(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022046715
(43)【公開日】2022-03-23
(54)【発明の名称】インフルエンザ効力アッセイ
(51)【国際特許分類】
G01N 33/15 20060101AFI20220315BHJP
A61K 39/145 20060101ALI20220315BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20220315BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
G01N33/15 B
A61K39/145
A61P31/16
A61P37/04
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021215382
(22)【出願日】2021-12-29
(62)【分割の表示】P 2020196110の分割
【原出願日】2016-07-07
(31)【優先権主張番号】15175765.5
(32)【優先日】2015-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】16152829.4
(32)【優先日】2016-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
3.BRIJ
4.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】517323533
【氏名又は名称】セキラス ユーケー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Seqirus UK Limited
【住所又は居所原語表記】Point, Level 3, 29 Market Street, Maidenhead, Berkshire, England SL6 8AA
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】インシャ ウェン
(72)【発明者】
【氏名】イーサン シー. セッテンブレ
(72)【発明者】
【氏名】ジハオ ワン
(57)【要約】
【課題】活性の免疫原性コンフォメーションと、不活性対応物との構造的差違を識別するように、生物物理的測定(免疫化学的測定と対比される)に基づくアッセイを提供する。
【解決手段】本発明は、従来型のSRIDアッセイを、本明細書で記載される生物学的タンパク質分解の利益、すなわち、HAの免疫原性形態と、HAの低免疫原性形態とを鑑別する能力を利用するように改変した、改良型SRIDアッセイを提供する。本発明の別の態様は、SRIDの前に、生物学的タンパク質分解(例えば、トリプシン前処理)のステップを組み込み、これにより、試料中の、免疫学的に活性であるHAの量を決定することにおけるアッセイの精度を改善するSRIDアッセイを提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、欧州特許出願第15175765.5号(出願日2015年7月7日)および欧州特許出願第16152829.4号(出願日2016年1月26日)の利益を主張しており、これら出願の全体の内容は、すべての目的のために参考として本明細書中に本明細書によって援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は一般に、ワクチン、より具体的には、インフルエンザワクチンについてのアッセイに関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
インフルエンザの近年の大流行は、潜在的に致死性の合併症を有するこの疾患から、一般の公衆を防御するのに十分な量のインフルエンザワクチンを迅速に作製し、出荷する必要を浮き彫りにしている。
【0004】
不活化インフルエンザワクチン中のヘマグルチニン(HA)含量についての標準的アッセイは、WHOにより、1978年に、赤血球の凝集に基づく試験を置き換えるように推奨された、一元放射免疫拡散(「SRID」)(参考文献1および2)に基づく。
【0005】
SRIDアッセイは、十分に確立されているが、実施に時間がかかり、ダイナミックレンジが小さく、大幅なばらつきを受けやすく、要請される特異的な抗HA血清を調製および較正するのに長期間を要しうる。ワクチン中のインフルエンザ株は、毎シーズン変化するが、これらの基準試薬は、株が変化するたびに新たに調製および較正する必要があるため、これは、インフルエンザワクチンロットの出荷に対するボトルネックとなっている。これは、インフルエンザワクチンを、可能な限り迅速に調製する必要がある、インフルエンザ汎発(pandemic)の場合に、特に問題である。
【0006】
SRIDアッセイでは、将来の免疫原性形態を優先的に認識するように、アッセイにおいて使用される抗血清を調整しうると一般に考えられている(参考文献125)が、このような抗血清は、完全に特異的ではありえず、いずれの形態とも反応しうるため、SRIDアッセイの別の欠点は、それが、インフルエンザヘマグルチニン(HA)抗原の免疫原として活性の形態と、免疫原性として活性でない形態とを、信頼できる形で識別しえないことである。インフルエンザワクチンの免疫原性(よって、免疫防御)は、免疫原として活性のHAの量により決定されるので、アッセイが、免疫原として活性の形態のHAを特異的に測定することが可能であることが望ましい。
【0007】
参考文献3は、限外濾過の後に逆相高圧液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)が続く、SRIDアッセイに対する代替法を示唆しており、参考文献4および5は、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)ベースのアッセイについて教示している。参考文献6および7は、定量的質量分析ベースのアッセイを開発した。これらのアッセイは、総HAを正確に定量することができ、株特異的抗血清に依存しなかったが、免疫学的に活性のHAを、不活性HAから鑑別できなかった。ELISAアッセイは、免疫学的に活性のHAを特異的に定量することが可能であったが、ワクチンを出荷しうる前に必要とされる時間を顕著に増大させる、株特異的な抗体の作出に依拠した(参考文献8)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明の要旨
本発明は、既存のインフルエンザ効力アッセイに関する問題の源泉の同定を包含する。したがって、本発明は、少なくとも部分的に、ワクチンを作製するためのインフルエンザウイルス抗原を定量するのに使用される従来型の方法が、ワクチン中に免疫原として含まれるインフルエンザウイルスタンパク質の量を正確に測定していないという認識に基づく。本明細書および他の箇所で提示される作業結果は、単離されたインフルエンザウイルスタンパク質が、in vitroのイムノアッセイでは、抗原として作用しえるが、in vivoでは、免疫応答を誘発する機能的免疫原として作用しえないことを示唆する。その中に含有される機能的な免疫原の正確な量を反映するインフルエンザワクチンを製造しうるように、これらの、機能的かつ構造的に顕著に異なる形態の、インフルエンザタンパク質を鑑別して測定することが火急に必要とされている。この目的のために、本開示の発明者らは、活性の免疫原性コンフォメーションと、不活性対応物との構造的差違を識別するように、生物物理的測定(免疫化学的測定と対比される)に基づくアッセイを開発しようと努めた。この手法の根拠は、i)タンパク質/抗原自体についてのより直接的な評価;ii)このようなアッセイを実行しうる速度;iii)複数の抗原を伴う試料を同時に処理しうる簡便性;および/または、iv)対応する抗血清(典型的に、ヒツジ抗血清)の利用可能性への依拠が不要であることを含む。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本明細書で提供される方法は、ワクチン製造元が、生成物中に含まれるタンパク質の総量だけでなく、どのくらいの量の免疫原性抗原が、それらのそれぞれのワクチン中に含有されているのかを、正確に指し示すことを可能とする。どのくらいの量の免疫原性HAが、ワクチン中に存在するのかを決定することは必要であり、また、どのくらいの量の非機能的なHAが、ワクチン中に存在するのかを知ることも望ましく、よりワクチンの純度および効能へと焦点をシフトさせることも一助となるため、これは、公衆衛生上の観点から重要である。
【0010】
したがって、本発明の目的は、従来型のSRIDアッセイより迅速なインフルエンザ効力アッセイを提供し、インフルエンザワクチン中で、免疫原として活性であるHAの量についての信頼できる評価をさらに提供することである。
【0011】
本発明はさらに、従来型のSRIDアッセイを、本明細書で記載される生物学的タンパク質分解の利益、すなわち、HAの免疫原性形態と、HAの低免疫原性形態とを鑑別する能力を利用するように改変した、改良型SRIDアッセイも提供する。したがって、本発明の別の態様は、SRIDの前に、生物学的タンパク質分解(例えば、トリプシン前処理)のステップを組み込み、これにより、試料中の、免疫学的に活性であるHAの量を決定することにおけるアッセイの精度を改善するSRIDアッセイを提供する。適切な試料は、本明細書で規定される試料でありうる。適切な試料は、例えば、抗原バルク調製物(モノバルクなど)、製造の間および/または最終的な製剤化の後における中間体調製物、出荷の前における最終的なワクチン製剤および/またはワクチン製品、保管の後におけるワクチン製品などから得ることができる。生物学的タンパク質分解による前処理を伴うSRIDは、本明細書で記載される通り、従来型のSRIDフォーマットにおいて見られる、免疫学的に活性であるHAについての過大評価を有利に回避する。
【0012】
本明細書で記載される方法は、インフルエンザワクチンの製造の間において、インフルエンザウイルス抗原の量を測定することのほか、品質管理の目的、例えば、持続期間の後、例えば、保管の後における、試料(中間体調製物、バルク調製物、および最終的なワクチン製品を含む)の効力を査定することにも適する。
特定の態様では例えば以下の項目が提供される:
(項目1)
a)免疫原性HA、不活性HA、またはこれらの組合せを含む試料を提供するステップと;
b)前記試料を、生物学的タンパク質分解に供するステップであって、前記不活性HAが消化され、前記免疫原性HAが消化されないままであるステップと;
c)前記試料中の、前記消化された不活性HAを、前記消化されていない免疫原性HAから分離するステップと;
d)消化された免疫原性HAの断片を提供するように、前記消化されていない免疫原性HAを、解析的タンパク質分解に供するステップと;
e)少なくとも1つの標識化基準HAペプチドの存在下で、液体クロマトグラフィー-エレクトロスプレーイオン化-タンデム質量分析(LC-ESI-MS)を実行して、前記試料中の免疫原性HAの量を定量するステップと
を含む方法。
(項目2)
a)免疫原性HA、不活性HA、またはこれらの組合せを含む試料を提供するステップと;
b)前記試料を、1種または複数種のプロテアーゼにより、生物学的タンパク質分解に供するステップであって、前記不活性HAが、消化され、前記免疫原性HAが、消化されないままであるステップと;
c)前記不活性HA由来のペプチドと識別可能な、免疫原性HA由来のペプチドを含む、消化された免疫原性HAの断片を提供するように、消化されていない免疫原性HAと、消化された不活性HAとの混合物を、1種または複数種のプロテアーゼを使用する解析的タンパク質分解に供するステップであって、前記解析的タンパク質分解が、生物学的タンパク質分解の間に、前記不活性HA内で切断されうる、1つまたは複数の切断部位において、前記免疫原性HAを切断しえないステップと;
d)少なくとも1つの標識化基準HAペプチドの存在下で、液体クロマトグラフィー-エレクトロスプレーイオン化-タンデム質量分析(LC-ESI-MS)を実行して、前記試料中の免疫原性HAの量を定量するステップと
を含む方法。
(項目3)
試料中の免疫原性インフルエンザHAを定量するための方法であって、
a)前記試料を、生物学的タンパク質分解に供するステップと;
b)前記試料中の前記免疫原性HAを、他の成分から分離するステップと;
c)前記試料中の前記免疫原性HAを定量するステップと
を含む方法。
(項目4)
前記生物学的タンパク質分解が、プロテアーゼによるタンパク質分解を含む、項目1または3に記載の方法。
(項目5)
前記プロテアーゼが、トリプシンなどのセリンプロテアーゼである、項目4に記載の方法。
(項目6)
前記免疫原性HAを、液体クロマトグラフィー-エレクトロスプレーイオン化-タンデム質量分析(LC-ESI-MS)により定量する、項目3から5のいずれか一項に記載の方法。
(項目7)
前記免疫原性HAを分離するステップが、タンパク質沈殿を含む、項目1および3から6のいずれか一項に記載の方法。
(項目8)
前記タンパク質沈殿が、有機溶媒を添加するステップを含む、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記有機溶媒が、アセトン、エタノール、またはメタノールである、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記沈殿したタンパク質を、アルコール、例えば、エタノールで洗浄するステップを含む、項目7から9のいずれか一項に記載の方法。
(項目11)
前記試料が、全ビリオンインフルエンザワクチン、スプリットインフルエンザワクチン、サブユニットインフルエンザワクチン、および組換えインフルエンザワクチンからなる群から選択される、項目1から10のいずれかに記載の方法。
(項目12)
前記試料が、アジュバント、例えば、水中油エマルジョンアジュバントを含む、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記LC-ESI-MSが、同位体希釈質量分析(IDMS)である、項目1、2、または6から12のいずれか一項に記載の方法。
(項目14)
前記標識化基準HAペプチドが、同位体標識を含み、例えば、同位体標識が、15Nおよび13Cからなるリストから選択される、項目1から13のいずれかに記載の方法。
(項目15)
試料中の免疫原性インフルエンザHAを定量するための方法であって、
a)前記試料を、生物学的タンパク質分解に供するステップと;
b)(a)からの前記試料中の免疫原性HAの量を、SRIDアッセイにより定量するステップと
を含む方法。
(項目16)
インフルエンザワクチンを製造するための方法であって、
a)インフルエンザHAを含むバルク調製物に由来する試料を提供するステップと、
b)免疫原性HAの量を、項目1から15のいずれかに記載の方法に従い定量するステップと、
c)単位剤形を、前記バルク調製物から、前記試料中の免疫原性HAの量に従いパッケージングするステップと
を含む方法。
(項目17)
インフルエンザワクチンを調製するための方法であって、
a)項目1から15のいずれか一項に記載の方法により、バルクワクチン中のHAの量を定量するステップと;
b)ワクチンを前記バルクから調製するステップと
を含む方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、還元SDS-PAGE(A)およびRP-HPLC(B)のいずれによっても示される通り、低pHで誘導される融合後HA1が、トリプシン消化に対して感受性であるのに対し、対照の融合前HA1は、高プロテアーゼ濃度であってもなお、トリプシンに対して耐性であることを示す図である。
【0014】
【
図2】
図2は、インフルエンザ効力アッセイについての流れ図を示す図である。
【0015】
【
図3】
図3は、本発明のアッセイおよびSRIDにより調べられた、pH4ストレスを受けた四価インフルエンザワクチン(QIV)試料からの結果を示す図である。(A)ことなって処理された試料についてのRPLCクロマトグラム(ピークについての注釈は、標準的なモノバルクの保持時間に基づく)を示す図であり;(B)本アッセイ(左パネル)およびSRID(右パネル)によるアッセイ結果を示す図である。-/-対照における各株の効力を、100%として示す。
【0016】
【
図4】
図4は、本発明のアッセイおよびSRIDにより調べられた、pH11ストレスを受けた四価インフルエンザワクチン(QIV)試料からの結果を示す図である。(A)異なって処理された試料についてのRPLCクロマトグラム(ピークについての注釈は、標準的なモノバルクの保持時間に基づく)を示す図であり;(B)本アッセイ(左パネル)およびSRID(右パネル)によるアッセイ結果を示す図である。-/-対照における各株の効力を、100%として示す。
【0017】
【
図5】
図5は、本アッセイおよびSRIDにより調べられた、熱(56℃)ストレスを受けた四価インフルエンザワクチン(QIV)試料からの結果を示す図である。(A)異なって処理された試料についてのRPLCクロマトグラム(ピークについての注釈は、標準的なモノバルクの保持時間に基づく)を示す図であり;(B)本アッセイ(左パネル)およびSRID(右パネル)によるアッセイ結果を示す図である。-/-対照における各株の効力を、100%として示す。
【0018】
【
図6】
図6は、A/Victoria株、A/Brisbane株、およびB/Brisbane株について、アセトン沈殿後において回収された免疫原性HAの百分率を示す図である。
【0019】
【
図7】
図7は、異なる洗浄プロトコール後においても残存する、消化された不活性HAペプチドの百分率について詳述する表を示す図である。試料は、i)アセトンで3回;ii)アセトンで2回に続く、1回のエタノール洗浄で;またはiii)エタノールで3回洗浄した。エタノールで3回にわたる洗浄は、最大量の消化された不活性HAペプチドを除去することにより、最良の結果をもたらした。
【0020】
【
図8】
図8は、pH7.2で維持されるか、または一過性にpH4.0へと曝露された、1μgの、卵により作製されたA/Texas/50/2012(H3N2)HAの、2回にわたる注射による、マウスにおけるトリプシン消化を伴う場合および伴わない場合の免疫原性を示すグラフを示す図である。(A)A/Texas/50/2012(H3N2)ウイルスおよびシチメンチョウ血液細胞を使用するHI力価を示す図である。(B)(A)と同じ血清セット内における、A/Texas/50/2012(H3N2)ウイルスを使用して、MDCK細胞に感染させるマイクロ中和力価を示す図である。
【0021】
【
図9A】
図9は、pH7.2で維持されるか、または一過性にpH4.0へと曝露された、卵により作製されたA/Texas/50/2012(H3N2)HAについての、トリプシン消化を伴う場合および伴わない場合の、SDS-PAGE解析、RP-HPLC解析、ELISA解析、およびSRID解析を示す図である。(A)非還元試料(左)および還元試料(右)についてのSDS-PAGEを示す図である。(B)(A)と同じ試料セットについての、解析的RP-HPLCクロマトグラムを示す図である。(C)(A)と同じ試料セットについての、HAでプレートをコーティングして実施され、SRIDで使用したヒツジポリクローナル抗血清により検出されるELISAを示す図である。(D)(A)と同じ試料セットについての、SRIDゲル画像を示す図である。(E)RP-HPLC、ELISA、およびSRIDによるHA定量についての概要を、マウスにおける免疫原性研究によるHI力価と共に示す図である。
【
図9B】
図9は、pH7.2で維持されるか、または一過性にpH4.0へと曝露された、卵により作製されたA/Texas/50/2012(H3N2)HAについての、トリプシン消化を伴う場合および伴わない場合の、SDS-PAGE解析、RP-HPLC解析、ELISA解析、およびSRID解析を示す図である。(A)非還元試料(左)および還元試料(右)についてのSDS-PAGEを示す図である。(B)(A)と同じ試料セットについての、解析的RP-HPLCクロマトグラムを示す図である。(C)(A)と同じ試料セットについての、HAでプレートをコーティングして実施され、SRIDで使用したヒツジポリクローナル抗血清により検出されるELISAを示す図である。(D)(A)と同じ試料セットについての、SRIDゲル画像を示す図である。(E)RP-HPLC、ELISA、およびSRIDによるHA定量についての概要を、マウスにおける免疫原性研究によるHI力価と共に示す図である。
【
図9C】
図9は、pH7.2で維持されるか、または一過性にpH4.0へと曝露された、卵により作製されたA/Texas/50/2012(H3N2)HAについての、トリプシン消化を伴う場合および伴わない場合の、SDS-PAGE解析、RP-HPLC解析、ELISA解析、およびSRID解析を示す図である。(A)非還元試料(左)および還元試料(右)についてのSDS-PAGEを示す図である。(B)(A)と同じ試料セットについての、解析的RP-HPLCクロマトグラムを示す図である。(C)(A)と同じ試料セットについての、HAでプレートをコーティングして実施され、SRIDで使用したヒツジポリクローナル抗血清により検出されるELISAを示す図である。(D)(A)と同じ試料セットについての、SRIDゲル画像を示す図である。(E)RP-HPLC、ELISA、およびSRIDによるHA定量についての概要を、マウスにおける免疫原性研究によるHI力価と共に示す図である。
【
図9DE】
図9は、pH7.2で維持されるか、または一過性にpH4.0へと曝露された、卵により作製されたA/Texas/50/2012(H3N2)HAについての、トリプシン消化を伴う場合および伴わない場合の、SDS-PAGE解析、RP-HPLC解析、ELISA解析、およびSRID解析を示す図である。(A)非還元試料(左)および還元試料(右)についてのSDS-PAGEを示す図である。(B)(A)と同じ試料セットについての、解析的RP-HPLCクロマトグラムを示す図である。(C)(A)と同じ試料セットについての、HAでプレートをコーティングして実施され、SRIDで使用したヒツジポリクローナル抗血清により検出されるELISAを示す図である。(D)(A)と同じ試料セットについての、SRIDゲル画像を示す図である。(E)RP-HPLC、ELISA、およびSRIDによるHA定量についての概要を、マウスにおける免疫原性研究によるHI力価と共に示す図である。
【0022】
【
図10】
図10は、pH7.2で維持されるか、または一過性にpH4.0へと曝露された、卵により作製されたA/Perth/16/2009(H3N2)HAの均質な試料と、2つの試料の混合物とについての、SRIDおよびトリプシン/RP-HPLC解析を示す図である。(A)ストレスを受けていないHA、低pHストレスを受けたHA、および2倍、1.5倍、1倍、および0.5倍の、低pHストレスを受けたHAとスパイクされた、ストレスを受けていないHAについてアッセイする、SRIDゲルについての画像を示す図である。(B)(A)におけるSRIDゲルからのHAならびにストレス試料およびこれらの混合物のトリプシン/RP-HPLCアッセイからのHAについての相対的定量を示す図である。
【0023】
【
図11AB】
図11は、pH7.2で維持されるか、もしくは一過性にpH4.0へと曝露されたHA、または2つのHA試料の混合物についての、トリプシン消化を伴う場合および伴わない場合の、SRID解析およびRP-HPLC解析を示す図である。(A)これらの処理に供される、卵により作製されたB/Brisbane/60/2008試料についてのSRID画像を示す図である。(B)これらの処理に供される、卵により作製されたB/Brisbane/60/2008 HA;(C)A/California/07/2009(H1N1)HA;(D)A/Texas/50/2012(H3N2)HA;および(E)B/Massachusetts/02/2012 HAについての、SRIDおよびRP-HPLCによるHA定量を示す図である。
【
図11CD】
図11は、pH7.2で維持されるか、もしくは一過性にpH4.0へと曝露されたHA、または2つのHA試料の混合物についての、トリプシン消化を伴う場合および伴わない場合の、SRID解析およびRP-HPLC解析を示す図である。(A)これらの処理に供される、卵により作製されたB/Brisbane/60/2008試料についてのSRID画像を示す図である。(B)これらの処理に供される、卵により作製されたB/Brisbane/60/2008 HA;(C)A/California/07/2009(H1N1)HA;(D)A/Texas/50/2012(H3N2)HA;および(E)B/Massachusetts/02/2012 HAについての、SRIDおよびRP-HPLCによるHA定量を示す図である。
【
図11E】
図11は、pH7.2で維持されるか、もしくは一過性にpH4.0へと曝露されたHA、または2つのHA試料の混合物についての、トリプシン消化を伴う場合および伴わない場合の、SRID解析およびRP-HPLC解析を示す図である。(A)これらの処理に供される、卵により作製されたB/Brisbane/60/2008試料についてのSRID画像を示す図である。(B)これらの処理に供される、卵により作製されたB/Brisbane/60/2008 HA;(C)A/California/07/2009(H1N1)HA;(D)A/Texas/50/2012(H3N2)HA;および(E)B/Massachusetts/02/2012 HAについての、SRIDおよびRP-HPLCによるHA定量を示す図である。
【0024】
【
図12A】
図12は、IRDye標識化A/Texas/50/2012(H3N2)HAについてのSRID解析の画像を示す図である。(A)各々がIRDye800で標識化された、ストレスを受けていないHAおよび低pHストレスを受けたHAについて、SRIDにより解析したことを示す図である。標識化タンパク質は、SRIDゲル内で、遠赤外線蛍光イメージングにより追跡した。また、抗H3抗体による、SRIDゲルをブロットするのに使用されるニトロセルロース膜上のウェスタンブロット法により、非標識化HAも検出した。(B)ストレスを受けていないHAを、IRDye800で標識化し、低pHストレスを受けたHAを、IRDye680で標識化したことを示す図である。トリプシン処理を伴う、ならびに伴わない、ストレスを受けていないHA、ストレスを受けたHA、およびストレスを受けていないHAとストレスを受けたHAとの混合物を、SRIDゲル内で、イメージャーの緑色チャネルおよび赤色チャネルを介して検出した。
【
図12B】
図12は、IRDye標識化A/Texas/50/2012(H3N2)HAについてのSRID解析の画像を示す図である。(A)各々がIRDye800で標識化された、ストレスを受けていないHAおよび低pHストレスを受けたHAについて、SRIDにより解析したことを示す図である。標識化タンパク質は、SRIDゲル内で、遠赤外線蛍光イメージングにより追跡した。また、抗H3抗体による、SRIDゲルをブロットするのに使用されるニトロセルロース膜上のウェスタンブロット法により、非標識化HAも検出した。(B)ストレスを受けていないHAを、IRDye800で標識化し、低pHストレスを受けたHAを、IRDye680で標識化したことを示す図である。トリプシン処理を伴う、ならびに伴わない、ストレスを受けていないHA、ストレスを受けたHA、およびストレスを受けていないHAとストレスを受けたHAとの混合物を、SRIDゲル内で、イメージャーの緑色チャネルおよび赤色チャネルを介して検出した。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、迅速であり、より正確であり、抗血清の使用を要請しない、試料中の免疫原性HAを定量するための方法を提供する。本発明に従い、免疫原性HAおよび不活性HAは、タンパク質分解に対するそれらの異なる感受性に反映される、それらの異なるコンフォメーションにより分離することができる。これらの方法は、抗血清に依存せず、生物物理的前処理を利用して、免疫学的に不活性のHA(例えば、低免疫原性コンフォメーション、ストレスを受けたコンフォメーション、または融合後コンフォメーション)を選択的に除去した後で、免疫原性HAの分離および定量が続く。したがって、これらの方法は、標準的なSRIDアッセイより顕著に迅速であり、さらに、免疫原性HAの量だけを測定するため、より正確でもある。
【0026】
本発明は、
a)免疫原性HA、不活性HA、またはこれらの組合せを含む試料を提供するステップと;
b)試料を、生物学的タンパク質分解に供するステップであって、不活性HAが消化され、免疫原性HAが消化されないままであるステップと;
c)試料中の、消化された不活性HAを、消化されていない免疫原性HAから分離するステップと;
d)消化された免疫原性HAの断片を提供するように、消化されていない免疫原性HAを、解析的タンパク質分解に供するステップと;
e)少なくとも1つの標識化基準HAペプチドの存在下で、液体クロマトグラフィー-エレクトロスプレーイオン化-タンデム質量分析(LC-ESI-MS)を実行して、試料中の免疫原性HAの量を定量するステップと
を含む方法を提供する。
【0027】
さらに、試料中の免疫原性インフルエンザHAを定量するための方法であって、
a)試料を、生物学的タンパク質分解に供するステップと;
b)試料中の免疫原性HAを、他の成分から分離するステップと;
c)試料中の免疫原性HAを定量するステップと
を含む方法も提供される。
【0028】
特に好ましい実施形態では、ステップ(c)を、質量分析、特に、液体クロマトグラフィー-エレクトロスプレーイオン化-タンデム質量分析(LC-ESI-MS)を使用して実行する。
【0029】
免疫原性HAの定量は、原理的に、当技術分野で公知である、タンパク質定量のための任意の方法を使用して実施することができる。上記で記載したある特定の実施形態はまた、SRIDによる定量とも適合性であろう。
【0030】
また、本明細書で記載される方法であって、試料中の免疫原性HAを、他の成分から分離するステップ(例えば、試料中の、消化された不活性HAを、消化されていない免疫原性HAから分離するステップ)をなしで済ませる方法も提供される。このような方法は、本明細書で記載される、分離ステップを伴う方法、特に、定量が質量分析を介する方法に対する代替法でありうる。このような方法は、処理ステップまたは操作ステップの数を低減し(例えば、タンパク質沈殿による分離ステップを廃することにより)、試料の喪失を最小化する利点を有する。本発明者らは、異なるプロテアーゼ、または異なる基質特異性を有するプロテアーゼの異なる選択(または基質特異性の選択)を、生物学的タンパク質分解ステップおよび解析的タンパク質分解ステップの各々において使用すれば、試料中の、免疫原性HAの数量を、不活性HAの数量からさらに鑑別しうることを見出した。このような方法では、不活性HAを、生物学的タンパク質分解ステップにおける、1種または複数種のプロテアーゼにより消化して、消化された不活性HAを作製するが、免疫原性HA(または免疫原性HAの実質的に全て)は、消化されないままである。次いで、消化されていない免疫原性HAと、消化された不活性HAとの混合物を、1種または複数種のプロテアーゼによる解析的タンパク質分解に供する。重要なことは、生物学的タンパク質分解の間に、不活性HA内で切断されうる、1つまたは複数の切断部位において、免疫原性HAを切断しえないプロテアーゼまたはプロテアーゼの選択を使用して、解析的タンパク質分解を実行することである。このようにして、解析的タンパク質分解は、不活性HA由来のペプチドと識別可能な、免疫原性HA由来のペプチドを含む、消化された免疫原性HAの断片をもたらしうる。例えば、消化された免疫原性HAの断片は、生物学的タンパク質分解ステップにおいて使用されたが、解析的タンパク質分解ステップにおいて使用されなかった、少なくとも1つのプロテアーゼにより切断されうる、少なくとも1つの切断部位を含有する、1つまたは複数の免疫原性HA由来のペプチドを含む。
【0031】
したがって、本発明はまた、
a)免疫原性HA、不活性HA、またはこれらの組合せを含む試料を提供するステップと;
b)試料を、1種または複数種のプロテアーゼにより生物学的タンパク質分解に供するステップであって、不活性HAが消化され、免疫原性HAが消化されないままであるステップと;
c)不活性HA由来のペプチドと識別可能な、免疫原性HA由来のペプチドを含む、消化された免疫原性HAの断片を提供するように、消化されていない免疫原性HAと、消化された不活性HAとの混合物を、1種または複数種のプロテアーゼを使用する解析的タンパク質分解に供するステップであって、解析的タンパク質分解が、生物学的タンパク質分解の間に、不活性HA内で切断されうる、1つまたは複数の切断部位において、免疫原性HAを切断しえないステップと;
d)少なくとも1つの標識化基準HAペプチドの存在下で、液体クロマトグラフィー-エレクトロスプレーイオン化-タンデム質量分析(LC-ESI-MS)を実行して、試料中の免疫原性HAの量を定量するステップと
を含む方法も提供する。
【0032】
これらの方法についての好ましい実施形態では、1種のプロテアーゼ(例えば、キモトリプシン様プロテアーゼ)を、生物学的タンパク質分解ステップにおいて使用し、異なる基質特異性を有する、異なるプロテアーゼ(例えば、トリプシン様プロテアーゼ)を、解析的タンパク質分解ステップにおいて使用する。代替的に、1種を超える(例えば、2種の)異なるプロテアーゼを、生物学的タンパク質分解ステップにおいて使用することができ、単一のプロテアーゼを、解析的タンパク質分解ステップにおいて使用することができる。2種を超える異なるプロテアーゼ(例えば、3種、4種、またはこれを超える)のセットを、生物学的タンパク質分解ステップにおいて使用する場合、より少数の異なるプロテアーゼのセットを、解析的タンパク質分解ステップにおいて使用することができる。
【0033】
このような方法は、例えば、第1のプロテアーゼおよび第2のプロテアーゼにより、試料を、生物学的タンパク質分解に供するステップを伴う場合があり、この場合、第2のプロテアーゼの基質特異性は、第1のプロテアーゼの基質特異性と異なる。次いで、方法は、消化されていない免疫原性HAと、消化された不活性HAとの混合物を、第1のプロテアーゼだけによる解析的タンパク質分解に供するステップを伴いうる。代替的に、第1のプロテアーゼおよび第2のプロテアーゼのいずれの基質特異性とも異なる基質特異性を有する、第3のプロテアーゼを、解析的タンパク質分解において使用することもできる。一部の実施形態では、第1のプロテアーゼおよび第2のプロテアーゼを、生物学的タンパク質分解のために使用するが、この場合、第1のプロテアーゼは、トリプシン様プロテアーゼ(例えば、トリプシン)であり、第2のプロテアーゼは、キモトリプシン様プロテアーゼ(例えば、キモトリプシン)である。
【0034】
解析的タンパク質分解は、単一のプロテアーゼを使用することができる。特に好ましい実施形態では、解析的タンパク質分解のために使用される単一のプロテアーゼは、トリプシン様プロテアーゼ(例えば、トリプシン)である。
【0035】
適切なプロテアーゼのさらなる例を下記に示すが、当業者には公知であろう。当業者は、パイロット実験において、本発明における使用のためのプロテアーゼの適切な組合せを、容易に決定することができる。また、免疫原性HAの定量のために使用される、基準/サロゲートHAペプチドは、生物学的タンパク質分解ステップにおいて使用されるが、解析的タンパク質分解ステップにおいて使用されない、少なくとも1つのプロテアーゼにより切断されうる、少なくとも1つの切断部位を含有するHA配列を含むように選択しうることも、当業者により察知されるであろう。例えば、キモトリプシン様プロテアーゼを、生物学的タンパク質分解ステップにおいて使用する(例えば、単独で、またはトリプシンなどのトリプシン様プロテアーゼと共に)が、解析的タンパク質分解ステップにおいて使用しない場合に、キモトリプシン様プロテアーゼ(例えば、キモトリプシン)により切断されるHA配列を含む、免疫原性HAを定量するために使用されるサロゲートHAペプチドを選択することができる。
【0036】
別の態様では、本発明は、標準的なSRIDアッセイより正確な、試料中の免疫原性HAを定量するための改良型SRID法を提供する。上記で例示した通り、免疫原性HAおよび不活性HAは、タンパク質分解に対するそれらの差別できる感受性に反映される、それらの異なるコンフォメーションにより分離することができる。本発明のSRID法は、典型的には抗血清を使用し(すなわち、本発明のSRID法は、抗血清に依存しないわけではなく)、また、生物物理的前処理を利用して、免疫学的に不活性のHA(例えば、低免疫原性コンフォメーション、ストレスを受けたコンフォメーション、または融合後コンフォメーション)の選択的除去を可能とする。本発明のSRID法では、この前処理(生物学的タンパク質分解)の後に、免疫原性HAの定量が続く。
【0037】
したがって、本発明はさらに、試料中の免疫原性インフルエンザHAを定量するための方法であって、
a)試料を、生物学的タンパク質分解に供するステップと;
b)(a)による試料中の免疫原性HAの量を、SRIDアッセイにより定量するステップと
を含む方法も提供する。
【0038】
一部の実施形態では、ステップ(b)のSRIDアッセイを、ポリクローナル抗血清(例えば、ヒツジポリクローナル抗血清)および/またはモノクローナル抗体抗血清(例えば、適切なモノクローナル抗体を含む)など、抗血清の使用を伴って実行する。1つまたは複数の適切な抗血清は、株特異的であり、HA特異的でありうる。したがって、SRIDアッセイは、株特異的な抗HAポリクローナル(ヒツジ)抗血清の使用を伴って実行することができる。
【0039】
本発明はさらに、インフルエンザワクチンを製造するための方法であって、
a)インフルエンザHAを含むバルク調製物に由来する試料を提供するステップと;
b)免疫原性HAの量を、本発明の方法に従い定量するステップと;
c)単位剤形を、バルク調製物から、試料中の免疫原性HAの量に従いパッケージングするステップと
を含む方法も提供する。
【0040】
本発明はさらに、インフルエンザワクチンを調製するための方法であって、
a)本発明の方法により、バルクワクチン中のHAの量を定量するステップと;
b)ワクチンをバルクから調製するステップと
を含む方法も提供する。
【0041】
生物学的タンパク質分解および解析的タンパク質分解
インフルエンザウイルス表面HAは、免疫学的に最も関与性の状態である融合前状態では、主にオリゴマー(三量体など)として存在する。多様なストレス条件下で、HAは、良好な免疫応答を誘発しない、融合後状態への不可逆的移行を受ける場合がある。インフルエンザワクチンの調製は結果として、融合後HAの存在をもたらすことが多く、標準的なSRIDアッセイは、融合前(免疫原性)HAと、融合後(不活性)HAとを識別することができず、したがって、ワクチン中に含有される、実際の免疫原性HAの量についての過大評価を結果としてもたらす。本発明の方法は、免疫原性形態だけを定量するように、生物学的タンパク質分解により、HAのこれらの異なる形態を識別する。
【0042】
したがって、本明細書で使用される「生物学的タンパク質分解」とは、タンパク質の免疫学的活性形態(例えば、融合前状態にあるHA)は、無傷(すなわち、消化されない)のままであるが、タンパク質の不活性形態(例えば、融合後状態にあるHA)は消化される、酵素ベースのHAの消化を指す。したがって、生物学的タンパク質分解のステップは、タンパク質のコンフォメーションに応じて、差別的な消化を達成する。変性ステップを受けていないHAタンパク質は、生物学的タンパク質分解に対して耐性である。したがって、本明細書で使用される、生物学的タンパク質分解のステップは、タンパク質の構造的完全性またはコンフォメーションに応じて、制御されたタンパク質の消化または限定的なタンパク質の消化を達成する。
【0043】
これに対して、本明細書で使用される「解析的タンパク質分解」とは、そのコンフォメーションに関わらず、典型的に、質量分析など、その後の解析的ステップを目的とする、標的タンパク質の断片化(すなわち、消化)を指す。解析的タンパク質分解は、消化の前に、タンパク質を変性させるステップを伴う。
【0044】
参考文献9では、HAのコンフォメーションはpHに応じて変化すること、およびHAの一部に形態がプロテアーゼ消化を受けやすいのに対し、HAの他の形態は、プロテアーゼ消化を受けやすくないことが報告された。これは、免疫原性HAの表面上の、十分な充填構造および稠密なグリコシル化外被に帰することができるであろう。本発明者らは、融合前HAが、高プロテアーゼ濃度(HA:トリプシン=5:1)であってもなお、その天然状態において、タンパク質分解に対して極めて耐性であることを確認した。これに対し、低pHにより誘導された、融合後HA1は、天然であってもなお、タンパク質分解に対して極めて感受性であった。
【0045】
定量の前に、生物学的タンパク質分解のステップを含むことにより、本発明の方法は、免疫原性HAと、不活性HAとの区別を可能とする。特に、免疫原性HAが、プロテアーゼ耐性であるのに対し、不活性HAは、プロテアーゼ感受性である。これは、プロテアーゼを、試料へと添加する場合(例えば、酵素:基質比を1:20として、トリプシンを添加し、37℃で2時間にわたりインキュベートする場合)、不活性HAの実質的に全てが消化されるのに対し、免疫原性HAの実質的に全ては、構造的に無傷のままであることを意味する。したがって、生物学的タンパク質分解ステップが、不活性(融合後)HAの実質的に全てを実質的に消化するのに対し、免疫原性(融合前)HAの実質的に全ては、消化されないままである。この点で、免疫原性HAは、プロテアーゼ依存的切断自体に対して、完全に耐性であることが理解されるであろう。特に、HA0は、ある特定のプロテアーゼ(トリプシンなど)により、HA1およびHA2へと切断されうるが、タンパク質が断片へと解離するわけではない。そうではなくて、HA1およびHA2は、複合体として会合したままであり、これは、同じ構造的完全性(例えば、融合前状態)を維持する。これらのHA1/HA2複合体は、依然として、免疫原性であると考えられる。切断された融合前HAは、不活性HAの実質的に全てが、プロテアーゼにより、ペプチドへと断片化されるという点で、不活性HAの消化生成物から識別することができる。
【0046】
タンパク質分解(消化)の文脈における「実質的に」とは、試料中に存在する不活性(融合後)HAのうちの、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%が消化されていることを意味する。同様に、免疫原性HAの文脈における「実質的に」とは、免疫原性(融合前)HAのうちの、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%が、消化されないままであることを意味する。
【0047】
免疫原性HAは、融合前HA三量体、融合前HAオリゴマー(例えば、いわゆるロゼット)、またはこれらの組合せの形態にある。不活性HAとは、HA単量体、融合後HA三量体、変性タンパク質、凝集タンパク質、またはこれらの組合せである。融合前HAおよび融合後HAの立体配置は、例えば、結晶構造解析など、当技術分野で公知の方法を使用して、同定することができる。
【0048】
免疫原性HAは一般に、不活性HAと比較して、はるかに高度な免疫応答を誘発し得る。例えば、対象に免疫原性HAを注射することにより得られるGMTは、不活性HAと比較した免疫原性HAについて、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも8倍、または少なくとも16倍高い。したがって、当業者は、本明細書で使用される「不活性HA」(例えば、HA融合後形態またはストレス形態)が、免疫原性を完全に欠くことを必ずしも意味するわけではなく、トリプシン耐性である、HAの融合前形態、ストレスを受けていない形態と比較して、低免疫原性であることをたやすく理解するはずである。
【0049】
生物学的タンパク質分解は、不活性HAを消化しうる、任意のプロテアーゼにより実施することができる。このような酵素は、当技術分野で公知であり、例えば、セリンプロテアーゼ(トリプシンなど)、トレオニンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、およびメタロプロテアーゼを含む。例示的なセリンプロテアーゼは、限定せずに述べると、トリプシン様プロテアーゼ、キモトリプシン様プロテアーゼ、エラスターゼ様プロテアーゼ、およびスブチリシン様プロテアーゼを含む。免疫原性HAおよび不活性HAに対して、異なるタンパク質分解活性は、プロテアーゼが、タンパク質を消化することを物理的に防止する、充填構造と、免疫原性HAの表面上の稠密なグリコシル化外被とに起因するので、これらの酵素の全ては、本発明の方法において働くことが予測される。実際、本発明者らはまた、キモトリプシンが、生物学的タンパク質分解ステップにおいて、不活性(融合後)HAを消化しうることも示した。したがって、生物学的タンパク質分解は、トリプシンおよび/またはキモトリプシンを使用することができる。本発明の方法は、2種、3種、4種、またはこれを超えるプロテアーゼを使用して実施することができる。
【0050】
当技術分野では、プロテアーゼが、不活性HAを消化しうるのかどうかを決定するための方法が周知である。例えば、当業者は、参考文献9において記載されている方法を使用して不活性HAを用意し、異なるプロテアーゼについて調べて、どのプロテアーゼが不活性HAを消化しうるのかを確立することができる。
【0051】
不活性HAを消化することが公知のプロテアーゼの群は、セリンプロテアーゼである。これらは、セリンが活性部位において求核性アミノ酸として働くタンパク質内の、ペプチド結合を切断する酵素である。このようなプロテアーゼは、in vivoにおける宿主細胞へのインフルエンザウイルス感染に要請され、前駆体であるHA0を、HA1形態およびHA2形態へと分割し、こうして、インフルエンザウイルスが、膜への融合を推進することを介して、宿主細胞への感染を可能とすることにより機能する。セリンプロテアーゼは、インフルエンザHAを消化することが公知であるので、本発明における使用のために好ましい。
【0052】
インフルエンザHAを消化するために最も一般に使用されるセリンプロテアーゼは、トリプシンであり、本発明の方法におけるこのプロテアーゼの使用が特に好ましい。しかし、HAを消化しうる、他のセリンプロテアーゼもまた、使用することができる。このようなプロテアーゼの例は、TMPRSS2およびHATを含む(参考文献10)。
【0053】
プロテアーゼは、好ましくは試料へと直接添加する。これは、定量工程を容易とし、試料の操作に起因する、免疫原性HAの量についての、任意の過大評価をさらに回避するため好ましい。しかし、状況によっては、プロテアーゼを添加する前に、試料中の生物学的タンパク質分解のための条件を最適化させることが望ましい場合がある。これは、例えば、試料中の緩衝液が、最適なプロテアーゼ活性を可能としない場合に必要でありうる。これらの実施形態では、試料中の緩衝液を、例えば、透析など、当技術分野において標準的な方法により、交換することができる。また、試料を、さらなる緩衝液で希釈することも可能である。例えば、これは、不正確な定量を結果としてもたらしうるので、緩衝液のpHを低下させることにより、さらなる不活性HAが形成される条件を創出しないように、注意を払わなければならないことが理解されるであろう。これが不回避的である場合も、免疫原性HAの相対的喪失を決定し、この量により、定量から得られる結果を補正するように、パイロット実験を実施することにより、本発明の方法を使用して、HAを定量することがやはり可能である。
【0054】
インフルエンザウイルスを、細胞培養物中で増殖させる場合、インフルエンザウイルスの増殖時に、トリプシンなどのプロテアーゼを、規定通りに添加することができる。インフルエンザワクチンのための作製工程は、精製ステップを含み、インフルエンザウイルスから調製されるインフルエンザワクチン中に存在する残留プロテアーゼは、無視しうる量に過ぎないであろう。誤解を避けるために述べると、生物学的タンパク質分解のステップは、存在しうる残留プロテアーゼに依拠することができず、プロテアーゼを、試料へと添加する必要がある。
【0055】
当業者は、消化に適する条件を、容易に決定することができる。例えば、本発明の方法は、約2、5、10、15、20、25、30、35、40、45、または50U/mLのトリプシンなどのプロテアーゼを使用して実施することができる。本発明の方法は、約2、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、または100U/mLのトリプシンなどのプロテアーゼを使用して実施することができる。多くのプロテアーゼは、32℃~40℃の間、34℃~38℃の間または約37℃の最適の温度を必要とするので、消化は、この温度で実施することができる。消化のための正確な時間は、変動しうるが、反応は一般に、不活性HAの実質的に全てが消化されるまで進行させる。例えば、試料は、プロテアーゼと共に、10分間、20分間、30分間、40分間、50分間、60分間、70分間、80分間、90分間、100分間、110分間、120分間、130分間、140分間、150分間、160分間、または170分間にわたりインキュベートすることができる。当業者は、消化のために必要とされる時間を、パイロット実験により、容易に決定することができる。
【0056】
上記で論じた、生物学的タンパク質分解のステップはまた、ワクチン製造工程においても有益でありうる。特に、このようなステップを、ワクチン製造工程に組み入れることが可能であり、これは、不活性HAが、選択的に除去されるので、結果として得られるワクチンが、主に、免疫原性HAを含有するという利点を有する。このような方法は、ワクチンを製剤化する前に、プロテアーゼを除去するように、精製ステップを伴うであろう。
【0057】
したがって、本発明は、ワクチン中間体を製造するための方法であって、抗原を含むバルク調製物(HAモノバルクなど)を調製するステップを含み、抗原のストレスを受けた形態または不活性形態を消化するように、バルク調製物またはその一部を、生物学的タンパク質分解に供する方法を包含する。その後、結果として得られる中間体を使用して、プロテアーゼに耐性である、抗原の免疫学的活性形態について濃縮されたワクチン製品を製剤化することができる。したがって、本発明は、ワクチン製品を製造するための方法であって、抗原を含むバルク調製物(HAモノバルクなど)を調製するステップと、バルク調製物またはその一部を、生物学的タンパク質分解に供するステップと、生物学的タンパク質分解にかけたバルク調製物またはその一部を使用して、ワクチンを製剤化するステップとを含む方法を含む。抗原は、インフルエンザ抗原でありうる。しかし、本発明は、プロテアーゼ感受性(またはプロテアーゼ耐性)が、目的の生物学的活性(例えば、免疫原性)と相関するように、複数のコンフォメーションで存在しうる、任意の抗原に有用でありうる。一部の実施形態では、ワクチン製品は、免疫学的に活性のコンフォメーションにある抗原のうちの、少なくとも60%、例えば、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、および少なくとも90%を含有する。一部の実施形態では、免疫学的に活性の抗原で濃縮された、このようなワクチン製品は、標準量未満の抗原を含有しうるが、対象において、抗原の免疫学的活性形態で濃縮されていない標準品と比較して、同等であるかまたはこれを超える免疫応答を誘発することが可能である。例えば、投与当たり株当たりのHA 15μgを伴う標準的なインフルエンザワクチンと比較して、本発明のワクチン製品は、低量の総抗原、例えば、投与当たり株当たりのHA 12μg未満、9μg未満、7.5μg未満、5μg未満、3.75μg未満により、同等または良好な効能または有効性を有しうる。
【0058】
プロテアーゼ消化のステップはまた、抗原調製物中に存在しうる、ある程度の凝集を転導し、これにより、喪失を低減し、調製1回当たりの抗原の収率を増大させる、さらなる利益も提供しうる。
【0059】
上記で論じた通り、一部の実施形態では、本発明の方法において、1種を超えるプロテアーゼを使用することができる。異なるプロテアーゼ、または異なるプロテアーゼのセットを、本明細書で記載される、生物学的タンパク質分解ステップおよび解析的タンパク質分解ステップの各々において使用することができる。各異なるプロテアーゼは、異なる基質特異性を有しうる。例えば、トリプシン様プロテアーゼ、キモトリプシン様プロテアーゼ、エラスターゼ様プロテアーゼ、およびスブチリシン様プロテアーゼは、典型的には、互いと異なる基質特異性を有する。プロテアーゼは、一方が、所与の切断部位において、所与のペプチドを切断することが可能であるのに対し、他方は、同一な条件下でそうでない場合に、異なる基質特異性を有すると考えることができる。例えば、トリプシン様プロテアーゼは、典型的には、アミノ酸であるリシンまたはアルギニン(いずれかにプロリンが後続する場合を除き)のカルボキシル側において、ペプチドを切断する。キモトリプシン様プロテアーゼは、典型的には、大型の疎水性アミノ酸(例えば、チロシン、トリプトファン、フェニルアラニン、ロイシン)のカルボキシル側において、ペプチドを切断する。エラスターゼ様プロテアーゼは、典型的には、小型の疎水性アミノ酸(例えばグリシン、アラニン、およびバリン)のカルボキシル側において、ペプチドを切断する。
【0060】
定量が質量分析を介する、ある特定の実施形態では、1種を超える異なるプロテアーゼを、解析的タンパク質分解ステップにおいて使用することができる。本明細書で記載される通り、解析的タンパク質分解に、分離ステップを先行させることができる。本明細書で記載される代替的実施形態では、分離ステップは、なしで済ませることができる。いずれの場合にも、解析的タンパク質分解は、異なる基質特異性を有する1種を超える異なるプロテアーゼ(すなわち、異なる切断部位)を使用することができる。解析的タンパク質分解段階における、1種を超える異なるプロテアーゼの使用は、少数の異なるプロテアーゼを使用する場合に作製される、免疫原性HA由来のペプチドより短い、免疫原性HA由来のペプチドを含む、消化された免疫原性HAの断片をもたらしうる。したがって、定量のために、短い基準/サロゲートペプチドを使用し、これにより、定量される免疫原性HA内で保存される配列を有する基準ペプチドを選び出すのに、大きな自由度をもたらしうると有利でありうる。この技法はまた、修飾(例えば、定量結果に、望ましくない形で影響を及ぼしうる、化学修飾または翻訳後修飾)を受けやすいアミノ酸を含有しない、基準ペプチドの利用可能性を増大させるのにも使用することができる。解析的タンパク質分解に、分離ステップを先行させる、一部の好ましい実施形態では、生物学的タンパク質分解は、1つのプロテアーゼ(例えば、トリプシンなどのトリプシン様プロテアーゼ)を使用し、解析的タンパク質分解は、生物学的タンパク質分解で使用される、同じ型のプロテアーゼと、異なる基質特異性を有する、1種または複数種の異なるプロテアーゼ(例えば、キモトリプシンなどのキモトリプシン様プロテアーゼ)とを使用する。
【0061】
分離
消化の後、消化されていない免疫原性HAを、試料中の他の成分から分離することが好ましい。特に、消化されていない免疫原性HAを、消化された不活性HAから分離することが、非常に望ましい。これは、下流における定量を容易とするために有利である。特に、免疫原性HAを、消化された不活性HAから分離することは、質量分析などの方法を介する、免疫原性HAの定量を可能とする。
【0062】
しかしながら、上記で論じた通り、本発明の一部の実施形態では、例えば、解析的タンパク質分解が、不活性HA由来のペプチドと識別可能な、免疫原性HA由来のペプチドを含む、消化された免疫原性HAの断片をもたらす場合、分離ステップを、なしで済ませることができる。
【0063】
当技術分野では、試料中の免疫原性HAを、他の成分から分離するための方法が周知であり、例えば、逆相クロマトグラフィー、サイズ除外クロマトグラフィー、およびイオン交換クロマトグラフィーを含む。
【0064】
これらの先行技術による分離法は、本発明の一部の実施形態(特に、免疫原性HAを定量するのに、質量分析に依拠しない実施形態)における使用に適するが、本発明者らは、逆相クロマトグラフィーおよびサイズ除外クロマトグラフィーを使用する初期の試みが、多数の理由:1)いずれのクロマトグラフィーも、最適のベースライン分解能を達成することが可能でなかったこと;2)カラム上の実質的な試料喪失が観察されたこと;3)分画の回収時において、顕著な変異の導入;4)分画の回収、緩衝液の交換、および容量の低減と関連する、多大な労力およびアッセイスループットの低下のために、満足のゆくものではないことを見出した。
【0065】
したがって、試料中の免疫原性HAは、タンパク質沈殿により、試料中の他の成分(特に、消化された不活性HA)から分離することが好ましい。この手法の利点は、試料喪失を最小化する、同じチューブによる試料調製/処理;アーチファクト導入の低減;および下流における試料調製のために、回収されたタンパク質ペレットを、所望容量の適合性緩衝液中に再懸濁させることの簡便さを含む。本発明者らは、タンパク質沈殿が、試料中の免疫原性HAのほぼ100%を、一貫して回収することを見出した。
【0066】
当技術分野では、タンパク質を沈殿させるための多様な方法が公知である。これらは、塩析、等電点沈殿、有機溶媒、非イオン性親水性ポリマーによる沈殿、および高分子電解質による軟凝集を含む。したがって、一部の実施形態では、分離するステップは、消化された不活性HA断片を、無傷の、消化されていない免疫原性HAを保持する試料から除去することを含む。
【0067】
本発明者らは、有機溶媒、特に、アセトンに関して、良好な結果を認めており、これらは、試料からの、免疫原性HAの、ほぼ100%の回収を結果としてもたらした。好ましい実施形態では、(消化されていない)免疫原性HAを分離するステップは、有機溶媒、特に、ケトンまたはアルコールを添加するステップを含む。有機溶媒は、アセトン、エタノール、またはメタノールでありうる。本発明の方法はさらに、沈殿したタンパク質を、アルコールで洗浄するステップも含みうる。添加されたアルコールは、温度が4℃未満でありうる。アルコールは、好ましくはエタノールである。本発明者らは、このステップが、不活性HAに由来する消化されたペプチドの完全な除去に影響を与えることを見出した。次いで、沈殿物を、例えば、通気乾燥または真空遠心分離により乾燥させることができる。
【0068】
タンパク質沈殿の後、沈殿したタンパク質を再懸濁させる。これは、例えば、強い変性グアニジン緩衝液など、強い変性条件を導入する緩衝液を添加することにより達成することができる。試料をさらに加熱して、タンパク質の再懸濁を容易とすることもできる。当技術分野では、このような方法が標準的であり、したがって、当業者は、それらを容易に実施することができる。
【0069】
免疫原性インフルエンザHAを定量するステップが、SRIDアッセイを使用する、下記の実施例において示される通り、SRIDアッセイ自体、免疫原性HAの、試料中の他の成分(例えば、不活性HA)からの分離を可能としうる。
【0070】
定量
免疫原性HAの定量は、原理的に、当技術分野で公知である、タンパク質定量のための任意の方法を使用して実施することができる。例えば、本発明の方法は、上記で記載した通り、不活性HAを消化するステップとしてのSRIDによる定量と適合性であり、試料中の免疫原性HAの量の、より正確な決定を可能とするであろう。したがって、本発明の方法では、免疫原性HAを定量するステップは、SRIDの使用を含みうる。しかし、上記で言及した通り、SRIDは、作製するのに数週間または数カ月間までも要する、株特異的抗血清の使用に依拠する欠点を有する。したがって、免疫原性HAを定量するステップは、SRIDの使用を含まないことが好ましい。
【0071】
したがって、本発明は、好ましくは株特異的抗血清の使用を要請しない定量方法を活用する。このような方法は、毎シーズンの基準抗原の調製および較正を要請しないので、インフルエンザワクチン作製の現時点でのボトルネックを回避する。このような方法は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、特に、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)などのクロマトグラフィー法を含むが、また、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)および液体クロマトグラフィー-質量分析/質量分析(LC-MS-MS)などの質量分析法、ならびに二次元ゲル電気泳動(2-DE)も含む。
【0072】
RP-HPLC
RP-HPLCとは、液体(溶媒などの移動相)を、クロマトグラフィーカラム(固定相)へと適用し、固定相と、試料中に存在する成分との相互作用に応じて、カラム上の保持を伴う、クロマトグラフィーの形態である。ポンプが、カラムを通して液体相を移動させ、条件を変化させると、異なる時点において、カラムから、異なる分子を溶出させることができる。RP-HPLCは、非極性の固定相と、水性で中程度に極性の移動相とを有する。RP HPLCの保持時間は一般に、移動相中の水の比率を増大させること(これにより、疎水性解析物の、疎水性固定相に対するアフィニティーを、今現在、より親水性の移動相と比べて強くすること)により増大させることができるが;逆に、非極性であるかまたは極性の小さな有機溶媒(例えば、メタノール、アセトニトリル)の比率を増大させることにより減少させることもできる。
【0073】
RP-HPLCカラムおよび溶出条件は、HA1を、これらの他のタンパク質から分解しうるように選択する。RP-HPLCがこの分解を達成する能力は、例えば、参考文献11から、既に公知である。
【0074】
多様な形態のRP-HPLCが利用可能である。RP-HPLCを使用する場合、小孔サイズを4000Åとする、10μmのポリスチレンジビニルベンゼン(PSDVB)粒子によるカラム上で実施しうると簡便であるが、他の支持材料(例えば、シリカ内のシラノール基へと共有結合させた、オクタデシル、デシル、またはブチルによる、nアルキル疎水性鎖など、他の疎水性ポリマー)、粒子サイズ(例えば、3~50μm)、および小孔サイズ(例えば、250~5000Åの間)も、使用することができ、共重合化時またはβ-誘導体化(例えば、スルホアシル化)時における、PSおよびDVBの比を変化させることにより、PSDVBの特性を変化させることもできる。適切なRP-HPLC支持体は、HAを保持し、溶出させ、試料中に存在する他の材料から分離するそれらの能力に基づき、たやすく選択することができる。2つの小孔クラスを有するビーズによる支持体を使用することができ、対流が、粒子自身を通して生じることを可能とし、試料分子を、内側の短い「拡散性」小孔へと迅速に移動させる、大型の「スルーポア」も使用することができる。この小孔配置は、拡散が生じる必要がある距離を短縮し、試料分子が、結合性部位と相互作用するのに要請される時間を短縮する。したがって、拡散は、無制限であることが可能であり、分解能または容量を損なわずに、流量も増大させることができる(例えば、1000~5000cm/時)。
【0075】
例えば、アセトニトリル勾配を使用して、多様な溶出緩衝液を使用することができる。例えば、0.1~5ml/の間(例えば、0.5~1.5ml/分の間、または約0.8ml/分)の適切な流量を、たやすく選択することができる。溶出は、室温でも行いうるが、50℃~70℃の範囲内、例えば、55℃~65℃の間、または約60℃における溶出が好都合である。
【0076】
RP-HPLC溶出物は、試料中の任意のHAを検出するように、モニタリングすることができる(例えば、約214nmにおけるUV吸光度、または約290nmにおける励起波長および約335nmにおける発光波長を使用する内在的蛍光)。HPLC溶出クロマトグラム上のHAピーク下面積を使用して、HAを定量することができる。次いで、既知の容量の試料を使用することにより、これらの方法により決定されるHAの量を使用して、そこから試料を採取した、元の材料中のHA濃度、例えば、バルク抗原調製物中、または個別のワクチン用量中のHA濃度を計算することができる。個別の株の、潜在的なピークの重複のために、この測定法は、多価ワクチン調製物ではなく、一価ワクチン調製物を測定するための、最も信頼できる方法である。
【0077】
質量分析
本発明に従いHAを定量するための、最も好ましい方法は、質量分析(MS)、特に、液体クロマトグラフィー-エレクトロスプレーイオン化-タンデム質量分析(LC ESI-MS)などの液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)法である。
【0078】
LC-MSを使用する顕著な利点は、試料中のタンパク質の特異的な定量を可能とすることである。さらに、LC-MSは、同時の複数のインフルエンザ株に由来するHAの同時的測定も可能とする。これは、各HAを個別に解析する必要を回避するので、多価インフルエンザワクチンを解析する場合に、特に、有利である。方法は、従来型のSRIDアッセイに干渉しうる、MF59など、アジュバントの存在と適合性であるという、さらなる利点も有する。
【0079】
当技術分野では、タンパク質を、質量分析により定量するための方法が周知であり、例えば、参考文献12において記載されている。これらの方法は一般に、定量されるタンパク質のペプチドをもたらす、変性させた試料のプロテアーゼ消化の初期ステップを伴う。次いで、これらのペプチドを通例、クロマトグラフィーにより分離し、次いで、MSにより解析する。
【0080】
解析的タンパク質分解の初期ステップは、エンドプロテアーゼを使用して実施することができる。適切なエンドプロテアーゼは、参考文献13において記載されており、トリプシン、キモトリプシン、エンドプロテイナーゼAsp-N、エンドプロテイナーゼArg-C、エンドプロテイナーゼGlu-C、エンドプロテイナーゼLys-C、ペプシン、テルモリシン、エラスターゼ、パパイン、プロテイナーゼK、スブチリシン、クロストリパイン、エクソペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼA、カルボキシペプチダーゼB、カルボキシペプチダーゼP、またはカルボキシペプチダーゼY、カテプシンC、アシルアミノ酸放出酵素、ピログルタミン酸アミノペプチダーゼ、またはこれらの組合せを含む。
【0081】
免疫原性HAは、典型的にはHAを変性させる水溶液中で消化する。水溶液は、無機酸または有機酸を含みうる。無機酸は、グアニジン塩酸塩、硝酸、リン酸、硫酸、塩化アンモニウム、重炭酸アンモニウム、およびこれらの組合せからなる群から選択することができる。有機酸を使用する場合、これは、シュウ酸、マロン酸、酒石酸、酢酸、ギ酸、乳酸、プロピオン酸、フタル酸、安息香酸、クエン酸、コハク酸、これらの塩、およびこれらの組合せからなる群から選択することができる。その主要な目的は、タンパク質を変性させて、消化を容易とすることであるので、酸の正確な性質は重要ではない。
【0082】
本発明の方法が、タンパク質沈殿のステップを伴う場合、沈殿したタンパク質は、解析的タンパク質分解のために使用される緩衝液へと、直接再懸濁させることができる。代替的に、沈殿したタンパク質は、異なる緩衝液へと再懸濁させ、さらなる成分(無機酸または有機酸など)を、再懸濁させたタンパク質へと、後で添加することもできる。
【0083】
消化の後、反応は、例えば、トリフルオロ酢酸など、公知のクエンチング剤を使用して、クエンチングすることができる。
【0084】
得られたペプチドを、MSにより解析する前に、標識化サロゲートペプチドを、反応混合物へと添加することができる。これらのサロゲートペプチドの使用は、対照実験を並行して試行する必要がないので、免疫原性HAの定量を容易とする利点を有する。したがって、サロゲートペプチドは、目的の断片が定量の目的のために比較される、基準ペプチド(すなわち、対照)として使用することができる。典型的には、サロゲートペプチドは、所定のアミノ酸配列を有する合成ポリペプチドである。それが容易に検出されうるように、任意の適切なサロゲートペプチドを、その質量の公知のシフトを示す基準として使用することができる。例えば、サロゲートペプチドは、コアのアミノ酸の連なりに加えて質量が既知である、1つまたは複数の化学的部分を含みうる。一部の実施形態では、サロゲートペプチドは、それらが、それらの天然の対応物と比較して、わずかに異なる質量を有するように、1つまたは複数の修飾アミノ酸を含有しうる。一部の実施形態では、サロゲートペプチドは、同位体により標識化することができる。好ましくは、同位体標識は、15Nおよび13Cからなるリストから選択される。
【0085】
当技術分野では、サロゲートペプチドを調製するための方法が周知である。これらのサロゲートペプチドは、好ましくは、それらが、液体クロマトグラフィー(LC)上で、良好な保持時間を有し、ESI上で許容可能なイオン化効率を有し、潜在的な翻訳後修飾(N結合型グリカンおよびメチオニンなど)を含まないように選び出す。
【0086】
1種を超えるインフルエンザ抗原の数量を評価する場合、いくつかの株特異的なサロゲートペプチドを添加することができる。例えば、試料が、n個のインフルエンザ株由来の抗原を含む場合、n種類の株特異的サロゲートペプチドを添加することができる。株特異的サロゲートペプチドの数はまた、試料中の異なる株に由来する抗原の数とも異なる。例えば、当業者は、四価試料中の2つの抗原だけを解析しようと望むことができる。
【0087】
サロゲートペプチドに適する標識は、フッ素、ローダミン、Oregonグリーンなどの蛍光標識、または当技術分野で公知の他の標識である、放射性標識、質量標識を含む(参考文献13)。検量線は、任意選択で使用され、少なくとも1つの免疫原性抗原断片ペプチドの既知量と、比との数学的関係であって、比が、少なくとも1つのペプチドの既知量と、少なくとも1つの標準ペプチドの一定量との割合である数学的関係を表す。
【0088】
試料は、液体クロマトグラフィー(LC)に続いて、質量分析(MS)ステップを使用して解析することができる。当業者には、適切なLC法が公知であり、高速LC(HPLC)、超高速LC(UPLC)、および標準カラム、またはスラブゲルクロマトグラフィー法を含む。好ましくは、ペプチドは、UPLCを使用して分離する。
【0089】
クロマトグラフィーの後、質量分析を使用して、ペプチドを検出することができる。これは、目的のペプチドの特異的な検出を可能とし、したがって、より正確な定量をもたらす利点を有する。特に、クロマトグラフィーカラムからの溶出物は、夾雑物を含有することが多く、MSステップを追加することは、これらの夾雑物に起因する、試料中の免疫原性HAの過剰定量を回避する。
【0090】
本発明の方法は、任意のMS法を使用して実施することができる。適切な検出システムおよび定量システムは、エレクトロスプレー、マトリックス支援レーザー脱着イオン化(MALDI)、飛行時間(TOF)、多段四重極、および当技術分野で公知の、他の種類の質量分析システムを含む。例示的に述べると、Waters,Corp.から入手可能な、Waters Q-Tof Premier TOF四重極タンデム質量分析計またはAPI 4000-Q trap三段四重極タンデム質量分析計(Applied Biosystems、Foster City、CA)は各々、本発明における使用に適する。
【0091】
特に、本発明に従う免疫原性HAを定量するのに好ましい方法は、液体クロマトグラフィー選択反応モニタリング(LC-SRM)アッセイである(参考文献14)。
【0092】
改変型一元放射免疫拡散(SRID)アッセイ
上記で記載した通り、抗原試料のプロテアーゼ消化は、逆相高圧液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)など、そうしなければ、コンフォメーション的に感受性でない生物物理的定量方法を使用して、プロテアーゼに耐性である、免疫学的に活性の抗原を特異的に定量しうるように、抗原の不活性形態を選択的に分解する(また、下記の実施例も参照されたい)。プロテアーゼを使用して、望ましくない形態の抗原を選択的に分解しうるという認識に部分的に基づき、別の態様における本発明は、精度の改善を達成する「改変型」SRIDアッセイを提供する。
【0093】
本発明のこの態様に従い、生物学的タンパク質分解(例えば、プロテアーゼ消化)を、他の点では標準的なSRIDプロトコールへと組み込み、より正確なアッセイ結果を達成することができうる。下記の実施例で詳述する通り、トリプシン消化は、免疫学的に不活性である融合後HAと混合された場合の、免疫学的に活性である融合前HAを定量しうるように、SRIDの特異性を改善しうる。本分野において、依然として標準的なin vitro効力アッセイであるSRIDアッセイは、免疫学的に活性のHAを特異的に検出すると考えられている。実施例で裏付けられる通り、コンフォメーション的に均質なHA調製物については、SRIDアッセイを使用して、マウスにおいて、インフルエンザを中和し、血球凝集を阻害する抗体を誘発する、天然の融合前HAを特異的に検出することができるが、ブロッティングステップ時にSRIDゲルから選択的に除去され、免疫学的にも活性ではなかった、低pHストレスを受けた融合後HAは検出しない。驚くべきことに、本明細書で開示される作業結果は、この選択的検出が、SRIDフォーマット自体に起因するものであり、ELISAフォーマットで使用される場合、同じ抗血清が、ストレスを受けていないHAと、低pHストレスを受けたHAとを同様に検出しうるので、SRIDにおいて使用されるヒツジ抗血清のコンフォメーション特異性に起因するわけではないことを明らかにした。しかし、低pHストレスを受けたHAを、ストレスを受けていないHAと混合すると、SRIDは、いずれの形態も検出することが可能であり、免疫学的に活性のHAについての過剰定量をもたらす。
【0094】
したがって、本発明は、改良型SRIDアッセイへと招来される方法および中間体を提供する。したがって、本発明は、SRIDによりHAを定量する前に、HAを含有する試料を、生物学的タンパク質分解(例えば、トリプシン消化)に供するステップを含む方法を含む。本発明は、SRIDアッセイを実行する(例えば、試料中の免疫原性HAを定量するために)ときに、生物学的タンパク質分解(本明細書で規定される)にかけられている試料の使用をさらに含む。
【0095】
試料
試料は通例、インフルエンザワクチンまたはワクチンのバルク抗原調製物である。これは、バルクワクチンから得られた試料の場合もあり、ワクチンの単位用量の場合もあるが、定量は、最大HA用量(季節性インフルエンザワクチンの成人用量では、株当たり、通例15μg)が、ワクチンの投与容量(通例0.5mL)中に存在することを確実にするのに使用されるので、方法は通例、バルクワクチンに対して実施される。
【0096】
本発明の方法は、バルクワクチンに対して実施することもでき、最終的なワクチンに対して実施することもできる。本発明の方法はまた、作製工程中に見出される中間生成物に対して実施することもできる。
【0097】
最終的なワクチンに対する試験を実施して、正確な免疫原性HAの量が存在することを確実にすることができる。本発明の方法はまた、適正な免疫原性HAの量を、最終的なワクチンへと添加することを確実にするように、バルクワクチンに対して実施することもできる。バルクまたはワクチンは、一価でありうる。バルクまたはワクチンはまた、例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、または6つのモノバルクを混合した後において、多価でもありうる。季節性インフルエンザワクチンは典型的に、三価または四価であるので、多価バルクまたはワクチンは通例、三価または四価であろう。本発明の方法は、バルクまたはワクチンの滅菌濾過の前に実施することもでき、滅菌濾過の後で実施することもできる。本発明の方法はさらに、アジュバント添加の前に実施することもでき、アジュバント添加の後で実施することもできる。試料がワクチンである場合、方法は、パッケージングの前に実施することもでき、パッケージングの後で実施することもできる。
【0098】
また、本発明の方法を、保管されたバルクワクチン(一価または多価)またはワクチンに対して実施することも有用でありうる。バルクまたはワクチンは、10℃を下回る温度(例えば、4℃)または0℃を下回る温度(例えば、-20℃)で、例えば、1週間を超える、2週間を超える、3週間を超える、4週間を超える期間などにわたり保管されている場合がある。保管は、免疫原性状態HAから、不活性HAへのHAのコンフォメーション変化を結果としてもたらす可能性がある。本発明の方法を、保管された試料に対して実施することにより、正確な免疫原性HAの量が、最終的なワクチン中に見出されることを確実にすることができる。本発明の方法はまた、試料の保管寿命を評価することも可能とする。特に、試料を保管することができ、どの時点において、免疫原性HAの量が降下するのかを評価するように、試料の画分を、いくつかの時点において、本発明の方法を使用して、免疫原性HAの量について調べることができる。試料の安定性が大きいほど、免疫原性HAの量が顕著に減少するのに要する期間は長い。これに要する期間が長い試料は、安定性が大きいと考えられるであろう。
【0099】
多様な形態のインフルエンザウイルスワクチンが現在利用可能であり、ワクチンは一般に、生ウイルスまたは不活化ウイルスに基づく。不活化ワクチンは、全ビリオンに基づく場合もあり、スプリットビリオンに基づく場合もあり、精製表面抗原に基づく場合もある。インフルエンザ抗原はまた、ウィロソームの形態で提示することもでき、組換え宿主(例えば、バキュロウイルスベクターを使用する昆虫細胞系)内で発現させることもでき、精製形態で使用することができる(参考文献15)。本発明は、これらのワクチン型のうちのいずれと共に使用することもできるが、典型的には不活化ワクチンと共に使用するであろう。
【0100】
抗原は、全弱毒化ウイルスの形態を取る場合もあり、不活化ウイルスの形態を取る場合もある。ウイルスを不活化させるための化学的手段は、有効量の、以下の薬剤:洗浄剤、ホルムアルデヒド、ペルオキシド、ホルマリン、ベータプロピオラクトン、またはUV光のうちの1つまたは複数などの不活化剤による処理を含む。ベータ-プロピオラクトンは、調製物から容易に除去しうるという利点を有し、したがって、この薬剤が好ましい。不活化のための、さらなる化学的手段は、メチレンブルー、ソラーレン、カルボキシフラーレン(C60)、またはこれらのうちのいずれかの組合せによる処理を含む。当技術分野では、例えば、二元エチルアミン、アセチルエチレンイミン、またはガンマ線照射など、他のウイルス性不活化方法も公知である。INFLEXAL(商標)剤は、全ビリオン不活化ワクチンである。
【0101】
不活化ウイルスを使用する場合、ワクチンは、全ビリオン、スプリットビリオン、または精製表面抗原(ヘマグルチニンを含み、通例、ノイラミニダーゼもまた含む)を含みうる。
【0102】
ビリオンは、ウイルスを含有する流体から、多様な方法で採取することができる。例えば、精製工程は、ビリオンを破壊するように洗浄剤を含む、直線スクロース勾配溶液を使用する、ゾーン遠心分離を伴いうる。次いで、任意選択の希釈の後、抗原を、透析濾過により精製することができる。
【0103】
スプリットビリオンは、ビリオン内調製物を作製するように、「Tween-エーテル」スプリッティング工程を含む、ビリオンの、洗浄剤または溶媒(例えば、エチルエーテル、ポリソルベート80、デオキシコレート、トリ-N-ブチルリン酸、Triton-X-100、TritonN101、セチルトリメチルアンモニウムブロミドなど)による処理により得られる。当技術分野では、インフルエンザウイルスをスプリッティングする方法が周知である(例えば、参考文献16~21などを参照されたい)。ウイルスのスプリッティングは、典型的には、感染性であれ、非感染性であれ、全ウイルスを破壊濃度のスプリッティング剤で破壊または断片化することにより実行される。破壊は、ウイルスタンパク質の完全または部分的な可溶化、ウイルスの完全性の変更を結果としてもたらす。好ましいスプリッティング剤は、非イオン性界面活性剤およびイオン性(例えば、カチオン性)界面活性剤、例えば、アルキルグリコシド、アルキルチオグリコシド、アシル糖、スルホベタイン、ベタイン(betain)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、N,N-ジアルキル-グルカミド、Hecameg、アルキルフェノキシ-ポリエトキシエタノール、四級アンモニウム化合物、サルコシル、CTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)、トリ-N-ブチルリン酸、Cetavlon、ミリスチルトリメチルアンモニウム塩、リポフェクチン、リポフェクタミン、およびDOT-MA、オクチルフェノキシポリオキシエタノールまたはノニルフェノキシポリオキシエタノール(例えば、Triton X-100またはTriton N101などのTriton界面活性剤)、ポリオキシエチレンソルビタンエステル(Tween界面活性剤)、ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレン(ethlene)エステルなどである。1つの有用なスプリッティング手順は、デオキシコール酸ナトリウムおよびホルムアルデヒドの連続効果を使用し、スプリッティングは、初期ビリオン精製(例えば、スクロース密度勾配溶液中の)時に生じうる。スプリットビリオンは、ナトリウムリン酸緩衝等張性塩化ナトリウム溶液中で再懸濁させると有用でありうる。AFLURIA(商標)剤、BEGRIVAC(商標)剤、FLUARIX(商標)剤、FLUZONE(商標)剤、およびFLUSHIELD(商標)剤は、スプリットワクチンである。
【0104】
精製表面抗原ワクチンは、インフルエンザ表面抗原であるHAを含み、また、典型的には、ノイラミニダーゼも含む。当技術分野では、これらのタンパク質を、精製形態で調製するための工程が周知である。FLUVIRIN(商標)剤、AGRIPPAL(商標)剤、FLUAD(商標)剤、FLUCELVAX(商標)剤、およびINFLUVAC(商標)剤は、サブユニットワクチンである。
【0105】
インフルエンザ抗原はまた、INFLEXAL V(商標)剤およびINVAVAC(商標)剤における通り、ウィロソームの形態で提示することもできる(参考文献22)(核酸非含有ウイルス様リポソーム粒子)。
【0106】
本発明はまた、組換えインフルエンザワクチンと共に使用することもできる。このようなワクチンの例は、Flublok(商標)である。
【0107】
インフルエンザウイルスは、弱毒化させることができる。インフルエンザウイルスは、温度感受性でありうる。インフルエンザウイルスは、低温適応させることができる。これらの3つの可能性は特に、生ウイルスに当てはまる。
【0108】
ワクチンにおける使用のためのインフルエンザウイルス株は、シーズンごとに変化する。本汎発間期では、ワクチンは、典型的には2つのA型インフルエンザ株(H1N1およびH3N2)と、1つまたは2つのB型インフルエンザ株とを含み、三価ワクチンまたは四価ワクチンが典型的である。本発明は、これらのワクチンと共に使用することができる。本発明はまた、H2亜型株、H5亜型株、H7亜型株、またはH9亜型株(特に、A型インフルエンザウイルスの)など、汎発性株(すなわち、ワクチンレシピエント5および一般のヒト集団が、免疫学的にナイーブである株)に由来するウイルスにも有用であり、汎発性株のためのインフルエンザワクチンは、一価の場合もあり、汎発性株により補完された、通常の三価ワクチンに基づく場合もある。しかし、シーズンおよびワクチン中に含まれる抗原の性質に応じて、本発明は、A型インフルエンザウイルスヘマグルチニン亜型である、H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15またはH16のうちの1つまたは複数に対して防御するワクチンと共に使用することもできる。本発明は、A型インフルエンザウイルスNA亜型である、N1、N2、N3、N4、N5、N6、N7、N8またはN9のうちの1つまたは複数に対して防御するワクチンと共に使用することもできる。
【0109】
ワクチン組成物中に有用に組入れうる他の株は、耐性汎発性株(参考文献24)を含む、抗ウイルス治療に対して耐性(例えば、オセルタミビル(参考文献23)および/またはザナミビルに対して耐性)の株である。
【0110】
上記で論じた通り、HAは、天然の安定性の限界またはワクチンを作製する場合に必要な製造ステップ(不活化など)に起因して、ワクチン作製工程中に、融合後状態への移行を受ける可能性がある。本発明は、試料中のHAのうちの少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、80%、少なくとも85%;少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%が、活性/免疫原性(融合前)形態にあり、かつ/また試料中のHAのうちの20%、15%、10%、5%または1%未満が、不活性(融合後)形態にある試料について実施することができる。試料中の活性HAの、不活性HAに対する比は、少なくとも4:1、10:1、20:1、50:1または100:1でありうる。
【0111】
一般に、インフルエンザワクチンの標準的な成人用量は、株当たりの抗原0.5mL当たりのHA 15μgを要請するので、試料は、株当たり30μg/mLと同等であるかまたはこれを超える活性HAを含有することが有用である。HA濃度を、株当たり≧30μg/mLの活性HAとする試料を有することは、ヒト用量をもたらすのに、抗原を濃縮する必要がないので、ワクチン作製工程を容易とする。濃度を、株当たり30μg/mL未満の活性HA、例えば、株当たり少なくとも25μg/mLの活性HA、株当たり20μg/mLの活性HA、株当たり少なくとも15μg/mLの活性HA、株当たり少なくとも10μg/mLの活性HAなどとする試料もまた、使用することができる。この場合、最終的なワクチンは、投与当たり15μgの最終HA量に対応する投与容量より大きな投与容量を有する可能性があり、当技術分野における標準的な方法を使用して、抗原を濃縮する場合もあり、最終的なワクチンが、低HA量を含有する場合もある。低HA量は、汎発性インフルエンザワクチンに使用することができ、例えば、この場合、ワクチンをアジュバント処理することができる。試料は、4μg、3μg、2μg、1μg、0.5μg、または0.25μg未満の不活性HAを含有しうる。
【0112】
最終ワクチン製品は、投与当たり株当たり15μgを超えない総HA、例えば、株当たり14μgを超えない、13μgを超えない、12μgを超えない、11μgを超えない、10μgを超えない、9μgを超えない、8μgを超えない、7μgを超えない、6μgを超えない、5μgを超えない総HAを含有しうる。一部の実施形態では、このような製品中の総HAである抗原のうちの少なくとも50%、例えば、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%は、免疫原性形態にある。一部の実施形態では、最終ワクチン製品中に含有される総HAのうちの50%を超えないHA、例えば、総HAのうちの40%を超えない、30%を超えない、20%を超えない、10%を超えないHAは、トリプシン感受性形態にある。
【0113】
抗原の供給源として使用されるウイルスは、卵上で増殖させることもでき、細胞培養物上で増殖させることもできる。インフルエンザウイルスを増殖させるための、現行の標準的な方法は、特定病原体非含有でありうる孵化鶏卵を使用し、ウイルスは、卵内容物(尿膜腔液)から精製される。しかし、より近年になって、速度および患者アレルギーの理由で、ウイルスは、動物細胞培養物中で増殖させており、この増殖法が好ましい。卵ベースのウイルスの増殖を使用する場合、1つまたは複数のアミノ酸および/またはステロイドを、ウイルスと併せて、卵の尿膜腔液へと導入する場合がある(参考文献25)。
【0114】
細胞培養物を使用する場合、ウイルス増殖基質は、典型的には哺乳動物由来の細胞系などの真核細胞であろう。適切な哺乳動物細胞は、ハムスター細胞、ウシ細胞、霊長動物(ヒトおよびサルを含む)細胞、およびイヌ細胞を含むがこれらに限定されない。線維芽細胞および上皮細胞など、多様な細胞型を使用することができる。適切な細胞型の非限定的な例は、腎臓細胞、線維芽細胞、網膜細胞、肺細胞などを含む。適切なハムスター細胞の例は、BHK21またはHKCCという名称を有する細胞系である。適切なサル細胞は、例えば、Vero細胞系などの、腎臓細胞などのアフリカングリーンモンキー細胞である。適切なイヌ細胞は、例えば、MDCK細胞系などの、腎臓細胞である。したがって、適切な細胞系は、MDCK;CHO;293T;BHK;Vero;MRC-5;PER.C6;WI-38などを含むがこれらに限定されない。インフルエンザウイルスを増殖させるのに好ましい哺乳動物細胞系は、Madin Darbyイヌ腎臓に由来するMDCK細胞(参考文献26~29);アフリカングリーンモンキー(Cercopithecus aethiops)腎臓に由来するVero細胞(参考文献30~32);またはヒト胎児性網膜芽細胞に由来するPER.C6細胞(参考文献33)を含む。これらの細胞系は、例えば、American Type Cell Culture(ATCC)コレクション(参考文献34)、Coriell Cell Repositories(参考文献35)、またはEuropean Collection of Cell Cultures(ECACC)から広く入手可能である。例えば、ATCCは、型番CCL 81、CCL 81.2、CRL 1586、およびCRL-1587下で、異なる多様なVero細胞を供給しており、型番CCL 34下で、MDCK細胞を供給している。PER.C6は、受託番号96022940下で、ECACCから入手可能である。
【0115】
インフルエンザウイルスはまた、鳥類胚性幹細胞(参考文献36および39)およびアヒル(例えば、アヒル網膜)または雌ニワトリに由来する細胞系を含む鳥類細胞系(例えば、参考文献36~38)上で増殖させることもできる。適切な鳥類胚性幹細胞は、ニワトリ胚性幹細胞に由来するEBx細胞系である、EB45、EB14、およびEB14-074を含む(参考文献40)。また、ニワトリ胎仔線維芽細胞(CEF)も使用することができる。最も好ましい鳥類細胞系は、アヒル胚性幹細胞に由来する、EB66細胞系である。この細胞系は、インフルエンザ抗原を作製するために良好に働くことが報告されている(参考文献41)。
【0116】
インフルエンザウイルスを増殖させるために最も好ましい細胞系は、MDCK細胞である。元のMDCK細胞系は、CCL 34として、ATCCから入手可能であるが、この細胞系の派生細胞もまた、使用することができる。例えば、参考文献26は、浮遊培養物中の増殖に適応したMDCK細胞系(DSM ACC 2219として受託された「MDCK 33016」)について開示している。同様に、参考文献42は、無血清培養物中の浮遊状態で増殖するMDCK由来の細胞系(FERM BP-7449として受託された「B-702」)について開示している。参考文献43は、「MDCK-S」(ATCC PTA-6500)、「MDCK-SF101」(ATCC PTA-6501)、「MDCK-SF102」(ATCC PTA-6502)、および「MDCK-SF103」(PTA-6503)を含む非腫瘍形成性MDCK細胞について開示している。参考文献44は、「MDCK.5F1」細胞(ATCC CRL 12042)を含む、感染への感受性が高いMDCK細胞系について開示している。これらのMDCK細胞系のうちのいずれも使用することができる。
【0117】
ウイルスを細胞系上で増殖させている場合、組成物は、有利には卵タンパク質(例えば、オボアルブミンおよびオボムコイド)およびニワトリDNAを含まず、これにより、アレルゲン性を低減するであろう。
【0118】
ウイルスを細胞系上で増殖させている場合、増殖のための培養物は、好ましくは、単純ヘルペスウイルス、RS(respiratory syncytial)ウイルス、3型パラインフルエンザウイルス、SARSコロナウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス、レオウイルス、ポリオーマウイルス、ビルナウイルス、シルコウイルス(特に、ブタシルコウイルス)、および/またはパルボウイルスを含まず、また、培養を開始するのに使用されるウイルス接種物も、好ましくはこれらを含まない(すなわち、これらの夾雑について調べ、これについて陰性の結果が与えられている)であろう(参考文献45)。単純ヘルペスウイルスの非存在は、特に、好ましい。
【0119】
ウイルスを細胞系上で増殖させている場合、組成物は、好ましくは投与1回当たり10ng未満(好ましくは1ng未満であり、より好ましくは100pg未満)の残留宿主細胞DNA(典型的に、小児で0.25mLであるか、または成人で0.5mL)を含有するが、微量の宿主細胞DNAは存在しうる。一般に、本発明の組成物から除外することが望ましい宿主細胞DNAは、100bpより長いDNAである。
【0120】
残留宿主細胞DNAの測定は今や、生物学的薬剤についての、規定の規制要件であり、当業者の通常の能力の範囲内にある。DNAを測定するのに使用されるアッセイは、典型的には妥当性の確認されたアッセイであろう(参考文献46および47)。妥当性の確認されたアッセイの性能特徴は、数学的および定量的に記載することができ、その誤差の可能な源泉は、同定されているであろう。アッセイは一般に、確度、精度、特異度などの特徴について調べられているであろう。アッセイを較正(例えば、宿主細胞DNAの公知の標準的な数量に対して)し、調べたら、定量的DNA測定を、規定通りに実施することができる。DNA定量化のための、3つの主要な技法:サザンブロットまたはスロットブロット(参考文献48)などのハイブリダイゼーション方法;Threshold(商標)システム(参考文献49)などのイムノアッセイ方法;および定量的PCR(参考文献50)を使用することができる。当業者は、これらの方法全てに精通しているが、各方法の正確な特徴、例えば、ハイブリダイゼーションのためのプローブの選出し、増殖のためのプライマーおよび/またはプローブの選出しなどは、当該宿主細胞に依存しうる。Molecular Devices製のThreshold(商標)システムは、ピコグラムレベルの総DNAのための定量的アッセイであり、生物学的製剤中の夾雑DNAレベルをモニタリングするために使用されている(参考文献49)。典型的アッセイは、ビオチニル化ssDNA結合性タンパク質と、ウレアーゼコンジュゲート抗ssDNA抗体と、DNAとの間の、反応複合物の非配列特異的形成を伴う。全てのアッセイ構成要素は、製造元から入手可能な、Total DNA Assay Kit一式中に組み入れられている。多様な市販品製造元、例えば、AppTec(商標)Laboratory Services、BioReliance(商標)、Althea Technologiesなどが、残留宿主細胞DNAを検出するための定量的PCRアッセイを提供している。ヒトウイルスワクチンの宿主細胞DNAの夾雑を測定するための、化学発光ハイブリダイゼーションアッセイと、全DNA Threshold(商標)システムとの比較については、参考文献51において見出すことができる。
【0121】
夾雑DNAは、例えば、クロマトグラフィーなど、標準的な精製手順を使用して、ワクチン調製時に除去することができる。残留宿主細胞DNAの除去は、例えば、DNアーゼを使用することによりヌクレアーゼ処理により増強することができる。宿主細胞DNAの夾雑を低減するための簡便な方法は、参考文献52および53において開示されており、まず、ウイルスの増殖時に使用しうるDNアーゼ(例えば、ベンゾナーゼ)を使用し、次いで、ビリオンの破壊時に使用しうるカチオン性洗浄剤(例えば、CTAB)を使用する、2ステップの処理を伴う。また、β-プロピオラクトンなどのアルキル化剤による処理も、宿主細胞DNAを除去するのに使用することができ、また、有利にはビリオンを不活化させるのに使用することもできる(参考文献54)。アルキル化剤、またはDNアーゼと、アルキル化剤との組合せによる、2ステップの処理を使用する方法についてもまた、記載されている(参考文献55)。
【0122】
投与当たり10ngを超えない残留宿主細胞DNAを含有するワクチンが好ましい。例えば、ヘマグルチニン15μg当たり<10ng(例えば、<1ng、<100pg)の宿主細胞DNAを含有するワクチンは、容量0.25ml当たり<10ng(例えば、<1ng、<100pg)の宿主細胞DNAを含有するワクチンと同様に好ましい。ヘマグルチニン50μg当たり<10ng(例えば、<1ng、<100pg)の宿主細胞DNAを含有するワクチンは、容量0.5ml当たり<10ng(例えば、<1ng、<100pg)の宿主細胞DNAを含有するワクチンと同様により好ましい。
【0123】
任意の残留宿主細胞DNAの平均長は、500bp未満、例えば、400bp未満、300bp未満、200bp未満、100bp未満などであることが好ましい。
【0124】
MDCK細胞などの細胞系上で増殖させるために、ウイルスは、浮遊培養物中の細胞上で増殖させることができ(参考文献26、56および57)、または接着培養物中の細胞上で増殖させることもできる。浮遊培養に適する1つのMDCK細胞系は、MDCK 33016(DSM ACC 2219として受託されている)である。代替法として、マイクロキャリア培養を使用することもできる。
【0125】
インフルエンザウイルスの複製を支援する細胞系は、好ましくは無血清培養培地中および/または無タンパク質培地中で増殖させる。本発明の文脈では、ヒト由来または動物由来の血清に由来する添加剤が存在しない培地を、血清非含有培地と称する。タンパク質非含有とは、細胞の増多が、タンパク質、増殖因子、他のタンパク質添加剤、および非血清タンパク質を除外して生じる培養物を意味すると理解されるが、任意選択で、ウイルスの増殖に必要でありうる、トリプシンまたは他のプロテアーゼなどのタンパク質を含みうる。このような培養物中で増殖する細胞自体は、天然で、タンパク質を含有する。
【0126】
インフルエンザウイルスの複製を支援する細胞系は、好ましくは、例えば、ウイルス複製時に、37℃よりも下で(参考文献58)(例えば、30~36℃、または約30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃で)増殖させる。
【0127】
ウイルスを、培養細胞内で繁殖させる方法は一般に、培養細胞に、培養される株を接種するステップと、感染させた細胞を、例えば、ウイルス力価または抗原の発現により決定される時間(例えば、接種の24~168時間後の間)などの、ウイルスの繁殖に所望される時間にわたり培養するステップと、繁殖させたウイルスを回収するステップとを含む。培養細胞に、1:1000~1:1、1:500~1:1、1:100~1:5、または1:50~1:10のウイルス(PFUまたはTCID50により測定される)対細胞比で接種する。ウイルスを、細胞の懸濁液へと添加するか、または細胞の単層へと適用し、ウイルスを、細胞上で、25℃~40℃、好ましくは28℃~37℃で、少なくとも60分間であるが、通例300分間未満、好ましくは90~240分間の間にわたり吸収させる。感染させた細胞培養物(例えば、単層)は、採取された培養物上清のウイルス含量を増大させるように、凍結-融解または酵素作用により除去することができる。次いで、採取された流体を、不活化または凍結保存する。培養細胞は、約0.0001~10、好ましくは0.002~5、より好ましくは0.001~2の感染多重度(「m.o.i.」)で感染させることができる。さらにより好ましくは、細胞は、約0.01のm.o.iで感染させる。感染細胞は、感染の30~60時間後に採取することができる。好ましくは、細胞は、感染の34~48時間後、例えば、感染の38~40時間後に採取する。一般に、ウイルスの放出を可能とするように、細胞培養時に、プロテアーゼ(典型的には、トリプシン)を添加するが、プロテアーゼは、培養時の、任意の適する段階において、添加することができる。
【0128】
インフルエンザウイルスは、遺伝子再集合体(reassortment)株であることが可能であり、逆遺伝学技法により得られている。逆遺伝学技法(例えば、参考文献59~63)は、プラスミドまたは直鎖状発現構築物を使用して、所望のゲノムセグメントを伴うインフルエンザウイルスを、in vitroにおいて調製することを可能とする。典型的には、逆遺伝学技法は、細胞中の両方の種類のDNAの発現が、完全無欠の感染性ビリオンのアセンブリーをもたらすように、(a)所望のウイルスRNA分子をコードするDNA分子を、例えば、polIプロモーターから発現させるステップと、(b)ウイルスタンパク質をコードするDNA分子を、例えば、polIIプロモーターから発現させるステップとを伴う。DNAは、好ましくはウイルスRNAおよびウイルスタンパク質の全てをもたらすが、また、ヘルパーウイルスを使用して、一部のRNAおよびタンパク質をもたらすことも可能である。各ウイルスRNAをもたらすために、別個のプラスミドを使用するプラスミドベースの方法が好ましく(参考文献64~66)、これらの方法はまた、ウイルスタンパク質の全部または一部(例えば、PB1タンパク質、PB2タンパク質、PAタンパク質、およびNPタンパク質だけ)を発現させるのにも、プラスミドの使用を伴い、一部の方法では、12のプラスミドを使用するであろう。また、直鎖状発現構築物の使用も可能である(参考文献67)。
【0129】
必要とされるプラスミドの数を低減するため、近年の手法(参考文献68)は、同じプラスミド(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、または8つ全てのA型インフルエンザvRNAセグメントをコードする配列)上における、複数のRNAポリメラーゼI転写カセット(ウイルスRNAの合成のための)と、別のプラスミド(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、または8つ全てのA型インフルエンザmRNA転写物をコードする配列)上における、RNAポリメラーゼIIプロモーターを伴う、複数のタンパク質コード領域とを組み合わせる。参考文献68の方法の好ましい態様は、(a)単一のプラスミド上の、PB1 mRNAコード領域、PB2 mRNAコード領域、およびPA mRNAコード領域と;(b)単一のプラスミド上の、8つ全てのvRNAコードセグメントとを伴う。NAセグメントおよびHAセグメントを、1つのプラスミド上に組み入れ、他の6つのセグメントを、別のプラスミド上に組み入れることによってもまた、事態を容易とすることができる。
【0130】
ウイルスRNAセグメントをコードするために、polIプロモーターを使用することの代替として、バクテリオファージポリメラーゼプロモーターを使用することも可能である(参考文献69)。例えば、SP6ポリメラーゼ、T3ポリメラーゼ、またはT7ポリメラーゼのためのプロモーターは、簡便に使用することができる。polIプロモーターの種特異性のために、バクテリオファージポリメラーゼプロモーターは、多くの細胞型(例えば、MDCK)で、より簡便でありうるが、細胞にはまた、外因性ポリメラーゼ酵素をコードするプラスミドもトランスフェクトしなければならない。
【0131】
他の技法では、polIおよびpolII二重プロモーターを使用して、ウイルスRNAと、単一の鋳型発現可能なmRNAとを同時にコードすることも可能である(参考文献70および71)。
【0132】
したがって、特に、ウイルスを卵内で増殖させる場合、A型インフルエンザウイルスは、A/PR/8/34ウイルスに由来する、1または複数のRNAセグメント(典型的には、A/PR/8/34に由来する6つのセグメントであり、HAセグメントおよびNAセグメントは、ワクチン株に由来する、すなわち、6:2の遺伝子再集合体)を含みうる。A型インフルエンザウイルスはまた、A/WSN/33ウイルス、またはワクチン調製物のための遺伝子再集合体ウイルスを作出するのに有用な、他の任意のウイルス株に由来する、1または複数のRNAセグメントも含みうる。参考文献72および73はまた、A型インフルエンザ株と、B型インフルエンザ株とを再集合させるのに適切な骨格についても論じている。
【0133】
典型的には、本発明は、ヒト対ヒトの伝染が可能な株に対して防御し、株のゲノムは通例、哺乳動物の(例えば、ヒト)インフルエンザウイルスに由来した、少なくとも1つのRNAセグメントを含むであろう。株のゲノムは、鳥類インフルエンザウイルスに由来したNSセグメントを含みうる。
【0134】
ヘマグルチニン(HA)とは、不活化インフルエンザワクチン中の主要な免疫原であり、ワクチン用量は、典型的には一元放射免疫拡散(SRID)アッセイにより測定される、HAレベルを参照することにより標準化される。ワクチンは、典型的には株当たり約15μgのHAを含有するが、例えば、小児のために、または汎発性状況では、低用量もまた使用される。1/2用量(すなわち、株当たり7.5μgのHA)、1/4用量、および1/8用量などの部分用量も、高用量(例えば、3倍用量または9倍用量(参考文献76および77))と同様に使用される(参考文献74および75)。したがって、ワクチンは、インフルエンザ株当たり0.1~150μgの間のHA、好ましくは0.1~50μgの間、例えば、0.1~20μg、0.1~15μg、0.1~10μg、0.1~7.5μg、0.5~5μgなどを含みうる。特定の用量は、例えば、株当たり約45、約30、約15、約10、約7.5、約5、約3.8、約1.9、約1.5などを含む。これらの低用量は、本発明の場合と同様、アジュバントがワクチン中に存在する場合に最も有用である。本発明のワクチンの成分、キット、および工程(例えば、それらの容量および濃度)は、最終生成物中に、これらの抗原用量をもたらすように選択することができる。
【0135】
生ワクチンでは、投与量は、HA含量ではなく、中央値組織培養物感染性用量(TCID50)により測定し、株1つ当たり106~108の間のTCID50(好ましくは、106.5~107.5の間)が典型的である。
【0136】
本発明に使用されるHAは、ウイルス中に見出される天然HAの場合もあり、修飾されている場合もある。例えば、鳥類および他の種においてウイルスを高病原性とする決定基(例えば、HA1とHA2との間の切断部位近傍の多塩基性領域)は、除去しなければ、ウイルスが卵内で増殖することを妨げうるので、これらの決定基を除去するように、HAを修飾することが公知である。
【0137】
組成物は、洗浄剤、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンエステルによる界面活性剤(「Tweens」として公知である)、オクトキシノール(オクトキシノール-9(Triton X-100など)またはt-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(「CTAB」)、または、特に、スプリットワクチンまたは表面抗原ワクチンのための、デオキシコール酸ナトリウムを含みうる。洗浄剤は、微量だけで存在しうる。したがって、ワクチンは、オクトキシノール10、α-トコフェリル水素スクシネート、およびポリソルベート80の各々1mg/ml未満ずつを含みうる。微量中の他の残りの成分は、抗生剤(例えば、ネオマイシン、カナマイシン、ポリミキシンB)でありうるであろう。
【0138】
不活化の、しかし非全細胞のワクチン(例えば、スプリットウイルスワクチンまたは精製表面抗原ワクチン)は、この抗原内に位置する、さらなるT細胞エピトープから利益を得るために、マトリックスタンパク質を含みうる。したがって、ヘマグルチニンおよびノイラミニダーゼを含む、非全細胞ワクチン(特に、スプリットワクチン)は加えて、M1マトリックスタンパク質および/またはM2マトリックスタンパク質を含みうる。マトリックスタンパク質が存在する場合、検出可能なレベルのM1マトリックスタンパク質の組入れが好ましい。ヌクレオタンパク質もまた、存在しうる。
【0139】
試料中の抗原は、典型的にはインフルエンザビリオンから調製されるが、代替法として、ヘマグルチニンなどの抗原は、組換え宿主内(例えば、プラスミド発現系を使用する酵母内、またはバキュロウイルスベクターを使用する昆虫細胞系内)で発現させ、精製形態で使用することができる(参考文献78および79)。しかし、一般に、抗原は、ビリオンに由来するであろう。
【0140】
試料は、ストレス条件へと曝露されている場合もあり、これが疑われる場合もある。本発明の方法を使用して、試料が、ある範囲のストレス条件のうちの1つまたは複数へと曝露されている場合に、正確な免疫原性HAの量が、試料中に存在することを確実にすることができる。一部の実施形態では、ストレス条件は、6.5を下回るpH、凍結融解、およびボルテックス処理から選択される。一部の実施形態では、ストレス条件は、6.5を下回るpH、凍結融解、およびボルテックス処理から選択され、本明細書で記載される通り、RP-HPLCを使用して、定量を実施する。一部の実施形態では、ストレス条件は、6.5を下回るpH、7.5を上回るpH、50℃を上回る温度、または凍結融解から選択される。一部の実施形態では、ストレス条件は、6.5を下回るpH、7.5を上回るpH、50℃を上回る温度、または凍結融解から選択され、本明細書で記載される通り、質量分析を使用して、定量を実施する。質量分析法は、本明細書で記載される方法であって、分離ステップ(例えば、沈殿)をなしで済ませる方法でありうる。6.5を下回るpHは、4~6のpH(例えば、pH4.0~pH6.0の間)を含む。凍結融解は、PBS緩衝液中の凍結融解でありうる。凍結融解は、トリス緩衝液中の凍結融解でありうる。好ましい実施形態では、ストレス条件は、6.5を下回るpH(例えば、pH4~pH6)である。好ましくは、試料は、不活性HA(例えば、融合後HA)を含有するか、またはこれが疑われる。
【0141】
医薬組成物
本発明に従い調製されるワクチンは、薬学的に許容される。それらは、抗原およびアジュバントに加えた成分も含みうる、例えば、それらは典型的に、1つまたは複数の医薬担体および/または賦形剤を含むであろう。このような成分についての完全な議論は、参考文献80において閲覧可能である。粘膜ワクチン中で使用される担体/賦形剤は、非経口ワクチン中で使用される担体/賦形剤と、同じ場合もあり、異なる場合もある。
【0142】
組成物は、チオメルサールまたは2-フェノキシエタノールなどの保存剤を含みうる。しかし、ワクチンは、水銀材料を実質的に含まない(すなわち、5μg/ml未満である)、例えば、チオメルサール非含有であることが好ましい(参考文献20および81)。水銀を含有しないワクチンが、より好ましい。
【0143】
等張性を制御するために、特に、注射用ワクチンでは、ナトリウム塩など、生理学的塩を含むことが好ましい。塩化ナトリウム(NaCl)が好ましく、1~20mg/mlの間で存在しうる。存在しうる他の塩は、塩化カリウム、リン酸二水素カリウム、無水リン酸二ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムなどを含む。
【0144】
注射用の組成物は一般に、200mOsm/kg~400mOsm/kgの間、好ましくは240~360mOsm/kgの間の浸透圧を有し、より好ましくは290~310mOsm/kgの範囲内に収まるであろう。浸透圧は、ワクチン接種により引き起こされる疼痛に対して、影響を及ぼさないことが既に報告されている(参考文献82)が、それに関わらず、浸透圧をこの範囲内に保つことが好ましい。
【0145】
組成物は、1または複数の緩衝液を含みうる。典型的な緩衝液は、リン酸緩衝液;トリス緩衝液;ホウ酸緩衝液;コハク酸緩衝液;ヒスチジン緩衝液;またはクエン酸緩衝液を含む。緩衝液は、典型的には5~20mMの範囲で含まれるであろう。
【0146】
組成物のpHは一般に、5.0~8.1の間であり、より典型的には6.0~8.0の間、例えば、6.5~7.5の間、または7.0~7.8の間であろう。したがって、本発明の工程は、パッケージングの前に、バルクワクチンのpHを調整するステップを含みうる。
【0147】
組成物は、好ましくは滅菌である。組成物は、好ましくは非発熱物質性である、例えば、投与1回当たり<1EU(標準尺度である内毒素単位)を含有し、好ましくは投与1回当たり<0.1EUである。組成物は、好ましくはグルテン非含有である。
【0148】
組成物は、単回の免疫化のための材料を含む場合もあり、複数回の免疫化のための材料を含む場合もある(すなわち、「複数回投与」キット)。複数回投与の設定では、保存剤の組入れが好ましい。複数回投与用組成物中に保存剤を組み入れることに対する代替として(またはこれに加えて)、組成物は、材料を取り出すための無菌アダプターを有する容器内に含有される場合もある。
【0149】
インフルエンザワクチンは、典型的には約0.5mlの投与容量で投与するが、小児には、半用量(すなわち、約0.25ml)を投与することもできる。鼻腔内投与では、この総投与容量を、鼻孔間で分割する、例えば、各鼻孔内に1/2ずつに分割することができる。
【0150】
組成物およびキットは、好ましくは2℃~8℃の間で保存する。組成物およびキットは、凍結させるべきではない。組成物およびキットは、理想的には、直接的な光の外で保存するべきである。
【0151】
アジュバント
本発明の方法の利点のうちの1つは、それらが、アジュバント処理されたインフルエンザワクチン中の、免疫原性HAのHA定量を可能とすることである。したがって、本発明の方法で使用される試料は、アジュバント処理されたインフルエンザワクチンでありうる。アジュバントは、インフルエンザ抗原と共に良好に働くことが示されているので、好ましくは水中油エマルジョンアジュバントである。
【0152】
水中油エマルジョンアジュバント
水中油エマルジョンは、インフルエンザウイルスワクチンのアジュバント処理における使用に、特に適することが見出されている。このような多様なエマルジョンは、公知であり、典型的には、少なくとも1つの油と、油を伴う少なくとも1つの界面活性剤と、生体分解性(代謝性)かつ生体適合性の界面活性剤とを含む。エマルジョン中の油滴は一般に、直径が5μm未満であり、1ミクロン未満の直径を有する場合もあり、これらの小さなサイズは、安定的なエマルジョンをもたらすように、マイクロフルイダイザーにより達成される。平均サイズを220nm未満とする液滴が、濾過無菌にかけうるので好ましい。
【0153】
好ましい実施形態では、水中油エマルジョンは、均一である。均一なエマルジョンは、その中に分散させた液滴(粒子)の大部分が、指定されたサイズ範囲(例えば、直径範囲)内にあることにより特徴付けられる。適切な指定のサイズ範囲は、例えば、50~220nmの間、50~180nmの間、80~180nmの間、100~175nmの間、120~185nmの間、130~190nmの間、135~175nmの間、150~175nmの間でありうる。一部の実施形態では、均一エマルジョンは、指定の直径範囲外にある液滴(粒子)のうちの、≦10%の数の液滴(粒子)を含有する。一部の実施形態では、水中油エマルジョン調製物中の油滴の、平均値粒子サイズは、動的光散乱により測定される通り、135~175nmの間、例えば、155nm±20nmであり、このような調製物は、光学粒子センシングにより測定される通り、調製物1mL当たり1×107を越えない大型粒子を含有する。本明細書で使用される「大型粒子」とは、直径を>1.2μm、典型的に1.2~400μmの間とする粒子を意味する。好ましい実施形態では、均一エマルジョンは、好ましいサイズ範囲外にある液滴のうちの10%未満、5%未満、または3%未満を含有する。一部の実施形態では、水中油エマルジョン調製物中の粒子の平均値液滴サイズは、125~185nmの間、例えば、約130nm、約140nm、約150nm、約155nm、約160nm、約170nm、または約180nmであり、水中油エマルジョンは、調製物中の液滴のうちで、125~185nmの範囲外にある液滴の数は、5%未満であるという意味で均一である。
【0154】
本発明は、動物(魚類など)供給源または植物供給源に由来する油などの油と共に使用することができる。植物油のための供給源は、堅果、種、および穀物を含む。ラッカセイ油、ダイズ油、ヤシ油、およびオリーブ油は、最も一般に利用可能であり、堅果油を例示する。例えば、ホホバ豆から得られたホホバ油を使用することができる。種油は、サフラワー油、綿実油、ヒマワリ油、ゴマ油などを含む。穀物群では、トウモロコシ油が、最もたやすく入手可能であるが、コムギ、オオムギ、ライムギ、コメ、テフ、ライコムギなど、他の穀類の油もまた、使用することができる。種油中で自然発生するわけではないが、グリセロールおよび1,2-プロパンジオールの、6~10炭素の脂肪性酸エステルも、堅果油および種油から出発する適切な材料の、加水分解、分離、およびエステル化により調製することができる。哺乳動物のミルクに由来する脂肪および油は、代謝性であり、したがって、本発明の実施において使用することができる。当技術分野では、分離、精製、サポニン化のための手順、および純粋な油を、動物供給源から得るために必要な他の手段が周知である。大半の魚類は、たやすく回収されうる、代謝性の油を含有する。例えば、肝油、サメ肝油、およびマッコウクジラなどの鯨油は、本明細書で使用されうる魚油のうちのいくつかを例示する。多数の分枝鎖油が、5-炭素イソプレン単位内で、生化学的に合成されており、一般に、テルペノイドと称する。サメ肝油は、本明細書で特に好ましい、2,6,10,15,19,23-ヘキサメチル-2,6,10,14,18,22-テトラコサヘキサエンである、スクアレンとして公知である、分枝状の不飽和テルペノイドを含有する。スクアレンの飽和類似体であるスクアランもまた、好ましい油である。スクアレンおよびスクアランを含む魚油は、市販品供給源からたやすく入手可能であるか、または当技術分野で公知の方法により得ることができる。他の好ましい油は、トコフェロール(下記を参照されたい)である。油の混合物を使用することができる。
【0155】
界面活性剤は、それらの「HLB」(hydrophile/lipophile balance)により分類することができる。本発明の好ましい界面活性剤は、少なくとも10、好ましくは少なくとも15、より好ましくは少なくとも16のHLBを有する。本発明は、ポリオキシエチレンソルビタンエステルによる界面活性剤(一般に、Tweenと称する)、とりわけ、ポリソルベート20およびポリソルベート80;直鎖状EO/POブロックコポリマーなど、DOWFAX(商標)の商標名で販売されている、エチレンオキシド(EO)、酸化プロピレン(PO)、および/またはブチレンオキシド(BO)のコポリマー;オクトキシノール-9(Triton X-100またはt-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール)が特に目的である、反復するエトキシ(オキシ-1,2-エタンジイル)基の数を変動させうるオクトキシノール;(オクチルフェノキシ)ポリエトキシエタノール(IGEPAL CA-630/NP-40);ホスファチジルコリン(レシチン)などのリン脂質;トリエチレングリコールモノラウリルエーテル(Brij 30)などの、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、およびオレイルアルコールに由来する、ポリオキシエチレン脂肪族エーテル(Brij界面活性剤として公知である);ならびにソルビタントリオレエート(Span 85)およびソルビタンモノラウレートなどのソルビタンエステル(SPANとして一般に公知である)を含むがこれらに限定されない界面活性剤と共に使用することができる。非イオン性界面活性剤が好ましい。エマルジョン中に組み入れるために好ましい界面活性剤は、Tween 80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)、Span 85(ソルビタントリオレエート)、レシチン、およびTriton X-100である。
【0156】
界面活性剤の混合物、例えば、Tween 80/Span 85混合物を使用することができる。ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween 80)などのポリオキシエチレンソルビタンエステルと、t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(Triton X-100)などのオクトキシノールとの組合せもまた適する。別の有用な組合せは、laureth 9とポリオキシエチレンソルビタンエステルおよび/またはオクトキシノールを含む。
【0157】
界面活性剤の好ましい量(重量%)は、ポリオキシエチレンソルビタンエステル(Tween 80など)0.01~1%、特に、約0.1%;オクチルフェノキシポリオキシエタノールまたはノニルフェノキシポリオキシエタノール(Triton X-100、またはTritonシリーズ中の他の洗浄剤など)0.001~0.1%、特に、0.005~0.02%;ポリオキシエチレンエーテル(laureth 9など)0.1~20%、好ましくは0.1~10%であり、特に、0.1~1%または約0.5%である。
【0158】
最も好ましい水中油エマルジョンは、水中スクアレンエマルジョン、好ましくは、1ミクロン未満の水中スクアレンエマルジョンである。
【0159】
本発明で有用な、具体的な水中油エマルジョンは、以下を含むがこれらに限定されず、それらの中では、スクアレン含有エマルジョンが好ましい。
【0160】
1ミクロン未満のスクアレンエマルジョン、ポリソルベート80、およびソルビタントリオレエート。エマルジョンは、水性相中のクエン酸イオン、例えば、10mMのクエン酸ナトリウム緩衝液を含みうる。エマルジョンは、3.2~4.6mg/mlのスクアレン、4.1~5.3mg/mlのポリソルベート80、および4.1~5.3mg/mlのソルビタントリオレエートを含みうる。エマルジョン組成は、容量で約4.6%のスクアレン、約0.45%のポリソルベート80、および約0.5%のソルビタントリオレエートでありうる。「MF59」として公知のアジュバント(参考文献83~85)は、参考文献86の第10章および参考文献87の第12章においてより詳細に記載されている。スクアレン、ポリソルベート80、およびソルビタントリオレエートは、9750:1175:1175の重量比で存在しうる。約39mg/mLのスクアレン、約4.7mg/mLのポリソルベート80、および約4.7mg/mLのソルビタントリオレエートの濃度が典型的である。多分散性を<0.2とする、Z平均による155~185nmの間の液滴サイズが好ましい。
【0161】
スクアレン、トコフェロール(特に、DL-α-トコフェロール)、およびポリソルベート80を含むエマルジョン。エマルジョンは、リン酸緩衝液生理食塩液を含みうる。これらのエマルジョンは、容量で2~10%のスクアレン、2~10%のトコフェロール、および0.3~3%のポリソルベート80を有することが可能であり、スクアレン:トコフェロールの重量比は、より安定的なエマルジョンをもたらしうるので、好ましくは<1(例えば、0.90)である。スクアレンおよびポリソルベート80は、約5:2の容量比または約11:5の重量比で存在しうる。したがって、3つの成分(スクアレン、トコフェロール、ポリソルベート80)は、1068:1186:485またはおよそ55:61:25の重量比で存在しうる。1つのこのようなエマルジョン(「AS03」)は、重量で4.3%のスクアレン、重量で4.8%のトコフェロール、および重量で2%のポリソルベート80を含む。約42.7mg/mLのスクアレン、約47.4mg/mLのDL-α-トコフェロール、および約19.4mg/mLのポリソルベート80の濃度が典型的である。140~170nmの間のZ平均液滴サイズが好ましい。エマルジョンはまた、3-O-脱アシル化モノホスホリルリピドA(3d MPL)も含みうる。この種類の別の有用なエマルジョンは、ヒトへの投与当たり、例えば、上記で論じた比である、0.5~10mgのスクアレン、0.5~11mgのトコフェロール、および0.1~4mgのポリソルベート80(参考文献88)を含みうる。
【0162】
スクアレン、水性溶媒、ポリオキシエチレンアルキルエーテルによる親水性の非イオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレン(12)セトステアリールエーテル)、および疎水性の非イオン性界面活性剤(例えば、ソルビタンモノオレエートまたは「Span 80」などのソルビタンエステルまたはマンニドエステル)を含むエマルジョン。エマルジョンは、好ましくは熱可逆性であり、かつ/またはサイズを200nm未満とする、少なくとも90%の油滴(容量で)を有する(参考文献89)。エマルジョンはまた、アルジトール;凍結防止剤(例えば、ドデシルマルトシドおよび/またはスクロースなどの糖);および/またはアルキルポリグリコシドのうちの1つまたは複数も含みうる。エマルジョンは、TLR4アゴニストを含みうる(参考文献90)。このようなエマルジョンは、凍結乾燥させることができる。好ましいエマルジョンは、平均液滴サイズが150nmを下回る、スクアレン、ソルビタンオレエート、ポリオキシエチレンセトステアリールエーテル、およびマンニトール(例えば、32.5%のスクアレン、4.82%のソルビタンオレエート、6.18%のポリオキシエチレンセトステアリールエーテル、および6%のマンニトール;重量%)を含む。約49.6mg/mLのスクアレン、約7.6mg/mLのソルビタンオレエート、および約9.6mg/mLのポリオキシエチレンセトステアリールエーテル、および9.2mg/mLのマンニトールの濃度が典型的である。
【0163】
スクアレン、ホスファチジルコリン、ポロキサマー188、グリセロール、およびリン酸アンモニウム緩衝液を含み(参考文献91)、任意選択で、α-トコフェロール(「SE」)もまた含むエマルジョン。
【0164】
スクアレン、トコフェロール、およびTriton洗浄剤(例えば、Triton X-100)によるエマルジョン。エマルジョンはまた、3d-MPL(下記を参照されたい)も含みうる。エマルジョンは、リン酸緩衝液を含有しうる。
【0165】
ポリソルベート(例えば、ポリソルベート80)、Triton洗浄剤(例えば、Triton X-100)、およびトコフェロール(例えば、α-トコフェロールスクシネート)を含むエマルジョン。エマルジョンは、これらの3成分を、約75:11:10(例えば、750μg/mlのポリソルベート80、110μg/mlのTriton X-100および100μg/mlの、α-トコフェロールスクシネート)の質量比で含むことが可能であり、これらの濃度は、抗原からのこれらの成分の任意の寄与を含むべきである。エマルジョンはまた、スクアレンも含みうる。水性相は、リン酸緩衝液を含有しうる。
【0166】
スクアラン、ポリソルベート80、およびポロキサマー401(「Pluronic(商標)L121」)のエマルジョン。エマルジョンは、リン酸緩衝液生理食塩液、pH7.4中で製剤化することができる。このエマルジョンは、ムラミルジペプチドのための有用な送達媒体であり、「SAF-1」アジュバント中で、トレオニル-MDPと共に使用されている(参考文献92)(0.05~1%のThr-MDP、5%のスクアラン、2.5%のPluronic L121、および0.2%のポリソルベート80)。このエマルジョンはまた、「AF」アジュバント中の場合のように、Thr-MDPを伴わずに使用することもできる(参考文献93)(5%のスクアラン、1.25%のPluronic L121、および0.2%のポリソルベート80)。マイクロフルイダイゼーションが好ましい。
【0167】
スクアレン、ポロキサマー105、およびAbil-Careによるエマルジョン(参考文献94)。アジュバント処理されたワクチン中の、これらの成分の最終濃度(重量)は、5%のスクアレン、4%のポロキサマー105(プルロニックポリオール)、および2%のAbil-Care 85(Bis-PEG/PPG-16/16 PEG/PPG-16/16ジメチコン;トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル)である。
【0168】
0.5~50%の油、0.1~10%のリン脂質、および0.05~5%の非イオン性界面活性剤を有するエマルジョン。参考文献95に記載される通り、好ましいリン脂質成分は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、スフィンゴミエリン、およびカルジオリピンである。1ミクロン未満の液滴サイズが、有利である。
【0169】
非代謝性油(軽油など)および少なくとも1つの界面活性剤(レシチン、Tween 80、またはSpan 80など)による、1ミクロン未満の水中油エマルジョン:QuilAサポニン、コレステロール、サポニン-親油性物質コンジュゲート(参考文献96において記載されている、脂肪族アミンを、グルクロン酸のカルボキシル基を介して、デスアシルサポニンへと添加することにより作製されたGPI-0100など)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(dimethyidioctadecylammonium bromide)、および/またはN,N-ジオクタデシル-N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)プロパンジアミンなどの添加剤も組み入れることができる。
【0170】
サポニン(例えば、QuilAまたはQS21)と、ステロール(例えば、コレステロール)とが、ヘリカルミセルとして会合するエマルジョン(参考文献97)。
【0171】
ミネラル油、非イオン性親油性エトキシル化脂肪族アルコール、および非イオン性親水性界面活性剤(例えば、エトキシル化脂肪族アルコールおよび/またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー)を含むエマルジョン(参考文献98)。
【0172】
ミネラル油、非イオン性親水性エトキシル化脂肪族アルコール、および非イオン性親油性界面活性剤(例えば、エトキシル化脂肪族アルコールおよび/またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー)を含むエマルジョン(参考文献98)。
【0173】
注射用のワクチンを作製するためには、これらのエマルジョンを一般に、水性の免疫原調製物と混合するであろう。この混合は典型的に、水性形態にあるエマルジョンを、水性形態にある免疫原と共に、1:1の容量比で伴い、この場合、エマルジョンの成分の比率は、最終的なワクチン中で半分となる。例えば、容量で5%のスクアレンを伴うエマルジョンを、抗原溶液と1:1の比で混合して、最終濃度を容量で2.5%とするワクチンをもたらすことができる。当然ながら、例えば、5:1~1:5の間の、混合のための2つの液体の容量比を使用する、他の混合比も可能である。したがって、ワクチン組成物中で、上記で言及したエマルジョンの成分の濃度を、それらの比を同じままとする希釈(例えば、2または3などの整数による)により改変することもできる。例えば、小児ワクチンは、低濃度のアジュバント、例えば、容量で4%、3.5%、3%、2.5%、2%、1.5%、または1%のスクアレンを含有しうる。
【0174】
抗原とアジュバントとを混合した後で、ヘマグルチニン抗原は一般に、なおも水溶液中にあるが、油/水界面の近傍に分布しうる。一般に、エマルジョンの油相に入るヘマグルチニンは、存在するとしても少量である。
【0175】
組成物が、トコフェロールを含む場合、αトコフェロール、βトコフェロール、γトコフェロール、δトコフェロール、εトコフェロール、またはξトコフェロールのうちのいずれも使用しうるが、α-トコフェロールが好ましい。トコフェロールは、いくつかの形態、例えば、異なる塩および/またはアイソマーを取りうる。塩は、コハク酸塩、酢酸塩、ニコチン酸塩などの有機塩を含む。D-α-トコフェロールおよびDL-α-トコフェロールのいずれも使用することができる。トコフェロールは、ビタミンEは、この患者群内で、免疫応答に対して、肯定的な効果を及ぼすことが報告されているため、老齢患者(例えば、60歳またはそれ超)における使用のためのワクチン中に含まれると有利である(参考文献99)。トコフェロールはまた、エマルジョンを安定化させる一助となる、抗酸化特性も有する(参考文献100)。好ましいα-トコフェロールは、DL-α-トコフェロールであり、このトコフェロールの好ましい塩は、コハク酸塩である。コハク酸塩は、in vivoにおいて、TNF関連のリガンドと協同作用することが見出されている。さらに、α-トコフェロールスクシネートは、インフルエンザワクチンと適合性であり、水銀化合物の代替物としても有用な保存剤であることが公知である(参考文献20)。保存剤非含有ワクチンが特に好ましい。
【0176】
全般
「~を含むこと(comprising)」という用語は、「~を含むこと(including)」のほか、「~からなること」も包含し、例えば、X「を含む」組成物は、Xからもっぱらなる場合もあり、さらなる何物か、例えば、X+Yを含む(include)場合もある。
【0177】
「実質的に」という語は、「完全に」を除外せず、例えば、Yを「実質的に含まない」組成物は、Yを完全に含まない場合もある。必要な場合、「実質的に」という語は、本発明による定義から省略することができる。
【0178】
数値xとの関連における「約」という用語は、任意選択であり、例えば、x+10%を意味する。
【0179】
具体的に言明されない限りにおいて、2つまたはこれを超える成分を混合するステップを含む工程は、いかなる具体的な混合順序も要請しない。したがって、成分は、任意の順序で混合することができる。3つの成分が存在する場合は、2つの成分を、互いと組み合わせ、次いで、この組合せを、第3の成分と組み合わせることができるなどである。
【0180】
動物(そして、特に、ウシ)材料を、細胞培養物中で使用する場合、それらは、伝染性海綿状脳症(transmissible spongiform encaphalopathies)(TSE)を含まない、特に、ウシ海綿状脳症(BSE)を含まない供給源から得るものとする。総じて、動物由来の材料の完全な非存在下で、細胞を培養することが好ましい。
【0181】
本発明について、例だけを目的として記載してきたが、本発明の範囲および精神の範囲内にとどまりながら、改変を行いうることが理解されるであろう。本発明は、以下の非限定的な実施形態を包含する。
1)(a)免疫原性HA、不活性HA、またはこれらの組合せを含む試料を提供するステップと;(b)前記試料を、生物学的タンパク質分解に供するステップであって、前記不活性HAが消化され、前記免疫原性HAが消化されないままであるステップと;(c)前記試料中の、前記消化された不活性HAを、前記消化されていない免疫原性HAから分離するステップと;(d)消化された免疫原性HAの断片を提供するように、前記消化されていない免疫原性HAを、解析的タンパク質分解に供するステップと;(e)少なくとも1つの標識化基準HAペプチドの存在下で、液体クロマトグラフィー-エレクトロスプレーイオン化-タンデム質量分析(LC-ESI-MS)を実行して、前記試料中の免疫原性HAの量を定量するステップとを含む方法。
2)(a)免疫原性HA、不活性HA、またはこれらの組合せを含む試料を提供するステップと;(b)前記試料を、1種または複数種のプロテアーゼにより、生物学的タンパク質分解に供するステップであって、前記不活性HAが、消化され、前記免疫原性HAが、消化されないままであるステップと;(c)前記不活性HA由来のペプチドと識別可能な、免疫原性HA由来のペプチドを含む、消化された免疫原性HAの断片を提供するように、消化されていない免疫原性HAと、消化された不活性HAとの混合物を、1種または複数種のプロテアーゼを使用する解析的タンパク質分解に供するステップであって、前記解析的タンパク質分解が、生物学的タンパク質分解の間に、前記不活性HA内で切断されうる、1つまたは複数の切断部位において、前記免疫原性HAを切断しえないステップと;(d)少なくとも1つの標識化基準HAペプチドの存在下で、液体クロマトグラフィー-エレクトロスプレーイオン化-タンデム質量分析(LC-ESI-MS)を実行して、前記試料中の免疫原性HAの量を定量するステップとを含む方法。
3)ステップ(d)の、消化されていない免疫原性HAが、ストレス形態にある、実施形態1による方法。
4)消化されていない免疫原性HAのストレス形態が、6.5を下回るpH、7.5を上回るpH、50℃を上回る温度;または凍結融解への曝露により得られる、実施形態3による方法。
5)低pHが、pH6.0を下回る、実施形態4による方法。
6)低pHが、pH4.0~6.0の間である、実施形態5による方法。
7)解析的タンパク質分解ステップが、免疫原性HAの断片を作出するのに十分な条件下における、セリンプロテアーゼによる消化を含む、任意の先行する実施形態による方法。
8)解析的タンパク質分解を、約37℃で、最長18時間にわたり実施する、実施形態7による方法。
9)ステップ(b)におけるプロテアーゼと、ステップ(d)におけるプロテアーゼとが、同じであるか、または異なる、実施形態1に従属する、任意の先行する実施形態による方法。
10)試料中の免疫原性インフルエンザHAを定量するための方法であって、試料を、生物学的タンパク質分解に供するステップと;試料中の免疫原性HAを、他の成分から分離するステップと;試料中の免疫原性HAを定量するステップとを含む方法。
11)生物学的タンパク質分解が、プロテアーゼによるタンパク質分解を含む、実施形態1に従属する、任意の先行する実施形態による方法。
12)プロテアーゼが、セリンプロテアーゼである、実施形態11による方法。
13)セリンプロテアーゼが、トリプシンである、実施形態12による方法。
14)生物学的タンパク質分解を、37℃で実行する、任意の先行する実施形態による方法。
15)生物学的タンパク質分解を、30分間、60分間、90分間、または120分間にわたり実行する、実施形態10~14のうちのいずれか1つによる方法。
16)免疫原性HAを、液体クロマトグラフィー-エレクトロスプレーイオン化-タンデム質量分析(LC-ESI-MS)により定量する、実施形態10~15のうちのいずれか1つによる方法。
17)免疫原性HAを分離するステップが、タンパク質沈殿を含む、実施形態1または10に従属する、任意の先行する実施形態による方法。
18)タンパク質沈殿が、有機溶媒を添加するステップを含む、実施形態17による方法。
19)有機溶媒が、ケトンまたはアルコールである、実施形態18による方法。
20)有機溶媒が、アセトン、エタノール、またはメタノールである、実施形態19による方法。
21)沈殿したタンパク質を、アルコールで洗浄するステップを含む、実施形態1または10に従属する、任意の先行する実施形態による方法。
22)アルコールが、エタノールである、実施形態21による方法。
23)試料が、全ビリオンインフルエンザワクチン、スプリットインフルエンザワクチン、サブユニットインフルエンザワクチン、および組換えインフルエンザワクチンからなる群から選択される、任意の先行する実施形態による方法。
24)試料が、アジュバントを含む、実施形態23による方法。
25)アジュバントが、水中油エマルジョンアジュバントである、実施形態24による方法。
26)試料が、1つ、2つ、3つ、4つ、またはこれを超えるインフルエンザ株に由来するHAを含む、任意の先行する実施形態による方法。
27)試料が、一価バルク調製物、多価バルク調製物、一価生成物、または多価生成物から採取された、任意の先行する実施形態による方法。
28)LC-ESI-MSが、同位体希釈質量分析(IDMS)である、実施形態1~9または16~27のうちのいずれか1つによる方法。
29)標識化基準HAペプチドが、同位体標識を含む、任意の先行する実施形態による方法。
30)同位体標識が、15Nおよび13Cからなるリストから選択される、実施形態29による方法。
31)試料中の免疫原性インフルエンザHAを定量するための方法であって、(a)試料を、生物学的タンパク質分解に供するステップと;(b)(a)による試料中の免疫原性HAの量を、SRIDアッセイにより定量するステップとを含む方法。
32)ステップ(b)を、ポリクローナル抗血清(例えば、ヒツジ抗血清)および/または適切なモノクローナル抗体など、抗血清の使用を伴って実行する、実施形態31による方法。
33)生物学的タンパク質分解が、プロテアーゼ(例えば、トリプシンなどのセリンプロテアーゼ)によるタンパク質分解を含む、実施形態32による方法。
34)生物学的タンパク質分解を、37℃で実行する、実施形態31~33のうちのいずれか1つによる方法。
35)試料が、全ビリオンインフルエンザワクチン、スプリットインフルエンザワクチン、サブユニットインフルエンザワクチン、および組換えインフルエンザワクチンからなる群から選択される、実施形態31~34のうちのいずれか1つによる方法。
36)試料が、1つ、2つ、3つ、4つ、またはこれを超えるインフルエンザ株に由来するHAを含む、任意の先行する実施形態による方法。
37)試料が、一価バルク調製物、多価バルク調製物、一価生成物、または多価生成物から採取された、任意の先行する実施形態による方法。
38)試料/ワクチン中のHAのうちの少なくとも60%が、活性/免疫原性形態にあり;かつ/または、試料/ワクチン中のHAのうちの20%未満が、不活性形態にあり;かつ/または、試料中の活性HA:不活性HAの比が、少なくとも4:1である、任意の先行する実施形態による方法。
39)インフルエンザワクチンを製造するための方法であって、インフルエンザHAを含むバルク調製物に由来する試料を提供するステップと;免疫原性HAの量を、任意の先行する実施形態による方法に従い定量するステップと;単位剤形を、バルク調製物から、試料中の免疫原性HAの量に従いパッケージングするステップとを含む方法。
40)インフルエンザワクチンを調製するための方法であって、実施形態1~38のうちのいずれか1つによる方法により、バルクワクチン中のHAの量を定量するステップと;ワクチンをバルクから調製するステップとを含む方法。
41)滅菌調製物をもたらすように、濾過するステップをさらに含む、実施形態39または40による方法。
42)アジュバントと組み合わせるステップをさらに含む、実施形態39~41のうちのいずれか1つによる方法。
43)単位投与量が、液体、凍結乾燥固体、凍結乾燥粉末、または経鼻エアゾールの形態にある、実施形態39~42のうちのいずれか1つによる方法。
44)ステップ(c)の後の、実施形態1による方法を反復するステップをさらに含む、実施形態39~43のうちのいずれか1つによる方法。
45)バルクが、一価または多価である、実施形態39~44のうちのいずれか1つによる方法。
【実施例0182】
本発明を、以下の実施例によりさらに例示するが、これらは、限定的であるとはみなされるべきではない。
【0183】
(実施例1)
生物学的トリプシン処理による前処理。
インフルエンザウイルス表面HAは、免疫学的に最も関与性の状態である融合前状態では、主に三量体として存在する。多様なストレス条件下で、HAは、融合後状態への不可逆的移行を受ける場合がある。融合後HAは、強力な中和免疫応答を誘発しない。
【0184】
融合前HAのトリプシン消化に対する感受性と、融合後HAのトリプシン消化に対する感受性とを、調製したばかりのトリプシン(酵素:基質比を、1:20とする)を試料へと添加し、37℃で2時間にわたりインキュベートすることにより比較した。
【0185】
還元条件下のSDS-PAGEにより示される通り(
図1A)、対照の融合前HA(HA1およびHA2)は、高プロテアーゼ濃度(HA:トリプシン=5:1)であってもなお、トリプシン消化に対して、極めて耐性である。これに対し、コンフォメーション変化を受けた、低pHにより誘導された融合後HA1は、トリプシンに対して極めて感受性になった。しかし、融合後HA2は、そのプロテアーゼ耐性を、やはり保持した。
【0186】
試料はまた、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)によっても解析した。RP-HPLCのために、Pros R1/10カラム(Applied Biosystems)および30~35%のACN(0.1%のTFA)勾配を使用して、UVによる検出を伴う、Waters製のAlliance HPLCにより、DTT還元試料を分解した。
【0187】
RP-HPLCは、HA1ピークが、対照条件(融合前対照、pH4.0処理だけ、およびトリプシン処理だけ)下で、変化しないで維持されることを明らかに示した。しかし、HA1ピークは、低pHおよびトリプシンで二重処理された試料中では、有意に減衰した。
【0188】
前処理ステップ(生物学的トリプシン処理と呼ばれる)を、定量的質量分析と組み合わせることにより、効力アッセイを開発した。生物学的トリプシン処理の最適化は、融合前HA1に影響を及ぼさずに、融合後HA1の、短時間における、短いペプチドへの、最高レベルの消化を達成することに焦点を当てた。
【0189】
(実施例2)
タンパク質沈殿、解析的消化、およびIDMS
生物学的トリプシン処理の後、消化された融合後HA1ペプチドを、無傷の融合前HA分子から分離する。タンパク質沈殿法を開発し、最適化した。タンパク質沈殿のために、1mMのHCl中で作製作製されたばかりの、10mMのNα-トシル-L-リシンクロロメチルケトンヒドロクロリド(TLCK)を、生物学的トリプシン処理を受けた試料へと、100μMの最終濃度まで添加し、室温で10分間にわたりインキュベートした。4倍容量の低温アセトンを、溶液へと添加し、-20℃で2時間にわたりインキュベートした。その後、混合物を、約21k RCFで遠心分離して、沈殿物をペレット化させた。上清を、注意深く除去した。次いで、沈殿物を、1mLの低温エタノール中で、3回にわたり洗浄した。沈殿物を撹乱しないように、注意を払った。最後に、沈殿物を、10分間にわたり通気乾燥させた。
【0190】
この手法の利点は、試料調製が、同じチューブ内であり、これにより、試料の喪失が最小化されるという事実を含む。これはまた、下流における試料調製のために、回収されたタンパク質ペレットの、所望される容量の適合性の緩衝液中の簡便な再懸濁ももたらした。この手法は、アーチファクトの導入も、減少させた。
【0191】
この最適化されたプロトコールにより、ほぼ100%の無傷HA分子を、大半の場合、アセトンタンパク質沈殿(
図6を参照されたい)により一貫して回収し、エタノール洗浄により、消化されたペプチドのうちの97~100%を除去した(
図7を参照されたい)。
【0192】
分離後、回収されたタンパク質ペレットを、完全な再可溶化のために、6MのグアニジンHCl(50mMのトリス、pH8.0中に)中に再懸濁させ、70℃で5分間にわたり加熱した。消化の前に、100mMのトリス(pH8.0)を添加することにより、グアニジン緩衝液を、0.6Mへと希釈した。次いで、トリプシン/Lys-C混合物を添加し(酵素:基質比を1:5とする)、37℃でインキュベートして、直接的な同位体希釈質量分析(IDMS)解析のためのペプチドを作出する、解析的消化を始めた。経時変化研究は、選択された条件下で、全てではないにせよ、大半の標的サロゲートペプチドシグナルが、4時間後にプラトーに達することを示した。消化は、20%のTFAを、2%の最終濃度まで添加することにより、クエンチングした。
【0193】
標識化サロゲートペプチドのカクテルを、反応混合物へと添加し、標準サロゲートペプチドの、消化緩衝液中の濃度系列を作製して、標準検量線を作成した。エレクトロスプレーイオン化源(ESI)を装備し、Dionex Ultimate 3000 UHPLCへとカップリングさせたThermo TSQ Endura Triple Quadrupole MSを使用して、液体クロマトグラフィー標準反応モニタリング(LC-SRM)を実施した。流量を0.25mL/分とし、カラム温度を50℃として、Waters Acquity BEH C18(2.1×50mm、1.7μmの粒子)を使用して、クロマトグラフィーを実施した。SRMは、本質的に、文献(参考文献14)において記載されている通り、各ペプチドについてモニタリングされる、3つのトランジションにより実施した。データは、SkylineソフトウェアおよびThermo Qual Browserにより解析した。
【0194】
HA2サブユニットは、タンパク質分解に対して耐性であるので、サロゲートペプチドは、HA1配列だけから選択した。アッセイの目的に応じて、サロゲートペプチドについての選択基準は変動する。目標が、全HAを定量することであった場合は、株にわたる保存された配列を、サロゲートペプチドとして選択した。目標が、多価試料中の特異的な株を定量することであった場合は、目的の各株に固有の配列を、サロゲートペプチドとして選択した。一般に、各株について、少なくとも2つのサロゲートペプチドを使用した。
【0195】
【0196】
(実施例3)
アジュバントとのアッセイの適合性
アジュバントは、ワクチン中で、それらの有効性をブーストするように、広く使用されている。水中油エマルジョンアジュバントであるMF59は、インフルエンザワクチン中で使用され、免疫不全/障害集団における防御の顕著な改善と連関していた、ごく少数のアジュバントのうちの1つであった(参考文献101)。したがって、代替的効力アッセイが、アジュバントと適合性であると有利であろう。
【0197】
アッセイが、アジュバントと適合性であるのかどうかを決定するように、本発明のアッセイを使用して、3つの異なるHAモノバルクについて、MF59アジュバントの存在下または非存在下で調べた。データは、MF59の存在が、アッセイに干渉しなかったことを示す(表1)。
【表1】
【0198】
(実施例4)
ストレスを受けた多価ワクチン中のHAの定量。
アッセイの安定性を指し示す特色を確認するように、アッセイを使用して、低pH下、高pH下、および高温下のインフルエンザワクチンストレスについて調べた。高度に選択的であり、単一の試行時に、何千ものSRMトランジションを定量することが可能な、LC-SRMベースの定量の性格のために、各株について、固有のサロゲートペプチドを使用する限りにおいて、本アッセイは、多価ワクチン中の異なる株を同時に定量するときに、内在的利点を有する。したがって、このアッセイでは、A/Victoria/210/2009、A/Brisbane/59/2007、B/Brisbane/60/2008、およびB/Wisconsin/1/2010の各々を、30μg(SRID値に基づく)ずつ含む四価ワクチンを使用した。各々が前処理(生物学的トリプシン処理)を伴うかまたは伴わない、ストレス対照試料またはストレスを受けていない対照試料について、RP-HPLC、SRID、および本アッセイにより、並行して調べた。
【0199】
低pHによるストレス
低pHは、HAの、融合前から融合後のコンフォメーション移行を誘発する(参考文献9)。低pHストレス負荷は、0.5Mの酢酸ナトリウム(pH4.0)を、QIV試料(約120μg/mLのHA、最終pHを約4.1とする)へと添加することにより開始し、試料を、室温で1時間にわたりさらにインキュベートした。ストレス負荷は、1Mのトリス(pH8.5)を添加して、pHを約7.1へと中和することによりクエンチングした。「低pH陰性」対照試料も、酢酸ナトリウムの代わりに、H2Oを使用することを除き、同様に処理した。
【0200】
低pHストレス負荷実験では、RP-HPLCは、4つの株全てに対応するHA1ピークが、pH4.0および生物学的トリプシン処理による二重処理試料(低pH+/トリプシン+)で、ほぼ消滅することを示したことから、生物学的トリプシン処理が、融合後HAを除去することが指し示される。「低pH-/トリプシン+」試料では、HA1ピークは、大部分が無傷であったことから、生物学的トリプシン処理が、融合前HAに影響を及ぼさなかったことが指し示される。
【0201】
生物学的トリプシン処理を伴わない試料でもまた、HA1ピークは、低pHストレス負荷の存在または非存在に関わらず、不変であったが、これは、RP-HPLCが、融合前HAまたは融合後HAを鑑別させえなかったことから、予測されていた(
図3Aを参照されたい)。
【0202】
本アッセイによる定量結果が、二重処理試料中の4つの株全てについて、劇的な降下を示す一方、「低pH+/トリプシン-」試料についての結果は、不変を維持したが、これは、生物学的トリプシン処理ステップの必要性を指し示した。
【0203】
「低pH-/トリプシン+」試料でも、選択された株について、ごくわずかな減少が検出されたが、これは、おそらく、対照試料中にあらかじめ存在する、低レベルの融合後HAに起因するものであろう(
図3B)。
【0204】
同じ試料のセットについてのSRID試験が、生物学的トリプシン処理の存在/非存在に関わらず、低pHで処理された試料中の劇的な降下を示した(
図3B)ことから、低pHにより誘導される融合後転換が確認される。
【0205】
このデータセットは、異なる株に由来するHAタンパク質がいずれも、低pHストレス負荷に対して非常に感受性であることを指し示す。さらに、生物学的トリプシン処理ステップを援用する場合、本発明のアッセイは、免疫学的に活性の融合前HAを、免疫学的に不活性の融合後HAからたやすく鑑別することができる。
【0206】
高pHおよび熱によるストレス
同じ実験スキームを、高pHストレス(脱アミド化)条件下および熱ストレス(56℃)条件下で実行した。
【0207】
高pHストレス負荷は、0.2MのN-シクロヘキシル(cyclonhexyl)-3-アミノプロパンスルホン酸(CAPS)緩衝液を、QIV試料(最終pHを約11とする)へと添加することにより開始し、37℃で2時間にわたりインキュベートした後で、酢酸ナトリウム(pH4.0)を添加して、pHを中和させた。「高pH陰性」対照試料は、CAPS緩衝液の代わりに、H2Oの使用を含んだ。熱ストレスのためには、試料を、56℃で6時間にわたり処理した。「トリプシン陰性」試料では、ブランク緩衝液を、トリプシンの代わりに添加した。
【0208】
低pHストレスに関して、本発明のアッセイ結果と、RP-HPLC/SRID結果との優れた相関は、生物学的トリプシン処理ステップが、提起される代替的効力アッセイに、安定性を指し示す特色をもたらすことを確認した(
図4~5)。
【0209】
これらの条件下で、データは、HAタンパク質が、高pHおよび熱ストレスに対してそれほど感受性ではなく、感受性は、株特異的であると考えられることを示唆した。例えば、A/Victoria/210/2009(H3N2)は、高温に対する感受性が高かったが、A/Brisbane/59/2007(H1N1)の効力は、56℃で6時間にわたる加熱の影響をそれほど受けなかった。
【0210】
加えて、データセットは、交差干渉を伴わずに、多価ワクチン中の特異的な株を定量する、本アッセイの能力を確認した。
【0211】
(実施例5)
混合型モノバルクの測定。
本発明のアッセイを使用して、B/Brisbaneによるモノバルク試料、A/Brisbaneによるモノバルク試料、およびA/Victoriaによるモノバルク試料について調べ、1:1:1の比で混合された、同じ株による混合型モノバルク試料と比較した。
【0212】
混合型モノバルク試料中のHAの定量は、単一モノバルク試料の場合と同じであった(表2を参照されたい)。これは、アッセイが、多価試料中の特異的な株を定量することが可能であることを指し示す。
【表2】
【0213】
(実施例6)
トリプシン前処理は、混合型免疫沈降リングにより引き起こされる、SRIDによる、免疫学的に活性のHAについての過大評価を補正する
ジスルフィド連結されたHA1およびHA2断片からなる、HAの各単量体サブユニットは、ウイルスエンベロープ(または細胞膜)の外側に露出された2つのドメイン:もっぱらHA1残基から構成される球状「ヘッド」ドメイン、ならびにHA1およびHA2に由来する残基から構成される長型「ステム」ドメインと、HA2残基から構成される膜貫通ドメインおよび細胞質側ドメインとを有する(WileyおよびSkehel、1977年)。HAは一般に、中性のpHでは、「準安定的」な融合前コンフォメーションを維持する。低pHにより、エネルギー障壁が乗り越えられると、HAは、より安定的な融合後コンフォメーションへと、不可逆的にリフォールディングする(Ruigrok、Aitkenら、1988年;Bullough、Hughsonら、1994年;SkehelおよびWiley、2000年)。熱もまた、HAの再構成を誘発しうる(Ruigrok、Martinら、1986年;Wharton、Skehelら、1986年)。マウスにおいて、融合前コンフォメーションにあるHAによる免疫化は、インフルエンザに対する顕著な免疫を誘発するが、融合後コンフォメーションにあるHAによる免疫化は、結合性の中和抗体を誘発できない(Quan、Liら、2011年)。
【0214】
不活化インフルエンザワクチン(「IIV」)の防御有効性および免疫原性は、原理的には、実験動物を免疫化することにより評価しうるが、このようなin vivo効力試験は、時間がかかり、不正確である。そうではなくて、免疫学的に活性(中和抗体応答または血球凝集阻害[HI]抗体応答を誘発することが可能)なIIV内のHAの数量を決定するのに、より実践的なin vitro効力アッセイが開発されている。インフルエンザワクチンの抗原含量についての、サロゲートin vitro効力被験としての一元放射免疫拡散(SRID)が、1970年代に開発され、妥当性も確認された(Schild、Woodら、1975年;Wood、Schildら、1977年;Williams、1993年)。この改変オクタロニー試験は、ワクチン抗原(またはワクチン中の正確な株に相同な抗原標準物質)が、円形のウェルから、均一濃度の株特異的ヒツジ抗血清と共に成形されたアガロースゲルへと、放射状に拡散するときに形成される、免疫沈降リングの直径に基づき、HAを定量する。免疫沈降リングは、濾紙でブロッティングすることにより、遊離抗原および遊離抗体を除去した後で、クーマシーブルー染色により検出される。IIV内のHAは、ロゼットおよび他の複合体を形成するが、リングのサイズが、HA濃度とより直接的に比例するように、Zwittergentを抗原へと添加して、HAを均質な三量体へと分散させる(Williams、1993年)。
【0215】
アガロースSRIDゲル中の株特異的抗血清は、ヒツジを、ブロメラインにより全ウイルスから切断されたHAで、複数回にわたり免疫化することにより作出する(BrandおよびSkehel、1972年)。抗血清は、ビリオンから切断され、天然であると推定されるHAに対して惹起されているため、SRIDは、HAの天然形態を伴う、読取り可能な免疫沈降リングだけをもたらすと考えられている(Minor、2015年)。SRIDにより測定されたワクチン効力と、臨床試験におけるワクチン免疫原性との相関は示されているが、相関は比較的弱い(Ennis、Maynerら、1977年、LaMontagne、Nobleら、1983年、Rowlen、2015年)。SRIDは、規制機関により許容され、40年間にわたり、IIV製剤のためのインフルエンザワクチンの製造、出荷、および安定性試験に使用されている。
【0216】
対照的に、逆相高圧液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)、同位体希釈質量分析(IDMS)、およびSDS-PAGEなど、HAの数量についての生物物理的アッセイは、HAの異なるコンフォメーション状態を識別しないように、定量の前にHAを変性させる。上記の実施例は、株特異的抗体を要請せず、別の形でコンフォメーション的に感受性でもない、代替的な生物物理的インフルエンザ効力アッセイに、コンフォメーション特異性を付与する前選択ステップとして、トリプシン消化を使用しうることを示している(Wen、Hanら、2015年)。この前処理の基盤は、天然の融合前HAのトリプシン耐性、ならびに融合後HAおよび他のストレスにかけたHAのトリプシン感受性である(Skehel、Bayleyら、1982年;Ruigrok、Martinら、1986年)。トリプシンは、免疫学的に不活性のHAを選択的に分解する。
【0217】
この実施例は、コンフォメーション的に均質なHA調製物について、SRIDが、実のところ、マウスにおいて免疫原性である、ストレスを受けていない推定融合前HAは検出および定量するが、マウスにおいて免疫原性でない、低pHストレスを受けた推定融合後HAは検出しないこともさらに裏付ける。融合後HAは、ブロッティングステップ時に、SRIDゲルから選択的に除去される。SRIDで使用されるヒツジ抗血清は、ELISAフォーマットで使用されると、HAのいずれの形態も同等に検出することから、SRIDのコンフォメーション選択性が、SRIDフォーマットに起因するものであり、抗血清のコンフォメーション選択性に起因するものではないことが示唆される。低pHストレスを受けたHAを、ストレスを受けていないHAと混合する場合、SRIDは、融合前形態と、融合後形態とを識別せず、混合型免疫沈降リング内で、いずれのコンフォメーション異性体も、効率的に検出し、試料中の免疫学的に活性のHA含量を過大評価する。トリプシン前処理が、RP-HPLCに、免疫学的に活性のHAを特異的に定量することを可能とするのと全く同様に、トリプシン消化はまた、SRIDの精度も改善することから、アッセイに、免疫学的に不活性のHAと混合された場合の、免疫学的に活性のHAを定量することも可能とする。
【0218】
結果
マウスにおいて低減されたpHへと曝露されたHAの免疫原性
融合前コンフォメーションにあるHAおよび融合後コンフォメーションにあるHAにおける免疫原性について評価するため、マウスを、pH4.0の緩衝液中でインキュベートされた、0.1μgの卵により作製されたA/Texas/50/2012(H3N2)HAで、2回にわたり免疫化し、次いで、pH7.2へと戻す(融合後コンフォメーションにあると想定される)か、または一定のpH7.2で維持した(融合前コンフォメーションにあると想定される)。HIを実施して、A/Texas/50/2012(H3N2)ウイルスによるシチメンチョウ赤血球の血球凝集を遮断しうる、マウス免疫血清中に存在する抗体の力価を査定した。pH7.2で維持されたHAは、3×10
2のGMT HI力価を誘発したが、pH4.0へと一過性に曝露されたHAは、<10のGMT HI力価を誘発した(
図8A)。Madin-Darbyイヌ腎臓(MDCK)細胞への、A/Texas/50/2012(H3N2)ウイルスの感染を遮断する、抗体の中和力価を定量するのに、マイクロ中和アッセイもまた使用したが、同様の結果が示された(
図8B)。低pHによるストレスを受けたHAは、検出可能な中和応答を誘発しなかったが、中性のpHで維持されたHAは、抗体の顕著な中和力価を誘発した。したがって、融合前コンフォメーションにあるHAは、マウスにおいて、融合後コンフォメーションにあるHAより、顕著に免疫原性であり、かつての知見と符合した(Quan、Liら、2011年)。また、HA試料を、天然条件下で、トリプシンにより消化し、マウスを免疫化するのにも使用した。HIアッセイおよびマイクロ中和アッセイのいずれも、HAに対するHI応答および中和抗体応答が、トリプシン消化による影響を受けないことを示した(
図8)。
【0219】
HAの、低減されたpHへの曝露についての、SDS-PAGE、RP-HPLC、ELISA、およびSRIDによる特徴付け
同じA/Texas/50/2012(H3N2)HA試料を、非還元条件下および還元条件下の両方において、SDS-PAGEにより、さらに特徴付けた。pH7.2で維持されたHAについての、SDS-PAGEによるバンド強度と、一過性にpH4.0へと曝露されたHAについての、SDS-PAGEによるバンド強度とは同等であり(
図9A)、本発明者らによるかつての知見(Wen、Hanら、2015年)と符合した。天然条件下におけるトリプシン処理の後で、低pHによりストレスを受けたHA(非還元試料による)およびHA1(還元試料による)についてのSDS-PAGEバンドが消滅したのに対し、pH7.2で維持されたHAについてのSDS-PAGEバンドは不変であった。同様に、低pH処理を伴う未消化HAに由来するRP-HPLCによるHA1ピークと、低pH処理を伴わない未消化HAに由来するRP-HPLCによるHA1ピークとは、ほぼ同一であった(
図9B)。しかし、トリプシン消化の後では、低pHにより処理されたHAについてのHA1ピークだけが消滅した。A/Texas/50/2012(H3N2)HAに対するSRID基準抗血清によるELISAを、これらのHA試料について実施した。低pHによるストレスを受けていない未消化HA、または低pHによるストレスを受けた未消化HAは、ELISAフォーマットにおけるSRID抗血清により、同様に認識された(
図8C)。トリプシン処理は、pH7.2で維持されたHAについてのELISAシグナルをわずかに減少させた(<15%の減少)が、低pHストレスを受けたHAについてのELISAシグナルは大幅に減少させた(>50%の減少)。これらの結果は、SDS-PAGE、RP-HPLC、およびELISAは、低pHストレスを受けたHAと、低pHストレスを受けていないHAとについて、同様の結果を示すが、トリプシン処理とカップリングさせると、これらのアッセイは、中性のpHで維持されたHAを、低pHによるストレスを受けたHAから識別することが可能であることを示唆したことから、免疫原性研究による結果と相関する結果がもたらされる(
図9E)。
【0220】
これらのHA試料について、SRIDもまた実施した。予測される通り、中性pHで維持された、トリプシン処理を伴うHAと、トリプシン処理を伴わないHAとについて、顕著に異なるSRIDリングが検出され、試料をトリプシン消化したのかどうかに関わらず、低pHへと曝露されたHAについては、SRIDリングが検出されなかった(
図9D)。したがって、SRIDは、マウスにおける、ストレスを受けていないHAの免疫原性を、低pHストレスを受けたHAの、顕著に低度の免疫原性から自律的に識別し(
図8)、トリプシン処理ステップ(例えば、生物学的タンパク質分解)と組み合わせたときの、SDS-PAGE、RP-HPLC、およびELISAも同様であった(
図9E)。
【0221】
低pHストレスを受けたHAでスパイクされたストレスを受けていないHAのSRIDによる定量
卵により作製されたA/Perth/16/2009(H3N2)HAについて、SRIDにより査定し、A/Texas/50/2102(H3N2)についての結果と同じ結果を得た:ストレスを受けていないHAは、陽性SRIDリングにより検出され、低pHストレスを受けたHAは、リングをもたらさなかった(
図10A)。驚くべきことに、ストレスを受けていないHAを、低pHストレスを受けたHAでスパイクしたところ、SRIDリングは、強度を低減したが、低pH処理されたHAの添加量の増大と共に、用量反応的に拡大された(
図10A)。リングサイズの定量は、低pHストレスを受けたHAの、ストレスを受けていないHAへの添加量を、0.5倍から2倍とすると、検出されるHA数量が、25%から70%へと増大することを確認した(
図10B)。また、この試料セットを、トリプシン処理後におけるRP-HPLCによっても定量したところ、相対HA数量は、ストレスを受けていないHA単独と比較して、100%で維持された(
図10B)。これらの結果は、ストレスを受けたHAと、ストレスを受けていないHAとを混合すると、SRIDは、いずれの形態のHAも検出し、免疫学的に活性のHAについてのその特異性を失うことを示した。
【0222】
本発明者らは次に、ストレスを受けたHAと、ストレスを受けていないHAとの混合物中の、免疫学的に活性のHAについての、このSRIDによる過大評価が、異なるインフルエンザ株による、さらなるHA試料についても再現可能であるのかどうかについて探索した。卵により作製されたB/Brisbane/60/2008 HAについて、SRIDにより査定し、ストレスを受けていないHA調製物と、ストレスを受けたHA調製物とについて、別個に解析したところ、ストレスを受けていないHAについては、陽性SRIDリングがもたらされ、低pHストレスを受けたHAについては、陰性リングがもたらされた(
図11A)。しかし、ストレスを受けていないB/Brisbane/60/2008 HAを、等量の、低pHストレスを受けたHAと混合したところ、SRIDリングは、大きくなり、ストレスを受けていないHA単独と比較して150%の相対測定HA数量をもたらした(
図11B)。SRIDの前におけるトリプシン処理は、ストレスを受けていないHAに対する相対HA数量も、ストレスを受けたHA単独に対する相対HA数量も変化させなかったが、ストレスを受けていないHAと、ストレスを受けたHAとの混合物について測定されるHA含量を、ストレスを受けていないHA単独の量まで減少させ、免疫沈降リングを、より顕著に異なるものとした(
図11A)。予測される通り、RP-HPLCは、混合物中の総HA含量を、ストレスを受けていない数量単独の200%で定量し、トリプシン前処理を伴う場合、RP-HPLCによる混合物の定量もまた、ストレスを受けていないHAだけの量へと減少した。
【0223】
さらなるHA試料である、卵により作製されたA/California/07/2009(H1N1)、A/Texas/50/2012(H3N2)、B/Massachusetts/02/2012もまた、SRIDおよびRP-HPLCで定量した(
図11C、11D、および11E)。各場合に、等量の、低pHストレスを受けたHAの、ストレスを受けていないHAへの添加は、SRIDにより測定されるHA数量の、30~50%の増大をもたらした。前ステップとしてのトリプシン消化は、相対SRID定量を、ストレスを受けていない試料の100%まで戻した。RP-HPLC単独は、混合物中の総HAを、ストレスを受けていない試料を200%として、相対数量で定量した。トリプシン処理はまた、RP-HPLCによる数量も、100%まで減少させた。これらの結果は、低pHストレスを受けたHAを、ストレスを受けていないHAと混合する場合、SRIDは、ストレスを受けたHAを、ストレスを受けていないHAの、0%ではなく、20~50%で定量することを確認した。これに対し、in vivo効力試験は、低pHストレスを受けたHAは、免疫学的に不活性であることを指し示した(
図8)。トリプシン処理は、RP-HPLCが、ストレスを受けていないHAを、選択的に定量することを可能としただけでなく、また、免疫学的に活性のHAの、SRIDによる過大評価も補正した。
【0224】
SRIDによるHAの定量機構
SRIDの機構をよりよく理解するため、本発明者らは、HAを標識化し、SRIDゲルへと拡散させるときに、これを追跡した。卵により作製されたA/Texas/50/2012(H3N2)HAを、低pHへと一過性に曝露するか、またはpH7.2で維持し、次いで、各HA2上に位置する、1つずつの遊離システインを介して、IRDye 800CWマレイミドとコンジュゲートさせた。遠赤外線蛍光走査を伴うSDS-PAGEは、HA2特異的標識化を確認し、ストレスを受けていないHA上と、ストレスを受けたHA上とで、同等な標識化効率を確認した(データは示さない)。IRDyeで標識化されたHAおよび標識化されていないHAについて、SRIDアッセイにより査定した。HA試料を、SRIDゲルのウェルにロードし、室温で16時間にわたり、ゲルへと拡散させた。ストレスを受けていないIRDye標識化HAおよび低pHストレスを受けたIRDye標識化HAは、ウェルから、ゲル内の同様の距離へと拡散した(
図12A)。濾紙の代わりに、ニトロセルロース膜を使用して、遊離抗原および遊離抗体を払拭した。低pHストレスを受けたHAについての膜上の蛍光シグナルは、ストレスを受けていないHAについての蛍光シグナルより強かった。非標識化HAについてのブロッティング膜への、抗H3抗体によるウェスタンブロット法は、ストレスを受けていないHAより多くの、低pHストレスを受けたHAが、ブロッティング膜へと写し取られていることを確認した。SRIDゲルをブロッティングした後における蛍光シグナルは、ストレスを受けていないHA試料についての明瞭な免疫沈降リングと、低pHストレスを受けたHAについての弱い塗抹状のシグナルとを示した。同じSRIDゲルについてのクーマシーブルー染色は、ストレスを受けていないHAについての、予測されたSRIDリングと、低pHストレスを受けたHAについてのリングの非存在とを確認した。これらの結果は、低pHストレスを受けたHAについての陰性SRIDシグナルが、SRIDアッセイ時のブロッティングを介するその除去により引き起こされることを示唆した。標識化HAおよび非標識化HAについての、SRIDゲルのクーマシーブルー染色が、同一なSRIDリングプロファイルを示したことから、HAの標識化は、SRIDによるHAの定量に対して、検出可能な影響を及ぼさないことが確認される。
【0225】
本発明者らは次に、ストレスを受けていないHAを、緑色蛍光シグナルを有するIRDye800SWで標識化し、低pHストレスを受けたHAを、赤色蛍光シグナルを有するIRDye680CTで標識化し、SRIDにより試料を解析した(
図12B)。緑色シグナルは、ストレスを受けていないHAを含有する免疫複合体により形成されるSRIDリングを示したが、低pHストレスを受けたHAを含有する免疫複合体に対応する赤色リングは、目視できなかった。クーマシーブルー染色も、同等の結果を示した。ストレスを受けていないHAと、ストレスを受けたHAとを、1対1の比で含有する混合型試料では、ストレスを受けていないHAは、低pHストレスを受けたHAの非存在下で観察される緑色リングより大きな緑色リングを形成した。混合物中の、低pHストレスを受けたHAもまた、極めて明確な大きな赤色リングを形成した。重合せ画像は、ストレスを受けていないHAについてのリングと、低ストレスを受けたHAについてのリングとが重複することを示したことから、ストレスを受けていないHAと、ストレスを受けたHAとが、混合型免疫沈降リング内で、直接的にまたは間接的に、一体に会合することが示唆される。大きなリングはまた、クーマシーブルー染色によっても検出されたことから、全HAは、ウェルからさらに遠くへ拡散することが指し示され、ストレスを受けたHAと、ストレスを受けていないHAとの組合せ量を反映する。混合型試料を、トリプシンで消化したところ、ストレスを受けていないHAにより形成される緑色リングは、その元のサイズに戻り、ストレスを受けたHAにより形成される赤色リングは、消滅した。クーマシーで染色されたリングもまた、ストレスを受けていないHA単独により形成されるリングのサイズに戻った。これらの結果は、トリプシンが、ストレスを受けていないHAと共に、混合型免疫沈降リングを形成することが可能な、ストレスを受けたHAを消化することを示唆した。
【0226】
考察
HAの完全性は、ワクチンの作製時および保管時において、生物学的生成物に一般に影響を及ぼす、多数のストレス条件により損なわれうる。加えて、HAは、軽度の低pHで、再構成(ウイルスの細胞への侵入時において、その膜融合機能を果たす)へとプライミングされるため、インフルエンザワクチン中のHAは特に、低pH曝露に対して感受性である。全幅のストレスにかけたHAの免疫原性は、完全には探索されていないが、本研究(
図8)および他の研究(Quan、Liら、2011年)では、マウスにおいて、融合前状態にあるHAは、低pHにより、融合後状態への再構成を誘発されるHAより強力に、中和抗体を誘発することが示されている。したがって、HAベースのワクチン効力アッセイは、HAコンフォメーションに対して感受性であるべきである。
【0227】
IIV効力についての「ゴールドスタンダード」のサロゲートアッセイであるSRID(Williams、1993年)は、効力決定のために、ヒツジ抗血清に依拠する(Wood、Schildら、1977年)。ヒツジ抗血清は、完全に天然の融合前コンフォメーションにある場合もあり、そうでない場合もある、精製全ウイルスから抽出されたHAにより惹起される。本発明者らの研究では、SRIDのために使用されるヒツジポリクローナル抗血清が、ELISAフォーマットにおいて、融合前コンフォメーションにあるHA、および融合後コンフォメーションにあるHAのいずれにも、同等によく結合した(
図9C)ことから、抗体のうちの主要部分は、天然の融合前HAに特異的でないことが示唆される。したがって、SRIDによる、融合後HAではなく、融合前HAの選択的検出は、ヒツジ抗血清単独の特異性によるのではなく、SRIDフォーマットにより決定しなければならなかった。
【0228】
SRIDの根底をなす前提は、アッセイが、リングが大きいほど、割り当てられるHA濃度が大きくなるように、免疫沈降リングのサイズ(直径)だけに基づき、HAを定量するということである(Williams、1993年)。アッセイの解釈では、リングの強度も、鋭利さも、考慮されない。IIV中のHAは、HA間相互作用、HA-他のウイルス性タンパク質間の相互作用、およびHA-細胞膜間相互作用を介して、ロゼットおよび他の凝集物を形成する(Tay、Agiusら、2015年)。SRID解析のための、ワクチン抗原の、Zwittergentによる前処理は、HAを、小型オリゴマーへと分散させるが、完全に均質なHA三量体へは分散させない(データは示さない)。したがって、SRIDゲル中では、HAの不均質形態は、推定HA数量がHA濃度単独と単純には相関しないように、ウェルから多様な距離へと拡散する。
【0229】
低pHストレスを受けたHAまたはストレスを受けていないHAの純粋調製物について、SRIDは、免疫学的に活性の、ストレスを受けていない形態に対する特異性を示さなかった。さらなる探索は、融合後HAも、融合前HAと同様に、SRIDゲルへと拡散するが、クーマシー染色による検出の前のブロッティングステップにより、ゲルから選択的に除去されることを示した。融合後HAの選択的ブロッティングの理由は、完全に明らかではない。ヒツジ抗血清が、融合後HAの純粋調製物を、融合前HAの純粋調製物ほど広範には架橋しない可能性がある(ELISAフォーマットにおける形態の検出が同様であるにも拘わらず)。
【0230】
ワクチン調製物中では、比率に多少の増減はあるが、変性するか、損傷するか、または融合後のHAが、天然で無傷の融合前HAと一体に存在することが予測される。本発明者らの実験では、SRIDは、天然HAと混合した場合の、低pHストレスを受けたHAは検出したが、低pHストレスを受けたHA単独は検出しなかった。この観察は、多数の株に由来するHAにより再現された。ストレスを受けていないHAと、低pHストレスを受けたHAとの、代替的蛍光シグナルによる差別的標識化が、低pHストレスを受けた融合後HAは、天然の融合前HAと共に、混合型免疫沈降リングを形成することを示したことから、これらの2種のHAは、直接的にまたは間接的に、一体に会合することが示唆される。ヒツジ抗血清は、ELISAでは、HAのいずれの形態にも同等に結合するが、また、見かけ上、いずれのHAコンフォメーション異性体とも架橋形成することが可能であり、SRIDで検出可能な、3つの成分による複合体も形成する。混合リングは、クーマシー染色後において、おそらく、ヒツジ抗血清により、HA混合物の架橋が損なわれたことを反映して、純粋な融合前リングほど明瞭ではなかった。しかしながら、複合体内の高HA濃度により、天然HAおよび抗血清単独により形成されるリングより大きなリングのサイズがもたらされる結果として、免疫学的に活性のHA含量についての過大評価がなされた。
【0231】
天然条件下で、トリプシンは、低pH、高温、および脱アミド化の影響を受けたHAを選択的に消化する(Wen、Hanら、2015年)。免疫学的に不活性のHAを除去することにより、HAを変性させる効率的で正確な生物物理的HA定量方法の前における前処理として、トリプシン消化を使用し、アッセイにコンフォメーション感受性を付加することができる。本実施例において、本発明者らは、トリプシン前処理が、大きな混合型SRIDリングを、天然HA単独の濃度に対応するサイズに戻すことを示した。トリプシン消化された、低pHストレスを受けたHAと、ストレスを受けていないHAとの混合物により形成されるSRIDリング内では、融合後HAについての蛍光シグナルは検出可能でなかったことから、消化が、検出可能な3つの成分による免疫沈降リングを形成することが可能な融合後HAを除去したことが示唆される。
【0232】
SRIDはかつて、WHOおよび国内規制機関により、インフルエンザワクチン効力の定量について承認され、インフルエンザワクチン製造元により、HA定量のための「ゴールドスタンダード」として広範に使用された。実際、HA定量においてSRIDに見合うことの必要は、潜在的により高精度で、正確で、効率的なインフルエンザワクチン効力アッセイの導入に対する障壁である。本発明者らは、本実施例において、SRIDが、融合後HAと混合された場合に、免疫学的に活性のHAを体系的に過大評価することを示した。トリプシン前処理は、各株の変化に応じた、ヒツジ抗血清の作出を要請しない、生物物理的HA定量アッセイに対して、コンフォメーション選択性を付与しうるのと全く同様に、また、免疫学的に活性のHAについての、SRIDによる過大評価も補正する。この補正は、SRIDによるワクチンの製剤化および出荷を改善し、また、これに見合う、より「ピュアなゴールド」スタンダードをもたらすことにより、改良型効力アッセイの導入も容易としうるであろう。
【0233】
方法
インフルエンザの基準試薬
A/California/07/2009(H1N1)、A/Texas/50/2012(H3N2)、A/Perth/16/2009(H3N2)、B/Massachusetts/02/2012、およびB/Brisbane/60/2008に対する、ヒツジポリクローナル基準抗血清、および較正基準抗原は、米国食品医薬品局の、Center for Biologics Evaluation and Research(FDA CBER、Silver Spring、MD)およびNational Institute for Biological Standards and Control(NIBSC、London、UK)により提供された。
【0234】
インフルエンザワクチン
A/California/07/2009(H1N1)、A/Texas/50/2012(H3N2)、A/Perth/16/2009(H3N2)、B/Massachusetts/02/2012、およびB/Brisbane/60/2008のモノバルク(サブユニットワクチン抗原の非ブレンドロット)は、Novartis Vaccinesにより作製された。卵により作製されたモノバルクは、パイロットバッチまたは操作バッチからの、Agrippal(登録商標)サブユニットインフルエンザワクチン工程により、孵化させた鶏卵から作製した。
【0235】
低pHによる試料へのストレス
インフルエンザモノバルクは、pH4.0の50mMクエン酸により、室温で30分間にわたり処理した。pH8.5、10%(容量/容量)の1Mトリスを添加して、pHを、7.2へと中和させた。試料は、解析するまで、4℃で保管した。
【0236】
トリプシンによる消化
試料を、PBS中、トリプシン(HA 100μg当たり50U;Sigma、St.Louis、MO)と共に、37℃で、120分間にわたりインキュベートした。トリプシンによる消化は、0.1mMのN-α-トシル-L-リシニル-クロロメチルケトン(TLCK;Sigma)を添加することにより停止させた。試料は、解析するまで、4℃で保管した。
【0237】
SDS-PAGE、RP-HPLC、ELISA、およびSRID
SDS-PAGE、RP-HPLC、およびSRIDについては、(Wen、Hanら、2015年)において記載されている。直接的ELISAのために、プレートを、PBS中に1μg/mlのA/Texas/50/2012(H3N2)HAにより、室温で、一晩にわたりコーティングし、PBS中に0.05%のTween-20(PBST)で、4回にわたり洗浄し、PBS中に1%のBSA(PBSB)で、60分間にわたりブロッキングした。次いで、PBSB中のヒツジ血清の希釈系列を、プレート上で、90分間にわたりインキュベートした。プレートを、PBSTで、4回にわたり洗浄し、捕捉されたIgGを、西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲートヤギ抗ヒツジIgG(Invitrogen)で、60分間にわたり検出した後、PBSTで、4回にわたり洗浄し、テトラメチルベンジジン(berzidine)基質を伴う、30分間にわたるインキュベーションを行った。プレートは、Infinite M200 NanoQuant(Tecan)により読み取った。
【0238】
免疫原性研究
0および21日目において、8~10週齢の雌BALB/cマウス(Charles River Labs、Wilmington、MA、USA)を、後側四頭筋における、0.1μgのHAを伴う、50μlの両側筋内注射により免疫化した(1群当たりマウス10匹)。血清試料は、20日目における眼窩後採血と、42日目における、安楽死させた動物からの全採血とにより得た。全ての研究は、Novartis Institutes for Biomedical Research Animal Care and Use Committeeにより承認された。
【0239】
血清学的解析
血清試料を、HIおよびインフルエンザマイクロ中和アッセイにより、中和抗体について調べた。
【0240】
HIのために、受容体破壊酵素(RDE)により、56℃で、30分間にわたり熱不活化させた血清試料を、系列希釈し、次いで、96ウェルプレート内、A/Texas/50/2012(H3N2)ウイルスと共に、2~8℃で、60分間にわたりインキュベートした。シチメンチョウ赤血球(Lampire Biological labs)を添加し、各ウェル内で混合し、混合物を、2~8℃で、90分間にわたりインキュベートした。
【0241】
マイクロ中和のために、不活化血清試料を、系列希釈し、次いで、A/Texas/50/2012(H3N2)ウイルスと共に、37℃で、2時間にわたりインキュベートした。これらの血清およびウイルス混合物を、96ウェルプレート内で調製されたMDCK細胞へと添加し、37℃で一晩にわたりインキュベートした。感染細胞を、氷冷1:1アセトン:メタノール溶液で固定し、PBSBでブロッキングし、抗A型インフルエンザ一次抗体(Millipore)と共にインキュベートした。Alexa Fluor 488とコンジュゲートさせたヤギ抗マウス二次IgG(Invitrogen)を伴うインキュベーションの後、Immunospot S5 UV Analyzer(CTL)を使用して、蛍光細胞をカウントした。
【0242】
IRDyeによるHAの標識化
PBS中のHAを、水中で再構成された、IRDye 800CWマレイミドまたはIRDye680CT(LI-COR)と共に、室温で、2時間にわたりインキュベートした。遊離IRDyeは、販売元により提供されているプロトコールに従い、Zeba脱塩スピンカラム(Pierce)により除去した。IRDyeは、Odyssey CLx Imager(Licor)により検出した。
【0243】
(実施例7)
ストレス条件のパネルへと曝露されたインフルエンザ抗原試料を使用する、RP-HPLCおよびSRIDによる効力アッセイの結果と、免疫原性研究との相関
本発明のインフルエンザワクチン効力アッセイは、多様なストレス条件へと曝露された、多様なA型ウイルスの亜型およびB型ウイルスの亜型に由来する抗原を使用する、SRIDおよび免疫原性研究(ヘマグルチニン阻害(HI)アッセイおよびマイクロ中和(MN)力価)との優れた相関を有する結果をもたらしうる。例えば、実施例4および6、ならびに
図3~5および8~9を参照されたい。
【0244】
本発明者らは、A型インフルエンザウイルス株のH3N2亜型およびH1N1亜型に由来する抗原を使用して、さらなる研究を実行した。抗原モノバルクを、同一な群に分け、次いで、それらの各々を、低pH(30分間にわたるpH4.0)、凍結/融解(トリス緩衝液中で5回にわたる)、脱アミド化(37℃で24時間にわたるpH11.0)、およびボルテックスストレス(室温で30分間にわたるボルテックス)、またはストレスなし(対照)を含む、異なるストレス条件へと曝露した。前トリプシン処理を伴わないか、またはこれを伴う、RP-HPLCおよびSRIDを使用して、各群に由来する試料中のHA数量を測定した。本発明者らは、前トリプシン処理を伴わないRP-HPLCにより測定される相対HA数量(例えば、前トリプシン処理を伴わない対照群についてのSRID結果と比べた)が、全ての被験ストレス条件について、SRID結果(前トリプシン処理を伴うかまたは伴わない)と良好に相関しないことを見出した。これに対し、前トリプシン処理を伴うRP-HPLCにより測定される相対HA数量は、とりわけ、前トリプシン処理を伴って実行されたSRIDについて、SRID結果と、良好に相関した。例えば、低pH(顕著な)および脱アミド化(わずかな)は、SRID(トリプシン処理を伴うかまたは伴わない)および前トリプシン処理を伴うRP-HPLCにより測定されるHA数量を減少させた。凍結/融解ストレスおよびボルテックスストレスは、SRID(トリプシン処理を伴うかまたは伴わない)または前トリプシン処理を伴うRP-HPLCにより測定されるHA数量をそれほど減少させなかった。
【0245】
HIアッセイおよびMNアッセイを使用して、同じストレス群および同じ対照H3N2抗原試料群による免疫原性をさらに調べた。0および21日目に、各群に由来する抗原を、群1つ当たり8匹ずつのBALB/c雌マウスへと投与し(0.1μgのHA用量)、42日目の採血(2回目の免疫化の3週間後)を使用することにより、各群に対する抗血清を作出した。次いで、抗血清を、HIアッセイおよびMNアッセイにおいて使用した。予備結果は、HIおよびMNにより測定される免疫原性が、少なくとも、低pH群、凍結/融解群、およびボルテックスストレス群について、前トリプシン処理を伴うRP-HPLCおよびSRIDにより決定される相対HA数量と相関することを確認した。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【0246】
本発明について、例だけを目的として記載してきたが、本発明の範囲および精神の範囲内にとどまりながら、改変を行いうることが理解されるであろう。