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特開2022-46223抗ウイルス性床材用樹脂組成物および抗ウイルス性床材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022046223
(43)【公開日】2022-03-23
(54)【発明の名称】抗ウイルス性床材用樹脂組成物および抗ウイルス性床材
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20220315BHJP
   C08K 5/101 20060101ALI20220315BHJP
   C08K 5/1515 20060101ALI20220315BHJP
   C08K 3/015 20180101ALI20220315BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20220315BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20220315BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20220315BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20220315BHJP
   E04F 15/02 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
C08L27/06
C08K5/101
C08K5/1515
C08K3/015
C08K3/22
C08K3/08
A01P1/00
A01N59/16 A
E04F15/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020152157
(22)【出願日】2020-09-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 日本建築仕上学会 2019年大会学術講演会・研究発表論文集 発行所:日本建築仕上学会 2019年大会学術講演会 大会実行委員会 頒布日:令和1年9月18日 [刊行物等] 日本建築仕上学会 2019年大会学術講演会(第30回研究発表会) 開催日:令和1年10月23日
(71)【出願人】
【識別番号】000217365
【氏名又は名称】田島ルーフィング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】砂澤 周一
(72)【発明者】
【氏名】小西 啓代
【テーマコード(参考)】
2E220
4H011
4J002
【Fターム(参考)】
2E220AA13
2E220AA16
2E220FA03
2E220GA24X
2E220GA26X
2E220GB01X
2E220GB32X
2E220GB34X
4H011AA04
4H011BB18
4H011BC06
4H011BC18
4H011BC19
4H011BC22
4H011DA07
4H011DH02
4J002BD041
4J002BD051
4J002DA077
4J002DA107
4J002DE138
4J002DE230
4J002EH026
4J002EL026
4J002FD010
4J002FD026
4J002FD030
4J002FD187
4J002FD188
4J002GL00
(57)【要約】
【課題】抗ウイルス効果が持続し、樹脂の変色が生じない抗ウイルス性を有する床材用樹脂組成物および抗ウイルス性床材を提供する。
【解決手段】塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む抗ウイルス性床材用樹脂組成物であって、可塑剤が、不飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種ならびにパルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、不飽和基をエポキシ化したオレイン酸エステル、不飽和基をエポキシ化したリノール酸エステルおよび不飽和基をエポキシ化したリノレン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む抗ウイルス性床材用樹脂組成物であって、可塑剤が、不飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種ならびにパルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、不飽和基をエポキシ化したオレイン酸エステル、不飽和基をエポキシ化したリノール酸エステルおよび不飽和基をエポキシ化したリノレン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする抗ウイルス性床材用樹脂組成物。
【請求項2】
不飽和脂肪酸がω-6脂肪酸であり、不飽和脂肪酸エステルがω-6脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス性床材用樹脂組成物。
【請求項3】
金属を含む平均粒径が2~30ナノメートルの無機抗ウイルス剤を樹脂組成物100質量部に対し0.1~1.0質量部含む請求項1または2に記載の抗ウイルス性床材用樹脂組成物。
【請求項4】
無機抗ウイルス剤が、銅、銀および亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と酸化チタンとを含むことを特徴とする請求項3に記載の抗ウイルス性床材用樹脂組成物。
【請求項5】
エポキシ化亜麻仁油を樹脂組成物100質量部に対し0.5~5.0質量部含む請求項1~4のいずれか1項に記載の抗ウイルス性床材用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる抗ウイルス性床材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関し、詳しくは各種ウイルスを不活性化する抗ウイルス性を示すことを特徴とする樹脂組成物であり、特に床材用に好適な塩化ビニル樹脂組成物に関する。本発明は、また、その樹脂組成物からなる抗ウイルス性床材に関する。
【背景技術】
【0002】
2019年に中国で発生した新型コロナウイルスにより、世界中で感染拡大が起こり、1800万人以上が罹患し、およそ70万人が死亡している。さらに現在も感染拡大は続いており、この数はさらに増加すると予想されている。今のところ有効な治療薬やワクチンが無いことから、感染症予防に寄与する技術や製品に関心が集まっている。
【0003】
ウイルスは他生物の細胞を利用し自己を複製させ増殖する。基本構造はタンパク質の殻(カプシド)と内部の核酸(DNA、RNA)からなり、細胞や細胞膜を持たない。核酸がDNAであるかRNAであるかにより二種に大別され、さらにカプシドが脂質二重膜からなるエンベロープで覆われているものとそうでないものに分類される。
【0004】
具体的には、例えば核酸がDNAでエンベロープを持つものとしてヘルペスウイルス、持たないものとしてアデノウイルスがある。核酸がRNAでエンベロープを持つものとしてインフルエンザウイルス、持たないものとしてノロウイルスがある。新型コロナウイルスは、核酸がRNAでエンベロープを持つため、インフルエンザウイルスと同じエンベロープウイルスに分類される。
【0005】
こうしたウイルスの活性を不活性化させる抗ウイルス剤として、塩化ビニル樹脂に添加して用いられるものとしては、従来からスルホン酸系界面活性剤、金属酸化物、銅化合物などが知られている。
【0006】
特許文献1には、スルホン酸系界面活性剤を添加した抗ウイルス性の塩化樹脂組成物が開示されている。
【0007】
特許文献2には、銀、銅、亜鉛のいずれかの酸化物とモリブデン酸化物の複塩を塩化ビニル樹脂に添加したプラスチックが開示されている。
【0008】
特許文献3には、塩化物、酢酸化合物、硫化物、ヨウ化物などの1価の銅化合物と、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤等の可塑剤とを含む塩化ビニル部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2015-17078号公報
【特許文献2】特開2018-172462号公報
【特許文献3】特開2019-44096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、塩化ビニル樹脂に界面活性剤を添加する方法では、界面活性剤が次第に染み出して薬剤量が減少するために、効果の持続性に問題が生じ、また、金属酸化物を添加する方法では、樹脂に変色が生じるため、内装材に適した樹脂組成物とはならないという欠点があった。
【0011】
本発明の課題は、抗ウイルス効果が持続し、樹脂の変色が生じない抗ウイルス性を有する樹脂組成物を提供することであり、特に床材に好適な塩化ビニル樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本件第一発明は、塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む抗ウイルス性床材用樹脂組成物であって、可塑剤が、不飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種ならびにパルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、不飽和基をエポキシ化したオレイン酸エステル、不飽和基をエポキシ化したリノール酸エステルおよび不飽和基をエポキシ化したリノレン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする。
本件第二発明は、本件第一発明の樹脂組成物からなる抗ウイルス性床材である。
【0013】
本発明は以下の実施態様を含む。
[1]塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む抗ウイルス性床材用樹脂組成物であって、可塑剤が、不飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種ならびにパルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、不飽和基をエポキシ化したオレイン酸エステル、不飽和基をエポキシ化したリノール酸エステルおよび不飽和基をエポキシ化したリノレン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする抗ウイルス性床材用樹脂組成物。
[2]不飽和脂肪酸がω-6脂肪酸であり、不飽和脂肪酸エステルがω-6脂肪酸エステルであることを特徴とする[1]に記載の抗ウイルス性床材用樹脂組成物。
[3]金属を含む平均粒径が2~30ナノメートルの無機抗ウイルス剤を樹脂組成物100質量部に対し0.1~1.0質量部含む[1]または[2]に記載の抗ウイルス性床材用樹脂組成物。
[4]無機抗ウイルス剤が、銅、銀および亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と酸化チタンとを含むことを特徴とする[3]に記載の抗ウイルス性床材用樹脂組成物。
[5]エポキシ化亜麻仁油を樹脂組成物100質量部に対し0.5~5.0質量部含む[1]~[4]のいずれかに記載の抗ウイルス性床材用樹脂組成物。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物からなる抗ウイルス性床材。
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂組成物によれば、抗ウイルス性を示す塩化ビニル樹脂成型体が得られ、特に床材に使用する場合には、室内空間の床面のウイルスを不活性化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本件第一発明は、塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む抗ウイルス性床材用樹脂組成物であって、可塑剤が、不飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種ならびにパルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、不飽和基をエポキシ化したオレイン酸エステル、不飽和基をエポキシ化したリノール酸エステルおよび不飽和基をエポキシ化したリノレン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする。
【0016】
[塩化ビニル樹脂]
本発明で用いる塩化ビニル樹脂は特に限定されず、塩化ビニルの単独重合体の他、共重合可能な他のモノマーとの共重合体が使用できる。塩化ビニル樹脂は単独で用いてもよいし、2種以上をブレンドして使用してもよい。また、塩化ビニル樹脂の製造方法や重合度にも制限は無い。
【0017】
[可塑剤]
可塑剤は、不飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種ならびにパルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、不飽和基をエポキシ化したオレイン酸エステル、不飽和基をエポキシ化したリノール酸エステルおよび不飽和基をエポキシ化したリノレン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0018】
[不飽和脂肪酸]
本発明に用いる不飽和脂肪酸としては、ω-3脂肪酸であるリノレン酸、ステアリドン酸、エイコサテトラエン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸((7Z,10Z,13Z,16Z,19Z)-7,10,13,16,19-ドコサペンタエン酸)、ドコサヘキサエン酸、ω-6脂肪酸であるリノール酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸((4Z,7Z,10Z,13Z,16Z)-4,7,10,13,16-ドコサペンタエン酸)、ω-7脂肪酸であるパルミトレイン酸、バクセン酸、パウリン酸、ω-9脂肪酸であるオレイン酸、エライジン酸、エルカ酸、ネルボン酸、ω-10脂肪酸であるサピエン酸が好ましい。なかでも好ましい不飽和脂肪酸は、自動酸化によりC6アルデヒドを生成する可能性の観点から、ω-6脂肪酸である。
【0019】
[不飽和脂肪酸エステル]
本発明に用いる不飽和脂肪酸エステルとしては、ω-3脂肪酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、ヘキシルエステル、ω-6脂肪酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、ヘキシルエステル、ω-7脂肪酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、ヘキシルエステル、ω-9脂肪酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、ヘキシルエステル、ω-10脂肪酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、ヘキシルエステルが好ましい。なかでも好ましい不飽和脂肪酸エステルは、自動酸化によりC6アルデヒドを生成する可能性の観点から、ω-6脂肪酸エステルである。
【0020】
[その他の可塑剤]
本発明に用いる可塑剤は、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、不飽和基をエポキシ化したオレイン酸エステル、不飽和基をエポキシ化したリノール酸エステルおよび不飽和基をエポキシ化したリノレン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
パルミチン酸エステルの好ましい例としては、パルミチン酸メチル、パルミチン酸エチルが挙げられる。
ステアリン酸エステルの好ましい例としては、ステアリン酸メチル、ステアリン酸エチルが挙げられる。
不飽和基をエポキシ化したオレイン酸エステル(以下「エポキシ化オレイン酸エステル」ともいう。)の好ましい例としては、cis-9,10-エポキシオクタデカン酸メチル、cis-9,10-エポキシオクタデカン酸エチルなどが挙げられる。
不飽和基をエポキシ化したリノール酸エステル(以下「エポキシ化リノール酸エステル」ともいう。)の好ましい例としては、9,10:12,13-ジエポキシオクタデカン酸メチル、9,10:12,13-ジエポキシオクタデカン酸エチルなどが挙げられる。
不飽和基をエポキシ化したリノレン酸エステル(以下「エポキシ化リノレン酸エステル」ともいう。)の好ましい例としては、9,10:12,13:15,16-トリエポキシオクタデカン酸メチル、9,10:12,13:15,16-トリエポキシオクタデカン酸エチルなどが挙げられる。
これらの可塑剤は、単独で使用してもよいし、2種以上をブレンドして使用してもよい。
ブレンドして使用する場合には、パルミチン酸エステルおよびステアリン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種と不飽和基をエポキシ化したオレイン酸エステル、不飽和基をエポキシ化したリノール酸エステルおよび不飽和基をエポキシ化したリノレン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種とを組み合わせて使用するのが好ましい。また、可塑性を増すために、通常用いられるフタル酸エステル、テレフタル酸、トリメリット酸、ポリエステル系可塑剤等を抗ウイルス性が阻害されない程度に適宜添加しても良い。
【0021】
可塑剤の合計添加量は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して10~100質量部であることが好ましく、床材用であれば30~60質量部が好ましい。
不飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の添加量は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、好ましくは15~95質量部であり、より好ましくは20~80質量部であり、さらに好ましくは30~60質量部である。この添加量が少なすぎると、十分な可塑性を発現できない。この添加量が多すぎると、染み出し(ブリードアウト)を生じ、表面のベタツキが発生する。
パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、不飽和基をエポキシ化したオレイン酸エステル、不飽和基をエポキシ化したリノール酸エステルおよび不飽和基をエポキシ化したリノレン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の添加量は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~50質量部であり、より好ましくは3~30質量部であり、さらに好ましくは1~10質量部である。この添加量が少なすぎると、抗ウイルス性が発現しない。この添加量が多すぎると、樹脂表面への染み出し(ブリードアウト)が生じ、成型物の表面ベタツキが発生し、好ましくない。
【0022】
[無機抗ウイルス剤]
本発明に用いる無機抗ウイルス剤としては、金属を含む平均粒径が2~30ナノメートルの無機抗ウイルス剤が好ましく用いられる。金属としては、銀、亜鉛、銅などが好ましく用いられる。無機抗ウイルス剤は、好ましくは、それらの金属イオンの少なくとも1種を、ゼオライト、シリカゲル、モンモリロナイトのいずれかに担持されたものである。また、酸化チタンを含む無機抗ウイルス剤もまた好ましく用いられる。無機抗ウイルス剤は、より好ましくは、銅、銀および亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と酸化チタンとを含む。その具体的な例としては、酸化チタンに銀を担持したもの、酸化チタンに亜鉛を担持したものを挙げることができる。
無機抗ウイルス剤中の金属イオンの含有量は、抗ウイルス作用を発現する限り限定されないが、好ましくは5~70質量%であり、より好ましくは10~60質量%であり、さらに好ましくは20~50質量%である。含有量が少なすぎると、十分な抗ウイルス性が発現しない。含有量が多すぎると、樹脂の変色性が低下する。
無機抗ウイルス剤の平均粒径は、好ましくは2~30ナノメートルであり、より好ましくは2~25ナノメートルであり、さらに好ましくは3~20ナノメートルである。平均粒径が小さすぎると、抗ウイルス性が低下する。平均粒径が大きすぎると、可塑剤への分散性が低下する。
平均粒径は、動的光散乱法によって、測定する。
無機抗ウイルス剤の添加量は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~1.0質量部であり、より好ましくは0.3~0.9質量部であり、さらに好ましくは0.2~0.8質量部である。この添加量が少なすぎると、抗ウイルス性が低下する。この添加量が多すぎると、可塑剤への分散性が低下する。
【0023】
[エポキシ化亜麻仁油]
本発明の床材用樹脂組成物は好ましくはエポキシ化亜麻仁油を含む。エポキシ化亜麻仁油を添加することにより、抗ウイルス性、変色性が向上する。エポキシ化亜麻仁油の添加量は、塩化ビニル樹脂100質量部に対し、0~20質量部が好ましく、1~10質量部がより好ましく、2~7質量部がさらに好ましい。
【0024】
[充填材]
本発明の樹脂組成物は好ましくは充填材を含む。充填材を含めることにより、寸法安定性と耐摩耗性が向上する。充填材としては、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、ゼオライト、タルク、シリカ等の無機充填材が使用できる。なかでも炭酸カルシウムが好ましい。充填材の含有量は、塩化ビニル樹脂100質量部に対し、10~1000質量部が好ましく、30~800質量部がより好ましく、50~500質量部がさらに好ましい。
【0025】
[安定剤]
本発明の樹脂組成物は好ましくは安定剤を含む。安定剤を含めることにより、成形加工時の変色安定性、および成形品使用時の経時での耐劣化性が向上する。安定剤としては、例えばバリウム、亜鉛、カルシウム等の金属とラウリン酸、ステアリン酸等の脂肪酸から誘導される金属セッケン系安定剤や滑剤、酸化防止剤、助剤等を配合してなる安定剤が使用できる。安定剤の添加量は特に限定されないが、塩化ビニル樹脂100質量部に対し、0.1~5質量部が好ましい。
【0026】
[その他の添加剤]
その他、乾性油、顔料、帯電防止剤、抗菌剤、発泡剤なども、本発明の効果を損なわない限りにおいて任意に配合することができる。
【0027】
[樹脂組成物の製造方法]
本発明の樹脂組成物を得る方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、塩化ビニル樹脂および可塑剤、必要に応じてその他の添加剤を、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、リボンブレンダーなどで混合することで得ることができる。
【0028】
[床材]
本件第二発明は、前記樹脂組成物からなる抗ウイルス性床材である。床材としては、床タイル、床シート、カーペットタイル等が挙げられる。床材は、前記樹脂組成物を、公知の成形方法、例えば射出成形、押し出し成形、カレンダー成形などで成形することにより製造することができる。なかでも、カレンダー成形が好ましい。
【実施例0029】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。なお評価は下記により行った。
(1)抗ウイルス性
抗ウイルス性試験はISO 21702に準拠して評価した。具体的には、塩化ビニル樹脂組成物の成形体の厚さ2mmのシートを50mm角に裁断し、試験ウイルス液濃度2.6×10PFU/mLを表面に滴下し、ポリエチレンフィルムで覆い、24時間後に洗い出し液で、ウイルス液を洗い出しウイルス濃度の変化を測定することで評価した。試験ウイルスとして、インフルエンザウイルス(Influenza A virus(H3N2):ATCC VR-1679)およびネコカリシウイルス(Feline calicivirus:ATCC VR-782)を用いた。Antiviral activityが2.0以上のとき、抗ウイルス性があると判定される。
【0030】
(2)変色性
厚さ2mmのシートを100mm角に裁断し、200℃のオーブンで1時間加熱し、表面の色の変化を目視で評価した。
◎:変色無し。
○:極一部に変色が生じる。
△:全体的に変色が生じる。
×:著しい変色が生じる。
【0031】
可塑剤(P-1)
パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、エポキシ化オレイン酸メチル、エポキシ化リノール酸メチルおよびエポキシ化リノレン酸メチルの混合物であるJIAAO社の可塑剤(商品名:E-33)を可塑剤(P-1)として使用した。
【0032】
可塑剤(P-2)
上記可塑剤(P-1)100質量部に、ω-6不飽和脂肪酸として、リノール酸とドコサペンタエン酸((4Z,7Z,10Z,13Z,16Z)-4,7,10,13,16-ドコサペンタエン酸)を各5質量部添加し攪拌することで、可塑剤(P-2)を得た。
【0033】
可塑剤(P-3)
上記可塑剤(P-1)100質量部に、ω-6不飽和脂肪酸エステルとして、リノール酸メチルとドコサペンタエン酸メチル((4Z,7Z,10Z,13Z,16Z)-4,7,10,13,16-ドコサペンタエン酸メチル)を各5質量部添加し攪拌することで、可塑剤(P-3)を得た。
【0034】
可塑剤(P-4)
上記可塑剤(P-3)100質量部に、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(ジェイプラス社製DOP)を10質量部添加し攪拌することで、可塑剤(P-4)を得た。
【0035】
可塑剤(P-5)
リノール酸メチル100質量部に、不飽和基をエポキシ化したリノール酸メチルおよび不飽和基をエポキシ化したリノール酸エチル各50質量部を添加し攪拌することで、可塑剤(P-5)を得た。
【0036】
無機抗ウイルス剤
日揮触媒化成株式会社の無機抗ウイルス剤(商品名:ATOMY BALL-(S)、組成:Ag/TiO、平均粒径:5nm)を少量の界面活性剤(ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム)と共に可塑剤に添加、攪拌して使用した。
【0037】
[比較例1]
塩化ビニル樹脂100質量部(信越化学工業株式会社製、商品名:TK-1000)に可塑剤(P-1)50質量部、表面処理炭酸カルシウム100質量部(白石カルシウム株式会社製、商品名:CCR)、バリウム亜鉛安定剤(株式会社ADEKA製、アデカスタブ(登録商標)AP-627)2質量部をバンバリーミキサーで混合し、床材用樹脂組成物を調製した。調製した床材用樹脂組成物をカレンダー加工機で2mm厚のシートに加工し、得られたシートについて、抗ウイルス性および変色性を評価した。結果を表1に示す。
【0038】
[実施例1]
可塑剤(P-1)に代えて、可塑剤(P-2)を使用した点以外は、比較例1と同様に実施し、床材用樹脂組成物を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0039】
[実施例2]
可塑剤(P-1)に代えて、可塑剤(P-3)を使用した点以外は、比較例1と同様に実施し、床材用樹脂組成物を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0040】
[実施例3]
可塑剤(P-1)50質量部に代えて、可塑剤(P-1)25質量部および可塑剤(P-4)25質量部を使用し、さらに無機抗ウイルス剤(ATOMY BALL-(S))0.5質量部を添加した点以外は、比較例1と同様に実施し、床材用樹脂組成物を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0041】
[実施例4]
さらに無機抗ウイルス剤(ATOMY BALL-(S))0.5質量部およびエポキシ化亜麻仁油5質量部を添加した点以外は、実施例2と同様に実施し、床材用樹脂組成物を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0042】
[実施例5]
可塑剤(P-1)に代えて、可塑剤(P-5)を使用した点以外は、比較例1と同様に実施し、床材用樹脂組成物を調製し、評価した。結果を表2に示す。
【0043】
[比較例2]
可塑剤(P-1)に代えて、テレフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(ジェイプラス社製DOTP)を使用した点以外は、比較例1と同様に実施し、床材用樹脂組成物を調製し、評価した。結果を表2に示す。
【0044】
[比較例3]
可塑剤(P-1)に代えて、ジイソノニルシクロヘキサン-1,2-ジカルボキシレート(BASF社製、HEXAMOLL(登録商標)DINCH(登録商標))を使用した点以外は、比較例1と同様に実施し、床材用樹脂組成物を調製し、評価した。結果を表2に示す。
【0045】
[比較例4]
可塑剤(P-1)に代えて、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(ジェイプラス社製DOP)を使用した点以外は、比較例1と同様に実施し、床材用樹脂組成物を調製し、評価した。結果を表2に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
無機抗ウイルス剤を添加した系においては、核酸がDNAであるかRNAであるかに拘わらず、また、カプシドが脂質二重膜からなるエンベロープで覆われているものかどうかに拘わらず、広範囲のウイルスに対し、抗ウイルス性が発現した。
【0049】
エポキシ化亜麻仁油を添加することで、抗ウイルス性、変色性は向上し、床材として良好な結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の抗ウイルス性床材用樹脂組成物は、建築物の床材の材料として好適に利用することができる。