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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022046187
(43)【公開日】2022-03-23
(54)【発明の名称】金属担持触媒、電池電極及び電池
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/89 20060101AFI20220315BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20220315BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20220315BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20220315BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20220315BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20220315BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20220315BHJP
   H01M 8/18 20060101ALN20220315BHJP
【FI】
B01J23/89 M
B01J23/42 M
B01J35/10 301G
H01M4/92
H01M8/10 101
H01M4/02 Z
H01M4/96 M
H01M8/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020152111
(22)【出願日】2020-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004374
【氏名又は名称】日清紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 彩花
(72)【発明者】
【氏名】小林 義和
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 鉄太郎
(72)【発明者】
【氏名】岸本 武亮
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
5H050
5H126
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA12
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BC67B
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CC31
4G169CC32
4G169CC40
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169EC01X
4G169EC03X
4G169EC03Y
4G169EC04X
4G169EC04Y
4G169EC05X
4G169EC05Y
4G169EC07X
4G169EC07Y
4G169EC08X
4G169EC08Y
4G169EC09X
4G169EC11X
4G169EC12X
4G169EC13X
4G169EC14X
4G169EC14Y
4G169EC15X
4G169EC16X
4G169EC17X
4G169EC25
4G169EC27
5H018AA06
5H018EE03
5H018EE05
5H018EE08
5H018EE10
5H018HH00
5H018HH01
5H018HH02
5H018HH04
5H018HH05
5H018HH09
5H050AA07
5H050AA09
5H050CA12
5H050DA16
5H050EA02
5H050EA08
5H050HA00
5H050HA05
5H050HA06
5H050HA07
5H050HA15
5H126BB06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】優れた触媒活性と耐久性とを兼ね備えた金属担持触媒、電池電極及び電池を提供する。
【解決手段】金属担持触媒は、炭素担体と、前記炭素担体に担持された触媒金属粒子Dとを含む金属担持触媒であって、前記金属担持触媒の平均細孔径に対する、前記触媒金属粒子の数平均粒子径の比が0.70以上、1.30以下であり、前記金属担持触媒の窒素吸着等温線の相対圧力が0.4以上、0.6以下の範囲内において、吸着側等温線の窒素吸着量に対する脱着側等温線の窒素吸着量の比の最大値が1.05以下であり、前記炭素担体に担持されている前記触媒金属粒子の総数に対する、前記炭素担体の外表面から20nm以上の深さの位置に担持されている前記触媒金属粒子の数の割合が11%以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素担体と、前記炭素担体に担持された触媒金属粒子とを含む金属担持触媒であって、
前記金属担持触媒の平均細孔径に対する、前記触媒金属粒子の数平均粒子径の比が0.70以上、1.30以下であり、
前記金属担持触媒の窒素吸着等温線の相対圧力が0.4以上、0.6以下の範囲内において、吸着側等温線の窒素吸着量に対する脱着側等温線の窒素吸着量の比の最大値が1.05以下であり、
前記炭素担体に担持されている前記触媒金属粒子の総数に対する、前記炭素担体の外表面から20nm以上の深さの位置に担持されている前記触媒金属粒子の数の割合が11%以上である、
金属担持触媒。
【請求項2】
一部が前記炭素担体の細孔内表面に埋まっている前記触媒金属粒子を含む、
請求項1に記載の金属担持触媒。
【請求項3】
前記炭素担体に担持されている前記触媒金属粒子の総数に対する、前記炭素担体の外表面に担持されている前記触媒金属粒子の数の割合が33%以下である、
請求項1又は2に記載の金属担持触媒。
【請求項4】
前記触媒金属粒子の数平均粒子径が1.50nm以上、5.00nm以下である、
請求項1乃至3のいずれかに記載の金属担持触媒。
【請求項5】
前記触媒金属粒子の体積平均粒子径が2.00nm以上、6.50nm以下である、
請求項1乃至4に記載の金属担持触媒。
【請求項6】
窒素吸着法によるBET比表面積が200(m/g-炭素担体)以上である、
請求項1乃至5のいずれかに記載の金属担持触媒。
【請求項7】
窒素吸着法によるBET比表面積(m/g-炭素担体)に対する、水蒸気吸着法によるBET比表面積(m/g-炭素担体)の比が、0.080以下である、
請求項1乃至6のいずれかに記載の金属担持触媒。
【請求項8】
孔径5nm未満の細孔の容積が0.50(cm/g-炭素担体)以上である、
請求項1乃至7のいずれかに記載の金属担持触媒。
【請求項9】
孔径5nm以上の細孔の容積に対する、孔径5nm未満の細孔の容積の比が1.80以上である、
請求項1乃至8のいずれかに記載の金属担持触媒。
【請求項10】
曲路率が1.90以下である、
請求項1乃至9のいずれかに記載の金属担持触媒。
【請求項11】
ラマン分光法により得られるラマンスペクトルにおいて、1340cm-1付近にピークトップを有するDバンドの半値半幅85.0cm-1以下を示す炭素構造を含む、
請求項1乃至10のいずれかに記載の金属担持触媒。
【請求項12】
前記炭素担体のメディアン径が1.00μm以下である、
請求項1乃至11のいずれかに記載の金属担持触媒。
【請求項13】
前記触媒金属粒子は、白金粒子である、
請求項1乃至12のいずれかに記載の金属担持触媒。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれかに記載の金属担持触媒を含む電池電極。
【請求項15】
請求項14に記載の電池電極を含む電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属担持触媒、電池電極及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、触媒が担体に担持された燃料電池用触媒であって、触媒担体の平均細孔径/触媒金属粒径(PGM)の値が0.5以上1.8以下である燃料電池用触媒が記載されている。
【0003】
特許文献2には、触媒担体及び当該触媒担体に担持される触媒金属からなる触媒であって、当該触媒の担体重量当たりの比表面積が715m/g担体以上であり、かつ当該触媒における担体重量当たりの酸性基の量が0.75mmol/g担体以下である触媒が記載されている。
【0004】
特許文献3には、以下の構成(1)及び(2)を備えた固体高分子形燃料電池電極触媒が記載されている。(1)当該固体高分子形燃料電池電極触媒は、導電性材料からなる担体と、当該担体の表面に担持された触媒粒子とを備えている。(2)当該担体は、連通したメソ細孔を有し、かつ、次の式の関係を満たす:1.0≦ΔVdes/ΔVads≦1.14(ただし、ΔVdes=Vdes(0.49)-Vdes(0.01)、ΔVads=Vads(0.49)-Vads(0.01)、Vdes(0.49)は、相対圧P/P0=0.49、メソ孔域での窒素吸着等温線の脱着過程の吸着量、Vdes(0.01)は、相対圧P/P0=0.01、ミクロ孔域での窒素吸着等温線の脱着過程の吸着量、Vads(0.49)は、相対圧P/P0=0.49、メソ孔域での窒素吸着等温線の吸着過程の吸着量、Vads(0.01)は、相対圧P/P0=0.01、ミクロ孔域での窒素吸着等温線の吸着過程の吸着量)。
【0005】
特許文献4には、白金、コバルト、マンガンからなる触媒粒子が炭素粉末担体上に担持されてなる固体高分子形燃料電池用触媒において、当該触媒粒子は、白金、コバルト、マンガンの構成比がモル比でPt:Co:Mn=1:0.25~0.28:0.07~0.10であり、当該触媒粒子の平均粒子径が3.4~5.0nmであり、さらに、触媒粒子の粒度分布において、粒径3.0nm以下の触媒粒子の全触媒粒子に占める割合が粒子数基準で37%以下であり、少なくとも当該触媒粒子の表面に、C-F結合を有するフッ素化合物が担持されている固体高分子形燃料電池用触媒が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2007/055411号
【特許文献2】特表2014-175105号公報
【特許文献3】特開2017-091812号公報
【特許文献4】国際公開第2019/065443号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら従来、優れた触媒活性と耐久性とを兼ね備えた金属担持触媒を得ることは難しかった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、優れた触媒活性と耐久性とを兼ね備えた金属担持触媒、電池電極及び電池を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る金属担持触媒は、炭素担体と、前記炭素担体に担持された触媒金属粒子とを含む金属担持触媒であって、前記金属担持触媒の平均細孔径に対する、前記触媒金属粒子の数平均粒子径の比が0.70以上、1.30以下であり、前記金属担持触媒の窒素吸着等温線の相対圧力が0.4以上、0.6以下の範囲内において、吸着側等温線の窒素吸着量に対する脱着側等温線の窒素吸着量の比の最大値が1.05以下であり、前記炭素担体に担持されている前記触媒金属粒子の総数に対する、前記炭素担体の外表面から20nm以上の深さの位置に担持されている前記触媒金属粒子の数の割合が11%以上である。本発明によれば、優れた触媒活性と耐久性とを兼ね備えた金属担持触媒が提供される。
【0010】
前記金属担持触媒は、一部が前記炭素担体の細孔内表面に埋まっている前記触媒金属粒子を含むこととしてもよい。前記金属担持触媒は、前記炭素担体に担持されている前記触媒金属粒子の総数に対する、前記炭素担体の外表面に担持されている前記触媒金属粒子の数の割合が33%以下であることとしてもよい。
【0011】
前記金属担持触媒においては、前記触媒金属粒子の数平均粒子径が1.50nm以上、5.00nm以下であることとしてもよい。前記金属担持触媒においては、前記触媒金属粒子の体積平均粒子径が2.00nm以上、6.50nm以下であることとしてもよい。
【0012】
前記金属担持触媒は、窒素吸着法によるBET比表面積が200(m/g-炭素担体)以上であることとしてもよい。前記金属担持触媒は、窒素吸着法によるBET比表面積(m/g-炭素担体)に対する、水蒸気吸着法によるBET比表面積(m/g-炭素担体)の比が、0.080以下であることとしてもよい。
【0013】
前記金属担持触媒は、孔径5nm未満の細孔の容積が0.50(cm/g-炭素担体)以上であることとしてもよい。前記金属担持触媒は、孔径5nm以上の細孔の容積に対する、孔径5nm未満の細孔の容積の比が1.80以上であることとしてもよい。前記金属担持触媒は、曲路率が1.90以下であることとしてもよい。
【0014】
前記金属担持触媒は、ラマン分光法により得られるラマンスペクトルにおいて、1340cm-1付近にピークトップを有するDバンドの半値半幅85.0cm-1以下を示す炭素構造を含むこととしてもよい。前記金属担持触媒においては、前記炭素担体のメディアン径が1.00μm以下であることとしてもよい。前記金属担持触媒において、前記触媒金属粒子は、白金粒子であることとしてもよい。
【0015】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る電池電極は、前記金属担持触媒を含む。本発明によれば、優れた触媒活性と耐久性とを兼ね備えた電池電極が提供される。
【0016】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る電池は、前記電池電極を含む。本発明によれば、優れた触媒活性と耐久性とを兼ね備えた電池が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた触媒活性と耐久性とを兼ね備えた金属担持触媒、電池電極及び電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】金属担持触媒における炭素担体の細孔のサイズと、当該炭素担体に担持された触媒金属粒子のサイズ及び配置との関係を模式的に示す説明図である。
図2】金属担持触媒の窒素吸着法により得られた窒素吸着等温線の一例を示す説明図である。
図3】金属担持触媒のラマン分光法により得られたラマンスペクトルの一例を示す説明図である。
図4】金属担持触媒のX線回折図形において回折角(2θ)が40°付近の位置にピークトップを有する白金の(111)回折線のピーク分離を実施した結果の一例を示す説明図である。
図5】金属担持触媒の電子線トモグラフィ-により得られた3次元再構成粒子像の一例を示す説明図である。
図6A】電子線トモグラフィ-により得られた金属担持触媒の炭素担体の3次元再構成像の一例を示す説明図である。
図6B図6Aに示す3次元再構成像から得られた立方体の3次元再構成像の一例を示す説明図である。
図6C図6Bに示す立方体の3次元再構成像から得られた3つの断面像の例を示す説明図である。
図6D図6Cに示す断面像の一つにおいて決定された空隙経路を示す説明図である。
図6E】空隙経路の決定の一例を模式的に示す説明図である。
図6F】立方体の3次元再構成像における空隙経路の長さ及び最短直線距離を模式的に示す説明図である。
図7】金属担持触媒の特性、電池の性能及び炭素担体の触媒活性を評価した結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態で示す例に限られない。
【0020】
本実施形態に係る金属担持触媒(以下、「本触媒」という。)は、炭素担体と、当該炭素担体に担持された触媒金属粒子とを含む金属担持触媒であって、当該金属担持触媒の平均細孔径に対する、当該触媒金属粒子の数平均粒子径の比が0.70以上、1.30以下であり、当該金属担持触媒の窒素吸着等温線の相対圧力が0.4以上、0.6以下の範囲内において、吸着側等温線の窒素吸着量に対する脱着側等温線の窒素吸着量の比の最大値が1.05以下であり、当該炭素担体に担持されている当該触媒金属粒子の総数に対する、当該炭素担体の外表面から20nm以上の深さの位置に担持されている当該触媒金属粒子の数の割合が11%以上である。
【0021】
本触媒は、炭素担体と、当該炭素担体に担持された触媒金属粒子とを含む。本触媒は、主に炭素担体及び触媒金属粒子から構成されることが好ましい。本触媒の重量に対する、本触媒に含まれる炭素担体の重量と触媒金属粒子の重量との合計の割合は、例えば、90重量%以上(90重量%以上、100重量%以下)であってもよく、95重量%以上であることが好ましく、98重量%以上であることが特に好ましい。本触媒の重量に対する、本触媒に含まれる炭素担体の重量と触媒金属粒子の重量との合計の割合は、熱重量分析(TG)により得られる。
【0022】
本触媒に含まれる炭素担体は、主に炭素から構成される炭素材料である。炭素担体の炭素含有量は、例えば、70重量%以上(70重量%以上、100重量%以下)であってもよく、75重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましく、85重量%以上であることが特に好ましい。炭素担体の炭素含有量は、当該炭素担体の元素分析(燃焼法)により得られる。
【0023】
炭素担体は、多孔質の炭素材料であることが好ましい。この場合、炭素担体は、高い連通性を有する細孔を含むことが好ましい。すなわち、炭素担体は、多くの連通孔を有する炭素材料であることが好ましい。
【0024】
炭素担体は、炭素化材料であってもよい。炭素化材料は、有機物を含む原料の炭素化により得られる。炭素化の原料における有機物の含有量は、例えば、5重量%以上、90重量%以下であってもよく、10重量%以上、80重量%以下であることが好ましい。
【0025】
原料に含まれる有機物は、炭素化できるものであれば特に限られない。有機物に含まれる有機化合物は、ポリマー(例えば、熱硬化性樹脂及び/又は熱可塑性樹脂)であってもよいし、及び/又は、より分子量が小さい有機化合物であってもよい。
【0026】
具体的に、有機物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル-ポリアクリル酸共重合体、ポリアクリロニトリル-ポリアクリル酸メチル共重合体、ポリアクリロニトリル-ポリメタクリル酸共重合体、ポリアクリロニトリル-ポリメタクリル酸-ポリメタリルスルホン酸共重合体、ポリアクリロニトリル-ポリメタクリル酸メチル共重合体、フェノール樹脂、ポリフルフリルアルコール、フラン、フラン樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、メラミン、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、窒素含有キレート樹脂(例えば、ポリアミン型、イミノジ酢酸型、アミノリン酸型及びアミノメチルホスホン酸型からなる群より選択される1種以上)、ポリアミドイミド樹脂、ピロール、ポリピロール、ポリビニルピロール、3-メチルポリピロール、アクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、チオフェン、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、ビニルピリジン、ポリビニルピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピペラジン、ピラン、モルホリン、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、キノキサリン、アニリン、ポリアニリン、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ポリスルフォン、ポリアミノビスマレイミド、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ベンゾイミダゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミド、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、セルロース、カルボキシメチルセルロース、リグニン、キチン、キトサン、ピッチ、絹、毛、ポリアミノ酸、核酸、DNA、RNA、ヒドラジン、ヒドラジド、尿素、サレン、ポリカルバゾール、ポリビスマレイミド、トリアジン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリメタクリル酸、ポリウレタン、ポリアミドアミン及びポリカルボジイミドからなる群より選択される1種以上であってもよい。
【0027】
炭素担体は、窒素を含むことが好ましい。すなわち、この場合、炭素担体は、その炭素構造に窒素原子を含む。窒素を含む炭素担体は、窒素を含む炭素化材料であることが好ましい。窒素含有炭素化材料は、窒素含有有機物を含む原料の炭素化により得られる。窒素含有有機物は、窒素含有有機化合物を含むことが好ましい。窒素含有有機化合物は、その分子内に窒素原子を含む有機化合物であれば特に限られない。また、炭素担体に含まれる窒素は、窒素ドープ処理により導入されたものであってもよい。
【0028】
炭素担体の窒素含有量は、例えば、0.10重量%以上であってもよく、0.15重量%以上であることが好ましく、0.20重量%以上であることがより好ましく、0.25重量%以上であることがより一層好ましく、0.30重量%以上であることが特に好ましい。炭素担体の窒素含有量の上限値は特に限られないが、当該窒素含有量は、例えば、10.00重量%以下であってもよい。炭素担体の窒素含有量は、当該炭素担体の元素分析(燃焼法)により得られる。
【0029】
炭素化材料の製造における炭素化は、原料を加熱し、当該原料に含まれる有機物が炭素化される温度(以下、「炭素化温度」という。)で保持することにより行う。炭素化温度は、原料が炭素化される温度であれば特に限られず、例えば、300℃以上であってもよく、700℃以上であることが好ましく、900℃以上であることがより好ましく、1000℃以上であることがより一層好ましく、1100℃以上であることが特に好ましい。炭素化温度の上限値は、特に限られないが、当該炭素化温度は、例えば、3000℃以下であってもよい。
【0030】
炭素化温度までの昇温速度は特に限られず、例えば、0.5℃/分以上、300℃/分以下であってもよい。炭素化において、炭素化温度で原料を保持する時間は、例えば、1秒以上、24時間以下であってもよく、5分以上、24時間以下であることが好ましい。炭素化は、窒素雰囲気等の不活性雰囲気中で行うことが好ましい。
【0031】
炭素化は、常圧(大気圧)下で行ってもよいが、加圧下(大気圧より大きい圧力下)で行うことが好ましい。加圧下で炭素化を行う場合、当該炭素化を行う雰囲気の圧力は、例えば、ゲージ圧で0.05MPa以上であってもよく、ゲージ圧で0.15MPa以上であることが好ましく、0.20MPa以上であることがより好ましく、0.40MPa以上であることがより一層好ましく、0.50MPa以上であることが特に好ましい。炭素化を行う雰囲気の圧力の上限値は特に限られないが、当該圧力は、例えば、10.00MPa以下であってもよい。
【0032】
炭素担体は、有機物及び金属を含む原料の炭素化により得られる炭素化材料であってもよい。この場合、炭素担体は、炭素化後に金属除去処理が施された炭素化材料であってもよい。金属除去処理は、炭素化材料に含まれる原料由来の金属の量を低減する処理である。具体的に、金属除去処理は、例えば、酸による洗浄処理及び/又は電解処理であることが好ましい。
【0033】
炭素担体が有機物及び金属を含む原料の炭素化により得られる炭素化材料である場合、当該炭素担体は、当該炭素化の原料に由来する金属(以下、「原料金属」という。)を含む。この場合、炭素担体は、その骨格の内部に原料金属を含む。すなわち、炭素担体は、その多孔質構造を構成する骨格の内部に原料金属を含む。炭素担体が上述のように金属除去処理を経て製造される炭素化材料であっても、当該炭素担体の骨格の内部には原料金属が残存する。炭素担体に含まれる原料金属のうち、当該炭素担体の骨格の内部に含まれる原料金属の重量は、当該炭素担体の骨格の表面に含まれる原料金属の重量より大きいこととしてもよい。
【0034】
炭素担体の骨格の内部の原料金属は、当該骨格に表面エッチング処理を行い、当該エッチング処理により露出した断面を分析することで検出される。すなわち、炭素担体の1つの粒子をエッチング処理すると、エッチング処理により露出した当該粒子の断面に原料金属が検出される。炭素担体に含まれる原料金属は、例えば、当該炭素担体の誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)によって検出することができる。
【0035】
炭素担体の原料金属含有量(炭素担体の重量に対する、当該炭素担体に含まれる原料金属の重量の割合)は、例えば、0.01重量%以上であってもよく、0.03重量%以上であってもよく、0.05重量%以上であってもよい。また、炭素担体の原料金属含有量は、例えば、5.00重量%以下であってもよく、4.00重量%以下であってもよく、3.00重量%以下であってもよい。炭素担体の原料金属含有量は、上述した下限値のいずれかと、上述した上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。炭素担体の原料金属含有量は、当該炭素担体のICP-MSにより得られる。
【0036】
炭素担体は、触媒活性を示す炭素材料であることが好ましい。すなわち、炭素担体は、それ自身が単独で触媒活性を示す炭素触媒であることが好ましい。炭素触媒は、上述のように有機物と金属とを含む原料を炭素化することにより得られる、原料金属を含む炭素化材料であることが好ましい。
【0037】
炭素触媒が示す触媒活性は、例えば、還元活性及び/又は酸化活性であることが好ましく、酸素還元活性及び/又は水素酸化活性であることがより好ましく、少なくとも酸素還元活性であることが特に好ましい。
【0038】
具体的に、炭素担体は、当該炭素担体を0.1mg/cmの密度(電池電極の単位面積あたりの含有量)で担持した作用電極を含む回転ディスク電極装置を用いて得られる酸素還元ボルタモグラムにおいて、0.7V(vs.NHE)の電圧を印加した時に0.01(mA/cm)以上の還元電流密度I0.7を達成する酸素還元活性を示すこととしてもよく、0.05(mA/cm)以上の還元電流密度I0.7を達成する酸素還元活性を示すことが好ましく、0.08(mA/cm)以上の還元電流密度I0.7を達成する酸素還元活性を示すことが特に好ましい。上記還元電流密度I0.7の上限値は特に限られないが、例えば、7.00(mA/cm)以下であってもよい。
【0039】
また、炭素担体は、当該炭素担体を0.1mg/cmの密度(電池電極の単位面積あたりの含有量)で担持した作用電極を含む回転ディスク電極装置を用いて得られる酸素還元ボルタモグラムにおいて、-10μA/cmの還元電流が流れた時に0.35(V vs.NHE)以上の酸素還元開始電位EO2を達成する酸素還元活性を示すこととしてもよく、0.50(V vs.NHE)以上の酸素還元開始電位EO2を達成する酸素還元活性を示すことが好ましく、0.65(V vs.NHE)以上の酸素還元開始電位EO2を達成する酸素還元活性を示すことが特に好ましい。上記酸素還元開始電位EO2の上限値は特に限られないが、例えば、1.23(V vs.NHE)以下であってもよい。
【0040】
有機物と金属とを含む原料の炭素化により得られる炭素触媒が示す触媒活性は、当該炭素触媒に含まれる原料金属よりも、主に炭素化により形成された特異な炭素構造に含まれる活性点によるものと考えられる。このことは、炭素化により得られた炭素化材料に、その原料金属の含有量を低減する金属除去処理を施した場合においても、当該金属除去処理後の当該炭素化材料の触媒活性は、当該金属除去処理前のそれに比べて大きく低下しないことや、有機物を含み金属を含まない原料の炭素化により得られた炭素化材料の表面に金属を担持して得られる炭素材料は、当該有機物及び当該金属を含む原料の炭素化により得られた炭素化材料のように優れた触媒活性を有しないことによって裏付けられる。
【0041】
原料金属は、遷移金属であることが好ましい。すなわち、原料金属は、周期表の3族から12族に属する遷移金属であってもよい。原料金属は、白金以外の遷移金属であってもよい。また、原料金属は、貴金属(例えば、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、銀(Ag)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、及び金(Au))以外の遷移金属であってもよい。原料金属は、周期表の3族から12族の第4周期に属する遷移金属であることが好ましい。
【0042】
具体的に、原料金属は、例えば、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、ランタノイド(例えば、ガドリニウム(Gd))及びアクチノイドからなる群からなる群より選択される1種以上であってもよく、Fe、Co、Ni、Cu、及びZnからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、Fe、Co、Ni、及びZnからなる群より選択される1種以上であることが特に好ましい。
【0043】
炭素担体の粒子径は特に限られないが、例えば、炭素担体のメディアン径は、1.00μm以下であってもよく、0.80μm以下であることが好ましく、0.60μm以下であることがより好ましく、0.50μm以下であることがより一層好ましく、0.45μm以下であることが特に好ましい。炭素担体のメディアン径の下限値は特に限られないが、当該メディアン径は、例えば、0.05μm以上であってもよい。炭素担体の粒子径は、当該炭素担体のレーザー回折法により得られる。
【0044】
本触媒に含まれる触媒金属粒子は、触媒活性を示す金属粒子であれば特に限られないが、例えば、還元活性及び/又は酸化活性を示す金属粒子であることが好ましく、酸素還元活性及び/又は水素酸化活性を示す金属粒子であることがより好ましく、少なくとも酸素還元活性を示す金属粒子であることが特に好ましい。
【0045】
具体的に、触媒金属粒子は、貴金属を含む金属粒子(以下、「貴金属粒子」という。)であることが好ましい。貴金属粒子は、純貴金属(合金を形成していない貴金属)及び/又は貴金属合金を含む。触媒金属粒子(例えば、貴金属粒子)は、原料金属と同一種の金属を含まないこととしてもよい。
【0046】
貴金属は、例えば、Ru、Pd、Rh、Ag、Os、Ir、Pt及びAuからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、Ru、Pd、Rh、Ir及びPtからなる群より選択される1種以上であることがより好ましく、Ptであることが特に好ましい。すなわち、貴金属粒子は、Pt粒子であることが特に好ましい。Pt粒子は、純Pt及び/又はPt合金を含む。
【0047】
貴金属合金は、1種以上の貴金属と、1種以上の非貴金属との合金である。非貴金属は、貴金属以外の金属であって、貴金属と合金を形成するものであれば特に限られないが、遷移金属であることが好ましい。具体的に、貴金属合金に含まれる非貴金属は、例えば、Cu、Mn、Ce、Au、Pd、Ru、Nb、Ti、Fe、Co及びNiからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、Fe、Co及びNiからなる群より選択される1種以上であることがより好ましく、Co及びNiからなる群より選択される1種以上であることが特に好ましい。
【0048】
貴金属粒子における貴金属の含有量(貴金属粒子の重量に対する、当該貴金属粒子に含まれる貴金属の重量(2種以上の貴金属が含まれる場合には、当該2種以上の貴金属の重量の合計)の割合)は、本発明の効果が得られる範囲内であれば特に限られないが、例えば、50重量%以上(50重量%以上、100重量%以下)であってもよく、75重量%以上であることが好ましく、85重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることが特に好ましい。貴金属粒子の貴金属含有量は、ICP-MSにより得られる。
【0049】
触媒金属粒子が貴金属粒子である場合、本触媒における貴金属の含有量(本触媒の重量に対する、本触媒に含まれる貴金属の重量の割合)は、例えば、1.0重量%以上であってもよく、3.0重量%以上であることが好ましく、5.0重量%以上であることがより好ましく、10.0重量%以上であることがより一層好ましく、15.0重量%以上であることが特に好ましい。本触媒の貴金属含有量は、例えば、60.0重量%以下であってもよい。金属担持触媒の貴金属含有量は、ICP-MSにより得られる。
【0050】
触媒金属粒子が貴金属粒子であり、且つ、本触媒が非貴金属(例えば、貴金属粒子が貴金属合金を含む場合には、当該貴金属合金に含まれる非貴金属、及び/又は、炭素担体が非貴金属である原料金属を含む場合には、当該原料金属)を含む場合、本触媒に含まれる非貴金属に対する貴金属のモル比(以下、「貴金属/非貴金属モル比」という。)は、例えば、0.3以上であってもよく、0.5以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましく、3.0以上であることがより一層好ましく、4.0以上であることが特に好ましい。本触媒の貴金属/非貴金属モル比は、例えば、20.0以下であってもよく、15.0以下であることが好ましく、10.0以下であることが特に好ましい。貴金属/非貴金属モル比は、上述したいずれかの下限値と、上述したいずれかの上限値とを任意に組み合わせて特定されてもよい。金属担持触媒の貴金属/非貴金属モル比は、ICP-MSにより得られる。
【0051】
本触媒において、触媒金属粒子の数平均粒子径は、例えば、1.50nm以上、5.00nm以下であってもよく、1.90nm以上、4.00nm以下であることが好ましく、2.10nm以上、3.80nm以下であることがより好ましく、2.10nm以上、3.50nm以下であることがより一層好ましく、2.10nm以上、3.40nm以下であることが特に好ましい。触媒金属粒子の数平均粒子径は、X線回折法により得られる。
【0052】
本触媒において、触媒金属粒子の体積平均粒子径は、例えば、2.00nm以上、6.50nm以下であってもよく、2.30nm以上、6.00nm以下であることが好ましく、2.30nm以上、5.50nm以下であることがより好ましく、2.30nm以上、5.30nm以下であることがより一層好ましく、2.40nm以上、5.20nm以下であることが特に好ましい。触媒金属粒子の体積平均粒子径は、X線回折法により得られる。
【0053】
本触媒の平均細孔径に対する、触媒金属粒子の数平均粒子径の比(以下、「触媒金属粒子径/細孔径比」という。)は、0.70以上、1.30以下である。本触媒の触媒金属粒子径/細孔径比は、例えば、0.72以上、1.20以下であることが好ましく、0.75以上、1.10以下であることがより好ましく、0.78以上、1.00以下であることがより一層好ましく、0.80以上、1.00以下であることが特に好ましい。
【0054】
本触媒の触媒金属粒子径/細孔径比が上述の範囲内であることは、炭素担体に担持されている触媒金属粒子の多くが、当該炭素担体の細孔の径に近い粒子径を有していることを示す。
【0055】
本触媒の平均細孔径は、例えば、2.00nm以上、5.00nm以下であってもよく、2.40nm以上、4.60nm以下であることが好ましく、2.60nm以上、4.40nm以下であることがより好ましく、2.80nm以上、4.20nm以下であることがより一層好ましく、3.00nm以上、4.00nm以下であることが特に好ましい。
【0056】
金属担持触媒の平均細孔径は、当該金属担持触媒の窒素吸着法により得られる。具体的に、金属担持触媒の平均細孔径は、市販の比表面積・細孔分布測定装置に付属の解析ソフトウェアを使用し、次の式により得られる:金属担持触媒の平均細孔径(nm)=4×{金属担持触媒の全細孔容積(cm/g-金属担持触媒)×1021}/金属担持触媒の比表面積(m/g-金属担持触媒)×1018
【0057】
本触媒の全細孔容積は、例えば、0.50(cm/g-炭素担体)以上であってもよく、0.70(cm/g-炭素担体)以上であることが好ましく、0.85(cm/g-炭素担体)以上であることがより好ましく、0.90(cm/g-炭素担体)以上であることがより一層好ましく、1.00(cm/g-炭素担体)以上であることが特に好ましい。本触媒の全細孔容積の上限値は特に限られないが、当該全細孔容積は、例えば、5.00(cm/g-炭素担体)以下であってもよい。金属担持触媒の全細孔容積は、当該金属担持触媒の窒素吸着法(より具体的には、BJH法)により得られる。なお、数値の単位における「/g-炭素担体」は、金属担持触媒に含まれる炭素担体1gあたりの値であることを示す。
【0058】
本触媒の孔径5nm未満の細孔の容積(以下、「5nm未満細孔の容積」という。)は、例えば、0.50(cm/g-炭素担体)以上であってもよく、0.60(cm/g-炭素担体)以上であることが好ましく、0.65(cm/g-炭素担体)以上であることがより好ましく、0.70(cm/g-炭素担体)以上であることが特に好ましい。本触媒の5nm未満細孔の容積の上限値は特に限られないが、当該5nm未満細孔の容積は、例えば、5.00(cm/g-炭素担体)以下であってもよい。金属担持触媒の5nm未満細孔の容積は、当該金属担持触媒の窒素吸着法(より具体的には、BJH法)により得られる。
【0059】
本触媒の5nm未満細孔の容積が大きいことは、本触媒の触媒活性に寄与する。すなわち、例えば、孔径が比較的小さい細孔は、高い触媒活性を示す比較的小さな粒子径を有する触媒金属粒子が優先的に生成される場となり、本触媒の優れた触媒活性に寄与する。
【0060】
本触媒の孔径5nm以上の細孔の容積(以下、「5nm以上細孔の容積」という。)は、例えば、0.70(cm/g-炭素担体)以下であってもよく、0.60(cm/g-炭素担体)以下であることが好ましく、0.50(cm/g-炭素担体)以下であることがより好ましく、0.45(cm/g-炭素担体)以下であることが特に好ましい。本触媒の5nm以上細孔の容積の下限値は特に限られないが、当該5nm以上細孔の容積は、例えば、0.10(cm/g-炭素担体)以上であってもよい。金属担持触媒の5nm以上細孔の容積は、当該金属担持触媒の窒素吸着法(より具体的には、BJH法)により得られる。
【0061】
本触媒の5nm以上細孔の容積に対する、本触媒の5nm未満細孔の容積の比(以下、「5nm未満細孔/5nm以上細孔容積比」という。)は、例えば、1.80以上であってもよく、1.90以上であることが好ましく、2.00以上であることが特に好ましい。本触媒の5nm未満細孔/5nm以上細孔容積比の上限値は特に限られないが、当該細孔容積比は、例えば、15.00以下であってもよい。
【0062】
本触媒が孔径5nm未満細孔を多く含むことにより、例えば、本触媒の細孔内に担持された触媒金属粒子の劣化(例えば、細孔に水が入り込むことによる、当該細孔内に担持された触媒金属の酸化)が効果的に抑制される。
【0063】
本触媒の窒素吸着法によるBET比表面積(以下、「N-BET比表面積」という。)は、例えば、200(m/g-炭素担体)以上であってもよく、600(m/g-炭素担体)以上であることが好ましく、900(m/g-炭素担体)以上であることがより好ましく、1000(m/g-炭素担体)以上であることがより一層好ましく、1100(m/g-炭素担体)以上であることが特に好ましい。本触媒のN-BET比表面積の上限値は特に限られないが、当該N-BET比表面積は、例えば、3000(m/g-炭素担体)以下であってもよい。
【0064】
本触媒のN-BET比表面積(m/g-炭素担体)に対する、本触媒の水蒸気吸着法によるBET比表面積(m/g-炭素担体)の比(以下、「水蒸気-BET/窒素-BET比表面積比」という。)は、例えば、0.080以下であってもよく、0.070以下であることが好ましく、0.060以下であることがより好ましく、0.055以下であることがより一層好ましく、0.050以下であることが特に好ましい。本触媒の水蒸気-BET/窒素-BET比表面積比の下限値は特に限られないが、当該比表面積比は、例えば、0.010以上であってもよい。
【0065】
本触媒の水蒸気-BET/窒素-BET比表面積比が小さいことは、本触媒の細孔の疎水性が高いことを示す。したがって、本触媒の水蒸気-BET/窒素-BET比表面積比が小さいことにより、本触媒の細孔内への水の過剰な侵入が抑制され、及び/又は、化学反応により細孔内で生成した水が細孔外へ排出されやすくなる。
【0066】
本触媒は、その窒素吸着等温線の相対圧力が0.4以上、0.6以下の範囲内において、吸着側等温線の窒素吸着量に対する脱着側等温線の窒素吸着量の比(以下、「N脱着/吸着量比」という。)の最大値が1.05以下を示す。
【0067】
すなわち、本触媒の窒素吸着法(より具体的には、BET法)により得られる窒素吸着等温線においては、飽和蒸気圧(P)に対する吸着平衡圧(P)の比である相対圧力(P/P)が0.4以上、0.6以下の範囲内の全ての測定点において、脱着側等温線の窒素吸着量を吸着側等温線の窒素吸着量で除して得られるN脱着/吸着量比が、1.05以下の範囲内に収まる。なお、N脱着/吸着量比は、その測定原理上、1.00以上の値となる。
【0068】
本触媒のN脱着/吸着量比の最大値は、1.04以下であることが好ましく、1.03以下であることがより好ましく、1.02以下であることがより一層好ましく、1.01以下であることが特に好ましい。
【0069】
本触媒のN脱着/吸着量比の最大値が上記範囲内であることは、本触媒の窒素吸着等温線がヒステリシスを実質的に示さないことを意味し、本触媒の細孔が高い連通性を有すること(本触媒が多くの連通孔を有すること)を示す。すなわち、本触媒においては、炭素担体の細孔内に触媒金属粒子が担持されているが、当該触媒金属粒子を担持している細孔は、連通性を維持している。
【0070】
本触媒においては、炭素担体に担持されている触媒金属粒子の総数に対する、当該炭素担体の外表面から20nm以上の深さの位置に担持されている触媒金属粒子の数の割合(以下、「20nm以上深さの触媒金属担持割合」という。)が11%以上である。
【0071】
本触媒の20nm以上深さの触媒金属担持割合は、次の式により算出される:本触媒の20nm以上深さの触媒金属担持割合(%)=「炭素担体の外表面から20nm以上の深さの位置に担持されている触媒金属粒子の数」÷「炭素担体に担持されている触媒金属粒子の総数」×100。
【0072】
本触媒において炭素担体に担持されている触媒金属粒子の総数は、当該炭素担体の外表面に担持されている触媒金属粒子の数と、当該炭素担体の内部に担持されている触媒金属粒子の数との合計である。
【0073】
また、本触媒において炭素担体の外表面から20nm以上の深さの位置に担持されている触媒金属粒子の数は、当該炭素担体の内部に担持されている触媒金属粒子の数から、当該担体の外表面から20nm未満の深さの位置に担持されている触媒金属粒子の数を減じて得られる数に等しい。
【0074】
本触媒の20nm以上深さの触媒金属担持割合は、例えば、12%以上であることが好ましく、13%以上であることがより好ましく、14%以上であることがより一層好ましく、15%以上であることが特に好ましい。本触媒の20nm以上深さの触媒金属担持割合の上限値は特に限られないが、当該割合は、例えば、50%以下であってもよい。本触媒の20nm以上深さの触媒金属担持割合は、電子線トモグラフィ-により得られる。
【0075】
炭素担体の外表面から20nm以上の深さの位置の細孔内に担持された触媒金属粒子は、当該外表面に担持された触媒金属粒子や当該外表面により近い位置に担持された触媒金属粒子に比べて劣化しにくい。このため、本触媒の20nm以上深さの触媒金属担持割合が大きいことは、本触媒の触媒活性及び耐久性に寄与する。
【0076】
本触媒においては、炭素担体に担持されている触媒金属粒子の総数に対する、当該炭素担体の外表面に担持されている触媒金属粒子の数の割合(以下、「外表面の触媒金属担持割合」という。)が、例えば、40%以下であってもよく、33%以下であることが好ましく、32%以下であることがより好ましく、31%以下であることがより一層好ましく、30%以下であることが特に好ましい。本触媒の外表面の触媒金属担持割合の下限値は特に限られないが、当該割合は、例えば、5%以上であってもよい。本触媒の外表面の触媒金属担持割合は、電子線トモグラフィ-により得られる。
【0077】
本触媒の外表面の触媒金属担持割合が上記範囲内であることは、本触媒に含まれる触媒金属粒子の多くが炭素担体の内部に担持されていることを示す。炭素担体の内部に担持された触媒金属粒子は、当該炭素担体の外表面に担持された触媒金属粒子に比べて劣化しにくい。このため、本触媒の外表面の触媒金属担持割合が小さいことは、本触媒の触媒活性及び耐久性に寄与する。
【0078】
本触媒においては、炭素担体に担持されている触媒金属粒子の総数に対する、当該炭素担体の外表面に担持されている触媒金属粒子の数と当該炭素担体の当該外表面から5nm以下の深さの位置に担持されている触媒金属粒子の数との合計の割合(以下、「外表面+5nm以下深さの触媒金属担持割合」という。)が、例えば、60%以下であってもよく、58%以下であることが好ましく、54%以下であることがより好ましく、52%以下であることがより一層好ましく、50%以下であることが特に好ましい。本触媒の外表面+5nm以下深さの触媒金属担持割合の下限値は特に限られないが、当該割合は、例えば、10%以上であってもよい。本触媒の外表面+5nm以下深さの触媒金属担持割合は、電子線トモグラフィ-により得られる。
【0079】
本触媒は、一部が炭素担体の細孔内表面に埋まっている触媒金属粒子を含むこととしてもよい。この場合、炭素担体に担持された触媒金属粒子の少なくとも一部は、当該炭素担体の細孔内に担持され、且つ、その各々の一部が当該細孔内表面に埋まっている。
【0080】
ここで、図1には、炭素担体の細孔のサイズと、当該炭素担体に担持された触媒金属粒子のサイズ及び配置との関係を模式的に示す。なお、図1は、あくまでも模式的な説明図であり、例えば、炭素担体のサイズと、細孔及び触媒金属粒子のサイズとの相対的な関係や、当該炭素担体の細孔の形状は、実際のものと必ずしも一致しない。
【0081】
図1において、触媒金属粒子Dは、炭素担体の細孔内に担持され、且つ、その一部が当該細孔の内表面に埋まっている。本触媒が、触媒金属粒子Dのように、その一部が細孔内表面に埋まっている触媒金属粒子を含むことは、例えば、本触媒の触媒金属粒子径/細孔径比が0.70以上、1.30以下であり、本触媒のN脱着/吸着量比の最大値が1.05以下であり、且つ、外表面の触媒金属担持割合が33%以下であることにより裏付けられる。
【0082】
すなわち、本触媒においては、炭素担体の細孔の径に近い粒子径を有する触媒金属粒子が、当該炭素担体の外表面よりも当該炭素担体の内部に多く担持されているにもかかわらず、当該触媒金属粒子が担持された細孔が連通性を有していることは、本触媒が、その一部が当該細孔内表面に埋まっている触媒金属粒子を含むことを強く示唆する。
【0083】
具体的に、図1に示すように、炭素担体の細孔の径に近い粒子径を有する触媒金属粒子Aが、当該炭素担体の内部に担持され、且つ、当該細孔の内表面に埋まっていない場合、当該触媒金属粒子Aによって当該細孔が閉塞されることにより、当該細孔の連通性は失われる。
【0084】
炭素担体の細孔の径より十分に小さい粒子径を有する触媒金属粒子Bは、当該炭素担体の内部に担持されていたとしても、当該細孔を閉塞しないため、当該触媒金属粒子Bが当該細孔の内表面に埋まっていなくても、当該細孔の連通性は維持される。一方、炭素担体の細孔の径より十分に大きい粒子径を有する触媒金属粒子B´は、当該炭素担体の外表面に担持されるため、当該細孔の連通性は維持される。また、炭素担体の細孔の径に近い粒子径を有する触媒金属粒子Cが、当該炭素担体の外表面に担持される場合も、当該細孔の連通性は維持される。
【0085】
これらに対し、炭素担体の細孔の径に近い粒子径を有する触媒金属粒子Dが、当該炭素担体の内部に担持されているにも関わらず、当該細孔の連通性が維持されている場合、当該触媒金属粒子Dの一部は、当該細孔の内表面に埋没していると考えられる。
【0086】
本触媒において、触媒金属粒子の一部が炭素担体の細孔内表面に埋まっていることは、当該触媒金属粒子の当該細孔内における安定性の向上に寄与する。
【0087】
本触媒は、上述した触媒金属粒子径/細孔径比の条件、上述したN脱着/吸着量比の条件、及び、上述した20nm以上深さの触媒金属担持割合の条件の全てを満たすことにより、高い触媒活性と耐久性とを兼ね備える。
【0088】
具体的に、例えば、本触媒を含むカソードを有する燃料電池においては、本触媒の炭素担体における細孔の連通性によって、ガスの拡散及びプロトンの輸送が効果的に行われるとともに、触媒金属粒子の一部が細孔内表面に埋まっていること、及び、触媒金属粒子の特定割合が当該炭素担体の外表面から20nm以上の深さの位置に担持されていることによって、当該触媒金属粒子の被毒を効果的に回避しつつ、高い触媒活性を効果的に維持することができる。
【0089】
本触媒は、曲路率が1.90以下であってもよく、1.85以下であることが好ましく、1.80以下であることが特に好ましい。本触媒の曲路率の下限値は特に限られないが、当該曲路率は、例えば、1.50以上であってもよい。本触媒の曲路率は、電子線トモグラフィ-により得られる。
【0090】
本触媒の曲路率が上記範囲内であることにより、本触媒の連通した細孔において、物質の拡散や輸送(例えば、燃料電池のカソードに含まれる本触媒の細孔におけるガスの拡散及びプロトンの輸送)が効果的に行われる。
【0091】
本触媒は、窒素を含むことが好ましい。この場合、本触媒は、窒素を含む炭素担体を含むことが好ましい。本触媒の窒素含有量は、例えば、0.05重量%以上であってもよく、0.10重量%以上であることが好ましく、0.15重量%以上であることがより好ましく、0.20重量%以上であることがより一層好ましく、0.25重量%以上であることが特に好ましい。本触媒の窒素含有量の上限値は特に限られないが、当該窒素含有量は、例えば、4.00重量%以下であってもよい。本触媒の窒素含有量は、元素分析(燃焼法)により得られる。
【0092】
本触媒は、ラマン分光法により得られるラマンスペクトルにおいて、1340cm-1付近(例えば、1270cm-1以上、1450cm-1以下の範囲内)にピークトップを有するDバンドの半値半幅(以下、「ラマンD半値半幅」という。)85.0cm-1以下を示す炭素構造を含んでもよい。この場合、本触媒のラマンD半値半幅は、75.0cm-1以下であることが好ましく、70.0cm-1以下であることがより好ましく、65.0cm-1以下であることが特に好ましい。本触媒のラマンD半値半幅の下限値は特に限られないが、当該D半値半幅は、例えば、20.0cm-1以上であってもよく、25.0cm-1以上であることが好ましく、30.0cm-1以上であることが特に好ましい。本触媒のラマンD半値半幅は、上述した下限値のいずれかと、上述した上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0093】
ラマンスペクトルにおいて、Dバンドは、欠陥やエッジを含む湾曲構造由来の成分である。そして、Dバンドの半値半幅は、炭素構造に含まれる湾曲構造の結晶性を示す。すなわち、Dバンドの半値半幅が小さいことは、湾曲構造の結晶性が高いことを意味する。このため、本触媒の炭素構造(具体的には、炭素担体の炭素構造)のラマンD半値半幅が上記範囲内であることは、当該炭素構造が比較的結晶性の高い湾曲構造を含むことを意味する。そして、本触媒が比較的結晶性の高い湾曲構造を含む炭素構造を有することは、本触媒の優れた耐久性及び耐酸化性に寄与する。
【0094】
本触媒は、炭素担体に担持された触媒金属粒子に由来する触媒活性を示す。また、炭素担体自身が単独で触媒活性を示す場合(炭素担体が炭素触媒である場合)、本触媒は、触媒金属粒子に由来する触媒活性に加えて、当該炭素担体自身に由来する触媒活性も示す。
【0095】
本触媒が示す触媒活性は特に限られないが、例えば、還元活性及び/又は酸化活性であることが好ましく、酸素還元活性及び/又は水素酸化活性であることがより好ましく、少なくとも酸素還元活性であることが特に好ましい。
【0096】
本触媒の製造方法(以下、「本方法」という。)は、炭素担体に触媒金属粒子を担持することを含む。炭素担体に触媒金属粒子を担持する方法は、本発明による効果が得られれば特に限られないが、気相還元法であることが好ましい。すなわち、本方法においては、触媒金属粒子の前駆体である金属化合物が担持された炭素担体に気相還元処理を施して、当該炭素担体に担持された当該触媒金属粒子を形成することを含む。
【0097】
本方法は、触媒金属粒子の前駆体である金属化合物が担持された炭素担体に気相還元処理を施して、当該炭素担体に担持された当該触媒金属粒子を形成する第一工程と、当該第一工程後、当該触媒金属粒子が担持された当該炭素担体を不活性雰囲気中で加熱する第二工程と、を含むことが好ましい。
【0098】
この場合、気相還元処理を行う第一工程に続いて、不活性雰囲気中で加熱処理を行う第二工程を実施することにより、例えば、当該触媒金属粒子の過剰な凝集、及び/又は、炭素担体の内部から外表面への触媒金属粒子の過剰な移動を効果的に抑制することができる。
【0099】
炭素担体に、触媒金属粒子の前駆体である金属化合物(以下、「前駆化合物」という。)を担持する方法は特に限られないが、例えば、液相中で当該炭素担体と当該前駆化合物とを混合する方法が好ましく用いられる。具体的に、例えば、前駆化合物を含む溶液に炭素担体を浸漬することにより、当該炭素担体の細孔内に当該前駆化合物が含浸される。
【0100】
前駆化合物は、還元されることによって触媒金属粒子を構成する触媒金属を形成するものであれば特に限られない。すなわち、炭素担体に触媒金属粒子として貴金属粒子を担持する場合、還元処理によって当該貴金属粒子を形成する貴金属化合物が前駆化合物として用いられる。
【0101】
具体的に、炭素担体に触媒金属粒子としてPt粒子を担持する場合、前駆化合物であるPt化合物としては、例えば、白金酸塩(例えば、塩化白金酸(HPtCl)及びジニトロジアミン白金硝酸(Pt(NH(NO)からなる群より選択される1種以上)及びビス(アセチルアセトナト)白金からなる群より選択される1種以上が好ましく用いられる。
【0102】
第一工程における気相還元処理の対象となる、前駆化合物が担持された炭素担体は、乾燥した固形物であることが好ましい。すなわち、例えば、液相中で炭素担体に前駆化合物を担持する場合、当該炭素担体と当該前駆化合物とを含む溶液を乾燥することにより、当該前駆化合物が担持された当該炭素担体を固形物として得る。
【0103】
気相還元処理においては、前駆化合物が担持された炭素担体を還元雰囲気中で加熱する。気相還元処理における還元雰囲気は、還元性ガスを含む雰囲気である。還元性ガスは、本発明の効果が得られるものであれば特に限られないが、例えば、水素ガス、アンモニアガス及び炭化水素ガス(例えば、メタンガス、プロパンガス及びブタンガスからなる群より選択される1以上の炭化水素ガス)からなる群より選択される1種以上が好ましく用いられる。
【0104】
還元雰囲気における還元性ガスの含有量(当該雰囲気が2種以上の還元性ガスを含む場合には、当該2種以上の還元性ガスの含有量の合計)は、本発明の効果が得られる範囲内であれば特に限られないが、例えば、1体積%以上(1体積%以上、100体積%以下)であってもよく、5体積%以上であることが好ましく、10体積%以上であることがより好ましく、20体積%以上であることが特に好ましい。
【0105】
気相還元処理において前駆化合物が担持された炭素担体を加熱する温度(以下、「第一加熱温度」という。)は、本発明の効果が得られる範囲内であれば特に限られないが、例えば、250℃以上であってもよく、300℃以上であることが好ましく、700℃以上であることがより好ましく、775℃以上であることがより一層好ましく、800℃以上であることが特に好ましい。第一加熱温度の上限値は特に限られないが、当該第一加熱温度は、例えば、1200℃以下であってもよく、1100℃以下であることが好ましく、1000℃以下であることが特に好ましい。第一加熱温度は、上述した下限値のいずれかと、上述した上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0106】
気相還元処理において前駆化合物が担持された炭素担体を上記第一加熱温度で加熱する時間(以下、「第一加熱時間」という。)は、本発明の効果が得られる範囲内であれば特に限られないが、例えば、1分以上であってもよく、5分以上であることが好ましく、10分以上であることが特に好ましい。第一加熱時間の上限値は特に限られないが、当該第一加熱時間は、例えば、180分以下であってもよく、60分以下であることが好ましく、40分以下であることが特に好ましい。第一加熱時間は、上述した下限値のいずれかと、上述した上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0107】
第二工程においては、第一工程における気相還元処理によって形成された触媒金属粒子を担持する炭素担体に、不活性雰囲気中で加熱処理を施す。不活性雰囲気は、主に不活性ガスから構成される雰囲気である。不活性ガスは、特に限られないが、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、及びヘリウムガスからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
【0108】
不活性雰囲気における不活性ガスの含有量(当該雰囲気が2種以上の不活性ガスを含む場合には、当該2種以上の不活性ガスの含有量の合計)は、例えば、95体積%以上(95体積%以上、100体積%以下)であってもよく、98体積%以上であることが好ましく、99体積%以上であることがより好ましく、99.5体積%以上であることが特に好ましい。
【0109】
不活性雰囲気は、還元性ガスを実質的に含まない。不活性雰囲気における還元性ガスの含有量は、1体積%以下であってもよく、0.5体積%以下であることが好ましく、0体積%であることが特に好ましい。第二工程において不活性雰囲気中で加熱する、触媒金属粒子を担持する炭素担体は、当該第二工程における加熱によって(例えば、熱分解によって)還元性ガスを発生しないものであることが好ましい。
【0110】
不活性雰囲気は、酸素を実質的に含まないことが好ましい。すなわち、不活性雰囲気における酸素の含有量は、例えば、3体積%以下であってもよく、1体積%以下であることが好ましく、0体積%以下であることが特に好ましい。
【0111】
第二工程における不活性雰囲気中での加熱の対象となる、触媒金属粒子が担持された炭素担体は、乾燥した固形物であることが好ましい。すなわち、例えば、第一工程において、気相還元処理によって、触媒金属粒子が担持された炭素担体を固形物として得る場合、第二工程においては、当該触媒金属粒子が担持された炭素担体を液相に浸漬することなく、引き続き固形物のまま、不活性雰囲気中で加熱する。
【0112】
第二工程において、触媒金属粒子が担持された炭素担体を加熱する温度(以下、「第二加熱温度」という。)は、例えば、500℃以上であってもよく、600℃以上であることが好ましく、700℃以上であることがより好ましく、750℃以上であることがより一層好ましく、800℃以上であることが特に好ましい。第二加熱温度の上限値は特に限られないが、当該第二加熱温度は、例えば、1200℃以下であってもよく、1100℃以下であることが好ましく、1000℃以下であることが特に好ましい。第二加熱温度は、上述した下限値のいずれかと、上述した上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0113】
第二工程において触媒金属粒子が担持された炭素担体を上記第二加熱温度で加熱する時間(以下、「第二加熱時間」という。)は、本発明の効果が得られる範囲内であれば特に限られないが、例えば、1分以上であってもよく、10分以上であることが好ましく、20分以上であることが特に好ましい。第二加熱時間の上限値は特に限られないが、当該第一加熱時間は、例えば、240分以下であってもよく、120分以下であることが好ましく、60分以下であることが特に好ましい。第二加熱時間は、上述した下限値のいずれかと、上述した上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0114】
第一工程における第一加熱温度及び第二工程における第二加熱温度としては、いずれも比較的高い温度を採用することが好ましい。すなわち、第一加熱温度及び第二加熱温度は、例えば、いずれも500℃以上(例えば、500℃以上、1200℃以下)であることが好ましく、いずれも700℃以上(例えば、700℃以上、1200℃以下)であることがより好ましく、いずれも775℃以上(例えば、775℃以上、1200℃以下)であることがより一層好ましく、いずれも800℃以上(例えば、800℃以上、1200℃以下)であることが特に好ましい。
【0115】
第一加熱温度及び第二加熱温度として、いずれも比較的高い温度を採用することにより、触媒金属粒子の過剰な凝集を効果的に回避しつつ、炭素担体の細孔内表面への触媒金属粒子の埋没を効果的に進行させることができる。
【0116】
第二工程における第二加熱温度としては、第一工程における第一加熱温度に近い温度を採用することが好ましい。すなわち、第一加熱温度と第二加熱温度との差は、例えば、300℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがより一層好ましく、100℃以下であることが特に好ましい。
【0117】
第二工程は、第一工程における気相還元処理後、雰囲気の温度を大きく低下させることなく実施することが好ましい。すなわち、第一工程における第一加熱温度での加熱終了から、第二工程における第二加熱温度での加熱開始までの間、触媒金属粒子を担持した炭素担体を保持する雰囲気の温度は、当該第一加熱温度から800℃以上低下させないことが好ましく、500℃以上低下させないことがより好ましく、200℃以上低下させないことがより一層好ましく、100℃以上低下させないことが特に好ましい。
【0118】
本方法においては、所定の容器内で第一工程を実施し、次いで、触媒金属粒子が担持された炭素担体を当該容器内に保持したまま、当該容器内の還元雰囲気を不活性雰囲気に入れ替えて、当該容器内で第二工程を実施することが好ましい。
【0119】
このように第一工程と第二工程とを同一の容器内で連続的に実施することにより、触媒金属粒子の表面を酸化させることなく、当該触媒金属粒子の一部を炭素担体の細孔内表面に埋没させることができる。すなわち、触媒金属粒子の耐久性を維持したまま、当該触媒金属粒子の一部を炭素担体の細孔内表面に埋没させることができる。
【0120】
本方法においては、第一工程前、及び/又は、第二工程前に、前駆化合物が担持された炭素担体の液相還元処理を行わないこととしてもよい。
【0121】
ここで、液相還元とは、炭素担体に担持された前駆化合物を液相中で還元して、当該炭素担体に担持された触媒金属粒子を形成する方法である。具体的に、液相還元処理においては、例えば、前駆化合物を担持した炭素担体を含む溶液に還元剤を添加して所定温度で所定時間保持することにより、当該溶液中で当該炭素担体に担持された触媒金属粒子を形成する。
【0122】
本実施形態に係る電池電極(以下、「本電極」という。)は、本触媒を含む。すなわち、本電極は、例えば、電極基材と、当該電極基材に担持された本触媒と、を含む電池電極である。本電極は、例えば、燃料電池(例えば、固体高分子形燃料電池)、空気電池、水電解槽(例えば、固体高分子形水電解槽)、レドックスフロー電池、又はハロゲン電池の電極である。
【0123】
また、本電極は、例えば、カソード又はアノードであり、好ましくはカソードである。すなわち、本電極は、燃料電池、空気電池、水電解槽、レドックスフロー電池、又はハロゲン電池のカソード又はアノードであり、好ましくは燃料電池カソード、空気電池カソード、水電解槽カソード、レドックスフロー電池カソード、又はハロゲン電池カソードであり、より好ましくは燃料電池カソード又は空気電池カソードであり、特に好ましくは燃料電池カソードである。
【0124】
本実施形態に係る電池(以下、「本電池」という。)は、本電極を含む。すなわち、本電池は、例えば、本電極を含む燃料電池(例えば、固体高分子形燃料電池)、空気電池、レドックスフロー電池、又はハロゲン電池である。本電池は、本電極を含む膜/電極接合体(MEA)を有することとしてもよい。
【0125】
本電池は、カソード又はアノードとして本電極を有する電池であり、好ましくはカソードとして本電極を有する電池である。すなわち、本電池は、カソード又はアノードとして本電極を有する燃料電池、空気電池、レドックスフロー電池、又はハロゲン電池であり、好ましくはカソードとして本電極を有する燃料電池、空気電池、レドックスフロー電池、又はハロゲン電池であり、より好ましくはカソードとして本電極を有する燃料電池又は空気電池であり、特に好ましくはカソードとして本電極を有する燃料電池である。
【0126】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例0127】
[炭素担体A]1.0gのポリアクリロニトリル(PAN)と、1.0gの2-メチルイミダゾールと、6.0gの塩化亜鉛(ZnCl)と、30gのジメチルホルムアミドとを混合した。得られた混合物から乾燥により溶媒を除去した。乾燥した混合物を大気中で加熱して、250℃で不融化を行った。
【0128】
不融化後の混合物を、窒素雰囲気中、0.90MPaのゲージ圧力下、1500℃で加熱保持することにより、炭素化を行った。炭素化により得られた炭素化材料に希塩酸を加え、撹拌した。その後、炭素化材料を含有する懸濁液を、ろ過膜を使用してろ過し、ろ液が中性になるまで蒸留水で炭素化材料を洗浄した。こうして酸洗浄による金属除去処理を行った。
【0129】
微粉砕機によって、金属除去処理後の炭素化材料を、その粒子径の中央値が0.4μm以下になるまで粉砕した。粉砕後の炭素化材料の真空乾燥を行い、水分を除去した。その後、炭素化材料に窒素雰囲気中で300℃の加熱処理を施した。こうして得られた炭素化材料を炭素担体Aとして用いた。
【0130】
[炭素担体B]1.0gのPANと、1.0gの2-メチルイミダゾールと、6.0gのZnClと、0.18gの塩化鉄(III)六水和物(FeCl・6HO)と、30gのジメチルホルムアミドとを混合した。得られた混合物から乾燥により溶媒を除去した。乾燥した混合物を大気中で加熱して、250℃で不融化を行った。
【0131】
不融化後の混合物を、窒素雰囲気中、0.90MPaのゲージ圧力下、1300℃で加熱保持することにより、炭素化を行った。炭素化により得られた炭素化材料に希塩酸を加え、撹拌した。その後、炭素化材料を含有する懸濁液を、ろ過膜を使用してろ過し、ろ液が中性になるまで蒸留水で炭素化材料を洗浄した。こうして酸洗浄による金属除去処理を行った。
【0132】
微粉砕機によって、金属除去処理後の炭素化材料を、その粒子径の中央値が1μm以下になるまで粉砕した。粉砕後の炭素化材料の真空乾燥を行い、水分を除去した。その後、炭素化材料に窒素雰囲気中で300℃の加熱処理を施した。さらに、加熱処理後の炭素化材料を、アンモニアガス流通下、900℃で加熱保持することにより、当該炭素化材料に窒素ドープ処理及び賦活化処理を施した。こうして得られた炭素化材料を炭素担体Bとして用いた。
【0133】
[炭素担体C]市販のケッチェンブラックEC600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)を炭素担体Cとして用いた。
【0134】
[炭素担体D]1.0gのPANと、1.0gの2-メチルイミダゾールと、6.0gのZnClと、30gのジメチルホルムアミドとを混合した。得られた混合物から乾燥により溶媒を除去した。乾燥した混合物を大気中で加熱して、250℃で不融化を行った。
【0135】
不融化後の混合物を、窒素雰囲気中、常圧下、1500℃で加熱保持することにより、炭素化を行った。炭素化により得られた炭素化材料に希塩酸を加え、撹拌した。その後、炭素化材料を含有する懸濁液を、ろ過膜を使用してろ過し、ろ液が中性になるまで蒸留水で炭素化材料を洗浄した。こうして酸洗浄による金属除去処理を行った。
【0136】
微粉砕機によって、金属除去処理後の炭素化材料を、その粒子径の中央値が0.4μm以下になるまで粉砕した。粉砕後の炭素化材料の真空乾燥を行い、水分を除去した。その後、炭素化材料に窒素雰囲気中で300℃の加熱処理を施した。こうして得られた炭素化材料を炭素担体Dとして用いた。
【0137】
[例1]炭素担体Aに触媒金属粒子の担持法Aを適用して、金属担持触媒を製造した。具体的に、炭素担体Aと、白金前駆体である塩化白金酸(HPtCl)及び合金成分の前駆体である塩化コバルト(CоCl)を含む水溶液とを18時間混合した。その後、得られた混合液を空気中100℃で乾燥させ、さらに窒素中、150℃中で保持して、溶媒成分を揮発させた。
【0138】
得られた固形物に、まず水素雰囲気(水素ガス100体積%)中825℃で20分の加熱処理(気相還元処理)を施し、続いて、雰囲気の温度を820℃~830℃の範囲内に維持しながら、当該水素雰囲気を窒素雰囲気(窒素ガス100体積%)に交換し、当該窒素雰囲気中825℃で40分の加熱処理を施した。
【0139】
こうして得られた金属担持触媒から、白金合金以外の余分な金属を除去するために、当該金属担持触媒と10%硝酸溶液とを2時間混合した。その後、ろ過により、金属担持触媒と酸溶液とを分離し、さらに、蒸留水でろ液が中性になるまで当該金属担持触媒を洗浄した。洗浄後の金属担持触媒を真空中60℃で乾燥し、水分を除去した。
【0140】
その後、硝酸を除去するため、金属担持触媒に、窒素中300℃で加熱処理を施した。さらに、白金酸化物を還元除去するため、金属担持触媒に、窒素中700℃で加熱処理を施した。こうして炭素担体Aと、当該炭素担体Aに担持された白金合金粒子とから構成される白金合金担持触媒を得た。最終的に得られた金属担持触媒における白金の担持量(金属担持触媒の重量に対する、当該金属担持触媒に含まれる白金の重量の割合)は40重量%であった。また、金属担持触媒における貴金属/非貴金属モル比(具体的には、Pt/Coモル比)は、7.0であった。
【0141】
[例2]炭素担体Aに触媒金属粒子の担持法Bを適用して、金属担持触媒を製造した。具体的に、炭素担体Aと、HPtClを含む水溶液とを18時間混合した。その後、得られた混合液を空気中100℃で乾燥させ、さらに窒素中、150℃中で保持して、溶媒成分を揮発させた。
【0142】
得られた固形物に、まず水素雰囲気(水素ガス100体積%)中825℃で20分の加熱処理を施し、続いて、雰囲気の温度を820℃~830℃の範囲内に維持しながら、当該水素雰囲気を窒素雰囲気(窒素ガス100体積%)に交換し、当該窒素雰囲気中825℃で40分の加熱処理を施した。こうして炭素担体Aと、当該炭素担体Aに担持された純白金粒子とから構成される白金担持触媒を得た。最終的に得られた金属担持触媒における白金の担持量は40重量%であった。
【0143】
[例3]炭素担体Aに触媒金属粒子の担持法Cを適用して、金属担持触媒を製造した。具体的に、炭素担体Aと、HPtClを含む水溶液とを18時間混合した。その後、得られた混合液を空気中100℃で乾燥させ、さらに窒素中、150℃中で保持して、溶媒成分を揮発させた。
【0144】
得られた固形物に、まず水素雰囲気(水素ガス100体積%)中825℃で30分加熱処理を施し、続いて、雰囲気の温度を820℃~830℃の範囲内に維持しながら、当該水素雰囲気を窒素雰囲気(窒素ガス100体積%)に交換し、当該窒素雰囲気中825℃で30分加熱処理を施した。こうして炭素担体Aと、当該炭素担体Aに担持された純白金粒子とから構成される白金担持触媒を得た。最終的に得られた金属担持触媒における白金の担持量は40重量%であった。
【0145】
[例4]炭素担体Bに触媒金属粒子の担持法Dを適用して、金属担持触媒を製造した。具体的に、炭素担体Bと、HPtCl及びCоClを含む水溶液とを18時間混合した。その後、得られた混合液を空気中100℃で乾燥させ、さらに窒素中、150℃中で保持して、溶媒成分を揮発させた。
【0146】
得られた固形物に、水素雰囲気(水素ガス100体積%)中900℃で60分の加熱処理を施した。こうして得られた金属担持触媒から、白金合金以外の余分な金属を除去するために、当該金属担持触媒と10%硝酸溶液とを2時間混合した。その後、ろ過により、金属担持触媒と酸溶液とを分離し、さらに、蒸留水でろ液が中性になるまで当該金属担持触媒を洗浄した。洗浄後の金属担持触媒を真空中60℃で乾燥し、水分を除去した。
【0147】
その後、硝酸を除去するため、金属担持触媒に、窒素中300℃で加熱処理を施した。さらに、白金酸化物を還元除去するため、金属担持触媒に、窒素中700℃で加熱処理を施した。こうして炭素担体Bと、当該炭素担体Bに担持された白金合金粒子とから構成される白金合金担持触媒を得た。最終的に得られた金属担持触媒における白金の担持量は30重量%であった。また、金属担持触媒における貴金属/非貴金属モル比(具体的には、Pt/Coモル比)は、7.0であった。
【0148】
[例5]炭素担体Aに触媒金属粒子の担持法Eを適用して、金属担持触媒を製造した。具体的に、炭素担体Bに代えて炭素担体Aを使用し、水素雰囲気中900℃で60分の加熱処理に代えて水素雰囲気(水素ガス100体積%)中825℃で60分の加熱処理を行ったこと以外は上記例4と同様にして、炭素担体Aと、当該炭素担体Aに担持された白金合金粒子とから構成される白金合金担持触媒を得た。最終的に得られた金属担持触媒における白金の担持量は40重量%であった。また、金属担持触媒における貴金属/非貴金属モル比(具体的には、Pt/Coモル比)は、7.0であった。
【0149】
[例6]炭素担体Bに触媒金属粒子の担持法Aを適用して、金属担持触媒を製造した。具体的に、炭素担体Aに代えて炭素担体Bを使用したこと以外は上記例1と同様にして、炭素担体Bと、当該炭素担体Bに担持された白金合金粒子とから構成される白金合金担持触媒を得た。最終的に得られた金属担持触媒における白金の担持量は30重量%であった。また、金属担持触媒における貴金属/非貴金属モル比(具体的には、Pt/Coモル比)は、7.0であった。
【0150】
[例C1]炭素担体Cに触媒金属粒子の担持法Bを適用して、金属担持触媒を製造した。具体的に、炭素担体Aに代えて炭素担体Cを使用したこと以外は上記例2と同様にして、炭素担体Cと、当該炭素担体Cに担持された純白金粒子とから構成される白金担持触媒を得た。最終的に得られた金属担持触媒における白金の担持量は40重量%であった。
【0151】
[例C2]高比表面積炭素担体(比表面積800m/g~1200m/g程度)と、当該炭素担体に担持された触媒金属粒子である純白金粒子とから構成される市販白金触媒を例C2の金属担持触媒として用いた。金属担持触媒における白金の担持量は39重量%であった。
【0152】
[例C3]高比表面積炭素担体と、当該炭素担体に担持された触媒金属粒子である純白金粒子とから構成される市販白金触媒であるUNPC40-II(石福金属興業株式会社製)を例C3の金属担持触媒として用いた。金属担持触媒における白金の担持量は34重量%であった。
【0153】
[例C4]炭素担体であるVulcanXC72R(キャボットコーポレーション製)と、当該炭素担体に担持された触媒金属粒子である純白金粒子とから構成される市販白金触媒を例C4の金属担持触媒として用いた。金属担持触媒における白金の担持量は42重量%であった。
【0154】
[例C5]炭素担体Aに触媒金属粒子の担持法Fを適用して、金属担持触媒を製造した。具体的に、炭素担体Aと、HPtClを含む水溶液とを18時間混合した。次いで、還元剤としてエチレングリコールを添加し、得られた混合液を空気中80℃で4時間保持することにより、液相還元処理を行った。
【0155】
その後、混合液を空気中100℃で乾燥させ、さらに窒素中、150℃中で保持して、溶媒成分を揮発させた。こうして炭素担体Aと、当該炭素担体Aに担持された純白金粒子とから構成される白金担持触媒を得た。最終的に得られた金属担持触媒における白金の担持量は40重量%であった。
【0156】
[例C6]炭素担体Aに触媒金属粒子の担持法Gを適用して、金属担持触媒を製造した。具体的に、上記例C5と同様にして溶媒成分を揮発させて得られた白金担持触媒を、温度が室温まで下がった後に大気中に取り出した。その後、この白金担持触媒に、水素雰囲気(水素ガス100体積%)中900℃で60分の加熱処理を施した。こうして炭素担体Aと、当該炭素担体Aに担持された純白金粒子とから構成される白金担持触媒を得た。最終的に得られた金属担持触媒における白金の担持量は40重量%であった。
【0157】
[例C7]炭素担体Dに触媒金属粒子の担持法Aを適用して、金属担持触媒を製造した。具体的に、炭素担体Aに代えて炭素担体Dを使用したこと以外は上記例1と同様にして、炭素担体Dと、当該炭素担体Dに担持された白金合金粒子とから構成される白金合金担持触媒を得た。最終的に得られた金属担持触媒における白金の担持量は40重量%であった。また、金属担持触媒における貴金属/非貴金属モル比(具体的には、Pt/Coモル比)は、7.0であった。
【0158】
[炭素担体のメディアン径]炭素担体のメディアン径を測定した。すなわち、未だ触媒金属粒子を担持していない炭素担体について、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、横軸が粒子径(μm)を示し、縦軸が積算相対粒子量(%)を示す粒度分布データを取得し、当該粒度分布データにおいて、当該積算相対粒子量が50%となる粒子径を、メディアン径(μm)として得た。
【0159】
[炭素担体及び金属担持触媒の窒素含有量:元素分析(燃焼法)]炭素担体及び金属担持触媒の燃焼法による元素分析を行い、当該炭素担体の窒素含有量及び当該金属担持触媒の窒素含有量をそれぞれ測定した。すなわち、有機微量元素分析装置(2400II、パーキンエルマー株式会社)を用いて、未だ触媒金属粒子を担持していない炭素担体の窒素原子含有量、及び金属担持触媒の窒素原子含有量をそれぞれ燃焼法により測定した。具体的に、ヘリウムをキャリアガスとして用い、2mgの炭素担体又は2mgの金属担持触媒を、燃焼管温度980℃、還元管温度640℃の条件で分析した。
【0160】
そして、炭素担体に含まれていた窒素原子の重量を、当該炭素担体の重量で除した値に100を乗じて、当該炭素担体の窒素原子含有量(重量%)を算出した。また、同様に、金属担持触媒に含まれていた窒素原子の重量を、当該金属担持触媒の重量で除した値に100を乗じて、当該金属担持触媒の窒素原子含有量(重量%)を算出した。
【0161】
[金属担持触媒の金属含有量:誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)]ICP-MSにより、金属担持触媒の貴金属含有量及び非貴金属含有量を測定した。すなわち、まず100mgの金属担持触媒を、大気雰囲気下、800℃で、3時間加熱保持することにより、当該金属担持触媒中の非金属成分を取り除いた。次いで、金属担持触媒を王水5mL中に浸漬することにより、当該金属担持触媒に含まれている金属を溶解させた。さらに、全重量が50mLとなるように蒸留水を加えて希釈し、金属溶液を得た。その後、得られた金属溶液の貴金属濃度及び非貴金属濃度を、シーケンシャル形プラズマ発光分析装置(ICPS-8100、株式会社島津製作所製)を用いて測定した。そして、金属溶液の貴金属濃度(mg/mL)及び非貴金属濃度(mg/mL)に当該金属溶液の容量(50mL)を乗じることにより、金属担持触媒の貴金属含有量(mg)及び非貴金属含有量(mg)を得た。さらに、金属担持触媒の貴金属含有量(mg)及び非貴金属含有量(mg)を金属担持触媒の重量である100mgで除し100を乗じることにより、ICP-MSで得られた貴金属含有量(重量%)及び非貴金属含有量(重量%)を算出した。
【0162】
なお、金属担持触媒のICP-MSで得られた金属含有量(重量%)は、当該金属担持触媒の重量に対する、当該金属担持触媒に含まれる触媒金属粒子を構成する金属の含有量(重量%)である。すなわち、金属担持触媒に含まれる触媒金属粒子が貴金属のみで構成される場合、当該金属担持触媒における当該貴金属の含有量(重量%)が、ICP-MSで得られる金属含有量(重量%)である。また、金属担持触媒に含まれる触媒金属粒子が貴金属と非貴金属とで構成される場合、当該金属担持触媒における当該貴金属の含有量(重量%)と当該非貴金属の含有量(重量%)との合計が、ICP-MSで得られる金属含有量(重量%)である。このため、炭素担体の骨格の内部に、触媒金属粒子を構成する金属と同一種の原料金属が含まれている場合、ICP-MSで得られる金属含有量(重量%)には、当該原料金属の含有量(重量%)も含まれる。一方、炭素担体の骨格の内部に、触媒金属粒子を構成する金属と同一種の原料金属が含まれていない場合、ICP-MSで得られる金属含有量(重量%)には、当該原料金属の含有量(重量%)は含まれない。
【0163】
[金属担持触媒の比表面積、平均細孔径、細孔容積、吸着等温線におけるヒステリシス:窒素吸着法]金属担持触媒の窒素吸着法による比表面積、平均細孔径、細孔容積及び吸着等温線におけるヒステリシスを、比表面積・細孔分布測定装置(TriStar II 3020、株式会社島津製作所製)を用いて測定した。
【0164】
すなわち、まず、0.1gの金属担持触媒を、100℃、6.7×10-2Paで、3時間保持することにより、当該金属担持触媒に吸着している水分を取り除いた。次いで、BET法により、77Kにおける窒素吸着等温線を得た。この77Kにおける窒素吸着等温線は、77Kの温度で、窒素ガスの圧力の変化に伴う、金属担持触媒への窒素吸着量の変化を測定して得た。
【0165】
図2には、BET法により77Kで得られた窒素吸着等温線の一例として、例2の金属担持触媒について得られた窒素吸着等温線を示す。図2に示す吸着等温線において、横軸は飽和蒸気圧(P)(77Kの窒素では1.01×10Pa)に対する吸着平衡圧(P)の比である相対圧力(P/P)を示し、縦軸は窒素吸着量(cm/g)を示す。
【0166】
図2においては、吸着側等温線(相対圧力を増加させながら測定された吸着等温線)と、脱着側等温線(相対圧力を減少させながら測定された吸着等温線)とがほぼ重なっており、ほとんどヒステリシスがなかった。
【0167】
ここで、金属担持触媒の窒素吸着等温線におけるヒステリシスの大きさを評価するために、当該窒素吸着等温線の相対圧力(P/P)が0.4以上、0.6以下の範囲内における全ての測定点について、N脱着/吸着量比を算出した。
【0168】
また、温度77Kにおける窒素吸着等温線から、金属担持触媒の窒素吸着法によるBET比表面積(m/g-金属担持触媒)を得た。なお、数値の単位における「/g-金属担持触媒」は、金属担持触媒1gあたりの値であることを示す。そして、金属担持触媒の比表面積と、上述のICP-MSで得られた当該金属担持触媒の金属含有量とに基づき、当該金属担持触媒に含まれる炭素担体1gあたりの比表面積(m/g-炭素担体)を算出した。すなわち、金属担持触媒の比表面積(m/g-金属担持触媒)を、次の式で算出される当該金属担持触媒に含まれる炭素担体の重量比で除することにより、炭素担体1gあたりの比表面積(m/g-炭素担体)を算出した:炭素担体の重量比=1-(ICP-MSで得られた金属含有量(重量%))/100。
【0169】
また、温度77Kにおける窒素吸着等温線から、BJH法により、孔径が5nm以上の細孔の容積(5nm以上細孔の容積)(cm/g-金属担持触媒)と、孔径が5nm未満の細孔の容積(5nm未満細孔の容積)(cm/g-金属担持触媒)とを得た。そして、上述した比表面積と同様に、ICP-MSで得られた金属担持触媒の金属含有量に基づき、当該金属担持触媒に含まれる炭素担体1gあたりの5nm以上細孔の容積(cm/g-炭素担体)及び5nm未満細孔の容積(cm/g-炭素担体)を算出した。
【0170】
さらに、5nm未満細孔の容積(cm/g-炭素担体)を5nm以上細孔の容積(cm/g-炭素担体)で除することにより、5nm未満細孔/5nm以上細孔容積比を算出した。
【0171】
また、温度77Kにおける窒素吸着等温線の相対圧力P/Pが0.98の点での吸着量により全細孔容積(cm/g-金属担持触媒)を得た。さらに、上述した比表面積と同様に、ICP-MSで得られた金属担持触媒の金属含有量に基づき、当該金属担持触媒に含まれる炭素担体1gあたりの全細孔容積(cm/g-炭素担体)を算出した。そして、市販の自動比表面積測定装置(TriStar II 3020、株式会社島津製作所製)に付属の解析ソフトウェア(TriStar II 3020)を使用し、次の式により、金属担持触媒の平均細孔径(nm)を算出した:平均細孔径(nm)=4×{全細孔容積(cm/g-金属担持触媒)×1021}/比表面積(m/g-金属担持触媒)×1018
【0172】
[金属担持触媒の比表面積:水蒸気吸着法]金属担持触媒の水蒸気吸着法によるBET比表面積を、比表面積・細孔分布測定装置(BELSORP-max、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定した。すなわち、吸着種を窒素ガスから水蒸気に変更し、測定温度を298Kに変更したこと以外は上記窒素吸着法と同じ方法で、水蒸気吸着法によるBET比表面積(m/g-金属担持触媒)を算出した。さらに、上述した窒素吸着法による比表面積の場合と同様に、ICP-MSで得られた金属担持触媒の金属含有量に基づき、当該金属担持触媒に含まれる炭素担体1gあたりの水蒸気吸着法によるBET比表面積(m/g-炭素担体)を算出した。そして、炭素担体1gあたりの水蒸気吸着法によるBET比表面積(m/g-炭素担体)を、炭素担体1gあたりの窒素吸着法によるBET比表面積(m/g-炭素担体)で除することにより、金属担持触媒の水蒸気-BET/N-BET比表面積比を算出した。
【0173】
[ラマン分光法]金属担持触媒をラマン分光法により解析した。ラマンスペクトルは、HORIBA顕微レーザーラマン分光測定装置(LabRAM、HORIBA Jobin Yvon)を用いて測定した。測定に用いたレーザーは532nmの励起波長で、出力が50mW、減光フィルターD3を介し、露光90秒×積算2回の条件で測定することにより、ラマンスペクトルを得た。
【0174】
得られたラマンスペクトルにおいて、ベースライン補正を施した。すなわち、ラマンシフト(cm-1)が600cm-1付近の散乱強度と、2000cm-1付近の散乱強度とを結ぶ直線をベースラインに決定し、散乱スペクトルの各強度から当該ベースラインを差し引くことでベースライン補正を行った。
【0175】
次いで1340cm-1付近にピークトップを有するDバンドを特定した。そして、Dバンドの強度Id(Dバンドのピークトップの強度)に対応するラマンシフト(cm-1)Adから、当該Dバンドの強度Idの半分の強度に対応するラマンシフト(cm-1)Bdを減じることにより、当該Dバンドの半値半幅(以下、「ラマンD半値半幅」という。)(cm-1)を算出した。
【0176】
ここで、図3には、ラマンスペクトルの一例として、例2の金属担持触媒についてラマン分光法により得られたラマンスペクトルを解析した結果を示す。図3において、横軸はラマンシフト(cm-1)を示し、縦軸は散乱強度を示し、破線はベースラインを示し、AdはDバンドのピークトップに対応するラマンシフト(cm-1)を示し、Bdは当該Adより低波数側で当該Dバンド強度Idの半分の強度を示すラマンスペクトルに対応するラマンシフト(cm-1)を示す。そして、金属担持触媒のラマンD半値半幅は次の式により算出される:ラマンD半値半幅(cm-1)=Ad(cm-1)-Bd(cm-1)。
【0177】
[触媒金属粒子の数平均粒子径及び体積平均粒子径:X線回折法(XRD)]X線回折法により、触媒金属粒子の数平均粒子径(nm)及び体積平均粒子径(nm)を測定した。すなわち、まず、粉末状の金属担持触媒の試料を、ガラス試料板の凹部(2cm×2cm×厚さ0.5mm)に入れるとともにスライドガラスで押さえ、当該試料をその表面と基準面とが一致するように当該凹部に均一に充填した。次いで、この充填された試料の形態が崩れないように、ガラス試料板を広角X線回折試料台に固定した。
【0178】
そして、X線回折装置(Rigaku RINT2100/PC、株式会社リガク)を用いて粉末X線回折(XRD)測定を行った。X線管球への印加電圧及び電流はそれぞれ50kV及び300mAとした。サンプリング間隔は0.1°、走査速度は1°/分、測定角度範囲(2θ)は5~90°とした。入射X線としてはCuKαを用いた。試料厚みは0.5mmとし、発散スリット幅βは2/3°とした。
【0179】
得られたX線回折図形に対しガウス関数を用いてピーク分離を行い、さらに分離したそれぞれのピークに相当する結晶子径をシェラーの式を用いて求めた。得られた結晶子径に数、すなわち「ピーク面積割合/結晶子径」を重みとして用いた加重平均により、触媒金属粒子の数平均粒子径を算出した。一方、得られた結晶子径に体積、すなわち「ピーク面積割合」を重みとして用いた加重平均により、触媒金属粒子の体積平均粒子径を算出した。
【0180】
ここで、数平均粒子径(nm)及び体積平均粒子径(nm)を求める方法について、より具体的に説明する。金属担持触媒が白金粒子(純白金粒子及び/又は白金合金粒子)を含む場合、CuKα線を用いた粉末X線回折により得られるX線回折図においては、回折角(2θ)が40°付近(例えば、36°~44°の範囲内)の位置に白金の(111)回折線が現れる。
【0181】
この点、炭素担体と、当該炭素担体に担持された白金粒子とを含む金属担持触媒については、そのX線回折図形において回折角(2θ)が40°付近の位置にピークトップを有する回折線が現れる。そして、この回折線には、純白金及び/又は白金合金に由来する回折線と、炭素担体の炭素構造に由来する回折線とが含まれる。
【0182】
純白金に由来する回折線は、回折角(2θ)が39.6°以上、39.8°未満の位置にピークトップを有する回折線として定義される。白金合金に由来する回折線は、回折角(2θ)が39.9°以上、43.0°未満の位置にピークトップを有する回折線として定義される。炭素担体の炭素構造に由来する回折線は、回折角(2θ)が43.3°以上43.7°未満の位置にピークトップを有する回折線として定義される。
【0183】
金属担持触媒が組成及び/又は結晶構造の異なる複数種類の白金合金を含む場合には、白金合金に由来する回折線が複数現れる。白金合金に由来する回折線のピークトップが位置する回折角は、その組成及び結晶構造によって決まる。例えば、組成CoPtで表されるコバルト白金合金に由来する回折線は、回折角が41.1°以上、41.5°未満の位置にピークトップを有する回折線として定義される。また、組成CoPtで表されるコバルト白金合金に由来する回折線は、回折角が40.1°以上、40.5°未満の位置にピークトップを有する回折線として定義される。さらに、組成CoPtで表されるコバルト白金合金に由来する回折線は、回折角が39.9°以上、40.1°未満の位置にピークトップを有する回折線として定義される。
【0184】
また、金属担持触媒が、組成及び結晶構造が同一で結晶子径の異なる複数種類の白金粒子を含む場合、同一の回折角の位置にピークトップを有し、且つ半値全幅が異なる複数の回折線が現れる。
【0185】
実際に、金属担持触媒について得られたXRD図形においては、回折角(2θ)が40°付近の位置に白金の(111)回折線が現れた。そこで、まず、ベースライン補正を行った。すなわち、回折角(2θ)が35°~37°付近の回折強度と、50°~52°付近の回折強度とを結ぶ直線をベースラインに決定し、回折線の各強度から当該ベースラインを差し引くことでベースライン補正を行った。
【0186】
次いで、ベースライン補正後の回折線を、1種以上の純Pt由来のピーク及び/又は1種以上のPt合金由来のピーク、及び炭素由来のピークに分離した。回折線の分離は、当該分離により得られる複数のピークの各々がガウス関数で表されると仮定し、XRD図形の各回折角における、当該回折線の強度と当該複数のピークの各々の強度の合計との差(残差)の平方を、全ての回折角について足し合わせて得られる残差平方和が最も小さくなるように、当該複数のピークの各々のガウス関数の強度、ピークトップの回折角、及び半値全幅を最適化することにより行った。
【0187】
図4には、X線回折図形において回折角(2θ)が40°付近(36°~44°の範囲内)の位置にピークトップを有する白金の(111)回折線のピーク分離を実施した結果の一例として、例2の金属担持触媒について得られたピーク分離結果を示す。
【0188】
例2の金属担持触媒の粉末XRD測定により得られたXRD図形においては、ベースライン補正後、図4に示すように、回折角(2θ)が39.7°の位置にピークトップを有する回折線が現れた。この回折線の中部の形状は、下部の形状に比べて幅が著しく小さく、上部の形状は、中部の形状に比べてさらに幅が小さかった。このため、回折角(2θ)が40°付近では、半値全幅が比較的大きい第一の白金の回折線と、当該第一の白金とは結晶子径が異なり半値全幅がより小さい第二の白金の回折線と、当該第一及び第二の白金とは結晶子径が異なり半値全幅がさらに小さい第三の白金の回折線とが重なり合っていると考えられた。また、金属担持触媒は、炭素担体を含むため、回折角(2θ)が43.5°付近に炭素由来の回折線が現れた。
【0189】
そこで、図4に示すように、上述したピーク分離法により、回折角(2θ)が40°付近の回折線を、第一の白金に由来するピークと、第二の白金に由来するピークと、第三の白金に由来するピークと、炭素由来のピークとから構成される4つの成分に分離した。
【0190】
図4において、「ベースライン補正後」の回折線は、XRD測定により得られた回折線にベースライン補正を施して得られた回折線を示し、「Pt1」のピーク、「Pt2」のピーク、「Pt3」のピーク、及び「炭素」のピークはそれぞれ、当該「ベースライン補正後」の回折線のピーク分離により得られた、第一の白金由来のピーク、第二の白金由来のピーク、第三の白金由来のピーク、及び炭素由来のピークを示す。
【0191】
そして、第一の白金粒子、第二の白金粒子、及び第三の白金粒子のそれぞれの結晶子径を、次のシェラーの式により算出した:結晶子径=Kλ/βcosθ。ここで、シェラーの式において、Kは、シェラー定数(0.94)であり、λは、CuKα線の波長(0.15418nm)であり、βは、半値全幅(radian)であり、θは、回折角(radian)である。すなわち、例えば、第一の白金粒子の結晶子径は、図4に示すXRD図形における「Pt1」の分離ピークの回折角及び半値全幅を、上記シェラーの式に代入することにより算出した。その結果、第一の白金粒子の結晶子径は2.91nmと算出され、第二の白金粒子の結晶子径は6.32nmと算出され、第三の白金粒子の結晶子径は24.22nmと算出された。
【0192】
また、上述のピーク分離で得られた3つのPt分離ピークの各々の面積(すなわち、「Pt1」のピーク面積、「Pt2」のピーク面積、及び「Pt3」のピーク面積)を、それぞれ当該3つのPt分離ピークの面積の合計で除して100を乗じることにより、当該各Pt分離ピークのピーク面積割合(%)を算出した。その結果、第一の白金粒子のピーク面積割合は87.0%と算出され、第二の白金粒子のピーク面積割合は10.8%と算出され、第三の白金粒子のピーク面積割合は2.2%と算出された。
【0193】
そして、これらピーク面積割合を重みとして用いた加重平均により、触媒金属粒子の体積平均粒子径を算出した。具体的に、例2の金属担持触媒に担持された白金粒子の体積平均粒子径は、次の式により3.75nmと算出された:体積平均粒子径(nm)={(2.91×87.0)+(6.32×10.8)+(24.22×2.2)}/(87.0+10.8+2.2)。
【0194】
さらに、「ピーク面積割合/結晶子径」を重みとして用いた加重平均により、触媒金属粒子の数平均粒子径を算出した。具体的に、例2の金属担持触媒に担持された白金粒子の数平均粒子径は、次の式により2.95nmと算出された:数平均粒子径(nm)={(2.91×87.0/2.91)+(6.32×10.8/6.32)+(24.22×2.2/24.2)}/(87.0/2.91+10.8/6.32+2.2/24.2)。
【0195】
[金属担持触媒における触媒金属粒子の分布:電子線トモグラフィー]電子線トモグラフィーにより、金属担持触媒における触媒金属粒子の分布を評価した。すなわち、まず走査透過型電子顕微鏡(STEM)(JEM-ARM200F、日本電子製)により、金属担持触媒の粒子像を得た。試料は純水中で分散させた後、カーボン支持膜付きCuメッシュに乗せ、試料台に固定した。観察の際、試料台を+78°~-78°(ステップ角2°)に傾斜させることにより、1つの金属担持触媒粒子を複数の角度から観察して複数のSTEM粒子像を得た。観察倍率は800,000倍~1,000,000倍の条件で観察した。
【0196】
その後、複数の角度から観察して得られた複数のSTEM粒子像を3D再構成ソフトウェアを用いて再構成することにより、金属担持触媒粒子の3次元再構成粒子像(以下、「3D粒子像」という。)を得た。すなわち、3D再構成ソフトウェアを用いて、複数のSTEM粒子像に対して同一箇所の位置合わせ及び回転軸合わせを行い、フーリエ変換を行ったのち、複数のフーリエ像を結像し、逆フーリエ変換を実施することにより、3D粒子像を得た。図5には、例3の金属担持触媒について得られた3D粒子像をZ軸方向から見た図の一例を示す。図5において、X軸及びY軸に示す数値の単位はnmである。
【0197】
また、3Dデータ解析ソフトを用いて、金属担持触媒粒子の3D粒子像から、輝度の違いを利用することにより、特に明るい部分を触媒金属粒子、明るい部分を炭素担体、暗い部分を細孔として、触媒金属粒子のみを示す3D再構成像、炭素担体のみを示す3D再構成像、及び、当該炭素担体の細孔部分のみを示す3D再構成像を得た。次いで、3Dデータ解析ソフトを用い、金属担持触媒粒子の3D再構成像において、X軸及びY軸は固定し、Z軸方向の位置のみを約0.5nmずつ変化させることにより、各Z軸の位置における断面粒子像(XY平面に対して並行な平面における触媒金属粒子像)を生成した。この断面粒子像は、1つの金属担持触媒粒子について約200枚~350枚生成した。
【0198】
そして、画像解析ソフトを用いて金属担持触媒粒子の3D粒子像及び各断面粒子像をそれぞれ画像解析することにより、触媒金属粒子の位置を決定した。さらに、炭素担体の外表面からの触媒金属粒子の深さの位置を決定した。そして、炭素担体の外表面に担持されている触媒金属粒子の数、及び、当該外表面から所定深さの位置(当該炭素担体の内部)に担持されている触媒金属粒子の数をそれぞれカウントした。
【0199】
なお、炭素担体の内部に担持されている触媒金属粒子は、触媒金属粒子の3D再構成像に対して、炭素担体の3D再構成像、及び、当該炭素担体の細孔部分の3D再構成像を重ね合わせて得られる3D再構成像の表面に確認されない粒子として特定した。一方、炭素担体の外部表面に担持されている触媒金属粒子は、当該炭素担体の内部に担持されている触媒金属粒子以外の粒子として特定した。金属担持触媒における触媒金属粒子の分布については、画像解析により認識できる粒子径(例えば、1nm以上の粒子径)を有する金属粒子を解析の対象とした。炭素担体の内部において触媒金属粒子が担持されている位置の深さは、当該炭素担体の外表面と当該触媒金属粒子の表面との最短距離とした。具体的に、ある触媒金属粒子の表面と、炭素担体の外表面との最短距離が20nm以上である場合、当該触媒金属粒子は、当該炭素担体の表面から20nm以上の深さの位置に担持されていると特定した。
【0200】
金属担持触媒の炭素担体に担持されている触媒金属粒子の総数に対する、当該炭素担体の外表面から20nm以上の深さの位置に担持されている触媒金属粒子の数の割合(20nm以上深さの触媒金属担持割合)は、次の式により算出した:20nm以上深さの触媒金属担持割合(%)=「炭素担体の外表面から20nm以上の深さの位置に担持されている触媒金属粒子の数」÷「炭素担体に担持されている触媒金属粒子の総数」×100。
【0201】
金属担持触媒の炭素担体に担持されている触媒金属粒子の総数に対する、当該炭素担体の外表面に担持されている触媒金属粒子の数の割合(外表面の触媒金属担持割合)は、次の式により算出した:外表面の触媒金属担持割合(%)=「炭素担体の外表面に担持されている触媒金属粒子の数」÷「炭素担体に担持されている触媒金属粒子の総数」×100。
【0202】
金属担持触媒の炭素担体に担持されている触媒金属粒子の総数に対する、当該炭素担体の外表面に担持されている触媒金属粒子の数と当該外表面から5nm以下の深さの位置に担持されている触媒金属粒子の数との合計の割合(外表面+5nm以下深さの触媒金属担持割合)は、次の式により算出した:外表面+5nm以下深さの触媒金属担持割合(%)={「炭素担体の外表面に担持されている触媒金属粒子の数」+「炭素担体の外表面から5nm以下の深さの位置に担持されている触媒金属粒子の数」}÷「炭素担体に担持されている触媒金属粒子の総数」×100。
【0203】
[金属担持触媒の曲路率:電子線トモグラフィー]電子線トモグラフィーにより、金属担持触媒の曲路率を測定した。すなわち、まず上述のとおり、電子線トモグラフィーにより金属担持触媒の3D粒子像を得た後、さらに3Dデータ解析ソフトを用いて、当該3D粒子像から、炭素担体部分のみを示す3D再構成像を得た。図6Aには、例3の金属担持触媒について得られた炭素担体部分の3D再構成像の一例を示す。
【0204】
次いで、炭素担体部分の3D再構成像から、当該炭素担体の内部の一部の3D再構成像として、1辺が20nm~40nm程度のサイズの立方体を切り出した。図6Bには、図6Aに示す炭素担体全体の3D再構成像から切り出された、当該炭素担体の一部の3D再構成像を示す。すなわち、図6Bに示す立方体は、図6Aに明るく示される小さな白い立方体部分に対応する。
【0205】
その後、立方体の3D再構成像を3次元直交座標のX軸、Y軸及びZ軸のそれぞれの軸方向に切断した断面像を得た。ここで、炭素担体の骨格は黒く表示され、その他の部分、すなわち空隙部分や触媒金属粒子部分は白く表示されるよう、断面像が二値化されている。図6Cには、図6Bに示す立方体の3D再構成像から切り出され二値化されたX軸断面像、Y軸断面像及びZ軸断面像の一例を示す。
【0206】
その後、断面像における白色部分の中心点を結んだ線を空隙経路として決定した。図6Dには、図6Cに示す断面像の1つにおいて決定された複数の空隙経路を白い線で示す。また、図6Eには、空隙経路の決定の一例を模式的に示す。図6Eにおいて、炭素担体の骨格部分は黒色で示され、細孔部分は白色で示され、当該細孔の中心点を結んだ線として空隙経路が示されている。そして、金属担持触媒の曲路率を次の式により算出した:曲路率=f/s(fは、立方体の1つの面から当該面に対向する他方の面に至る空隙経路の長さを示し、sは、当該空隙経路の当該1つの面上の点と当該他方の面上の点とを結ぶ直線の長さ(最短直線距離)を示す。)。図6Fには、立方体の3D像における1つの空隙経路(点線)の長さf、及び当該空隙経路の最短直線距離sを模式的に示す。なお、各金属担持触媒の曲路率は、1つの3D粒子像から得られた炭素担体の3D再構成像の立方体において、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向のそれぞれで、一方の面上の点と、対向する他方の面上の点とを結ぶ複数の空隙経路を特定し、当該複数の空隙経路の各々の曲路率を算出し、当該空隙経路の曲路率の合計を、当該空隙経路の数で除することにより、算術平均値として得た。
【0207】
[金属担持触媒を含む電極を有する電池の性能評価]金属担持触媒を含むカソードを有する燃料電池の性能評価を行った。具体的に、まず金属担持触媒を含む触媒層が形成された電池カソードを製造した。すなわち、金属担持触媒0.25gに、炭素担体に対する重量比が0.9となる量の電解質(EW700)を加え、さらに、蒸留水及び1-プロパノールをそれぞれ2g加えて電解質溶液を調製した。この電解質溶液と、ボール25gをポットに投入し、200rpm、50分間ボールミルで混合することにより、均一に分散された当該金属担持触媒を含むスラリー状の触媒層用組成物を得た。
【0208】
得られたスラリー状の触媒層用組成物を、ガス拡散層(“29BC”、SGLカーボン社製)(2.3cm×2.3cm)の面積5cmの領域上に、金属担持触媒に担持された触媒金属粒子の電池電極の単位面積あたりの含有量が0.2mg/cmになるように塗布して乾燥させることにより、当該ガス拡散層上に触媒層を形成した。こうして、金属担持触媒を含む触媒層が形成された電池電極を得た。
【0209】
次に、金属担持触媒を含む触媒層が形成された電池電極を含む燃料電池を製造した。すなわち、正極としては、上述のようにして製造された、触媒層(正極触媒層)を含む電池電極を使用した。
【0210】
一方、負極は以下のようにして作製した。0.5gのPt/C(炭素担体に担持された白金粒子を含む触媒:UNPC40-II、石福金属興業株式会社製)、5%ナフィオン(登録商標)10gと、蒸留水2gと、ボール25gとをポットに投入し、200rpm、50分間ボールミルで混合することにより、スラリー状のPt/C組成物を調製した。このスラリー状のPt/C組成物を、ガス拡散層(5cm)上に単位面積あたりのPt/C塗布量が0.1mg/cmとなるようにしたこと以外は、上記正極と同様にして、当該Pt/C組成物から形成された触媒層(負極触媒層)を含む負極を作製した。
【0211】
そして、上記正極触媒層と上記負極触媒層との間に、固体高分子電解質膜(Dupont社製、“NAFION(登録商標)211”)を配置して、これらを150℃、1MPaの条件で3分間圧着することにより、MEAを作製した。このMEAに一対のガスケットを貼り付け、さらに一対のセパレーターで挟み、燃料電池単セルを作製した。その後、上述のようにして作製した単セルを燃料電池自動評価システム(株式会社東陽テクニカ製)に設置し、まず発電試験を行い、その後、耐久性試験を行った。
【0212】
発電試験は、単セルに対して、背圧70kPaで正極側に飽和加湿空気(酸素)を2.5L/分で供給し(相対湿度100%)、負極側に飽和加湿水素を1.0L/分で供給し、セル温度を75℃に設定して(相対湿度100%)、開回路電圧を5分間測定した。その後、セル電流密度を4.0A/cmから0A/cmまで、各電流密度で3分間保持してセル電圧を測定した。
【0213】
そして、電位と電流密度とから得られる出力密度を当該電位毎に算出し、最も高い値を、最大出力密度(mW/cm)として測定した。また、耐久性試験開始時の1.0A/cmにおける電圧(mV)及び3.0A/cmにおける電圧(mV)を記録した。
【0214】
その後、セル温度を75℃に設定して、単セルの両側に背圧35kPaで飽和加湿窒素を0.5L/分で供給し(相対湿度100%)、アノード側に飽和加湿水素を0.5mL/分で供給し(相対湿度100%)、電位を0.6Vで30秒保持し、1.0Vで60秒保持する矩形波の繰り返しサイクルにより、耐久性試験を行った。
【0215】
上記矩形波のサイクルを2100回行った後、再び発電試験を行い、耐久試験後の1.0A/cmにおける電圧(mV)及び3.0A/cmにおける電圧(mV)を記録した。そして、耐久性試験前の発電試験において初期性能として測定された1.0A/cmにおける電圧(mV)から、当該耐久性試験後の発電試験において測定された1.0A/cmにおける電圧(mV)(2100サイクル後の電圧(mV))を減じて得られた値を、2100サイクル後の1.0A/cmにおける電圧低下量(mV)として得た。また、同様に、耐久性試験前の発電試験において初期性能として測定された3.0A/cmにおける電圧(mV)から、当該耐久性試験後の発電試験において測定された3.0A/cmにおける電圧(mV)(2100サイクル後の電圧(mV))を減じて得られた値を、2100サイクル後の3.0A/cmにおける電圧低下量(mV)として得た。
【0216】
[炭素担体の触媒活性の評価]炭素担体単独の触媒活性を、回転リングディスク電極装置(RRDE-3A回転リングディスク電極装置ver.1.2、ビー・エー・エス株式会社製)と、デュアル電気化学アナライザー(CHI700C、株式会社ALS社製)とを用いて評価した。
【0217】
すなわち、まず炭素担体(触媒金属粒子が担持されていない炭素担体)を含む作用電極を有する、三極式の回転リングディスク電極装置を作製した。具体的に、炭素担体5mgと、5%ナフィオン(登録商標)(シグマアルドリッチ社製、ナフィオン 過フッ素化イオン交換樹脂、5%溶液(製品番号:510211))50μLと、水400μLと、イソプロピルアルコール100μLとを混合してスラリーを調製した。次いで、このスラリーに超音波処理を10分行い、その後、ホモジナイザー処理を2分行った。そして、得られたスラリーを、炭素担体の電極の単位面積あたりの含有量が0.1mg/cmとなるように、作用電極(RRDE-3A用リングディスク電極 白金リング-金ディスク電極 ディスク直径4mm、ビー・エー・エス株式会社製)に塗布し、乾燥することにより、当該炭素担体が担持された作用電極を作製した。
【0218】
また対極としては白金電極(Ptカウンター電極23cm、ビー・エー・エス株式会社製)を使用し、参照極としては可逆式水素電極(RHE)(溜め込み式可逆水素電極、株式会社イーシーフロンティア製)を使用した。こうして、炭素担体を含む作用電極、対極としての白金電極、及び参照極としての可逆式水素電極(RHE)を有する回転リングディスク電極装置を得た。また、電解液としては、0.1M過塩素酸水溶液を使用した。
【0219】
そして、上記回転リングディスク電極装置を用いた触媒活性を測定した。すなわち、炭素担体を含む作用電極を有する、三極式の回転リングディスク電極装置を用いた窒素雰囲気下におけるリニアスイープボルタンメトリ(N-LSV)及び酸素雰囲気下におけるリニアスイープボルタンメトリ(O-LSV)及びを実施した。
【0220】
-LSVにおいては、まず窒素バブリングを10分行い、電解液内の酸素を除去した。その後、電極を回転速度1600rpmで回転させ、掃引速度20mV/secで電位掃引した時の電流密度を電位の関数として記録した(N-LSV)。
【0221】
-LSVにおいては、さらにその後、酸素バブリングを10分行い、電解液内を飽和酸素で満たした。その後、電極を回転速度1600rpmで回転させ、掃引速度20mV/secで電位掃引した時の電流密度を電位の関数として記録した(O-LSV)。
【0222】
そして、O-LSVからN-LSVを差し引いて、酸素還元ボルタモグラムを得た。なお、得られた酸素還元ボルタモグラムにおいて、還元電流が負の値、酸化電流が正の値となるように数値に符号を付した。
【0223】
こうして得られた酸素還元ボルタモグラムから、炭素担体自体の触媒活性を示す指標として、-10μA/cmの還元電流が流れた時の電圧(酸素還元開始電位EO2)(V vs.NHE)と、0.7V(vs.NHE)の電圧を印加した時の電流密度I0.7(mA/cm)とを記録した。
【0224】
[結果]図7に、例1~6及び例C1~C7の各々について、金属担持触媒の製造方法、当該金属担持触媒の特性を評価した結果、当該金属担持触媒を含む電池の性能を評価した結果、及び、炭素担体自体の触媒活性を評価した結果を示す。
【0225】
図7において、「細孔内表面への触媒金属粒子の埋没」欄には、金属担持触媒が、その一部が炭素担体の細孔内表面に埋まっている触媒金属粒子を含むか否かについて評価した結果を示す。
【0226】
この評価においては、金属担持触媒が、触媒金属粒子径/細孔径比が0.70以上、1.30以上であるという条件、N脱着/吸着量比の最大値が1.05以下であるという条件、及び、外表面の触媒金属担持割合が33%以下であるという3つの条件の全てを満たす場合に、当該金属担持触媒は、一部が炭素担体の細孔内表面に埋まっている触媒金属粒子を含むと判断して、「細孔内表面への触媒金属粒子の埋没」欄に「〇」印を示し、当該3つの条件の1つ以上を満たさない場合には、当該金属担持触媒は、当該一部が炭素担体の細孔内表面に埋まっている触媒金属粒子を含まないと判断して、当該欄に「×」印を示した。
【0227】
図7に示すように、例1~6の金属担持触媒を含む電池の性能は、例C1~C7のそれより顕著に優れていた。すなわち、例1~6の金属担持触媒を含む電池は、発電試験における最大出力密度1096mW/cm以上、耐久性試験における電流密度1.0A/cmでの電圧低下量36mV以下、及び電流密度3.0A/cmでの電圧低下量53mV以下を示した。
【0228】
この点、例1~6の金属担持触媒は、触媒金属粒子粒子径/細孔径比が0.70以上、1.30以下という条件、N2脱着/吸着量比の最大値が1.05以下であるという条件、及び、外表面の触媒金属担持割合が33%以下であるという条件の全てを満たしていたのに対し、例C1~C7の金属担持触媒は、これら3つの条件の1以上を満たしていなかった。
【0229】
すなわち、例C1~C4,C6の金属担持触媒は、触媒金属粒子径/細孔径比の上記条件を満たさず、例C1~C3,C7の金属担持触媒は、N脱着/吸着量比の上記条件を満たさず、例C1,例C2,例C5~例C7の金属担持触媒は、外表面の触媒金属担持割合の上記条件を満たしていなかった。
【0230】
また、例1~6の金属担持触媒は、さらに、20nm以上深さの触媒金属担持割合が11%以上であるという条件も満たしていたのに対し、例C1~C3,C5~C7の金属担持触媒は、当該条件を満たしていなかった。
【0231】
また、例C1で用いた炭素担体C及び例C7で用いた炭素担体DのN吸着/吸着量比の最大値は、それぞれ1.23及び1.06であり、これら炭素担体C,Dは、炭素担体A,Bに比べて、細孔の連通性が劣っていた。
【0232】
また、例C5,C6の金属担持触媒は、例1~3,5と同じく炭素担体Aを含んでいたが、当該例C5,C6の金属担持触媒を含む電池の性能は、当該例1~3,5の金属担持触媒を含む電池のそれより劣っていた。これは、例C5,C6の金属担持触媒の製造においては、触媒金属粒子の担持法F,Gを採用し、液相還元処理を行ったことが原因の一つと考えられる。
【0233】
例1,2,3,5,6の金属担持触媒を含む電池の性能は、例4のそれより優れていた。この点、例4の金属担持触媒に担持されている触媒金属粒子の数平均粒子径は3.57nmであったのに対し、例1,2,3,5,6のそれは、より小さかった。また、例4の金属担持触媒は、触媒金属粒子径/細孔径比が1.13であったのに対し、例1,2,3,5,6のそれは、より小さかった。
【0234】
例4の金属担持触媒の製造においては、触媒金属粒子の担持法Dを採用し、気相還元処理を比較的長い時間行い、その後は不活性雰囲気中での加熱処理を行わなかったため、当該気相還元処理中に、触媒金属粒子の凝集が進行したと考えられる。
【0235】
さらに、例1,2,3,6の金属担持触媒を含む電池の最大出力密度は、例5のそれより優れていた。この点、例5の金属担持触媒に担持されている触媒金属粒子の体積平均粒子径は5.55nmであったのに対し、例1,2,3,4,6のそれは、より小さかった。また、例4の金属担持触媒に担持されている触媒金属粒子の体積平均粒子径は4.74nmであったのに対し、例1,2,3,6のそれは、より小さかった。また、例4,5の金属担持触媒は、外表面の触媒金属担持割合が32%であったのに対し、例1,2,3,6のそれは、より小さかった。
【0236】
例4,5の金属担持触媒の製造においては、触媒金属粒子の担持法D,Eを採用し、気相還元処理を比較的長い時間行い、その後は不活性雰囲気中での加熱処理を行わなかったため、当該気相還元処理中に、触媒金属粒子の凝集が進行したと考えられる。
【0237】
また、例4,6の金属担持触媒は、いずれも炭素担体Bを含んでいたが、例6の金属担持触媒を含む電池の性能は、例4のそれより優れていた。この点、例6の金属担持触媒は、触媒金属粒子の数平均粒子径及び体積平均粒子径が、例4のそれらより小さかった。
【0238】
例6の金属担持触媒の製造においては、触媒金属粒子の担持法Aを採用し、気相還元処理に続く不活性雰囲気中での加熱処理を行ったことにより、触媒金属粒子の数平均粒子径及び体積平均粒子径のいずれもが、例4より小さく抑えられたと考えられる。
【0239】
また、例1,2,3の金属担持触媒を含む電池の性能は、極めて顕著に優れていた。すなわち、例1,2,3の金属担持触媒を含む電池は、発電試験における最大出力密度1315mW/cm以上、耐久性試験における電流密度1.0A/cmでの電圧低下量25mV以下、及び電流密度3.0A/cmでの電圧低下量19mV以下を示した。
【0240】
この点、例1,2,3の金属担持触媒は、触媒金属粒子の数平均粒子径が、例4,5,6のそれより小さかった。例1,2,3の金属担持触媒は、触媒金属粒子の体積平均粒子径が、例4,5のそれより小さかった。例1,2,3の金属担持触媒は、外表面の触媒金属担持割合が、例4,5のそれより小さかった。例1,2,3の金属担持触媒は、触媒金属粒子径/細孔径比が、例4,6のそれより小さかった。例1,2,3の金属担持触媒は、炭素担体のメディアン径が例4,6のそれより小さかった。例1,2,3の金属担持触媒は、ラマンD半値半幅が、例4,6のそれより小さかった。
【0241】
また、触媒金属粒子を担持していない炭素担体が単独で示す触媒活性を評価した結果、炭素担体Aは0.76(V vs.NHE)の酸素還元開始電位EO2及び-0.1(mA/cm)の電流密度I0.7を示し、炭素担体Bは0.83(V vs.NHE)の酸素還元開始電位EO2及び-1.8(mA/cm)の電流密度I0.7を示し、炭素担体Dは0.75(V vs.NHE)の酸素還元開始電位EO2及び-0.1(mA/cm)の電流密度I0.7を示した。これに対し、炭素担体Cは、0.26(V vs.NHE)の酸素還元開始電位EO2を示したが、電流密度I0.7はゼロ(mA/cm)であった。
【0242】
すなわち、炭素担体A、炭素担体B及び炭素担体Dは、それぞれ単独で顕著な酸素還元活性を示したのに対し、炭素担体Cは、酸素還元活性を示さなかった。なお、上述した測定法においては、触媒が存在しない場合であっても僅かな酸素還元反応が発生する。したがって、上述した測定法において、0.35(V vs.NHE)以上の酸素還元開始電位EO2が得られた場合にのみ、炭素担体が酸素還元活性を示したと結論される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7