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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022046161
(43)【公開日】2022-03-23
(54)【発明の名称】回転工具の寿命判定機能を有する工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/09 20060101AFI20220315BHJP
   B23Q 17/24 20060101ALI20220315BHJP
   B23Q 11/00 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
B23Q17/09 B
B23Q17/24 Z
B23Q11/00 F
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020152074
(22)【出願日】2020-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】笠原 忠
【テーマコード(参考)】
3C029
【Fターム(参考)】
3C029DD08
3C029DD20
(57)【要約】
【課題】回転切削工具または回転研削工具の寿命判定を正確、自動的に、可視化して行う工作機械を提供すること。
【解決手段】回転中の回転工具114の最大外形を表す包絡線上の位置を所定の間隔DL、DRで測定し、加工前の回転工具について測定した加工前測定値E0と、加工後の回転工具について測定した加工後測定値EMとの差が、設定したしきい値ECより小さくなったとき、回転工具は寿命に達したと判定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転主軸に装着し切削加工または研削加工する回転工具の、寿命判定を行う工作機械において、
回転中の回転工具の最大外形を表す包絡線上の位置を所定の間隔で測定する測定器と、
加工前の回転工具について、前記測定器で測定した加工前測定値を記憶する加工前測定値記憶部と、
前記包絡線上の前記所定の間隔ごとに減寸限界位置であるしきい値を、回転工具の種類または加工条件に応じて設定するしきい値設定部と、
加工後の回転工具について、前記測定器で測定した加工後測定値が前記設定したしきい値より小さくなったとき、回転工具は寿命に達したと判定する寿命判定部と、
を具備することを特徴とした回転工具の寿命判定機能を有する工作機械。
【請求項2】
前記包絡線を表示する表示部を更に具備する請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記測定器は、前記工作機械のテーブル上に配設されたレーザ測定器であって、該レーザ測定器は、細い1本のレーザ光線を照射する投光器と、該投光器に対設され前記レーザ光線を受光する受光器とを備え、前記レーザ測定器が遮られたときにスキップ信号を出力するようになっている請求項1に記載の工作機械。
【請求項4】
前記レーザ測定器からスキップ信号が出力されたときの工作機械のX、Y、Zの座標値から前記回転工具の最大外形を測定するようにした請求項3に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削加工、研削加工等に用いる回転工具の寿命判定機能を有する工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械にてワークを加工する際には、工具の寸法を正確に測定することが重要である。特許文献1には、レーザ測長器等を用いて、工具長または工具径を測定し、測定値を予め設定されている寿命限界値と比較して、工具が寿命に達しているかいなかを判別する工具寿命管理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4-360754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電着工具は、PCD、CNB等の多結晶焼結体でなる砥粒が工具母材表面に一層分だけ分布しており、砥粒が欠けたり脱離したりするチッピングを生じる。チッピングが生じると、1つの砥粒が欠けても、加工表面に疵が形成されてしまう。特許文献1に記載の工具寿命管理方法では、このような砥粒が一層だけ結合した研削工具を十分な精度で外形を測定することができない。
【0005】
また、研削加工にはアルミナ系、炭化ケイ素系等の砥粒を、多層、結合剤で固めたものなど複数の形態があり、その中でも砥粒の材質、砥粒の大きさ(番手)、結合剤等の違いにより複数の種類がある。
【0006】
更に、回転型の切削工具、例えばエンドミルには、フラットエンドミル、ラジアスエンドミル、ボールエンドミルのように複数の形態があり、その中に切れ刃の数、切れ刃の材質、荒削り/仕上げ削り用、被削材の硬度等の違いにより複数の種類がある。これら多種多様な回転工具の摩耗やピッチング等による寿命判定は、特許文献1に記載の工具具寿命管理方法では十分に対応できない。
【0007】
本発明は、こうした従来技術の問題を解決することを技術課題としており、回転切削工具または回転研削工具の寿命判定(設定値より大きなチッピング、砥粒の脱落の有無)を正確、自動的に、可視化して行う工作機械を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するために、本発明によれば、回転主軸に装着し切削加工または研削加工する回転工具の、寿命判定を行う工作機械において、回転中の回転工具の最大外形を表す包絡線上の位置を所定の間隔で測定する測定器と、加工前の回転工具について、前記測定器で測定した加工前測定値を記憶する加工前測定値記憶部と、前記包絡線上の前記所定の間隔ごとに減寸限界位置であるしきい値を、回転工具の種類または加工条件に応じて設定するしきい値設定部と、加工後の回転工具について、前記測定器で測定した加工後測定値が前記設定したしきい値より小さくなったとき、回転工具は寿命に達したと判定する寿命判定部とを具備する回転工具の寿命判定機能を有する工作機械が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、回転中の回転工具の最大外形を表す包絡線上の位置を所定の間隔で測定することによって、回転工具の最大外形を測定するようにしたので、1つの砥粒が欠ける或いは脱離した場合や、切れ刃の一部に設定値より大きなピッチングを生じた場合であっても、それを検知し回転工具の寿命を正確に判定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明による工作機械の一例を示す側面図である。
図2】本発明の好ましい実施形態による工作機械のブロック図である。
図3】回転工具の一例を示す側面図である。
図4】加工前の工具の側面の最大外形寸法に基づき生成された包絡線を示す略図である。
図5】寿命判定方法を示すフローチャートである。
図6】寿命判定方法を示すフローチャートである。
図7】加工前および加工後の回転工具の側面の最大外形寸法に基づき生成された包絡線と、加工前の工具の側面の包絡線からしきい値を差し引いた限界包絡線を示す略図である。
図8】加工前および加工後の回転工具の側面の最大外形寸法の差が設定されたしきい値より小さくなった場合を示す図7と同様の略図である。
図9】加工前の回転工具の先端面の最大外形寸法に基づき生成された包絡線を示す略図である。
図10】加工前および加工後の回転工具の端面の最大外形寸法に基づき生成された包絡線と、加工前の工具の端面の包絡線からしきい値を差し引いた限界包絡線を示す略図である。
図11】レーザ測定器ではなく、カメラを用いて回転工具の側面の最大外形を測定する実施形態の略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態を説明する。
図1を参照すると、本発明を適用する工作機械の一例が示されている。図1において、工作機械100は、立形マシニングセンタを構成しており、工場の床面に固定された基台としてのベッド102、ベッド102の前方部分(図1では左側)の上面で前後方向またはY軸方向(図1では左右方向)に移動可能に設けられワーク(図示せず)を固定するテーブル106、ベッド102の後端側(図1では右側)で同ベッド102の上面に立設、固定されたコラム104、該コラム104の前面で左右方向またはX軸方向(図1では紙面に垂直な方向)に移動可能に設けられたX軸スライダ108、X軸スライダ108の前面で上下方向またはZ軸方向に移動可能に取り付けられ主軸112を回転可能に支持する主軸頭110を具備している。工作機械100は、また、オペレーターが工作機械100を操作するための操作盤200を備えている。
【0012】
テーブル106は、ベッド102の上面において水平なY軸方向(図1の左右方向)に延設された一対のY軸案内レール(図示せず)に沿って往復動可能に設けられており、ベッド102には、テーブル106をY軸案内レールに沿って往復駆動するY軸送り装置として、Y軸方向に延設されたボールねじ(図示せず)と、該ボールねじの一端に連結されたY軸サーボモータ(図示せず)が設けられており、テーブル106には、前記ボールねじに係合するナット(図示せず)が取り付けられている。テーブル106には、また、テーブル106のY軸方向の座標位置を測定するY軸スケール120が取り付けられている。
【0013】
X軸スライダ108は、コラム104の上方部分の前面においてX軸方向に延設された一対のX軸案内レール(図示せず)に沿って往復動可能に設けられている。コラム104には、X軸スライダ108をX軸案内レールに沿って往復駆動するX軸送り装置として、X軸方向に延設されたボールねじ(図示せず)と、該ボールねじの一端に連結されたX軸サーボモータ(図示せず)が設けられており、X軸スライダ108には、前記ボールねじに係合するナット(図示せず)が取り付けられている。コラム104には、また、X軸スライダ108のX軸方向の座標位置を測定するX軸スケール116が取り付けられている。
【0014】
主軸頭110は、X軸スライダ108の前面においてZ軸方向(図1では上下方向)に延設された一対のZ軸案内レール(図示せず)に沿って往復動可能に設けられている。X軸スライダ108には、主軸頭110をZ軸案内レールに沿って往復駆動するZ軸送り装置として、Z軸方向に延設されたボールねじ(図示せず)と、該ボールねじの一端に連結されたZ軸サーボモータ(図示せず)が設けられており、主軸頭110には、前記ボールねじに係合するナット(図示せず)が取り付けられている。X軸スライダ108には、また、主軸頭110のZ軸方向の座標位置を測定するZ軸スケール118が取り付けられている。
【0015】
X軸サーボモータ、Y軸サーボモータ、Z軸サーボモータおよびX軸スケール116、Y軸スケール120、Z軸スケール118は、工作機械100を制御するNC装置150に接続されている。NC装置150によって、X軸サーボモータ、Y軸サーボモータ、Z軸サーボモータへ供給される電力(電流値)が制御される。
【0016】
操作盤200は、後述する測定装置の表示部26(図2)を形成する表示パネル202を含む。本実施の形態の表示パネル202は、画面を接触することにより所望の部分の選択が可能なタッチパネルにより形成することができる。操作盤200は、キー入力部204を含む。キー入力部204には、複数のキースイッチが配置されている。キー入力部204のキースイッチを押すことにより、所定の数字や文字を入力することができる。また、操作盤200は、所定の操作の選択を行う複数の操作スイッチ部(図示せず)、オーバライド値の設定を行うオーバライド設定部(図示せず)および非常停止ボタン(図示せず)等を含む。オーバライド設定部は、例えば、主軸の回転速度のオーバライド値や加工の送り速度のオーバライド値等を設定することができる。
【0017】
工作機械100は、また、該工作機械の工具マガジン(図示せず)や、自動工具交換装置(図示せず)、加工液供給装置、オイルエア供給装置、圧縮空気供給装置のような工作機械100に付随する関連機器を制御する機械制御装置(図示せず)を備えている。
【0018】
テーブル106には、測定器としてレーザ測定器130が取り付けられている。レーザ測定器130は、テーブル106に固定されるベース部132から突出する一対の腕部134、136を有して、概ねU字形の測定器本体を有している。一対の腕部134、136の先端部には、細い1本のレーザ光線LBを照射する投光器134aと、レーザ光線LBをを受光する受光器136aが対設されている。レーザ測定器130は、投光器134aから照射されるレーザ光線LBが受光器136aにおいて受光されなくなったときに、スキップ信号を出力する。
【0019】
レーザ測定器130は、レーザ光線LBがZ軸に垂直に照射されるように配置される。図1において、レーザ測定器130は、レーザ光線LBがY軸に平行に照射されるように配置されているが、本発明は、これに限定されず、レーザ測定器130は、レーザ光線LBがX軸に平行となるように配置してもよい。或いは、レーザ測定器130は、レーザ光線LBが、Z軸に垂直で、かつ、X軸およびY軸に非平行となるように配置してもよい。
【0020】
図1図3において、主軸112の先端に装着された工具114は、シャンク部または軸部114aと、軸部114aの先端部に刃部114bとを有した軸付の回転研削工具である。刃部114bは、軸部114aの先端部に形成した円筒状の台金(工具母材)の表面にダイヤモンド(PCD)砥粒またはCBN砥粒をニッケルメッキにて表面に一層固着させて形成することができる。刃部114bは、円筒側面114cと、先端面114dとを有している。工具114は、多結晶焼結体で構成された回転切削工具であってもよい。
【0021】
工具114は、中心軸線Oに沿ったシャンク114aおよび刃部114bの長さである工具長LTと、刃部114bの中心軸線O方向(長さ方向L)の寸法である刃長LCと、中心軸線Oに垂直な方向(半径方向R)の刃部114bの寸法である外径RTとを有している。工具長LTは、工具114を保持する工具ホルダによって規定されているゲージラインGLから工具114の先端(刃部114bの先端面114d)までの長さとすることができる。工具長LTの基準点は、主軸112の端面から工具114の先端(刃部114bの先端面114d)までの長さとしてもよい。
【0022】
本発明では、以下に説明するように、工具114が最初に主軸112に装着され加工する前に、未使用状態で工具114を回転させつつ、刃部114bの外径RTを長さ方向Lの所定の測定間隔(ステップ幅)DLで複数箇所測定し、図4に示すような側面114cの包絡線E0を作成とともに、工具長LTを半径方向Rの所定の測定間隔DRで複数箇所測定し、図9に示すような先端面114dの包絡線E0を作成する。なお、図4において、LTP、LTDは、それぞれ刃部114bの基端側の端面および先端面114dを示している。
【0023】
測定間隔DL、DRは、砥粒の大きさ(直径)とレーザ光線LBの直径のうち小さい方の寸法を基準に予め決定することができる。レーザ光線LBの直径に比べて砥粒の直径が大きい場合には、1つの砥粒の最大寸法となる部分を逃さず測定できるように、例えば、砥粒の直径の1/2の寸法を測定間隔DL、DRとすることができる。反対に、レーザ光線LBの直径が砥粒の直径よりも小さい場合には、砥粒の直径を測定間隔DL、DRとすることができる。更に、測定間隔DL、DRは、砥粒が台金から脱離する、いわゆるチッピングの大きさに基づいて決定してもよい。
【0024】
次に、本発明の好ましい実施形態による工作機械のブロック図である図2を参照して、本発明の工具寿命判定装置について説明する。
工作機械100は工具寿命判定装置10を備えている。工具寿命判定装置10は、測定制御部12、加工距離計数部14、寿命判定部16、パラメータ設定部24、表示部26、加工前測定値記憶部28を主要な構成要素として具備している。
【0025】
測定制御部12、加工距離計数部14、寿命判定部16、パラメータ設定部24および加工前測定値記憶部28は、CPU(中央演算素子)、RAM(ランダムアクセスメモリ)やROM(リードオンリーメモリ)のようなメモリ装置、HDD(ハードディスクドライブ)やSSD(ソリッドステートドライブ)のような記憶デバイス、出入力ポート、時計機能を実装した集積回路より成るRTC(Real-Time-Clock)、および、これらを相互接続する双方向バスを含むコンピュータおよび関連するソフトウェアから構成することができる。工具寿命判定装置10は、工作機械100のNC装置150または機械制御装置の一部としてソフトウェア的に構成してもよい。表示部26は、操作盤200の表示パネル202によって形成することができる。
【0026】
パラメータ設定部24は、測定間隔設定部18、加工距離設定部20およびしきい値設定部22を含んでいる。パラメータ設定部24は、工作機械100のオペレータが、工具寿命判定装置10に対して工具寿命判定に必要なパラメータを入力、設定するための手段であって、例えば、操作盤200の表示パネル202に測定間隔設定部18、加工距離設定部20およびしきい値設定部22に対応した入力画面または入力ダイアログを表示することによって構成することができる。測定間隔設定部18、加工距離設定部20およびしきい値設定部22は、こうした入力画面または入力ダイアログに加えて、キー入力部204、メモリ装置または記憶デバイスの対応の格納領域を含む。
【0027】
測定間隔設定部18には、刃部114bの外径RTを測定する際の測定間隔DLおよび工具長LTを測定する際の測定間隔DRが入力、記憶される。加工距離設定部20には、工具114の測定する頻度として、加工距離が入力、記憶される。つまり、本実施形態では、入力された距離だけ工具114を用いて加工を行ったときに、後述の測定を行うようになっている。しきい値設定部22には、工具寿命判定に用いるしきい値が入力、記憶される。
【0028】
工具114の測定は、測定制御部12からの移動指令に基づき、工具114を回転させながらレーザ測定器130に対して接近するよう相対移動して、該工具114がレーザ光線LBを遮ったときに、レーザ測定器130からスキップ信号を出力して、そのときの座標位置をX、Y、Z軸の各読取装置170、図1の例では、X、Y、Z軸スケール116、120、118から読取ることにより実行される。
【0029】
刃部114bの表面を清掃するために、空気噴出ノズル122をテーブル106に配設し、工具114の測定に際して、測定制御部12からのクリーニング指令に基づいて、刃部114bの表面に向けて圧縮空気を噴出するようにしてもよい。
【0030】
次に、図5を参照して、刃部114bの外径RTを測定する方法を一層詳細に説明する。
ワークが交換され新たなワークがテーブル106に固定されると、該ワークの加工開始前に工具寿命判定工程が開始される。工具寿命判定工程が開始すると、測定制御部12は、まず、主軸112に装着されている工具114に関連する工具情報をNC装置150から受け取り、それに基づいて、刃部114bの側面について包絡線E0の測定開始位置へ主軸112、つまり工具114を位置決めする(ステップS10)。
【0031】
工具114に関連する工具情報は、例えば工具長LT、工具径RT、刃長LCおよび工具形状を含むことができる。工具形状は、刃部114bの形状が、図3に示すような円筒形状の他、刃部114bの側面114cと先端面114dとの間の隅部がR形状を呈するような形状や、刃部114bが、球形や、先端方向に収斂する円錐となる形状を含む。
【0032】
測定開始位置への工具114の位置決めは、測定制御部12からNC装置150へ測定指令(測定開始位置への移動指令)が出力され、NC装置150からX、Y、Z軸の各送り装置160へ送り指令が出力されることで実行される。測定開始位置は、例えば、図1に示すように、レーザ光線LBがY軸に平行に照射されるように測定器130を配置されている場合、工具114が、レーザ光線LBを遮ることなく投光器134aと受光器136aとの間に配置され、かつ、X軸方向に見たときに、レーザ光線LBが、刃部114bにおいてシャンク114aに近い方の基端側の端面から測定間隔DLだけ先端面114dに偏倚した位置である。
【0033】
次いで、測定間隔設定部18から受け取った測定間隔DLに基づき、測定制御部12は、レーザ光線LBが、長さ方向Lに沿って刃部114bの先端面114dの方向に測定間隔DLを以て工具114に対して相対的に測定開始位置から順次に移動するように、工具114をレーザ光線LBに対して位置決めし、次いで、回転する工具114をレーザ光線LBに接近させて最大外径RTの測定し(ステップS12)、測定した最大外径RTを加工前測定値記憶部28に記憶する(ステップS14)。
【0034】
更に、ステップS12、14を、刃部114bの先端面114dまで繰り返し(ステップS16)、得られた複数の外径RTに基づき、図4に示すような、加工前の包絡線E0を生成し、加工前測定値記憶部28に記憶する(ステップS18)。生成した包絡線E0は表示部26に表示するようにできる。
【0035】
次いで、測定済工具114を用いて加工が行われる。加工する間、加工距離計数部14は、NC装置150から受け取った加工距離を積算、計数して、計数値を測定制御部12へ出力する。測定制御部12は、加工距離の設定値を加工距離設定部20から受け取る。測定制御部12は、1つの加工が終了したときに、加工距離計数部14からの加工距離の計数値が、加工距離設定部20からの加工距離の設定値と等しいか或いは大きくなったときに、再び工具114の測定を開始する。
【0036】
図6を参照すると、加工を終えた工具114について、図5のフローチャートのステップS10~ステップS16を実行して刃部114bの最大外径RTを測定する(ステップS20)。寿命判定部16は、測定結果に基づいて、加工後の包絡線EM1図7)を生成する(ステップS22)。加工前と加工後の包絡線データから、n番目の測定データを読み込み(ステップS24)、加工前と加工後の刃部114bの外径RTの差を計算する(ステップS26)。寿命判定部16は、更に、しきい値設定部22に設定されているしきい値を、しきい値設定部22から受け取り、これを加工前と加工後の刃部114bの最大外径RTの差と比較する(ステップS28)。ここでnは、工具114の先端位置LTDから基端位置LTPへ向かって測定位置を1番目、2番目と数えたときのn番目のことである。
【0037】
加工前と加工後の刃部114bの最大外径RTの差が、しきい値よりも大きい場合(ステップS28でYesの場合)、つまり、図8において円Aで示すように、加工後の包絡線EM2が、加工前の刃部114bの半径から設定されているしきい値を差し引いて生成した限界包絡線(しきい値包絡線)ECと少なくとも部分的に重なる場合、寿命判定部16は、当該工具114は、寿命、異常な摩耗の進展、または、砥粒の欠損が生じたものと判定し、アラームを発生して、これを工作機械100のオペレータに報知し(ステップS30)、オペレータに工具交換を促す。或いは、アラームの発生と同時または発生後に、工作機械100の自動工具交換装置(ATC)を用いて、使用済工具114を予備工具と交換するようにしてもよい。ここで包絡線EM2は、包絡線EM1を測定後、所定距離加工後に再度測定したものを表している。
【0038】
寿命判定部16は、上記の加工前と加工後の刃部114bの外径RTの差と、設定されているしきい値との比較をし、刃部114bの刃長LCの全体に亘って繰り返し行う(ステップS32)。外径RTの差がしきい値よりも小さい場合(ステップS28でNoの場合)、寿命判定部16は、現に主軸112に装着されている工具114は使用可能な正常工具であると判定し、こうして、該工具はそのままワークの加工に用いられる(ステップS34)。
【0039】
なお、限界包絡線ECは、加工前の測定値からしきい値を差し引くことによって生成される。図7、8において、図7の限界包絡線EC1と、図8の限界包絡線EC2は、異なるように描かれている。これは、しきい値は、加工距離が長くなるのに応じて最大減寸限界位置に近づくように異なる複数の値を設定することができることを示している。更には、しきい値は、工具Tの種類または加工条件に応じて設定するようにしてもよい。
【0040】
刃部114bの先端面114dについても、図9、10に示すように、包絡線を生成して工具114の寿命判定を行うことができる。
先端面114dの測定に際しては、レーザ光線LBを遮らないように工具114をレーザ光線LBの上方において、レーザ光線LBが工具114の中心軸線Oと交差するように配置し、次いで、測定間隔DRを以て工具114をレーザ光線LBに対してX軸またはY軸方向(図1の例ではX軸方向)に移動させ、次いで、Z軸方向にレーザ光線LBに接近させて、工具114の先端面114dがレーザ光線LBを遮ったときのスキップ信号に基づいて、X、Y、Z軸の座標値から、工具114の最大長さLTを計算し、これを繰り返して先端面114dの包絡線ECを生成することができる。加工前に測定した包絡線E0から、しきい値を差し引いて限界包絡線ECを生成し、加工後に測定して包絡線EMを生成して、両者を比較することによって、現在、主軸112に装着されている工具114が使用可能であるか否かを判定することができる。
【0041】
測定器130は、既述の実施形態におけるレーザ測定器に替えて、カメラ(図示せず)を使用することもできる。図11は、回転する工具114の刃部114bの側面をカメラにより複数の画角FV1、FV2、FV3に分割して撮像し、包絡線E0を生成することを示している。工具の寿命判定は、上記と同様に行うことができる。
【0042】
以上説明したように、本発明によると、回転工具の最大外形の包絡線の加工前、加工後、しきい値の形状を表示装置の1つの画面に並べて表示するので、工具の寿命判定を可視化できる利点もある。また、寿命判定に用いるしきい値が、工具種類(切削工具、砥粒1層電着研削工具、砥粒多層研削工具等の別)、または加工条件(荒加工、仕上げ加工等の別)に応じて設定する構成になっている。更に、しきい値を加工距離が長くなるに従って徐々に最大減寸限界位置に近づくように設定できるので、比較的加工距離が短いのにアラームが出た場合、摩耗の異常進行があることを察知でき、早い段階でオペレータが介入して、原因の追求ができる。
【符号の説明】
【0043】
10 工具寿命判定装置
12 測定制御部
14 加工距離計数部
16 寿命判定部
18 測定間隔設定部
20 加工距離設定部
22 値設定部
24 パラメータ設定部
26 表示部
28 加工前測定値記憶部
100 工作機械
112 主軸
114 工具
130 レーザ測定器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2021-12-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
更に、回転型の切削工具、例えばエンドミルには、フラットエンドミル、ラジアスエンドミル、ボールエンドミルのように複数の形態があり、その中に切れ刃の数、切れ刃の材質、荒削り/仕上げ削り用、被削材の硬度等の違いにより複数の種類がある。これら多種多様な回転工具の摩耗やチッピング等による寿命判定は、特許文献1に記載の工具具寿命管理方法では十分に対応できない。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
上述の目的を達成するために、本発明によれば、回転主軸に装着し切削加工または研削加工する回転工具の寿命判定を行う工作機械において、回転中の回転工具の最大外形を表す包絡線上の位置を所定の間隔で測定する測定器と、加工前の回転工具前記測定器で測定した加工前測定値を記憶する加工前測定値記憶部と、加工中の加工距離を積算、計数する加工距離計数部と、前記包絡線上の前記所定の間隔ごとに減寸限界位置に基づいて、前記加工距離が長くなるほど大きくなるように、しきい値を設定する設定するしきい値設定部と、前記加工前測定値記憶部に記憶されている前記加工前測定値と、加工後の回転工具前記測定器で測定した加工後測定値との差前記設定したしきい値よりも大きい場合、回転工具は寿命に達したと判定する寿命判定部とを具備する回転工具の寿命判定機能を有する工作機械が提供される。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
本発明によれば、回転中の回転工具の最大外形を表す包絡線上の位置を所定の間隔で測定することによって、回転工具の最大外形を測定するようにしたので、1つの砥粒が欠ける或いは脱離した場合や、切れ刃の一部に設定値より大きなチッピングを生じた場合であっても、それを検知し回転工具の寿命を正確に判定することが可能となる。
【手続補正4】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転主軸に装着し切削加工または研削加工する回転工具の寿命判定を行う工作機械において、
回転中の回転工具の最大外形を表す包絡線上の位置を所定の間隔で測定する測定器と、
加工前の回転工具前記測定器で測定した加工前測定値を記憶する加工前測定値記憶部と、
加工中の加工距離を積算、計数する加工距離計数部と、
前記包絡線上の前記所定の間隔ごとに減寸限界位置に基づいて、前記加工距離が長くなるほど大きくなるように、しきい値を設定する設定するしきい値設定部と、
前記加工前測定値記憶部に記憶されている前記加工前測定値と、加工後の回転工具前記測定器で測定した加工後測定値との差前記設定したしきい値よりも大きい場合、回転工具は寿命に達したと判定する寿命判定部と、
を具備することを特徴とした回転工具の寿命判定機能を有する工作機械。
【請求項2】
前記包絡線を表示する表示部を更に具備する請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記測定器は、前記工作機械のテーブル上に配設されたレーザ測定器であって、該レーザ測定器は、細い1本のレーザ光線を照射する投光器と、該投光器に対設され前記レーザ光線を受光する受光器とを備え、前記レーザ測定器が遮られたときにスキップ信号を出力するようになっている請求項1に記載の工作機械。
【請求項4】
前記レーザ測定器からスキップ信号が出力されたときの工作機械のX、Y、Zの座標値から前記回転工具の最大外形を測定するようにした請求項3に記載の工作機械。