(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047523
(43)【公開日】2022-03-24
(54)【発明の名称】振動絶縁で分析システム間を接続するためのカップリング
(51)【国際特許分類】
H01J 37/18 20060101AFI20220316BHJP
H01J 49/06 20060101ALI20220316BHJP
H01J 49/16 20060101ALI20220316BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20220316BHJP
H01J 49/42 20060101ALI20220316BHJP
G01N 27/62 20210101ALN20220316BHJP
【FI】
H01J37/18
H01J49/06 300
H01J49/06 800
H01J49/16 400
H01J49/00 040
H01J49/00 400
H01J49/42 150
H01J49/42 500
G01N27/62 G
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021147413
(22)【出願日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】2014305.3
(32)【優先日】2020-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】508306565
【氏名又は名称】サーモ フィッシャー サイエンティフィック (ブレーメン) ゲーエムベーハー
(71)【出願人】
【識別番号】303043704
【氏名又は名称】エフイーアイ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー マカロフ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルコ バルシュン
(72)【発明者】
【氏名】カイル フォート
(72)【発明者】
【氏名】クン リウ
【テーマコード(参考)】
2G041
5C101
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA04
2G041DA05
2G041GA03
2G041GA06
2G041GA08
5C101AA03
5C101AA16
5C101BB04
5C101CC05
5C101CC12
5C101CC13
(57)【要約】
【課題】最新の質量分析計に付随する複数の振動周波数に対応し、特に2つのシステムが水平に接続されている場合の2つの分析システム間の相対移動の問題に対処する。
【解決手段】振動的に絶縁されることを必要とする真空ベースの分析システムを共に接続するためのカップリングであって、長手方向軸を有する管状コネクタであって、第1の分析システムに接続するための第1の端部と、振動の伝達を低減し、コネクタの長手方向軸を横切る方向における第1の分析システムの変位を許容するための可撓部分と、を備えるコネクタと、コネクタと第2の分析システムとの間を真空封止するために、可撓部分から長手方向に分離されたシールと、を備え、コネクタが、第1の分析システムと第2の分析システムとの間でイオンを伝達するためのイオン光学系を含む、カップリング。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動的に絶縁されることを必要とする真空ベースの分析システムを共に接続するためのカップリングであって、
長手方向軸を有する管状コネクタであって、第1の分析システムに接続するための第1の端部と、振動の伝達を低減し、前記コネクタの前記長手方向軸を横切る方向における前記第1の分析システムの変位を許容するための可撓部分と、を備える、前記コネクタと、
前記コネクタと第2の分析システムとの間を真空封止するために、前記可撓部分から長手方向に分離されたシールと、を備え、
前記コネクタが、前記第1の分析システムと前記第2の分析システムとの間でイオンを伝達するためのイオン光学系を含む、カップリング。
【請求項2】
前記可撓部分が、前記コネクタの前記第1の端部にまたは前記第1の端部の近くに位置する、請求項1に記載のカップリング。
【請求項3】
前記可撓部分がベローズである、請求項1又は2に記載のカップリング。
【請求項4】
前記シールが、前記第1の端部とは反対側の前記コネクタの第2の端部に、または前記第2の端部の近くに位置する、請求項1~3のいずれか一項に記載のカップリング。
【請求項5】
前記シールが、前記分析システムの外側の大気圧と前記分析システムの内側の高真空または超高真空との間を封止するためのものである、請求項1~4のいずれか一項に記載のカップリング。
【請求項6】
前記シールが、第1のシールおよび第2のシールを備え、前記第2のシールが、前記第1のシールよりも前記可撓部分からさらに離れており、前記第1のシールが、大気圧に対して封止するためのものであり、前記第2のシールが、前記高真空または超高真空に対して封止するためのものである、請求項5に記載のカップリング。
【請求項7】
前記第1のシールと前記第2のシールとの間の空間が、大気圧と前記分析システムの内側の前記真空との間の中間である圧力に差動的にポンプ圧送されるように構成されている、請求項6に記載のカップリング。
【請求項8】
前記可撓部分が、第1の可撓部分であり、前記コネクタが、前記第1のシールと前記第2のシールとの間に位置する第2の可撓部分をさらに備える、請求項6又は7に記載のカップリング。
【請求項9】
前記第2の可撓部分がベローズである、請求項8に記載のカップリング。
【請求項10】
前記第1のシールおよび前記第2のシールが、金属間接触を生じない、および/または前記第1のシールおよび前記第2のシールが両方とも導電性ではない、ならびに/または前記第1のシールおよび前記第2のシールが、Oリングである、請求項6~9のいずれか一項に記載のカップリング。
【請求項11】
前記第1のシールが、前記第2のシールよりも高い剛性を有する、請求項6~10のいずれか一項に記載のカップリング。
【請求項12】
前記第1のシールが、エラストマーシール、好ましくはVitonであり、および/または前記第2のシールが、ポリマーシール、好ましくはPTFEである、請求項6~11のいずれか一項に記載のカップリング。
【請求項13】
前記イオン光学系が、イオンを誘導するための多重極を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のカップリング。
【請求項14】
前記多重極の一方の端部が、前記コネクタの内側で回転可能に支持されており、前記多重極の他方の端部が、前記第1の分析システムの内側で支持されている、請求項13に記載のカップリング。
【請求項15】
前記多重極の回転の中心が、前記第1のシールに近い位置または前記第1のシールと同じ平面内の位置で前記コネクタの前記長手方向軸上にある、請求項14に記載のカップリング。
【請求項16】
前記多重極の前記一方の端部が、カルダン(Cardan)ジョイントによってさらなる多重極に接続されている、請求項14又は15に記載のカップリング。
【請求項17】
前記分析システムのうちの一方の内側に支持された前記多重極の端部が、当該分析システムのハウジング内に摺動嵌合で位置する、請求項13~16のいずれか一項に記載のカップリング。
【請求項18】
前記長手方向における前記分析システム間の相対移動が、1つ以上のストップおよび/または1つ以上の近接センサによって制御される、請求項1~17のいずれか一項に記載のカップリング。
【請求項19】
前記コネクタの前記可撓部分の中心と前記第1のシールとの間の距離Lが、前記長手方向軸を横切る方向における前記多重極の変位によって引き起こされるイオンのいかなる半径方向のエネルギーの広がりも、前記多重極に進入する前記イオンの前記半径方向のエネルギーの広がりよりも小さくなるような距離である、請求項13~18のいずれか一項に記載のカップリング。
【請求項20】
前記長手方向軸を横切る方向における前記多重極の変位によって引き起こされるイオンのいかなる追加の半径方向のエネルギーの広がりも、前記多重極に進入する前記イオンの前記半径方向のエネルギーの広がりの50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満である、請求項19に記載のカップリング。
【請求項21】
前記分析システムのうちの一方が、質量分析計であり、前記分析システムの他方が、荷電粒子を利用するイメージングシステムである、請求項1~20のいずれか一項に記載のカップリング。
【請求項22】
前記イメージングシステムが、TEM、SEM、電子ホログラフィ(EH)顕微鏡、二次イオン質量分析(SIMS)を使用するイメージング質量分析計(MSI)、およびレーザーを使用するイメージング質量分析計(MSI)、好ましくはMALDIまたはMALDI-2から選択される、請求項21に記載のカップリング。
【請求項23】
質量分析計およびイメージングシステムを備える分析システムであって、前記質量分析計および前記イメージングシステムが、請求項1~22のいずれか一項に記載のカップリングによって接続されている、分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一方が他方からの振動絶縁を必要とする、真空ベースの分析システム間などのシステム間を接続するためのカップリングに関する。特に、限定的ではないが、本開示は、質量分析計などの真空ベースの分析システムを、電子顕微鏡などの真空下でも動作することができる振動感受性分析システムに接続するためのカップリングに関する。
【背景技術】
【0002】
複雑な分子、例えばDNA、RNA、タンパク質、もしくはペプチドなどの生体高分子または高分子、およびそれらの複合体のネイティブ状態の質量分析(MS)と電子顕微鏡(EM)の両方に対する関心が高まっている。イオンのソフトランディングの進歩により、無傷のタンパク質、タンパク質、およびタンパク質-DNA複合体を、超高真空下、および任意選択で極低温条件下で基材に直接堆積させ、分析を容易にすることが可能となっている。質量分析計による質量選択を、電子顕微鏡による分析のためのイオンのソフトランディングと組み合わせるシステムは、2020年6月29日に出願された米国特許出願第16/914,924号に記載されており、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。ただし、質量分析システムを、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、電子ホログラフィ(EH)、または質量分析イメージング(MSI)システムなどのイメージングシステムと組み合わせる場合の課題は、非常に高い振動がないという高解像度イメージングシステムの要件と、振動が激しいターボ分子ポンプによって通常提供される質量分析のマルチポートポンピング要件とを如何に調和させるかである。典型的には、これらの振動は、空間解像度が低ミクロンレベルに達すると画像を歪めて不鮮明にし始め、ナノメートルスケールの解像度では受け入れられなくなる。したがって、本開示では、高解像度イメージングは、この範囲の空間解像度で動作するすべての技術に関係する。
【0003】
この問題は、最新のSEM/TEM/EH/MSI振動絶縁システムの特定の機能によって悪化する。このようなシステムは、アクティブプラットフォームとパッシブエアテーブルを利用するため、これらのシステムの一部をアクティブにすると、イメージングシステム(SEM/TEM/EH/MSI)の、例えば最大5~7ミリメートル(mm)(例えば、5mm)の垂直方向の相当な変位をもたらし得る。質量分析計は、別体のプラットフォームに保持することが好ましいため、このような変位により、2つのシステムを接続するイオン光学系が曲がる可能性がある。その2つのシステム間のグランドループのあらゆる干渉を回避する必要があることが、システム同士を組み合わせるためのさらなる要件である。前述の問題に対処しないと、イメージングシステムの分析性能に大きな影響を与える可能性がある。
【0004】
電子顕微鏡の振動絶縁に対する様々な解決策が提示されている。例えば、US5,376,799では、ポンプと電子顕微鏡システムとの間の金属同士の接触は、Oリングのラジアルシールおよび垂直エラストマーアイソレーションマウントを使用することで回避される。US7,993,113に提示されている別のアプローチによれば、振動絶縁装置が、弾性リング部材から囲まれて分離された金属ベローズを備え、振動減衰が、ターボ分子ポンプの振動周波数でノッチフィルタを作成するように調整される。ベローズを使用する別の同様の実装が、US8,961,106号に提示されており、それによれば、さらに、環状ウェイトが、接続ポンプチューブの外周の周りに配置され、粘弾性部材がチューブとウェイトの間に挿入されて、振動吸収体を形成する。単一のターボ分子ポンプを備えたシステム用に設計されているが、提示されたアプローチは、典型的には、最新の質量分析計に付随する複数の振動周波数に対応できておらず、特に2つのシステムが水平に接続されている場合の2つの分析システム間の相対移動の問題に対処しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の背景技術に対し、本開示を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の態様は、質量分析計システムとイメージングシステムなどの分析システム間で振動を分断する必要があるという問題に対処する。本開示の態様は、真空ベースの分析システムを接続するためのカップリングに関する。本開示の態様は、使用中に2つの分析システム間で垂直方向の変位が発生し得るという問題に対処する。本開示の態様は、イオン光学系および(超)高真空が、通常、実質的に水平な経路またはラインに沿って、ある分析システム(例えば、質量分光計)と別の分析システム(例えば、イメージングシステム)との間で連続的に広がる必要があるイオン光学設計に対応することができる。本開示の態様は、質量分析計と、他の真空ベースの機器、特に走査型および透過型電子顕微鏡(SEM/TEM)などの振動感受性分析機器とを、例えばハイブリッドMS/TEMまたはMS/SEM構成において接続するためのカップリングに関する。本開示の態様は、振動絶縁を提供してシステム間の相対的な変位を可能にしながら、システムのイオン光学品質を維持することを可能にする。
【0007】
本開示は、システム間の金属間接触なしに、2つのシステム間の振動デカップリングを可能にする。本開示の実施形態は、既存のMSシステムまたはインフラストラクチャを利用することおよびMSシステムからイメージングシステムへの(超)高真空イオン経路を提供することを可能にする一方で、振動デカップリングを提供する。
【0008】
一態様における本開示は、請求項1に記載のカップリングを提供する。本開示のさらなる特徴は、従属請求項に従って提供される。
【0009】
本開示は、一般に、分析システムを接続するためのカップリングを提供する。分析システムは、典型的には、それらの動作中は真空下に保たれる。例えば、少なくとも1つのターボ分子ポンプを備える真空ポンプシステムを提供して、一方または好ましくは両方の分析システムをポンプ圧送し、それらを真空下に維持することができる。好ましくは、分析システムは、US8,529,218およびUS10,422,338に例示されるように、異なる圧力での真空の複数のステージを含む。カップリングは、典型的には円筒形であり、長手方向軸を有し、可撓部分(本明細書では「第1の可撓部分」)を有する管状コネクタを備える。コネクタは、第1の分析システムに接続するための第1の端部を有する。可撓部分は、コネクタの長さに沿った位置に位置し、典型的には、第1の分析システムに接続するためのコネクタの第1の端部にまたはその近くに位置する。可撓部分は、典型的には環状部であり、長手方向軸の周りに半径方向または円周方向に延びる。可撓部分は、好ましくはベローズである。可撓部分は、振動を放散し、したがって、第1の分析システムへの、または第1のシステムが振動の発生源である場合は第1の分析システムからの、それらの伝達を低減または防止することができる。可撓部分は、コネクタの長手方向軸を横切る方向における分析システムの相対的な変位を許容することができる。実施形態では、可撓部分は、コネクタの長手方向軸を横切る方向における第1の分析システムの変位を許容することができる。例えば、変位は、コネクタの長手方向軸が使用中に水平となる垂直方向とすることができる。可撓部分はまた、コネクタの長手方向軸の方向における分析システムの相対的な変位を許容し得る。
【0010】
カップリングは、好ましくは、可撓部分から分離した(すなわち、長手方向に分離した)、好ましくはラジアルシールであり、コネクタと第2の分析システムとの間の真空封止用のシールをさらに含む。第1の分析システムおよび第2の分析システムは、互いに振動的に絶縁されることを必要とする(分析システムの一方が、他方のシステムによって生成される振動から絶縁されることを必要とする)。すなわち、一方が振動源であり、そこから他方のシステムが絶縁されることを必要とする。例えば、第1の分析システムは、第2の分析システムの振動から絶縁されることを必要とし、その逆も同様である。
【0011】
シールは、好ましくは、コネクタの外面に位置するラジアルシールである。シールは、好ましくは、第2の分析システムの開口部またはポートの内面に封止する。シールは、好ましくは、第1の端部とは反対側の、コネクタの第2の(遠位)端部にまたはその近位に位置する。コネクタの第2の(遠位)端部は、第2の分析システムに接続するためのものである。シールは、好ましくは、大気圧(すなわち分析システムの外側の)に対して封止する。シールは、好ましくは、分析システムの外側の大気圧と分析システムの内側の真空(HVまたはUHVなど)との間を封止する。可撓部分および任意選択でシールは、コネクタの長手方向軸を横切る方向における第1の分析システムの相対的な変位を許容する。例えば、変位は、コネクタの長手方向軸が水平となる垂直方向とすることができる。第1の分析システムの変位は、第1の分析システムが接続されているコネクタの第1の端部、特にその可撓部分の対応する変位を引き起こす可能性がある。
【0012】
シールは、好ましくは、第1のシールおよび第2のシール、好ましくは第1のラジアルシールおよび第2のラジアルシールを含む。第1のシールおよび第2のシールは、好ましくは、第1の端部とは反対側の、コネクタの第2の端部にまたはその近位に位置する。可撓部分から分離した第1のシールは、コネクタと第2の分析システムとの間を封止するための第1のシールである。第1のシールは、好ましくは、第1の端部からコネクタの第2の(遠位)端部にまたはその近くに位置する。第1のシールは、好ましくは、大気圧(すなわち分析システムの外側の)に対して封止するためのものである。第1のシールは、任意選択で、記載されるように、コネクタの長手方向軸を横切る方向における第1の分析システムの変位をさらに許容することができる。例えば、第1のシール、例えばOリングタイプは、好ましくは、コネクタのいくらかの回転を可能にして、伸長中の第1の可撓部分またはベローズへの応力を低減し、さもなければ、そのような応力は振動を伝達し始める可能性がある。好ましくは、第2のシール、好ましくはラジアルシールは、第1のシールとは別に、好ましくは第1のシールよりも第1の可撓部分から離れて(長手方向に)提供され、第2のシールはまた、コネクタと第2の分析システムとの間を封止するためのものである。第2のシールは、好ましくは、高真空(本明細書で使用される用語は超高真空(UHV)を含む)、すなわち分析システムの内側の真空に対して封止するためのものである。高真空は、10-3mbar以下、10-4mbar以下、10-5mbar以下、10-6mbar以下、好ましくは10-7mbar以下、10-8mbar以下、10-9mbar以下、または10-10mbar以下(10-9mbar以下はUHV)の圧力を持つことができる。
【0013】
いくつかの実施形態では、第1のシールと第2のシールとの間の空間または容積は、真空ポンプによって差動的にポンプ圧送することができる。いくつかの実施形態では、第1のシールと第2のシールとの間の空間は、分析システムをポンプ圧送してそれらの真空を提供するのと同じポンプ(例えば、ターボ分子ポンプ)によってポンプ圧送することができる。分析システムの内部容積と第1シールと第2シールの間の空間は、それぞれ、マルチステージ真空(ターボ分子)ポンプの個別のポンプポートに接続することができる。典型的には、空間または容積は、大気圧と分析システムの内側の真空圧との中間である圧力にポンプ圧送される。有利なことに、差動ポンプ圧送で構成された2つのシール配置を使用すると、カップリングは、分析システムの外側の大気圧と分析システムの内側のUHV(10-9mbar以下)の間を封止することができる。必要に応じて、3つ以上のシールを使用することができる。
【0014】
好ましくは、コネクタは、第1のシールと第2のシールとの間に位置する第2の可撓部分を有する。第2の可撓部分は、好ましくはベローズ(すなわち、第1の可撓部分がベローズである実施形態における第2のベローズ)である。第2の可撓部分は、振動を放散し、第2のシールを第1の分析システムから振動的に絶縁することができる一方で、シール間の封止されたポンプ圧送空間を維持する。この第2の可撓部分の存在は、第2のシールに応力を加えることなく、第1のシールで回転が起こることを可能にし得る。このように、分析システムまたはコネクタの垂直方向の変位は、第2のシールに影響を与えず、他のシステムへの振動の伝達を増加させない。
【0015】
第1のシールおよび第2のシールは、好ましくは、金属間シール、特にコンフラットタイプのナイフエッジシールを使用しない。第1のシールおよび第2のシールは、互いに異なる剛性を有することができる。好ましくは、第1のシール(大気に最も近い)は、第2のシールまたは他のシール(真空に最も近い/より近い)よりも高い剛性を有する。シールのうちの少なくとも1つは、エラストマーシールである。第1のシールは、エラストマーシール、より好ましくはフルオロエラストマーシール、さらにより好ましくはFKMフルオロエラストマー、例えばViton(商標)シールとすることができる。第2のシールまたは他のシールは、エラストマーまたはポリマーシール、好ましくはフルオロポリマーシール、より好ましくはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シールとすることができる。第1のシールおよび第2のシールは、Oリングとすることができる。
【0016】
好ましくは、分析システムは、例えば、分析されるサンプルから生成されたイオンを分析するためのものである。イオンは、分析システムの他方から一方に、例えば、質量分析計システムから電子顕微鏡システムに伝送することができる。好ましくは、イオンが分析システム間を動くイオン光軸は、コネクタを通過し、好ましくはコネクタの中心を通過し、さらに好ましくはコネクタの長手方向軸上を通過する。好ましくは、イオン光軸とコネクタの長手方向軸は、実質的に一致している。
【0017】
いくつかの実施形態では、例えば、分析システムの1つ(第2の分析システムなど)が質量分析計である場合、コネクタは、イオン損失を低減するためにイオンを誘導および/または集束するためのイオン光学系を収容する。コネクタは、イオンを誘導するための多重極イオンガイドを収納することができる。コネクタはまた、または代替的に、イオンを集束させるための1つ以上のイオンレンズを収容することができる。いくつかの実施形態では、多重極の一端部はコネクタに接続され、すなわちコネクタの内側で支持され、多重極の他端部は分析システムの一方(例えば第1の分析システムの内側で支持される)に接続され、すなわち支持されて、多重極の他端部が、コネクタの長手方向軸を横切る分析システムの変位の分だけ変位することができるようにする。このようにして、多重極は、最小の損失でイオンを第1の分析システムに誘導することができる。好ましくは、コネクタに接続された、すなわちコネクタの内側で支持された多重極の端部は、コネクタの内側で回転可能に支持される。好ましくは、多重極の一端部は、第1の(最も剛性の高い)シールのまたはその近位の、好ましくは第1のシールの近くまたは同じ平面内の(すなわち、実質的に第1のシールと同じ平面内で)、長手方向位置でコネクタの内側で支持される。多重極のこの端部は、好ましくは回転可能に支持され、すなわち、回転を可能にするように支持される。
【0018】
多重極のロッド電極は、好ましくは誘電体支持体に保持される。支持体(典型的には一対の支持体)は、好ましくは、ロッドを多重極の各端部(ロッドの各端部)の近くに保持する。誘電体支持体は、例えば、セラミック、石英、またはプラスチック材料で作製することができる。
【0019】
好ましい一実施形態では、多重極の少なくとも1つの誘電体支持体は、コネクタの内側にあるシート上に着座し、支持体は、シート上で回転可能である。シートは、コネクタの内側に、例えばコネクタの内壁に固定またはそれと一体化されてもよい。シートは、好ましくは、第1の(最も剛性の高い)シールのまたはその近くの、好ましくは第1のシールと同じ平面内の、長手方向位置にあることができる。この目的のために、シートと接触している誘電体支持体の一部を丸くするか、および/または研磨することができる。いくつかの実施形態では、多重極の他の誘電体支持体は、(振動的に絶縁された)第1の分析システムに接続される。このようにして、他の誘電体支持体、したがって多重極の他端部は、第1の分析システムの変位とともに動く。好ましくは、少なくとも、分析システムの(垂直方向の)変位によって引き起こされる多重極の回転中心のまたはそれに最も近い多重極の誘電体支持体は、回転可能である(例えば丸くされるかおよび/または研磨される)。
【0020】
好ましくは、変位している間の多重極の回転中心は、コネクタの長手方向軸上にある。回転中心はまた、好ましくは、第1の(最も剛性の高い)シールのまたはその近位の、好ましくは第1のシールに近いまたは同じ平面内(すなわち、実質的に第1のシールと同じ平面)の、長手方向位置にある。回転中心は、好ましくは、システム間の変位によるミスアライメントを最小限に抑えるために、多重極へのイオンの入口の近くにある。いくつかの実施形態では、コネクタに収容された多重極は、質量分析計などの第2の分析システムの内側で固定された上流の多重極からイオンを受け取る。
【0021】
システムの相対移動にもかかわらず多重極のアライメントを可能にする代替の実施形態は、アライメントを失うことなく2つの直交軸の周りの隣接する多重極の回転を可能にするカルダン(Cardan)またはユニバーサルジョイントの使用を含む。そのような一実施形態では、コネクタの内側の多重極の一端部をカルダンジョイントに接続することができ、例えば、カルダンジョイントによってさらなる多重極に接続することができる。そのような実施形態では、シャフト、好ましくは中空の円筒形シャフトを、2つの多重極の隣接する端部にそれぞれ取り付けることができる。一方の多重極は、コネクタの内側に収容される多重極とすることができる。その場合、そのシャフトはコネクタ内に収めることができる。他方の多重極は、質量分析計などの分析システムの多重極とすることができる。シャフトは、多重極の誘電体支持体の周りに位置することができ、それによって多重極の端部を支持する。シャフトは、例えば、センタリングボール、好ましくはセラミックまたは金属ボールによって、好ましくは数十ミクロン以下の公差で、中央ヨークに接続することができる。直交する回転軸ごとに2つのセンタリングボールを配置することができるため、合計4つのボールがある。各シャフトは、ボールのうちの2つ(すなわち、同じ軸上の2つのボール)によってヨークに接続することができる。それにより、シャフトは、センタリングボールによって、直交軸の周りに互いに対して、およびヨークに対して動くことが可能である。いくつかの実施形態では、イオンレンズを、多重極の隣接する端部の間に配置することができる。センタリングボールの代わりに、回転軸を画定する他の手段、例えばピンまたはミニチュアベローズを使用することもできる。ただし、動作時の応力が低いため、センタリングボールが推奨される。好ましくは、この場合、回転の両方の軸は、多重極の端部の間のミスアライメントを最小限にするために、イオンレンズの開口の中心を通る。
【0022】
カップリングの可撓部分の動き(圧縮および伸長)による多重極の長手方向のシフトを可能にするために、第1の分析システムの内側で支持された多重極の端部は、第1の分析システムのハウジング内に摺動嵌合で配置することができる。例えば、コネクタの内側に収容される多重極は、一端部をカルダンジョイントに接続し、他端部を対応する分析システムのハウジング内に摺動嵌合で配置することができる。一実施形態では、多重極のうちの1つを2つの部分として構築することができ、その2つの部分において、一方の多重極部分が対応する分析システムにしっかりと固定され、他方の多重極部分がカルダンジョイントに接続されて、その第1の多重極部分に対して長手方向に動くことが可能である。例えば、第1の多重極部分は、例えば、その誘電体支持体をハウジングの内壁に固定することによって、ハウジング内に固定することができる。第2の多重極部分は、その端部がハウジング内に摺動嵌合で位置する第1の部分に隣接するように配置することができる。2つの多重極部分は、同じRF供給を有することができるが、2つの多重極部分間のギャップ(G)は、システム間のシフトに対応するために変更することができる。このシフトのサイズが多重極の内接直径D0よりも大幅に小さい限り、いかなるイオン損失やイオン散乱は期待できない。
【0023】
コネクタは、長手方向の動きを可能にする可撓部分を有するので、いくつかの実施形態では、動くことのできる多重極とコネクタの内側のレンズとの間の衝突を回避するための手段を必要とする。いくつかの実施形態では、長手方向における分析システム間の相対移動は、1つ以上のストップおよび/または1つ以上の近接センサによって制御される。例えば、1つ以上のストップ(すなわち、ブロック)を設けることができる。これらのストップは、可撓部分の最大圧縮および/または最大伸長を制限するように配置することができる。いくつかの実施形態では、1つ以上のストップを、動かない第2のシステムなどの分析システムの一方に接続することができる。ストップは、他方の分析システムの動きが可撓部分の所定の圧縮および/または伸長を超える場合、その分析システム上の対応する部分と係合する、すなわち接触するように位置する。多重極とレンズとの間の最適な距離は、システムの設置時に設定することができる。いくつかの実施形態では、その距離は、1つ以上の近接センサ、例えば、ばね接点、または容量式、誘導式、磁気式、光学式および/または他の感知を使用して制御することができる。センサは、好ましくは、システム間の接触を可能にしないか、または少なくとも低力のばね荷重接触を超えないようにし、その結果、振動の経路を提供しない。
【0024】
好ましくは、コネクタの第1の可撓部分の中心と第1のシールとの間の距離Lは、長手方向軸を横切る方向におけるコネクタの第1の端部の変位(したがってその中の多重極の変位)によって引き起こされるイオンの半径方向のエネルギーの広がり(したがって、コネクタ内のイオン光学系(多重極)と上流の分析システムとの間に角度のミスアライメントが生じる)が、コネクタ/多重極に進入するイオンの半径方向のエネルギーの広がりよりも小さくなるような距離である。例えば、変位または角度のミスアライメントによって引き起こされるイオンの追加の半径方向のエネルギーの広がりは、好ましくは、コネクタ/多重極に進入するイオンビームの半径方向のエネルギーの広がりの50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満である。いくつかの実施形態では、変位によって引き起こされるイオン光学系間の角度のミスアライメントは、1つ以上のイオン偏向器を使用することによって補償することができる。
【0025】
いくつかの実施形態では、電子顕微鏡とすることができる第1の分析システムは、振動からの絶縁を必要とし得る。いくつかの実施形態では、第2の分析システムは、振動(例えば、ポンプによって生成される振動)の発生源である。いくつかの実施形態では、第2の分析システムは、質量分析計である。しかしながら、いくつかの実施形態では、第2の分析システムが振動からの絶縁を必要とし得るように、構成を逆にしてもよい。いくつかのそのような実施形態では、第2の分析システムは、電子顕微鏡であり得、第1の分析システムは、振動(例えば、ポンプによって生成される振動)の発生源であり得、および/または第1の分析システムは、質量分析計であり得る。
【0026】
いくつかの実施形態では、分析システムは、イオンを分析することができる。例えば、質量分析計は、電子顕微鏡などのイメージングシステムに伝送されるそれらの質量電荷比によってイオンを生成および選択し得る。別の実施形態では、イオンは、例えば、サンプルを画像化する走査イオンビームまたはレーザービームを使用して、サンプル上の複数の連続した位置でサンプルから生成され得る。後者の実施形態では、サンプルは、特にミクロンおよびサブミクロンスケールの画像解像度が必要な場合に、振動絶縁を必要とする分析システムに配置され得、イオンは、本開示のカップリングを介して質量分析のための質量分析計システムへと渡される。イオンは、DNA、RNA、翻訳後修飾を伴うまたは伴わないタンパク質、ペプチド、タンパク質およびDNA/RNA/タンパク質複合体、無傷のウイルスなどの生体高分子のイオンとすることができる。
【0027】
質量分析計では、イオンは、(ナノ)エレクトロスプレーイオン化、インレットイオン化、MALDI、脱離エレクトロスプレーイオン化、周囲イオン源などによって分析物から生成することができる。質量分析計は、イオン質量セレクタまたはフィルタ、好ましくは四重極質量フィルタを備えて、質量対電荷比に基づいてイオンをフィルタリングすることができる。質量分析計は、四重極質量フィルタを備えた軌道トラッピング分析器(Orbitrap(商標)HybridまたはTribrid(商標)質量分析計など)、トリプル四重極質量分析計、四重極飛行時間型(Q-ToF)質量分析計などのタイプのうちの1つ以上とすることができる。イメージングシステムは、:SEM、TEM、電子ホログラフィ顕微鏡、回折測定のタイプのうちの1つ以上の電子顕微鏡とすることができるか、または二次イオンまたはレーザーイオン源を使用するイメージング質量分析計とすることができる。電子顕微鏡などの分析システムは、サンプル調製のために、質量分析計からイオンを受け取るためのソフトランディング基板を備えることができる。基板は、グラフェン支持体を含むことができる。分析システムによる分析の1つ以上のステージで、極低温冷却、例えば、電子顕微鏡用の基板またはサンプルの極低温冷却(Cryo-EM)を利用することができる。
【0028】
いくつかの実施形態では、分析システムの一方は、質量分析計であり、他方の分析システムは、電子顕微鏡またはイメージングMSなどの荷電粒子(例えば、イオン)を利用するイメージングシステムである。イメージングシステムは、TEM、SEM、電子ホログラフィ(EH)顕微鏡、二次イオン質量分析(SIMS)を使用するイメージング質量分析計(MSI)、およびMALDIまたはMALDI-2などのレーザーを使用するイメージング質量分析計(MSI)から選択することができる。したがって、本開示は、特定の態様において、質量分析計およびイメージングシステムを備える分析システムを提供し、質量分析計およびイメージングシステムは、本開示によるカップリングによって接続される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】2つの分析システムの組み合わせまたはハイブリッドを概略的に示す。
【
図2】さらなる分析システムにイオンを供給するために使用することができる質量分析計システムの一実施形態を概略的に示す。
【
図3】システムの振動絶縁および相対移動を可能にする真空ベースの分析システムをカップリングするための一実施形態を概略的に示す。
【
図4】分析システムの相対的な垂直方向の変位によって引き起こされるイオン光学系の角度のミスアライメントαを概略的に示す。
【
図5】イオンビーム位置を補正するためのレンズの一実施形態を概略的に示す。
【
図6】イオンビーム位置を補正するための偏向器システムの別の実施形態を概略的に示す。
【
図7】システムの振動絶縁および相対移動を可能にする真空ベースの分析システムをカップリングするための別の実施形態を概略的に示す。
【
図8】システムの振動絶縁および相対移動を可能にする真空ベースの分析システムをカップリングするためのさらなる実施形態を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、添付の図を参照して、様々な実施形態を説明する。実施形態は、本開示の様々な特徴を例示することを意図しており、よって、本開示の範囲を限定することを意図していない。実施形態に対する変形は、添付のクレームの範囲内に依然として含まれて行われ得ることが理解されるであろう。
【0031】
図1は、2つの分析システム(100、300)の組み合わせまたはハイブリッド(1)を概略的に示している。分析システム(100)は、分析システム(300)によって分析されるサンプル(2)を受け取り、調製する。本明細書で第1の分析システムと称する分析システム(300)は、少なくとも分析中に振動から絶縁されることを必要とする分析システムである。第1の分析システム(300)は、典型的には、使用中は真空下に保持される。第1の分析システム(300)は、例えば、電子顕微鏡(EM)システムまたは他の任意の高解像度イメージングシステムとすることができる。第1の分析システム(300)は、典型的には、使用中は真空下に保持される。本明細書で第2の分析システムと称する分析システム(100)は、例えば、分析システムが、強い振動を生成する1つ以上の真空ポンプに接続されてポンプ圧送されるために振動源となる分析システムである。第2の分析システム(100)は、例えば、質量分析(MS)システムとすることができる。システム(100)は、イオンをイメージングシステム(300)に渡す質量分析システムであり得るが、別の実施形態では、システム(100)は、正確に画定されたスポットからイオンを生成し(例えば、走査イオンビームまたはレーザーを使用して)、イオンを質量分析システム(300)に渡すイメージングシステムであり得る。アプリケーションに応じて、イオンは、システム(100)からシステム(300)に、またはシステム(300)からシステム(100)に輸送することができる。例えば、イオンは、例えば、イオンビームまたはレーザービームを使用して、イメージングシステム(300)で生成され、質量分析システム(100)へと渡され得る。
【0032】
一般に、本開示のカップリングは、第1の分析システムと第2の分析システムのうちの一方が他方のシステムによって生成される振動からの絶縁を必要とする場合に適用可能である。例えば、第1の分析システムでは、例に示すように、第2の分析システムの振動から絶縁されることを必要とする。しかしながら、他の実施形態では、第2の分析システムは、第1の分析システムによって生成された振動からの絶縁を必要とし得る。
【0033】
第2の分析システム(100)は、イオン源でイオンを生成し、質量セレクタ、例えば四重極質量フィルタまたは質量選択イオントラップを使用して注目イオンを質量選択することによってサンプルを調製し得る。このようにして、特定の質量電荷比の、または質量電荷比の特定の範囲内のサンプルイオンが第2の分析システム(100)で選択され、イオン光学系によって分析システム(300)に誘導することができる。サンプルは、例えば、第1の分析システム(300)が電子顕微鏡(EM)システムである場合に適したイオンソフトランディング技術によって、第2の分析システム(300)から第1の分析システム(300)において受け取ることができる。
【0034】
分析システム(100、300)は、本開示の主題であり、以下でより詳細に説明されるカップリング(200)によって接続されている。
【0035】
図2は、さらなる分析システムにイオンを提供するために使用することができる質量分析計システム(100)の構成を概略的に示している。このシステムは、さらなる分析システム、例えば電子顕微鏡システムにおいてソフトランディングするためのイオンを供給するのに特に適する。質量分析計(100)は、四重極質量フィルタとOrbitrap質量分析器の形態の静電トラップ質量分析器とのハイブリッド構成を利用している、Thermo Scientific(商標)Q Exactive(商標)シリーズの機器(Thermo Fisher Scientific Inc.)で使用されているレイアウトに基づいている。
【0036】
質量分析計(100)は、供給されたサンプルからイオンを形成するための大気圧エレクトロスプレーイオン源(102)を備える。サンプルには、上記のように生体高分子(DNA、タンパク質など)を含有させることができる。サンプルは、例えば、クロマトグラフィー分離システム(図示せず)または他の液相分離からの溶出によって、時間の関数として提供される液体サンプルとすることができる。例えば、サンプルは、サイズ排除クロマトグラフィー(size-exclusion chromatography)、キャピラリー電気泳動、固相抽出、液体クロマトグラフィー、親和性分離、または他の液相分離によって提供される液体サンプルとすることができる。サンプルのタイプに応じて、他のイオン源を使用できることが理解されよう。例えば、本発明はまた、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)、レーザースプレーもしくは任意の他のインレットイオン化、または実際に、記載されている生体高分子のイオンなどの高m/zイオンを生成することができる他の任意の技術によって生成されるイオンの分析のために使用することができる。
【0037】
エレクトロスプレーからのイオンは、加熱されたイオン移動キャピラリー(104)を通過してスタックリングイオンガイド(SRIGまたはSレンズ)(106)に到達し、次に注入flatapole(110)と曲がったflatapole(114)を通過する。Sレンズ領域は、真空ポンプによってポンプ圧送され、典型的には1~10mbarである。圧力勾配は、大気圧領域のイオン移動キャピラリーにイオンを引き込み、それらをSレンズ領域に輸送する。RF電圧をSレンズ(106)の電極に印加して、イオンを出口レンズ(108)の開口部に向けて集束させる。Sレンズからのイオンは、出口レンズ(108)を通過し(106)、イオン集束デバイスとして機能する平らな金属電極のアレイである注入flatapole(110)に向かって移動する。集束RFとDCオフセット電圧を注入flatapoleに印加する。注入flatapole(110)を、第1のターボ分子ポンプ(TMP)の第1ステージによってポンプ圧送する(図示せず)。次に、イオンは、イオンビームが通過できる小さな穴のある金属板であるflatapole間レンズ(112)を通過する。イオンの透過を助けるために、DC電位をレンズに印加する。イオンは、イオン透過デバイスとして機能する曲がったflatapole(114)に進入する。イオンを注入flatapole(110)から四重極質量フィルタ(130)まで90°のアークを通して誘導し、Sレンズと注入flatapoleを通過する中性ガスジェットと溶媒液滴を除去する。flatapole(114)の曲がった形状のため、中性粒子はflatapoleの曲がった経路をたどることができない。曲がったflatapoleは、第1のTMPの第2ステージによってポンプ圧送される。出口レンズ116は、イオンビームを四重極質量フィルタ(130)に集束させる。
【0038】
四重極(130)は、電極として機能する、精密に機械加工され、かつ精密に位置合わせされた双曲線プロファイルの丸棒の正方形アレイである。四重極(130)は、(RFのみの)完全透過モードで動作して、質量電荷比の全範囲のイオンを通過させるか、または反対側のロッドのペアとして接続されているロッドにRFおよびDC電圧を印加した質量フィルタとして動作することができる。ロッドの各ペアには、同じ振幅および符号の電圧が印加される。しかしながら、異なるペアのロッドに印加される電圧は、振幅は同じであるが符号は異なる。電圧は、四重極(130)が所望の質量電荷比または質量電荷比の範囲の通過するイオンを選択するように選ばれる。四重極(130)は、第1のTMPの次のステージによってポンプ圧送される。
【0039】
四重極(130)から、選択されたイオンは、分割レンズ(118)を通過し、多重極(120)を転送し、典型的には(0.1~1)×10-3mbarの圧力で、RF電極を備えた湾曲した線状イオントラップ(Cトラップ)(140)に進入する。イオンは、Cトラップ(140)で収集および冷却することができる。任意選択的に、イオンをさらに冷却するために、典型的にはRF多重極ロッドを備えるガス充填衝突セル(150)に通過させてもよい。セル(150)から、軸方向電場を使用して、イオンをCトラップ(140)に戻すことができる。Cトラップの端開口(それぞれ入口開口と出口開口122、124)の電圧を上げて、その軸に沿ってポテンシャル井戸を提供する。Cトラップ(140)内のイオンは、窒素などのバスガスとの衝突で運動エネルギーを失い、Cトラップの中央部分の近くに集まる。必要に応じて、電圧オフセットによって提供される軸方向電場を衝突セル(150)に印加して、その中のイオンの断片化を提供することができる。衝突セル(150)がイオンの冷却または断片化に必要ない場合は、より低い圧力(例えば、3×10-6mbar)でポンプ圧送してもよい。
【0040】
イオンは、RFをオフにしてDC電圧パルスをCトラップに印加することにより、Cトラップ(140)からCトラップ内のスロットを通して静電軌道トラッピング質量分析計(Orbitrap質量分析器)(160)に直交(放射状)に注入することができる。C-トラップ間のレンズ(Zレンズ144)は、差動ポンプ圧送スロットとして機能し、Orbitrap質量分析器の入口にイオンビームを空間的に集束させる。イオンは、レンズ(144)によってガスジェットから静電的に偏向され、Orbitrap質量分析器へのガスのキャリーオーバーを排除する。Orbitrapコンパートメント内の真空は、好ましくは、質量分析のために1×10-9mbar未満(例えば7×10-10mbar未満)である。Cトラップ(140)からOrbitrap(160)までの領域は、第1のTMPの次のステージまたは第2のTMPのステージによってポンプ圧送することができる。Orbitrap質量分析器(160)は、一対のベル形状の外部電極で囲まれたスピンドル形状の中心電極の軸対称配置を含み、中心電極と外部電極との間の電場を使用してイオンを捕捉し閉じ込める。閉じ込められたイオンは、イオンの質量対電荷比に依存する周波数でコヒーレントな軸方向振動を受ける。Orbitrap分析器の外部電極の2つの半分は、振動するイオンによって生成されるイメージ電流を検出する。増幅されたイメージ電流の高速フーリエ変換(FFT)により、質量分析計は、軸方向の振動の周波数を取得し、これからイオンの質量電荷比を取得する。このようにして、質量分析計は、Orbitrap質量分析器(160)を利用して、以下でさらに説明するように、さらなる分析システム(電子顕微鏡)に供給されるイオンの質量電荷比をチェックまたは検証することができる。
【0041】
イオンをCトラップ(140)にトラップする代わりに、イオンは、Cトラップおよび衝突セル(150)を通過して、四重極イオンガイドであるが、より高い多重極イオンガイド(例えば六重極または八重極)とすることもできる、第1の多重極イオンガイド(Quad 1,170)に送ることができる。第1の多重極イオンガイド(170)を、さらなるターボ分子ポンプ(TMP)のポンプ圧送ポート(171)に接続することによって、例えば、1×10-6mbar未満の高真空にポンプ圧送されたチャンバ内に保持する。イオンは、さらなるTMPのポンプ圧送ポート(173)に接続されることによって、例えば、4×10-8mbarの高真空にポンプ圧送されたチャンバ内に保持された第2の多重極イオンガイドであって、四重極イオンガイドであるが、より高い多重極イオンガイドにすることができる、第2の多重極イオンガイド(Quad 2,172)に渡される。最後に、イオンは、さらなるTMPのさらなるポンプ圧送ポート(175)に接続されることによって、例えば、1×10-10mbarの超高真空(UHV)にポンプ圧送されたチャンバ内に保持された第3の多重極イオンガイドであって、四重極イオンガイドであるが、より高い多重極イオンガイドにすることができる、第3の多重極イオンガイド(Quad 3,174)に渡される。多重極に印加されたRF電圧は、イオンが通過するときにイオンの焦点を合わせる。高真空ポンプ圧送ポート(171、173)は、UHVポンプ圧送ポート(175)(例えば、300L/秒)よりも低いポンプ圧送速度(例えば、50L/秒)のために構成され得る。差動ポンプ圧送開口(DPA)として知られる開口(178)は、真空ステージを分離するために、第1の多重極と第2の多重極のチャンバ間および第2の多重極と第3の多重極との間にある。第1、第2、および第3の多重極を収容する高真空および超高真空チャンバのそれぞれはまた、それぞれのイオンゲージ(180、182、184)を収容し得る。第3の多重極(174)は、イオンをさらなる分析システムに渡す。示される実施形態では、第3の多重極(174)は、電子顕微鏡または電子ホログラフィ(300)による分析のために、イオンを基板(190)にソフトランディングするためにイオン光学系(188)に渡す。イオン光学系(188)は、ソフトランディングのためにイオンエネルギーを低減するようにバイアスされた、リターディング(retarding)レンズなどのリターディング電圧光学系を備え得る。基板(190)は、並進ステージ(図示せず)上で電子顕微鏡の分析位置に移動することができる。ゲートバルブ(186)は、例えば、電子顕微鏡を使用する分析中、または真空を破ることを必要とするいずれかのシステムの保守を実行するときに、質量分析計と電子顕微鏡環境を互いに絶縁するように動作することができる。
【0042】
図3は、質量分析計100を電子顕微鏡300にカップリングするための一実施形態を概略的に示している。第1の分析システムおよび第2の分析システムを接続するのに適したカップリング200が示されており、これらは典型的には、それらの動作中は真空下に保持され、一方のシステムは振動的に絶縁される必要がある。したがって、カップリングは、分析システムの内側の真空状態を維持することに対応することができる。
図1および
図2に示すシステムなど、特定の分析システム間を接続する際の問題は、振動をシステム間で分断する必要があることである。例えば、質量分析計システムは、典型的には、電子顕微鏡システム、特に高分解能電子顕微鏡の性能に影響を与えるのに十分な強さの振動を生成するターボ分子ポンプによってポンプ圧送される。使用中、2つの分析システム間で垂直方向の変位が発生する必要があり得るというさらなる問題も存在する。これは、変位が、イオン光学系の曲がり、およびイオンビームの許容できない半径方向のエネルギーの広がりを増加させる得るイオン光学系(多重極)の過度の角度のミスアライメントを引き起こし得るので、イオン光学系が、第1の分析システム(例えば、質量分析計)から第2の分析システム(例えば、電子顕微鏡システム)までの実質的に水平な経路またはラインに沿ってイオン光路を提供するというイオン光学設計で特に問題である。本開示は、これらの問題に対処する。
【0043】
カップリング(200)は、長手方向軸(X)を有する管状円筒形コネクタ(202)を備える。その軸は、コネクタの中心を通って縦方向(すなわち、端から端まで)に延びる。コネクタ202は、コネクタの第1の端部にベローズ(206)の形態の可撓部分を有し、これは、振動からの絶縁が必要となる分析システム(電子顕微鏡)の真空管(209)の開口部またはポート(208)に接続される。ベローズは、真空中で共に溶接された薄いステンレス鋼シートで作製することができる。
【0044】
ベローズ(206)は、例えば、ポートのフランジ(例えば、その間に、UHVメタルシールなどの真空シールを用いて)に(例えば、ボルトで)固定することができるフランジ(図示せず)によって、第1の分析システムのポート(208)に接続することができる。例えば、ベローズをポートに接続するには、コンフラット(CF)フランジによることができる。より恒久的な接続の実施形態では、ベローズ(206)をシステムのポート(208)に溶接することができる。真空適合接続(真空封止された)、好ましくはHVまたはUHV対応可能であれば、他の接続が可能であることが理解されよう。
【0045】
ベローズ(206)は、質量分析計からの振動を放散し、電子顕微鏡システムへのそれらの伝達を低減または防止する。質量分析計からの振動の発生源は、1つ以上の真空ポンプであり、そのうちの1つとして、マルチポートターボ分子ポンプ(210)が示されている。ポンプの複数のポンプ圧送ポート(212、214、216)も示されており、真空の様々なステージをポンプ圧送する。ベローズ(206)は、コネクタを長手方向軸(X)の方向に変位させることを可能にする。ベローズ(206)はまた、その真空管(209)が一部である分析システム(例えば、電子顕微鏡)のこの方向の変位によって引き起こされる、長手方向軸(X)を横切る方向(Y)におけるコネクタの第1の端部の変位を可能にする。
【0046】
Oリングの形態の第1のラジアルシール(220)は、コネクタ202の外面の円周(ラジアル)溝(222)にある。第1のシール(220)は、コネクタ(202)と第2の分析システム(例えば、質量分析計)の開口部またはポート(224)との間を封止するためにベローズ(206)から絶縁されたコネクタ上の位置に提供される。開口部またはポート(224)は、好ましくは円筒形であり、シール(220)がそれらの間にシールを提供するように、コネクタ(202)の外径よりも大きい内径を有する。第1のシール(220)は、封止し、分析システムの外側の大気圧(A)に対して封止することを提供する。第1のシール(220)および位置決め溝(222)は、ベローズ(206)を備えた第1の端部の反対側(遠位)にある、コネクタの第2の端部にまたはその近位に位置する。第1のラジアルシール(220)は、例えば、ベローズへの応力が限界を超える場合に、コネクタの第1の端部を長手方向軸(X)を横切る方向(Y)に変位させることを可能にする。
【0047】
Oリング(または代替としてCリング)の形態の第2のラジアルシール(230)が、第1のシール(220)よりもベローズ(206)からさらに離れたコネクタ上の位置に、第1のシール(220)から分離して提供される。第2のラジアルシール(230)は、コネクタ202の外面の円周(ラジアル)溝(232)にある。第2のシールは、コネクタ(202)と第2の分析システム(質量分析計)の開口部またはポート(224)との間を封止することを提供する。第2のシール(230)は、分析システムの内部真空に対して封止する。必要に応じて、さらにシールを提供することができる。これらの少なくとも2つのシールは、大気から分析システムの高(HV)または超高(UHV)真空領域へと封止することを提供する。
【0048】
コネクタ(202)は、第1のシール(220)と第2のシール(230)との間に第2のベローズ(236)の形態の第2の可撓部分を備える。したがって、第2のシール(230)は、システムの振動的に絶縁された側からさらに振動的に絶縁される。示されている埋め込みでは、第2のベローズ(236)は、第1のシール(220)と第2のシール(230)との間のコネクタの長さの大部分を占める。ベローズ(236)は、真空中で共に溶接された薄いステンレス鋼で作製することができる。
【0049】
第1のシール(220)および第2のシール(230)は、好ましくは、金属を含まない、すなわち非金属シールである。第1のシールおよび第2のシールは、好ましくは、金属間接触、すなわちシステム間接触を生じさせない。好ましくは、シール(例えば、第1のシールおよび第2のシール)は、接地ループを回避するために、接続されたシステム間の電気的絶縁を提供する。したがって、好ましくは、カップリングにおいて、両方のシールは導電性ではない。
【0050】
第1のシールおよび第2のシールは、互いに異なる剛性を有する。大気に最も近い第1のシール(220)は、最大の圧力差に耐える必要があるため、第2のシール(真空に近い)よりも剛性が高くなる。示される実施形態では、第1のシール(220)は、VitonOリングの形態のエラストマーシールである一方、第2のシール(230)は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)OリングシールまたはCリングシールの形態の低脱ガスポリマーシールである。ポリマーシールは、圧縮/変形が少なく、主に封止内空間と(超)高真空側との間の視線を遮断するのに役立つ。UHV領域に面する領域が小さい場合、PTFE封止などのポリマー封止は、イオンのソフトランディングおよび/または電子顕微鏡を含むほとんどのアプリケーションにとって十分な、10-9~10-10mbarまでの圧力に対応できることが知られている。封止内空間または第1のシールおよび第2のシールとの間の容積(238)は、例えば、圧力10-5mbarで、ターボポンプ(210)のポート(212)のうちの1つによって差動的にポンプ圧送される。
【0051】
図3に示される実施形態は、イオン光学システムのそれぞれ2つの多重極を含む2つの真空ステージを示している。この実施形態において入力多重極(240)として参照されている多重極の一方がHV(例えば、10
-8mbar)内に存在し、この実施形態において出力多重極(250)として参照されている他方の多重極が、UHV(10
-9mbar未満)内に存在する。入力多重極および出力多重極(240および250)は、例えば、
図2に示すシステムのQuad 2(172)およびQuad 3(174)とすることができ、またはQuad 1(170)およびQuad 2(172)にすることができる。多重極(240、250)は、この実施形態では四重極であるが、例えば、四重極、六重極子、八重極として、一般的には2*N極(Nは整数、典型的には2、3、または4)として、RF電圧の一相をすべての奇数極に印加し、RFの他の位相をすべての偶数極に印加する。
【0052】
多重極(240、250)は、質量分析計から振動的に絶縁されたシステムへのイオンの輸送を最小限のイオン損失で保証する。多重極のイオン光学システム(240、250)は、コネクタ(202)の長手方向軸(X)と実質的に整列している多重極の中心軸を通過する水平イオン光軸を提供する。したがって、分析システム間を方向X/に移動するイオンのイオン光軸は、コネクタ(202)の中心を通過する。示されている多重極などのイオンを誘導するためのイオン光学系を収容するコネクタ(202)に加えて、コネクタは、多重極間に位置する1つ以上のイオンレンズ(242)などのイオンを集束させるための追加のイオン光学系を任意選択で収容することができる。
【0053】
多重極(240)は、極または電極としてロッド(244)を含み、ロッド(244)は、それらの端部近くでロッドを支持するリングの形態の誘電体支持体(246)によって離れて(平行に)整列して保持される。誘電体支持体は、セラミック、石英、またはプラスチックなどの電気絶縁材料でできている。誘電体支持体(246)は、ハウジング(248)の内側に取り付けられ、ハウジング(248)自体は、質量分析計の高真空ステージの内側に取り付けられている。出力多重極(250)は、コネクタ(202)の内側に取り付けられている。多重極(250)はまた、電極としてロッド(254)を含み、ロッド(254)は、それらの端部近くでロッドを支持するリングの形態の誘電体支持体(256)によって離れて整列して保持される。誘電体支持体(256)は、シート(258)に取り付けられるか、または着座し、その一方は、コネクタ(202)の内側に固定されるか、一体化されるか、さもなければ接続されており、他方は、振動絶縁された分析システム(電子顕微鏡またはMSI)のポート(208)に固定される。説明したように、多重極(240、250)は、最小限の損失でイオンの輸送を保証する。しかしながら、他の実施形態では、異なるイオン光学系が存在し得るか、またはイオン光学系がカップリング中に存在し得ないことが理解されよう。
【0054】
電子顕微鏡システムなどの振動的に絶縁された分析システムは、そのシステムを他方のシステムに対して垂直に、すなわち上下に移動させるアクティブプラットフォームおよび/またはパッシブエアテーブルを使用する必要がある場合がある。この変位は、最大数ミリメートル(mm)になる可能性があり、第1のシール(220)の両側にあるカップリングのベローズを変形させ、出力多重極(250)を第1のシール(VitonOリング)の近くのそのシート(258)に対して相対的に回転させる。回転中心および/または多重極シート(258)と同じ平面に第1のシール(220)を有するという厳格な要件はないが、これは、振動的に絶縁された側の真空管(209)の曲げ応力を最小限にするために好ましい。出力多重極誘電体支持体(256)のうちの少なくとも1つである、第1のシール(220)に最も近いものは、丸みを帯びており、好ましくは、そのシート(258)に接触するその表面(257)で研磨されて、その結果、多重極の回転が円滑に起きる。その誘電体支持体(256)はまた、ロッド端部のシフトを最小限にするために出力多重極の端部の近くに位置し、好ましくは多重極の回転中心および/または第1のシール(220)の近くまたは同じ平面内(すなわち、多重極の回転中心および/または第1のシールと実質的に同じ平面内)に位置する。
【0055】
第1のシールと第2のシール(220、230)との間の差動ポンプ圧送により、VitonOリングの圧縮を典型的には20~30%から例えば10~15%に低減することができる。これにより、柔らかく変形しやすくなり、他方(質量分析計)の側から発生する振動の減衰が増加する。好ましくは、第1のシールのOリングコードは、例えば、OD6~10mmで、わずかに特大になるように選ばれる。
【0056】
第1のシールのOリングは、イオン光学系の大まかな位置合わせを保証するが、イオンビームを補正するために補正イオン光学系を使用することにより、イオン光路のより細かい位置合わせを実現することができる。
図5に示される一実施形態では、多重極間のレンズ(242)は、4つの象限偏向電極、すなわち、イオンの垂直方向の変位のための上下のペア(243,243’)、および軸Xの方向に通過するイオンの横方向の変位のための左右のペアから作ることができる。場合によっては、イオンビームの独立した調整を機器のいずれかの側にも配置することができる。例えば、入力多重極(240)および/または出力多重極(250)のロッドには、チューニング中に必要に応じてイオン軸をシフトするために、それらに独立したDC電圧を印加することができる。入力多重極および出力多重極(240、250)の間に位置するレンズ(242)にイオン偏向機能を組み込むことが好ましい。象限のある薄いレンズの場合、電極に数ボルトだけ印加してもよい。
【0057】
図4に示すように、出力多重極から入力多重極への角度ミスアライメントα(出力多重極軸と入力多重極軸の間の角度偏差)は、ミスアラインメントによる追加の半径方向のエネルギーの広がりは、入射イオンビームの半径方向のエネルギーの広がりと比較して小さい場合、電荷状態zを持つイオンの出射ビームのパラメータに大きな影響を与えない。後者は、kTに下限があるため(kはボルツマン定数)、以下のようになる。
【数1】
式中、Vは、出力多重極の電圧オフセットと、最後のガスで満たされた多重極放出イオンとの間の電圧差(すなわち、出力多重極に進入するイオンの加速電圧)であり、eは、電気素量である。最後のガスで満たされた多重極は、例えば
図2のHCDセル(150)であり得る。例として、z=25のタンパク質、および室温(T=300K)およびV=10Vの一般的な条件の場合、要件α<10mradが得られる。したがって、機器の2つのシステム間の最大の垂直方向のミスアライメントまたは変位Hの場合、振動的に絶縁された側のベローズ(206)の中心と回転する誘電体支持体(256)との間の長さLは、L>H/αである必要がある。上記の例では、H=1mm、L>100mm(すなわち、L>100*H)である。したがって、一般に、長さLは、システムの最大横方向変位(例えば、水平光軸の垂直方向の変位)に対して、結果として生じる多重極の角度のミスアライメントが、入射イオンビーム(出力多重極に進入する)の追加された半径方向のエネルギーの広がりよりもより小さい、好ましくははるかに小さい、イオンの追加の半径方向のエネルギーの広がり、例えば、入射イオンビームの広がりの半径方向のエネルギーの広がりの50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満を引き起こすような長さである。
【0058】
一方、多重極間の垂直方向の変位hは、イオンビームの半径方向のサイズ(r)よりも小さい場合、特に大幅に小さい場合は無視することができる。サイズ(r)は、四重極イオンガイドの場合、次のように見積もることができる。
【数2】
式中、m
minは、四重極ガイドの低質量カットオフであり、V
RFは、RF電圧の振幅であり、M/zは、注目イオンの質量電荷比である。例えば、多重極間の垂直方向の変位hは、イオンビームの半径方向のサイズ(r)の50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満の場合は無視することができる。したがって、分析システムの変位による多重極間の垂直方向のミスアライメントhは、概してこれらの制限よりも小さいことが望まれる。
【0059】
Hまたはhのいずれかは、例えばレンズ(242)内の多重極(240、250)間の単一の偏向器を使用して補償することができるが、両方の補償は、多重極間に少なくとも2つの偏向器を必要とする。これは、
図5に示すように、最短のシステムである垂直および横方向の偏向器を使用して配置することができる。別の可能な偏向器システムが
図6に示されており、垂直方向の偏向器のペア(263)および横方向の偏向器のペア(265)を含み、これらは、例えば、ペア(263、265)間にギャップが存在するように長手方向に分離されており、それらの間に位置付けられるゲートバルブ(270)(ゲートバルブ封止シート(272)も示されている)を可能にする。これは、損失の増加の観点からは望ましくないが、例えば、それぞれの分析システムの真空システムを分離するためのゲートバルブを収容するために、システム設計によって多重極間のギャップがとにかく必要とされる場合、そのような実施形態は適切であり得る。
【0060】
システムの相対移動にもかかわらず、多重極の一貫した整列を可能にする代替アプローチは、US10,460,920およびUS10,720,315に記載されているようなフレキシブルPCBベースのイオントンネルの使用とすることができる。ただし、HVおよびUHVの条件下では、非常に多くのPCBを使用できるとは限らない。
【0061】
HVおよびUHV条件の場合について、システムの相対移動にもかかわらず多重極の正確な整列を可能にするさらなる代替の実施形態が、
図7に概略的に示されている。
図7に側面断面図(i)および上面断面図(ii)を示す。
図3と同じ部品が使用されている場合、同じ参照番号が使用される。
図7の設計は、カルダンまたはユニバーサルジョイント(300)(https://en.wikipedia.org/wiki/Universal_joint)の原理を具体化しており、整列を失うことなく、2つの直交軸を中心に多重極を相互に回転させることが可能である。この実施形態では、第1の中空円筒シャフト(340)および第2の中空円筒シャフト(350)の形態の2つのシャフトが、入力多重極および出力多重極(240および250)の隣接する端部にそれぞれ取り付けられている。シャフトは、多重極の誘電体支持体(246)の周りに位置し、それによって多重極の端部を支持する。第2のシャフト(350)は、コネクタ(202)内に適合する。シャフト(340および350)は、例えば、好ましくは数十ミクロン以下の公差を有する、センタリングボール(320)、好ましくはセラミックまたは金属ボールによって、中央ヨークリング(310)に正確に整列され、接続される。直交する回転軸(Y軸およびZ軸)ごとに2つのセンタリングボールが位置するため、合計4つのボールがある。シャフト(340、350)は、センタリングボール(320)によって、直交軸の周りに互いに対して、およびヨーク(310)に対して移動することが可能である。振動絶縁を支援するために、ヨークおよび/またはシャフトは、PTFE、PEEK、またはその他の真空対応プラスチックで作製することができる。また、振動の伝達を低減するための追加の手段として、シャフトの断面の急激な変化(例えば、溝)を特徴とするシャフトを実装することもできる。好ましくは、両方の回転軸は、hを最小限にするために、レンズ(330)のレンズ開口(325)の中心を通ることになる。ベローズ(206)の動きにより、両方向矢印Aで示される長手方向(X方向)のシフトを可能にするために、出力多重極(250)を2つの部分として構築し、一方の部分(250’)を対応する分析システムが対応する分析システムにしっかりと固定され、他方の部分(250’’)がカルダンジョイントに接続されて、その第1の部分に対して長手方向に動くことが可能である。例えば、多重極(250’)の第1の部分は、例えば、多重極の誘電体支持体をハウジングの壁に固定することによって、円筒形ハウジングなどのハウジング(309)内に固定することができる。第2の部分(250’’)は、その端部がハウジング(309)内に研磨された摺動嵌合で位置する第1の部分(250’)に隣接するように配置され得る。それらは同じRF供給を持つことができるが、2つの多重極プ部分(250’、250’’)間のギャップ(G)は、システム間のシフトに対応するために変更することができる。このシフトが内接多重極直径D
0よりも大幅に小さい限り、いかなるイオン損失や散乱も期待できない。
【0062】
別の実施形態が
図8に概略的に示されている。この実施形態は、
図3に示される実施形態と同様であるが、多くが同じ構成要素であり、以下の変更が加えられている。コネクタ(202)は、かなりの長手方向(X)移動を可能にする可撓部分(206)を有するので、多重極(250)とレンズ(242)との衝突を回避するための予防措置が必要である。実際には、これは、
図8に示す1つ以上のハードストップ(410、420)の助けを借りて実装することができる。これらのストップは、可撓部分(206)の最大圧縮(ストップ410)または最大伸長(ストップ420)のいずれか、あるいはその両方を制限するように配置することができる。この実施形態では、半径方向の突起またはフランジ(430)は、コネクタまたは可撓部分が接続されている分析システムの端部に配置される。半径方向の突起またはフランジ(430)は、半径方向の突起またはフランジ(430)のいずれかの側に配置されるハードストップ(410、420)に対して物理的に係合し、ハードストップは、この場合、接続部材(440)によって、他の分析システムに接続される。多重極(250)とレンズ(242)の間の最適な距離は、システムの設置中に設定され、
図8に示すように、1つ以上の近接センサ(450)を使用して制御することができる。近接センサ(450)は、ばね接点、または静電容量式、誘導式、磁気式、光学式、および/または他の感知を含むことができる。主な要件は、センサが振動の経路を作成しないこと、すなわち、好ましくは、センサがシステム間に接触を与えないか、低力のばね荷重の接触を超えないことである。近接センサが、システムが接触していること、または接触に近いことを感知すると、センサからコントローラに信号を送信することができ、コントローラは、分析測定を停止したり、分析測定中のシステム間の有害な振動の伝達を回避するために、システムのうちの少なくとも1つ(その位置調整は、いくつかの実施形態では手動で実行することもできる)の位置調整を開始したりすることができる。ハードストップおよび/または近接センサの機能は、
図7に示す実施形態でも使用することができる。システム全体で、分析システムの真空ポンプポートと真空チャンバとの間のベローズの使用など、他の既知の振動低減手段を組み込むことができることが理解されよう。
【0063】
本開示は、概して、イメージングシステムが第1の分析システムであり、質量分析計が第2の分析システムである例に言及しているが、他の実施形態では、質量分析計は、第1の分析システムとすることができ、イメージングシステムは、第2の分析システムとすることができる。
【0064】
分析システムは、以下を備えることができることが理解されよう:
-イオンを生成および選択するためのフロントエンドとしての既存の質量分析計システムまたはアーキテクチャ:軌道トラップ質量分析器(例えば、Orbitrap質量分析器)、ハイブリッド四重極-軌道トラップ質量分析器、Tribrid四重極-軌道トラップ-線形イオントラップ質量分析器、Tribrid四重極-軌道トラップ-飛行時間(ToF)質量分析器、トリプル四重極質量分析器、四重極-飛行時間(Q-ToF)質量分析器などに基づくものなど。
-イオンを受け取って画像化するためのバックエンドとしての既存の電子顕微鏡システム:例えば、ソフトランディングのためのグラフェンサンプル支持体を使用して、サンプル調製のためにイオンソフトランディングを利用するように設計されたシステムなどを含む、SEM、TEM、電子ホログラフィ、回折測定など
-他の分析システムでの質量分析用のイオンを生成するためのフロントエンド(すなわち、サンプルを受け取るシステム)としてのイメージング質量分析計。このようなシステムは、イオンまたは電子ビームを利用して、マトリックスを使用するかどうかにかかわらず、二次イオンまたはレーザー脱離もしくはアブレーションを生成することができる。マルチステージイオン化法、例えば、レーザーまたは電子ポストイオン化も可能である。
-分析の1つ以上のステージ(質量分析計および/または電子顕微鏡ステージ)での極低温冷却。
【0065】
一般に、イオンソフトランディングのための基板または支持体は、好ましくは、電子透過性(例えば、電子ホログラフィの場合は200eV未満、EMの場合は50~300keVのエネルギーでの電子透過性)、超清浄、非反応性、導電性である。いくつかの実施形態では、基板に使用される材料は、二次元(2D)材料である。基板の材料の例(2D)としては、単層または2層のグラフェン、六方晶窒化ホウ素(hBN)、二硫化モリブデン、二セレン化タングステン、および二硫化ハフニウムが挙げられる。
【0066】
分析システムは、DNA、RNA、ペプチド、翻訳後修飾を伴うまたは伴わないタンパク質、タンパク質の複合体、DNAs、RNAs、またはそれらの組み合わせ(ネイティブ状態のリボソームなど)、ならびに脂質ラフト、ミセル、細胞膜の領域などのより複雑な配置、無傷のウイルス等などの生体高分子分析物の分析に適し得ることが理解されよう。いくつかの実施形態では、サンプルは、いくつか例を挙げると、リゾザイム、カルモジュリン、プロテインA/G、OmpFポリン(Escherichia coliの外膜タンパク質)、モノクローナル抗体免疫グロブリン(IgG)、C反応性タンパク質(CRP)、ストレプトアビジン、およびヒト血清アルブミンなどのタンパク質である。サンプルがタンパク質である実施形態では、調製および質量フィルタリング後、タンパク質が所望のネイティブ性状態にあることが望ましい場合がある。システムは、好ましくは、前述のタイプの1つ以上の生体高分子のイオンを生成する。分析物の同一性は、システムの質量分析器(例えば、Orbitrap質量分析器、ToF質量分析器など)または追加の分光手段によって検証され得る。上記のサンプルタイプのリストは、例示としてのみ含まれており、本開示を限定するものではない。イオンは、(ナノ)エレクトロスプレー、インレットイオン化、MALDI、脱離エレクトロスプレーイオン化、周囲イオン源などの任意の好適なイオン源によって、質量分析計の分析物から生成することができる。
【0067】
前述の説明から、本開示は、システム間の金属間接触なしに、2つのシステム間の振動デカップリングを可能にすることが理解されよう。本開示の実施形態は、質量分析計と、他の真空ベースの機器、電子顕微鏡、例えば走査型および透過型電子顕微鏡(SEM/TEM)などの振動感受性分析機器とを、すなわちハイブリッドMS/TEMまたはMS/SEM構成において接続するためのカップリングに関する。しかしながら、カップリングは、振動絶縁を必要とする任意の分析システム、特に真空ベースである、および/または使用中に相対変位を必要とする、システムを接続するために適用可能であることが理解されよう。本開示の実施形態は、システム間の相対変位にも対応しながら、振動デカップリングを提供する。システム間の相対変位によって引き起こされるイオン光学系間のミスアライメントは、イオンビームのエネルギー拡散を最小限に抑えるために最小限に抑えられる。カップリングにより、例えばMSシステムからEMシステムへの(超)高真空イオンパスを可能にすることで、既存のMSシステムまたはインフラストラクチャを利用することが可能である。
【0068】
特許請求の範囲を含み、本明細書で使用する単数形の用語は、文脈による別段の指定のない限り、複数形も含み、逆もまた同様であると解釈されるべきである。例えば、文脈による別段の指定のない限り、特許請求の範囲を含み、本明細書における、「1つの(aまたはan)」などの単数形への言及は、「1つ以上の」を意味する。
【0069】
本明細書の本文および特許請求の範囲を通して、「備える(comprise)」、「含む(including)」、「有する(having)」および「含有する(contain)」という用語、ならびにこれらの用語の変形、例えば「備える(comprising)」および「備える(comprises)」、他は、「~を含むがこれらに限定されるものではない」ことを意味し、他の構成要素を排除する意図はない(よって、排除するものではない)。
【0070】
上述の本開示の実施形態に対しては、なおも特許請求の範囲に定義される本開示の範囲内に包含されつつ変更が可能であることは、認識されるであろう。本明細書に開示される各特徴は、別段の指定のない限り、同一、同等または類似の目的を果たす代替の特徴と置き換えられてもよい。したがって、別段の指定のない限り、開示されているそれぞれの特徴は、一般的な一連の同等または類似の特徴の単なる一例である。
【0071】
本明細書において提供される任意のおよび全ての例、または例示的な言い回し(「例えば(for instance)」、「~など(such as)」、「例えば(for example)」、および同様の言い回し)の使用は、単に、発明をより良く例示することを意図され、特に特許請求されない限り、本開示の範囲への限定を示すものではない。本明細書におけるいずれの言い回しも、本開示の実施に不可欠なものとして主張されていないいかなる要素をも示すものとして解釈されるべきではない。
【外国語明細書】