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特開2022-46736グリコール酸および/またはグリオキシル酸の製造のための方法および微生物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022046736
(43)【公開日】2022-03-23
(54)【発明の名称】グリコール酸および/またはグリオキシル酸の製造のための方法および微生物
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/42 20060101AFI20220315BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220315BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220315BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20220315BHJP
【FI】
C12P7/42 ZNA
C12N1/19
C12N1/21
C12N15/31
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022000299
(22)【出願日】2022-01-04
(62)【分割の表示】P 2019540435の分割
【原出願日】2018-01-26
(31)【優先権主張番号】17305084.0
(32)【優先日】2017-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】505311917
【氏名又は名称】メタボリック エクスプローラー
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ワンダ、ディシェール
(72)【発明者】
【氏名】グウェネル、コル
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ、スカイユ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】グリコール酸および/またはグリオキシル酸の産生に有用な方法および組み換え微生物を提供する。
【解決手段】少なくとも一つの発酵工程および改変微生物を用いて、唯一の炭素源としての炭水化物からグリコール酸および/またはグリオキシル酸を製造する方法であって、前記改変微生物において:aceB、glcB、gclおよびedaから選択される少なくとも一つの遺伝子の発現を低減させ、かつ、キシルロース5-リン酸ホスホケトラーゼおよび/またはフルクトース6-リン酸ホスホケトラーゼをコードする少なくとも一つの遺伝子の発現が増強されている、前記製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの発酵工程および改変微生物を用いて、唯一の炭素源としての炭水化物からグリコール酸および/またはグリオキシル酸を製造する方法であって、前記改変微生物において:
-aceB、glcB、gclおよびedaから選択される少なくとも一つの遺伝子の発現を低減させ、かつ、
-キシルロース5-リン酸ホスホケトラーゼおよび/またはフルクトース6-リン酸ホスホケトラーゼをコードする少なくとも一つの遺伝子の発現が増強されている、
前記製造方法。
【請求項2】
前記ホスホケトラーゼをコードする遺伝子が、ラクトバチルス・ペントサス(Lactobacillus pentosus)のxpkA遺伝子、ビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)のxfp遺伝子、またはビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)のxfp遺伝子、またはそれらの相同遺伝子から選択される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記改変微生物が、大腸菌(Escherichia coli)由来のycdW遺伝子またはその相同遺伝子をさらに過剰発現する、請求項1または2に記載のグリコール酸の製造方法。
【請求項4】
グリコール酸からグリオキシル酸を製造するための請求項3に記載の方法であって、
-任意に発酵ブロスからグリコール酸を分離する工程、
-大腸菌由来のgldDEFG遺伝子によりコードされるグリコール酸オキシダーゼおよび大腸菌由来のkatEまたはkatG遺伝子によりコードされるカタラーゼを用いたグリコール酸からの生物変換によって、またはニトロキシルラジカル触媒を用いた化学変換によって、グリコール酸をグリオキシル酸に変換する工程、
-グリオキシル酸を回収する工程
をさらに含む、前記製造方法。
【請求項5】
グリコール酸オキシダーゼおよびカタラーゼが同じ微生物において発現される、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記改変微生物において、少なくとも大腸菌由来のycdW遺伝子が低減されている、請求項1または2に記載のグリオキシル酸の製造方法。
【請求項7】
グリオキシル酸からグリコール酸を製造するための請求項6に記載の方法であって、
-任意に発酵ブロスからグリオキシル酸を分離する工程、
-大腸菌由来の遺伝子ycdW遺伝子またはリゾビウム・エトリ(Rhizobium etli)由来のgrxA遺伝子によりコードされるグリオキシル酸レダクターゼを用いたグリオキシル酸からの生物変換によって、または水素化ホウ素ナトリウムを用いた化学変換によって、グリオキシル酸をグリコール酸に変換する工程、
-グリコール酸を回収する工程
をさらに含む、前記製造方法。
【請求項8】
グリシンと、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のグリシンオキシダーゼをコードする遺伝子および任意に大腸菌由来のカタラーゼをコードするkatEまたはkatG遺伝子を過剰発現する微生物とを接触させることにより、グリシンからグリオキシル酸を製造する方法。
【請求項9】
グリコール酸が、結晶化、蒸留、液-液抽出または抽出発酵の工程により精製される、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
グリオキシル酸が、イオン交換、結晶化、沈殿または抽出発酵の工程により精製される、請求項1~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
グリコール酸またはグリオキシル酸の製造のために改変された微生物であって、
-aceB、glcB、gclおよびedaから選択される少なくとも一つの遺伝子の発現が低減され、
-ホスホケトラーゼをコードする少なくとも一つの遺伝子の発現が増強されている、
前記微生物。
【請求項12】
前記ホスホケトラーゼをコードする遺伝子が、ラクトバチルス・ペントサスのxpkA遺伝子、ビフィドバクテリウム・アニマリスのxfp遺伝子、またはビフィドバクテリウム・ラクティスのxfp遺伝子、またはそれらの相同遺伝子から選択される、請求項11記載の微生物。
【請求項13】
-大腸菌由来のycdW遺伝子またはグリコール酸産生のためのその相同遺伝子の過剰発現、または、
-グリオキシル酸産生のための大腸菌由来の少なくともycdW遺伝子の発現の低減をさらに含む、
請求項11または12に記載の微生物。
【請求項14】
前記微生物が、腸内細菌科、クロストリジウム科、コリネバクテリウム科、バチルス科、ビフィドバクテリウム科、ラクトバチルス科または酵母から選択される、請求項1~13のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項15】
前記微生物が大腸菌種由来である、請求項14に記載の微生物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコール酸および/またはグリオキシル酸の製造に有用な方法および組み換え微生物に関する。本発明の微生物は、ホスホケトラーゼ活性を過剰発現することにより、炭素源からのグリコール酸および/またはグリオキシル酸の収率が増大するように改変されている。本発明の方法は、本発明の改変微生物の一段階の発酵のみ、または、本発明の改変微生物の一段階の発酵およびグリコール酸またはグリオキシル酸の生物変換または化学変換の一段階のいずれかを含む。
【背景技術】
【0002】
カルボン酸は、少なくとも一つのカルボキシル基を含む有機化合物である。カルボン酸は広く存在し、例えばアミノ酸(タンパク質を構成する)と酢酸(酢の一部であり、代謝で発生する)とを含む。カルボン酸は、ポリマー、医薬品、溶媒および食品添加物の製造に使用される。産業的に重要なカルボン酸としては、酢酸(酢の成分、溶媒およびコーティング(coating)の前駆体)、アクリル酸およびメタクリル酸(ポリマーの前駆体、接着剤)、アジピン酸(ポリマー)、クエン酸(飲料)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(キレート化剤)、脂肪酸(コーティング)、マレイン酸(ポリマー)、プロピオン酸(食品保存料)、テレフタル酸(ポリマー)、酪酸(食品添加物)、コハク酸(食品添加物、ポリマー)が挙げられる。
【0003】
グリコール酸(HOCHCOOH、CAS番号:79-14-1)、またはその共役塩基のグリコレートは、カルボン酸のα-ヒドロキシ酸ファミリーの最も単純なメンバーである。グリコール酸は、非常に小さな分子中にアルコールおよび適度に強い酸官能基の両方を含む二重機能性を有する。その特性により、井戸の復旧、皮革産業、石油およびガス産業、洗濯および繊維産業、クリーニング製品、およびパーソナルケア製品のコンポーネントとしての使用を含む、幅広い消費者および産業用途に適している。また、優れたガスバリア性を有するポリグリコール酸を含む熱可塑性樹脂を含むさまざまな高分子材料の製造にも使用できるため、同じ特性を持つ包装材料(例えば、飲料容器等)の製造に使用することができる。ポリエステルポリマーは、水性環境において制御可能な速度で徐々に加水分解される。このような特性を有することにより、ポリエステルポリマーは、溶解性縫合糸等の生物医学的用途や、pHを下げるために酸の放出を制御する必要がある用途において有用である。現在、世界中で年間50,000トンを超えるグリコール酸が消費されている。
【0004】
グリコール酸は、サトウキビ、ビート、ブドウおよび果物において微量成分として天然に存在するが、主に合成により製造される。グリコール酸を製造する他の技術は、文献または特許出願に記載されている。例えば、特許出願EP2025759およびEP2025760は、微生物を使用することにより、末端にヒドロキシル基を有する脂肪族多価アルコールから前記ヒドロキシカルボン酸を製造する方法を記載している。この方法は、エチレングリコール酸化微生物を用いたグリコール酸の製造に関する論文(Kataoka et al., 2001)においてMichihiko Kataokaが述べているように、生物変換である。グリコール酸は、改善されたニトリラーゼ活性を有する変異ニトリラーゼを使用するグリコロニトリルからの生物変換によっても製造され、その技術は、特許出願WO2006/069110、WO2009/059104およびWO2009/059096に開示されており、または、特許出願JP2007/228927またはWO2005/106005に開示されているように、エチレングリコール、グリコールアルデヒドまたはグリオキサールからの生物変換によって製造される。炭水化物が一つの直接的な発酵工程によってグリコール酸に変換される再生可能資源からの発酵によりグリコール酸を製造するための方法および微生物は、大腸菌株を用いた方法については特許出願WO2007/141316、WO2010/108909、WO2011/036213、WO2011/157728、WO2012/025780、CN105647844A、CN106011185AおよびWO2016/079440に開示されており、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)株またはクルイベロミセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)株を用いた方法についてはWO2013/050659、WO2014/162063およびWO2016/193540に開示されている。
【0005】
グリオキシル酸またはオキソ酢酸(HCOCOOH、CAS番号:298-12-4)、またはその共役塩基のグリオキシレートは、C2カルボン酸である。グリオキシル酸は、グリオキシル酸サイクルの中間体であり、細菌、真菌、植物等の生物が脂肪酸を炭水化物に変換できるようにする。グリオキシレートは、いくつかのアミド化ペプチドの生合成におけるアミド化プロセスの副産物である。それは天然に存在する無色の固体であり、産業的に有用である。さまざまな産業用途の洗浄剤として、特殊な化学的および生分解性共重合体の原料として、また化粧品の成分として使用される。農薬および医薬品の化学物質として有用な化合物である。実際、グリオキシル酸は、フェノールとの縮合により4-ヒドロキシマンデル酸を生成し、それはアンモニアと反応して薬物アモキシシリンの前駆体であるヒドロキシフェニルグリシンを生成し、還元されて薬剤アテノロールの前駆体である4-ヒドロキシフェニル酢酸を生成するため、医薬品産業において有用であり得る。さらに、グリオキシル酸と尿素との酸触媒反応により、化粧品、軟膏において、また、一部の癌の治療において使用されるアラントインが生成される(Cativiela et al., 2003)。最後に、フェノールの代わりにグアイアコールと縮合すると、食品、飲料および医薬品における香味剤として使用されるバニリンへの経路がもたらされる。
【0006】
グリオキシル酸は、未熟な果物や若い緑の葉において微量成分として天然に存在するが、主に合成により製造される。グリオキシル酸を製造する他の技術は、文献または特許出願に記載されている。例えば、グリオキシル酸は、ジブロモ酢酸をいくらかの水で加熱することにより、またはシュウ酸の電解還元により、またはグリオキサールの窒素酸化(nitric oxidation)により化学的に製造され得る。特許出願WO1993/14214、US5,439,813およびWO1994/28155等のいくつかの特許出願には、Isobe & Nishise (1999)と同様に、微生物によって産生されるグリコール酸オキシダーゼを用いたグリコール酸からの生物変換が開示されており、生物変換によるグリオキシル酸の製造プロセスが記載されている。特許出願US2007/0026510には、アルデヒドオキシダーゼを用いたグリオキサールからの生物変換が開示されている。
【0007】
グリコール酸およびグリオキシル酸に対する産業上の関心は、化学製品製造中に形成される化学副産物による環境的な懸念と相まって、そのようなカルボン酸の微生物的製造は魅力的可能性を有している。
【0008】
本発明者らは、少なくとも一つの発酵工程およびホスホケトラーゼ活性が増強された改変微生物が関与する、唯一の炭素源としての炭水化物からグリコール酸および/またはグリオキシル酸を製造するための新しい方法を明らかにした。
【0009】
ホスホケトラーゼ活性およびそのような活性を持つ酵素をコードする遺伝子は、当技術分野で公知である(Papini et al., 2012)。2つの異なるホスホケトラーゼ活性が細菌で報告されている。キシルロース5-リン酸ホスホケトラーゼは、リン酸塩を消費して、水の放出を伴うキシルロース5-リン酸からグリセルアルデヒド3-リン酸およびアセチルリン酸への変換を触媒する。キシルロース5-リン酸ホスホケトラーゼは、例えば、ラクトバチルス・ペントサス(Lactobacillus pentosus)のxpkA遺伝子によってコードされている(Posthuma et al., 2002)。フルクトース6-リン酸ホスホケトラーゼは、リン酸塩を消費して、水の放出を伴うフルクトース6-リン酸からエリスロース4-リン酸およびアセチルリン酸への変換を触媒する。例えば、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)(Meile et al., 2001)またはビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)(WO2006/016705およびWO2016/044713)のxfp遺伝子によってコードされるタンパク質の場合のように、キシルロース5-リン酸ホスホケトラーゼおよびフルクトース6-リン酸ホスホケトラーゼ活性の両方を有するホスホケトラーゼをコードする遺伝子はほとんどない。
【0010】
目的の代謝産物の製造のためのホスホケトラーゼの使用は既に知られており、特許出願WO2006/016705およびWO2016/044713において開示されている。目的の代謝産物は、グルタミン酸、グルタミン、プロリン、アルギニン、ロイシン、システイン、コハク酸、ポリヒドロブチレートおよび1,4-ブタンジオールである。グリコール酸またはグリオキシル酸の製造のためのホスホケトラーゼの使用は未だに開示されていない。
【0011】
本発明の方法および微生物は、グリコール酸および/またはグリオキシル酸の製造のためのホスホケトラーゼの使用がこれまでに開示されたことがないので、従来技術よりも新しいものである。驚くべきことに、本発明者らは、本発明の微生物におけるホスホケトラーゼの過剰産生により、グリコール酸および/またはグリオキシル酸の産生が向上することを見出した。
【0012】
本発明者らによって明らかにされた方法は、本発明の改変微生物の一段階の発酵のみ、または、本発明の改変微生物の一段階の発酵およびグリコール酸またはグリオキシル酸の生物変換または化学変換の一段階のいずれかを含む。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、少なくとも一つの発酵工程および改変微生物を用いて、唯一の炭素源としての炭水化物からグリコール酸および/またはグリオキシル酸を製造するための組み換え微生物および方法、ならびに、aceB、glcB、gclおよびedaから選択される少なくとも一つの遺伝子の発現が低減され、キシルロース5-リン酸ホスホケトラーゼおよび/またはフルクトース6-リン酸ホスホケトラーゼをコードする遺伝子の発現が増強された微生物に関する。好ましくは、ホスホケトラーゼをコードする遺伝子は、ラクトバチルス・ペントサスのxpkA遺伝子、ビフィドバクテリウム・アニマリスのxfp遺伝子、またはビフィドバクテリウム・ラクティスのxfp遺伝子、またはそれらの相同遺伝子の中から選択される。
【0014】
本発明者らによって明らかにされた方法は、グリコール酸またはグリオキシル酸の製造のための本発明の改変微生物の一段階の発酵のみ、または対応する中間体グリコール酸またはグリオキシル酸の製造のための本発明の改変微生物の一段階の発酵および中間体グリコール酸またはグリオキシル酸をそれぞれグリオキシル酸またはグリコール酸に生物変換または化学変換する一段階のいずれかを含む。
【0015】
本発明の別の方法は、グリシンオキシダーゼおよび任意にカタラーゼを用いたグリシンからのグリオキシル酸の製造に関する。
【0016】
本発明の微生物は、腸内細菌科、クロストリジウム科、コリネバクテリウム科、バチルス科、ビフィドバクテリウム科、ラクトバチルス科または酵母等の細菌から選択される。より好ましくは、本発明の微生物は大腸菌種に由来する。
【発明の詳細な説明】
【0017】
本発明を詳細に説明する前に、本発明は特に例示された方法に限定されず、もちろん変化し得ることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、本発明の特定の実施形態を説明することのみを目的としており、制限することを意味するものではなく、添付の特許請求の範囲によってのみ制限されることが意図されることも理解されたい。
【0018】
本明細書で引用されたすべての刊行物、特許および特許出願は、上記または下記にかかわらず、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0019】
さらに、本発明の実施には、特に明記しない限り、当業者の範囲内の従来の微生物学的および分子生物学的技術が使用される。そのような技術は、熟練した作業者にはよく知られており、文献において十分に説明されている。
【0020】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、複数の言及を含むことに留意しなければならない。したがって、例えば、「微生物」への言及は、複数のそのような微生物を含み、「内在性遺伝子」への言及は、一つまたは複数の内在性遺伝子等への言及となる。特に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるのと類似または同等の任意の材料および方法を使用して本発明を実施または試験することができるが、好ましい材料および方法をここで説明する。
【0021】
特許請求の範囲および本発明の連続した説明において、表現言語または必要な含意のために文脈がそうでないことを必要とする場合を除き、「含む(comprise)」、「含む(contain)」、「含む(involve)」または「含む(include)」という語または「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(containing)」、「含む(involved)」、「含む(includes)」、「含む(including)」は包括的意味で使用され、すなわち、述べられた特徴の存在を特定するが、本発明の様々な実施形態におけるさらなる特徴の存在または追加を排除するものではない。
【0022】
本発明は、グリコール酸および/またはグリオキシル酸の産生を向上させるための組み換え微生物および方法に関する。本発明者らによって明らかにされた方法は、グリコール酸またはグリオキシル酸の製造のための本発明の改変微生物の一段階の発酵のみ、または対応する中間体グリコール酸またはグリオキシル酸の製造のための本発明の改変微生物の一段階の発酵および前記中間体をそれぞれグリオキシル酸またはグリコール酸に生物変換する一段階のいずれかを含む。
【0023】
「グリコール酸」という用語は、化学式HOCHCOOHおよびCAS番号79-14-1のカルボン酸を指す。
【0024】
「グリオキシル酸」という用語は、化学式HCOCOOH、およびCAS番号298-12-4のカルボン酸を指す。
【0025】
本明細書で使用される「微生物」という用語は、人工的に改変されていない細菌、酵母または真菌を指す。優先的には、微生物は腸内細菌科、クロストリジウム科、コリネバクテリウム科、バチルス科、ビフィドバクテリウム菌科、ラクトバチルス科または酵母から選択される。より優先的には、微生物は、エシェリヒア種、クレブシエラ種、ラクトバチルス種、ビフィドバクテリウム種、コリネバクテリウム種、クルイベロミセス種またはサッカロミセス種である。さらにより優先的には、本発明の微生物は大腸菌種に由来する。
【0026】
本明細書で使用される「組み換え微生物」または「遺伝子改変微生物」という用語は、天然には見られず、天然に見られる同等のものとは遺伝的に異なる細菌、酵母または真菌を指す。それは、導入または削除によって、または遺伝的因子の改変のいずれかによって改変されることを意味する。また、特定の選択圧下での直接的な突然変異誘発と進化とを組み合わせることにより、新しい代謝経路の開発と進化とを強制的に引き起こすことにより形質転換することもできる(例えば、WO2004/076659またはWO2007/011939を参照)。
【0027】
外因性遺伝子が微生物に導入され、すべての因子が宿主微生物におけるそれらの発現を可能にする場合、微生物を改変してそれらの外因性遺伝子を発現させることができる。外因性DNAによる微生物の改変または「形質転換」は、当業者にとって日常的な作業である。
【0028】
微生物は、内在性遺伝子の発現レベルを調節するために改変され得る。
【0029】
「内在性遺伝子」という用語は、遺伝子が、遺伝子改変される前に微生物に存在していたことを意味する。内在性遺伝子は、内在性調節因子に加えて、または内在性調節因子と置換して異種配列を導入するか、遺伝子の一つまたは複数の追加コピーを染色体またはプラスミドに導入することによって過剰発現され得る。内在性遺伝子は、エンコードされた対応するタンパク質の発現および活性を調節するためにも改変され得る。例えば、遺伝子産物を改変するためにコード配列に突然変異を導入するか、または、内在性調節因子に加えて、または内在性調節因子と置換して異種配列を導入することができる。内在性遺伝子の調節は、遺伝子産物の活性の上方制御および/または増強、または内在性遺伝子産物の活性の下方制御および/または低下をもたらし得る。
【0030】
それらの発現を調節する別の方法は、遺伝子の内在性プロモーター(例えば、野生型プロモーター)をより強いまたはより弱いプロモーターと交換して、内在性遺伝子の発現を上方または下方制御することである。これらのプロモーターは同種でも異種でもよい。適切なプロモーターを選択することは、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0031】
反対に、「外因性遺伝子」は、当業者に公知の手段によって遺伝子が微生物に導入されることを意味するが、この遺伝子は微生物中に天然には存在しない。外因性遺伝子は、宿主染色体に組み込まれるか、または、プラスミドまたはベクターによって染色体外で発現される。複製起点および細胞内でのコピー数に関して異なる様々なプラスミドが当技術分野で公知である。これらの遺伝子は相同であってもよい。
【0032】
本発明の文脈において、用語「相同遺伝子」は、理論的に共通の遺伝的祖先を有する遺伝子を指すだけではなく、遺伝的に無関係であるが、同様に機能するおよび/または同様の構造を有するタンパク質をコードするように進化した遺伝子を含む。したがって、本発明の目的のための「機能的相同体」という用語は、特定の酵素活性が、定義されたアミノ酸配列の特定のタンパク質によってもたらされるだけでなく、他の(関連のない)関連のある微生物に由来する類似の配列のタンパク質によってももたらされるという事実に関する。
【0033】
既知の遺伝子についてGenbankに記載されている参考文献を用いることにより、当業者は他の生物、細菌株、酵母、真菌、哺乳動物、植物等における同等の遺伝子を決定することができる。この定型的な作業は、他の微生物に由来する遺伝子と配列アラインメントを実行し、縮退プローブを設計して別の生物の対応する遺伝子をクローン化することにより決定することができるコンセンサス配列を用いることにより有利に行うことができる。これらの分子生物学の定型的な作業は、当業者に周知である。
【0034】
本明細書で使用される「向上したグリコール酸および/またはグリオキシル酸産生」、「グリコール酸および/またはグリオキシル酸産生の向上」という用語、およびそれらの文法的同等物は、向上したグリコール酸および/またはグリオキシル酸/炭素源収率を指す(消費される炭素源のグラム/モルあたりの生成されるグリコール酸のグラム/モルおよび/またはグリオキシル酸のグラム/モルの比であって、パーセントで表すことができる)。消費される炭素源の量および生成されるグリコール酸および/またはグリオキシル酸の量を決定する方法は、当業者に公知である。組み換え微生物では、対応する非改変微生物と比較して収量が高くなる。
【0035】
「グリコール酸および/またはグリオキシル酸の発酵生産に最適化された微生物」という用語は、対応する野生型微生物の内在性生産と比較して向上したグリコール酸および/またはグリオキシル酸生産を示すように進化および/または遺伝子改変された微生物を指す。グリコール酸および/またはグリオキシル酸生産のために「最適化された」そのような微生物は当技術分野において公知であり、特に特許出願WO2007/141316、WO2010/108909、WO2011/036213、WO2011/157728およびWO2012/025780に開示されている。
【0036】
本発明によれば、用語「発酵生産」、「培養」、「発酵工程」または「発酵」は、細菌の成長を示すために使用される。この成長は、一般に、使用される微生物に適合し、少なくとも一つの単純な炭素源を含む適切な培地と、必要に応じて補助基質を含む発酵槽で行われる。
【0037】
「適切な培地」とは、炭素源または炭素基質、窒素源、例えば、ペプトン、酵母抽出物、肉抽出物、麦芽抽出物、尿素、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムおよびリン酸アンモニウム;リン源、例えば、リン酸一カリウムまたはリン酸二カリウム;微量元素(例えば、金属塩)、例えば、マグネシウム塩、コバルト塩および/またはマンガン塩;同様にアミノ酸およびビタミン等の成長因子等の細胞の維持および/または成長に不可欠または有益な栄養素を含む培地(例えば、無菌の液体培地)を指す。
【0038】
本発明における「炭素源」または「炭素基質」または「炭素の源」という用語は、微生物の正常な成長を助けるために当業者が使用できる炭素源を示す。炭素源は、単糖類(グルコース、ガラクトース、キシロース、フルクトースまたはラクトース等)、オリゴ糖、二糖類(スクロース、セロビオースまたはマルトース等)、糖蜜、デンプンまたはその誘導体、ヘミセルロース、およびそれらの組み合わせを指す炭水化物から選択されます。特に好ましい単純な炭素源はグルコースである。別の好ましい単純な炭素源はスクロースである。炭素源は、再生可能な原料から得ることができる。再生可能な原料は、特定の工業的プロセスに必要な原料として定義され、わずかな遅れの間に目的の製品への変換を可能にするのに十分な量で再生することができる。処理または非処理の植物バイオマスは、興味深い再生可能な炭素源である。
【0039】
本発明によれば、「生物変換工程」または「生物変換」または「生体内変換」または「生物触媒」または「生物学的変換」という用語は、酵素産生微生物(本発明の改変微生物とは異なる)によって産生される特定の酵素による有機物質の望ましい生成物への変換を指す。生物変換の反応は、酵素、そのメカニズムおよびプロセスの制限に応じて異なる方法で行うことができ、それらは当業者に公知である。
【0040】
1.有機材料に精製酵素を添加することにより、有機材料と酵素とを接触させてもよく、または、
2.細菌から精製された酵素を含む酵素産生微生物の発酵ブロスを有機材料に添加することにより、有機材料と酵素とを接触させてもよく、または、
3.酵素産生微生物の溶解細胞の抽出物を有機材料に添加することにより、有機材料と酵素とを接触させてもよく、または、
4.酵素反応と、反応再生に必要な酵素産生微生物の生存率(特定の補因子の利用可能性)との両方が可能となるように前処理した酵素産生微生物の生細胞を有機材料に添加することにより、有機材料と酵素とを接触させてもよい。このシステムは、全細胞生体触媒システムと呼ばれる。
【0041】
本発明の好ましい実施形態において、有機材料は、本発明の方法の発酵の第一工程、すなわち、本発明の改変微生物により産生されるグリコール酸またはグリオキシル酸に由来する。発酵の第一工程から生じる有機材料は、培養液から多少なりとも精製することができる。本発明の別の実施形態において、有機材料は化学的または生物学的に提供されるグリシンである。
【0042】
本発明の第1の態様において、本発明は、少なくとも一つの発酵工程および本発明の改変微生物が含まれる改変微生物を用いて、唯一の炭素源としての炭水化物からグリコール酸および/またはグリオキシル酸を製造する方法であって、aceB、glcB、gclおよびedaから選択される少なくとも一つの遺伝子の発現を低減させ、かつ、キシルロース5-リン酸ホスホケトラーゼおよび/またはフルクトース6-リン酸ホスホケトラーゼをコードする少なくとも一つの遺伝子を過剰発現させることを含む方法に関する。
【0043】
特許出願WO2007/141316に開示されているように、リンゴ酸シンターゼをコードするaceB、リンゴ酸シンターゼをコードするglcB、グリオキシル酸カルボリガーゼをコードするgclおよび2-ケト-3-デオキシグルコン酸6-リン酸アルドラーゼをコードするedaから選択される少なくとも一つの遺伝子の欠失は、グリオキシレートの変換の減少をもたらし、それにより培地から回収され得るか、またはグリコール酸にさらに変換され得るグリオキシレートが蓄積される。好ましくは、本発明の微生物では、遺伝子aceBおよびglcBおよびgclの発現が低減されている。
【0044】
より好ましくは、本発明の改変微生物は、特許出願WO2010/108909、WO2011/036213、WO2011/157728、WO2012/025780に開示されているように、さらに改変され得る:
-グリコール酸オキシダーゼをコードする遺伝子glcDEFGおよび/またはグリコアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードするaldAを低減することにより、グリコレートの実質的な代謝をできなくする
-特にイソクエン酸デヒドロゲナーゼをコードするicd、IcdキナーゼホスファターゼをコードするaceK、ホスホトランスアセチラーゼをコードするpta、酢酸キナーゼをコードするackA、ピルビン酸オキシダーゼをコードするpoxB、グリオキシル酸経路リプレッサーをコードするiclRまたはfadRの低減、および/またはイソクエン酸リアーゼをコードする遺伝子aceAの過剰発現により得られるグリオキシレート経路の流れ(flux)を増大させる。
【0045】
イソクエン酸デヒドロゲナーゼのレベルを低減するには、イソクエン酸デヒドロゲナーゼをコードするicd遺伝子の発現を駆動する人工的なプロモーターを導入するか、または、タンパク質の酵素活性を低下させる突然変異をicd遺伝子に導入する。
【0046】
タンパク質Icdの活性はリン酸化によって低下するため、野生型AceK酵素と比較してキナーゼ活性が増加またはホスファターゼ活性が低下した変異aceK遺伝子を導入することによっても制御することができる。
-特に遺伝子pgi、udhA、eddの低減により得られるNADPHの利用可能性を向上させる。
【0047】
「低減」または「発現低減」という用語は、この文脈において、遺伝子の発現および/または酵素の産生が、非改変微生物と比較して減少または抑制され、非改変微生物と比較してリボ核酸、タンパク質または酵素の細胞内濃度の低下をもたらすことを意味する。当業者にとって、細胞におけるリボ核酸濃度またはタンパク質濃度を測定するための異なる手段および方法、例えば、リボ核酸濃度を決定するための逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)の使用、特定のタンパク質の濃度を決定するための特定の抗体の使用は公知である。
【0048】
酵素の産生の減少または抑制は、前記酵素をコードする遺伝子の発現の低減により達成される。
【0049】
遺伝子の低減は、当業者に公知の手段および方法により達成され得る。一般的に、遺伝子発現の低減は以下によって達成される:
-コード領域またはプロモーター領域の変異、または、
-遺伝子発現に必要なプロモーター領域の全部または一部の削除、または、
-相同組み換えによる遺伝子のコーディング領域の全部または一部の削除、または、
-コーディング領域またはプロモーター領域への外部因子の挿入、または、
-弱いプロモーターまたは誘導性プロモーターの制御下での遺伝子の発現。
【0050】
当業者にとって、異なる強度を示す様々なプロモーターと、弱いまたは誘導可能な遺伝子発現のためにどのプロモーターを使用するかは公知である。
【0051】
酵素の「活性」という用語は、「機能」という用語と交換可能に使用され、本発明の文脈において、酵素によって触媒される反応を指す。当業者にとって、前記酵素の酵素活性を測定する方法は公知である。
【0052】
酵素の「低減活性」または「活性の低下」という用語は、アミノ酸配列の変異により得られるタンパク質の比触媒活性の低下、および/またはヌクレオチド配列の変異または遺伝子のコード領域の欠失により得られる細胞内のタンパク質濃度の低下のいずれかを意味する。
【0053】
酵素の「増強された活性」または「増大した活性」という用語は、例えば酵素をコードする遺伝子を過剰発現することにより得られる、細胞における酵素の比触媒活性の増大、および/または細胞における酵素の量/利用可能性の増大を示す。
【0054】
用語「増大された発現」、「増強された発現」または「過剰発現」、およびそれらの文法上の同等物は、本明細書において交換可能に使用され、同様の意味を有する。これらの用語は、遺伝子の発現または酵素の産生が非改変微生物と比較して増大し、非改変微生物と比較してリボ核酸、タンパク質または酵素の細胞内濃度が増大することを意味する。当業者にとって、細胞におけるリボ核酸濃度またはタンパク質濃度を測定するための異なる手段および方法、例えば、リボ核酸濃度を決定するための逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)の使用、および特定のタンパク質の濃度を決定するための特定の抗体の使用は公知である。
【0055】
酵素の産生の増大は、前記酵素をコードする遺伝子の発現を増大させることにより達成される。
【0056】
当業者にとって、遺伝子の発現を増加させるための以下のような異なる技術は公知である:
-微生物の遺伝子のコピー数の増大。遺伝子は、染色体または染色体外にコードされている。遺伝子が染色体上に位置する場合、遺伝子のいくつかのコピーを、当業者に公知の組み換え法(遺伝子置換を含む)により染色体上に導入することができる。遺伝子が染色体外に位置する場合、複製起点、したがって細胞内のコピー数に関して異なる種類のプラスミドによって運ばれる可能性がある。これらのプラスミドは、プラスミドの性質に応じて、1~5コピー、または約20コピー、または最大500コピーで微生物に存在する:タイトな複製を伴う低コピー数プラスミド(pSC101、RK2)、低コピー数プラスミド(pACYC、pRSF1010)または高コピー数プラスミド(pSK bluescript II)。
-高レベルの遺伝子発現をもたらすプロモーターの使用。当業者にとって、どのプロモーターが最も都合がよいかは公知である。例えば、プロモーターPtrc、Ptac、PlacまたはλプロモーターPRおよびPLが広く使用されている。これらのプロモーターは、特定の化合物によって、または温度や光等の特定の外部条件によって「誘導可能」であり得る。これらのプロモーターは同種でも異種でもよい。
【0057】
-遺伝子の特異的または非特異的な転写抑制因子の活性または発現の低減。
-対応するメッセンジャーRNAを安定化する因子(Carrier and Keasling, 1999)またはタンパク質を安定化する因子(例えばGSTタグ、GE Healthcare)の使用。
【0058】
「コードする(encoding)」または「コードする(coding)」という用語は、転写および翻訳のメカニズムを介してポリヌクレオチドがアミノ酸配列を生成するプロセスを指す。酵素をコードする遺伝子は外因性であても内在性であってもよい。
【0059】
用語「ホスホケトラーゼ」は、典型的には、キシルロース5-リン酸ホスホケトラーゼ活性(EC4.1.2.9)および/またはフルクトース6-リン酸ホスホケトラーゼ活性(EC4.1.2.22)を有する酵素を指す。キシルロース5-リン酸ホスホケトラーゼ活性とは、リン酸塩を消費して、水の放出を伴いキシルロース5-リン酸をグリセルアルデヒド3-リン酸およびアセチルリン酸に変換する活性を意味する。フルクトース6-リン酸ホスホケトラーゼ活性とは、リン酸塩を消費して、水の放出を伴いフルクトース6-リン酸をエリスロース4-リン酸およびアセチルリン酸に変換する活性を意味する。これら2つの活性は、Meile et al(2001)に記載された方法により測定することができる。D-キシルロース5-リン酸ホスホケトラーゼ酵素またはそのコード遺伝子は、乳酸菌、メタノール同化細菌、メタン同化細菌、連鎖球菌、より具体的にはアセトバクター属、ビフィドバクテリウム属、ラクトバチルス属、チオバチルス属、ストレプトコッカス属、メチロコッカス属、ブチリビブリオ属、フィブロバクター属に属するD-キシルロース5-リン酸ホスホケトラーゼ活性を有する細菌、および/またはカンジダ属、ロドトルラ属、ロドスポリジウム属、ピキア属、ヤロウィア属、ハンセヌラ属、クルイベロミセス属、サッカロミセス属、トリコスポロン属、ウィンゲア属等に属する酵母に由来する。フルクトース6-リン酸ホスホケトラーゼ酵素またはそのコード遺伝子は、アセトバクター属、ビフィドバクテリウム属、クロロビウム属、ブルセラ属、メチロコッカス属、ガルドネレラ属に属するフルクトース6-リン酸ホスホケトラーゼの活性を有する細菌、および/またはロドトルラ属、カンジダ属、サッカロミセス属等に属する酵母に由来する。さらに、ビフィドバクテリウム・アニマリス由来のXfp(WO2006/016705およびWO2016/044713)またはビフィドバクテリウム・ラクティス(Meile et al., 2001)等のいくつかの酵素は、キシルロース5-リン酸ホスホケトラーゼ活性およびフルクトース6-リン酸ホスホケトラーゼ活性の両方の活性を触媒することが報告されている。
【0060】
本発明の文脈において、改変微生物は、グリコール酸および/またはグリオキシル酸の産生を増強するために、ホスホケトラーゼをコードする遺伝子を過剰発現する。本発明の微生物がホスホケトラーゼを自然に発現する場合、ホスホケトラーゼをコードする遺伝子は、上記で詳述した過剰発現方法を用いて過剰発現される。一方、本発明の微生物がホスホケトラーゼを自然に発現しない場合、ホスホケトラーゼをコードする外因性の遺伝子が微生物に導入される。この場合、遺伝子の導入により、ホスホケトラーゼをコードする遺伝子の過剰発現がもたらされる。
【0061】
ホスホケトラーゼをコードする遺伝子は、ビフィドバクテリウム・アニマリスのxfp遺伝子(WO2006/016705およびWO2016/044713)、ビフィドバクテリウム・ラクティスのxfp遺伝子(Meile et al., 2001)、ラクトバチルス・ペントサスのxpkA(Posthuma et al., 2002)またはそれらの相同遺伝子:ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)のxpk1遺伝子、ラクトバチルス・プランタラムのxpk2遺伝子、ストレプトコッカス・アガラクティア(Streptococcus agalactiae)NEM316のxpk遺伝子、ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)のptk遺伝子、ラクトバチルス・ジョンソニイ(Lactobacillus johnsonii)のxpk遺伝子、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)のxpk遺伝子、ビフィドバクテリウムロンガム(Bifidobacterium longum)のxfp遺伝子、クロロビウム・テピダム(Chlorobium tepidum)のxfp遺伝子、ブルセラ・スイス(Brucella suis)のxfp遺伝子、ブルセラ・アボルタス(Brucella abortus)のxfp遺伝子から選択される。優先的には、微生物は、ビフィドバクテリウム・ラクティスのxfp遺伝子(Meile et al., 2001)、ビフィドバクテリウム・アニマリスのxfp遺伝子(WO2006/016705およびWO2016/044713)またはラクトバチルス・ペントサスのxpkA(Posthuma et al., 2002)を過剰発現する。さらにより好ましくは、微生物は、ビフィドバクテリウム・アニマリスのxfp遺伝子(WO2006/016705およびWO2016/044713)またはラクトバチルス・ペントサスのxpkA遺伝子(Posthuma et al., 2002)を過剰発現する。
【0062】
本発明の好ましい実施形態において、特許出願WO2007/141316に開示されているように、グリオキシル酸のグリコール酸への変換を増大させるために、改変微生物はycdWまたはその相同遺伝子をさらに過剰発現する。本発明の目的は、aceB、glcB、gclおよびedaから選択される少なくとも一つの遺伝子の発現が低減され、ビフィドバクテリウム・ラクティスのxfp遺伝子、ビフィドバクテリウム・アニマリスのxfp遺伝子またはラクトバチルス・ペントサスのxpkA遺伝子の発現、およびycdW遺伝子および/またはyiaE遺伝子の発現が過剰発現している改変微生物を用いたグリコール酸の製造方法を提供することである。好ましくは、改変微生物を用いたグリコール酸の製造方法において、aceB、glcB、gclおよびedaから選択される少なくとも一つの遺伝子の発現が低減され、ビフィドバクテリウム・アニマリスのxfp遺伝子またはラクトバチルス・ペントサスのxpkA遺伝子の発現が過剰発現し、かつ、ycdW遺伝子および/またはyiaE遺伝子の発現が過剰発現している。
【0063】
グリコール酸の製造のためのこの方法により、グリコール酸からの生物変換または化学変換のいずれかによるグリオキシル酸の製造が可能となる。この本発明の第二の方法は、発酵ブロスからのグリコール酸の任意の単離、大腸菌の遺伝子gldDEFGによりコードされるグリコール酸オキシダーゼおよび大腸菌の遺伝子katEまたはkatGによりコードされるカタラーゼを用いた生物変換(Loewen & Switala, 1986)、または、例えばAZADO等のニトロキシルラジカル触媒を用いた化学変換(Furukawa et al., 2016)によるグリコール酸のグリオキシル酸への変換工程と、変換媒体からのグリオキシル酸の回収を含む。
【0064】
グリコール酸の任意の単離は、少なくとも発酵ブロスからの微生物細胞の回収であり得る。グリコール酸は、特許出願WO2012/153041、WO2012/153042およびWO2012/153043に開示されているように、連続蒸留により発酵ブロスの他の有機種からさらに精製され得る。あるいは、グリコール酸は、米国特許第7439391号に開示されているような反復結晶化工程により、または適切な溶媒を用いた液-液抽出により精製され得る。使用可能な溶媒は、最も便利な溶媒を選択できる当業者に公知である。発酵ブロスからグリコール酸を精製する別の方法は、反応性抽出プロセスまたは抽出発酵プロセスとしても知られる発酵抽出プロセスの使用である。抽出発酵は、反応プロセス、すなわち発酵を精製操作、すなわち特許出願WO2009/042950またはWO1999/54856に開示されているような液体抽出と組み合わせた統合プロセスとみなすことができる。このプロセスは、グリコール酸が生成されるとすぐに除去できるようにし、グリコール酸の毒性作用による細胞増殖の阻害を低減し、したがってグリコール酸が一つの連続工程で生成および回収され、その結果、ダウンストリーム処理と回収コストを低減されるという有利な効果を示す。溶媒は、炭素結合酸素含有溶媒、リン結合酸素含有溶媒、または高分子量脂肪族アミンから選択される。好ましい溶媒は、トリ-n-オクチルホスフィンオキシド、トリ-n-ブチルホスフェート、ラウリル-トリアルキルメチルアミン、トリ-n-オクチルアミン、トリ-イソ-オクチルアミン、トリ-n-(オクチル-デシル)-アミン、第四級アルキルアンモニウム塩、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミンおよびポリプロピレンイミンである。より優先的には、使用される溶媒はトリ-n-オクチルホスフィンオキシドである。有利なことに、抽出発酵は、結晶化または蒸留に続く工程によって完了してもよい。
【0065】
グリコール酸からグリオキシル酸への生物変換の工程は、反応を触媒する(S)-2-ヒドロキシ酸オキシダーゼとしても知られるグリコール酸オキシダーゼ(EC番号:1.1.3.15)によって媒介される:
【数1】
【0066】
この酵素は、酸化還元酵素のファミリー、特にアクセプターとして酸素を有するドナーのCH-OH基に作用するものに属する。
【0067】
本発明で用いられるグリコール酸オキシダーゼは、より良い安定性または触媒効率を示す酵素の天然形態またはこれらの天然酵素の変異体に対応し得る。用いられる天然のグリコール酸オキシダーゼは、ホウレンソウまたはビートの葉から抽出および精製されるか、あるいはこれらの酵素をコードする遺伝子は、特許出願WO1994/20631およびWO1995/01444に開示されるように生産微生物に挿入され得る。あるいは、グリコール酸オキシダーゼをコードする大腸菌由来のgldDEFG遺伝子は、生産生物において過剰発現する。生産生物は、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hnasenula polymorpha)、アスペルギルス・ニジュランス(Aspergillus nidulans)または大腸菌から選択される。最も好ましくは、大腸菌が使用される。グリコール酸オキシダーゼはHを生成するため、ピキア・パストリス、ハンセヌラ・ポリモルファ、アスペルギルス・ニデュランスまたは大腸菌によって内因的に発現されるカタラーゼ(EC番号:1.11.1.6)とグリコール酸オキシダーゼとを組み合わせて使用することが有利である。大腸菌において、カタラーゼはkatEまたはkatG遺伝子によってコードされる。好ましくは、グリコール酸オキシダーゼおよびカタラーゼは同じ微生物において過剰発現される。グリコール酸オキシダーゼおよびカタラーゼの使用は、特許出願WO1996/00793、WO1994/20631またはWO1995/01444に開示されている。
【0068】
生物変換のために、グリコール酸オキシダーゼおよび/またはカタラーゼを、グリコール酸の溶液に精製酵素を直接添加するか(部分精製または非精製)、またはグリコール酸オキシダーゼおよび/またはカタラーゼ生産微生物の発酵ブロス、またはグリコール酸オキシダーゼおよび/またはカタラーゼ生産微生物の溶解細胞の抽出物を添加することにより、グリコール酸と接触させる。生物変換の効率を改善するため、米国特許第5,439,813号に開示されているように、精製後に固定化酵素を使用してもよい。
【0069】
次いで、形成されたグリオキシル酸は、例えば、水酸化カルシウムによる結晶化または沈殿または液-液抽出等の当業者に公知の手段を用いて精製される。
【0070】
本発明の別の好ましい実施形態において、グリオキシル酸のグリコール酸への変換を回避するために、少なくともycdW遺伝子の発現が低減するように、改変微生物をさらに操作する。また、本発明の目的は、aceB、glcB、gclおよびedaから選択される少なくとも一つの遺伝子の発現が低減され、ビフィドバクテリウム・ラクティスのxfp遺伝子の発現、ビフィドバクテリウム・アニマリスのxfp遺伝子の発現、またはラクトバチルス・ペントサスのxpkA遺伝子が過剰発現し、ycdW遺伝子およびyiaE遺伝子の発現が低減または完全に消失している改変微生物を用いたグリオキシル酸の製造方法を提供することである。好ましくは、改変微生物を用いたグリオキシル酸の製造方法において、aceB、glcB、gclおよびedaから選択される少なくとも一つの遺伝子の発現が低減され、ビフィドバクテリウム・アニマリスのxfp遺伝子またはラクトバチルス・ペントサスのxpkA遺伝子の発現が過剰発現し、ycdW遺伝子およびyiaE遺伝子の発現が低減または完全に消失している。
【0071】
グリオキシル酸の製造のためのこの方法により、グリオキシル酸からの生物変換または化学変換によるグリコール酸の製造が可能になる。この本発明の第四の方法は、発酵ブロスからのグリオキシル酸の任意の単離、グリオキシル酸レダクターゼを用いた生物変換によるか、または、例えば、水素化ホウ素ナトリウムを用いた化学変換のいずれかによりグリオキシル酸のグリコール酸への変換、および変換媒体からのグリコール酸の回収工程を含む。前記グリオキシル酸レダクターゼは、大腸菌の遺伝子ycdWによって、またはリゾビウム・エトリ(Rhizobium etli)の遺伝子grxAによってコードされ得る。
【0072】
グリオキシル酸の任意の単離は、少なくとも発酵ブロスからの微生物細胞の回収であり得る。グリオキシル酸は、発酵ブロスの他の有機種から、イオン交換または沈殿/結晶化法または液-液抽出によってさらに精製することができる。発酵ブロスからグリオキシル酸を精製する別の方法は、抽出発酵プロセスの使用である。抽出発酵は、反応プロセス、すなわち発酵を精製操作、すなわち特許出願WO2009/042950またはWO1999/54856に開示されているような液体抽出と組み合わせた統合プロセスとみなすことができる。このプロセスは、グリオキシル酸が生成されるとすぐに除去できるようにし、グリオキシル酸の毒性作用による細胞増殖の阻害を軽減し、したがってグリオキシル酸が一つの連続工程で生成および回収され、その結果、ダウンストリーム処理と回収コストが低減されるという有利な効果を示す。溶媒は、炭素結合酸素含有溶媒、リン結合酸素含有溶媒、または高分子量脂肪族アミンから選択される。好ましい溶媒は、トリ-n-オクチルホスフィンオキシド、トリ-n-ブチルホスフェート、ラウリル-トリアルキルメチルアミン、トリ-n-オクチルアミン、トリ-イソ-オクチルアミン、トリ-n-(オクチル-デシル)-アミン、第四級アルキルアンモニウム塩、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミンおよびポリプロピレンイミンである。より優先的には、使用される溶媒はトリ-n-オクチルホスフィンオキシドである。有利なことに、抽出発酵は、結晶化または蒸留に続く工程によって完了してもよい。あるいは、抽出発酵の場合、発酵中に生成されるグリオキシル酸の毒性を低減するために、セミカルバジドまたはカルボヒドラジドまたは2,4-ジニトロフェニルヒドラジン等のアルデヒドと複合体を形成することが知られている分子を発酵ブロスに添加し、グリオキシル酸と複合体を形成し、細胞に対するアルデヒドの毒性を低減することができる。これにより、グリオキシル酸の生産性が向上する可能性がある(Sardari et al., 2014)。
【0073】
グリオキシル酸のグリコール酸への生物変換の工程は、グリオキシル酸レダクターゼによって媒介される。グリオキシル酸レダクターゼは、ホウレンソウの葉から最初に単離され、補因子NADHまたはNADPHを使用して、グリオキシル酸からグリコール酸への還元を触媒する酵素でである。グリコール酸レダクターゼは、NADH依存性(EC番号:1.1.1.26)またはNADPH依存性(EC番号:1.1.1.79)であってもよい。使用可能なNADH依存性グリオキシル酸レダクターゼの例は:リゾビウム・エトリのgxrA遺伝子によりコードされるGxrA、サッカロミセス・セレビシエのGOR1遺伝子によりコードされるGOR1、メチロバクテリウム・エクストルキエンス(Methylobacterium extorquens)のhprA遺伝子によりコードされるHprA、またはピロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)のgyaR遺伝子によりコードされるGyaRである。NADPH依存性グリオキシル酸レダクターゼの例は:大腸菌のycdW遺伝子によりコードされるYcdW、大腸菌のyiaE遺伝子によりコードされるYiaE、大腸菌のyjgB遺伝子によりコードされるYjbG、大腸菌のyafB遺伝子によりコードされるYafB、大腸菌のyqhD遺伝子によりコードされるYqhD、またはアラビドプシス・タリアナ(Arabidopsis thaliana)のGLYR1およびGLYR2遺伝子によりコードされるGLYR1およびGLYR2である。有利には、グリオキシル酸レダクターゼ生産微生物は大腸菌である。
【0074】
グリオキシル酸のグリコール酸への生物変換のために、グリオキシル酸レダクターゼ酵素はNADHまたはNADPH補因子のいずれかを必要とする。そのような場合、生物変換は、特定の酵素、および反応中に補因子を生成および再生できる生細胞の存在下で行う必要がある。これは、いわゆる全細胞生体触媒システムである。したがって、部分的に精製されたまたは精製されていないグリオキシル酸の溶液を、グリオキシル酸レダクターゼ酵素を過剰生産し、補因子を生産および再生するためにまだ生存可能なグリオキシル酸レダクターゼ生産微生物の発酵ブロスと接触させる。生物変換の効率を改善するために、反応を助けるために前処理された生きた微生物の存在下で固定化酵素を使用してもよい。
【0075】
次いで、形成されたグリコール酸は、蒸留、結晶化、水酸化カルシウムによる沈殿または液-液抽出等の当業者に公知の手段を用いて精製される。
【0076】
本発明の別の実施形態において、グリオキシル酸は、グリシンオキシダーゼを用いることによるグリシン(CAS番号:56-40-6)の生物変換によって生成され得る。グリシンオキシダーゼ(EC番号:1.4.3.19)は、以下の反応を触媒する:
【数2】
【0077】
本発明で使用されるグリシンオキシダーゼは、特許出願US2016/0002610に開示されているようにより良好な安定性または触媒効率を示す酵素の天然形態またはそれらの天然酵素の変異体に対応し得る。グリシンオキシダーゼは枯草菌において同定された(Nishiya & Imanaka, 1998; Job et al., 2002)。この酵素は、枯草菌から抽出および精製されてもよく、あるいは、この酵素をコードする遺伝子が生産微生物に挿入されてもよい。生産生物は、好ましくは大腸菌である。グリシンオキシダーゼはHを生成するため、グリシンオキシダーゼと組み合わせて、katEおよびkatG遺伝子により大腸菌により内在的に発現されるカタラーゼ(EC番号:1.11.1.6)を使用することが有利である。好ましくは、グリシンオキシダーゼおよびカタラーゼは同じ微生物で過剰発現される。
【0078】
生物変換のために、グリシンの溶液に精製酵素を直接添加するか、またはグリシンオキシダーゼおよび/またはカタラーゼ生産微生物の発酵ブロス、またはグリシンオキシダーゼおよび/またはカタラーゼ生産微生物の溶解細胞の抽出物を添加することにより、グリシンオキシダーゼおよび/またはカタラーゼとグリシンとを接触させる。生物変換の効率を改善するため、米国特許第5,439,813号に開示されているように、精製後に固定化酵素を使用してもよい。
【0079】
最後に、本発明は、aceB、glcB、gclおよびedaから選択される少なくとも一つの遺伝子の発現が低減され、ホスホケトラーゼをコードする少なくとも一つの遺伝子の発現が増強された、グリコール酸および/またはグリオキシル酸の製造のための改変微生物に関する。ホスホケトラーゼは、ビフィドバクテリウム・アニマリスのxfp遺伝子、ビフィドバクテリウム・ラクティスのxfp遺伝子、またはラクトバチルス・ペントサスのxpkA遺伝子によってコードされている。
【0080】
グリコール酸の製造のために、本発明の微生物は、大腸菌のycdW遺伝子またはその相同遺伝子の少なくとも一つを過剰発現するようにさらに改変される。
【0081】
グリオキシル酸の製造のために、本発明の微生物は、少なくとも遺伝子ycdWの発現を低減するかまたは完全に消失させるようにさらに改変される。
【0082】
本発明の微生物は、腸内細菌科、クロストリジウム科、コリネバクテリウム科、バチルス科、ビフィドバクテリウム科、ラクトバチルス科または酵母から選択される。より優先的には、本発明の微生物は大腸菌種に由来する。
【実施例0083】
以下の実験は、改変されたグリコール酸産生大腸菌組み換え株をバックグラウンドとして用い、グリコール酸またはグリオキシル酸を製造する方法を示す。
【0084】
以下に示す実施例においては、Datsenko & Wanner, (2000)においてよく知られているように、当技術分野で周知の方法を用いて、複製ベクターおよび/または相同組み換えを用いたさまざまな染色体挿入、欠失および置換を含む大腸菌株を構築した。
【0085】
プロトコル
以下の実施例で説明するグリオキシル酸産生株を構築するために、いくつかのプロトコルを使用した。
【0086】
本発明で使用されるプロトコル1(相同組み換えによる染色体改変、組み換え体の選択およびFRT配列に隣接する抗生物質カセットの切除)およびプロトコル2(ファージP1の形質導入)は、特許出願WO2013/001055に完全に記載されている。
【0087】
プロトコル3:LoxP配列に隣接する抗生物質カセットの切除
LoxP配列に隣接する耐性遺伝子は、Creリコンビナーゼをコードする遺伝子を担持するプラスミドpJW168(Palmeros et al., 2000)を用いて除去された。端的には、pJW168プラスミドを含むクローンをLBで37℃または42℃で培養し、次いで30℃で抗生物質耐性の喪失を試験した。次に、適切なプライマーを用いたPCRにより、抗生物質感受性クローンを検証した。
【0088】
実施例1:大腸菌グリコール酸過剰産生組み換え株におけるycdW遺伝子の過剰発現の抑制-株1の説明および株2~3の構築
株1の説明
特許出願WO2011/157728の実施例2、パート2に記載され、AG1413の親株、すなわちpME101-ycdW-TT07-PaceA-aceA-TT01プラスミドを含まないAG1413株に対応する株を、本特許出願(current patent application)において株1と命名した。
【0089】
株2の構築
株1を使用する前に、抗生物質耐性カセットを、それぞれFlpリコンビナーゼ(プロトコル1に準拠)およびCreリコンビナーゼ(プロトコル3に準拠)を用いて遺伝子座icd(配列番号02の配列を有するタンパク質をコードする配列番号01)およびaceK(配列番号4の配列を有するタンパク質をコードする配列番号03)から除去した。次いで、カナマイシンおよびクロラムフェニコール感受性の形質転換体を選択し、適切なオリゴヌクレオチドを用いたPCR分析により抗生物質マーカーの不在を確認した。保持された株を、株2と命名した。
【0090】
株3の構築
グリオキシル酸/ヒドロキシピルビン酸レダクターゼをコードし、特許出願WO2010/108909に記載のpME101-ycdW-TT07-PaceA-aceA-TT01プラスミドに担持されるycdW遺伝子(配列番号06の配列を有するタンパク質をコードする配列番号05)を、制限酵素およびリガーゼにより、プラスミドからそのプロモーターおよびlacI遺伝子(配列番号08の配列を有するタンパク質をコードする配列番号07)から除去し、pAG0094プラスミドを得た。
【0091】
プラスミドpAG0094を株2に導入して、株3を得た。
【0092】
実施例2:大腸菌グリコール酸過剰産生組み換え株におけるycdW遺伝子の完全な除去によるグリオキシル酸産生の向上-株4~6の構築
大腸菌組み換えグリコール酸産生株2において、ycdW遺伝子の内在性コピーを除去した。
【0093】
ycdW遺伝子の欠失を達成するために、Datsenko & Wanner, 2000(プロトコル1に準拠)に記載されている相同組み換え方法を用いた。
【0094】
ycdW欠失のために、ycdW遺伝子の上流および下流領域に相同なDNA配列が隣接する耐性マーカーを有するフラグメントを、オーバーラップPCR技術(オーバーラップオリゴヌクレオチド)によりPCR増幅した。ycdW遺伝子の上流および下流領域への組み換えのための配列は、配列番号09および10と呼ばれる。次に、得られたPCR産物「ΔycdW::Km」を、エレクトロポレーションにより株MG1655(pKD46)に導入した。抗生物質耐性形質転換体を選択し、適切なオリゴヌクレオチドを用いたPCR分析により、関連する耐性カセットを有するycdW遺伝子の欠失を検証した。保持された株を、MG1655ΔycdW::Kmと命名した。最後に、ΔycdW::Km欠失を、P1ファージ形質導入(プロトコル2に準拠)によってMG1655ΔycdW::Kmから株2に転換した。カナマイシン耐性形質転換体を選択し、適切なオリゴヌクレオチドを用いたPCR分析によりΔycdW::Km欠失の存在を検証した。保持された株を、株4と命名した。
【0095】
次いで、aceA遺伝子の内在性コピー(配列番号12の配列を有するタンパク質をコードする配列番号11)を株4において欠失させた。
【0096】
aceA遺伝子の欠失を達成するために、Datsenko & Wanner, 2000(プロトコル1に準拠)に記載されている相同組み換え方法を用いた。aceB(配列番号14の配列を有するタンパク質をコードする配列番号13)およびaceK(配列番号04の配列を有するタンパク質をコードする配列番号03)遺伝子を、株4において予め欠失させ、相同組み換え方法はaceBAKオペロンを欠失させるために用いたものと同じものを用いた。
【0097】
aceBAK欠失のために、aceBAKオペロンの上流および下流領域に相同なDNA配列が隣接する抗生物質耐性マーカーを有するフラグメントを、オーバーラップPCR技術(オーバーラップオリゴヌクレオチド)によりPCR増幅した。aceBAKオペロンの上流および下流領域への組み換えのための配列は、配列番号15および16と呼ばれる。次に、得られたPCR産物「ΔaceBAK::Cm」をエレクトロポレーションによってMG1655株(pKD46)に導入した。抗生物質耐性の形質導入体を選択し、適切なオリゴヌクレオチドを用いたPCR分析により、関連する耐性カセットを有するaceBAKオペロンの欠失を検証した。保持された株を、MG1655ΔaceBAK::Cmと命名した。最後に、ΔaceBAK::Cm欠失を、P1ファージ形質導入(プロトコル2に準拠)によってMG1655ΔaceBAK::Cmから株4に転換した。クロラムフェニコール耐性形質導入体を選択し、適切なオリゴヌクレオチドを用いたPCR分析によりΔaceBAK:: Cm欠失の存在を検証した。保持された株を、株5と命名した。
【0098】
グリオキシル酸/ヒドロキシピルビン酸レダクターゼをコードし、pME101-ycdW-TT07-PaceA-aceA-TT01プラスミドに担持されるycdW遺伝子(配列番号05および配列番号06)を、制限酵素およびリガーゼにより、プラスミドからそのプロモーターおよびlacI遺伝子を削除することなく除去し(実施例1に記載のpAG0094とは異なる)、pAG0303プラスミドを得た。したがって、このプラスミドでは、aceA遺伝子発現の一部がその天然のプロモーターを介して駆動されるが、ycdWおよびlacI遺伝子の残りのプロモーターを介してIPTGを追加することにより、aceA発現のレベルを上げることもできる。
【0099】
プラスミドpAG0303を株5に導入して、株6を得た。
【0100】
実施例3:株3および6を用いた発酵によるグリコール酸およびグリオキシル酸の生産 生産株は、Erlenmeyerバッフル付きフラスコで評価された。
【0101】
5mLの前培養物を、混合培地(2.5g/Lのグルコースと90%の最小培地M1とを含む10%LB培地(Sigma25%))で16時間37℃で成長させた。これを使用して、培地M1におけるOD600が0.2となるように50mL培養物を接種した。培地M1の組成を表1に示す。
【0102】
必要に応じて、抗生物質を培地(50mg/Lの最終濃度のスペクチノマイシン)と最終濃度100μMのIPTGとに添加した。培養物の温度は30℃であった。
【0103】
培養物のOD600が5まで達した時点で、屈折率検出(有機酸およびグルコース)を伴うHPLCにより、細胞外代謝物を分析した。
【0104】
各株について、数回繰り返して分析を行った。
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
上記表2に示されるように、ycdWコピーの欠失およびaceA遺伝子の制御された誘導により、株6は株3よりもはるかに多くのグリオキシル酸を産生した。予想された通り、このグリオキシル酸の生産は、株6におけるグリコール酸合成の低下に関連していた。
【0107】
GAおよびGxAの収量は以下のように表された:
【数3】
【0108】
実施例4:グリコール酸過剰産生組み換え大腸菌株におけるホスホケトラーゼ酵素をコードする異種遺伝子の過剰発現によるグリコール酸産生の向上-株7~12の構築株7~9の構築:グリコール酸過剰産生組み換え大腸菌株におけるリン酸アセチルトランスフェラーゼをコードする大腸菌pta遺伝子の再構築
株AG1413およびその親株である株1において、オペロン中に構造化されているackA(配列番号18の配列を有するタンパク質をコードする配列番号17)およびpta(配列番号18の配列を有するタンパク質をコードする配列番号19)の両方を、予め欠失させた。アセチルリン酸(以下の株のホスホケトラーゼによって生成される)を再びアセチルCoAに変換するために、ackA遺伝子の欠失を保存させつつ、pta遺伝子を株1のバックグラウンドに再構築した。
【0109】
pta遺伝子の再構築を達成するために、ackA遺伝子のみが欠失され、野生型pta遺伝子を保持しているKeioコレクションのΔackA::Km変異体を用いた。pta野生型遺伝子に関連するΔackA::Km欠失は、P1ファージ形質導入(プロトコル2に準拠)によりΔackA::Km Keio変異体から株2に転換された。カナマイシン耐性形質導入体を選択し、適切なオリゴヌクレオチドを用いたPCR分析によりΔackA::Kmの欠失およびpta野生型遺伝子の存在を検証した。保持された株を、株7と命名した。
【0110】
次に、株7のFlpリコンビナーゼ(プロトコル1に準拠)を用いてΔackAの欠失から抗生物質カセットを除去した。カナマイシン感受性形質転換体を選択し、適切なオリゴヌクレオチドを用いたPCR分析により抗生物質マーカーの非存在を確認した。保持された株を、株8と命名した。
【0111】
リン酸アセチルトランスフェラーゼ活性アッセイのために、エルマンチオール試薬、5,5’-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)を用いて、30℃における412nm(ε412=13.6mM-1cm-1)でのチオフェノール酸アニオンの形成を測定することによって、アセチルCoAからのCoAのリン酸依存性放出をモニターした。アッセイ混合物(1ml)は、100mMのKHPO(pH8)、0.5mMのDTNB、および1mMのアセチル-CoAを含んでいた。アッセイでアセチルCoAなしで測定された活性値を差し引いた。比活性は、タンパク質1ミリグラムあたりのミリ単位(mUI)で表される。
【0112】
株7のリン酸アセチルトランスフェラーゼ活性は、株8の10倍であった(株7では1100mUI/mgであり、株8では110mUI/mgであった)。
【0113】
次に、特許出願WO2010/108909に記載されているプラスミドpME101-ycdW-TT07-PaceA-aceA-TT01を株8に導入して、株9を得た。
【0114】
株10~12の構築:グリコール酸過剰産生組み換え大腸菌株におけるホスホケトラーゼ酵素をコードする異種遺伝子の過剰発現
アセチル-CoAプールを増加させ、それによりグリコール酸産生を増加させるために、グリコール酸過剰産生大腸菌株で異なるホスホケトラーゼが過剰産生された。
【0115】
ホスホケトラーゼ酵素をコードする3つの異なる遺伝子は、株9で個別に過剰発現した:
-ビフィドバクテリウム・アニマリスからのxfp(配列番号22の配列を有するタンパク質をコードする配列番号21)、
-ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)からのfxpk(配列番号24の配列を有するタンパク質をコードする配列番号23)、
-ラクトバチルス・ペントサスからのxpk(配列番号26の配列を有するタンパク質をコードする配列番号25)。
【0116】
「O1ec」という接尾辞で識別される各遺伝子について、大腸菌における産生に最適化されたコドン調和バージョンが、Thermo Fisher ScientificのGeneArt Gene Synthesis Serviceによって合成された。各遺伝子は、人工Ptrcプロモーター(人工プロモーターは、特許出願WO2009/043803;Brosius et al, 1985)においてcysPUWAMオペロンの過剰発現について記載されているもの)と共に、適切なオリゴヌクレオチドを用いて、pBBR1MCS5ベクター(Kovach et al, 1995)とにサブクローニングされ、それぞれ以下の表3に詳述されているプラスミドを得た。
【0117】
【表3】
【0118】
各プラスミドを個別に株9に導入し、以下の表4に記載する株を得た。
【0119】
【表4】
【0120】
pBBR1プラスミドは、中程度のコピー数で安定して複製します。
【0121】
ホスホケトラーゼ遺伝子のいくつかのレベルの過剰発現を得るために、遺伝子はまた、細胞への既知の異なるコピー数で以下のプラスミドにクローン化された:
-低コピー数pCL1920ベクター(Lerner & Inouye, 1990)pME101-ycdW-TT07-PaceA-aceA-TT01プラスミド、および
-1コピー数の細菌人工染色体pBACプラスミド(Epicentre(登録商標))。
【0122】
ホスホケトラーゼ過剰発現プラスミドは、pME101-ycdW-TT07-PaceA-aceA-TT01プラスミドと共に、株7および8にも導入された。
【0123】
振とうフラスコおよび反応器の性能
まず、実施例3に記載されているように、振盪フラスコで菌株を評価した。
【0124】
【表5】
【0125】
表5に示すように、試験されたすべてのホスホケトラーゼ遺伝子が過剰発現すると、グリコール酸の生産量が増大した。収量は、ビフィドバクテリウム・アニマリスおよびラクトバチルス・ペントサスからのホスホケトラーゼ遺伝子の過剰発現の場合により高かった。
【0126】
これらの株は、フェドバッチ(fedbatch)法を用いて2L発酵槽(Pierre Guerin)で評価された。
【0127】
チューブ内での最初の前培養は、混合培地(2.5g/Lのグルコースと90%の最小培地M1を含む10%LB培地(Sigma25%))で37℃で10時間行った。これを使用して、培地M1におけるOD600が0.2となるように50mLの2番目の種(seed)を接種した。前培養のこの工程は、40g/LのMOPSと10g/Lのグルコースを補充した50mLの合成培地(M1)を満たした500mLErlenmeyerフラスコで37℃で行った。この2番目の前培養物は、OD600nmが9に近づいた後に発酵槽の接種に使用された。
【0128】
20g/Lのグルコースを補充した700mLの合成培地(M2)で満たされた反応器に、約0.5の初期光学密度で接種した。M2培地の組成を表6に記載する。培養は撹拌しながら30℃で行い、撹拌と通気を増やすことで溶存酸素濃度を20~40%、優先的には30%の飽和値に維持した。NHOH/NaOH溶液(15/5w/w)を自動的に添加することにより、pHを6.8に調整した。
【0129】
培養は、グルコースが枯渇するまでバッチモードで行われた。その時点で、硫酸マグネシウム、オリゴ元素およびチアミンを補充した700g/Lのグルコース溶液を添加して、反応器内の20g/Lのグルコース濃度を回復した。グルコースが再び使い果たされるたびに、さらなる添加を行った。5回目のパルス(pulse)の後、3時間の増大(ramp)により、pHは7.4の値に増大した。
【0130】
培養は40~45時間後に停止した。細胞外代謝物は、屈折率検出(有機酸およびグルコース)を伴うHPLCを用いて分析された。
【0131】
各株について、数回繰り返して分析を行った。最終的な性能を表7に示す。
【表6】
【0132】
【表7】
記号~は、パラメータの変動が参照株と比較して-5%~5%であることを示す。記号+は、5~10%の増加を示し、記号++は10~20%の増加を示す。
【0133】
ホスホケトラーゼ遺伝子の過剰発現により、株10および12の産生収率は、試験した異種遺伝子の性質に応じて5~20%の増加を示した。力価や生産性への影響は見られなかった。これらの結果により、GA産生に対するホスホケトラーゼ活性の利点が確認された。
【0134】
ホスホケトラーゼ遺伝子の発現レベルは、結果の傾向を変えなかった。グリコール酸産生は、3つの遺伝子:pCL1920またはpBACに担持されたxfpO1ec、fxpkO1ec、xpkO1e(データは示していない)の異なる過剰発現レベルにより改善された。
【0135】
収率は以下のように計算される:
発酵槽の容量は、pHを調整し、培養液を供給するために添加した溶液の量を初期容量に追加し、サンプリングに使用した容量と蒸発により失われた容量を差し引いて算出した。
【0136】
フィードストック(feeding stock)の重量を量ることにより、フェドバッチ量を連続的に追跡した。次いで、注入されたグルコースの量を、注入された重量、溶液の密度、およびBrixの方法によって制御されたグルコース濃度([グルコース])に基づいて算出した。GAの収率は以下のように表される:
【数4】
【0137】
GAおよびGAはそれぞれ初期および最終GA濃度に対応し、VおよびVはそれぞれ初期および最終容量に対応する。消費されたグルコースをgで表す。
【0138】
粗抽出物のD-キシルロース5-リン酸およびフルクトース6-リン酸ホスホケトラーゼアッセイ(X5PPKおよびF6PPK)
ホスホケトラーゼ活性は、Racker et al., 1962およびMeile et al., 2001に従って酵素的に生成されたアセチルリン酸から生成されたアセチルヒドロキサム酸第二鉄として分光測光法で測定された。0.075mlの標準反応混合物は、33.3mMのリン酸カリウム(pH6.5)、塩酸L-システイン(1.9mM)、フッ化ナトリウム(23mM)、ヨード酢酸ナトリウム(8mM)、D-フルクトース6-リン酸(F6P)(100mM)またはD-キシルロース5-リン酸(X5P)(27mM)のいずれかを基質として含み、粗抽出物の反応が開始される。37℃で10または30分間インキュベートした後、0.075mlのヒドロキシルアミン塩酸塩(2M、pH6.5)を添加して酵素反応を停止した。室温で10分後、0.05mlの15%(wt/vol)トリクロロ酢酸、0.05mlの4M HCl、および0.05mlのFeCl×6HO(0.1MのHCl中の5%[wt/vol])を、ヒドロキサミン酸第二鉄の最終的な発色のために添加した。25℃で5分間撹拌した後、混合物を2250×gで5分間遠心分離し、200μlの上清を新しいマイクロプレートに移して吸光度を測定した。次いで、1.5mMと150mMの間の一連のアセチルリン酸標準と比較することにより、ヒドロキサミン酸第二鉄の形成を505nmで分光光度的に定量化した。ホスホケトラーゼ活性の1単位は、F6PまたはX5Pのいずれかから毎分1ミリモルのアセチルリン酸を形成する抽出物の量として定義される。アッセイにおいて基質なしで測定された活性値を差し引いた。比活性は、タンパク質1ミリグラムあたりのミリ単位で表される。
【0139】
株10~12のD-キシルロース5-リン酸およびフルクトース6-リン酸ホスホケトラーゼ活性を表8に示す。
【0140】
【表8】
【0141】
大腸菌で発現したビフィドバクテリウム・アニマリスのxfpおよびビフィドバクテリウム・アドレセンティスのfxpkによりコードされるホスホケトラーゼ酵素は、キシルロース5-リン酸およびフルクトース6-リン酸基質の両方の活性を触媒する。それにもかかわらず、これらの酵素は、表8に示されるように、フルクトース6-リン酸よりも基質キシルロース5-リン酸に対してより活性を有する。対照的に、大腸菌で発現したラクトバチルス・ペントサスのxpkによりコードされるホスホケトラーゼ酵素は、基質であるキシルロース5-リン酸に対してのみ活性を有する。
【0142】
この実施例の結果は、PKを含まない参照株9と比較して、異なるホスホケトラーゼ(PK)酵素を保持する株10、11、12のグリコール酸産生を示しており、ホスホケトラーゼ活性により、酵素(X5PPKまたはF6PPK)の基質特異性に関わらず、消費されるグルコースあたりのグリコール酸の収率が向上することを示している。
【0143】
実施例5:グリコール酸過剰産生組み換え大腸菌株におけるycdW発現の抑制とホスホケトラーゼ酵素をコードする異種遺伝子の過剰発現の両方によるグリオキシル酸産生の改善-株13~17の構築
株13および14の構築:ΔackA+pta AG1413株におけるグリオキシル酸/ヒドロキシピルビン酸レダクターゼをコードする大腸菌ycdW遺伝子の発現の抑制 株AG1413は、ycdW遺伝子のコピーを2つ有しており、一つは染色体上に、もう一つはpME101-ycdW-TT07-PaceA-aceA-TT01プラスミド上に存在する。
【0144】
AG1413株のバックグラウンドでycdWの染色体コピーを欠失させるために、実施例2に記載のΔycdW::Km欠失を、P1ファージ形質導入(プロトコル2に準拠)によりMG1655ΔycdW::Kmから株2に転換した。カナマイシン耐性形質導入体を選択し、適切なオリゴヌクレオチドを用いたPCR分析により、ΔycdW::Km欠失の存在を確認した。保持された株を、株13と命名した。
【0145】
次に、ycdW遺伝子なしでaceA遺伝子を過剰発現させた実施例2に記載されたプラスミドpAG0303を株13に導入して、株14を得た。
【0146】
株15~16の構築:pta野生型株9におけるグリオキシル酸/ヒドロキシピルビン酸レダクターゼをコードする大腸菌ycdW遺伝子の発現の抑制
株9は、ycdW遺伝子の2つのコピーを有し、一つは染色体上に、もう一つはpME101-ycdW-TT07-PaceA-aceA-TT01プラスミド上に存在する。
【0147】
株9のバックグラウンドでycdWの染色体コピーを欠失させるために、実施例2に記載のΔycdW::Km欠失を、P1ファージ形質導入(プロトコル2に準拠)によりMG1655ΔycdW::Kmから株8に転換した。カナマイシン耐性形質導入体を選択し、適切なオリゴヌクレオチドを用いたPCR分析により、ΔycdW::Km欠失の存在を確認した。保持された菌株を、菌株15と命名した。
【0148】
次に、ycdW遺伝子を含まないaceA遺伝子を過剰発現させた実施例2に記載のプラスミドpAG0303を15株に導入して、16株を得た。
【0149】
株17の構築:グリオキシル酸過剰産生組み換え大腸菌株におけるホスホケトラーゼ酵素をコードするビフィドバクテリウム・アニマリス遺伝子の過剰発現
ホスホケトラーゼ酵素をコードするビフィドバクテリウム・アニマリスのxfpO1ec遺伝子のコドン調和バージョンを、株16において過剰発現させた。
【0150】
この遺伝子を株16において過剰発現させるために、実施例4に記載のプラスミドpBBR1MCS5-Ptrc01-xfpO1ecを株16に導入して、株17を得た。
【0151】
ホスホケトラーゼ遺伝子の異なるレベルの過剰発現を試験するために、xfpO1ec遺伝子は、pBBR1より低いコピー数でプラスミドにクローン化された:低コピー数pCL1920ベクター(Lerner & Inouye, 1990)、実施例2に記載のpAG303。
【0152】
上記のすべての改変は、株7のバックグラウンドでも行われた。
【0153】
同じ作業を、他のホスホケトラーゼ遺伝子、fxpkO1ecおよびxpkO1ecの両方に対しても行った。
【0154】
振とうフラスコにおける性能
実施例3に記載されているように、振とうフラスコで株を評価した。
【表9】
【0155】
上記表9に示されるように、ビフィドバクテリウム・アニマリスからのホスホケトラーゼ遺伝子の過剰発現は、グリオキシル酸の産生をわずかに増加させた(17株対14株)。
【0156】
同じ結果、すなわちグリオキシル酸産生の増加が、試験した他のホスホケトラーゼ酵素でも得られた(データは示していない)。
【0157】
粗抽出物のD-キシルロース5-リン酸およびフルクトース6-リン酸ホスホケトラーゼアッセイ(X5PPKおよびF6PPK)
ホスホケトラーゼ活性は、実施例4で上述したプロトコルに従って測定した。株16および17のD-キシルロース5-リン酸およびフルクトース6-リン酸ホスホケトラーゼ活性を表10に示す。
【0158】
【表10】
【0159】
ビフィドバクテリウム・アニマリスからのxfpによりコードされ、大腸菌において発現されるホスホケトラーゼ酵素は、キシルロース5-リン酸およびフルクトース6-リン酸基質の両方の活性を触媒する。酵素は基質キシルロース5-リン酸に対してより活性が高かった。
【0160】
【配列表】
2022046736000001.app
【外国語明細書】