(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022046417
(43)【公開日】2022-03-23
(54)【発明の名称】含クロム溶鉄の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21B 11/10 20060101AFI20220315BHJP
C21C 7/00 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
C21B11/10
C21C7/00 E
C21C7/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021127994
(22)【出願日】2021-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2020151808
(32)【優先日】2020-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】特許業務法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田 信彦
(72)【発明者】
【氏名】西田 華栄
(72)【発明者】
【氏名】三津間 森明
(72)【発明者】
【氏名】内山 亮二
(72)【発明者】
【氏名】河野 求
(72)【発明者】
【氏名】田代 裕
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 忠
(72)【発明者】
【氏名】本郷 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】石原 卓馬
(72)【発明者】
【氏名】内澤 一聡
(72)【発明者】
【氏名】笠嶋 孝史
(72)【発明者】
【氏名】倉田 凌
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】檀野 充宏
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼元 翔太
(72)【発明者】
【氏名】福島 則芳
(72)【発明者】
【氏名】藤城 正春
(72)【発明者】
【氏名】宮ヶ原 幸
(72)【発明者】
【氏名】山野 義人
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 太
【テーマコード(参考)】
4K012
4K013
【Fターム(参考)】
4K012BA02
4K012CA07
4K013AA02
4K013BA08
4K013CF02
4K013FA02
4K013FA06
(57)【要約】
【課題】安価かつ廃棄物の生成が少ない含クロム溶鉄の製造方法を提案する。
【解決手段】製鋼用電気炉を用いて、含クロム原料を含む原料の溶解と酸素の吹込みによる粗脱炭とを行う含クロム溶鉄の製造方法において、スラグの塩基度を1.5以上1.7未満または1.9以上3.5以下の範囲内に調整したうえで、酸素の吹込みにより生成したクロム酸化物含有スラグを炉内に残したまま出湯する第一工程と、同一の炉内に新たに添加する炭素源または金属源により残留した前記クロム酸化物含有スラグを還元し、クロムを溶鉄中に回収する第二工程と、を有する、ここで、スラグの塩基度とは、スラグ中の質量基準で、CaO濃度をSiO
2濃度で除したものとする方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼用電気炉を用いて、含クロム原料を含む原料の溶解と酸素の吹込みによる粗脱炭とを行う含クロム溶鉄の製造方法において、
スラグの塩基度を1.5以上1.7未満または1.9以上3.5以下の範囲内に調整したうえで、酸素の吹込みにより生成したクロム酸化物含有スラグを炉内に残したまま出湯する第一工程と、
同一の炉内に新たに添加する炭素源または金属源により残留した前記クロム酸化物含有スラグを還元し、クロムを溶鉄中に回収する第二工程と、を有する、
ここで、スラグの塩基度とは、スラグ中の質量基準で、CaO濃度をSiO2濃度で除したものとすることを特徴とする含クロム溶鉄の製造方法。
【請求項2】
前記第一工程において、酸素吹込み後にSi含有原料およびAl含有原料のうちから選ばれる1種または2種を用いて、スラグ中のクロム酸化物濃度が5mass%以上50mass%以下の範囲となるように調整することを特徴とする請求項1に記載の含クロム溶鉄の製造方法。
【請求項3】
前記第一工程において、炉壁に付着したスラグおよび金属粒を酸素吹込み後に落とし込むことにより、溶鉄上へ添加することを特徴とする請求項1または2に記載の含クロム溶鉄の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼用電気炉を用いて含クロム溶鉄を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含クロム溶鉄の精錬工程においては、含クロム原料を含む原料を溶解したのちに、酸素を供給して脱炭吹錬を行い、酸素吹止後にSi含有原料もしくはAl含有原料などの還元材を添加することで、炭素の酸化と同時に生成するクロム酸化物から有価金属であるクロム分を溶鉄中に回収してから出湯する方法が主流である。
【0003】
生成したクロム酸化物の還元には、化学等量分の還元材が必要であり、高価なSi合金もしくはAl合金を相当量必要とする。また上記に加えて、クロム酸化物の還元時に生成するSiO2やAl2O3に対してスラグ組成を調整するためにCaOの添加も必要であり、石灰コストの上昇、および、発生スラグ量の増大を招く。特にこの工程において発生するスラグは、酸化クロム濃度が一定量存在するため、副生成物として路盤材や骨材として利用する際に6価クロムの溶出可能性があるなどの課題がある。
【0004】
Si含有原料もしくはAl含有原料の使用量を減らすため、クロム酸化物含有スラグを還元せずに処理を終了し、別途溶銑もしくは炭素含有原料を用いて還元する方法が検討されてきた。例えば、特許文献1では酸素吹止後に還元を行うことなく排滓もしくは除滓し、そのスラグを電気炉にて炭素やケイ素で還元処理することで、クロムを溶鉄中に回収する方法などが開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、クロム酸化物含有スラグ生成後、還元することなく出湯し、精錬炉内に溶銑を装入して炭材の添加と吹酸を行うことで、クロムを溶鉄中に回収する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献3では、クロム酸化物含有スラグ生成後、還元することなく炭酸カルシウムを添加してスラグを固化することで、溶鉄だけを出湯し、クロム酸化物含有スラグを別途排滓して電気炉に装入して還元処理することでクロムを溶鉄中に回収する方法などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-79449号公報
【特許文献2】特開2002-256323号公報
【特許文献3】特開2012-211372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来技術には以下の問題がある。
特許文献1に記載の方法では、クロム酸化物含有スラグを排滓後に別の精錬容器に再度装入する必要があり、熱ロスが大きく電力コストもしくは炭材などの昇熱コストが大きくなるといった課題があった。
【0009】
また、特許文献2に記載の方法では、クロム酸化物含有スラグを残したまま排滓する際に、炉壁、炉口、出湯孔付近にスラグが固着してしまい、操業が悪化する課題があった。とりわけ電気炉においては、固相率の高いスラグでの操業が可能な機械撹拌を備えた鍋容器や転炉型反応容器とは異なり、攪拌力を大きくすることが難しく、スラグの流動性を確保することが困難である。
【0010】
また、特許文献3に記載の方法では、クロム酸化物含有スラグを固化させることで、上記スラグ固着の課題は解決できるが、炭酸カルシウムの分解反応は吸熱反応であり、スラグの温度が下がってしまうため、クロムの回収工程にて電力コストもしくは炭材などの昇熱コストが大きくなる課題があった。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、操業に影響を与えることなく、安価かつ廃棄物の生成が少ない含クロム溶鉄の製造方法を提案することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、上記課題を解決すべく、種々実験を重ねた結果、酸素供給後のクロム酸化物含有スラグは、その塩基度により固相率および粘性が大きく変化することに着目し、クロム酸化物含有スラグを炉内に残留させ、同一精錬炉内で新たに添加する炭素源もしくは金属源によって還元することで、操業に影響を与えることなく、安価かつ廃棄物の生成が少ない含クロム溶鉄が製造可能であることを知見した。本発明は上記知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0013】
上記課題を有利に解決する本発明の含クロム溶鉄の製造方法は、製鋼用電気炉を用いて、含クロム原料を含む原料の溶解と酸素の吹込みによる粗脱炭とを行う含クロム溶鉄の製造方法において、スラグの塩基度を1.5以上1.7未満または1.9以上3.5以下の範囲内に調整したうえで、酸素の吹込みにより生成したクロム酸化物含有スラグを炉内に残したまま出湯する第一工程と、同一の炉内に新たに添加する炭素源または金属源により残留した前記クロム酸化物含有スラグを還元し、クロムを溶鉄中に回収する第二工程と、を有する、ここで、スラグの塩基度とは、スラグ中の質量基準で、CaO濃度をSiO2濃度で除したものとすることを特徴とする。
【0014】
なお、本発明にかかる含クロム溶鉄の製造方法は、
(1)前記第一工程において、酸素吹込み後にSi含有原料およびAl含有原料のうちから選ばれる1種または2種を用いて、スラグ中のクロム酸化物濃度が5mass%以上50mass%以下となるように調整すること、
(2)前記第一工程において、炉壁に付着したスラグおよび金属粒を酸素吹込み後に落とし込むことにより、溶鉄上へ添加すること、
などがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、操業に影響を与えることなくクロム酸化物含有スラグを炉内に残留させ、同一精錬炉内で新たに添加する炭素源もしくは金属源によって還元することで、安価かつ、生成スラグが少なく含クロム溶鉄を製造することが可能となり、環境負荷の軽減に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる含クロム溶鉄の製造方法の基本構成フロー図である。
【
図2】スラグ中の酸化クロム濃度毎に、熱力学計算ソフトを用いて算出した1700℃における、スラグの塩基度と生成する液相の塩基度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を知見するに至った考え方を説明する。
酸化クロムの融点は2300℃と非常に高い。含クロム溶湯に酸素を供給した後のクロム酸化物含有スラグの温度は、1700℃程度であり、かつ、酸化クロムを多量に含むため、液相率が低く、粘度が非常に高い。そのため、クロム酸化物含有スラグを還元することなく溶鉄のみを出湯した場合、そのスラグが炉壁、炉口、または出湯孔付近に固着スラグとして大量に残留し、操業を阻害してしまう。
【0018】
たとえば、電気炉のような比較的容積の小さい炉においては、傾動時に付着したスラグが、送酸ランスからの酸素ガスの経路を遮蔽してしまったり、出湯時にスラグが出湯孔をふさいでしまったりといった操業阻害が起こる。
【0019】
そこで、発明者らは、炉体へのスラグの付着力は、スラグの液相部分の粘度の影響が大きいこと、また酸化性雰囲気下における、クロム酸化物含有スラグが、その塩基度が1.7以上1.9より小さい範囲で局所的に固相率が高くなり、また、高塩基度領域で粘性の低いスラグ状態を確保できることに着目した。そして、操業に影響を与えることなくクロム酸化物含有スラグを炉内に残留させる方法を見出した。すなわち、同一精錬炉内で新たに添加する炭素源もしくは金属源によって還元することで、安価かつ、生成スラグの少ない含クロム溶鉄の製造方法を開発した。
【0020】
図1に本発明の一実施形態にかかる含クロム溶鉄の製造方法の基本構成フロー図を示す。まず、第一工程として、製鋼用電気炉を用いて、含クロム原料を含む原料を溶解(S0)し、酸素の吹込みによる粗脱炭(S1)を行う。この第一工程では、スラグの塩基度を1.5以上1.7未満または1.9以上3.5以下の範囲内に調整したうえで、酸素の吹込みにより生成したクロム酸化物含有スラグを炉内に残したまま出湯(S2)する。ここで、スラグの塩基度とは、スラグ中の質量基準で、CaO濃度をSiO
2濃度で除したものとする。
【0021】
次に、第二工程として、同一の炉内に新たに添加する炭素源、または金属源により、その炉内に残留させたクロム酸化物含有スラグを還元し、クロムを溶鉄中に回収する(S3)ことで効果的に含クロム溶鉄を製造できる。
【0022】
第一工程において、酸素吹込み後にSi含有原料およびAl含有原料のうちから選ばれる1種または2種を用いて、スラグ中の酸化クロム(Cr2O3)濃度を5mass%以上50mass%以下に調整する弱還元工程(S4)を実施することで、より安定的に含クロム溶鉄を製造できる。また、出湯前に炉壁、炉口、出湯孔周りに付着したスラグおよび金属粒を押し込む工程(S5)を実施することで、より安定的に含クロム溶鉄を製造できる。
【0023】
以下に本発明の詳細について説明する。
酸化クロム濃度が高いスラグにおける、液相線温度の報告が不足しているため、発明者らは、開発に先立って、酸化クロム濃度が高いスラグにおいて、塩基度と固相率の関係を30kg規模溶解炉にて鋭意調査を行った。事前にAl
2O
3濃度が5~10質量%、Cr
2O
3濃度が5~50質量%、MgO濃度が0~10質量%であり、CaOとSiO
2の比率が1.0~3.0の間で変化するようにCaO、SiO
2、Al
2O
3、Cr
2O
3、MgO試薬を混合したものを作成した。そして、MgOるつぼ内にそれぞれを添加し、1700℃まで上昇させて溶解させた。一度溶解したスラグサンプルを急冷し、破砕したのちに、粒径が2.0~4.0mmの範囲のスラグ粒のみ分級したものを、1600℃に加熱した溶鋼の上に添加し、30分後のスラグ外観を観察した。スラグの組成により液相率は異なるものの、スラグの塩基度が1.7以上1.9より小さいスラグにおいては、炉壁への付着やスラグ粒同士の凝集により溶解速度が著しく遅いことが観察された。特に、1.9以上の高塩基度ではスピネル化合物であるMgCr
2O
4の生成が抑制され、液相の生成量が大きくなった。また、発明者らは、酸化クロム濃度が高いスラグにおいて、生成する液相の熱力学的検討を行った。
図2にスラグ中の酸化クロム濃度20、30、40、50および60mass%ごとに、熱力学計算ソフトFactsageを用いて算出した1700℃における、スラグの塩基度と生成する液相の塩基度の関係をグラフで示す。ここで、液相中の塩基度とは、液相中の質量基準で、CaO濃度をSiO
2濃度で除したものとする。スラグ中のMgO濃度およびAl
2O
3濃度をそれぞれ10mass%および10mass%とおいた。このMgO濃度とAl
2O
3濃度は一般的な精錬炉におけるスラグの組成であり、この濃度の大小は、計算結果に大きな影響を与えない。
【0024】
一般に、スラグの塩基度が1.2未満の組成では、粘度が急激に上がる現象が確認されている。よって、液相組成中の塩基度を1.2以上に保つことで、炉壁へのスラグ付着を抑制することができる。特にスラグの塩基度が1.5未満の場合には、スラグ相内で不均一状態になる可能性があり、局所的にスラグの粘度が大きくなってしまい、操業を阻害してしまうおそれがある。
【0025】
また、スラグの塩基度が3.5を超えた場合は、スラグ中に6価クロムが生成してしまうため、環境問題の観点から、スラグの塩基度は3.5以下とする必要がある。操業の変化による酸化クロム濃度の変化を鑑みると、スラグの塩基度は2.0以上3.5以下の範囲とすることがより望ましい。
【0026】
また、酸化クロムの濃度が60mass%程度となると、スラグ塩基度を増加させても液相部分の塩基度があまり上がらないことから、スラグ中の酸化クロムの濃度を50mass%以下とすることが望ましい。また、スラグ中の酸化クロム濃度が5mass%未満である場合、新しく装入される炭素源または金属源によって回収できるクロムのメリットよりも、スラグのボリュームが増加してしまうデメリットの方が大きくなる可能性がある。したがって、スラグ中の酸化クロム濃度として、5mass%以上を確保することが望ましい。酸素供給後に、Si含有原料やAl含有原料を適正量添加し、弱還元することで、酸化クロムの濃度をこの範囲に調整することができる。この場合は、Si含有原料の添加により、送酸後と弱還元後のスラグ塩基度が変化するが、送酸後および弱還元後のスラグ塩基度のどちらも1.5以上1.7未満または1.9以上3.5以下の範囲とすることが望ましい。
【0027】
スラグの塩基度を1.5以上1.7未満または1.9以上3.5以下の範囲に調整した場合、スラグの炉壁への付着力は大きく低減されるが、全く付着しなくなるわけではない。しかしながら、これらの付着スラグおよびその中に抱き込まれた金属粒、たとえば、クロム濃度の高い粒鉄は、物理的な力により炉壁から剥離されることが好ましい。このとき、酸素濃度の高い溶鉄の上に酸化性スラグが落下するため、大きなガス発生反応は起こらない。この付着したスラグおよび金属粒は、冷却されると炉壁に付着する力が大きくなってしまうため、炉内に溶鉄が存在している比較的高温の状況でスラグおよび金属粒を剥離することが望ましい。炉壁からスラグおよび金属粒を剥離するには、重機などを用いて実施すればよい。炉壁からスラグおよび金属粒を剥離することを出湯前に行うことで、出湯後に新しく添加する炭素源もしくは金属源を用いて、高効率にクロムを還元回収することができる。
【0028】
炉内にクロム酸化物含有スラグを残留している場合、新しくそこに炭素源もしくは金属源を添加することで、クロムを還元回収することができる。炭素源としては、別途用意した溶銑や、高炭素含有フェロクロム、炭材などがあげられる。金属源としては、フェロシリコンや、アルミペレット、アルミドロスなどがあげられる。炭素による酸化クロムの還元反応は吸熱反応であるため、熱を供給するために酸素を供給する、もしくは通電を実施してもよい。その後の工程では再度スラグの組成を調整してクロム酸化物含有スラグを炉内に残留させたまま出湯してもよいし、金属還元材を添加して一度排滓を行ってから出湯してもよい。
【実施例0029】
発明者らは、50t規模電気炉にクロム含有スクラップおよび、高炭素フェロクロムを装入し、通電溶解および送酸脱炭後に出湯を実施した。出湯後に、炉内にフェロクロムおよびスクラップを追加装入して再度通電溶解を実施することで、含クロム溶鉄を溶製した。表1に実験条件を示す。表1には、送酸脱炭後の溶融金属組成として、C濃度とCr濃度を記載した。残部はFeおよび不可避不純物である。また、表1には、送酸脱炭後および出湯前のスラグ組成およびスラグ塩基度を記載した。処理条件No.1および4では、従来と同様、強還元として、化学量論的に、スラグ中酸化クロムを全量還元する量の還元材を添加した。
【0030】
【0031】
次に、表1で示した実験条件に対して、炉壁および出湯孔の状況を確認し、操業影響の評価を行った。結果を表2に示した。ここで、操業安定性評価では、炉壁付着が著しく酸素ガス供給路を遮蔽していた、もしくは出湯中もしくは出湯前に出湯孔が閉塞し、除去できなかった場合を×と評価した。また、付着度合いが軽度であり、除去可能であった場合を〇とし、また、その付着除去作業が20分以内であった場合を◎と評価した。また、還元材使用量評価として、金属還元材の使用量、つまり、使用したフェロシリコンやアルミペレットの量が従来と同じ場合に×と評価し、従来より減少した場合に○と評価した。さらに、クロム回収率として、第二工程において回収できたクロムの割合を評価した。ここで、クロムの回収率は、質量基準で、(溶融金属のクロム濃度(%)×出湯量(t)/100-添加クロム量(t))/炉内残存クロム量(t)と計算した。また、クロム回収率が、0.3未満を×と評価し、0.3以上0.5未満を〇と評価し、0.5以上を◎と評価した。総合評価として、操業安定性評価、還元材使用量評価およびクロム回収率のいずれかが×と評価されたものを×と評価し、その余の内、操業安定性評価およびクロム回収率がいずれも◎と評価されたものを◎と評価し、それ以外の条件は〇と評価した。
【0032】
【0033】
発明例である処理条件No.6~15ではすべての条件で安定操業可能であり、還元材使用量を低減することができた。また、さらにスラグの塩基度を2.0~3.5の範囲にし、スラグ中の酸化クロム濃度を5mass%以上50mass%以下の範囲となるように調整した処理条件No.9、10、12および15では、比較的炉壁付着物の除去作業が軽度となった。さらに、重機を用いて、出湯前に炉壁に付着したスラグおよび金属粒を押し込んだ処理条件No.13~15ではクロムの回収率が上昇した。
【0034】
上記例では、安価かつ操業影響なく安定的に含クロム溶鉄を溶製する例を示したが、本発明により出湯された含クロム溶鉄は、溶鉄中の酸素濃度が高いため、吸窒しにくくなるので、高純度の溶鉄を得る方法としても有用である。また、この方法で出湯された溶鉄は、溶鉄中の酸素濃度が高いために、硫黄濃度が比較的高い状態で出湯されるが、後工程にて還元処理を施すことで問題なく脱硫処理が可能である。加えて、スラグ中の酸化物を還元する必要がないので、Si含有原料やAl含有原料といった合金還元材の使用量が大幅に低減される。また、この方法で出湯された溶鉄と、別の精錬容器にて溶製した溶鉄とを合わせることで所定の成分濃度の溶鉄を溶製することも有用である。