(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022046716
(43)【公開日】2022-03-23
(54)【発明の名称】免疫凝集反応を用いた濃度測定における被験物質濃度の適正性の判定方法およびそのための処理部を有する試料分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20220315BHJP
G01N 21/49 20060101ALI20220315BHJP
【FI】
G01N33/543 581V
G01N21/49 A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021215394
(22)【出願日】2021-12-29
(62)【分割の表示】P 2018556183の分割
【原出願日】2017-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2016243796
(32)【優先日】2016-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100170184
【弁理士】
【氏名又は名称】北脇 大
(72)【発明者】
【氏名】伊串 達夫
(72)【発明者】
【氏名】前田 拓斗
(57)【要約】 (修正有)
【課題】被験物質の濃度が免疫凝集反応を用いた濃度測定のために適正な範囲内のものであるか否かを判定する方法、および、そのための処理部を有する試料分析装置を提供する。
【解決手段】反応液中で生じた被験物質とその結合パートナーとの間の免疫凝集反応について、該反応の第1の期間における該反応液の散乱光強度、および、該反応の第2の期間における該反応液の散乱光強度に基づいて、該第1の期間における散乱光強度の変化速度と該第2の期間における散乱光強度の変化速度との間の変動に関する指標値を決定する工程、および、該指標値と、予め設定された閾値とを比較することにより、該被験物質の濃度が適正な範囲内のものであるか否かを判定する工程を含む、反応液中の被験物質の濃度が免疫凝集反応を用いた濃度測定のために適正な範囲内のものであるか否かを判定する方法、ならびに、当該方法を実行するための処理部を有する試料分析装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応液中の被験物質の濃度が免疫凝集反応を用いた濃度測定のために適正な範囲内のものであるか否かを判定する方法であって、
反応液中で生じた被験物質とその結合パートナーとの間の免疫凝集反応について、該反応の第1の期間における該反応液の散乱光強度、および、該反応の第2の期間における該反応液の散乱光強度に基づいて、該第1の期間における散乱光強度の変化速度と該第2の期間における散乱光強度の変化速度との間の変動に関する指標値を決定する工程、および、
該指標値と、予め設定された閾値とを比較することにより、該被験物質の濃度が適正な範囲内のものであるか否かを判定する工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
該指標値が、該第1の期間における散乱光強度の変化速度と該第2の期間における散乱光強度の変化速度との比である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記の散乱光強度として、散乱光強度の測定値と透過光強度の測定値との比が用いられる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
該反応液が、該被験物質を含む湿性生体試料に由来する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
該湿性生体試料が、血液、唾液、尿、汗、リンパ液、および喀痰からなる群から選択されるものである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
該被験物質が、蛋白質、ペプチド、脂質、核酸、多糖類、糖類、および抗体からなる群から選択されるものである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
該反応液が、該被験物質を含む検体試料と、該結合パートナーを担持した不溶性担体粒子を含む懸濁液とを混合することにより調製されたものである、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
該不溶性担体粒子が、ラテックス、金属コロイド、シリカ、カーボン、および磁性体粒子からなる群から選択される1以上を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
該適正な範囲の濃度が、プロゾーン現象を生じる濃度およびその付近の濃度のいずれでもない濃度である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
被験物質の濃度を測定し、該測定された濃度が所定の閾値濃度よりも低い場合に、該被験物質の濃度は適正な範囲内のものではないと判定する工程を更に含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
試料分析装置であって、当該試料分析装置は、
散乱光強度を測定するための散乱光強度測定部と、
反応液中で生じた被験物質とその結合パートナーとの間の免疫凝集反応について、該反応の第1の期間における該反応液の散乱光強度、および、該反応の第2の期間における該反応液の散乱光強度に基づいて、該第1の期間における散乱光強度の変化速度と該第2の期間における散乱光強度の変化速度との間の変動に関する指標値を決定するための指標値決定部と、
該指標値と、予め設定された閾値とを比較することにより、該被験物質の濃度が免疫凝集反応を用いた濃度測定のために適正な範囲内のものであるか否かを判定するための第1判定部と
を有する、前記試料分析装置。
【請求項12】
該指標値が、該第1の期間における散乱光強度の変化速度と該第2の期間における散乱光強度の変化速度との比である、請求項11に記載の試料分析装置。
【請求項13】
透過光強度を測定するための透過光強度測定部を更に有し、
前記の散乱光強度として、散乱光強度の測定値と透過光強度の測定値との比を用いる、請求項11または12に記載の試料分析装置。
【請求項14】
該被験物質を含む湿性生体試料を分析するためのものである、請求項11~13のいずれか1項に記載の試料分析装置。
【請求項15】
該湿性生体試料が、血液、唾液、尿、汗、リンパ液、および喀痰からなる群から選択されるものである、請求項14に記載の試料分析装置。
【請求項16】
該第1判定部が、該被験物質の濃度が、プロゾーン現象を生じる濃度およびその付近の濃度のいずれでもない濃度であるか否かを判定するものである、請求項11~15のいずれか1項に記載の試料分析装置。
【請求項17】
被験物質の濃度を測定するための濃度測定部を更に有する、請求項11~16のいずれか1項に記載の試料分析装置。
【請求項18】
測定された該被験物質の濃度が所定の閾値濃度よりも低い場合に、該被験物質の濃度は適正な範囲内のものではないと判定するための第2判定部を更に有する、請求項17に記載の試料分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概しては免疫凝集反応を用いた濃度測定法の技術分野に関し、より詳細には、被験物質の濃度が免疫凝集反応を用いた濃度測定のために適正な範囲内のものであるか否かを判定する方法、およびそのための処理部を有する試料分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫凝集反応を用いた濃度測定法において、該当測定試薬を用いた自動分析装置における光学的測定方法として吸光度測定および散乱光測定が用いられている(特許文献1)。
これらの光学的測定においては、反応開始から特定時間後の濁度の変化速度と検体濃度との関係を示す検量線を用いて、測定された濁度の変化速度に基づいて被験物質の定量が行われている。これらの検量線では被験物質の濃度が高くなるに従い傾きが小さくなり、さらに高い濃度域では傾きが逆勾配の領域(プロゾーン領域)が生じる。
プロゾーン領域では検量線から2つの解が生じる為定量が行えない。そのため、試験対象がプロゾーン領域での高濃度物質を含んでいるかどうかを判定し、プロゾーン領域で被験物質を測定しているか否かを判定することが自動分析装置を用いた測定では重要である。
【0003】
従来、プロゾーン領域の判定のために、反応初期吸光度の値、吸光度が安定するまでの時間、反応初期吸光度の変化速度等が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような従来技術によるプロゾーン領域の判定は、反応が平衡になるまで測定時間を十分長く取ることにより、そのときの一定時間での初期吸光度やその時間までの吸光度変化量などを利用するものである。しかしながら、より短時間にて測定を完了するために、反応の初期段階にてプロゾーン判定できる方法が望ましい。
【0006】
また、試薬ばらつきなどによる測定結果のばらつきの影響を受けにくいロバストな判定方法が望まれる。
【0007】
本発明は当該技術分野における上述の問題に鑑みて為されたものであり、短時間で、測定ばらつきの影響を受けにくい、被験物質の濃度が免疫凝集反応を用いた濃度測定のために適正な範囲内のものであるか否かを判定する方法、および、そのための処理部を有する試料分析装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上述の課題に対し鋭意検討を行ったところ、免疫凝集反応の第1の期間の濁度変化速度と第2の期間の濁度変化速度との比を吸光度(透過光)測定により求め、この比を所定の閾値と比較することにより、反応が平衡に達していない短時間にても、被験物質濃度の適正性の判定を行い得ることを見出した。しかしながら、吸光度測定により求めた上記の比を用いた場合、プロゾーン領域に近い被験物質濃度では当該比の測定値と閾値との差が小さく、試薬ばらつきを含む測定結果のばらつきの影響を受けやすいという問題があった。
【0009】
そこで本発明者は更に改良を検討したところ、吸光度測定により求めた上記の比の代わりに、反応の第1の期間の散乱光強度変化速度と第2の期間の散乱光強度変化速度との間の変動に関する指標値を用いる方法論に想到した。散乱光強度の測定により求めた指標値は、透過光を用いる場合と比べて、被験物質の濃度の増加に伴う当該指標値の増加の程度を大きくすることができ、かつ、プロゾーン領域付近の高濃度範囲において当該指標値が一定値以上となることを発見した。そのため、被験物質濃度がプロゾーン領域近傍の検体でも、プロゾーン判定のための閾値と測定される当該指標値との間の差を大きくすることができ、これにより測定ばらつきの影響を受けにくくすることができることが分かった。本発明者はこれらの発見に基づき更なる検討を行い、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は即ち、以下を提供する。
[1]反応液中の被験物質の濃度が免疫凝集反応を用いた濃度測定のために適正な範囲内のものであるか否かを判定する方法であって、
反応液中で生じた被験物質とその結合パートナーとの間の免疫凝集反応について、該反応の第1の期間における該反応液の散乱光強度、および、該反応の第2の期間における該反応液の散乱光強度に基づいて、該第1の期間における散乱光強度の変化速度と該第2の期間における散乱光強度の変化速度との間の変動に関する指標値を決定する工程、および、
該指標値と、予め設定された閾値とを比較することにより、該被験物質の濃度が適正な範囲内のものであるか否かを判定する工程
を含む、前記方法。
[2]該指標値が、該第1の期間における散乱光強度の変化速度と該第2の期間における散乱光強度の変化速度との比である、上記[1]に記載の方法。
[3]前記の散乱光強度として、散乱光強度の測定値と透過光強度の測定値との比が用いられる、上記[1]または[2]に記載の方法。
[4]該反応液が、該被験物質を含む湿性生体試料に由来する、上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]該湿性生体試料が、血液、唾液、尿、汗、リンパ液、および喀痰からなる群から選択されるものである、上記[4]に記載の方法。
[6]該被験物質が、蛋白質、ペプチド、脂質、核酸、多糖類、糖類、および抗体からなる群から選択されるものである、上記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]該反応液が、該被験物質を含む検体試料と、該結合パートナーを担持した不溶性担体粒子を含む懸濁液とを混合することにより調製されたものである、上記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]該不溶性担体粒子が、ラテックス、金属コロイド、シリカ、カーボン、および磁性体粒子からなる群から選択される1以上を含む、上記[7]に記載の方法。
[9]該適正な範囲の濃度が、プロゾーン現象を生じる濃度およびその付近の濃度のいずれでもない濃度である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]被験物質の濃度を測定し、該測定された濃度が所定の閾値濃度よりも低い場合に、該被験物質の濃度は適正な範囲内のものではないと判定する工程を更に含む、上記[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]試料分析装置であって、当該試料分析装置は、
散乱光強度を測定するための散乱光強度測定部と、
反応液中で生じた被験物質とその結合パートナーとの間の免疫凝集反応について、該反応の第1の期間における該反応液の散乱光強度、および、該反応の第2の期間における該反応液の散乱光強度に基づいて、該第1の期間における散乱光強度の変化速度と該第2の期間における散乱光強度の変化速度との間の変動に関する指標値を決定するための指標値決定部と、
該指標値と、予め設定された閾値とを比較することにより、該被験物質の濃度が免疫凝集反応を用いた濃度測定のために適正な範囲内のものであるか否かを判定するための第1判定部と
を有する、前記試料分析装置。
[12]該指標値が、該第1の期間における散乱光強度の変化速度と該第2の期間における散乱光強度の変化速度との比である、上記[11]に記載の試料分析装置。
[13]透過光強度を測定するための透過光強度測定部を更に有し、
前記の散乱光強度として、散乱光強度の測定値と透過光強度の測定値との比を用いる、上記[11]または[12]に記載の試料分析装置。
[14]該被験物質を含む湿性生体試料を分析するためのものである、上記[11]~[13]のいずれかに記載の試料分析装置。
[15]該湿性生体試料が、血液、唾液、尿、汗、リンパ液、および喀痰からなる群から選択されるものである、上記[14]に記載の試料分析装置。
[16]該第1判定部が、該被験物質の濃度が、プロゾーン現象を生じる濃度およびその付近の濃度のいずれでもない濃度であるか否かを判定するものである、上記[11]~[15]のいずれかに記載の試料分析装置。
[17]被験物質の濃度を測定するための濃度測定部を更に有する、上記[11]~[16]のいずれかに記載の試料分析装置。
[18]測定された該被験物質の濃度が所定の閾値濃度よりも低い場合に、該被験物質の濃度は適正な範囲内のものではないと判定するための第2判定部を更に有する、上記[17]に記載の試料分析装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、短時間で、測定ばらつきの影響を受けにくい、被験物質の濃度が免疫凝集反応を用いた濃度測定のために適正な範囲内のものであるか否かを判定する方法、および、そのための処理部を有する試料分析装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、一実施形態による本発明の試料分析装置の構成の概略のブロック図を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の試料分析装置が有し得る光学システムの構成例を概略で示すブロック図である。
【
図3】
図3は、他の実施形態による本発明の試料分析装置の構成の概略のブロック図を示す図である。
【
図4】
図4は、既知濃度のCRPを含む血清を測定したときの測定表示値の変化を示すグラフである。
【
図5】
図5は、散乱光および吸光度をそれぞれ用いた時のたわみ値について、血清CRP濃度に対する変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の判定方法およびそのための処理部を有する本発明の試料分析装置についてその例示的な態様を示して詳細に説明する。
【0014】
(判定方法)
本発明は、反応液中の被験物質の濃度が免疫凝集反応を用いた濃度測定のために適正な範囲内のものであるか否かを判定する方法を提供する。
本発明の判定方法は、
反応液中で生じた被験物質とその結合パートナーとの間の免疫凝集反応について、該反応の第1の期間における該反応液の散乱光強度、および、該反応の第2の期間における該反応液の散乱光強度に基づいて、該第1の期間における散乱光強度の変化速度と該第2の期間における散乱光強度の変化速度との間の変動に関する指標値を決定する工程、および、
該指標値と、予め設定された閾値とを比較することにより、該被験物質の濃度が適正な範囲内のものであるか否かを判定する工程
を含む。
【0015】
本明細書において「免疫凝集反応」とは、抗原と抗体の反応により凝集が生じる反応をいう。本発明においては特に、被験物質とその結合パートナーとの間の抗原-抗体反応に応答して、反応液中に存在する粒子の凝集が生じる反応をいう。該凝集は、反応液の濁度の増加をもたらすものであり得る。免疫凝集反応により生じる粒子の凝集を定量することにより、被験物質の濃度が測定される。一般に、免疫凝集反応を用いた濃度測定法において、「プロゾーン現象」または、「フック効果」と呼ばれる、抗原-抗体反応において抗原量または抗体量が過剰である場合に、測定されるシグナル値が減少し、その結果として本来得られるべきものよりも低い被験物質濃度を与える、または該シグナル値のみからは被験物質濃度を一つに特定できなくさせる現象が生じることが知られている。一つの実施形態において、本発明の判定方法は、免疫凝集反応を用いた被験物質の濃度測定においてプロゾーン現象が生じているか否かを判定する方法である。また、一般に、試薬量のばらつきなどに起因して測定結果にばらつきが生じ得るので、プロゾーン現象が生じる濃度領域(本明細書において、プロゾーン領域ともいう。)に近い濃度領域についても、濃度測定のために適正ではない可能性がある。よって、好ましい実施形態において、本発明の判定方法は、被験物質の濃度がプロゾーン領域内またはその付近の領域内の濃度(換言すれば、プロゾーン現象の発生の可能性が疑われる濃度)ではないことを判定する方法である。
【0016】
また、本発明の判定方法は、被験物質の濃度を測定し、該測定された濃度が所定の閾値濃度よりも低い場合に、該被験物質の濃度は適正な範囲内のものではないと判定する工程を更に含んでもよい。当該工程は、本発明による「指標値」の決定工程の前に行われることが好ましい。これは、一般に、低濃度領域では測定再現性が良くなく、また反応開始後初期の濁度変化が小さいために該指標値の数値が安定しないためである。
【0017】
本発明の判定方法は、免疫凝集反応を用いた被験物質の濃度測定と共に行うことができる。本発明の判定方法を用いることで、該測定が適正な濃度範囲内の被験物質に対して行われたか否かを判定することができる。濃度測定値の取得方法は特に限定されない。例えば、透過光(吸光度)、散乱光、または透過光および散乱光を測定し、得られたシグナル値と検量線に基づいて濃度を決定することができる。
【0018】
本明細書において「反応液」は、被験物質と、その結合パートナーと、粒子とが該液中に共存することにより免疫凝集反応が進行するものであれば特に限定されない。該反応液は、例えば、被験物質を含む試料と、(i)結合パートナーおよび粒子を含む溶液、または、(ii)結合パートナーを含む溶液および粒子を含む溶液とを混合することにより調製することができる。
【0019】
本発明による分析の対象とする試料は特に限定されないが、通常、湿性生体試料である。湿性生体試料としては、例えば、血液(全血、血清、血漿)、唾液、尿、汗、リンパ液、喀痰等の体液が挙げられる。また、「被験物質を含む試料」には、上記のような試料そのもののみならず、分析目的のための各種調製(例えば、緩衝液等との混合や希釈等)が為された試料も包含される。希釈のために、pH5~11、好ましくはpH6~10の緩衝液、具体的には、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液等を用いることができる。
【0020】
本明細書において「被験物質」は、免疫凝集反応を用いて濃度を測定可能なものである限り特に限定されない。被験物質は、例えば、蛋白質、ペプチド、脂質、核酸、多糖類および糖類等の抗原、または抗体であってよい。抗原としては、各種の抗原、受容体、ホルモンおよびホルモン様物質、薬物、酵素等が挙げられ、具体的には、例えば、C反応性蛋白質(CRP)、インスリン、ヒトフィブリノーゲン、マイクロアルブミン、IV型コラーゲン、マイコプラズマ抗原、HBs抗原、ヘモグロビンA1c等が挙げられる。抗体としては、各種疾患と関連する自己抗体、各種の毒素や病原菌等に対する抗体等が挙げられ、具体的には、例えば、リウマトイド因子、抗核抗体、抗CCP抗体、抗DNA抗体、抗ENA抗体、抗内因子抗体、抗リン脂質抗体等の自己抗体や、抗梅毒抗原抗体、抗梅毒トレポネーマ抗体、抗HBs抗体、抗HBc抗体、抗HBe抗体、抗インスリン抗体、抗CRP抗体、抗リン脂質抗体等が挙げられる。
【0021】
被験物質との結合パートナーは、被験物質との抗原-抗体反応を生じることができ、かつ該反応により粒子の凝集を誘発できるものである限り特に限定されない。また、粒子の凝集の誘発のために、追加の成分(例えば、1次抗体である結合パートナーに特異的に結合できる2次抗体)が必要または望ましいものであってもよい。結合パートナーは、例えば、蛋白質、ペプチド、脂質、核酸、多糖類および糖類等の抗原または抗体であってよい。
【0022】
結合パートナーは、反応液の調製の時点で粒子に担持されていてもよいし、あるいは該時点では粒子に担持されていなくてもよい(後者の例としては、ヘモグロビンA1cの測定などが挙げられる。)。粒子に担持される結合パートナーの量または結合パートナーと粒子との量比は、用いる具体的物質等によっても異なり、特に限定されない。
【0023】
粒子は、被験物質とその結合パートナーとの抗原-抗体反応により凝集を誘発されることができるものである限り、特に限定されない。該粒子は、好ましくは、不溶性担体粒子である。不溶性担体粒子としては、公知の担体粒子を用いることができる。担体の材質としては、例えば、ポリスチレン、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、スチレン-スチレンスルホン酸塩共重合体、メタクリル酸重合体、アクリル酸重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、ポリ酢酸ビニルアクリレート等の合成高分子粉末、金属コロイド(金、チタン、ニッケル等)、シリカ、カーボン、磁性体粒子等が挙げられる。水または水系媒体中に各種高分子微粒子を安定に懸濁させたラテックスは当該技術分野において頻用されており、本発明においても好ましい担体粒子として挙げられる。
【0024】
不溶性担体粒子の粒径は特に限定されず、本発明において用いる測定方法や粒子の材質等によっても異なるが、通常は0.01~1.0μm、好ましくは0.1~0.7μm程度である。また、溶液中の担体粒子濃度は、免疫凝集反応のために通常用いられる濃度とすればよく、通常は1~20重量%であることが好ましい。
【0025】
上述の通り、結合パートナーは反応液の調製の時点で粒子(好ましくは不溶性担体粒子)に担持されていてもよい。結合パートナーを不溶性担体粒子に担持させる方法は特に限定されず、物理吸着法および共有結合による化学結合法等の従来公知の方法を用いることができる。また、担持後には、BSA(ウシ血清アルブミン)等を用いたブロッキング処理等の公知の処理を適宜行ってもよい。
【0026】
結合パートナーおよび/または粒子を含む溶液は、水または水系媒体をベースとするものであってよい。該溶液は更に、安定化剤や凝集促進剤等の追加成分を含んでいてもよい。あるいは、これらの追加成分は、被験物質を含む試料溶液中に添加されていてもよいし、または、免疫凝集反応が起こる反応液中に別途添加してもよい。安定化剤としては、例えば、上述したような緩衝液、ポリエチレングリコールや多糖類等の合成または天然高分子、界面活性剤等が挙げられる。凝集促進剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、プルラン、リン脂質ポリマー等の合成または天然高分子が挙げられる。また、混合前のいずれかの溶液、または反応液中に、必要に応じて、界面活性剤、合成または天然高分子、有機または無機試薬等を適宜添加してもよい。
【0027】
上述したような、被験物質を含む試料溶液と結合パートナーおよび/または粒子を含む1以上の溶液と(任意に、追加成分を含む更なる溶液と)を混合することにより、該混合液(反応液)中で免疫凝集反応を開始させることができる。
【0028】
免疫凝集反応の開始後、該反応の第1の期間における該反応液の散乱光強度、および、該反応の第2の期間における該反応液の散乱光強度に基づいて、第1の期間における散乱光強度の変化速度と第2の期間における散乱光強度の変化速度との間の変動に関する指標値を決定する。
第1の期間および第2の期間の選択は、決定される指標値の信頼性を著しく損なわない限り、任意の期間であってよい。第1の期間と第2の期間とは、一部分が重複していてもよい。一般に、反応開始直後(例えば、反応開始から5秒まで)は反応液がまだ十分に撹拌されていないため安定した信号が得られない可能性があるので、この期間は第1の期間または第2の期間として用いないことが好ましい。また、短時間での判定を可能とするという目的からは、具体的な反応系によっても異なるが、第1の期間および第2の期間は反応開始から例えば5分以内、好ましくは3分以内、より好ましくは2分以内、更に好ましくは1分以内の期間である。
一つの実施形態において、第1の期間および第2の期間の一方は、反応開始後に濁度が急速に変化する期間(反応の前期)であり、他方は、濁度が急速に変化する期間を過ぎて濁度の変化が緩やかになった後の期間(反応の後期)である。より詳細には、例えば、反応の前期は反応が平衡になるときの濁度の20%の濁度になる時点を含むものであってよく、反応の後期は、反応が平衡になるときの70%の濁度になる時点を含むものであってよい。実際には、これらの期間は、測定時間を任意に定め、測定期間から前期および後期を適宜定義することにより決定してもよい。対象とする反応系によっても異なるが、具体的には例えば、1測定の場合、反応開始から11~30秒を反応の前期、反応開始から41~60秒を反応の後期とすることができる。
【0029】
上記指標値を決定するために用いられる散乱光強度は、第1の期間の2以上の時点において測定された該反応液の散乱光強度、および、第2の期間の2以上の時点において測定された該反応液の散乱光強度であってよい。この場合、第1の期間および第2の期間の時間的長さ(即ち、当該2以上の時点間の最大の時間差)は特に限定されないが、各期間における散乱光強度の変化速度の信頼性を高めるという観点からは、それぞれ、通常10~25秒、好ましくは15~20秒である。
【0030】
第1の期間または第2の期間における散乱光強度の変化速度は、当該期間内における散乱光強度の変化速度の程度を示すものであれば特に限定されず、各期間内の特定の時点における変化速度であってもよいし、あるいは、各期間内の全体的な変化速度を示すものであってもよい。具体的には、当該変化速度は、例えば、(a)当該期間内において等間隔(例えば1秒毎)に散乱光強度を測定することにより各時点における単位時間あたりの散乱光強度の変化量を求め、それを当該期間にわたって平均すること、または、(b)当該期間内の任意の2時点において散乱光強度を測定し、2時点間の時間長さで測定値の間の変化量を除算すること等により決定することができる。あるいは、複数の時点における散乱光強度の測定値から散乱光強度の時間変化に関するグラフを作成し、該グラフにおける曲線の接線の傾きから変化速度を決定してもよい。
【0031】
本発明において「散乱光強度」は、測定対象とする反応液からの散乱光の強度を定量的に示したものである限り、特に限定されない。好ましい実施形態において、所与の時点tの散乱光強度としては、下記式に示す通り、時点tにおける散乱光強度の測定値と透過光強度の測定値との比を用いることができる:
散乱光強度(t)=S(t)/T(t);
(式中、S(t)は時点tにおいて測定された散乱光強度を示し、T(t)は時点tにおいて測定された透過光強度を示す。)
散乱光の信号は測定位置に入射する光量により変動するため、このように定義される散乱光強度を用いることにより、溶液中の測定位置における見かけの散乱光を減衰した透過光で補正することができる。
【0032】
散乱光強度(および、場合により透過光強度)の測定に用いる光源は特に限定されず、ランプ、半導体レーザー、LED(発光ダイオード)等を用いることができる。単波長を照射できるという観点から半導体レーザーが好ましい。照射光波長についても特に限定されないが、530~780nm(例えば、650nm)の波長領域の照射光を用いることが好ましい。また、例えば、全血試料からCRPの測定を行う場合、ヘモグロビンの吸収波長を避けるべく、600~780nmの照射光が好ましく用いられる。
【0033】
散乱光強度の測定に用いる散乱角度についても特に限定されないが、散乱光測定における透過光の影響を低減すると共に十分な強度の散乱光を受光する目的から、好ましくは3~85度、より好ましくは35~55度である。
【0034】
指標値の算出方法は、第1の期間における散乱光強度の変化速度と第2の期間における散乱光強度の変化速度との間の変動の度合いを示すものである限り特に限定されない。指標値の具体例としては、該2つの変化速度の間の比(例えば、実施例に記載されるように、反応の前期における散乱光強度の変化速度に対する反応の後期における散乱光強度の変化速度の比)、または、該2つの変化速度の間の差等を挙げることができる。
【0035】
上記のようにして指標値が決定されたら、該指標値を、予め設定された閾値と比較することにより、被験物質の濃度が免疫凝集反応を用いた濃度測定のために適正な範囲内のものであるか否かを判定する。
閾値は、複数の既知濃度の被験物質含有試料を用いて作成した検量線、および、これらの試料のそれぞれについて得られた上記指標値を用いて設定することができる。即ち、例えば、複数の既知濃度の被験物質含有試料を用いて作成した検量線から、プロゾーン現象が発生する濃度またはその手前の濃度を閾値濃度C0として設定でき、更に、該閾値濃度C0における指標値A0を、本発明の判定方法における測定方法と同一の条件下で求め、得られた指標値A0を上記閾値として設定することができる。検体試料について決定された指標値が、このようにして設定された閾値A0よりもよりも大きいのか、それとも小さいのかに応じて、検体試料中の被験物質濃度がプロゾーン領域またはその付近の濃度領域にあるのか否かを判定することができる。
【0036】
(試料分析装置)
本発明はまた、試料分析装置を提供する。本発明の試料分析装置は、上述の本発明の判定方法を実行するための処理部を有する装置である。従って、本発明の判定方法に関して上述した全ての実施形態、および好ましい態様等は本発明の試料分析装置についても同様に適用され得る。従って、当該装置による分析の対象とする試料および被験物質についても、上述の記載が適用され得る。
本発明の試料分析装置は、
散乱光強度を測定するための散乱光強度測定部と、
反応液中で生じた被験物質とその結合パートナーとの間の免疫凝集反応について、該反応の第1の期間における該反応液の散乱光強度、および、該反応の第2の期間における該反応液の散乱光強度に基づいて、該第1の期間における散乱光強度の変化速度と該第2の期間における散乱光強度の変化速度との間の変動に関する指標値を決定するための指標値決定部と、
該指標値と、予め設定された閾値とを比較することにより、該被験物質の濃度が免疫凝集反応を用いた濃度測定のために適正な範囲内のものであるか否かを判定するための第1判定部と
を有する。
【0037】
一実施形態による本発明の試料分析装置の概略のブロック図を
図1に示す。
本例の試料分析装置10は、散乱光強度測定部11、透過光強度測定部12、指標値決定部13、および第1判定部14を有して構成されている。本発明の判定方法に関して上述した通り、本発明による判定のために用いる散乱光強度として、散乱光強度の測定値を透過光強度の測定値にて補正したものを用いることができ、本例では、この目的のために、本発明の装置において必須の構成要素である散乱光強度測定部11、指標値決定部13、および第1判定部14に加えて、透過光強度測定部12を有している。但し、本発明の実施において、透過光強度による散乱光強度の補正は必ずしも必要ではなく、よって透過光強度測定部12は必須の構成要素ではない。
散乱光強度測定部11および透過光強度測定部12は、
図2に例示的な概略のブロック図を示すように、一つの光学システムとして構成してもよい。
図2に示す光学システムは、光源31、測定セル32、散乱光受光部33、透過光受光部34、および制御部35を有して構成されている。光源31は、ランプ、半導体レーザー、LED(発光ダイオード)等であってよく、単波長を照射できるという観点から半導体レーザーが好ましい。測定セル32には検体溶液が設置され、そこに光源31から光が照射される。その散乱光および透過光がそれぞれ散乱光受光部33および透過光受光部34により受光される。これらの受光部は、フォトダイオード等の受光素子により構成されたものであってよい。散乱光受光部33および透過光受光部34からのアナログ信号が制御部35に伝送され、制御部35はそれをデジタル信号に変換する。制御部35はまた、光源31、散乱光受光部33、および透過光受光部34を駆動するために、これらに電力を供給する。散乱光強度および透過光強度を計測するための上記の構成は、従来公知の光学測定装置と同様の構成を用いることができる。また、光の波長や散乱角度等の各種パラメータは、本発明の判定方法に関して上述した通りである。
【0038】
指標値決定部13および第1判定部14は、一つの制御装置として構成することができる。該制御装置は、好ましい実施形態において、コンピュータを用いて実装される。
【0039】
指標値決定部13は、散乱光強度測定部11の例えば制御部35から、各計測時間におえる散乱光強度、ならびにこれらの散乱光強度に対応する反応開始からの経過時間のデータを受け取る。指標値決定部13は、受け取ったこれらのデータに基づいて、本発明の判定方法に関して上述したような指標値を決定する。
【0040】
第1判定部14は、指標値決定部13により決定された指標値と、例えばユーザーにより予め第1判定部14に設定された閾値とを比較することにより、検体試料中の被験物質濃度の適正性を判定する。適正性の判定方法は、本発明の判定方法に関して上述した通りである。
【0041】
他の実施形態による本発明の試料分析装置の概略のブロック図を
図3に示す。
本例の試料分析装置20は、散乱光強度測定部21、透過光強度測定部22、指標値決定部23、および第1判定部24に加えて、濃度測定部25および第2判定部26を有して構成されている。散乱光強度測定部21、透過光強度測定部22、指標値決定部23、および第1判定部24は、
図1に示す試料分析装置10に関して説明した、それぞれ、散乱光強度測定部11、透過光強度測定部12、指標値決定部13、および第1判定部14と同様の構成であってよい。
濃度測定部25は、検体試料中の被験物質の濃度を測定するための機能部である。濃度測定のための方法は特に限定されず、例えば、透過光強度の測定値および/または散乱光強度の測定値と、予め作成された検量線を用いて自体公知の方法により濃度を測定することができる。よって、
図3では、濃度測定部25と、透過光強度測定部22および散乱光強度測定部21とを破線で繋いでいる。
第2判定部26は、濃度測定部25により測定された被験物質の濃度が所定の閾値濃度よりも低い場合に、該被験物質の濃度は適正な範囲内のものではないと判定するための機能部である。本発明の判定方法に関して上述した通り、第2判定部による判定は第1判定部による判定よりも前に行うことが好ましい。試料分析装置20は、第2判定部により被験物質濃度は適正な範囲内ではないと判定した時には、それをユーザーに報告し、第1判定部による判定のための更なる処理(即ち、追加的な透過光および/または散乱光強度測定、指標値決定部および第1判定部による処理)を行わないように構成されていることが好ましい。
【0042】
以下により具体的な実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0043】
例えば以下の手順により、血液試料からのC反応性蛋白質(CRP)濃度を測定することができる。
CRP測定手順
1.緩衝液を吸引し、測定セル内に吐出する。
2.次に溶血試薬を吸引し、測定セル内に吐出する。
3.検体を吸引し、測定セル内に吐出する。
4.ラテックス試薬を吸引し、測定セル内に吐出する。
5.測定セル内の溶液をよく撹拌する。
6.免疫反応が生じて、CRP測定を行う。吸光度の変化を1秒ごとに1分間測定する。そのときのデータは信号処理部を経て演算部に取り込まれる。
7.前記測定が終わると、CRPセルは希釈液で洗浄され、全ての測定が終わる。
8.測定によって得られたデータに基づいて、20秒から60秒までの吸光度の時間変化量を求め、予め既知濃度の血清より求めておいた検量線からCRP濃度を得る。
(横軸を吸光度の時間変化、縦軸を濃度として予め検量線を作っておく。)
【0044】
上述の手順にて、既知の濃度でCRPを含む10個の試料を用い、CRPに対する抗体を担持したラテックスとの免疫凝集反応を開始させた。その後、吸光度測定とあわせて散乱光強度を測定した。散乱光強度の測定には、波長650nm、散乱角45度の散乱光と透過光の信号を用いた。各反応液について濁度(吸光度)に基づくたわみ値および散乱光量に基づくたわみ値を決定した。たわみ値は、本発明による指標値の一例であり、具体的には以下の通りに算出した。
たわみ値=Sp(40-59)/Sp(10-29)
Sp(10-29)は試薬反応開始後10秒から29秒までの平均単位時間変化量
Sp(40-59)は試薬反応開始後40秒から59秒までの平均単位時間変化量
濁度と散乱光は以下の関係で求めたものを用いた。
濁度=-log(Tt/T0)
T0:検出系ブランク時の透過光量
Tt:反応時間tにおける透過光量
散乱光=St/Tt
St:反応時間tにおける散乱光量
【0045】
図4は、濃度既知の血清タンパクと吸光度で測定したときの測定値の関係をプロットしたものである。血清濃度32mg/dlをピークとして、この濃度より高い血清は見かけの測定値が小さく観察されている。同じ血清濃度にて吸光度と散乱光のたわみ値を測定したときの関係を
図5に示す。吸光度から求めたたわみ値は8から32mg/dLにかけて変化量が大きく、その後緩やかに100mg/dLまで増加する。
散乱光から計算したたたわみ値は、血清濃度8から16mg/dlにかけて急激に増加し、その後32mg/dLまで大きく増加する。その後、血清濃度によらず一定値を示すようになる。
プロゾーンを高精度に判定するためには、通常測定濃度では小さい値を示し、プロゾーンに近づくとその数値が大きく変化する性質をもつ指標がよい。測定ばらつきの影響を考慮すると、指標の変化幅が小さいほうが変化幅が大きい指標より低濃度で判定するようになる。
図5中の16mg/dLから32mg/dLまでの数値変化量を吸光度の場合をΔR
L、散乱光の場合をΔR
Sとすると、散乱光の数値の方が吸光度の数値より1.8倍同じ濃度変化量に対する変化量が大きい。この数値が大きいほど、測定ばらつきの影響が小さくなり、より高精度のプロゾーン判定が可能になる。プロゾーン判定の閾値を吸光度と散乱光とでD
TとD
Sとすると、散乱光でのD
Sのほうがより吸光度のD
Tより閾値に対する変化量の余裕が大きく、より測定ばらつき影響が改善されていることがわかる。
【0046】
本出願は、日本で出願された特願2016-243796(出願日:2016年12月15日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含される。
【符号の説明】
【0047】
10,20 試料分析装置
11,21 散乱光強度測定部
12,22 透過光強度測定部
13,23 指標値決定部
14,24 第1判定部
25 濃度判定部
26 第2判定部
31 光源
32 測定セル
33 散乱光受光部
34 透過光受光部
35 制御部
【手続補正書】
【提出日】2022-01-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。