(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047287
(43)【公開日】2022-03-24
(54)【発明の名称】ロボット制御装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/127 20060101AFI20220316BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
B23K9/127 501D
B23K9/12 331Q
B23K9/127 501C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020153107
(22)【出願日】2020-09-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100108213
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 豊隆
(72)【発明者】
【氏名】池口 誠人
(57)【要約】
【課題】 溶接ワイヤに曲がりが生じたとしても、溶接位置がずれることによる溶接不良を低減するロボット制御装置を提供することである。
【解決手段】 本発明に係るロボット制御装置100は、サーチ部110、曲量推定部130及び制御部140を備える。サーチ部110は、溶接トーチ21を移動させて、当該溶接トーチ21の先端から突出した溶接ワイヤを溶接対象であるワークW10に接触させることにより、接触位置を検出する。曲量推定部130は、接触による溶接ワイヤの曲量を推定する。制御部140は、検出した接触位置及び推定した溶接ワイヤの曲量に応じて、ワークW10における溶接位置に溶接ワイヤが位置するように溶接トーチ21を制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチを移動させて、当該溶接トーチの先端から突出した溶接ワイヤを溶接対象であるワークに接触させることにより、接触位置を検出するサーチ部と、
前記接触による前記溶接ワイヤの曲量を推定する曲量推定部と、
前記検出した接触位置及び前記推定した溶接ワイヤの曲量に応じて、前記ワークにおける溶接位置に前記溶接ワイヤが位置するように前記溶接トーチを制御する制御部と、
を備える、ロボット制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記溶接トーチの位置、姿勢及び方向の少なくともいずれかを制御する、
請求項1に記載のロボット制御装置。
【請求項3】
前記曲量推定部は、前記サーチ部が前記溶接トーチを移動させるサーチ速度に基づいて、前記溶接ワイヤの曲量を推定する、
請求項1又は2に記載のロボット制御装置。
【請求項4】
前記曲量推定部は、前記溶接トーチに関するトーチ情報、前記溶接ワイヤに関するワイヤ情報、周辺環境に関する環境情報及び溶接ロボットに関するロボット情報の少なくともいずれかに基づいて、前記溶接ワイヤの曲量を推定する、
請求項1から3のいずれか一項に記載のロボット制御装置。
【請求項5】
前記曲量推定部は、前記サーチ部が前記溶接トーチを移動させるサーチ速度と、当該サーチ速度で前記溶接ワイヤがワークに接触した際に生じる当該溶接ワイヤの曲量とを教師データとして機械学習された予測モデルを用いて、前記接触による前記溶接ワイヤの曲量を推定する、
請求項1から4のいずれか一項に記載のロボット制御装置。
【請求項6】
前記教師データは、前記溶接トーチに関するトーチ情報、前記溶接ワイヤに関するワイヤ情報、周辺環境に関する環境情報及び溶接ロボットに関するロボット情報の少なくともいずれかを、さらに含む、
請求項5に記載のロボット制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボット制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接を行う溶接ロボットは、一般に、ティーチングにより事前に設定された溶接線位置に沿って溶接トーチを移動させ、接合対象となるワークを溶接する。しかし、このティーチング作業では、溶接トーチの先端から溶接ワイヤが突出した状態で操作しているため、溶接ワイヤがワークに接触した際に、当該溶接ワイヤが曲がってしまうことがある。溶接ワイヤが曲がってしまうと、溶接を実行する際に、当該溶接ワイヤを適切な溶接位置に位置させることができず、結果的に、溶接不良を引き起こす可能性がある。
【0003】
教示中に溶接ワイヤと溶接対象物等とが接触した場合に、溶接対象物等との接触により溶接ワイヤが曲がってしまうことを防止する産業用ロボットの制御方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
具体的には、特許文献1に開示されている産業用ロボットの制御方法では、溶接トーチから突出した溶接ワイヤとワークとの接触が検出されると、溶接ワイヤをワークから離れる方向へ送給する逆送を行うことにより、溶接ワイヤとワークとの接触を解除している。そして、溶接トーチをワークから離れる方向へ移動させた後に、逆送した長さと同じ長さだけ溶接ワイヤを正送している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示されている産業用ロボットの制御方法では、溶接ワイヤがワークに接触する姿勢、状態及び速度等によっては、溶接ワイヤを逆送させて溶接ワイヤとワークとの接触を解除したとしても、溶接ワイヤの曲がりを防止することができない場合があった。
【0007】
そこで、本発明は、溶接ワイヤに曲がりが生じたとしても、溶接位置がずれることによる溶接不良を低減するロボット制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るロボット制御装置は、溶接トーチを移動させて、当該溶接トーチの先端から突出した溶接ワイヤを溶接対象であるワークに接触させることにより、接触位置を検出するサーチ部と、接触による溶接ワイヤの曲量を推定する曲量推定部と、検出した接触位置及び推定した溶接ワイヤの曲量に応じて、ワークにおける溶接位置に溶接ワイヤが位置するように溶接トーチを制御する制御部と、を備える。
【0009】
この態様によれば、サーチ部は、溶接ワイヤとワークとの接触位置を検出し、曲量推定部は、当該接触による溶接ワイヤの曲量を推定する。そして、制御部は、検出した接触位置及び推定した溶接ワイヤの曲量に応じて、ワークにおける溶接位置に溶接ワイヤが位置するように溶接トーチを制御するため、溶接ワイヤとワークとの接触によって溶接ワイヤに曲がりが生じたとしても、溶接位置がずれることによる溶接不良を低減することができる。
【0010】
上記態様において、制御部は、溶接トーチの位置、姿勢及び方向の少なくともいずれかを制御してもよい。
【0011】
この態様によれば、制御部は、溶接トーチの位置、姿勢及び方向の少なくともいずれかを制御することによって、ワークにおける適切な溶接位置に溶接トーチの先端から突出した溶接ワイヤを位置させることができる。
【0012】
上記態様において、曲量推定部は、サーチ部が溶接トーチを移動させるサーチ速度に基づいて、溶接ワイヤの曲量を推定してもよい。
【0013】
この態様によれば、サーチ速度は低速の場合よりも高速の場合の方が、溶接ワイヤの曲量が大きくなる傾向であるため、曲量推定部は、サーチ速度に基づいて精度良く溶接ワイヤの曲量を推定する。このように、溶接ワイヤの曲量を精度よく推定するため、ワークにおける適切な溶接位置に溶接ワイヤを精度良く位置させることができる。
【0014】
上記態様において、曲量推定部は、溶接トーチに関するトーチ情報、溶接ワイヤに関するワイヤ情報、周辺環境に関する環境情報及び溶接ロボットに関するロボット情報の少なくともいずれかに基づいて、溶接ワイヤの曲量を推定してもよい。
【0015】
この態様によれば、サーチ速度に加えて、トーチ情報、ワイヤ情報及び環境情報等も溶接ワイヤの曲量に影響するため、曲量推定部は、これらの情報を考慮して、さらに精度良く溶接ワイヤの曲量を推定する。このように、溶接ワイヤの曲量をより精度良く推定するため、ワークにおける適切な溶接位置に溶接ワイヤをより精度良く位置させることができる。
【0016】
上記態様において、曲量推定部は、サーチ部が溶接トーチを移動させるサーチ速度と、当該サーチ速度で溶接ワイヤがワークに接触した際に生じる当該溶接ワイヤの曲量とを教師データとして機械学習された予測モデルを用いて、接触による溶接ワイヤの曲量を推定してもよい。
【0017】
この態様によれば、サーチ速度と溶接ワイヤの曲量とを教師データとして蓄積し、曲量推定部は、機械学習によって最適化された予測モデルを用いて、接触による溶接ワイヤの曲量を推定する。このように、溶接ワイヤの曲量を推定する際に、機械学習によって最適化された予測モデルを用いるため、その時点で、最適な推定ができる。
【0018】
上記態様において、教師データは、溶接トーチに関するトーチ情報、溶接ワイヤに関するワイヤ情報、周辺環境に関する環境情報及び溶接ロボットに関するロボット情報の少なくともいずれかを、さらに含んでもよい。
【0019】
この態様によれば、サーチ速度に加えて、トーチ情報、ワイヤ情報及び環境情報等も溶接ワイヤの曲量に影響するため、これら情報を教師データとして用いれば、機械学習の精度がより向上する。このように、溶接ワイヤの曲量を推定する際に、より精度が向上した機械学習によって最適化された予測モデルを用いるため、その時点で、最適な推定ができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、溶接用ワイヤに曲がりが生じたとしても、溶接位置がずれることによる溶接不良を低減するロボット制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る溶接ロボットシステム10を示すシステム概要図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るロボット制御装置100の各機能を示す機能ブロック図である。
【
図3】溶接ワイヤの曲量に応じて、ワークにおける溶接位置に溶接ワイヤが位置するように溶接トーチを制御する様子を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るロボット制御装置100が実行するロボット制御方法400を示すフローチャートである。
【
図5】溶接トーチを移動させるサーチ速度と溶接ワイヤの曲量との関係を示す図である。
【
図6】サーチ速度による溶接ワイヤの曲量について、機械学習のためのデータ蓄積方法600の一例を示すフローチャートである。
【
図7】サーチ速度による溶接ワイヤの曲量について、機械学習のためのデータを蓄積する際の溶接トーチを移動させる様子を示す図である。
【
図8】機械学習の教師データとして用いられる情報の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について、添付図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施形態は、あくまで、本発明を実施するための具体的な一例を挙げるものであって、本発明を限定的に解釈させるものではない。また、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0023】
[溶接ロボットシステムの概要]
図1は、本発明の一実施形態に係る溶接ロボットシステム10を示すシステム概要図である。
図1において、溶接ロボットシステム10は、溶接ロボット20と、ティーチペンダント30と、ロボット制御装置100と、電源40とを備える。
【0024】
溶接ロボット20は、ケーブルを介してロボット制御装置100と接続されており、ロボット制御装置100からの動作指令に基づいてアーク溶接を行う。溶接ロボット20は、アーム先端部に溶接トーチ21を備えており、当該溶接トーチ21の先端から溶接ワイヤを送給し、溶接対象である金属材料(ワーク)との間にアークを発生させることによりアーク溶接を行う。
【0025】
溶接トーチ21は、ケーブルを介して電源40と接続されており、溶接ワイヤへの溶接電圧や溶接電流の供給を受ける。アーク溶接では、溶接ワイヤを金属材料に瞬間的に接触させて通電させると、溶接ワイヤと金属材料との間にアーク放電が発生し、発生したアークの熱により溶接ワイヤと金属材料とを溶解させることで、溶接が行われる。
【0026】
ティーチペンダント30は、溶接ロボット20の溶接関連教示情報について、溶接作業を実施する作業者からの入力を受け付ける。作業者は、アークの状態を確認しつつ、ティーチペンダント30を用いて最適な溶接関連教示情報を入力する。
【0027】
ここで、溶接関連教示情報とは、溶接ロボット20により行われる溶接に関する情報であり、溶接ロボット20の動作を教示する教示情報及び溶接条件が含まれる。溶接ロボット20の教示情報には、溶接ロボット20のアームの動作に関する情報、溶接ロボット20の位置及び姿勢に関する情報、溶接トーチ21の先端から送給される溶接ワイヤの突出長さに関する情報等が含まれる。また、溶接条件には、溶接ワイヤに印加される溶接電圧、溶接ワイヤを流れる溶接電流の値及び溶接中における溶接線方向への溶接トーチ21の移動速度を表す溶接速度等が含まれる。
【0028】
ロボット制御装置100は、溶接ロボット20の制御を行う機器である。ロボット制御装置100は、ティーチペンダント30に接続されており、当該ティーチペンダント30に入力された溶接関連教示情報を取得することができる。ロボット制御装置100は、当該溶接関連教示情報に基づいて溶接ロボット20及び電源40を制御する。
【0029】
電源40は、ケーブルを介して溶接ロボット20に接続されており、ロボット制御装置100からの指令に基づいて溶接ロボット20における溶接トーチ21へ溶接電圧や溶接電流を供給する。
【0030】
なお、
図1では、ティーチペンダント30は、ケーブルを介してロボット制御装置100に接続されているが、ワイヤレスで接続されていてもよい。すなわち、ティーチペンダント30とロボット制御装置100とは、無線通信を行う通信部を備えていてもよい。ロボット制御装置100とティーチペンダント30とがワイヤレスに接続されることで、作業者はケーブルの存在に煩わされたり、ケーブルの長さによる移動範囲の制限を受けたりすることなく、自由に移動をしながら溶接関連教示情報の入力を行うことができる。
【0031】
[ロボット制御装置の構成]
上述した溶接ロボットシステム10において、溶接ロボット20がワークに対してアーク溶接を行う際に、当該ワークにおける溶接位置が重要となる。ロボット制御装置100は、接触式センサを用いて、当該接触式センサをワークに接触させることにより当該ワークの位置を確認し、当該ワークにおける溶接位置を検出する。以下、接触式センサを用いて溶接位置を検出するロボット制御装置100及びその方法について詳しく説明する。
【0032】
図2は、本発明の一実施形態に係るロボット制御装置100の各機能を示す機能ブロック図である。
図2において、溶接ロボット20は、接触式センサ22を備え、ロボット制御装置100は、接触検出部111及び電圧印加指令部112を含むサーチ部110と、サーチ条件記憶部120と、曲量推定部130と、制御部140とを備える。
【0033】
なお、ロボット制御装置100は、
図1に示されたように、溶接ロボット20、ティーチペンダント30、及び電源40に接続されており、種々の制御を行うために多くの機能を備えて、処理を行っている。ここでは、ロボット制御装置100について、接触式センサ22を用いて溶接位置を検出する構成及び機能に関するものを示しているが、その他の構成及び機能を備えていても構わない。
【0034】
溶接ロボット20における接触式センサ22は、典型的には、ワイヤタッチセンサを用いてもよい。溶接ロボット20における溶接トーチ21の先端から突き出した溶接ワイヤと、溶接対象であるワークとの間にセンシング用の電圧を印加した状態で、制御部140の動作指令によって溶接ロボット20における溶接トーチ21を移動させる。そして、溶接トーチ21の先端から突き出した溶接ワイヤがワークに接触すると、その際に電圧が変化するため、当該電圧の変化により溶接ワイヤとワークとの接触を認識する。つまり、溶接トーチ21及び当該溶接トーチ21の先端から突き出した溶接ワイヤが接触式センサ22の一端を担っている。
【0035】
サーチ部110は、サーチ条件記憶部120に記憶されているサーチ条件に基づいて、溶接トーチ21を移動させる。サーチ部110は、溶接トーチ21(接触式センサ22)を移動させて、当該溶接トーチ21の先端から突出した溶接ワイヤを溶接対象であるワークに接触させることにより、接触位置を検出する。具体的には、電圧印加指令部112は、溶接ワイヤとワークとの間に電源40からセンシング用の電圧を印加するように指令し、当該電圧が印加された状態で、制御部140の動作指令によって溶接ロボット20における溶接トーチ21を移動させる。接触検出部111は、当該電圧を監視し、当該電圧の変化により溶接ワイヤとワークとの接触を検出する。
【0036】
サーチ条件記憶部120には、サーチ部110が溶接トーチ21を移動させてワークにおける溶接位置をサーチする際のサーチ条件が記憶されている。サーチ条件記憶部120に記憶されるサーチ条件は、ティーチペンダント30を介して作業者から入力及び設定されても構わない。サーチ条件は、例えば、サーチ部110が溶接トーチ21を移動させるサーチ速度等が含まれる。
【0037】
曲量推定部130は、溶接ワイヤとワークとの接触によって生じる当該溶接ワイヤの曲量を推定する。具体的には、上述したように、サーチ部110は、溶接トーチ21を移動させて、当該溶接トーチ21の先端から突出した溶接ワイヤをワークに接触させることにより接触位置を検出するが、当該接触による衝撃で、溶接ワイヤが曲がってしまう場合がある。曲量推定部130は、当該接触によって溶接ワイヤがどの程度曲がったかについて、当該溶接ワイヤの曲量を推定する。溶接ワイヤの曲量の推定方法についての詳細は、後述する。
【0038】
制御部140は、サーチ部110及び曲量推定部130に各指令及びデータの送受等を行い、ロボット制御装置100で実行される処理を制御し、メモリ等の記憶部(図示せず)に記憶された溶接関連教示情報に基づいて、溶接ロボット20及び電源40を制御している。ここでは、制御部140は、サーチ部110によって検出された接触位置及び曲量推定部130によって推定された溶接ワイヤの曲量に応じて、ワークにおける溶接位置に溶接ワイヤが位置するように溶接トーチ21を制御することについて、詳しく説明する。
【0039】
図3は、溶接ワイヤの曲量に応じて、ワークにおける溶接位置に溶接ワイヤが位置するように溶接トーチを制御する様子を示す図である。
図3(A)に示されるように溶接トーチ21の先端から突出した溶接ワイヤがワークW10に接触することにより、溶接トーチ21が位置P10で溶接位置Q10が検出されている。
【0040】
このような溶接ワイヤとワークW10との接触で、サーチ終了時には、溶接ワイヤが曲がっている。このため、溶接トーチ21を位置P10に移動させて、実際に、溶接を行おうとすると、当該溶接トーチ21の先端から突出した溶接ワイヤは、溶接位置Q10からずれた位置Q11に配置されてしまう(
図3(B))。
【0041】
そこで、制御部140は、溶接トーチ21の先端から突出した溶接ワイヤが溶接位置Q10に適切に配置されるように、例えば、当該溶接トーチ21の位置、姿勢及び方向の少なくともいずれかを調整し、当該溶接トーチ21を位置P11へ制御する(
図3(C))。
【0042】
[ロボット制御方法]
次に、溶接トーチを移動させて溶接位置を検出した後に、溶接ワイヤの曲量を推定して、ワークにおける溶接位置に溶接ワイヤが適切に位置するように、溶接トーチを制御する方法について、具体的に詳しく説明する。
【0043】
図4は、本発明の一実施形態に係るロボット制御装置100が実行するロボット制御方法400を示すフローチャートである。
図4において、ロボット制御方法400はステップS401~S405を含み、各ステップはロボット制御装置100に含まれるプロセッサによって実行される。
【0044】
ステップS401では、サーチ部110は、サーチ条件記憶部120に記憶されているサーチ条件に基づいて、溶接トーチ21(接触式センサ22)を移動させて、溶接対象であるワークW10をサーチする。
【0045】
ステップS402では、サーチ部110における接触検出部111は、接触式センサ22(溶接トーチ21の先端から突き出した溶接ワイヤ)とワークW10との接触を検出する。これにより、サーチ部110は、ワークW10における溶接位置Q10及び溶接トーチ21の位置P10を把握する(
図3(A))。
【0046】
ここで、溶接ロボット20は、通常、1点や1箇所だけでなく、連続する範囲や複数個所を溶接するため、それぞれ溶接の開始位置及び終了位置を検出して溶接線位置を確認したり、複数個所において溶接位置を確認したりする。
【0047】
ステップS403では、制御部140は、すべての溶接位置をサーチして把握したかを判定する。サーチ部110は、すべての溶接位置についてのサーチが終了するまで、ステップS401及びS402の処理を繰り返す(ステップS403のNo)。すべての溶接位置についてのサーチが終了すれば、ステップS404の処理に進む(ステップS403のYes)。
【0048】
ステップS403で、すべての溶接位置についてのサーチが終了したと判定された時点で、溶接トーチ21の先端から突き出した溶接ワイヤは、ワークW10と複数回接触することもあるため、曲がっている可能性が高い(
図3(B))。
【0049】
ステップS404では、曲量推定部130は、溶接ワイヤとワークW10との接触によって生じる当該溶接ワイヤの曲量を推定する。ここで、溶接ワイヤの曲量は、溶接トーチを移動させてワークW10における溶接位置をサーチする際、サーチ部110が溶接トーチ21を移動させるサーチ速度に影響される場合がある。
【0050】
図5は、溶接トーチを移動させるサーチ速度と溶接ワイヤの曲量との関係を示す図である。
図5に示されるように、サーチ速度が大きくなるに従って溶接ワイヤの曲量も大きくなっている。サーチ速度が大きくなれば、溶接ワイヤとワークW10とが接触する際の衝撃も大きくなり、溶接ワイヤの曲量も大きくなる。例えば、サーチ速度が100[cm/min]程度であれば、溶接ワイヤの曲量は0.1[mm]未満であって、ほとんど曲がっておらず、サーチ速度が400[cm/min]程度であれば、溶接ワイヤの曲量は0.4[mm]程度となっている。
【0051】
サーチ部110は、サーチ条件記憶部120に記憶されているサーチ条件に基づいて、溶接トーチ21を移動させてワークW10をサーチするが(ステップS401)、当該サーチ条件に含まれるサーチ速度に応じて、曲量推定部130は、溶接ワイヤの曲量を推定することができる(ステップS404)。
【0052】
ステップS405では、制御部140は、ステップS402においてサーチ部110によって検出された接触位置、及びステップS404において曲量推定部130によって推定された溶接ワイヤの曲量に応じて、ワークW10における溶接位置Q10に溶接ワイヤが位置するように、溶接トーチ21を制御する(
図3(C))。
【0053】
例えば、サーチ部110は、サーチ速度300[cm/min]で溶接トーチ21を移動させてワークをサーチした場合(ステップS401)、曲量推定部130は、
図5に示されたサーチ速度と溶接ワイヤの曲量との関係に基づいて、溶接ワイヤの曲量を0.25[mm]と推定する(ステップS404)。そして、ステップS405において、制御部140は、溶接ワイヤが0.25[mm]曲がっているとした上で、溶接トーチ21の先端から突出された溶接ワイヤが適切な溶接位置Q10に配置されるように、当該溶接トーチ21を位置P11へ制御する(
図3(C))。
【0054】
具体的に、溶接トーチ21の先端から突出された溶接ワイヤが適切な溶接位置Q10に配置されるように、当該溶接トーチ21を位置P11へ制御する方法としては、溶接トーチ21の位置を調整しても構わないし、さらに、角度を変更することより姿勢を調整したり、向きを変更することにより方向を調整したりしても構わない。その他、溶接トーチ21の先端から突出された溶接ワイヤが適切な溶接位置Q10に、より正確に配置されるのであれば、溶接ロボット20のアームや回転軸を調整したり、溶接トーチ21の先端から突出された溶接ワイヤの突出長さを調整したりしても構わない。
【0055】
このように、曲量推定部130によって推定された溶接ワイヤの曲量を考慮して溶接トーチ21を制御するように、溶接ロボット20の動作を教示する教示情報を生成すれば、溶接ワイヤとワークW10との接触によって当該溶接ワイヤに曲がりが生じたとしても、溶接位置がずれることによる溶接不良を低減することができる。
【0056】
また、本実施形態では、ステップS404において、曲量推定部130は、
図5に示された溶接トーチを移動させるサーチ速度と溶接ワイヤの曲量との関係に基づいて、サーチ速度に応じて溶接ワイヤの曲量を推定していたが、これに限定されるものではない。例えば、サーチ速度と溶接ワイヤの曲量との関係についての計算式を用いて、又は予め記憶されたルックアップテーブルを用いて、サーチ速度に対する溶接ワイヤの曲量を算出しても構わない。
【0057】
さらに、曲量推定部130は、溶接ワイヤの曲量をサーチ速度に応じて推定していたが、これに限定されるものではない。例えば、溶接トーチ21に関するトーチ情報、溶接ワイヤに関するワイヤ情報、周辺環境に関する環境情報、及びその他溶接ロボットに関するロボット情報等を考慮して、より精度良く、溶接ワイヤの曲量を推定しても構わない。
【0058】
トーチ情報とは、溶接ロボット20の動作を教示する教示情報が含まれ、例えば、ワークW10をサーチする際及びワークW10に接触する際の溶接トーチ21の位置、姿勢、方向、サーチ及び接触回数、サーチ及び接触順、サーチ及び接触時間等の情報が含まれる。ワイヤ情報とは、例えば、溶接ワイヤの突出長さ、材質、径、状態等の情報が含まれる。環境情報とは、例えば、気候、時間帯、場所、温度、湿度等の情報が含まれる。ロボット情報とは、例えば、溶接ロボットの種類や大きさ、アームの長さ、質量、慣性モーメント等の性能情報、及び各軸角度、角速度、加速度等の動作情報が含まれる。
【0059】
このような、溶接ワイヤが曲がる様々な要素(要因)としての情報は、溶接ワイヤの曲量との関係について、溶接ワイヤが曲がる度合いや影響度に応じて重み付けを付加しつつ、予め計算式を設定し、及びルックアップテーブルを用いて算出されるようにしていても構わない。
【0060】
また、これらの情報については、サーチ条件と捉えることもでき、サーチ条件記憶部120に記憶されていても構わないし、ティーチペンダント30を介して作業者から入力及び設定されても構わない。
【0061】
[溶接ワイヤの曲量を推定する学習方法]
さらに、上述したサーチ速度、トーチ情報、ワイヤ情報、環境情報、及びロボット情報等に対する溶接ワイヤの曲量については、データを蓄積することにより、より精度良く推定することができるようになる。以下に、所謂、機械学習について、一例を挙げて説明する。
【0062】
図6は、サーチ速度による溶接ワイヤの曲量について、機械学習のためのデータ蓄積方法600の一例を示すフローチャートであり、
図7は、サーチ速度による溶接ワイヤの曲量について、機械学習のためのデータを蓄積する際の溶接トーチを移動させる様子を示す図である。
図6において、データ蓄積方法600はステップS601~S607を含み、各ステップはロボット制御装置100に含まれるプロセッサによって実行される。
【0063】
ステップS601では、サーチ部110は、低速で溶接トーチ21を移動させて、ワークW20をサーチする。なお、低速とは、溶接ワイヤとワークW20とが接触した際の衝撃によって、当該溶接ワイヤの曲量が小さく、溶接ワイヤがほとんど曲がらない程度のサーチ速度であって、例えば、
図5に示される例に基づけば、100[cm/min]程度であっても構わない。
【0064】
ステップS602では、サーチ部110における接触検出部111は、接触式センサ22(溶接トーチ21の先端から突き出した溶接ワイヤ)とワークW20との接触を検出する。この際に、サーチ部110は、溶接トーチ21の位置P20を検出する(
図7(A))。
【0065】
ステップS603では、サーチ部110は、高速で溶接トーチ21を移動させて、ワークW20をサーチする。なお、高速とは、ステップS601でのサーチ速度よりも大きく、溶接ワイヤとワークW20とが接触した際の衝撃によって、少なくとも当該溶接ワイヤに曲がりが生じる程度のサーチ速度である。なお、機械学習においてデータを蓄積するという観点から、種々のサーチ速度で多くのデータを蓄積することが好ましい。
【0066】
ステップS604では、サーチ部110における接触検出部111は、接触式センサ22(溶接トーチ21の先端から突き出した溶接ワイヤ)とワークW20との接触を検出する。この際に、サーチ部110は、溶接トーチ21の位置P21を検出する(
図7(B))。この時、
図7(B)に示すように、溶接ワイヤとワークW20との接触による衝撃で、溶接ワイヤは曲がっている。
【0067】
ここで、ステップS601では、溶接ワイヤに曲がりは生じていないにもかかわらず、ステップS604において検出した溶接トーチ21の位置P21は、ステップS602において検出した溶接トーチ21の位置P20からずれている。これは、高速で溶接トーチ21を移動させるとワークW20との接触を検出するタイミングやタイムラグ等によって生じる高速サーチによる検出誤差(P21-P20)である。
【0068】
ステップS605では、サーチ部110は、再び、低速で溶接トーチ21を移動させて、ワークW20をサーチする。
【0069】
ステップS606では、サーチ部110における接触検出部111は、接触式センサ22(溶接トーチ21の先端から突き出した溶接ワイヤ)とワークW20との接触を検出する。この際に、サーチ部110は、溶接トーチ21の位置P22を検出する(
図7(C))。
【0070】
ステップS607では、曲量推定部130は、ステップS602において検出した溶接トーチ21の位置P20と、ステップS606において検出した溶接トーチ21の位置P22とに基づいて、溶接ワイヤの曲量を推定する。
【0071】
より詳細には、ステップS604において溶接ワイヤに曲がりが生じており、ステップS606では、曲がりが生じている状態の溶接ワイヤでワークW20との接触を検出し、その際の溶接トーチ21の位置P22を検出している。換言すれば、低速サーチという同一のサーチ速度(サーチ条件)でサーチして、溶接ワイヤとワークW20との接触を検出した際の溶接トーチ21の位置について、当該溶接トーチ21の位置の差(P22-P20)は、溶接ワイヤの曲量であることが分かる。なお、曲量推定部130は、溶接ワイヤの曲量を推定する際に、ステップS604で生じている高速サーチによる検出誤差(P21-P20)を考慮しても構わないし、当該検出誤差を考慮することにより、より正確に溶接ワイヤの曲量を推定することができる。
【0072】
このように、低速サーチ、高速サーチ、低速サーチを繰り返すことによって、高速サーチで用いたサーチ速度では、溶接ワイヤには、どの程度の曲量が生じるかについて、溶接ワイヤの曲量を推定することができる。
【0073】
さらに、ステップS603において様々なサーチ速度を用いて、溶接ワイヤの曲量に関するデータを蓄積すれば、機械学習によって、より精度良く、溶接ワイヤの曲量を推定できるようになる。
【0074】
つまり、曲量推定部130は、サーチ部110が溶接トーチ21を移動させるサーチ速度と、当該サーチ速度で溶接ワイヤがワークに接触した際に生じる当該溶接ワイヤの曲量とを教師データとして蓄積する。そして、当該蓄積された教師データに基づいて、機械学習された予測モデルを用いて、曲量推定部130は、ワークとの接触による溶接ワイヤの曲量を推定することができる。機械学習は、教師データの蓄積によって精度が向上し、その時点で、最適化された予測モデルを導くことができるため、曲量推定部130は、最適な溶接ワイヤの曲量を推定することができる。
【0075】
なお、データ蓄積方法600を実行して、機械学習のためのデータを蓄積するタイミングは、例えば、1週間毎や1ヶ月毎等の所定期間毎、10回毎や100回毎等の溶接を実行する所定回数毎、溶接不良が発生する毎、溶接不良の発生率が所定値以上になった際、及び作業者が判断した任意のタイミング等であっても構わない。
【0076】
また、ここでは、機械学習の教師データとして、サーチ速度を用いたが、これに限定されるものではなく、例えば、トーチ情報、ワイヤ情報、環境情報及びロボット情報等を用いても構わない。
【0077】
図8は、機械学習の教師データとして用いられる情報の一例を示す図である。例えば、溶接トーチ21がワークに接触する回数が多かったり、ワークへの接触時間が長かったりすれば、当該溶接ワイヤの曲量は大きくなり、さらに、サーチ及び接触順によっても当該溶接ワイヤの曲量に影響することが考えられる。また、溶接ワイヤの突出長さ、材質、径等に応じて、溶接ワイヤの曲量に影響するが、さらに、温度や湿度の環境によっても、当該溶接ワイヤの曲量に変化が生じる場合もある。その他、溶接ロボットの種類やアームの長さによっても、溶接ワイヤとの組み合わせや相性等が当該溶接ワイヤの曲量に影響する場合もある。これらの要因及び条件について、より多くの情報を教師データとして蓄積することができれば、より優れた機械学習によって、最適化された予測モデルを導くことができるため、曲量推定部130は、最適な溶接ワイヤの曲量を推定することができる。
【0078】
以上のように、本発明の一実施形態に係るロボット制御装置100及びロボット制御方法400によれば、曲量推定部130が溶接ワイヤの曲量を推定し、制御部140が当該溶接ワイヤの曲量に応じて、ワークW10における適切な溶接位置Q10に溶接ワイヤが位置するように溶接トーチ21を制御するため、溶接ワイヤとワークW10との接触によって溶接ワイヤに曲がりが生じたとしても、溶接位置がずれることによる溶接不良を低減することができる。
【0079】
また、一般的に、サーチ速度を大きくすれば、溶接ワイヤとワークW10との接触による衝撃で当該溶接ワイヤの曲量が大きくなり、結果的に、溶接位置がずれて溶接不良が発生し易くなるという懸念がある。しかし、本発明の一実施形態に係るロボット制御装置100における曲量推定部130は、サーチ部110が溶接トーチ21を移動させるサーチ速度に基づいて、溶接ワイヤの曲量を推定するため、サーチ速度が大きい場合であっても、溶接ワイヤの曲量を精度よく推定する。その結果、溶接位置がずれることによる溶接不良を低減することができるとともに、サーチ速度を大きくすることができるため、タクトタイムを短縮することができ、生産性の向上及びコストの軽減にも繋がる。
【0080】
また、一般的に、サーチ速度を大きくすれば、溶接ワイヤとワークW10との接触を検出するタイミングやタイムラグ等によって生じる検出誤差が大きくなり、結果的に、溶接位置がずれて溶接不良が発生し易くなるという懸念がある。しかし、
図6及び
図7を用いて説明したように、低速サーチ、高速サーチ、低速サーチを繰り返して機械学習する過程において、当該検出誤差を考慮することができ、曲量推定部130は、より正確に溶接ワイヤの曲量を推定することができる。その結果、溶接位置がずれることによる溶接不良を低減することができるとともに、サーチ速度を大きくすることができるため、タクトタイムを短縮することができ、生産性の向上及びコストの軽減にも繋がる。
【0081】
さらに、機械学習によって溶接ワイヤの曲量を推定するようにすれば、教師データの蓄積によって精度が向上し、その時点で、最適化された予測モデルを導くことができるため、曲量推定部130は、最適な溶接ワイヤの曲量を推定することができる。曲量推定部130によって推定される溶接ワイヤの曲量の精度が向上していくため、溶接位置がずれることによる溶接不良を益々低減することができる。
【0082】
また、本発明によれば、曲量推定部130によって溶接ワイヤの曲量を正確に推定できるため、溶接トーチ21の先端から突出する当該溶接ワイヤとワークとの接触する際の、溶接トーチ21の位置、姿勢及び方向、サーチ速度、及びその他溶接ワイヤの材質等を考慮すれば、曲がった溶接ワイヤを真っ直ぐに修正することもできる。
【0083】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0084】
10…溶接ロボットシステム、20…溶接ロボット、21…溶接トーチ、22…接触式センサ、30…ティーチペンダント、40…電源、100…ロボット制御装置、110…サーチ部、111…接触検出部、112…電圧印加指令部、120…サーチ条件記憶部、130…曲量推定部、140…制御部、400…ロボット制御方法、600…データ蓄積方法、S401~S405…ロボット制御方法400の各ステップ、S601~S607…データ蓄積方法600の各ステップ、W10,W20…ワーク、P10,P11,P20,P21,P22,Q10,Q11…位置