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  • 特開-フェライト合金 図1
  • 特開-フェライト合金 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022046521
(43)【公開日】2022-03-23
(54)【発明の名称】フェライト合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220315BHJP
   C22C 38/34 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/34
C22C38/00 301F
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021200564
(22)【出願日】2021-12-10
(62)【分割の表示】P 2018555158の分割
【原出願日】2017-03-06
(31)【優先権主張番号】16166661.5
(32)【優先日】2016-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ヨンソン, ボー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐腐食性をさらに改善したフェライト合金を提供する。
【解決手段】以下の元素を以下の重量%(wt%)で含有するフェライト合金:
C:0.01~0.1、N:0.001~0.1、O:≦0.2、Cr:4~15、Al:2~6、Si:0.5~3、Mn:≦0.4、Mo+W:≦4、Y:≦1.0、Sc、Ce及び/又はLa:≦0.2、Zr:≦0.40、RE:≦1.0、残分はFe及び通常存在する不純物であり、また以下の等式が満たされなければならない:
0.014≦(Al+0.5Si)(Cr+10Si+0.1)≦0.022。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の元素を以下の重量%(wt%)で含むフェライト合金:
C:0.01~0.1
N:0.001~0.1
O:≦0.2
Cr:4~15
Al:2~6
Si:0.5~3
Mn:≦0.4
Mo+W:≦4
Y:≦1.0
Sc、Ce、及び/又はLa:≦0.2
Zr:≦0.40
RE:≦1.0
残部はFe、及び通常存在する不純物であり、以下の等式が満たされなければならない(元素は重量分率):
0.014≦(Al+0.5Si)×(Cr+10Si+0.1)≦0.022。
【請求項2】
(元素は重量分率)
0.015≦(Al+0.5Si)×(Cr+10Si+0.1)≦0.021
である、請求項1に記載のフェライト合金。
【請求項3】
Zrが0.05~0.40重量%である、請求項1又は2に記載のフェライト合金。
【請求項4】
Crが5~13重量%である、請求項1から3のいずれか1項に記載のフェライト合金。
【請求項5】
Crが6~12重量%である、請求項1から4のいずれか1項に記載のフェライト合金。
【請求項6】
Alが、2.5~4.5重量%であるか、又は3~5重量%である、請求項1から5のいずれか1項に記載のフェライト合金。
【請求項7】
Alが3~4重量%である、請求項1から6のいずれか1項に記載のフェライト合金。
【請求項8】
Siが1.0~3重量%である、請求項1から7のいずれか1項に記載のフェライト合金。
【請求項9】
Siが1.5~2.5重量%である、請求項1から8のいずれか1項に記載のフェライト合金。
【請求項10】
Zrが0.10~0.35重量%である、請求項1から9のいずれか1項に記載のフェライト合金。
【請求項11】
C、N及びZrが、以下の等式:
を満たす、請求項1から10のいずれか1項に記載のフェライト合金。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載のフェライト合金を含む、コーティング。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか1項に記載のフェライト合金を含む、物品。
【請求項14】
コーティング及び/又はクラッディング及び/又は物品を作製するための、請求項1から11のいずれか1項に記載のフェライト合金の使用。
【請求項15】
腐食環境で使用すべき物品又はコーティングを作製するための、請求項1から11のいずれか1項に記載のフェライト合金の使用。
【請求項16】
炉内で、又は加熱要素として使用すべき物品又はコーティングを作製するための、請求項1から11のいずれか1項に記載のフェライト合金の使用。
【請求項17】
フェライト合金が、塩、液体鉛及びその他の金属に、灰若しくは炭素含有量が高い堆積物に、燃焼雰囲気に、低O分圧及び/又は高N及び/又は高い炭素活性を有する雰囲気にさらされる環境における、請求項1から11のいずれか1項に記載のフェライト合金の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、請求項1の前提部に記載のフェライト合金に関する。本開示はさらに、前記フェライト合金の使用に関し、またこの合金から作製される物体又はコーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト合金、例えばクロム(Cr)を15~25重量%の水準で、かつアルミニウム(Al)を3~6重量%の水準で含有するFeCrAl合金は、900~1300℃の温度にさらされると、保護性のα-アルミナ(Al:酸化アルミニウム)スケールを形成可能なことでよく知られている。アルミナスケールを形成及び維持するためのAl含有量の下限は、さらされる条件によって変わる。しかしながら、高温でAlの水準が低すぎると、Alの選択的な酸化が失敗し、より安定性が低く保護力の低い、クロム及び鉄に基づくスケールが形成されるだろう。
【0003】
FeCrAl合金が、約900℃未満の温度にさらされても、通常は保護性のα-アルミナ層を形成しないことについては、共通の理解がある。約900℃未満の温度で保護性のα-アルミナが形成されるように、FeCrAl合金の組成を最適化する試みが行われてきた。しかしながら一般的には、これらの試みはうまくいっていない。なぜならば、酸化物/金属界面への酸素及びアルミニウムへの拡散が、低温では比較的遅く、このためアルミナスケールの形成速度が遅くなるからであり、これは、激しい腐食攻撃を受ける危険性、及びより安定性の低い酸化物が形成される危険性があることを意味する。
【0004】
低温、すなわち900℃未満の温度で生じる別の問題は、FeCrAl合金系におけるCrについての低温混和性ギャップから生じる、長期間での脆化現象である。この混和性ギャップは、550℃で約12重量%を超えるCr水準について、存在する。近年ではこの現象を避けるために、Cr約10~12重量%という、Cr水準が比較的低い合金が開発されている。この群の合金は、制御された低圧Oにおける溶融鉛では、非常にうまくいくことが判明している。
【0005】
欧州特許出願第0475420号は、約1.5~3重量%のCr、Al、Si、並びにREM(Y、Ce、La、Pr、Nd、残部はFe及び不純物)から実質的に成る、急冷凝固された(rapidly solidified)フェライト合金に関する。このシートはさらに、Ti、Nb、Zr、及びVから成る群から選択される少なくとも1種の元素を約0.001~0.5重量%、含むことができる。このシートは、約10μm以下の粒径を有する。欧州特許出願第075420号は、溶融合金の流動性を改善するためにSiの添加を論じているが、延性が減少しているため、その成功は限定的である。
【0006】
欧州特許出願第0091526号は、熱による周期的な酸化に耐性があり、かつ熱間加工可能な合金に関し、より具体的には、希土類添加物を有する鉄・クロム・アルミニウム合金に関する。酸化に際して合金は、触媒コンバータ表面において望ましいウィスカー状組織を有する酸化物を形成する。しかしながら、こうして得られた合金には、高温耐性がない。
【0007】
従って、フェライト合金の耐腐食性をさらに改善させる必要がなおも存在し、これによってこのようなフェライト合金は、高温条件の間における腐食環境で使用可能になる。本開示の態様は、上述の問題を解決するか、又は少なくとも低減させるべきである。
【発明の概要】
【0008】
よって本開示は、良好な耐酸化性と、優れた延性との組み合わせをもたらすフェライト合金に関し、この合金は、以下の組成を重量%(wt%)で含む:
C:0.01~0.1
N:0.001~0.1
O:≦0.2
Cr:4~15
Al:2~6
Si:0.5~3
Mn:≦0.4
Mo+W≦4
Y:≦1.0
Sc、Ce、及び/又はLa≦0.2
Zr:≦0.40
RE:≦1.0
残部はFe、及び通常存在する不純物であり、また以下の等式が満たされなければならない:
0.014≦(Al+0.5Si)×(Cr+10Si+0.1)≦0.022。
【0009】
よって、本開示による合金中においてCr及びSi及びAlの含有量間についてある関係性が存在し、これが満たされると、優れた耐酸化性及び延性を有するとともに、上昇した耐高温腐食性との組み合わせで脆性が低下した合金が得られる。
【0010】
本開示はまた、本開示によるフェライト合金を含有する物品及び/又はコーティングに関する。本開示はさらにまた、物品及び/又はコーティングを作製するための、先に、又は以下に規定するようなフェライト合金の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】aは、Fe-10%Cr-5%Alにおける相について、Si水準を横軸に取ったものであり、bは、Fe-20%Cr-5%Alにおける相について、Si水準を横軸に取ったものを開示している。これらのグラフは、データベースTCFE7、及びThermocalc softwareを用いて作成したものである。
図2】a~eは、大量のカリウムを含有するバイオマス(木質ペレット)灰にさらされる、850℃で1時間のサイクルに50回さらした後、本開示による2種の合金研磨部分を、3種の参照用合金と比較して開示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
前述のように本開示は、以下の元素を重量%(wt%)で含むフェライト合金をもたらす:
C:0.01~0.1
N:0.001~0.1
O:≦0.2
Cr:4~15
Al:2~6
Si:0.5~3
Mn:≦0.4
Mo+W≦4
Y:≦1.0
Sc、Ce、及び/又はLa≦0.2
Zr:≦0.40
RE:≦1.0
残部はFe、及び通常存在する不純物であり、また以下の等式が満たされなければならない:
0.014≦(Al+0.5Si)(Cr+10Si+0.1)≦0.022。
【0013】
驚くべきことに、先に又は以下で規定するように、すなわち合金元素をここに述べる範囲で含有する合金は、意外にも、クロムの水準が4重量%と低くても、アルミニウムが豊富な酸化物を含有する保護表面層を形成することが判明した。このことは、合金の加工性と、長期間にわたる相安定性の双方にとって、非常に重要である。それと言うのも、ここで述べる温度範囲で長時間にわたりさらされた後に、不所望の脆いσ相が減少するか、又はさらには回避されるからである。こうしてSiとAlとCrとの相互作用は、アルミニウムが豊富な酸化物を含有する、安定で連続的な保護表面層の形成を強化し、上記等式を用いることによって、Siを添加することが可能になり、さらに様々な物品へと製造及び形成することがともに可能であるフェライト合金を得ることができる。発明者らは驚くべきことに、Si及びAl及びCrの量が、以下の条件を満たすように調整されると(元素について全ての数字は、重量分数である):
0.014≦(Al+0.5Si)×(Cr+10Si+0.1)≦0.022
得られた合金が、本開示のCr範囲内において優れた耐酸化性と、加工性と、形状安定性との組み合わせを有することを見出した。1つの実施態様によれば、0.015≦(Al+0.5Si)×(Cr+10Si+0.1)≦0.021、例えば0.016≦(Al+0.5Si)×(Cr+10Si+0.1)≦0.020、例えば0.017≦(Al+0.5Si)×(Cr+10Si+0.1)≦0.019である。
【0014】
本開示のフェライト合金は、約900℃未満の低温で特に有用である。それと言うのも、アルミニウムが豊富な酸化物を含有する保護表面層は、本開示によるフェライト合金製の物品及び/又はコーティング上に形成され、この保護表面層は、物品及び/又はコーティングの腐食、酸化及び脆化を防止するからである。さらに、本開示によるフェライト合金は、400℃という低温での腐食、酸化及び脆化に対する保護をもたらすことができる。それと言うのも、アルミニウムが豊富な酸化物を含有する保護表面層は、本開示によるフェライト合金製の物品及び/又はコーティングの表面上に形成されるからである。さらに、本開示による合金はまた、約1100℃までの温度で優れており、400~600℃の温度範囲において長期間にわたる脆化傾向が、減少している。
【0015】
本開示による合金は、コーティングの形態で使用できる。さらに、物品は本開示による合金を含むこともできる。本開示によれば、「コーティング」という用語は、本開示によるフェライト合金が、腐食環境にさらされる(すなわちベース材料と接触する)層の形態で存在する実施態様を言い、ここで腐食を成し遂げる手段と方法は問わず、また層とベース材料との相対的な厚さ関係は問わない。従ってその例は、PVDコーティング、クラッディング、又はコンパウンド若しくは複合材料であるが、これらに限られない。この合金の目的は、腐食及び酸化の双方から、その下にある材料を保護すべきであるということである。適切な物品の例は、コンパウンドチューブ、チューブ、ボイラ、ガスタービン部材、及び水蒸気タービン部材であるが、これらに限られない。その他の例には、過熱器、発電所における水壁、容器又は熱交換器における部材(例えば、炭化水素又はCO/COを含有する気体を改質するため、又はその他の処理をするためのもの)、鋼及びアルミニウムの工業的な熱処理と関連して用いられる部材、粉末冶金法、ガス式及び電気式の加熱要素が含まれる。
【0016】
さらに、本開示による合金は、腐食条件を有する環境で使用するために適している。このような環境の例には、塩、液体鉛、及びその他の金属にさらされること、灰若しくは炭素含有量が高い堆積物にさらされること、燃焼雰囲気に、低O分圧及び/又は高N及び/又は高い炭素活性を有する雰囲気といった環境が含まれるが、これらに限られない。
【0017】
さらに、本開示によるフェライト合金は、慣用の冶金学から急冷凝固までの一般的に行われる凝固速度を用いて作製することができる。本開示による合金は、プレス加工され、押出成形されたあらゆる種類の物品(例えばワイヤ、ストリップ、バー及びプレート)を作製するためにも適している。当業者であれば分かるように、熱間及び冷間塑性変形の程度、また結晶粒組織及び結晶粒度は、物品の形状と製造経路により様々である。
【0018】
先に、また以下で規定する合金について必須の合金元素の機能と作用は、以下の段落で示す。各合金元素の機能及び作用についての列挙は、完全なものとみなされるべきではなく、これらの合金元素についてさらなる機能及び作用が存在し得る。
【0019】
炭素(C)
炭素は、製造方法から生じる不可避的不純物として、存在し得る。炭素は、析出硬化により強度を増加させるために、先に、又は以下で規定するようにフェライト合金中に含まれていてもよい。合金における強度について顕著な効果を奏するために、炭素は少なくとも0.01重量%の量で存在するのが望ましい。その水準が高すぎると、炭素は材料の形成を困難にする恐れがあり、耐腐食性について否定的な作用をもたらすこともある。よって炭素の最大量は、0.1重量%である。炭素含有量は例えば、0.02~0.09重量%、例えば0.02~0.08重量%、例えば0.02~0.07重量%、例えば0.02~0.06重量%、例えば0.02~0.05重量%、例えば0.01~0.04重量%である。
【0020】
窒素(N)
窒素は、製造方法から生じる不可避的不純物として、存在し得る。窒素は、析出硬化により強度を増加させるために、特に粉末冶金法の経路を適用する場合に、先に、又は以下で規定するようにフェライト合金中に含まれていてもよい。その水準が高すぎると、窒素は合金の形成を困難にする恐れがあり、耐腐食性について否定的な作用をもたらすこともある。よって窒素の最大量は、0.1重量%である。窒素についての適切な範囲は例えば、0.001~0.08重量%、例えば0.001~0.05重量%、例えば0.001~0.04重量%、例えば0.001~0.03重量%、例えば0.001~0.02重量%である。
【0021】
酸素(O)
酸素は、製造方法から生じる不純物として、先に、又は以下で規定するように合金中に存在し得る。この場合、酸素の量は最大0.02重量%、例えば最大0.005重量%である。酸素を意図的に添加して、分散強化により強度をもたらす場合、粉末冶金法の経路を通じて合金を作製する時と同じように、先に、又は以下で規定するように合金は、酸素を最大で0.2重量%、又は0.2重量%含有する。
【0022】
クロム(Cr)
クロムは主に、マトリックスの固溶体元素として、本開示による合金中に存在する。クロムは、いわゆる「第三元素効果」により、すなわち、移行的な酸化状態で酸化クロムを形成することによって、合金における酸化アルミニウム層の形成を促進する。この目的を達するためにクロムは、少なくとも4重量%の量で、先に、又は以下で規定するように合金中に存在するのが望ましい。本開示による独創的な合金においてCrは、脆いσ相及びCrSiの形成されやすさも強化してしまう。この作用は約12重量%で現れ、15重量%を超える水準で強化されるため、Crの上限は、15重量%である。酸化という観点からも、15重量%より高い水準では、保護性の酸化物スケールに対してCrが不所望の貢献をすることになる。1つの実施態様によれば、Crの含有量は、5~13重量%、例えば5~12重量%、例えば6~12重量%、例えば7~11重量%、例えば8~10重量%である。
【0023】
アルミニウム(Al)
アルミニウムは、先に、又は以下で規定するように合金において重要な元素である。アルミニウムは、高温で酸素にさらされると、選択的酸化により稠密で薄い酸化物(Al)を形成し、これによってその下にある合金表面が、さらなる酸化から保護される。アルミニウムの量は、アルミニウムが豊富な酸化物を含有する保護表面層が形成されることを保証するため、また損傷を受けた場合に、保護表面層を修復するために充分なアルミニウムが存在することを保証するためには、少なくとも2重量%であるのが望ましい。しかしながら、アルミニウムは成形性に対して否定的な影響を与え、アルミニウムの量が多いと、合金を機械的に加工する間に、合金において亀裂が形成されることがある。従ってアルミニウムの量は、6重量%を超えないのが望ましい。アルミニウムは例えば、3~5重量%、例えば2.5~4.5重量%、例えば3~4重量%、存在し得る。
【0024】
ケイ素(Si)
市販のFeCrAl合金において、ケイ素はしばしば、最大0.4重量%の水準で存在する。先に、又は以下で規定するようにフェライト合金においてSiは、重要な役割を果たす。それと言うのもケイ素は、耐酸化性及び耐腐食性を改善させるという優れた効果を有することが判明しているからである。Siの上限は、熱間条件及び冷間条件における加工性の喪失によって、また長期間さらされる間に脆いCrSi及びσ相の形成されやすさが増大することによって、定まる。よってSiの添加は、Al及びCrの含有量との関係で、行わなければならない。よってSiの量は、0.5~3重量%、例えば1~3重量%、例えば1~2.5重量%、例えば1.5~2.5重量%である。
【0025】
マンガン(Mn)
マンガンは、先に、又は以下で規定するように合金中で不純物として、最大0.4重量%、例えば0~0.3重量%、存在し得る。
【0026】
イットリウム(Y)
溶解冶金学においてイットリウムは、保護表面層の接着性を改善させるために、最大0.3重量%の量で添加することができる。さらに、粉末冶金学においてイットリウムが、酸素及び/又は窒素とともに分散液を作るために添加される場合、イットリウム含有量は、酸化物及び/又は窒化物による所望の分散硬化作用を達成するために、少なくとも0.04重量%の量である。分散硬化された合金におけるイットリウムの最大量は、酸素含有イットリウム化合物の形態において、最大1.0重量%であり得る。
【0027】
スカンジウム(Sc)、セリウム(Ce)、及びランタン(La)
スカンジウム、セリウム、及びランタンは、相互に交換可能な元素であり、酸化特性、酸化アルミニウム(Al)層の自己修復性、又は合金とAl層との接着性を改善させるために、個々に又は組み合わせで、合計で最大0.2重量%、添加することができる。
【0028】
モリブデン(Mo)及びタングステン(W)
モリブデンもタングステンもともに、先に、又は以下で規定するように合金の熱間強度に対して肯定的な効果を有する。Moはまた、湿潤腐食特性に対して肯定的な効果も有する。これらの元素は、個々に又は組み合わせで、最大4.0重量%、例えば0~2.0重量%の量で添加することができる。
【0029】
反応性元素(RE)
反応性元素とは、炭素、窒素、及び酸素と反応性が高いものと定義される。チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、及びトリウム(Th)は、その意味で反応性元素であり、これらの元素は炭素に対して親和性が高く、そのため強力な炭化物形成体である。これらの元素は、合金の酸化特性を改善させるために添加される。元素の合計量は、最大1.0重量%、例えば0.4重量%、例えば最大0.15重量%である。
【0030】
各反応性元素の最大量は主に、元素が不都合な金属間化合相を形成する傾向による。
【0031】
ジルコニウム(Zr)
ジルコニウムはしばしば、反応性元素と呼ばれる。それと言うのもジルコニウムは、酸素、窒素、及び炭素に対して非常に反応性だからである。本開示による合金においてZrは、2つの役割を有することが判明している。それと言うのもジルコニウムは、アルミニウムが豊富な酸化物を含有する保護表面層に存在し、これによって耐酸化性が改善されるとともに、ジルコニウムは炭化物及び窒化物も形成するからである。よって、アルミニウムが豊富な酸化物を含有する保護表面層について最良の特性を達成するためには、合金中にZrを含有させることが有利である。
【0032】
しかしながら、0.40重量%を超えるZr水準では、Zrが豊富な金属間化合物介在物が形成されるため、酸化に対して影響があり、0.05重量%未満の水準では、C含有量及びN含有量に拘わらず、2つの目的を達成するためには少な過ぎる。よってZrが存在する場合、その範囲は0.05~0.40重量%、例えば0.10~0.35重量%である。
【0033】
さらに、ZrとNとCとの関係性は、保護表面層(すなわちアルミナスケール)についてさらに良好な耐酸化性を達成するために、重要であり得ることが判明している。よって発明者らは驚くべきことに、Zrを合金に添加する場合、この合金がN及びCを以下の条件(元素含有量は重量%で示す):
が満たされるように含有すると、
得られる合金は、良好な耐酸化性を獲得することを見出した。
【0034】
先に、又は以下で規定するようにフェライト合金における残分はFe、及び不可避の不純物である。不可避の不純物の例は、何らかの目的で添加された元素又は化合物ではないが、例えばフェライト合金を作製するために使用される材料中に不純物として通常存在するため、完全には回避できない元素又は化合物である。
【0035】
図1a及び1bは、Si含有フェライト合金においてCrが多いほど、SiCr介在物が形成されやすいこと、及び20%のCrでは、焦点となる温度領域において長時間さらされた後、不所望の脆いσ相が促進されることを示している。これらのグラフは、2つのCr水準(10%及び20%)について示したものに過ぎないものの、Crが多くなると脆い相が増加する傾向は、明らかに示されている。10%のCrではσ相が存在しないこと、及びSi含有量が多いと、双方のCr水準でSiCr相の量が増加することに留意されたい。従ってこれらの図は、Crを約20%の水準で使用すると、問題が生じるであろうことを示している。
【0036】
「≦」又は「以下」という表現を次の文脈:「元素≦数」で使用する場合、当業者であれば、その他の数字について特に言及されていない限り、その範囲の下限が0重量%であることが分かる。さらに、不定冠詞「a(1つの)」は、複数であることを排除するものではない。
【0037】
以下の非限定的な実施例によって本開示をさらに説明する。
【実施例0038】
試験溶融物は、真空溶融炉で製造した。試験溶融物の組成を、表1に示す。
【0039】
得られた試料を熱間ローラ加工し、機械加工して、2×10mmの断面を有する平らなロッドにした。それから、空気及び燃焼条件にさらすために、これらのロッドを切断して、20mmの長い断片にし、SiCペーパで800メッシュに磨いた。室温で引張試験機のZwick/Roell Z100により引張試験をするため、数本のロッドは、長さ200mm×3×12mmのロッドに切断した。
【0040】
暴露試験及び引張試験の結果を表1に示す。
【0041】
これらの試料について、降伏応力及び破断応力、並びに標準的な引張試験機における破断点伸びを試験し、>3%の伸びを示す結果は、表中の「加工性」の列で「x」と示されている。よって「x」は、熱間ローラ加工が容易な合金であることを示し、これは室温における延性を表す。「酸化性」という列において「x」は、合金が、保護性のアルミナが豊富な酸化物スケールを、空気中では950℃で、バイオマスの灰堆積物では850℃で、形成することを示す。
【0042】
【0043】
よって、上記表からも分かるように、本開示による合金は、良好な加工性及び良好な酸化性を示す。
【0044】
図2a)~e)は、大量のカリウムを含有するバイオマス(木質ペレット)灰にさらされる、850℃で1時間のサイクルに50回さらした後に、本開示の研磨部分の試料(図2a)は4783、及び2b)は4779)を、3種の参照用合金と比較して開示している。これらの顕微鏡写真は、JEOL FEG SEMで倍率100倍で撮影されたものであり、本開示による合金と、参照用材料との性質との間で明確な利点を示す。ここから見て取れるように、本開示による合金では、3~4μmと薄い保護性アルミナスケール(酸化アルミニウム層)が形成されており、一方でステンレス鋼(2c:11Ni、21Cr、N、Ce、残分はFe)、及びNi基合金(2e:インコネル(Inconel)625:58Ni、21Cr、0.4Al、0.5Si、Mo、Nb、Fe)には、比較的厚く保護性に乏しいクロミア(酸化クロム)が豊富なスケールが形成され、比較例のFeCrAl合金(合金4776)(図2d:20Cr、5Al、0.04Si、残分はFe)には、相対的に多孔質で非保護性のアルミナスケールが形成される。
【0045】
図2a~eから見て取れるように、Si、Al及びCrを本開示に従った範囲で添加することによって、Al水準が約2重量%と低くても、またクロム水準が5重量%と低くても、アルミナスケール形成が促進される。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2022-01-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書又は図面に記載される発明。
【外国語明細書】