(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047219
(43)【公開日】2022-03-24
(54)【発明の名称】定着構造体
(51)【国際特許分類】
D07B 9/00 20060101AFI20220316BHJP
E04G 21/12 20060101ALI20220316BHJP
E01D 19/16 20060101ALI20220316BHJP
E04C 5/12 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
D07B9/00
E04G21/12 104C
E01D19/16
E04C5/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020153001
(22)【出願日】2020-09-11
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム「革新材料による次世代インフラシステムの構築~安全・安心で地球と共存できる数世紀社会の実現~」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】000184687
【氏名又は名称】小松マテーレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】内藤 公喜
(72)【発明者】
【氏名】林 豊
(72)【発明者】
【氏名】中山 武俊
(72)【発明者】
【氏名】細川 穂奈美
(72)【発明者】
【氏名】阿部 拓也
【テーマコード(参考)】
2D059
2E164
3B153
【Fターム(参考)】
2D059AA41
2D059DD27
2E164AA31
2E164BA12
2E164BA50
2E164DA01
2E164DA22
3B153AA02
3B153AA22
3B153BB01
3B153CC26
3B153CC42
3B153CC43
3B153EE22
3B153EE26
3B153FF02
3B153FF03
3B153GG01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ケーブルの突然の破断を防止可能な定着構造体を提供する。
【解決手段】定着構造体20は、ゴム弾性体22と、前記ゴム弾性体を介してケーブル10の端部に固定された本体部21と、を具備する。前記ケーブルは、繊維強化プラスチックケーブルであってもよい。前記繊維強化プラスチックケーブルは、炭素繊維を含んでもよい。前記本体部は、繊維強化プラスチックで形成されていてもよい。これらの構成では、本体部とケーブルとの間に加わる力が、本体部とケーブルとの間に設けられたゴム弾性体の超弾性的な挙動での変形によって緩和される。これにより、本発明の一形態に係る定着構造体が設けられたケーブルでは、張力が弾性限界に達しにくくなるため、突然の破断を防止することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム弾性体と、
前記ゴム弾性体を介してケーブルの端部に固定された本体部と、
を具備する定着構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の定着構造体であって、
前記ケーブルは、繊維強化プラスチックケーブルである
定着構造体。
【請求項3】
請求項2に記載の定着構造体であって、
前記繊維強化プラスチックケーブルは、炭素繊維を含む
定着構造体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の定着構造体であって、
前記本体部は、繊維強化プラスチックで形成されている
定着構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブルを定着させるための定着構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、橋梁や建築物などの構造物を支持ないし補強するために、金属ケーブルと同等、あるいはそれ以上の高い強度を備えつつ、非常に軽量な繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)ケーブルが利用されるようになってきている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
FRPケーブルの両端部は、各種構造物や安定地盤などに定着される。FRPケーブルを良好に定着可能とするために、FRPケーブルの両端部には定着構造体が設けられる。特許文献1に記載の定着構造体には、FRPケーブルに加わる張力が局所的に集中することを防止するための傾斜部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
FRPケーブルは、金属ケーブルとは異なり、張力の増加に比例して伸長する線形的な変形挙動を示すため、設計を容易に行うことができるというメリットを有する。この反面、FRPケーブルには、張力の増加によって弾性限界に達すると、線形的な変形挙動から突然破断に転じるという取り扱いにくい面もある。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、ケーブルの突然の破断を防止可能な定着構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る定着構造体は、ゴム弾性体と、前記ゴム弾性体を介してケーブルの端部に固定された本体部と、を具備する。
前記ケーブルは、繊維強化プラスチックケーブルであってもよい。
前記繊維強化プラスチックケーブルは、炭素繊維を含んでもよい。
前記本体部は、繊維強化プラスチックで形成されていてもよい。
【0008】
これらの構成では、本体部とケーブルとの間に加わる力が、本体部とケーブルとの間に設けられたゴム弾性体の超弾性的な挙動での変形によって緩和される。これにより、本発明の一形態に係る定着構造体が設けられたケーブルでは、張力が弾性限界に達しにくくなるため、突然の破断を防止することができる。
【発明の効果】
【0009】
ケーブルの突然の破断を防止可能な定着構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るケーブル構造体を示す正面図である。
【
図2】上記ケーブル構造体の
図1のA-A'線に沿った断面図である。
【
図3】上記ケーブル構造体の定着構造体の変形例の正面図である。
【
図4】上記ケーブル構造体のケーブルの変形例の斜視図である。
【
図5】静的引張負荷(除荷)試験の方法を示す模式図である。
【
図6】実施例1及び比較例1の静的引張負荷試験の結果を示すグラフである。
【
図7】実施例1及び比較例1の静的引張負荷試験の結果を示すグラフである。
【
図8】実施例1及び比較例1の静的引張負荷除荷試験の結果を示すグラフである。
【
図9】実施例1及び比較例1の静的引張負荷除荷試験の結果を示すグラフである。
【
図10】実施例2及び比較例2の静的引張試験の結果を示すグラフである。
【
図11】実施例2及び比較例2の静的引張試験の結果を示すグラフである。
【
図12】実施例2及び比較例2の引張-引張疲労試験の結果を示すグラフである。
【
図13】比較例2に係るサンプルが破断した状態を示す写真である。
【
図14】実施例2に係るサンプルが破断した状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[定着構造体20の構成]
(概略構成)
図1は、本発明の一実施形態に係るケーブル構造体1の正面図である。ケーブル構造体1は、ケーブル10と定着構造体20とを有する。定着構造体20は、ケーブル10の長手方向の両端部にそれぞれ設けられている。
図1には一方の定着構造体20のみが示されるが、他方の定着構造体20も同様の構成を有する。
【0012】
ケーブル構造体1では、例えば、一方の定着構造体20が橋梁や建築物などの各種構造物に定着され、他方の定着構造体20が安定地盤に定着される。これにより、ケーブル構造体1は、構造物と安定地盤とを接続するケーブル10の張力によって、構造物を支持ないし補強することができる。
【0013】
(ケーブル10)
本実施形態に係るケーブル構造体1では、ケーブル10として繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)で形成されたFRPケーブルが用いられる。ケーブル構造体1では、ケーブル10としてFRPケーブルを用いることで、非常に軽量で高い強度を実現することができる。
【0014】
FRPケーブルの樹脂成分としては、例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂などを用いることができる。FRPケーブルの繊維成分としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維などを用いることができる
【0015】
ケーブル構造体1は、錆が発生しないFRPケーブルを用いることで、海洋構造物に特に好適に利用可能となる。ケーブル構造体1を利用可能な海洋構造物としては、例えば、海洋資源採掘や洋上風力発電に用いられる緊張係留式プラットフォーム(TLP:Tension Leg Platform)などが挙げられる。
【0016】
また、ケーブル構造体1は、高架橋や橋梁等に用いられるプリ・ポストテンションコンクリートのテンションケーブルや、斜面・法面の崩壊を抑止するためのグラウンドアンカーのテンションケーブルなどの土木用途にも有用である。更に、ケーブル構造体1は、建築物の補強用に用いられるテンションケーブルとしても有用である。
【0017】
FRPケーブルは、張力の増加に比例して伸長する線形的な変形挙動を示すが、弾性限界に達すると突然破断に転じる。この現象は、繊維成分として炭素繊維を含むFRPケーブルにおいてより顕著に現れる。本実施形態に係る定着構造体20は、ケーブル10の突然の破断を抑制可能なように構成されている。
【0018】
(定着構造体20)
図2は、ケーブル構造体1の
図1のA-A'線に沿った断面図である。定着構造体20は、本体部21と、ゴム弾性体22と、を有する。定着構造体20では、円筒状に形成された本体部21の内周面が、ゴム弾性体22を介してケーブル10の端部に固定されている。つまり、ケーブル10と本体部21とがゴム弾性体22によって接着されている。
【0019】
定着構造体20では、本体部21が接続部材を介して構造体や安定地盤などに固定される。接続部材は、本体部21を、構造体や安定地盤などに対して良好に接続可能であればよい。定着構造体20では、例えば、本体部21の外周面に雄ねじ加工を施すことで、これに対応する雌ねじ部材を備えた接続部材に固定可能とすることができる。
【0020】
本体部21を形成する材料としては、高強度を有する構造材料から任意に選択可能であるが、FRPであることが好ましい。定着構造体20では、ケーブル10と本体部21とをいずれもFRPで形成することで、高い強度を確保しつつ、非常に軽量なケーブル構造体1を実現することができる。
【0021】
本体部21を形成するFRPでは、FRPケーブルと同様に、例えば、樹脂成分として、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂などを用い、繊維成分として、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維などを用いることができる。
【0022】
ゴム弾性体22は、ゴム弾性を有し、マリンス効果による超弾性的な変形挙動を示す材料で形成される。具体的に、ゴム弾性体22を形成する材料では、弾性率が15MPa以上500MPa以下で、引張強度が5MPa以上40MPa以下で、かつ引張伸びが70%以上700%以下であることが好ましい。
【0023】
ゴム弾性体22を形成する材料としては、ゴム弾性を有する材料であればよく、ゴム材料に限定されない。一例として、ゴム弾性体22は、ポリウレタン系の延性接着剤などを用いて形成することができる。ゴム弾性体22の形成に適した延性接着剤としては、例えば、ダウ・ケミカル・カンパニー製のBETAFORCE(登録商標)2850L(弾性率:21MPa、引張強度:10MPa、引張伸び:150%)や、ダウ・ケミカル・カンパニー製のBETAFORCE(登録商標)9050(弾性率:300MPa、引張強度:18MPa、引張伸び:80%)などが挙げられる。
【0024】
(ゴム弾性体22の作用)
ケーブル構造体1では、本体部21とケーブル10との間に加わる力が、ケーブル10と本体部21との間に挟まれたゴム弾性体22に作用する。このため、ケーブル構造体1では、ケーブル10と本体部21とが直接力を及ぼし合わず、ゴム弾性体22がケーブル10と本体部21との間で力を伝達する機能を果たす。
【0025】
ケーブル構造体1では、ケーブル10と本体部21との間に加わる力が、ゴム弾性体22の超弾性的な挙動での変形によって緩和される。ケーブル構造体1では、このゴム弾性体22による力の緩和作用によって、ケーブル10に力が加わった状態において更なる力が加わる場合に、ケーブル10の張力の更なる増大が抑制される。
【0026】
特に、ゴム弾性を有し、荷重と変位とが非線形の関係を持つゴム弾性体22では、大きい力が加わっている状態ほど、加わる力の増大に伴ってより大きく変形しやすくなる。したがって、ケーブル構造体1では、ケーブル10と本体部21との間に加わる力が大きいほど、ゴム弾性体22による力の緩和作用が大きくなる。
【0027】
このため、ケーブル構造体1では、ケーブル10に既に大きい力が加わった状態において更なる力が加わる場合に、ケーブル10の張力の増大が特に効果的に抑制される。したがって、ケーブル構造体1では、ケーブル10が弾性限界に達することを妨げることができるため、ケーブル10の突然の破断を防止することができる。
【0028】
なお、ケーブル構造体1では、用途などに応じて定着構造体20の長手方向の寸法やゴム弾性体22の厚みなどの構成を決定可能である。例えば、ケーブル10と本体部21との間に大きい力が加わる用途では、ゴム弾性体22の弾性限界を高くするために、定着構造体20の長手方向の寸法を大きくすることができる。
【0029】
また、ゴム弾性体22は、厚みが大きいほど延性度が大きくなる。したがって、ケーブル構造体1では、各用途に求められるゴム弾性体22による力の緩和作用の大きさに応じて、ゴム弾性体22の厚みを決定可能である。なお、ゴム弾性体22を過度に厚くすることは、ゴム弾性体22自体の強度を低下させるため好ましくない。
【0030】
(その他の実施形態)
本実施形態に係るケーブル構造体1の構成は、適宜変更可能である。例えば、ケーブル構造体1では、定着構造体20の本体部21の形状を様々に変更可能である。一例として、本体部21の断面形状は、上記実施形態の円形状に限定されず、例えば、楕円形状、矩形状、多角形状などとすることもできる。
【0031】
また、ケーブル構造体1では、
図3に示すように、本体部21が、固定部21aと傾斜部21bとを有していてもよい。固定部21aは、接続部材に固定される筒状の部分である。傾斜部21bは、固定部21aよりもケーブル10の中央領域側に設けられ、ケーブル10の中央領域側に向けて肉厚が薄くなる先細り形状を有する。
【0032】
図3に示すケーブル構造体1では、本体部21に設けられた傾斜部21bにおいて、ケーブル10の中央領域に近い部分ほど剛性が低くなる。このため、この定着構造体20では、傾斜部21bにおいてケーブル10を保持する保持力が低減されるため、傾斜部近傍におけるケーブル10の破断の発生を抑制することができる。
【0033】
更に、ケーブル構造体1では、ケーブル10がFRPケーブルでなくてもよく、例えば、金属で形成された金属ケーブルであってもよい。この場合にも、ケーブル構造体1では、定着構造体20のゴム弾性体22による力の緩和作用によって、ケーブル10の突然の破断を防止することができる。
【0034】
加えて、ケーブル構造体1では、
図4(a)に示すように、ケーブル10が、複数のワイヤ10aが束ねられて構成されたロープであってもよい。また、ケーブル構造体1では、
図4(b)に示すように、ケーブル10が、複数のワイヤ10aが束ねられた状態で捻りが加えられて構成されたロープであってもよい。
【0035】
[実施例1]
(実験内容)
本発明の実施例1として、ケーブル構造体1のサンプルを作製した。ケーブル10としては、小松マテーレ株式会社製の230GPaクラスの引張弾性率を有する炭素繊維24,000本×3をガラス繊維(E-glass)で組紐状態に被覆し、熱可塑性エポキシ樹脂(フェノキシ)を含侵させた複合材料テンションロッドを用いた。
【0036】
定着構造体20を設けるために、ケーブル10の端部にゴム弾性体22を形成し、ゴム弾性体22の上からFRPシートを巻き回すことによって本体部21を形成した。ゴム弾性体22としては、ゴム弾性を有する延性接着剤(ダウ・ケミカル・カンパニー製のBETAFORCE(登録商標)2850L)を用いた。
【0037】
そして、実施例1に係るサンプルについて静的引張負荷試験及び静的引張負荷除荷試験を行った。静的引張負荷(除荷)試験装置としては、電気式油圧サーボ試験機(株式会社島津製作所製のサーボパルサーEHF-Eシリーズ)を用いた。また、静的引張負荷(除荷)試験は、実験室雰囲気中、室温下で行った。
【0038】
図5は、静的引張負荷(除荷)試験を説明するための模式図である。静的引張負荷(除荷)試験では、固定部C1U,C1Lによってサンプルの一対の定着構造体20をそれぞれクランプする。固定部C1U,C1Lは、油圧チャックを用いることで、通常の楔形チャックよりも定着構造体20との間の位置ずれが生じにくい構成とした。
【0039】
そして、静的引張負荷試験では、下側の固定部C1Lを固定した状態で上側の固定部C1Uを上昇させることでサンプルに対する負荷を行った。また、静的引張負荷除荷試験では、下側の固定部C1Lを固定した状態で上側の固定部C1Uの上昇及び下降を繰り返すことでサンプルに対する負荷及び除荷を繰り返した。
【0040】
静的引張負荷(除荷)試験では、ケーブル10の中央部のひずみε及び応力σをプロットすることでひずみ-応力関係が得られる。ケーブル10の中央部のひずみε及び応力σは、ひずみゲージによって測定した。静的引張負荷(除荷)試験で得られるひずみ-応力関係からは、ケーブル10のみの変形挙動を把握することができる。
【0041】
また、静的引張負荷(除荷)試験では、固定部C1Uに加える荷重Pと固定部C1Uの変位Uとをプロットすることで荷重-変位関係が得られる。静的引張負荷(除荷)試験で得られる荷重-変位関係からは、サンプルを構成するケーブル10及び定着構造体20の全体としての変形挙動を把握することができる。
【0042】
本発明の比較例1として、ゴム弾性体22を設けず、ケーブル10及び本体部21のみから構成されるケーブル構造体のサンプルを作製した。比較例1に係るサンプルでは、ケーブル10に設けられたゴム弾性を有さない一般的な接着剤の上からFRPシートを巻き回すことによって本体部21を形成した。比較例1に係るサンプルについても、上記と同様の静的引張負荷(除荷)試験を行った。
【0043】
(評価結果)
図6は、静的引張負荷試験で得られたひずみ-応力関係を示すグラフである。実施例1及び比較例1に係るいずれのサンプルでも、同様の線形的な変形挙動を示している。これにより、実施例1及び比較例1に係るサンプルに用いたケーブル10が、いずれも同様の線形的な挙動で変形していることがわかる。
【0044】
図7は、静的引張負荷試験で得られた荷重-変位関係を示すグラフである。比較例1に係るサンプルでは、荷重-変位関係が直線状となり、線形的な変形挙動を示している。この一方で、実施例1に係るサンプルでは、非線形的な変形挙動を示し、荷重-変位関係が荷重が大きくなるにつれて傾きが小さくなる曲線状となっている。
【0045】
比較例1に係るサンプルでは、ケーブル10以外の構成の影響が無いため、線形的な変形挙動を示しているものと考えられる。これに対し、実施例1に係るサンプルでは、ケーブル10の変形に加え、ゴム弾性を有するゴム弾性体22の変形も寄与することで、非線形的な変形挙動を示しているものと考えられる。
【0046】
これにより、実施例1に係るサンプルでは、比較例1に係るサンプルに対して、ゴム弾性体22の変形による変位の増加分だけ荷重が緩和されているものと理解することができる。したがって、本実施形態に係るケーブル構造体1では、ゴム弾性体22を設けることによって、力の緩和作用が得られることが確認された。
【0047】
図8は、静的引張負荷除荷試験で得られたひずみ-応力関係を示すグラフである。実施例1及び比較例1に係るいずれのサンプルにおける負荷及び除荷のいずれの行程においても、同様の線形的な変形挙動を示している。これにより、実施例1及び比較例1に係るサンプルに用いたケーブル10が、線形的な挙動で伸縮していることがわかる。
【0048】
図9は、静的引張負荷除荷試験で得られた荷重-変位関係を示すグラフである。比較例1に係るサンプルでは、荷重-変位関係がほぼ直線状となり、ケーブル10以外の構成の影響がほとんど無いものと考えられる。これに対し、実施例1に係るサンプルでは、荷重-変位関係がヒステリシス曲線を描いている。
【0049】
より詳細に、実施例1に係るサンプルの荷重-変位関係では、負荷行程において
図7と同様の曲線を描き、除荷工程において負荷行程の曲線よりも下を通って原点近傍に戻る曲線を描いている。このため、実施例1に係るサンプルでは、除荷行程後に荷重がゼロになると、ゴム弾性体22が元の形状に戻っていることがわかる。
【0050】
したがって、本実施形態に係るケーブル構造体1のゴム弾性体22では、ケーブル10と本体部21との間に繰り返し力が加わっても、永久ひずみが発生することなく、力の緩和作用が良好に保たれる。このため、本実施形態に係るケーブル構造体1では、長期間にわたってケーブル10の突然の破断を防止することができる。
【0051】
[実施例2]
(概要)
ケーブルの定着には、鋼管で構成された本体部と、本体部とケーブルとの間に配置される膨張剤と、から構成される定着構造体が用いられることがある。このような定着構造体を、FRPケーブルの定着に用いると、膨張剤が膨張することによる圧縮負荷でFRPケーブルに軸方向に沿った縦割れが発生しやすい。
【0052】
この点、膨張剤の内側にゴム弾性体22が設けられた本発明の構成の定着構造体20を用いることにより、上記のような膨張剤の膨張の影響によるFRPケーブルの破断を防止することができる。本発明の実施例2では、このような構成の定着構造体20を用いたケーブル構造体1の性能について検証した
【0053】
(実験内容)
本発明の実施例2では、ケーブル10としてバサルト繊維とポリプロピレン樹脂からなるFRPケーブルを用い、本体部21として鋼管及び膨張剤(静的破砕剤ブライスター:太平洋マテリアル製)を用い、ゴム弾性体22として延性接着剤(ダウ・ケミカル・カンパニー製のBETAFORCE(登録商標)2850L)を用いてケーブル構造体1のサンプルを作製した。
【0054】
まず、実施例2に係るサンプルに対し、実施例1と同様の静的引張試験を行った。その次に、実施例2に係るサンプルに対し、引張-引張疲労試験を、静的引張試験と同様の試験機を用い、荷重制御で、繰り返し周波数が10Hz、繰り返し波形がサイン波、打切り繰り返し数が107回、応力比(最小応力/最大応力)Rが0.1の条件で行った。
【0055】
本発明の比較例2として、実施例2に係るサンプルにゴム弾性体22を設けない構成のケーブル構造体のサンプルを作製した。つまり、比較例2に係るサンプルでは、膨張剤がゴム弾性を有さない一般的な接着剤を介してケーブル10に接着されている。比較例2に係るサンプルについても、上記と同様の静的引張試験及び引張-引張疲労試験を行った。
【0056】
(評価結果)
図10は、静的引張試験で得られたひずみ-応力関係を示すグラフである。実施例2及び比較例2に係るいずれのサンプルでも、同様の線形的な変形挙動を示している。これにより、実施例2及び比較例2に係るサンプルに用いたケーブル10が、いずれも同様の線形的な挙動で変形していることがわかる。
【0057】
図11は、静的引張試験で得られた荷重-変位関係を示すグラフである。比較例2に係るサンプルでは、わずかに非線形的な挙動を示している。これに対し、実施例2に係るサンプルでは、荷重Pが5kNまでの領域では比較例2と同様な挙動を示し、荷重Pがこれより大きい領域では比較例2よりも大きな非線形挙動を示している。
【0058】
図12は、引張-引張疲労試験で得られた最大応力と破断までの繰り返し数との関係を示すグラフである。実施例2に係るサンプルでは、最大応力0.28GPaでの破断までの繰り返し回数が比較例2に係るサンプルの6倍以上となり、また最大応力0.14GPaにおいて繰り返し回数が10
7回に達するまで破断しなかった。
【0059】
図13は、比較例2に係るサンプルが破断した状態を示している。比較例2に係るサンプルでは、定着構造体に被覆された部分においてケーブル10が破断していることがわかる。この結果から、比較例2に係るサンプルでは、ケーブル10が膨張剤の膨張による影響を受けることで破断しやすくなったものと考えられる。
【0060】
図14は、実施例2に係るサンプルが破断した状態を示している。実施例1に係るサンプルでは、ケーブル10が定着構造体20から離れた中央部にて破断していることがわかる。この結果から、実施例2に係るサンプルでは、膨張剤の膨張による影響がケーブル10に加わるにくくなることで、ケーブル10本来の性能が得られていることがわかる。
【符号の説明】
【0061】
1…ケーブル構造体
10…ケーブル
20…定着構造体
21…本体部
22…ゴム弾性体