(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047222
(43)【公開日】2022-03-24
(54)【発明の名称】イソシアン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/10 20060101AFI20220316BHJP
C01C 3/14 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
B01J23/10 M
C01C3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020153007
(22)【出願日】2020-09-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和元年9月11日発行の第124回触媒討論会講演予稿集にて要旨を公開 (2)令和元年9月19日に第124回触媒討論会にてポスター発表 (3)令和元年11月18日発行の第35回近赤外フォーラム講演要旨集にて要旨を公開 (4)令和元年11月20日に第35回近赤外フォーラムにてポスター発表 (5)令和2年3月10日発行の第125回触媒討論会講演予稿集にて要旨を公開
(71)【出願人】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 雅人
(72)【発明者】
【氏名】近藤 篤史
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169BA06A
4G169BA06B
4G169CB81
(57)【要約】
【課題】イソシアン酸を低コストで製造することができる製造方法を提供すること。
【解決手段】本製法方法は、マグネシウム化合物である触媒と、二酸化炭素と、アンモニアとを反応させる工程を有する。マグネシウム化合物として、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムのうち少なくとも一種を用いることも好適である。大気雰囲気且つ大気圧下にて前記工程を行うことも好適である。所定温度に加熱した状態で前記工程を行うことも好適である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム化合物を触媒として用い、
前記触媒の存在下で、二酸化炭素とアンモニアとを反応させる工程を有する、イソシアン酸の製造方法。
【請求項2】
前記マグネシウム化合物として、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムのうち少なくとも一種を用いる、請求項1に記載のイソシアン酸の製造方法。
【請求項3】
大気雰囲気且つ大気圧下にて前記工程を行う、請求項1又は2に記載のイソシアン酸の製造方法。
【請求項4】
前記工程において、前記触媒と二酸化炭素とを接触させて吸着させ、然る後に、
前記触媒に吸着された二酸化炭素と、アンモニアとを反応させる、請求項1~3のいずれか一項に記載のイソシアン酸の製造方法。
【請求項5】
加熱した状態で前記工程を行う、請求項1~4のいずれか一項に記載のイソシアン酸の製造方法。
【請求項6】
100℃超600℃以下に加熱した状態で前記工程を行う、請求項5に記載のイソシアン酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソシアン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソシアン酸は、尿素からアンモニアを生成する反応過程で生成する比較的不安定な中間生成物であり、例えば、自動車の排気ガス中の窒素酸化物を浄化する尿素SCR触媒システム内で生成される化合物である。窒素酸化物の高精度な浄化予測モデルを構築するための一手段としてイソシアン酸の加水分解機構が検討されているところ、その検討を効率的に行うために、イソシアン酸を安定的に製造する技術が望まれる。
イソシアン酸を製造する技術として、例えば非特許文献1では、尿素から得られたシアヌル酸を更に熱分解して、イソシアン酸を生成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】尿素分解過程の解明に向けたイソシアン酸の高精度計測法の開発、自動車技術会論文集、2018年49巻2号、235-40
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、非特許文献1の製造条件では、イソシアン酸の生成量を制御しにくかったり、イソシアン酸以外の副生成物が生成されたりして、イソシアン酸を安定的に製造することができない。また同文献の条件では、尿素などの前駆体を用いる必要があるので、製造工程が煩雑で製造コストが高くなってしまう。
【0005】
そこで本発明の課題は、イソシアン酸を低コストで製造可能な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、マグネシウム化合物を触媒として用い、
前記触媒の存在下で、二酸化炭素とアンモニアとを反応させる工程を有する、イソシアン酸の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、イソシアン酸を低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、触媒、二酸化炭素及びアンモニアの推定反応機構を模式的に示す図面である。
【
図2】
図2は、実施例1の反応開始前、二酸化炭素存在下、及びアンモニア存在下(反応後)の各条件における赤外吸光スペクトルである。
【
図3】
図3は、実施例2の反応開始前、二酸化炭素存在下、及びアンモニア存在下(反応後)の各条件における赤外吸光スペクトルである。
【
図4】
図4は、実施例3の反応開始前、二酸化炭素存在下、及びアンモニア存在下(反応後)の各条件における赤外吸光スペクトルである。
【
図5】
図5は、実施例4の反応開始前、二酸化炭素存在下、及びアンモニア存在下(反応後)の各条件における赤外吸光スペクトルである。
【
図6】
図6は、実施例5の反応開始前、並びに二酸化炭素及びアンモニア存在下(反応後)の各条件における赤外吸光スペクトルである。
【
図7】
図7は、比較例1の反応開始前、二酸化炭素存在下、及びアンモニア存在下の各条件における赤外吸光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の好適な実施形態を以下に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の説明では、「X~Y[Z]」(X及びYは任意の数字であり、[Z]は単位である。)と記載した場合、特に断らない限り「X[Z]以上Y[Z]以下」を意味する。
【0010】
本発明の製造方法は、H-N=C=Oの化学構造を有するイソシアン酸を主生成物として製造する方法である。本方法は、マグネシウム化合物を触媒として用い、該触媒の存在下に、二酸化炭素とアンモニアとを反応させる工程を有する。製造効率を高める観点から、触媒は粒状等の固体であることが好ましく、二酸化炭素及びアンモニアはそれぞれ独立して気体であることも好ましい。
以下の説明では、本方法の好適な態様として、触媒として固体のマグネシウム化合物を用い、また気体の二酸化炭素(二酸化炭素ガス)、及び気体のアンモニア(アンモニアガス)を用いた場合を例にとり説明する。
【0011】
本方法はマグネシウム化合物を触媒として用いることを特徴の一つとしている。本発明者は、比較的不安定な化合物であるイソシアン酸の製造にあたりマグネシウム化合物を触媒として用いることによって、二酸化炭素とアンモニアとの反応が容易に進行し、目的とするイソシアン酸が安定的に製造できることを見出した。以下の反応式(1)に示すように、二酸化炭素及びアンモニアの反応は脱水反応によるものであり、マグネシウム化合物はこの脱水反応を触媒するものである。
【0012】
【0013】
本方法に用いられるマグネシウム化合物としては、例えば、酸化マグネシウムなどのマグネシウムの酸化物、水酸化マグネシウムなどのマグネシウムの水酸化物、炭酸マグネシウムなどのマグネシウムの塩等が挙げられる。これらのマグネシウム化合物として、例えば、Cu等の遷移金属元素を担持させたものを用いてもよく、該遷移金属元素等の他の金属元素を担持しないものを用いてもよい。
【0014】
これらのうち、マグネシウム化合物は、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム及び炭酸マグネシウムのうち少なくとも一種であることが好ましく、マグネシウム以外の金属元素が担持されていないことも好ましい。これらの化合物を用いることによって、触媒、二酸化炭素及びアンモニアの相互反応を良好に進行させることができ、イソシアン酸を効率的に且つ安定的に製造することができる。マグネシウム化合物として酸化マグネシウムを用いる場合には、水酸化マグネシウムや炭酸マグネシウムの表面を酸化させたものを用いてもよく、あるいは酸化マグネシウムそのものを用いてもよい。マグネシウム化合物の比表面積を高くして、二酸化炭素及びアンモニアの反応を効率的に進行させる観点から、水酸化マグネシウムや炭酸マグネシウムを焼成したものを用いることが好ましい。
【0015】
上述したマグネシウム化合物を用いることによってイソシアン酸の生成が良好に進行する理由について、本発明者は以下のように推測している。
図1に示すように、上述したマグネシウム化合物は、常温条件又は加熱条件下において、化学構造中にマグネシウム原子と結合している酸素原子や水酸基を有しており、化合物の表面が塩基となっている部位(塩基点)が存在する。このような化合物を触媒として用いることによって、塩基点としての酸素原子又は水酸基と、酸としての二酸化炭素分子とが反応する。その結果、触媒であるマグネシウム化合物の表面に二酸化炭素吸着種が生成する。その状態で、二酸化炭素吸着種とアンモニアとが反応することにより、二酸化炭素分子とアンモニア分子との間で脱水反応が進行し、イソシアン酸が生成する。
【0016】
触媒がその表面に水酸基を有することは、例えば赤外分光法(IR)による測定において、3800~3100cm-1に吸収ピークが観察されることによって判定することができる。この吸収ピークが存在することは、触媒表面に酸化マグネシウムが存在していることと同視できる。
なお本明細書において「吸収ピークが観察される」とは、所定の波数の範囲内において、強度が極大値を示すピークの頂点(ピークトップ)を有することを意味する。またピークトップは、ベースラインの吸光度を基準としたときに、ベースラインの吸光度よりも0.03より大きい吸光度の差が観察されたものを指す。
【0017】
また触媒表面に二酸化炭素が吸着して吸着種が生成したことは、例えばIR測定において、2400~2300cm-1に吸収ピークが観察されることによって判定することができる。
【0018】
触媒の比表面積は、反応効率の向上の観点からは高ければ高いほど好ましいが、反応効率の向上と原料コストの低減との両立を図る観点から、BET比表面積で表して、好ましくは6.0~400m2/g、更に好ましくは90~400m2/gである。このような比表面積を有することによって、二酸化炭素が吸着保持するための触媒表面を十分に確保することができ、イソシアン酸の生成効率が更に向上する。触媒の比表面積は、例えばJIS Z8830:2013に準じて、BET1点法により測定することができる。
【0019】
このような比表面積を有する触媒としては、例えば、海水法によって生成された水酸化マグネシウムや、天然鉱物の一種であるブルーサイトの粉砕物を用いることができる。また、マグネシウム塩水溶液に炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムを加えて生成した沈殿物を乾燥して得られる塩基性炭酸マグネシウムや、天然鉱物の一種であるマグネサイトの粉砕物を用いることもできる。
また、一例として特開2020-63185号公報に記載されているような、水酸化マグネシウムを外熱式ロータリーキルンによって加熱焼成して得られた酸化マグネシウムを用いることもできる。加熱焼成の条件は、例えば400~750℃で30分未満とすることができる。
【0020】
本方法の触媒存在下での各種ガスの反応方法は、例えば、触媒として粉末状又は錠剤形等の所定形状のマグネシウム化合物を収容した容器に各種ガスを流通させたり、又は各種ガスが流通若しくは収容されている容器内に、マグネシウム化合物を導入したりすることによって行うことができる。流通させる各種ガスの濃度調整を行うために、ヘリウムやアルゴンなどの希ガスを反応系に共存させることは妨げられない。
【0021】
触媒存在下での二酸化炭素ガスとアンモニアガスとの反応方法は、例えば触媒に対して、二酸化炭素及びアンモニアを同時に導入して反応させてもよい。また、触媒と二酸化炭素とを接触させて触媒に二酸化炭素を吸着させた後、吸着された状態にある二酸化炭素とアンモニアとを反応させてもよい。あるいは、アンモニアを触媒に吸着させた後、吸着された状態にあるアンモニアと二酸化炭素とを反応させてもよい。
これらのうち、触媒と二酸化炭素とを接触させて触媒表面に二酸化炭素を吸着させた後、触媒表面に吸着された状態にある二酸化炭素とアンモニアとを接触させて、イソシアン酸の生成反応を開始することが好ましい。このような順序を経て反応を開始することによって、塩基点を有する触媒の表面に二酸化炭素が十分に吸着保持されるので、二酸化炭素とアンモニアとを触媒表面及びその近傍で効率的に反応させることができる。その結果、イソシアン酸を低コストで且つより安定的に得ることができる。
【0022】
本方法は、少なくとも反応開始時において、二酸化炭素とアンモニアとがともに加熱されていることが好ましい。これによって、二酸化炭素とアンモニアとの脱水反応が良好に進行し、イソシアン酸の生成をより効率的に行うことができる。上述した好適な反応順序において、触媒への二酸化炭素の吸着においては、常温で反応させてもよく、加熱下で反応させてもよい。温度制御を各工程で不要として、製造工程を少なくして生産性をより高める観点から、反応開始から反応終了まで、触媒、二酸化炭素及びアンモニアの全てが加熱されていることがより好ましい。
【0023】
より具体的には、触媒を含む反応容器を所定温度での加熱状態を維持しておき、該反応容器に対して、常温等の非加熱の二酸化炭素とアンモニアとを導入して、加熱状態で反応させてもよい。これに代えて、触媒を含む反応容器を所定温度での加熱状態を維持しておき、該反応容器に対して、所定温度に加熱した二酸化炭素とアンモニアとを反応させてもよい。あるいは、触媒としてのマグネシウム化合物を反応開始前に予め加熱して前処理を行った後で、所定温度での加熱状態が維持された触媒を含む反応容器内に、二酸化炭素及びアンモニアを非加熱又は加熱状態で導入して反応させてもよい。
特に、反応開始前に触媒を予め加熱しておくことによって、触媒表面に酸化マグネシウムを多く生成させることができ、またこれに伴って、塩基点をより多く形成させて、二酸化炭素の触媒表面への保持をより効率的に行うことができる。その結果、二酸化炭素とアンモニアとの脱水反応を一度の工程で効率的に進行させることができる点で有利である。
【0024】
本方法における加熱温度は、反応系全体として、好ましくは100℃超600℃以下、より好ましくは150~500℃、更に好ましくは200~400℃に加熱した状態が維持されることが好ましい。このような温度範囲にあることによって、触媒に吸着保持された二酸化炭素の脱離を防止しつつ、熱による分子運動の向上に起因して二酸化炭素とアンモニアとの脱水反応を良好に進行させることができるので、イソシアン酸を安定的に生成させることができ、また生成効率が更に向上する。
【0025】
本方法における触媒、二酸化炭素ガス及びアンモニアガスの反応時間は、目的とするイソシアン酸が生成される限りにおいて適宜変更可能であるが、イソシアン酸の生産効率の向上と製造コストの低減との両立を図る観点から、上述した加熱温度の範囲において、好ましくは1分~2時間、より好ましくは1分~1.5時間、更に好ましくは1分~1時間である。
【0026】
触媒を予め加熱する場合、触媒の加熱温度は、好ましくは200~1300℃、更に好ましくは400~800℃である。このような温度で触媒を加熱処理することで、触媒表面に塩基点を更に多く形成させて、二酸化炭素の触媒表面への保持をより効率的に行うことができる。その結果、イソシアン酸の生成効率が更に向上する。
【0027】
本方法における圧力条件は、大気圧下であってもよく、真空などの陰圧下において触媒表面の吸着ガスを脱離させ清浄した後、反応系内の気体として二酸化炭素ガス及びアンモニアガスのみが存在するように各ガスを導入してもよく、大気圧よりも高い圧力に加圧した陽圧下であってもよい。特別な製造設備を別途用意せずとも反応を良好に進行させて、製造コストを低減する観点から、本方法は、反応開始から反応終了まで、大気圧下で行うことが好ましい。
また本方法における雰囲気条件は、大気雰囲気であってもよく、窒素ガスや希ガス等の不活性ガス雰囲気であってもよく、水素ガス等の還元雰囲気であってもよい。製造コストを低減する観点から、反応開始から反応終了まで、大気雰囲気で行うことが好ましい。特に、大気雰囲気で行うことによって、大気中に存在する二酸化炭素を触媒表面に微量に吸着させることができるので、二酸化炭素を別途導入することと相まって、アンモニアとの反応が良好に進行し、イソシアン酸の生成効率が更に向上するという利点も奏される。
製造コストの低減と、イソシアン酸の生成効率の向上との高いレベルでの両立を図る観点から、本方法は、反応開始から反応終了まで、大気雰囲気且つ大気圧下で行うことが更に好ましい。
【0028】
反応時における二酸化炭素ガスの流量は、製造コストの低減と、イソシアン酸の生成効率の向上とを両立する観点から、例えば触媒質量30mg当たり、好ましくは0.02~100mL/minであり、より好ましくは1~100mL/minであり、更に好ましくは1~40mL/minである。二酸化炭素ガスの流量は、25℃、1気圧での値とする。
【0029】
また同様の観点から、反応時におけるアンモニアガスの流量は、製造コストの低減と、イソシアン酸の生成効率の向上とを両立する観点から、例えば触媒質量30mg当たり、好ましくは0.02~100mL/minであり、より好ましくは0.02~10mL/minであり、更に好ましくは0.02~2mL/minである。アンモニアガスの流量は、25℃、1気圧での値とする。また、アンモニアガスが希ガスなどの他の気体によって希釈されて導入される場合、アンモニアガスの流量は、混合体積比に応じて算出された値とする。
【0030】
以上の工程を経て、イソシアン酸を製造することができる。生成したイソシアン酸は、典型的には触媒表面に存在するか、又は気体となって反応系中に存在する。イソシアン酸が生成したことは、例えばIR測定において、2300~2100cm-1、より具体的には2250~2150cm-1に吸収ピークが観察されることによって判定することができる。またイソシアン酸の生成量は、ベースラインの吸光度を基準として、前記吸収ピークにおける吸光度(ピーク高さ)が大きければ大きいほど生成量が多いと推定される。
【実施例0031】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
以下に示すIR測定は、フーリエ変換赤外線吸収分光光度計(日本分光製、FT/IR-660Plus;以下、これを「FT-IR計」ともいう。)、及びFT-IR計に接続された加熱拡散反射測定装置(日本分光製;以下これを「拡散反射装置」ともいう。)を用いて、分解能:4cm-1、スキャン:256回で試料(触媒)のIR拡散反射スペクトルを測定したものである。バックグラウンド測定は、乾燥したKBr粉末を用いて測定前に予め行った。
【0032】
〔実施例1〕
30mgの水酸化マグネシウム(ナカライテスク社製、試薬特級)を錠剤成形して、直径約5mm及び高さ約1mmの円盤状の固形物を得た。この固形物を、拡散反射装置の試料台に配置した。そして、該試料台に付属している温度コントローラを用いて、室温から600℃に昇温し、大気雰囲気及び大気圧下にて600℃にて固形物を1時間予め加熱処理し、表面に酸化マグネシウムを有する触媒を得た。
次いで、触媒を200℃に降温して維持したあと、大気雰囲気及び大気圧下にて常温(25℃)の二酸化炭素ガスを30mL/minの流量で、マスフローコントローラ(コフロック製)を用いて、200℃に維持された試料台内に20分間流通させて、触媒表面に二酸化炭素を吸着保持させた。
そして、大気雰囲気及び大気圧下にて常温(25℃)の1体積%アンモニアガス/99体積%のアルゴンガスの混合ガスを2mL/min(アンモニアガス:0.02mL/min)の流量で、マスフローコントローラ(コフロック製)を用いて、200℃に維持された試料台内に60分間流通させて、触媒表面に吸着保持された二酸化炭素とアンモニアとを加熱状態を維持して反応させて、イソシアン酸を得た。
本実施例において、反応終了後の触媒を対象として、IR拡散反射スペクトルを取得した結果を
図2に示す。同図に示すように、本実施例では、二酸化炭素の流通によって2400~2300cm
-1の範囲に二酸化炭素の吸収ピークが観察された。そして、アンモニアの流通後、2207cm
-1及び2193cm
-1にイソシアン酸に基づく吸収ピークが観測された。
【0033】
〔実施例2〕
実施例1と同様の条件で、錠剤成形した固形物を加熱処理して、表面に酸化マグネシウムを有する触媒を得た。次いで、触媒を300℃に降温して維持したあと、大気雰囲気及び大気圧下にて常温(25℃)の二酸化炭素ガスを、実施例1と同様の流量条件で300℃に維持された試料台内に流通させ、触媒表面に二酸化炭素を吸着保持させた。そして、大気雰囲気及び大気圧下にて常温(25℃)の1体積%アンモニアガス/99体積%のアルゴンガスの混合ガスを実施例1と同様の流量条件で300℃に維持された試料台内に流通させ、触媒表面に保持された二酸化炭素とアンモニアとを加熱状態を維持して反応させて、イソシアン酸を得た。
本実施例において、反応終了後の触媒を対象として、IR拡散反射スペクトルを取得した結果を
図3に示す。同図に示すように、本実施例では、二酸化炭素の流通によって2400~2300cm
-1の範囲に二酸化炭素の吸収ピークが観察された。そして、アンモニアの流通後、2214cm
-1及び2193cm
-1にイソシアン酸に基づく吸収ピークが観測された。
【0034】
〔実施例3〕
実施例1と同様の条件で、錠剤成形した固形物を加熱処理して、表面に酸化マグネシウムを有する触媒を得た。次いで、触媒を400℃に降温して維持したあと、大気雰囲気及び大気圧下にて常温(25℃)の二酸化炭素ガスを、実施例1と同様の流量条件で400℃に維持された試料台内に流通させ、触媒表面に二酸化炭素を吸着保持させた。そして、大気雰囲気及び大気圧下にて常温(25℃)の1体積%アンモニアガス/99体積%のアルゴンガスの混合ガスを実施例1と同様の流量条件で400℃に維持された試料台内に流通させ、触媒表面に保持された二酸化炭素とアンモニアとを加熱状態を維持して反応させて、イソシアン酸を得た。
本実施例において、反応終了後の触媒を対象として、IR拡散反射スペクトルを取得した結果を
図4に示す。同図に示すように、本実施例では、二酸化炭素の流通によって2400~2300cm
-1の範囲に二酸化炭素の吸収ピークが観察された。そして、アンモニアの流通後、2212cm
-1及び2192cm
-1にイソシアン酸に基づく吸収ピークが観測された。
【0035】
〔実施例4〕
実施例1と同様の条件で、錠剤成形した固形物を加熱処理して、表面に酸化マグネシウムを有する触媒を得た。次いで、触媒を600℃に維持したあと、大気雰囲気及び大気圧下にて常温(25℃)の二酸化炭素ガスを40mL/minの流量で10分間、600℃に維持された試料台内に流通させ、触媒表面に二酸化炭素を吸着保持させた。そして、大気雰囲気及び大気圧下にて常温(25℃)の1体積%アンモニアガス/99体積%のアルゴンガスの混合ガスを10mL/min(アンモニアガス:0.1mL/min)の流量で10分間、600℃に維持された試料台内に流通させ、触媒表面に保持された二酸化炭素とアンモニアとを加熱状態を維持して反応させて、イソシアン酸を得た。
本実施例において、反応終了後の触媒を対象として、IR拡散反射スペクトルを取得した結果を
図5に示す。同図に示すように、本実施例では、二酸化炭素の流通によって2400~2300cm
-1の範囲に二酸化炭素の吸収ピークが観察された。そして、アンモニアの流通後、2200cm
-1にイソシアン酸に基づく吸収ピークが観測された。
【0036】
〔実施例5〕
30mgの塩基性炭酸マグネシウム(キシダ化学製、試薬特級)を錠剤成形して、実施例1と同様の寸法を有する円盤状の固形物を得た。この固形物を、拡散反射装置の試料台に配置した。そして、該試料台に付属している温度コントローラを用いて室温から500℃に昇温し、大気雰囲気及び大気圧下にて、固形物を500℃にて1時間加熱処理して、表面に酸化マグネシウムを有する触媒を得た。
次いで、触媒を500℃に降温して維持したあと、大気雰囲気及び大気圧下にて常温(25℃)の二酸化炭素ガスを40mL/minの流量で10分間、500℃に維持された試料台内に流通させ、触媒表面に二酸化炭素を吸着保持させた。そして、大気雰囲気及び大気圧下にて常温(25℃)の1体積%アンモニアガス/99体積%のアルゴンガスの混合ガスを10mL/min(アンモニアガス:0.1mL/min)の流量で10分間、500℃に維持された試料台内に流通させ、触媒表面に保持された二酸化炭素とアンモニアとを加熱状態を維持して反応させて、イソシアン酸を得た。
本実施例において、反応終了後の触媒を対象として、IR拡散反射スペクトルを取得した結果を
図6に示す。同図に示すように、本実施例では、2184cm
-1にイソシアン酸に基づく吸収ピークが観測された。
【0037】
〔比較例1〕
ナトリウム型ゼオライト(Na-ZSM-5、東ソー製、SiO
2/Al
2O
3質量比=23.8)をイオン交換して、NH
4型ゼオライト(NH
4-ZSM-5)を作製した。次いで、30mgのNH
4-ZSM-5を錠剤成形して、実施例1と同様の寸法を有する円盤状の固形物を得た。この固形物を、拡散反射装置の試料台に配置した。そして、該試料台に付属している温度コントローラを用いて室温から600℃に昇温し、大気雰囲気及び大気圧下にて600℃にて固形物を1時間加熱処理し、触媒としてのプロトン型ゼオライト(H-ZSM-5)を得た。この触媒は、表面が酸となっている部位(酸点)が存在しており、塩基点は形成されていない。
次いで、触媒を300℃に降温して維持して、大気雰囲気及び大気圧下にて常温(25℃)の二酸化炭素ガスを40mL/minの流量で10分間、300℃に維持された試料台内に流通させた後、大気雰囲気及び大気圧下にて常温(25℃)の1体積%アンモニアガス/99体積%のアルゴンガスの混合ガスを10mL/min(アンモニアガス:0.1mL/min)の流量で10分間、300℃に維持された試料台内に流通させた。
本比較例において、反応終了後の触媒を対象として、IR拡散反射スペクトルを取得した結果を
図7に示す。同図に示すように、本比較例では、二酸化炭素の流通によって2400~2300cm
-1の範囲に二酸化炭素の吸収ピークが観察されたが、アンモニアの流通後であっても、2300~2100cm
-1の範囲にイソシアン酸に基づく吸収ピークが観測されなかった。したがって、本比較例ではイソシアン酸が生成されていないことが判る。
【0038】
〔触媒のBET比表面積測定〕
触媒のBET比表面積は、Monosorb MS-2(ユアサアイオニクス製)を用いて、窒素吸着によるBET1点法により測定した。その結果、実施例1~4の触媒のBET比表面積は91m2/gであり、実施例5の触媒のBET比表面積は163m2/gであり、比較例1の触媒のBET比表面積は320m2/gであった。
【0039】
以上のとおり、各実施例によれば、特別な装置を用意しなくとも、いずれの条件であってもイソシアン酸が低コストで製造できることが判る。特に、反応時において好適な温度条件にて加熱することによって、イソシアン酸に基づく吸収ピーク高さが大きくなり、イソシアン酸の生成量が多くなることも推定される。なお、比較例として示していないが、アンモニアガスに代えて、同流量及び温度条件での窒素ガスを流通させた場合には、2300~2100cm-1の範囲にイソシアン酸に基づく吸収ピークが観測されず、イソシアン酸が生成されないことを本発明者は確認している。