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特開2022-46088生分解性積層シート、及びこれを含む飲食物用容器類
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022046088
(43)【公開日】2022-03-23
(54)【発明の名称】生分解性積層シート、及びこれを含む飲食物用容器類
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/12 20060101AFI20220315BHJP
   D21H 11/12 20060101ALI20220315BHJP
   D21H 15/02 20060101ALI20220315BHJP
   D21H 27/30 20060101ALI20220315BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20220315BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20220315BHJP
   B65D 65/46 20060101ALI20220315BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20220315BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20220315BHJP
【FI】
B32B27/12
D21H11/12
D21H15/02
D21H27/30 C
B32B27/36
C08L67/00
B65D65/46
B65D65/40 D
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020151954
(22)【出願日】2020-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】593050334
【氏名又は名称】矢野 浩之
(71)【出願人】
【識別番号】520351211
【氏名又は名称】小野 和子
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】小野 和子
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4J002
4J200
4L055
【Fターム(参考)】
3E086AA23
3E086AB01
3E086AD01
3E086AD04
3E086AD05
3E086AD06
3E086AD23
3E086BA14
3E086BA15
3E086BA29
3E086BA35
3E086BB21
3E086BB41
3E086BB68
3E086BB71
3E086BB75
3E086BB85
3E086BB87
3E086CA01
3E086CA11
4F100AJ04B
4F100AK01A
4F100AK01C
4F100AK41A
4F100AK41C
4F100BA03
4F100DG10B
4F100EJ17
4F100EJ42
4F100GB23
4F100JA03
4F100JC00
4F100JC00A
4F100JC00C
4F100JK02
4F100JK07
4F100JL02
4F100JN01
4F100YY00
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
4J002AB012
4J002AH002
4J002CF031
4J002CF181
4J002CF191
4J002FA042
4J002GF00
4J002GG00
4J002GG01
4J200AA06
4J200AA28
4J200BA07
4J200BA10
4J200BA12
4J200BA14
4J200BA38
4J200CA02
4J200DA17
4J200DA18
4J200EA05
4J200EA07
4L055AA05
4L055AF10
4L055AG82
4L055AJ02
4L055EA16
4L055FA18
4L055FA22
4L055GA05
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的の一つは、加温された飲食物の温度による変形が抑制された生分解性積層シートの提供である。また、本発明の目的の一つは、透明又は半透明の生分解性積層シートの提供である。さらにまた、本発明の目的の一つは、生産性に優れた生分解性積層シートの提供である。本発明の目的の一つは、これらの生分解性積層シートを含む飲食物用容器類の提供である。
【解決手段】
第1層、第2層、及び第3層を少なくとも含む生分解性積層シート(C)であって、第1層及び第3層は生分解性樹脂(A)製であり、第2層は第1層と第3層の間に位置し、草本柔組織由来繊維類(B)製である、生分解性積層シート(C)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1層、第2層、及び第3層を少なくとも含む生分解性積層シート(C)であって、第1層及び第3層は生分解性樹脂(A)製であり、第2層は第1層と第3層の間に位置し、草本柔組織由来繊維類(B)製である、生分解性積層シート(C)。
【請求項2】
前記草本柔組織由来繊維類(B)が、草本柔組織由来繊維(B1)及びアセチル基で化学修飾された草本柔組織由来繊維(B2)から選ばれる少なくとも一種の繊維である請求項1に記載の生分解性積層シート(C)。
【請求項3】
前記草本柔組織由来繊維類(B)が、シュガービート柔組織由来繊維及びアセチル基で修飾されたシュガービート柔組織由来繊維から選ばれる少なくとも一種の繊維である請求項1に記載の生分解性積層シート(C)。
【請求項4】
前記草本柔組織由来繊維類(B)の繊維径が20nm~200μmの範囲内にある、請求項1~3のいずれかに記載の生分解性積層シート(C)。
【請求項5】
前記生分解性樹脂(A)が、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシブチレート、(PHBT)、ポリヒドロキシヘキサノエート(PHAT)、ポリヒドロキシブチレートとポリヒドロキシヘキサノエートとの共重合体(PHBH)及びポリブチレンサクシネート(PBS)からなる群から選ばれる少なくとも一種の樹脂である請求項1~4のいずれかの請求項に記載の生分解性積層シート(C)。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の生分解性積層シートを含む、飲食物用容器類(D)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも3層で構成される生分解性積層シート、及びこれを含む飲食物用容器類に関する。さらに詳しくは、草本柔組織由来の繊維製の層と生分解性樹脂製の層を含む透明または半透明の生分解性積層シート、これを含む飲食物用容器類等に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは大量生産が可能であり種々の生活用品に加工しやすいことから、生活に必要な素材として大きな位置を占めているが、現在使用されているプラスチックはほとんど非生分解性であるため、これが山野、海洋、河川などの自然界に放置又は流出されて環境汚染を引き起す原因となっている。
【0003】
特に、海洋に流出したプラスチックはマイクロプラスチックとなって地球全体の海洋に漂流及び蓄積し、食物連鎖によってこれを摂取した魚類ばかりでなく、各種の動物および人類の健康又は生命を脅かしてグローバルな生態系を破壊する恐れがある。
【0004】
このようなことから、飲食物用容器についても、汎用の非生分解性のプラスチックに替えて生分解性プラスチックの使用が推奨されるが、生分解性プラスチックのみからなる容器は、加温された飲食物に使用した場合に熱収縮又は膨張によって変形が起こりやすいという問題がある。
【0005】
一方、紙などの植物性繊維だけで製造した不透明な部材及び容器では、容器外から目視で内容物が確認識別し難いという問題があり、また、液漏れの懸念もある。
【0006】
さて、植物繊維の中でも大量生産される草本、例えば農産物の柔組織由来の繊維(例えば、シュガービートのしぼりカス由来の繊維)は、調達が容易であること及び飲食物に対する安全性が保証できることから、飲食物用容器の素材として利用する価値がある原料である。
【0007】
以下、本明細書では、シュガービートを、サトウダイコン又は甜菜あるいは単に大根と称することもある。
【0008】
農産物の柔組織由来の繊維を利用する先行技術として以下のものが開示されている。
【0009】
特許文献1には、サトウダイコン由来の繊維からなる紙が開示されており、印刷用紙、包装用紙、電気キャパシタ、電池などのセパレータ等電気機器への用途が開示され、その繊維はフィブリル化されていることが好ましいと記載されている。
【0010】
特許文献2には、ポリ乳酸樹脂、植物繊維および粉末セルロースを含む溶融混練組成物が開示されており、植物繊維の1つとして大根搾りかす由来の乾燥パルプが例示されている。この組成物は各種の電化製品用部品、自動車用部品、フィルム、シート、中空成形品などに成形されると開示されているが、これらの透明性についての記載はなく、また飲食物用容器類への適用についての開示はない。
【0011】
特許文献3には、微細セルロース繊維を含むスラリーを基板上に塗工して製造した微細セルロース繊維シートとそれに樹脂を含浸又は張り合わせて複合させた繊維強化樹脂材料が開示されている。これには微細セルロース繊維の原料として木材、動物、植物、微生物由来の各種繊維が開示され、サトウダイコン由来の繊維の利用も開示されている。そしてこれら原料から得た微細セルロース繊維シートに複合する樹脂として多種多様な熱可塑性及び熱硬化性樹脂が列挙されているが、この特許文献には生分解性樹脂を複合したシートの開示はない。
【0012】
特許文献4には、サトウダイコンやサトウキビなどの柔細胞由来の繊維(好ましくはフィブリル化繊維)と合成繊維とを含有する不織布が開示されている。そして、種々開示された合成繊維の中に、生分解性樹脂の一種であるポリ乳酸の繊維が記載されているが、ここに開示された不織布は吸油性及び吸脂性を有し電気機器のセパレータ等に使用されるものである。
【0013】
特許文献5には、サトウダイコンやサトウキビなどの柔細胞由来の繊維(好ましくはフィブリル化繊維)と叩解した木材パルプとの混合物から作製した透明紙が開示されている。この場合、柔細胞由来の繊維はフィブリル化していないと木材パルプ間の空隙を充填できないために木材パルプシートは透明紙にならない。この特許文献によると、繊維シートに樹脂、油脂、合成透明化剤等を付与することによって透明紙を製造する既知方法では、製品安全性に関する問題や製造装置が汚染されるなどの製造上の問題があったという。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006-37330号公報
【特許文献2】特開2007-138106号公報
【特許文献3】特開2007-23218号公報
【特許文献4】特開2006-45758号公報
【特許文献5】特開2008-751199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的の一つは、加温された飲食物の温度による変形が抑制された生分解性積層シートの提供である。また、本発明の目的の一つは、透明又は半透明の生分解性積層シートの提供である。さらにまた、本発明の目的の一つは、生産性に優れた生分解性積層シートの提供である。本発明の目的の一つは、これらの生分解性積層シートを含む飲食物用容器類の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために本発明者等は種々研究した結果、草本柔組織由来繊維類(例えば、シュガービート柔細胞由来繊維)からなるシートが、繊維をナノサイズ(例えばすべての繊維をその繊維径が1000nm以下)にまで解繊せずとも透明性を有するので生産性に優れること、並びに当該シートを生分解性樹脂でラミネート加工して積層シートを調製すると、得られた積層シートが、飲食物用容器類として十分な特性(耐熱特性、強度特性及び透明性)を有することを見出し、この知見を基に本発明を完成させた。
【0017】
本発明は、代表的には、下記の各項に記載の生分解性積層シート、及びこれを含む飲食物用容器類を包含する。
項1.
第1層、第2層、及び第3層を少なくとも含む生分解性積層シート(C)であって、第1層及び第3層は生分解性樹脂(A)製であり、第2層は第1層と第3層の間に位置し、草本柔組織由来繊維類(B)製である、生分解性積層シート(C)。
項2.
前記草本柔組織由来繊維類(B)が、草本柔組織由来繊維(B1)及びアセチル基で化学修飾された草本柔組織由来繊維(B2)から選ばれる少なくとも一種の繊維である項1に記載の生分解性積層シート(C)。
項3.
前記草本柔組織由来繊維類(B)が、シュガービート柔組織由来繊維及びアセチル基で修飾されたシュガービート柔組織由来繊維から選ばれる少なくとも一種の繊維である項1に記載の生分解性積層シート(C)。
項4.
前記草本柔組織由来繊維類(B)の繊維径が20nm~200μmの範囲内にある、項1~3のいずれかに記載の生分解性積層シート(C)。
項5.
前記生分解性樹脂(A)が、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシブチレート、(PHBT)、ポリヒドロキシヘキサノエート(PHAT)、ポリヒドロキシブチレートとポリヒドロキシヘキサノエートとの共重合体(PHBH)及びポリブチレンサクシネート(PBS)からなる群から選ばれる少なくとも一種の樹脂である項1~4のいずれかの項に記載の生分解性積層シート(C)。
項6.
項1~5のいずれかに記載の生分解性積層シートを含む、飲食物用容器類(D)。
【発明の効果】
【0018】
本発明の生分解性積層シート(以下、「本発明シート」ということもある)は、当該シートから作製した容器内に収納された飲食物が容器外から識別できる程度の透明又は半透明性を有している。
【0019】
したがって、本発明シートを使用して製造した飲食物用容器類(以下、「本発明容器類」ということもある)のうち、飲食物用容器(以下、「本発明容器」ということもある)は、本発明容器のふたを開けなくともその容器内の内容物とその量を一瞥して認識することが可能である。
【0020】
本発明容器内の飲食物の内容確認、あるいは残量確認のたびごとに容器を開閉する必要がないことから、開閉による雑菌の混入がないので、安全に飲食物の貯蔵、陳列又は小分けに使用することが出来る。
【0021】
本発明シートは耐熱性が高い(熱収縮が小さい、また、熱により分解し難い)ことから、本発明容器類は、加温された飲食物を入れても変形し難く、また、飲食物を収納した状態で電子レンジ及び湯煎などの加温方法で加温することも可能である。
【0022】
本発明シートは、原材料(すなわち草本柔組織由来繊維類)、の全ての繊維をナノオーダーまで解繊処理しなくとも、その透明又は半透明性を備えることが可能である。またすべての繊維をナノオーダーまで解繊しなくてよいことから、本発明シートの原材料はろ過などの脱水操作により容易に脱水出来るという利点がある。従って、本発明シート及びこれを使用して作製した本発明容器類は、ナノオーダーまで解繊された植物繊維ナノファイバー製のシート及びこれから作製された容器類と比較して、効率的にかつ低コストで製造することができる。
【0023】
本発明シート及びそれからなる本発明容器類は、植物繊維含有率が高く、また生分解性プラスチックが植物繊維で補強された構成をとるため、そのLCCO(ライフサイクルCO排出量)は低く、環境保全に有用である。
【0024】
また、本発明シート及びそれからなる本発明容器類は、すべて、生分解性の材料から作製することが可能であることから、たとえ、自然界に放置されたとしても生分解され、生態系を乱す恐れがない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】シュガービートを脱リグニン及び脱ペクチンして得られたSBP(シュガービートパルプ)懸濁液の光学顕微鏡写真である。
図2】本発明シートの第2層として利用可能なシュガービートパルプ製シート表面の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
図3】3aは本発明シートの第2層として利用可能なシュガービートパルプ製シートの写真である。3bは本発明シート(実施例1のシート)の写真である。なお、3a及び3bの写真にて見られる白色繊維状物は概ねシュガービートの維管束(道管)部分である。3cは本発明シート(実施例1のシート)断面のデジタル顕微鏡写真である。
図4】4aは本発明シートの第2層として利用可能なハクサイパルプ製シートの写真である。4bは本発明シート(実施例2のシート)の写真である。
図5】5aは本発明シートの第2層として利用可能なニンジンパルプ製シートの写真である。5bは本発明シート(実施例3のシート)の写真である。
図6】本発明シート(左側;実施例)の耐熱性がポリ乳酸シート(右側;比較例)の耐熱性よりも優れることを示す写真である。左側は、90℃の熱湯に10秒間浸漬された実施例1のシートの写真である。右側は、同様に浸漬された比較例のポリ乳酸シートの写真である。
図7】シートの動的粘弾性測定(DMA)の結果を示す図である。図中、PLA neatは比較例シートを示し、SB/PLAは実施例のシートを示す。
図8】本発明シートの引張り強度特性を測定した結果を示す図である。図中、PLA neatは比較例シートを示し、SB/PLAは実施例のシートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
1.用語の説明
本明細書で使用される用語「飲食物用容器類」は、例えば、飲料、固形食品、液体調味料、固体調味料などの飲食物を入れるための、瓶、カップ、タッパ、弁当箱等の容器、容器に使用される蓋、キャップ、ラベル、栓等の部品、ファスナー付きの飲食物保存袋、及び料理の具材を入れて揉み又は振って混ぜることのできる調理用の袋を包含し、その形状は特に制限されない。
【0027】
2.生分解性積層シート(C)
本発明シート(C)は、第1層、第2層、及び第3層を少なくとも含み、第1層及び第3層は、生分解性樹脂(A)製であり、第2層は第1層と第3層の間に位置し、草本柔組織由来繊維類(B)製である。
【0028】
本発明シート(C)は、例えば、第1~3層のみからなる積層シートの場合、2枚の生分解性樹脂(A)のシートで草本柔組織由来繊維類(B)のシートを挟み、加熱(生分解性樹脂(A)の軟化点~融点付近の温度、例えば、生分解性樹脂(A)が、ポリ乳酸の場合は150~180℃)下にプレス(例えば、圧力0.05MPa~0.2MPa)することにより、製造することができる。
【0029】
本発明シート(C)の平均厚さは、目的に応じて、例えば0.04mm~2mm(40μm~2000μm)、好ましくは0.05mm~1mm(50μm~1000μm)、更に好ましくは、0.1mm~0.7mm(100μm~700μm)とすることができる。
【0030】
生分解性樹脂(A)層(第1層又は第3層)の平均厚さは、例えば0.005mm~1mm(5μm~1000μm)、好ましくは0.01mm~0.5mm(10μm~500μm)、より好ましくは0.02mm~0.2mm(20μm~200μm)とできる。
【0031】
草本柔組織由来繊維類(B)層の平均厚さは、例えば0.005mm~0.1mm(5μm~100μm)、好ましくは0.01mm~0.08mm(10μm~80μm)、より好ましくは0.02mm~0.07mm(20μm~70μm)とできる。
【0032】
なお、本発明シート(C)における、生分解性樹脂(A)層の厚さは、本発明シート(C)の作製に用いた生分解性樹脂(A)フィルムの厚さよりも概して小さくなる。また、本発明シート(C)における、草本柔組織由来繊維類(B)層の厚さも、本発明シート(C)の作製に用いた草本柔組織由来繊維類(B)シートの厚さよりも概して小さくなる。本発明シート作成時の加熱・加圧により、生分解性樹脂(A)フィルム及び草本柔組織由来繊維類(B)シートは圧縮されるからである。また、生分解性樹脂(A)フィルムは、草本柔組織由来繊維類(B)シートの表面に溶融圧着するからである。
【0033】
生分解性樹脂(A)層の厚さに対する草本柔組織由来繊維類(B)層の厚さの比[(生分解性樹脂(A)層の厚さ)/(草本柔組織由来繊維類(B)層の厚さ)]は、例えば0.05~3、好ましくは0.3~2、更に好ましくは0.2~1とすることができる。
【0034】
生分解性樹脂(A)を含有する第1層と第3層の厚みは同程度とすることができるが、必ずしも同一の厚さにする必要はなく、本発明シートの使用目的等に応じて適宜選択すればよい。
【0035】
また、本発明シート(C)は、第1層と第2層の間、及び/又は、第2層と第3層の間に、他の層を備えてもよい。また、第1層の外側及び/又は第3層の外側に他の層を備えてもよい。他の層は、本発明シート(C)の透明性、生分解性、耐熱性等が所望の範囲内になるものであればよく、特に限定されない。他の層は、生分解性樹脂(A)製の層、草本柔組織由来繊維類(B)製の層などの、生分解性、透明性を備えた層であることが好ましい。本発明シート(C)が複数の生分解性樹脂(A)製の層を有する場合、生分解性樹脂(A)製の層は同一の樹脂製であっても異なる樹脂製であってもよい。
【0036】
本発明シート(C)が複数の草本柔組織由来繊維類(B)製の層を有する場合、草本柔組織由来繊維類(B)製の層は同一の繊維類製であっても異なる繊維類製であってもよい。
【0037】
さらにまた、本発明は、シート(C)を複数枚積層して得られる層数が6以上のシートも包含する。
【0038】
本発明シート(C)は、押出しラミネーティング法で連続的に効率的に製造することもできる。
【0039】
具体的には、草本柔組織由来繊維類(B)のシート片面に、Tダイエクストルーダー(押出機)で生分解性樹脂(A)をフィルム状に押出してラミネートし、引き続きその裏面に生分解性樹脂(A)をフィルム状に押出してラミネートすることによって、草本柔組織由来繊維類(B)の層(第2層)が生分解性樹脂(A)の層(第1層及び第3層)で挟まれたサンドイッチ構造の本発明シート(C)を製造することができる。
【0040】
特に、共押出成形ラミネーティング法を適用すると、草本柔組織由来繊維類(B)のシートと生分解性樹脂(A)のフィルムとからなる本発明シート(C)が1工程で製造できるので好ましい。
【0041】
本発明シート(C)は、本発明の効果が奏される範囲で、着色剤、酸化防止剤、防臭剤等の添加物を適宜の量で含有することができる。これらの添加物をあらかじめ使用する生分解性樹脂(A)又は草本柔組織由来繊維類(B)に混合すること、第2層に第1層又は第3層を積層する時点で混合すること等によって、添加物を含有する、飲食物容器類用部材、飲食物容器類を製造することができる。添加物の含有量は本発明シート(C)総質量に対して、例えば5質量%以下、4質量%以下等とでき、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく1質量%以下がより一層好ましく、0.5質量%以下が特に好ましい。
【0042】
本発明シート(C)は、軽量性、生分解性、透明性、及び/又は耐熱性を備えるため、これらの性質が求められる用途に好適に使用できる。このような用途としては、例えば後述の飲食物用容器類(D)が挙げられるが、これに限られない。本発明シート(C)は、軽量で、高い機械強度及び低い熱膨張率が必要な生分解性プラスチックスが使用される分野で利用でき、例えば農業、園芸用のビニルハウス用シート等が挙げられる。
【0043】
3.草本柔組織由来繊維類(B)
本発明シートは、第1層と第3層の間に位置する第2層として、草本柔組織由来繊維類(B)製の層を有する。草本柔組織由来繊維類(B)製の層は、草本柔組織由来繊維類(B)を主成分(つまり、第2層総質量に対して草本柔組織由来繊維類(B)質量が50%以上)として包含する。第2層中の草本柔組織由来繊維類の含有量は第2層総質量に対して、例えば50質量%以上、51質量%以上、60質量%以上、70質量%以上とでき、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましい。
【0044】
草本柔組織由来繊維類の含有量は、生分解性樹脂が可溶でかつ草本柔組織由来繊維類が不溶の溶媒(例えば、生分解性樹脂がポリ乳酸の場合は酢酸エチル)で本発明シートから生分解性樹脂を抽出することにより除去し、その抽出残量として求めることができる。また、本明細書に記載された、本発明シートの製造方法(草本柔組織由来繊維類を生分解性樹脂フィルムでラミネートする方法)では、生分解性樹脂も草本柔組織由来繊維類も製造工程によりその質量が変化することがないので、草本柔組織由来繊維類の含有量は製造に用いた草本柔組織由来繊維類の質量として特定される。
【0045】
なお、草本柔組織由来繊維(B1)、及び、草本柔組織由来繊維(B1)をアセチル基で化学修飾したもの(アセチル修飾草本柔組織由来繊維(B2)とも称する。)を総称して草本柔組織由来繊維類(B)という。
【0046】
草本柔組織由来繊維(B1)は草本中の柔組織に含まれる繊維である。本発明シート(C)の第2層は、例えばシート化されたこの繊維の集合体(パルプ)で構成されてよい。草本柔組織由来繊維(B1)としては、シュガービート、ジャガイモ、キャッサバ、ニンジンなどの根菜等の柔組織からその組織中に貯蔵された物質(貯蔵物質、例えば、糖類及びデンプン)を絞った残渣(搾りかす)、ミカン、リンゴ、ブドウなどの果実等の柔組織からその貯蔵物質(例えば、果汁)を絞った残渣(搾りかす)、又は野菜(例えばハクサイ、キャベツ等、好ましくは廃棄野菜)の葉及び茎を例示することができる。そして、草本柔組織由来繊維(B1)の繊維集合体(すなわち、草本柔組織由来パルプ)及び要すればこれを適度に(例えばパルプの脱水操作に支障がない程度に)叩解したものを好適に使用することができる。
【0047】
草本柔組織由来パルプは、木材由来セルロースナノファイバーを製造する場合のような特別の解繊処理をすることなく調製できる。
木材由来セルロースナノファイバーは水を含んで膨潤するとゲル状となり、木材由来セルロースナノファイバーを単離するために脱水(例えば、ろ過により脱水)することが困難で、脱水に非常に長時間を要することから、製造が容易ではない。
これに対し、草本柔組織由来パルプは平均繊維径が例えば200μm以下であると透明性を有することが多く、このため、ナノサイズにまで解繊することを要しない。従って、脱水(例えばろ過)が容易である。このようなことから、草本柔組織由来パルプを使用することによって、透明性を有する本発明シートを、ナノファイバーを使用する透明性シートと比較して、簡便かつ安価に製造することができる。
【0048】
草本柔組織由来パルプの中で、シュガービート、ジャガイモ、キャッサバ、ニンジンなどの根菜等の柔組織由来のパルプが好適であり、シュガービート柔組織由来のパルプが、透明な本発明シートを得るためには最も好適である。
【0049】
草本柔組織由来パルプは、本発明シートの強度特性向上のために、脱ペクチン処理された草本柔組織由来パルプが好ましい。
【0050】
草本柔組織由来パルプは、その製造時にリグニンが加熱されることにより着色することがある。このため、着色が望まれない場合は、脱リグニン処理された草本の柔組織由来パルプが好ましい。着色を避ける場合、草本柔組織由来パルプ中のリグニン含有量は、パルプ乾燥質量あたり、3質量%以下、好ましくは2質量%以下、更には、1質量%以下にすることが好ましい。
【0051】
草本柔組織由来パルプは、例えば、以下の製造方法で製造することができる。
草本、例えば根菜の搾りかすを、酸性条件で加熱下に処理して、ペクチンを離脱させる(脱ペクチン処理)。使用する酸としては、クエン酸、乳酸、コハク酸、マレイン酸、シュウ酸、酢酸などの有機酸を使用でき、クエン酸を用いるのが好ましい。この酸性処理温度は50~80℃が好ましく、酸性処理時間は1時間~3時間が好ましい。
【0052】
次に脱ペクチンされた草本柔組織由来パルプの着色を避けるため、脱リグニン処理することが好ましい。脱リグニン処理は、パルプ、製紙分野等において公知のワイズ法等により実施することができる。
【0053】
脱リグニンされたパルプは、機械解繊(例えば高速攪拌による解繊処理、グラインダーによる解繊処理など)をすることなく、水中で緩やかに攪拌することにより、平均繊維径が例えば20nm~200μmの範囲内にあるセルロース繊維の混合物の水分散体として得られる。
【0054】
ここで、撹拌速度(周速度)は、例えば1m/分~10m/分とでき、好ましくは2m/分~7m/分程度である。
【0055】
この分散体から水を分離(例えばろ過により)することによって、ろ材上に草本柔組織由来繊維類(B)製のシートを容易に得ることができる。
【0056】
本発明シート(C)の生分解性をさらに向上するために、草本柔組織由来繊維類(B)として、アセチル修飾草本柔組織由来繊維(B2)の繊維集合体(すなわち、アセチル修飾草本柔組織パルプ)を使用することができる。アセチル修飾草本柔組織由来繊維(B2)は草本柔組織由来繊維(B1)を構成する糖の一部の水酸基の水素原子をアセチル基で置換した繊維である。
【0057】
草本柔組織由来繊維(B1)を、公知の方法(例えば特開2017-171713 段落0259参照)の方法によりアセチル基で修飾し、これをシート状にしたものを本発明シート(C)の製造に用いることができる(以下、a法という)。又は、草本柔組織由来の繊維(B1)集合体(草本柔組織由来パルプ)をシート状とし、これを公知の方法(例えば特開2018-115292 段落0149参照)によりアセチル基で修飾して本発明シート(C)の製造に用いることができる(以下、b法という)。上記b法は、アセチル修飾草本柔組織由来パルプ製のシートを容易に製造できるので好ましい。
【0058】
アセチル修飾草本柔組織由来繊維(B2)は、その修飾の程度(アセチル基置換度又はDSともいう)を適当な範囲とすることによって、無修飾の草本柔組織由来繊維(B1)に比べて、本発明シート(C)の熱安定性が向上すること、生分解性樹脂(A)との親和性が向上することにより本発明シート(C)の強度特性が向上すること、又は土壌、下水処理場、河川、湖沼、海洋汚泥等による生分解を受けやすくなることから、アセチル基置換度(DS)は下記の範囲が好ましい。
【0059】
アセチル基による修飾の程度〔アセチル基置換度(DS)〕は、0.1~1.2が好ましく、より好ましくは0.2~1.0である。
【0060】
アセチル基置換度(DS)は、繊維を構成する高分子(本件の場合は主としてセルロース)の繰り返し単位中の水酸基がアセチル化された平均個数として定義される。純粋なセルロースの繰り返し単位はグルコピラノース残基(グルコース残基)でありこれは水酸基3個を有している。したがって、DSの上限値は3である。DSの意味及び測定方法は特開2018-115292等に記載されており、本明細書中でも同様である。
【0061】
草本柔組織由来繊維(B1)もアセチル修飾草本柔組織由来繊維(B2)もそのすべての繊維の径がナノオーダー(繊維径1000nm以下)になるように解繊処理をせずとも透明性を有する。このため、最大繊維径が1μm~200μm程度、好ましくは最大繊維径が50μm程度のものを使用する事ができる。最大繊維径は走査電子顕微鏡(SEM)で特定できる。
草本柔組織由来繊維類(B)は、その繊維径が、20nm~200μmの範囲以内にあるものが好ましく、特に20nm~50μmの範囲以内にあるものが好ましい。繊維径は走査電子顕微鏡(SEM)で特定できる。
【0062】
草本柔組織由来繊維類(B)としてナノオーダーの繊維径のものを使用すると、本発明シート(C)の強度は大きくなり透明性が向上するが、その繊維の水分散液は高濃度でゲル状となってろ過による脱水性が低下することにより、製造の効率が低下する。
従って、草本柔組織由来繊維類(B)全体質量に対する10nm~100nmの繊維径の繊維の割合は少ない方が好ましいので、10nm~100nmの繊維径を有する繊維の割合については、5~70質量%、好ましくは5~60質量%、更に好ましくは5~50質量%程度とするのが好ましい。
【0063】
4.生分解性樹脂(A)
本発明シートは、第2層の両側に、第1層と第3層として、生分解性樹脂(A)製の層を有する。生分解性樹脂(A)製の層は、生分解性樹脂(A)を主成分(つまり、層総質量に対して生分解性樹脂(A)質量が50%以上)として包含する。第1層中の生分解性樹脂(A)の含有量は第1層総質量に対して、例えば50質量%以上、51質量%以上、60質量%以上、70質量%以上とでき、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上が特に好ましい。第3層中の生分解性樹脂(A)の含有量も同様である。
【0064】
生分解性樹脂(A)としては生分解性のバイオマス由来の樹脂を使用することが好ましい。これら生分解性のバイオマス由来の樹脂として、ポリ乳酸(PLA)、微生物が産生するポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)等を使用することができる。
【0065】
PHAとしては、ポリヒドロキシブチレート(PHBT)、ポリヒドロキシヘキサノエート(PHAT)、ポリヒドロキシブチレートとポリヒドロキシヘキサノエートとの共重合体(PHBH)が好ましい。
【0066】
PHBTの具体的化学構造はポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート]で、P(3HB)と表記されることがある。PHATの具体的構造はポリ[(R)-3-ヒドロキヘキサノエート]で、P(3HHx)と表記されることがある。そしてPHBHは、Poly(3HB-co3HHx)と表記されることがある。
【0067】
生分解性樹脂(A)は、単独でまたは2種以上併用して使用することができる。生分解性樹脂(A)は、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシブチレート、(PHBT)、ポリヒドロキシヘキサノエート(PHAT)、ポリヒドロキシブチレートとポリヒドロキシヘキサノエートとの共重合体(PHBH)及びポリブチレンサクシネート(PBS)からなる群から選ばれる少なくとも一種の樹脂が好ましい。第1層及び第3層は、本発明シート(C)が求められる透明性、耐熱性、強度特性、生分解性等を備える限り、生分解性樹脂(A)以外の他の樹脂を含有してもよい。第1層又は第3層が他の樹脂を含有する場合、その含有量は層全質量に対し、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、より一層好ましくは1質量%以下である。
【0068】
本発明シート(C)における、生分解性樹脂(A)の使用量は、草本柔組織由来の繊維類(B)1質量部に対して、例えば0.01~10質量部、好ましくは0.5~5質量部、より好ましくは1~3質量部とすることができる。
【0069】
5.飲食物用容器類(D)
本発明シート(C)は、透明又は半透明性を有するため、又は、耐熱性が高い(熱収縮が小さく、また、熱により分解し難い)ため、飲食物用容器類(D)向けの材料として有用である。本発明シート(C)を加工して得られる蓋つきの容器であっても、ふたを開けなくともその容器内の内容物とその量を目視できる。本発明シート(C)を加工して得られる容器類は、加温された飲食物を入れる場合、及び容器内に収容された飲食物を容器ごと電子レンジまたは湯煎で加温する場合に、変形し難い。
【0070】
飲食物用容器類(D)は、例えば、本発明シート(C)、または生分解性樹脂(A)のフィルムと草本柔組織由来繊維類(B)のシートとを、金型内で加熱と共に加圧(圧縮)して成形加工することにより製造することができる。
【0071】
加熱温度は、例えば100~200℃程度、120~200℃程度とすることができ、150~200℃が好ましく、180~200℃がより好ましく、180~190℃が特に好ましい。本発明シート(C)、生分解性樹脂(A)、草本柔組織由来繊維類(B)の熱分解が小さくても加熱温度が問題となる場合は200℃以下とすることが望ましい。
【0072】
加熱時間は、飲食物容器類(D)の形状、大きさに応じて適宜選択できるが、例えば3分~1時間、好ましくは5分~30分とすることができる。
【0073】
加圧は、例えば0.1MPa~50MPa、好ましくは0.1MPa~30MPaの圧力条件とすることが好ましい。加圧方法としては圧縮が好ましい。
【実施例0074】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例において、成分含量の%は、特記しない限り質量%を示す。
【0075】
1.使用原料
1-1.シュガービートパルプ
生のシュガービートの搾りかす(日本甜菜糖株式会社製。固形分10g)を6%のクエン酸水溶液500ml中でマグネチックスターラーで撹拌(撹拌子長さ4cm、回転数300~450rpm)し、80℃で2時間温浴させ、ペクチンを溶脱させた。
次いで、脱ペクチンされたシュガービートのパルプ(固形分5g相当)を秤取り、水300mlに懸濁して80℃でマグネチックスターラーで撹拌(撹拌子長さ4cm、回転数300~450rpm)しながら亜塩素酸Na(純度80%)3.0gと酢酸0.4mlを加え、1時間反応させることにより脱リグニン処理を行って、リグニン含有率3質量%(シュガービートパルプ固形分に対するリグニン含有率)のシュガービートパルプのゲル状懸濁液(固形分濃度5質量%)を得た。
脱ペクチンと脱リグニン(ワイズ)処理をした後の固形分回収率は、原料のシュガービートの搾りかす固形分に対しておよそ50%であった。
脱リグニン、脱ペクチン後のSBP(シュガービートパルプ)懸濁液を光学顕微鏡で観察した。この写真を図1に示す。
【0076】
1-2.シュガービートパルプ製シート
上記の脱リグニン後のシュガービートパルプ懸濁液の一部を秤取り、水で希釈して固形分濃度が0.03質量%の懸濁液を調製した。
この懸濁液250g(固形分0.075g)を秤取り、ろ過し、ろ材上に直径3.5 cmのシュガービートパルプ製シートを作製した(図3a参照)。シート内の複数個所の厚さを測定し平均値を求めた(厚さ:0.025mm~0.04mm、平均厚さ0.032mm)。
このシュガービートパルプ製シートの表面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。この走査電子顕微鏡写真を図2に示す。
以下に記載の種々のシートの厚さも、シート内の複数個所の厚さを測定し平均値を求めたものである。
草本柔組織由来繊維類をナノオーダーまで解繊処理をしなくとも、実用可能な程度の透明度の草本柔組織由来のシートを得ることができた。
【0077】
1-3.ハクサイパルプ
細断した生のハクサイ(固形分10g)を6%のクエン酸水溶液500ml中でマグネチックスターラーで撹拌(撹拌子長さ4cm、回転数300~450rpm)し、80℃で2時間温浴させ、ペクチンを溶脱させた。リグニン含有量は極めて微量なので脱リグニン(ワイズ)処理は省略して、ハクサイパルプの懸濁液を得た。
【0078】
1-4.ハクサイパルプ製シート
上記ハクサイパルプ懸濁液の一部を秤取り、水で希釈して固形分濃度が0.03質量%の懸濁液を調製した。
この懸濁液250g(固形分0.075g)を秤取り、ろ過し、ろ材上に直径3.5 cmのハクサイパルプ製シートを作製した(図4a参照。平均厚さ0.022mm)。
【0079】
1-5.ニンジンパルプ
細断した生のニンジン(固形分10g)を使用して、上記ハクサイパルプの作製の場合と同様にして、ニンジンパルプの懸濁液を得た。
【0080】
1-6.ニンジンパルプ製シート
上記ニンジンパルプ懸濁液の一部を秤取り、水で希釈して固形分濃度が0.03質量%の懸濁液を調製した。
この懸濁液250g(固形分0.075g)を秤取り、ろ過し、ろ材上に直径3.5 cmのニンジンパルプ製シートを作製した(図5a参照。平均厚さ0.033mm)。
【0081】
2.生分解性樹脂
生分解性樹脂としてポリ乳酸(PLA)(ネーチャーワークスLLC製、Ingeo3251D)を使用した。
【0082】
3.試験方法
(i)シュガービートパルプの繊維径の観察
(i)-1 シュガービートパルプの光学顕微鏡観察法
前記1-1で調製したシュガービートパルプ懸濁液を蒸留水で希釈し、希釈懸濁液の一滴をスライドグラスに落としてカバーグラスをかけて、ライカシステムズ製の正立顕微鏡(ライカDM4B)で観察した。
(i)-2 シュガービートパルプ製シートの走査電子顕微鏡(SEM)観察法
前記1-2で調製したシュガービートパルプ製シートを減圧乾燥し、白金蒸着し、上面と断面を日本電子製走査電子顕微鏡(JSM-7500F)にて観察した。
【0083】
(ii)生分解性積層シートの強度試験(引張強度)
試料(実施例又は比較例のシート)を、カッターを用いて長さ35mm、幅4mmにカットし、サンプルを得た。このサンプルを、万能試験機(インストロン社製 型式3365型)を用いて、支点間距離20mm、引張速度1mm/minにて引張試験を行い、引張弾性率(MOE)及び引張強度(MOR)を測定した。
【0084】
(iii)熱収縮性試験
90℃の熱湯500ml中に、熱圧成形シート(実施例のシート)とポリ乳酸シート(比較例のシート)を夫々10秒間浸漬して取り出し、変形を目視により確認した。
【0085】
(iv)動的粘弾性測定(DMA)
試料(実施例又は比較例のシート)を、カッターを用いて長さ35mm、幅4mmにカットし、サンプルを得た。このサンプルを、動的粘弾性測定装置(DMS6100、SIIナノテクノロジー社製)を用いて、支点間距離20mm、予圧5g、周波数1Hz、昇温速度2℃/minで20℃から170℃まで測定した。
【0086】
(v)可視光透過試験
以下の試料及び測定機器を使用して、実施例及びシュガービートパルプ製シートの可視光透過率を測定した。

試料
以下の寸法の試料について測定した。
・実施例1の積層シート(平均厚さ:0.18mm、直径約3.5cmの円形)
・シュガービートパルプ製シート(実施例1の積層シート作成に使用したものと同様。平均厚さ0.032mm、直径約3.5cmの円形)

測定
下記分光光度計の窓枠(幅1cm×長さ2cm)へ直接取り付けて測定した。
・測定機器及び測定方法:日立ハイテクノロジーズ社製のUV-4100形分光光度計を用い、試料からセンサーまでの距離を夫々、3cmは25cmとし、波長380nm~780nm(可視光領域)での全光線透過率及び直線光透過率を測定した。
【0087】
〔実施例1〕
シュガービートパルプ製層とポリ乳酸(PLA)製層とからなる積層シート(本発明シート)
0.10gのポリ乳酸(PLA)を170℃で10秒間プレス(圧力0.3MPa)し、直径約3.5cmのシートを作製した(厚さ:0.075mm~0.103mm、平均厚さ:0.091mm)。このPLA製シート2枚で、1-2.で作製したシュガービートパルプ製シート(図3a)を挟み、170℃で10秒間プレス(圧力0.3MPa)し、第1層と第3層がPLA製層であり、その中間に位置する第2層がシュガービートパルプ製層からなる積層シート(本発明シート;図3b及び図3c)を作製した。得られた積層シートは、厚さ:0.15mm~0.20mm、平均厚さ:0.18mmであり、3層構造(図3c)であった。図3cは、本発明シートの切片をキーエンス デジタルマイクロスコープVHX-5000を使用して落射光で観察した像である。
【0088】
〔実施例2〕
ハクサイパルプ製層とポリ乳酸(PLA)製層とからなる積層シート(本発明シート)
シュガービートパルプ製シートに代えて1-4.で作製したハクサイパルプ製シート(図4a)を使用する以外は、実施例1と同様にして、第1層と第3層がPLA製層であり、その中間に位置する第2層がハクサイパルプ製層からなる積層シート(本発明シート:図4b)を作製した。平均厚さ:0.161mm。
【0089】
〔実施例3〕
ニンジンパルプ製層とポリ乳酸(PLA)製層とからなる積層シート(本発明シート)
シュガービートパルプ製シートに代えて1-6.で作製したニンジンパルプ製シート(図5a)を使用する以外は、実施例1と同様にして、第1層と第3層がPLA製層であり、その中間に位置する第2層がニンジンパルプ製層からなる積層シート(本発明シート:図5b)を作製した。平均厚さ:0.158mm。
【0090】
〔比較例1〕
実施例1におけるPLA製シートの作製方法と同様にしてPLA製シート(厚さ:0.075mm~0.103mm、平均厚さ:0.091mm)を作製し、これを比較例のシートとした。
【0091】
試験結果
・耐熱試験結果
実施例1の積層シートと比較例1のPLA製シートの熱収縮性試験及び動的粘弾性測定(DMA)を実施した。その結果を図6及び図7に示す。
【0092】
図6中、左側のシートが熱収縮性試験後の実施例1の積層シート、右側が熱収縮性試験後の比較例1のPLA製シートである。実施例1の積層シートは熱水に浸漬してもほとんど収縮も変形もしない。これに対して、比較例1のPLA製シートは熱水に浸漬すると著しく収縮して変形した。すなわち、本発明シート(C)では熱収縮及び熱変形がほとんど発生しなかった。
【0093】
図7に示す動的粘弾性測定(DMA)結果のとおり、実施例1の積層シート(図7中、SB/PLAで示されたグラフ)は、比較例1のPLA製シート(図7中、PLA neatで示されたグラフ)が50℃付近で変形し始めたのに対し、加熱による変形が抑制され、160℃まで加熱しても変形が僅かであることが判る。
【0094】
・強度試験結果
実施例1の積層シートと比較例1のPLA製シート(ポリ乳酸のシート)の強度(引張強度)試験を実施した。応力-歪曲線(stress-strain curve)を図8に示す。図中、「SB/PLA」で示された曲線は、実施例1の積層シートの応力-歪曲線を示し、「PLA neat」で示された曲線は、比較例1のPLA製シートの応力-歪曲線を示す。また、引張強度及び弾性率を表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
表1及び図8に示された結果から理解されるように、実施例1の積層シートは、比較例のPLA製シートに比べて、伸びにくく引張弾性率が大きいことから、荷重により変形しにくくなっていることが判る。
【0097】
・光透過度試験
実施例1の積層シートと1-2.で作製したシュガービートパルプ製シートの可視光透過試験を実施した。試験結果を表2に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
表2に示す通り、実施例1の積層シートは、シュガービートパルプ製シートと比べ、その厚みが5.6倍あっても、可視光領域の光透過率は良好である。このことから、本発明シートから形成された飲食物用容器類(D)では、蓋を開閉しなくとも、そこに収納された内容物の種類と量を目視により明瞭に認識できることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8