(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047604
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20220317BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H05K7/20 F
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020153479
(22)【出願日】2020-09-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 信博
(74)【代理人】
【識別番号】100185845
【弁理士】
【氏名又は名称】穂谷野 聡
(72)【発明者】
【氏名】荒巻 慶輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勇磨
(72)【発明者】
【氏名】久保 佑介
【テーマコード(参考)】
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
5E322AA01
5E322AA02
5E322FA04
5F136BC07
5F136FA02
5F136FA13
5F136FA14
5F136FA15
5F136FA16
5F136FA25
5F136FA55
5F136FA66
5F136FA68
5F136FA82
(57)【要約】
【課題】被着体に対する接触熱抵抗が小さい熱伝導性シートの提供。
【解決手段】熱伝導性シート1は、バインダ樹脂2と、熱伝導性シート1の厚み方向Bに配向した第1の熱伝導性フィラー3とを含み、被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm
2/W以下である。熱伝導性シート1は、第1の熱伝導性フィラー3が、繊維状の熱伝導性フィラー及び/又は鱗片状の熱伝導性フィラーであってもよい。熱伝導性シート1は、アルミナ、アルミニウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、黒鉛、磁性粉からなる群から選択される少なくとも1種の第2の熱伝導性フィラーをさらに含んでいてもよい。熱伝導性シート1は、第1の熱伝導性フィラー3の表面が絶縁被覆されていてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダ樹脂と、当該熱伝導性シートの厚み方向に配向した第1の熱伝導性フィラーとを含み、
被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下である、熱伝導性シート。
【請求項2】
上記第1の熱伝導性フィラーが、繊維状の熱伝導性フィラー及び/又は鱗片状の熱伝導性フィラーである、請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
アルミナ、アルミニウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、黒鉛、磁性粉からなる群から選択される少なくとも1種の第2の熱伝導性フィラーをさらに含む、請求項1又は2に記載の熱伝導性シート。
【請求項4】
上記第1の熱伝導性フィラーの表面が絶縁被覆されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項5】
上記第1の熱伝導性フィラーが、炭素繊維の表面が絶縁被覆された絶縁被覆炭素繊維、又は、鱗片状の窒化ホウ素である、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項6】
当該熱伝導性シートの厚みが1mmのときの絶縁破壊電圧が0.50kV以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項7】
熱抵抗が2.71℃・cm2/W以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項8】
上記バインダ樹脂がシリコーン樹脂である、請求項1~7のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項9】
上記第2の熱伝導性フィラーが、アルミナと窒化アルミニウムと酸化亜鉛との組み合わせ、アルミナと窒化アルミニウムと水酸化アルミニウムとの組み合わせ、アルミナと窒化アルミニウムと窒化ホウ素との組み合わせ、又は、アルミナとアルミニウムと黒鉛との組み合わせである、請求項3に記載の熱伝導性シート。
【請求項10】
発熱体と、
放熱体と、
発熱体と放熱体との間に配置された請求項1~9のいずれか1項に記載の熱伝導性シートとを備える、電子機器。
【請求項11】
第1の熱伝導性フィラーをバインダ樹脂に分散させることにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製する工程Aと、
上記熱伝導性シート形成用の樹脂組成物から成形体ブロックを形成する工程Bと、
上記成形体ブロックをシート状にスライスして熱伝導性シートを得る工程Cとを有し、
上記熱伝導性シートは、厚み方向に上記第1の熱伝導性フィラーが配向しており、被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下である、熱伝導性シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パーソナルコンピュータ等の各種電気機器やその他の機器に搭載されている半導体素子においては、駆動により熱が発生し、発生した熱が蓄積されると半導体素子の駆動や周辺機器へ悪影響が生じることから、通常、各種冷却手段が用いられている。半導体素子等の電子部品の冷却方法としては、電気機器にファンを取り付け、電気機器の筐体内の空気を冷却する方式や、冷却すべき半導体素子に放熱フィンや放熱板等のヒートシンクを取り付ける方法等が知られている。
【0003】
半導体素子にヒートシンクを取り付けて冷却する場合、半導体素子の熱を効率よく放出させるために、半導体素子とヒートシンクとの間に熱伝導性シートが設けられる。熱伝導性シートとしては、シリコーン樹脂に、充填剤(例えば、炭素繊維等の熱伝導性フィラー等)を分散・含有させたものが広く用いられている(特許文献1参照)。例えば、熱伝導性フィラーとしての炭素繊維は、繊維方向に約600~1200W/m・Kの熱伝導率を有することが知られている。また、熱伝導性フィラーとしての窒化ホウ素は、面方向に約110W/m・K程度の熱伝導率を有し、面方向に対して垂直な方向に約2W/m・K程度の熱伝導率を有することが知られている。
【0004】
ところで、熱伝導性シートは、高い熱伝導性だけでは、接触熱抵抗を小さくすることが困難であり、見かけの熱抵抗がはるかに大きいことが知られている。これは、被着体となる発熱体と熱伝導性シートとの間の接触部の熱抵抗や、放熱体と熱伝導性シートとの間の接触部の熱抵抗が大きく関与するためである。接触熱抵抗は、熱伝導性シートの熱伝導性だけでなく、被着体と熱伝導性シートとの接触部の密着性も影響する。一般的に、熱伝導性フィラーを高充填して作製した熱伝導性シートは、柔軟性が損なわれやすい傾向にある。したがって、熱伝導性シートの被着体に対する接触熱抵抗を抑えるためには、被着体に対する十分な密着性や形状追従性が必要となる。そのため、被着体の表面形状に応じて、熱伝導性シート中の熱伝導性フィラーの量を最適化することが望ましい。しかし、熱伝導性シートの使用する部位は、実際には、傾いていたり、平滑な面ではないことがある。
【0005】
特許文献1、2には、炭素繊維や窒化ホウ素といった異方性材料をシートの厚み方向に配向させた熱伝導性シートが記載されている。このような熱伝導性シートでは、例えば、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物から成形体ブロックを作製し、スライスすることで、熱伝導性シートの厚み方向に異方性材料を配向させることができる。しかし、このように成形体ブロックをスライスして熱伝導性シートを作製すると、熱伝導性シートの接触熱抵抗が大きくなりやすい傾向にある。熱伝導性シートの被着体(例えば基板)への負荷を軽減するために、できるだけ低い荷重で熱伝導性シートを使用できるようにすることが要望されている。また、近年の半導体素子のさらなる薄型化の要求の高まりに伴い、より薄い熱伝導性シートが要望されている。このように、被着体に対する熱伝導性シートの接触熱抵抗を小さくすることが重要となる。熱伝導性シートのトータルの熱抵抗を小さくするためには、例えば、熱伝導性シートの表面をより平滑にすることや、シートをより柔らかく設計して接触熱抵抗を小さくすることが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-23335号公報
【特許文献2】特許6200119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本技術は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、被着体に対する接触熱抵抗が小さい熱伝導性シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本技術に係る熱伝導性シートは、バインダ樹脂と、熱伝導性シートの厚み方向に配向した第1の熱伝導性フィラーとを含み、被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下である。
【0009】
本技術に係る熱伝導性シートの製造方法は、第1の熱伝導性フィラーをバインダ樹脂に分散させることにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製する工程Aと、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物から成形体ブロックを形成する工程Bと、成形体ブロックをシート状にスライスして熱伝導性シートを得る工程Cとを有し、熱伝導性シートは、厚み方向に第1の熱伝導性フィラーが配向しており、被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下である。
【発明の効果】
【0010】
本技術によれば、被着体に対する接触熱抵抗が小さい熱伝導性シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本技術に係る熱伝導性シートの一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、結晶形状が六方晶型である鱗片状の窒化ホウ素を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、絶縁被膜によって被覆された炭素繊維の一例を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、本技術に係る熱伝導性シートを適用した半導体装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、熱伝導性フィラーの平均粒径(D50)とは、熱伝導性フィラーの粒子径分布全体を100%とした場合に、粒径分布の小粒子径側から粒子径の値の累積カーブを求めたとき、その累積値が50%となるときの粒子径をいう。本明細書における粒度分布(粒子径分布)は、体積基準によって求められたものである。粒度分布の測定方法としては、例えば、レーザー回折型粒度分布測定機を用いる方法が挙げられる。
【0013】
<熱伝導性シート>
図1は、本技術に係る熱伝導性シート1の一例を示す断面図である。熱伝導性シート1は、バインダ樹脂2と、熱伝導性シート1の厚み方向Bに配向した第1の熱伝導性フィラー3とを含み、必要に応じて、第1の熱伝導性フィラー3以外の第2の熱伝導性フィラー4をさらに含んでもよい。このような熱伝導性シート1は、被着体(例えば、被着体の平滑面や凹凸面)に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm
2/W以下と小さいため、良好な熱伝導性が得られる。このような熱伝導性シート1を被着体間(例えば、発熱体と放熱体との間)に挟むと、熱伝導性シート1の熱抵抗をより効果的に低減することができる。
【0014】
熱伝導性シート1は、被着体に対する接触熱抵抗が小さいほど好ましく、0.40℃・cm2/W以下とすることもでき、0.35℃・cm2/W以下とすることもでき、0.30℃・cm2/W以下とすることもでき、0.27℃・cm2/W以下とすることもでき、0.25℃・cm2/W以下とすることもでき、0.20℃・cm2/W以下とすることもできる。熱伝導性シート1の被着体に対する接触熱抵抗の下限値は、特に限定されず、例えば、0.10℃・cm2/W以上とすることができる。熱伝導性シート1の接触熱抵抗は、後述の実施例の方法で測定することができる。
【0015】
熱伝導性シート1は、荷重1kgf/cm2での熱抵抗を3.00℃・cm2/W以下とすることができ、2.71℃・cm2/W以下とすることもでき、2.50℃・cm2/W以下とすることもでき、2.00℃・cm2/W以下とすることもでき、1.60℃・cm2/W以下とすることもでき、1.20℃・cm2/W以下とすることもでき、1.00℃・cm2/W以下とすることもでき、0.50℃・cm2/W以下とすることもできる。このように、熱伝導性シート1は、低荷重での熱抵抗が小さいため、高い荷重をかけない状態でも使用することができる。熱伝導性シート1の荷重1kgf/cm2での熱抵抗の下限値は、特に限定されず、例えば0.250℃・cm2/W以上とすることができる。熱伝導性シート1の熱抵抗は、後述の実施例の方法で測定することができる。
【0016】
熱伝導性シート1は、熱伝導率を10.0W/m・K以上とすることができ、11.0W/m・K以上とすることもでき、11.5W/m・K以上とすることもでき、20.0W/m・K以上とすることもでき、30.0W/m・K以上とすることもできる。熱伝導性シート1の熱伝導率は、後述の実施例の方法で測定することができる。
【0017】
熱伝導性シート1は、絶縁破壊電圧が高いことが好ましく、厚み1mmのときの絶縁破壊電圧を0.50kV以上とすることができ、0.90kV以上とすることもでき、1.10kV以上とすることもでき、6.0kV以上とすることもできる。熱伝導性シート1の絶縁破壊電圧の上限値は、特に限定されず、例えば、10.0kV以下とすることができる。熱伝導性シート1の絶縁破壊電圧は、後述の実施例の方法で測定することができる。
【0018】
熱伝導性シート1の平均厚みは、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.05mm以上とすることができ、0.1mm以上とすることもできる。また、熱伝導性シート1の平均厚みの上限値は、例えば、5mm以下とすることができ、4mm以下とすることもでき、3mm以下とすることもでき、1mm以下とすることもでき、0.5mm以下とすることもでき、0.3mm以下とすることもできる。熱伝導性シート1の取り扱い性の観点から、熱伝導性シート1の平均厚みは、0.1~4mmとすることが好ましい。熱伝導性シート1の平均厚みは、例えば、熱伝導性シート1の厚みを任意の5箇所で測定し、その算術平均値から求めることができる。
【0019】
以下、熱伝導性シート1の構成要素について説明する。
【0020】
<バインダ樹脂>
バインダ樹脂2は、第1の熱伝導性フィラー3を熱伝導性シート1内に保持し、また、必要に応じて第2の熱伝導性フィラー4も熱伝導性シート1内に保持する。バインダ樹脂2は、熱伝導性シート1に要求される機械的強度、耐熱性、電気的性質等の特性に応じて選択される。バインダ樹脂2としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱硬化性樹脂の中から選択することができる。
【0021】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体等のエチレン-αオレフィン共重合体、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリフッ化ビニリデン及びポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)樹脂、ポリフェニレン-エーテル共重合体(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、脂肪族ポリアミド類、芳香族ポリアミド類、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル等のポリメタクリル酸エステル類、ポリアクリル酸類、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルケトン、ポリケトン、液晶ポリマー、シリコーン樹脂、アイオノマー等が挙げられる。
【0022】
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン- ブタジエンブロック共重合体又はその水添化物、スチレン-イソプレンブロック共重合体又はその水添化物、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0023】
熱硬化性樹脂としては、架橋ゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂等が挙げられる。架橋ゴムの具体例としては、天然ゴム、アクリルゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン-ブタジエン共重合ゴム、ニトリルゴム、水添ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレン-プロピレン共重合ゴム、塩素化ポリエチレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、及びシリコーンゴムが挙げられる。
【0024】
バインダ樹脂2としては、例えば、電子部品の発熱面とヒートシンク面との密着性を考慮するとシリコーン樹脂が好ましい。シリコーン樹脂としては、例えば、アルケニル基を有するシリコーンを主成分とし、硬化触媒を含有する主剤と、ヒドロシリル基(Si-H基)を有する硬化剤とからなる、2液型の付加反応型シリコーン樹脂を用いることができる。アルケニル基を有するシリコーンとしては、例えば、ビニル基を有するポリオルガノシロキサンを用いることができる。硬化触媒は、アルケニル基を有するシリコーン中のアルケニル基と、ヒドロシリル基を有する硬化剤中のヒドロシリル基との付加反応を促進するための触媒である。硬化触媒としては、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として周知の触媒が挙げられ、例えば、白金族系硬化触媒、例えば白金、ロジウム、パラジウムなどの白金族金属単体や塩化白金などを用いることができる。ヒドロシリル基を有する硬化剤としては、例えば、ヒドロシリル基を有するポリオルガノシロキサンを用いることができる。バインダ樹脂2は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
熱伝導性シート1中のバインダ樹脂2の含有量は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、熱伝導性シート1中のバインダ樹脂2の含有量は、20体積%以上とすることができ、25体積%以上であってもよく、28体積%以上であってもよく、30体積%以上であってもよい。また、熱伝導性シート1中のバインダ樹脂2の含有量の上限値は、50体積%以下とすることができ、40体積%以下とすることもでき、35体積%以下とすることもできる。熱伝導性シート1の柔軟性の観点では、熱伝導性シート1中のバインダ樹脂2の含有量は、25~50体積%とすることが好ましく、25~35体積%とすることも好ましい。
【0026】
<第1の熱伝導性フィラー>
第1の熱伝導性フィラー3は、熱伝導性シート1の厚み方向Bに配向させることができる熱伝導性フィラーである。第1の熱伝導性フィラー3は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。第1の熱伝導性フィラー3は、例えば、鱗片状の熱伝導性フィラーであってもよく、繊維状の熱伝導性フィラーであってもよく、鱗片状の熱伝導性フィラーと繊維状の熱伝導性フィラーとを併用してもよい。
【0027】
[鱗片状の熱伝導性フィラー]
鱗片状の熱伝導性フィラーは、長軸と短軸と厚みとを有する熱伝導性フィラーであって、高アスペクト比(長軸/厚み)であり、長軸を含む面方向に等方的な熱伝導率を有する。短軸とは、鱗片状の熱伝導性フィラーの長軸を含む面において、鱗片状の熱伝導性フィラーの長軸に交差する方向であって、鱗片状の熱伝導性フィラーの最も短い部分の長さをいう。厚みとは、鱗片状の熱伝導性フィラーの長軸を含む面の厚みを10点測定して平均した値をいう。
【0028】
図2は、第1の熱伝導性フィラー3の一例である、結晶形状が六方晶型である鱗片状の窒化ホウ素3Aを模式的に示す斜視図である。
図2中、aは鱗片状の窒化ホウ素3Aの長軸を表し、bは鱗片状の窒化ホウ素3Aの厚みを表し、cは鱗片状の窒化ホウ素3Aの短軸を表す。第1の熱伝導性フィラー3としては、熱伝導性シート1の熱伝導率の観点から、
図2に示すように結晶形状が六方晶型である鱗片状の窒化ホウ素3Aを用いることが好ましい。熱伝導性シート1では、第1の熱伝導性フィラー3として、球状の熱伝導性フィラー(例えば球状の窒化ホウ素)よりも安価な鱗片状の熱伝導性フィラー(例えば、鱗片状の窒化ホウ素3A)を用いることで、優れた熱特性を発揮させることができる。また、第1の熱伝導性フィラー3として、鱗片状の熱伝導性フィラーを用いた場合、熱伝導性シート1の厚み方向Bに、鱗片状の熱伝導性フィラーの長軸が選択的に配向されることで、鱗片状の熱伝導性フィラーを高充填せずに熱伝導性シート1を高熱伝導化することができる。
【0029】
鱗片状の熱伝導性フィラーの平均粒径(D50)は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、鱗片状の熱伝導性フィラーの平均粒径は、10μm以上とすることができ、20μm以上であってもよく、30μm以上であってもよく、35μm以上であってもよい。また、鱗片状の熱伝導性フィラーの平均粒径の上限値は、150μm以下とすることができ、100μm以下であってもよく、90μm以下であってもよく、80μm以下であってもよく、70μm以下であってもよく、50μm以下であってもよく、45μm以下であってもよい。熱伝導性シート1の熱伝導率の観点から、鱗片状の熱伝導性フィラーの平均粒径は、20~100μmとすることが好ましい。
【0030】
鱗片状の熱伝導性フィラーのアスペクト比(長軸/厚み)は、例えば、10~100の範囲とすることができる。鱗片状の熱伝導性フィラーとして、
図2に示すような結晶形状が六方晶型である鱗片状の窒化ホウ素3Aを用いた場合、鱗片状の熱伝導性フィラーのアスペクト比は、SEMで撮影された画像から200個以上の窒化ホウ素3Aを任意に選択し、それぞれの長軸aと厚みbの比(a/b)を求めて平均値を算出すればよい。
【0031】
[繊維状の熱伝導性フィラー]
繊維状の熱伝導性フィラーは、繊維状であって必要な熱伝導性を有するものであれば特に限定されず、例えば、炭素繊維、金属(例えば、銅、ステンレス、ニッケルなど)からなる繊維などが挙げられる。また、高い熱伝導性と絶縁性の観点では、窒化アルミニウム繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンビスオキサゾール繊維などを用いることもできる。以下では、繊維状の熱伝導性フィラーとして、炭素繊維を用いた場合を例に挙げて詳述する。
【0032】
炭素繊維は、例えば、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、PBO繊維を黒鉛化した炭素繊維、アーク放電法、レーザー蒸発法、CVD法(化学気相成長法)、CCVD法(触媒化学気相成長法)等で合成された炭素繊維を用いることができる。これらの中でも、熱伝導性の観点では、ピッチ系炭素繊維が好ましい。
【0033】
炭素繊維の平均繊維長(平均長軸長さ)は、例えば、50~250μmとすることができ、75~200μmであってもよく、90~170μmであってもよい。また、炭素繊維の平均繊維径(平均短軸長さ)も、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、4~20μmとすることができ、5~14μmであってもよい。炭素繊維のアスペクト比(平均長軸長さ/平均短軸長さ)は、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、8以上であってもよく、9~30であってもよい。炭素繊維の平均長軸長さ及び平均短軸長さは、例えば、マイクロスコープ、走査型電子顕微鏡(SEM)で測定することができる。
【0034】
図3は、絶縁被膜5によって被覆された炭素繊維3Bの一例を示す斜視図である。熱伝導性シート1の絶縁性を高める観点では、
図3に示すように、炭素繊維3Bは、表面が絶縁被膜5によって被覆されていることが好ましい。このように、第1の熱伝導性フィラー3として、絶縁被覆炭素繊維6を用いることができる。絶縁被覆炭素繊維6は、炭素繊維3Bと、炭素繊維3Bの表面の少なくとも一部に絶縁皮膜5とを有し、必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。
【0035】
絶縁皮膜5は、電気絶縁性を有する材料からなり、例えば、酸化ケイ素や、重合性材料の硬化物で形成されている。重合性材料は、例えばラジカル重合性材料であり、重合性を有する有機化合物、重合性を有する樹脂などが挙げられる。ラジカル重合性材料は、エネルギーを利用してラジカル重合する材料であれば、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ラジカル重合性2重結合を有する化合物が挙げられる。ラジカル重合性2重結合としては、例えば、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などが挙げられる。ラジカル重合性2重結合を有する化合物におけるラジカル重合性2重結合の個数は、耐熱性や、耐溶剤性を含む強度の観点では、2つ以上が好ましい。ラジカル重合性2重結合を2つ以上有する化合物は、例えば、ジビニルベンゼン(Divinylbenzene:DVB)、(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物が挙げられる。ラジカル重合性材料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。ラジカル重合性材料の分子量は、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、50~500の範囲とすることができる。絶縁皮膜5が重合性材料の硬化物で形成されている場合、絶縁被膜5における重合性材料に由来する構成単位の含有量は、例えば、50質量%以上とすることができ、90質量%以上とすることもできる。
【0036】
絶縁皮膜5の平均厚みは、目的に応じて適宜選択することができるが、高い絶縁性を実現する観点では、50nm以上とすることが好ましく、100nm以上であってもよく、200nm以上であってもよい。絶縁被膜5の平均厚みの上限値は、例えば、1000nm以下とすることができ、500nm以下であってもよい。絶縁被膜5の平均厚みは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により求めることができる。
【0037】
絶縁皮膜5により炭素繊維3Bを被覆する方法としては、例えば、ゾルゲル法、液相堆積法、ポリシロキサン法、特開2018-98515号公報の段落0073~0089に記載された炭素繊維3Bの表面の少なくとも一部に重合性材料の硬化物からなる絶縁皮膜5を形成する方法等が挙げられる。
【0038】
熱伝導性シート1中の第1の熱伝導性フィラー3の含有量は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、熱伝導性シート1中の第1の熱伝導性フィラー3の含有量の下限値は、5体積%以上とすることができ、10体積%以上であってもよく、15体積%以上であってもよく、20体積%以上であってもよく、25体積%以上であってもよい。また、熱伝導性シート1中の第1の熱伝導性フィラー3の含有量の上限値は、40体積%以下とすることができ、35体積%以下であってもよく、30体積%以下であってもよい。
【0039】
例えば、熱伝導性シート1中の鱗片状の熱伝導性フィラーの含有量は、熱伝導性シート1の接触熱抵抗や絶縁破壊電圧の観点では、20~30体積%とすることが好ましい。また、熱伝導性シート1中の繊維状の熱伝導性フィラーの含有量は、熱伝導性シート1の接触熱抵抗や絶縁破壊電圧の観点では、2体積%以上とすることが好ましく、4体積%以上であってもよく、5体積%以上であってもよく、8体積%以上であってもよい。また、熱伝導性シート1中の繊維状の熱伝導性フィラーの含有量の上限値は、例えば、25体積%以下とすることができ、20体積%以下であってもよく、15体積%以下であってもよく、10体積%以下であってもよい。なお、繊維状の熱伝導性フィラーの含有量は、表面が絶縁被覆されていない炭素繊維と、絶縁被覆炭素繊維6との総量を表す。第1の熱伝導性フィラー3として、絶縁被覆されていない炭素繊維を用いる場合、熱伝導性シート1の絶縁破壊電圧の観点では、熱伝導性シート1中の絶縁被覆されていない炭素繊維の含有量は、10体積%以下が好ましい。
【0040】
<第2の熱伝導性フィラー>
第2の熱伝導性フィラー4は、第1の熱伝導性フィラー3以外の熱伝導性フィラーであり、例えば、非鱗片状かつ非繊維状の熱伝導性フィラーである。第2の熱伝導性フィラー4の具体例としては、球状、粉末状、顆粒状、扁平状等の熱伝導性フィラーが挙げられる。熱伝導性シート1は、第1の熱伝導性フィラー3と、第2の熱伝導性フィラー4とを併用することにより、第2の熱伝導性フィラー4で第1の熱伝導性フィラー3の配向を支え、第1の熱伝導性フィラー3を可能な限り熱伝導性シート1の厚み方向Bに配向させることができる。第2の熱伝導性フィラー4の材質は、熱伝導性シート1の接触熱抵抗や絶縁破壊電圧の観点では、アルミナ、アルミニウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、黒鉛、磁性粉からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。第2の熱伝導性フィラー4は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
特に、第2の熱伝導性フィラー4としては、アルミナ粒子を用いることが好ましい。また、第2の熱伝導性フィラー4としては、窒化アルミニウム粒子とアルミナ粒子との併用、窒化アルミニウム粒子とアルミナ粒子と酸化亜鉛粒子との併用、窒化アルミニウム粒子とアルミナ粒子と水酸化アルミニウム粒子との併用、窒化アルミニウム粒子とアルミナ粒子と窒化ホウ素粒子との併用、アルミナ粒子とアルミニウム粒子と黒鉛粒子との併用も好ましい。
【0042】
窒化アルミニウム粒子の平均粒径(D50)は、0.1~10μmとすることができ、0.5~5μmとすることもでき、1~3μmとすることもでき、1~2μmとすることもできる。アルミナ粒子の平均粒径(D50)は、1~20μmとすることができ、2~16μmとすることもでき、5~15μmとすることもできる。酸化亜鉛粒子の平均粒径(D50)は、0.1~5μmとすることができ、0.5~3μmとすることもでき、0.5~2μmとすることもできる。水酸化アルミニウム粒子の平均粒径(D50)は、1~10μmとすることができ、2~9μmとすることもでき、5~9μmとすることもできる。アルミニウム粒子の平均粒径(D50)は、1~20μmとすることができ、5~20μmとすることもでき、10~18μmとすることもできる。黒鉛粒子の平均粒径(D50)は、1~20μmとすることができ、2~16μmとすることもでき、3~10μmとすることもでき、4~7μmとすることもできる。
【0043】
熱伝導性シート1が第2の熱伝導性フィラー4を含む場合、熱伝導性シート1中の第2の熱伝導性フィラー4の含有量は、目的に応じて適宜選択することができる。熱伝導性シート1中の第2の熱伝導性フィラー4の含有量は、例えば、30体積%以上とすることができ、35体積%以上であってもよく、40体積%以上であってもよく、45体積%以上であってもよい。また、熱伝導性シート1中の第2の熱伝導性フィラー4の含有量の上限値は、70体積%以下とすることができ、65体積%以下であってもよく、60体積%以下であってもよく、55体積%以下であってもよい。具体的に、第2の熱伝導性フィラー4として、窒化アルミニウム粒子とアルミナ粒子とを併用する場合、熱伝導性シート1中、アルミナ粒子の含有量は20~45体積%とすることが好ましく、窒化アルミニウム粒子の含有量は20~35体積%とすることが好ましい。
【0044】
熱伝導性シート1は、本技術の効果を損なわない範囲で、上述した成分以外の他の成分をさらに含有してもよい。他の成分としては、例えば、シランカップリング剤、分散剤、硬化促進剤、遅延剤、粘着付与剤、可塑剤、難燃剤、酸化防止剤、安定剤、着色剤などが挙げられる。例えば、熱伝導性シート1は、第1の熱伝導性フィラー3や第2の熱伝導性フィラー4の分散性をより向上させて、熱伝導性シート1の柔軟性をより向上させる観点で、シランカップリング剤で処理した第1の熱伝導性フィラー3やシランカップリング剤で処理した第2の熱伝導性フィラー4を用いてもよい。
【0045】
以上のように、熱伝導性シート1は、バインダ樹脂2と、熱伝導性シート1の厚み方向Bに配向した第1の熱伝導性フィラー3とを含み、被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であるため、例えば、被着体の平滑面や凹凸面に対する接触熱抵抗を小さくすることができ、良好な熱伝導性が得られる。
【0046】
<熱伝導性シートの製造方法>
本技術に係る熱伝導性シートの製造方法は、下記工程Aと、工程Bと、工程Cとを有する。
【0047】
<工程A>
工程Aでは、第1の熱伝導性フィラー3をバインダ樹脂2に分散させることにより熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製する。熱伝導性シート形成用の樹脂組成物は、第1の熱伝導性フィラー3とバインダ樹脂2との他に、必要に応じて、第2の熱伝導性フィラー4、各種添加剤、揮発性溶剤等を公知の手法により均一に混合することにより調製できる。
【0048】
<工程B>
工程Bでは、調製された熱伝導性シート形成用の樹脂組成物から成形体ブロックを形成する。成形体ブロックの形成方法としては、押出成形法、金型成形法などが挙げられる。押出成形法、金型成形法としては、特に制限されず、公知の各種押出成形法、金型成形法の中から、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物の粘度や熱伝導性シートに要求される特性等に応じて適宜採用することができる。
【0049】
例えば、押出成形法において、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物をダイより押し出す際、あるいは金型成形法において、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を金型へ圧入する際、バインダ樹脂が流動し、その流動方向に沿って第1の熱伝導性フィラー3が配向する。
【0050】
成形体ブロックの大きさ・形状は、求められる熱伝導性シート1の大きさに応じて決めることができる。例えば、断面の縦の大きさが0.5~15cmで横の大きさが0.5~15cmの直方体が挙げられる。直方体の長さは必要に応じて決定すればよい。
【0051】
<工程C>
工程Cでは、成形体ブロックをシート状にスライスして、熱伝導性シート1を得る。スライスにより得られるシートの表面(スライス面)には、第1の熱伝導性フィラー3が露出する。スライスして得られた熱伝導性シート1は、表面が平滑化されるため、他の部材との密着性を向上させることができ、熱伝導性をより良好にすることができる。また、スライスして得られた熱伝導性シート1は、表面が平滑化されるため、熱抵抗をより小さくすることができる。スライスする方法としては特に制限はなく、成形体ブロックの大きさや機械的強度により公知のスライス装置の中から適宜選択することができる。成形体ブロックのスライス方向としては、成形方法が押出成形法である場合、押出し方向に第1の熱伝導性フィラー3が配向しているものもあるため、押出し方向に対して60~120度であることが好ましく、70~100度の方向であることがより好ましく、90度(垂直)の方向であることがさらに好ましい。
【0052】
このように、工程Aと、工程Bと、工程Cとを有する熱伝導性シートの製造方法では、バインダ樹脂2と、熱伝導性シート1の厚み方向Bに配向した第1の熱伝導性フィラー3とを含み、被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下である熱伝導性シート1を得ることができる。
【0053】
本技術に係る熱伝導性シートの製造方法は、上述した例に限定されず、例えば、工程Cの後に、スライス面をプレスする工程Dをさらに有していてもよい。熱伝導性シートの製造方法がプレスする工程Dを有することで、工程Cで得られるシートの表面がより平滑化され、他の部材との密着性をより向上させることができる。プレスの方法としては、平盤と表面が平坦なプレスヘッドとからなる一対のプレス装置を使用することができる。また、ピンチロールでプレスしてもよい。プレスの際の圧力としては、例えば、0.1~100MPaとすることができる。プレスの効果をより高め、プレス時間を短縮するために、プレスは、バインダ樹脂2のガラス転移温度(Tg)以上で行うことが好ましい。例えば、プレス温度は、0~180℃とすることができ、室温(例えば25℃)~100℃の温度範囲内であってもよく、30~100℃であってもよい。
【0054】
<電子機器>
本技術に係る熱伝導性シート1は、例えば、被着体である発熱体と放熱体との間に配置させることにより、発熱体で生じた熱を放熱体に逃がすためにそれらの間に配された構造の電子機器(サーマルデバイス)とすることができる。電子機器は、発熱体と放熱体と熱伝導性シート1とを少なくとも有し、必要に応じて、その他の部材をさらに有していてもよい。
【0055】
発熱体としては、特に限定されず、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、フラッシュメモリなどの集積回路素子、トランジスタ、抵抗器など、電気回路において発熱する電子部品等が挙げられる。また、発熱体には、通信機器における光トランシーバ等の光信号を受信する部品も含まれる。
【0056】
放熱体としては、特に限定されず、例えば、ヒートシンクやヒートスプレッダなど、集積回路素子やトランジスタ、光トランシーバ筐体などと組み合わされて用いられるものが挙げられる。放熱体としては、ヒートスプレッダやヒートシンク以外にも、熱源から発生する熱を伝導して外部に放散させるものであればよく、例えば、放熱器、冷却器、ダイパッド、プリント基板、冷却ファン、ペルチェ素子、ヒートパイプ、金属カバー、筐体等が挙げられる。
【0057】
図4は、本技術に係る熱伝導性シート1を適用した半導体装置50の一例を示す断面図である。例えば、熱伝導性シート1は、
図4に示すように、各種電子機器に内蔵される半導体装置50に実装され、発熱体と放熱体との間に挟持される。
図4に示す半導体装置50は、電子部品51と、ヒートスプレッダ52と、熱伝導性シート1とを備え、熱伝導性シート1がヒートスプレッダ52と電子部品51との間に挟持される。熱伝導性シート1が、ヒートスプレッダ52とヒートシンク53との間に挟持されることにより、ヒートスプレッダ52とともに、電子部品51の熱を放熱する放熱部材を構成する。熱伝導性シート1の実装場所は、ヒートスプレッダ52と電子部品51との間や、ヒートスプレッダ52とヒートシンク53との間に限らず、電子機器や半導体装置の構成に応じて、適宜選択できる。
【実施例0058】
以下、本技術の実施例について説明する。実施例では、熱伝導性シートを作製し、熱伝導性シートの熱抵抗、接触熱抵抗、バルク熱伝導率及び絶縁破壊電圧を求めた。なお、本技術は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
<実施例1>
シリコーン樹脂30体積%と、アルミナ粒子(D50が15μm)18体積%と、アルミナ粒子(D50が5μm)12体積%と、粒状の窒化アルミニウム(D50が1.5μm)33体積%と、酸化亜鉛(D50が0.5μm)1体積%と、平均繊維長が110μmのピッチ系炭素繊維5体積%と、カップリング剤1体積%とを混合し、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製した。押出成形法により、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を、直方体状の内部空間を有する金型(開口部:50mm×50mm)中に流し込み、60℃のオーブンで4時間加熱させて成形体ブロックを形成した。なお、金型の内面には、剥離処理面が内側となるように剥離ポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り付けておいた。得られた成形体ブロックの長さ方向に直交する方向に、成形体ブロックをスライサーで所望の厚みにスライスすることにより、炭素繊維がシートの厚み方向に配向した熱伝導性シートを得た。
【0060】
<実施例2>
ガラス容器に、平均繊維径9μm、平均繊維長110μmのピッチ系炭素繊維を100g、エタノール450gを投入し、撹拌翼にて混合してスラリー液を得た。流量160mL/minで窒素をスラリー液に加えてイナート化を行いながら、スラリーにジビニルベンゼン(93%ジビニルベンゼン)25gを加えた。ジビニルベンゼンを加えた10分後に、予め50gのエタノールに溶解させておいた0.500gの重合開始剤(油溶性アゾ重合開始剤)をスラリー液に投入した。投入後、5分間撹拌した後に、窒素によるイナート化を停止させた。その後、撹拌しながら昇温を開始し70℃で温度を保持し、40℃まで降温した。なお、昇温開始から降温開始までを反応時間とした。降温後、15分間静置し、スラリー液中に分散している固形分を沈降させた。沈降後、デカンテーションにて上澄みを除去し、再度溶媒を750g加えて15分間撹拌して固形分を洗浄した。洗浄後、吸引濾過にて固形分を回収し、回収した固形分を、100℃にて6時間乾燥することで、DVB絶縁被覆炭素繊維を得た。
【0061】
次に、シリコーン樹脂28体積%と、アルミナ粒子(D50が15μm)30体積%と、アルミナ粒子(D50が5μm)1体積%と、粒状の窒化アルミニウム(D50が1.5μm)33体積%と、水酸化アルミニウム(D50が8μm)1体積%と、平均繊維長が110μmのDVB絶縁被覆炭素繊維6体積%と、カップリング剤1体積%とを混合し、シリコーン組成物を調製した。押出成形法により、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を、直方体状の内部空間を有する金型(開口部:50mm×50mm)中に流し込み、100℃のオーブンで6時間加熱させて成形体ブロックを形成した。なお、金型の内面には、剥離処理面が内側となるように剥離ポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り付けておいた。得られた成形体ブロックの長さ方向に直交する方向に、成形体ブロックをスライサーで所望の厚みにスライスすることにより、炭素繊維がシートの厚み方向に配向した熱伝導性シートを得た。
【0062】
<実施例3>
ポリエチレン製容器に、平均繊維径9μm、平均繊維長110μmのピッチ系炭素繊維を100g、テトラエトキシシラン(TEOS)200g、エタノール900gを投入し、撹拌翼にて混合した。その後、50℃まで加温しながら、反応開始剤(10%アンモニア水)176gを5分かけて投入した。溶媒の投入が完了した時点を0分として、3時間撹拌を行った。撹拌終了後、降温させ、吸引濾過して固形分を回収し、固形分を水とエタノールを用いて洗浄し、再度吸引濾過を行い、固形分を回収した。回収した固形分を100℃にて2時間乾燥後、更に200℃で8時間焼成を行うことで、SiO2絶縁被覆炭素繊維を得た。
【0063】
次に、シリコーン樹脂28体積%と、アルミナ粒子(D50が15μm)30体積%と、アルミナ粒子(D50が5μm)1体積%と、粒状の窒化アルミニウム(D50が1.5μm)33体積%と、水酸化アルミニウム(D50が8μm)1体積%と、平均繊維長が110μmのSiO2絶縁被覆炭素繊維6体積%と、カップリング剤1体積%を混合し、シリコーン組成物を調製した。押出成形法により、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を、直方体状の内部空間を有する金型(開口部:50mm×50mm)中に流し込み、100℃のオーブンで6時間加熱させて成形体ブロックを形成した。なお、金型の内面には、剥離処理面が内側となるように剥離ポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り付けておいた。得られた成形体ブロックの長さ方向に直交する方向に、成形体ブロックをスライサーで所望の厚みにスライスすることにより、炭素繊維がシートの厚み方向に配向した熱伝導性シートを得た。
【0064】
<実施例4>
シリコーン樹脂33体積%と、結晶形状が六方晶型である鱗片状の窒化ホウ素(D50が40μm)26体積%と、窒化ホウ素の凝集粉(D50が20μm)1体積%と、粒状の窒化アルミニウム(D50が1.5μm)20体積%と、アルミナ粒子(D50が5μm)19体積%と、カップリング剤1体積%とを均一に混合することにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製した。押出成形法により、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を、直方体状の内部空間を有する金型(開口部:50mm×50mm)中に流し込み、60℃のオーブンで4時間加熱させて成形体ブロックを形成した。なお、金型の内面には、剥離処理面が内側となるように剥離ポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り付けておいた。得られた成形体ブロックの長さ方向に直交する方向に、成形体ブロックをスライサーでシート状にスライスすることにより、鱗片状の窒化ホウ素がシートの厚み方向に配向した熱伝導性シートを得た。
【0065】
<実施例5>
シリコーン樹脂33体積%と、アルミナ粒子(D50が3μm)42体積%と、平均繊維長が150μmの炭素繊維21.5体積%と、アルミニウム粉(D50が16μm)2体積%と、黒鉛粒子(D50が5μm)1体積%と、カップリング剤0.5体積%とを混合し、シリコーン組成物を調製した。押出成形法により、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を、直方体状の内部空間を有する金型(開口部:50mm×50mm)中に流し込み、100℃のオーブンで6時間加熱させて成形体ブロックを形成した。なお、金型の内面には、剥離処理面が内側となるように剥離ポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り付けておいた。得られた成形体ブロックの長さ方向に直交する方向に、成形体ブロックをスライサーで所望の厚みにスライスすることにより、炭素繊維がシートの厚み方向に配向した熱伝導性シートを得た。
【0066】
<比較例1>
シリコーン樹脂52体積%と、球状の窒化ホウ素(D50が60μm)35体積%と、窒化ホウ素の凝集粉(D50が20μm)6体積%と、破砕状の水酸化アルミニウム(D50が8μm)6体積%と、カップリング剤1体積%とを均一に混合することにより、熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を調製した。剥離処理面された剥離ポリエチレンテレフタレートフィルムの上に熱伝導性シート形成用の樹脂組成物を塗布し、60℃のオーブンで4時間加熱させて熱伝導性シートを形成した。
【0067】
<熱抵抗及び接触熱抵抗>
熱伝導性シートの熱抵抗は、以下の手順で測定した。熱伝導性シートを直径20mmの円形になるように加工し、テストピースを得た。得られたテストピースを銅の間に挟み、熱抵抗(℃・cm2/W)を1kgf/cm2の荷重で測定した。熱抵抗は、厚みの異なる熱伝導性シートを3種類ずつ用意して、それぞれの厚みの熱伝導性シートについて測定した。そして、横軸に測定時の熱伝導性シートの厚み(mm)、縦軸に熱抵抗をプロットしたグラフの切片から、接触熱抵抗(℃・cm2/W)を求めた。結果を表1に示す。
【0068】
<バルク熱伝導率>
熱伝導性シートのバルク熱伝導率は、接触熱抵抗を求めたグラフの傾きの逆数から求めた。結果を表1に示す。
【0069】
<絶縁破壊電圧>
熱伝導性シートの絶縁破壊電圧は、超高電圧耐圧試験器(計測技術研究所製、7473)を用いて、熱伝導性シートの厚み1mm、昇圧速度0.05kV/秒、室温の条件で測定した。絶縁破壊が生じた時点の電圧を絶縁破壊電圧(kV)とした。結果を表1に示す。表1中、実施例5の結果が「-」となっているのは、実施例5の熱伝導性シートは導電性を有することにより測定できなかったことを表す。
【0070】
【0071】
実施例1~5で得られた熱伝導性シートは、バインダ樹脂と熱伝導性フィラーとを含み、熱伝導性フィラーが厚み方向に配向しており、被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下であることが分かった。
【0072】
また、実施例1~4で得られた熱伝導性シートは、熱伝導性シートの厚みが1mmのときの絶縁破壊電圧が0.50kV以上であり、被着体に対する接触熱抵抗とともに、絶縁性も良好であることが分かった。
【0073】
比較例1で得られた熱伝導性シートは、被着体に対する接触熱抵抗が0.46℃・cm2/W以下を満たさないことが分かった。また、比較例1で得られた熱伝導性シートは、熱伝導性フィラーが熱伝導性シートの厚み方向に配向していないことが分かった。
1 熱伝導性シート、2 バインダ樹脂、3 第1の熱伝導性フィラー、3A 鱗片状の窒化ホウ素、3B 炭素繊維、a 長軸、b 厚み、c 短軸、4 第2の熱伝導性フィラー、5 絶縁被膜、6 絶縁被覆炭素繊維、50 半導体装置、51 電子部品、52 ヒートスプレッダ、53 ヒートシンク
アルミナ、アルミニウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、黒鉛、磁性粉からなる群から選択される少なくとも1種の第2の熱伝導性フィラーをさらに含む、請求項1又は2に記載の熱伝導性シート。
上記第2の熱伝導性フィラーが、アルミナと窒化アルミニウムと酸化亜鉛との組み合わせ、アルミナと窒化アルミニウムと水酸化アルミニウムとの組み合わせ、アルミナと窒化アルミニウムと窒化ホウ素との組み合わせ、又は、アルミナとアルミニウムと黒鉛との組み合わせである、請求項3に記載の熱伝導性シート。