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特開2022-46625緑内障の予防及び/又は治療のための薬物の製造における金クラスター又は金クラスター含有物質の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022046625
(43)【公開日】2022-03-23
(54)【発明の名称】緑内障の予防及び/又は治療のための薬物の製造における金クラスター又は金クラスター含有物質の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/242 20190101AFI20220315BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20220315BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20220315BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20220315BHJP
   A61K 31/28 20060101ALI20220315BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
A61K33/242
A61K47/20
A61K47/18
A61K47/69
A61K31/28
A61P27/06
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021209112
(22)【出願日】2021-12-23
(62)【分割の表示】P 2019527839の分割
【原出願日】2017-11-27
(31)【優先権主張番号】201611062360.X
(32)【優先日】2016-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.JAVA
(71)【出願人】
【識別番号】519000526
【氏名又は名称】深▲セン▼深見医薬科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN PROFOUND VIEW PHARMACEUTICAL TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 3311, Building 9A,District II,Shenzhen Bay Eco-Technology Park, No. 3609, Baishi Road, High-tech Zone Community, Yuehai Street, NanshanDistrict Shenzhen, Guangdong 518000 (CN)
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】孫涛▲レイ▼
(57)【要約】      (修正有)
【課題】金クラスター(AuC)の新たな医学的用途を提供する。
【解決手段】緑内障の予防及び/又は治療のためのAuC又はAuC含有物質の使用を提供する。前記AuC含有物質は、AuCとAuCの外側を覆うリガンドYとを含む。前記AuC含有物質は、溶液、粉末、又は綿状物である。前記AuCの金コア直径は、3nm未満である。前記リガンドYは、L(D)-システイン及びその誘導体、システイン含有オリゴペプチド及びそれらの誘導体、並びにその他のチオール含有化合物の1つ以上を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑内障を予防及び/又は治療する薬物の製造におけるAuC含有物質の使用であって、前記AuCの金コア直径は3nm未満であり、
前記AuC含有物質は、AuCとAuCの外側を覆うリガンドYとを含み、
前記リガンドYは、L-システイン-L-ヒスチジンジペプチド(CH)、L-ヒスチジン-L-システインジペプチド(HC)、L-リジン-L-システイン-L-プロリントリペプチド(KCP)、L-プロリン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(PCR)、グリシン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(GCR)、グリシン-L-セリン-L-システイン-L-アルギニンテトラペプチド(GSCR)、グリシン-L-システイン-L-セリン-L-アルギニンテトラペプチド(GCSR)、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-3-トロロボール、N-(2-メルカプトプロピオニル)-グリシン、又はドデシルメルカプタンである、
AuC含有物質の使用。
【請求項2】
前記AuC含有物質は、溶液、粉末、又は綿状物である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記AuCの金コア直径は、0.5nm~2.6nmである、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記AuCの金コア直径は、1.1nm~2.6nmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記AuC含有物質を製造する方法は、以下の工程:
(1)HAuCl4をメタノール、水、エタノール、n-プロパノール、及び酢酸エチルの1つに溶解させることで、HAuCl4の濃度が0.01M~0.03Mである溶液Aを得る工程と、
(2)リガンドYを溶剤中に溶解させることで、リガンドYの濃度が0.01M~0.18Mである溶液Bを得る工程と、
(3)工程(1)における溶液Aと工程(2)における溶液Bとを、HAuCl4とリガンドYとの間のモル比が1:0.01~1:100であるように混合し、該混合物を氷浴中で0.1時間~12時間にわたり撹拌し、0.025M~0.8MのNaBH4の溶液を添加し、次いで、その反応系を氷浴中で0.1時間~12時間にわたり撹拌するにあたり、NaBH4とリガンドYとの間のモル比は1:0.01~1:100であり、こうしてAuC含有の溶液様物質が得られる工程と、
を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
工程(2)における前記溶剤は、メタノール、酢酸エチル、水、エタノール、n-プロパノール、ペンタン、ギ酸、酢酸、ジエチルエーテル、アセトン、アニソール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ペンタノール、エタノール、酢酸ブチル、トリブチルメチルエーテル、酢酸イソプロピル、ジメチルスルホキシド、ギ酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸メチル、2-メチル-1-プロパノール、及び酢酸プロピルの1つ以上である、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
工程(3)で得られる前記AuC含有の溶液様物質を、透析及び凍結乾燥した後に、AuCを含有する粉末状物質又は綿状物質が得られる、請求項5又は6に記載の使用。
【請求項8】
前記透析は、前記AuC含有の溶液様物質を透析バッグに入れて、水中にて室温で1日間~7日間にわたり透析することを示す、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
緑内障を予防及び/又は治療する薬物の製造におけるAuCの使用であって、前記AuCの金コア直径は、3nm未満であり、
前記AuCは、緑内障に活性又は不活性な成分であり得る種々のリガンドで修飾され得るものであり、
前記リガンドは、L-システイン-L-ヒスチジンジペプチド(CH)、L-ヒスチジン-L-システインジペプチド(HC)、L-リジン-L-システイン-L-プロリントリペプチド(KCP)、L-プロリン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(PCR)、グリシン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(GCR)、グリシン-L-セリン-L-システイン-L-アルギニンテトラペプチド(GSCR)、グリシン-L-システイン-L-セリン-L-アルギニンテトラペプチド(GCSR)、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-3-トロロボール、N-(2-メルカプトプロピオニル)-グリシン、又はドデシルメルカプタンである、
使用。
【請求項10】
緑内障を予防及び/又は治療する薬物の製造における、L-システイン-L-ヒスチジンジペプチド(CH)、L-ヒスチジン-L-システインジペプチド(HC)、L-リジン-L-システイン-L-プロリントリペプチド(KCP)、L-プロリン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(PCR)、グリシン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(GCR)、グリシン-L-セリン-L-システイン-L-アルギニンテトラペプチド(GSCR)、グリシン-L-システイン-L-セリン-L-アルギニンテトラペプチド(GCSR)、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-3-トロロボール、N-(2-メルカプトプロピオニル)-グリシン、又はドデシルメルカプタンのリガンドで修飾されたAuCの使用であって、前記AuCの金コア直径は3nm未満である、AuCの使用。
【請求項11】
前記AuCの金コア直径は、0.5nm~2.6nmである、請求項10に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノメートルの薬物の技術分野に関し、特に緑内障の予防及び/又は治療のための薬物の製造におけるAuC(金クラスター)又はAuC含有物質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
緑内障は、視神経損傷、視野欠損、及び視機能の漸進的喪失を特徴とする不可逆的な視神経変性疾患である。緑内障は、白内障に次ぐ世界で2番目の不可逆的な失明性眼疾患である。臨床分析データによると、2020年までに世界の緑内障患者数は、特にアジア及びアフリカでは7600万人に達すると予想され、その一方で、中国での緑内障患者数は、その時までに2100万人に達すると予想されている。緑内障の病因はいまだ未知のままである。長い間、病的な眼内圧の上昇は、神経損傷及び緑内障を引き起こす主な要因の1つとみなされている。緑内障の臨床治療は、主として患者の眼内圧の低下に基づいている。しかしながら、膨大な臨床データによれば、眼内圧を制御するだけでは緑内障を治癒する目標を達成することができないことが分かっている。なぜならば、眼内圧の制御が理想的であるとしても、進行性視神経損傷、及び網膜神経節細胞(RGC)のアポトーシスが更に悪化する場合があるからである。したがって、高い眼内圧は、緑内障に関連する視神経損傷の1つの早期の素因であり得るにすぎず、眼内圧を低下させるだけで視神経機能の更なる喪失を防ぐことは困難である。上記の理由から、緑内障の治癒への手掛かりは、視神経機能を増強し、視神経細胞のアポトーシス及び視神経損傷を遮断又は遅延させることである。しかしながら、緑内障に関連する視神経損傷を効果的に防ぐ臨床薬は、今のところ見出されていない。研究により、酸化ストレス、機械的ストレス、自己免疫系異常、血糖値、炎症性分子、及び異常なタンパク質の沈着等の様々な要因が視神経障害を引き起こし得ることが分かっている。これらの要因のなかでも、アミロイド-β(Aβ)のミスフォールディング、異常凝集、及び線維化にはより一層の注意が払われており、細胞内外のタウタンパク質は、視神経変性疾患及びRGCの死の過程において極めて重要な役割を担っている。
【0003】
Aβは、β-セクレターゼ及びγ-セクレターゼによるアミロイド前駆体タンパク質(APP)の加水分解から生成される39個~43個のアミノ酸残基を有するタンパク質である。Aβは、神経損傷及び神経細胞のアポトーシスに関係する重要な因子である。研究により、Aβの神経毒性は、アルツハイマー病(AD)等の様々な神経変性疾患の形成及び病因に関する共通の機序であることが分かっており、Aβは長い間、関連薬物の研究及び開発のための重要な標的として使用されている。近年の研究により、Aβの神経毒性は、眼の神経変性疾患である緑内障においても極めて重要な役割を担うことが分かっている。臨床的緑内障患者のRGC及び房水中でのAβの発現は、コントロール群よりも大幅に高い。緑内障動物モデルにおいて、長期の高眼内圧によって誘発されるRGCのアポトーシスは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の増加、Aβの発現、及びタウタンパク質の過度の過剰リン酸化に密接に関連している。一方で、臨床データによれば、AD患者は、より緑内障及び失明に罹りやすいことが分かっている。そしてADトランスジェニック動物の網膜では、大量のAPPが合成され、Aβ斑の凝集が現れる。したがって、緑内障及びADは、類似したAβ機序を有し得る。より重要なことには、緑内障動物モデルにおいて、アポトーシス段階にあるRGCはAβと同時発現され、そしてAβの過剰産生を遮断し得るAβ抗体又は薬物は、RGCのアポトーシスを効果的に阻害し、視神経損傷を減らすことができる。これらの研究結果により、Aβは緑内障の病因において重要な役割を担い、そして視神経保護機序に基づく緑内障の治療のための重要な標的であることが明らかになった。
【0004】
視神経挫滅損傷ラットモデルは、広く使用される高い眼内圧を伴わない緑内障の動物モデルである。該動物モデルは、視神経上膜の完全性を維持し、臨床的な緑内障の損傷特性に近い緑内障の視神経軸索輸送障害及びRGC死を模擬している。同時に、上記モデルは、標準的な様式で作製され、操作しやすいことから、誤差が小さく再現性が良好な明確で定量的な視神経損傷が引き起こされ得る。上記モデルは、緑内障の視神経損傷、及びRGC損傷の病理学的機序の研究、並びに視神経保護のための薬物のスクリーニングに広く使用される、国内外で十分に認識されている緑内障の視神経損傷の正確なモデルである。例えばこのモデルから、ジンセノサイドRg1、デキサメタゾン、イチョウ、及びα-リポ酸は、幾らかの視神経保護効果を有するが、それらの保護効果は満足のいくものではないことが明らかになった。Aβ機序は、視神経損傷過程において重要な役割を担うので、Aβの凝集及び線維化を阻害し得ると同時に、視神経を保護しかつ視機能を改善する薬物を動物モデルにおいて開発することは、緑内障の予防及び治療に大きな意義を有することとなる。
【0005】
金ナノ粒子はナノスケールの金粒子である(金コアの直径は、一般的に3nm~100nmである)。それらの独特の光学的特性及び電気的特性、良好な生体適合性、並びに簡便な表面修飾のため、金ナノ粒子は、生物学及び関連の医療分野、例えばバイオセンサ、医用イメージング、及び腫瘍検出において広く使用される。それらの化学的不活性及び大きな比表面積及び低濃度での血液-脳関門の透過能力により、金ナノ粒子は、薬物の指向性輸送及び制御可能放出等の研究における薬物担体としても使用される。近年では、金ナノ粒子と線維性タンパク質の凝集を阻害する特定のリガンド(例えば、ヘテロポリ酸及び特定の配列のポリペプチド)との結合について研究がなされ、in vitroでのタンパク質線維化の阻害実験において一定の効果を上げているが、細胞モデルの結果によれば、金ナノ粒子の使用は、フィブリン損傷された細胞の生存率に明らかな効果を有しないことが指摘されている(文献1:非特許文献1)。動物モデルのレベルでの実験は、まだ報告されていない。さらに、これらの研究では、金ナノ粒子は、主として有効成分としてではなく薬物担体として使用された。
【0006】
金クラスター(AuC)は、金コアの直径が3nm未満である超微細な金ナノ粒子である。それは僅か数個から数百個の金原子を含み、従来の金ナノ粒子中の金原子の面心立方充填構造の崩壊及びエネルギー準位の分裂が引き起こされ、こうして3nmを上回る従来の金ナノ粒子とは全く異なる分子様の特性を示す。一方で、エネルギー準位の分裂のため、AuCは、従来の金ナノ粒子の表面プラズモン効果及びそれに由来する光学的特性を有さずに、半導体量子ドットと類似した優れた蛍光発光特性を示す。他方では、AuCの紫外-可視吸収スペクトルにおいて、520±20nmでのプラズモン共鳴ピークが消失し、その一方で1つ以上の新たな吸収ピークが570nmより高いところで現れるが、そのような吸収ピークは、従来の金ナノ粒子では観察することができない。したがって、紫外-可視吸収スペクトルにおけるプラズモン共鳴吸収ピーク(520±20nm)の消失及び570nmより高いところでの新たな吸収ピークの出現は、AuCの製造に成功したかどうかを判断するための重要な指標である(文献2:非特許文献2)。AuCはまた、従来の金ナノ粒子とは大幅に異なる磁気的特性、電気的特性、及び触媒的特性を有するため、AuCは、単分子光電子工学、分子触媒作用の分野において広い応用の見通しがある。さらに、AuCはまた、それらの優れた蛍光発光特性のためバイオプローブ及び医用イメージングの分野においても使用されている。例えば、Sandeep Vermaのチームは、核イメ
ージングのための緑色蛍光プローブとしてプリン修飾されたAuCを使用している(文献3:非特許文献3)。この種類の文献は、AuCの蛍光特性を利用するものであり、AuC自体の医薬活性には関連していない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】N. Gao, H. Sun, K. Dong, J. Ren, X. Qu, Chemistry-A European Journal 2015, 21, 829
【非特許文献2】H.F. Qian, M.Z. Zhu, Z.K. Wu, R.C. Jin, Accounts of Chemical Research 2012, 45, 1470
【非特許文献3】V. Venkatesh, A. Shukla, S. Sivakumar, S. Verma, ACS Applied Materials & Interfaces 2014, 6, 2185
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、AuCの医学的使用を提供することであり、特に緑内障の予防及び治療のための薬物の製造におけるAuCの新規使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様においては、本発明は、緑内障の予防及び/又は治療のための薬物の製造におけるAuC含有物質の使用を提供する。
【0010】
上記AuC含有物質は、AuCとAuCの外側を覆うリガンドYとを含む。
【0011】
上記AuC含有物質は、溶液、粉末、又は綿状物である。
【0012】
上記AuCの金コア直径は、3nm未満である。
【0013】
上記AuCの金コア直径は、0.5nm~2.6nm又は1.1nm~2.6nmである。
【0014】
上記リガンドYは、限定されるものではないが、L(D)-システイン及びその誘導体、システイン含有オリゴペプチド及びそれらの誘導体、並びにその他のチオール含有化合物の1つ以上を含む。
【0015】
上記L(D)-システイン及びその誘導体は、L(D)-システイン、N-イソブチリル-L(D)-システイン(L(D)-NIBC)、又はN-アセチル-L(D)-システイン(L(D)-NAC)であることが好ましい。
【0016】
上記システイン含有オリゴペプチド及びそれらの誘導体は、L-アルギニン-L-システイン(RC)、L-システイン-L-アルギニン(CR)、L-システイン-L-ヒスチジンジペプチド(CH)、L-ヒスチジン-L-システインジペプチド(HC)、L-グルタチオン(GSH)、L-リジン-L-システイン-L-プロリントリペプチド(KCP)、L-プロリン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(PCR)、グリシン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(GCR)、グリシン-L-セリン-L-システイン-L-アルギニンテトラペプチド(GSCR)、又はグリシン-L-システイン-L-セリン-L-アルギニンテトラペプチド(GCSR)から選択される。
【0017】
その他のチオール含有化合物は、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリン(Cap)、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-3-トロロボール、N-(2-メルカプトプロピオニル)-グリシン、又はドデシルメルカプタン等から選択される。
【0018】
上記AuC含有物質を製造する方法は、以下の工程:
(1)HAuCl4をメタノール、水、エタノール、n-プロパノール、及び酢酸エチル
の1つに溶解させることで、HAuCl4の濃度が0.01M~0.03Mである溶液A
を得る工程と、
(2)リガンドYを溶剤中に溶解させることで、リガンドYの濃度が0.01M~0.18Mである溶液Bを得る工程と、
(3)工程(1)における溶液Aと工程(2)における溶液Bとを、HAuCl4とリガ
ンドYとの間のモル比が1:0.01~1:100(好ましくは1:(0.1~10)、より好ましくは1:(1~10))であるように混合し、該混合物を氷浴中で0.1時間~12時間(好ましくは0.1時間~2時間、より好ましくは0.5時間~2時間)にわたり撹拌し、0.025M~0.8MのNaBH4の溶液(好ましくはNaBH4の水溶液、NaBH4のエタノール溶液又はNaBH4のメタノール溶液)を滴加し、次いで、その反応系を氷浴中で0.1時間~12時間(好ましくは0.1時間~2時間、より好ましくは1時間~2時間)にわたり撹拌するにあたり、NaBH4とリガンドYとの間のモル比
は1:0.01~1:100(好ましくは1:(0.1~8)、より好ましくは1:(1~8))であり、こうしてAuC含有の溶液様物質が得られる工程と、
を含む。
【0019】
工程(2)における上記溶剤は、メタノール、酢酸エチル、水、エタノール、n-プロパノール、ペンタン、ギ酸、酢酸、ジエチルエーテル、アセトン、アニソール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ペンタノール、エタノール、酢酸ブチル、トリブチルメチルエーテル、酢酸イソプロピル、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル、ギ酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸メチル、2-メチル-1-プロパノール、及び酢酸プロピルの1つ以上である。
【0020】
工程(3)で得られる上記AuC含有の溶液様物質を、透析及び凍結乾燥した後に、AuCを含有する粉末状物質又は綿状物質が得られ、好ましくは、上記透析は、上記AuC含有の溶液様物質を透析バッグに入れて、水中にて室温で1日間~7日間にわたり透析することである。
【0021】
第2の態様においては、本発明は、緑内障を予防及び/又は治療する薬物の製造におけるAuCの使用を提供する。上記AuCの金コア直径は、3nm未満である。上記AuCは、緑内障に活性又は不活性な成分であり得る種々のリガンドで修飾され得る。
【0022】
第3の態様においては、本発明は、緑内障を予防及び/又は治療する薬物の製造における、L-NIBC、D-NIBC、CR、RC、N-アセチル-L-システイン(L-NAC)、N-アセチル-D-システイン(D-NAC)、GSH、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリン(Cap)、L-システイン、又はD-システインのリガンドで修飾されたAuCの使用を提供する。
【0023】
上記AuCの金コア直径は、3nm未満、好ましくは0.5nm~2.6nmである。
【0024】
本発明において提供されるAuC又はAuC含有物質(リガンド修飾されたAuCを指す)は、経口、注射(筋内注射又は静脈内注射)、又は局所的点眼により投与され得る。投与量及び投与頻度は、細胞モデル実験、動物モデル実験、薬物のin-vivo分布、及び代謝実験の結果に従って計算され得る。
【0025】
効力の点では、本発明において提供されるAuC又はAuC含有物質は、Aβの凝集阻害のin vitro実験においてAβの凝集の阻害に対して優れた効果を示し、そしてRGC-5視神経節細胞損傷モデルにおける細胞生存率の改善に対して大きな効果を示す。ラットの緑内障視神経クランプ損傷モデルにおいて、上記AuC又はAuC含有物質は、視神経挫滅損傷モデルラットでフラッシュ視覚誘発電位のN2-P2振幅を大幅に増大
させ得て、RGCの喪失を大幅に低下させ得る。上記AuC又はAuC含有物質は、視神経損傷に対して明らかな保護効果を有し、視野欠損及びRGCのアポトーシスを減少させ得て、網膜組織及び視神経組織の構造の改善、並びに視機能障害の緩和に対して顕著な機能を有する。さらに、上記AuC又はAuC含有物質は、動物レベルで優れた生体適合性を示す。したがって、上記AuC又はAuC含有物質は、緑内障の予防及び治療のための新たな薬物の研究及び開発のために重要である。
【0026】
同時に、本発明によれば、リガンド分子自体は、Aβの凝集阻害の動態実験においてin vitroで、及びRGC-5細胞損傷の緑内障細胞モデルにおいて明らかな効果を有しないことも裏付けられ、こうして緑内障に対する効力は、リガンドではなくAuCに起因することが示される。AuCの新たな医学的使用は、本発明の重要な貢献である。AuCの緑内障への医薬活性に基づいて、AuCが更に既知の活性物質(限定されるものではないが、緑内障に対する活性を含む)又は担体及び助溶剤等のその他の不活性物質と組み合わせられれば、より優れた新たな薬物が形成されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】種々の粒度を有するリガンドL-NIBC修飾された金ナノ粒子の紫外(UV)-可視スペクトル、透過型電子顕微鏡(TEM)像、及び粒度分布図を示す。
図2】種々の粒度を有するリガンドL-NIBC修飾されたAuCの紫外-可視スペクトル、TEM像、及び粒度分布図を示す。
図3】種々の粒度を有するリガンドL-NIBC修飾されたAuCの赤外スペクトルを示す。
図4】1.8nmの平均直径のL-NIBC修飾されたAuCの励起スペクトル及び近赤外蛍光発光スペクトルを示す。
図5】Aβ(1-40)とリガンドL-NIBC修飾された金ナノ粒子又はAuCとを48時間にわたり同時インキュベートした後のAFMトポグラフィーを示す。
図6】種々の粒度及び種々の濃度のリガンドL-NIBC修飾された金ナノ粒子又はAuCによるAβ線維化の動態曲線を示す。
図7】リガンドCR修飾されたAuC(CR-AuC)のUV、赤外、TEM、及び粒度分布グラフを示す。
図8】リガンドRC修飾されたAuC(RC-AuC)のUV、赤外、TEM、及び粒度分布図を示す。
図9】リガンド1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリン(すなわち、Cap)修飾されたAuC(Cap-AuC)のUV、赤外、TEM、及び粒度分布図を示す。
図10】リガンドGSH修飾されたAuC(GSH-AuC)のUV、赤外、TEM、及び粒度分布図を示す。
図11】リガンドD-NIBC修飾されたAuC(D-NIBC-AuC)のUV、赤外、TEM、及び粒度分布図を示す。
図12】種々のリガンド修飾されたAuCの、Aβ(1-40)の凝集及び線維化に対する阻害効果の曲線を示す。
図13】リガンドL-NIBC修飾されたAuC又は金ナノ粒子の、RGC-5細胞モデルにおけるH22誘発性の酸化ストレス緑内障の細胞生存性に対する効果を示す。
図14】リガンドL-NIBC修飾されたAuC又は金ナノ粒子の、RGC-5細胞モデルにおけるニトロプルシドナトリウム誘発性のアポトーシス緑内障の細胞生存性に対する効果を示す。
図15】AuC含有物質の、緑内障モデルにおけるラットの眼のfVEPのN2潜時に対する効果を示す。
図16】AuC含有物質の、緑内障モデルにおけるラットの眼のfVEPのP2潜時に対する効果を示す。
図17】AuC含有物質の、緑内障モデルにおけるラットの眼のfVEPのN2-P2振幅に対する効果を示す。
図18】AuC含有物質を14日連続で投与した後の、動物の網膜パッチのBrn3a染色、及び染色された陽性細胞の数の統計分析図を示す。
図19】AuC含有物質を14日連続で投与した後の、動物の網膜の病理切片のHE染色結果、及びRGCの数の統計分析図を示す。
図20】種々の粒度及び種々の濃度のL-NIBC修飾されたAuCの、SH-sy5y神経芽腫細胞生存性に対する効果を示している図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
一定のリガンドを有する金ナノ粒子(金コア直径3nm~100nm)のAβの凝集に対する効果を研究することにより、本発明者らは、金ナノ粒子の金コア直径を大きいものから小さいものへと変更した場合に、同じリガンドで表面が修飾された金ナノ粒子のAβの凝集に対する促進効果は、阻害効果へと切り替わり、その粒度が金クラスター(AuC)(金コア直径は3nm未満である)となるのに十分に小さい場合に、Aβの凝集の完全な阻害が達成され得ることを見出した。この効果においては、リガンドではなくAuC自体が阻害の役割を担う。
【0029】
一般的に、上記研究で使用される金ナノ粒子の金コア直径は、3nmより大きく、該金コアの直径が3nmより小さい場合に、金ナノ粒子は金クラスター(AuC)と呼ばれる。紫外-可視吸収スペクトルにおけるプラズモン共鳴吸収ピーク(520±20nm)の消失及び560nm又は570nmより高いところでの新たな吸収ピークの出現は、AuCの製造に成功したかどうかを示す指標である。リガンドを有しないと、AuCは溶液中で安定に存在することができない。AuCがチオール含有リガンドと結合することで、リガンド修飾されたAuC(又はAuCと呼ばれる)がAu-S結合を介して形成される。
【0030】
文献に開示される現存のリガンド修飾されたAuCには、L-グルタチオン(GSH)、N-アセチル-L(D)-システイン(L(D)-NAC)、N-イソブチリル-L(D)-システイン(L(D)-NIBC)等で修飾されたAuCが含まれる。製造方法は、文献(文献4:H. F. Qian, M. Z. Zhu, Z. K. Wu, R. C. Jin, Accounts of Chemical
Research 2012, 45, 1470、文献5:C. Gautier, T. Buergi, Journal of the American
Chemical Society 2006, 128, 11079)に示されており、それらは、主として触媒作用、キラル認識、分子検出、バイオセンシング、薬物送達、及びバイオイメージングの分野において利用される(文献6:G. Li, R. C. Jin, Accounts of Chemical Research 2013, 46, 1749、文献7:H. F. Qian, M. Z. Zhu, Z. K. Wu, R. C. Jin, Accounts of Chemical Research 2012, 45, 1470、文献8:J. F. Parker, C. A. Fields-Zinna, R. W. Murray, Accounts of Chemical Research 2010, 43, 1289、S. H. Yau, O. Varnavski, T. Goodson, Accounts of Chemical Research 2013, 46, 1506)。
【0031】
本発明では、AuCのAβの凝集の阻害に対する効果が調査され、最初に、種々のリガンド(Aβの凝集に対して阻害効果を有しないリガンド)を含む種々のサイズのAuCを研究対象として使用することを少なくとも含む。Aβの凝集の阻害についてのin vitro実験と、RGC-5視神経節細胞損傷モデル実験と、視神経挫滅損傷ラットモデルとを含む3段階の実験での研究と共に、AuC細胞毒性、マウスにおける急性毒性実験、マウスにおけるin vivo分布及び薬物動態の実験等を考慮して、リガンド修飾されたAuCが提供され、緑内障を治療する薬物の製造におけるそれらの使用が見出され、そしてそれらの結果を金ナノ粒子の実験結果と比較することで、3nmより大きい直径を有する金ナノ粒子は、この目的のために望ましい効果を有さず、緑内障を治療する薬物の製造に使用することができないが、その一方でリガンド修飾されたAuCは、緑内障を治療する薬物の製造に使用することができることが示された。
【0032】
以下で、本発明を更に実施形態において詳説するが、それらの実施形態は、本発明に何らかの限定を課すものと解釈されるべきではない。
【0033】
以下の実施形態で使用される原材料の純度は、化学的純度又はそれより高いものとする。それらは全て市場から購入することができる。
【0034】
実施形態1:リガンド修飾されたAuCの製造
この実施形態は、リガンド修飾されたAuC(リガンド修飾されたAuCは、本発明においてはAuC含有物質とも呼ばれる)を製造する方法であって、以下の工程:
(1)HAuCl4をメタノール、水、エタノール、n-プロパノール、及び酢酸エチル
の1つに溶解させることで、HAuCl4の濃度が0.01M~0.03Mである溶液A
を得る工程と、
(2)リガンドYを溶剤中に溶解させることで、リガンドYの濃度が0.01M~0.18Mである溶液Bを得る工程と、
リガンドYには、限定されるものではないが、L(D)-システイン及びその他のシステイン誘導体、例えばN-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、N-アセチル-L-システイン及びN-アセチル-D-システイン、限定されるものではないが、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド及びその他のシステイン含有ペプチドを含むシステイン含有オリゴペプチド及びそれらの誘導体、例えばL-システイン-L-アルギニンジペプチド(CR)、L-アルギニン-L-システインジペプチド(RC)、L-システイン-L-ヒスチジン(CH)、L-ヒスチジン-L-システイン(HC)、L-リジン-L-システイン-L-プロリン(KCP)、グリシン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(GCR)、L-プロリン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(PCR)、L-グルタチオン(L-GSH)、グリシン-L-セリン-L-システイン-L-アルギニンテトラペプチド(GSCR)及びグリシン-L-システイン-L-セリン-L-アルギニンテトラペプチド(GCSR)並びにその他のチオール含有化合物、例えば1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリン(Cap)、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-3-トロロボール及びドデシルメルカプタンの1つ以上が含まれ、上記溶剤は、メタノール、酢酸エチル、水、エタノール、n-プロパノール、ペンタン、ギ酸、酢酸、ジエチルエーテル、アセトン、アニソール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ペンタノール、エタノール、酢酸ブチル、トリブチルメチルエーテル、酢酸イソプロピル、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル、ギ酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸メチル、2-メチル-1-プロパノール及び酢酸プロピルの1つ以上である;
(3)溶液Aと溶液Bとを、HAuCl4とリガンドYとの間のモル比が1:(0.1~
10)であるように混合し、それらを氷浴中で0.1時間~24時間にわたり撹拌し、0.025M~0.8MのNaBH4の水溶液、エタノール溶液、又はメタノール溶液を添
加し、氷水浴中で撹拌し続けて、0.1時間~2時間にわたり反応させる工程と、
NaBH4とリガンドYとの間のモル比は1:(0.1~8)であり、その際、AuC
含有の溶液様物質が得られる;
種々のサイズのAuCを得て、粒度を測定し、そして使用を容易にするために、以下の工程が更に採用され得る:
(4)工程(3)において得られた溶液を、8000回転/分~17500回転/分の範囲内の種々の速度で反応完了後10分間~100分間にわたり勾配により遠心分離することで、種々の回転速度下で種々の平均粒度のリガンド修飾されたAuC沈降物を得る工程と、
(5)工程(4)において得られた種々の平均粒度のAuC沈降物を水中に溶解させ、それを透析バッグに入れて、水中にて室温で1日間~7日間にわたり透析する工程と、
(6)AuCを透析後12時間~24時間にわたり凍結乾燥させることで、粉末状物質又は綿状物質、すなわちリガンド修飾されたAuCを得る工程と、
を含む、方法を開示している。
【0035】
得られた粉末状物質又は綿状物質(具体的な検出法は、実施形態2に示されている)を特性評価した。種々の回転速度で遠心分離することにより得られた沈降物の粒度は、3nmより小さい(一般的に0.5nm~2.6nmに分布している)ことが判明した。紫外-可視吸収スペクトルは、570nmより高いところに1つ以上の吸収ピークを有し、520nmには明らかな吸収ピークを有しない。得られた粉末状物又は綿状物がAuCであることが決定づけられる。
【0036】
実施形態2:N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)であるリガンドを有するAuCの製造
この実施形態においては、リガンドL-NIBCを例にとって、種々の粒度のリガンドL-NIBCで修飾されたAuCの製造及び確認を詳説する。
【0037】
(1)1.00gのHAuCl4を秤量し、それを100mLのメタノール中に溶解さ
せることで、0.03Mの溶液Aを得る。
【0038】
(2)0.57gのL-NIBCを秤量し、それを100mLの氷酢酸(酢酸)中に溶解させることで、0.03Mの溶液Bを得る。
【0039】
(3)1mLの溶液Aを計量し、それをそれぞれ0.5mL、1mL、2mL、3mL、4mL、5mLの溶液B(すなわち、HAuCl4とL-NIBCとの間のモル比はそ
れぞれ1:0.5、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5である)と混合し、氷浴中で撹拌しながら2時間にわたり反応させ、溶液が山吹色から無色に変わったら1mLの新たに調製した0.03M(11.3mgのNaBH4を秤量し、それを10mLのエタノ
ール中に溶解させることにより調製される)のNaBH4エタノール溶液を素早く添加し
、溶液が暗褐色に変わった後30分間にわたりその反応を継続させ、そして10mLのアセトンを添加することで、その反応を止める。
【0040】
(4)上記反応後に、その反応溶液を分画遠心分離(すなわち、勾配遠心分離による)にかけることで、種々の粒度を有するL-NIBC修飾されたAuC粉末が得られる。この工程は限外濾過チューブと組み合わせて使用され得る。具体的な方法:工程(3)における反応が完了した後に、その反応溶液を、MWCOが100000の50mL容の限外濾過チューブに移し、10000回転/分で20分間にわたり遠心分離し、該チューブ中の保持液の沈降物は、約2.6nmの粒度を有するL-NIBC修飾されたAuC粉末であった(2.6nmは、この保持液の沈降物を超純水中に再懸濁させることにより測定された)。次いで、該チューブの外側の溶液を50mL容のMWCOが50000の限外濾過チューブに移し、13000回転/分で30分間にわたり遠心分離する。該チューブ中の保持液の沈降物は、約1.8nmの粒度を有するL-NIBC修飾されたAuC粉末である(1.8nmは、この保持液の沈降物を超純水中に再懸濁させることにより測定された)。次いで、該チューブの外側の溶液を50mL容のMWCOが30000の限外濾過チューブに移し、17500回転/分で40分間にわたり遠心分離する。内側チューブ中の保持液の沈降物は、約1.1nmの粒度を有するL-NIBC修飾されたAuC粉末である(1.1nmは、この保持液の沈降物を超純水中に再懸濁させることにより測定された)。
【0041】
(5)3種の異なる粒度の粉末が勾配遠心分離により得られ、溶剤をそれぞれ除去することで、粗生成物が得られた。該粗生成物をN2で吹き乾かし、5mLの超純水中に溶解
させ、透析バッグ(MWCOは7000Daである)中に入れ、その後にそれを2Lの超純水中に入れた。1日おきに水を交換し、7日間にわたり透析し、それを凍結乾燥し、そして後で使用するために保持した。
【0042】
特性評価実験は、上記で得られた粉末(リガンドL-NIBC修飾されたAuC)について実施した。一方で、リガンドL-NIBC修飾された金ナノ粒子がコントロールとして使用される。L-NIBCであるリガンドを有する金ナノ粒子の製造方法は、参考文献(文献10:W. Yan, L. Xu, C. Xu, W. Ma, H. Kuang, L. Wang and N. A. Kotov, Journal of the American Chemical Society 2012, 134, 15114、X. Yuan, B. Zhang, Z. Luo, Q. Yao, D. T. Leong, N. Yan and J. Xie, Angewandte Chemie International Edition 2014, 53, 4623)を参照する。
【0043】
1.透過型電子顕微鏡(TEM)による形態の観察
試験粉末(実施形態2で製造されたL-NIBC修飾されたAuC試料及びL-NIBC修飾された金ナノ粒子試料)を、試料として超純水中に溶解させて2mg/Lとし、次いで試験試料をハンギングドロップ法によって製造した。具体的な方法:5μLの試料を超薄カーボンフィルム上に滴り落とし、水滴が消えるまで自然に蒸発させ、次いで該試料の形態を、JEM-2100F STEM/EDS電界放出型高分解能TEMにより観察した。
【0044】
リガンドL-NIBC修飾された金ナノ粒子の4つのTEM像は、図1のパネルB、パネルE、パネルH、及びパネルKに示されており、リガンドL-NIBC修飾されたAuCの3つのTEM像は、図2のパネルB、パネルE、及びパネルHに示されている。
【0045】
図2における画像は、L-NIBC修飾されたAuC試料が均一な粒度及び良好な分散性を有し、かつL-NIBC修飾されたAuCの平均直径(金コアの直径を指す)がそれぞれ1.1nm、1.8nm、及び2.6nmであることを示しており、図2のパネルC、パネルF、及びパネルIにおける結果とよく合致している。比較すると、リガンドL-NIBC修飾された金ナノ粒子試料は、より大きな粒度を有する。それらの平均直径(金コアの直径を指す)は、それぞれ3.6nm、6.0nm、10.1nm、及び18.2nmであり、図1のパネルC、パネルF、パネルI、及びパネルLにおける結果とよく合致している。
【0046】
2.紫外(UV)-可視(vis)吸収スペクトル
試験粉末を、濃度が10mg・L-1になるまで超純水中に溶解させ、室温でUV-vis吸収スペクトルにより測定した。スキャン範囲は、190nm~1100nmであり、試料セルは、1cmの光路を有する標準的な石英キュベットであり、参照セルは、超純水で満たした。
【0047】
異なるサイズを有する4つのリガンドL-NIBC修飾された金ナノ粒子試料のUV-vis吸収スペクトルは、図1のパネルA、パネルD、パネルG、及びパネルJに示されており、粒度の統計分布は、図1のパネルC、パネルF、パネルI、及びパネルLに示されており、異なるサイズを有する3つのリガンドL-NIBC修飾されたAuC試料のUV-vis吸収スペクトルは、図2のパネルA、パネルD、及びパネルGに示されており、粒度の統計分布は、図2のパネルC、パネルF、及びパネルIに示されている。
【0048】
図1は、表面プラズモン効果により、リガンドL-NIBC修飾された金ナノ粒子が、約520nmに吸収ピークを有したことを示している。その吸収ピークの位置は、粒度と関連している。粒度が3.6nmである場合に、UV吸収ピークは516nmに現れ、粒度が6.0nmである場合に、UV吸収ピークは517nmに現れ、粒度が10.1nm
である場合に、UV吸収ピークは520nmに現れ、そして粒度が18.2nmである場合に、その吸収ピークは523nmに現れる。上記4つの試料のいずれも、560nm又は570nmより高いところに吸収ピークを一切有しない。
【0049】
図2は、実施形態2における異なる粒度を有する3つのリガンドL-NIBC修飾されたAuC試料のUV吸収スペクトルにおいて、520nmでの表面プラズモン効果の吸収ピークが消失し、2つの明らかな吸収ピークが570nmより高いところに出現し、吸収ピークの位置は、AuCの粒度と共に僅かに変化したことを示している。この理由は、AuCが面心立方構造の崩壊のため分子様の特性を示し、それによりAuCの状態の密度の不連続性がもたらされ、エネルギー準位が分裂し、プラズモン共鳴効果が消失し、そして長波長方向に新たな吸収ピークが現れるからである。実施形態2において得られた異なる粒度における3つの粉末試料は、全てリガンド修飾されたAuCであると結論付けることができた。
【0050】
3.フーリエ変換赤外分光分析法
赤外スペクトルは、Bruker社により製造されたVERTEX80Vフーリエ変換赤外分光計において固体粉末の高真空の全反射モードで測定した。スキャン範囲は4000cm-1~400cm-1であり、スキャン数は64である。実施形態2において製造されたL-NIBC修飾されたAuC試料を例にとると、該試験試料は、3つの異なる粒度を有するL-NIBC修飾されたAuC乾燥粉末であり、コントロール試料は、純粋なL-NIBC粉末であった。それらの結果を図3に示す。
【0051】
図3は、種々の粒度を有するL-NIBC修飾されたAuCの赤外スペクトルを示す。純粋なL-NIBC(先頭の曲線)と比較すると、種々の粒度を有するL-NIBC修飾されたAuCのS-H伸縮振動の全ては2500cm-1~2600cm-1で完全に消失したが、一方で、L-NIBCのその他の特徴的なピークは依然として観察されたため、L-NIBC分子は、Au-S結合を介してAuCの表面にうまくつながっていることが分かる。図3は、リガンド修飾されたAuCの赤外スペクトルがそのサイズと無関係であることも示している。
【0052】
4.近赤外蛍光スペクトル
近赤外蛍光スペクトルは、Horiba JobinYvon社により製造されたNanoLog型の紫外可視
近赤外蛍光分光光度計で測定した。試料セルは、1cmの光路を有する標準的な石英キュベットであった。励起波長は415nmであり、スリット幅は10nmであった。検出される発光波長の範囲は700nm~1500nmであり、スリット幅は10nmであった。実施形態2におけるL-NIBC修飾されたAuC試料を例にとると、結果は図4に示された。
【0053】
図4は、1.8nmの平均直径のL-NIBC修飾されたAuCの励起スペクトル及び近赤外蛍光発光スペクトルであった。エネルギー準位の分裂のため、AuCは半導体量子ドットと類似した蛍光発光特性も示すことが判明した。その他の粒度及びリガンドのAuCもこの特性を有したが、励起スペクトル及び発光スペクトルのピーク位置は、リガンド及びAuCの粒度により僅かに変化した。同じリガンドを有する金ナノ粒子は、全てのバンドにおいて蛍光発光特性を有しなかった。
【0054】
その他のリガンドYにより修飾されたAuCは、上記方法と同様であるが、但し、溶液Bの溶剤、HAuCl4とリガンドYとの間の供給比、反応時間、及び添加されるNaB
4の量が僅かに調節された方法により製造した。例えば、L-システイン、D-システ
イン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)又はN-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)がリガンドYとして使用される場合に、溶剤として酢酸が選
択され、ジペプチドCR、ジペプチドRC又は1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリンがリガンドYとして使用される場合に、溶剤として水が選択される等であり、その他の工程は同様であるため、それらは本明細書では詳細に記載しないものとする。
【0055】
本発明では、上記方法により一連のリガンド修飾されたAuCが製造及び取得された。リガンド及び製造方法のパラメータを、表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1に列挙される実施形態における試料は、上記方法により確認される。図7図11は、リガンドCR、RC、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリン(略語:Cap)、GSH、及びD-NIBCで修飾されたAuCのUVスペクトル(図7図11におけるパネルA)、赤外スペクトル(図7図11
おけるパネルB)、透過型電子顕微鏡(TEM)像(図7図11におけるパネルC)、及び粒度分布(図7図11におけるパネルD)である。
【0058】
それらの結果は、表1から得られる種々のリガンドで修飾されたAuCの直径が全て3nmより小さいことを示している。紫外スペクトルはまた520±20nmでのピークの消失と、560nmより高いところ(560nm又は570nm)での吸収ピークの出現を示す。この吸収ピークの位置は、リガンド及び粒度によって僅かに変化するにすぎない。一方で、フーリエ変換赤外スペクトルはまた、リガンドのチオールの赤外吸収ピーク(図7図11のパネルBにおける点線の間)の消失を示すが、一方でその他の赤外の特徴的なピークは全て維持されるので、全てのリガンド分子はAuCの表面にうまくつながっており、かつ本発明では、表1中に列挙されるリガンドで修飾されたAuCを得ることに成功したことが示唆される。
【0059】
実施形態3:in vitroでのAβの凝集動態実験
上記のように、Aβは緑内障の病因において重要な役割を担い、そして視神経保護機序に基づく緑内障の治療のための重要な標的である。この実施形態は、Aβの凝集動態のin vitro実験によりAuC(リガンド修飾されたAuC)の機能を調査し、同じリガンド修飾された金ナノ粒子及びリガンド分子の独立した使用によるAβの凝集動態に対する効果を比較することで、AuCはAβの凝集を完全に阻害し得るが、金ナノ粒子はこの機能を有しないことが分かった。さらに、その機能は、リガンドではなくAuCに起因するものである。それらの実験では、Aβ(1-40)の凝集及び線維化の動態を特性評価するためにThT蛍光標識法が使用された。
【0060】
チオフラビンT(略記:ThT)は、アミロイド線維を特異的に染色するための色素である。ThTをポリペプチド又はタンパク質の単量体と一緒にインキュベートする場合に、その蛍光はほぼ変化しない。ThTが線維構造を有するアミロイドポリペプチド又はタンパク質に出くわすと、そのアミロイドポリペプチド又はタンパク質と直ちに結合し、その蛍光強度は指数関数的に増加することとなる。まさにこの特性のため、ThTは、ペプチド又はタンパク質のアミロイドーシスをモニタリングするためのマーカーとして広く使用されている。Aβ(1-40)の線維化過程はまた、核形成に制御される重合過程でもある。したがって、ThT蛍光標識法により測定されるAβ(1-40)線維の成長曲線は、主として3つの段階、すなわち初期段階、成長段階、及び定常段階に分けられる。初期段階は、主としてAβ(1-40)がコンフォメーション遷移を受けることでミスフォールディングが形成され、その後に凝集及び核形成する段階である。成長段階は、Aβ(1-40)単量体がオリゴマーのコア上に軸方向に沿って蓄積することで、線維を形成し、素早く成長する段階である。定常段階は、全てのAβ(1-40)分子が完全な長い線維を形成している段階、すなわち線維がもはや成長しない段階である。ThT蛍光標識法は、Aβ(1-40)分子の線維性凝集の動態過程を簡便にモニタリングすることができる。
【0061】
1)Aβ(1-40)単量体の前処理
アミロイドポリペプチドAβ(1-40)の凍結乾燥粉末(Invitrogen Corp.社)を、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)中に溶解させることで、1g/LのAβ(1-40)溶液を得て、その溶液を、密封後に室温で2時間~4時間にわたりインキュベートし、次いでHFIPを、高純度窒素(N2、99.9%)を用いて適切な流速でドラ
フトチャンバ内にて風乾(約1時間にわたり)させた。最後に、乾燥されたAβ(1-40)を200μLのDMSO中に溶解させ、密封後にその溶液を、後に使用するために1週間以内にわたり冷凍機中で-20℃に保った。使用前に、アミロイドポリペプチドのDMSO溶液を、Aβ(1-40)の濃度が20μMに達するまで、大量のリン酸緩衝溶液(PBS、10mM、pH=7.4)で希釈することで、Aβ(1-40)PBS溶液を
得た。実験のための全てのAβ(1-40)PBS溶液は新たに調製された。
【0062】
2)試料の調製及び検出
リガンド修飾されたAuC及び金ナノ粒子を、それぞれ20μMのAβ(1-40)PBSに添加することで、種々の濃度及び種々の粒度の、種々のリガンドで修飾されたAuCの試料を形成し、相応して種々のリガンドで修飾された金ナノ粒子の試料を形成した。それらの試料を、96ウェルプレート中で37℃においてThT蛍光標識法によって連続的にインキュベートし、蛍光強度をマイクロプレートリーダにより10分毎に1回モニタリングした。Aβ(1-40)凝集の動態過程を、ThTの蛍光強度の変化によって特性評価した。
【0063】
実施形態2においてそれぞれ製造された2.6nm、1.8nm、及び1.1nmの粒度を有する3つのサイズのL-NIBC修飾されたAuCを、実験群として使用した。それぞれ18.2nm、10.1nm、6.0nm、及び3.6nmの粒度を有する4つのサイズのL-NIBC修飾された金ナノ粒子、並びにAuC又は金ナノ粒子と結合されていないL-NIBC分子を、コントロール群として使用した。全てのサイズのAuC又は金ナノ粒子は、それぞれ6つの濃度で存在し、それぞれ0ppm(ブランクコントロールとしてAuC、金ナノ粒子、又はL-NIBCを含有していない)、0.1ppm、1.0ppm、5.0ppm、10.0ppm、及び20.0ppmであった。それぞれ1.0ppm及び10.0ppmである2つの濃度でL-NIBC分子を使用した。
【0064】
それらの結果を図5及び図6に示す。
【0065】
図5は、それぞれの実験群及びコントロール群を48時間にわたり同時インキュベートした後のAβ(1-40)のAFMトポグラフィーを示す。パネルAは、Aβ(1-40)を単独で48時間にわたりインキュベートした後のAFMトポグラフィーである。パネルBは、Aβ(1-40)をL-NIBCと一緒に48時間にわたり同時インキュベートした後のAFMトポグラフィーである。パネルC及びパネルDは、Aβ(1-40)をそれぞれ6.0nm及び3.6nmの平均粒度を有する金ナノ粒子(L-NIBC修飾されている)と一緒に48時間にわたり同時インキュベートした後のAFMトポグラフィーである。そして、パネルEは、Aβ(1-40)を1.8nmの平均粒度におけるAuC(L-NIBC修飾されている)と一緒に48時間にわたり同時インキュベートした後のAFMトポグラフィーである。
【0066】
図6において、L-NIBCの種々の濃度におけるAβ(1-40)のアミロイドーシス動態曲線がパネルAに示されている。それぞれ18.2nm、10.1nm、6.0nm、及び3.6nmのサイズを有する金ナノ粒子の種々の濃度におけるAβ(1-40)のアミロイドーシス動態曲線がパネルB~パネルEに示されている。それぞれ2.6nm、1.8nm、及び1.1nmのサイズを有するAuCの種々の濃度におけるAβ(1-40)のアミロイドーシス動態曲線がパネルF~パネルHに示されている。パネルA~パネルHにおけるAβのアミロイドーシス動態曲線は、Aβ(1-40)を種々の濃度において金ナノ粒子又はAuCと同時インキュベートした場合の曲線であり、□は0ppm(すなわち、金ナノ粒子及びAuCなし)を表し、○は0.1ppmを表し、△は1ppmを表し、▽は5ppmを表し、◇は10ppmを表し、☆は20ppmを表した。
【0067】
図5から、コントロールとしてAβ線維がパネルA中に張り巡らされており、パネルBも同じであり、線維が或る程度は減少したが、長い線維は依然としてパネルC中に見ることができ、長い線維は存在しないが、多くのAβの短い線維が依然としてパネルD中に存在することが見て取れる。L-NIBCはAβ(1-40)線維の形成に対して明らかな効果を有しないことが示された。L-NIBC修飾された小さなサイズの金ナノ粒子の添
加は、Aβ(1-40)のアミロイドーシス過程を遅延させ得るが、完全に阻害し得なかった。それというのも、上記短い線維は、更なる時間後に長い線維へと成長し続けることとなるからである。図5のパネルEには、長い線維も短い線維も存在しないので、L-NIBC修飾されたAuCはAβ(1-40)のアミロイドーシス過程を完全に阻害し得ることが示唆された。
【0068】
図5は、定性的実験であるが、図6は、定量的実験である。図6の結果は、L-NIBCの添加が、Aβ(1-40)アミロイドーシスの動態に明らかな効果を有さず(図6のパネルA)、粒子直径が10.1nm以上である場合の金ナノ粒子については、L-NIBC修飾された金ナノ粒子の添加がAβの凝集動態の成長段階及び定常段階の両方を前倒すので(金ナノ粒子の濃度が20ppmである場合に、Aβの凝集動態の成長段階は第12時間目まで前倒され、そして定常段階は第16時間目まで前倒された)、L-NIBC修飾された金ナノ粒子はAβの凝集を加速させ得ることが示唆され(図6のパネルB及びパネルC)、金ナノ粒子の直径が6.0nm以下である場合には(図6のパネルD及びパネルE)、Aβの凝集の開始時間が遅延され得るので(L-NIBC修飾された金ナノ粒子の濃度が20ppmである場合に、Aβの凝集動態の成長段階は第54時間目まで遅延された)、金ナノ粒子はAβの凝集に対して阻害効果を有することが示唆されることを示している。しかしながら、図6は、上記濃度が非常に高い(20.0ppm)としても、L-NIBC修飾された金ナノ粒子の添加は完全に阻害する(すなわち、成長段階は現れず、蛍光曲線は完全に平坦にする)ことができなかったことを示している。他方で、L-NIBC修飾された金ナノ粒子の添加後に、ThTの蛍光発光ピークは515nmに位置している一方で、L-NIBC修飾された金ナノ粒子のプラズモン共鳴吸収ピークは520nm近くに位置するので、ここで観察されたThT蛍光強度の減少は、該金ナノ粒子のThT蛍光に対するプラズモン共鳴効果の部分的クエンチングであり、L-NIBC修飾された金ナノ粒子のAβ(1-40)凝集に対する阻害効果によるものではないはずである。
【0069】
図6のパネルF~パネルHは、全てのL-NIBC修飾されたAuCが、Aβの凝集を大幅に阻害し得た(成長段階の開始時間が延期された。L-NIBC修飾されたAuCの濃度が5ppmである場合に、20μMのAβの凝集動態における成長段階の開始時間が、50時間より後に遅延され得た)ことを示している。L-NIBC修飾されたAuCの濃度が10ppm以上である場合に、Aβの凝集は、完全に阻害され得た(成長段階は現れず、蛍光曲線は完全に平坦であった)。完全な阻害のために必要とされるL-NIBC修飾されたAuCの最小濃度は、リガンドの種類及びAuCの直径に関連している。1.1nm、1.8nm、及び2.6nmのサイズを有するL-NIBC修飾されたAuCの最小濃度は、それぞれ5.0ppm、5.0ppm、及び10.0ppmであった。さらに、L-NIBC修飾されたAuCはプラズモン共鳴効果を有しないので、それらはThT蛍光に対してクエンチング効果を有しない。したがって、ここで観察される蛍光強度における減少は、もっぱらL-NIBC修飾されたAuCのAβ(1-40)凝集に対する阻害効果によるものであった。図6の定量的結果は、図5の定性的結果とよく合致している。
【0070】
この実験は、L-NIBC修飾された金ナノ粒子のサイズが6.0nm以下である場合に、該金ナノ粒子は、Aβの凝集及び線維化に対して一定の阻害効果を有するが、それは限定的であり、またL-NIBC修飾されたAuCは、Aβの凝集及び線維化を完全に阻害する機能を有することを示している。L-NIBC分子自体はAβの凝集及び線維化に影響を及ぼし得ないので(図5のパネルB及び図6のパネルAの点からみて)、この機能はAuCに起因するものであり、L-NIBCリガンドに起因するものではない。
【0071】
この実験結果は、AuCを使用してAβの凝集及び線維化に関連する疾患に対する医薬
を形成する研究及び開発を力強く支持したので、Aβの凝集及び線維化に関連する疾患(例えば、緑内障)のための医薬の形成のための礎を築いた。L-NIBC修飾されたAuCは、本発明において規定されるAuC含有物質として分類され得る。
【0072】
また、この実施形態により、表1に列挙されるその他のリガンドで修飾されたAuCの機能が確認される。例えば、図12のパネルA~パネルHは、CR、N-アセチル-L-システイン(L-NAC)、GSH、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリン(Cap)、D-NIBC、RC又はL-システイン及びD-システインで修飾されたAuC(用量は10ppmである)の、Aβ(1-40)の凝集及び線維化に対する阻害効果を示している。同様の現象が、種々のリガンドで修飾されたAuCについて観察され、同じ結論となり得る。これらのリガンド自体は、Aβの凝集及び線維化に影響を及ぼし得ず、3nmより大きいサイズを有するリガンド修飾された金ナノ粒子は、Aβの凝集及び線維化に対して限られた阻害効果しか有さず、そしてより大きい金ナノ粒子は、Aβの凝集及び線維化の促進さえもするが、リガンド修飾されたAuCは、Aβの凝集及び線維化に対して優れた阻害効果を有し、また、その濃度が5ppm~10ppmを上回る場合に、完全な阻害効果を達成することができ、完全な阻害のために必要とされる最小濃度は、リガンド及びAuCの粒度に伴い僅かに変動する。同様に、これらのリガンド修飾されたAuCは、本発明において定義されるAuC含有物質に分類される。
【0073】
AuCはリガンドなしには溶液中で安定的に存在し得ないので、AuCはこの実験においてはリガンドで修飾される。しかしながら、実験結果によれば、AuC自体は機能的成分としてAβの凝集及び線維化に影響を及ぼすことが示された。したがって、本発明においてもたらされるAuCの上述の機能に基づいてなされた他の変更、例えばリガンドなし、リガンドの変更、活性リガンド又は不活性リガンド、及びAuCと他の運搬体又は医薬との併用は全て本発明に基づいてなされる。
【0074】
実施形態4:H22誘発性のRGC-5細胞の酸化ストレス損傷モデル実験
細胞生存性をこの実施形態の実験における指標として使用した。CCK-8法の試験結果は、リガンド修飾されたAuCのH22誘発性細胞毒性に対する効果を反映し、リガンド修飾されたAuCが、神経節細胞の酸化ストレス損傷機序に対する神経保護効果を有することが示された。
【0075】
実験1:
対数増殖期におけるRGC-5細胞を、完全培地(MEM+10%FBS+1%ペニシリン-ストレプトマイシン)で希釈して、5×104/mLの密度で細胞懸濁液を得た。
その懸濁液を96ウェルプレートに1ウェル当たり100μLで接種し、5%CO2を有
するインキュベーター中にて37℃で培養した。実験群における投与方式の1つは以下の通りである:細胞がウェルに付着したら最初の培養培地を除去し、50μLの試験物質(試験物質は、2.6nm、1.8nm、若しくは1.1nmの粒度の3種のL-NIBC修飾されたAuC、又は18.2nm、10.1nm、6.0nm、若しくは3.6nmの粒度の4種のL-NIBC修飾された金ナノ粒子、又は参照としてのAuC若しくは金ナノ粒子と結合されていないL-NIBC分子であった)の、維持培地(DMEM培地+2%のFBS+1%のペニシリン-ストレプトマイシン)により調製された種々の濃度の溶液を異なるウェルに加えて、それぞれ0.01ppm、0.05ppm、0.1ppm、0.5ppm、1ppm、5ppm、及び10ppmの最終濃度にし、次いで50μLのH22(最終濃度は100μMであった)を、2時間の前処理後に投与群及びモデル群に加えた。それらの細胞を24時間にわたりインキュベートし、次いで10%のCCK-8をそれぞれのウェルに加え、そして4時間にわたりインキュベートした。それぞれのウェルの450nmの波長での吸光度値を測定することで、AuCのH22損傷に対する予
備的保護効果を評価した。実験群における他の投与方式は、以下の通りである:細胞がウェルに付着したら最初の培養培地を除去し、維持培地により調製された50μLのH22溶液を異なるウェルに加え(最終濃度は、100μMであった)、それぞれ4時間、8時間、12時間、及び24時間にわたりインキュベートし、次いで維持培地により調製された種々の濃度の50μLの試験物質溶液を、異なるインキュベート時間でウェルのそれぞれの群に加えて、0.01ppm、0.05ppm、0.1ppm、0.5ppm、1ppm、5ppm、及び10ppmの最終濃度にし、次いでそれぞれ24時間にわたりインキュベートした。次いで10%のCCK-8をそれぞれのウェルに加え、そして4時間にわたりインキュベートした。それぞれのウェルの450nmの波長での吸光度値を測定することで、AuCのH22損傷に対する治癒効果を評価した。上記実験においては、細胞を有しないブランクコントロール群、細胞の処置を伴わないコントロール群、及び100μMのH22により処置された細胞を有する損傷コントロール群を設けた。
【0076】
上記結果により、本発明において提供されるリガンド修飾されたAuCがH22損傷されたRGC細胞モデルの細胞生存性を大幅に高め得ることが示されたことから、それらのリガンド修飾されたAuCは、酸化ストレスにより惹起されるRGCのアポトーシスに対抗し得ることが示された。比較して、同じリガンドで修飾されているがより大きなサイズの金ナノ粒子は、酸化ストレスにより惹起されるRGCのアポトーシスに対して良好又は明確な効果を有さず、L-NIBCは、酸化ストレスにより惹起されるRGCのアポトーシスに対して明確な効果を有しなかった。種々のリガンドで修飾されたAuCは類似の効果を有したが、対応するリガンド自体は明確な効果を有しなかったため、この効果はリガンドではなくAuCに由来するものであることが示された。
【0077】
実験2:
対数増殖期におけるRGC-5細胞を、完全培地(MEM+10%FBS+1%ペニシリン-ストレプトマイシン)で希釈して、5×104/mLの密度で細胞懸濁液を得た。
その懸濁液を96ウェルプレートに1ウェル当たり100μLで接種し、5%CO2を有
するインキュベーター中にて37℃で培養した。細胞がウェルに付着したら最初の培養培地を除去し、AuC又は金ナノ粒子の、維持培地(DMEM培地+2%のFBS+1%のペニシリン-ストレプトマイシン)により調製された種々の濃度の50μLの溶液を異なるウェルに加えて、それぞれ0.1ppm、1ppm、及び10ppmの最終濃度にし、次いで50μLのH22(最終濃度は105μMであった)を、2時間の前処理後に投与群及びモデル群に加えた。それらの細胞を24時間にわたりインキュベートし、次いで10%のCCK-8をそれぞれのウェルに加え、そして4時間にわたりインキュベートした。それぞれのウェルの450nmの波長での吸光度値を測定することで、AuCのH22損傷に対する予備的保護効果を評価した。上記実験においては、何ら処置がなされていないブランクコントロール群、105μMのH22で処置された細胞のモデルコントロール群、100ppmのAuCを加えたがH22を加えなかった細胞のAuCコントロール群、及び10ppmのリガンド及び105μMのH22を加えたがAuC又は金ナノ粒子を加えなかった細胞のリガンドコントロール群を同時に設けた。
【0078】
L-NIBC修飾されたAuC又は金ナノ粒子の実験結果は、例えば図13に示された。上記結果により、24時間の培養後に、100ppmのAuCを加えたがH22で処置されなかったAuCコントロール群の細胞生存性が、ブランクコントロール群(100%であると定める)に対して111.5±6.2%に高まることが示されたので(P<0.05)、AuCは無毒性であることが示唆された。100μMのH22が加えられたがAuC又は金ナノ粒子を加えなかったモデルコントロール群の細胞生存性は、43.0±7.8%に減少し(ブランクコントロール群に対して、P<0.005)、10ppmのL-NIBC及び100μMのH22を加えたがAuC又は金ナノ粒子を加えなかったリガンドコントロール群の細胞生存性は47.5±6.6%であったので(ブランクコントロ
ール群に対して、P<0.01、及びモデルコントロール群に対して、P>0.05)、リガンド単独は、H22損傷された細胞モデルの細胞生存性を高めないことが示唆された。0.1ppm、1ppm、及び10ppmのAuCを加えた投与群の細胞生存性は、それぞれ69.8±9.5%(モデルコントロール群に対して、P<0.05)、83.3±6.1%(モデルコントロール群に対して、P<0.01)、及び86.8±7.4%(モデルコントロール群に対して、P<0.01)に高まった。その一方で、3つの実験濃度での6.0nmの平均サイズでの相応のリガンドの金ナノ粒子は、細胞生存性の点でモデルコントロール群とは明確な差を有しなかった(P>0.05)。
【0079】
上記結果により、本発明において提供されるリガンド修飾されたAuCがH22損傷されたRGC細胞モデルの細胞生存性を大幅に高め得ることが示されたことから、それらのリガンド修飾されたAuCは、酸化ストレスにより惹起されるRGCのアポトーシスに対抗し得る一方で、L-NIBCは、酸化ストレスにより惹起されるRGCのアポトーシスに対して明確な効果を有さず、この効果は、リガンドではなくAuCに由来するものであることが示唆された。同じリガンドで修飾されているがより大きなサイズの金ナノ粒子は、酸化ストレスにより惹起されるRGCのアポトーシスに対して明確な効果を有しないことから、金ナノ粒子は、緑内障を予防及び治療する薬物として使用され得ないことが示唆された。
【0080】
表1に列挙される種々のリガンドで修飾されたAuC又は金ナノ粒子に同じ工程を採用して、実験を行った。それらの効果は同様であったので、それらは本明細書では詳細に記載しないこととする。
【0081】
実施形態5:N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)誘発性のRGC-5細胞の興奮毒性モデル実験
この実施形態は、指標として細胞生存率を使用した。CCK-8法の試験結果は、リガンド修飾されたAuCのNMDA誘発性細胞毒性に対する効果を反映し、こうしてAuCが神経伝達物質の興奮毒性損傷機序に対する神経保護効果を有することが示された。
【0082】
対数増殖期におけるRGC-5細胞を、完全培地で希釈して、5×104/mLの密度
で細胞懸濁液を得た。その懸濁液を96ウェルプレートに1ウェル当たり100μLで接種し、5%CO2を有するインキュベーター中にて37℃で培養した。実験群における投
与方式の1つは以下の通りである:細胞がウェルに付着したら最初の培養培地を除去し、50μLの試験物質(試験物質は、2.6nm、1.8nm、若しくは1.1nmの粒度の3種のL-NIBC修飾されたAuC、又は18.2nm、10.1nm、6.0nm、若しくは3.6nmの粒度の4種のL-NIBC修飾された金ナノ粒子、又は参照としてのAuC若しくは金ナノ粒子と結合されていないL-NIBC分子であった)の、維持培地により調製された種々の濃度の溶液を異なるウェルに加えて、それぞれ0.01ppm、0.05ppm、0.1ppm、0.5ppm、1ppm、5ppm、及び10ppmの最終濃度にし、次いで50μLのNMDA(最終濃度は250μMであった)を、2時間の前処理後に投与群及びモデル群に加えた。それらの細胞を24時間にわたりインキュベートし、次いで10%のCCK-8をそれぞれのウェルに加え、そして4時間にわたりインキュベートした。それぞれのウェルの450nmの波長での吸光度値を測定することで、AuCのNMDA損傷に対する予備的保護効果を評価した。実験群における他の投与方式は、以下の通りである:細胞がウェルに付着したら最初の培養培地を除去し、維持培地により調製された50μLのNMDA溶液を加え(最終濃度は、250μMであった)、それぞれ4時間、8時間、12時間、及び24時間にわたりインキュベートし、次いで維持培地により調製された種々の濃度の50μLの試験物質溶液を加えて、0.01ppm、0.05ppm、0.1ppm、0.5ppm、1ppm、5ppm、及び10ppmの最終濃度にし、次いでそれぞれ24時間にわたりインキュベートした。次いで10
%のCCK-8をそれぞれのウェルに加え、そして4時間にわたりインキュベートした。それぞれのウェルの450nmの波長での吸光度値を測定することで、AuCのNMDA損傷に対する治癒効果を評価した。上記実験においては、細胞を有しないブランクコントロール群、細胞の処置を伴わないコントロール群、及び250μMのNMDAにより処置された細胞を有する損傷コントロール群を設けた。
【0083】
上記結果により、本発明において提供されるリガンド修飾されたAuCがNMDA誘発性の興奮毒性損傷RGC細胞モデルの細胞生存性を大幅に高め得ることが示されたことから、それらのリガンド修飾されたAuCは、神経伝達物質媒介性の興奮性RGCアポトーシスを阻害し得ることが示された。比較して、同じリガンドで修飾されているがより大きなサイズの金ナノ粒子は、神経伝達物質媒介性の興奮性RGCアポトーシスに対して良好又は明確な効果を有さず、L-NIBCは、神経伝達物質媒介性の興奮性RGCアポトーシスに対して明確な効果を有しなかった。種々のリガンドで修飾されたAuCは類似の効果を有したが、対応するリガンド自体は明確な効果を有しなかったため、この効果はリガンドではなくAuCに由来するものであることが示された。
【0084】
実施形態6:ニトロプルシドナトリウム(SNP)誘発性のRGC-5アポトーシスモデル実験
細胞生存性をこの実施形態の実験における指標として使用した。CCK-8法の試験結果は、リガンド修飾されたAuCのSNP誘発性細胞毒性に対する効果を反映し、リガンド修飾されたAuCが、SNP誘発性のRGC-5アポトーシスに対する神経保護効果を有することが示された。
【0085】
実験1:
対数増殖期におけるRGC-5細胞を、完全培地で希釈して、5×104/mLの密度
で細胞懸濁液を得た。その懸濁液を96ウェルプレートに1ウェル当たり100μLで接種し、5%CO2を有するインキュベーター中にて37℃で培養した。実験群における投
与方式の1つは以下の通りである:細胞がウェルに付着したら最初の培養培地を除去し、50μLの試験物質(試験物質は、2.6nm、1.8nm、若しくは1.1nmの粒度の3種のL-NIBC修飾されたAuC、又は18.2nm、10.1nm、6.0nm、若しくは3.6nmの粒度の4種のL-NIBC修飾された金ナノ粒子、又は参照としてのAuC若しくは金ナノ粒子と結合されていないL-NIBC分子であった)の、維持培地により調製された種々の濃度の溶液を加えて、それぞれ0.01ppm、0.05ppm、0.1ppm、0.5ppm、1ppm、5ppm、及び10ppmの最終濃度にし、次いで維持培地により調製された50μLのSNP溶液(最終濃度は750μMであった)を、2時間の前処理後に投与群及びモデル群に加えた。それらの細胞を24時間にわたりインキュベートし、次いで10%のCCK-8をそれぞれのウェルに加え、そして4時間にわたりインキュベートした。それぞれのウェルの450nmの波長での吸光度値を測定することで、AuCのSNP損傷に対する予備的保護効果を評価した。実験群における他の投与方式は、以下の通りである:細胞がウェルに付着したら最初の培養培地を除去し、維持培地により調製された50μLのSNP溶液を加え(最終濃度は、750μMであった)、それぞれ4時間、8時間、12時間、及び24時間にわたりインキュベートし、次いで維持培地により調製された種々の濃度の50μLの試験物質溶液を加えて、0.01ppm、0.05ppm、0.1ppm、0.5ppm、1ppm、5ppm、及び10ppmの最終濃度にし、次いでそれぞれ24時間にわたりインキュベートした。次いで10%のCCK-8をそれぞれのウェルに加え、そして4時間にわたりインキュベートした。それぞれのウェルの450nmの波長での吸光度値を測定することで、AuCのSNP損傷に対する治癒効果を評価した。上記実験においては、細胞を有しないブランクコントロール群、細胞の処置を伴わないコントロール群、及び250μMのSNPにより処置された細胞を有する損傷コントロール群を設けた。
【0086】
上記結果により、本発明において提供されるリガンド修飾されたAuCがSNP損傷されたRGC細胞モデルの細胞生存性を大幅に高め得ることが示されたことから、それらのリガンド修飾されたAuCは、脳虚血及び低酸素症により誘発されたRGCのアポトーシスに対して保護効果を有することが示された。比較して、同じリガンドで修飾されているがより大きなサイズの金ナノ粒子は、脳虚血及び低酸素症により誘発されたRGCのアポトーシスに対して良好又は明確な保護効果を有さず、L-NIBCは、脳虚血及び低酸素症により誘発されたRGCのアポトーシスに対して明確な効果を有しなかった。種々のリガンドで修飾されたAuCは類似の効果を有したが、対応するリガンド自体は明確な効果を有しなかったため、この効果はリガンドではなくAuCに由来するものであることが示された。
【0087】
実験2:
対数増殖期におけるRGC-5細胞を、完全培地で希釈して、5×104/mLの密度
で細胞懸濁液を得た。その懸濁液を96ウェルプレートに1ウェル当たり100μLで接種し、5%CO2を有するインキュベーター中にて37℃で培養した。実験群における投
与方式の1つは以下の通りである:細胞がウェルに付着したら最初の培養培地を除去し、AuC又は金ナノ粒子の、維持培地により調製された種々の濃度の50μLの溶液を加えて、それぞれ0.1ppm、1ppm、及び10ppmの最終濃度にし、次いで維持培地により調製された50μLのSNP溶液(最終濃度は700μMであった)を、2時間の前処理後に投与群及びモデル群に加えた。それらの細胞を24時間にわたりインキュベートし、次いで10%のCCK-8をそれぞれのウェルに加え、そして4時間にわたりインキュベートした。それぞれのウェルの450nmの波長での吸光度値を測定することで、AuCのSNP損傷に対する予備的保護効果を評価した。上記実験においては、何ら処置がなされていないブランクコントロール群、700μMのSNPで処置された細胞のモデルコントロール群、100ppmのAuCを加えたがSNPを加えなかった細胞のAuCコントロール群、及び10ppmのリガンド及び700μMのSNPを加えたがAuC又は金ナノ粒子を加えなかった細胞のリガンドコントロール群を同時に設けた。
【0088】
L-NIBC修飾されたAuC又は金ナノ粒子の実験結果は、例えば図14に示された。上記結果により、24時間の培養後に、100ppmのAuCを加えたがSNPで処置されなかったAuCコントロール群の細胞生存性が、ブランクコントロール群(100%であると定める)に対して115.4±4.8%に高まることが示されたので(P<0.05)、AuCは無毒性であることが示唆された。モデルコントロール群の細胞生存性は、56.7±6.0%に減少し(ブランクコントロール群に対して、P<0.001)、リガンドコントロール群の細胞生存性は52.8±8.0%であったので(ブランクコントロール群に対して、P<0.01、及びモデルコントロール群に対して、P>0.05)、リガンド単独は、SNP損傷された細胞モデルの細胞生存性を高めないことが示唆された。0.1ppm、1ppm、及び10ppmのAuCを加えた投与群の細胞生存性は、それぞれ89.0±7.2%(モデルコントロール群に対して、P<0.01)、92.5±7.7%(モデルコントロール群に対して、P<0.01)、及び83.5±5.2%(モデルコントロール群に対して、P<0.01)に高まった。その一方で、3つの実験濃度での6.0nmの平均サイズでの相応のリガンドの金ナノ粒子は、細胞生存性の点でモデルコントロール群とは明確な差を有しなかった(P>0.05)。
【0089】
上記結果により、本発明において提供されるリガンド修飾されたAuCがSNP損傷されたRGC細胞モデルの細胞生存性を大幅に高め得ることが示されたことから、それらのリガンド修飾されたAuCは、SNP誘発性RGCアポトーシスに対抗し得る一方で、L-NIBCは、SNP誘発性RGCアポトーシスに対して明確な効果を有さず、この効果は、リガンドではなくAuCに由来するものであることが示唆された。同じリガンドで修
飾されているがより大きなサイズの金ナノ粒子は、SNP誘発性RGCアポトーシスに対して明確な効果を有しないことから、金ナノ粒子は、緑内障を予防及び治療する薬物として使用され得ないことが示唆された。
【0090】
表1に列挙される種々のリガンドで修飾されたAuC又は金ナノ粒子に同じ工程を採用して、実験を行った。それらの効果は同様であったので、それらは本明細書では詳細に記載しないこととする。
【0091】
実施形態7:視神経挫滅損傷ラットモデル実験
視神経挫滅損傷ラットモデルは、高い眼内圧を伴わない緑内障のための広く使用される動物モデルである。該モデルは、逆作用ピンセットを用いて一定の圧力下でラットの視神経をクランプすることにより作製される不完全な損傷モデルである。該モデルは視神経の神経上膜の完全性を維持し、作業が簡単であり、再現性が良く、そして緑内障の臨床的特徴に近い。該モデルは、緑内障関連の視神経損傷及び網膜機能の調査のための完成された動物モデルである。特にこのモデルは、RGC死の病理学的過程、並びに視神経損傷及びRGCのアポトーシスを阻害又は遅延させる薬物の調査において広く使用される。
【0092】
実験1:
1)ラットの視神経クランプ損傷モデルの作製
108匹のSPFの雄の成体のブラウンノルウェーラットに、1週間の適応的採餌の後に5%の抱水クロラールの腹腔内注射により麻酔した。ラットの右眼周りの皮膚を通常のように殺菌した。双眼手術顕微鏡下で、外側眼角及び結膜を切り開き、Hada腺(Hada gland:ハーダー腺)及び涙腺組織を押し開き、強膜壁に沿って外直筋まで分離した。視神経を剥離して露出させた。その視神経を非侵襲型血管クランプを用いて眼球に対して1mm後方で10秒間にわたりクランプすることで、視神経の損傷を引き起こした。クランプ過程の間に血管は避けられるべきである。クランプが終わった後に、外直筋の破断端と組織層と縫合することで結膜嚢を修復した。手術後に、眼底網膜血管の状態を観察し、トブラデックス点眼剤を適用し、そして眼瞼を縫合した。手術後の初日に、ラット視神経クランプモデルの作製に成功したかどうかを観察した。合併症(網膜虚血及び網膜前方の硝子体出血等)が観察されなかった場合に、それを成功したモデルとみなした。不成功のモデルは実験から取り除くこととする。全てのラットの左眼はコントロールとして処置しなかった。
【0093】
2)動物実験:108匹の視神経クランプ損傷モデルラットを、投薬時間に応じて無作為に3つの群、すなわち7日目の標本群、14日目の標本群、及び21日目の標本群(n=36匹のラット/群)に分けた。各群を更に高用量群(AuCの濃度:5g/L)、低用量群(AuCの濃度:1g/L)、及びコントロール群(生理食塩水)(n=12匹のラット/群)を含む3つの小群に無作為に分けた。モデル作製の日から20μl/眼の試験化合物溶液を、高用量群及び低用量群におけるラットの右眼に滴加した。モデル作製が成功した日から10μl/眼の生理食塩水を、コントロール群におけるラットの右眼に滴加した。10μl/眼の生理食塩水を、コントロールとして、ラット(コントロール群、高用量群、及び低用量群を含む)の左眼に滴加した。滴加頻度及び時間は、それぞれ7日間、14日間、及び21日間にわたり3回/日(7.00am、3.00pm、及び11.00pm)であった。
【0094】
3)検出指標、及び検出法
眼底写真:全てのラットの眼底の写真を、投与前及び7日/14日/21日の投与後に撮影した。腹腔内注射による5%の抱水クロラールでのラットの全身麻酔後に、ラットのひげ(whiskers)を剃り、化合物トピラミン(topiramine:トロピカミド)の点眼剤によりラットに散瞳を行い、網膜の標的血管がスクリーン上にはっきり見えるまで、ラット眼
を露出させてレンズ方向を調節し、眼底のカラー写真を最終的に撮影した。注:全過程において、角膜はヒプロメロース点眼剤で潤した。
【0095】
VEP(視覚誘発電位)検出:全てのラットの2つの眼のVEPを、国際臨床視覚電気生理学標準を参照して投与前及び7日/14日/21日の投与後に検出した。腹腔内注射により5%の抱水クロラールで動物に麻酔した後に、化合物トピラミンの点眼剤によりラットに散瞳を行った。耐干渉性を低下させるために、ラットの大泉門及び視覚野に対応する体表面上の毛を除去した。ラットを暗室に保持し、30分間にわたり環境に順応させた。全視野フラッシュ刺激装置を採用した(刺激周波数1.0Hz、周波数帯域幅0.1Hz~75Hz)。分析時間は250msであり、サンプリング周波数は2.7Hzであり、それを100回重ね合わせ、測定は連続して少なくとも3回行った。皮膚記録電極は7mmのディスク形状の塩化銀であり、作用電極は角膜の表面に配置され、参照電極は同側股に配置され、そして接地電極は尾の皮下組織に配置された。一方の眼を確認する時には、もう一方の眼は不透明な黒いアイマスクで完全に覆った。VEPの記述においてab波較正法を採用した。潜時及び振幅のその他の変動妨害を排除するために、臨床診療と一致するL5b及び振幅A5を観察指標として使用した。毎回3つの安定した波形を観察して、記録し、そしてL5b及びA5の平均値を観察値として使用した。
【0096】
従来のヘマトキシリン及びエオシン染色(HE染色):6匹のラットを各群から無作為に選択し、それらの眼球及び眼窩の眼神経を、5%の抱水クロラールの腹腔内注射により麻酔した後に完全に摘出した。それらをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)ですすぎ、角膜、水晶体、及び硝子体を手術顕微鏡下で取り出した。眼杯及び視神経を4%のパラホルムアルデヒド緩衝液中に浸漬させて、それらを24時間にわたり固定した。組織を取り出し、PBSで3回すすぎ、エタノールで勾配(50%のエタノールで90分間、70%のエタノールで90分間、85%のエタノールで90分間、95%のエタノールで60分間、100%のエタノールで60分間)により脱水した。それをキシレンとエタノールとの1:1混合物中に1時間にわたり浸し、次いで純粋なキシレン中に1時間にわたり浸した。パラフィン浸漬、包埋、及び切片化:ヒアリン化された組織を、パラフィンとキシレンとの1:1混合物中に90分間にわたり浸漬させ、次いでパラフィン中に120分間にわたり置き、そして直ちに冷却した。次いで、眼杯標本を5μmで連続的に切り出し、後に使用するために60℃でベーキングした。これらのスライドを、キシレン中で5分間にわたり浸漬させ、その作業を3回繰り返した。該スライドを、エタノール中で順次勾配(100%、90%、及び70%)によりそれぞれ5分間にわたり浸漬させ、これらの切片を最後に水道水で5分間にわたり洗浄した。該スライドを、ヘマトキシリン染色において5分間にわたり染色した。スライド上の過剰な染色液を水で洗い流してから、75%のHClエタノール溶液で色を10秒間分離させ、該スライドを、小核及び核クロマチンが顕微鏡下で明らかに検出されるまで水道水で洗浄した。それを0.5%のエオシン溶液で5分間にわたり染色し、そして70%のエタノール、85%のエタノール、95%のエタノール、及び100%のエタノールで順次2分間にわたり脱水した。それをキシレンにより毎回1分間にわたり2回ヒアリン化させた。切片の周囲の過剰なキシレンを拭き取り(切片が乾燥してはならないことに注意する)、適量の中性ガムを素早く滴加し、それらのスライドを覆ってから、網膜形態及びRGCの変化を、光学顕微鏡下及び試料写真で観察した。
【0097】
全網膜パッチ、Brn3a免疫蛍光染色、及びRGCのコンピュータ画像解析:6匹のラットを各群から無作為に選択し、それらの眼球を、5%の抱水クロラールの腹腔内注射により麻酔した後に完全に摘出し、PBSですすいだ。眼球を4%のパラホルムアルデヒド緩衝液中に浸漬させて、それらを室温で30分間にわたり固定した。次いで、角膜、虹彩、及び水晶体を手術顕微鏡下で摘出し、そして残りの眼杯組織を4%のパラホルムアルデヒド緩衝液中に再浸漬させて、それらを室温で30分間にわたり固定した。網膜を平らにするために強膜に4つの放射状の切れ目を入れた。網膜を優しく剥離し、PBSで1回
すすぎ、次いで、硝子体を上向きに置き、残りの硝子体を刷毛先で慎重に取り除き、網膜パッチを調製し、4℃で一晩乾燥させた。その網膜パッチをPBSで5分間にわたり合計3回すすぎ、そして網膜全体を0.5%のTriton-X100(PBSで調製した)ブロッキング溶液でブロッキングし、室温で15分間にわたり閉じ込めた。過剰のブロッキング溶液をPBSで5分間にわたり全部で3回すすぎ、次いでBrn3a一次抗体を含有する希釈剤(2%のウシ血清アルブミン及び2%のTriton-X100をPBSに溶解させた。抗体の希釈率は1:100であった)と一緒に4℃で一晩インキュベートした。それをPBSにより5分間にわたり全部で3回すすいだ。二次抗体の希釈剤による調製物(Cy3標識されたロバ抗ヤギ二次抗体、希釈率1:200)を添加し、室温で2時間にわたりインキュベートした。最後にそれをPBSで10分間にわたり全部で3回すすぎ、ブロッキングし、次いで蛍光顕微鏡下に置き、観察し、そして写真撮影した。カメラ及びアドビ社のPhotoshopソフトウェアを使用して、視神経乳頭を中心として試験網膜パッチから写真を収集した。Scion画像分析ソフトウェア(Scion Corp.社、
メリーランド州、フレデリック)を使用して、視野(7200平方ミクロン、40倍の倍率)中のBrn3a陽性網膜細胞の総数を数えた。顕微鏡下で視神経乳頭から等距離を有する4箇所~6箇所の異なる領域からRGCを数えた。網膜の標識細胞数の比較パラメータを表すために平均値を計算した。SPSS 21.0統計ソフトウェア(イリノイ州、シカゴ)を採用して、データの統計分析を行った。実験データは、実験の平均±標準偏差(平均±SEM)で表現した。データを分散により分析し、そして群間の統計分析を一元配置分散分析法によって検査した。P<0.05は統計学的に有意差があることを意味した。
【0098】
上記結果により、本発明において提供されるリガンド修飾されたAuCは、投与群におけるモデルラットの右眼の視野欠損を狭くし、RGCのアポトーシスを減少させ、網膜細胞の構造及び配列を改善し、そしてモデルラットの右眼の機能障害の軽減に重要な役割を担い得ることが示されたことから、AuCは、緑内障を予防及び治療するための薬物を製造するために使用され得ることが示された。
【0099】
実験2:
1)視神経挫滅損傷ラットモデルの作製
SPFの成体の雄のスプラグ・ダウレイ(SD)ラットを、1週間にわたり順応させた後に、ケタミン(50mg/kg)及びキシラジン(10mg/kg)の腹腔内注射により麻酔した。ラットの眼の周りの毛及び皮膚を、1:10希釈率のポビドンヨード溶液で消毒し、結膜嚢を生理食塩水で洗浄した。血管の拡張を避けるために、結膜を、外側眼角の約2mm上の位置から切開し、そして鈍的剥離を後方に外直筋外側に沿って行い、眼球結膜を持ち上げて、眼球を前方に僅かに引っ張ることで視神経を露出させた。次いで、止血鉗子を使用して、視神経を眼球の後方約2mmで30秒間にわたりクランプし、眼球を慎重に元の位置に戻して、眼科用抗生物質ゲルを手術用結膜嚢に適用した。動物をケージに戻し、意識を取り戻すまで観察した。鎮痛薬を該モデルの作製後の1日~3日間に与えた。手術後に、視神経挫滅ラットモデルの作製に成功したかどうかを観察した。合併症(網膜虚血及び網膜前方の硝子体出血等)が観察されなかった場合に、それを成功したモデルとみなした。不成功のモデルは実験から取り除くこととする。全てのラットの左眼はコントロールとして処置しなかった。
【0100】
2)動物実験:コンピュータ生成無作為法を採用して60匹のSPFの成体SDラットを5つの群(n=12匹のラット/群)に分けた。該動物群の1つは、ノーマルコントロール群として一切処置を行わなかった。その他の動物群の右眼を使用して、クランプ法によりラット視神経挫滅モデルを作製した。それらの群は、ネガティブコントロール群、低用量群、中用量群、及び高用量群であった。モデル作製日を1日目として記録した。生理食塩水中の0.1g/L、0.2g/L、又は0.5g/LのL-NIBC修飾されたA
uCを、それぞれ低用量群、中用量群、及び高用量群においてモデル作製日以降1日3回、10μL/眼でラットの右眼に滴加した(投薬間隔は5±0.5時間であった)。生理食塩水を、コントロール群においてモデル作製日以降1日3回、10μL/眼でコントロールとしてラットの右眼に滴加した。それぞれの群におけるラットのfVEP(フラッシュ視覚誘発電位)を、それぞれ7日目及び14日目に測定した。15日目に全ての動物を屠殺した。それらの右眼を取り出して適切に処置し、HE染色及び免疫蛍光染色を行った(n=6匹/群)。
【0101】
3)検出指標、及び検出法
フラッシュ視覚誘発電位(fVEP):Roland Consult社の電気生理学的診断システム(RETIport VEP-ERG-AEP バージョン6.16.3.4、ドイツ)を採用して、実験前に全ての動物のfVEPの確認を行い、次いで該動物の右眼のfVEPの確認を、それぞれの群において7日目及び14日目に行った。主工程:実験前に、上記動物を、少なくとも12時間にわたり暗所に順応させた。1.0%のトロピカミドにより該動物に散瞳を行い、それらの動物にケタミン(50mg/kg)及びキシラジン(10mg/kg)の腹腔内注射により麻酔した。それらの動物を匍匐状態で昇降台上に置き、接地電極をラットの尾根の皮下組織に挿入し、参照電極をラットの口内に配置し、そして試験電極をラットの後頭結節の皮下組織に挿入した。それぞれの電極の抵抗を確認した。要件が満たされた後に電気生理学的信号の収集を開始し(刺激周波数1.3Hz、周波数帯域7.3Hz)、fVEP波形をNP波較正法により記述し、N2及びP2の平均値を観測値として選択し、それぞれ動物の安定波形を繰り返し3回収集した。SPSS 21.0統計ソフトウェア(イリノイ州、シカゴ)を採用して、データの統計分析を行った。実験データは、平均±標準偏差(平均±SEM)で表現した。データを分散により分析し、そして群間の統計分析を一元配置分散分析によって検査した。P<0.05は統計学的に有意差があることを意味した。
【0102】
全網膜パッチ及びBrn3a免疫蛍光染色:6匹のラットをそれぞれの群から無作為に選択し、安楽死させた後に右眼球を取り出し、針を用いて強角膜接合部に数個の穴を開け、4%のパラホルムアルデヒド中に約20分間にわたり保持した後に、それらの眼球を取り出し、そして角膜及び水晶体を摘出した。網膜を氷表面上で慎重に剥離し、四つ葉形状に切り、そして4%のパラホルムアルデヒドへと戻して5分間にわたり固定した。その網膜を0.01mol/Lのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で6分間にわたりすすいだ。ブロッキング溶液(UltraCruz(商標)ブロッキング試薬、製品番号:SC-516214、バッチ番号:C1317、Santa Cruz Biotechnology, Inc.社)を加え、室温で2時間にわたり振盪器上にて振盪し、その後に吸引した。Brn-3a抗体(14A6)を添加した(製品番号:SC-8429、バッチ番号B1216、Santa Cruz Biotechnology, Inc.社、希釈剤により1:50で希釈した後に使用した;希釈剤:2.5mLのブロッキング溶液及び0.15mLのTritonX-100を47.35mLのPBSに添加し、そして十分に混合した)。それを約72時間にわたり2℃~8℃で振盪器上にて振盪及びインキュベートした。次いでそれを取り出し、室温になるまで30分間にわたり平衡化させた後に、PBSで5回洗浄した。M-IgGκ BP-CFL 488(製品番号:SC-516176、バッチ番号A1917、Santa Cruz Biotechnology, Inc.社、希釈剤により1:100で希釈した後に使用した)を加え、2℃~8℃で一晩振盪器上にて振盪及びインキュベートした。それをPBSで5回洗浄し、スライド上に置いた。次いで該スライドを封入剤で封入した。蛍光顕微鏡を使用して、Brn3a染色された陽性神経節細胞(網膜神経節細胞、RGC)を観察し、評価した。四つ葉状の網膜パッチの各葉部の中心を40倍の共焦点顕微鏡下で写真撮影し、各写真におけるRGCを64ビットのJava 1.6.0_24ソフトウェアがバンドルされたImageJ(寸法選択範囲:50~無限)により計数し、そして4つの計数の平均値をこの動物のRGC量として使用した。SPSS 21.0統計ソフトウェア(イリノイ州、シカゴ)を採用して
、データの統計分析を行った。P<0.05は統計学的に有意差があることを意味した。
【0103】
病理組織学的検査(ヘマトキシリン-エオシン染色、HE染色):6匹のラットを各群から無作為に選択し、その眼球を安楽死後に採取し、改変デビッドソン溶液中に入れて24時間~72時間にわたり固定した後に、10%の中性緩衝ホルマリン溶液に移した。眼球をHE染色の前に取り出し、PBSで3回洗浄し、エタノールで勾配(50%のエタノールで90分間、70%のエタノールで90分間、85%のエタノールで90分間、95%のエタノールで60分間、100%のエタノールで60分間)により脱水した。それをキシレンとエタノールとの1:1混合物中に1時間にわたり浸し、次いで純粋なキシレン中に1時間にわたり浸した。パラフィン浸漬、包埋、及び切片化:ヒアリン化された組織を、パラフィンとキシレンとの1:1混合物中に90分間にわたり浸漬させ、次いでパラフィン中に120分間にわたり置き、そして直ちに冷却した。次いで、眼杯標本を5μmで連続的に切り出し、後に使用するために60℃でベーキングした。スライドを、キシレン中で5分間にわたり浸漬させ、その処置を3回繰り返した。該スライドを、エタノール中で順次勾配(100%、90%、及び70%)によりそれぞれ5分間にわたり浸漬させ、それらのスライドを最後に水道水で5分間にわたり洗浄した。該スライドを、ヘマトキシリン染色において5分間にわたり染色した。スライド上の過剰な染色液を水で洗い流してから、75%のHClエタノール溶液で色を10秒間分離させ、該スライドを、小核及び核クロマチンが顕微鏡下で明らかに検出されるまで水道水で洗浄した。それを0.5%のエオシン溶液で5分間にわたり染色し、そして70%のエタノール、85%のエタノール、95%のエタノール、及び100%のエタノールで順次2分間にわたり脱水した。それをキシレンにより毎回1分間にわたり2回ヒアリン化させた。切片の周囲の過剰なキシレンを拭き取り(切片が乾燥してはならないことに注意する)、適量の中性ガムを素早く滴加し、それらのスライドを覆った。病理切片を光学顕微鏡下で観察し、40倍の光学レンズの下で写真を撮影した。各々の解剖体を、視神経の2つの端部に2つの視野を選ぶことにより写真撮影し、次いで同じ大きさの計数フレーム(計数フレームの寸法:長さ18.00cm×幅3.47cm)で囲った。各写真の計数フレーム中のRGC量を、それぞれ2人で計数した。2人の計数の平均値を、各々の写真における細胞量とみなした。最終的に、各々の眼の4回の計数の平均値が、この動物のRGC量とみなされた。SPSS 21.0統計ソフトウェア(イリノイ州、シカゴ)を採用して、データの統計分析を行った。P<0.05は統計学的に有意差があることを意味した。
【0104】
実験結果は以下の通りであった:
1)モデルラットのfVEPに対する種々の用量でのAuCの効果
この実験においては、ラットの視神経損傷モデルを挫滅法により樹立した。SDラットのfVEPに対する種々の用量でのAuCの効果を、1日3回(投薬間隔5±0.5時間)で連続して14日間にわたり1回につき10μL/眼で、眼に滴下投与することにより、それぞれ7日目及び14日目にfVEPで評価した。視神経を挫滅させた後に、より低いfVEP振幅、より広い波形、及びより長い潜時は、より重度の損傷を意味した。
【0105】
N2潜時及びP2潜時:モデルの作製及び投与の前に、ノーマルコントロール群、ネガティブコントロール群、並びに低用量群、中用量群、及び高用量群における動物はN2潜時及びP2潜時に有意差を有しなかったことから(P>0.05)(図15及び図16)、実験のグループ分けがその後の実験結果に影響を及ぼさないことが示唆された。モデルの作製及び投与後の7日目及び14日目に、ノーマルコントロール群と比較して、ネガティブコントロール群、並びに低用量群、中用量群、及び高用量群における動物のN2潜時及びP2潜時は、大幅に延長された(P<0.0001)(図15及び図16)。それにより、この実験において視神経挫滅ラットモデルの樹立に成功したことが示された。モデルの作製及び投与後の7日目及び14日目に、ネガティブコントロール群と比較して、低用量群、中用量群、及び高用量群における動物のN2潜時及びP2潜時は、有意差を有し
なかった(P>0.05)(図15及び図16を参照)。
【0106】
N2-P2振幅:モデルの作製及び投与の前に、ノーマルコントロール群、ネガティブコントロール群、並びに低用量群、中用量群、及び高用量群における動物はN2-P2振幅に有意差を有しなかったことから(P>0.05)(図17のパネルA及びパネルB)、実験のグループ分けがその後の実験結果に影響を及ぼさないことが示唆された。モデルの作製及び投与後の7日目に、ノーマルコントロール群(22.2±2.3μV)と比較して、ネガティブコントロール群のN2-P2振幅(14.7±1.2μV)は大幅に減少したことから(33.7±5.4%だけ減少、P<0.05)、ラットの視機能及び視神経が大幅に影響を受けたこと、そしてこの実験において視神経挫滅ラットモデルの作製に成功したことが示された。ネガティブコントロール群と比較して、高用量群のN2-P2振幅(22.0±2.0μV)は大幅に増加した(49.4±9.1%だけ増加、P<0.05)。ネガティブコントロール群と比較して、低用量群及び中用量群のN2-P2振幅は、或る程度は増加したが(低用量群:20.2±1.6μV、37.6±7.3%だけ増加、中用量群:29.9±1.5μV、35.5±6.8%だけ増加)、それらは有意差を有しなかった(P>0.05)。モデルの作製及び投与後の14日目に、ネガティブコントロール群(13.2±1.5μV)のN2-P2振幅は、ノーマルコントロール群(19.7±1.2μV)のN2-P2振幅より大幅に低かった(32.9±8.0%だけ低下、P<0.05)。ネガティブコントロール群と比較して、AuCの高用量群におけるラットのN2-P2振幅(22.4±1.7μV)は、大幅に増加したが(69.0±8.5%だけ増加、P<0.01)、一方で、低用量群及び中用量群は、N2-P2振幅の改善に大きな効果を有しなかった(低用量群:15.2±1.2μV、14.5±6.2%だけ増加、P>0.05、中用量群:17.6±1.4μV、32.8±7.0%だけ増加、P>0.05)。上記の結果により、AuCの短期投与及び長期投与は、両者ともSDラットのN2-P2振幅を大幅に増加させることができ、そしてこの効果は、用量依存的であることが示された。一方で、顕微鏡下での観察により、AuCの投与は、視神経挫滅損傷モデルにより引き起こされる視野欠損を大幅に改善することができ、これもまた用量依存的であることが判明した。それにより、AuCは動物の視神経損傷に対して明らかな改善効果を有することが明らかになった。
【0107】
2)SDラットのRGCに対する種々の投与量でのAuCの14日間の連続投与の効果を確認するためのBrn3a免疫染色
Brn3aは、ニューロンの生存、分化関連遺伝子の活性化、並びにRGCの分化及び生存、並びに齧歯類の網膜発生の間の軸索伸長に重要な効果を有した。Brn3aは、RGCのための重要で非常に適したマーカーであった。Brn3a免疫染色においては、よりBrn3a陽性の細胞は、より多くのRGCの生存を意味する。その結果を図18に示した。ノーマルコントロール群(図18のパネルA)(単独の計数フレーム内のBrn3aにより染色された陽性細胞の数:126.5±7.0)と比較して、ネガティブコントロール群におけるBrn3a陽性細胞の数(7.6±1.6)(図18の画像B)は、ノーマルコントロール群における数の僅か6.0±1.3%にすぎないことから(P<0.01)(図18のパネルF)、視神経挫滅の後に動物の多くの神経節細胞が失われたことが示唆された。ネガティブコントロール群と比較して、AuCの高用量群におけるBrn3a陽性細胞の数(50.8±22.9)(図18のパネルE)は大幅に増加した(5.6倍だけ増加、P<0.01)(図18のパネルF)。ネガティブコントロール群と比較して、AuCの低用量群(図18のパネルC)及び中用量群(図18のパネルD)におけるRGC量は或る程度増加したが(それぞれ19.6±9.6及び15.8±5.4)、それらは統計的差異を有しなかった(P>0.05)(図18のパネルF)。上記の結果はfVEP実験結果を裏付けていることから、AuCは視神経の損傷後に神経節細胞の喪失に対して明らかな保護効果を有し、その効果は用量依存的であることが示唆された。
【0108】
3)SDラットの網膜組織形態及びRGC量に対する種々の投与量でのAuCの14日間の連続投与の効果を確認するためのHE染色
ラット網膜症例の切片をヘマトキシリン-エオシンで染色した(ヘマトキシリン-エオシン染色、HE染色)。こうして、網膜組織形態を、顕微鏡下で別の角度から観察することができ、一方で、RGCの数を数えた。その結果を図19に示した。ノーマルコントロール群(図19のパネルA)(単独の計数フレーム内のRGCの数:27.1±0.9)と比較して、ネガティブコントロール群(図19のパネルB)の網膜は、不均等な厚さを有する明らかな組織浮腫、RGCの喪失(15.5±0.5、44.8±1.8%だけ減少、P<0.01)、及びRGCの明らかな不均一な配列を示した。ネガティブコントロール群と比較して、AuCの高用量群におけるRGC量(19.1±1.2)(図19のパネルE)は大幅に増加し(27.4±4.4%だけ増加、P<0.05)、網膜組織構造は明らかに改善され、そして組織浮腫及び空胞形成は明らかに減少した。ネガティブコントロール群と比較して、AuCの低用量群(図19のパネルC)及び中用量群(図19のパネルD)のRGC量は、或る程度増加したが(低用量群:16.5±0.6、10.4±2.4%だけ増大、中用量群16.2±1.1、8.4±4.1%だけ増大)、それらは有意差を有しなかった(P>0.05)(図19のパネルF)。上記の結果は、Brn3aによって免疫染色されたRGCの計数結果に対応したことから、AuCは、視神経損傷により引き起こされるRGC喪失を減少させ、網膜構造及びRGCの配列を大幅に改善し、そして視神経に対する保護効果を有し、この効果は用量依存的であることが示唆された。
【0109】
上記の結果により、AuCが視神経挫滅損傷ラットモデルにおけるラットのfVEPのN2-P2振幅を大幅に増加させ得て、RGCの喪失を大幅に減少させ、視神経損傷、視野欠損、及びRGCのアポトーシスに対する保護効果を有し、網膜及び視神経組織構造の改善並びに視機能障害の軽減において重要な役割を担い、そして緑内障を予防又は治療する薬物を製造するためにAuC含有物質として使用され得ることが示された。
【0110】
表1に列挙されるその他のリガンドで修飾されたAuCは同様の効果を有するので、それらは本明細書で詳細に記載しないものとする。
【0111】
実施形態8:バイオセーフティ評価
1.SH-sy5y細胞系統を、AuC含有物質のバイオセーフティを細胞レベルで評価するために採用した。
【0112】
具体的な方法:細胞の対数増殖期にあるSH-sy5y細胞(第6代継代の細胞)を収集した。細胞懸濁液の濃度を調節し、それぞれのウェル中に100μLで添加した。それらの細胞を撒いて、細胞密度を1ウェル当たり1000個~10000個に調節した。細胞培養プレート(96ウェルプレートの縁のウェルを細胞培養培地で満たした)を、細胞インキュベーター中に入れ、細胞が壁部に接着するように5%のCO2中で37℃の環境
で24時間にわたりインキュベートした。該96ウェルプレートを取り出し、次いでアルコールによる殺菌後にバイオセーフティキャビネット中に入れた。当初の細胞培養培地を吸い出し、次いで表1に列挙されるリガンド修飾されたAuCの溶液を添加し、それらを細胞培養培地で希釈して、それぞれ1ppm、10ppm、50ppm、100ppm、200ppm、及び500ppmの最終濃度を得た。等容量の新しい細胞培養培地をコントロール群(AuCなし)に添加した。そしてそれを細胞インキュベーター中に入れ、48時間にわたりインキュベートした。実験群及びコントロール群のそれぞれについて、6連の重複ウェルを用意した。48時間のインキュベートの後に、培養培地を遠心分離により除去し、次いでPBSで2回~3回洗浄した。100μLの新しい培養培地及び20μLのメチルチアゾリルテトラゾリウム(MTT)溶液(5mg/ml、すなわち0.5%のMTT)を各ウェルに添加し、4時間にわたり培養し続けた。培養を止め、96ウェル
プレートを取り出し、10分間にわたり遠心分離(1000回転/分)した。上清を吸い出し、200μLのDMSOを各ウェルに添加し、振盪台上に載せ、ウェル中の色が均一になり、結晶が完全に溶解するまで低速で10分間にわたり振動させた。各ウェルの吸光度を、マイクロプレートリーダにより490nmで測定した。上記作業は、滅菌環境で実施せねばならない。検出を除き、全ての工程はバイオセーフティキャビネット中で完結させた。実験用品を、使用前にオートクレーブ中で殺菌した。
【0113】
実施形態2におけるL-NIBC修飾されたAuCを例にとり、それらの結果を図20に示した。そこではパネルA~パネルCは、2.6nm、1.8nm又は1.1nmの粒度を有するAuCの、1ppm、10ppm、50ppm、100ppm、200ppm又は500ppmの最終濃度でのSH-sy5y細胞生存性に対する効果を示した。かなり高い濃度(例えば100ppm)でも、L-NIBC修飾されたAuCの添加は、細胞生存性に対して殆ど何ら影響を及ぼさないことが示された。より高い濃度(例えば200ppm及び500ppm)では、L-NIBC修飾されたAuCの添加は、僅かしか細胞の傷害をもたらさないこととなる(細胞死の率は20%未満である)。100ppmはAuCの最小効果濃度(0.1ppm以下)よりも遥かに高いので、L-NIBC修飾されたAuCは、細胞レベルで高い安全性を有すると結論付けることができた。
【0114】
種々のサイズを有するその他のリガンド修飾されたAuCはまた、同様の効果を有していた。それらは本明細書では詳細に記載しないこととする。
【0115】
2.AuC含有物質の急性毒性を評価するためのマウス急性毒性研究の採用
具体的な方法:表1に列挙される種々のリガンド修飾されたAuC(実施形態2における1.8nmの平均直径を有するL-NIBC修飾されたAuCを例にとる)に関して、60匹の成体マウスを、1つのコントロール群及び3つの実験群である、各々の群内に15匹のマウスを有する4つの群に分けた。コントロール群においては、マウスには通常の給餌を行ったが、3つの実験群においては、マウスには、経口投与(強制栄養により)により、それぞれ1日につき0.1g/体重kg、0.3g/体重kg、及び1g/体重kgの用量で通常の食餌条件下で1週間にわたりAuCを供給した。AuCの供給が終わった後に、それらのマウスには30日間にわたり通常の給餌を行った。マウスの異常な応答を観察した。
【0116】
上記のマウス実験において、種々のサイズを有するAuCの3つの濃度での摂取は、マウスの生存及び活動に影響を及ぼさなかった。1g/体重kgの高用量摂取の場合でさえも、マウスは健康なままであった。
【0117】
表1に列挙されるその他のリガンド修飾されたAuCはまた、同様の結果を有していた。それらは本明細書では詳細には記載しないこととする。上記結果に基づいてAuCが非常に安全であると結論付けることができた。
【0118】
実施形態9:マウスにおけるAuCの組織分布及び代謝分布
実験1:
作業工程:80匹のマウスを、各々の群内に20匹のマウスで4つの群に無作為に分け、表1に列挙されるリガンド修飾されたAuCを経口投与(強制栄養により)により上記群においてそれぞれ100mg/kg、20mg/kg、5mg/kg、及び1mg/kgの用量で供給した。AuCを供給した後で、各々の群内の20匹のマウスを、各小群内に5匹のマウスを有する4つの小群に無作為に分けた。それらのマウスを、供給後のそれぞれ2時間、6時間、24時間、及び48時間の時点で屠殺した。心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓、及び脳の組織を別々に採取した。各組織を秤量し、2mLの水を添加して均質化し、次いで2mLの王水を添加し、ボルテックス混合し、振動装置上で72時間にわたり
振動させた。2重量%の硝酸溶液を添加して10mLの最終容量にし、15000rpmで15分間にわたり遠心分離した。4mLの上清を吸引し、組織液中の金元素の含量を、原子吸光分光法により測定した。
【0119】
上記結果により、AuCが血液-脳関門を通過することができ、脳に到達することが示された。AuCは時間の経過と共に体外へ排出され得るので、体内での明らかな蓄積を有しなかった。したがって、本発明において提供されるAuC含有物質は、AD又はPDを治療する医薬を製造する用途において良好な展望を有した。
【0120】
実験2:
作業工程:80匹のマウスを、各々の群内に20匹のマウスで4つの群に無作為に分け、表1に列挙されるリガンド修飾されたAuCを腹腔内注射した。各群におけるAuCの用量(1.8nmの平均直径を有するL-NIBC修飾されたAuCを例にとる)は、それぞれマウスの体重の100ppm、20ppm、5ppm、及び1ppmであった。AuCを注射した後で、各々の群内の20匹のマウスを、各群内に5匹のマウスを有する4つの群に無作為に分けた。それらのマウスを、投与後のそれぞれ2時間、6時間、24時間、及び48時間の時点で屠殺した。心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓、及び脳の組織を別々に採取した。各組織を秤量し、2mLの水を添加して均質化し、次いで2mLの王水を添加し、ボルテックスにより混合し、振動装置上で72時間にわたり振動させた。2重量%の硝酸溶液を添加して5mLの最終容量にし、15000rpmで15分間にわたり遠心分離した。1mLの上清を吸引し、組織液中の金元素の含量を、原子吸光分光法により測定した。
【0121】
表1に列挙されるその他のリガンドで修飾されたAuCについて実験を実施するために上記工程を採用した。
【0122】
上記結果により、2時間後に、脳内の金元素の含量が初期濃度の1%~10%に達することが示された。6時間後に、脳内の含量は同様のレベルで維持され得た。24時間後に、脳内の含量は大きく減少した。48時間の時点で、上記含量は100ppmの用量での検体を除き、検出限界近く又はそれを下回るまで減少した。上記結果により、AuC含有物質が動物レベルで良好なバイオセーフティを有し、血液-脳関門を通過することができ、体内での明らかな蓄積を有しないことが示された。
【0123】
まとめると、上記実験結果は、以下の点を明らかにした(以下に挙げられる「金ナノ粒子」及び「AuC」は全て、リガンド修飾を伴う場合を指す)。
【0124】
(1)in vitroでのAβの凝集についての実験(実施形態3)において、金ナノ粒子のAβの凝集動態に対する効果が、サイズに関連することが判明した。粒径が10.1nm以上である場合に、金ナノ粒子の添加は、Aβの凝集を促進し得て、粒度が6.0nm以下である場合に、Aβの凝集は阻害されるが、Aβの凝集の完全な阻害は達成され得なかった。しかしながら、AuCが使用される場合に(平均直径は3nm未満である)、全てのAuCは、in vitroでAβの凝集を大幅に阻害し、この効果は、AuCの濃度に関連していた。AuCの濃度が5ppm~10ppmに達した場合に、Aβの凝集は完全に阻害され得て、完全な阻害のために必要とされる最小濃度は、リガンドの種類及びAuCの直径に関連していた。
【0125】
(2)RGC-5視神経節細胞損傷モデル実験(実施形態4~実施形態6)において、本発明における種々のリガンドで修飾された種々のサイズ(平均直径は3nm未満)のAuCが、RGC-5損傷モデルの細胞生存性を大幅に増加させ得たことから、AuCは細胞レベルで大きな効力を有することが示唆された。比較して、より大きなサイズの金ナノ
粒子は、大きな効果を有しなかった、又は効果を有しなかった。どのリガンドもAβの凝集及び種々のRGC-5視神経節細胞損傷モデルに対して効果を有しなかったので(実施形態3~実施形態6)、AuCの効力がAuC自体に起因すると結論付けることができた。それは、AuCの利用のための新しいアプローチを提供した。
【0126】
(3)さらに、本発明はラット緑内障視神経クランプ損傷モデル(実施形態7)を採用して、AuCの効力を更に検証したことで、AuCは、視神経挫滅損傷モデルにおけるラットのfVEPのN2-P2振幅を大幅に増加させ得て、RGCの喪失を大幅に減少させ、視神経損傷、視野欠損、及びRGCのアポトーシスに対する明らかな保護効果を有し、網膜細胞の構造及び配列の改善に明らかな役割を担うことが示された。それにより、AuCは緑内障関連の視機能障害を軽減し、関連疾患を予防及び/又は治療する薬物を製造するために使用され得ることが示された。
【0127】
(4)バイオセーフティの更なる評価のための実験において(実施形態8)、100重量ppm(以降のppmは重量割合を指す)の濃度でのAuCが神経細胞と同時培養された場合に、AuCは細胞の生存性に明らかな影響を及ぼさず、その濃度が100ppmを超過した場合に(AuCの最小効果濃度より遥かに高い)、細胞生存性は僅かに減少した。AuCの最小効果濃度(0.1ppm~1ppm)は100ppmより遥かに低いので、AuCは細胞レベルで優れたバイオセーフティを有すると結論付けることができた。マウス急性毒性試験においては、1日1回で7日間にわたり連続的に投与された1g/体重kg(1000ppmに相当)の用量のAuCは、有害作用を及ぼさないことが判明した。マウスにおけるin vivo分布及び薬物動態の研究において(実施形態9)、脳内の金元素の含量が、2時間後に初期濃度の1%~10%に達した。6時間後に、脳内の含量は、同様のレベルで維持された。24時間後に、脳内の含量は大きく減少した。48時間の時点で、上記含量は、100ppmの用量での検体を除き、検出限界を下回るまで減少した。上記の結果により、AuC含有物質は動物レベルでも良好なバイオセーフティを有し、血液-脳関門を通過することができ、そして体内での明らかな蓄積を有しないことが示され、こうして緑内障を治療する医薬の製造での用途において十分な展望が示された。
【0128】
(5)現行技術と比較して、本発明で使用されるリガンドは、Aβの凝集挙動のために特別に設計されておらず、対比実験により、使用されるリガンドは、Aβの凝集に対して明らかな効果を有しないことが示された(実施形態3)。しかしながら、AuCのサイズはそのAβタンパク質自体のサイズより小さいので、Aβの凝集は、サイズ効果及び弱い分子相互作用の組み合わせにより大きく阻害され得た。RGC-5視神経節細胞損傷モデル及びラットの緑内障視神経クランプ損傷モデルにおける優れた効力により、更に緑内障の予防又は治療のための医薬の製造におけるAuCの可能性が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明は、緑内障を予防及び/又は治療する薬物の製造におけるAuC含有物質の使用を提供する。上記AuC含有物質は、緑内障の視神経挫滅損傷ラットモデルにおけるラットのRGCの喪失を大幅に減少させ、視神経損傷に対する明らかな保護効果を有し、そして視野欠損を狭くすることができ、RGCのアポトーシスを減らし、網膜及び視神経組織構造の改善並びに視機能障害の軽減において重要な役割を担い、そして動物レベルで良好な生体適合性を有し、緑内障を予防及び/又は治療する新規の薬物として使用され得る。AuC含有物質は、産業上の利用のために適している。
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