(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047091
(43)【公開日】2022-03-24
(54)【発明の名称】有機溶媒を含有する液体成分とチタン酸バリウム粒子とを含む混合物の製造方法、およびそれを用いたグリーンシートの製造方法、ならびに、チタン酸バリウム粒子と有機溶媒とを含む混合物
(51)【国際特許分類】
C01G 23/00 20060101AFI20220316BHJP
C04B 35/468 20060101ALI20220316BHJP
C04B 35/622 20060101ALI20220316BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
C01G23/00 B
C04B35/468
C04B35/622
H01G4/30 517
H01G4/30 311Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020152820
(22)【出願日】2020-09-11
(71)【出願人】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】特許業務法人河崎・橋本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬場 勇志
(72)【発明者】
【氏名】若松 祐太
(72)【発明者】
【氏名】大釜 信治
【テーマコード(参考)】
4G047
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
4G047CA07
4G047CB05
4G047CC03
4G047CD03
5E001AB03
5E001AE02
5E001AE03
5E001AJ02
5E082AB03
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082LL01
5E082LL02
(57)【要約】
【課題】分散性が高いチタン酸バリウム粒子と液体成分とを含む混合物の製造方法を提供する。
【解決手段】開示される製造方法は、水熱合成を最終プロセスとして含む合成プロセスによってチタン酸バリウム粒子と第1の水性液体とを含む第1の混合物を調製する工程(i)と、第1の混合物を乾燥された状態にすることなく第2の水性液体で洗浄することを経て、チタン酸バリウム粒子と第3の水性液体とを含む第2の混合物を得る工程(ii)と、第2の混合物を乾燥された状態にすることなく、第3の水性液体の少なくとも一部を有機溶媒に置換することによってチタン酸バリウム粒子と有機溶媒とを含む第3の混合物を得る工程(iii)とを含む。工程(iii)において、第3の混合物に含まれる液体成分における水の含有率が10質量%以下となるように第3の水性液体を有機溶媒に置換する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒を含有する液体成分とチタン酸バリウム粒子とを含む混合物の製造方法であって、
水熱合成を最終プロセスとして含む合成プロセスによって、前記チタン酸バリウム粒子と第1の水性液体とを含む第1の混合物を調製する工程(i)と、
前記第1の混合物を乾燥された状態にすることなく第2の水性液体で洗浄することを経て、前記チタン酸バリウム粒子と第3の水性液体とを含む第2の混合物を得る工程(ii)と、
前記第2の混合物を乾燥された状態にすることなく、前記第3の水性液体の少なくとも一部を前記有機溶媒に置換することによって、前記チタン酸バリウム粒子と前記有機溶媒とを含む第3の混合物を得る工程(iii)と、を含み、
前記工程(iii)において、前記第3の混合物に含まれる液体成分における水の含有率が10質量%以下となるように、前記第3の水性液体の少なくとも一部を前記有機溶媒に置換する、有機溶媒を含有する液体成分とチタン酸バリウム粒子とを含む混合物の製造方法。
【請求項2】
前記有機溶媒がアルコールである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程(iii)において、前記第3の混合物の含水率が1.0質量%以下となるように、前記第3の水性液体の少なくとも一部を前記有機溶媒に置換する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第3の混合物は、積層セラミックコンデンサのグリーンシートの製造に用いられる混合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
積層セラミックコンデンサの製造に用いられるグリーンシートの製造方法であって、
請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法によって、前記チタン酸バリウム粒子と前記有機溶媒とを含む前記第3の混合物を得る工程(I)と、
前記第3の混合物中の前記チタン酸バリウム粒子を用いてグリーンシートを形成する工程(II)とを含む、グリーンシートの製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された、前記チタン酸バリウム粒子と前記有機溶媒とを含む混合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有機溶媒を含有する液体成分とチタン酸バリウム粒子とを含む混合物の製造方法、およびそれを用いたグリーンシートの製造方法、ならびに、チタン酸バリウム粒子と有機溶媒とを含む混合物に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸バリウム粒子は、積層セラミックコンデンサの材料として用いられている。さらに、チタン酸バリウム粒子は、各種の部材の無機フィラーとしても用いられている。
【0003】
チタン酸バリウム粒子の製造方法として、固相法、シュウ酸塩法、水熱法、ゾルゲル法などが知られている。固相法およびシュウ酸塩法では、チタン酸バリウムの合成時に高温での熱処理が必要なため、粒子同士が融着して分散性が悪くなりやすい。一方、水熱法およびゾルゲル法は、比較的低温で反応が行われるため、分散性が高い粒子を製造するには有利である。また、これらの方法における反応は水系で行われるため、環境負荷も小さく量産性にも優れる。しかし、ゾルゲル法はコストが高いという問題がある。水熱法を用いたチタン酸バリウムの製造方法は、従来から報告されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
積層セラミックシートは、一般的に、電極を印刷したグリーンシートを積層して焼成することによって製造される。現在、積層セラミックコンデンサの小型化および信頼性の向上が求められている。その実現のためには、より分散性が高いチタン酸バリウム粒子が求められている。チタン酸バリウム粒子の分散性が悪いと、グリーンシートの平滑性が悪化する。グリーンシートの平滑性が悪いと、積層セラミックコンデンサの信頼性が低下する。そのため、チタン酸バリウム粒子の分散性の向上は重要である。また、チタン酸バリウム粒子を無機フィラーなどの用途に用いる場合でも、分散性が高いことは重要である。
【0006】
このような状況において、本開示の目的の1つは、分散性が高いチタン酸バリウム粒子と液体成分とを含む混合物の製造方法を提供することである。また、本開示の他の目的は、当該製造方法を用いたグリーンシートの製造方法、および、チタン酸バリウム粒子と有機溶媒とを含む混合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一局面は、有機溶媒を含有する液体成分とチタン酸バリウム粒子とを含む混合物の製造方法に関する。当該製造方法は、水熱合成を最終プロセスとして含む合成プロセスによって、前記チタン酸バリウム粒子と第1の水性液体とを含む第1の混合物を調製する工程(i)と、前記第1の混合物を乾燥された状態にすることなく第2の水性液体で洗浄することを経て、前記チタン酸バリウム粒子と第3の水性液体とを含む第2の混合物を得る工程(ii)と、前記第2の混合物を乾燥された状態にすることなく、前記第3の水性液体の少なくとも一部を前記有機溶媒に置換することによって、前記チタン酸バリウム粒子と前記有機溶媒とを含む第3の混合物を得る工程(iii)と、を含み、前記工程(iii)において、前記第3の混合物に含まれる液体成分における水の含有率が10質量%以下となるように、前記第3の水性液体の少なくとも一部を前記有機溶媒に置換する。
【0008】
本開示の他の一局面は、積層セラミックコンデンサの製造に用いられるグリーンシートの製造方法に関する。当該製造方法は、上記の、有機溶媒を含有する液体成分とチタン酸バリウム粒子とを含む混合物の製造方法によって、前記チタン酸バリウム粒子と前記有機溶媒とを含む前記第3の混合物を得る工程(I)と、前記第3の混合物中の前記チタン酸バリウム粒子を用いてグリーンシートを形成する工程(II)とを含む。
【0009】
本開示の他の一局面は、混合物に関する。当該混合物は、上記の、有機溶媒を含有する液体成分とチタン酸バリウム粒子とを含む混合物の製造方法によって製造された、前記チタン酸バリウム粒子と前記有機溶媒とを含む混合物である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、分散性が高いチタン酸バリウム粒子と液体成分とを含む混合物を製造できる。さらに、本開示によれば、当該製造方法を用いてグリーンシートを製造できる。さらに、本開示によれば、チタン酸バリウム粒子と有機溶媒とを含む混合物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について説明する。なお、以下の説明では、本開示の実施形態について例を挙げて説明するが、本開示は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本開示の効果が得られる限り、他の数値や他の材料を適用してもよい。
【0012】
(有機溶媒を含有する液体成分とチタン酸バリウム粒子とを含む混合物の製造方法)
本開示に係る製造方法は、有機溶媒を含有する液体成分とチタン酸バリウム粒子とを含む混合物の製造方法である。この製造方法で製造される混合物(チタン酸バリウム粒子と液体成分とを含む混合物)を、以下では、「BTO混合物(M)」または、「混合物(M)」と称する場合がある。本開示の製造方法は、工程(i)、工程(ii)、および工程(iii)を含む。以下ではそれらについて説明する。
【0013】
(工程(i))
工程(i)は、水熱合成を最終プロセスとして含む合成プロセスによって、チタン酸バリウム粒子と第1の水性液体とを含む第1の混合物を調製する工程である。水熱合成によって、チタン酸バリウム(BaTiO3)の粒子が合成される。なお、第1の混合物は、水熱合成後の反応液である。そのため、第1の混合物は、水と未反応の原料化合物などを含んでいる。第1の水性液体(第1の混合物の液体成分)に含まれる水の量は、採用した反応条件に応じて変化する。なお、この明細書において、水性液体とは、水を含む液体を意味する。
【0014】
水熱合成およびそれを含む合成プロセスに特に限定はない。水熱合成法を用いたチタン酸バリウム粒子の合成については、従来から広く実施されている。工程(i)は、それらの公知の方法で行ってもよい。一例の水熱合成では、チタン酸バリウムの原料となる化合物を、水性液体(例えば水)の中において、1気圧以上の圧力下で且つ100℃以上の温度で反応させる。チタン酸バリウムの原料となる化合物の例には、水酸化バリウム(Ba(OH)2)および含水酸化チタン(TiO(OH)2)が含まれる。これらを生成するための出発材料から合成プロセスを開始してもよい。これらの合成プロセスは、広く知られているため、それらの公知のプロセスを用いて工程(i)を実施してもよい。
【0015】
(工程(ii))
工程(ii)は、第1の混合物を乾燥された状態にすることなく第2の水性液体で洗浄することを経て、チタン酸バリウム粒子と第3の水性液体とを含む第2の混合物を得る工程である。第1の混合物を乾燥された状態にすると、チタン酸バリウムの粒子が凝集する。チタン酸バリウムの粒子が一旦凝集すると、その後に分散処理をしても、良好な分散性が得られない。そのため、工程(ii)では、第1の混合物を乾燥された状態にすることなく、第1の混合物を第2の水性液体で洗浄する。工程(ii)は、工程(i)の後に続けて行われてもよい。洗浄する工程は、複数回行われてもよい。その場合、それぞれの洗浄工程は異なる条件で行われてもよい。
【0016】
なお、第1の混合物が乾燥された状態にならない限り(すなわちウェット状態である限り)、第1の水性液体中の液体成分の一部を除去しても問題ない。ここで、「混合物を乾燥された状態にすることなく」とは、別の観点では、例えば、混合物中の液体成分の含有率を3質量%以上(例えば5質量%以上、10質量%以上、または20質量%以上)に維持することを意味する。例えば、混合物に対して乾燥工程を行わないことによって、当該混合物が乾燥された状態になることを防止できる。混合物中の液体成分の含有率の上限は、特に限定されない。混合物中の液体成分の含有率は、99.9質量%以下(例えば99質量%以下、または90質量%以下)に維持されてもよい。なお、混合物中の液体成分の含有率(%)は、以下の式で表される。
液体成分の含有率(%)=100×(混合物中の液体成分の質量)/(混合物の質量)
【0017】
上述したように、工程(i)で得られる第1の混合物は、不要物(未反応の原料化合物や前駆体など)を含む。そのため、それらを除去することが必要となる。工程(ii)では、第2の水性液体で第1の混合物を洗浄することによって、不要物を除去する。第2の水性液体は水を含み、当該第2の水性液体に占める水の量は50質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、または95質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。第2の水性液体は、実質的に水(例えば脱イオン水や純水)であってもよい。洗浄は、第1の混合物をフィルタープレス等のろ過機に充填した状態で、第2の水性液体を通液する等の方法で行うことができる。
【0018】
第3の水性液体(第2の混合物の液体成分)は、第2の水性液体由来の成分を含み、さらに、洗浄されずに残存した第1の水性液体由来の成分を含んでもよい。洗浄の条件にもよるが、第3の水性液体は、通常は大部分が第2の水性液体に由来する成分からなり、実質的に第2の水性液体と同じであってもよい。第3の水性液体に占める水の量は、通常50質量%以上であり、80質量%以上、90質量%以上、または95質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。典型的な一例では、第3の水性液体は実質的に水とみなすことが可能である。第3の水性液体は水を含むため、第2の混合物は、チタン酸バリウム粒子と水とを含む混合物である。
【0019】
工程(ii)は、第1の混合物に第2の水性液体を加えたのちに、混合物を乾燥することなく水性液体(第1の水性液体と第2の水性液体との混合液体)の少なくとも一部(例えば大部分)を除去する工程を含んでもよい。水性液体の少なくとも一部を除去する工程は、濾過(例えば吸引濾過)などによって行ってもよい。
【0020】
(工程(iii))
工程(iii)は、第2の混合物を乾燥された状態にすることなく、第3の水性液体の少なくとも一部を有機溶媒に置換することによって、チタン酸バリウム粒子と有機溶媒とを含む第3の混合物を得る工程である。工程(iii)で用いられる有機溶媒は、上述したBTO混合物(M)の液体成分に含有される有機溶媒である。工程(iii)において、第3の混合物に含まれる液体成分における水の含有率が10質量%以下となるように、第3の水性液体の少なくとも一部を有機溶媒に置換する。第3の混合物は、上述した混合物(M)として用いることができる。第3の水性液体は水を含むため、第3の水性液体の少なくとも一部を有機溶媒に置換する工程は、別の観点では、第3の水性液体中の水の少なくとも一部を有機溶媒に置換する工程である。したがって、この明細書において、「第3の水性液体の少なくとも一部を有機溶媒に置換する」という記載を、「第3の水性液体中の水の少なくとも一部を有機溶媒に置換する」という記載に置き換えることが可能である。
【0021】
工程(iii)は、例えば、第2の混合物を有機溶媒で洗浄することによって実施してもよい。この場合、工程(iii)は、第2の混合物に有機溶媒を添加する工程と、有機溶媒が添加された第2の混合物中の液体成分の少なくとも一部を除去する工程とを含んでもよい。例えば、第2の混合物に有機溶媒を添加した後に、濾過などによって当該混合物中の液体成分の少なくとも一部を除去してもよい。
【0022】
工程(i)~工程(iii)の間において、チタン酸バリウム粒子を含む混合物(第1~第3の混合物)は乾燥された状態にされることがない。これによって、チタン酸バリウム粒子が凝集することを抑制できる。
【0023】
第3の混合物中の液体成分は、置換されずに残存した水を含んでもよいが、第3の混合物に含まれる液体成分における水の含有率は、10質量%以下(0~10質量%の範囲)である。以下では、工程(iii)で得られる第3の混合物(混合物(M))に含まれる液体成分における水の含有率(質量%)を、「水の含有率W」と称する場合がある。水の含有率W(質量%)は、以下の式で表される。
水の含有率W(質量%)=100×(第3の混合物中の水の質量)/(第3の混合物中の液体成分の質量)
【0024】
含有率Wは、例えば、工程(iii)で使用する有機溶媒の量によって調整できる。例えば、第2の混合物を有機溶媒で洗浄することによって工程(iii)を実施する場合、用いる有機溶媒の量を多くすることによって、含有率Wを低くすることができる。
【0025】
第2の混合物を有機溶媒で洗浄することによって工程(iii)を実施する場合、第2の混合物に含まれるチタン酸バリウム粒子1gあたり、4mL以上の有機溶媒(エタノールなど)を用いることが好ましく、6mL以上の有機溶媒を用いることがより好ましい。有機溶媒の使用量に上限はないが、経済性の点で、第2の混合物に含まれるチタン酸バリウム粒子1gあたり100mL以下(例えば50mL以下や15mL以下)としてもよい。
【0026】
以上の工程(i)~工程(iii)によって、有機溶媒を含有する液体成分とチタン酸バリウム粒子とを含む第3の混合物(混合物(M))が得られる。混合物(M)中の液体成分は、工程(iii)で用いられた有機溶媒を含む。
【0027】
チタン酸バリウム粒子を含む混合物を乾燥させると、チタン酸バリウム粒子が凝集し、その後に分散工程を行っても高い分散性が得られにくい。また、混合物中の液体成分に含まれる水の割合が高いと、その後の分散工程においてチタン酸バリウム粒子の分散性が低くなる。本開示の製造方法では、工程(i)~工程(iii)の間において、チタン酸バリウム粒子を含む混合物(第1~第3の混合物)は乾燥された状態にされることがない。さらに、第3の水性液体の少なくとも一部を有機溶媒で置換し、第3の混合物に含まれる液体成分における水の含有率を所定値以下としている。そのため、チタン酸バリウム粒子の分散性が高い混合物が得られる。この混合物を用いることによって、特性が高い積層セラミックコンデンサを製造可能なグリーンシートを製造できる。
【0028】
工程(iii)で用いられる有機溶媒に特に限定はなく、水性液体を置換できるものであればよい。有機溶媒には、水との相溶性(混和性)が高い有機溶媒が好ましく用いられる。その観点から、有機溶媒は、アルコールであってもよい。アルコールの例には、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどが含まれる。有機溶媒は、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレンであってもよい。これらの有機溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
工程(iii)において、第3の混合物の含水率が1.0質量%以下(0~1.0質量%の範囲)となるように、第3の水性液体の少なくとも一部を有機溶媒に置換してもよい。この構成によれば、チタン酸バリウム粒子の凝集を特に抑制できる。工程(iii)において、当該含水率を0.5質量%以下(0~0.5質量%の範囲)としてもよい。この質量%は、水の含有率Wと同様に調整できる。
【0030】
工程(iii)において、第3の混合物中の水の質量が、第3の混合物中のチタン酸バリウム粒子の質量の1.4%以下(0~1.4%の範囲)となるように、第3の水性液体の少なくとも一部を有機溶媒に置換してもよい。この構成によれば、チタン酸バリウム粒子の凝集を特に抑制できる。このパーセンテージは、水の含有率Wと同様に調整できる。工程(iii)において、当該パーセンテージを0.9%以下(0~0.9%の範囲)としてもよい。
【0031】
工程(iii)において、第3の混合物に含まれる液体成分における水の含有率Wが4.3質量%以下(0~4.3質量%の範囲)となるように、第3の水性液体の少なくとも一部を有機溶媒に置換してもよい。この構成によれば、チタン酸バリウム粒子の凝集を特に抑制できる。工程(iii)において、水の含有率Wを2.0質量%以下(0~2.0質量%の範囲)としてもよい。
【0032】
工程(iii)で得られた第3の混合物に対して、さらに他の処理を行ってもよい。例えば、第3の混合物に所定の物質(分散剤など)を添加したのち、粉砕することによって、チタン酸バリウムを分散させてもよい。粉砕の方法に特に限定はなく、一般的な粉砕方法を用いてもよい。例えば、ボールミルやビーズミルなどを用いてもよい。
【0033】
工程(iii)で得られた第3の混合物は、積層セラミックコンデンサのグリーンシートの製造に用いられる混合物であってもよい。すなわち、第3の混合物を、積層セラミックコンデンサのグリーンシートの製造に用いてもよい。
【0034】
本開示の製造方法は、以下の(1)の条件を満たし、以下の(2)および/または(3)の条件をさらに満たしてもよく、以下の(4)および/または(5)の条件をさらに満たしてもよく、以下の(6)の条件をさらに満たしてもよい。
(1)工程(iii)において、第3の混合物に含まれる液体成分における水の含有率Wが0~10質量%の範囲(例えば0~4.3質量%の範囲)となるように、第3の水性液体の少なくとも一部を有機溶媒に置換する。
(2)工程(iii)において、第3の混合物の含水率が0~1.0質量%の範囲(例えば0~0.5質量%の範囲)となるように、第3の水性液体の少なくとも一部を有機溶媒に置換する。
(3)工程(iii)において、第3の混合物中の水の質量が、第3の混合物中のチタン酸バリウム粒子の質量の0~1.4%の範囲(例えば0~0.9%の範囲)となるように、第3の水性液体の少なくとも一部を有機溶媒に置換する。
(4)工程(iii)は、第2の混合物に有機溶媒を添加する工程と、有機溶媒が添加された第2の混合物中の液体成分の少なくとも一部を除去する工程とを含む。この場合、第2の混合物に含まれるチタン酸バリウム粒子1gあたり、4mL以上の有機溶媒を添加することが好ましく、6mL以上の有機溶媒を添加することがより好ましい。
(5)工程(iii)で用いられる有機溶媒がアルコール(例えばエタノールなど)である。
(6)工程(ii)で用いられる第2の水性液体の液体成分に占める水の量は90質量%以上(例えば95質量%以上)であり、例えば第2の水性液体は水である。
【0035】
本開示の製造方法の好ましい一例は、以下の条件(7)を満たす。
(7)本開示の製造方法は、工程(i)の後(例えば、工程(i)の後であって工程(iii)の前)に、工程(i)で合成されたチタン酸バリウム粒子を、チタンおよびバリウム以外の金属の化合物でコーティングする工程を含まない。チタンおよびバリウム以外の金属の化合物の例には、チタンおよびバリウム以外の金属の、酸化物、水酸化物、および塩が含まれる。チタン酸バリウム粒子をコーティングする工程を行うと、チタン酸バリウムの分散工程で、コーティング剤が剥がれ、偏析を生じさせる恐れがある。このような偏析が生じると、例えばチタン酸バリウム粒子を用いて積層セラミックコンデンサを作製したときに当該コンデンサの電気特性が悪化する場合がある。
【0036】
本開示の製造方法は、上記(1)および(7)の条件を満たしてもよく、上記(2)および/または(3)の条件をさらに満たしてもよく、上記(4)および/または(5)の条件をさらに満たしてもよく、上記(6)の条件をさらに満たしてもよい。
【0037】
(グリーンシートの製造方法)
本開示に係るグリーンシートの製造方法は、積層セラミックコンデンサの製造に用いられるグリーンシートの製造方法である。この製造方法は、工程(I)および工程(II)を含む。工程(I)および(II)について以下に説明する。
【0038】
工程(I)は、上記の製造方法(工程(i)~(iii)を含む製造方法)によって、チタン酸バリウム粒子と有機溶媒とを含む上記第3の混合物を得る工程である。この工程については上述したため、重複する説明を省略する。なお、上述したように、第3の混合物に含まれる液体成分における水の含有率Wは、10質量%以下である。
【0039】
工程(II)は、第3の混合物中のチタン酸バリウム粒子を用いてグリーンシートを形成する工程である。工程(II)については特に限定はなく、公知の方法を用いてもよい。工程(II)は、第3の混合物を用いてグリーンシートを形成する工程であってもよい。
【0040】
一例の工程(II)では、まず、第3の混合物に添加剤(分散剤、バインダなど)や有機溶媒などを加えた後、第3の混合物中のチタン酸バリウム粒子を粉砕して(分散させて)スラリーを得る。添加剤および有機溶媒に特に限定はなく、公知の添加剤および有機溶媒を用いてもよい。例えば、後述する実施例で用いている添加剤および有機溶媒を用いてもよい。粉砕の方法に特に限定はなく、公知の方法を用いてもよい。例えば、ボールミルやビーズミルなどを用いてもよい。粉砕の前に、添加剤と共に液体成分(水、有機溶媒など)を添加してもよい。
【0041】
次に、上記スラリーを用いてグリーンシートを形成する。具体的には、例えば、スラリーをキャリアフィルムなどの上に塗布することによってグリーンシート(塗膜)を形成できる。このとき、必要に応じて塗膜を乾燥させる。スラリーは、任意の方法(例えばドクターブレード法)などによって塗布される。このようにして、グリーンシートを形成できる。なお、チタン酸バリウム粒子の凝集を抑制するため、工程(II)の好ましい一例では、チタン酸バリウムを含む混合物を乾燥された状態にすることなくするグリーンシートが形成される。
【0042】
(混合物)
本開示に係る混合物は、上記の製造方法(工程(i)~(iii)を含む製造方法)によって製造された、チタン酸バリウム粒子と有機溶媒とを含む混合物である。有機溶媒は、工程(iii)で用いられた有機溶媒である。本開示に係る混合物は、上述した第3の混合物であってもよいし、第3の混合物をさらに処理した混合物であってもよい。
【0043】
本開示に係る混合物の好ましい一例では、チタン酸バリウム粒子は、チタンおよびバリウム以外の金属の化合物からなるコーティングを含まない。チタンおよびバリウム以外の金属の化合物の例には、チタンおよびバリウム以外の金属の、酸化物、水酸化物、および塩が含まれる。このようなコーティングが存在すると、チタン酸バリウム粒子の分散工程で、コーティング剤が剥がれ、偏析を生じさせる恐れがある。このような偏析が生じると、例えばチタン酸バリウム粒子を用いて積層セラミックコンデンサを作製したときに当該コンデンサの電気特性が悪化する場合がある。
【0044】
この混合物は、上述したように、積層セラミックコンデンサの製造に用いられるグリーンシートの製造に用いてもよいし、それ以外の用途に用いてもよい。例えば、この混合物は、積層セラミックコンデンサの内部電極ペーストの製造に用いてもよい。
【実施例0045】
本開示の実施形態について、実施例によって以下に詳細に説明する。なお、本開示は、以下の実施例に限定されない。
【0046】
この実施例では、条件を変えて、チタン酸バリウムの粉末(粒子)と液体成分(有機溶媒を含有する液体成分)とを含む混合物、または、チタン酸バリウムの乾燥粉(粒子)を作製した。さらに、それらを用いて塗膜を形成し、その塗膜の表面粗さを測定した。また、チタン酸バリウムの粉末と液体成分とを含む混合物について、固形成分の含有率と含水率を測定した。混合物、乾燥粉、塗膜の形成方法、および評価方法について、以下に説明する。なお、以下では、塗膜を形成するために分散剤および有機溶媒等を添加した混合物を「第4の混合物」と称する場合がある。
【0047】
(含水率の測定)
混合物の含水率は、カールフィッシャー法で測定した。具体的には、まず、測定対象である混合物を、チタン酸バリウムの含有率が30質量%となるようにエタノールに添加して混合した。そして、予め検液を作成したうえで、カールフィッシャー装置(平沼産業株式会社製の自動水分測定装置:AQV-2200)とカールフィッシャー用指示薬(Honeywell社製のHYDRANAL Composite5)とを用いて、含水率を測定した。
【0048】
[混合物A1およびそれを用いた塗膜FA1の作製]
混合物A1は、以下の手順で作製した。
(1)含水酸化チタンを含む水スラリーの調製
純水500mLをビーカーに入れ、55℃に加温した。この純水に、四塩化チタン水溶液(株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ製、濃度が3.8モル/L)350mLを2.5mL/分の速度で、純水7Lを50mL/分の速度で添加して、反応液とした。さらに、これらの添加と同時に、応反液の温度を55℃に保持しながら、水酸化ナトリウム水溶液(濃度:30質量%)を上記反応液に加えて反応液のpHを2.5に調整した。このようにして四塩化チタンを中和することによって、TiO2換算の濃度が14g/Lである含水酸化チタンの水スラリーを得た。
【0049】
上記水スラリーを濾過および水洗することによって、ナトリウムイオンと塩化物イオンとが除去されたケーキを得た。このようにして得られたケーキに純水を加えて、TiO2換算の濃度が110g/Lであるアナターゼ型含水酸化チタンの水スラリーを得た。
【0050】
(2)チタン酸バリウム前駆体を含む水スラリーの調製
容量が5Lの反応容器に、純水567mLと水酸化バリウム八水和物(堺化学工業株式会社製)959gとを入れて100℃に加熱することによって、水酸化バリウム八水和物を水に溶解させた。このようにして、水酸化バリウム水溶液を調製した。
【0051】
温度を100℃に保った上記含水酸化チタンの水スラリーを、温度を100℃に保った上記水酸化バリウム水溶液に、1時間かけて加えて反応液とした。その後、それらを100℃で2時間反応させて、BaTiO3換算の濃度が0.66モル/L濃度のチタン酸バリウム前駆体を含む水スラリーを得た。水酸化バリウム水溶液に含水酸化チタンの水スラリーを加え終わった時点でのBa/Tiモル比は2.3であった。
【0052】
(3)チタン酸バリウム前駆体を含む水スラリーの水熱処理
上記のチタン酸バリウム前駆体を含む水スラリーをオートクレーブ容器に入れ、1気圧以上の圧力下において160℃で24時間水熱合成することによって、チタン酸バリウム粒子と第1の水性液体とを含む水スラリー(第1の混合物)を得た。このようにして、工程(i)を行った。その後、水スラリーを室温まで放冷した。
【0053】
(4)水洗およびエタノールによる置換
上記(3)によって得られた水スラリーを濾過および水で洗浄してケーキを得た。次に、当該ケーキを2.2Lの水に加えた後、撹拌することによって水スラリーをほぐした。このようにして得られた水スラリーの固形分は131g/Lであった。このスラリー2L(チタン酸バリウム:262g)を、直径が150mmのブフナー漏斗(ヌッチェ)を用いて濾過した。次に、ブフナー漏斗に残存した混合物(チタン酸バリウム粒子と第3の水性液体とを含む第2の混合物)に含まれる第3の水性液体(実質的に水)の一部を、エタノールで置換した。具体的には、上記混合物にエタノール1047mLを加えて濾過した。このとき、チタン酸バリウムの粒子1gあたり、4mLのエタノールを使用したことになる。このようにして、第3の水性液体(実質的に水)の少なくとも一部がエタノールに置換された混合物A1(第3の混合物)を得た。なお、第1の混合物から第3の混合物を得るまでの過程において、第1~第3の混合物中の液体成分の含有率は、3質量%以上に維持された。
【0054】
上記混合物A1についてカールフィッシャー滴定で含水率を測定した結果、1.0質量%であった。すなわち、混合物A1のうちの1.0質量%が水分であった。5gの混合物A1を95℃で乾燥させて固形分を測定したところ、固形分(チタン酸バリウム)の含有率は70質量%であった。すなわち、混合物A1中の液体成分は30質量%であり、混合物A1中の水分(含水率)は1.0質量%であった。したがって、液体成分における水の含有率W(%)は、100×1/30=3.3%であった。また、チタン酸バリウムの質量に対する水分の質量の割合は、100×1/70=1.4%であった。すなわち、混合物A1中の水分の質量は、混合物A1中のチタン酸バリウムの質量の1.4%であった。
【0055】
混合物A1を乾燥させてチタン酸バリウムの粒子のSEM写真を撮影し、SEM画像上の任意の234個の粒子を選んでそれらの面積を求めた。そして、それらの粒子が真円であると仮定したときの直径(円等価径)を求めた。さらにその直径の個数平均径を求めた。そのようにして求められたチタン酸バリウム粒子の平均径は62nmであった。
【0056】
(5)第4の混合物の作製
ポリプロピレン容器に、マリアリムAKM-0531(日油株式会社製の分散剤)を0.3g入れ、さらに、23g(チタン酸バリウム約16.1g、エタノール約6.7g)の混合物A1を入れた。さらに、当該容器にトルエン12gとエタノール5.2gとを入れ、容器内のトルエンとエタノールとがそれぞれ約12gとなるようにした。このようにして、チタン酸バリウム粒子の含有率が約40質量%である第4の混合物を得た。
【0057】
(6)分散処理、塗膜の形成および評価
上記の第4の混合物に、50gのジルコニアビーズ(直径0.3mm)を入れ、遊星ボールミルで分散処理を行った。分散処理の後、混合物からビーズを除去した。ビーズ除去後の混合物を少量ガラス板上に滴下した。そして、当該混合物を、ギャップが25μmのアプリケーターを用いて塗膜にした。この塗膜を、95℃で10分間乾燥させることによって、チタン酸バリウムの塗膜FA1を得た。塗膜FA1の表面の粗さ(算術平均粗さRa)を、表面粗さ計で測定した。表面の粗さは、東京精密株式会社製のサーフコムTOUCHを用いて測定した。
【0058】
[混合物A2およびそれを用いた塗膜FA2の作製]
混合物A2の製造では、最初に、混合物A1の上記手順(1)~(3)を、上記と同じ条件で実施した。
【0059】
(4)水洗およびエタノールによる置換
上記(3)によって得られた水スラリーを濾過および水で洗浄してケーキを得た。次に、当該ケーキを2.2Lの水に加えた後、撹拌することによって水スラリーをほぐした。このようにして得られた水スラリーの固形分は131g/Lであった。このスラリー2L(チタン酸バリウム:262g)を、直径が150mmのブフナー漏斗(ヌッチェ)を用いて濾過した。次に、ブフナー漏斗に残存した混合物(チタン酸バリウム粒子と第3の水性液体とを含む第2の混合物)に含まれる第3の水性液体(実質的に水)の一部を、エタノールで置換した。具体的には、第2の混合物にエタノール1570mLを加えて濾過した。このとき、チタン酸バリウムの粒子1gあたり、6mLのエタノールを使用したことになる。このようにして、第3の水性液体の少なくとも一部がエタノールに置換された混合物A2(第3の混合物)を得た。
【0060】
上記混合物A2について、混合物A1と同様に含水率および固形分含有率を測定した。その結果、混合物A2の含水率は0.5質量%であり、固形分(チタン酸バリウム)の含有率は58質量%であった。すなわち、混合物A2中の液体成分は42質量%であり、混合物A2中の水分は0.5質量%であった。したがって、液体成分における水の含有率は、100×0.5/42=1.2質量%であった。また、チタン酸バリウムの質量に対する水分の質量の割合は、100×0.5/58=0.9%であった。
【0061】
(5)第4の混合物の作製
ポリプロピレン容器に、マリアリムAKM-0531を0.3g入れ、さらに、28g(チタン酸バリウム約16.2g、エタノール約11.6g)の混合物A2を入れた。さらに、当該容器にトルエン12gとエタノール0.2gとを入れ、容器内のトルエンとエタノールとがそれぞれ約12gとなるようにした。このようにして、チタン酸バリウム粒子の含有率が約40質量%である第4の混合物を得た。
【0062】
(6)分散処理、塗膜の形成および評価
上記の第4の混合物を用いて、混合物A1の上記(6)と同様に、分散処理、塗膜FA2の形成、および表面の粗さの測定を行った。
【0063】
[混合物A3およびそれを用いた塗膜FA3の作製]
混合物A3の製造では、最初に、混合物A1の上記手順(1)~(3)を、上記と同じ条件で実施した。
【0064】
(4)水洗およびエタノールによる置換
上記(3)によって得られた水スラリーを濾過および水で洗浄してケーキを得た。次に、当該ケーキを2.2Lの水に加えた後、撹拌することによって水スラリーをほぐした。このようにして得られた水スラリーの固形分は131g/Lであった。このスラリー2L(チタン酸バリウム:262g)を、直径が150mmのブフナー漏斗(ヌッチェ)を用いて濾過した。次に、ブフナー漏斗に残存した混合物(チタン酸バリウム粒子と第3の水性液体とを含む第2の混合物)に含まれる第3の水性液体(実質的に水)の一部を、エタノールで置換した。具体的には、第2の混合物にエタノール1048mLを加えて濾過した。このとき、チタン酸バリウムの粒子1gあたり、4mLのエタノールを使用したことになる。このようにして、第3の水性液体の少なくとも一部がエタノールに置換された混合物A3(第3の混合物)を得た。
【0065】
上記混合物A3について、混合物A1と同様に含水率および固形分含有率を測定した。その結果、混合物A3の含水率は1.0質量%であり、固形分(チタン酸バリウム)の含有率は77質量%であった。すなわち、混合物A3中の液体成分は23質量%であり、混合物A3中の水分は1.0質量%であった。したがって、液体成分における水の含有率は、100×1.0/23=4.3質量%であった。また、チタン酸バリウムの質量に対する水分の質量の割合は、100×1/77=1.3%であった。
【0066】
(5)第4の混合物の作製
ポリプロピレン容器に、マリアリムAKM-0531を0.3g入れ、さらに、21g(チタン酸バリウム約16.2g、エタノール約4.6g)の混合物A3を入れた。さらに、当該容器にトルエン12gとエタノール7.2gとを入れ、容器内のトルエンとエタノールとがそれぞれ約12gとなるようにした。このようにして、チタン酸バリウム粒子の含有率が約40質量%である混合物を得た。この混合物に、1.12gのポリビニルブチラール樹脂(バインダ、積水化学株式会社製のエスレックBM-S)を入れ、第4の混合物を得た。
【0067】
(6)分散処理、塗膜の形成および評価
上記の第4の混合物を用いて、混合物A1の上記(6)と同様に、分散処理、塗膜FA3の形成、および表面の粗さの測定を行った。
【0068】
[混合物A4およびそれを用いた塗膜FA4の作製]
混合物A4の製造では、最初に、混合物A1の上記手順(1)~(3)を、上記と同じ条件で実施した。
(4)水洗およびエタノールによる置換
上記(3)によって得られた水スラリーを濾過および水で洗浄してケーキを得た。次に、当該ケーキを2.2Lの水に加えた後、撹拌することによって水スラリーをほぐした。このようにして得られた水スラリーの固形分は131g/Lであった。このスラリー2L(チタン酸バリウム:262g)を、直径が150mmのブフナー漏斗(ヌッチェ)を用いて濾過した。次に、ブフナー漏斗に残存した混合物(チタン酸バリウム粒子と第3の水性液体とを含む第2の混合物)に含まれる第3の水性液体(実質的に水)の一部を、エタノールで置換した。具体的には、第2の混合物にエタノール1574mLを加えて濾過した。このとき、チタン酸バリウムの粒子1gあたり、6mLのエタノールを使用したことになる。このようにして、第3の水性液体の少なくとも一部がエタノールに置換された混合物A4(第3の混合物)を得た。
【0069】
上記混合物A4について、混合物A1と同様に含水率および固形分含有率を測定した。その結果、混合物A4の含水率は0.5質量%で、固形分(チタン酸バリウム)の含有率は75質量%であった。すなわち、混合物A4中の液体成分は25質量%であり、混合物A4中の水分は0.5質量%であった。したがって、液体成分における水の含有率は、100×0.5/25=2.0質量%であった。また、チタン酸バリウムの質量に対する水分の質量の割合は、100×0.5/75=0.7%であった。
【0070】
(5)第4の混合物の作製
ポリプロピレン容器に、マリアリムAKM-0531を0.3g入れ、さらに、21g(チタン酸バリウム約15.8g、エタノール約5.1g)の混合物A4を入れた。さらに、当該容器にトルエン12gとエタノール6.6gとを入れ、容器内のトルエンとエタノールとがそれぞれ約12gとなるようにした。このようにして、チタン酸バリウム粒子の含有率が約40質量%である第4の混合物を得た。
【0071】
(6)分散処理、塗膜の形成および評価
上記の第4の混合物を用いて、混合物A1の上記(6)と同様に、分散処理、塗膜FA4の形成、および表面の粗さの測定を行った。
【0072】
[乾燥粉C1およびそれを用いた塗膜FC1の作製]
乾燥粉C1の製造では、最初に、混合物A1の上記手順(1)~(3)を、上記と同じ条件で実施した。
【0073】
(4)水洗および乾燥
上記(3)によって得られた水スラリーを濾過および水で洗浄した後、130℃で乾燥させて水分を除去し、チタン酸バリウムの乾燥粉C1(第3の乾燥粉)を得た。なお、乾燥粉の含水率の測定はしていないが、含水率は実質的に0%であるとみなせると考えられる(以下の乾燥粉C3についても同様である)。そのため、第3の乾燥粉中のチタン酸バリウムの含有率を100質量%であるとみなす。
【0074】
(5)第4の混合物の作製
ポリプロピレン容器に、マリアリムAKM-0531を0.3g入れ、さらに、16gの乾燥粉C1(チタン酸バリウム)、トルエン12g、エタノール12gを入れた。このようにして、チタン酸バリウム粒子の含有率が約40質量%である第4の混合物を得た。
【0075】
(6)分散処理、塗膜の形成および評価
上記の第4の混合物を用いて、混合物A1の上記(6)と同様に、分散処理、塗膜FC1の形成、および表面の粗さの測定を行った。
【0076】
[混合物C2およびそれを用いた塗膜FC2の作製]
混合物C2の製造では、最初に、混合物A1の上記手順(1)~(3)を、上記と同じ条件で実施した。
【0077】
(4)水洗およびエタノールによる置換
上記(3)によって得られた水スラリーを濾過および水で洗浄してケーキを得た。次に、当該ケーキを2.2Lの水に加えた後、撹拌することによって水スラリーをほぐした。このようにして得られた水スラリーの固形分は131g/Lであった。このスラリー2L(チタン酸バリウム:262g)を、直径が150mmのブフナー漏斗(ヌッチェ)を用いて濾過した。次に、ブフナー漏斗に残存した混合物(チタン酸バリウム粒子と第3の水性液体とを含む第2の混合物)に含まれる第3の水性液体の一部を、エタノールで置換した。具体的には、第2の混合物にエタノール262mLを加えて濾過した。このとき、チタン酸バリウムの粒子1gあたり、1mLのエタノールを使用したことになる。このようにして、第3の水性液体の少なくとも一部がエタノールに置換された混合物C2を得た。
【0078】
上記混合物C2について、混合物A1と同様に含水率および固形分含有率を測定した。その結果、含水率は10質量%であり、固形分(チタン酸バリウム)の含有率は61質量%であった。すなわち、混合物C2中の液体成分は39質量%であり、混合物C2中の水分は10質量%であった。したがって、液体成分における水の含有率は、100×10/39=26質量%であった。また、チタン酸バリウムの質量に対する水分の質量の割合は、100×10/61=16.4%であった。
【0079】
(5)第4の混合物の作製
ポリプロピレン容器に、マリアリムAKM-0531を0.3g入れ、さらに、26g(チタン酸バリウム約15.9g、エタノール約7.5g)の混合物C2を入れた。さらに、当該容器にトルエン12gとエタノール1.9gとを入れた。このようにして、チタン酸バリウム粒子の含有率が約40質量%である第4の混合物を得た。
【0080】
(6)分散処理、塗膜の形成および評価
上記の第4の混合物を用いて、混合物A1の上記(6)と同様に、分散処理、塗膜FC2の形成、および表面の粗さの測定を行った。
【0081】
[乾燥粉C3およびそれを用いた塗膜FC3の作製]
乾燥粉C3の製造では、最初に、混合物A1の上記手順(1)~(3)を、上記と同じ条件で実施した。
【0082】
(4)水洗および乾燥
上記(3)によって得られた水スラリーを濾過および水で洗浄した後、130℃で乾燥させて水分を除去し、チタン酸バリウムの乾燥粉C3(第3の乾燥粉)を得た。
【0083】
(5)第4の混合物の作製
ポリプロピレン容器に、マリアリムAKM-0531を0.3g入れ、さらに、16gの乾燥粉C3(チタン酸バリウム)、トルエン12g、エタノール12gを入れた。このようにして、チタン酸バリウム粒子の含有率が約40質量%である混合物を得た。この混合物に、さらに、1.12gのポリビニルブチラール樹脂(エスレックBM-S)を入れて、第4の混合物を得た。
【0084】
(6)分散処理、塗膜の形成および評価
上記の第4の混合物を用いて、混合物A1の上記(6)と同様に、分散処理、塗膜FC3の形成、および表面の粗さの測定を行った。
【0085】
[混合物C4およびそれを用いた塗膜FC4の作製]
混合物C4の製造では、最初に、混合物A1の上記手順(1)~(3)を、上記と同じ条件で実施した。
【0086】
(4)水洗およびエタノールによる置換
上記(3)によって得られた水スラリーを濾過および水で洗浄してケーキを得た。次に、当該ケーキを2.2Lの水に加えた後、撹拌することによって水スラリーをほぐした。このようにして得られた水スラリーの固形分は131g/Lであった。このスラリー2L(チタン酸バリウム:262g)を、直径が150mmのブフナー漏斗(ヌッチェ)を用いて濾過した。ブフナー漏斗に残存した混合物C4について、混合物A1と同様に固形分含有率を測定した(含水率は固形分からの減算値とした)。混合物C4の固形分(チタン酸バリウム)の含有率は78質量%であり、含水率は22質量%であった。すなわち、第3の混合物中の液体成分(水分)は22質量%であった。混合物C4の液体成分における水の含有率は、100質量%であるとみなせる。また、チタン酸バリウムの質量に対する水分の質量の割合は、100×22/78=28.2%であった。
【0087】
(5)第4の混合物の作製
ポリプロピレン容器に、マリアリムAKM-0531を0.3g入れ、さらに、ブフナー漏斗に残存した上記混合物C4を21g(チタン酸バリウム約16.4g)入れた。さらに、当該容器にトルエン12gとエタノール12gとを入れた。このようにして、チタン酸バリウム粒子の含有率が約36質量%である第4の混合物を得た。
【0088】
(6)分散処理、塗膜の形成および評価
上記の第4の混合物を用いて、混合物A1の上記(6)と同様に、分散処理、塗膜FC4の形成、および表面の粗さの測定を行った。
【0089】
[混合物C5およびそれを用いた塗膜FC5の作製]
混合物C5の製造では、最初に、混合物A1の上記手順(1)~(3)を、上記と同じ条件で実施した。
【0090】
(4)水洗およびエタノールによる置換
上記(3)によって得られた水スラリーを濾過および水で洗浄してケーキを得た。次に、当該ケーキを1.2Lの水に加えた後、撹拌することによって水スラリーをほぐした。このようにして得られた水スラリーの固形分は371g/Lであった。このスラリー1L(チタン酸バリウム:371g)を、直径が150mmのブフナー漏斗(ヌッチェ)を用いて濾過した。次に、ブフナー漏斗に残存した混合物(チタン酸バリウム粒子と第3の水性液体とを含む第2の混合物)に含まれる第3の水性液体の一部を、エタノールで置換した。具体的には、第2の混合物にエタノール371mLを加えて濾過した。このとき、チタン酸バリウムの粒子1gあたり、1mLのエタノールを使用したことになる。このようにして、第3の水性液体の少なくとも一部がエタノールに置換された混合物C5を得た。
【0091】
上記混合物C5について、混合物A1と同様に水分含有率および固形分含有率を測定した。その結果、混合物C5の含水率は10質量%であり、固形分(チタン酸バリウム)の含有率は75質量%であった。すなわち、混合物C5中の液体成分は25質量%であり、C5混合物中の水分は10質量%であった。したがって、液体成分における水の含有率は、100×10/25=40質量%であった。また、チタン酸バリウムの質量に対する水分の質量の割合は、100×10/75=13.3%であった。
【0092】
(5)第4の混合物の作製
ポリプロピレン容器に、マリアリムAKM-0531を0.3g入れ、さらに、21g(チタン酸バリウム約15.8g、エタノール約3.2g)の混合物C5を入れた。さらに、当該容器にトルエン12gとエタノール6.7gとを入れた。このようにして、チタン酸バリウム粒子の含有率が約40質量%である混合物を得た。この混合物に、さらに、1.12gのポリビニルブチラール樹脂(エスレックBM-S)を入れて、第4の混合物を得た。
【0093】
(6)分散処理、塗膜の形成および評価
上記の第4の混合物を用いて、混合物A1の上記(6)と同様に、分散処理、塗膜FC5の形成、および表面の粗さの測定を行った。
【0094】
上記の混合物および塗膜の形成条件の一部、および、評価結果の一部を表1に示す。なお、表1のEtOHおよびPVBはそれぞれ、エタノールおよびポリビニルブチラールを示す。また、表1の「EtOH使用量」は、置換処理において、固形分1gあたりに使用したエタノールの量を示す。なお、固形分(チタン酸バリウム粒子)の質量に対する水の質量の割合(%)は、100×(第3の混合物の含水率(質量%))/(第3の混合物における固形分の含有率(質量%))で求められる。
【0095】
【0096】
表1に示すように、本開示の製造方法によって得られた混合物A1~A4を用いて製造された塗膜は、表面の算術平均粗さRaが小さかった。表1の結果は、第3の混合物中の液体成分における水の含有率が10質量%以下(例えば4.3質量%以下)で良好な結果が得られたことを示している。表1に示すように、第3の混合物中の水の質量が、第3の混合物中の固形分(チタン酸バリウム)の質量の1.4%以下であることが好ましい。また、表1に示すように、第2の工程の洗浄において、固形分(チタン酸バリウム)1gあたり4mL以上のエタノールを使用することが好ましい。表1に示すように、第3の混合物の含水率は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。
【0097】
以上のように、本開示の製造方法を用いることによって、平滑性が高い積層セラミックコンデンサのグリーンシートを製造できることが示された。