(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047100
(43)【公開日】2022-03-24
(54)【発明の名称】回転電機のロータ及び回転電機のロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/16 20060101AFI20220316BHJP
【FI】
H02K15/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020152835
(22)【出願日】2020-09-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】片桐 慶大
【テーマコード(参考)】
5H615
【Fターム(参考)】
5H615AA01
5H615BB14
5H615PP02
5H615SS08
5H615SS53
(57)【要約】
【課題】バランス調整できる回転電機のロータ及び回転電機のロータの製造方法を提供すること。
【解決手段】筒部材16は、バランス調整部30と、非調整部31と、を有する。バランス調整部30は、筒部材16の周方向の一部に設けられている。バランス調整部30の外面である平面30aは、筒部材16の軸線L1に平行に延びる。平面30aは、非調整部31の外周面31aを通過する仮想線Pよりも筒部材16の軸線L1寄りに位置している。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒部材と、
前記筒部材内に配置される磁性体と、
前記筒部材と一体回転する軸部材と、を備える回転電機のロータであって、
前記筒部材は、当該筒部材の周方向の一部に設けられるバランス調整部と、
前記周方向のうち前記バランス調整部以外の位置の非調整部と、を有し、
前記筒部材の外面のうち前記バランス調整部における外面は、前記非調整部の周面に沿って延びる円弧を前記バランス調整部に延長した仮想線よりも前記筒部材の軸線寄りに位置していることを特徴とする回転電機のロータ。
【請求項2】
前記バランス調整部における外面は、前記筒部材の軸線と平行な平面状であることを特徴とする請求項1に記載の回転電機のロータ。
【請求項3】
前記バランス調整部は、前記筒部材の軸線方向の全域に亘って設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の回転電機のロータ。
【請求項4】
前記筒部材は、非磁性の金属製であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の回転電機のロータ。
【請求項5】
筒部材と、
前記筒部材内に配置される磁性体と、
前記筒部材と一体回転する軸部材と、を備える回転電機のロータの製造方法であって、
前記筒部材の前駆体の内側に前記磁性体が配置されるとともに前記前駆体の内側に前記軸部材が固定された状態で前記前駆体の周方向の一部を切削してバランス調整部を形成することにより製造され、前記前駆体は、ロータの回転中心線と重心線とのアンバランス量が所定の値以下になるように、前記前駆体の外周面を切削することを特徴とする回転電機のロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機のロータ及び回転電機のロータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に開示されているように、回転電機のロータは、円筒状の筒部材と、筒部材内に配置される円柱状の磁性体と、筒部材と一体回転する軸部材と、を備える。回転電機のロータにおいて、筒部材の軸線がロータの回転中心線を通過するが、ロータの回転中心線とロータの重心線とにずれが生じると、ロータのアンバランスが生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1に開示の回転電機のロータにおいては軸部材を切削することにより、ロータの重心線をロータの回転中心線に近づけてバランス調整する手法は確立していなかった。
【0005】
本発明の目的は、バランス調整できる回転電機のロータ及び回転電機のロータの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する回転電機のロータは、筒部材と、前記筒部材内に配置される磁性体と、前記筒部材と一体回転する軸部材と、を備える回転電機のロータであって、前記筒部材は、当該筒部材の周方向の一部に設けられるバランス調整部と、前記周方向のうち前記バランス調整部以外の位置の非調整部と、を有し、前記筒部材の外面のうち前記バランス調整部における外面は、前記非調整部の周面に沿って延びる円弧を前記バランス調整部に延長した仮想線よりも前記筒部材の軸線寄りに位置している。
【0007】
これによれば、筒部材の周方向の一部に設けられるバランス調整部によってロータのバランス調整が行われることで、ロータの重心線が回転中心線に近付けられ、ロータのアンバランスが解消されている。
【0008】
上記回転電機のロータにおいて、前記バランス調整部における外面は、前記筒部材の軸線と平行な平面状であるとよい。
筒部材の軸線に直交する方向に沿って筒部材を外側から見ることを平面視とする。バランス調整のために筒部材を切削する寸法を一定とした場合、平面視においてバランス調整部の平面状の部分が広くなるほど、筒部材の切削の深さを浅くできる。したがって、バランス調整部を、筒部材の一部分に平面視点状となるように設ける場合に比べて、筒部材の切削の深さを浅くできる。その結果、筒部材の厚さのうちバランス調整部の厚さが薄くなりすぎることを抑制できる。
【0009】
上記回転電機のロータにおいて、前記バランス調整部は、前記筒部材の軸線方向の全域に亘って設けられているとよい。
これによれば、バランス調整部が筒部材の軸線方向の一部分に設けられる場合と比べて、筒部材を形成するための前駆体の切削寸法を小さくできるため、筒部材の厚さが薄くなりすぎることをさらに抑制することができる。
【0010】
上記回転電機のロータにおいて、前記筒部材は、非磁性の金属製であるとよい。
これによれば、筒部材が磁性の金属製である場合に比べて、筒部材にバランス調整部を設けても磁束の流れに影響を与えない。
【0011】
上記課題を解決する回転電機のロータの製造方法は、筒部材と、前記筒部材内に配置された磁性体と、前記筒部材と一体回転する軸部材と、を備える回転電機のロータの製造方法であって、前記筒部材の前駆体の内側に前記磁性体が配置されるとともに前記前駆体の内側に前記軸部材が固定された状態で前記前駆体の周方向の一部を切削してバランス調整部を形成することにより製造され、前記前駆体は、ロータの回転中心線と重心線とのアンバランス量が所定の値以下になるように、前記前駆体の外周面を切削する。
【0012】
これによれば、ロータの重心線と回転中心線とが一致していない場合に、ロータをバランス調整できる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、バランス調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図6】別の実施形態における回転電機を示す断面図。
【
図7】別の実施形態における回転電機を示す断面図。
【
図8】別の実施形態における回転電機を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、回転電機のロータ及び回転電機のロータの製造方法を具体化した一実施形態を
図1~
図5にしたがって説明する。
図1に示すように、回転電機10は、筒状のハウジング11内に収容されている。ハウジング11は、有底筒状の第1ハウジング構成体12と、第1ハウジング構成体12に連結される板状の第2ハウジング構成体13と、を備える。第1ハウジング構成体12及び第2ハウジング構成体13は金属製であり、例えば、アルミニウム製である。
【0016】
第1ハウジング構成体12は、板状の底壁12aと、底壁12aの外周部から筒状に延びる周壁12bと、を有する。第2ハウジング構成体13は、周壁12bにおける底壁12aとは反対側の開口を閉塞した状態で第1ハウジング構成体12に連結されている。
【0017】
第1ハウジング構成体12の底壁12aの内面には、円筒状のボス部12cが突出した状態で設けられている。ボス部12cの軸線は、第1ハウジング構成体12の周壁12bの軸線と一致している。また、第2ハウジング構成体13の内面には、円筒状のボス部13cが突出した状態で設けられている。ボス部13cの軸線は、第1ハウジング構成体12の周壁12bの軸線と一致している。よって、両ボス部12c,13cの軸線は一致している。
【0018】
回転電機10は、ステータ14と、ロータ15と、第1空気軸受21と、第2空気軸受22と、を備える。ステータ14は、第1ハウジング構成体12の周壁12bの内周面に固定される円筒状のステータコア14aと、ステータコア14aに巻回されるコイル14bと、を有する。ロータ15は、ステータ14の径方向内側に回転可能な状態でハウジング11に配置されている。
【0019】
ロータ15は、筒部材16と、磁性体である永久磁石17と、軸部材としての第1軸部材18及び第2軸部材19と、を備える。筒部材16は、筒部材16の軸線L1が直線状に延びる略円筒状である。筒部材16は、金属材料からなり、例えばチタン、ニッケル合金、及びステンレス鋼といった非磁性の金属製である。
【0020】
永久磁石17は、中実円柱状である。永久磁石17は、永久磁石17の径方向に着磁されている。永久磁石17は、筒部材16の内周面16aに圧入されることにより筒部材16の内側に配置されている。永久磁石17の軸線L2は、筒部材16の軸線L1と一致している。永久磁石17の軸線方向の長さは、筒部材16の軸線方向の長さより短い。
【0021】
第1軸部材18は、筒部材16の第1端部16bに設けられ、第1端部16bの開口を閉塞している。第2軸部材19は、筒部材16の第2端部16cに設けられ、第2端部16cの開口を閉塞している。第1軸部材18及び第2軸部材19は、例えば金属製である。
【0022】
第1軸部材18は、第1圧入部18a、第1フランジ18b、及び第1軸部18cを有する。第1圧入部18aは、円柱状をなしている。第1圧入部18aは、筒部材16の内周面16aにおける軸線方向の第1端部16bに圧入されている。よって、第1軸部材18は、筒部材16及び永久磁石17と一体回転する。第1軸部材18の軸線L3は、筒部材16の軸線L1と一致している。
【0023】
第1フランジ18bは、第1圧入部18aに連続するとともに第1圧入部18aよりも直径が大きい円板状である。第1軸部18cは、第1フランジ18bにおける第1圧入部18aとは反対側の端部に連続する円柱状である。第1軸部18cの直径は、第1圧入部18aの直径と等しい。なお、第1圧入部18aの直径は、第1軸部18cの直径と同じでなくてもよい。
【0024】
第1フランジ18bにおける第1圧入部18a側の側面は、筒部材16の第1端部16bに当接している。第1軸部18cは、ボス部13cの内側を通過するとともに第2ハウジング構成体13を貫通してハウジング11外へ突出している。ボス部13cの内周面と第1軸部18cの周面との間には、第1空気軸受21が設けられている。そして、第1軸部材18は、第1軸部18cが第1空気軸受21を介してボス部13cに支持されることにより、ハウジング11に回転可能に支持されている。
【0025】
第1軸部18cにおける第1フランジ18bとは反対側の端部には、タービン23が設けられている。タービン23は、第1軸部材18と一体回転する。よって、タービン23は、第1軸部材18の回転が駆動力として伝達されることにより駆動する。
【0026】
第2軸部材19は、第2圧入部19a、第2フランジ19b、及び第2軸部19cを有する。第2圧入部19aは、円柱状をなしている。第2圧入部19aは、筒部材16の内周面16aにおける軸線方向の第2端部16cに圧入されている。よって、第2軸部材19は、筒部材16及び永久磁石17と一体回転する。したがって、筒部材16、永久磁石17、第1軸部材18、及び第2軸部材19は、一体回転する。第2軸部材19の軸線L4は、筒部材16の軸線L1と致している。したがって、筒部材16の軸線L1と一致する第1軸部材18の軸線L3は、第2軸部材19の軸線L4と一致している。そして、ロータ15において、筒部材16の軸線L1と、永久磁石17の軸線L2と、第1軸部材18の軸線L3と、第2軸部材19の軸線L4とが一致する。ロータ15は、軸線L1~L4と一致する回転中心線Mを回転中心として回転する。ロータ15の回転中心線Mは、ロータ15の重心線Jと一致する。ここで、「重心線」とは、ロータ15の回転中心線Mに対して平行に延びるとともにロータ15の重心を通過する直線を指す。
【0027】
第2フランジ19bは、第2圧入部19aに連続するとともに第2圧入部19aよりも直径が大きい円板状である。第2軸部19cは、第2フランジ19bにおける第2圧入部19aとは反対側の端部に連続する円柱状である。第2軸部19cの直径は、第2圧入部19aの直径と等しい。なお、第2圧入部19aの直径は、第2軸部19cの直径と同じでなくてもよい。
【0028】
第2フランジ19bにおける第2圧入部19a側の側面は、筒部材16の第2端部16cに当接している。ボス部12cの内周面と第2軸部19cの周面との間には、第2空気軸受22が設けられている。そして、第2軸部材19は、第2軸部19cが第2空気軸受22を介してボス部12cに支持されることにより、ハウジング11に回転可能に支持されている。
【0029】
図2又は
図3に示すように、筒部材16は、略円筒状である。筒部材16は、バランス調整部30と、非調整部31と、を有する。バランス調整部30は、筒部材16の周方向の一部及び軸線方向の全域に亘って設けられている。筒部材16の外面のうち、バランス調整部30における外面を平面30aとする。平面30aは、筒部材16の軸線L1に対して平行に延びる。
【0030】
筒部材16の軸線L1に直交する方向を径方向とする。径方向に沿って筒部材16を外側から見ることを平面視とする。筒部材16の平面視において、バランス調整部30の平面30aは長四角形状である。平面30aの長手は、筒部材16の軸線方向に延び、平面30aの短手は、筒部材16の径方向に延びる。
【0031】
非調整部31は、筒部材16におけるバランス調整部30以外の位置に設けられる部位である。筒部材16の外面のうち、非調整部31における外面を外周面31aとする。筒部材16の軸線方向に沿って筒部材16を外側から見ることを軸方向視とする。筒部材16の軸方向視において、非調整部31の外周面31aは円弧状である。したがって、筒部材16の軸方向視において、バランス調整部30の平面30aと、非調整部31の外周面31aとは境界線Nを境に交差している。
【0032】
ここで、
図5に示すように、筒部材16の軸方向視において、非調整部31の外周面31aの円弧をバランス調整部30に向けて延長した仮想線Pを想定する。筒部材16の軸方向視において、外周面31aを通過する円弧と仮想線Pを繋いで形成される線は円形状になり、この円は後述する前駆体40の外周面に沿って延びる。
【0033】
筒部材16の軸方向視において、バランス調整部30の平面30aは、仮想線Pよりも筒部材16の軸線L1寄りに位置している。バランス調整部30の平面30aの短手方向の中央を通過し、かつ平面30aの長手方向に延びる仮想直線を中央線Cとする。中央線Cは、筒部材16の軸線L1と仮想線Pの頂点P1を結ぶ線上に位置している。
【0034】
筒部材16にバランス調整部30が設けられず、筒部材16の周面が仮想線Pに沿っている場合、つまり、筒部材16の周方向全体が非調整部31である場合を比較例とする。また、筒部材16の径方向への寸法を厚さDとする。筒部材16のバランス調整部30における厚さDは比較例よりも薄くなっている。また、筒部材16の径方向に沿う仮想線Pから平面30aまでの寸法をバランス調整部30の深さFとする。
【0035】
バランス調整部30の厚さDは、平面30aの短手方向の両端となる両境界線Nで最も厚く、平面30aの短手方向の中央線Cに向けて徐々に薄くなっている。つまり、バランス調整部30の深さFは、仮想線Pの頂点P1から中央線Cまでが最も深く、両境界線Nに近づくに連れて徐々に浅くなっている。また、バランス調整部30の深さFは、筒部材16の軸線方向に一定である。平面30aの軸線方向における長さは、筒部材16の軸線方向における長さと等しい。
【0036】
次に、ロータ15の製造方法について
図1、
図4、及び
図5にしたがって説明する。
筒部材16の前駆体40の内側に永久磁石17を配置する。その後、前駆体40の図示しない第1端部側に第1軸部材18の第1圧入部18aを圧入するとともに、第1フランジ18bを前駆体40の第1端部に当接させる。また、前駆体40の図示しない第2端部側に第2軸部材19の第2圧入部19aを圧入するとともに、第2フランジ19bを前駆体40の第2端部に当接させる。
【0037】
前駆体40は、バランス調整部30が設けられる前の部材である。前駆体40は、円筒状である。前駆体40の外径は、筒部材16の非調整部31の外周面31aでの外径と一致する。前駆体40の内径は、筒部材16のバランス調整部30及び非調整部31のいずれにおける内径とも一致する。
【0038】
また、筒部材16の第1端部16bは、前駆体40の軸線方向の第1端部よって形成される。筒部材16の第2端部16cは、前駆体40の軸線方向の第2端部よって形成される。そして、筒部材16のバランス調整部30は、前駆体40を外周面40aから切削することにより形成される。非調整部31は、前駆体40のうち、バランス調整部30以外の部位によって形成され、バランス調整部30を形成すると同時に形成される。
【0039】
前駆体40の製造誤差等を原因として、前駆体40の外径中心線と内径中心線とにずれが生じる場合がある。前駆体40の径方向への寸法を前駆体厚さD1とする。前駆体40の外径中心線と内径中心線とにずれが生じ、そのずれが大きくなるほど、前駆体40の同軸度が大きくなる。前駆体40の同軸度が大きい部位ほど前駆体厚さD1が厚くなり、前駆体40の周方向に沿って前駆体厚さD1が一定でなくなる。また、前駆体40の重心線は、内径中心線から前駆体厚さD1が厚い部位に向けてずれる。
【0040】
また、前駆体40の内径中心線は永久磁石17の軸線L2と一致するため、永久磁石17の軸線L2と前駆体40の外径中心線とにずれが生じる。第1軸部材18の軸線L3及び第2軸部材19の軸線L4は、前駆体40の内径中心線と一致する。このため、第1軸部材18の軸線L3及び第2軸部材19の軸線L4と前駆体40の外径中心線とにずれが生じる。
【0041】
その結果、永久磁石17と、第1軸部材18と、第2軸部材19と、前駆体40とを組付けて形成された組付部品の重心線Jは前駆体40の内径中心線よりも外側にずれることになる。ロータ15の製造方法においては、上記組付部品の重心線Jが回転中心線Mからどの程度のずれが生じているかを測定する。
【0042】
重心線Jを回転中心線Mに近づけるために前駆体40を切削する。まず、前駆体40を切削するアンバランス量を測定する。ここで、「アンバランス量」とは、回転中心線Mと重心線Jとの釣り合い良さを所定の値以下にするために切削する前駆体40の重量を指す。また、「所定の値」とは、回転中心線Mと重心線Jとの釣り合い良さを指す。具体的には、JISB0905に規定される釣り合い良さの等級において、G2.5級以下であればよい。
【0043】
次に、算出されたアンバランス量の分だけ、前駆体40の外周面40aを前駆体40の内径中心線に対して平行に切削する。本実施形態では、前駆体厚さD1が最も厚い部位を前駆体40の周方向位置として識別する。前駆体厚さD1が最も厚い位置は、仮想線Pの頂点P1と一致する。
【0044】
次に、算出されたアンバランス量と、前駆体40の軸線方向全体の寸法とから、前駆体40の径方向に切削する寸法を算出する。前駆体40の径方向に切削する寸法を、単に「切削寸法」と記載する。この切削寸法は、バランス調整部30の深さFと一致する。
【0045】
そして、前駆体厚さD1が最も厚い位置の切削寸法が最も多くなるように、前駆体40を径方向に切削する。また、前駆体厚さD1が最も厚い位置を基準として周方向両側へ等距離離れた位置まで切削する。すると、厚さD及び平面30aを有するバランス調整部30が形成されると同時に非調整部31が形成される。その結果、筒部材16が形成されると同時にロータ15が製造される。
【0046】
前駆体40の切削後におけるロータ15の重心線Jは、回転中心線Mと一致している。つまり、筒部材16の軸線L1は、ロータ15の回転中心線Mを通過する。
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0047】
上記構成のロータ15において、図示しない駆動回路によって制御された電力がコイル14bに供給されると、ロータ15が回転する。
ロータ15の回転時において、重心線Jと回転中心線Mとが一致しているため、ロータ15の振れは抑制される。
【0048】
上記実施形態では以下の効果を得ることができる。
(1)筒部材16の周方向の一部に設けられるバランス調整部30によってロータ15のバランス調整が行われることで、ロータ15の重心線Jが回転中心線Mに近付けられ、ロータ15のアンバランスが解消されている。
【0049】
(2)バランス調整部30が存在せず、仮想線Pに筒部材16の外周面31aが沿っている場合、つまり、筒部材16の周方向全体が非調整部31である場合と比べると、筒部材16のバランス調整部30における厚さは薄くなっており、軽量化されている。
【0050】
(3)バランス調整部30は、平面30aを有する。バランス調整部30を、筒部材16の周方向の一部分に平面視点状となるように設ける場合と比べて、筒部材16の切削の深さを浅くできるため、筒部材16の厚さのうちバランス調整部30の厚さが薄くなりすぎることを抑制できる。その結果、筒部材16の強度の低下を抑制することができる。
【0051】
(4)バランス調整部30が筒部材16の軸線方向の全域に設けられている。バランス調整部30が筒部材16の軸線方向の一部分に設けられる場合と比べて、前駆体40の切削寸法を小さくできるため、筒部材16の厚さが薄くなりすぎることをさらに抑制することができる。その結果、筒部材16の強度の低下をさらに抑制することができる。
【0052】
(5)筒部材16は、非磁性の金属製であるため、筒部材16にバランス調整部30を設けても磁束の流れに影響を与えない。
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0053】
○
図6に示すように、軸線方向において、筒部材16の長さが第1空気軸受21と第2空気軸受22との間の長さよりも長くてもよい。この場合、「軸線方向の全域」とは、筒部材16の軸線方向の部位のうち、第1空気軸受21及び第2空気軸受22による支持のない部位の全域を指す。したがって、筒部材16の軸線方向において、第1空気軸受21によって支持される部位、及び第2空気軸受22によって支持される部位には、非調整部31が設けられていればよい。
【0054】
○
図7に示すように、ロータ15は、第1軸部材18のみを有していてもよい。この場合、筒部材16の軸線方向において、永久磁石17の第1軸部材18とは反対側となる第2端部16cに有底筒状のキャップ部材50が設けられる。キャップ部材50は、被支持部50aと底部50bとを有する。被支持部50aは、円筒状である。底部50bは、円盤状である。被支持部50aは、底部50bから立設している。筒部材16の第2端部16cは、キャップ部材50の被支持部50aを介して第2空気軸受22に支持されている。筒部材16の第2端部16cは、非調整部31のみで構成されていてもよいし、バランス調整部30及び非調整部31を有していてもよい。なお、「軸線方向の全域」とは、筒部材16の軸線方向の部位のうち、第2空気軸受22による支持のない部位の全域を指す。
【0055】
○
図8に示すように、回転電機10は、第1空気軸受21のみを有していてもよい。このとき、筒部材16における軸線方向の中央部に非調整部31を有していればよい。径方向において、筒部材16は、第1空気軸受21を介してボス部13cに支持されていればよい。なお、第1空気軸受21に支持される非調整部31は、永久磁石17と径方向に重合しない位置に設けられる。バランス調整部30は、筒部材16の軸線方向における非調整部31の両側に設けられる。
【0056】
○ 実施形態において、筒部材16は、非磁性の金属製であったが、これに限らず、例えば、炭素繊維強化プラスチック製等であってもよい。なお、第1軸部材18及び第2軸部材19の材料よりも軽く、強度の高い材料が好適である。
【0057】
○ 実施形態において、筒部材16は、平面30aを設けることによってバランス調整されたバランス調整部30を有していたが、これに限らない。例えば、バランス調整部30は、径方向に沿う断面がV字状をなす形状でもよい。同様に、平面視で、バランス調整部30の外面が円弧状をなすように設けられてもよい。さらに、バランス調整部30の外面が、半球状をなすように、軸線方向へ一定の深さのない形状でもよい。
【0058】
○ 実施形態において、磁性体としては、永久磁石に限らず、例えば、積層コア、アモルファスコア、又は、圧粉コア等であってもよい。
以下、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想を追記する。
【0059】
(イ)請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の回転電機のロータを備えることを特徴とする回転電機。
【符号の説明】
【0060】
10…回転電機、15…ロータ、16…筒部材、17…磁性体である永久磁石、18…軸部材としての第1軸部材、19…軸部材としての第2軸部材、30…バランス調整部、30a…外面としての平面、31…非調整部、31a…周面としての外周面、40…前駆体、40a…外周面、J…重心線、L1…軸線、M…回転中心線、P…仮想線。