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特開2022-46213接着剤、接着シート及びフレキシブル銅張積層板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022046213
(43)【公開日】2022-03-23
(54)【発明の名称】接着剤、接着シート及びフレキシブル銅張積層板
(51)【国際特許分類】
   C09J 179/08 20060101AFI20220315BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20220315BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220315BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20220315BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20220315BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20220315BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220315BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
C09J179/08 Z
B32B15/088
B32B27/00 D
B32B27/34
C09J11/06
C09J7/35
H05K1/03 670
H05K1/03 650
H05K1/03 630H
H05K1/03 610N
C08G73/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020152144
(22)【出願日】2020-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】520350775
【氏名又は名称】合肥漢之和新材料科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 鉄秋
(72)【発明者】
【氏名】山田 和巳
【テーマコード(参考)】
4F100
4J004
4J040
4J043
【Fターム(参考)】
4F100AB17C
4F100AB33C
4F100AH06B
4F100AK49A
4F100AK49B
4F100AK52B
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA07
4F100BA10C
4F100CB00B
4F100EH46B
4F100EJ17B
4F100EJ42B
4F100EJ86B
4F100EK06
4F100GB41
4F100GB43
4F100JA05
4F100JD15
4F100JG05
4F100JG05B
4F100JJ03
4F100JK06
4F100JL12B
4J004AA16
4J004AB04
4J004BA02
4J004CA06
4J004CA08
4J004CB03
4J004FA05
4J040EH031
4J040HD36
4J040KA23
4J040LA08
4J040LA09
4J040MA02
4J040MA10
4J040MB03
4J040NA19
4J040PA30
4J040PA33
4J043QB31
4J043RA35
4J043SA06
4J043SB03
4J043TA22
4J043TB01
4J043UA131
4J043UA132
4J043UA231
4J043UB012
4J043UB051
4J043UB121
4J043UB122
4J043VA021
4J043VA022
4J043XA03
4J043XA16
4J043XA17
4J043ZB01
4J043ZB50
(57)【要約】      (修正有)
【課題】架橋剤を用いなくても、誘電特性と、熱的特性、加工特性、接着特性、吸湿特性と、コストとをバランス良く並立できるフレキシブル銅張積層板用の接着剤、それを用いて製造する接着シート及びフレキシブル銅張積層板の提供。
【解決手段】下記一般式[I]で表される繰返し単位を有する脱水閉環イミド化した溶剤可溶性ポリイミドと、下記一般式[II]で表されるシランカップリング剤とを含有する、ポリイミドフィルム基材と銅箔を接着させるためのフレキシブル銅張積層板用接着剤。

(式[I]中、Zはビスフェノール型酸二無水物残基であり、Arはダイマージアミン残基及び/又はフッ素含有ジアミン残基である)(RO)Si-X[II](式[II]中、Xはケチミン構造又はアルジミン構造を有する基であり、Rはアルキル基である)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレキシブル銅張積層板を構成するポリイミドフィルム基材と銅箔を接着させるためのフレキシブル銅張積層板用接着剤であって、下記一般式[I]で表される繰返し単位を有する脱水閉環イミド化した溶剤可溶性ポリイミドと、下記一般式[II]で表されるシランカップリング剤とを含有する接着剤。
【化1】
(式[I]中、Zはビスフェノール型酸二無水物残基であり、Arはダイマージアミン残基及び/又はフッ素含有ジアミン残基である)
(RO)Si-X [II]
(式[II]中、Xはケチミン構造又はアルジミン構造を有する基であり、Rはアルキル基である)
【請求項2】
前記接着剤を200℃で90分間加熱処理して得られたフィルムのTgが110℃以上となる、請求項1記載の接着剤。
【請求項3】
前記溶剤可溶性ポリイミドに含まれる前記ダイマージアミン残基が全ジアミン残基の20モル%以上30モル%未満である、請求項1又は2記載の接着剤。
【請求項4】
前記溶剤可溶性ポリイミドに含まれるビスフェノール型酸二無水物残基が全ジ酸無水物残基の70モル%以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の接着剤。
【請求項5】
前記接着剤が非水溶性溶剤を含有し、非水溶性溶剤が安息香酸メチルである請求項1~4のいずれか1項に記載の接着剤。
【請求項6】
前記接着剤を200℃で90分間加熱処理して得られたフィルムの誘電正接が0.03(5GHz)以下であり、且つ、誘電率が3.0(5GHz)以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の接着剤。
【請求項7】
フレキシブル銅張積層板を構成するポリイミドフィルム基材の片面又は両面に、銅箔を接着させるための接着剤層が積層されてなる、フレキシブル銅張積層板用の接着シートであって、前記接着剤層が請求項1~6のいずれか1項に記載の接着剤を含有する接着シート。
【請求項8】
ポリイミドフィルム基材の片面又は両面に接着剤層及び銅箔が順次積層されてなるフレキシブル銅張積層板であって、前記接着剤層が請求項1~6のいずれか1項に記載の接着剤を含有するフレキシブル銅張積層板。
【請求項9】
請求項8に記載のフレキシブル銅張積層板の製造方法であって、請求項7に記載の接着シートに銅箔を220℃以下の温度で貼り合わせた後に、220℃以下の温度で接着剤層を熱処理することを含む製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルプリント配線板等に使用されるフレキシブル銅張積層板(FCCL:Flexible Cupper Clad Laminate)、それを製造するための接着剤及び接着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス製品の軽量化、小型化、高密度化に伴い、各種プリント配線板、中でもフレキシブルプリント配線板の需要が特に伸びている。フレキシブルプリント配線板は、絶縁性フィルム上に金属箔からなる回路が形成されている。フレキシブルプリント配線板用のフレキシブル銅張積層板は、一般にポリイミドフィルム等の絶縁性フィルムを基材とし、この基材の表面に各種の接着剤層を介して金属箔を加熱及び圧着して積層させた構造を有している。
【0003】
一方、第5世代の移動通信システム(5G)では、高速・大容量、信号の低遅延、端末の同時多接続という3つの機能が飛躍的に向上している。そこで、フレキシブル銅張積層板についても、5G通信や、自動運転などに用いられるミリ波レーダー向け電子部品に適した接着材料が要求されている。5G通信やミリ波レーダーには、従来から使用されている6GHz以下の周波数バンドに加え、ミリ波領域といわれる20GHz以上の新たな周波数帯での通信が必要となる。そのため、フレキシブル銅張積層板についても、高い周波数帯域での通信に適した誘電特性と、半導体実装等に耐えられる耐熱性、導体配線との接着性などの物性値、及び良好な加工特性を満たす接着材料が求められている。
【0004】
高周波回路では特に絶縁材料における誘電体損失が大きな問題となる。これらの損失は、信号伝達時に発熱やノイズ、高消費電力等の問題として現れる。誘電体損失は周波数、材料の誘電正接、及び誘電率のルートに比例するが、絶縁材料については、特に誘電正接の低減が大きな課題となる。このような誘電体損失の問題は、周波数帯として1GHzを超えたところから顕著になる。誘電正接は、主に材料構造中にある配向分極部位において、外部電界による振動に遅れが生じ、絶縁材料内の双極子が電場の振動に追従できなくなるため、運動エネルギーを消費する現象を反映している。
【0005】
そこで、樹脂の分子構造を非極性化することによって外部電界に誘起される運動を抑制するという観点から分子設計を行なうことが、誘電体損失の低減に効果的である。即ち、高周波帯において誘電体損失を低下させるためには、高分子構造において分極の動きを抑えること(誘電正接)と分極を小さくすること(誘電率)が必要となる。
【0006】
従来、フレキシブルプリント配線板に用いられる銅張積層板用の接着材料としては、ポリイミドを含有する種々の接着剤が報告されている(特許文献1~7)。中でも、低誘電特性を目指した接着剤として、ビスフェノール型酸二無水物残基及びダイマージアミン残基を有するポリイミドと架橋剤と反応性アルコキシシリル化合物を含有する接着剤が報告されている(特許文献2~7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-199645号公報
【特許文献2】特開2017-121807号公報
【特許文献3】特開2018-168369号公報
【特許文献4】特開2018-168370号公報
【特許文献5】特開2018-168371号公報
【特許文献6】特開2019-172989号公報
【特許文献7】特開2020-105493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、ポリイミド樹脂を含む銅張積層板用の接着剤として従来種々の接着剤が報告されているが、従来の接着剤はエポキシ等の架橋剤を必須成分として含んでいたため、そのような架橋剤を含まないポリイミド樹脂に比べ誘電正接が大きくなり、耐熱性が低下するという問題があった。また、従来の接着剤で具体的に使用されていた反応性アルコキシシリル化合物はアミノ系化合物であり、アミノ系化合物を用いると接着強度の向上に効果はあるが、接着剤としての基本特性である保存安定性が低下するという問題があった。さらに、ダイマージアミンのジアミン全体に占める量が多くなると、耐熱性、特にTgが低下するという問題もあった。
【0009】
本発明者らは、接着剤の特性として必須である基材及び銅箔との間の接着強度、はんだ耐熱性と保存安定性を並立させるためには、アミノ系アルコキシシリル化合物と同等以上の接着強度の向上と吸湿後のはんだ耐熱性の向上が期待でき、アミノ系の欠点である保存安定性の低下を抑えることができるケチミン構造又はアルジミン構造を有する反応性アルコキシシリル化合物を添加剤として用いることが有効であることを見出した。また、本発明者らは、FCCLに要求される低誘電特性に必須のダイマージアミンについては、Tg、接着特性、吸湿特性という基本特性と加工性、実装性などの加工特性のバランスを得るために、その添加量に制限を加えることが好ましいことを見出した。そして、従来必須であった架橋剤を添加しなくても、上記知見により、接着強度と保存安定性を両立させつつ、高Tg、優れた吸湿特性及び低誘電特性化を達成することができ、本発明を完成した。
【0010】
本発明は以上の事情に鑑みなされたものであって、その目的は、架橋剤を用いなくても、誘電特性と、熱的特性、加工特性、接着特性、吸湿特性と、コストとをバランス良く並立できるフレキシブル銅張積層板用の接着剤、それを用いて製造する接着シート及びフレキシブル銅張積層板を提供することにある。
また、本発明の目的は、接着剤に閉環ポリイミドを用いることにより、ポリアミック酸タイプのポリイミドでは実現できない非脱水収縮や低温化を実現できるフレキシブル銅張積層板用の接着剤、それを用いて製造する接着シート及びフレキシブル銅張積層板を提供することにある。このような非脱水収縮と低温化により、大パネルサイズでの反りの減少や寸法安定性の向上を図ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、誘電特性(誘電率、誘電正接)は周波数に依存し、使用環境の温度、湿度に大きな影響を受け、接着剤に含まれる樹脂自体のTgを境に誘電特性の値が大きく変化する点に着目した。そして、誘電特性と、熱的特性(Tg)、加工特性、接着特性、吸湿特性と、コストとをバランス良く並立できるフレキシブル銅張積層板用の接着剤は、脱水閉環イミド化した溶剤可溶性ポリイミドとともに、特定の構造を有するシランカップリング剤を用いることにより実現できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、フレキシブル銅張積層板を構成するポリイミドフィルム基材と銅箔を接着させるためのフレキシブル銅張積層板用接着剤であって、下記一般式[I]で表される繰返し単位を有する脱水閉環イミド化した溶剤可溶性ポリイミドと、一般式[II]で表されるシランカップリング剤とを含有する接着剤、を提供する。
【0013】
【化1】
(式中、Zはビスフェノール型酸二無水物残基であり、Arはダイマージアミン残基及び/又はフッ素含有ジアミン残基である)
(RO)Si-X [II]
(式中、Xはケチミン構造又はアルジミン構造を有する基であり、Rはアルキル基である)
【0014】
また、本発明は、フレキシブル銅張積層板を構成するポリイミドフィルム基材の片面又は両面に、銅箔を接着させるための接着剤層が積層されてなる、フレキシブル銅張積層板用の接着シートであって、前記接着剤層が前記本発明の接着剤を含有する接着シート、を提供する。
【0015】
また、本発明は、ポリイミドフィルム基材の片面又は両面に接着剤層及び銅箔が順次積層されてなるフレキシブル銅張積層板であって、前記接着剤層が前記本発明の接着剤を含有するフレキシブル銅張積層板、を提供する。
【0016】
さらに、本発明は、前記本発明のフレキシブル銅張積層板の製造方法であって、前記本発明の接着シートに銅箔を220℃以下の温度で貼り合わせた後に、220℃以下の温度で接着剤層を熱処理することを含む製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の接着剤は、200℃で90分間加熱処理してフィルムを作成した場合に、誘電正接が0.003(5GHz)以下、誘電率が3.0(5GHz)以下、及びTgが110℃以上となり、保存安定性が非常に良好で、吸水率の低いフィルムを作成することができる。Tgが110℃以上であるため、常用使用温度110℃以下では誘電特性の急激な変化を起こさない材料を提供することができる。また、本発明の接着剤を用いてポリイミドフィルム基材と銅箔を接着させることにより、誘電率及び誘電正接が低く、耐熱性及び引きはがし強さが良好なフレキシブル銅張積層板を作成でき、誘電特性と、熱的特性(Tg)、加工特性、接着特性、吸湿特性及びコストとをバランス良く並立できるフレキシブル銅張積層板を提供できる。
【0018】
また、接着シートの接着剤層と銅箔とを220℃以下の温度で貼り合わせ、220℃以下の温度で接着剤層を熱処理することができる。そのため、寸法安定性悪化の主要因の一つである高温高圧でのラミネート工程を経る必要がなく、フレキシブル銅張積層板の寸法安定性を改善することができる。
【0019】
本発明の接着剤を用いて作製されるフレキシブル銅張積層板(FCCL:Flexible Cupper Clad Laminate )は、フレキシブルプリント配線板等に使用され、特に従来の2層FCCLより誘電特性(誘電率、誘電正接)に優れ、他特性は2層FCCLと同等以上の物性及び加工性を有するため、以下、本発明のフレキシブル銅張積層板を低誘電2層FCCLとも言う。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のフレキシブル銅張積層板用接着剤は、フレキシブル銅張積層板を構成するポリイミドフィルム基材と銅箔を接着させるための接着剤であり、下記一般式[I]で表される繰返し単位を有する脱水閉環イミド化した溶剤可溶性ポリイミドと、一般式[II]で表されるシランカップリング剤とを含有する。
【0021】
【化2】
【0022】
(式中、Zはビスフェノール型酸二無水物残基であり、Arはダイマージアミン残基及び/又はフッ素含有ジアミン残基である)
(RO)Si-X [II]
(式中、Xはケチミン構造又はアルジミン構造を有する基であり、Rはアルキル基である)
【0023】
(溶剤可溶性ポリイミド)
本発明の溶剤可溶性ポリイミドは、上記一般式[I]で表される繰返し単位をその一部に含むものであれば、その他の繰返し単位を有していてもよい。
上記一般式[I]で表される繰返し単位において、Zはビスフェノール型酸二無水物残基である。ビスフェノール型酸二無水物残基をポリイミドに導入するためのビスフェノール型酸二無水物としては、ビスフェノール型の構造を有するものであれば特に制限はないが、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(無水フタル酸)(以下、BPADAともいう)、4,4’-(4,4’-メチレンジフェノキシ)ビス(無水フタル酸)等が挙げられる。この中でもBPADAが好ましい。BPADAの市販品としては、S A B I C イノベーティブプラスチックスジャパン合同会社製の、BISDA-1000、BISDA-3000がある。
【0024】
上記その他の繰返し単位は、ビスフェノール型酸二無水物残基(Z)以外のジカルボン酸無水物残基を有する。ビスフェノール型酸二無水物残基(Z)以外のジカルボン酸無水物残基としては、フッ素含有酸二無水物残基が挙げられる。フッ素含有酸二無水物残基をポリイミドに導入するためのフッ素含有酸二無水物としては、例えば2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,3’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物等のフッ素含有芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0025】
上記フッ素含有酸二無水物としては、フッ素原子を有しないテトラカルボン酸二無水物の水素原子の一部又は全てを、フッ素原子を有する置換基で置換したものを用いることもできる。フッ素原子を有する置換基としては、具体的には、フルオロ基、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、HCFCF-、CFCF-、CFCH-、CFCFCFCF-、CFCFCFCH-が好ましく、フルオロ基、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、CFCF-、HCFCF-がより好ましい。フッ素原子を有しないテトラカルボン酸二無水物としては、例えばシクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキサン-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(メチリデン)ジフタル酸無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,3-ビス〔(3,4-ジカルボキシ)ベンゾイル〕ベンゼン二無水物、1,4-ビス〔(3,4-ジカルボキシ)ベンゾイル〕ベンゼン二無水物、2,2-ビス{4-〔4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}プロパン二無水物、2,2-ビス{4-〔3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}プロパン二無水物、ビス{4-〔4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4-〔3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、4,4’-ビス〔4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ〕ビフェニル二無水物、4,4’-ビス〔3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ〕ビフェニル二無水物、ビス{4-〔4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4-〔3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4-〔4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルホン二無水物、ビス{4-〔3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルホン二無水物、ビス{4-〔4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルフィド二無水物、ビス{4-〔3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルフィド二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ぺリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0026】
溶剤可溶性ポリイミドを構成するビスフェノール型酸二無水物成分(Z成分)の含有量は、低い誘電特性と高いTgを達成する観点から、全ジカルボン酸無水物成分の70mol%以上、更には75mol%以上、特には80mol%以上とするのが好ましい。
【0027】
一方、フッ素含有酸二無水物残基を有するポリイミドにおいては、誘電率や吸水率などの物性は、ポリイミドに占めるフッ素原子とイミド基の含有率でほぼ決定され、化学構造(一次構造)や電子構造にはあまり関係がない。そのためこれらの物性を制御するためには、反応性と得られるポリイミドの耐熱性を損なわない範囲でフッ素含有酸二無水物を適宜選択すればよい。
【0028】
上記一般式[I]で表される繰返し単位において、Arはダイマージアミン残基及び/又はフッ素含有ジアミン残基である。
ダイマージアミン残基をポリイミドに導入するためのダイマージアミンとは、オレイン酸等の不飽和脂肪酸の二量体であるダイマー酸の全てのカルボキシル基を一級アミノ基に置換したものであり、更に水素添加して得られる水添ダイマージアミンも含み(特開平9-12 712号公報等参照)、各種公知のものを特に制限なく使用できる。以下、ダイマージアミンの非限定的な一般式を示す(各式において、m+n=6~17が好ましく、p+q=8~19が好ましく、破線部は炭素-炭素単結合又は炭素-炭素二重結合を意味する)。ダイマージアミンは脂環構造を有するものがより好ましい。
【0029】
【化3】
【0030】
ダイマージアミンは、分子量約530~620の巨大分子の脂肪族又は脂環式の構造を有するため、分子のモル体積を大きくし、ポリイミドの極性基を相対的に減らすことができる。また、2つの自由に動く炭素数7~9の疎水鎖と、炭素数18に近い長さを持つ2つの鎖状の脂肪族アミノ基とを有するので、ポリイミドに柔軟性を与えるのみならず、ポリイミドを非対象的な化学構造や非平面的な化学構造とすることができ、その結果ポリイミドの低誘電率化及び低誘電正接化を図ることができる。ダイマージアミン残基は、高分子鎖間のπ-πスタッキング等の相互作用を減少させ、溶剤に対する溶解性を向上させることができ、また芳香族ジアミン残基と芳香族ジテトラカルボン酸無水物残基との間の電荷移動(CT)を起こりにくくすることができる。
【0031】
ダイマージアミンの市販品としては、バーサミン551(コグニクスジャパン(株)製)、バーサミン552(コグニクスジャパン(株)製;バーサミン551の水添物)、PRIAMINE1075、PRIAMINE1074(いずれもクローダジャパン(株)製)等が挙げられる。
【0032】
フッ素含有ジアミン残基をポリイミドに導入するためのフッ素含有芳香族ジアミンとしては、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2’―ビス(4―アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3-ジアミノ-2,4,5,6-テトラフルオロベンゼン等のフッ素含有芳香族ジアミンが挙げられる。
【0033】
溶剤可溶性ポリイミドを構成する、ダイマージアミン成分(Ar成分)の含有量は、低い誘電特性と高いTgを得る観点から、下限値は、全ジアミン成分の20mol%以上、21mol%以上、22mol%以上、23mol%以上、24mol%以上、25mol%以上、26mol%以上、27mol%以上とするのがよく、上限値は、全ジアミン成分の30mol%未満、更には29mol%以下とするのが好ましい。
【0034】
Ar成分としてダイマージアミンを用いる場合には、Tgを更に改善することが好ましく、フッ素含有芳香族ジアミンを用いる場合には、Tg及び接着性能を更に改善することが好ましい。したがって、Ar成分としてダイマージアミン及び/又はフッ素含有芳香族ジアミンを用いる場合でも、Tg及び接着性能を含む特性バランスを持たせるために、その他のジアミン成分を併用することが好ましい。
【0035】
一方、フッ素含有ジアミン残基を有するポリイミドにおいては、誘電率や吸水率などの物性は、ポリイミドに占めるフッ素原子とイミド基の含有率でほぼ決定され、化学構造(一次構造)や電子構造にはあまり関係がない。そのためこれらの物性を制御するためには、反応性と得られるポリイミドの耐熱性を損なわない範囲でフッ素含有ジアミンを適宜選択すればよい。
【0036】
溶剤可溶性ポリイミドは、上記一般式[I]で表される繰返し単位以外の別の繰返し単位を有するブロックロック共重合体であってもよく、ダイマージアミンやフッ素含有芳香族ジアミンの上記欠点を補填するためにも有効である。
【0037】
前記その他の芳香族ジアミンとしては、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、2,5-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノキシレン、2,4-ジアミノデュレン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-メチレンビス(2-メチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2-エチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、2,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート、ベンジジン、3,3’-ジヒドロキシベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、o-トリジン、m-トリジン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン等が挙げられる。
【0038】
上記一般式[I]で表される繰返し単位を有する溶剤可溶性ポリイミドは、ビスフェノール型酸二無水物とダイマージアミン及び/又はフッ素含有ジアミンを脱水縮合反応させることにより得られる。
【0039】
溶剤可溶性ポリイミドの合成方法は公知の方法を用いればよく、特に制限されないが、上述したビスフェノール型酸二無水物とダイマージアミン及び/又はフッ素含有ジアミンをほぼ等量用いて、有機極性溶媒中、触媒及び脱水剤の存在下、160~200℃で数時間反応させることにより、溶剤可溶性のポリイミドを合成できる。有機極性溶媒としては、N-メチルピロリドン(NMP)、γ-ブチロラクトン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、テトラヒドロチオフェン-1,1-オキシド等が用いられる。
【0040】
溶剤可溶性ポリイミドはブロック共重合体であるのが好ましく、ブロック共重合体はブロック共重合反応を行うことにより合成することができる。例えば、二段階の逐次添加反応によって製造することができ、第一段階でビスフェノール型酸二無水物とダイマージアミン及び/又はフッ素含有ジアミンからポリイミドオリゴマーを合成し、次いで第二段階で、更にフッ素含有ジアミン及び/又はダイマージアミンを添加して、重縮合させてブロック共重合ポリイミドとすることができる。
【0041】
ブロック共重合反応の触媒としては、ラクトンの平衡反応を利用した二成分系の酸-塩基触媒を用いることにより、脱水イミド化反応を促進することができる。具体的には、γ-バレロラクトンとピリジン又はN-メチルモルホリンの二成分系触媒を用いる。下記式に示すように、イミド化が進むにつれて水が生成し、生成した水がラクトンの平衡に関与して、酸-塩基触媒となり触媒作用を示す。
【0042】
【化4】
【0043】
イミド化反応によって生成する水は、極性溶媒中に共存するトルエン又はキシレン等の脱水剤と共沸によって系外に除かれる。反応が完結すると溶液中の水が除去され、酸-塩基触媒はγ-バレロラクトンとピリジン又はN-メチルモルホリンとなり系外に除去される。このようにして高純度のポリイミド溶液を得ることができる。
【0044】
他の二成分系触媒としては、シュウ酸又はマロン酸とピリジン又はN-メチルモルホリンを用いることができる。160~200℃の反応溶液中で、シュウ酸塩又はマロン酸塩は酸触媒としてイミド化反応を促進する。生成したポリイミド溶媒中には触媒量のシュウ酸又はマロン酸が残留する。このポリイミド溶液を基材に塗布した後に200℃以上に加熱し、脱溶媒を行って製膜をする時に、ポリイミド中に残存するシュウ酸又はマロン酸は、下記式に示すように熱分解し、ガスとして系外に除かれる。
【0045】
【化5】
【0046】
以上の方法により、高純度の溶剤可溶性ポリイミドを得ることができる。シュウ酸-ピリジン系触媒は、バレロラクトン-ピリジン系触媒に比べて活性が強く、短時間で高分子量のポリイミドを生成することができる。
【0047】
合成された溶剤可溶性ポリイミドの分子量は、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)として1万~40万が好ましい。溶剤可溶性ポリイミドの分子量がこの範囲内であると良好な溶剤可溶性、膜物性及び絶縁性を達成できるため好ましい。
本発明における「溶剤可溶性」なる用語は、ポリイミドの合成において使用する有機極性溶剤と、後述する接着剤組成物に使用する溶剤に対して使用する用語であり、これらの溶剤を用いてポリイミドが20重量%固形分の溶液を作製可能であることを意味する。溶剤としては、NMP、γ-ブチロラクトン、DMF、DMACなどが挙げられる。合成されたポリイミドは、上記有機極性溶剤又は後述する接着剤組成物に使用する溶剤に、例えば、固形分が10~30重量%となるよう溶解させた溶液の状態で用いることができる。
【0048】
また、本発明の溶剤可溶性ポリイミドは完全に脱水閉環イミド化したポリイミドであるため、接着剤をポリイミドフィルム基材に塗布した後にイミド化のための高温での熱処理を必要としない。従って、接着剤をポリイミドフィルム基材に塗布した後にイミド化のための高温での熱処理(300℃以上)を要するポリアミック酸(ポリイミド前駆体)に比べ、寸法安定性の高いフレキシブル銅張積層板を提供できるという利点がある。
【0049】
(シランカップリング剤)
本発明のシランカップリング剤は、下記一般式[II]で表される構造を有する。
(RO)Si-X [II]
(式中、Xはケチミン構造又はアルジミン構造を有する基であり、Rはアルキル基である)
【0050】
Xが表すケチミン構造を有する基とは、一般式(1):-R-N=CRで表される基であり、Xが表すアルジミン構造を有する基とは、一般式(2):-R-N=CHRで表される基である。
【0051】
一般式(1)及び(2)中、Rは炭素数1~10、好ましくは2~7のアルキレン基であり、R2、は炭素数1~10、好ましくは1~7の直鎖状又は分岐状のアルキル基或いは置換されていてもよいフェニル基である。Rはアルキル基であり、炭素数1~7、更には炭素数1~5、特には炭素数1~3の直鎖状又は分岐状のアルキル基が好ましい。
【0052】
本発明のシランカップリング剤としては、ケチミン構造を有するものとして3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン(下記化合物III)、3-トリメトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-(1-フェニルエチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロピルアミン、N-(1-フェニルエチリデン)-3-(トリメトキシシリル)-1-プロピルアミンが挙げられる。
【0053】
【化6】
【0054】
また、アルジミン構造を有するものとしてN-(フェニルメチレン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロピルアミン(化合物IV)、N-(フェニルメチレン)-3-(トリメトキシシリル)-1-プロピルアミンが挙げられる。
【0055】
【化7】
【0056】
本発明のシランカップリング剤に相当する市販品としては、信越化学工業製KBE-9103P(ケチミン構造)やX-12-1172ES(アルジミン構造)等がある。
【0057】
一般的なシランカップリング剤は、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基などの有機官能基を有する。本発明の溶剤可溶性ポリイミドに関してはアミノ基を有するシランカップリング剤が適するが、アミノ基は反応性が大きいために接着剤の保存安定性が低下する。アミノ基を保護したケチミン構造又はアルジミン構造を有するシランカップリング剤を用いることで、アミノ基含有アルコキシシリル化合物と同等以上の接着強度の向上が期待でき、接着剤の保存安定性の低下を抑えることができる。
【0058】
本発明においては、低誘電率、低誘電正接及び吸水率を下げるために、溶剤可溶性ポリイミドへの極性基の導入を出来得る限り抑え、ダイマージアミンの量も制限を加えている。これらの極性基とダイマージアミンは接着強度に関係するため、接着剤の接着強度は低下する傾向にあるが、本発明のシランカップリング剤を用いることにより適正な接着強度を確保することができ、同時に吸湿後のはんだ耐熱性も向上することができる。
【0059】
本発明のシランカップリング剤の接着剤に対する添加量は、ポリイミド溶液の固形分100重量部に対し、下限値は0.01重量部以上、更には0.1重量部以上、特には0.5重量部以上とするのが好ましく、上限値は10重量部以下、更には7重量部以下、特には5重量部以下とするのが好ましい。シランカップリング剤の添加量の下限値を0.01重量部未満とすると、接着剤の引きはがし強度が低下する傾向にある。また、シランカップリング剤の添加量の上限値が10重量部を超えると、接着剤の保存安定性や引きはがし強度が低下する傾向にある。
【0060】
(非水溶性溶剤)
本発明の接着剤は、接着剤としての保存安定性等の吸湿性能を緩和するために非水溶性溶剤で希釈してもよい。ポリイミドの有機合成で使用する有機極性溶媒としてはNMPやγ-ブチロラクトンが最適であるが、これらは水溶性溶剤であるため、非水溶性溶剤で希釈することが好ましい。非水溶性溶剤としては、安息香酸メチル等が最適である。
【0061】
(接着剤)
本発明のフレキシブル銅張積層板用接着剤は、上述した溶剤可溶性ポリイミド、シランカップリング剤、非水溶性溶剤以外にも、難燃剤、イミド化剤、フィラー等を含む接着剤組成物であってもよい。
フィラーとしては低誘電特性を有するものが好ましい。接着剤としての沈降性やFCCLとしての加工性の観点から、シリカのサブミクロンフィラー又はナノフィラーが特に好ましい。
【0062】
溶剤可溶性ポリイミドと共に、必要に応じ他の樹脂成分等の成分を混合して得られた混合物に溶剤を加え、樹脂固形分20~60重量%の樹脂ワニスを調製することにより接着剤(組成物)を作製することができる。
【0063】
(接着剤フィルムの物性)
本発明の接着剤(組成物)は、接着剤(組成物)から作製した低揮発分状態の接着剤フィルムを200℃で90分間加熱処理して得られたフィルムの誘電正接が0.003(5GHz)以下、誘電率が3.0(5GHz)以下となり、Tg(ガラス転移温度)が110℃以上となる。樹脂の誘電特性はTgを境として急激に変化する。この観点から、接着剤から作製したフィルムのTg(ガラス転移温度)は、この接着剤を使用してできるFCCLが使用される電子機器等の常用使用温度よりも高いことが望まれる。そのため、本発明において、接着剤から作製したフィルムのTg(ガラス転移温度)は、下限値が110℃以上、更には120℃以上、特には130℃以上が好ましく、上限値は190℃以下、更には180℃以下、特には170℃以下が好ましい。
【0064】
(接着シート)
本発明の接着剤(組成物)をポリイミドフィルム基材の片面又は両面に塗工し、加熱して低揮発分化することにより、ラミネート法低誘電2層FCCL用の接着シートを得ることができる。具体的には、前述のように本発明の接着剤(組成物)をNMP、γ-ブチロラクトン等の好適な有機溶剤で希釈して調製した樹脂ワニスを、コア材料であるポリイミドフィルム基材の片面又は両面にダイコーター、グラビアコーター等を用いて塗工する。
【0065】
接着剤層の塗工厚さは、積層する銅箔の粗化面を埋め込める最低厚さ以上であることが必要であり、具体的には銅箔のRz(JIS B 0601-2001に準拠して測定)以上の厚さが好ましい。ただし、この塗工厚さはFCCLとしての誘電特性に影響するため、目標とする誘電特性に応じて変化させる。
【0066】
接着剤層の塗工温度(塗工後の乾燥温度を含む)は、含有溶剤を低揮発分化させることができる最低温度が好ましい。この観点から接着剤層の塗工温度は150℃以上が好ましく、更には160℃~180℃が好ましい。また、接着剤層を塗工後の乾燥温度は220℃以下が好ましく、更には190℃~210℃、特には180℃~200℃が好ましい。
【0067】
(ラミネート法低誘電2層フレキシブル銅張積層板)
上記のようにして作製した接着シートの接着剤層の表面に銅箔を貼り合わせた(ラミネートした)後に、接着剤層を加熱処理することにより、ラミネート法低誘電2層フレキシブル銅張積層板を作製することができる。ラミネート温度の上限値は220℃以下、更には210℃以下、特には200以下が好ましく、下限値は170℃以上、更には175℃以上、特には180℃以上が好ましい。接着剤層の加熱処理温度は熱歪みの最大の要因であるため、上限値は220℃以下、更には210℃以下、特には200以下が好ましく、下限値は180℃以上、更には185℃以上、特には190℃以上が好ましい。
【実施例0068】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明は様々な他の実施形態に変形できるものであり、下記実施例に限定されることはない。
【0069】
1. 溶剤可溶性ポリイミド樹脂の合成
(合成例1)
ガラス製のセパラブル三つ口フラスコに、撹拌機、チッ素導入管、及び水分受容器を備えた冷却管を取り付けた。4,4’-[プロパン-2,2-ジイルビス(1,4-フェニレンオキシ)]ジフタル酸二無水物67.6g(0.13モル)、PRIAMINE1075(クローダジャパン(株)製)35.69g(0.065モル)、バレロラクトン1.5g(0.015モル)、ピリジン2.4g(0.03モル)、NMP360g、トルエン90gを仕込み、室温で、窒素雰囲気下、200rpmで30分撹拌した後、180℃に昇温して3時間加熱撹拌した。反応中、トルエン-水の共沸分を除いた。
室温に冷却して、4,4’-[プロパン-2,2-ジイルビス(1,4-フェニレンオキシ)]ジフタル酸二無水物49.92g(0.096モル)、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン50.53g(0.145モル)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル3.22g(0.016モル)、NMP130g、トルエン30gを加え、室温で30分撹拌した後、180℃に昇温して、1時間加熱撹拌した。水-トルエンの共沸の還流物を系外に除きながら、180℃で3時間30分加熱撹拌して反応を終了した。得られた生成物に安息香酸メチルを加えて希釈し、固形分20重量%のブロック共重合ポリイミド溶液を得た。
【0070】
(合成例2)
ガラス製のセパラブル三つ口フラスコに、撹拌機、チッ素導入管、及び水分受容器を備えた冷却管を取り付けた。4,4’-[プロパン-2,2-ジイルビス(1,4-フェニレンオキシ)]ジフタル酸二無水物55.12g(0.106モル)、PRIAMINE1075(クローダジャパン(株)製)29.65g(0.054モル)、バレロラクトン1.5g(0.015モル)、ピリジン2.4g(0.03モル)、NMP390g、トルエン90gを仕込み、室温で、窒素雰囲気下、200rpmで30分撹拌した後、180℃に昇温して3時間加熱撹拌した。反応中、トルエン-水の共沸分を除いた。
室温に冷却して、4,4’-[プロパン-2,2-ジイルビス(1,4-フェニレンオキシ)]ジフタル酸二無水物83.72g(0.161モル)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル34.04g(0.170モル)、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン14.98g(0.043モル)、NMP110g、トルエン30gを加え、室温で30分撹拌した後、180℃に昇温して、1時間加熱撹拌した。水-トルエンの共沸の還流物を系外に除きながら、180℃で2時間30分加熱撹拌して反応を終了した。得られた生成物に安息香酸メチルを加えて希釈し、固形分20重量%のブロック共重合ポリイミド溶液を得た。
【0071】
(合成例3)
ガラス製のセパラブル三つ口フラスコに、撹拌機、チッ素導入管、及び水分受容器を備えた冷却管を取り付けた。4,4’-[プロパン-2,2-ジイルビス(1,4-フェニレンオキシ)]ジフタル酸二無水物80.08g(0.154モル)、PRIA MINE1075(クローダジャパン(株)製)42.27g(0.077モル)、バレロラクトン1.5g(0.015モル)、ピリジン2.4g(0.03モル)、NMP390g、トルエン90gを仕込み、室温で、窒素雰囲気下、200rpmで30分撹拌した後、180℃に昇温して3時間加熱撹拌した。反応中、トルエン-水の共沸分を除いた。
室温に冷却して、4,4’-[プロパン-2,2-ジイルビス(1,4-フェニレンオキシ)]ジフタル酸二無水物58.76g(0.113モル)、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン60.85g(0.190モル)、NMP160g、トルエン30gを加え、室温で30分撹拌した後、180℃に昇温して、1時間加熱撹拌した。水-トルエンの共沸の還流物を系外に除きながら、180℃で3時間30分加熱撹拌して反応を終了した。得られた生成物に安息香酸メチルを加えて希釈し、固形分20重量%のブロック共重合ポリイミド溶液を得た。
【0072】
(合成例4)
ガラス製のセパラブル三つ口フラスコに、撹拌機、チッ素導入管、及び水分受容器を備えた冷却管を取り付けた。4,4’-[プロパン-2,2-ジイルビス(1,4-フェニレンオキシ)]ジフタル酸二無水物80.08g(0.154モル)、PRIAMINE1075(クローダジャパン(株)製)42.27g(0.077モル)、バレロラクトン1.5g(0.015モル)、ピリジン2.4g(0.03モル)、NMP430g、トルエン90gを仕込み、室温で、窒素雰囲気下、200rpmで30分撹拌した後、180℃に昇温して3時間加熱撹拌した。反応中、トルエン-水の共沸分を除いた。
室温に冷却して、4,4’-[プロパン-2,2-ジイルビス(1,4-フェニレンオキシ)]ジフタル酸二無水物58.76g(0.113モル)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル30.44g(0.152モル)、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン13.24g(0.038モル)、NMP85g、トルエン30gを加え、室温で30分撹拌した後、180℃に昇温して、1時間加熱撹拌した。水-トルエンの共沸の還流物を系外に除きながら、180℃で2時間30分加熱撹拌して反応を終了した。得られた生成物に安息香酸メチルを加えて希釈し、固形分20重量%のブロック共重合ポリイミド溶液を得た。
【0073】
(合成例5)
実施例1で製造した固形分20重量%のブロック共重合ポリイミド溶液100gにアドマナノ10nm((株)アドマテックス社製)を12g、NMPを48g仕込み、自転・公転ミキサー「あわとり練太郎」(株式会社シンキー製)で2時間混錬し、固形分20重量%のブロック共重合ポリイミド溶液を得た。
【0074】
(合成比較例1)
ガラス製のセパラブル三つ口フラスコに、撹拌機、チッ素導入管、及び水分受容器を備えた冷却管を取り付けた。4,4’-[プロパン-2,2-ジイルビス(1,4-フェニレンオキシ)]ジフタル酸二無水物138.97g(0.267モル)、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル53.46g(0.267モル)、バレロラクトン1.5g(0.015モル)、ピリジン2.4g(0.03モル)、NMP450g、トルエン90gを仕込み、室温で、窒素雰囲気下、200rpmで30分撹拌した後、180℃に昇温して1時間加熱撹拌した。水-トルエンの共沸の還流物を系外に除きながら、180℃で3時間30分加熱撹拌して反応を終了した。得られた生成物に安息香酸メチルを加えて希釈し、固形分20重量%のブロック共重合ポリイミド溶液を得た。
【0075】
(合成比較例2)
ガラス製のセパラブル三つ口フラスコに、撹拌機、チッ素導入管、及び水分受容器を備えた冷却管を取り付けた。4,4’-[プロパン-2,2-ジイルビス(1,4-フェニレンオキシ)]ジフタル酸二無水物138.97g(0.267モル)、PRIAMINE1075(クローダジャパン(株)製)117.49g(0.214モル)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル10.61g(0.053モル)、バレロラクトン1.5g(0.015モル)、ピリジン2.4g(0.03モル)、NMP670g、トルエン90gを仕込み、室温で、窒素雰囲気下、200rpmで30分撹拌した後、180℃に昇温して1時間加熱撹拌した。水-トルエンの共沸の還流物を系外に除きながら、180℃で4時間30分加熱撹拌して反応を終了した。得られた生成物に安息香酸メチルを加えて希釈し、固形分20重量%のブロック共重合ポリイミド溶液を得た。
【0076】
(合成比較例3)
ガラス製のセパラブル三つ口フラスコに、撹拌機、チッ素導入管、及び水分受容器を備えた冷却管を取り付けた。4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物68.41g(0.154モル)、PRIAMINE1075(クローダジャパン(株)製)42.27g(0.077モル)、バレロラクトン1.5g(0.015モル)、ピリジン2.4g(0.03モル)、NMP340g、トルエン90gを仕込み、室温で、窒素雰囲気下、200rpmで30分撹拌した後、180℃に昇温して3時間加熱撹拌した。反応中、トルエン-水の共沸分を除いた。
室温に冷却して、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物50.20g(0.113モル)、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン60.85g(0.190モル)、NMP160g、トルエン30gを加え、室温で30分撹拌した後、180℃に昇温して、1時間加熱撹拌した。水-トルエンの共沸の還流物を系外に除きながら、180℃で2時間30分加熱撹拌して反応を終了した。得られた生成物に安息香酸メチルを加えて希釈し、固形分20重量%のブロック共重合ポリイミド溶液を得た。
【0077】
2. 接着剤組成物の製造
合成例1~5で合成したポリイミド溶液100重量部にシランカップリング剤KBE-9103P(信越化学工業社製)をその固形分100部に対し1部を添加して撹拌を行い、接着剤組成物1~5を製造した。
合成例1で合成したポリイミド溶液100部にシランカップリング剤KBE-903(信越化学工業社製)をその固形分100部に対し1部を添加して撹拌を行い、接着剤組成物6を製造した。
合成比較例1~2で合成したポリイミド溶液はシランカップリング剤を添加することなく、そのまま接着剤組成物とした。
【0078】
(接着剤フィルムの誘電率、誘電正接及びTg)
接着剤組成物1~6、及び合成比較例1~2で合成したポリイミド溶液(樹脂ワニス)から作製したフィルムの誘電特性とTgを以下の方法で測定した。
接着剤組成物又は樹脂ワニスを18μm電解銅箔のシャイニー面にバーコーターで塗布し、160℃の温度で乾燥して接着剤付き銅箔(接着剤厚さ:約21μm)を製造した。溶剤の揮発分は0.6wt%に調整した。この接着剤付き銅箔の接着シート面に18μm電解銅箔シャイニー面を重ねあわせ、真空プレスに仕込み200℃×90分、1MPaで加熱・加圧(真空度5torr)成形した。次いで銅箔を全面エッチングして得られた約20μmの接着フィルムについて誘電率、誘電正接及びTgを測定した。誘電率及び誘電正接はJIS C2565準拠の円筒空洞共振器法で測定し、TgはIPC-TM-650-2.4.24.3に準拠して測定した。保存安定性は、接着剤組成物を密閉容器に移し、25℃の恒温槽に放置して経時毎に粘度をレオメーターで測定し、経時粘度/初期粘度の比で表した。
【0079】
合成例1~5から製造した接着剤組成物1~6、及び合成比較例1~3から製造した接着剤組成物7~9から作製した接着剤フィルムの特性評価結果を下記表1に示す。表1中、保存安定性の「-」は未測定を意味する。
【0080】
(FCCL各種特性の評価)
接着剤組成物1~6、接着剤組成物7~9を、25μmポリイミドフィルム(KAPTON(登録商標)(東レデュポン社製)100EN、FS-100(SKC社製))上にダイコーターで塗布し、160℃の温度で乾燥して両面塗工のB状態の接着シート(片側膜厚さ:12μm)を製造した。揮発分は0.6wt%に調整した。この接着シートに12μmのRz=1.8μmの銅箔を両面に190℃でラミネートし、その後乾燥機で200℃×90分加熱処理し、両面銅箔FCCLを作製した。
接着剤組成物8は、樹脂フローが大きく、膜厚を制御できなかったため、銅箔ラミネート及び加熱処理により正常なFCCLを製造できなかった。
【0081】
上記のように作製した両面銅箔FCCLを用いて、引きはがし強さ、はんだ耐熱性の評価を行った結果を下記表2-1及び表2-2に示す。試験方法はJIS C 6471、JIS C 6481に準拠した。
また、作製した両面銅箔FCCLの銅箔を全面エッチングしたフィルムを使用して、誘電特性(誘電率及び誘電正接)を円筒空洞共振器法により測定した。
また、比較例5として、市販のラミネート法2層FCCLの特性を評価した。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2-1】
【0084】
【表2-2】
【0085】
表1の結果から、本発明の接着剤組成物1~6から作製したフィルムは、接着剤組成物誘電率及び誘電正接が低く、Tgも110℃以上を達成し、保存安定性に非常に優れ、吸水率も低く、吸湿後のはんだ耐熱性にも優れるバランスの優れた特性を有することが分かる。
また、表2-1及び表2-2の結果から、本発明の接着剤組成物1~5を用いたFCCL(実施例1~5)は、接着剤組成物6~9を用いたFCCL(比較例1~3)及びラミネート法2層FCCLに比べ、誘電特性、はんだ耐熱性、引きはがし強さのバランスに優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の接着剤及び接着シートを用いることにより、誘電特性と、熱的特性、加工特性、接着特性、吸湿特性と、コストとをバランス良く並立できるラミネート法低誘電2層FCCLを提供することができる。