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特開2022-46214歩行情報取得方法、歩行情報取得装置、及び歩行情報取得システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022046214
(43)【公開日】2022-03-23
(54)【発明の名称】歩行情報取得方法、歩行情報取得装置、及び歩行情報取得システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20220315BHJP
【FI】
A61B5/11 230
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020152146
(22)【出願日】2020-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小森 陽子
(72)【発明者】
【氏名】藤原 武史
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA12
4C038VB14
(57)【要約】
【課題】歩行状態を定量的に評価可能な指標を簡易に取得する。
【解決手段】歩行情報取得装置は、区間取得部と、踵接地比率算出部と、推進力算出部と、指標算出部とを備えている。区間取得部は、歩行時の片足の足裏にかかる部位ごとの圧力の経時的変化を示す測定情報に基づいて、足の着地から離地までの区間である離着区間、及び踵区間を区分けして取得する。踵接地比率算出部は、離着区間に占める踵区間の時間比率を示す踵接地パラメータF1を算出する。推進力算出部は、踵区間における踵にかかる最大荷重と、離着区間における踵区間を除いた区間であるつま先側区間にてつま先にかかる最大荷重との比率を示す推進力パラメータF2を算出する。指標算出部は、踵接地パラメータF1及び推進力パラメータF2により定まるつま先距離パラメータF3を算出する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行状態を定量的に評価可能な指標を取得する歩行情報取得方法であって、
歩行時の片足の足裏におけるつま先側の一又は複数の部位及び踵にかかる部位ごとの圧力の経時的変化を示す測定情報に基づいて、足の着地から離地までの区間である離着区間、及び前記離着区間における踵が接地している区間である踵区間を区分けして取得する区間取得ステップと、
前記離着区間に占める前記踵区間の時間比率を示す踵接地パラメータを算出する第1算出ステップと、
前記踵区間における踵にかかる最大荷重と、前記離着区間における前記踵区間を除いた区間にてつま先側のいずれかの部位にかかる最大荷重との比率を示す推進力パラメータを算出する第2算出ステップと、
前記踵接地パラメータ及び前記推進力パラメータにより定まる前記指標を算出する第3算出ステップとを備えることを特徴とする歩行情報取得方法。
【請求項2】
前記指標は、前記踵接地パラメータ及び前記推進力パラメータにより定まる二次元座標上の位置を示すパラメータである請求項1に記載の歩行情報取得方法。
【請求項3】
歩行状態を定量的に評価可能な指標を取得する歩行情報取得装置であって、
区間取得部と、踵接地比率算出部と、推進力算出部と、指標算出部とを備え、
前記区間取得部は、歩行時の片足の足裏にかかる部位ごとの圧力の経時的変化を示す測定情報に基づいて、足の着地から離地までの区間である離着区間、及び前記離着区間における踵が接地している区間である踵区間を区分けして取得し、
前記踵接地比率算出部は、前記離着区間に占める前記踵区間の時間比率を示す踵接地パラメータを算出し、
前記推進力算出部は、前記踵区間における踵にかかる最大荷重と、前記離着区間における前記踵区間を除いた区間にてつま先側のいずれかの部位にかかる最大荷重との比率を示す推進力パラメータを算出し、
前記指標算出部は、前記踵接地パラメータ及び前記推進力パラメータにより定まる前記指標を算出することを特徴とする歩行情報取得装置。
【請求項4】
前記指標は、前記踵接地パラメータ及び前記推進力パラメータにより定まる二次元座標上の位置を示すパラメータである請求項3に記載の歩行情報取得装置。
【請求項5】
算出された前記指標に基づいて歩行状態を評価する評価部を備える請求項3又は請求項4に記載の歩行情報取得装置。
【請求項6】
歩行時の片足の足裏にかかる部位ごとの圧力を経時的に測定する測定部と、
請求項3~5のいずれか一項に記載の歩行情報取得装置とを備える歩行情報取得システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行情報取得方法、歩行情報取得装置、及び歩行情報取得システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、歩行遊脚期に作り出される地面とつま先の距離であるトウクリアランスを推定し、トウクリアランスの推定値に基づいて、歩行中のつまずきリスクを評価する評価方法が開示されている。
【0003】
特許文献1の評価方法は、床反力データからトウクリアランスを推定するための推定式を導出する準備ステップと、測定対象となる被験者の歩行中の床反力データを取得する取得ステップと、上記推定式を用いて床反力データからトウクリアランスを推定する推定ステップとを備えている。
【0004】
準備工程では、モーションキャプチャ及び床反力計が設置された計測空間内にて、標本となる人に歩行を行わせ、歩行中における地面からつま先までの距離の変化を示す位置データ及び床反力の変化を示す床反力データを標本データとして収集する。そして、複数人分の標本データに基づいて、床反力データからトウクリアランスを推定する推定式を導出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-138783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の評価方法において、モーションキャプチャが用いられているように、対象の歩行の状態を数値化して定量的に評価する従来の技術は、測定に用いる装置が高価かつ複雑であるために、普及が十分に進まないという問題がある。
【0007】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、歩行状態を定量的に評価可能な指標を簡易に取得することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する歩行情報取得方法は、歩行状態を定量的に評価可能な指標を取得する歩行情報取得方法であって、歩行時の片足の足裏におけるつま先側の一又は複数の部位及び踵にかかる部位ごとの圧力の経時的変化を示す測定情報に基づいて、足の着地から離地までの区間である離着区間、及び前記離着区間における踵が接地している区間である踵区間を区分けして取得する区間取得ステップと、前記離着区間に占める前記踵区間の時間比率を示す踵接地パラメータを算出する第1算出ステップと、前記踵区間における踵にかかる最大荷重と、前記離着区間における前記踵区間を除いた区間にてつま先側のいずれかの部位にかかる最大荷重との比率を示す推進力パラメータを算出する第2算出ステップと、前記踵接地パラメータ及び前記推進力パラメータにより定まる前記指標を算出する第3算出ステップとを備える。
【0009】
上記構成により取得される指標は、歩行時のトウクリアランスに関連する踵接地パラメータ及び歩行時の推進力に関連する推進力パラメータを構成成分とするものであり、歩行の安定性及び歩行の効率を定量的に評価するうえで有用である。上記構成によれば、モーションキャプチャ等の高価かつ複雑を用いることなく、歩行状態を定量的に評価可能な指標を簡易に取得することができる。
【0010】
上記歩行情報取得方法において、前記指標は、前記踵接地パラメータ及び前記推進力パラメータにより定まる二次元座標上の位置を示すパラメータであることが好ましい。
上記構成によれば、指標とトウクリアランスとの関連性を高めることができる。したがって、トウクリアランスに関連する歩行状態の定量的な評価を行う場合に、特に有用な指標が得られる。
【0011】
上記課題を解決する歩行情報取得装置は、歩行状態を定量的に評価可能な指標を取得する歩行情報取得装置であって、区間取得部と、踵接地比率算出部と、推進力算出部と、指標算出部とを備え、前記区間取得部は、歩行時の片足の足裏にかかる部位ごとの圧力の経時的変化を示す測定情報に基づいて、足の着地から離地までの区間である離着区間、及び前記離着区間における踵が接地している区間である踵区間を区分けして取得し、前記踵接地比率算出部は、前記離着区間に占める前記踵区間の時間比率を示す踵接地パラメータを算出し、前記推進力算出部は、前記踵区間における踵にかかる最大荷重と、前記離着区間における前記踵区間を除いた区間にてつま先側のいずれかの部位にかかる最大荷重との比率を示す推進力パラメータを算出し、前記指標算出部は、前記踵接地パラメータ及び前記推進力パラメータにより定まる前記指標を算出する。
【0012】
上記歩行情報取得装置において、前記指標は、前記踵接地パラメータ及び前記推進力パラメータにより定まる二次元座標上の位置を示すパラメータであることが好ましい。
上記歩行情報取得装置は、算出された前記指標に基づいて歩行状態を評価する評価部を備えることが好ましい。
【0013】
上記課題を解決する歩行情報取得システムは、歩行時の片足の足裏にかかる部位ごとの圧力を経時的に測定する測定部と、上記歩行情報取得装置とを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、歩行状態を定量的に評価可能な指標を簡易に取得できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】歩行情報取得システムの説明図。
図2】圧力センサの配置の説明図。
図3】情報処理部の説明図。
図4】評価部の説明図。
図5】個別波形データのグラフ。
図6】(a)は離着区間の個別波形データのグラフ、(b)は離着区間の合成波形データのグラフ、(c)は被験者の歩行状態の説明図。
図7】つま先距離パラメータの説明図。
図8】歩行情報取得のフローチャート。
図9】(a)は離着区間の個別波形データのグラフ、(b)は離着区間の合成波形データのグラフ、(c)は被験者の歩行状態の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
図1に示すように、歩行情報取得システムは、測定部としての測定装置10と、歩行情報取得装置20とを備えている。
【0017】
図1及び図2に示すように、測定装置10は、シューズの中敷きとして用いられる基部11を備えている。基部11には、歩行中の足裏にかかる部位ごとの圧力を検出する圧力センサ12として、踵センサ12a、つま先センサ12b、内側センサ12c、及び外側センサ12dの4個の圧力センサが取り付けられている。
【0018】
図2に示すように、基部11において、踵センサ12aは、踵の荷重がかかる部分に配置され、足裏の踵にかかる圧力を検出する。つま先センサ12bは、第2~4足指の足指の荷重がかかる部分のいずれかに配置され、足裏のつま先にかかる圧力を検出する。
【0019】
内側センサ12cは、踵センサ12aとつま先センサ12bを結ぶ線L1よりも内側であって、母指球の荷重がかかる部分に配置され、足裏の内側部分にかかる圧力を検出する。外側センサ12dは、線L1よりも外側であって、小指球の荷重がかかる部分に配置され、足裏の外側部分にかかる圧力を検出する。
【0020】
換言すると、踵センサ12a及びつま先センサ12bは、足裏における前後方向に離間する第1位置及び第2位置の圧力を検出するように配置されている。内側センサ12c及び外側センサ12dは、第1位置及び前記第2位置を結ぶ線L1を跨いで左右方向に離間する第3位置及び第4位置の圧力を検出するように配置されている。
【0021】
本実施形態において、つま先センサ12b、内側センサ12c、及び外側センサ12dが足裏におけるつま先側の部位に配置される圧力センサになる。足裏におけるつま先側とは、足裏を前後方向に二等分する線L2よりも前方側の範囲を意味する。
【0022】
各圧力センサ12は、それぞれ独立して、所定時間ごとに足裏にかかる部位ごとの圧力を検出する。上記所定時間は、例えば、5~30ミリ秒である。本実施形態においては、20ミリ秒毎に圧力を検出するように設定されている。
【0023】
圧力センサ12としては、圧電素子等を用いた公知の感圧センサを用いることができる。特に、足裏に配置されるという使用状況に鑑みると、伸縮性及び耐久性の観点から、誘電エラストマーを利用したエラストマー製の静電容量型センサを用いることが好ましい。上記誘電エラストマーとしては、例えば、架橋されたポリロタキサン、シリコーンエラストマー、アクリルエラストマー、ウレタンエラストマーが挙げられる。
【0024】
図1に示すように、測定装置10には、各圧力センサ12により検出された各検出値を歩行情報取得装置20に送信する送信部13が取り付けられている。各圧力センサ12により検出された各検出値は、静電容量値や電気抵抗値等の圧力センサの検出方式に応じた圧力値に変換可能な検出値である。したがって、以下に記載する「検出値」は、足裏の圧力センサ12が取り付けられている位置における圧力の測定値と読み替えることができる。
【0025】
なお、測定装置10は、左足用及び右足用の両方が用意されており、必要に応じて、左右のいずれかのみ、又は左右両方を使用することができる。
図1に示すように、歩行情報取得装置20は、測定装置10の送信部13から送信された測定情報を受信する受信部21と、受信した測定情報等を記憶する記憶部22と、測定情報から歩行状態を表す指標を取得する情報処理部23とを備えている。歩行情報取得装置20は更に、情報処理部23により取得された指標に基づいて歩行状態を評価する評価部24と、評価部24の評価結果等を表示する表示部25と、各種の情報を入力する入力部26とを備えている。
【0026】
歩行情報取得装置20としては、例えば、携帯端末やタブレット端末等のコンピュータを用いることができる。表示部25としては、例えば、液晶ディスプレイ等の公知の表示デバイスを用いることができる。入力部26としては、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等の公知の入力デバイスを用いることができる。歩行情報取得装置20の受信部21は、有線又は無線の通信手段を有し、公知の通信方式にて測定装置10の送信部13と通信を行う。
【0027】
記憶部22は、測定装置10から送信された測定情報を記憶するとともに、測定情報に基づく特徴量データを記憶するように構成されている。特徴量データには、測定情報から取得された各種の特徴量及び指標に加えて、例えば、日時、ユーザー名等の識別情報、特徴量及び指標の算出に用いるユーザーごとの個体差に関する個体情報が含まれている。
【0028】
記憶部22としては、例えば、HDD、SSD、半導体メモリ素子が挙げられる。また、記憶部22は、ネットワークを介して歩行情報取得装置20に接続された記憶装置であってもよい。
【0029】
図3に示すように、情報処理部23は、波形データ作成部31、区間取得部32、踵接地比率算出部33、推進力算出部34、指標算出部35、及び第1表示処理部36を備えている。
【0030】
波形データ作成部31は、記憶部22に記憶されている測定情報に基づいて、各圧力センサ12により検出された片足の足裏の部位ごとの検出値の時間変化を表す個別波形データ、及び個別波形データの各波形を合成した合成波形データを作成する。波形データ作成部31により作成される個別波形データの一例を図5に示す。図5に示す個別波形データにおいて、実線は、踵センサ12aの検出値を示し、一点鎖線は、つま先センサ12bの検出値を示し、二点鎖線は、内側センサ12cの検出値を示し、破線は、外側センサ12dの検出値を示す。
【0031】
区間取得部32は、作成された合成波形データから、歩行時の足の着地から離地までの特定の一歩分の離着区間Aを対象区間として抽出する。図5に示すように、歩行時の波形データは、検出値が略一定の区間と検出値が変化する区間とを周期的に繰り返す波形となる。検出値が略一定の区間が地面から足が離れている区間(遊脚期ともいう。)であり、検出値が変化している区間が地面に足が接している区間である。区間取得部32は、合成波形データにおける検出値が略一定である区間から上昇を開始した点を始点t1とし、検出値が略一定に戻る点(検出値が略一定である区間の開始点)を終点t2とする離着区間Aから、対象区間としての特定の離着区間Aを抽出する。
【0032】
抽出する離着区間Aは、予め設定された基準に基づいて区間取得部32が選択する。上記基準としては、例えば、すべての離着区間Aを選択すること、測定開始から10歩目、20歩目等の予め設定された順番に位置する離着区間Aを選択すること、前回抽出した離着区間Aから一定時間経過後の一歩となる離着区間Aを選択すること、波形データを一定の歩数又は時間で区分けし、区分けした各区間内でランダムに離着区間Aを選択することが挙げられる。
【0033】
図6(a),(b)に、被験者1の歩行時に測定された測定情報に基づいて作成された個別波形データ及び合成波形データにおける一つの離着区間A分の各波形データを示す。図6(c)に示すように、被験者1は、歩行遊脚期に作り出される地面とつま先の距離であるトウクリアランスTCが一般的な高さの範囲である歩き方の成人である。
【0034】
図6(a)に示すように、区間取得部32は、抽出した離着区間Aの個別波形データに基づいて、抽出した離着区間Aを、踵が接地している区間である踵区間A1と、踵区間A1以外の区間であるつま先側区間A2とに分割する。踵区間A1は、踵センサ12aの検出値が略一定である区間から上昇を開始した点を始点t3とし、踵センサ12aの検出値が略一定に戻る点(検出値が略一定である区間の開始点)を終点t4とする小区間である。踵側から着地して踵側から離地する通常の歩行においては、踵区間A1の始点t3は、離着区間Aの始点t1に一致する。つま先側区間A2は、踵区間A1の終点t4から離着区間Aの終点t2までの小区間である。なお、歩行の仕方によっては、離着区間Aの全体が踵区間A1となり、つま先側区間A2が無い場合もある。
【0035】
踵接地比率算出部33は、離着区間Aに占める踵区間A1の時間比率を示す特徴量としての踵接地パラメータF1を算出し、算出した踵接地パラメータF1を記憶部22に記憶させる。踵接地比率算出部33は、離着区間Aの始点t1及び終点t2並びに踵区間A1の始点t3及び終点t4に基づいて、離着区間Aの区間時間T及び踵区間A1の区間時間T1を取得し、踵接地パラメータF1として、区間時間T1を区間時間Tで除した値(T1/T)を算出する。なお、各区間時間は、秒数等の時間そのものであってもよいし、該当する区間における測定点の点数等の区間時間に相当するパラメータであってもよい。
【0036】
なお、トウクリアランスTCが低い歩き方である場合、べたりと足裏全体で接地し、離地の際の地面から踵までの距離が近い状態で遊脚期に入る傾向にあるため、離着区間Aに占める踵区間A1の時間比率が大きくなる傾向がある。踵接地パラメータF1は、こうした傾向が反映されたパラメータである。
【0037】
推進力算出部34は、踵区間A1における踵センサ12aにかかる最大荷重K1とつま先側区間A2において、つま先側の部位に配置されたいずれか一つの圧力センサにかかる最大荷重K2との比率を示す特徴量としての推進力パラメータを算出する。そして、算出した推進力パラメータを記憶部22に記憶させる。
【0038】
踵区間A1における最大荷重K1は、離着区間Aにおける減速に関連するパラメータであり、最大荷重K1が大きくなるほど減速する力が大きくなることを意味する。つま先側区間A2における最大荷重K2は、離着区間Aにおける加速に関連するパラメータであり、最大荷重K2が大きくなるほど加速する力が大きくなることを意味する。歩行が速い場合やスムーズに歩行できている場合のように、歩行時の推進力が大きい場合には、相対的に最大荷重K1が小さく、最大荷重K2が大きくなりやすい。一方、歩行が遅い場合やスムーズに歩行できていない場合のように、歩行時の推進力が小さい場合には、相対的に最大荷重K1が大きく、最大荷重K2が小さくなりやすい。
【0039】
つま先側に配置されているつま先センサ12b、内側センサ12c、及び外側センサ12dのうちのいずれの圧力センサにかかる最大荷重を推進力パラメータF2の算出に用いる最大荷重K2とするかは、適宜設定できる。例えば、つま先側に配置されている各圧力センサにかかる最大荷重のうちの最大の値を最大荷重K2としてもよいし、上記個体情報として予め設定されている圧力センサにかかる最大荷重を最大荷重K2としてもよい。
【0040】
つま先側区間A2において、つま先側に配置されている各圧力センサにかかる圧力の大小関係は、歩行の仕方によって変化するものであり、個体差がある。こうした個体差を考慮して、歩行の仕方が変化した場合に推進力パラメータF2の変化がより大きく変化するように、つま先側に配置されているいずれの圧力センサにかかる最大荷重を最大荷重K2として用いるかを選択することが好ましい。本実施形態においては、つま先センサ12bにかかる最大荷重を最大荷重K2として用いる。
【0041】
推進力算出部34は、離着区間Aの個別波形データから、踵区間A1における踵センサ12aの検出値の最大値である最大荷重K1及びつま先側区間A2におけるつま先センサ12bの検出値の最大値である最大荷重K2を取得し、推進力パラメータF2として、最大荷重K2を最大荷重K1で除した値(K2/K1)を算出する。なお、つま先側区間A2が無い場合、つま先側区間A2の最大荷重K2は、「0」とする。
【0042】
指標算出部35は、歩行状態を表す指標として、踵接地パラメータF1及び推進力パラメータF2により定まるつま先距離パラメータF3を算出し、算出したつま先距離パラメータF3を記憶部22に記憶させる。
【0043】
図7に示すように、つま先距離パラメータF3は、踵接地パラメータF1及び推進力パラメータF2を直交する2軸とする二次元座標上において、踵接地パラメータF1及び推進力パラメータF2により定まる点P(F1,F2)の位置を示すパラメータである。
【0044】
図7に示す二次元座標上において、点Pが左上側、即ち、踵接地パラメータF1が小さく、推進力パラメータF2が大きい側ほど、スムーズな歩き方であるとともに、トウクリアランスTCが高い歩き方の傾向がある。図7に示す二次元座標上において、点Pが右下側、即ち、踵接地パラメータF1が大きく、推進力パラメータF2が小さい側ほど、不安定な歩き方であるとともに、トウクリアランスTCが低い歩き方の傾向がある。
【0045】
つま先距離パラメータF3は、二次元座標上における点Pの位置を示すことのできるパラメータであればよい。本実施形態では、上記二次元座標における原点と点Pとがなす線と、踵接地パラメータF1を示す軸との角度である「tan-1(F2/F1)」をつま先距離パラメータF3として用いている。この場合、つま先距離パラメータF3は、被験者のトウクリアランスTCが高い場合に大きい値となり、トウクリアランスTCが低い場合には、小さい値となる。
【0046】
第1表示処理部36は、算出された踵接地パラメータF1、推進力パラメータF2、つま先距離パラメータF3、図6(a)~(b)に示す離着区間Aの各波形データ、図7に示す二次元座標等を表示部25に表示させるための画像等を作成する。そして、第1表示処理部36は、入力部26を通じた所定の操作がなされた場合に、作成された画像等を表示部25に表示させる。
【0047】
図4に示すように、評価部24は、評価処理部41及び第2表示処理部42を備えている。
評価処理部41は、情報処理部23により取得されたつま先距離パラメータF3の平均値及び分散値を算出する。そして、入力されたつま先距離パラメータF3の平均値及び分散値に対して、被験者の歩行状態を評価して出力する学習済みの評価モデル41aを用いて、算出したつま先距離パラメータF3の平均値及び分散値から被験者の歩行の状態を評価する。評価モデル41aは、例えば、特徴的な歩行状態の被験者と、その被験者の測定情報から取得されたつま先距離パラメータF3の平均値及び分散値とが紐づけられた教師データを収集し、収集した教師データをニューラルネットワーク等で機械学習させることにより構築できる。
【0048】
また、より具体的には、歩行状態に問題のない被験者及び衰えがみられる被験者を含む複数の被験者を対象として、測定装置10を用いて測定された上記測定情報を収集し、つま先距離パラメータF3並びにつま先距離パラメータF3の平均値及び分散値を算出するとともに、画像計測等を用いてトウクリアランスTCを実計測する。実計測されたトウクリアランスTCの正常値及び異常値を定義し、それに対応するつま先距離パラメータF3での閾値を解析的に算出し、この値を用いた評価モデル41aを構築する。つま先距離パラメータF3の閾値を算出する方法としては、大津の二値化アルゴリズム等の公知の手法を用いることができる。また、トウクリアランスTCを実計測する方法に代えて、理学療法士等の医療従事者による診断により、2種類以上の診断種別によるラベリングを行い、ランダムフォレストや、ニューラルネットワークにより、紐づける学習を行うことで評価モデル41aを構築することもできる。
【0049】
つま先距離パラメータF3の平均値は、トウクリアランスTCの高さを示す傾向値であり、当該平均値が大きいほど、トウクリアランスTCが高い傾向があると評価できる。つま先距離パラメータF3の分散値は、歩行の安定性を示す傾向値であり、当該分散値が大きいほど、不安定な歩き方の傾向があると評価できる。
【0050】
教師データに用いる特徴的な歩行状態の被験者は、歩行状態の評価内容に基づいて選択する。例えば、老化等による下肢の機能の衰えを評価する場合には、平均的な歩き方である健康的な一般成人、及びフレイルの診断がなされた老人を被験者とする教師データを用いる。エネルギー効率の良い歩き方であるか否かを評価する場合には、平均的な歩き方である一般成人、及び競歩等の競技選手を被験者とする教師データを用いる。
【0051】
第2表示処理部42は、評価処理部41による評価結果を表示部25に表示させるための画像等を作成する。そして、第2表示処理部42は、入力部26を通じた所定の操作がなされた場合に、作成された画像等を表示部25に表示させる。
【0052】
次に、図8に示すフローチャートに基づいて、本実施形態の歩行情報取得システムを用いた指標の取得及び歩行評価について説明する。
まず、測定工程として、靴底に測定装置10を配置した靴を装着した被験者による歩行試験を実施する。歩行試験としては、例えば、平面の上を10m程度、歩行させることが挙げられる。この歩行試験中に測定装置10の各圧力センサ12により検出された検出値が測定情報として歩行情報取得装置20に送信されて、歩行情報取得装置20の記憶部22に記憶される。
【0053】
歩行試験の後、歩行情報取得装置20に操作者による情報取得の実行コマンドが入力されると、波形作成ステップS11として、波形データ作成部31は、記憶部22に記憶された測定情報に基づく個別波形データ及び合成波形データを作成する。続いて、区間取得部32は、区間取得ステップS12として、作成された合成波形データから特定の離着区間Aを抽出し、個別波形データに基づいて離着区間Aを踵区間A1及びつま先側区間A2の小区間に分割する。
【0054】
続いて、第1算出ステップS13として、踵接地比率算出部33は、離着区間Aの区間時間T及び踵区間A1の区間時間T1を取得し、踵接地パラメータF1として、区間時間T1を区間時間Tで除した値(T1/T)を算出する。踵接地比率算出部33は、算出された踵接地パラメータF1を記憶部22に記憶させる。
【0055】
続いて、第2算出ステップS14として、推進力算出部34は、離着区間Aの個別波形データから、踵区間A1における踵センサ12aの検出値の最大値である最大荷重K1及びつま先側区間A2におけるつま先センサ12bの検出値の最大値である最大荷重K2を取得する。推進力算出部34は、取得した最大荷重K2を最大荷重K1で除した推進力パラメータF2(K2/K1)を算出し、記憶部22に記憶させる。
【0056】
続いて、第3算出ステップS15として、指標算出部35は、踵接地パラメータF1及び推進力パラメータF2により定まるつま先距離パラメータF3である「tan-1(F2/F1)」を算出し、記憶部22に記憶させる。
【0057】
第1算出ステップS13~第3算出ステップS15は、抽出した複数の離着区間Aのそれぞれに対して行われる。
続いて、歩行情報取得装置20に操作者による評価の実行コマンドが入力されると、評価ステップS16として、評価部24は、つま先距離パラメータF3の平均値及び分散値を算出する。そして、学習済みの評価モデル41aを用いて、算出したつま先距離パラメータF3の平均値及び分散値から被験者の歩行の状態を評価する。評価ステップS16による評価結果は、表示部25に表示される。操作者は、表示部25に表示された評価結果を確認することにより、被験者の歩行状態がどのような状態であるかを把握することができる。
【0058】
次に、本実施形態の作用について説明する。
本実施形態の歩行情報取得システムでは、歩行中に測定された測定情報から歩行状態に関する特徴量として、踵接地パラメータF1及び推進力パラメータF2が算出される。そして、算出された踵接地パラメータF1及び推進力パラメータF2から歩行状態を表す指標としてのつま先距離パラメータF3が取得される。
【0059】
図9(a),(b)に、被験者2の歩行時に測定された測定情報に基づいて作成された個別波形データ及び合成波形データにおける一つの離着区間A分の各波形データを示す。図9(c)に示すように、被験者2は、トウクリアランスTCが顕著に低い歩き方の成人である。
【0060】
被験者1及び被験者2の各測定情報に基づく波形データの一つの離着区間Aから取得された各種パラメータを表1に示す。また、図8に、被験者2の測定情報に基づく波形データから取得された踵接地パラメータF1及び推進力パラメータF2により定まる二次元座標上の点Pを重ねて示す。
【0061】
【表1】
表1に示すように、被験者の歩き方の違いに基づいて、つま先距離パラメータF3が変化する。つま先距離パラメータF3は、歩行時のトウクリアランスTCに関連する踵接地パラメータF1及び歩行時の推進力に関連する推進力パラメータF2を構成成分とするものであり、歩行の安定性及び歩行の効率を定量的に評価するうえで有用な指標になる。
【0062】
次に、本実施形態の効果について記載する。
(1)歩行情報取得装置20は、区間取得部32と、踵接地比率算出部33と、推進力算出部34と、指標算出部35とを備えている。区間取得部32は、歩行時の片足の足裏にかかる部位ごとの圧力の経時的変化を示す測定情報に基づいて、足の着地から離地までの区間である離着区間A、及び踵区間A1を区分けして取得する。踵接地比率算出部33は、離着区間Aに占める踵区間A1の時間比率を示す踵接地パラメータF1を算出する。推進力算出部34は、踵区間A1における踵にかかる最大荷重K1と、離着区間Aにおける踵区間A1を除いた区間であるつま先側区間A2におけるつま先にかかる最大荷重K2との比率を示す推進力パラメータF2を算出する。指標算出部35は、踵接地パラメータF1及び推進力パラメータF2により定まる指標を算出する。
【0063】
上記構成によれば、モーションキャプチャ等の高価かつ複雑を用いることなく、歩行状態を定量的に評価可能な指標を簡易に取得することができる。
(2)指標は、踵接地パラメータF1及び推進力パラメータF2により定まる二次元座標上の位置を示すつま先距離パラメータF3である。
【0064】
上記構成によれば、指標とトウクリアランスTCとの関連性をより高めることができる。したがって、トウクリアランスTCに関連する歩行状態の定量的な評価を行う場合に、特に有用な指標が得られる。
【0065】
(3)つま先距離パラメータF3は、「tan-1(F2/F1)」として、踵接地パラメータF1及び推進力パラメータF2から算出されるパラメータである。
上記構成によれば、一つの値として示すことのできる指標となる。そのため、取得された指標に基づいて歩行状態を評価する際の処理が簡易になる。
【0066】
(4)歩行情報取得装置20は、算出された指標であるつま先距離パラメータF3に基づいて歩行状態を評価する評価部24を備えている。
上記構成によれば、指標の取得に加えて、指標に基づく評価結果を提供できる。
【0067】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・日常の生活動作における歩行の際に測定した測定情報から指標を取得してもよい。
【0068】
・測定装置10に設けられる圧力センサ12の数及び配置は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、踵にかかる圧力を測定する圧力センサ12、及び足裏のつま先側の少なくとも一つの部位に配置される圧力センサ12を備えていればよい。
【0069】
・歩行情報取得装置20は記憶部22だけでなく、情報処理部23及び評価部24もネットワークを介して備えてもよい。例えば、コンピュータ等の情報処理端末と、ネットワークを介して当該情報処理端末及び測定装置10と通信可能に接続されたサーバ装置とを備える歩行情報取得装置20とする。この場合、歩行情報取得装置20を構成する記憶部22、情報処理部23、及び評価部24等の各構成を情報処理端末及びサーバ装置のいずれに設けるかは任意に設計できる。
【0070】
・指標は、踵接地パラメータF1及び推進力パラメータF2により定まるパラメータであればよい。例えば、踵接地パラメータF1及び推進力パラメータF2により定まる二次元座標上の点Pの座標を指標としてもよい。
【0071】
・評価部24は、取得された指標が予め設定されたアラート状態であるか否かを判定し、アラート状態である場合には、アラート状態であることの報知するように構成されていてもよい。
【0072】
・評価部24は、歩行情報取得装置20とは別体として設けられる評価装置であってもよい。
・評価部24を省略してもよい。この場合には、取得された指標に基づいて、医療従事者や研究者などの専門家が歩行状態の評価を行えばよい。
【0073】
・本実施形態の歩行情報取得システムを人間以外の歩行に適用してもよい。例えば、サルなどの動物の歩行を研究する場合に歩行情報取得システムを適用してもよいし、二足歩行ロボットの歩行を評価又は制御するパラメータとして、歩行情報取得システムにより取得された指標を用いてもよい。
【符号の説明】
【0074】
10…測定装置
20…歩行情報取得装置
23…情報処理部
24…評価部
32…区間取得部
33…踵接地比率算出部
34…推進力算出部
35…指標算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9