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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022046831
(43)【公開日】2022-03-24
(54)【発明の名称】哺乳動物の寿命を延長するための剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20220316BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220316BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220316BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20220316BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20220316BHJP
   A61K 31/122 20060101ALI20220316BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220316BHJP
   A61K 36/52 20060101ALI20220316BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20220316BHJP
   C12N 5/077 20100101ALN20220316BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61K48/00
A61K31/7088
A61K31/713
A61K31/352
A61K31/122
A61P43/00 111
A61P43/00 105
A61K36/52
C12N15/113 130Z
C12N5/077
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2018246299
(22)【出願日】2018-12-27
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】393030626
【氏名又は名称】株式会社新日本科学
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】中島 利博
(72)【発明者】
【氏名】藤田 英俊
(72)【発明者】
【氏名】荒谷 聡子
(72)【発明者】
【氏名】三浦 直樹
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸山 健太郎
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4B065AA91X
4B065AB01
4B065BA01
4C084AA13
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZB211
4C084ZC201
4C084ZC411
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB21
4C086ZC20
4C086ZC41
4C088AB12
4C088AC04
4C088AC05
4C088AC06
4C088BA08
4C088BA10
4C088NA14
4C088ZB21
4C088ZC20
4C088ZC41
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB28
4C206KA04
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZB21
4C206ZC20
4C206ZC41
(57)【要約】      (修正有)
【課題】哺乳動物の寿命を延長するための剤の提供。
【解決手段】シノビオリンの発現又は機能を阻害する剤を含む,哺乳動物の寿命を延長するための剤(寿命延長剤)。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シノビオリンの発現又は機能を阻害する剤を含む,哺乳動物の寿命を延長するための剤。
【請求項2】
請求項1に記載の哺乳動物の寿命を延長するための剤であって,前記哺乳動物が,肥満遺伝子を発現する哺乳動物である,剤。
【請求項3】
請求項1に記載の哺乳動物の寿命を延長するための剤であって,前記シノビオリンの発現又は機能を阻害する剤が,シノビオリンのsiRNA,シノビオリンのデコイ核酸及びシノビオリンのアンチセンス核酸から選ばれる1種又は2種以上である,剤。
【請求項4】
請求項1に記載の哺乳動物の寿命を延長するための剤であって,前記シノビオリンの発現又は機能を阻害する剤が,クルミの枝,殻又は葉の抽出物である,剤。
【請求項5】
請求項1に記載の哺乳動物の寿命を延長するための剤であって,前記シノビオリンの発現又は機能を阻害する剤が,プルムバギン,ケルセチン,式(I)で示されるナフタレン誘導体,その薬学的に許容される塩,又はその薬学的に許容される溶媒和物である,剤。
【化1】
(式(I)中,
~Rは,同一でも異なってもよく,水素原子,水酸基,C1-3アルキル基,C1-3アルコキシ基,及びハロゲン原子のいずれかを表わし,R~Rの少なくともひとつは水酸基であり,
及びRは,同一でも異なってもよく,水素原子,C1-3アルキル基,及びハロゲン原子のいずれかを表わし,
及びXは,同一でも異なってもよく,酸素原子又は硫黄原子を表し,
-Aは,C-C,又はC=Cを表す。)
【請求項6】
請求項1に記載の哺乳動物の寿命を延長するための剤であって,ベージュ細胞又は褐色細胞の発現を促すことにより,哺乳動物の寿命を延長する剤。
【請求項7】
シノビオリンの発現又は機能を阻害する剤を含む,ベージュ細胞又は褐色細胞の発現を促進する剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,哺乳動物の寿命を延長するための剤に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第6216493号公報には,D-プシコースを有効成分する寿命を延長するための甘味料が記載されている。不老長寿を含め,寿命を延長することは,人類の古くからの願いである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6216493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は,哺乳動物の寿命を延長するための剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は,基本的には,シノビオリンの発現又は機能を阻害することで特に肥満遺伝子を有する哺乳動物の寿命を有意に延長できるという実施例による知見に基づく。
【0006】
この明細書に記載される実施態様のひとつは,シノビオリンの発現又は機能を阻害する剤を含む,哺乳動物の寿命を延長するための剤(寿命延長剤)に関する。
【0007】
寿命延長剤の好ましい態様は,哺乳動物が,肥満遺伝子を発現する哺乳動物である。
【0008】
寿命延長剤の好ましい態様は,シノビオリンの発現又は機能を阻害する剤が,シノビオリンのsiRNA,シノビオリンのデコイ核酸及びシノビオリンのアンチセンス核酸から選ばれる1種又は2種以上のものである。
【0009】
寿命延長剤の好ましい態様は,シノビオリンの発現又は機能を阻害する剤が,クルミの枝,殻又は葉の抽出物のものである。
【0010】
寿命延長剤の好ましい態様は,ノビオリンの発現又は機能を阻害する剤が,プルムバギン,ケルセチン,式(I)で示されるナフタレン誘導体,その薬学的に許容される塩,又はその薬学的に許容される溶媒和物のものである。
【化2】
(R~Rは,同一でも異なってもよく,水素原子,水酸基,C1-3アルキル基,C1-3アルコキシ基,及びハロゲン原子のいずれかを表わし,R~Rの少なくともひとつは水酸基であり,
及びRは,同一でも異なってもよく,水素原子,C1-3アルキル基,及びハロゲン原子のいずれかを表わし,
及びXは,同一でも異なってもよく,酸素原子又は硫黄原子を表し,
-Aは,C-C,又はC=Cを表す。)
【0011】
寿命延長剤の好ましい態様は,ベージュ細胞又は褐色細胞の発現を促すことにより,哺乳動物の寿命を延長するものである。
【0012】
本発明の上記とは異なる実施態様は,シノビオリンの発現又は機能を阻害する剤を含む,ベージュ細胞又は褐色細胞の発現を促進する剤に関する。この剤の組成や製造方法は,上記した寿命延長剤と同じでよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,哺乳動物の寿命を延長するための剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は,野生型マウスとシノビオリンノックアウトマウスの累積生存率を示す図面に替わるグラフである。
図2-1】図2-1は,各種マーカーの発現解析結果を示す図面に替わるグラフである。
図2-2】図2-2は,各種マーカーの発現解析結果を示す図面に替わるグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下,本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0016】
哺乳動物の寿命を延長するための剤(寿命延長剤)は,対象である哺乳動物が摂取することにより寿命を延長することを目的とする剤である。この剤は,通常治験や薬事承認を必要とする医薬や薬剤又は医薬組成物であってもよいし,サプリメントであってもよいし,食品添加物であってもよい。寿命延長剤は,全ての対象に有効である必要はなく,ある確率で有効であればよい。この明細書に記載される寿命延長剤は,シノビオリンの発現又は機能を阻害する剤(成分)を含む。この寿命延長剤は,実施例により示された通り,統計学的に有意差をもって,対象の寿命を延長できることが示されている。
【0017】
寿命延長剤対象は,哺乳動物である。哺乳動物の例は,ヒト又はヒト以外の哺乳動物(非ヒト哺乳動物)である。哺乳動物として好ましいものは,肥満遺伝子を発現する哺乳動物である。肥満遺伝子を発現する者の例は,肥満に関する遺伝子多型を有する対象である。
【0018】
肥満に関与する遺伝子多型の例は,β-2アドレナリン受容体(β2AR)をコードする遺伝子(β2AR遺伝子),β-3アドレナリン受容体(B3AR)をコードする遺伝子(β3AR遺伝子)および脱共役タンパク質(UCP)をコードする遺伝子(UCP1遺伝子)の多型である。
【0019】
β2ARは,主に心臓,気管支平滑筋等に分布する他,脂肪組織においても存在し,脂肪分解に関与している。そして,これをコードするβ2AR遺伝子には,アミノ酸16位のアルギニン(Arg)がグリシン(Gly)となる多型(Arg16Gly)がある。この多型を持つ者(日本人には16%存在)は,多型(Arg16Gly)を有さない者と比較して,安静時における代謝量が亢進していることが報告されている。
【0020】
β3ARは,褐色脂肪細胞組織と白色脂肪細胞組織とに存在し,ノルアドレナリンの結合によって,褐色脂肪細胞組織では熱産生が,白色脂肪細胞組織では脂肪分解が開始される。これをコードするβ3AR遺伝子には,アミノ酸64位のトリプトファン(Trp)がアルギニン(Arg)となる多型(Trp64Arg)がある。この多型を持つ被検者(日本人には34%存在)は,前記多型を有さない被検者と比較して,安静時の代謝量が減少していることが報告されている。
【0021】
UCP1は,交換神経が興奮状態にある際,褐色脂肪組織における熱産生の中心的な役割を果たすタンパク質である。そして,これをコードするUCP1遺伝子には,mRNAの-3826位(ゲノム配列におけるUCP1遺伝子の翻訳開始点の上流3826位)のアデニン(A)がグアニン(G)となる多型(A3826G)がある。この多型を持つ被検者(日本人肥満女性には24%存在)は,前記多型を持たない被検者に比べて,全身の代謝量が減少していることが報告されている。
【0022】
このような代謝量が減少する多型(例えば,上記のArg16Gly,Trp64Arg,A3826Gといった,それぞれβ2AR遺伝子,β3AR遺伝子およびUCP1遺伝子の多型)を持つ対象は,肥満遺伝子を発現する哺乳動物の例である。これらは,例えば,PCRを用いたDirect Sequencing法,RFLP解析,ASP-PCR法,又はTm解析を用いて解析できる。
【0023】
寿命延長剤の好ましい態様は,シノビオリンの発現又は機能を阻害する剤が,シノビオリンのsiRNA,シノビオリンのデコイ核酸及びシノビオリンのアンチセンス核酸から選ばれる1種又は2種以上のものである。シノビオリンのsiRNA,シノビオリンのデコイ核酸及びシノビオリンのアンチセンス核酸は,例えば特許6230546号公報に記載される通り公知である。
【0024】
シノビオリンのsiRNA
シノビオリンのsiRNAの例は,配列番号1~5から選択される一の塩基配列,これらの塩基配列と相補の塩基配列,又はこれらのいずれかの塩基配列から1又は2個の塩基が置換,挿入,欠失又は付加した塩基配列を有するRNAである。配列番号1~3に示される塩基配列を有するRNAがシノビオリンのsiRNAであることは,Izumi T, et al., Arthritis Rheum. 2009; 60(1):63-72.,Yamasaki S, et al., EMBO J. 2007; 26(1): 113-22.に実験を用いて開示されるとおり公知である。配列番号4及び5に示される塩基配列を有するRNAがシノビオリンのsiRNAであることは,WO2005/074988号パンフレットに実験を用いて開示されるとおり公知である。
【0025】
配列番号1:5’-GCUGUGACAGAUGCCAUCA-3’
配列番号2:5’-GGUGUUCUUUGGGCAACUG-3’
配列番号3:5’-GGUUCUGCUGUACAUGGCC-3’
配列番号4:5’-CGUUCCUGGUACGCCGUCA-3’
配列番号5:5’-GUUUTGGUGACUGGUGCUA-3’
【0026】
「これらのいずれかの塩基配列から1又は2個の塩基が置換,挿入,欠失又は付加した塩基配列を有するRNA」は,配列番号2~6から選択される一の塩基配列及びこれらの塩基配列と相補の塩基配列のいずれかの塩基配列から,1又は2個の塩基が置換,挿入,欠失又は付加した塩基配列を有するRNAである。置換,挿入,欠失又は付加は,いずれか1種類が生じていても良いし,2つ以上が生じていても良い。これらは,シノビオリンのsiRNAとして機能するものである。
【0027】
シノビオリンのデコイ核酸
シノビオリンのデコイ核酸の例は,配列番号7で示される塩基配列又は配列番号7で示される塩基配列から1又は2個の塩基が置換,挿入,欠失又は付加した塩基配列を有するシノビオリンのデコイ核酸である。配列番号7で示される塩基配列を有する核酸がシノビオリンのデコイ核酸であることは,例えば,Tsuchimochi K, et al., Mol Cell Biol. 2005;25(16):7344-56.に実施例を用いて示されているとおり公知である。
配列番号7:5’-AUGGUGACUGGUGCUAAGA-3’
【0028】
シノビオリンのデコイ核酸及びその確認方法は,例えば国際公開WO2005-093067号パンフレット,及び国際公開WO2005-074988号パンフレットに開示されるとおり公知である。
【0029】
シノビオリンのアンチセンス核酸
シノビオリンのアンチセンス核酸及びシノビオリンのアンチセンス核酸をスクリーニングする方法は,例えば,特開2009-155204号公報,再表2006-137514号及び再表2005-074988号に開示されている。シノビオリンのアンチセンス核酸とは,シノビオリン遺伝子に相補的な配列を有し,当該遺伝子にハイブリダイズすることにより,シノビオリン遺伝子の発現を阻害することができる核酸を意味する。アンチセンス核酸は,シノビオリンをコードする遺伝子の部分塩基配列に対して相補的な核酸化合物を合成化学的手法などにより調製することができる。当該核酸化合物がシノビオリンの産生を効率的に阻害するかどうかを評価するためには,遺伝子の発現量を指標としたスクリーニング試験を行えばよい。上記アンチセンス核酸化合物としては,例えばシノビオリンの発現を,コントロールと比較して少なくとも50%以下に抑えることができるものである。
【0030】
特定の内在性遺伝子の発現を阻害する方法としては,アンチセンス技術を利用する方法が当業者によく知られている。アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を阻害する作用としては,以下のような複数の要因が存在する。即ち,三重鎖形成による転写開始阻害,RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造が作られた部位とのハイブリッド形成による転写阻害,合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害,イントロンとエクソンとの接合点におけるハイブリッド形成によるスプライシング阻害,スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害,mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行阻害,キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害,翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始阻害,開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳阻害,mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻害,および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現阻害などである。このようにアンチセンス核酸は,転写,スプライシングまたは翻訳など様々な過程を阻害することで,標的遺伝子の発現を阻害する(平島および井上, 新生化学実験講座2 核酸IV遺伝子の複製と発現, 日本生化学会編, 東京化学同人,1993, 319-347.)。
【0031】
本発明で用いられるアンチセンス核酸は,上記のいずれの作用によりシノビオリン遺伝子の発現および/または機能を阻害してもよい。一つの態様としては,シノビオリン遺伝子のmRNAの5'端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば,遺伝子の翻訳阻害に効果的と考えられる。また,コード領域もしくは3'側の非翻訳領域に相補的な配列も使用することができる。このように,シノビオリン遺伝子の翻訳領域だけでなく,非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含む核酸も,本発明で利用されるアンチセンス核酸に含まれる。使用されるアンチセンス核酸は,適当なプロモーターの下流に連結され,好ましくは3'側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製された核酸は,公知の方法を用いることで所望の動物(細胞)に形質転換することができる。アンチセンス核酸の配列は,形質転換される動物(細胞)が有する内在性のシノビオリン遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが,遺伝子の発現を有効に抑制できる限りにおいて,完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは標的遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上,最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス核酸を用いて標的遺伝子(シノビオリン)の発現を効果的に阻害するには,アンチセンス核酸の長さは少なくとも15塩基以上25塩基未満であることが好ましいが,本発明のアンチセンス核酸は必ずしもこの長さに限定されず,例えば100塩基以上,または500塩基以上であってもよい。
【0032】
また,シノビオリン遺伝子の発現の阻害は,リボザイム,またはリボザイムをコードするDNAを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子を指す。リボザイムには種々の活性を有するものが存在するが,中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムに焦点を当てた研究により,RNAを部位特異的に切断するリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには,グループIイントロン型やRNase Pに含まれるM1 RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが,ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子, タンパク質核酸酵素, 1990, 35, 2191.)。
【0033】
例えば,ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは,G13U14C15という配列のC15の3'側を切断するが,その活性にはU14とA9との塩基対形成が重要とされ,C15の代わりにA15またはU15でも切断され得ることが示されている(Koizumi, M. et al., FEBS Lett, 1988, 228, 228.)。基質結合部位が標的部位近傍のRNA配列と相補的なリボザイムを設計すれば,標的RNA中のUC,UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することができる(Koizumi, M. et al.,FEBS Lett, 1988, 239, 285.,小泉誠および大塚栄子, タンパク質核酸酵素, 1990, 35, 2191.,Koizumi, M. et al., Nucl Acids Res, 1989, 17, 7059.)。
【0034】
また,ヘアピン型リボザイムも本発明の目的に有用である。このリボザイムは,例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(Buzayan, JM., Nature, 1986, 323, 349.)。ヘアピン型リボザイムからも,標的特異的なRNA切断リボザイムを作出できることが示されている(Kikuchi, Y.& Sasaki, N., Nucl Acids Res, 1991, 19, 6751.,菊池洋, 化学と生物, 1992, 30, 112.)。このように,リボザイムを用いて本発明におけるシノビオリン遺伝子の転写産物を特異的に切断することで,該遺伝子の発現を阻害することができる。
【0035】
内在性遺伝子の発現の抑制は,さらに,標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二本鎖RNAを用いたRNA干渉(RNA interference,以下「RNAi」と略称する)によっても行うことができる。
【0036】
寿命延長剤の好ましい態様は,シノビオリンの発現又は機能を阻害する剤が,クルミの枝,殻又は葉の抽出物のものである。クルミの枝,殻又は葉の抽出物の例は,クルミの枝の抽出物であり,特にクルミの枝のアルコール抽出物が好ましい。クルミの枝,殻又は葉の抽出物がシノビオリンの発現又は機能を阻害する剤であることは,例えば国際公開WO2015/129895号パンフレットに記載される通りである。
【0037】
寿命延長剤の好ましい態様は,シノビオリンの発現又は機能を阻害する剤が,プルムバギン,ケルセチン,又は式(I)で示されるナフタレン誘導体,その薬学的に許容される塩,又はその薬学的に許容される溶媒和物のものである。プルムバギン,ケルセチンがシノビオリンの発現又は機能を阻害することは,特許第5008932号に記載される通りである。式(I)で示されるナフタレン誘導体(特に5,8-ジヒドロキシ-4a,8a-ジヒドロ-[1,4]ナフトキノン又はその塩)が,シノビオリンの発現又は機能を阻害することは,特許第6280050号に記載される通りである。
【0038】
【化3】
(R~Rは,同一でも異なってもよく,水素原子,水酸基,C1-3アルキル基,C1-3アルコキシ基,及びハロゲン原子のいずれかを表わし,R~Rの少なくともひとつは水酸基であり,
及びRは,同一でも異なってもよく,水素原子,C1-3アルキル基,及びハロゲン原子のいずれかを表わし,
及びXは,同一でも異なってもよく,酸素原子又は硫黄原子を表し,
-Aは,C-C,又はC=Cを表す。)
【0039】
式(I)で示される化合物の好ましい態様は,
一般式(I)において,
~Rは,同一でも異なってもよく,水素原子,水酸基,メチル基,メトキシ基,又は塩素原子を示し,R及びRの少なくともひとつは水酸基であり,
及びRは,同一でも異なってもよく,水素原子,又はメチル基を表し,
及びXは,ともに酸素原子を表し,
-Aは,C=Cを表すものである。
【0040】
式(I)で示される化合物の好ましい態様は,
及びRは,同一でも異なってもよく,R及びRの少なくともひとつは水酸基であり,残りの基は,水素原子,水酸基,メチル基,メトキシ基,又は塩素原子を表し,
及びRは,水素原子を表し,
及びRは,ともに,水素原子を表し,
及びXは,ともに酸素原子を表し,
-Aは,C=Cを表ものである。
【0041】
式(I)で示される化合物の好ましい態様は,
一般式(I)で示されるナフタレン誘導体が,
5,8-ジヒドロキシ-4a,8a-ジヒドロ-[1,4]ナフトキノン,
5-ヒドロキシ-4a,8a-ジヒドロ-[1,4]ナフトキノン,
5-ヒドロキシ-2,3,4a,8a-テトラヒドロ-[1,4]ナフトキノン,
5-ヒドロキシ-7-メトキシ-4a,8a-ジヒドロ-[1,4]ナフトキノン,
5-ヒドロキシ-8-メトキシ-4a,8a-ジヒドロ-[1,4]ナフトキノン,及び
5-クロロ-8-ヒドロキシ-4a,8a-ジヒドロ-[1,4]ナフトキノンのいずれか又は2つ以上である。
【0042】
その医薬的に許容しうる塩とは,一般式(I)で示されるナフタレン誘導体の医薬的に許容しうる塩を意味する。また,その医薬的に許容しうる溶媒和物とは,一般式(I)で示されるナフタレン誘導体の医薬的に許容しうる溶媒和物を意味する。医薬的に許容しうる塩の例は,無機酸塩,有機酸塩,無機塩基塩,有機塩基塩,酸性または塩基性アミノ酸塩である。無機酸塩の例は,塩酸塩,臭化水素酸塩,硫酸塩,硝酸塩,リン酸塩である。有機酸塩の例は,酢酸塩,コハク酸塩,フマル酸塩,マレイン酸塩,酒石酸塩,クエン酸塩,乳酸塩,ステアリン酸塩,安息香酸塩,メタンスルホン酸塩,及びp-トルエンスルホン酸塩である。無機塩基塩の例は,ナトリウム塩,カリウム塩などのアルカリ金属塩,カルシウム塩,マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩,アルミニウム塩,及びアンモニウム塩である。有機塩基塩の例は,ジエチルアミン塩,ジエタノールアミン塩,メグルミン塩,及びN,N’-ジベンジルエチレンジアミン塩である。酸性アミノ酸塩の例は,アスパラギン酸塩,及びグルタミン酸塩である。塩基性アミノ酸塩の例は,アルギニン塩,リジン塩,及びオルニチン塩である。溶媒和物の例は,水和物である。
【0043】
上記の化合物は,抽出,濃縮,留去,結晶化,ろ過,再結晶,各種クロマトグラフィーなどの通常の化学操作を適用し,公知の方法を用いて単離し精製することができる。
【0044】
寿命延長剤の好ましい態様は,ベージュ細胞又は褐色細胞の発現を促すことにより,哺乳動物の寿命を延長するものである。後述する実施例により示された通り,シノビオリンの発現又は機能を阻害することにより,白色脂肪細胞の発現を抑制し,ベージュ細胞及び褐色細胞の発現を促すことができる。
【0045】
つまり,本発明の上記とは異なる実施態様は,シノビオリンの発現又は機能を阻害する剤を含む,ベージュ細胞又は褐色細胞の発現を促進する剤に関する。この剤の組成や製造方法は,上記した寿命延長剤と同じでよい。
【0046】
この明細書に開示されるある態様の剤は,経口,非経口投与のいずれでも可能である。非経口投与の場合は,経肺剤型(例えばネフライザーなどを用いたもの),経鼻投与剤型,経皮投与剤型(例えば軟膏,クリーム剤),注射剤型等が挙げられる。注射剤型の場合は,例えば点滴等の静脈内注射,筋肉内注射,腹腔内注射,皮下注射等により全身又は局部的に投与することができる。
【0047】
投与方法は,患者の年齢,症状により適宜選択する。有効投与量は,一回につき体重1kgあたり0.1μg~100mg,好ましくは1~10μgである。但し,上記治療剤はこれらの投与量に制限されるものではない。siRNA等の核酸を混合する場合,当該核酸の用量の例は,0.01~10μg/ml,好ましくは0.1~1μg/mlである。
【0048】
この明細書に開示されるある態様の剤は,常法にしたがって製剤化することができ,医薬的に許容される担体や添加物を含むものであってもよい。このような担体及び添加物として,水,医薬的に許容される有機溶剤,コラーゲン,ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン,カルボキシビニルポリマー,カルボキシメチルセルロースナトリウム,ポリアクリル酸ナトリウム,アルギン酸ナトリウム,水溶性デキストラン,カルボキシメチルスターチナトリウム,ペクチン,メチルセルロース,エチルセルロース,キサンタンガム,アラビアゴム,カゼイン,寒天,ポリエチレングリコール,ジグリセリン,グリセリン,プロピレングリコール,ワセリン,パラフィン,ステアリルアルコール,ステアリン酸,ヒト血清アルブミン,マンニトール,ソルビトール,ラクトース,医薬添加物として許容される界面活性剤等が挙げられる。 上記添加物は,本発明の治療剤の剤型に応じて上記の中から単独で又は適宜組み合わせて選ばれる。例えば,注射用製剤として使用する場合,精製されたERストレス誘導物質を溶剤(例えば生理食塩水,緩衝液,ブドウ糖溶液等)に溶解し,これにTween80,Tween20,ゼラチン,ヒト血清アルブミン等を加えたものを使用することができる。あるいは,使用前に溶解する剤型とするために凍結乾燥したものであってもよい。凍結乾燥用賦形剤としては,例えば,マンニトール,ブドウ糖等の糖アルコールや糖類を使用することができる。
【0049】
この明細書は,哺乳動物の寿命を延長するための剤(寿命延長剤)を製造するためのシノビオリンの発現又は機能を阻害する剤の使用を開示する。この使用は,シノビオリンの発現又は機能を阻害する剤を有効成分して用い,公知の製剤化方法や,公知の加工方法を用いて寿命延長剤を製造する方法である。
【0050】
この明細書は,対象となる哺乳動物に,シノビオリンの発現又は機能を阻害する剤を投与する工程を含む,対象となる哺乳動物の寿命を延長する方法をも開示する。対象が,シノビオリンの発現又は機能を阻害する剤を有効成分とする寿命延長剤を摂取することで,対象の寿命が延長されることが期待される。
【実施例0051】
野生型マウスと脂肪特異的シノビオリンノックアウトマウスの累積生存率を調査した。まず,脂肪特異的シノビオリンノックアウトマウス(Adipoq-Cre;Syvn1flox/floxマウス)を作製した。 脂肪特異的シノビオリンノックアウトマウスを作製するため,まずはSyvn1flox/floxマウスとアディポネクチン(Adipoq)-Creマウス(The Jackson Laboratory)とを交配させてAdipoq-Cre;Syvn1flox/+マウスなどを含む複合ヘテロ接合体を得た。次に二次交配としてAdipoq-Cre;Syvn1flox/+マウスをSyvn1flox/floxマウスと交配させ, Adipoq-Cre;Syvn1flox/floxマウスを得た。得られたAdipoq-Cre;Syvn1flox/floxマウスのWAT(白色脂肪組織)及びBAT(褐色脂肪組織)においてCreリコンビナーゼを介したSyvn1ノックアウトが起きていることを,PCRで確認した
【0052】
図1は,野生型マウスと脂肪特異的シノビオリンノックアウトマウスの累積生存率を示す図面に替わるグラフである。図1に示されるように,脂肪特異的シノビオリンノックアウトマウスの累積生存率は,野生型マウスの累積生存率に比べ約1.25倍と有意に高いことがわかる。このことは,シノビオリンの発生を阻害するか,シノビオリンの活性を阻害することで,哺乳動物の寿命を有意に延長することができることを示している。
【実施例0053】
遺伝的肥満マウス(db/db)は高脂肪食を与えると,より短命となる。メタボリック症候群様の病態の改善に対するSyvn1の作用として脂肪組織の量的変化に加え質的な変化が考えられる。そこで,脂肪細胞の網羅的な遺伝子発現解析を行った。予備実験を行った結果,脂肪特異的シノビオリンノックアウトマウスの白色脂肪細胞の網羅的遺伝子発現解析にて褐色脂肪細胞ならびに ベージュ脂肪細胞のマーカーを発現していた。脂肪細胞分化関連因子の解析: 白色脂肪組織RNAを抽出し,白色脂肪(Fabp4など),褐色脂肪 (Ucp-1, Cox8b,Cidea, PRDM16など),ベージュ細胞(Tmem26, Cd137など) マーカーの発現を検討した。具体的には,野生型マウスと脂肪特異的シノビオリンノックアウトマウスの脂肪をサンプリングし,RNイージー ミニ キット(RNeasy mini kit) (キアゲン社製)を用いて,RNAの精製を行った。さらに,精製したRNAを用いて,東レ社製高感度DNAチップ 3D-Geneを用いてマイクロアレイ解析を行った。その結果を図2-1及び図2-2に示す。図2-1及び図2-2は,野生型マウスの発現量を1とした際の,脂肪特異的シノビオリンノックアウトマウスの各発現量を示したものである。
【0054】
図2-1及び図2-2は,各種マーカーの発現解析結果を示す図面に替わるグラフである。図2-1及び図2-2から,脂肪特異的シノビオリンノックアウトマウスは,白色脂肪(Fabp4)の発現が抑えられ,褐色脂肪 (Ucp-1, Cox8b,Cidea)が高発現し,ベージュ細胞(Csprs,Ear2) が高発現することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明や,医薬産業,サプリメント産業,及び食品産業において利用されうる。
図1
図2-1】
図2-2】
【配列表】
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