(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047711
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09J 127/24 20060101AFI20220317BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20220317BHJP
C09J 4/00 20060101ALI20220317BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20220317BHJP
C09J 7/30 20180101ALI20220317BHJP
【FI】
C09J127/24
C09J11/06
C09J4/00
C09J11/08
C09J7/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020153635
(22)【出願日】2020-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000202350
【氏名又は名称】綜研化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】小山 雄司
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA06
4J004AB04
4J040DC071
4J040DF081
4J040EF002
4J040FA131
4J040KA03
4J040KA14
4J040MA10
(57)【要約】
【課題】接着剤層が厚い場合でも、接着端部および接着剤層の硬化性が良好であり、機械的物性に優れた硬化物を形成できる接着剤組成物を提供する。
【解決手段】式(1)で表される構造とニトリル基とを有する樹脂(A)を3~23質量部、重合性不飽和基を有する化合物(B)を50~92質量部、パウダー状樹脂(C)を5~27質量部、およびラジカル硬化触媒(D)を0.5~15質量部含む接着剤組成物。(ただし、樹脂(A)、化合物(B)、およびパウダー状樹脂(C)の合計を100質量部とする。)[式(1)において、X
1~X
3は、それぞれ独立に、水素またはハロゲンであり、X
1~X
3の少なくとも2つはハロゲンであり、*は他の原子との結合手を表す。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造とニトリル基とを有する樹脂(A)を3~23質量部、
重合性不飽和基を有する化合物(B)を50~92質量部、
パウダー状樹脂(C)を5~27質量部、
およびラジカル硬化触媒(D)を0.5~15質量部
含む接着剤組成物。(ただし、樹脂(A)、化合物(B)、およびパウダー状樹脂(C)の合計を100質量部とする。)
【化1】
[式(1)において、X
1~X
3は、それぞれ独立に、水素またはハロゲンであり、X
1~X
3の少なくとも2つはハロゲンであり、*は他の原子との結合手を表す。]
【請求項2】
樹脂(A)のハロゲン含有量が30質量%以上である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
樹脂(A)が、下記式(2)で表される構造を有する、請求項1または2に記載の接着剤組成物。
【化2】
[式(2)において、X
2およびX
3は、ハロゲンであり、*は他の原子との結合手を表す。]
【請求項4】
前記重合性不飽和基を有する化合物(B)が、(メタ)アクリルモノマーを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記重合性不飽和基を有する化合物(B)が、極性基を有する(メタ)アクリルモノマーを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
前記パウダー状樹脂(C)が、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、および合成エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の樹脂である、請求項1~5のいずれか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の接着剤組成物から形成される接着剤層。
【請求項8】
前記接着剤層の平均膜厚が100~4,000μmである、請求項7に記載の接着剤層。
【請求項9】
前記接着剤層の平均膜厚が、前記パウダー状樹脂(C)の体積基準の最頻度粒子径(モード径)よりも大きい、請求項7または8に記載の接着剤層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤が使用される場面において、接着の施工方法によっては、例えば接着剤を500μm以上や1,000μm以上等といったように厚く塗布するような場合がある。接着剤には乾燥固化型や、反応硬化型などの種類が存在し、反応硬化型では、例えば接着剤中の成分がラジカル反応することで、接着剤層の硬化および接着剤層と被着体との界面の接着性が発現する。この場合において接着剤層が厚くなると、接着端部が空気に触れやすくなることで空気による硬化阻害が生じやすくなる。その結果、接着剤層の硬化不良、接着性不良、および接着強度の低下が生じるといった問題がある。
一方、被着体との親和性を向上するという観点から、ポリオレフィン等の低表面エネルギー基材への親和性を確保しながら、接着剤層を硬化することができる接着材料の開発も進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、所定の式で表される構造とニトリル基とを有する樹脂(A)、重合性不飽和基を有する化合物(B)、およびラジカル硬化触媒(D)を含む接着剤組成物が開示されている。特許文献1に記載の接着剤組成物は、ポリオレフィン等の低表面エネルギー基材への接着性、異種材料間の接着性に優れ、且つプライマーレスによる接着工程の簡略化が可能であることを特徴としている。
また、特許文献2には、有機ホウ素化合物を含む速硬化性重合性組成物および、その組成物を主成分とする接着剤が開示されている。さらに、特許文献2に記載の組成物は、ハロスルホン化されたハロポリオレフィンまたはハロポリオレフィンと有機ハロゲン化スルホニルとの混合物が重合性組成物の硬化促進剤として作用し、低表面エネルギー支持体に接着することができることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/221694号
【特許文献2】特表2010-506975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1および特許文献2で提案されている接着剤組成物には接着剤層が厚い場合における硬化性は検討されておらず、改善の余地がある。
本発明の課題は、接着剤層が厚い場合でも、接着端部および接着剤層の硬化性が良好であり、機械的物性に優れた硬化物を形成できる接着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は例えば以下の[1]~[9]に関する。
[1]下記式(1)で表される構造とニトリル基とを有する樹脂(A)を3~23質量部、重合性不飽和基を有する化合物(B)を50~92質量部、パウダー状樹脂(C)を5~27質量部、およびラジカル硬化触媒(D)を0.5~15質量部含む接着剤組成物。(ただし、樹脂(A)、化合物(B)、およびパウダー状樹脂(C)の合計を100質量部とする。)
【0007】
【化1】
[式(1)において、X
1~X
3は、それぞれ独立に、水素またはハロゲンであり、X
1~X
3の少なくとも2つはハロゲンであり、*は他の原子との結合手を表す。]
[2]樹脂(A)のハロゲン含有量が30質量%以上である、前記[1]に記載の接着剤組成物。
[3]樹脂(A)が、下記式(2)で表される構造を有する、前記[1]または[2]に記載の接着剤組成物。
【0008】
【化2】
[式(2)において、X
2およびX
3は、ハロゲンであり、*は他の原子との結合手を表す。]
[4]前記重合性不飽和基を有する化合物(B)が、(メタ)アクリルモノマーを含む、前記[1]~[3]のいずれかに記載の接着剤組成物。
[5]前記重合性不飽和基を有する化合物(B)が、極性基を有する(メタ)アクリルモノマーを含む、前記[1]~[4]のいずれかに記載の接着剤組成物。
[6]前記パウダー状樹脂(C)が、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、および合成エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の樹脂である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の接着剤組成物。
[7]前記[1]~[6]のいずれかに記載の接着剤組成物から形成される接着剤層。
[8]前記接着剤層の平均膜厚が100~4,000μmである、前記[7]に記載の接着剤層。
[9]前記接着剤層の平均膜厚が、前記前記パウダー状樹脂(C)の体積基準の最頻度粒子径(モード径)よりも大きい、前記[8]または[9]に記載の接着剤層。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、接着剤層が厚い場合でも、接着端部および接着剤層の硬化性が良好であり、機械的物性に優れた硬化物を形成できる接着剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の接着剤組成物を説明する。以下では、本発明の接着剤組成物を単に「組成物」ともいう。また、アクリルおよびメタクリルを総称して「(メタ)アクリル」とも記載する。
【0011】
[接着剤組成物]
本発明の接着剤組成物(以下「本発明の組成物」ともいう。)は、以下に説明する特定の構造を有する樹脂(A)(以下、単に「樹脂(A)」ともいう。)、重合性不飽和基を有する化合物(B)(以下、単に「化合物(B)」ともいう。)、およびパウダー状樹脂(C)、およびラジカル硬化触媒(D)を含む。本発明の組成物は、必要に応じて、さらに他の成分を含んでもよい。
【0012】
<樹脂(A)>
樹脂(A)は、下記式(1)で表される構造とニトリル基とを有する。
【0013】
【化3】
式(1)において、X
1~X
3は、それぞれ独立に、水素またはハロゲンであり、X
1~X
3の少なくとも2つはハロゲンであり、*は他の原子との結合手を表す。また、X
1は水素であり、かつ、X
2およびX
3はハロゲンであることが好ましい。
【0014】
樹脂(A)が有する上記式(1)で表される構造のうち、少なくとも一部は下記式(2)で表わされる構造であることが好ましい。つまり、樹脂(A)は、下記式(2)で表される構造を有することが好ましい。
【0015】
【化4】
式(2)において、X
2およびX
3は、ハロゲンであり、*は他の原子との結合手を表す。
【0016】
式(1)で表される構造は、上記式(2)で表される構造であることがより好ましい。
式(1)および(2)のX1~X3におけるハロゲンは、塩素または臭素であることが好ましく、樹脂(A)の劣化に対する安定性の観点から、塩素であることがより好ましい。
【0017】
樹脂(A)は、樹脂(A)100質量%中に、式(1)で表される構造を、20質量%以上含むことが好ましく、30~90質量%含むことがより好ましく、40~80質量%含むことが特に好ましい。式(1)で表される構造を前記範囲内含むことが、ポリオレフィンなどの低表面エネルギー基材への接着性の発現に必要な、接着界面の親和性の確保と成膜性とを両立する観点から望ましい。
【0018】
樹脂(A)は、ニトリル基を有する。樹脂(A)がニトリル基を有することにより、樹脂(A)の、後述する化合物(B)に対する溶解性が向上する。これにより、本発明の組成物を基材に塗布した際の成膜性が良好となり、接着性が向上する。
【0019】
樹脂(A)中のニトリル基の含有量は、樹脂(A)1g中のニトリル基の量(mol)として表すことができ、好ましくは1.0×10-4~1.5×10-2mol/g、より好ましくは5.0×10-4~1.0×10-2mol/g、さらに好ましくは1.0×10-3~1.0×10-2mol/gである。
【0020】
ニトリル基を樹脂(A)中に含有させる方法としては、特に限定されず、例えば、後述するようにニトリル基含有モノマーを含むモノマー成分を重合して樹脂(A)を製造してもよく、重合体をシアノ化して樹脂(A)中にニトリル基を含有させてもよい。
【0021】
樹脂(A)のハロゲン含有量は、樹脂(A)100質量%中、通常は30質量%以上、好ましくは30~70質量%、より好ましくは30~65質量%である。前記ハロゲン含有量とは、樹脂(A)中に含まれるハロゲンの含有量であり、樹脂(A)が複数の種類のハロゲンを含有する場合は、樹脂(A)が含有する全種類のハロゲンの合計の含有量を表す。つまり、樹脂(A)がハロゲンとして塩素および臭素を含有する場合は、前記ハロゲン含有量は、樹脂(A)の塩素および臭素の合計の含有量であり、樹脂(A)がハロゲンとして塩素のみを含有する場合は、前記ハロゲン含有量は、樹脂(A)の塩素含有量である。樹脂(A)のハロゲン含有量が前記範囲内であると、ポリオレフィン等の低表面エネルギー基材への接着性の発現に必要な接着界面の親和性の確保と、接着樹脂層の充分な硬化とを両立する観点から好ましい。
【0022】
樹脂(A)のハロゲン含有量の測定方法は、特に限定されないが、例えば、JIS-K7229に規定される酸素フラスコ法、燃焼イオンクロマトグラフィー法、蛍光X線を用いる方法が挙げられる。
【0023】
樹脂(A)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定される重量平均分子量(Mw)が、ポリスチレン換算値で、好ましくは10万~50万、より好ましくは15万~45万、さらに好ましくは20万~40万である。Mwが前記範囲内にあると、良好な硬化性と接着性とを発現し易いという観点から好ましい。
【0024】
また、樹脂(A)は、GPC法により測定される分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))が、好ましくは1.5~8.0、より好ましくは2.0~7.0、さらに好ましくは2.5~6.0である。
【0025】
樹脂(A)を得る方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。下記式(3)で表されるモノマーおよびニトリル基含有モノマーを含むモノマー成分を、重合することにより樹脂(A)を製造する方法。下記式(3)で表されるモノマーを含むモノマー成分を重合することにより得られた重合体をシアノ化することにより樹脂(A)を製造する方法。下記式(4)で表されるモノマーおよびニトリル基含有モノマーを含むモノマー成分を、重合することにより重合体を得て、得られた重合体をハロゲン化することにより樹脂(A)を製造する方法。下記式(4)で表されるモノマーを含むモノマー成分を、重合することにより重合体を得て、得られた重合体をハロゲン化およびシアノ化することにより樹脂(A)を製造する方法。
【0026】
前記重合は、例えば、溶液重合法、塊状重合法、乳化重合法、懸濁重合法等の重合法により行うことができる。また、重合の際には、必要に応じて、重合開始剤、重合溶媒、分散剤、乳化剤等を使用することができる。
【0027】
重合体をハロゲン化する工程において、ハロゲン化する方法およびハロゲン化する系については特に制限はない。ハロゲン化する方法としては、例えば、熱ハロゲン化法、光ハロゲン化法が挙げられる。ハロゲン化する系としては、例えば、気相ハロゲン化法、溶液ハロゲン化法、懸濁ハロゲン化法、膨潤ハロゲン化法が挙げられる。
【0028】
重合体をシアノ化する方法としては、重合体とシアン化物とを反応させる方法等の当業者に公知の方法を始め、特に制限なく採用することができる。
【0029】
【化5】
式(3)において、X
1~X
3は、それぞれ独立に、水素またはハロゲンであり、X
1~X
3の少なくとも2つはハロゲンである。前記ハロゲンとしては、塩素または臭素であることが好ましく、塩素であることがより好ましい。また、X
1は水素であり、かつ、X
2およびX
3はハロゲンであることが好ましい。
【0030】
式(3)で表されるモノマーとしては、例えば、トリクロロエチレン、トリブロモエチレン、1,1-ジクロロエチレン、1,1-ジブロモエチレン、1,2-ジクロロエチレン、1,2-ジブロモエチレンが挙げられる。式(3)で表されるモノマーの中でも、トリクロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレンが好ましく、1,1-ジクロロエチレンがより好ましい。
【0031】
式(3)で表されるモノマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
式(3)で表されるモノマーを含むモノマー成分100質量%中、式(3)で表されるモノマーの含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30~90質量%、さらに好ましくは40~80質量%である。
【0032】
【化6】
式(4)において、X
1'~X
3'は、それぞれ独立に、水素またはハロゲンであり、X
1'~X
3'の全てがハロゲンとなることは無い。前記ハロゲンとしては、塩素または臭素であることが好ましく、塩素であることがより好ましい。また、X
1'~X
3'の少なくとも1つがハロゲンであることが好ましく、X
1'およびX
2'は水素であり、かつ、X
3'はハロゲンであることがより好ましい。
【0033】
式(4)で表されるモノマーとしては、例えば、1,1-ジクロロエチレン、1,1-ジブロモエチレン、1,2-ジクロロエチレン、1,2-ジブロモエチレン、クロロエチレン、ブロモエチレンが挙げられる。式(4)で表されるモノマーの中でも、クロロエチレンが好ましい。
【0034】
式(4)で表されるモノマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
式(4)で表されるモノマーを含むモノマー成分100質量%中、式(4)で表されるモノマーの含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30~90質量%、さらに好ましくは40~80質量%である。
【0035】
前記重合を行う際には、式(3)で表されるモノマーあるいは式(4)で表されるモノマーに加え、ニトリル基含有モノマーを用いることが好ましい。
【0036】
前記ニトリル基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリロニトリル、炭素数1~12のアルキル基を有する2-シアノアクリル酸エステルが挙げられる。
【0037】
モノマー成分として、ニトリル基含有モノマーを用いる場合における、ニトリル基含有モノマーの含有量は、モノマー成分100質量%中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは5~70質量%、さらに好ましくは10~60質量%である。
【0038】
前記モノマー成分としては、さらに、必要に応じて、式(3)で表されるモノマーあるいは式(4)で表されるモノマー、およびニトリル基含有モノマー以外のモノマー(以下、他のモノマーとも記す。)を含んでもよい。他のモノマーとしては、例えば、下記化合物(B)として挙げたモノマーが挙げられる。
【0039】
樹脂(A)は、ニトリル基を有するポリ塩化ビニリデン樹脂またはニトリル基を有する塩素化ポリ塩化ビニルであることが好ましい。樹脂(A)の市販品としては、例えば、旭化成ケミカルズ株式会社製サランレジンF310、サランレジンF216が挙げられる。
【0040】
[化合物(B)]
本発明の接着剤組成物は、重合性不飽和基を有する化合物(B)を含む。本発明の接着剤組成物は、前記化合物(B)が重合することにより、基材等を接着することができる。
【0041】
前記化合物(B)としては、(メタ)アクリルモノマー、(メタ)アクリルモノマー以外のモノマーが挙げられる。ここで、(メタ)アクリルモノマーとは、アクリロイル基(H2C=CH-CO-)またはメタクリロイル基(H2C=CCH3-CO-)を有するモノマーである。
【0042】
前記化合物(B)は、(メタ)アクリルモノマーを含むことが好ましく、極性基を有する(メタ)アクリルモノマーを含むことがより好ましい。
【0043】
(メタ)アクリルモノマーとしては、アクリルモノマーおよびメタクリルモノマーから選択される少なくとも1種のモノマーを用いることができる。また、極性基を有する(メタ)アクリルモノマーとしては、極性基を有するアクリルモノマーおよび極性基を有するメタクリルモノマーから選択される少なくとも1種のモノマーを用いることができる。
【0044】
(メタ)アクリルモノマーとしては、極性基を有する(メタ)アクリルモノマー、極性基を有しない(メタ)アクリルモノマーが挙げられる。
【0045】
極性基としては、酸素、窒素、および硫黄から選択される少なくとも1種の原子を含むことが好ましく、酸素および窒素から選択される少なくとも1種の原子を含むことがより好ましい。
【0046】
極性基を有する(メタ)アクリルモノマーとしては、酸素含有(メタ)アクリルモノマー、窒素含有(メタ)アクリルモノマー、硫黄含有(メタ)アクリルモノマーが挙げられ、酸素含有(メタ)アクリルモノマー、窒素含有(メタ)アクリルモノマーが好ましい。
【0047】
酸素含有(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、(3-エチルオキセタン-3-イル)メチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0048】
窒素含有(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリンが挙げられる。
【0049】
硫黄含有(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、2-メチルチオエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0050】
極性基を有しない(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレートおよびイソボルニル(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2-エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ブチルジ(メタ)アクリレートおよびヘキシルジ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0051】
(メタ)アクリルモノマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
(メタ)アクリルモノマー以外のモノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン;スチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系モノマー;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン系モノマー;ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート等のアリル系モノマーが挙げられる。
【0052】
(メタ)アクリルモノマー以外のモノマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
前記化合物(B)としては、詳細な機構は不明ではあるが、ポリプロピレン等の低表面エネルギー基材との接着強度が高くなるという観点から、極性基を有する(メタ)アクリルモノマーを用いることが好ましい。極性基を有する(メタ)アクリルモノマーとしては、具体的には、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ジメチル(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0053】
極性基を有する(メタ)アクリルモノマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
極性基を有する(メタ)アクリルモノマーを2種以上用いる場合は、極性基を有するアクリルモノマーと極性基を有するメタクリルモノマーとを用いることが好ましい。この場合、化合物(B)中の、極性基を有するアクリルモノマーと極性基を有するメタクリルモノマーとの比(質量比)(極性基を有するアクリルモノマー:極性基を有するメタクリルモノマー)は、好ましくは95:5~5:95、より好ましくは80:20~20:80である。
【0054】
前記組成物に含まれる化合物(B)100質量部中の極性基を有する(メタ)アクリルモノマーの配合量の下限としては特に制限は無く、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、さらに好ましくは10質量部以上である。前記範囲では化合物(B)とラジカル硬化触媒(D)とを混合した後の組成物のゲル化を抑制し、かつ良好な硬化性および接着性を発現することができるため好ましい。また、前記組成物に含まれる化合物(B)100質量部中の極性基を有する(メタ)アクリルモノマーの配合量の上限としては特に制限は無く、100質量部以下である。
【0055】
化合物(B)が極性基を有する(メタ)アクリルモノマーである場合、すなわち、化合物(B)100質量部中の極性基を有する(メタ)アクリルモノマーの配合量が100質量部である場合には、良好な硬化性および接着性を発現することが可能であるため好ましい。
【0056】
また、化合物(B)として、極性基を有する(メタ)アクリルモノマー以外のモノマーを用いることも、組成物のゲル化を抑制する観点から好ましい。化合物(B)として、極性基を有する(メタ)アクリルモノマー以外のモノマーを用いる場合には、化合物(B)100質量部中の極性基を有する(メタ)アクリルモノマーの配合量は、好ましくは5~95質量部、より好ましくは10~90質量部、さらに好ましくは20~80質量部である。
【0057】
前記化合物(B)として、極性基を有する(メタ)アクリルモノマー以外のモノマーを用いる場合には、単官能化合物(但し、極性基を有する(メタ)アクリルモノマーを除く)、多官能化合物(但し、極性基を有する(メタ)アクリルモノマーを除く)のどちらも用いることができるが、単官能化合物を用いることが好ましい。単官能化合物とは、1分子内に重合性不飽和基を1つ有する化合物であり、多官能化合物とは、1分子内に重合性不飽和基を2以上有する化合物である。前記化合物(B)として用いる単官能化合物としては、メチル(メタ)アクリレート、スチレンが好ましい。多官能化合物としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジアリルイソフタレートが好ましい。
【0058】
単官能化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
前記化合物(B)として、単官能化合物(但し、極性基を有する(メタ)アクリルモノマーを除く)を用いる場合には、組成物に含まれる化合物(B)100質量部中の単官能化合物の配合量は、好ましくは1~70質量部、より好ましくは1~60質量部、さらに好ましくは1~50質量部である。
【0059】
前記化合物(B)として、多官能化合物(但し、極性基を有する(メタ)アクリルモノマーを除く)を用いる場合には、組成物に含まれる化合物(B)100質量部中の多官能化合物の配合量は、好ましくは0.1~50質量部、より好ましくは0.1~40質量部、さらに好ましくは0.1~30質量部である。
【0060】
[パウダー状樹脂(C)]
本発明の接着剤組成物は、パウダー状樹脂(C)を含む。
ここで、パウダー状とは、乾燥した固体の微小粒子の集合物をいう。パウダー状樹脂の形状は例えば球状、棒状、楕円球状、歪曲状、繊維状等が挙げられ、好ましくは球状である。
【0061】
本発明の接着剤組成物はパウダー状樹脂(C)を含むことにより、接着剤層が厚い場合でも、接着端部および接着剤層の硬化性に優れる。硬化性に優れる理由については、接着剤層を形成する際に接着剤組成物中の後述する硬化触媒(D)から発生したラジカルによって、パウダー状樹脂(C)からもラジカルが発生することにより、前記化合物(B)の重合反応が加速され、結果として化合物(B)の転化率(重合度)が上昇し、接着剤組成物から得られる接着剤層を形成する際の硬化速度が上昇し、硬化阻害が生じることを抑制することができるためであると本発明者らは推定した。
【0062】
また、パウダー状樹脂(C)を含む接着剤組成物は、パウダー状樹脂(C)が接着剤組成物中に溶解することなく分散するため、接着剤組成物の粘度の過剰な上昇が抑えることができると考えられる。
【0063】
本発明の接着剤組成物中におけるパウダー状樹脂(C)の不溶性については、実施例のパウダー状樹脂の不溶性評価に記載した方法で評価することができる。後述する実施例に記載の方法で、添加直後と添加1週間後の粘度を測定した際に、下記式で示す粘度上昇率が120%以下であるものを、パウダー状樹脂(C)が不溶性であると判断することができる。
【0064】
【0065】
パウダー状樹脂(C)は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、および合成エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の樹脂であることが好ましく、接着性組成物中における不溶性の観点で、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタンがより好ましい。合成エラストマーは不溶性評価でも明らかである通り、化合物(B)へ溶解性が高く、接着剤組成物は凝集破壊傾向となり、接着性では若干劣る。パウダー状樹脂(C)の不溶性が接着性に与える機構については明確ではないが、パウダー状樹脂(C)が溶解することで接着剤組成物自体を柔軟化するためだと推測する。また、得られる接着剤組成物の引張せん断強度の点で、ポリエチレンを少なくとも含むことがより好ましい。
また、パウダー状樹脂(C)は、分子中にハロゲンを含まないパウダー状樹脂から選択することも好ましい態様の一つである。
【0066】
ポリアミドとしては例えば、ナイロン-6、ナイロン-6,6、ナイロン-12等が挙げられる。
ポリエステルとしては例えば、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート(PBT)等が挙げられる。
ポリウレタンとしては例えば、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン及びこれらの変性物等が挙げられる。
【0067】
合成エラストマーとは、ブロックコポリマーに架橋剤を加えて反応させることによってブロックコポリマーの少なくとも一部が架橋されているものであり、ブロックコポリマーとしては例えば、スチレン・ブタジエン・スチレン(SBS)、スチレン・イソプレン・スチレン(SIS)、スチレン・エチレン-ブチレン・スチレン(SEBS)、スチレン・エチレン-プロピレン・スチレン(SEPS)等のスチレン系ブロックコポリマー;エチレンモノマーとα-オレフィンコモノマーを重合したエチレン・α-オレフィンコポリマー等が挙げられる。
前記α-オレフィンとしては1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン等が挙げられる。
【0068】
前記合成エラストマーは、ヘテロ原子を含まないモノマー成分から得られることが好ましい。また、前記合成エラストマーは、前記モノマー成分を重合または架橋等することにより製造することができる。
【0069】
パウダー状樹脂(C)の体積基準の最頻度粒子径(モード径)は、50~3000μmが好ましく、65~2800μmがより好ましく、さらに好ましくは80~2500μmである。本発明に係るパウダー状樹脂(C)の体積基準の最頻度粒子径(モード径)はレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置、具体的にはマイクロトラック・ベル社製マイクロトラックMT3300IIシリーズの湿式粒度分布測定装置を用いて測定される。
(分析条件)
溶媒:水(屈折率1.33)
粒子屈折率:N/A
粒子形状:N/A
DV値(試料濃度の指標値(回折光量)):0.01~0.1
【0070】
パウダー状樹脂(C)のモード径は、後述する接着剤層の厚みに応じて適宜選択することができる。
パウダー状樹脂(C)の市販品としては、例えば、「パウダーレジンPR1055C 100PASS」(ポリエチレン、粒度分布中の最頻度粒子径(モード径):150μm、東京インキ製)、「パウダーレジンPR1045M 30PASS」(ポリエチレン、粒度分布中の最頻度粒子径(モード径):500μm、東京インキ製)、「パウダーレジン5015M」(エチレン酢酸ビニル共重合体、粒度分布中の最頻度粒子径(モード径):1700μm、東京インキ製)、「パウダーレジン2030MX-S」(エチレン酢酸ビニル共重合体、粒度分布中の最頻度粒子径(モード径):250μm、東京インキ製)、「パウダーレジンF-961-L」(ポリアミド、粒度分布中の最頻度粒子径(モード径):500μm、東京インキ製)、「パウダーレジンF-961-Z」(ポリアミド、粒度分布中の最頻度粒子径(モード径):150μm、東京インキ製)、「パウダーレジンG-801L」(ポリエステル、粒度分布中の最頻度粒子径(モード径):250μm、東京インキ製)、「パウダーレジンER-100C」(合成エラストマー、粒度分布中の最頻度粒子径(モード径):250μm、東京インキ製)が挙げられる。
【0071】
[ラジカル硬化触媒(D)]
本発明の接着剤組成物は、ラジカル硬化触媒(D)を含む。
接着剤組成物中で、ラジカル硬化触媒(D)からラジカルが発生することにより、前記化合物(B)の重合反応が進行し、接着剤組成物から得られる接着樹脂層を硬化させることができる。
【0072】
ラジカル硬化触媒(D)は、カルボン酸金属塩およびポリアミンを含む硬化触媒(D1)、オルガノボラン-アミン錯体およびカルボニル化合物を含む硬化触媒(D2)、ハロゲン化アルキル基を有する化合物および遷移金属化合物を含む硬化触媒(D3)、過酸化物レドックス硬化触媒(D4)、過酸化物硬化触媒(D5)、アゾ化合物硬化触媒(D6)、ならびに、UVラジカル開始剤硬化触媒(D7)から選ばれる少なくとも1種の硬化触媒であることが好ましい。中でも、ラジカル硬化触媒(D)は、カルボン酸金属塩およびポリアミンを含む硬化触媒(D1)、ならびに、オルガノボラン-アミン錯体およびカルボニル化合物を含む硬化触媒(D2)から選ばれる少なくとも1種の硬化触媒であることがより好ましい。
【0073】
カルボン酸金属塩およびポリアミンを含む硬化触媒(D1)に含まれるカルボン酸金属塩を構成する金属としては、例えば、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、コバルト、マンガン、クロムが挙げられ、鉄または銅が好ましい。すなわち、カルボン酸金属塩としては、カルボン酸鉄、カルボン酸銅が好ましい。
【0074】
カルボン酸金属塩を構成する金属の価数としては、通常は2価以下であり、好ましくは1価または2価である。前記金属が鉄である場合には2価、銅である場合には1価が好ましい。
【0075】
カルボン酸金属塩としては、例えば、酢酸金属塩、ギ酸金属塩、シュウ酸金属塩、ステアリン酸金属塩、2-エチルヘキサン酸金属塩、ナフテン酸金属塩、安息香酸金属塩が挙げられ、酢酸金属塩、ギ酸金属塩が好ましく、酢酸金属塩がより好ましい。
なお、カルボン酸金属塩は、水和物の形で接着剤組成物中に含まれていてもよい。
【0076】
カルボン酸金属塩としては、具体的には、酢酸鉄(II)、酢酸銅(I)、ギ酸鉄(II)、ギ酸銅(I)、シュウ酸鉄(II)、シュウ酸銅(I)、ステアリン酸鉄(II)、ステアリン酸銅(I)、ビス(2-エチルヘキサン酸)鉄(II)、ビス(2-エチルヘキサン酸)銅(I)、ナフテン酸鉄(II)、ナフテン酸銅(I)等が挙げられ、酢酸鉄(II)、酢酸銅(I)、ギ酸鉄(II)が好ましく、酢酸鉄(II)、酢酸銅(I)がより好ましい。
【0077】
遷移金属のカルボン酸塩は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
硬化触媒(D1)に含まれるポリアミンは、分子内にアミンを2つ以上有する。
【0078】
ポリアミンは、分子内に2つ以上のアミンを有するが、通常は分子内に2~6、好ましくは2~4、より好ましくは2または3のアミンを有する。ポリアミンが分子内に有するアミンの数が前記範囲内であると、充分な硬化性および良好な接着性を発現できるため好ましい。
【0079】
ポリアミンは、好ましくは、少なくとも一つの3級アミノ基を有し、より好ましくは、少なくとも二つの3級アミノ基を有し、さらに好ましくは少なくとも二つの3級アミノ基を有し、かつ1級および2級のアミノ基を有さない。
【0080】
ポリアミンとしては、例えば、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン、トリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン、N,N-ジメチル-1,2-エタンジアミン、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、1,4,8,11-テトラメチル-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン、2,2’-ビピリジル、4,4’-ジメチル-2,2’-ジピリジル、4,4’-ジーtert-ブチル-2,2’-ジピリジル、トリス(2-ピリジルメチル)アミン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミンが挙げられ、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン、トリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミンが好ましい。
【0081】
ポリアミンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
カルボン酸金属塩およびポリアミンの組み合わせは特に制限されないが、硬化触媒(D1)としては、例えば、酢酸鉄(II)およびN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンを含む硬化触媒、酢酸鉄(II)およびN,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミンを含む硬化触媒、酢酸鉄(II)およびトリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミンを含む硬化触媒、酢酸銅(I)およびN,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミンを含む硬化触媒、酢酸銅(I)およびトリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミンを含む硬化触媒が挙げられる。
【0082】
硬化触媒(D1)に含まれる、カルボン酸金属塩とポリアミンとの比(モル比)(カルボン酸金属塩:ポリアミン)は、特に限定されないが、好ましくは1:0.01~1:10、より好ましくは1:0.1~1:5である。
【0083】
オルガノボラン-アミン錯体およびカルボニル化合物を含む硬化触媒(D2)に含まれるオルガノボラン-アミン錯体のオルガノボランとしては、例えば、BR3で表される化合物が挙げられる。前記式中、Rはそれぞれ独立に、炭素数1~8の、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、またはフェニル基を表す。
【0084】
オルガノボランとしては、例えば、トリエチルボラン、トリブチルボラン、トリヘキシルボラン、モノメトキシジエチルボランが挙げられる。
【0085】
オルガノボラン-アミン錯体のアミンは、分子内に少なくとも1つのアミノ基を有していればよく、好ましくは2または3のアミノ基を有している。
【0086】
アミンとしては、例えば、ジエチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン、メトキシプロピルアミン等のモノアミン;1,3-ジアミノプロパン、ジエチレントリアミン等のポリアミンが挙げられる。
【0087】
オルガノボラン-アミン錯体は、前述のオルガノボランとポリアミンとから形成される錯体だけではなく、同一分子内に、オルガノボランとアミンとを有し、かつ同一分子内で錯体を形成している錯体であってもよい。このようなオルガノボラン-アミン錯体としては、例えば、下記式(A)で表される化合物が挙げられる。
【0088】
【化7】
式(A)において、NからBに向かう矢印は、配位結合を表す。
【0089】
オルガノボラン-アミン錯体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
硬化触媒(D2)に含まれるカルボニル化合物とは、分子中に少なくとも1つのカルボニル基(-C(=O)-)を有していればよく、カルボニル化合物としては、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、アルデヒド基、ケト基、エステル基等を有する化合物が挙げられ、カルボキシル基、酸無水物基を有する化合物であることが好ましい。カルボニル化合物は、ポリマー、オリゴマーであってもよく、この場合、カルボニル化合物としては、カルボキシル基、酸無水物基を有するポリマー、オリゴマーが好ましい。
【0090】
カルボキシル基を有する化合物としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、フタル酸、(メタ)アクリル酸が挙げられ、酸無水物基を有する化合物としては、無水コハク酸、無水マレイン、無水フタル酸が挙げられる。
【0091】
カルボニル化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
オルガノボラン-アミン錯体およびカルボニル化合物の組み合わせは特に制限されないが、硬化触媒(D2)としては、例えば、トリエチルボラン-1,3-ジアミノプロパン錯体および酢酸を含む硬化触媒、トリエチルボラン-1,3-ジアミノプロパン錯体およびグルタル酸を含む硬化触媒、トリエチルボラン-1,3-ジアミノプロパン錯体および無水コハク酸を含む硬化触媒、トリエチルボラン-ジエチレントリアミン錯体および酢酸を含む硬化触媒、トリエチルボラン-ジエチレントリアミン錯体およびグルタル酸を含む硬化触媒、トリエチルボラン-ジエチレントリアミン錯体および無水コハク酸を含む硬化触媒が挙げられる。
【0092】
硬化触媒(D2)に含まれる、オルガノボラン-アミン錯体とカルボニル化合物との比(モル比)(オルガノボラン-アミン錯体:カルボニル化合物)は、特に限定されないが、好ましくは1:0.01~1:10、より好ましくは1:0.1~1:5である。
【0093】
ハロゲン化アルキル基を有する化合物および遷移金属化合物を含む硬化触媒(D3)に含まれるハロゲン化アルキル基を有する化合物とは、1または2以上の水素がハロゲンに置換されたアルキル基を有する化合物である。前記ハロゲンとしては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。前記アルキル基の炭素数は、好ましくは1~12である。ハロゲン化アルキル基を有する化合物は、化合物内にハロゲン化アルキル基を1つ有していてもよく、2つ以上有していてもよい。
【0094】
ハロゲン化アルキル基を有する化合物としては、例えば、2-ブロモイソ酪酸エチル、2-ブロモイソブチリルブロミド、エチレンビス(2-ブロモイソブチラート)が挙げられる。
【0095】
硬化触媒(D3)に含まれる遷移金属化合物としては、例えば、カルボン酸金属塩が挙げられる。カルボン酸金属塩としては、硬化触媒(D1)の欄で挙げたカルボン酸金属塩を使用することができる。
また、硬化触媒(D3)は、さらに、ポリアミンを含むことが好ましい。ポリアミンとしては、硬化触媒(D1)の欄で挙げたポリアミンを使用することができる。
【0096】
ハロゲン化アルキル基を有する化合物および遷移金属化合物の組み合わせは特に制限されないが、硬化触媒(D3)としては、例えば、2-ブロモイソ酪酸エチル、酢酸鉄(II)およびN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンを含む硬化触媒、2-ブロモイソブチリルブロミド、酢酸鉄(II)およびN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンを含む硬化触媒、エチレンビス(2-ブロモイソブチラート)、酢酸鉄(II)およびN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンを含む硬化触媒が挙げられる。
【0097】
ラジカル硬化触媒(D)として硬化触媒(D3)を用いる場合、樹脂(A)と化合物(B)との合計100質量部に対する、ハロゲン化アルキル基を有する化合物の配合量は、特に限定されないが、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.3~5質量部である。
【0098】
樹脂(A)と化合物(B)との合計100質量部に対する、遷移金属化合物の配合量は、特に限定されないが、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.3~5質量部である。さらに、硬化触媒(D3)としてポリアミンを含む場合における、遷移金属化合物とポリアミンとの比は、硬化触媒(D1)のカルボン酸金属塩とポリアミンとの比と同じである。
【0099】
過酸化物レドックス硬化触媒(D4)とは、過酸化物を含むレドックス触媒を意味し、酸化剤としての過酸化物と還元剤とを含む硬化触媒であることが好ましい。ここで、過酸化物としては、後述の過酸化物硬化触媒(D5)で例示した過酸化物を用いることができる。還元剤としては、硬化触媒(D1)に含まれるカルボン酸金属塩を使用してもよい。また、還元剤の還元能力を向上させるため、補助還元剤を使用することも好ましく、特に、還元剤として、カルボン酸金属塩を使用した場合、硬化触媒(D1)に含まれるポリアミンをあわせて併用することが好ましい。
【0100】
硬化触媒(D4)としては、ベンゾイルペルオキシドおよびN,N-ジメチルアニリンを含む硬化触媒、クメンヒドロペルオキシド、ナフテン酸コバルトおよびα-アセチル-γ-ブチロラクトンを含む硬化触媒、ならびに、ジ-tert-ブチルペルオキシド、酢酸鉄(II)およびN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンを含む硬化触媒が好ましい。
【0101】
ラジカル硬化触媒(D)として硬化触媒(D4)を用いる場合、樹脂(A)と化合物(B)との合計100質量部に対する、過酸化物の配合量は、特に限定されないが、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.3~7質量部である。
【0102】
樹脂(A)と化合物(B)との合計100質量部に対する、還元剤の配合量は、特に限定されないが、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.3~5質量部であり、補助還元剤を使用する場合の補助還元剤の配合量は、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.3~5質量部である。
【0103】
過酸化物硬化触媒(D5)としては、例えば、ベンゾイルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、クミルペルオキシネオデカノエート等の過酸化物が挙げられる。
【0104】
アゾ化合物硬化触媒(D6)としては、例えば、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチルが挙げられる。
【0105】
なお、ラジカル硬化触媒(D)として、過酸化物硬化触媒(D5)とアゾ化合物硬化触媒(D6)とを併用することも好ましい。
【0106】
UVラジカル開始剤硬化触媒(D7)としては、例えば、ベンゾフェノン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、1-[4-(フェニルチオ)フェニル]オクタン-1,2-ジオン=2-(O-ベンゾイルオキシム)が挙げられる。
ラジカル硬化触媒(D)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0107】
<シランカップリング剤>
本発明の組成物は、低表面エネルギー基材と、異種材料との接着性を向上させるために、シランカップリング剤を含んでいてもよい。本発明の組成物は、樹脂(A)と化合物(B)と合計100質量部に対して、シランカップリング剤を1~5質量部含有すると、より異種材料との接着性が向上するため好ましい。
【0108】
<他の成分>
本発明の組成物は、さらに必要に応じて、他の成分を含んでもよい。
他の成分としては、例えば、可塑剤、滑剤、硬化促進剤、増粘剤、被膜形成助剤、剥離剤、充填剤、消泡剤、耐熱性付与剤、難燃性付与剤、帯電防止剤、導電性付与剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、重合禁止剤、防曇剤、抗菌・防カビ剤、光触媒、染料、顔料、チクソ性付与剤、可撓性付与剤、補強材(繊維、布、不織布等)、(メタ)アクリルモノマー以外の硬化性モノマー・オリゴマー、溶剤等が挙げられる。
【0109】
≪接着剤組成物の組成、製造方法等≫
本発明の組成物は、樹脂(A)を3~23質量部、化合物(B)を50~92質量部、パウダー状樹脂(C)を5~27質量部、およびラジカル硬化触媒(D)を0.5~15質量部含み、前記樹脂(A)と化合物(B)との合計が100質量部である。
【0110】
前記組成物に含まれる樹脂(A)と化合物(B)とパウダー状樹脂(C)との合計100質量部に対する樹脂(A)の配合量は、3~23質量部、好ましくは4~20質量部、より好ましくは5~18質量部である。樹脂(A)の配合量が前記下限値以上であると、良好な接着性が発現するという観点から好ましく、前記上限値以下であると、混合時のゲル化を抑制することができる観点から好ましい。
【0111】
前記組成物に含まれる樹脂(A)と化合物(B)とパウダー状樹脂(C)との合計100質量部に対する化合物(B)の配合量は、50~92質量部、好ましくは52~90質量部、より好ましくは55~85質量部である。
【0112】
前記組成物に含まれる樹脂(A)と化合物(B)とパウダー状樹脂(C)との合計100質量部に対するパウダー状樹脂(C)の配合量は、5~27質量部、好ましくは7~25質量部、より好ましくは9~24質量部である。パウダー状樹脂(C)の配合量が前記下限値以上であると、接着剤組成物の硬化性が良好であるという観点から好ましく、前記上限値以下であると、接着剤組成物の流動性を確保できるという観点から好ましい。
【0113】
前記組成物に含まれる樹脂(A)と化合物(B)とパウダー状樹脂(C)との合計100質量部に対するラジカル硬化触媒(D)の配合量は、0.5~15質量部、好ましくは0.6~14質量部、より好ましくは0.75~13質量部である。ラジカル硬化触媒(D)の配合量が前記範囲内であると、接着剤組成物から形成される接着樹脂層を充分に硬化させ、かつ良好な接着性を発現することができるため好ましい。
【0114】
本発明の組成物の製造方法としては、特に制限は無い。前記組成物は、通常は組成物を構成する成分、すなわち、樹脂(A)、化合物(B)、パウダー状樹脂(C)、ラジカル硬化触媒(D)および必要に応じて他の成分を混合することにより得ることができる。なお、ラジカル硬化触媒(D)が空気中の酸素等と反応してラジカルを発生させる場合には、酸素存在下で混合することが好ましい。
【0115】
前記組成物は、化合物(B)とパウダー状樹脂(C)とラジカル硬化触媒(D)とが混合等により接触すると、化合物(B)の重合反応が開始して接着剤組成物から得られる接着樹脂層が硬化するため、使用の直前に各成分を混合するか、化合物(B)とパウダー状樹脂(C)とラジカル硬化触媒(D)とが接触しないように二液型または多成分型(一部の成分が固形、粉体でも良い)の接着剤として調製して保存し、使用直前に両者あるいは全ての成分を混合することが好ましい。
【0116】
このとき、樹脂(A)は、化合物(B)と混合した状態で保存してもよいが、ラジカル硬化触媒(D)とは接触しない状態で保存した方が好ましい。
【0117】
また、ラジカル硬化触媒(D)が空気中の酸素等と反応してラジカルを発生させる場合には、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下(酸素不存在下)で、各成分を混合し、一液型の接着剤として前記組成物を調製してもよい。この場合には、使用の際に、空気中の酸素等と接触することにより硬化が始まる。
【0118】
本発明の組成物は、調製後、例えば、室温にて静置することによって、硬化した接着樹脂層を形成することができる。このとき、例えば、基材を2枚用意し、一方の基材上に前記組成物を塗布し、もう一方の基材を張り合わせた状態で、前記組成物を硬化させることにより、2枚の基材を接着することができる。また、ラジカル硬化触媒(D)の種類によっても異なるが、前記組成物を硬化させる際に、加熱してもよく、また、紫外線等の活性エネルギー線を照射してもよい。
【0119】
本発明の組成物は、様々な基材を接着することが可能であり、接着界面親和性の確保と、接着樹脂層の硬化とを両立することができるため、特にポリプロピレン等の低表面エネルギー基材であっても接着することができる。また、本発明の組成物は、プライマーが不要である。さらに本発明の組成物は、樹脂(A)、化合物(B)、パウダー状樹脂(C)およびラジカル硬化触媒(D)が相互作用して架橋構造が形成されるため、耐熱性にも期待できる。
【0120】
本発明の組成物が、低表面エネルギー基材の接着に好適な理由は明らかではないが、本発明者らは次のような理由であると推測した。まず、ラジカル硬化触媒(D)から高活性なラジカルが発生する。発生したラジカルは、樹脂(A)が有するC-X結合(前記Xはハロゲンである)からハロゲンを引き抜き、樹脂(A)が有する炭素上にラジカルを発生させることができる。さらに、ラジカル硬化触媒(D)から発生したラジカルは、パウダー状樹脂(C)が有するC-H結合から水素を引き抜き、パウダー状樹脂(C)が有する炭素上にラジカルを発生させることができる。このようにして、組成物中には、ラジカル硬化触媒(D)から発生したラジカルに加え、樹脂(A)の炭素上に発生したラジカル等が混在する。これらのラジカルによって、ポリプロピレン等の低表面エネルギー基材の表面のC-H結合から水素を引抜き、生成したCラジカルから化合物(B)がグラフト重合したり、化合物(B)の重合反応を開始させたりすることによって、接着界面が共有結合で結合し、強い接着が得られ接着界面親和性の確保できたり、化合物(B)を重合させ接着樹脂層を硬化させたりできる。
【0121】
本発明の接着剤組成物は、前記特徴を有するため、様々な素材からなる基材、例えばポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、ナイロン、ポリアセタール、炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP)、SUS等からなる基材を接着することが可能であり、異種材料の複合体製造も可能となる。従って、電気機器、自動車、車輌、船舶、住宅設備機器等、様々な構造物を構成する部品等の接着やコーティング等に使用することができる。
【0122】
[接着剤層]
本発明の接着剤層は、本発明の接着剤組成物を基材に塗布することで得られる。
接着剤層の平均膜厚は、100~4000μmであることが好ましく、150~3800μmがより好ましく、200~3500μmがさらに好ましい。本発明の接着剤組成物は、接着剤層が厚い場合でも接着端部および接着剤層の硬化性が良好であるため、このような厚さの接着剤層を、機械的物性に優れた状態で形成することができる。
【0123】
さらに、接着剤層の平均膜厚は、硬化性の観点から前記パウダー状樹脂(C)の粒度分布中の最頻度粒子径(モード径)よりも大きいことが好ましい。例えば接着剤組成物層の厚みが200μmの場合は、パウダー状樹脂(C)の体積基準の最頻度粒子径(モード径)は100~170μmが好ましく、厚みが1000μmの場合は、パウダー状樹脂(C)の最頻度粒子径(モード径)は150~900μm、厚みが3000μmの場合は、パウダー状樹脂(C)の最頻度粒子径(モード径)は200~2800μmというように、接着剤組成物層の厚みに応じて適宜選択することができる。
【実施例0124】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。以下の実施例等の記載において、特に言及しない限り、「部」は「質量部」を示す。
物性の測定方法は、以下のとおりである。
【0125】
[重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、およびMw/Mn]
塩化ビニリデン・アクリロニトリル共重合物について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により、下記条件でMwおよびMw/Mnを求めた。
・測定装置:HLC-8320GPC(東ソー製)
・GPCカラム構成:以下の4連カラム(すべて東ソー製)
(1)TSKgel HxL-H(ガードカラム)
(2)TSKgel GMHxL
(3)TSKgel GMHxL
(4)TSKgel G2500HxL
・流速:1.0mL/min
・カラム温度:40℃
・サンプル濃度:1.5%(w/v)(テトラヒドロフランで希釈)
・移動相溶媒:テトラヒドロフラン
・標準ポリスチレン換算
【0126】
[合成例1(塩化ビニリデン・アクリロニトリル共重合物の合成)]
特開平7-316233号公報を参考に、塩化ビニリデン・アクリロニトリル共重合物の合成を、以下の方法で行った。
まず、ガラス製1L耐圧反応器内に、イオン交換水100部、アルキル硫酸ナトリウム2部、過硫酸ナトリウム0.9部を仕込み撹拌を行いながら窒素ガスを1L/minで30分吹き込み、その後ウォータバスを用いて反応器内容物の温度を50℃に保った。別の容器に塩化ビニリデン81質量%、アクリロニトリル19質量%の比で混合してモノマー混合物を調製した。前記反応器内にアクリロニトリル1.3部を添加した後、前述のモノマー混合物3部を仕込み、その後に残りのモノマー混合物97部を16時間かけて全量連続添加した。このとき亜硫酸水素ナトリウム0.1部もモノマー混合物と一緒に連続添加した。前記モノマー混合物と亜硫酸水素ナトリウムの滴下が終了してから10時間後に反応終了とした。この水分散体を60℃に加温した塩化カルシウムの3%水溶液の中に撹拌しながら滴下した後、生成した凝集物を水洗、乾燥して白色粉末状の塩化ビニリデン・アクリロニトリル共重合物を得た。得られた塩化ビニリデン・アクリロニトリル共重合物のMwは26.0万、Mw/Mnは4.5、塩素含有量は59質量%、ニトリル基含有量(塩化ビニリデン・アクリロニトリル共重合物1g中のニトリル基の量(mol))は3.8×10‐3mol/gであった。なお、前記MwおよびMw/Mnはゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により上記条件で求めた値であり、前記塩素含有量およびニトリル基含有量は、原料の配合量に基づいて計算により算出した値である。
【0127】
[合成例2(PUR-powder:ポリウレタンパウダーの合成)]
熱可塑性ポリウレタン樹脂(Lubrizol、PearlthaneTM D91M80、Mw:160,000g/mol、ガラス転移温度(Tg):-37℃、熱分解温度(Td):約290℃)100部を用い、二軸スクリュー押出機(直径(D)=32mm、長さ/直径(L/D)=40)、パウダー製作用ノズルにてポリウレタンパウダーを製作した。前記二軸スクリュー押出機は、220℃の温度条件及び5kg/hrの押出量条件に設定した。押出された前記熱可塑性ポリウレタン樹脂(粘度5Pa・s)を、300℃の温度に設定されたパウダー製作用ノズルに供給した。また、約350℃の空気を約1m3/minの流量でノズル断面の中心部と外郭部に供給し、前記押出された熱可塑性ポリウレタン樹脂は空気が供給されるノズルの中心部と外郭部の間に供給されるようにした。ノズルに供給された熱可塑性ポリウレタン樹脂は高温の空気と接触してパウダー化され、その後、冷却チャンバ(直径(D)=1,100mm、長さ(L)=3,500mm)に供給した。冷却チャンバは、予め-25℃の空気を約6m3/minの流量で注入して回転気流を形成するように調節した。供給されたパウダーを冷却チャンバ内で40℃以下冷却し、バッグフィルターを通して回収した。得られた粒子の粒度分布中の最頻度粒子径(モード径)は400μmであった。
【0128】
[合成例3](PP-powder:ポリプロピレンパウダーの合成)
熱可塑性ポリプロピレン樹脂(株式会社プライムポリマー社製 プライムポリプロJ108M、メルトフローレート:45g/10min-230℃、ロックウェル硬さ115)100部を用い、乾式粉砕方式ディスク振動ミル(川崎重工社製T-100)を用いて粉砕し、ポリプロピレンパウダーを製作した。乾式粉砕方式ディスク振動ミルから得られた1次パウダーを篩(公称目開き:710μm)にかけて粗大粒子を取り除いた。得られたポリプロピレンパウダーの最頻度粒子径(モード径)は600μmであった。
【0129】
[実施例1]
合成例1の塩化ビニリデン・アクリロニトリル共重合物15部と、THF-A(テトラヒドロフルフリルアクリレート)「ビスコート#150」(大阪有機化学工業製)31部と、THF-MA(テトラヒドロフルフリルメタクリレート)「ライトエステルTHF」(共栄社化学製)31部とをガラス製の容器に投入し、各成分が均一に溶解するまで10分程度混合した。次いで、ラジカルソースとしてポリエチレンパウダー「パウダーレジンPR1055C 100PASS」(東京インキ製)23部を投入し、均一に分散するまで5分程度混合することにより接着剤主剤を調整した。
得られた接着剤主剤に、硬化触媒としてFe(Ac)2(酢酸鉄(II)、東京化成工業製)1.74部と、TMEDA(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、広栄化学工業製)2.32部を投入した。その後、均一に溶解または分散するまで3分程度混合し接着剤組成物を調製した。
得られた接着剤組成物について、各種評価を行った。
【0130】
[実施例2~45、比較例1~10]
配合組成を表1~表3に示すとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、接着剤組成物を得て、各種評価を行った。評価方法については後述する。
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
表1~表3中の各成分の記号の意味は以下の通りである。
(樹脂)
・PVdClAN:前記合成例1で得られた塩化ビニリデン・アクリロニトリル共重合物、塩素含有量(ハロゲン含有量)59質量%、ニトリル基含有量3.8×10-3mol/g
【0135】
(モノマー)
・THF-A:「ビスコート#150」、テトラヒドロフルフリルアクリレート、大阪有機化学工業製
・THF-MA:「ライトエステルTHF」、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、共栄社化学製
・MA:アクリル酸メチル、三菱化学製
・MMA:「アクリエステルM」、メチルメタクリレート、三菱レイヨン製
・DMAA:「DMAA」、ジメチルアクリルアミド、KJケミカルズ製
・st:スチレン、NSスチレンモノマー製
・TMPTA:「ビスコート#295」、トリメチロールプロパントリアクリレート、大阪有機化学工業製
・DAP100:「ダイソーダップ100モノマー」、ジアリルイソフタレートモノマー、大阪ソーダ製
【0136】
(硬化触媒)
・Fe(Ac)2:酢酸鉄(II)、東京化成工業製、分子量:172.19
・TMEDA:N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、広栄化学工業製、分子量:116.12
・CuAc:酢酸銅(I)、東京化成工業製、分子量:122.59
・PMDETA:N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン、東京化成工業製、分子量:173.3
・TEBDAP:トリエチルボラン-1,3-ジアミノプロパン錯体、BASF製、分子量:171.8
・GulOH:グルタル酸、東京化成工業製、分子量:132.12
・BPO:ベンゾイルペルオキシド、「ナイパーBW(水25質量%含有)」、日油製、分子量:242.23(なお、表1に記載の値は、水を含むナイパーBWの使用量である。)
・DMany:N,N-ジメチルアニリン、東京化成工業製、分子量:121.19
・BZP:UVラジカル開始剤(ベンゾフェノン)、和光純薬工業製、分子量:182.22
【0137】
(パウダー状樹脂)
・PE-55C:「パウダーレジンPR1055C 100PASS」(ポリエチレン、体積基準の最頻度粒子径(モード径):150μm)、東京インキ製
・PE-45M:「パウダーレジンPR1045M 30PASS」(ポリエチレン、体積基準の最頻度粒子径(モード径):500μm)、東京インキ製
・PP:前記合成例3で得られたポリプロピレンパウダー(ポリプロピレン、体積基準の最頻度粒子径(モード径):600μm)
・EVA-15M:「パウダーレジン5015M」(エチレン酢酸ビニル共重合体、体積基準の最頻度粒子径(モード径):1700μm)、東京インキ製
・EVA-30S:「パウダーレジン2030MX-S」(エチレン酢酸ビニル共重合体、体積基準の最頻度粒子径(モード径):250μm)、東京インキ製
・PAM-61L:「パウダーレジンF-961-L」(ポリアミド、体積基準の最頻度粒子径(モード径):500μm)、東京インキ製
・PAM-61Z:「パウダーレジンF-961-Z」(ポリアミド、体積基準の最頻度粒子径(モード径):150μm)、東京インキ製
・PEST:「パウダーレジンG-801L」(ポリエステル、体積基準の最頻度粒子径(モード径):250μm)、東京インキ製
・PUR:前記合成例2で得られたポリウレタンパウダー(ポリウレタン、体積基準の最頻度粒子径(モード径):400μm)
・ER:パウダーレジンER-100C(合成エラストマー、体積基準の最頻度粒子径(モード径):250μm)、東京インキ製
【0138】
[接着剤組成物中におけるパウダー状樹脂(C)の不溶性評価]
合成例1の塩化ビニリデン・アクリロニトリル共重合物15部と、THF-A(テトラヒドロフルフリルアクリレート)「ビスコート#150」(大阪有機化学工業製)31部と、THF-MA(テトラヒドロフルフリルメタクリレート)「ライトエステルTHF」(共栄社化学製)31部とをガラス製の容器に投入し、各成分が均一に溶解するまで10分程度混合した。次いで、ラジカルソースとしてポリエチレンパウダー「パウダーレジンPR1055C 100PASS」(東京インキ製)23部を投入し、均一に分散するまで5分程度混合することにより接着剤主剤を調整した。パウダー状樹脂を表4に示す通りに変更した以外は上述と同様にそれぞれ接着剤組成物主剤を調整した。
【0139】
添加した直後の接着剤組成物主剤の粘度、および、ガラス瓶に入れて密封し、25℃で1週間保管後の接着剤組成物主剤の粘度を測定した。添加直後に対する添加1週間後の粘度上昇率[%](添加1週間後の接着剤組成物主剤の粘度/添加直後の接着剤組成物の粘度×100)を求めた。さらに、1週間保管後の接着剤組成物主剤について、ガラス瓶から取り出す際の液流動性を目視で確認したところ、パウダー状樹脂の塊や接着剤組成物の凝集が無く、液が均一にガラス瓶から流れて取り出せた状態であったため、パウダー状樹脂の種類によらず接着剤組成物主剤の液流動性が良好(AA)であることを確認した。
【0140】
【0141】
表4中の各成分の記号は前述の通りである。
【0142】
[接着剤組成物の評価方法]
接着剤組成物の各物性の評価方法を以下に記載する。
【0143】
<引張せん断強度>
実施例および比較例で得られた接着剤組成物、および基材としてポリプロピレンシート(以下、「PPシート」ともいう。)(25mm×100mm×1.6mm厚)2枚、または前記PPシート1枚およびSUS1枚を用い、JIS K 6850(引張せん断接着強さ)に基づき、貼り合せ面が25mm×12.5mm、接着剤組成物層の厚さがそれぞれ200μm、500μm、1000μm、2000μm、3000μm、3500μmとなる様に、一方の基材に接着剤組成物を塗布し、もう一方の基材と貼り合わせ、23℃/50%RHにて24時間静置させ測定用サンプルを作製した。
【0144】
なお、実施例16においては、PPシート同士を張り合わせた後、またはPPシートとSUSとを張り合わせた後に、紫外線照射装置(JATEC製、ピーク波長365nm)を用いてPPシート側から紫外線を150mVで20分照射した。次いで、23℃/50%RHにて24時間静置させ、測定用サンプルを作製した。
得られた測定用サンプルの引張せん断接着強度を、10kNロードセルを用いて、引張り速度1cm/分、23℃の条件下で万能型引張り試験機オートグラフAG-X(島津製作所製)で測定した。
【0145】
引張せん断接着強度測定後の破壊面を観察し、破壊形態が、基材破壊(sf)、凝集破壊(cf)、界面破壊(af)のいずれであるか判断した。
凝集破壊(cf)したものについては、試験後のサンプルを酢酸エチルで洗浄した。洗浄後のサンプルの接着樹脂残渣を目視で観察し、70%以上の面積に接着樹脂残渣が観察されたものを「cf-3」、70%未満の面積に接着樹脂残渣が観察されたものを「cf-7」と評価した。
【0146】
<接着剤組成物層の接着端部硬化性>
上述の測定用サンプルについて、基材間の接着剤組成物層の接着端部の硬化状態と臭気の確認とを下記の基準に基づいて評価した。
(評価基準)
AA:接着剤組成物が硬化しており、臭気がない。
BB:接着剤組成物が硬化しているが、臭気が僅かにある。
CC:接着剤組成物が柔らかく、臭気が明らかにある。
DD:接着剤組成物が硬化しておらず、臭気が明らかにある。
【0147】
<モノマー転化率>
合成例1で得られた接着剤組成物をガラス製容器内で、室温・大気雰囲気下にて24時間静置した。その後、ガスクロマトグラフィー(Agilient製 7890)で残存モノマー量を測定し、下記式にてモノマー転化率を求めた。
モノマー転化率(質量%)={(100-残存モノマー量(部))/(添加したモノマー量(100部換算)}×100
【0148】
各評価結果を表1~表3に示す。