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特開2022-46538プロペラ及びプロペラを移動させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022046538
(43)【公開日】2022-03-23
(54)【発明の名称】プロペラ及びプロペラを移動させる方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20220315BHJP
【FI】
A61M37/00
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021201957
(22)【出願日】2021-12-13
(62)【分割の表示】P 2019555573の分割
【原出願日】2018-04-11
(31)【優先権主張番号】17166356.0
(32)【優先日】2017-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】506011249
【氏名又は名称】マックス‐プランク‐ゲゼルシャフト・ツア・フェルデルンク・デア・ヴィッセンシャフテン・アインゲトラーゲナー・フェライン
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】チウ,ティエン
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー,ペール
(57)【要約】      (修正有)
【課題】プロペラを少なくとも部分的に包囲する媒体に対してプロペラを移動させる改良された方法を提供する。
【解決手段】プロペラ1を少なくとも部分的に包囲する媒体に対して移動させる方法は、アクチュエータが媒体に対するプロペラの回転軸4を中心とするプロペラの回転を誘発し、プロペラがその回転運動を媒体に対するプロペラの移動に変換させる。プロペラの少なくとも1つの断面5であって、プロペラの回転軸に関連付けられた断面のアスペクト比は3以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロペラ(1)を少なくとも部分的に包囲する媒体(2)に対して前記プロペラ(1)を移動させる方法であって、アクチュエータが前記媒体(2)に対する前記プロペラ(1)の回転軸(4)を中心とする前記プロペラ(1)の回転を誘発し、前記プロペラ(1)がその回転運動を前記媒体(2)に対する前記プロペラ(1)の移動に変換させる方法において、前記プロペラ(1)の少なくとも1つの断面(5)であって、前記プロペラ(1)の回転軸に関連付けられた断面(5)のアスペクト比が3以上であることを特徴とする方法。
【請求項2】
プロペラ(1)を少なくとも部分的に包囲する媒体(2)に対して前記プロペラ(1)を移動させる方法であって、アクチュエータが前記媒体(2)に対する前記プロペラ(1)の回転軸(4)を中心とする前記プロペラ(1)の回転を誘発し、前記プロペラ(1)がその回転運動を前記媒体(2)に対する前記プロペラ(1)の移動に変換する方法において、前記プロペラ(1)と前記プロペラ(1)の回転によって前記媒体(2)の残りから切り離されて前記プロペラ(1)と共に回転する前記媒体(2)の部分(10)とを含む回転体の少なくとも1つの断面(5)であって、前記回転体の回転軸に関連付けられた断面(5)のアスペクト比が3以上であることを特徴とする方法。
【請求項3】
前記プロペラ(1)は、キラル又は一般化されたキラルであることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項4】
前記プロペラ(1)は、螺旋状又は変更された螺旋状であることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記プロペラの前端は、前方テーパを備えることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記プロペラ(1)は、非連結式であることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記プロペラ(1)の回転は、磁場によって遠隔的に誘発されることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記媒体(2)は、粘弾性流体、粘弾性固体、又は生理学的組織の少なくとも1つであることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記プロペラ(1)の回転は、前記媒体(2)に歪みを誘発し、これによって、前記歪が前記媒体の弾性エネルギーを変化させ、前記プロペラ(1)の平行移動を生じさせることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
螺旋状又は変更された螺旋状プロペラ(1)であって、前記プロペラ(1)を少なくとも部分的に包囲する媒体に対して前記プロペラ(1)の回転運動を前記プロペラ(1)の移動に変換させる螺旋状又は変更された螺旋状プロペラ(1)において、前記プロペラ(1)の少なくとも1つの断面(5)であって、前記プロペラ(1)の螺旋軸に関連付けられた断面(5)のアスペクト比が3以上であることを特徴とする、螺旋状又は変更された螺旋状プロペラ。
【請求項11】
前記プロペラ(1)の回転軸(4)と直交する前記プロペラ(1)の任意の断面(5)の最大半径(6)が5mm以下であることを特徴とする、請求項10に記載のプロペラ(1)。
【請求項12】
前記プロペラ(1)の回転軸(4)と直交する前記プロペラ(1)の任意の断面(5)の最小半径(7)が300μm以下であることを特徴とする、請求項10又は11に記載のプロペラ(1)。
【請求項13】
真っ直ぐな螺旋軸を定めるステップと、
前記螺旋軸に沿って延在するプレート(17)を準備するステップであって、前記プレート(17)の少なくとも1つの断面(5)であって、前記螺旋軸に関連付けられた断面(5)のアスペクト比が3以上である、ステップと、
前記プレート(17)に前記螺旋軸に沿ってトルクを加え、これによって、前記プレート(17)を螺旋形状に捻るステップと
を含むことを特徴とするプロペラを製造する方法。
【請求項14】
所望の幾何学的形状を有する第1の構造体を準備するステップと、
前記第1の構造体を第2の材料内に射込み、前記第2の材料から前記第1の構造体を取外し、前記第1の構造体の雌型レプリカを生成するステップと、
成形材料を前記雌型内に注入し、所定の物理学的及び化学的条件下で前記成形材料を硬化させ、第2の固体構造体を形成するステップと、
前記雌型から前記第2の固体構造体を離脱させ、これによって、所定のプロペラを得るステップと
を含むことを特徴とするプロペラを製造する方法。
【請求項15】
前記成形材料は、少なくとも2種類の成分材料の混合物であることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロペラを少なくとも部分的に包囲する媒体に対してプロペラを移動させる方法であって、アクチュエータが媒体に対するプロペラの回転軸を中心とするプロペラの回転を誘発し、プロペラがその回転運動を媒体に対するプロペラの移動に変換させる方法に関する。また、本発明は、螺旋状又は変更された螺旋状のプロペラであって、プロペラの回転を媒体に対するプロペラの移動に変換する螺旋状又は変更された螺旋状プロペラに関する。更に、本発明は、プロペラを製造する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
医学及び生物学の多くの用途において、生物学的流体及び軟組織を含む生物学的媒体内を通ることができれば、有利である。例えば、物質の標的送達又は最小侵襲外科手術のような最小侵襲処置において、小型の非連結式(untethered)装置を媒体内を通るように移動させることが望ましい。何故なら、このような方法は、低侵襲的であり、大型の装置又は連結式装置を用いる方法よりも良好な制御をもたらすからである。
【0003】
小型の非連結式装置は、すでに文献において報告されている。例えば、非特許文献1(A Ghosh and P Fischer:「人工的な磁気ナノ構造化プロペラの制御された推進」、Nano Letters、vol 9、pp 2243-2245、2009)及びこの文献と共に公開された支援情報は、コルクスクリュー(cork-screw)に似た形状の回転が流体内において前方推進をもたらすことを明らかにしている。回転は、回転磁場によって生じる。この概念は、特許文献1にも記載されている。いくらか異なる形状を有する遊泳物が、非特許文献2(L Zhang, J J Abbott, L X Dong, B E Kratochvil, D Bell, and B J Nelson:「人工バクテリア鞭毛:製造及び磁気制御」、Applied Physics Letters, vol 94, p 064107, 2009)に記載されている。この遊泳物も磁場を回転させることによって駆動される。非特許文献3(K Ishiyama, M Sendoh, A Yamazaki and K I Arai:「磁気トルクによって駆動される遊泳微小機械」、Sensors and Actuators A:Physical, vol 91, pp 141-144, 2001)は、回転磁場によって回転する時に豚組織(食肉)サンプル内を通る数mmの長さを有するスクリューを記載している。
【0004】
非特許文献4(T Qiu, J Gibbs, D Schamel, A Mark, U Choudhury, and P Fischer:
「ナノヘリックスから磁気作動されるマイクロドリルまで:低レイノルズ数の生物学的環境における最小の非連結式マイクロロボットシステムのいくつかのためのユニバーサルプラットフォーム」ナノメートルからミリメートル規模の大きさのロボットシステム及び応用:vol 8336, I Paprotny and S Bergbreiter, 1st ed Berlin: Springer, pp 53-65, 2014)は、斜め蒸着法(GLAD)によるコルクスクリュー状プロペラの製造及び微量射出成形による従来のスクリューにより類似するプロペラの製造を記載している。この文献も、プロペラが回転磁場によって作動する時のアガロースゲル内のプロペラの移動を記載している。
【0005】
上記の開示の全てにおいて、プロペラは、その長軸と直交する永久磁石モーメントが作用する部分を有するか、又は永久磁石に取り付けられている。外部回転磁場の印加によって、非連結式プロペラを回転させるトルクを与え、媒体内を通るプロペラの平行移動をもたらすことになる。
【0006】
特許文献2は、患者の器官内に挿入される医療装置であって、外部磁場によって繰り返し運動される医療装置を開示している。特許文献3は、永久磁石又は電磁石から生じる磁場の勾配に沿って移動するナノ粒子を開示している。ナノ粒子は、標的細胞に付着する傾向が強い。これらのナノ粒子に電場を印加し、標的細胞を死滅させるのに十分な作用を生じさせるようになっている。特許文献4は、ドリル状先端を有する手持ち式自動化生検装置を開示している。アクチュエータによって、この装置を回転させることができる。
【0007】
特許文献5は、ヒト又は動物の体内に移植される医療用移植装置を開示している。この装置は、絡み合った螺旋ワイヤを備え、これらのワイヤの1つが回転時に組織内にねじ込まれる。特許文献6は、雄ネジ山を備えるカテーテルシステムであって、回転によって体内通路内に前進する、カテーテルシステムを開示している。特許文献7は、組織内に刺入する外科装置を開示している。装置の遠位チップが布によって少なくとも部分的に覆われ、この布を回転させることによって、装置が組織内に穿孔するようになっている。
【0008】
既存の装置を更に小型化することが課題として挙げられる。更に、既存の装置によって粘弾性媒体における推進を得ることが困難であることが分かっている。周知のコルクスクリュー形状は、水又はグリセロールのような粘性液及びアガロース及び食肉のような弾性固体において良好に機能する。しかし、生体医学領域における多くの重要な組織は、完全な粘性流体でもないし又は完全な弾性固体でもない。むしろ、これらの組織は、液体及び固体の両方の組合せ特性を呈する粘弾性媒体である。本発明者等は、周知のプロペラ形状は、粘弾性媒体において不十分であることを見出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第8,768,501B2号明細書
【特許文献2】国際特許出願公開第2008/090549A2号パンフレット
【特許文献3】国際特許出願公開第2016/025768A1号パンフレット
【特許文献4】国際特許出願公開第2011/073725A1号パンフレット
【特許文献5】欧州特許出願公開第2674192A1号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2012/0010598A1号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2009/0248055A1号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】A Ghosh and P Fischer:「Controlled Propulsion of Artificial Magnetic Nanostructured Propellers」、Nano Letters, vol 9, pp 2243-2245, 2009
【非特許文献2】L Zhang, J J Abbott, L X Dong, B E Kratochvil, D Bell, and B J Nelson:「Artificial bacterial flagella:Fabrication and magnetic control」、Applied Physics Letters, vol 94, p.064107, 2009
【非特許文献3】K Ishiyama, M Sendoh, A Yamazaki, and K I Arai :「Swimming micro-machine driven by magnetic torque」、Sensor and Actuators A: Physical, vol 91, pp 141-144, 2001
【非特許文献4】T Qiu, J Gibbs, D Schamel, A Mark, U Choudhury, and P Fischer:「From Nanohelices to Magnetically Actuated Microdrills:A Universal Platform for Some of the Smallest Untetherd Microrobotic Systems for Low Reynolds Number and Bilogical Envirnments」Small-Scale Robotics,From Nano-to-Millimeter-Sized Robotic Systems ad Applications, vol 8336, I Paprotny and S Bergbreiter, 1st ed Berlin:Springer, pp 53-65, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、プロペラを少なくとも部分的に包囲する媒体に対してプロペラを移動させる改良された方法であって、アクチュエータが媒体に対するプロペラの回転軸を中心とするプロペラの回転を誘発し、プロペラがその回転運動を媒体に対するプロペラの移動に変換させる方法を提供することにある。本発明の他の目的は、改良された螺旋状又は変更された螺旋状プロペラであって、プロペラの回転運動を媒体に対するプロペラの移動に変換する改良された螺旋状又は変更された螺旋状プロペラを提供することにある。また、本発明の目的は、改良されたプロペラを提供することにある。本発明の更なる目的は、プロペラを製造する改良された方法を提供することにある。本発明によれば、先行技術
の前述の課題の1つ又は複数に対処することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、上記の課題は、プロペラを少なくとも部分的に包囲する媒体に対してプロペラを移動させる方法を提供することによって解消される。アクチュエータが媒体に対するプロペラの回転軸を中心とする回転を誘発し、プロペラがその回転運動を媒体に対するプロペラの運動に変換する。また、プロペラの少なくとも一断面であって、プロペラの回転軸に関連付けられた断面のアスペクト比は、3以上である。
【0013】
本発明者等は、このような大きなアスペクト比が推進力、特に、粘弾性媒体内における推進力を著しく増大させることを見出した。特定の理論に拘束されることなく、本発明者等は、本発明がプロペラの回転による媒体の弾性変形を用いる新たに見い出された推進機構を有効利用したものであると考えている。大きなアスペクト比は、大きな変形、従って、強力な推進を引き起こすことになる。
【0014】
本発明の文脈において、「プロペラ(propeller)」という用語は、それ自体又はそれ自体に取り付けられた負荷を媒体に対して移動させることができる推進構造体を意味する。本発明の文脈において、断面の「アスペクト比(aspect ratio)」は、断面の最小半径によって除された断面の最大半径であり、半径は、断面中心から断面の周縁の点までの距離である。断面中心は、その断面が「関連付けられた(related)」軸が該断面を貫通する点である。更に、断面は、該断面が関連付けられた軸と直交する。断面の周縁は、該断面の外側の境界である。従って、もし断面がプロペラの回転軸に関連付けられていたなら、アスペクト比を決定する半径は、回転軸が該断面を直角に貫く点と該断面の周縁の点までの距離である。同様に、もしプロペラが(以下に述べる)螺旋体であり、且つその断面がプロペラの螺旋軸に関連付けられていたなら、アスペクト比を決定する半径は、螺旋軸が該断面を直角に貫く点から該断面の周縁の点までの距離である。
【0015】
本発明の他の態様では、上記課題は、プロペラを少なくとも部分的に包囲する媒体に対して該プロペラを移動させる方法を提供することによって解消される。アクチュエータが媒体に対するプロペラの回転軸を中心とするプロペラの回転を誘発し、プロペラがその回転運動を媒体に対するプロペラの移動に変換させる。本発明のこの態様では、プロペラとプロペラの回転によって媒体の残りから切り離されてプロペラと共に回転する媒体の部分とを備える回転体の少なくとも1つの断面であって、回転体の回転軸に関連付けられた断面のアスペクト比は、3以上である。有利には、本発明のこの態様によれば、プロペラの回転によって媒体の残りから切り離された媒体の部分をプロペラと同一速度で回転させることが可能になる。
【0016】
本発明のこの実施形態は、媒体の一部が、例えば、付着によって、媒体の残りから切り離され、その結果、プロペラと共に回転するという本発明者等の発見に基づいている。本発明者等は、このような共回転が、推進を著しく妨げるにも関わらず、プロペラと媒体の共回転部分とを備える回転体の高アスペクト比によって、強力な推進が達成されることを見出している。ここでも、特定の理論に拘束されることなく、本発明者等は、新規に発見された推進機構において、推進は、プロペラと共回転しない媒体の弾性変形によって主に生じること、及びその結果として、プロペラと媒体の共回転部分とを備える回転体のアスペクト比が強力な推進のために重要であると考えている。
【0017】
本発明の更なる態様では、上記の課題は、螺旋状又は変更された螺旋状プロペラであって、プロペラの回転運動をプロペラを少なくとも部分的に包囲する媒体に対するプロペラの移動に変換させる螺旋状又は変更された螺旋状プロペラによって、解消される。プロペラの少なくとも1つの断面であって、プロペラの螺旋軸に関連付けられた断面のアスペクト比は、3以上である。
【0018】
本発明者等の実験によれば、螺旋形状及び変更された螺旋形状が推進をもたらすのに特に適切であることが分かっている。更に、螺旋形状及び変更された螺旋形状の製造が容易であることも分かっている。
【0019】
本発明の文脈において、もしプロペラの三次元形状が、ある二次元形状を該二次元形状を回転させながら曲線に沿って延ばすことによって得られるなら、このプロペラは、「螺旋状(helical)」である(以下、螺旋状(helical)がヘリックス(helix)状と呼ばれることもある)。二次元形状は、(螺旋軸(helical axis)とも呼ばれる)曲線に沿って延ばされ、その結果、プロペラの任意の2つの断面は、もし各断面が該断面を曲線が貫く点において曲線と直交するなら、二次元形状と一致する。螺旋軸は、曲線であり、この曲線に沿って二次元形状が延ばされることになる。あるヘリックス(螺旋)は、キラルである。本発明の文脈において、もしプロペラの形状がその鏡像形状と異なっているなら、プロペラは、「キラル(chiral)」である。換言すれば、プロペラは、もし平面鏡に理想的に映る像がそれ自体と一致しないなら、キラリティー(非対称性)を有することになる。また、プロペラは、プロペラの本体に対する磁気モーメントの配向によってもキラルになる。このようなプロペラは、本発明の文脈において「一般化されたキラル(generalized chiral)」と規定されている。非キラル形状を有するプロペラであっても、適切に配向された磁気モーメントによってキラル性をもたせることも可能である。
【0020】
本発明の文脈において、「変更された螺旋状(modified helical)」あるいは変更を加えられた螺旋状は、二次元形状が同一性を保っていないが曲線に沿って延びる間に変化する点において、「螺旋」と異なっている。なお、「変更された螺旋状(modified helical)」は、以下、「変更されたヘリックス(modified helix)」と呼ばれることもある。二次元形状の展開は、(数学的には、非連続的又は非微分可能であるのと対照的に)連続的に微分可能である。例えば、二次元形状は、一次元方向に引っ張られることがあり、また圧縮されることがあり、屈曲されることもあり、又は二次元方向において釣り合って収縮又は拡大されることもある。後者の結果として、例えば、プロペラの一区域又はプロペラの全体がテーパ状の形状を有することもある。
【0021】
本発明のさらなる態様では、上記の課題は、プロペラを製造する方法であって、(1)真っ直ぐな螺旋軸を定めるステップと、(2)螺旋軸に沿って延在するプレートを準備するステップであって、プレートの少なくとも1つの断面(好ましくは、全ての断面)であって、螺旋軸に関連付けられた断面のアスペクト比が3以上である、ステップと、(3)プレートに螺旋軸に沿ってトルクを加え、プレートを螺旋形状に捻るステップとを含む方法によって、解消される。
【0022】
この方法は、プレートの定義による厚みに対する幅又は長さの高比率が、もし螺旋がトルクを加えることによって捻られたなら、螺旋のアスペクト比に移行するという本発明者等の洞察を有効利用したものである。本発明者等は、これによって、高アスペクト比を有する螺旋プロペラを容易に且つ確実に製造する方法を見出したのである。
【0023】
本発明の更なる態様によれば、上記の課題は、プロペラを製造する方法であって、(1)所定の幾何学的形状を有する第1の構造体を準備するステップと、(2)第1の構造体を第2の材料内に鋳込み、第1の構造体を第2の材料から取り出し、第1の構造体の雌型レプリカを生成するステップと、(3)一種又は複数種の成形材料を雌型内に注入し、所定の物理的及び化学的条件下で成形材料を硬化させ、第2の固体構造体を形成するステップと、(4)第2の固形構造体を雌型から離脱させ、これによって、所望のプロペラを得るステップとを含む方法によって、解消される。
【0024】
本発明は、有利には、医療診断及び治療、例えば、内視鏡検査、生検、薬剤の送達又は移植片又は放射性物質の送達、又は局部的熱生成に用いられる。例えば、プロペラは、プロペラに取り付けられた有効薬剤を移送し、疾患位置に該薬剤を放出することができる。腫瘍治療では、プロペラは、正常組織を通って腫瘍組織に推進し、もしプロペラが金属性の磁気材料から作製されているか又は金属性の磁気材料を含んでいたなら、誘導加熱によって材料内に熱を生じさせ、腫瘍細胞を死滅させることができる。また、プロペラは、薄い柔軟チューブを腫瘍部位に運び、該チューブを通して薬剤を連続的に腫瘍に送達することができる。同様に、プロペラは、電線に接続された電極を引っ張り、脳の特定領域に移動し、ニューロンの電気信号を測定し又は電気的刺激を与えることができる。
【0025】
更に、単独で用いられてもよいし又は組合せて用いられてもよい本発明の好ましい特徴が、従属請求項、以下の説明、及び図面において検討される。
【0026】
本発明の好ましい実施形態では、プロペラの少なくとも1つの断面、好ましくは、全ての断面のアスペクトは、2以上、更に好ましくは、3以上、更に好ましくは、5以上、更に好ましくは、10以上、更に好ましくは、20以上、更に好ましくは、50以上、更に好ましくは、100以上であり、該1つ又は複数の断面は、プロペラの回転軸又は代替的にプロペラの螺旋軸に関連付けられている。本発明のこの実施形態は、特に高いアスペクト比が特に強力な推進を伴うという本発明者等の発見を有効利用したものである。断面は、好ましくは、連続的な形状を有している。
【0027】
好ましくは、プロペラの少なくとも1つの断面、更に好ましくは、各断面であって、プロペラの回転軸に関連付けられた断面は、1つ又は複数のプロペラの回転によって媒体の残りから切り離されて1つ又は複数のプロペラと共に回転する媒体の部分の(同一の断面における)断面積の少なくとも50%、更に好ましくは、100%、更に好ましくは、300%、更に好ましくは、1000%の断面積を有している。この実施形態は、共回転する媒体が推進を妨げる可能性があるが、共回転する材料の量を制限することによって、このような妨げを限定することができるという本発明者等の発見を有効利用したものである。
【0028】
好ましくは、プロペラの少なくとも1つの断面、更に好ましくは、全ての断面において、プロペラの回転軸は、該断面の領域、すなわち、断面の周縁の内側を貫通し、1つ又は複数の断面は、プロペラの回転軸、代替的にプロペラの螺旋軸に関連付けられている。換言すれば、本発明の好ましい実施形態では、回転軸又は螺旋軸は、少なくとも部分的にプロペラを貫通する。
【0029】
好ましくは、プロペラの表面積の少なくとも20%、更に好ましくは、少なくとも50%、更に好ましくは、少なくとも80%、更に好ましくは、少なくとも95%は、3.2μm未満、更に好ましくは、1.6μm未満、更に好ましくは、0.4μm未満、更に好ましくは、0.025μm未満、更に好ましくは、0.006μm未満の(ドイツ規格協会DIN4760に準じる)表面粗さRaを有している。本発明のこの実施形態によれば、有利には、プロペラの移動を妨げる媒体、例えば、生物学的組織の付着を低減させることができる。プロペラの表面粗さは、プロペラの表面への媒体の付着を最小限にするために小さくされている。
【0030】
好ましくは、付着を最小限に抑えるために、プロペラの少なくとも表面のプロペラの材料は、金属、付着防止ポリマー及び/又は生体適合性ポリマーである。プロペラの表面への媒体の付着を最小限に抑えるために、被膜がプロペラの表面に施されてもよい。媒体の付着を最小限に抑えるために、表面に大きなせん断を生じさせる特別の作動方法、例えば、大きな回転角での急激な始動又は停止又は大きな回転角での振動をもたらす作動方法が用いられてもよい。例えば、プロペラを完全に回転させる前に、振幅を10°から300°に徐々に増大させることによって及び/又は周波数を0.1Hzから10Hzに徐々に増大させることによって、プロペラを振動させることができる。媒体の粘弾性、例えば、ずり減粘(shear-thinning)效果によって、この作動方法は、プロペラの完全な回転のために必要な開始トルクを低下させることになる。
【0031】
本発明の特に好ましい実施形態では、低い表面粗さは、プロペラの表面を少なくとも部分的に被覆することによって達成される。更に好ましくは、プロペラの表面の全体が被覆されるとよい。好ましい被覆材料の例として、テフロン(登録商標)、PEG(ポリエチレングリコール)、チタン、又はそれらの組合せが挙げられる。
【0032】
本発明の好ましい実施形態では、プロペラとプロペラの回転によって媒体の残りから切離されてプロペラと共に回転する媒体の部分とを備える回転体の少なくとも1つの断面、好ましくは、全ての断面であって、回転体の回転軸に関連付けられている断面のアスペクト比は、2以上、更に好ましくは、3以上、更に好ましくは、5以上、更に好ましくは、10以上、更に好ましくは、20以上、更に好ましくは、50以上、更に好ましくは、100以上である。本発明のこの実施形態は、共回転が推進を妨げるにも関わらず、1つ又は複数のプロペラと媒体の共回転部分とを備える回転体の高アスペクト比によって、強力な推進が達成されるという本発明者等の発見を有効利用したものである。回転体の断面は、好ましくは、連続的な形状を有している。
【0033】
好ましいプロペラは、キラルである。更に好ましくは、プロペラは、螺旋状又は変更された螺旋状である。本発明のこの実施形態は、キラル、特に、螺旋形状又は変更された螺旋形状が推進を達成するのに特に効果的であるという本発明者等の発見に基づいている。更に、螺旋形状及び変更された螺旋形状は、製造が容易であることが分かっている。好ましくは、螺旋軸は、直線である。もしプロペラが螺旋又は変更された螺旋であるなら、回転軸は、好ましくは、螺旋軸と一致する。好ましい螺旋状プロペラ又は変更された螺旋状プロペラは、一定のピッチを有している。
【0034】
好ましいプロペラは、少なくとも一端、更に好ましくは、両端に前向きのテーパを有している。本発明の文脈において、「前向きのテーパ(forward taper)」という用語は、プロペラの端に向かって、プロペラが徐々に小さくなるか又は徐々に薄くなることを意味している。好ましくは、プロペラの前端が前向きのテーパを備えている。本発明の文脈において、「前端(front end)」は、移動の方向に関してプロペラの先端側である。本発明のこの実施形態の達成可能な利点は、プロペラの前端において、テーパが媒体との接触面積を低減させることである。特に、もし媒体が粘弾性特性を有するなら、プロペラの前端において、プロペラが媒体に加える圧力が媒体の引張強度よりも大きくなる。
【0035】
一実施形態では、テーパがついたチップ(先端)は、プロペラが螺旋の場合、プロペラの回転軸及び/又は螺旋軸上に位置する。他の実施形態では、プロペラが螺旋の場合、チップは、偏心して、すなわち、回転軸から離れて及び/又は螺旋軸から離れて位置する。特に好ましくは、チップは、プロペラの回転軸又は螺旋軸に関して外周の近くに位置する。本実施形態は、多くの媒体がずり減粘特性を有し、大きなせん断率がプロペラの前方推進を促進させるという事実を有効利用したものである。プロペラの外周における速度が最大になるので、そこに配置されたチップは、最大のせん断率を達成することができる。
【0036】
プロペラの回転軸又は螺旋軸と直交するプロペラの任意の断面の最大半径は、好ましくは、5mm以下、更に好ましくは、3mm以下、更に好ましくは、1mm以下、更に好ましくは、500μm以下、更に好ましくは、300μm以下、更に好ましくは、100μm以下、更に好ましくは、50μm以下、更に好ましくは、30μm以下である。
【0037】
プロペラの回転軸又は螺旋軸と直交するプロペラの任意の断面の最小半径は、300μm以下、更に好ましくは、100μm以下、更に好ましくは、50μm以下、更に好ましくは、30μm以下、更に好ましくは、10μm以下、更に好ましくは、5μm以下、更に好ましくは、3μm以下である。
【0038】
プロペラの回転軸又は螺旋軸と直交するプロペラの任意の断面の最大半径によって除されたプロペラの長さは、好ましくは、0.5以上、更に好ましくは、1以上、更に好ましくは、3以上、更に好ましくは、5以上である。
【0039】
好ましくは、プロペラは、非連結式である。本発明の文脈において、「非連結式(untethered)」という用語は、プロペラを少なくとも部分的に、好ましくは、完全に包囲する媒体の外側の空間に対してどのような材料接続(例えば、ワイヤ、チューブ、又はロッドの形態にある材料接続)もなされていないことを意味する。代替的に、プロペラは、最小限であれば連結されていてもよい。この場合、プロペラ用の駆動トルクは、無線によって印加され、プロペラは、例えば、(一端が媒体の外側に位置する)チューブ及び/又はワイヤの他端を媒体内の特定位置に引っ張る受動要素に接続されている。材料移送、信号測定又は信号刺激をもたらすために、連結材が用いられてもよい。しかし、この連結材は、受動的であり、プロペラに能動的な駆動力又は駆動トルクをもたらすものではない。代替的に、プロペラは、連結式であってもよいが、この場合、例えば、プロペラの駆動トルクは、紐、ワイヤ、又はロッドによって入力され、その回転が連結材と共にプロペラの移動をもたらすようになっている。
【0040】
プロペラの回転は、好ましくは、遠隔的に誘発される。本発明の文脈において、「遠隔的に行われる(effected remotely)」という用語は、プロペラの回転が任意の方向においてプロペラからその最大直径の少なくとも5倍の距離を隔てて誘発されることを意味する。本発明の好ましい実施形態では、プロペラの回転は、磁場によって遠隔的に誘発される。従って、磁場源は、任意の方向においてプロペラからその最大直径の少なくとも5倍の距離を隔てて位置する。磁場源は、プロペラの回転を誘発するアクチュエータとして作用する。好ましくは。磁場源は、プロペラを少なくとも部分的に、好ましくは、完全に包囲する媒体の外側に位置する。
【0041】
磁場は、好ましくは、回転し、これによって、プロペラの回転を誘発する。プロペラの磁気モーメントが外部磁場と真っ直ぐに並ぶ傾向にあり、プロペラが最小抵抗を示す軸に沿って回転するので、プロペラの方位は、回転する外部磁場によって決定される。磁場は、例えば、一組の電気コイル、例えば、ヘルムホルツコイル、又は永久磁石によって印加することができる。
【0042】
好ましくは、もし磁場が移動方向において磁気勾配力をプロペラに印加したなら、この力は、単独でプロペラの移動を生じさせることができないほど弱いものとなる。更に詳細には、磁場は、移動の方向に勾配成分を有していない。好ましい磁場は、1G(ガウス)よりも強く、更に好ましくは、10Gよりも強く、更に好ましくは、50Gよりも強い。好ましい磁場は、10,000Gよりも弱く、更に好ましくは、1,000Gよりも弱く、更に好ましくは、500Gよりも弱く、例えば、100Gである。
【0043】
好ましくは、磁場によって回転を誘発するために、プロペラは、少なくとも部分的に磁化されているか、又はプロペラに材料的に接続された構成要素が、少なくとも部分的に磁化されている。磁化は、好ましくは、永久である。この目的のために、プロペラは、磁化された材料又は磁化可能な材料から構成されている。例えば、プロペラは、磁化された材料又は磁化可能な材料からなっていてもよいし、又は磁化された材料又は磁化可能な材料を含んでいてもよいし、又は磁化された材料又は磁化可能な材料によって被覆されていてもよい。適切な材料の例として、Fe,Co,Ni,又は磁気合金、好ましくは、前述の金属のいくつか又は全てを含む磁気合金が挙げられる。プロペラの好ましい磁化可能な材料は、その断面において最大長さの方向に磁化される。
【0044】
付加的又は代替的に、アクチュエータは、プロペラと同様、少なくとも部分的に、好ましくは、完全に媒体によって包囲され、プロペラに材料的に接続されている。例えば、アクチュエータは、電動モータであってもよいし又は分子モータであってもよく、材料接続部は、駆動シャフトを備えていてもよい。このアクチュエータのためのエネルギーリザーバ、例えば、電気的バッテリも、同様に、少なくとも部分的に、好ましくは、完全に媒体によって包囲され、好ましくは、この場合、アクチュエータにエネルギー源、例えば、エネルギーリザーバに貯蔵された電気又は化学薬品をもたらすために、材料接続部、例えば、ワイヤ又はチューブがリザーバとアクチュエータとの間に設けられてもよい。追加的又は代替的に、アクチュエータは、好ましくは、媒体の外側の空間に位置するエネルギー送信機から非連結式にエネルギーを受けるエネルギーリザーバを備えていてもよい。すなわちこの場合、エネルギー送信機とエネルギー受信機との間にどのような材料接続部も存在しないことになる。
【0045】
好ましくは、1つ又は複数のプロペラの回転を誘発する時にプロペラに印加されるトルクは、100mN・mm(ミリニュートン・ミリメートル)よりも小さく、好ましくは、50mN・mm,10mN・mm,5mN・mm,1mN・mmよりも小さい。
【0046】
好ましくは、プロペラは、その脱調周波数の0.9倍未満、更に好ましくは、0.8倍未満、更に好ましくは、0.7倍未満、更に好ましくは、0.5倍未満の速度で操作される。好ましくは、プロペラは、その脱調周波数の0.05倍超、更に好ましくは、0.1倍超、更に好ましくは、0.2倍超、更に好ましくは、0.3倍超の速度で操作される。本発明の文脈において、「脱調周波数(step-out frequency)]は、媒体の牽引力を上回るほど十分大きくないトルクをもたらす周波数である。脱調周波数は、例えば、プロペラを回転磁場によって駆動することによって測定される。もし磁場が十分に遅く回転するなら、プロペラは、磁場と同期して回転する。しかし、ある磁場回転周波数を超えると、印加された磁気トルクが、プロペラを磁場に同期させて保持するほど十分に強く作用しないことになる。この臨界磁場回転周波数が、脱調周波数である。
【0047】
本発明による好ましい実施形態では、プロペラは、媒体によって完全に包囲される。本発明のこの実施形態によれば、プロペラの全体が媒体と永久に接触した時、特に強力な推進が達成される。
【0048】
好ましい媒体は、粘弾性体である。本発明の文脈において、「粘弾性(viscoelastic)
」という用語は、変形を受けると粘性特性及び弾性特性の両方を示す媒体を意味する。特に好ましい媒体は、加えられたせん断周波数(又はせん断応力)において粘性特性が弾性特性よりも支配的な粘弾性流体、例えば、関節液、ガラス体液、粘液である。他の特に好ましい媒体は、印加されたせん断周波数(又はせん断応力)において弾性特性が粘性特性よりも支配的な粘弾性固体、例えば、結合組織、脳組織、マトリゲル(Matrigel(登録商標))である。
【0049】
好ましい媒体は、生物学的組織である。特に好ましい生物学的組織は、脳組織、腎臓組織、前立腺組織、膀胱組織、血管組織、肝臓組織、膵臓組織、胸部組織、肺組織、皮膚組織、脂肪組織、結合組織、ガラス体液、粘液、又は腫瘍組織である。
【0050】
好ましくは、プロペラの回転は、媒体に歪みを誘発し、この歪が媒体の弾性エネルギーを変化させ、これによって、前記プロペラの平行移動を引き起こすことになる。
【0051】
本発明の好ましい実施形態では、プロペラによって媒体に対して移動する負荷が、プロペラに取り付けられる。好ましい負荷の例として、分子、ナノ粒子、多孔性ポリマー基質、多孔性シリコン、及び又はプロペラに取り付けられる1つ又は複数の電気回路が挙げられる。有利には、1つ又は複数の電子回路がプロペラの運動を制御するようになっているとよい。代替的又は付加的に、媒体の外側から内側に引っ張られる1つ又は複数のチューブ及び/又はワイヤがプロペラに取り付けられてもよい。
【0052】
移動の軌道は、好ましくは、例えば、磁場の方向及び/又は回転周波数を変更することによって、又は媒体によって少なくとも部分的に包囲されたアクチュエータの方向、回転軸、回転方向及び/又は回転周波数を変更させることによって、遠隔制御される。また、本発明による多数のプロペラが1つの装置に組み合わされてもよく、このような場合、これらのプロペラの回転周波数を個別に変化させることによって、装置の推進方向を制御してもよい。好ましくは、移動の軌道を制御するために、制御装置、例えば、適切に装備され且つプログラム化されたPCがアクチエータに接続されてもよい(この場合、例えば、磁場源又はアクチュエータは、媒体によって少なくとも部分的に包囲されている)。
【0053】
移動の軌道は、好ましくは、例えば、以下の撮像方法、すなわち、光学顕微鏡検査、蛍光撮像、X線撮像、コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴撮像(MRI)、陽電子放出断層撮影(PET)、赤外線撮像、及び超音波撮像の1つ又は複数によって、撮像及び/又は測定されるとよい。
【0054】
プロペラは、例えば、一種又は複数種の金属、例えば、銅、金、コバルト、ニッケル、鉄、鋼、チタン、一種又は複数種のポリマー、例えば、テフロン(登録商標)、PLA、PMMA、PC、及び/又は一種又は複数種の半導体、例えば、シリコン、又はこのような材料の組み合わせから作製されるか又は該材料を含んでいるとよい。本発明の特に好ましい実施形態では、プロペラは、生体適合性材料から作製されているとよい。本発明のこの実施形態の達成可能な利点は、組織内に展開した後、回収が必要とされないことである。何故なら、プロペラは、分解し且つ体内に吸収されるからである。プロペラは、例えば、2つ以上の区域から構成されてもよく、具体的には、1つの剛性区域が推進のために設けられ、1つの生体適合性区域が薬剤移送及び薬剤放出のために設けられてもよい。
【0055】
プロペラを製造する適切な方法の例として、成形、特に、射出成形、電着、直接描画、3D印刷、及び機械加工が挙げられる。好ましい製造方法は、(1)真っ直ぐな螺旋軸を定めるステップと、(2)螺旋軸に沿って延在するプレートを準備するステップであって、プレートの少なくとも1つの断面、好ましくは、全ての断面であって、螺旋軸に関連付けられている断面のアスペクト比が2以上である、ステップと、(3)プレートに螺旋軸に沿ってトルクを加え、これによって、プレートを螺旋形状に捻るステップとを含んでいる。次のステップにおいて、螺旋体が、所望の長さを有する1つ又は複数の個別のプロペラに切断される。プロペラが容易に且つ確実に製造されることが、この方法の達成可能な利点である。
【0056】
他の特に好ましい製造方法は、(1)所望の幾何学的形状を有する第1の構造を準備するステップと、(2)第1の構造体を第2の材料内に鋳込み、第2の材料から第1の構造体を取外し、第1の構造体の雌型レプリカを生成するステップと、(3)成形材料を雌型に注入し、所定の物理学的及び化学的条件下で成形材料を硬化させ、第2の固体構造体を形成するステップと、(4)雌型から第2の固体構造体を離脱させ、これによって、所定のプロペラを得るステップとを含み、成形材料は、少なくとも2つの成分材料の混合物である。好ましい成分材料の例として、ポリマー材料、磁気材料、薬剤分子、放射性材料が挙げられる。従って、成形材料は、例えば、ポリマー材料及び磁気材料からなっているとよい。
【0057】
硬化条件は、好ましくは、温度、pH,磁場、電場、音場、光場、及び放射線の少なくとも1つを含んでいる。例えば、混合物は、強磁性粒子が混合されたエポキシ樹脂であり、ポリマーは、磁場内において螺旋軸と直交する方向に室温硬化される。
【0058】
前述のステップ(3)において、薬剤が組み入れられてもよく、又は前述のステップ(4)において、離脱後に薬剤がプロペラ材料に吸収されてもよい。この方法によって、プロペラの構造化、磁化、及び機能化が単一プロセスにおいて達成可能になる。
【0059】
以下、概略図に基づき、本発明を更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1図1(a)は、本発明によるプロペラの実施形態の斜視図である。図1(b)は、図1(a)のプロペラの断面図である。
図2】磁石が取り付けれ、軟組織内に配置された本発明によるプロペラの光学顕微鏡画像である。
図3】マトリゲル(Matrigel(登録商標))内を通る図2の2つの光学顕微鏡画像である(下側の画像は、上側の画像の18秒後に撮られた画像である)。
図4図4(a)に示される本発明によるプロペラの断面形状を図4(b)―4(d)に示される先行技術によるプロペラの断面形状と概略的に比較する図である。
図5】媒体がプロペラと共回転する状態を示す本発明によるプロペラの略断面図である。
図6図6(a)は、変形を視覚化するためにトレーサ粒子が配置された粘弾性媒体内におけるプロペラの映像の1つのフレームを示す図である。図6(b)は、プロペラが多数回回転した期間における1つのトレーサ粒子の軌道を示す図である(正規化された大きな変形が大きな軸方向の推進力を与えている)。
図7】粘弾性媒体内において回転する本発明によるプロペラの断面図である(プロペラの回転によって誘発された媒体の効果的に変形された領域がハッチングされている)。
図8】粘弾性媒体内において回転する先行技術によるプロペラ設計の断面図である(プロペラの回転によって誘発された媒体の効果的に変形された領域がハッチングされている)。
図9】粘弾性媒体内において回転する他の先行技術によるプロペラ設計の断面図である(プロペラの回転によって誘発された媒体の効果的に変形された領域がハッチングされている)。
図10】本発明によるプロペラの縁における短い部分の力図である。
図11】豚の脳組織内を通る図2のプロペラの2つの光学顕微鏡画像である(下側の画像は、上側の画像の300秒後に撮られた画像である)。
図12】本発明によるプロペラを製造する方法を示す図である。
図13】本発明によるプロペラを製造する他の方法を示す図である。
図14】両端に前向きテーパが付された本発明による2つのプロペラの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
[組織モデル内を移動するプロペラ]
本発明によるプロペラ1の達成可能な利点は、プロペラ1が粘弾性媒体、例えば、生物学的組織内を効率的に自己推進することである。図2には、プロペラを検証するための組織モデルとして用いられるヒドロゲルであるマトリゲル(Matrigel(登録商標))のゲル媒体内に完全に入り込んだ本発明によるプロペラ1が示されている。Gibco(登録商標)又はLife Technologies(登録商標)から市販されているマトリゲル(Matrigel)は、マウス肉腫細胞から分泌されたゼラチン蛋白混合物に対する商標名である。マトリゲルは、多くの組織に見い出される複合細胞外基質(EMC)に類似しており、細胞3D培養、腫瘍細胞転移研究、及び癌薬剤スクリーニングのための生体外モデルとして広く受け入れられている。ここでは、マトリゲルは、プロペラ1が通る結合組織のモデルとしてのゲル媒体2の役割を果たすことになる。マトリゲル溶液は、氷冷状態で納入され、37℃のインキュベータ内に一時間保持されることによって、ゲル化された。
【0062】
プロペラ1は、ピンセットによってゲル媒体2内に挿入された。(50~1000ガウスの範囲内において調整可能な)一様な磁場及び連続的な回転方向(1~100Hzの範囲内の周波数)が印加され、磁場が10Hzの速度で回転された。プロペラ1の一端に円筒磁石3がトルクに耐えられるように取り付けられた。円筒磁石3は、ネオジウム、鉄、及びボロン(NdFeB)材料から作製されており、200μmの直径及び400μmの長さを有し、直径方向に磁化されている。この磁石は、永久磁石モーメントを有し、外部の回転磁場と共に回転するようになっている。プロペラは、その特別の形状設計によって、回転を平行移動(前方又は後方推進)に変換し、ゲル媒体2又は生物学的組織内における正味の変位をもたらすことになる。
【0063】
図1(a)に最もよく示されるように、プロペラ1は、キラル形状、更に正確には、螺旋形状を有している。このプロペラ1は、左巻きであるが、勿論、右巻きでも同様に適している。図1のプロペラでは、回転軸4及び螺旋軸が一致している。移動方向vは、右向き矢印vによって示されている。回転方向は、半円矢印ωによって示されている。図1(b)の断面図に示されるように、螺旋軸と直交するプロペラ1の任意の断面5のアスペクト比は、5よりも著しく大きい。アスペクト比は、断面5の最大半径6を断面5の最小半径7によって除することによって得られる。半径6,7は、回転軸4が断面6を直角に貫く点8から断面の周縁9の点までの距離である。
【0064】
図3の画像から、プロペラ1がいかにマトリゲルのゲル媒体2内を伝搬するかが分かるだろう。下側の画像は、上側の画像から18秒後の画像である。点線は、磁石3の初期位置を示している。10Hzの回転周波数によって、プロペラの螺旋軸に沿った略45μm/sの速度が観察された。回転方向を時計方向又は反時計方向に選択することによって、プロペラ1は、前方又は後方のいずれかに移動することができる。
【0065】
図4(a)~図4(d)において、本発明によるプロペラ1の断面形状が、前述の非特許文献(非特許文献2(L Zhang, J J Abbott, L X Dong, B E Kratochvil, D Bell, and B J Nelson):図4(b)、非特許文献1(A Ghosh and P Fischer):図4(c)、非特許文献4(T Qiu, J Gibbs, D Schamel, A Mark, U Choudhury, and P Fischer):図4(d))から知られるプロペラの断面形状と概略的に比較されている。上段には、3次元図が示され、下段には、断面形状が示されている。本発明のプロペラの断面5は、先行技術によるプロペラ1’の半径6’,7’に基づく断面5’よりも著しく大きいアスペクト比を有することが分かるだろう。
【0066】
更に、プロペラ1が粘弾性媒体2内において回転し、該粘弾性媒体2を通って移動する時、媒体2の部分10がプロペラ1の表面に付着し、プロペラ1と一緒に回転する。これは、図5に概略的に示されている。図5の例では、プロペラ1とプロペラ1と共に回転する媒体2の部分10とを備える回転体の断面のアスペクト比も、3よりも大きい。この場合のアスペクト比は、回転体の断面の最大半径11を回転体の断面の最小半径12によって除することによって得られる。半径11,12は、回転軸4が断面を直角に貫く点8から回転体の断面の周縁9の点までの距離である。
【0067】
[プロペラの推進機構]
本発明者は、他の権利に影響を及ぼすことなく、本発明によるプロペラ1は、粘弾性媒体内において用いられる時、先行技術に記載されるような粘性流体における推進の機構と異なる新規の推進機構を有効利用したものであると考えている。図6(a)及び図6(b)は、粒子画像流速測定法(PIV)による実験の結果を示している。この実験では、ゲル媒体2の運動、特に、変形を示すために、15μm直径の蛍光ポリスチレンビーズ(FluoSpheres(登録商標),Life Technologies)がトレーサ粒子として用いられ、マトリゲルのゲル媒体2内に混合されている。532nmの波長を有するグリーンレーザーのビームが円筒レンズによってレーザーシートに拡大され、次いで、マトリゲルのゲル媒体2の薄シート上に導かれるようになっている。プロペラ1及びトレーサ粒子の運動がロングパスフィルタ(OD4-550nm、Edmund Optics)を備える顕微鏡及びビデオカメラによって記録された。トレーサ粒子の位置がMatlab(R2014b, Mathworks)の特別仕様のスクリプトによって解析され、ビデオの各フレームに円として記入された。これらの円は、図6(a)に示され、図6(b)において拡大されている。1つのトレーサ粒子13の軌道が図6(b)に示されている。粒子3は、プロペラ1の多数回の回転の期間にわたって閉鎖した本質的に楕円状の軌道14を辿っている。回転軸からの距離rに対する半径方向の変位dの割合から、正規化された変形を計算することができる。
【0068】
この実験は、粘弾性媒体2の運動(変形)が粘性流体におけるプロペラの周りの流れと明らかに異なっていることを示唆している。流体では、粒子は、プロペラが完全に回転する時にプロペラと共に回転し、低レイノルズ数における2つの互いに直交する方向における流体力学的牽引力の差によって前方推進力が生じる。これは、前述の文献によって説明されている。しかし、ここに開示されるプロペラ1の場合、粒子の異なる運動軌道が見い出されている。これは、プロペラ1の新規の設計が、これまでに報告されていない粘弾性媒体における新規の推進機構を可能にすることを示唆している。
【0069】
殆どの生物学的組織を含む粘弾性固体の緩和時間は、多くの場合、分単位であるが、プロペラは、通常、1~10Hzの周波数で回転する。従って、プロペラ1の回転のサイクルタイム(0.1~1s)は、この緩和時間よりも著しく短いので、ゲルの弾性応答のみが考慮されればよい。一例を挙げると、図7に示されるように、プロペラ1の断面5は、媒体2の初期の矩形孔15内において回転する矩形状固体としてモデル化される。図7(b)において、プロペラ1が回転する時に媒体2が流れずに変形することに留意されたい。媒体2の大きな変形(歪)がプロペラ1の回転によって引き起こされる。プロペラ1の周りの媒体2の効果的な変形分は、先行技術のプロペラ設計(対応する要素が先行技術において報告されたスクリューの形態にあるプロペラ1’である図8及び対応する要素が従来のスクリューの形態にあるプロペラ1’である図9に例示的に示されるプロペラ設計)におけるよりも劇的に大きい(媒体2’では、間隙15’及びハッチングされた有効変形領域が図示されている)。媒体2は、弾性体、すなわち、反動力が変形に能動的に関連するバネと考えられる。従って、媒体2の大きな変形は、より大きい回転トルクを必要とし、大きな前方推進力を加えることになる。これらの2つの現象が、実験において観察された。
【0070】
更なる説明のために、プロペラ1(左巻きであり、右方に移動するために前縁が上方に回転するプロペラ)の小区域の力図が、図10に示されている。回転の方向は、上向き矢印vによって示されている。この力図から、右方を向く推進力成分F pが存在することが明らかである。図7に示される状況と同様、変形が大きいほど、前方推進力が大きくなる。従って、本発明によるプロペラ1の提案される推進機構は、以下の3つの態様に要約される。第1に、プロペラ1の回転が、ゲル媒体2の大きな変形を引き起こす。更に具体的には、プロペラ1の断面5の大きなアスペクトがゲル媒体2の大きな変形を誘発し、これによって大きな前方推進力F pをもたらすことになる。第2に、プロペラ1のチップ16の圧力は、ゲル媒体2を破断させるために、ゲル媒体2の引張強度よりも高くあるべきである。プロペラ1のチップ16の面積は、可能な限り小さいとよく、例えば、鋭利なチップ16が好ましい。更に、プロペラのチップ16の前方運動による媒体2の新たな切断領域(亀裂)15も、図7(a)の白色領域によって示されるように、高アスペクト比、例えば、矩形状を有し、これによっても、プロペラ1が回転する時、大きな変形をもたらすことになる。これは、従来のプロペラ1’の設計と異なっている。従来のプロペラ1’の設計では、図9(a)に示されるように、亀裂15’は、殆ど円状であり、従来のプロペラ1’によって誘発される媒体2’の変形が小さい。第3に、図5に示されるように、プロペラ1の周りへの媒体2の有効な付着の後、上記の2つの条件が満たされることになる。この基準によって、組織内におけるプロペラ1の連続的な運動が確実になる。
【0071】
中央に中空開口を有する従来のプロペラ1’の設計、例えば、図4(b)及び図4(c)に示される先行技術の設計は、粘弾性媒体内において効率的に推進しない。その理由は、以下の通りである。すなわち、プロペラの回転中に、開口が粘弾性媒体によって充填され、媒体がプロペラと一緒に回転することを考えると、図8(b)に示されるように、構造の全体が任意の断面における高アスペクト比を有しないことになる。換言すれば、ゲルの詰め部が従来のプロペラ形状をほぼ円筒形状に変化させ、その周りの極めて制限された媒体の変形を誘発し、これによって、従来のプロペラは、粘弾性媒体において同一位置においてのみ回転し、正味の変形を達成することができない。好ましい実施形態の本発明は、少なくとも1つの断面、好ましくは、全ての断面であって、プロペラの螺旋軸と直交する断面において、軸がプロペラを貫通する点において、先行技術の設計と明らかに異なっている。換言すれば、少なくとも1つの断面、好ましくは、全ての断面において、回転中心は、プロペラの内側にある。
【0072】
一部の特定種の粘弾性媒体、例えば、降伏応力流体において、プロペラは、プロペラの回転によって誘発されるせん断応力によって、媒体の一部を破断(又は液化)することができる。また、媒体の破断(液化)された部分の後方移送によっても、プロペラの前方推進をもたらすことができる。
【0073】
好ましくは、プロペラ1を作動させるために、最高推進速度をもたらす回転速度が用いられるべきである。プロペラ1の幾何学的形状及び媒体のレオロジーの両方に依存するこの値は、周波数を掃引させ、推進速度を測定することによって、実験的に決定することができる。ここに開示されるプロペラ1の粘弾性媒体2における最適周波数は、脱調周波数よりも著しく低くすることができることが見い出されている。周波数が最適値を超えて増大すると、プロペラ1は、継続的に回転するが、推進速度は、ゼロに達するまで劇的に減少する。逆に、低レイノルズ数の粘性流体では、プロペラ1の最適周波数は、脱調周波数に極めて近く、推進速度は、脱調するまで駆動周波数に比例して増大する。この観察も、本発明のプロペラ1が粘弾性媒体における新規の推進機構を可能にすることを示唆している。
【0074】
[脳サンプル内を移動するプロペラ]
図11の光学顕微鏡写真は、実際の生物学的軟組織内を移動する能力を実証するために豚の脳組織内を通る本発明によるプロペラを示している。氷冷状態で貯蔵された新鮮な豚の脳を地方の畜殺場から受け取った。脳の約25×25×8mm3の部分を切除し、プロペラ1がピンセットによって挿入された。この脳組織が比較的薄いので、白色光のバックライトを用いることによって、脳組織内におけるプロペラの移動が観察された。破線は、プロペラ1の初期位置を示している。約1Hzの回転周波数によって、略35μmの平均推進速度が測定された。プロペラ1の形状に起因し、プロペラ1の回転を制限された磁気トルクによって作動させることができた。実験では、プロペラ1を脳組織サンプル内を通って駆動させるのに、100-300Gの磁場で十分であった、この磁場は、通常の磁場生成器、例えば、電気コイル又は以下に更に詳細に検討する永久磁石機構によって印加可能である。
【0075】
[プロペラの製造]
本発明によるプロペラ1を製造する方法が、図12に示されている。機械加工アプローチによって、プロペラ1を銅から作製した。50μmの直径を有する銅ワイヤを機械的に圧延し、255μmの幅及び13μmの厚みを有する平プレート18を得た。図12に示されるように、プレート17を互いに回転させることが可能な2つの同心クランプ18,19間に取り付けた。クランプの一方19を静止させ、クランプの他方18を回転させることによって、プレート17を捩ってキラル構造体を得た。捻っている間、法線力が軸方向vに生じるので、2つのクランプ18,19間の距離をこれに応じて調整した。このプロセス中、力及びトルクを測定するために、センサが用いられてもよい。クランプの距離及び角位置は、コンピュータ付きのモータによって制御されてもよい。このようにして、プロペラのピッチ寸法及びキラルティを制御することができる。続いて、捻られた長尺のプレート17を2mmの所望長さを有する個別のプロペラ1に切断した。最後に、200μmの直径及び長さ400μmの長さを有する小型磁石をプロペラ1の一方の先端に取り付けた。
【0076】
切断手順は、機械加工、レーザー切断、(集束)イオンエッチング、又は化学エッチングによって行うことができる。エッチング用のマスクは、捻りプロセスの前にプレートの両側にフォトリソグラフィーによって設けることができる。このようにして、プロペラの大量生産プロセスが達成される。
【0077】
本発明によるプロペラ1を製造する他の方法が、図13に示されている。プロペラ1の構造体が、最初、前述の方法又は3D印刷によって、例えば、銅材料から得られる(図13(a)。次いで、この構造体は、第2の材料、例えば、PDMSのような軟質ポリマー内に鋳込まれる(図13(b))。第1の構造体は、例えば、プロペラ1を右方向に回転させ、プロペラ1を雌型20から外に送り出すか、又は軟質ポリマーの雌型20を拡張させることによって、雌型20から取り出される。液状のポリマー材料又は混合物、例えば、エポキシ樹脂と(平均直径40μmの)強磁性粒子との混合物が雌型20内に注入され(図13(d))、ポリマーが図13(d)の矢印によって示されるような外部磁場の存在下で室温硬化させる。最後に、雌型20を破壊するか又はプロペラ1を右方向に回転させ、雌型20から外に送り出すことによって、プロペラ1が得られる(図13(e))。プロペラ1は、(図13(f)に示されるように、右方向の磁気モーメントMを有している。何故なら、外部磁場Bが印加された時、構造体内の磁気粒子が右方向に整列するからである。上記の成形ステップにおいて、薬剤ポリマー混合物内に組み入れられてもよいし、又は上記の最後のステップにおいて離脱後にプロペラ材料に吸収されてもよい。
【0078】
図14は、プロペラ1の2つのチップ16がいかに切断、エッチング、又は成形によって設計された形状、好ましくは鋭利なチップに形作られるかを示している。このようにして、チップ16の接触面積を減少させることによって、チップ16の圧力を増大させることができ、又はプロペラの前方の媒体2のせん断率を増大させることができる。多くの生物学的媒体がずり減粘の傾向があるので、大きなせん断率は、プロペラの前方推進を助長する。この場合、プロペラの鋭利なチップは、好ましくは、プロペラチップ16の縁であり、回転軸から遠く離れた位置にある。
【0079】
「プロペラの作動」
回転磁場によってプロペラ内に回転を誘発させる適切な機構は、例えば、前述の非特許文献4(T Qiu, J Gibbs, D Schamel, A Mark, U Choudhury, and P Fischer)から知られている。この文献の関連する部分は、参照することによって、ここに含まれるものとする。
【0080】
磁場は、空間的に均質であってもよいが、空間内において磁気勾配を有していてもよい。しかし、好ましくは、磁気勾配によって生じるプロペラに作用する引張力がプロペラ1の自己推進力の方向と同一の方向に生じるとよい。磁場は、電気コイルによって生じさせることができる。例えば、3対のヘルムホルツコイルは、異なるコイルの電流の位相及び振幅を変更することによって、3次元空間におけるプロペラの運動制御を行うことができる。また、磁場は、1つ又は複数の永久磁石、例えば、空間内に特別に配置されたいくつかの永久磁石又はプロペラから必要な距離を隔てた1つのみの磁石によって生成させることができる。推進軌道を永久磁石機構によって制御するために、該機構の回転軸が変更されることになる。
【0081】
種々の実施形態において本発明を実現するために、この実施形態の説明、請求項、及び図面に開示される特徴は、個別に関連付けられてもよいし、又はどのように組み合わせて関連付けられてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【手続補正書】
【提出日】2022-01-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロペラ(1)を少なくとも部分的に包囲する媒体(2)に対して前記プロペラ(1)をアクチュエータにより移動させる方法であって、アクチュエータが前記媒体(2)に対する前記プロペラ(1)の回転軸(4)を中心とする前記プロペラ(1)の回転を誘発し、前記プロペラ(1)がその回転運動を前記媒体(2)に対する前記プロペラ(1)の移動に変換する方法において、前記プロペラ(1)の少なくとも1つの断面(5)であって、前記プロペラ(1)の回転軸と直交する該断面(5)のアスペクト比であって、前記回転軸が前記断面を貫通する点から前記断面の周縁のある点まで伸びる半径により決定されるアスペクト比が3以上であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記媒体(2)が粘弾性固体であり、少なくとも1つの断面において、回転中心が前記プロペラの内側にあることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
プロペラ(1)を少なくとも部分的に包囲する媒体(2)に対してアクチュエータにより前記プロペラ(1)を移動させる方法であって、アクチュエータが前記媒体(2)に対する前記プロペラ(1)の回転軸(4)を中心とする前記プロペラ(1)の回転を誘発し、前記プロペラ(1)がその回転運動を前記媒体(2)に対する前記プロペラ(1)の移動に変換する方法において、前記プロペラ(1)と前記プロペラ(1)の回転によって前記媒体(2)の残りから切り離されて前記プロペラ(1)と共に回転する前記媒体(2)の部分(10)とを含む回転体の少なくとも1つの断面(5)であって、前記回転体の回転軸と直交する該断面(5)のアスペクト比であって、前記回転軸が前記断面を貫通する点から前記断面の周縁のある点まで伸びる半径により決定されるアスペクト比が3以上であることを特徴とする方法。
【請求項4】
前記プロペラの前端は、前向きのテーパを備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記プロペラ(1)は、非連結式であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記プロペラ(1)の回転は、磁場によって遠隔的に誘発されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記媒体(2)は、粘弾性流体又は粘弾性固体少なくとも1つであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記プロペラ(1)の回転は、前記媒体(2)に歪みを誘発し、これによって、前記歪が前記媒体の弾性エネルギーを変化させ、前記プロペラ(1)の平行移動を生じさせることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
螺旋状又は変更された螺旋状プロペラ(1)であって、前記プロペラ(1)を少なくとも部分的に包囲する媒体に対して前記プロペラ(1)の回転運動を前記プロペラ(1)の移動に変換させる螺旋状又は変更された螺旋状プロペラ(1)において、前記プロペラ(1)の少なくとも1つの断面(5)であって、前記プロペラ(1)の螺旋軸と直交する該断面(5)のアスペクト比であって、前記回転軸が前記断面を貫通する点から前記断面の周縁のある点まで伸びる半径により決定されるアスペクト比が3以上であることを特徴とする螺旋状又は変更された螺旋状プロペラ。
【請求項10】
前記プロペラ(1)を貫通する前記プロペラの螺旋軸と直交する前記プロペラ(1)の少なくとも1つの断面上にあって、前記プロペラの回転軸(4)に直交する前記プロペラの任意の断面(5)の最大半径(6)が1mm以下であることを特徴とする請求項9に記載のプロペラ。
【請求項11】
前記プロペラ(1)の回転軸(4)と直交する前記プロペラ(1)の任意の断面(5)の最小半径(7)が300μm以下であることを特徴とする請求項9又は10に記載のプロペラ。
【請求項12】
前記プロペラ(1)の螺旋軸に直交する断面(5)であって,前記プロペラ(1)の少なくとも1つの断面(5)のアスペクト比であって、前記螺旋軸が前記断面を貫通する点から前記断面の周縁のある点まで伸びる半径により決定されるアスペクト比が5以上であることを特徴とする請求項9に記載のプロペラ。
【請求項13】
真っ直ぐな螺旋軸を定めるステップと、
前記螺旋軸に沿って延在するプレート(17)を準備するステップであって、前記プレート(17)の少なくとも1つの断面(5)であって、前記螺旋軸に関連付けられた該断面(5)のアスペクト比が3以上である、ステップと、
前記プレート(17)に前記螺旋軸に沿ってトルクを加え、これによって、前記プレート(17)を螺旋形状に捻るステップと
を含む、プロペラを製造する方法。
【請求項14】
前記捻られたプレート(17)を所望の長さのプロペラに切断するステップ、又は、前記プロペラ(1)のチップ(16)を鋭利なチップ(16)に切断またはエッチングするステップ、あるいはそれらの両方を更に含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
所望の幾何学的形状を有する第1の構造体を準備するステップと、
前記第1の構造体を第2の材料内に射込み、前記第2の材料から前記第1の構造体を取外し、前記第1の構造体の雌型レプリカを生成するステップと、
成形材料を前記雌型内に注入し、所定の物理学的及び化学的条件下で前記成形材料を硬化させ、第2の固体構造体を形成するステップと、
前記雌型から前記第2の固体構造体を離脱させ、これによって所定のプロペラを得るステップと
を含む、プロペラを製造する方法。
【請求項16】
前記プロペラ(1)のチップ(16)を鋭利なチップ(16)に切断またはエッチングするステップを更に含む請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記成形材料は、少なくとも2種類の成分材料の混合物であることを特徴とする請求項15又は16に記載の方法。
【外国語明細書】