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特開2022-47348特定地点における土砂災害の発生可能性を推定するためのシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047348
(43)【公開日】2022-03-24
(54)【発明の名称】特定地点における土砂災害の発生可能性を推定するためのシステム
(51)【国際特許分類】
   G08B 31/00 20060101AFI20220316BHJP
   G08B 21/10 20060101ALI20220316BHJP
   E02D 17/20 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
G08B31/00 B
G08B21/10
E02D17/20 106
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020153217
(22)【出願日】2020-09-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松四 雄騎
(72)【発明者】
【氏名】菊田 真仁
【テーマコード(参考)】
2D044
5C086
5C087
【Fターム(参考)】
2D044EA07
5C086AA11
5C086DA08
5C086EA40
5C086EA45
5C086FA17
5C087AA02
5C087AA03
5C087AA09
5C087AA10
5C087DD02
5C087EE08
5C087FF01
5C087FF02
5C087GG14
5C087GG66
5C087GG84
(57)【要約】
【課題】従来技術による場合と比較し、特定地点における土砂災害の発生可能性を正しく推定する手段を提供する。
【解決手段】斜面安定性算出部は、降雨時に危険評価セルに流れ込む水を供給する監視領域を構成する複数の監視対象セルの各々に関し、降雨量と土質と地形とを用いて斜面安定性を算出する。土砂災害危険性算出部は、監視対象セルの各々に関し、土砂生産性と、監視対象セルから危険評価セルへの崩落土砂の到達可能性とを用いて、土砂災害危険性を算出する。土砂到達可能性算出部は、監視対象セルの各々に関し斜面安定性に土砂災害危険性を乗じた値を平均して、危険評価セルに対する土砂到達可能性を算出する。土砂災害発生時刻推定部は、土砂到達可能性が閾値に達する時刻を危険評価セルにおける土砂災害の発生時刻として推定する。表示部は、推定された危険評価セルにおける土砂災害の発生時刻を表示する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
降雨時に危険評価セルに流れ込む水を供給する監視領域を構成する複数のセルの各々に関し、当該セルの降雨量と土質と地形とを用いて斜面安定性を算出し、当該セルの土砂生産性と当該セルから前記危険評価セルへの崩落土砂の到達可能性とを用いて土砂災害危険性を算出し、前記斜面安定性と前記土砂災害危険性とを用いて前記危険評価セルに対する土砂到達可能性を算出する
システム。
【請求項2】
前記監視領域を構成する複数のセルの各々に関し算出した前記斜面安定性を当該セルに関し算出した前記土砂災害危険性を用いて調整した値の統計量を前記危険評価セルに対する土砂到達可能性として算出する
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記監視領域を構成する複数のセルの各々に関し算出した前記土砂災害危険性を当該セルに関し算出した前記斜面安定性を用いて調整した値の統計量を前記危険評価セルに対する土砂到達可能性として算出する
請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記危険評価セルに対する土砂到達可能性が閾値に達する時刻を前記危険評価セルにおける土砂災害の発生時刻として推定する
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項5】
コンピュータに、
降雨時に危険評価セルに流れ込む水を供給する監視領域を構成する複数のセルの各々に関し、当該セルの降雨量と土質と地形とを用いて斜面安定性を算出し、当該セルの土砂生産性と当該セルから前記危険評価セルへの崩落土砂の到達可能性とを用いて土砂災害危険性を算出し、前記斜面安定性と前記土砂災害危険性とを用いて前記危険評価セルに対する土砂到達可能性を算出させる
ためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定地点における土砂災害の発生可能性を推定するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
降雨により斜面における土砂の安定度(以下、「斜面安定度」という)が低下し、土砂の表層崩落(以下、「土砂崩落」という)が発生すると、例えば、斜面の下方に位置するインフラに崩落した土砂が到達し、当該インフラ内の人の命が危険にさらされる。
【0003】
インフラ等の存在する特定地点に崩落した土砂が到達し、土砂災害が発生する可能性の大小が正しく推定できれば、土砂災害が発生する前に当該特定地点内の人が避難することで、人命が守られる。
【0004】
特定地点における土砂災害の発生可能性を推定する技術を開示している特許文献として、例えば、特許文献1及び特許文献2がある。
【0005】
特許文献1においては、特定地点を含む微小領域である危険評価セルに到達する土砂の発生源となり得る領域を監視領域として特定し、監視領域内のセル毎に、当該セルから発生する崩落土砂の多少を意味する土砂生産性と、当該セルで土砂の崩落が発生した場合に当該土砂が危険評価セルに到達する可能性の大小を意味する到達可能性とを算出し、算出した土砂生産性と到達可能性に基づき、危険評価セルにおける土砂災害の発生可能性の大小を意味する土砂災害発生リスクを算出する方法が提案されている。
【0006】
特許文献2においては、監視領域の降雨量の予測値と土質と地形とに基づき、監視領域内のセル毎に、土砂の崩落を発生させる可能性の大小を意味する斜面安定度を算出し、降雨状態の変化に応じて経時変化する斜面安定度の分布に基づき、監視領域内で土砂の崩落が発生する時刻を推定する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-70961号公報
【特許文献2】特開2020-60078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の方法において土砂災害発生リスクの算出に用いられるセル毎の土砂生産性及び到達可能性は他のセルとの間の相対的な指標であるため、土砂災害発生リスクもまた相対的な指標である。そして、土砂災害発生リスクの算出には経時変化する降雨状態を示す情報は用いられない。従って、特許文献1に記載の方法によって、危険評価セル内の人が避難を開始すべきタイミングを特定することはできない。
【0009】
特許文献2に記載の方法によれば、監視領域内で土砂の崩落が発生する時刻が推定されるため、危険評価セル内の人が避難を開始すべきタイミングが特定される。しかしながら、特許文献2に記載の方法においては、監視領域内の注目するセルの斜面安定度が、周りのセルの斜面安定度により影響を受ける点は考慮されていない。従って、土砂の崩落の発生時刻を正しく推定するために、特許文献2に記載の方法は改善の余地がある。
【0010】
上記の事情に鑑み、本発明は、従来技術による場合と比較し、特定地点における土砂災害の発生可能性を正しく推定する手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、降雨時に危険評価セルに流れ込む水を供給する監視領域を構成する複数のセルの各々に関し、当該セルの降雨量と土質と地形とを用いて斜面安定性を算出し、当該セルの土砂生産性と当該セルから前記危険評価セルへの崩落土砂の到達可能性とを用いて土砂災害危険性を算出し、前記斜面安定性と前記土砂災害危険性とを用いて前記危険評価セルに対する土砂到達可能性を算出するシステムを第1の態様として提案する。
【0012】
第1の態様に係るシステムによれば、従来技術による場合と比較し、特定地点における土砂災害の発生可能性が正しく推定される。
【0013】
上記の第1の態様に係るシステムにおいて、前記監視領域を構成する複数のセルの各々に関し算出した前記斜面安定性を当該セルに関し算出した前記土砂災害危険性を用いて調整した値の統計量を前記危険評価セルに対する土砂到達可能性として算出する、という構成が第2の態様として採用されてもよい。
【0014】
上記の第1の態様に係るシステムにおいて、前記監視領域を構成する複数のセルの各々に関し算出した前記土砂災害危険性を当該セルに関し算出した前記斜面安定性を用いて調整した値の統計量を前記危険評価セルに対する土砂到達可能性として算出する、という構成が第3の態様として採用されてもよい。
【0015】
上記の第1乃至第3のいずれかの態様に係るシステムにおいて、前記危険評価セルに対する土砂到達可能性が閾値に達する時刻を前記危険評価セルにおける土砂災害の発生時刻として推定する、という構成が第4の態様として採用されてもよい。
【0016】
第4の態様に係るシステムによれば、特定地点における土砂災害の発生時刻が推定される。
【0017】
また、本発明は、コンピュータに、降雨時に危険評価セルに流れ込む水を供給する監視領域を構成する複数のセルの各々に関し、当該セルの降雨量と土質と地形とを用いて斜面安定性を算出し、当該セルの土砂生産性と当該セルから前記危険評価セルへの崩落土砂の到達可能性とを用いて土砂災害危険性を算出し、前記斜面安定性と前記土砂災害危険性とを用いて前記危険評価セルに対する土砂到達可能性を算出させるためのプログラムを第5の態様として提案する。
【0018】
第5の態様に係るプログラムによれば、コンピュータにより、従来技術による場合と比較し、特定地点における土砂災害の発生可能性が正しく推定される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一実施形態に係る危険評価セルと監視領域の関係を例示した図。
図2】一実施形態に係るシステムの構成を示した図。
図3】一実施形態に係る端末装置の機能構成を示した図。
図4】一実施形態に係る端末装置が表示する画面の例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施形態]
以下に、本発明の一実施形態に係るシステム1を説明する。システム1は、対象地域内の鉄道等のインフラに対し災害をもたらす土砂崩落の発生時刻を推定するシステムである。
【0021】
図1は、対象地域U内のインフラである軌道r上の1つの危険評価セルPと、危険評価セルPに対し崩落した土砂を供給する供給源となり得る領域である監視領域Qの関係を示した図である。なお、本願においてセルとは、対象地域を分割して得られる複数の所定の大きさ、形状の領域の各々を意味する。
【0022】
監視領域Qは、危険評価セルPの集水領域として特定された領域である。すなわち、監視領域Qは、降雨時に危険評価セルPに流れ込む水の供給元となる領域を意味する。監視領域Qは、対象地域の数値標高モデルを用いて既知の地形水文分析により特定される。以下、監視領域内のセルを監視対象セルという。
【0023】
システム1は、監視領域Qの監視対象セルの各々に関し斜面安定性Fと呼称する指標と、土砂災害危険性TGIと呼称する指標とを算出し、算出した斜面安定性Fと土砂災害危険性TGIとを用いて、危険評価セルPに対する土砂到達可能性FSWを算出する。そして、システム1は、降雨状態に応じて経時変化する土砂到達可能性FSWが所定の閾値に達する時刻を、危険評価セルPにおける土砂災害の発生時刻として推定する。
【0024】
図2はシステム1の構成を示した図である。図2(A)は、システム1の全体構成を示した図である。システム1はユーザにより使用される端末装置11と、端末装置11に対し対象地域における降雨量の経時変化の実績値及び推定値を示す降雨量データを配信するサーバ装置12を備える。端末装置11とサーバ装置12はネットワークを介して通信接続されている。
【0025】
端末装置11及びサーバ装置12のハードウェアはコンピュータである。図2(B)は端末装置11のハードウェアとして用いられるコンピュータ10の構成を示した図である。また、図2(C)はサーバ装置12のハードウェアとして用いられるコンピュータ20の構成を示した図である。
【0026】
コンピュータ10は、各種データを記憶するメモリ101と、メモリ101に記憶されているプログラムに従う各種データ処理を行うプロセッサ102と、外部の装置との間でデータ通信を行う通信ユニット103と、ユーザに各種情報を表示するディスプレイ104と、ユーザのデータ入力操作を受け付けるキーボード105を備える。なお、ディスプレイ104及びキーボード105の少なくとも一方がコンピュータ10に内蔵されず、外付けの装置としてコンピュータ10に接続されてもよい。
【0027】
コンピュータ20は、各種データを記憶するメモリ201と、メモリ201に記憶されているプログラムに従う各種データ処理を行うプロセッサ202と、外部の装置との間でデータ通信を行う通信ユニット203を備える。
【0028】
プロセッサ202がメモリ201に記憶されているプログラムに従う各種データ処理を行うと、コンピュータ20は降雨量データを端末装置11に配信するサーバ装置12として動作する。サーバ装置12の機能構成は、一般的なデータ配信を行うサーバ装置の機能構成と同様であるため、その説明を省略する。
【0029】
図3は、端末装置11の機能構成を示した図である。コンピュータ10のプロセッサ102がメモリ101に記憶されているプログラムに従う各種データ処理を行うと、コンピュータ10は図3に示す構成部を備える装置として動作する。以下に図3に示される機能構成を説明する。
【0030】
端末装置11は、記憶部111と、受信部112と、斜面安定性算出部113と、土砂災害危険性算出部114と、土砂到達可能性算出部115と、土砂災害発生時刻推定部116と、表示部117を備える。
【0031】
記憶部111は主としてメモリ101により実現され、各種データを記憶する。受信部112は主として通信ユニット103により実現され、サーバ装置12から降雨量データを受信する。受信部112により受信された降雨量データは記憶部111に記憶される。
【0032】
斜面安定性算出部113と、土砂災害危険性算出部114と、土砂到達可能性算出部115と、土砂災害発生時刻推定部116は、主としてプロセッサ102により実現される。
【0033】
斜面安定性算出部113は、監視対象セルの各々に関し、当該セルの降雨量と土質と地形とを用いて斜面安定性Fを算出する。以下に、斜面安定性算出部113が斜面安定性Fを算出する方法を説明する。
【0034】
斜面安定性算出部113は、以下の式1に従い斜面安定性Fを算出する。
【数1】
【0035】
ただし、cは土層の粘着力(単位:kPa)、Δcは樹木根系による粘着力の増加量(単位:kPa)、γは土層の飽和単位重量(単位:N/m)、γは水の単位重量(単位:N/m)、hは土層厚(単位:m)、αは斜面傾斜角(単位:deg)、φはせん断抵抗角(単位:deg)である。
【0036】
また、mは以下の式2に従い算出される地下水位パラメータ(土層厚hに対する圧力水頭の比)である。
【数2】
【0037】
ただし、ψ(t)は降雨開始時刻を基準とする時刻t(すなわち、降雨開始時刻から時間t(単位:s)が経過した時刻)における圧力水頭(単位:m)である。
【0038】
斜面安定性算出部113は、以下の式3に従い圧力水頭ψ(t)を算出する。なお、以下の式3は、Richard M. Iversonにより2000年に発表された論文"Landslide triggering by rain infiltration"において提案されたモデル方程式である。
【数3】
【0039】
ただし、tは以下の式4で示される値である。
【数4】
【0040】
ただし、Dは拡散係数(単位:m/s)、αは斜面傾斜角(単位:deg)、Zは深さ(単位:m)である。
【0041】
また、Tは以下の式5で示される値である。
【数5】
ただし、Tは降雨持続時間(単位:s)である。
【0042】
また、ψは圧力水頭の初期値、Iは雨量強度(単位:m/s)、Kは深さ方向の透水係数(m/s)、R(t)は以下の式6のxにtを代入した値、R(t-T)は以下の式6のxに(t-T)を代入した値である。
【数6】
【0043】
記憶部111には、斜面安定性算出部113が各セルの時刻tにおける斜面安定性Fを算出するために用いるデータとして、土層の粘着力cを示す粘着力データ、樹木根系による土層の粘着力の増加量Δcを示す粘着力増加量データ、土層の飽和単位重量γを示す飽和単位重量データ、水の単位重量γを示す単位重量データ、各セルの土層厚hを示す土層厚データ、各セルの斜面傾斜角αを示す斜面傾斜角データ、せん断抵抗角φを示すせん断抵抗角データが記憶されている。
【0044】
また、記憶部111には、斜面安定性算出部113が各セルの時刻tにおける圧力水頭ψ(t)を算出するために用いるデータとして、拡散係数Dを示す拡散係数データ、各セルの斜面傾斜角αを示す斜面傾斜角データ、各セルの深さZを示す深さデータ、雨量強度Iを示す雨量強度データ、深さ方向の透水係数Kを示す透水係数データ、降雨持続時間Tを示す降雨持続時間データが記憶されている。
【0045】
粘着力データが示す土層の粘着力c、飽和単位重量データが示す土層の飽和単位重量γ、せん断抵抗角データが示すせん断抵抗角φは、対象地域内から採取したサンプルを用いて行われたせん断試験等により特定された値である。粘着力増加量データが示す土層の粘着力の増加量Δcは、土層中における深度の関数としての植物根系の数密度や根直径分布および過去の発災事例の逆解析により経験的に求められた値である。
【0046】
斜面傾斜角データが示す各セルの斜面傾斜角αは、数値標高モデルデータに基づき特定された値である。
【0047】
土層厚データが示す各セルの土層厚hは、数値標高モデルデータに基づき特定された傾斜曲率Cを以下の式7に代入して算出された値である。
【数7】
【0048】
ただし、hは傾斜曲率Cが0の箇所の平板型斜面の土層厚であり、aは指数係数である。
【0049】
式7の指数係数aは、対象地域内からランダムに選択された複数のセルの各々に関し、数値標高モデルデータに基づき特定された傾斜曲率Cと土層厚hの実測値との組み合わせをサンプルとする母集団に関し、回帰分析により特定された値を用いる。なお、傾斜曲率Cから土層厚hを推定するために用いる関数は回帰分析により求められるが、関数の種別は式7に例示の指数関数に限られず、傾斜曲率Cから土層厚hの有意な推定値を導出できる限り、例えば、線形関数、多項式関数、べき関数等のいずれの種別の関数が用いられてもよい。
【0050】
拡散係数データが示す拡散係数Dと、透水係数データが示す透水係数Kは、対象地域内の代表点における水文観測値と、式3に示されるモデル方程式とのフィッティングにより特定された値である。
【0051】
斜面傾斜角データが示す各セルの斜面傾斜角αと、深さデータが示す各セルの深さZは、数値標高モデルデータに基づき特定された値である。
【0052】
雨量強度データが示す雨量強度Iと、降雨持続時間データが示す降雨持続時間Tは、受信部112がサーバ装置12から受信した降雨量データに基づき特定された値である。
【0053】
なお、斜面安定性算出部113が時刻tにおける圧力水頭ψ(t)の算出に用いる圧力水頭の初期値ψは、圧力水頭データが示す降雨開始時刻における圧力水頭である。
【0054】
斜面安定性算出部113により算出されたセル毎の時刻tにおける斜面安定性Fを示すデータは、斜面安定性データとして記憶部111に記憶される。また、斜面安定性算出部113により算出されたセル毎の時刻tにおける圧力水頭ψ(t)を示すデータは、圧力水頭データとして記憶部111に記憶される。
【0055】
以上が、斜面安定性算出部113が斜面安定性Fを算出する方法の説明である。
【0056】
土砂災害危険性算出部114は、監視対象セルの各々に関し、当該セルの土砂生産性と当該セルから危険評価セルへの崩落土砂の到達可能性とを用いて土砂災害危険性TGIを算出する。以下に、土砂災害危険性算出部114が土砂災害危険性TGIを算出する方法を説明する。
【0057】
土砂災害危険性算出部114は、以下の式8に従い土砂災害危険性TGIを算出する。
【数8】
【0058】
ただし、SAIは土砂生産性を意味し、以下の式9に従い算出される。
【数9】
【0059】
ただし、Slocalは監視対象セルの勾配、Aflocalは監視領域の集水面積である。また、S(Aflocal)は以下の式10に従い算出される、監視領域の集水面積Aflocalに応じた勾配である。
【数10】
【0060】
ただし、Sは勾配(単位:m/m)、Aは集水面積(単位:m)である。また、B及びpは対象地域の土砂の特性により定まる定数であり、対象地域内の各セルに関する集水面積と勾配の組をサンプルとする母集団に関し、回帰分析により特定された値である。式10は、対象地域における標準的な土砂の削れやすさをもたらす集水面積と勾配の組み合わせを示す。
【0061】
なお、式10は以下の式11から導出される。
【数11】
【0062】
ただし、Eは土砂の侵食速度(単位:m/yr)、Kは土砂の侵食効率(単位:例えばyr-1(べき数mに依存))である。また、m及びnは集水面積Aと勾配Sの重み付けを示す数値(m>0、n>0)である。式11に示されるように、土砂の侵食速度が勾配と集水面積のべき乗の積に概ね比例する関係を有する点は既知である。なお、式10の定数と式11の定数には以下の式12及び式13に示す関係がある。
【数12】
【数13】
【0063】
また、式8のIEFCは監視対象セルから危険評価セルへの崩落土砂の到達可能性を意味し、以下の式14に従い算出される。
【数14】
【0064】
ただし、Hは危険評価セルを基準とする監視対象セルの高さ(単位:m)、すなわち監視対象セルの高さから危険評価セルの高さを減じた値である。また、Lは危険評価セルと監視対象セルの水平距離(単位:m)である。
【0065】
記憶部111には、土砂災害危険性算出部114が各セルの土砂災害危険性TGIを算出するために用いるデータとして、各セルの集水面積を示す集水面積データ、各セルの勾配を示す勾配データ、各セルの位置関係(数値標高モデル)を示す数値標高モデルデータが記憶されている。
【0066】
土砂災害危険性算出部114により算出された各危険評価セルの監視対象セル毎の土砂生産性SAIを示すデータは、土砂生産性データとして記憶部111に記憶される。土砂災害危険性算出部114により各危険評価セルの監視対象セル毎の到達可能性IEFCを示すデータは、到達可能性データとして記憶部111に記憶される。そして、土砂災害危険性算出部114により算出された各危険評価セルの監視対象セル毎の土砂災害危険性TGIを示すデータは、土砂災害危険性データとして記憶部111に記憶される。
【0067】
以上が、土砂災害危険性算出部114が土砂災害危険性TGIを算出する方法の説明である。
【0068】
土砂到達可能性算出部115は、斜面安定性算出部113が算出した斜面安定性Fと土砂災害危険性算出部114が算出した土砂災害危険性TGIとを用いて、危険評価セルに対する土砂到達可能性FSWを算出する。以下に、土砂到達可能性算出部115が土砂到達可能性FSWを算出する方法を説明する。
【0069】
土砂到達可能性算出部115は、以下の式15に従い土砂到達可能性FSWを算出する。
【数15】
【0070】
ただし、Nは監視対象セルの数である。すなわち、土砂到達可能性FSWは、監視領域を構成する複数の監視対象セルの各々に関する斜面安定性Fに対し、当該監視対象セルに関する土砂災害危険性TGIを重みとして乗じて調整した値の平均値(加重平均値)である。
【0071】
土砂到達可能性算出部115により算出された土砂到達可能性FSWを示すデータは、土砂到達可能性データとして記憶部111に記憶される。
【0072】
以上が、土砂到達可能性算出部115が土砂到達可能性FSWを算出する方法の説明である。
【0073】
土砂災害発生時刻推定部116は、土砂到達可能性算出部115が算出した土砂到達可能性FSWが閾値に達する時刻を、危険評価セルにおける土砂災害の発生時刻として推定する。土砂災害発生時刻推定部116が用いる閾値は、例えば1である。
【0074】
土砂災害発生時刻推定部116により推定された土砂災害の発生時刻を示すデータは、土砂災害発生推定時刻データとして記憶部111に記憶される。
【0075】
表示部117は主としてディスプレイ104により実現され、端末装置11のユーザに対し、土砂災害発生時刻推定部116により推定された土砂災害の発生時刻等の各種情報を表示する。
【0076】
図4は、表示部117が表示する画面の例を示した図である。図4に例示の画面は、2020年8月15日14時23分に危険評価セルPにおいて土砂災害が発生する可能性が高いことを示している。
【0077】
上述したシステム1によれば、ユーザは、特定地点(危険評価セル)において土砂災害が発生する可能性が高い時刻を知ることができる。
【0078】
[変形例]
上述した実施形態は本発明の技術的思想の範囲内で様々に変形されてよい。以下にそれらの変形例を示す。なお、以下に示す変形例の2以上が適宜組み合わされてもよい。
【0079】
(1)上述した実施形態において、土砂到達可能性算出部115は式15に従い危険評価セルに対する土砂到達可能性を算出する。すなわち、端末装置11は監視領域を構成する複数の監視対象セルの各々に関する斜面安定性Fに対し、当該監視対象セルに関する土砂災害危険性TGIを重みとして乗じて調整した値の平均値を、危険評価セルに対する土砂到達可能性として算出する。
【0080】
土砂到達可能性算出部115が土砂到達可能性を算出する方法は、斜面安定性Fと土砂災害危険性TGIを用いる限り、様々に変形されてよい。
【0081】
例えば、上述した実施形態においては、斜面安定性Fに対し、土砂災害危険性TGIを用いた調整を行う方法として、単純に土砂災害危険性TGIを重みとして乗じる方法が採用されているが、他の調整方法が採用されてもよい。例えば、土砂災害危険性TGIに代えて、土砂災害危険性TGIと正の相関を持つ指標値を重みとして乗じることで、斜面安定性Fが調整されてもよい。
【0082】
また、上述した実施形態においては、土砂災害危険性TGIを用いて調整された斜面安定性Fの単純な平均値が土砂到達可能性として算出されるが、他の種類の統計量が土砂到達可能性として算出されてもよい。例えば、土砂災害危険性TGIを用いて調整された斜面安定性Fの刈込平均値や中央値等が土砂到達可能性として算出されてもよい。
【0083】
また、上述した実施形態においては、土砂災害危険性TGIを用いて調整された斜面安定性Fの統計量が土砂到達可能性として算出されるが、これに代えて、斜面安定性Fを用いて調整された土砂災害危険性TGIの統計量が土砂到達可能性として算出されてもよい。
【0084】
例えば、土砂到達可能性算出部115が、土砂到達可能性FSWに代えて、以下の式16に従い土砂到達可能性SLPR(t)を算出してもよい。
【数16】
【0085】
ただし、TGI はセルiに関し経時変化する時刻tにおける斜面安定性Fにより調整された土砂災害危険性TGI(以下、動的土砂災害危険性TGIという)であり、例えば、以下の式17、式18及び式19のいずれかにより算出される。
【数17】
【数18】
【数19】
【0086】
ただし、FSim=0は、地下水位パラメータm(式2参照)が0である場合の、セルiに関する斜面安定性Fであり、FSim=1は、地下水位パラメータmが1である場合の、セルiに関する斜面安定性Fである。
【0087】
動的土砂災害危険性TGIは、土砂災害危険性TGIを斜面安定性Fの大小に応じて調整した値である。
【0088】
この変形例において、土砂災害発生時刻推定部116は、過去に対象地域において土砂災害が発生した時点における土砂到達可能性SLPRに基づき設定された閾値を用いて、土砂災害発生時刻の推定を行う。
【0089】
なお、式16に従い算出される土砂到達可能性SLPRは動的土砂災害危険性TGIの算術平均値であるが、動的土砂災害危険性TGIの算術平均値以外の統計量が土砂到達可能性SLPRとして用いられてもよい。
【0090】
(2)上述した実施形態においては、軌道上のセルを危険評価セルとして用いるものとしたが、他の種類のインフラ(例えば、道路、発電所、変電所等)上のセルが危険評価セルとして用いられてもよい。また、民家等に設定されたセルが危険評価セルとして用いられてもよい。なお、インフラ上のセルは複数設定されてもよく、複数のセルが危険評価セルとして用いられてもよい。例えば、鉄道の線路の場合、線路の設置方向に沿って複数のセルが危険評価セルとして用いられてもよい。
【0091】
(3)上述した実施形態においては、監視対象セル毎の土砂生産性として式9に定義されるSAIが用いられるものとしたが、監視対象セル毎の土砂生産性を示す指標であれば、他の指標が用いられてもよい。
【0092】
(4)上述した実施形態においては、監視対象セル毎の崩落土砂の危険評価セルへの到達可能性として式14に定義されるIEFCが用いられるものとしたが、監視対象セル毎の崩落土砂の危険評価セルへの到達可能性を示す指標であれば、他の指標が用いられてもよい。
【0093】
(5)上述した実施形態においては、端末装置11及びサーバ装置12はコンピュータがプログラムに従う処理を実行することにより実現されるものとしたが、端末装置11及びサーバ装置12の少なくとも一方が、専用装置として構成されてもよい。
【符号の説明】
【0094】
1…システム、10…コンピュータ、11…端末装置、12…サーバ装置、20…コンピュータ、101…メモリ、102…プロセッサ、103…通信ユニット、104…ディスプレイ、105…キーボード、111…記憶部、112…受信部、113…斜面安定性算出部、114…土砂災害危険性算出部、115…土砂到達可能性算出部、116…土砂災害発生時刻推定部、117…表示部、201…メモリ、202…プロセッサ、203…通信ユニット。
図1
図2
図3
図4