(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047602
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】金属板の打ち抜き装置
(51)【国際特許分類】
B21D 28/34 20060101AFI20220317BHJP
B21D 28/24 20060101ALI20220317BHJP
B24B 5/36 20060101ALI20220317BHJP
B23P 23/04 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
B21D28/34 C
B21D28/24 A
B24B5/36
B23P23/04
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020153475
(22)【出願日】2020-09-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】山口 尚記
【テーマコード(参考)】
3C043
4E048
【Fターム(参考)】
3C043AC00
3C043CC05
3C043CC13
4E048LA17
(57)【要約】
【課題】疲労強度に優れた打ち抜き穴を形成する金属板の打ち抜き装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る金属板の打ち抜き装置11は、金属板1を支持するダイ13と、ダイ13に支持された金属板1に円形の打ち抜き穴3を形成するパンチ15と、を備えたものであって、パンチ15は、本体部17と、円柱状の打ち抜き部19と、打ち抜き部19の中心軸を回転軸として回転可能に配設された回転部21と、回転部21の外周面に設けられた研磨布紙23と、本体部17と打ち抜き部19との間に打ち抜き方向に収縮及び伸長可能に配設され、打ち抜き部19が金属板1に接触して打ち抜くまでの間は収縮して弾性エネルギーとして蓄積し、金属板1を打ち抜いた後は前記弾性エネルギーが解放されて伸長するばね25と、ばね25の伸長による打ち抜き部19の直線運動を回転部21の回転運動に変換する回転運動変換機構27と、を備えてなることを特徴とするものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形の開口部を有して金属板を支持するダイと、該ダイに支持された前記金属板に円形の打ち抜き穴を形成するパンチと、を備えた金属板の打ち抜き装置であって、
前記パンチは、
本体部と、
先端に設けられた円柱状の打ち抜き部と、
前記本体部と前記打ち抜き部との間に前記打ち抜き部の中心軸を回転軸として回転可能に配設された回転部と、
該回転部の外周面に設けられて前記打ち抜き穴のせん断端面を研磨する研磨布紙と、
前記本体部と前記打ち抜き部との間に打ち抜き方向に収縮及び伸長可能に配設され、前記打ち抜き部が前記金属板に接触して打ち抜くまでの間は収縮して打ち抜き荷重の一部を弾性エネルギーとして蓄積し、前記金属板を打ち抜いた後は前記弾性エネルギーが解放されて伸長するばねと、
該ばねの伸長による前記打ち抜き部の打ち抜き方向の直線運動を前記回転部の回転運動に変換する回転運動変換機構と、を備えてなることを特徴とする金属板の打ち抜き装置。
【請求項2】
前記回転運動変換機構は、
前記本体部の先端から打ち抜き方向に延出して設けられた板状ラックと、
前記板状ラックと噛合する第1平歯車部と、該第1平歯車部と同軸上に設けられた第1傘歯車部と、を有し、打ち抜き方向に直交する軸回りに回転可能に配設された第1歯車と、
前記第1傘歯車部と噛合する第2傘歯車部と、該第2傘歯車部と同軸上に設けられた第2平歯車部と、を有し、打ち抜き方向に平行な軸回りに回転可能に配設された第2歯車と、
前記打ち抜き部に設けられて前記第1歯車及び前記第2歯車をそれぞれ回転可能に支持する歯車支持部と、
前記回転部の内周面側に設けられ、前記第2平歯車部と噛合する円筒状ラックと、を備えてなるものであることを特徴とする請求項1記載の金属板の打ち抜き装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板の打ち抜き装置に関し、特に、せん断端面の疲労強度を向上させた打ち抜き穴を形成する金属板の打ち抜き装置に関する。
【背景技術】
【0002】
打ち抜き加工した金属板の打ち抜き穴のせん断端面は、打ち抜き加工により打ち抜き穴円周方向の引張残留応力が発生すること、端面が粗いこと等から、ドリル等で機械加工した穴の端面に比べると疲労強度が低いことが知られており(非特許文献1参照)、自動車部品等における疲労破壊の原因となっている。そのため、打ち抜き加工した金属板の打ち抜き穴のせん断端面の性状を改善して疲労強度を向上することが望まれている。
【0003】
せん断端面の性状を改善した打ち抜き穴を形成するため、例えば、以下の技術が提案されている。
特許文献1及び特許文献2には、予め金属板を塑性変形させて圧痕を形成した後に打ち抜く方法が提案されている。
また、特許文献3には、パンチの先端側の剪断部よりも基端側に剪断部よりも拡径した型大部を設け、剪断部が金属板の打ち抜き穴に貫通した状態からさらに打ち抜き方向に移動させて型大部を通過させることにより、打ち抜き穴のせん断端面を擦る方法が提案されている。
さらに、特許文献4には、ポンチ金型とダイス金型としわ押さえ金型の組み合わせにより、ポンチ金型の移動に連動してしわ押さえ金型で金属板を加圧しながら打ち抜き加工する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-12018号公報
【特許文献2】特開2008-137073号公報
【特許文献3】WO2009-125786号公報
【特許文献4】特開2004-283875号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】吉武他:自動車技術会論文集、Vol.33、No.4、pp.203-208(2002).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示された方法では、金属板に打ち抜き穴を形成する金型の他にも別の金型を要するために、工程数が増えて生産性が低いという問題があった。
また、特許文献3に開示された方法では、型大部が打ち抜き穴を通過する際に打ち抜き穴の周辺の金属板が変形してしまうという問題があった。
【0007】
さらに、特許文献4に開示された方法によれば、せん断端面におけるせん断面の割合を高めることで疲労強度を向上させることができるとされているが、前記方法をとったとしてもせん断端面に破断面が残存するため、破断面におけるき裂の発生を十分に抑制できない。その上、特殊な形状のしわ押さえ金型を要するために適用できる箇所が限られるという問題があった。
【0008】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、打ち抜き穴を形成する金型の他に別の金型を必要とせずに、一工程でせん断端面の性状が改善された打ち抜き穴を形成し、せん断端面からのき裂の発生を抑制して疲労強度を向上できる金属板の打ち抜き装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る金属板の打ち抜き装置は、円形の開口部を有して金属板を支持するダイと、該ダイに支持された前記金属板に円形の打ち抜き穴を形成するパンチと、を備えたものであって、
前記パンチは、
本体部と、
先端に設けられた円柱状の打ち抜き部と、
前記本体部と前記打ち抜き部との間に前記打ち抜き部の中心軸を回転軸として回転可能に配設された回転部と、
該回転部の外周面に設けられて前記打ち抜き穴のせん断端面を研磨する研磨布紙と、
前記本体部と前記打ち抜き部との間に打ち抜き方向に収縮及び伸長可能に配設され、前記打ち抜き部が前記金属板に接触して打ち抜くまでの間は収縮して打ち抜き荷重の一部を弾性エネルギーとして蓄積し、前記金属板を打ち抜いた後は前記弾性エネルギーが解放されて伸長するばねと、
該ばねの伸長による前記打ち抜き部の打ち抜き方向の直線運動を前記回転部の回転運動に変換する回転運動変換機構と、を備えてなることを特徴とするものである。
【0010】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、
前記回転運動変換機構は、
前記本体部の先端から打ち抜き方向に延出して設けられた板状ラックと、
前記板状ラックと噛合する第1平歯車部と、該第1平歯車部と同軸上に設けられた第1傘歯車部と、を有し、打ち抜き方向に直交する軸回りに回転可能に配設された第1歯車と、
前記第1傘歯車部と噛合する第2傘歯車部と、該第2傘歯車部と同軸上に設けられた第2平歯車部と、を有し、打ち抜き方向に平行な軸回りに回転可能に配設された第2歯車と、
前記打ち抜き部に設けられて前記第1歯車及び前記第2歯車をそれぞれ回転可能に支持する歯車支持部と、
前記回転部の内周面側に設けられ、前記第2平歯車部と噛合する円筒状ラックと、を備えてなるものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、打ち抜き穴の形成と該打ち抜き穴のせん断端面の研磨を行うことで該せん断端面の凹凸を小さくするとともに、前記せん断端面における研磨痕の方向と前記打ち抜き穴を形成した前記金属板に繰り返し荷重を負荷させたときに前記せん断端面に発生するき裂の方向とが一致しないようにすることができ、金属板を打ち抜く以外の動力源を必要とせずに、一工程で疲労強度に優れたせん断端面の打ち抜き穴を形成することができる。
また、本発明によれば、打ち抜き後にプレス成形を行う場合のせん断端面の延性破壊を防止することによる成形性の向上や、打ち抜き穴を形成した金属板が静的な荷重を受けた状態で所定時間経過した際に脆性的に破壊が生じる遅れ破壊特性の向上が期待できる。さらに、せん断端面の凹凸を小さくして表面積を小さくすることにより、塗料の塗布性や耐食性の向上も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係る金属板の打ち抜き装置とその動作を説明する断面図である((a)打ち抜き前、(b)ばねの収縮、(c)打ち抜き直後及び研磨)。
【
図2】本発明の実施の形態に係る金属板の打ち抜き装置の回転運動変換機構の具体的な構成の一例を示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る金属板の打ち抜き装置のパンチとその動作を説明する断面図である(その1)((a)打ち抜き前、(b)ばねの収縮)。
【
図4】本発明の実施の形態に係る金属板の打ち抜き装置のパンチとその動作を説明する断面図である(その2)((a)打ち抜き直後及び研磨、(b)パンチの引き抜き)。
【
図5】実施例において、疲労試験に用いた疲労試験片を示す図である。
【
図6】打ち抜き加工により金属板に形成された打ち抜き穴のせん断端面を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明者らは、上記の課題を解決するために、まず、打ち抜き加工した打ち抜き穴のせん断端面の性状と疲労強度について鋭意検討した。
【0014】
金属板1を打ち抜き加工して形成した打ち抜き穴3の断面図(側面)を
図6(a)に示す。打ち抜き穴3のせん断端面5は、せん断面5aと、破断面5bとに分けられる。このような打ち抜き穴3が形成された金属板1に繰り返し荷重を負荷すると、
図6(b)上面図に示すように、せん断端面5における破断面5bにき裂7が発生しやすく、き裂7を起点として疲労破壊に至る。
【0015】
また、破断面5bの凹凸において、パンチによる打ち抜き方向に凹部が連なる部位が起点となって、打ち抜き加工により付加される打ち抜き穴円周方向の引張応力や金属板の曲げ等の応力によってき裂7が進展する。さらに、せん断端面5に残る研磨痕の方向が打ち抜き方向であっても、き裂7の発生を促進してしまうことが明らかになった。
【0016】
そこで発明者らは、円柱状の打ち抜き部と、該打ち抜き部の中心軸を回転軸として回転可能な回転部と、該回転部の外周面に設けられた研磨布紙と、を有するパンチを用い、金属板を打ち抜き加工して打ち抜き穴を形成し、前記回転部を前記打ち抜き穴の内側に位置させた状態で前記回転部を回転させ、前記研磨布紙により打ち抜き穴のせん断端面を研磨することにより、研磨痕の方向とき裂の方向とが一致しないように、一工程で打ち抜き穴の形成と前記せん断端面を研磨することができ、上記問題を解決できるという知見を得た。
【0017】
さらに、パンチの本体部と先端の打ち抜き部との間にばねを設け、打ち抜き荷重の一部を前記ばねの弾性エネルギーとして蓄積し、打ち抜いた後、前記ばねに蓄積された弾性エネルギーを解放して回転部を回転させる機構を設けることにより、打ち抜き加工する動力源の他に前記回転部を回転させる動力源を要せずにせん断端面の研磨ができることを着想した。
【0018】
本発明の実施の形態に係る金属板の打ち抜き装置について、以下に説明する。
なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能や構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
また、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があるが、各構成要素の寸法や比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0019】
本発明の実施の形態に係る金属板の打ち抜き装置11(以下、「打ち抜き装置11」という)は、
図1に一例として示すように、ダイ13と、パンチ15と、を用いて、金属板1に打ち抜き穴3を形成するものである。
【0020】
ダイ13は、円形の開口部13aを有して金属板1を支持するものである。
パンチ15は、本体部17と、打ち抜き方向の先端に設けられた円柱状の打ち抜き部19と、回転部21と、研磨布紙23と、ばね25と、回転運動変換機構27と、を有する。
【0021】
回転部21は、本体部17と打ち抜き部19との間に打ち抜き部19の中心軸を回転軸として回転可能に配設されたものである。
【0022】
研磨布紙23は、回転部21の外周面に設けられて回転部21の回転により打ち抜き穴3のせん断端面5を研磨するものである。
【0023】
ばね25は、本体部17と打ち抜き部19との間に打ち抜き方向に収縮及び伸長可能に配設されたものである。そして、パンチ15を打ち抜き方向に移動させて金属板1を打ち抜く過程において、ばね25は、打ち抜き部19が金属板に接触して打ち抜くまでの間は収縮して打ち抜き荷重の一部を弾性エネルギーとして蓄積し、金属板1を打ち抜いた後は蓄積された弾性エネルギーが解放されて伸長する。
なお、打ち抜き方向とは、金属板1に打ち抜き穴3を形成するためにパンチ15をダイ13側に相対移動させる方向である。
【0024】
回転運動変換機構27は、ばね25の伸長による打ち抜き部19の打ち抜き方向の直線運動を回転部21の回転運動に変換するものである。
【0025】
回転運動変換機構27の具体的な構成の一例を
図2~
図4に示す。
【0026】
回転運動変換機構27は、
図2~
図4に示すように、板状ラック29と、第1歯車31と、第2歯車33と、歯車支持部35と、を備えてなるものである。
【0027】
板状ラック29は、本体部17の先端から打ち抜き方向に延出して設けられたものであり、パンチ15を打ち抜き方向に移動させた際に本体部17とともに移動する。
【0028】
第1歯車31は、
図2に示すように、板状ラック29と噛合する第1平歯車部31aと、第1平歯車部31aの回転軸と同軸上に設けられた第1傘歯車部31bと、を有し、打ち抜き方向に直交する軸回り(
図2においては軸C
1回り)に回転可能に配設されたものである。ここで、第1平歯車部31aと第1傘歯車部31bは、それらが同軸で回転可能となるように第1歯車軸部31cで連結されている。
【0029】
第2歯車33は、
図2に示すように、第1傘歯車部31bと噛合する第2傘歯車部33aと、第2傘歯車部33aの回転軸と同軸上に設けられた第2平歯車部33bと、を有し、打ち抜き方向に平行な軸回り(
図2においては軸C
2回り)に回転可能に配設されたものである。ここで、第2傘歯車部33aと第2平歯車部33bは、それらが同軸で回転可能となるように第2歯車軸部33cで連結されている。
【0030】
歯車支持部35は、
図3及び
図4に示すように、打ち抜き部19に設けられて第1歯車31及び第2歯車33をそれぞれ回転可能に支持するものである。
【0031】
円筒状ラック37は、回転部21の内周面側に設けられ、第2平歯車部33bと噛合するものである。なお、円筒状ラック37は、
図2に示すように、回転部21と同一のものであり、円筒状ラック37の外周面に研磨布紙23が直接貼付されたものである。もっとも、円筒状ラック37は、回転部21と同一のものに限られず、例えば、回転部21の内周面側に別途設けられたものであってもよい。
【0032】
次に、打ち抜き装置11を用いて金属板1に打ち抜き穴3を形成する過程における打ち抜き装置11の動作を
図1~
図4を参照して説明する。
【0033】
まず、ダイ13の開口部13aを跨ぐように金属板1を載置し、金属板1の両端側を支持し、パンチ15を金属板1の上方に設置する(
図1(a)、
図3(a))。
【0034】
次に、パンチ15を打ち抜き方向に移動し、金属板1に接触してから金属板1を打ち抜くまではばね25を収縮させる。これにより、打ち抜き荷重の一部が弾性エネルギーとしてばね25に蓄積される(
図1(b)、
図3(b))。
【0035】
続いて、パンチ15に打ち抜き荷重をさらに与え、打ち抜き部19により金属板1を打ち抜くことで、ばね25に蓄積された弾性エネルギーが解放されてばね25が伸長する。これにより、打ち抜き部19がダイ13の開口部13aに向かって打ち抜き方向に直線運動し、回転部21が打ち抜き穴3の内側に位置する(
図1(c)、
図4(a))。
【0036】
この打ち抜き部19の直線運動に伴い、
図2に示すように、板状ラック29が相対的に打ち抜き方向と反対方向へと移動し、板状ラック29と噛合している第1平歯車部31aを介して第1歯車31が回転する。そして、第1歯車31の回転が第1傘歯車部31bと噛合している第2傘歯車部33aに伝達して第2歯車33が回転する。
【0037】
これにより、第2歯車33の回転が第2平歯車部33bと噛合している回転部21(
図2においては円筒状ラック37)に伝達し、回転部21が回転する。その結果、回転部21の外周面に設けられた研磨布紙23により打ち抜き穴3のせん断端面5が研磨される(
図1(c)、
図4(a))。
【0038】
ばね25が伸長しきって回転部21の回転が止まった後は、パンチ15を打ち抜き方向と反対方向に移動させて打ち抜き穴3からパンチ15を引き抜く(
図4(b))。
【0039】
以上、本発明の実施の形態に係る金属板の打ち抜き装置11によれば、パンチ15による金属板1の打ち抜き荷重の一部をばね25に弾性エネルギーとして蓄積し、金属板1を打ち抜いて打ち抜き穴3を形成した後、ばね25に蓄積された弾性エネルギーが解放されることにより回転部21が回転し、回転部21の外周面に設けられた研磨布紙23が打ち抜き穴3のせん断端面5を研磨することで、金属板1を打ち抜く動力源以外の動力源を要せずに回転部21を回転させ、一工程でせん断端面5を研磨して、凹凸を小さくした打ち抜き穴3を形成することができる。
【0040】
さらに、研磨布紙23により研磨したせん断端面5における研磨痕の方向と、打ち抜き穴3を形成した金属板1に繰り返し荷重を負荷させたときにせん断端面5に発生するき裂の方向とが一致しないようにすることができる。これにより、繰り返し荷重が負荷した際にせん断端面5にき裂が発生するのを抑制し、疲労強度を向上させた打ち抜き穴3を形成することができる。
【0041】
さらに、本実施の形態に係る金属板の打ち抜き装置11によれば、打ち抜き後にプレス成形を行う場合のせん断端面5の延性破壊を防止することによる成形性の向上や、打ち抜き穴3の遅れ破壊特性を向上し、せん断端面5の凹凸を小さくして表面積を小さくすることで塗料の塗布性や耐食性の向上も期待できる。
【0042】
なお、ばね25の強度に関しては、打ち抜き部19が金属板1に接触して収縮した状態で金属板1を打ち抜くことができるものであればよい。
【0043】
また、回転部21は、円筒形状のものを用いるとよい。
そして、研磨布紙23は、回転部21の外周面の全てを覆うように設けられたものに限らず、回転部21の外周面の一部に設けられたものであってもよい。
【0044】
また、研磨布紙23は、打ち抜き穴3のせん断端面5を十分に研磨するために、研磨布紙23が打ち抜き部19の外周面よりも外側となるように、すなわち、研磨布紙23の外径を打ち抜き部19の外径以上にするとよい。
【0045】
もっとも、研磨布紙23の外径が打ち抜き部19の外径よりも大きすぎると回転部21を打ち抜き穴3に挿通させて打ち抜き穴3の内側に位置させることができなくなったり、たとえ回転部21を打ち抜き穴3に挿通させることができたとしても、回転部21を回転させるとせん断端面5だけでなくダイ13の開口部13aを研磨してしまうことで研磨布紙23の寿命が低下してしまうおそれがある。そのため、研磨布紙23の外径は、ダイ13の開口部13aの内径と同程度であることが望ましい。
【0046】
また、上記の説明は、研磨布紙23の表面が打ち抜き方向と平行、すなわち、研磨布紙23の表面と打ち抜き部19の中心軸直交断面19aとのなす角度θ(
図3(a)参照)が90°であるパンチ15を用いたものであった。
【0047】
もっとも、研磨布紙23の表面と打ち抜き部19の中心軸直交断面19aとのなす角度θは90°に限定されるものではない。例えば、予備試験として、パンチ15に研磨布紙23を設けずに金属板1に打ち抜き穴3を形成し、せん断端面5における破断面5bと金属板1の表面1aとのなす角度θ’(
図6参照)を測定し、角度θを当該予備試験により測定した角度θ’と所定誤差範囲となるようにするとよい。所定誤差範囲としては±3°以下が例示される。
【0048】
これにより、繰り返し荷重を負荷した際にき裂7が発生しやすい破断面5bを重点的に研磨することができる。
なお、研磨布紙23の表面と打ち抜き部19の中心軸直交断面19aとのなす角度θが所定の角度となるように研磨布紙23を設置する際には、例えば、回転部21の外周面の形状を適宜設定するとよい。
【0049】
また、研磨布紙23には一般的なバフを用いるとよいが、研磨布紙23が厚み方向に伸縮性を有するものでないと打ち抜き穴3から抜けなくなるおそれがあるので、研磨布紙23の種類や材質については適宜選択することが望ましい。
【0050】
さらに、研磨布紙23の番手に関しても、特に限定されるものではないが、金属板1の硬さ等に応じて決定することが望ましく、金属板1として一般的な鋼板に対してであれば#80~#240程度が望ましい。
【0051】
なお、上記の回転運動変換機構27を有する打ち抜き装置11は、ばね25が収縮する際にも板状ラック29に噛合している第1平歯車部31aが回転することで回転部21が回転してしまう。このときの回転部21の回転は、金属板1を打ち抜いた後の回転部21の回転とは逆方向である。しかしながら、金属板1を打ち抜くまでの間における回転部21の回転は、打ち抜き穴3のせん断端面5の研磨に寄与せず、逆に、打ち抜き装置11の歯車等の寿命を縮める可能性がある。
【0052】
そのため、例えば、回転運動変換機構27における第1歯車31の第1平歯車部31aに、回転部21の逆回転を防止するラチェット機構(図示なし)を設け、金属板1を打ち抜きまでの回転部21の逆回転を抑えるとよい。
【0053】
さらに、本実施の形態に係る打ち抜き装置11は、例えば
図3及び
図4に示すような落下防止機構39を有することが好ましい。
落下防止機構39は、本体部17の先端から打ち抜き方向と反対方向に形成された孔部41と、打ち抜き部19の後端から本体部17側に延出して設けられて孔部41に挿入した落下防止棒43と、を有してなるものである。そして、落下防止棒43の後端には、孔部41から落下防止棒43が抜けないようにするためのストッパー43aが設けられている。
【0054】
このように、落下防止機構39を有する打ち抜き装置11によれば、金属板1を打ち抜いてせん断端面5を研磨した後にパンチ15を打ち抜き穴3から引き抜く過程において、ストッパー43aが孔部41の入口に引っかかるために、打ち抜き部19がパンチ15から落下してしまうの防ぐことができる。
【実施例0055】
本発明に係る金属板の打ち抜き装置の作用効果について確認するための実験を行ったので、これについて以下に説明する。
【0056】
実験では、まず、金属板1として780MPa級の熱延鋼板(板厚2.9mm)を用い、
図1に示す打ち抜き装置11により金属板1に打ち抜き穴3を形成した。
【0057】
打ち抜き装置11の打ち抜き部19の外径は10mm、打ち抜き部19の外径とダイ13の開口部13aの内径とのクリアランスは10%とした。
【0058】
そして、回転部21の外周面に設ける研磨布紙23には、番手が#120のラジアルサンダーを用い、回転部21に設けた研磨布紙23の外径は10mm、研磨布紙23と打ち抜き部19の中心軸直交断面19aとのなす角度θ(
図3(a)参照)は90°とした。
【0059】
続いて、打ち抜き装置11を用いて打ち抜き穴3を形成した金属板1から、
図5に示すように打ち抜き穴3を有する疲労試験片51を作製した。そして、シェンク型平面曲げ試験機を用いて疲労試験片51に両振りで繰り返し荷重を負荷する疲労試験を行った。
【0060】
疲労試験においては、公称応力300MPaでトルクが30%低下した時点を破壊と判定し、破壊に至るまでの荷重負荷の繰り返し回数を測定した。また、荷重負荷の繰り返し回数200万回を打ち切り回数とし、疲労試験を終了した。
【0061】
実験では、打ち抜き装置11を用いて形成された打ち抜き穴3を有する疲労試験片51を用いたものを発明例とした。
さらに、比較対象として、打ち抜き装置11の打ち抜き部19と同じ径の一体型パンチを用いて形成された打ち抜き穴3を有する疲労試験片51を作製し、上記と同様の疲労試験を行ったものを従来例とした。
表1に、疲労試験の結果を示す。
【0062】
【0063】
表1より、従来例においては、繰り返し回数48万回で疲労試験片51が破壊した。これに対して、発明例においては、繰り返し回数200万回でも破壊されず、従来例と比べて疲労寿命が4倍以上向上する結果が得られた。