(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047517
(43)【公開日】2022-03-24
(54)【発明の名称】複合体及び光免疫療法
(51)【国際特許分類】
A61K 47/68 20170101AFI20220316BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220316BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220316BHJP
A61K 49/16 20060101ALI20220316BHJP
A61K 31/695 20060101ALI20220316BHJP
A61K 33/26 20060101ALI20220316BHJP
A61K 33/244 20190101ALI20220316BHJP
A61K 41/00 20200101ALI20220316BHJP
【FI】
A61K47/68
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K49/16
A61K31/695
A61K33/26
A61K33/244
A61K41/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021145681
(22)【出願日】2021-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2020153247
(32)【優先日】2020-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和秀
(72)【発明者】
【氏名】湯川 博
(72)【発明者】
【氏名】松岡 耕平
(72)【発明者】
【氏名】植屋 佑一
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 遵生子
(72)【発明者】
【氏名】小野 健一郎
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076BB13
4C076CC27
4C076EE59
4C084AA11
4C084MA65
4C084NA13
4C084ZB26
4C084ZC75
4C085HH07
4C085JJ02
4C085KA03
4C085KB08
4C085KB12
4C085LL18
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA44
4C086HA28
4C086MA06
4C086MA17
4C086MA66
4C086NA13
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
【課題】光免疫療法に有用な薬剤の提供。
【解決手段】抗体分子と、平均粒子径が100nm以下の粒子と、光感受性部位とを含む複合体。該複合体において、該平均粒子径が100nm以下の粒子は、該抗体分子に結合されており、該抗体分子及び該粒子の少なくとも一方は、該光感受性部位と結合されている。該光感受性部位は、波長500~900nmの光線の照射により疎水性が増大する部位又はフタロシアニン骨格を含む部位である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合体であって、該複合体は、抗体分子と、該抗体分子に結合された平均粒子径が100nm以下の粒子とを含み、ここで、該抗体分子及び該粒子の少なくとも一方は、波長500~900nmの光線の照射により疎水性が増大する部位と結合されている、複合体。
【請求項2】
複合体であって、該複合体は、抗体分子と、該抗体分子に結合された平均粒子径が100nm以下の粒子とを含み、ここで、該抗体分子及び該粒子の少なくとも一方は、フタロシアニン骨格を含む部位と結合されている、複合体。
【請求項3】
前記粒子が磁性粒子又は半導体粒子である、請求項1又は2記載の複合体。
【請求項4】
前記抗体分子が前記波長500~900nmの光線の照射により疎水性が増大する部位と結合されている、請求項1又は3記載の複合体。
【請求項5】
前記抗体分子が前記フタロシアニン骨格を含む部位と結合されている、請求項2又は3記載の複合体。
【請求項6】
前記フタロシアニン骨格を含む部位が、下記式(Ia)で表される化合物である、請求項2、3又は5記載の複合体:
【化1】
式中、
Lは、直接結合、又はリンカーであり;
Qは、前記抗体分子又は前記粒子との結合を形成するための反応性基であり;
R
2、R
3、R
7、及びR
8は、各々独立して、置換又は非置換のアルキル及び置換又は非置換のアリールから選択され;
R
4、R
5、R
6、R
9、R
10、及びR
11は、存在する場合、各々独立して、水素、置換又は非置換のアルキル、置換又は非置換のアルカノイル、置換又は非置換のアルコキシカルボニル、置換又は非置換のアルキルカルバモイル、及びキレート配位子から選択され、ここで、R
4、R
5、R
6、R
9、R
10、及びR
11の少なくとも1つは、水溶性基を含み;
R
12、R
13、R
14、R
15、R
16、R
17、R
18、R
19、R
20、R
21、R
22、及びR
23は、各々独立して、水素、ハロゲン、置換又は非置換のアルキルチオ、置換又は非置換のアルキルアミノ、及び置換又は非置換のアルコキシから選択されるか、あるいは、i)R
13及びR
14とこれらが結合している炭素、ii)R
17及びR
18とこれらが結合している炭素、及びiii)R
21及びR
22とこれらが結合している炭素、のうちの少なくとも1つは、縮合環を形成し;かつ、
X
2及びX
3は、各々独立して、炭素-炭素結合間にヘテロ原子が介在しているか又は介在していないC
1~C
10アルキレンである。
【請求項7】
前記式(Ia)で表される化合物が下記式(Ib)で表される化合物である、請求項6に記載の複合体。
【化2】
式中、
X
1及びX
4は、各々独立して、ヘテロ原子が介在しているか又は介在していないC
1~C
10アルキレンであり;かつ
R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11、R
16、R
17、R
18、R
19、X
2、及びX
3は、前記で定義されているとおりである。
【請求項8】
前記式(Ia)で表される化合物が下記式(II)で表される化合物である、請求項6に記載の複合体。
【化3】
【請求項9】
前記磁性粒子が酸化鉄又はガドリニウム化合物を含む、請求項3~8のいずれか1項記載の複合体。
【請求項10】
前記半導体粒子が量子ドットである、請求項3~8のいずれか1項記載の複合体。
【請求項11】
前記粒子の平均粒子径が1~50nmである、請求項1~10のいずれか1項記載の複合体。
【請求項12】
前記粒子に対する前記抗体分子の結合数が前記粒子1個あたり1~20個である、請求項1~11のいずれか1項記載の複合体。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項記載の複合体を含有する組成物。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1項記載の複合体を含有する、光免疫療法による腫瘍治療剤。
【請求項15】
腫瘍のイメージングと光免疫療法による腫瘍治療のための剤である、請求項14記載の腫瘍治療剤。
【請求項16】
光免疫療法による腫瘍の治療に使用するための、請求項13記載の組成物。
【請求項17】
さらに腫瘍のイメージングに使用するための、請求項16記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体、及びそれを用いた光免疫療法に関する。
【背景技術】
【0002】
革新的ながん治療法として、近赤外光線免疫療法(NIR-PIT)が注目されている(例えば、特許文献1、2及び非特許文献1参照)。NIR-PITは、腫瘍細胞表面の抗原に特異的な抗体に対して、近赤外線に反応する光感受性物質を導入した抗体複合体を準備し、該抗体複合体を腫瘍細胞に結合させ、局所的に近赤外線を照射することで選択的に腫瘍細胞を死滅させる治療法である。該光感受性物質としては、主に、フタロシアニン骨格を含む化学種(例えば、IRDye700DXなどの、いわゆるIR700分子)が用いられている。NIR-PITは、患者の身体への光透過性の高さや侵襲性の低さの点で優れている。一方で、NIR-PITにおける腫瘍細胞の死滅効果やイメージング性能の更なる向上が求められている。
【0003】
従来、光感受性物質による細胞死の機序は、主にフリーラジカルなどによる酸化ストレスであると考えられていた。一方、NIR-PITによる腫瘍細胞の死滅の詳しい機序は明らかでなかった。しかし最近になって、NIR-PITによる腫瘍治療効果の機序が、腫瘍細胞表面に結合した抗体複合体の光感受性物質が光化学反応により疎水化して抗体複合体の凝集を引き起こすことで、腫瘍細胞の細胞膜が障害され、これにより、細胞内外の浸透圧格差が生じて細胞死が誘導されることであることが解明された(非特許文献1)。
【0004】
医学及び生物学の分野において、イメージングは、医用画像の作成やバイオセンサーなどに応用されている重要な技術である。近年、高い発光量子収率、広い吸収領域、退色しにくいなどの利点を合わせ持つことから、量子ドットを用いたイメージングが注目されている。特許文献3には、コアと該コアを取り囲むシェルとを備えたコアシェル構造の半導体ナノ粒子であって、該コアが(AgIn)xZn2(1-x)S2(xは0.4≦x≦0.95を満たす)であり、該シェルがZnS又はZnOであり、該シェルの表面に親水性の官能基を有している、半導体ナノ粒子、及びそれを用いた生体試料標識用蛍光プローブが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2014-523907号公報
【特許文献2】特表2019-218374号公報
【特許文献3】特開2014-185224号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】第40回日本レーザー医学会総会賞受賞論文「近赤外光線免疫療法のメカニズムの解明」,日本レーザー医学会誌,2020年41巻2号 p.104-109
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、光免疫療法(PIT)のための、腫瘍細胞の死滅効果とイメージング性能が向上した薬剤、及び該薬剤を用いたPITにより腫瘍を治療する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、抗体分子と光感受性物質に加えてさらに平均粒子径が100nm以下の粒子を含む複合体が、腫瘍のイメージングやPITの治療効果において優れていることを見出した。
【0009】
したがって、本発明は、以下を提供する。
〔1〕複合体であって、該複合体は、抗体分子と、該抗体分子に結合された平均粒子径が100nm以下の粒子とを含み、ここで、該抗体分子及び該粒子の少なくとも一方は、波長500~900nmの光線の照射により疎水性が増大する部位と結合されている、複合体。
〔2〕複合体であって、該複合体は、抗体分子と、該抗体分子に結合された平均粒子径が100nm以下の粒子とを含み、ここで、該抗体分子及び該粒子の少なくとも一方は、フタロシアニン骨格を含む部位と結合されている、複合体。(以下、上記「波長500~900nmの光線の照射により疎水性が増大する部位」と「フタロシアニン骨格を含む部位」を総称して「光感受性部位」とも称する。)
〔3〕前記粒子が磁性粒子又は半導体粒子である、〔1〕又は〔2〕記載の複合体。
〔4〕前記抗体分子が前記波長500~900nmの光線の照射により疎水性が増大する部位と結合されている、〔1〕又は〔3〕記載の複合体。
〔5〕前記抗体分子が前記フタロシアニン骨格を含む部位と結合されている、〔2〕又は〔3〕記載の複合体。
〔6〕前記フタロシアニン骨格を含む部位が、下記式(Ia)で表される化合物である、〔2〕、〔3〕又は〔5〕記載の複合体:
【化1】
式中:
Lは、直接結合、又はリンカーであり;
Qは、前記抗体分子又は前記粒子との結合を形成するための反応性基であり;
R
2、R
3、R
7、及びR
8は、各々独立して、置換又は非置換のアルキル及び置換又は非置換のアリールから選択され;
R
4、R
5、R
6、R
9、R
10、及びR
11は、存在する場合、各々独立して、水素、置換又は非置換のアルキル、置換又は非置換のアルカノイル、置換又は非置換のアルコキシカルボニル、置換又は非置換のアルキルカルバモイル、及びキレート配位子から選択され、ここで、R
4、R
5、R
6、R
9、R
10、及びR
11の少なくとも1つは、水溶性基を含み;
R
12、R
13、R
14、R
15、R
16、R
17、R
18、R
19、R
20、R
21、R
22、及びR
23は、各々独立して、水素、ハロゲン、置換又は非置換のアルキルチオ、置換又は非置換のアルキルアミノ、及び置換又は非置換のアルコキシから選択されるか、あるいは、i)R
13及びR
14とこれらが結合している炭素、ii)R
17及びR
18とこれらが結合している炭素、及びiii)R
21及びR
22とこれらが結合している炭素、のうちの少なくとも1つは、縮合環を形成し;かつ、
X
2及びX
3は、各々独立して、炭素-炭素結合間にヘテロ原子が介在しているか又は介在していないC
1~C
10アルキレンである。
〔7〕前記式(Ia)で表される化合物が下記式(Ib)で表される化合物である、〔6〕の複合体。
【化2】
式中、
X
1及びX
4は、各々独立して、ヘテロ原子が介在しているか又は介在していないC
1~C
10アルキレンであり;かつ
R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11、R
16、R
17、R
18、R
19、X
2、及びX
3は、前記で定義されているとおりである。
〔8〕前記式(Ia)で表される化合物が下記式(II)で表される化合物である、〔6〕の複合体。
【化3】
〔9〕前記磁性粒子が酸化鉄又はガドリニウム化合物を含む、〔3〕~〔8〕のいずれか1項記載の複合体。
〔10〕前記半導体粒子が量子ドットである、〔3〕~〔8〕のいずれか1項記載の複合体。
〔11〕前記粒子の平均粒子径が1~50nmである、〔1〕~〔10〕のいずれか1項記載の複合体。
〔12〕前記粒子に対する前記抗体分子の結合数が前記粒子1個あたり1~20個である、〔1〕~〔11〕のいずれか1項記載の複合体。
〔13〕〔1〕~〔12〕のいずれか1項記載の複合体を含有する組成物。
〔14〕光免疫療法による腫瘍の治療に使用するための、〔1〕~〔12〕のいずれか1項記載の複合体。
〔15〕さらに腫瘍のイメージングに使用するための、〔14〕記載の複合体。
〔16〕光免疫療法による腫瘍の治療に使用するための、〔13〕記載の組成物。
〔17〕さらに腫瘍のイメージングに使用するための、〔16〕記載の組成物。
〔18〕光免疫療法による腫瘍治療剤の製造における、〔1〕~〔12〕のいずれか1項記載の複合体の使用。
〔19〕前記腫瘍治療剤がさらに腫瘍のイメージングに使用される、〔18〕記載の複合体の使用。
〔20〕腫瘍を治療する方法であって、
〔1〕~〔12〕のいずれか1項記載の複合体又は〔13〕記載の組成物を患者に投与する工程、及び、
該患者に波長500~900nmの光線を照射する工程、
を含む、方法。
〔21〕前記光線を照射する工程の前に、前記複合体又は組成物を投与した患者の腫瘍をイメージングする工程をさらに含む、〔20〕記載の方法。
〔22〕〔1〕~〔12〕のいずれか1項記載の複合体を含有する、光免疫療法による腫瘍治療剤。
〔23〕腫瘍のイメージングと光免疫療法による腫瘍治療のための剤である、〔22〕記載の腫瘍治療剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の複合体は、腫瘍細胞の死滅効果及びイメージング性能が高く、PITによる腫瘍治療の効果を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】Nanomag-Pan-IR700を投与した腫瘍細胞移植マウスの蛍光イメージング。投与前(before)から投与48時間後(48h)までのマウス全身の蛍光像を示す。矢印は、腫瘍細胞の注射位置を示す。
【
図2】QDs800-Pan-IR700を投与した腫瘍細胞移植マウスの蛍光イメージング。投与1分後(1min)から90分後(90min)までのマウス全身の蛍光像を示す。点線の囲いは、腫瘍細胞の注射位置を示す。
【
図3】比較例1の複合体を投与した腫瘍細胞移植マウスの蛍光イメージング。投与6時間後、1日後及び3日後のマウス全身の蛍光像を示す。
【
図4】in vitro PITによる腫瘍細胞生存阻害。各グラフの横軸は、複合体投与からの時間、縦軸は細胞生存率を表す。
【
図5】Nanomag-Pan-IR700を投与した腫瘍細胞移植マウスのMRIイメージング。投与9時間後及び24時間後のMRI像を示す。矢印は、腫瘍細胞の生着位置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「腫瘍」とは、良性及び悪性腫瘍、ならびに上皮性及び非上皮性腫瘍を含む腫瘍全般を指し、またその発生部位(組織及び器官)も特に限定されない。好ましくは、本発明で標的とする腫瘍は、がんなどの悪性腫瘍である。がんは、液性腫瘍であっても固形腫瘍であってもよく、また上皮がん、腺がん、肉腫、悪性リンパ腫などあらゆる種類のがんを含み得る。腫瘍の例としては、急性白血病(急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、骨髄芽球性白血病、前骨髄球性白血病、骨髄単球性白血病、単球性白血病、赤白血病など)、慢性白血病(慢性骨髄性(顆粒球性)白血病、慢性リンパ性白血病、毛様細胞白血病など)、T細胞前リンパ球性白血病、大顆粒リンパ球性白血病、成人T細胞白血病、真性赤血球増加症、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症、重鎖病、などを含む液性腫瘍;ならびに、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、他の肉腫、滑膜性腫瘍、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸がん、膵臓がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、肝細胞がん、肺がん、結腸直腸がん、扁平上皮がん、基底細胞がん、腺がん(例えば、膵臓、結腸、卵巣、肺、乳房、胃、前立腺、子宮頸部、又は食道の腺がん)、汗腺がん、皮脂腺がん、乳頭がん、乳頭腺がん、髄様がん、気管支原性がん、腎細胞がん、ヘパトーム、胆管がん、絨毛がん、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、精巣腫瘍、膀胱がん、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、希突起膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、などを含む固形腫瘍、が挙げられる。本明細書における腫瘍は、原発腫瘍であっても再発腫瘍であってもよい。
【0013】
本明細書において「腫瘍患部」又は「患部」とは、主に腫瘍細胞が存在する腫瘍組織をいう。該腫瘍組織は、腫瘍細胞からなるもの、及び、腫瘍細胞と、正常細胞又は正常組織とが混在するものを含む。該腫瘍組織に正常細胞又は正常組織が混在する場合、該正常細胞又は正常組織に対する腫瘍細胞の容積又は細胞数の割合は特に限定されない。
【0014】
本明細書における「抗体」とは、抗原のエピトープを特異的に認識しそれに結合する少なくとも1つの軽鎖可変領域及び/又は重鎖可変領域を含む、ポリペプチドリガンドをいう。例えば、本明細書における「抗体」は、IgG、IgA、IgD、IgE、IgM、及びこれらのサブクラス等の任意のクラスのイムノグロブリン、ならびにそれらの変異体を含み、さらに、ヒト化抗体等のキメラ抗体、抗原認識部位を含む他のイムノグロブリン修飾体、などを含む。また、本明細書における「抗体」は、Fab断片、Fab’断片、F(ab)’2断片、単鎖Fv(「scFv」)、ジスルフィド安定化Fv(「dsFv」)、VHH(variable domain of heavy chain of heavy chain antibody)、VNAR(single variable new antigen receptor domain antibody)などの抗原認識部位を含むイムノグロブリンの断片又はドメインを含む。
【0015】
1.複合体
一態様において、本発明は、光免疫療法(PIT)のための薬剤として使用される複合体を提供する。本発明により提供される複合体は、抗体分子と、平均粒子径が100nm以下の粒子(以下、「コア粒子」ともいう)と、光感受性部位とを含む。該複合体において、該コア粒子は該抗体分子に結合されており、また該抗体分子及び該粒子の少なくとも一方が、該光感受性部位と結合されている。
【0016】
1.1.抗体分子
本発明の複合体に含まれる抗体分子は、標的の腫瘍細胞に結合する抗体の分子である。該抗体の種類は、標的の腫瘍細胞の表面に存在する抗原に応じて適宜選択することができる。該抗原の例としては、タンパク質、脂質、多糖、及び核酸などが挙げられ、好ましい例としては、標的の腫瘍細胞の表面に存在する細胞表面タンパク質が挙げられる。
【0017】
該細胞表面タンパク質の例としては、腫瘍細胞の表面に発現する腫瘍特異的タンパク質(当技術分野では腫瘍特異的抗原としても公知である)が挙げられる。腫瘍特異的タンパク質は、がん細胞に固有であるか、又は、正常細胞などの他の細胞と比較して、がん細胞でより豊富なタンパク質である。
【0018】
腫瘍特異的タンパク質の一例としては、上皮成長因子受容体(EGFR)ファミリーのメンバー(例えば、HER1、2、3、及び4)、サイトカイン受容体のメンバー(例えば、CD20、CD25、IL-13R、CD5、CD52など)などが挙げられる。例えば、HER2は、乳がんに主に見出され、HER1は、膵臓、乳房、前立腺、及び結腸など、多くの器官に見出される腺がんに主に見出される。
【0019】
腫瘍特異的タンパク質の具体的な例としては、乳がん、卵巣がん、胃がん、及び子宮がんと関連するHER-2(ヒト上皮成長因子受容体2、例えば、GenBank受託番号M16789.1、M16790.1、M16791.1、M16792.1及びAAA58637);肺がん、肛門がん、及び神経膠腫のほか、腺がんと関連するHER-1(例えば、GenBank受託番号NM_005228及びNP_005219)、などが挙げられる。
【0020】
腫瘍特異的タンパク質の別の具体的な例としては、慢性リンパ性白血病と関連するCD52(例えば、GenBank受託番号AAH27495.1及びCAI15846.1);急性骨髄性白血病と関連するCD33(例えば、GenBank受託番号NM_023068及びCAD36509.1);非ホジキンリンパ腫と関連するCD20(例えば、GenBank受託番号NP_068769及びNP_031667)、などが挙げられる。
【0021】
腫瘍特異的タンパク質の別の具体的な例としては、MAGE1(例えば、GenBank受託番号M77481及びAAA03229)、MAGE2(例えば、GenBank受託番号L18920及びAAA17729)、MAGE3(例えば、GenBank受託番号U03735及びAAA17446)、MAGE4(例えば、GenBank受託番号D32075及びA06841.1)などを含めた様々なMAGE(黒色腫関連抗原E)のうちのいずれか;様々なチロシナーゼ(例えば、GenBank受託番号U01873及びAAB60319)のうちのいずれか;変異体ras;変異体p53(例えば、GenBank受託番号X54156、CAA38095、及びAA494311);p97黒色腫抗原(例えば、GenBank受託番号M12154及びAAA59992);乳房腫瘍と関連するヒト乳脂肪球(HMFG)(例えば、GenBank受託番号S56151及びAAB19771);BAGE1(例えば、GenBank受託番号Q13072)及びBAGE2(例えば、GenBank受託番号NM_182482及びNP_872288)を含めた様々なBAGE(ヒトB型黒色腫関連抗原E)のうちのいずれか;黒色腫と関連するgp100(例えば、GenBank受託番号S73003及びAAC60634);黒色腫と関連するMART1抗原(例えば、GenBank受託番号NP_005502);GAGE1(例えば、GenBank受託番号Q13065)、又はGAGE2~6うちのいずれかを含めた様々なGAGE(G抗原)のうちのいずれか;様々なガングリオシド;CD25(例えば、GenBank受託番号NP_000408.1及びNM_000417.2)、などが挙げられる。
【0022】
腫瘍特異的タンパク質の別の具体的な例としては、子宮頸がんと関連するHPV16/18及びE6/E7抗原(例えば、GenBank受託番号NC_001526、FJ952142.1、ADB94605、ADB94606、及びU89349);乳がんと関連するムチン(MUC1)-KLH抗原(例えば、GenBank受託番号J03651及びAAA35756);結腸直腸がんと関連するCEA(がん胎児性抗原)(例えば、GenBank受託番号X98311及びCAA66955);卵巣がん及び他のがんと関連するがん抗原125(CA125、あるいはムチン16又はMUC16としても公知)(例えば、GenBank受託番号NM_024690及びNP_078966);肝臓がんと関連するアルファ-フェトプロテイン(AFP)(例えば、GenBank受託番号NM_001134及びNP_001125);結腸直腸がん、胆道がん、乳がん、小細胞肺がん、及び他のがんと関連するLewis Y抗原;腺がんと関連する腫瘍関連糖タンパク質72(TAG72);前立腺がんと関連するPSA抗原(例えば、GenBank受託番号X14810及びCAA32915)、などが挙げられる。
【0023】
腫瘍特異的タンパク質の別の具体的な例としては、前立腺がんと関連するPMSA(前立腺膜特異的抗原;例えば、GenBank受託番号AAA60209及びAAB81971.1);黒色腫、肉腫、精巣癌、及び他のがんと関連するNY-ESO-1(例えば、GenBank受託番号U87459及びAAB49693);hTERT(別名、テロメラーゼ)(例えば、GenBank受託番号NM_198253及びNP_937983(バリアント1)、NM_198255及びNP_937986(バリアント2));プロテイナーゼ3(例えば、GenBank受託番号M29142、M75154、M96839、X55668、NM00277、M96628、X56606、CAA39943及びAAA36342);ウィルムス腫瘍1(WT-1、例えば、GenBank受託番号NM_000378及びNP_000369(バリアントA)、NM_024424及びNP_077742(バリアントB)、NM_024425及びNP_077743(バリアントC)、ならびにNM_024426及びNP_077744(バリアントD))、などが挙げられる。
腫瘍特異的タンパク質の別の具体的な例としては、免疫チェックポイントと関連するPD-L1、PD-L2などが挙げられる。
【0024】
本明細書に記載される腫瘍特異的タンパク質の名称は、National Center for Biotechnology Information(NCBI)のGenBankデータベース([www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/])に従う。
【0025】
本発明の複合体に含まれ得る抗体の例としては、セツキシマブ、パニツムマブ、ザルツムマブ、ニモツズマブ、トラスツズマブ、Ado-トラスツズマブエムタンシン、トシツモマブ、リツキシマブ、イブリツモマブチウキセタン、ダクリズマブ、ゲムツズマブ、アレムツズマブ、CEA-scan Fab断片、OC125モノクローナル抗体、ab75705、B72.3、ベバシズマブ、アファチニブ、アキシチニブ、ボスチニブ、カボザンチニブ、セリチニブ、クリゾチニブ、ダブラフェニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、エベロリムス、イブルチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、レンバチニブ、ニロチニブ、オラパリブ、パルボシクリブ、パゾパニブ、ペルツズマブ、ラムシルマブ、レゴラフェニブ、ルキソリチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、テムシロリムス、トラメチニブ、バンデタニブ、ベムラフェニブ、ビスモデギブ、バシリキシマブ、イピリムマブ、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、MPDL3280A、ピジリズマブ(CT-011)、MK-3475、BMS-936559、MPDL3280A(アテゾリズマブ)、トレメリムマブ、IMP321、BMS-986016、LAG525、ウレルマブ、PF-05082566、TRX518、MK-4166、ダセツズマブ(SGN-40)、ルカツムマブ(HCD122)、SEA-CD40、CP-870、CP-893、MEDI6469、MEDI6383、MEDI4736、MOXR0916、AMP-224、PDR001、アベルマブ(MSB0010718C)、rHIgM12B7、ウロクプルマブ、BKT140、バルリルマブ(CDX-1127)、ARGX-110、MGA271、リリルマブ(BMS-986015、IPH2101)、IPH2201、AGX-115、エマクツズマブ、CC-90002、及びMNRP1685A、ならびにそれらの抗原認識部位を含む断片が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
1.2.コア粒子
驚くべきことに、本発明の複合体は、上記の抗体分子をコア粒子に結合させることにより、複合体の腫瘍細胞を死滅させる能力を高めることができる。さらに、コア粒子として磁性粒子や蛍光粒子を選択すれば、生体内のイメージングが可能となり、患者の腫瘍の治療だけでなく診断(例えば、複合体の所在の確認、又は複合体の結合した腫瘍の所在の確認)が可能となる。該複合体を用いた生体内のイメージングにより、PITのための近赤外線を照射するタイミング、生体内での3次元的な照射位置、及び照射量(照射時間、線量)を最適化することができ、PITの治療効果を高めることができる。
【0027】
本発明の複合体に用いられるコア粒子は、平均粒子径が100nm以下の粒子である。本明細書における粒子の「平均粒子径」とは、電子顕微鏡画像において無作為に測定した100個の粒子の粒子径の平均値である。該コア粒子の平均粒子径が100nmを超えると、該複合体が腫瘍細胞に選択的に分布することが困難になる。該コア粒子の平均粒子径は、好ましくは70nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは25nm以下である。該コア粒子の平均粒子径の下限は、特に限定されるものではないが、製造可能性の点から好ましくは1nm以上である。
【0028】
本発明の複合体に用いられるコア粒子の好ましい例としては、磁性粒子、半導体粒子が挙げられる。磁性体、半導体といった無機物は、一般に波長500~900nmの光線の吸収率が有機物より大きく、したがって、波長500~900nmの光線を照射した際の発熱が大きくなることから好ましい。該磁性粒子としては、核磁気共鳴画像法(MRI)によるイメージングが可能になることから、酸化鉄、マンガン化合物又はガドリニウム化合物を含む粒子が好ましい。また、抗体分子と結合させることを考慮すると、該磁性粒子は、その表面に、アミノ基、カルボキシ基等の反応性の官能基、又はアビジン、ストレプトアビジン、プロテインA等のタンパク質結合性分子を有することが好ましい。このような磁性粒子としては、例えば、超常磁性酸化鉄粒子の分散液が、Nanomag-D-spioシリーズとしてmicromod社より販売されている。
【0029】
該半導体粒子としては、輝度が高く粒子径が小さいことから、量子ドットを用いることが好ましい。また、該半導体粒子は、抗体分子と結合させることを考慮すると、その表面に、アミノ基、カルボキシ基等の反応性の官能基、又はアビジン、ストレプトアビジン、プロテインA等のタンパク質結合性分子を有することが好ましい。このような量子ドットの好ましい例としては、特許文献3に開示されている、コアと該コアを取り囲むシェルとを備えたコアシェル構造の半導体ナノ粒子であって、該コアが(AgIn)xZn2(1-x)S2(xは、0.4≦x≦0.95、好ましくは0.8≦x≦0.9)であり、該シェルがZnS又はZnOであり、該シェルの表面に、カルボキシル基、スルホ基、又はそれらの塩からなる親水性の官能基を有している、半導体ナノ粒子が挙げられる。量子ドットの別の好ましい例としては、アミノ基が粒子表面に導入されているCdSe系量子ドット(例えばamino-PEG-QDs800;ThermoFisher社)が挙げられる。
【0030】
本発明の複合体における、該コア粒子に対する該抗体分子の結合数は、コア粒子1個あたり、好ましくは1個以上であり、かつ好ましくは20個以下、より好ましくは16個以下、さらに好ましくは12個以下、なお好ましくは5個以下である。コア粒子に対する抗体分子の結合数が多すぎると、複合体全体のサイズが大きくなるため、複合体が腫瘍細胞に選択的に分布することが困難になる傾向にある。また、本発明の複合体1mgにおける該抗体分子の結合数の下限は、好ましくは1.0×10-12mol/mg、より好ましくは5.0×10-12mol/mg、さらに好ましくは1.0×10-11mol/mgである。一方、本発明の複合体1mgにおける該抗体分子の結合数の上限は、好ましくは1.0×10-8mol/mg、より好ましくは5.0×10-9mol/mg、さらに好ましくは1.0×10-9mol/mgである。
【0031】
1.3.光感受性部位
好ましくは、本発明の複合体は、近赤外光線免疫療法(NIR-PIT)の薬剤として使用される。したがって、本発明の複合体に用いられる光感受性部位は、好ましくは近赤外線(NIR)感受性部位である。非特許文献1に示されるとおり、従来のNIR-PITに用いられている複合体は、腫瘍細胞に結合した該複合体の光感受性部位がNIR照射により疎水化して該複合体の凝集を引き起こすことで、該腫瘍細胞の細胞膜を障害し、細胞死を誘導すると考えられる。この機序を鑑みると、本発明の複合体に用いられる光感受性部位の例としては、NIR、例えば波長500~900nmの光線の照射により疎水性が増大する部位が挙げられる。
例えば、該光感受性部位は、500~900nmに最大吸収波長を有する光感受性基と、該光感受性基に連結又は配位した1つ以上の親水性の官能基とを含み得る。当該波長の光を照射すると、該光感受性基の光化学反応により該親水性の官能基が解離されるか又は構造を変化させ、該光感受性部位の疎水性が増大する。
該光感受性部位に含まれる親水性の官能基の例としては、カルボキシラート(-CO2
-)基、スルホナート(-SO3
-)基、スルホニル(-SO2
-)基、スルファート(-SO4
-2)基、ヒドロキシ(-OH)基、ホスファート(-OPO3
-2)基、ホスホナート(-PO3
-2)基、アミノ(-NH2)基、置換又は非置換の第四級窒素(各々が任意の対イオンを有する)などが挙げられるが、これらに限定されない。対イオンの例としては、限定ではないが、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、有機アミノ塩、マグネシウム塩、等が挙げられる。
該光感受性部位はさらに、抗体分子又はコア粒子との結合のための反応性基又はリンカーを有していてもよい。
【0032】
本発明の複合体に用いられる光感受性部位の別の一例としては、フタロシアニン骨格を含む部位が挙げられる。好ましくは、本発明の複合体に用いられる光感受性部位は、フタロシアニン骨格を含む部位である。フタロシアニンは、炭素原子と窒素原子が交互に並んだ16員環中に窒素の橋によって接続された4つのベンゾインドール基を含有するアザポルフィリン(すなわち、C32H16N8)である。フタロシアニンは、金属カチオン及び非金属カチオンと安定なキレートを形成し、このとき環中心は、1又は2つの配位子を保有することができるイオン(反磁性又は常磁性イオンのいずれか)によって占有されている。環周囲は、非置換であっても置換されていてもよい。
【0033】
好ましくは、本発明で用いられるフタロシアニンは、水溶性であり、かつ少なくとも1つの水系可溶化部分を有する。好ましくは、該フタロシアニンの水系可溶化部分は、ケイ素を含有する。好ましくは、該フタロシアニンは、環中心にSi、Ge、Sn、又はAlのようなコア原子を有する。
【0034】
本発明で用いられるフタロシアニンン骨格を含む部位は、好ましくは500~900nm、より好ましくは600~850nm、さらに好ましくは660~740nmに最大吸収波長を有する。また、該フタロシアニンン骨格を含む部位は、親水性の官能基を含む配位子を1つ以上有することが好ましい。該親水性の官能基の例としては、カルボキシラート(-CO2
-)基、スルホナート(-SO3
-)基、スルホニル(-SO2
-)基、スルファート(-SO4
-2)基、ヒドロキシ(-OH)基、ホスファート(-OPO3
-2)基、ホスホナート(-PO3
-2)基、アミノ(-NH2)基、置換又は非置換の第四級窒素(各々が任意の対イオンを有する)などが挙げられるが、これらに限定されない。対イオンの例としては、限定ではないが、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、有機アミノ塩、マグネシウム塩等が挙げられる。
【0035】
好ましくは、本発明で用いられるフタロシアニン骨格を含む部位は、抗体分子又はコア粒子との間に結合を形成することができる反応性基を有するリンカーを含有する。すなわち、リンカー-フタロシアニン骨格部分(L-D)の構造を有する。好ましくは、該フタロシアニン骨格を含む部位は、フタロシアニン骨格の環周囲に置換された該リンカーを介して、抗体分子又はコア粒子と結合される。
【0036】
好ましい実施形態において、本発明で用いられるフタロシアニン骨格を含む部位は、下記式(Ia)で表される化合物である:
【0037】
【0038】
式中、
Lは、直接結合、又はリンカーであり;
Qは、前記抗体分子又はコア粒子との結合を形成するための反応性基であり;
R2、R3、R7、及びR8は、各々独立して、置換又は非置換のアルキル及び置換又は非置換のアリールから選択され;
R4、R5、R6、R9、R10、及びR11は、存在する場合、各々独立して、水素、置換又は非置換のアルキル、置換又は非置換のアルカノイル、置換又は非置換のアルコキシカルボニル、置換又は非置換のアルキルカルバモイル、及びキレート配位子から選択され、ここで、R4、R5、R6、R9、R10、及びR11の少なくとも1つは、水溶性基を含み;
R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、及びR23は、各々独立して、水素、ハロゲン、置換又は非置換のアルキルチオ、置換又は非置換のアルキルアミノ、及び置換又は非置換のアルコキシから選択されるか、あるいは、i)R13及びR14とこれらが結合している炭素、ii)R17及びR18とこれらが結合している炭素、及びiii)R21及びR22とこれらが結合している炭素、のうちの少なくとも1つは縮合環を形成し;かつ
X2及びX3は、各々独立して、炭素-炭素結合間にヘテロ原子が介在しているか又は介在していないC1~C10アルキレンである。なお、本明細書において、C1~C10アルキレンとは、メチレン基及び炭素数2~10のアルキレン基を意味する。
【0039】
一実施形態において、Lはリンカーである。一実施形態において、該リンカーは、1~60の原子、例えば1~45の原子又は1~25の原子を有する、直鎖又は分岐鎖、環式又は複素環式、飽和鎖又は不飽和鎖である。いくつかの場合では、該リンカーの原子は、C、N、P、O、及びSから選択されることができる。一実施形態において、Lは、原子価を満たす追加の水素原子(上記1~60の原子に加えて)を有することができる。一般に、該リンカーは、エーテル、チオエーテル、アミン、エステル、カルバメート、尿素、チオ尿素、カルボニル、アミド、単結合、二重結合、三重結合、芳香族炭素-炭素結合、リン-酸素結合、リン-硫黄結合、窒素-窒素結合、窒素-酸素結合もしくは窒素-白金結合、芳香族結合、もしくは複素芳香族結合、又はこれらの任意の組み合わせを含み得る。
【0040】
一実施形態において、Lは、式-R1-Y-X1-Y1-で示され、式中、R1は、二価の基又は直接結合であり;Y及びY1は、各々独立して、直接結合、酸素、置換又は非置換の窒素、及び硫黄から選択され;かつ、X1は、直接結合、及びヘテロ原子が炭素-炭素結合間に介在しているか又は介在していないC1~C10アルキレンから選択される。該二価の基の例としては、置換又は非置換のアルキレン、置換又は非置換のよいアルキレンオキシカルボニル、置換又は非置換のアルキレンカルバモイル、置換又は非置換のアルキレンスルホニル、及び置換又は非置換のアリーレンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
R1の詳細な例としては、置換又は非置換のアルキレン、置換又は非置換のアルキレンオキシカルボニル、置換又は非置換のアルキレンカルバモイル、置換又は非置換のアルキレンスルホニル、置換又は非置換のアルキレンスルホニルカルバモイル、置換又は非置換のアリーレン、置換又は非置換のアリーレンスルホニル、置換又は非置換のアリーレンオキシカルボニル、置換又は非置換のアリーレンカルバモイル、置換又は非置換のアリーレンスルホニルカルバモイル、置換又は非置換のカルボキシアルキル、置換又は非置換のカルバモイル、カルボニル、置換又は非置換のヘテロアリーレン、置換又は非置換のヘテロアリーレンオキシカルボニル、置換又は非置換のヘテロアリーレンカルバモイル、置換又は非置換のヘテロアリーレンスルホニルカルバモイル、置換又は非置換のスルホニルカルバモイル、チオカルボニル、スルホニル、及びスルフィニルが挙げられるが、これらに限定されない。
好ましくは、該置換又は非置換のアルキレン、該置換又は非置換のアルキレンオキシカルボニル、該置換又は非置換のアルキレンカルバモイル、該置換又は非置換のアルキレンスルホニル、及び該置換又は非置換のアルキレンスルホニルカルバモイルに含まれるアルキレンは、炭素-炭素結合間にヘテロ原子が介在しているか又は介在していないC1~C10アルキレンである。
【0042】
一実施形態において、Qは、前記抗体分子又はコア粒子との結合を形成するための反応性基を含む。本明細書における「反応性基」とは、異なる材料(例えば抗体分子)上の官能基と化学的に反応して結合を形成することが可能な化合物上の部分をいう。典型的には、反応性基は、それぞれ求核剤又は求電子剤である対応する官能基への曝露を通して共有結合を形成することができる求電子剤又は求核剤である。
【0043】
一実施形態において、Qは、標的とする抗体分子又はコア粒子上のカルボキシル基、アミノ基、又はチオール基と反応性である反応性基を含む。好適な反応性基の例としては、限定ではないが、活性化エステル、ハロゲン化アシル、ハロゲン化アルキル、無水物、カルボン酸、カルボジイミド、カルボナート、カルバメート、ハロアセトアミド(例えば、ヨードアセトアミド)、イソシアナート、イソチオシアナート、マレイミド、NHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)エステル、ホスホロアミダイト、白金錯体、スルホン酸エステル及びチオシアナート、などが挙げられる。一実施形態において、該反応性基は、スルフヒドリル反応性化学基、例えばマレイミド、ハロアセチル、又はピリジルジスルフィドである。一実施形態において、該反応性基はアミン反応性である。好ましい実施形態において、該反応性基はNHSエステルである。
【0044】
一実施形態において、R2、R3、R7、及びR8は、各々独立して、置換又は非置換のアルキル、例えば、置換又は非置換のメチル、エチル、又はイソプロピルである。
【0045】
一実施形態において、R4、R5、R6、R9、R10、及びR11の少なくとも1つは、水溶性基を含む。いくつかの場合では、R4、R5、R6、R9、R10、及びR11の少なくとも2つが水溶性基を含み、他の場合では、3つ以上が水溶性基を含む。一実施形態において、R4、R5、R6、R9、R10、及びR11の少なくとも1つは水溶性基で置換されたアルキルである。一実施形態において、R4、R5、R6、R9、R10、及びR11は、各々独立して置換又は非置換のアルキルであり、そのうちの少なくとも1つ、好ましくは2つ以上が水溶性基で置換されたアルキルである。好ましい実施形態において、R4、R5、R6、R9、R10、及びR11は、各々独立して置換又は非置換のアルキルであり、R4、R5、及びR6の少なくとも1つが水溶性基で置換されたアルキルであり、かつR9、R10、及びR11の少なくとも1つが水溶性基で置換されたアルキルである。
本明細書における「水溶性基」とは、水性媒体中での分子全体の溶解度を改善する、1つ又は複数の極性及び/又はイオン性置換基を含む基をいう。該水溶性基の例としては、限定ではないが、カルボキシラート(-CO2
-)基、スルホナート(-SO3
-)基、スルホニル(-SO2
-)基、スルファート(-SO4
-2)基、ヒドロキシ(-OH)基、ホスファート(-OPO3
-2)基、ホスホナート(-PO3
-2)基、アミノ(-NH2)基、及び置換又は非置換の第四級窒素(各々が任意の対イオンを有する)が挙げられる。好適な対イオンの例としては、限定ではないが、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、有機アミノ塩、マグネシウム塩等が挙げられる。好ましくは、対イオンは、生物学的に許容される対イオンである。
【0046】
R4、R5、R6、R9、R10、及びR11が結合している窒素原子は、三価又は四価であることができる。
【0047】
一実施形態において、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、及びR23は各々、水素である。
【0048】
一実施形態において、X2及びX3は、各々独立して、炭素-炭素結合間にヘテロ原子が介在しているか又は介在していないC1~C10アルキレンである。一実施形態において、X2及び/又はX3に付加された窒素は、四級化されていることができる。
【0049】
好ましい一実施形態において、本発明で用いられるフタロシアニン骨格を含む部位は、式(Ib)で示される化合物である:
【0050】
【0051】
式中、
X1及びX4は、各々独立して、炭素-炭素結合間にヘテロ原子が介在しているか又は介在していないC1~C10アルキレンであり;かつ
R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R16、R17、R18、R19、X2、及びX3は、上記式(Ia)について定義されているとおりである。
【0052】
上記式(Ib)の化合物において、抗体分子又はコア粒子との結合を形成するための反応性基は、NHSエステルである。一実施形態において、NHSエステルの反応性は、NHSエステルとカルバメート官能基の間にあるX4のアルキレン基の長さを変更することによって調節することができる。一実施形態において、NHSエステルとカルバメート官能基の間のX4のアルキレン基の長さは、NHSエステルの反応性に反比例する。一実施形態において、X4は、C5-アルキレンである。別の一実施形態において、X4は、C3-アルキレンである。一実施形態において、X1は、C6-アルキレンである。別の一実施形態において、X1は、C3-アルキレンである。
【0053】
一実施形態において、式(Ia)又は式(Ib)の化合物は、総電荷がゼロである。この中性の電荷は、特定の場合、1つ又は複数の任意の対イオン、又は第四級化窒素と共に得ることができる。
【0054】
一実施形態において、式(Ia)又は式(Ib)の化合物は、標的とする抗体分子又はコア粒子に結合した後、該標的の分子又は粒子がその溶解度を保持するので、水溶液中で十分な溶解度を有する。
【0055】
好ましい一実施形態において、本発明で用いられる該フタロシアニン骨格を含む部位は、IR700 NHSエステル、例えばIRDye 700DX NHSエステル(LiCor 929-70010、929-70011)である。好ましい一実施形態において、該フタロシアニン骨格を含む部位は下記式(II)で表される化合物である。
【0056】
【0057】
本発明の目的を考慮すると、上述した光感受性部位は、その反応性基を介して標的の抗体分子又はコア粒子に結合された構成で本発明の複合体に含まれている。例えば、本発明の複合体に含まれ得る上記式(Ia)、(Ib)もしくは(II)で表される化合物、「IR700」、「IRDye 700DX」又はそれらの変形型とは、その反応性基を介して標的の抗体分子又はコア粒子に結合された構成でのそれらの化合物を指す。一般に、IR700は、いくつかの好ましい化学特性を有する。アミノ反応性IR700は、比較的親水性であり、IR700のNHSエステルを使用して抗体と共有結合することができる。典型的には、IR700は、ヘマトポルフィリン誘導体Photofrin(登録商標)(630nmで1.2×103M-1cm-1)、メタ-テトラヒドロキシフェニルクロリン;Foscan(登録商標)(652nmで2.2×104M-1cm-1)、及びモノ-L-アスパルチルクロリンe6;NPe6/Laserphyrin(登録商標)(654nmで4.0×104M-1cm-1)のような従来の光増感剤よりも5倍超高い吸光係数(689nmの吸収最大で2.1×105M-1cm-1)を有する。
【0058】
本発明で用いられるフタロシアニン骨格を含む部位、例えば上記式(Ia)、(Ib)又は(II)で表される化合物は、市販の出発物質を用いて作製することができる。例えば、その骨格は、2つ以上の異なるジイミノイソインドリンの縮合によって合成される。異なるジニトリル又はジイミノイソインドリンを使用した合成戦略は、種々の置換度のフタロシアニン及び/又は分布度の位置異性体を導くことができる。フタロシアニン骨格を生成するための例示的な合成スキームは、米国特許第7,005,518号に記載されている。
【0059】
本発明の複合体において、上述した光感受性部位は、抗体分子及びコア粒子の少なくとも一方に結合されていればよいが、好ましくは、抗体分子に結合されている。また本発明の複合体は、1つ又は2つ以上の上述した光感受性部位を含むことができ、これらの光感受性部位は同じ又は異なる構造を有することができる。
【0060】
2.複合体の製造方法
本発明の複合体の製造においては、まず、光感受性部位を有する抗体分子及び/又はコア粒子を合成することが好ましい。該光感受性部位と抗体分子又はコア粒子との結合は、公知の手段により実施することができる。
例えば、フタロシアニン骨格を含む部位と抗体分子とを結合させるための具体的手法として、特許文献1又は後述の実施例1に開示されている方法が挙げられる。より具体的には、抗体分子と、反応性基QにNHSエステルを有する上記式(Ia)で表されるフタロシアニン化合物(例えば、上述したIR700 NHSエステル)とを含むリン酸塩水溶液を室温でインキュベートし、反応液からカラム精製などにより目的の抗体-光感受性部位結合体を精製すればよい。
フタロシアニン骨格を含む部位とコア粒子とを結合させる場合、例えば、反応性基QにNHSエステルを有する上記式(Ia)で表される化合物と、アミノ基又はアビジン、ストレプトアビジン、プロテインA等のタンパク質分子が粒子表面に導入されているコア粒子とを、上記と同様の方法で反応させることができる。
抗体分子に対する該光感受性部位の結合数は、抗体分子1個あたり、好ましくは1個以上、より好ましくは2個以上であり、かつ好ましくは5個以下、より好ましくは4個以下である。コア粒子に対する該光感受性部位の結合数は、コア粒子1個あたり、好ましくは1個以上であり、かつ好ましくは80個以下、より好ましくは50個以下、さらに好ましくは20個以下である。
【0061】
次に、抗体分子とコア粒子とを結合させることにより、本発明の複合体を製造することができる。例えば、常法によりビオチン化した抗体分子と、ビオチンと結合する物質を粒子表面に導入したコア粒子とを混合することにより、コア粒子に抗体分子を結合させて、本発明の複合体を製造することができる。該ビオチンと結合する物質としては、アビジン、ストレプトアビジン等のタンパク質が挙げられる。該ビオチンと結合する物質は、コア粒子1個あたり、好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~4個、特に好ましくは1~3個導入する。あるいは、後述の実施例に示すように、EDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)等のカルボジイミド化合物とSulfo-NHS等のN-ヒドロキシスクシンイミド誘導体を利用して、抗体分子とコア粒子とを架橋反応させることができる。この場合、コア粒子1個あたりの抗体分子の結合数が、所望の数(好ましくは1個以上、かつ好ましくは20個以下、より好ましくは16個以下、さらに好ましくは12個以下、なお好ましくは5個以下)となるよう、抗体分子及びコア粒子の仕込み量を設定する。また、コア粒子1mgあたりの抗体分子の結合数が、所望の数となるよう、仕込み量を設定してもよい。具体的には、コア粒子1mgあたりの該抗体分子の仕込み量の下限は、好ましくは1.0×10-12mol/mg、より好ましくは5.0×10-12mol/mg、さらに好ましくは1.0×10-11mol/mgである。一方、コア粒子1mgあたりの該抗体分子の仕込み量の上限は、好ましくは1.0×10-8mol/mg、より好ましくは5.0×10-9mol/mg、さらに好ましくは1.0×10-9mol/mgである。ただし、抗体分子とコア粒子との結合は、共有結合に限定されず、水素結合、イオン結合、疎水的相互作用又はこれらの組み合わせ等による結合も含み得る。
【0062】
2.複合体を含有する組成物
一態様において、本発明は、上述した本発明の複合体を含有する組成物を提供する。好ましい実施形態において、該本発明の複合体を含有する組成物(以下、本発明の組成物ともいう)は、光免疫療法(PIT)のための医薬組成物として使用される。
【0063】
一実施形態において、本発明の組成物は、本発明の複合体と、薬学的に許容される担体又は賦形剤を含有する。薬学的に許容される担体の例としては、限定ではないが、水、油、緩衝剤、リン酸緩衝生理食塩水、その他の注射剤用の希釈液、などが挙げられる。賦形剤の例としては、限定ではないが、デンプン、グルコース、ラクトース、デキストロース、カルボキシメチルセルロース、グリセロール、プロピレングリコール、水、及びエタノールなどが挙げられる。必要に応じて、本発明の組成物は、潤滑剤、結合剤、湿潤剤、乳化剤、pH調整剤、等張剤、緩衝剤、酸化防止剤、懸濁化剤、溶解性向上剤、保存剤、キレート剤、及び他の薬学的に許容される物質を含有することができる。薬学的に許容される担体、賦形剤等は、当技術分野において公知である(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, by E. W. Martin, Mack Publishing Co., Easton, Pa., 19th Edition, 1995を参照)。
【0064】
本発明の組成物は、液体形態、例えば、溶液、懸濁液、シロップ等;又は、固体形態、例えば粉剤、丸剤、錠剤、カプセル剤、経皮パッチ、吸入剤、坐剤等、であればよい。あるいは、本発明の組成物は、凍結乾燥形態であり、使用時に薬学的に許容される担体(例えば注射剤用の希釈液)で再構成されて投与されてもよい。これらの液体又は固体形態の組成物は、常法に従って調製することができる。一実施形態において、本発明の組成物は、本発明の複合体を含有する担体又は賦形剤を含有する一剤式製剤である。別の一実施形態において、本発明の組成物は、本発明の複合体と、一緒に投与される希釈液等とを別途に含む二剤式製剤である。
【0065】
好ましい実施形態において、本発明の組成物は医薬組成物である。該医薬組成物の形態は、その投与計画に依拠し得る。該医薬組成物の投与計画は、対象とする腫瘍の種類、状態、及び患者の種、年齢、状態などに応じて適宜設計することができる。該医薬組成物は、経口製剤又は非経口製剤であり得、例えば注入剤であっても、経口剤であっても、外用剤であってもよい。該医薬組成物は、単回投与用又は複数回投与用に構成することができる。該医薬組成物における本発明の複合体の含有量は、該医薬組成物の形態、患者に対する用量などに応じて適宜設計することができる。
【0066】
該医薬組成物は、動物の身体に適合性があるpH範囲、例えばpH5以上、好ましくはpH5.5以上、かつpH10以下、好ましくはpH8以下、より好ましくはpH7.3以下、あるいは、好ましくはpH5.5~10、より好ましくはpH5.5~8、さらに好ましくはpH5.5~7.3に調整されている。該組成物のpHは、上述したpH調整剤、緩衝液等により調整することができる。
【0067】
一実施形態において、該医薬組成物における本発明の複合体の用量は、例えば注射用製剤の場合、0.01mg~9000mgの範囲であればよい。一実施形態において、該医薬組成物の単回投与用量は、例えば注射用製剤の場合、0.5mL~1000mLであればよい。一実施形態において、該医薬組成物は注射用製剤であり、単回投与の容量が1~5mLであり、単回投与容量中に本発明の複合体を0.1mg~5000mg含有する。
【0068】
3.本発明の複合体を用いた腫瘍の治療
別の一態様において、本発明は、本発明の複合体又はそれを含有する本発明の組成物を光免疫療法(PIT)による腫瘍の治療のために使用することに関する。一実施形態において、本発明は、PITによる腫瘍の治療に使用するための、本発明の複合体又は組成物を提供する。別の一実施形態において、本発明は、PITによる腫瘍治療剤の製造における、本発明の複合体又は組成物の使用を提供する。別の一実施形態において、本発明は、本発明の複合体又は組成物を用いてPITにより腫瘍を治療する方法を提供する。本発明による腫瘍を治療する方法(以下、本発明の治療方法ともいう)は、本発明の複合体又は組成物を患者に投与する工程、及び、該患者に近赤外線(NIR)を照射する工程を含む。したがって、本発明で使用されるPITは、具体的には近赤外光線免疫療法(NIR-PIT)である。なお、本明細書において、「腫瘍を治療する方法」は「腫瘍を死滅させる方法」と読み替えることができる。
【0069】
本発明の複合体又は組成物を投与される患者は、腫瘍の治療を必要とする患者である。該患者としては、腫瘍を有するヒト及び非ヒト動物が挙げられる。非ヒト動物としては、非ヒト哺乳動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ブタ、ヤギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、ウマなどが挙げられるが、これらに限定されない。また、該患者は、腫瘍に対する他の治療(外科手術、化学療法、放射線療法など)の経験を有していても有していなくてもよい。
【0070】
標的とする腫瘍の種類に応じて、本発明の複合体に含まれる抗体分子が選択される。該抗体分子は、標的の腫瘍細胞の表面に存在する抗原、好ましくは腫瘍細胞の表面に発現する腫瘍特異的タンパク質に特異的に結合することができる。抗体分子の適切な選択により、標的腫瘍への本発明の複合体の集積を可能にする。標的とする各種腫瘍の細胞表面抗原、例えば腫瘍特異的タンパク質は、既知情報に従って決定することができる。当業者は、治療すべき腫瘍上の標的抗原に特異的な抗体分子を選択することができる。
【0071】
3.1.複合体の投与
本発明の複合体又は組成物の投与計画(例えば、投与経路、用量、回数など)は、標的とする腫瘍の種類、状態、及び患者の種、年齢、状態などに応じて適宜決定することができる。投与経路の例としては、注射、カテーテル、噴霧、塗布、貼付、坐剤等による腫瘍患部への局所投与、輸液、経口、腹腔内、静脈注射等による全身投与などが挙げられる。好ましくは、本発明の複合体又は組成物は局所投与される。一実施形態において、本発明の複合体又は組成物は静脈内投与される。一実施形態において、本発明の複合体又は組成物は、標的とする腫瘍の患部に注射器等を用いて直接投与されるか、又はカテーテルを介して注入される。
本発明の複合体又は組成物は、腫瘍の治療のために単独で使用されてもよいが、他の薬剤や療法、例えば化学療法と併用されてもよい。
【0072】
本発明の複合体又は組成物は、患者に対して有効量で投与されればよい。「有効量」とは、患者の標的とする腫瘍に、PITの治療効果を発揮するのに十分な量の本発明の複合体が集積することを可能にする量をいう。好ましくは、「有効量」とは、患者においてPITの治療効果を発揮する一方で、該患者に対する副作用を最小限又は許容範囲内に抑えることができる量をいう。
【0073】
患者に対する本発明の複合体の投与量は、標的とする腫瘍の種類、状態(位置、体積等)、及び患者の種、年齢、状態、及び投与経路、該複合体を含有する組成物の形態などによって適宜決定することができる。例えば、本発明の複合体の投与量は、腫瘍体積に応じて設定することができる。腫瘍体積(V)は、例えば、腫瘍の短径(W)と長径(L)を計測し、式:V=(W2×L)/2に当てはめることによって算出することができる。あるいは、投与量は、後述するイメージングにより計測される本発明の複合体の標的腫瘍への集積の程度に応じて調整することができる。ヒトに対する本発明の複合体の投与量は、マウスに対する投与量に準じて決定することができる。例えば、本発明の複合体をヒトに投与する場合の有効量は、マウスにおける有効量の5~10倍の量として決定することができる。
【0074】
一例において、本発明の複合体を含有する組成物を成人(60kg)の腫瘍患部に注入する場合、該組成物の1回投与量(注入量)は、通常1~5mLである。別の一例において、本発明の複合体を成人(60kg)の腫瘍患部に注入する場合、該複合体の1回投与量(注入量)は、0.01mg~20mg/kg(体重)である。
【0075】
本発明の複合体の投与量及び投与回数は、腫瘍の治療効果に応じて増減することができる。腫瘍の治療効果は、腫瘍治療の一般的な評価方法、例えば腫瘍組織の縮小率等により評価することができる。一実施形態において、本発明の複合体は上記の投与量で単回投与される。別の一実施形態において、本発明の複合体は複数回投与される。複数回投与の場合、上記の投与量を繰り返し投与してもよく、又は腫瘍の治療効果に応じて投与量を増減してもよい。一実施形態において、2回目以降の投与は、前回投与の用量が患者からクリアランスされた後に実施することができる。別の一実施形態において、本発明の複合体は、1週間に1回、2週間に1回、1か月に1回、又はより少ない頻度で繰り返し投与することができる。別の一実施形態において、本発明の複合体は、前回投与の後、1週間、2週間、3週間、4週間、2か月、6か月、1年、もしくはそれより後に標的腫瘍が残っている場合に、再び投与することができる。
【0076】
3.2.光免疫療法
患者への本発明の複合体又は組成物の投与に続いて、該患者にNIRが照射される。好ましくは、本発明の複合体が結合した腫瘍細胞又は腫瘍患部に局所的にNIRが照射される。NIRに曝露された本発明の複合体は、光化学反応を引き起こし、それが結合した腫瘍細胞を死滅させる。患者に投与された本発明の複合体は、抗体分子を介して標的の腫瘍細胞に特異的に結合する。したがって本発明により、標的腫瘍細胞の選択的な死滅が実現される。
【0077】
照射される光線の波長は、好ましくは500~900nm、より好ましくは600~850nm、さらに好ましくは660~740nmである。
【0078】
照射のタイミングは、本発明の複合体を投与した後の任意のタイミングに決定することができる。例えば、投与後30分~96時間の間、好ましくは投与後30分~48時間の間、30分~24時間の間、1時間~48時間の間、又は1時間~24時間の間の任意のタイミングに決定することができる。
照射の時間は、5秒間~72時間の範囲で適宜決定することができる。本発明の複合体の1回投与あたりの累積照射時間が上記の範囲になるように、1回又は複数回の照射を行うことができる。照射1回あたりの時間は適宜決定することができ、例えば、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50もしくは55秒間、又は1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5もしくは5分間、又は10、20、30、40、50もしくは60分間、又は1もしくは2時間にすることができる。
一実施形態において、患者に照射されるNIRの線量は、好ましくは1J/cm2以上、より好ましくは5J/cm2以上、さらに好ましくは10J/cm2以上であり、かつ好ましくは1000J/cm2以下、より好ましくは500J/cm2以下、さらに好ましくは100J/cm2以下、さらに好ましくは50J/cm2以下、例えば、1~1000J/cm2、1~500J/cm2、5~200J/cm2、10~100J/cm2、又は10~50J/cm2の範囲である。
【0079】
照射は、本発明の複合体の1回の投与に対して、1回又は複数回実施することができる。したがって、照射は、1回で完了しても数日間繰り返して行われてもよい。複数回照射する場合、各々の照射の条件は、同じであっても異なっていてもよい。照射の線量、条件又は方法は、腫瘍の種類や状態に応じて変更することができる。
【0080】
3.3.イメージング
本発明の複合体のコア粒子が、磁性粒子や蛍光粒子(例えば半導体粒子)である場合、生体イメージングが可能となる。一実施形態において、本発明の複合体又は組成物は、患者又は腫瘍のイメージングに使用される。例えば、患者に投与された本発明の複合体又は組成物は、腫瘍の治療の前に、腫瘍のイメージングに使用される。腫瘍のイメージングは、患者の体内における複合体の所在、又は複合体の結合した腫瘍の所在の確認を可能とし、すなわち、患者の診断を可能にする。これにより、PITのための光照射のタイミング、生体内での3次元的な照射位置、及び照射量(照射時間、線量)を最適化することができ、PITの治療効果を高めることができる。
【0081】
イメージングの手段としては、MRI、蛍光イメージング等が挙げられる。コア粒子としてMRI造影剤である酸化鉄やガドリニウム化合物等を含む磁性粒子を用いれば、MRIによるイメージングが可能となる。MRIによるイメージングは、常法により行うことができる。あるいは、コア粒子として蛍光粒子を用いれば、蛍光イメージングが可能となる。蛍光イメージングでは、蛍光粒子を励起するための励起光を照射する。照射する励起光の波長は、使用する蛍光粒子に応じて適宜に選択することができる。蛍光粒子から発せられる蛍光は、検出器により検出される。検出器は特に限定されるものではないが、CCDカメラ、光学CT装置、内視鏡、眼底カメラ等が挙げられる。蛍光粒子としては、特許文献3に開示されている半導体ナノ粒子、アミノ基が粒子表面に導入されているCdSe系量子ドットなどが挙げられる。簡便性の点から、本発明においては、コア粒子として磁性粒子を含む複合体を用い、MRIによるイメージングを行うことが好ましい。
【0082】
3.4.その他の方法
上述した本発明の複合体又は組成物を用いたPIT及びイメージングの手法は、in vivoだけでなく、in vitroにも適用可能である。例えば、患者の身体に存在する腫瘍だけでなく、培養腫瘍細胞や、腫瘍細胞を含む培養組織に対して本発明の複合体又は組成物の投与及びNIR照射を行うことで、腫瘍細胞を減少又は増殖抑制させることができる。本発明の複合体又は組成物の投与方法や、NIR照射の条件は、対象とする細胞や組織の状態に合わせて適宜変更可能である。例えば、本発明の複合体又は組成物は、培養物中の腫瘍細胞に直接投与することができる。該複合体又は組成物の投与量、又はNIR照射の条件は、患者への投与又は照射の場合と比べてよりマイルドな条件を選択することができる。
【実施例0083】
以下に、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例等によって何ら限定されるものではない。
【0084】
実施例1 複合体の製造
1)IRDye 700DX(IR700)を結合したパニツムマブの合成
ヒト型モノクローナル抗体パニツムマブ2mg(13.6nmol)を、0.2mol/LのNa2HPO4(pH8.5)中のIRDye 700DX NHS Ester(LI-COR Biosciences社製)133.6μg(68.4nmol、5mmol/L DMSO)と共に室温で30~120分間インキュベートした。混合物は、Sephadex G50カラム(PD-10;GE Healthcare、Piscataway、NJ)で精製した。タンパク質濃度は、595nmにおける吸収を、紫外-可視システム(8453 Value system;Agilent Technologies、Palo alto、CA)で測定することにより、Coomassie Plusタンパク質アッセイキット(Pierce Biotechnology、Rockford、IL)で決定した。IR700の濃度は、紫外-可視システム(Shimadzu UV-VIS)による吸収によって測定した。パニツムマブ1分子当たりのIR700は約3分子であった。以下、IR700が結合したパニツムマブを、Pan-IR700と表記する。
【0085】
2)Pan-IR700のビオチン化
(+)-ビオチン N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(Sigma-Aldrich社製、以下Biotin-NHSとも称する)5.69mgを1mLのDMSO(Sigma-Aldrich社製)に溶解させた。マイクロチューブに1mLのPan-IR700溶液(2.0mg/mL)を採取し、先に調製したBiotin-NHS DMSO溶液を8μL([Biotin-NHS]/[Pan-IR700]=10)加え、室温で3時間静置した。未反応のビオチンを限外ろ過フィルター(アミコンウルトラ100k)で除き、Dulbecco’s Phosphate Buffered Saline(和光純薬製、以下D-PBSとも称する)で1.9mg/mLに調整し、ビオチン化したPan-IR700を得た。以下、ビオチン化したPan-IR700を、Pan-IR700-Biotinと表記する。
【0086】
3)Pan-IR700と磁性粒子との複合体の製造
50mLチューブにNanomag-D-Spio 79-19-201(Micromod製、ストレプトアビジン表面修飾磁性粒子、粒径20nm)120mg(5mg/mL、24mL)を採取し、Pan-IR700-Biotinを1.8mg(1.9mg/mL、947μL)添加し、室温で60分間攪拌した。さらにビオチン(和光純薬社製)18μg(0.1mg/mL、180μL)を投入し、室温で30分攪拌した。このようにして、Pan-IR700と磁性粒子とが結合した複合体を含む分散液を得た。磁気スタンドに設置したMS-columns(Miltenyi Biotec社製)カラムに前述の分散液1mLを通液し、磁性粒子が結合した複合体をカラムに吸着させた。その後、D-PBS 2mLをカラムに通液した。この操作を計4回実施した。4回目のろ液に波長676nmの励起光を照射し700nmの蛍光測定を行ったところ、未反応のPan-IR700-Biotinが検出されないことを確認した。このようにして、Pan-IR700と磁性粒子との複合体を製造した。以下、得られた複合体を、Nanomag-Pan-IR700と表記する。
なお、Nanomag-D-Spio 79-19-201において、粒子濃度は8.0×1014個/mL(1.6×1014個/mg)、ストレプトアビジンの結合量は1.5μg/mgであった。このことから、Nanomag-D-Spio 79-19-201においては、磁性粒子1個あたり平均約1.1個のストレプトアビジン(4量体)が結合していると算出された。また、Nanomag-Pan-IR700の合成において、Pan-IR700-Biotinの仕込み量は、Nanomag-D-Spio 79-19-201におけるストレプトアビジン(4量体)に対して、モル比で3.5倍(磁性粒子1mgあたり、1.0×10-10mol)であった。
【0087】
4)Pan-IR700と量子ドットとの複合体の製造
マイクロチューブにPan-IR700 1.0mg(2.0mg/mL、500μL)とEDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)0.4mg(ThermoFisher製、最終濃度2mM)を採取し、0.1M MESバッファー中(pH=4.7条件下)で反応させた。そして、Sulfo-NHS 1.1mg(ThermoFisher製、最終濃度5mM)を添加して、15分間室温で反応させた。次に、限外濾過(Merck製、Amicon Ultra 100kDa、14000×g、10min)を用いて、過剰のEDC及びSulfo-NHSを除去し、Sulfo-NHSエステルが結合したPan-IR700を得た。得られた化合物にCdSe系量子ドットであるamino-PEG-QDs800 170μL(ThermoFisher製、粒径20nm、8μM)を添加し、室温で一晩静置した。最後に、限外濾過(Pall製、Nanosep 300kDa、1000×g、30min)を用いて、過剰なPan-IR700を除去した。このようにして、Pan-IR700と量子ドットとの複合体を製造した。以下、得られた複合体を、QDs800-Pan-IR700と表記する。
なお、amino-PEG-QDs800において、粒子濃度は8μMである。このことから、量子ドットと反応させたPan-IR700の仕込み量は、量子ドット粒子1個あたり約4.9個であった。
【0088】
比較例1 Pan-IR700と磁性粒子(粒径>100nm)との複合体の製造
3本のチューブのそれぞれに、常磁性酸化鉄粒子であるMagnosphere SS015 streptavidin(JSRライフサイエンス社製、粒径150nm)10mg(10mg/mL、1mL)を採取し、それぞれにPan-IR700-Biotinを68、135、405μg(1.9mg/mL)添加し、室温で60分攪拌し、Pan-IR700被覆率の異なる3種の複合体を作製した。以下、3種の複合体をそれぞれ、Magnosphere-Pan-IR700-A、Magnosphere-Pan-IR700-B、Magnosphere-Pan-IR700-Cと表記する。
なお、Magnosphere-Pan-IR700-A~Cの合成において、Pan-IR700-Biotinの仕込み量は、磁性粒子1mgあたりそれぞれ、4.5×10-11mol、9.0×10-11mol、2.7×10-10molであった。
【0089】
実施例2 複合体の体内分布の評価
上皮成長因子(EGFR)を発現するA431(ヒト表皮がん由来細胞)にLuciferase、Green Fluorescent Proteinがトランスフェクションされた細胞(以下、「A431-Luc-GFP」とも称する)6×106cell/100μLを、雌性ホモ接合無胸腺ヌードマウスの右足付け根付近に皮下注射し、5日間生着させた。
【0090】
5日後、マウスに麻酔をかけ、実施例1で製造したNanomag-Pan-IR700を111.1μL/body(抗体換算30μg/body、粒子換算13.3mg/body)となるよう尾静脈内に投与した。投与前から投与48時間後まで、Pearl Trilogy(LI-COR社製)にて波長700nmでマウス全身の蛍光観察を行い、IR700の体内分布を調べた。マウス全身の蛍光イメージングを
図1に示す。腫瘍患部(図中矢印)で蛍光の増加が観察され、患部への複合体の集積が示された。
同様にして、実施例1で製造したQDs800-Pan-IR700を抗体換算で30μg/bodyとなるようマウスの尾静脈内に投与し、800nmで蛍光観察を行い、IR700の体内分布を調べた。マウス全身の蛍光イメージングを
図2に示す。腫瘍患部(図中点線の囲い)で蛍光の増加が観察され、患部への複合体の集積が示された。
【0091】
同様にして、マウスに比較例1で製造したMagnosphere-Pan-IR700-A、Magnosphere-Pan-IR700-B及びMagnosphere-Pan-IR700-Cをそれぞれ、抗体換算で100μg/bodyとなるよう動脈内投与し、蛍光観察によりIR700の体内分布を調べた。また、Magnosphere-Pan-IR700-Cを、抗体換算で200μg/bodyとなるようマウスの尾静脈内に投与し、蛍光観察によりIR700の体内分布を調べた。
図3に示すとおり、腫瘍患部への複合体の集積は観察されなかった。
【0092】
実施例3 複合体によるin vitroでのPIT
A431-Luc-GFPを、95%の空気及び5%の二酸化炭素の雰囲気下、37℃の加湿インキュベーター内の組織培養フラスコ中、10%ウシ胎仔血清及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したRPMI1640培地にて培養した。培養した細胞2×105cellを、12ウェルプレートの四隅及び中央部に、10%ウシ胎仔血清及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したRPMI-1640培地300μLとともに播種し6時間インキュベートした。
【0093】
調製した培養物に、実施例1で製造したNanomag-Pan-IR700、QDots-Pan-IR700、及びPan-IR700を抗体換算で10μg/mLとなるよう添加し、37℃で24時間にわたりインキュベートした。その後、細胞をPhosphate Buffered Saline(PBS)500μLで洗浄した後、培養培地をフェノールレッド非含有培地で置き換えた。
【0094】
次いで、培養物を含む12ウェルプレートの四隅に、LEDを用いて波長690nmの近赤外光を0.5J/cm
2(18mW/cm
2×30s)、又は1J/cm
2(18mW/cm
2×60s)で照射した後、ルシフェリン200μLを添加した。照射後定期的にプレートリーダーにより培養物の発光を測定し、生細胞数を算出した。該12ウェルプレートの中央部は未照射コントロールとして用いた。コントロール対比の発光量から、細胞の生存率を求めた。結果を
図4に示す。いずれの複合体も細胞生存率を減少させたが、磁性粒子又は量子ドットを含む複合体Nanomag-Pan-IR700及びQDots-Pan-IR700は、特に照射3時間後以降において、Pan-IR700と比べて細胞生存率を顕著に減少させた。
【0095】
実施例4 複合体によるin vivoでのPIT
上皮成長因子(EGFR)を発現するMDA-MB-468(ヒト乳がん由来細胞)にLuciferase、Green Fluorescent Proteinがトランスフェクションされた細胞(以下、「MDA-MB-468-Luc-GFP」とも称する)を、1×107cell/100μLで雌性ホモ接合無胸腺ヌードマウス3匹の右足付け根付近に皮下注射し、3週間生着させた。その後、2匹のマウスに麻酔をかけ、それぞれ実施例1で製造したNanomag-Pan-IR700を80μL/body(抗体換算30μg/body)となるよう尾静脈内に投与した。1日後、波長690nmのレーザーを、一方のマウスに100J/cm2(470mW/cm2)、もう一方のマウスに200J/cm2(470mW/cm2)で照射し、照射前後の腫瘍ルシフェラーゼ活性(発光強度)を、IVISイメージングシステム(パーキン・エルマー)を用いて測定した。同様にして、もう一匹のマウスに麻酔をかけ、実施例1で製造したPan-IR700を60μL/body(抗体換算30μg/body)となるよう尾静脈内に投与し、1日後、マウスに波長690nmのレーザーを200J/cm2(470mW/cm2)で照射し、照射前後の発光強度を測定した。
【0096】
照射前の発光強度を100とした場合の照射後の発光強度を表1に示す。なお、発光強度が大きいほど腫瘍の大きさが大きいことを意味する。表1から明らかなように、磁性粒子を含む複合体Nanomag-Pan-IR700においては、腫瘍の大幅な縮小が確認された。
【0097】
【0098】
実施例5 複合体の発熱挙動の評価
マイクロチューブに、実施例1で製造したNanomag-Pan-IR700を抗体換算で1μg採取し、PBSを加え、50μLのNanomag-Pan-IR700溶液を作製した。別のマイクロチューブに、実施例1で製造したPan-IR700を抗体換算で1μg採取し、PBSを加え、50μLのPan-IR700溶液を作製した。対照としてマイクロチューブに50μLのPBSを採取した。上記マイクロチューブを氷上にしばらく静置した後、氷上で各マイクロチューブに波長690nmのレーザーを282J/cm2(470mW/cm2×600sec)で照射し、照射前後の液温をコンパクトサーモグラフィーカメラFLIR C2を用いて測定した。
【0099】
測定結果を表2に示す。表2から明らかなように、Nanomag-Pan-IR700溶液においては、近赤外光の照射により30℃を超える温度上昇が確認された。この発熱が、PITの効果が高まった要因の一つであると考えられた。
【0100】
【0101】
実施例6 複合体によるイメージング
1)MRI
実施例2でNanomag-Pan-IR700を投与したマウスについて、MRIによるイメージング性能を評価した。MRI装置として3T MRI-MRS 3000(MR solutions)を用い、T1WI(TR 250msec、TE 6.0msec、FA 90deg)、及びT2WI(TR 2000msec、TE 69.0msec、FA 90deg)で測定を行った。撮影されたMRI像を
図5に示す。
【0102】
2)共焦点顕微鏡観察
正常である非標的細胞のモデルとして、マウスの皮膚に由来する繊維芽細胞培養細胞株に、マーカーとなるRed fluorescent protein(RFP)を発現する(EF1a)-Puro lentiviral particles(AMSBIO、Cambridge、MA、USA)をトランスフェクションした3T3-RFP細胞を調製した。
【0103】
EGFRを発現するA431(ヒト表皮がん由来細胞)、MDAMB468(ヒト乳がん由来細胞)、PC9(ヒト肺がん由来細胞)の各々に対して該3T3-RFP細胞を混合した。各細胞混合物を、12ウェルプレートに、10%ウシ胎仔血清及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したRPMI1640培地300μLとともに1ウェルあたり5×104個で播種し24時間インキュベートした。その後、培養物にNanomag-Pan-IR700を抗体換算で10μg/mL添加し、1時間インキュベートし、PBS 500μLで洗浄した後、培養培地をフェノールレッド非含有培地で置き換えた。次いで、培養物にLEDを用いて690nmの近赤外光を4J/cm2(18mW/cm2×240s)照射し、照射前後の細胞の蛍光をA1R-s Confocal Microscope(Nikon製)で観察した。
【0104】
さらに、Sytox blue(Thermo Fisher製)を用いて壊死細胞を観察した。その結果、照射後、全てのがん細胞で細胞死が確認された一方、正常細胞(3T3-RFP細胞)は照射後も変わりなく細胞の蛍光(RFPの発現)が観察され、生存していることが確認された。