量を十分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施の形態に係る車両用駆動装置を示すスケルトン図。
【
図2】本実施の形態に係る車両用駆動装置の速度線図。
【
図3】本実施の形態に係る第1ボールベアリングとプラネタリギヤとオイルレシーバとが配置された部分を示す拡大断面図。
【
図4】(a)はオイルレシーバを透視して示す正面図、(b)はオイルレシーバをプラネタリギヤの側から視た状態の斜視図、(c)はオイルレシーバをモータの側から視た状態の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施の形態に係る車両用駆動装置を、図を用いて説明する。
【0011】
[車両用駆動装置の概略構成]
図1に示すように、本実施の形態に係る車両用駆動装置1は、例えば電気自動車としての車両100において前輪を駆動する電動駆動装置として用いられるものであり、大まかに、回転電機(モータジェネレータ)2(以下、単に「モータ2」という)と、変速機構10と、係合装置としてのシフト機構30と、カウンタシャフト部20と、ディファレンシャル装置40と、を備えて構成されている。この車両用駆動装置1は、モータ2の駆動回転を、変速機構10によって2段変速することが可能に構成され、ディファレンシャル装置40から左右の車軸60L,60Rを介して左右の前輪である車輪70L,70Rに出力するように構成されている。
【0012】
詳細には、モータ2は、ケース6に固定された固定子としてのステータ2Sと、回転子としてのロータ2Rとを有して構成されており、ロータ2Rは、第1軸としてのロータ軸3(モータ出力軸)に固定されている。ロータ軸3は、変速機構10の入力軸として機能するように連結部材8に駆動連結されており、連結部材8は、変速機構10のプラネタリギヤPRのリングギヤRに駆動連結されている。
【0013】
変速機構10は、大まかに、プラネタリギヤPRと、第2軸としての回転軸4と、ケース6に一体的に形成されたボス部5と、出力軸7と、第1ギヤ11と、第2ギヤ12と、第3ギヤ13と、カウンタギヤ14とを有して構成されている。プラネタリギヤPRは、回転軸4に対して固定されたサンギヤSと、上記連結部材8に駆動連結されたリングギヤRと、サンギヤSとリングギヤRとに噛合するピニオンギヤP1を回転自在に支持するキャリヤCRと、を有するシングルピニオンプラネタリギヤで構成されている。このうちのサンギヤSが固定された回転軸4には、サンギヤSとは軸方向の反対側において第1ギヤ11が一体的に固定されている。また、ボス部5には、第2ギヤ12が回転不能に固定されている。一方、出力部材としての出力軸7は、キャリヤCRに駆動連結されており、かつ第3ギヤ13とカウンタギヤ14とが固定されている。
【0014】
シフト機構30は、電動モータ31と、電動モータ31によって回転駆動されるボールねじ32と、ボールねじ32によって軸方向にスライド駆動されるシフトフォーク33と、シフトフォーク33によって軸方向の位置が切換えられるスリーブ34とを有して構成されている。スリーブ34は、1速段(1st)では、第1ギヤ11と第2ギヤ12とに跨って噛合する第1位置に切換えられ、2速段(2nd)では、第1ギヤ11と第3ギヤ13とに跨って噛合する第2位置に切換えられる。即ち、スリーブ34の第1位置では、回転が固定された第2ギヤ12と第1ギヤ11とが係合されて、回転軸4及びサンギヤSの回転がケース6に対して固定された状態となり、つまり回転軸4とサンギヤSとをケース6対して係合する第1係合状態となる。また、スリーブ34の第2位置では、第1ギヤ11と第3ギヤ13とが係合されて、サンギヤS及びキャリヤCRの回転が同回転となる直結状態となり、つまりサンギヤSとキャリヤCRとを係合する第2係合状態となる。
【0015】
図1及び
図2に示すように、上記第1係合状態では、サンギヤSの回転が固定され、リングギヤRにモータ2の回転が入力されると、キャリヤCRから第1変速比としての1速段の回転がカウンタギヤ14から出力される。また、上記第2係合状態では、サンギヤSとキャリヤCRとが同回転となり、プラネタリギヤPRが直結状態となるため、リングギヤRにモータの回転が入力されると、キャリヤCRから第1変速比よりも変速比が大きい(ギヤ比が小さい)第2変速比としての2速段の回転がカウンタギヤ14から出力される。
【0016】
カウンタギヤ14は、カウンタシャフト部20におけるカウンタ軸22に固定された大径ギヤ21に噛合されている。カウンタ軸22には軸方向の大径ギヤ21とは反対側に小径ギヤ23が固定されていて、小径ギヤ23はディファレンシャル装置40のデフリングギヤ41に噛合されている。従って、モータ2の回転が変速機構10のプラネタリギヤPRによって1速段又は2速段に変速されてカウンタシャフト部20を介してディファレンシャル装置40に入力され、ディファレンシャル装置40によって左右の車輪70L,70Rの差回転を吸収しつつ、車軸60L,60Rを介してそれら車輪70L,70Rにモータ2の駆動回転が出力される。
【0017】
[車両用駆動装置の一部の詳細構造]
続いて、車両用駆動装置1における第1ボールベアリングとプラネタリギヤPRとオイルレシーバ50とが配置されている部分の詳細構造について
図3を用いて説明する。
【0018】
図3に示すように、ロータ軸3の外周側には、第1ボールベアリングB1がケース6との間に配置されている。第1ボールベアリングB1は、インナーレースB1aと、アウターレースB1bと、それらの間に配置されたボールB1cとを有しており、アウターレースB1bは、ケース6にフランジ状に形成されたフランジ部6Fに当接され、ケース6に対してスナップリングSN1によって軸方向に位置決め支持されて固定されている。また、インナーレースB1aは、ロータ軸3の外周面に嵌合されると共に段差部3aに突き当てられており、連結部材8の先端部8Aaが当接することで、ロータ軸3に対して位置決めされていて、つまりロータ軸3は、ケース6に対して第1ボールベアリングB1によって回転自在にかつ軸方向に位置決めされて支持されている。なお、フランジ部6Fの内周面6aには、軸方向の第1ボールベアリングB1とは反対側の端部に径方向内側に突出する突出部6bが形成されている。
【0019】
第1軸としてのロータ軸3は、中空形状に形成されており、その中空部分が第1軸の軸内油路(以下、「第1軸内油路」という)3bとして形成されている。なお、この第1軸内油路3bに供給される油は冷却油として、径方向に形成された径方向孔3c等から基本的に全てモータ2に向けて供給される。
【0020】
ロータ軸3の端部の外周側には、スプライン部3sが形成されており、スプライン部3sは、連結部材8の円筒状に形成された円筒部8Aにおける内周側に形成されたスプライン部8sにスプライン係合されて、つまりロータ軸3と連結部材8とが回転方向に駆動連結されている。連結部材8は、円筒部8Aと一体的に形成されて連結された連結部8Bを有しており、連結部8Bの内周側には、スプライン部8sよりも大径の内周面8Baを有している。この内周面8Baには、後述のオイルレシーバ50が嵌合され、つまりオイルレシーバ50と連結部材8とは一体回転するように構成されている。また、連結部8Bの外周側はリングギヤRにスプライン係合され、かつスナップリングSN2によって軸方向に位置決めされて、つまり連結部材8は、リングギヤRと一体的に駆動連結されていると共に、リングギヤRをロータ軸3に対して位置決め支持している。従って、ロータ軸3、連結部材8、オイルレシーバ50、及びリングギヤRは一体的に回転し、モータ2のロータ2Rの回転と同回転となる。
【0021】
一方、第2軸としての回転軸4は、中空形状に形成されており、その中空部分が第2軸の軸内油路(以下、「第2軸内油路」という)4bとして形成されている。回転軸4は、上記ロータ軸3と同軸上に並列に配置されており、軸方向におけるロータ軸3の側の端部における外周側にサンギヤSが形成されて固定されており、換言すると、サンギヤSは回転軸4に対して固定されている。回転軸4は、図示を省略したベアリングやボールベアリングB2を介して後述の出力軸7を介して、ケース6に対して回転自在に支持されている。また、回転軸4と後述のオイルレシーバ50との間にはスラストベアリングB3が配置されており、回転軸4とオイルレシーバ50とが軸方向に位置決めされつつ相対回転自在となるように構成されている。
【0022】
回転軸4の外周側には、キャリヤCRが配置されている。キャリヤCRは、軸方向の連結部材8の側の側板CRaと、出力軸7の側の側板CRbと、それらに架け渡されたピニオンシャフトPSとによってキャリヤ枠体を構成しており、ピニオンシャフトPSにローラベアリングB5,B6を介してピニオンギヤP1が回転自在に支持されている。上述したようにピニオンギヤP1は、サンギヤSとリングギヤRとの両方に噛合している。また、上記側板CRbは、回転軸4(サンギヤS)との間に配置されたスラストベアリングB4によって回転軸4に軸方向に位置決めされつつ回転自在に支持されている。また、側板CRbは、回転軸4の外周側を通ってカウンタギヤ14及び第3ギヤ13(
図1参照)が形成された出力軸7にスプライン係合して駆動連結されている。これにより、第3ギヤ13及びカウンタギヤ14(出力軸7)とキャリヤCRとが一体的に回転するように構成されている。
【0023】
[オイルレシーバの構成]
次に、オイルレシーバ50の構成について説明する。
図3、
図4(a)、
図4(b)及び
図4(c)に示すように、オイルレシーバ50は、壁状に形成された隔壁部51と、円環状に形成された円環部52とを有して構成されており、円環部52の外周部分は、その外周面52aが上述のように連結部材8の連結部8Bの内周面8Baに圧入されて嵌合される圧入部52Aとして形成されている。また、円環部52には、隔壁部51よりも軸方向において連結部材の円筒部8Aの側に突出する突出部52bが形成されており、突出部52bが連結部材8の円筒部8Aに当接するように配置されている。
【0024】
円環部52における、隔壁部51に対して突出部52bとは軸方向の反対側にある内周面52cには、外周に向かって凹状に形成された2種類の油溜まり部、つまり第2軸内油路4bの外径よりも外周側に拡径された2種類の油溜まり部として、周方向に異なる位置で開口した第1油溜まり部56及び第2油溜まり部55が形成されている。第1油溜まり部56の内周面52cにおける第1開口部56aの開口面積は、第2油溜まり部55の内周面52cにおける第2開口部55aの開口面積よりも小さく形成されている。また、第1油溜まり部56からは、隔壁部51を軸方向に貫通するように形成され、つまりオイルレシーバ50の側面でもある隔壁部51の側面51aに向けて形成された第1供給油孔58が連通するように形成されており、一方、第2油溜まり部55からは、円環部52を径方向に貫通形成した第2供給油孔57が連通するように形成されている。本実施の形態においては、第1供給油孔58が2箇所、第2供給油孔57が4箇所形成され、かつ第1供給油孔58の径が第2供給油孔57の径よりも小径に形成されており、それらの総断面積として複数の第1供給油孔58の方が複数の第2供給油孔57よりも小さくなるように構成されている。
【0025】
[潤滑油の供給について]
ついで、本実施の形態に係る車両用駆動装置1における潤滑油の供給について説明する。なお、本実施の形態における車両用駆動装置1においては、ロータ軸3に形成された第1軸内油路3bからはモータ2を冷却するための冷却油を供給し、回転軸4に形成された第2軸内油路4bからは各ベアリングや変速機構10の各ギヤ等を潤滑するための潤滑油を供給するように構成されており、換言すると、モータ2の冷却油の流量を確保するため、第1軸内油路3bからの冷却油は基本的に全てモータ2に流して、他の部位に流さないように構成している。また、本実施の形態に係る車両用駆動装置1は、上述のように1速段と2速段との2段変速が可能であるが、例えば時速200キロ程度で1速段から2速段に切換えられるものであり、車両100が通常走行する間は殆どが1速段の状態であって、上述のように1速段では回転軸4(サンギヤS)はケースに対して回転が固定されて回転しない回転停止状態である。
【0026】
不図示のオイルポンプでオイルパンから吸引されて吐出された潤滑油は、ケース6の油路(不図示)を通って、
図3に示す回転軸4の第2軸内油路4bに、第1ギヤ11(
図1参照)の側からロータ軸3の側に向かって流れるように供給される。第2軸内油路4bに供給された潤滑油は、その一部が、回転軸4の径方向に形成された径方向油孔4cや不図示の径方向油孔から変速機構10の各ギヤやベアリング等に向けて供給される。径方向油孔4cから供給された潤滑油は、スラストベアリングB4や出力軸7の内周側に供給される。そのうち、スラストベアリングB4を通った潤滑油は、サンギヤS、ピニオンギヤP1、リングギヤRの歯面等を潤滑して外周側に流下し、不図示のオイルパンに戻される。
【0027】
第2軸内油路4bに供給された潤滑油のうち、径方向油孔4c等から供給されなかった潤滑油は、オイルレシーバ50まで到達し、上記第1油溜まり部56及び第2油溜まり部55に溜められる(
図4(a)、
図4(b)、
図4(c)参照)。オイルレシーバ50は、上述したようにロータ軸3と一体的に回転するため、回転軸4の回転が停止していても、モータ2が駆動回転することで回転されるので、第1油溜まり部56及び第2油溜まり部55に溜まった潤滑油には、遠心油圧が発生する。従って、第1油溜まり部56の潤滑油は第1供給油孔58から遠心油圧によって、回転が停止している状態よりも多くの潤滑油が供給され、同様に、第2油溜まり部55の潤滑油も第2供給油孔57から遠心油圧によって、回転が停止している状態よりも多くの潤滑油が供給される。
【0028】
第1供給油孔58から供給された潤滑油は、オイルレシーバ50の圧入部52Aが連結部材8の円筒部8Aに圧入されているため、外周側に流れることなく、ロータ軸3のスプライン部3sと連結部材8のスプライン部8sとの間の油路a1を通って、連結部材8の先端部8Aaの内周側の油路a2に導かれ、さらに、先端部8Aaに形成されて内径側と外径側とを連通する連通油路a3を通って、ケース6のフランジ部6Fの内周面6aに導かれる。そして、この内周面6aに導かれた潤滑油は、突出部6bによって軸方向の反対側への流れが堰き止められつつ内周面6aに受け止められると共に、第1ボールベアリングB1のインナーレースB1aとアウターレースB1bとの間に導かれ、ボールB1cの表面を潤滑する。従って、回転軸4の回転が停止されていたとしても、オイルレシーバ50の第1油溜まり部56に遠心油圧が作用することで、第1ボールベアリングB1に必要な流量の潤滑油を供給することができる。
【0029】
第2供給油孔57から供給された潤滑油は、キャリヤCRの側板CRaの内周側に向かって供給される。側板CRaの内周側に供給された潤滑油は、側板CRaにおいて径方向に形成された油路b1,b2に導入され、さらにピニオンシャフトPSにおいて軸方向に形成された油路b3及び径方向に形成された油路b4を通って、ローラベアリングB5,B6に供給され、それらローラベアリングB5,B6を潤滑する。従って、回転軸4の回転が停止されていたとしても、オイルレシーバ50の第2油溜まり部55に遠心油圧が作用することで、プラネタリギヤPRのローラベアリングB5,B6に必要な流量の潤滑油を供給することができる。
【0030】
以上説明したように、ロータ軸3と一体的に回転するオイルレシーバ50に油溜まり部として第1油溜まり部56及び第2油溜まり部55を形成し、第1油溜まり部56からは第1供給油孔58を介して第1ボールベアリングB1に向けて潤滑油を供給し、第2油溜まり部55からは第2供給油孔57を介してプラネタリギヤPRに向けて潤滑油を供給する。これにより、回転軸4の回転が停止されていたとしても、第1ボールベアリングB1とプラネタリギヤPRとに十分な流量の潤滑油を供給することができる。
【0031】
また、オイルレシーバ50には、隔壁部51が形成されているので、ロータ軸3の第1軸内油路3bに供給された潤滑油が、回転軸4の第2軸内油路4bに流れることが防止され、モータ2の潤滑油(冷却油)の流量を確保することができる。さらに、オイルレシーバ50には、圧入部52Aが形成されて連結部材8に圧入されているので、第1供給油孔58から供給された潤滑油を全て第1ボールベアリングB1に向けて供給することができる。
【0032】
また、オイルレシーバ50の第1油溜まり部56の第1開口部56aと第2油溜まり部55の第2開口部55aとが周方向の異なる位置で開口しており、つまり第1油溜まり部56と第2油溜まり部55とが周方向に隔離されているので、第2軸内油路4bから導かれる潤滑油の油量を、第1開口部56aと第2開口部55aとの大きさに応じて分配することができる。特に第1開口部56aの開口面積が第2開口部55aの開口面積よりも小さく形成されていることで、第1ボールベアリングB1に供給する潤滑油の流量よりもプラネタリギヤPRに供給する潤滑油の流量を多くすることができ、適切な潤滑油の流量の分配を可能とすることができる。
【0033】
[本実施の形態のまとめ]
以上説明した本車両用駆動装置(1)は、
ケース(6)と、
回転する第1軸(3)と、
前記第1軸(3)を前記ケース(6)に対して回転自在に支持するベアリング(B1)と、
少なくとも前記ケース(6)に対して回転が固定された状態となり、かつ前記第1軸(3)と同軸上に並列に配置された第2軸(4)と、
前記第2軸(4)に設けられたサンギヤ(S)と、リングギヤ(R)と、前記サンギヤ(S)と前記リングギヤ(R)との少なくとも一方に噛合するピニオンギヤ(P1)を回転自在に支持するキャリヤ(CR)と、を有するプラネタリギヤ(PR)と、
軸方向において前記第1軸(3)と前記第2軸(4)との間に配置され、前記第1軸(3)と一体的に回転するオイルレシーバ(50)と、を備え、
前記第2軸(4)は、軸方向に形成されると共に、潤滑油を前記第1軸(3)とは軸方向の反対側から前記オイルレシーバ(50)に導通させる軸内油路(4b)を有し、
前記オイルレシーバ(50)は、前記潤滑油を溜める油溜まり部(55,56)と、前記油溜まり部(55,56)から前記ベアリング(B1)に前記潤滑油を供給する供給油孔(58)と、を有する。
【0034】
これにより、ロータ軸3と一体的に回転するオイルレシーバ50に第1油溜まり部56を形成し、第1油溜まり部56から第1供給油孔58を介して第1ボールベアリングB1に向けて潤滑油を供給するので、回転軸4の回転が停止されていたとしても、第1ボールベアリングB1に十分な流量の潤滑油を供給することができる。
【0035】
また、本車両用駆動装置(1)は、
前記第1軸(3)の外周においてスプライン係合するスプライン部(8s)が形成された円筒部(8A)を有する回転部材(8)を備え、
前記円筒部(8A)は、前記ベアリング(B1)と軸方向に並んで配置され、
前記第1軸(3)は、軸方向に形成される軸内油路(3b)を有し、
前記オイルレシーバ(50)は、前記第2軸の軸内油路(4b)と前記第1軸の軸内油路(3b)とを仕切る隔壁部(51)と、前記円筒部(8A)に外周面(52a)が圧入される圧入部(52A)と、を有し、
前記供給油孔(58)は、前記油溜まり部(56)と、前記第1軸(3)と軸方向に対向する前記オイルレシーバ(50)の側面(51a)とを軸方向に連通するように前記第1軸の軸内油路(3b)の内周面(3d)より径方向外側に設けられる。
【0036】
これにより、オイルレシーバ50には、隔壁部51が形成されているので、ロータ軸3の第1軸内油路3bに供給された潤滑油が、回転軸4の第2軸内油路4bに流れることが防止され、モータ2の潤滑油(冷却油)の流量を確保することができる。さらに、オイルレシーバ50には、圧入部52Aが形成されて連結部材8に圧入されており、第1供給油孔58が第1軸3の軸内油路3bの内周面3dより径方向外側に設けられているので、第1供給油孔58から供給された潤滑油を全て第1ボールベアリングB1に向けて供給することができる。
【0037】
また、本車両用駆動装置(1)は、
前記円筒部(8A)は、軸方向において前記スプライン部(8s)から前記ベアリング(B1)に向かって形成される先端部(8Aa)を有し、
前記ケース(6)は、前記先端部(8Aa)の径方向外側に、前記ベアリング(B1)に当接して位置決め支持するように形成されるフランジ部(6F)を有し、
前記フランジ部(6F)は、内周面(6a)における軸方向の前記ベアリング(B1)とは反対側の端部に径方向内側に突出する突出部(6b)を有し、
前記先端部(8Aa)は、前記フランジ部(6F)の径方向内側かつ前記突出部(6b)よりも軸方向の前記ベアリング(B1)の側に、内径側と外径側とを連通するように形成された連通油路(a3)を有する。
【0038】
これにより、第1供給油孔58から円筒部8Aの内径側に供給され、先端部8Aaの連通油路a3から円筒部8Aの外径側に供給された潤滑油が、フランジ部6Fの突出部6bによって堰き止められつつ内周面6aに受け止められて第1ボールベアリングB1に導かれるようにすることができる。
【0039】
また、本車両用駆動装置(1)は、
前記供給油孔は、第1供給油孔(58)であり、
前記オイルレシーバ(50)は、前記油溜まり部(55)から前記プラネタリギヤ(PR)に潤滑油を供給する第2供給油孔(57)を有する。
【0040】
これにより、第2油溜まり部55から第2供給油孔57を介してプラネタリギヤPRに向けて潤滑油を供給するので、回転軸4の回転が停止されていたとしても、プラネタリギヤPRに十分な流量の潤滑油を供給することができる。
【0041】
また、本車両用駆動装置(1)は、
前記油溜まり部は、内周側が周方向に異なる位置で開口した第1油溜まり部(56)と第2油溜まり部(55)とを含み、
前記第1供給油孔(58)は、前記第1油溜まり部(56)に連通し、
前記第2供給油孔(57)は、前記第2油溜まり部(55)に連通した。
【0042】
これにより、第1油溜まり部56と第2油溜まり部55とが周方向に隔離されているので、第2軸内油路4bから導かれる潤滑油の油量を、第1開口部56aと第2開口部55aとの大きさに応じて分配することができる。
【0043】
また、本車両用駆動装置(1)は、
前記第1油溜まり部(56)の内周側の開口面積は、前記第2油溜まり部(55)の内周側の開口面積よりも小さい。
【0044】
これにより、第1ボールベアリングB1に供給する潤滑油の流量よりもプラネタリギヤPRに供給する潤滑油の流量を多くすることができ、適切な潤滑油の流量の分配を可能とすることができる。
【0045】
[他の実施の形態の可能性]
なお、以上説明した本実施の形態においては、オイルレシーバ50に第1油溜まり部56と第2油溜まり部55とを別々に設けたものを説明したが、油溜まり部は環状の凹状に形成された1つの溝であってもよく、この場合は、1つの油溜まり部に第1供給油孔58と第2供給油孔57とが連通するように貫通形成されていて、それらの径の断面積によって流量を分配するようにしてもよい。
【0046】
また、本実施の形態においては、プラネタリギヤPRがシングルピニオンプラネタリギヤで構成されたものを説明したが、これに限らず、ダブルピニオンプラネタリギヤ、ステップピニオンプラネタリギヤ、ラビニヨ型プラネタリギヤ、シンプソン型プラネタリギヤ等、どのようなプラネタリギヤであっても構わない。また特に、プラネタリギヤPRの他にプラネタリギヤを連結して、複数の変速段を形成できるものであっても構わない。
【0047】
また、本実施の形態においては、モータ2が駆動源として用いられたものを説明したが、エンジンを駆動源として用いてもよく、例えば第1軸にエンジンの駆動力を入力するものや、エンジンとモータとの駆動力を合わせて入力するものであっても構わない。即ち、本実施の形態では車両用駆動装置がEV用駆動装置であったが、自動変速機であってもハイブリッド駆動装置であっても構わない。
【符号の説明】
【0048】
1…車両用駆動装置
3…第1軸(ロータ軸)
3b…第1軸の軸内油路(第1軸内油路)
3d…内周面
4…第2軸(回転軸)
4b…第2軸の軸内油路(第2軸内油路)
6…ケース
6F…フランジ部
6a…内周面
6b…突出部
7…出力部材(出力軸)
8…回転部材(連結部材)
8A…円筒部
8Aa…先端部
8s…スプライン部
30…係合装置(シフト機構)
50…オイルレシーバ
51…隔壁部
51a…側面
52A…圧入部
52a…外周面
55…油溜まり部、第2油溜まり部
56…油溜まり部、第1油溜まり部
57…第2供給油孔
58…供給油孔、第1供給油孔
a3…連通油路
B1…ベアリング(第1ボールベアリング)
PR…プラネタリギヤ
S…サンギヤ
CR…キャリヤ
P1…ピニオンギヤ
R…リングギヤ