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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047531
(43)【公開日】2022-03-24
(54)【発明の名称】抗ウイルス剤、消毒剤及び洗浄剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 31/02 20060101AFI20220316BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20220316BHJP
   A01N 37/36 20060101ALI20220316BHJP
   A01N 65/00 20090101ALI20220316BHJP
   C11D 3/20 20060101ALI20220316BHJP
   C11D 3/382 20060101ALI20220316BHJP
   C11D 1/68 20060101ALI20220316BHJP
   C11D 3/48 20060101ALI20220316BHJP
   A61K 31/045 20060101ALI20220316BHJP
   A61K 31/194 20060101ALI20220316BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20220316BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20220316BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20220316BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20220316BHJP
【FI】
A01N31/02
A01P1/00
A01N37/36
A01N65/00 G
C11D3/20
C11D3/382
C11D1/68
C11D3/48
A61K31/045
A61K31/194
A61K31/19
A61P31/14
A61K31/353
A61K47/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021148037
(22)【出願日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】P 2020152707
(32)【優先日】2020-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】397056042
【氏名又は名称】セッツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】川島 大貴
(72)【発明者】
【氏名】國武 広一郎
(72)【発明者】
【氏名】勢戸 祥介
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
4H003
4H011
【Fターム(参考)】
4C076BB31
4C076CC35
4C076DD46
4C076FF70
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA03
4C086MA04
4C086ZB33
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA03
4C206DA07
4C206DA34
4C206DA36
4C206MA03
4C206MA04
4C206NA05
4C206ZB33
4H003AC03
4H003BA12
4H003BA20
4H003DA02
4H003DB02
4H003EB04
4H003EB08
4H003EB46
4H003ED02
4H003FA02
4H003FA04
4H003FA28
4H003FA34
4H011AA04
4H011BB03
4H011BB06
4H011BB22
4H011DA13
4H011DG03
4H011DG05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】たんぱく汚れ存在下で優れた抗ウイルス効果と、皮膚刺激性、スプレーノズルの詰まりが抑制された、安全性と使用感に優れた抗ウイルス剤、消毒剤及び洗浄剤を提供する。
【解決手段】以下の(1)~(3)の組成を有し、pHが4~5であり、ノンエンベロープウイルスを不活化する、抗ウイルス剤。
(1)エタノールが30質量%~80質量%、
(2)クエン酸及び/またはリンゴ酸が0.7質量%~2.4質量%、乳酸が0.1質量%~0.7質量%であり、これらの合計濃度が0.8質量%~2.5質量%、
(3)乳酸ナトリウム及び/または乳酸カリウムが0.1質量%~1.5質量%
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)~(3)の組成を有し、pHが4~5であり、ノンエンベロープウイルスを不活化する、抗ウイルス剤。
(1)エタノールが30質量%~80質量%
(2)クエン酸及び/またはリンゴ酸が0.7質量%~2.4質量%、乳酸が0.1質量%~0.7質量%であり、これらの合計濃度が0.8質量%~2.5質量%
(3)乳酸ナトリウム及び/または乳酸カリウムが0.1質量%~1.5質量%
【請求項2】
0.001質量%~0.5質量%の植物由来ポリフェノールをさらに含む、請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
前記植物由来ポリフェノールが、フラバノール類、ガロタンニン類、エラジタンニン類、及びフロロタンニン類のうち少なくとも1種である、請求項1または2に記載の抗ウイルス剤。
【請求項4】
前記植物由来ポリフェノールを含む植物エキスとして、ブドウ種子抽出物、リンゴエキス(リンゴポリフェノール)、クルミエキス(クルミポリフェノール)、マンゴスチンエキス、ピーナツ種皮エキス、アカメガシワエキス、ライチエキス、ザクロエキス、月見草エキス、柿エキス、キャッツクローエキス、及び海藻エキスのうち、少なくとも1種が含まれる、請求項2または3に記載の抗ウイルス剤。
【請求項5】
グリセリン脂肪酸エステルをさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗ウイルス剤。
【請求項6】
前記ノンエンベロープウイルスが、ヒトノロウイルスまたはネコカリシウイルスである、請求項1~5のいずれか1項に記載の抗ウイルス剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の抗ウイルス剤を含む、消毒剤。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の抗ウイルス剤を含む、洗浄剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たんぱく汚れ存在下で優れた抗ウイルス効果に加え、皮膚刺激性、スプレーノズルの詰まりが抑制された、安全性と使用感に優れた抗ウイルス剤、消毒剤及び洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノロウイルスによる感染性胃腸炎や食中毒の発生が一年を通じて多発しており、特に11月から3月が発生のピークとなっている。ノロウイルスは、カリシウイルス科、ノロウイルス属に分類されるエンベローブを持たないRNAウイルスであり、アルコール(エタノール、イソプロパノール等)、逆性石鹸、熱、酸(胃酸等)、乾燥等に対して強い抵抗力を有する。ノロウイルスの潜伏期間は1~2日であると考えられており、嘔気、嘔吐、下痢の主症状が出るが、腹痛、頭痛、発熱、悪寒、筋痛、咽頭痛、倦怠感等を伴うこともある。
【0003】
ノロウイルスの感染経路の一つとして経口感染が知られており、ノロウイルスに汚染された食物や水等を経口摂取することにより感染が成立する。そのため、飲食店、給食施設、工場など食品を調理加工する場においては、食物や水、設備等がノロウイルスに汚染されないようにすることが求められている。
【0004】
ノロウイルスは、10個から100個程度という少量によっても発症するほど高い感染力を有する。そのため、ノロウイルスに対して直接的に作用し、ノロウイルスの感染能力を低下又は消失させる、抗ウイルス剤が望まれる。
【0005】
厚生労働省によると、ノロウイルスを不活化するには、調理器具等に対して、85℃で1分間の加熱、200ppmの次亜塩素酸ナトリウムでの消毒を推奨している(非特許文献1参照)。しかしながら、加熱によるノロウイルスの不活性化には、対象物の耐熱性の問題があり、また、次亜塩素酸ナトリウムは強い金属腐食性を有するために使用が制限される場合がある。さらに、調理場など有機物汚れの多い場所では、次亜塩素酸ナトリウムが分解し、十分な効果の得られないことも想定される。
【0006】
さらに、次亜塩素酸ナトリウムは、皮膚や粘膜を侵す危険性があることから、人体への適用は難しく、さらに、酸と反応して有毒ガスが発生するなど、取り扱いや使用に際し注意が必要である。かかる状況下において、取り扱いが簡便で、次亜塩素酸ナトリウムが使用できない場合でも、十分な不活化効果を発揮し得る抗ウイルス剤が強く求められている。
【0007】
一方で、ヒトノロウイルスは、細胞による培養方法が確立されておらず、感染価を測定することができない。そのため、ヒトノロウイルスの代替ウイルスとしてネコカリシウイルス(FCV)を用いて、抗ウイルス剤の消毒効果を検証することが一般的となっている。(非特許文献1)
【0008】
また、食品工場や飲食店などの実使用場面では、ウイルスはたんぱく汚れ存在下の環境中に存在していることが多く、そのような条件下では抗ウイルス剤のウイルス不活化効果を十分に発揮できないことが知られている。
【0009】
これまで、たんぱく汚れ存在下で優れた抗ウイルス剤として、種々提案されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第6339725号
【特許文献2】特開2018-197195号公報
【特許文献3】特開2019-26592号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】国立医薬品食品衛生研究所「平成27年度ノロウイルスの不活化条件に関する調査報告書」
【非特許文献2】製品評価技術基盤機構(NITE)ホームページhttps://www.nite.go.jp/chem/ghs/16-mhlw-0140.html
【非特許文献3】日本工業標準調査会審議「GHSに基づく化学品の分類方法 JIS Z 7252:2019」令和元年5月25日改正
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記に記載の抗ウイルス剤は、液のpHが2~4(特許文献1、2)、もしくは、配合されている乳酸濃度が1%以上(特許文献3)、となっており、強い皮膚刺激性を示すため、安全性や使用感に課題がある。また、乳酸の皮膚刺激性に関してはNITEにて区分1(重篤な皮膚の薬傷及び目の損傷)の有害性が認められており(非特許文献2)、抗ウイルス剤のような、混合物中に1%以上を配合することで皮膚刺激性区分2(皮膚刺激)に分類される(非特許文献3)。また、このような強い皮膚刺激性を持つ抗ウイルス剤を使用したために、手荒れや炎症になった症例が多数報告されている。抗ウイルス剤は食品工場や飲食店や一般家庭、量販店などの幅広い使用場面と不特定多数の使用者が想定されるため、優れたウイルス不活化効果だけでなく、だれでも安心して使用できる、優れた安全性と使用感がより一層求められている。
【0013】
本発明は、たんぱく汚れ存在下で優れたウイルス不活化効果を示し、かつ、皮膚刺激性、スプレーノズルの詰まりが抑制され、優れた安全性と使用感を示す抗ウイルス剤と、当該抗ウイルス剤を用いた消毒剤及び洗浄剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、水溶液のpHと、酸剤の配合バランス、及び乳酸塩の濃度を調整することによって、1.たんぱく汚れ存在下におけるウイルスの不活化、2.皮膚刺激性、3.スプレーノズルの詰まり、の3つの特性に影響を示すことを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより、3つの特性すべてを満足することを達成したものである。なお、3.スプレーノズルの目詰まりは、液の出しやすさ(使用感)とノズルが詰まると液が思わぬ方向に飛ぶことによる被液(安全性)に関わる。
【0015】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 以下の(1)~(3)の組成を有し、pHが4~5であり、ノンエンベロープウイルスを不活化する、抗ウイルス剤。
(1)エタノールが30質量%~80質量%
(2)クエン酸及び/またはリンゴ酸が0.7質量%~2.4質量%、乳酸が0.1質量%~0.7質量%であり、これらの合計濃度が0.8質量%~2.5質量%
(3)乳酸ナトリウム及び/または乳酸カリウムが0.1質量%~1.5質量%
項2. 0.001質量%~0.5質量%の植物由来ポリフェノールをさらに含む、項1に記載の抗ウイルス剤。
項3. 前記植物由来ポリフェノールが、フラバノール類、ガロタンニン類、エラジタンニン類、及びフロロタンニン類のうち少なくとも1種である、項1または2に記載の抗ウイルス剤。
項4. 前記植物由来ポリフェノールを含む植物エキスとして、ブドウ種子抽出物、リンゴエキス(リンゴポリフェノール)、クルミエキス(クルミポリフェノール)、マンゴスチンエキス、ピーナツ種皮エキス、アカメガシワエキス、ライチエキス、ザクロエキス、月見草エキス、柿エキス、キャッツクローエキス、及び海藻エキスのうち、少なくとも1種が含まれる、項2または3に記載の抗ウイルス剤。
項5. グリセリン脂肪酸エステルをさらに含む、項1~4のいずれか1項に記載の抗ウイルス剤。
項6. 前記ノンエンベロープウイルスが、ヒトノロウイルスまたはネコカリシウイルスである、項1~5のいずれか1項に記載の抗ウイルス剤。
項7. 項1~6のいずれか1項に記載の抗ウイルス剤を含む、消毒剤。
項8. 項1~6のいずれか1項に記載の抗ウイルス剤を含む、洗浄剤。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、上記の構成とすることで、たんぱく汚れ存在下で優れたウイルス不活化効果を示し、かつ、皮膚刺激性、スプレーノズルの詰まりが抑制され、優れた安全性と使用感を示す抗ウイルス剤を提供することができる。さらに、本発明によれば、当該抗ウイルス剤を用いた消毒剤及び洗浄剤を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の抗ウイルス剤、及びこれを用いた消毒剤、洗浄剤について、詳述する。なお、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする。
【0018】
本発明の抗ウイルス剤は、pHが4~5であり、以下の(1)~(3)の組成(抗ウイルス剤の全体量を100質量%とする)を有することで、たんぱく汚れ存在下で優れたウイルス不活化効果を示し、かつ、優れた安全性と使用感を示す。
(1)エタノールが30質量%~80質量%
(2)クエン酸及び/またはリンゴ酸が0.7質量%~2.4質量%、乳酸が0.1質量%~0.7質量%であり、これらの合計濃度が0.8質量%~2.5質量%
(3)乳酸ナトリウム及び/または乳酸カリウムが0.1質量%~1.5質量%
【0019】
本発明の抗ウイルス剤は、エタノールを含むことで、ウイルス不活化効果を高めることができる。
【0020】
本発明の抗ウイルス剤は、エタノール濃度が30質量%以上で、ウイルス不活化効果を高めるが、高濃度になると引火のリスクが高まる。本発明の抗ウイルス剤は、飲食店や食品工場、一般家庭など幅広い使用場面を想定しているため、安全に使用できるよう80質量%以下が良い。このため、ウイルス不活化効果と安全性を考慮し、エタノール濃度は30質量%~80質量%であることが望ましく、40質量%~65質量%であることがさらに望ましく、45質量%~55質量%であることが最も望ましい。
【0021】
本発明の抗ウイルス剤は、酸剤を配合することでウイルス不活化効果をさらに高めることができる。
【0022】
前記酸剤は、クエン酸及び/またはリンゴ酸と、乳酸で構成される。
【0023】
本発明の抗ウイルス剤において、前記酸剤のうち、クエン酸及び/またはリンゴ酸の濃度を0.7質量%以上にすることでウイルス不活化効果を高めることができるが、高濃度になると皮膚刺激が強くなる。安全性の観点から2.4質量%以下が好ましい。このため、ウイルス不活化効果と安全性を考慮し、クエン酸及び/またはリンゴ酸の濃度は、0.7質量%~2.4質量%が望ましく、0.7質量%~2.0質量%がさらに望ましく、0.7質量%~1.8質量%が最も望ましい。
【0024】
本発明の抗ウイルス剤において、前記酸剤のうち、乳酸の濃度を0.1質量%以上にすることでウイルス不活化効果をさらに高めることができ、かつ、乳酸ナトリウム及び/または乳酸カリウムとのバッファー効果を示すことができるが、高濃度になると皮膚刺激が強くなると同時に、液が乾燥した後に乳酸臭が強く残るため、0.7質量%以下が好ましい。乳酸臭とは、乳酸特有の発酵したような酸っぱい臭いを指す。本発明の抗ウイルス剤は、飲食店や食品工場などの食品を扱う場所での使用を想定しており、乳酸臭が強く残ることで、食品や料理の香りに悪影響を及ぼす恐れがある。このため、安全性と使用感の観点から、乳酸の濃度は0.1質量%~0.7質量%が望ましく、0.1質量%~0.6質量%がさらに望ましく、0.1質量%~0.5質量%が最も望ましい。
【0025】
本発明の抗ウイルス剤において、酸剤を構成する酸(すなわち、クエン酸及び/またはリンゴ酸と、乳酸)の合計濃度を0.8質量%以上とすることでウイルス不活化効果を高めることができるが、高濃度になると皮膚への刺激性が強くなる。安全に使用できるよう2.5質量%以下が望ましい。このため、ウイルス不活化効果と安全性を考慮し、抗ウイルス剤に含まれる酸剤の合計濃度は0.8質量%~2.5質量%が望ましく、0.8質量%~2.2質量%がさらに望ましく、0.8質量%~1.8質量%が最も望ましい。
【0026】
本発明の抗ウイルス剤は、25℃におけるpHを5以下にすることで、たんぱく汚れ存在下で優れたウイルス不活化効果を示し、また、pHを4以上にすることで、皮膚への刺激を抑制することができる。このため、たんぱく汚れ存在下での優れたウイルス不活化効果と皮膚への刺激抑制を同時に実現するためには、pHが4.0~5.0であることが望ましく、pHが4.1~4.8であることがさらに望ましく、pHが4.1~4.5であることが最も望ましい。
【0027】
本発明の抗ウイルス剤は、乳酸ナトリウム及び/または乳酸カリウムを配合することで、液をスプレーに入れて使用したときに、スプレーノズルの吐出口の目詰まりを抑制することができる。必要濃度としては0.1質量%~1.5質量%が望ましく、0.1質量%~1.2質量%がさらに望ましく、0.1質量%~1.0質量%が最も望ましい。
【0028】
本発明の抗ウイルス剤は、ウイルスに対する効果をより一層高める観点から、植物由来ポリフェノールをさらに含むことが好ましい。
【0029】
植物由来ポリフェノールの具体例としては、フラバノール類、ガロタンニン類、エラジタンニン類、及びフロロタンニン類のうち少なくとも1種が挙げられる。
【0030】
本発明の抗ウイルス剤において、植物由来のポリフェノールは、抗ウイルス活性を示すものであれば特に制限されず、フラバノール類(例えば、プロアントシアニジン、プロシアニジン、カテキン、エピカテキンなど)、ガロタンニン類(例えば、ペンタガロイルグルコースなど)、及びエラジタンニン類(例えば、ペドゥンクラジン(Pedunculagin)、テリマグランジンI(Tellimagrandin I)、カジュアリニン(Casuarinin)、テリマグランジンII(Tellimagrandin II)、ルゴシンC(Rugosin C)など)、フロロタンニン類(例えば、フロログルシノールなど)などが挙げられる。本発明の抗ウイルス剤に含まれる植物由来のポリフェノールは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0031】
本発明の抗ウイルス剤において、ポリフェノールを含む植物エキスの好ましい具体例としては、ブドウ種子抽出物、リンゴエキス(リンゴポリフェノール)、クルミエキス(クルミポリフェノール)、マンゴスチンエキス、ピーナツ種皮エキス、アカメガシワエキス、ライチエキス、ザクロエキス、月見草エキス、柿エキス、キャッツクローエキス、海藻エキスなどが挙げられる。これらの植物エキスには、ポリフェノールが含有されており、抗ウイルス活性を示す。本発明の抗ウイルス剤は、ブドウ種子抽出物、リンゴエキス(リンゴポリフェノール)、クルミエキス(クルミポリフェノール)、マンゴスチンエキス、ピーナツ種皮エキス、アカメガシワエキス、ライチエキス、ザクロエキス、月見草エキス、柿エキス、キャッツクローエキス、及び海藻エキスのうち、少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0032】
ブドウ種子抽出物は、プロアントシアニジンを含むものであれば、特に制限されない。ブドウ種子抽出物は、ブドウ種子エキスであり、ブドウ種子の抽出物(特にポリフェノール画分を含む)である。本発明の抗ウイルス剤において、プロアントシアニジンは、ブドウ種子エキスとして好適に含有することができる。
【0033】
プロアントシアニジンは、フラバノール(カテキン、エピカテキンなど)の重合体(縮合型タンニン)である。天然に存在するプロアントシアニジンの大部分は、プロシアニジンである。より具体的には、ブドウ種子の抽出物に含まれるプロアントシアニジンは、主として下記式で表されるプロシアニジン少量体及びその没食子酸エステルである。なお、下記式において、nは、1~12程度(すなわち、2量体から13量体程度)であることが好ましい。また、13C-NMR分析により測定される平均重合度は7~9程度が好ましい。また、各重合度のプロアントシアニジンにつき、約1つの割合で没食子酸エステル構造を有していることが好ましい。
【0034】
【化1】
【0035】
ブドウ種子の具体例としては、ヨーロッパブドウ(ヴィニフェラ種 Vitis vinifera)、アメリカブドウ(ラブルスカ種 Vitis labrusca)、アムールブドウ(アムレンシス種 Vitis amurensis)等、ブドウ科(Vitaceae)ブドウ属(Vitis)植物、マスカダイン(ロトゥンディフォリア種 Muscadinia rotundifolia)等のマスカダイン属植物などの種子が挙げられる。また、ブドウ種子抽出物は、ブドウ種子を、水溶性有機溶媒(例えばエタノールなど)または水溶性有機溶媒と水との混合液で、加熱還流させながら抽出するといった、特開平11-80148号公報に記載の方法等により調製することができる。
【0036】
ブドウ種子抽出物は、プロアントシアニジンを含むものであれば、白ブドウ、赤ブドウ、黒ブドウ等のいずれの品種のブドウの種子より抽出されたものを用いてもよく、たとえば、シャルドネ種、リースリング種、甲州種、ナイアガラ種、ネオ・マスカット種、巨峰種、デラウェア種、マスカットベリーA種、白羽種(リカチテリ種)、セレサ種、ミラトルガウ種等、ヴィニフェラ種、ヴィニフェラ系交雑種、非ヴィニフェラ系交雑種など種々の品種のブドウ種子から、有機溶媒抽出等の方法により得られたものが好ましく用いられる。プロアントシアニジンを含むブドウ種子抽出物としては、市販品も容易に入手か可能であり、例えば、キッコーマンバイオケミファ株式会社の商品名「グラヴィノールSE」(プロアントシアニジン含有率83質量%以上)、「グラヴィノールN」(プロアントシアニジン含有率38質量%以上)や、ベーガン通商株式会社の商品名「PPBHQ」(プロアントシアニジン含有率70質量%以上)などが例示される。
【0037】
ブドウ種子抽出物におけるプロアントシアニジンの含有率としては、特に制限されないが、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上が挙げられる。なお、ブドウ種子抽出物におけるプロアントシアニジンの含有率の上限は、例えば、95質量%程度である。
【0038】
リンゴポリフェノールは、リンゴエキスであり、例えばリンゴの果皮、果実、又はこれらの混合物の抽出物(ポリフェノール画分)である。本発明の抗ウイルス剤において、リンゴポリフェノールは、リンゴエキスとして好適に含有することができる。
【0039】
リンゴエキスの抽出溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ピリジン類等の有機溶媒が挙げられる。これらの抽出溶媒は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、リンゴエキスは、リンゴの水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。リンゴエキスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0040】
リンゴポリフェノールは市販品が容易に入手可能である。市販品としては、フロンティアフーズ株式会社の商品名「リンゴポリフェノール粉末」、BGG Japan株式会社の商品名「ApplePhenon(登録商標)アップルフェノン SH」、「ApplePhenon(登録商標)アップルプロシアニジン」(プロシアニジン含有率18.4質量%以上)、「ApplePhenon(登録商標)アップルフェノンC-100」、株式会社アクセスワンの商品名「リンゴポリフェノール」(ポリフェノール含有率98.0質量%)、ヴィディヤジャパン株式会社「アップルエキス末」などが挙げられる。
【0041】
リンゴポリフェノールに含まれる成分としては、プロシアニジン類(縮合型タンニン類)、(+)-カテキンや(-)エピカテキン等の単純カテキン類、フロリジン系(カルコン)のフラボノイド類、クロロゲン酸を主体とするフェノール酸類等が挙げられる。
【0042】
クルミポリフェノールは、クルミ(Juglans regia L.)の種皮(薄皮)に含有されるポリフェノール成分である。本発明の抗ウイルス剤において、クルミポリフェノールは、クルミ種皮エキスとして好適に含有することができる。
【0043】
クルミポリフェノールの抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、クルミポリフェノールは、クルミ種皮の水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。クルミポリフェノールは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0044】
クルミポリフェノールは市販品が容易に入手可能である。クルミポリフェノールの市販品としては、例えば、クルミポリフェノール-P10、クルミポリフェノール-P30(ポリフェノール含有率30.0質量%以上)、クルミポリフェノール-WSP10(ポリフェノール含有率10.0質量%以上)(以上オリザ油化株式会社製)などが挙げられる。
【0045】
なお、クルミポリフェノールに含まれる成分としては、ペドゥンクラジン(Pedunculagin)、テリマグランジンI(Tellimagrandin I)、カジュアリニン(Casuarinin)、テリマグランジンII(Tellimagrandin II)、ルゴシンC(Rugosin C)などが知られている。
【0046】
マンゴスチンエキスはマンゴスチン(Garcinia mangostana)の果皮などの抽出物である。
【0047】
マンゴスチンエキスの抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、マンゴスチンエキスは、マンゴスチンの果皮などの水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。マンゴスチンエキスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0048】
マンゴスチンエキスは市販品が容易に入手可能である。マンゴスチンエキスの市販品としては、例えば、マンゴスチンα20(ポリフェノール含有率20.0質量%以上)、マンゴスチンアクア(以上、日本新薬株式会社製)が挙げられる。
【0049】
なお、マンゴスチンエキスに含まれるポリフェノールとしては、キサントン類、プロシアニジン類、カテキン類などの各種ポリフェノールが知られている。
【0050】
ピーナツ種皮エキスは落花生(Arachis hypogaea)の種皮の抽出物である。
【0051】
ピーナツ種皮エキスの抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、ピーナツ種皮エキスは、ピーナツの種皮の水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。ピーナツ種皮エキスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0052】
ピーナツ種皮エキスは市販品が容易に入手可能である。ピーナツ種皮エキスの市販品としては、例えば、ピーナツ種皮エキス末(プロアントシアニジン含有率38.0質量%以上)(以上、株式会社常磐薬品植物化学研究所製)が挙げられる。
【0053】
なお、ピーナツ種皮エキスに含まれるポリフェノールとしては、プロアントシアニジンなどの各種ポリフェノールが知られている。
【0054】
アカメガシワエキスはアカメガシワ(Mallotus japonicus)の樹皮、葉、根などの抽出物であり、好ましくは樹皮の抽出物である。
【0055】
アカメガシワエキスの抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、アカメガシワエキスは、アカメガシワの樹脂、葉、根などの水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。アカメガシワエキスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0056】
アカメガシワエキスは市販品が容易に入手可能である。アカメガシワエキスの市販品としては、例えば、アカメガシワエキスパウダー(ポリフェノール含有率14.0質量%以上)(以上、日本粉末薬品株式会社製)が挙げられる。
【0057】
なお、アカメガシワエキスに含まれるポリフェノールとしては、ベルゲニン、ゲラニイン、ルチン、コリラジンなどの各種ポリフェノールが知られている。
【0058】
ライチエキスはライチ(Litchi chinensis)の種子または果実の抽出物である。
【0059】
ライチエキスの抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、ライチエキスは、ライチの種子または果実の水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。ライチエキスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0060】
ライチエキスは市販品が容易に入手可能である。ライチエキスの市販品としては、例えば、ライチ種子エキス-WSP(ポリフェノール含有率12.0質量%以上)、ライチ種子エキス-P(以上、オリザ油化株式会社製)が挙げられる。
【0061】
なお、ライチエキスに含まれるポリフェノールとしては、フラボノイド(ロイコシアニジン、サポニン、タンニン、アントシアニン(シアニジン配糖体、マルビジン配糖体など)などの各種ポリフェノールが知られている。
【0062】
ザクロエキスは、ザクロ(Punica granatum)の果皮または花の抽出物である。
【0063】
ザクロエキスの抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、ザクロエキスは、ザクロの果皮または花の水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。ザクロエキスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0064】
ザクロエキスは市販品が容易に入手可能である。ザクロエキスの市販品としては、例えば、ザクロ果皮エキス末、ザクロ花エキス末(ポリフェノール含有率40.0質量%以上)(以上、香栄興業株式会社製)が挙げられる。
【0065】
なお、ザクロエキスに含まれるポリフェノールとしては、タンニン、アントシアニンな
どの各種ポリフェノールが知られている。
【0066】
月見草エキスは、月見草(Oenothera tetraptera)の種子の抽出物である。
【0067】
月見草エキスの抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、月見草エキスは、月見草の種子の水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。月見草エキスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0068】
月見草エキスは市販品が容易に入手可能である。月見草エキスの市販品としては、例えば、月見草エキス-WSPS(ポリフェノール含有率50.0質量%以上)、月見草エキス-P(ポリフェノール含有率60.0質量%以上)(以上、オリザ油化株式会社製)が挙げられる。
【0069】
なお、月見草エキスに含まれるポリフェノールとしては、プロアントシアニジン、ペンタガロイルグルコースなどの各種ポリフェノールが知られている。
【0070】
柿エキスは、渋柿(柿の木の果実)の搾汁の抽出物である。
【0071】
柿エキスの抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、柿エキスは、渋柿の搾汁の水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。柿エキスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0072】
柿エキスは市販品が容易に入手可能である。柿エキスの市販品としては、例えば、柿エキス(タンニン含有率3.0質量%以上)(以上、株式会社トミヤマ製)が挙げられる。
【0073】
なお、渋柿に含まれるポリフェノールとしては、タンニンなどが知られている。
【0074】
キャッツクローエキスは、キャッツクロー(Uncaria tomentosa)の木部・樹皮の抽出物である。
【0075】
キャッツクローエキスの抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、キャッツクローエキスは、キャッツクローの木部・樹皮の水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。キャッツクローエキスは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0076】
キャッツクローエキスは市販品が容易に入手可能である。キャッツクローエキスの市販品としては、例えば、キャッツクローエキスパウダー(日本粉末薬品株式会社)、ビゼンキャッツクローエキス末(備前化成株式会社)などが挙げられる。
【0077】
なお、キャッツクローエキスに含まれるポリフェノールとしては、プロアントシアニジン、カテキンなどの各種ポリフェノールが知られている。
【0078】
海藻ポリフェノールは、ヒバマタ科のアスコフィラム・ノドサム(Ascophyllum nodosum)の抽出物である。
【0079】
アスコフィラム・ノドサムの抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。すなわち、海藻ポリフェノールは、アスコフィラム・ノドサムの水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。海藻ポリフェノールは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0080】
海藻ポリフェノールは市販品が容易に入手可能である。海藻ポリフェノールの市販品としては、例えば、海藻ポリフェノール(ポリフェノール含有率75.0質量%以上)(以上、理研ビタミン株式会社製)が挙げられる。
【0081】
なお、海藻ポリフェノールに含まれるポリフェノールとしては、フロログルシノールなどが知られている。
【0082】
本発明の抗ウイルス剤において、植物由来のポリフェノールの濃度(含有率であって、複数種類の場合であれば、合計含有率を意味する)は、好ましくは0.001質量%以上であり、より好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.008質量%以上が挙げられる。また、植物由来のポリフェノールの濃度の上限について、特に制限されないが、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下、さらに好ましくは0.2質量%以下が挙げられる。植物由来のポリフェノールとして、ブドウ種子抽出物、リンゴポリフェノール、クルミポリフェノール、マンゴスチンエキス、ピーナツ種皮エキス、アカメガシワエキス、ライチエキス、ザクロエキス、月見草エキス、キャッツクローエキスを用いる場合、これらの濃度(含有率であって、複数種類の場合であれば、合計含有率を意味する)としては、好ましくは0.001~0.5質量%程度、より好ましくは0.005~0.3質量%程度、0.008~0.2質量%程度が挙げられる。また、植物由来のポリフェノールとして、柿タンニン、海藻ポリフェノールを用いる場合、これらの濃度(含有率であって、複数種類の場合であれば、合計含有率を意味する)としては、好ましくは0.001~0.5質量%程度、より好ましくは0.005~0.5質量%程度、さらに好ましくは0.01~0.3質量%程度が挙げられる。
【0083】
また、一般細菌に対する除菌力を増強するため、グリセリン脂肪酸エステルを加えることができる。グリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンモノカプリン酸エステル、グリセリンモノラウリン酸エステル、グリセリンモノミリスチン酸エステル、グリセリンモノパルミチン酸エステル、グリセリンモノステアリン酸エステル、グリセリンモノイソステアリン酸エステル、グリセリンモノオレイン酸エステル、グリセリンモノベヘン酸エステル等のグリセリンモノ脂肪酸エステル;グリセリンジステアリン酸エステル、グリセリンジイソステアリン酸エステル、グリセリンジオレイン酸エステル等のグリセリンジ脂肪酸エステル;酢酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド等のモノグリセリド誘導体などが挙げられる。本発明においては、これらより1種または2種以上を選択して用いることができる。一般細菌に対する除菌力増強効果からは、グリセリンモノカプリル酸エステル、グリセリンモノカプリン酸エステル、グリセリンモノラウリン酸エステル等、炭素数8~12の脂肪酸のグリセリンモノ脂肪酸エステルを用いることが好ましい。
【0084】
前記、グリセリン脂肪酸エステルの濃度としては、除菌力と水溶液への溶解性の観点から、0.05質量%~0.30質量%が望ましく、0.10質量%~0.25質量%がさらに望ましく、0.15質量%~0.20質量%が最も望ましい。
【0085】
本発明の抗ウイルス剤が不活性化の対象とするウイルスは、ネコカリシウイルス(FCV)、ヒトノロウイルス(HNV)、及びマウスノロウイルス(MNV)の少なくとも1種であり、ネコカリシウイルスを特に好適な不活性化の対象とすることができる。
【0086】
本発明の抗ウイルス剤は、本発明の特徴を損なわない範囲で、公知のpH調整剤や緩衝液によるpHの調整を行うことができる。pH調整剤としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸;酢酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸、グルコン酸、アスコルビン酸、安息香酸、ソルビン酸、アジピン酸、けい皮酸、イタコン酸、フェルラ酸、フィチン酸等の有機酸およびこれらの塩(前記の有機酸及び有機酸の塩と同一であってもよいし、異なっていてもよい。);水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩などが挙げられる。また、緩衝液としては、リン酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液、乳酸緩衝液などが挙げられる。
【0087】
本発明の抗ウイルス剤には、本発明の特徴を損なわない範囲で、アシクロビル等の一般的な抗ウイルス成分、フェノキシエタノール、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、イソプロピルメチルフェノール等の一般的な抗菌成分を含有させることもできる。
【0088】
さらに本発明の抗ウイルス剤には、組成物の安定性等に影響を与えない範囲において、洗浄性や起泡性の付与を目的として、上記グリセリン脂肪酸エステル以外の界面活性剤を添加することができる。界面活性剤としては、第1級~第3級の脂肪アミン塩、第4級アンモニウム塩、2-アルキル-1-アルキル-1-ヒドロキシエチルイミダゾリニウム塩等の陽イオン性界面活性剤;N,N-ジメチル-N-アルキル-N-カルボキシメチルアンモニウムベタイン等のアルキルベタイン型、N,N-ジアルキルアミノアルキレンカルボン酸等のアミノカルボン酸型、N,N,N-トリアルキル-N-スルホアルキレンアンモニウムベタイン等のアルキルスルホベタイン型、2-アルキル-1-ヒドロキシエチル-1-カルボキシメチルイミダゾリニウムベタイン等のイミダゾリン型両性界面活性剤などを用いることができる。また、増泡、製剤安定性の向上、着香等を目的として、アラビアゴム、カラギーナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム等の水溶性高分子;エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、トリポリリン酸、ヘキサメタリン酸塩等の金属イオン封鎖剤;塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩;香料などを添加してもよい。
【0089】
本発明の抗ウイルス剤は、そのまま、または各種担体、他の界面活性剤、殺菌剤等の添加成分などを加えて、消毒剤または洗浄剤(殺菌洗浄剤)とすることができる。すなわち、本発明の消毒剤及び洗浄剤は、それぞれ、本発明の抗ウイルス剤を含む。
【0090】
本発明の消毒剤または洗浄剤は、液状、ゲル状、粉末状等の種々の形態で提供することができるが、短時間に広範囲の消毒対象物に作用させる上で、液状もしくは液を含浸させたシート状とすることが好ましい。液状の消毒剤または洗浄剤は、ローション剤、スプレー剤等として提供することができ、計量キャップ付きボトル、トリガータイプのスプレー容器、スクイズタイプもしくはディスペンサータイプのポンプスプレー容器等に充填し、散布または噴霧等して用いることができる。液を含浸させたシート状の消毒剤または洗浄剤、消毒剤または洗浄剤の液を紙や布等に含浸させ、ボトルやバケツ等の容器に充填し、ウェットシートとして提供することができる。
【0091】
本発明の消毒剤または洗浄剤は、病室、居室、調理室、浴室、洗面所、トイレ等の施設内の消毒、殺菌洗浄、テーブル、椅子、寝具等の家具類、食器、調理器具、医療用品等の器具または機器、装置などの消毒、殺菌洗浄など、ノロウイルスが存在する可能性のある場所、またはノロウイルスに汚染されている可能性のある物の消毒、殺菌洗浄などに幅広く用いることができる。
【0092】
本発明の消毒剤または洗浄剤は、消毒対象物の表面がまんべんなく濡れる程度の量を用
いればよい。また、消毒対象物に対する本発明の消毒剤または洗浄剤の作用時間は短時間でよく、1分~5分で十分な消毒または殺菌洗浄効果を得ることができる。
【実施例0093】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。なお、表1中の各成分の値は特に記載のない限り、質量%を意味する。また、実施例及び比較例で使用した各成分の詳細は以下の通りである。
【0094】
・乳酸:発酵乳酸(CSMジャパン株式会社)(成分濃度88%)
・無水クエン酸:液体クエン酸(扶桑化学工業株式会社)(成分濃度50%)
・乳酸ナトリウム:発酵乳酸ナトリウム(CSMジャパン株式会社)(成分濃度50%)・クエン酸ナトリウム:クエン酸ナトリウム(扶桑化学工業株式会社)(成分濃度100%)
・ブドウ種子抽出物:グラヴィノールSE(キッコーマンバイオケミファ株式会社)(成分濃度100%)
・リンゴ酸:液体リンゴ酸(扶桑化学工業株式会社)(有効濃度50%)
・リンゴエキス:ApplePhenon(商標登録)アップルフェノンSH(BGG Japan株式会社)(有効濃度100%)
・ライチエキス:ライチ種子エキス-WSP(オリザ油化株式会社)(有効濃度100%)
・月見草エキス:月見草エキス-WSP(オリザ油化株式会社)(有効濃度100%)
・クルミエキス:クルミポリフェノール-P30(オリザ油化株式会社)(有効濃度90%)
・ピーナツ種皮エキス:ピーナツ種皮エキス末(株式会社常磐植物化学研究所)(有効濃度100%)
・柿エキス:柿タンニン(株式会社トミヤマ)(有効濃度100%)
【0095】
<実施例1~11及び比較例1~4>
表1に示す組成となるようにして、各成分を混合し、抗ウイルス剤を調製した。
【0096】
<たんぱく汚れ存在下におけるネコカリシウイルス不活化効果>
実施例1~11及び比較例1~4で得られた各抗ウイルス剤を用いて、それぞれ以下の手順でたんぱく汚れ存在下におけるネコカリシウイルス不活化効果の評価を行った。
(a)、供試ウイルス液としては、FCV-F9株をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)により、logTCID50/mLとして6.0~8.0となるように調製した懸濁液を用いた。
(b)上記懸濁液にたんぱく汚れとして、10%牛肉エキス含有D-MEM溶液を1:1容量比で混合し、5w/vol%肉エキス入りウイルス液として調製した。
(c)上記5w/vol%肉エキス入りウイルス液と実施例1~11及び比較例1~4で得られた各抗ウイルス剤を、1:9容量比で混合し、25℃で60秒懸濁後、この懸濁液をD-MEM(2%ウシ胎児血清溶液=F2)に、1:9容量比になるように加え、懸濁を行った。
(d)上記懸濁液100μLを希釈液D-MEM(F0)に加え10倍希釈し、この操作をさらに繰り返し、10倍段階希釈系列を作製した。
(e)ネコ腎細胞(CRFK細胞)をD-MEM(F0)で2×105cell/mLに調整し、96穴プレートの各ウェルに0.1mL分注し、37℃、5%CO2条件下で3時間以上培養して、プレートに細胞を貼り付かせた。
(f)(d)の希釈液を(e)の各ウェルに100μLずつ分注し、37℃、5%CO2条件下で7日間培養し、CPEの有無を観察してTCID50法にて感染価を算出した。
【0097】
評価基準としては、PBSと各抗ウイルス剤の感染価の差をネコカリシウイルス不活化効果として、〇A:4log10TCID50/ml以上の減少、〇B:2log10TCID50/ml以上4log10TCID50/ml未満の減少、×C:2log10TCID50/ml未満の減少として判断した。
【0098】
<皮膚刺激性>
実施例1~11及び比較例1~4で得られた各抗ウイルス剤0.5mL~1mLを、手の平から内側の二の腕の範囲に液が乾くまで擦り込み、乾燥後30分間の皮膚への刺激性を官能評価した。
【0099】
評価基準としては、前記方法をモニター5人に行い、〇:5人全員が皮膚の刺激感じなかった、×:1人でも刺激を感じた、として判断した。
【0100】
<スプレーノズルの詰まり>
実施例1~11及び比較例1~4で得られた各抗ウイルス剤をそれぞれポンプ式の角ボトルに入れ、1日に2回ポンプから液を吐出させ、合計30日間行った後に、スプレーノズル先端の詰まり有無を評価した。スプレーノズルとしてマルニケミックス社製LP-380S(シャワーポンプ)、角ボトルとしてマルニケミックス社製1L減容ボトルを使用した。
【0101】
評価基準としては、前記方法を行い、〇:30日後時点でノズル先端に詰まりが発生しなかった、×:30日以前の時点でノズル先端に詰まりが発生した、として判断した。
【0102】
<総合評価>
たんぱく汚れ存在下におけるネコカリシウイルス不活化効果、皮膚刺激性、スプレーノズルの詰まりの3項目のすべてが〇の場合、たんぱく汚れ存在下で優れたウイルス不活化効果を示し、かつ、優れた安全性と使用感を示す抗ウイルス剤として「合格」。3項目のうち1つでも×がある場合は「不合格」とした。
【0103】
【表1】
【0104】
表1において、抗ウイルス剤の組成の単位は質量%である。また、各成分の濃度は、いずれも有効成分としての濃度である。配合していないものは「―」で表記した。
【0105】
表1に示される結果から明らかなとおり、本発明の抗ウイルス剤はたんぱく汚れ存在下で優れたウイルス不活化効果を示し、かつ、皮膚刺激性、スプレーノズルの詰まりが抑制され、優れた安全性と使用感を示すことがわかる。