(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047104
(43)【公開日】2022-03-24
(54)【発明の名称】樹脂組成物、液状樹脂組成物、液状樹脂組成物の製造方法、エッチング装置及び反応容器
(51)【国際特許分類】
C08L 27/12 20060101AFI20220316BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20220316BHJP
C08L 71/00 20060101ALI20220316BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20220316BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20220316BHJP
H02N 13/00 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
C08L27/12
C08K3/08
C08L71/00
H01L21/302 101H
H01L21/68 R
H02N13/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020152840
(22)【出願日】2020-09-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】石川 史朗
(72)【発明者】
【氏名】倉田 悠都
【テーマコード(参考)】
4J002
5F004
5F131
【Fターム(参考)】
4J002BD121
4J002CH052
4J002DA116
4J002FD016
4J002GQ00
4J002GR00
5F004AA15
5F004AA16
5F004BA04
5F004BB13
5F004BB18
5F004BB22
5F004BB23
5F004BB25
5F004BB28
5F004BB29
5F004BC06
5F004DA01
5F004DA26
5F131AA02
5F131CA15
5F131CA17
5F131DA33
5F131DA42
5F131EA03
5F131EB11
5F131EB78
5F131EB79
5F131EB82
(57)【要約】
【課題】耐熱性と耐フッ素ラジカル性に優れ、熱伝導度が高く、フッ素ラジカルが発生するエッチング装置に使用した場合に、パーティクルが発生しにくい樹脂組成物を提供する。
【解決手段】フッ素系樹脂及びフッ素系エラストマーの少なくとも一方と、シリコン粉末とを含む樹脂組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系樹脂及びフッ素系エラストマーの少なくとも一方と、シリコン粉末とを含み、フッ素ラジカルが発生するエッチング装置用である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記シリコン粉末は、平均粒子径が0.1μm以上400μm以下の範囲内にある、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記シリコン粉末は、粒子径が0.1μm以上400μm以下の範囲内の粒度分布において少なくとも2つのピークを有する、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記フッ素系樹脂及び前記フッ素系エラストマーの少なくとも一方と前記シリコン粉末の合計量に対する前記シリコン粉末の含有量が、30体積%以上90体積%以下の範囲内にある、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
加熱又は紫外線の照射によって、フッ素系樹脂及びフッ素系エラストマーの少なくとも一方を生成する液状フッ素系化合物と、シリコン粉末とを含み、フッ素ラジカルが発生するエッチング装置用である、液状樹脂組成物。
【請求項6】
結晶シリコン塊状物を粉砕して、シリコン粉末を得る工程と、
加熱又は紫外線の照射によって、フッ素系樹脂及びフッ素系エラストマーの少なくとも一方を生成する液状フッ素系化合物と、前記シリコン粉末とを混合する工程と、を含む、請求項5に記載の液状樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記結晶シリコン塊状物は、結晶シリコン製品の製造工程で回収された回収物である、請求項6に記載の液状樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
フッ素ラジカルが発生するエッチング装置用であって、
内面の少なくとも一部が、請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物で被覆されている、反応容器。
【請求項9】
フォーカスリングと、フォーカスリングを支持する支持台とを備えるフッ素ラジカルが発生するエッチング装置であって、
前記フォーカスリングと前記支持台との間の少なくとも一部に、請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物が配置されている、エッチング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、液状樹脂組成物、液状樹脂組成物の製造方法、エッチング装置及び反応容器に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェハやガラス基板などの被処理体をエッチング処理するためのエッチング装置として、フッ素含有ガスをプラズマ化することによって生成したフッ素ラジカルを用いて、被処理体をエッチング処理する装置が知られている。このエッチング装置では、フッ素含有ガスのプラズマ化によって発生した熱によって、エッチング処理の条件が変動しないようにすることが必要となる。また、反応容器の内部がフッ素ラジカルによって劣化することを防止することが必要となる。
【0003】
熱によるエッチング処理の条件の変動を抑えるために、被処理体の周囲を保護する円環状の部材(フォーカスリング)と、そのフォーカスリングを支持する支持台との間に、熱伝導度が高い伝熱シートを配置することが検討されている(特許文献1)。伝熱シートとしては、樹脂成分とフィラー成分とを含む樹脂組成物が検討されている。
【0004】
また、フッ素ラジカルによる反応容器の内部の劣化を抑えるために、フッ素含有ガスを供給するためのガス供給板や反応容器の内面を、耐プラズマ性を有する溶射膜で被覆することが検討されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-9563号公報
【特許文献2】特開2016-28379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フォーカスリングと、その支持台との間に伝熱シートを配置した場合は、伝熱シートの樹脂成分が熱やフッ素ラジカルによって劣化することによって、フィラー成分が外部に露出し、微細なパーティクルとして樹脂成分から脱離することがある。また、反応容器の内面を溶射膜で被覆した場合は、溶射膜の一部がフッ素ラジカルによって劣化することによって微細なパーティクルとして脱離することがある。パーティクルが反応容器の内部で飛散すると、被処理体の表面に付着して、被処理体を汚染するおそれがある。このため、長期間にわたって安定して、被処理体をエッチング処理することが難しい。
【0007】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、耐熱性と耐フッ素ラジカル性に優れ、熱伝導度が高く、フッ素ラジカルが発生するエッチング装置に使用した場合に、パーティクルが発生しにくい樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、上記の樹脂組成物の原料として有利に用いることができる液状樹脂組成物と、その液状樹脂組成物の製造方法を提供することも、その目的とする。さらに、本発明は、長期間にわたって安定して、被処理体をエッチング処理することができるエッチング装置及びそのエッチング装置用である反応容器を提供することも、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の樹脂組成物は、フッ素系樹脂及びフッ素系エラストマーの少なくとも一方と、シリコン粉末とを含み、フッ素ラジカルが発生するエッチング装置用である。
【0009】
この構成の樹脂組成物によれば、樹脂成分として、フッ素系樹脂及びフッ素系エラストマーの少なくとも一方を含むので、耐熱性と耐プラズマが向上する。また、この構成の樹脂組成物は、シリコン粉末を含むので熱伝導度が高くなる。さらに、シリコン粉末はフッ素ラジカルと反応して、SiF4(四フッ化ケイ素)ガスを生成しやすい。このため、上記の構成の樹脂組成物は、樹脂成分が熱やフッ素ラジカルによって劣化して、シリコン粉末が外部に露出したときには、露出したシリコン粉末をSiF4ガスとして反応容器の外部に排出させることができる。よって、上記の構成の樹脂組成物は、フッ素ラジカルが発生するエッチング装置で使用した場合にパーティクルが発生しにくい。
【0010】
ここで、本発明の樹脂組成物において、前記シリコン粉末は、平均粒子径が0.1μm以上400μm以下の範囲内にあることが好ましい。
この場合、シリコン粉末は、平均粒子径が0.1μm以上とされていて、表面積が大きく、樹脂成分との密着性が向上するため、樹脂成分の劣化によってシリコン粉末が外部に露出したときでも、樹脂成分から脱離しにくくなる。また、シリコン粉末は平均粒子径が400μm以下とされているので、樹脂成分の劣化によって外部に露出したシリコン粉末は、フッ素ラジカルと反応しやすく、SiF4ガスとして反応容器の外部に放出させやすい。よって、パーティクルが発生しにくい。
【0011】
また、本発明の樹脂組成物において、前記シリコン粉末は、粒子径が0.1μm以上400μm以下の範囲内の粒度分布において少なくとも2つのピークを有することが好ましい。
この場合、シリコン粉末は粒度分布の幅が広いので、相対的に粒子径が大きいシリコン粒子同士の間に相対的に粒子径が小さいシリコン粒子を介在させることができ、樹脂組成物のシリコン粉末の含有量を多くすることができる。シリコン粉末の含有量を多くすることによって、樹脂組成物の熱伝導度をより高くすることが可能となる。
【0012】
さらに、本発明の樹脂組成物において、前記フッ素系樹脂及び前記フッ素系エラストマーの少なくとも一方と前記シリコン粉末の合計量に対する前記シリコン粉末の含有量が、30体積%以上90体積%以下の範囲内にあることが好ましい。
この場合、シリコン粉末の含有量が30体積%以上とされているので、樹脂組成物の熱伝導度をより確実に高くすることができる。また、シリコン粉末の含有量が90体積%以下とされていて、樹脂成分の含有量が10体積%以上であるので、形状安定性、塗布性が向上する。
【0013】
本発明の液状樹脂組成物は、加熱又は紫外線の照射によって、フッ素系樹脂及びフッ素系エラストマーの少なくとも一方を生成する液状フッ素系化合物と、シリコン粉末とを含み、フッ素ラジカルが発生するエッチング装置用である。
この構成の液状樹脂組成物によれば、加熱又は紫外線の照射によって、フッ素系樹脂及びフッ素系エラストマーの少なくとも一方を生成する液状フッ素系化合物を含むので、例えば、反応容器の内壁面のように湾曲した表面や凹凸を有する表面に均一に塗布することができる。よって、この構成の液状樹脂組成物を用いることによって、前述の樹脂組成物を様々な場所に形成することができる。
【0014】
本発明の前記液状樹脂組成物の製造方法は、結晶シリコン塊状物を粉砕して、シリコン粉末を得る工程と、加熱又は紫外線の照射によって、フッ素系樹脂及びフッ素系エラストマーの少なくとも一方を生成する液状フッ素系化合物と、前記シリコン粉末とを混合する工程と、を含む。
この構成の液状樹脂組成物の製造方法によれば、シリコン粉末を、結晶シリコン塊状物を粉砕することによって得るので、パーティクルの発生源となる不純物の少ない、高純度のシリコン粉末を用いることができる。このため、この構成の製造方法によって得られた液状樹脂組成物を用いることによって、耐熱性、耐フッ素ラジカル性、熱伝導度などの特性が安定した樹脂組成物を得ることができる。
【0015】
本発明の液状樹脂組成物の製造方法において、前記結晶シリコン塊状物は、結晶シリコン製品の製造工程で回収された回収物であることが好ましい。
この場合、結晶シリコン製品の製造工程で利用されずに回収された回収物を用いてシリコン粉末を得るので、高純度のシリコン粉末を比較的安価に得ることができる。
【0016】
本発明の反応容器は、フッ素ラジカルが発生するエッチング装置用であって、内面の少なくとも一部が、前述の樹脂組成物で被覆されている。
この構成の反応容器によれば、内面が前述の樹脂組成物で被覆されているので、耐熱性、耐フッ素プラズマ性が向上すると共に、樹脂組成物の劣化によるパーティクルの発生が起こりにくくなる。このため、この構成の反応容器を用いることによって、長期間にわたって安定して、被処理体をエッチング処理することができる。
【0017】
本発明のエッチング装置は、フォーカスリングと、前記フォーカスリングを支持する支持台とを備えるフッ素ラジカルが発生するエッチング装置であって、前記フォーカスリングと前記支持台との間の少なくとも一部に、前述の樹脂組成物が配置されている。
この構成のエッチング装置によれば、フォーカスリングと支持台との間に前述の樹脂組成物が配置されているので、フォーカスリングと支持台との間の熱伝導性が向上すると共に、樹脂組成物の劣化によるパーティクルの発生が起こりにくくなる。このため、この構成のエッチング装置を用いることによって、長期間にわたって安定して、被処理体をエッチング処理することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐熱性と耐フッ素ラジカル性に優れ、熱伝導度が高く、フッ素ラジカルが発生するエッチング装置に使用した場合に、パーティクルが発生しにくい樹脂組成物を提供することが可能となる。また、本発明によれば、上記の樹脂組成物の原料として有利に用いることができる液状樹脂組成物と、その液状樹脂組成物の製造方法を提供することも可能となる。さらに、本発明によれば、長期間にわたって安定して、被処理体をエッチング処理することができるエッチング装置及びそのエッチング装置用である反応容器を提供することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係るエッチング装置の断面図である。
【
図2】
図1のエッチング装置の被処理体支持部を拡大した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施形態である樹脂組成物、液状樹脂組成物、液状樹脂組成物の製造方法、エッチング装置及び反応容器について添付した図面を参照して説明する。
本実施形態に係るエッチング装置は、例えば、半導体デバイス製造プロセスに使用され、フッ素ラジカル用いてエッチング処理を行なう装置である。本実施形態に係る反応容器は、そのエッチング装置の反応容器である。本実施形態に係る樹脂組成物及び液状樹脂組成物は、そのエッチング装置に用いられるものである。
【0021】
本実施形態に係る樹脂組成物は、樹脂成分として、フッ素系樹脂(フッ素樹脂、フッ素含有樹脂)及びフッ素系エラストマー(フッ素エラストマー、フッ素含有エラストマー)の少なくとも一方を含み、フィラー成分としてシリコン粉末を含む。樹脂成分は、フッ素系樹脂を単独で含んでいてもよいし、フッ素系エラストマーを単独で含んでいてもよいし、フッ素系樹脂とフッ素系エラストマーとの混合物として含んでいてもよい。フッ素系樹脂は弾性を有することが好ましい。樹脂組成物は、フッ素系樹脂及び/又はフッ素系エラストマーをマトリックスバインダーとし、このマトリックスバインダー中にシリコン粉末が分散された構成であることが好ましい。
【0022】
フッ素系樹脂は、フッ素含有基を主鎖に有するものであることが好ましい。また、フッ素系エラストマーは、フッ素含有基と三次元架橋構造を有するフッ素含有三次元架橋性化合物であることが好ましい。フッ素含有基としては、パーフルオロアルキレン基-(CF2)x-(xは1以上の整数)及びパーフルオロポリエーテル基を挙げることができる。パーフルオロポリエーテル基としては、例えば、-(CF2CF2O)m(CF2O)n-(m、nは1以上の整数)、-(CF2CF2CF2O)p-(pは1以上の整数)、-(CF2CF(CF3)O)q-(qは1以上の整数)などを挙げることができる。三次元架橋構造としては、ケイ素と炭素の結合を有する有機ケイ素構造、シロキサン結合を有するシリコーン構造、エポキシ結合を有するエポキシ構造、ウレタン結合を有するウレタン構造などを挙げることができる。フッ素含有三次元架橋性化合物は一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
シリコン粉末は、高純度であることが好ましい。シリコン粉末の純度は、99.99質量%以上であることが好ましく、99.9999質量%以上であることがより好ましく、99.999999質量%以上であることが特に好ましい。シリコン粉末が高純度であることによって、エッチング装置内の汚染を防止することができる。
【0024】
シリコン粉末は、単結晶体であってもよいし、多結晶体であってもよい。シリコン粉末の形状は、特に制限はなく、例えば、球形、楕円球形、円柱状、角柱状、扁平状、繊維状であってもよい。また、シリコン粉末の形状は、不定形であってもよい。シリコン粉末が球形である場合、球形度は高い方が好ましい。シリコン粉末は、平均粒子径が0.1μm以上400μm以下の範囲内にあってもよい。さらに、シリコン粉末は、粒子径が0.1μm以上400μm以下の範囲内の粒度分布において少なくとも2つのピークを有してもよい。なお、シリコン粒子の粒度分布は、レーザー回折式粒度分布装置を用いて測定した値であってもよい。粒度分布測定用のシリコン粒子の分散液は、例えば、シリコン粒子を分散剤と共にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶媒中に投入し、超音波分散によってシリコン粒子を分散させることによって調製してもよい。
【0025】
樹脂組成物のシリコン粉末の含有量は、樹脂成分(フッ素系樹脂及び/又はフッ素系エラストマー)とシリコン粉末の合計量に対するシリコン粉末の含有量として、30体積%以上90体積%以下の範囲内にあることが好ましい。シリコン粉末の含有量は、40体積%以上80体積%以下の範囲内にあることがより好ましい。
【0026】
樹脂組成物は、補強材が添加されていてもよい。補強材としては、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、アルミナ水和物、窒化アルミニウム(AlN)、炭化珪素(SiC)、酸化チタン(TiO2)、窒化ホウ素(BN)、炭素などを用いることができる。補強材の形状は、特に制限はなく、例えば、球形、楕円球形、円柱状、角柱状、扁平状、繊維状であってもよい。また、補強材の形状は、不定形であってもよい。補強材の含有量は、樹脂に対して0.1質量%以上50質量%以下の範囲内にあってもよく、特に0.1質量%以上10質量%以下の範囲内にあってもよい。補強材が添加されることによって、樹脂組成物の引張強度を向上させることができる。
【0027】
樹脂組成物は、シート状であってもよい。
シート状の樹脂組成物は、例えば、後述の液状フッ素系化合物を基板の上に塗布し、得られた塗布層を加熱する又は塗布層に紫外線を照射することによって形成することができる。
【0028】
本実施形態の樹脂組成物は、フッ素ラジカルが発生するエッチング装置用であり、エッチング処理装置の内部で使用される。樹脂組成物は、例えば、エッチング処理装置の反応容器の内面の保護材として用いることができる。また、樹脂組成物は、例えば、エッチング処理装置の反応容器内にエッチングガスを導入する導入部の部品や被処理材を支持する支持部の部品の間に配置して、部品間の熱伝導性を向上させる伝熱材や部品間の接合性を向上させる接着剤として用いることができる。
【0029】
以上のような構成とされた本実施形態の樹脂組成物によれば、樹脂成分として、フッ素系樹脂及びフッ素系エラストマーの少なくとも一方を含むので、耐熱性と耐プラズマが向上する。また、本実施形態の樹脂組成物は、シリコン粉末を含むので熱伝導度が高くなる。さらに、シリコン粉末はフッ素ラジカルと反応して、SiF4ガスを生成しやすい。このため、本実施形態の樹脂組成物は、樹脂成分が熱やフッ素ラジカルによって劣化して、シリコン粉末が外部に露出したときには、露出したシリコン粉末をSiF4ガスとして反応容器の外部に排出させることができる。よって、本実施形態の樹脂組成物は、フッ素ラジカルが発生するエッチング装置で使用した場合にパーティクルが発生しにくい。
【0030】
本実施形態の樹脂組成物において、シリコン粉末の平均粒子径が0.1μm以上とされている場合、シリコン粉末は、表面積が大きく、樹脂成分との密着性が向上するため、樹脂成分の劣化によってシリコン粉末が外部に露出したときでも、樹脂成分から脱離しにくくなる。また、シリコン粉末の平均粒子径が400μm以下とされている場合、樹脂成分の劣化によって外部に露出したシリコン粉末は、フッ素ラジカルと反応しやすく、SiF4ガスとして反応容器の外部に放出させやすい。よって、パーティクルが発生しにくい。
【0031】
また、本実施形態の樹脂組成物において、シリコン粉末は、粒子径が0.1μm以上400μm以下の範囲内の粒度分布において少なくとも2つのピークを有する場合、シリコン粉末は粒度分布の幅が広いので、相対的に粒子径が大きいシリコン粒子同士の間に相対的に粒子径が小さいシリコン粒子を介在させることができ、樹脂組成物のシリコン粉末の含有量を多くすることができる。シリコン粉末の含有量を多くすることによって、樹脂組成物の熱伝導度をより高くすることが可能となる。
【0032】
さらに、本実施形態の樹脂組成物において、樹脂成分とシリコン粉末の合計量に対するシリコン粉末の含有量が30体積%以上とされている場合は、樹脂組成物の熱伝導度をより確実に高くすることができる。また、シリコン粉末の含有量が90体積%以上とされている場合は、樹脂成分の含有量が10体積%以上となるので、形状安定性、塗布性が向上する。
【0033】
本実施形態に係る液状樹脂組成物は、樹脂組成物の原料として有利に用いることができるものである。本実施形態の液状樹脂組成物は、加熱又は紫外線の照射によって、フッ素系樹脂及びフッ素系エラストマーの少なくとも一方を生成する液状フッ素系化合物と、シリコン粉末とを含む。
【0034】
液状フッ素系化合物は、加熱又は紫外線の照射によって、フッ素含有三次元架橋性化合物を生成するフッ素含有架橋性化合物であることが好ましい。フッ素含有架橋性化合物としては、フッ素含有架橋性有機ケイ素化合物、フッ素含有架橋性シリコーン化合物、フッ素含有架橋性エポキシ化合物、フッ素含有架橋性ウレタン化合物を用いることができる。フッ素系化合物の市販品の例としては、信越化学工業株式会社製のSHIN-ETSU SIFEL(登録商標)を挙げることができる。
【0035】
液状樹脂組成物に含まれるシリコン粉末は、前述の樹脂組成物に含まれるシリコン粉末と同じである。また、液状樹脂組成物に含まれるシリコン粉末の含有量は、加熱又は紫外線の照射によって生成する樹脂成分とシリコン粉末の合計量に対するシリコン粉末の含有量として、30体積%以上90体積%以下の範囲内にあることが好ましい。
【0036】
液状樹脂組成物は、さらに、補強材、フッ素系オイル、揮発性溶媒を含んでいてもよい。補強材の例は、前述の樹脂組成物の場合と同じである。フッ素系オイルは、液状樹脂組成物の粘度調整剤として作用する。フッ素系オイルは、パーフルオロポリエーテル基を有する液状のポリマーであることが好ましい。パーフルオロポリエーテル基の例は、上記フッ素系樹脂及びフッ素系エラストマーの場合と同じである。フッ素系オイルのポリマーは、パーフルオロポリエーテル基に、直鎖状又は分岐鎖状の飽和又は不飽和の炭化水素基、芳香族基、ヘテロ原子を含む炭化水素基が結合していてもよい。フッ素系オイルの市販品の例としては、ソルベイ社より販売されているフォンブリン(登録商標)、ダイキン工業株式会社より販売されているデムナム(登録商標)、ケマーズ社より販売されているクライトックス(登録商標)等が挙げられる。揮発性溶媒の市販品の例としては、3M社より販売されているNovec(登録商標)が挙げられる。
【0037】
液状樹脂組成物は、例えば、シリコン粉末の作製工程と、混合工程とを含む方法によって製造することができる。
シリコン粉末の作製工程は、結晶シリコン塊状物を粉砕して、シリコン粉末を得る工程である。結晶シリコン塊状物としては、シリコンウェハや太陽電池の基板などの結晶シリコン製品の粉砕物、上記結晶シリコン製品の製造工程で回収された回収物の粉砕物を用いることができる。結晶シリコン製品の製造工程で回収された回収物の例としては、結晶シリコン製品の規格外品、結晶シリコン製品の製造時に行なわれる切削や破砕によって生成する小片を挙げることができる。また、結晶シリコン製品の製造原料として用いられる大型の多結晶シリコンロッドの製造方法としてシーメンス法が知られている(例えば、国際公開第2018/164197号を参照)。このシーメンス法によって得られる多結晶シリコンロッドの除去された部分を回収して上記の回収物として利用してもよい。結晶シリコン塊状物を粉砕してシリコン粉末を得る方法としては、例えば、ジョークラッシャーなどの粗粉砕機を用いて粗破砕し、得られた粗粉砕物を、ボールミルを用いて微粉砕する方法を用いることができる。得られたシリコン粉末は、篩などの分級装置を用いて粒度を調整してもよい。
【0038】
混合工程は、加熱又は紫外線の照射によって、フッ素系樹脂及びフッ素系エラストマーの少なくとも一方を生成する液状フッ素系化合物と、上記のシリコン粉末とを混合する工程である。液状フッ素系化合物とシリコン粉末とを混合する方法については特に制限はなく、樹脂成分とフィラー成分とを混合する方法として工業的に利用されている各種の方法を用いることができる。
【0039】
以上のような構成とされた本実施形態の液状樹脂組成物によれば、加熱又は紫外線の照射によって、フッ素系樹脂及びフッ素系エラストマーの少なくとも一方を生成する液状フッ素系化合物を含むので、例えば、反応容器の内壁面のように湾曲した表面や凹凸を有する表面に均一に塗布することができる。よって、この構成の液状樹脂組成物を用いることによって、本実施形態の樹脂組成物を様々な場所に形成することができることができる。
【0040】
また、本実施形態の液状樹脂組成物の製造方法によれば、シリコン粉末を、結晶シリコン塊状物を粉砕することによって得るので、パーティクルの発生源となる不純物の少ない、高純度のシリコン粉末を用いることができる。このため、この構成の製造方法によって得られた液状樹脂組成物を用いることによって、耐熱性、耐フッ素ラジカル性、熱伝導度などの特性が安定した樹脂組成物を得ることができる。さらに、本実施形態の液状樹脂組成物の製造方法においては、結晶シリコン塊状物として結晶シリコン製品の製造工程で利用されずに回収された回収物を用いることによって、高純度のシリコン粉末を比較的安価に得ることができる。
【0041】
本実施形態のエッチング装置は、フッ素ラジカルを用いて、半導体ウェハやガラス基板などの被処理体をエッチングする装置である。
図1は、本発明の一実施形態に係るエッチング装置の断面図である。
図1に示すように、エッチング装置100は、反応容器10と、エッチングガス導入部20と、被処理体支持部30とを有する。
【0042】
反応容器10は、ゲートバルブ11と、排気口12とを備える。
ゲートバルブ11は、被処理体50を反応容器10に出し入れするための開閉可能な開口部である。排気口12は、反応容器10の内部で生成した反応ガス52を外部に排気するための開口部である。反応容器10の内面は、保護材13で被覆されている。
図1に示すエッチング装置100では、反応容器10の側部の内面が保護材13で被覆されている。保護材13の材料としては、前述の樹脂組成物が用いられている。保護材13は、例えば、反応容器10の内面に、前述の液状樹脂組成物を塗布し、得られた塗布層を加熱する又は塗布層に紫外線を照射することによって、フッ素系樹脂及びフッ素系エラストマーの少なくとも一方を生成させて、塗布層を硬化させることによって形成することができる。
【0043】
エッチングガス導入部20は、反応容器10の上部に絶縁部材15を介して固定されている。エッチングガス導入部20は、ガス導入基材21と、冷却板24と、電極板25とを備える。ガス導入基材21は、上部にガス導入部22を有し、下部に電極固定部23を有する。電極板25は、ガス導入基材の電極固定部23に、冷却板24を介して固定されている。電極固定部23、冷却板24及び電極板25は厚み方向に貫通する多数の通気孔26を有しており、ガス導入部22から導入されたガスは、通気孔26を通って電極板25の下方に供給されるようにされている。電極板25は、高周波電源41と接続している。
【0044】
被処理体支持部30は、エッチングガス導入部20の電極板25に対向する位置に配置されている。被処理体支持部30は、支持台31、フォーカスリング33、静電チャック34、抜熱板35を備える。
支持台31は平面視で円形状とされている。支持台31の外周部にフォーカスリング33が配置されている。支持台31の中央部に抜熱板35が配置され、抜熱板35の上に静電チャック34が配置されている。支持台31は、内部に第2冷媒流路32を有し、冷却部としても機能する。また、支持台31は、アース42と接続し、電極部としても機能する。静電チャック34は、高周波電源(図示せず)と接続している。
【0045】
支持台31とフォーカスリング33との間には、Oリング36と第1伝熱材37とが配置されている。Oリング36は内側に配置されている。第1伝熱材37はOリング36の外側に、平面視で円環状に配置されている。Oリング36の材料としては、例えば、シリコーンゴム、フッ素系エラストマーなどの耐熱性の弾性体を用いることができる。第1伝熱材37の材料としては、前述の樹脂組成物が用いられている。第1伝熱材37は、例えば、支持台31の上に、前述の液状樹脂組成物を円環状に塗布し、得られた塗布層を加熱する又は塗布層に紫外線を照射することによって、塗布層を硬化させることによって形成することができる。支持台31と第1伝熱材37との間及びフォーカスリング33と第1伝熱材37との間の少なくとも一方に中間層を設けてもよい。中間層は、アルミナ、イットリア、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などセラミックの焼結体であってもよい。また、フォーカスリング33は、複数の円弧状部材を周方向にリング状に接着して形成されたものであってもよい。この複数個の円弧状部材を接着して形成された構成のフォーカスリングは、特開2011-3730号公報に記載されている。この構成のフォーカスリングにおいて、複数個の円弧状部材を接着する接着剤として、前述の樹脂組成物を用いてもよい。
【0046】
静電チャック34と抜熱板35との間には、第2伝熱材38が配置されている。第2伝熱材38の材料としては、前述の樹脂組成物が用いられている。第2伝熱材38は、例えば、抜熱板35の上に、前述の液状樹脂組成物を塗布し、得られた塗布層を加熱する又は塗布層に紫外線を照射することによって、塗布層を硬化させることによって形成することができる。
【0047】
被処理体50は、静電チャック34の上に配置される。被処理体50のフォーカスリング33は被処理体50の周囲を保護する。被処理体50は、例えば、半導体ウェハやガラス基板である。
【0048】
エッチング装置100による被処理体50のエッチング処理は、次のようにして行なわれる。
先ず、反応容器10のゲートバルブ11を開いて、ゲートバルブ11から被処理体50を、静電チャック34の上に配置する。次いで、ゲートバルブ11を閉じた後、エッチングガス導入部20のガス導入部22から、反応容器10の内部にエッチングガス51を導入する。エッチングガスとしては、例えば、CF4(四フッ化メタン)ガスとO2(酸素)ガスの混合ガスを用いることができる。反応容器10の内部に導入されたエッチングガス51は、電極固定部23、冷却板24及び電極板25に設けられた通気孔26を通って、電極板25と被処理体50との間の空間に供給される。
【0049】
次いで、高周波電源41を用いて、電極板25と支持台31との間に高周波電圧を印加する。これによって、電極板25と被処理体50との間に供給されたエッチングガスが励起されて、フッ素ラジカルを含むプラズマと熱が発生する。プラズマのフッ素ラジカルによって被処理体50がエッチング処理され、SiF4ガスが生成する。SiF4ガスを含む反応ガス52は、排気口12を通って反応容器10の外部に排気される。電極板25に伝わった熱は、冷却板24を介してガス導入基材21に伝熱される。ガス導入基材21に伝わった熱は外部に放熱される。一方、被処理体50に伝わった熱は、フォーカスリング33と第1伝熱材37を介して、あるいは静電チャック34と第2伝熱材38と抜熱板35を介して支持台31に伝熱される。支持台31に伝わった熱は、第2冷媒流路32を流れる冷媒により反応容器10の外部に放熱される。
【0050】
以上のような構成とされた本実施形態のエッチング装置100によれば、反応容器10の内面が、本実施形態の樹脂組成物を用いた保護材13で被覆されているので、耐熱性、耐フッ素プラズマ性が向上すると共に、保護材13の劣化によるパーティクルの発生が起こりにくくなる。また、フォーカスリング33と支持台31との間に本実施形態の樹脂組成物を含む第1伝熱材37が配置されているので、フォーカスリング33と支持台31との間の熱伝導性が向上すると共に、第1伝熱材37の劣化によるパーティクルの発生が起こりにくくなる。さらに、静電チャック34と抜熱板35との間に本実施形態の樹脂組成物を含む第2伝熱材38が配置されているので、静電チャック34と抜熱板35との間の熱伝導性が向上すると共に、第2伝熱材38の劣化によるパーティクルの発生が起こりにくくなる。よって、本実施形態のエッチング装置100によれば、長期間にわたって安定して、被処理体50をエッチング処理することができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態のエッチング装置100においては、反応容器10の内面が保護材13で被覆され、フォーカスリング33と支持台31との間に第1伝熱材37が配置され、静電チャック34と抜熱板35との間に第2伝熱材38が配置されているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、反応容器10の材料や形状によって、保護材13で被覆しない構成としてもよい。また、フォーカスリング33と支持台31との間に第1伝熱材37を配置して、静電チャック34と抜熱板35との間に第2伝熱材38を配置しない構成としてもよいし、静電チャック34と抜熱板35との間に第2伝熱材38を配置して、フォーカスリング33と支持台31との間に第1伝熱材37を配置しない構成としてもよい。また、本実施形態のエッチング装置100においては、反応容器10の側部の内面のみが保護材13で被覆されているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、反応容器10全体の内面を樹脂組成物で被覆してもよい。
【実施例0052】
[本発明例1]
パーフルオロポリエーテル基を有し、熱架橋性を有するゲル系エラストマーI(X-71-6053-6A、信越化学工業社製)を8.7質量部、パーフルオロポリエーテル基を有し、熱架橋性を有するゲル系エラストマーII(X-71-6053-6B、信越化学工業株式会社製)を9.0質量部の割合で混合して、液状フッ素系化合物を調製した。得られた液状フッ素系化合物とシリコン粉末とを、加熱によって生成する樹脂成分とシリコン粉末の合計体積量に対するシリコン粉末の量が60体積%となる割合で混合した。得られた混合物を、自転・公転真空ミキサー(あわとり練太郎ARV-310、株式会社シンキー社製)を用いて、脱泡しながら混練して液状樹脂組成物を作製した。
【0053】
シリコン粉末としては、多結晶シリコン塊状物を粉砕したものを用いた。多結晶シリコン塊状物は、カーボン電極を用いたシーメンス法により作製した多孔質シリコンロッドを、カーボン電極側端部から30mmの位置で切断し、回収して得た回収物を用いた。シリコン粉末は、上記の多孔質シリコン塊状物を、ジョークラッシャーを用いて粗破砕し、次いでボールミルを用いて粉砕した後、分級することによって作製した。得られたシリコン粉末の粒度分布を、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定した結果、平均粒子径は40μm、第1ピークの粒子径は18μm、第2ピークの粒子径は50μmであった。
【0054】
[本発明例2~5]
加熱によって生成する樹脂成分とシリコン粉末の合計体積量に対するシリコン粉末の量が、下記の表1に示すフィラー含有量となる割合で液状フッ素系化合物とシリコン粉末とを混合したこと以外は、本発明例1と同様にして、液状樹脂組成物を作製した。
【0055】
[本発明例6]
樹脂成分として、パーフルオロポリエーテル基を有し、熱架橋性を有するエラストマー(X-71-359、信越化学工業株式会社製)を用いたこと以外は、本発明例1と同様にして、液状樹脂組成物を作製した。
【0056】
[比較例1]
シリコン粉末の代わりに、アルミナ粉末(平均粒子径:50μm、粒度分布に2つ以上のピークなし)を用いたこと以外は、本発明例1と同様にして、液状樹脂組成物を作製した。
【0057】
[比較例2]
樹脂成分として、シリコーンゴム(KE-1950-10A及びKE-1950-10B、信越化学工業株式会社製)を用いたこと以外は、本発明例1と同様にして、液状樹脂組成物を作製した。
【0058】
[評価]
本発明例1~6及び比較例1~2で得られた液状樹脂組成物について、下記の方法により、フッ素ラジカルの暴露によるパーティクル発生の有無、フッ素ラジカルの暴露による質量減少量、熱伝導度を測定した。
【0059】
(パーティクル発生の有無の測定)
ステンレス基板(50mm×50mm)の上に液状樹脂組成物を塗布し、得られた塗布層を1次加硫ならびに2次加硫することにより、10mm×10mmの四角形状で、厚さが0.3mmの樹脂組成物層を形成して、樹脂組成物層付ステンレス基板を作製する。得られた樹脂組成物層付ステンレス基板を、樹脂組成物層が上となるように、プラズマ発生装置に設置する。プラズマ発生装置内にCF4ガスとO2ガスとを体積比が1:2の割合で、全圧が100Paとなるように供給しながら、1500Wのマイクロ波を用いてフッ素ラジカルを60秒間発生させて、その後60秒間フッ素ラジカルの発生を止める操作を30回繰り返して、樹脂組成物層の表面にフッ素プラズマを合計30分間暴露する。暴露後、プラズマ発生装置から樹脂組成物層付ステンレス基板を取り出して、樹脂組成物層付ステンレス基板の表面に導電性カーボンテープを張り付けた後、直ちに剥がし取る。剥がし取った導電性カーボンテープの粘着面を、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて、600μm×400μmの範囲を観察し、粘着面に付着した粒子径が0.1μm以上のフィラー成分(パーティクル)の個数を計測する。パーティクルの個数は5箇所で計測し、その平均値を算出する。パーティクルの平均個数が300個以下の場合を「〇」とし、300個を超えて、3000個以下の場合を「△」とし、3000個を超えた場合を「×」とする。
【0060】
(質量減少量の測定)
上記パーティクル発生の有無の測定と同様に、樹脂組成物層付ステンレス基板を作製し、樹脂組成物層付ステンレス基板の樹脂組成物層の表面にフッ素プラズマを合計30分間暴露する。下記の式より、フッ素プラズマによるフッ素ラジカルの暴露による質量減少量を算出する。
質量減少量[質量%]=(X-Y)/X×100
ただし、上記の式中、Xは、フッ素プラズマを暴露する前の樹脂組成物層付ステンレス基板の質量を表し、Yは、フッ素プラズマを暴露した後の樹脂組成物層付ステンレス基板の質量を表す。
【0061】
(熱伝導度の測定)
熱伝導度は、定常法により測定する。上記パーティクル発生の有無と同様に樹脂組成物層付ステンレス基板を作製する。ただし、ステンレス基板の上に塗布する液状樹脂組成物の量を変えることによって、樹脂組成物層の厚さが150μm、250μm、400μmと異なる複数個の樹脂組成物層付ステンレス基板を作製する。得られた複数個の樹脂組成物層付ステンレス基板について、それぞれ樹脂組成物層の熱抵抗Rを測定する。R×100mm2を従属変数とし、樹脂組成物層の厚さを独立変数として、最小二乗法を用いて回帰係数を求める。得られた回帰係数の逆数を熱伝導度とする。
【0062】
【0063】
樹脂成分として、フッ素系樹脂及びフッ素系エラストマーの少なくとも一方を含み、フィラー成分として、シリコン粉末を含む本発明例1~6の樹脂組成物は、比較例1の樹脂組成物と比較してフッ素ラジカルの暴露によるパーティクルの発生が少なくなった。また、本発明例1~6の樹脂組成物は、比較例2の樹脂組成物と比較してフッ素ラジカルの暴露による質量減少量が少なくなった。特に、シリコン粉末の含有量が80質量%以下の本発明例1~4、6の樹脂組成物は、比較してフッ素ラジカルの暴露による質量減少量が少なった。また、樹脂組成物の熱伝導度は、シリコン粉末の含有量の増加に伴って高くなった。
【0064】
本発明例1~6の樹脂組成物において、パーティクルの発生が少ないのは、フッ素ラジカルの暴露による樹脂成分の劣化によって外部に露出したシリコン粉末がフッ素ラジカルと反応してSiF4ガスとして消失したためである。これに対して、フィラー成分として、アルミナ粉末を用いた比較例1の樹脂組成物において、パーティクルの発生が多いのは、アルミナ粉末は耐フッ素ラジカル性に優れるため、フッ素ラジカルの暴露による樹脂成分の劣化によって外部に露出したアルミナ粉末が消失せずに多量に残存し、この外部に露出したアルミナ粉末が粘着テープの粘着面に付着したためである。
【0065】
また、本発明例1~6の樹脂組成物において、質量減少量が少ないのは、フッ素系樹脂及びフッ素系エラストマーが優れた耐フッ素ラジカル性を有するためである。これに対して、樹脂成分として、シリコーンゴムを用いた比較例2の樹脂組成物において、フッ素ラジカルの暴露による質量減少量が多くなったのは、シリコーン樹脂は耐フッ素ラジカル性が劣るため、フッ素ラジカルの暴露によって樹脂成分が多量に分解し消失すると共に、外部に露出したシリコン粉末がフッ素ラジカルと反応してSiF4ガスとして消失したためである。