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  • 特開-プラズマ処理装置および処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022046346
(43)【公開日】2022-03-23
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置および処理方法
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/24 20060101AFI20220315BHJP
【FI】
H05H1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020152345
(22)【出願日】2020-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】305052986
【氏名又は名称】プロマティック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福島 和宏
【テーマコード(参考)】
2G084
【Fターム(参考)】
2G084AA01
2G084BB05
2G084BB07
2G084BB13
2G084BB23
2G084BB31
2G084CC03
2G084CC04
2G084CC19
2G084CC34
2G084DD14
2G084DD15
2G084DD22
2G084DD25
2G084DD32
2G084FF07
2G084FF19
2G084FF38
(57)【要約】
【課題】長尺シート、特にポリマーフィルム表面をダイレクト方式のプレート電極型バリア放電式大気圧プラズマで処理する方法と装置を提供する。
【解決手段】誘電体で被覆されたプレート型電極と平行間隙を構成する金属製エンドレスベルトを一対の電極としたプラズマ処理装置を用い、前記金属製エンドレスベルト上に長尺シートを随伴させて搬送し、前記金属製エンドレスベルト上で前記長尺シートを帯電させることにより、前記金属製エンドレスベルトと前記長尺シートを密着させた状態で前記長尺シートを連続でプラズマ処理する。
【選択図】図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体で被覆されたプレート型電極と平行間隙を構成する金属製エンドレスベルトを一対の電極として、大気圧雰囲気でプラズマを生成することを特徴とする、プラズマ処理装置。
【請求項2】
誘電体で被覆されたプレート型電極の上流側に、金属製エンドレスベルトに対向した帯電電極を備えることを特徴とする、請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
誘電体で被覆されたプレート型電極と平行間隙を構成する金属製エンドレスベルトを一対の電極としたプラズマ処理装置を用い、前記金属製エンドレスベルト上に長尺シートを随伴させて搬送し、前記金属製エンドレスベルト上で前記長尺シートを帯電させることにより、前記金属製エンドレスベルトと前記長尺シートを密着させた状態で前記長尺シートを連続でプラズマ処理することを特徴とする、プラズマ処理方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺シートを大気圧で連続して処理するプラズマ処理装置および処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大気圧プラズマの方式には誘導結合コイル、マイクロ波あるいはバリア放電電極などがあるが、広幅で比較的熱負荷が少なく簡易な構造のバリア放電電極を用いた大気圧プラズマ装置が広く使われている。バリア放電には、対向電極間隙で生成したプラズマあるいはプラズマで生成した活性種を気流により処理対象表面に供給するリモートタイプと、対向電極間隙に被処理物を配置してその表面を処理するダイレクト方式とがある。
【0003】
長尺シートを大気圧バリア放電プラズマで処理する場合、長尺シートの冷却とシワ抑制およびプラズマ電極との間隙維持等を目的として、長尺シートを対向ローラーに保持しながら処理が行われる。しかし、対向ローラーの曲面に対して長尺シートの搬送方向でプラズマ電極の間隙を均等に維持することが困難である。そのため、大気圧プラズマ装置としてはリモート方式が選ばれる場合が多い。ただし。リモート方式はダイレクト方式と比較して生成したプラズマや活性種が被処理物表面に到達する確率が低いため、処理効果も低くならざるを得ないという問題がある。一方、ダイレクト方式でも電極形状をワイヤ、パイプ、バーなどの細長い形状として対向ロール状に配置する方法もあるが、放電空間が限定的なので、処理効果としては不十分であるという問題がある。
【0004】
特許文献1には、「平板電極と前記平板電極に対向するロール電極からなる対向電極を用い、前記平板電極とロール電極との間に電界を印加することにより発生する放電プラズマ中に導電層を有する被処理体を配置してプラズマ処理を行う処理方法において、前記平板電極を電界印加側とし、前記平板電極とロール電極との間に導電層を有する被処理体を、前記ロール電極に接触させた状態でかつ導電層が平板電極側になるように配置するとともに、被処理体の導電層を接地することを特徴とするプラズマ処理方法平板電極と前記平板電極に対向するロール電極からなる対向電極を用い、前記平板電極とロール電極との間に電界を印加することにより発生する放電プラズマ中に導電層を有する被処理体を配置してプラズマ処理を行う処理方法において、前記平板電極を電界印加側とし、前記平板電極とロール電極との間に導電層を有する被処理体を、前記ロール電極に接触させた状態でかつ導電層が平板電極側になるように配置するとともに、被処理体の導電層を接地することを特徴とするプラズマ処理方法。」が開示されているが、プレート状の被処理体を対向電極として兼用することで放電間隙を形成するもので、絶縁性の長尺シートなどに適用すると裏面でも放電が発生してしまうという問題がある。
【0005】
また、特許文献2の段落[0103]には、「基材1は、ベルトコンベア(不図示)等の搬送手段により、印加電極2a、2bと基材保持用のアース電極5間に搬送される。」と記載されているが、ベルトが電極を兼ねることは開示されておらず、プラズマ電極もリモート方式である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】2004-207146公報
【特許文献2】2004-76076公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明者は、電気絶縁性の長尺シートをダイレクト方式のプレート電極型バリア放電式大気圧プラズマで処理するにあたって、長尺シートの熱変形、シワ、裏面処理などの問題を発生させずに処理する方法および装置を鋭意検討した。その結果、プレート型バリア放電電極と金属製のエンドレスベルトを一対の電極とし、前記金属製エンドレスベルト上に長尺シートを随伴させて搬送し、前記金属製エンドレスベルト上で前記長尺シートを帯電させることにより、前記金属製エンドレスベルトと前記長尺シートを密着させた状態で前記長尺シートを連続でプラズマ処理することにより問題解決できることを見出した。
【0008】
本発明の目的は、かかる点に鑑みなされたもので、長尺シート、特にポリマーフィルム表面をダイレクト方式のプレート電極型バリア放電式大気圧プラズマで処理する方法と装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るプラズマ処理装置は、誘電体で被覆されたプレート型電極と平行間隙を構成する金属製エンドレスベルトを一対の電極として、大気圧雰囲気でプラズマを生成することができる。大気圧プラズマの駆動電圧は30kHz~13.56MHzの周波数を用いると均一なプラズマを生成し易い。放電させる期待は空気、窒素、アルゴン、二酸化炭素、水素水蒸気、これらのいずれかを用いた混合気体など特に限定しないが、非堆積性、非重合性のものを用いると電極汚染やパーティクルの発生を抑制できるのでよい。波形は正弦波でもよいが、矩形波を用いるとプラズマがより安定し易いのでよい。金属製エンドレスベルトは接地してもよいし、プレート型電極と逆極性の電圧を印加してもよい。金属製エンドレスベルトに電圧を印加する場合は、金属製エンドレスベルトにブラシを介して直接給電してもよいし、金属製エンドレスベルトを保持するローラーに給電してもよい。プレート型電極を被覆する誘電体は耐熱性の観点からセラミックスが好ましい。セラミックスは板を金属電極プレートに貼合してもよいし溶射してもよい。セラミックスの種類としてはアルミナ系のものが耐絶縁性と機械的強度が高いのでよい。また、必要により酸化チタンなどの比誘電率の高いものを用いるとプラズマを生成し易くなるので良い。誘電体の厚みは0.2mm~1.5mmの範囲であれば絶縁耐圧と放電のし易さを両立し易いのでよい。また、金属製エンドレスベルトの外面には樹脂などで誘電体被膜を付与してもよい。金属製エンドレスベルト1本に対してプレート型電極を2式以上配置することも可能である。また、金属製エンドレスベルトの幅をプレート型電極の幅よりも広くすると、金属製エンドレスベルトエッジでの電解集中による以上放電を回避し易くなるので良い。
【0010】
本発明に係るプラズマ処理装置は、誘電体で被覆されたプレート型電極の上流側に、金属製エンドレスベルトに対向した帯電電極を備えることができる。この場合、金属製エンドレスベルトは接地電位にした方が帯電電極で生成するイオン量および生成したイオンの供給量を制御し易いので良い。帯電電極帯電電極はワイヤ、ブレード、針電極アレイなど特に限定しないが、針電極アレイが安定に動作し易いのでよい。なお、帯電電極に印加する電圧は直流とした方が長尺シートを搬送しながら処理する場合に搬送方向の帯電量の均一性を確保し易いのでよい。また、帯電電極に印加する極性は特に限定しないが、正電圧を印加すると放電が安定し易いのでよい。帯電電極と金属製エンドレスベルトとの距離は概ね20mm~50mmが好ましい。帯電量の調整は印加電圧を調節することによって可能である。
【0011】
本発明に係るプラズマ処理方法は、誘電体で被覆されたプレート型電極と平行間隙を構成する金属製エンドレスベルトを一対の電極としたプラズマ処理装置を用い、前記金属製エンドレスベルト上に長尺シートを随伴させて搬送し、前記金属製エンドレスベルト上で前記長尺シートを帯電させることにより、前記金属製エンドレスベルトと前記長尺シートを密着させた状態で前記長尺シートを連続でプラズマ処理することができる。長尺シートを金属製エンドレスベルトに密着させるためには、長尺シートを帯電させたことによるクーロン力のみを用いてもよいが、上流側でニップローラーなどを用いて長尺シートを金属製エンドレスベルに密接させてから帯電処理してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、長尺シート、特にポリマーフィルム表面をダイレクト方式のプレート電極型バリア放電式大気圧プラズマで処理するにあたり、大面積の放電空間を確保でき、ポリマーフィルムのシワ、熱変形、裏面処理などの問題を回避できる。特に搬送方向に十分な処理空間を確保できるので高速搬送でも十分な処理効果を実現し易い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態におけるプラズマ処理方法を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、本発明の効果を奏する範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更は可能である。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態におけるプラズマ処理方法を模式的に示した図である。 図1に示すように、金属製エンドレスベルト11が接地された保持ローラー12で保持されており、テンションローラー13で張力が付与されている。なお、保持ローラー12の一方は駆動ローラーである。金属製ベルトの材質は特に限定しないが、ステンレス製のものを用いると、耐腐食性、機械的強度、耐熱性などの点で好ましい。また、金属製エンドレスベルト11は継ぎ目のないシームレスタイプのものを用いると、長尺シート31に処理むらやシワが生じ難いのでよい。金属製エンドレスベルト11の張力は撓みや振動が生じ難いように高めに設定するのが好ましく、200N/m~500N/m程度の範囲とするのが好ましい。
【0016】
金属製エンドレスベルト11に対向してプレート型バリア放電型大気圧プラズマ装置3が設置されている。プレート電極21にはアルミナが1mm厚で溶射されている。プレート電極21は高周波高圧電源23に接続され、長尺シート状でプラズマ24を生成している。プラズマ生成部はチャンバー25で覆われており、窒素ガスと乾燥空気の混合ガス26がボンベから供給されている。また、プラズマ24により発生したオゾンなどの有害ガスを排気するためにチャンバー25には排気装置27が設置されている。
【0017】
長尺シート31は金属製エンドレスベルト11を介して保持ローラー12とニップローラー4によりニップされる。これにより、長尺シート31と金属製エンドレスベルト11の間の空気が概ね排除される。しかし、金属製エンドレスベルト11の直線部分では長尺シート31の張力では金属製エンドレスベルト11に密接する面圧を付与できないため、そのままでは両端から空気が侵入してきてしまう。そこで、帯電電極51により長尺シート31の表面を帯電させ、金属製エンドレスベルト11に誘導される逆電荷とのクーロン力により密接させる。なお、帯電電極51は直流高圧電源に接続され正電圧が印加されている。印加電圧は7kV~15kVの範囲が好ましい。これによりプラズマ24部を通過したときでも長尺シート31と金属製エンドレスベルト11との間で放電が生じるのを抑制できる。また、帯電電極51で付与した電荷はプラズマ24により除電される。
【実施例0018】
次に、実施例及び比較例を挙げて上記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1~13、比較例1~12) 次に、実施例及び比較例を挙げて、上記実施形態について表1を用いてさらに具体的に説明する。
[共通条件]
【0019】
実施例および比較例では液晶ポリマーフィルムを長尺シート31として用いた。プラズマ処理装置は図1に示した構成のものを用いた。シート幅は100mm、長さは30mである。使用した液晶ポリマーフィルム10は、株式会社クラレ製、品番「ベクスターC T S 5 0 N 」、厚み:50μm、幅:100mmのものを用いた。金属製エンドレスベルトの材質はSUS306Lで厚みは0.1mm、幅150mm、周長200cm、平坦部分の長さは80cmとし、張力は300N/mとした。長尺シート31の張力は200N/mとし、搬送速度は1~20m/minの範囲で変更した。電極プレート21のサイズは幅120mm、搬送方向長さ100mmのものを2枚搬送方向に並べて用いた。したがって、放電面積は240cmである。金属製エンドレスベルト11との間隙は2mmとした。放電ガスは純度5Nの窒素45L/minと純度5N露店-50°のクリーンエア5L/minの混合ガスを用いた。プラズマ生成電力は1kWとした。ニップローラー4の圧力はローラー自重のみとした。帯電電極にはシムコ製HD-R、直流高圧電源にはCM5-30を用いた。
【0020】
処理された液晶ポリマーフィルムの処理状態を純水による接触角により評価した。接触角は水滴の量を0.2mLとし、5点測定した平均値を用いた。またシワや変形などについても目視により評価した。裏面での放電の有無については、液晶ポリマーフィルムの裏面に水をハンドスプレーで噴霧し、その付着具合により判定した。
[実施例1]
帯電電圧を10kVとし、搬送速度を5m/minとして5mの処理を行った。接触角は12.3゜であった。なお、未処理の液晶ポリマーフィルム接触角は94.3°であった。外観については特に異常は見られなかった。
【0021】
[実施例2]
帯電電圧を10kVとし、搬送速度を10m/minとして5mの処理を行った。接触角は38.8゜であった。外観については特に異常は見られなかった。また、裏面での放電は認められなかった。
【0022】
[実施例3]
帯電電圧を10kVとし、搬送速度を20m/minとして5mの処理を行った。接触角は62.6゜であった。外観については特に異常は見られなかった。また、裏面での放電は認められなかった。
【0023】
[比較例1]
帯電電圧を0kVとし、搬送速度を5m/minとして5mの処理を行った。接触角は13.1゜であった。外観についてはフィルム幅方向両端が若干収縮していた。また、裏面の端部から5mmほどの範囲で水滴が濡れ易くなっており、放電が発生していたと判断した。
【0024】
[比較例2]
帯電電圧を0kVとし、搬送速度を10m/minとして5mの処理を行った。接触角は39.2゜であった。外観については特に異常は見られなかった。ただし、また、裏面の端部から2cmほどの範囲で水滴が濡れ易くなっており、放電が発生していたと判断した。
【0025】
[比較例3]
帯電電圧を0kVとし、搬送速度を20m/minとして5mの処理を行った。接触角は72.4゜であった。外観については特に異常は見られなかった。また、裏面での放電は認められなかった。ただし、また、裏面全体に搬送方向に沿ったスジ状の濡れ易くなっている部分があり、放電が発生していたと判断した。
【表1】
【0026】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、もちろん、種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0027】
11 金属製エンドレスベルト
12 保持ローラー第一のローラー
13 テンションローラー
2 プレート型バリア放電型大気圧プラズマ装置
21 電極プレート
22 誘電体被覆
23 高周波高圧電源
24 プラズマ
25 チャンバー
26 混合ガス
27 排気装置
31 長尺シート
4 ニップローラー
5 帯電装置
51 帯電電極
52 直流高圧電源

図1