(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047722
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】架橋ゴム組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/16 20060101AFI20220317BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
C08L23/16
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020153650
(22)【出願日】2020-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】赤堀 真之
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 明繁
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 直生
(72)【発明者】
【氏名】高田 十志和
(72)【発明者】
【氏名】筒場 豊和
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB022
4J002BB112
4J002BB151
4J002BE022
4J002BL012
4J002BL022
4J002CF182
4J002CH012
4J002CL012
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】高い収率で得られ、切断時伸びが飛躍的に大きく、切断時引張強さも優れる架橋ゴム組成物を提供する。
【解決手段】エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴムが、環状分子と該環状分子を貫通する軸分子とを含むロタキサン化合物で架橋されてなる架橋ゴム組成物である。前記エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴムは、ジエン成分がビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエン又はテトラヒドロインデンである。前記ロタキサン化合物は、前記環状分子と前記軸分子の一方末端とにそれぞれニトリルオキシド基を有し、前記環状分子がクラウンエーテルである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴムが、環状分子と該環状分子を貫通する軸分子とを含むロタキサン化合物で架橋されてなる架橋ゴム組成物であって、
前記エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴムは、ジエン成分がビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエン又はテトラヒドロインデンであり、
前記ロタキサン化合物は、前記環状分子と前記軸分子の一方末端とにそれぞれニトリルオキシド基を有し、前記環状分子がクラウンエーテルであることを特徴とする架橋ゴム組成物。
【請求項2】
前記エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴムは、ジエン成分がビニルノルボルネンである請求項1記載の架橋ゴム組成物。
【請求項3】
前記ジエン成分1モルに対して前記ロタキサン化合物0.5モルを1当量としたときの該ロタキサン化合物の配合当量が、0.1~5である請求項1又は2記載の架橋ゴム組成物。
【請求項4】
前記架橋ゴム組成物の切断時伸びが少なくとも1000%である請求項1、2又は3記載の架橋ゴム組成物。
【請求項5】
前記架橋ゴム組成物の切断時伸びが少なくとも2000%であり、切断時引張り強さが少なくとも1MPaである請求項1、2又は3記載の架橋ゴム組成物。
【請求項6】
前記架橋ゴム組成物の切断時伸びが少なくとも1500%であり、切断時引張り強さが少なくとも2MPaである請求項1、2又は3記載の架橋ゴム組成物。
【請求項7】
前記架橋ゴム組成物の伸び1000%における応力が少なくとも1MPaである請求項1、2、3又は6記載の架橋ゴム組成物。
【請求項8】
前記架橋ゴム組成物の切断時伸びが少なくとも1000%であり、切断時引張り強さが少なくとも4MPaである請求項1、2又は3記載の架橋ゴム組成物。
【請求項9】
前記架橋ゴム組成物の伸び500%における応力が少なくとも1MPaである請求項1、2、3又は8記載の架橋ゴム組成物。
【請求項10】
ジエン成分がビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエン又はテトラヒドロインデンであるエチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴムを、環状分子と該環状分子を貫通する軸分子の一方末端とにそれぞれニトリルオキシド基を有するロタキサン化合物を架橋剤として用いて、反応温度40℃以上で架橋することを特徴とする架橋ゴム組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋ゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
加硫ゴムはその優れた特性のため、工業材料として広く利用されている。未加硫ゴムを各種手法で加硫することで、強度と弾性が発現するが、その切断時伸びには限りがある。より破断しにくい強靭なゴムがあれば、従来は適用できなかった大変形領域への適用が広がるが、既存の加硫ゴム組成物では適用ができない。
【0003】
特許文献1には、架橋点にロタキサン構造を有する架橋高分子であるロタキサンネットワークポリマー(RCP)等を合成するために用いられる、「1個以上の環状分子、及び前記1個以上の環状分子を貫通している1個の鎖状分子(註:本願での「軸分子」に相当する。)からなり、前記1個以上の環状分子、及び前記1個の鎖状分子のうちのいずれか1個以上の分子が、それぞれ、ニトリルオキシド基、及びアジド基からなる群より選択される1個以上の反応性基を有する、ロタキサン化合物」が開示されている。
【0004】
また、特許文献1には、実施例9-1として、ポリブタジエンゴム、天然ゴム、スチレン・ブタジエンゴム等の原料ゴムを、ニトリル-N-オキシド4-3[2]ロタキサンと、クロロホルム中で24時間溶液反応させることで、溶媒に不溶な架橋体が得られたことも開示されている。
【0005】
なお、特許文献1の別の箇所には、ゴムの列挙中の一つとしてエチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴムも挙げられている。しかし、エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴムをロタキサン化合物と反応させて架橋体を得たという実施例は無く、エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴムの詳細についての記載もない。また、特許文献1の課題は、「多様な構造のロタキサンネットワークポリマー等の合成を可能とする」というものであり、架橋体の伸び、強度、収率等についての検討までは含まれていない。伸び及び強度は、特に自動車用ゴム部品(ウェザストリップ、ホース、ドライブシャフトブーツなど)において要求されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ロタキサン化合物は、環状分子に軸分子が相対スライド可能に貫通し、軸分子の両末端に配された封鎖基により環状分子が脱離しない構造の分子集合体であり、スライドリングマテリアルとも称されている。
【0008】
本発明者らは、このロタキサン化合物により架橋部分がスライド可能に架橋(以下「スライド架橋」ということがある。)されたゴムについて注目している。スライド架橋により、伸びの向上が期待できるからである。しかし、エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴムとして最も一般的に使用されている、ジエン成分がエチリデンノルボルネンであるエチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴムを、環状分子と軸分子の一方末端にニトリルオキシド基を有するロタキサン化合物で架橋することを試みたところ、収率が低く、反応後に回収不可能になるロタキサン化合物を予め余分に多量配合する必要があるため、量産に向かないという問題が判明した。
【0009】
そこで、本発明の目的は、高い収率で得られ、切断時伸びが飛躍的に大きく、切断時引張強さも優れる架橋ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴムは、エチレン成分,プロピレン成分,ジエン成分からなる。ニトリルオキシド基は、ジエン成分にクリック反応可能であるが、本発明者らの検討によると、エチリデンノルボルネン基に対しては反応効率が低いため、前記のとおり収率が低くなる。さらに鋭意検討した結果、ジエン成分がビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエン又はテトラヒドロインデンであるエチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴムを用いることで、ニトリルオキシド基とビニルノルボルネン基、ジシクロペンタジエン基又はテトラヒドロインデン基との反応効率が高くなることを見出した。
【0011】
[1]架橋ゴム組成物
エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴムが、環状分子と該環状分子を貫通する軸分子とを含むロタキサン化合物で架橋されてなる架橋ゴム組成物であって、
前記エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴムは、ジエン成分がビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエン又はテトラヒドロインデンであり、
前記ロタキサン化合物は、前記環状分子と前記軸分子の一方末端とにそれぞれニトリルオキシド基を有し、前記環状分子がクラウンエーテルであることを特徴とする架橋ゴム組成物。
【0012】
ここで、前記エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴムは、ジエン成分がビニルノルボルネンであることが好ましい。架橋ゴム組成物の収率が特に高くなるからである。
【0013】
また、前記ジエン成分1モルに対して前記ロタキサン化合物0.5モルを1当量としたときの該ロタキサン化合物の配合当量が、0.1~5であることが好ましい。
【0014】
前記架橋ゴム組成物の引張特性は、前記ロタキサン化合物の配合当量の調整等によって制御することができ、例えば次の各特性を得ることができる。
(ア)切断時伸びが少なくとも1000%である。
(イ)切断時伸びが少なくとも2000%であり、切断時引張り強さが少なくとも1MPaである。
(ウ)切断時伸びが少なくとも1500%であり、切断時引張り強さが少なくとも2MPaである。
(エ)伸び1000%における応力が少なくとも1MPaである。
(オ)切断時伸びが少なくとも1000%であり、切断時引張り強さが少なくとも4MPaである。
(カ)伸び500%における応力が少なくとも1MPaである。
【0015】
[2]架橋ゴム組成物の製造方法
ジエン成分がビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエン又はテトラヒドロインデンであるエチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴムを、環状分子と該環状分子を貫通する軸分子の一方末端とにそれぞれニトリルオキシド基を有するロタキサン化合物を架橋剤として用いて、反応温度40℃以上で架橋することを特徴とする架橋ゴム組成物の製造方法。
【0016】
[作用]
ニトリルオキシド基(以下「CNO基」)は1,3-双極子の一種であり、不飽和結合であるジエン成分の二重結合と[3+2]付加環化反応のクリック反応を起こす。よって、ロタキサン化合物の環状分子のCNO基は、エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴム(以下「EPDM」)分子のジエン成分にクリック反応し、軸分子に対してスライド可能な架橋部分をつくる。また、該軸分子の一方末端のCNO基は、別のEPDM分子のジエン成分にクリック反応し、固定的な架橋点をつくる。これにより、2つのEPDM分子はスライド架橋される(後述する
図1(a)参照)。
【0017】
従来の固定型架橋では、絡み合った主鎖が伸びきったところで延伸の余地が無くなる。これに対して、スライド架橋では、絡み合った主鎖が伸びきってからも架橋部分がスライド可能であることでさらに延伸でき、切断時伸びが飛躍的に大きくなるとともに、切断時引張強さも高くなる。よって、本発明の架橋ゴム組成物は、大きい伸び及び高い引張強さが要求される、例えば自動車用部品(例えばウェザストリップ、ホース、ドライブシャフトブーツなど)の製造に好適に用いることができる。
【0018】
また、ジエン成分がビニルノルボルネン(以下「VNB」)、ジシクロペンタジエン(以下「DCPD」)又はテトラヒドロインデン(以下「THI」)であるEPDMを用いることで、CNO基はVNB基、DCPD基又はTHI基と高い反応効率でクリック反応し、架橋ゴム組成物の収率が高くなる。よって、本発明の架橋ゴム組成物は、反応後に回収不可能になるロタキサン化合物を予め余分に多量配合する必要がないため、例えば自動車部品などの大量生産品に適用することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高い収率で得られ、切断時伸びが飛躍的に大きく、切断時引張強さも高い架橋ゴム組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1の(a)は実施例1のRCP-VNB-EPDMの模式図、(b)は比較例1のCCP-VNB-EPDMの模式図である。
【
図2】
図2は実施例1及び比較例1の引張試験で記録された応力-歪み曲線を示すグラフ図である。
【
図3】
図3は実施例2~4及び比較例2,3の引張試験で記録された応力-歪み曲線を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明における各要素の態様を以下に例示する。
【0022】
1.EPDM
EPDMとしては、前記のとおり、ジエン成分がVNB、DCPD又はTHIであるEPDMを用いる。
ジエン含量は、特に限定されない。
【0023】
2.ロタキサン化合物
環状分子としては、前記のとおりクラウンエーテルを用いる。
軸分子1個に包接されている環状分子の個数は、1個でも複数個でもよいが、1個が好ましい。ロタキサン化合物の運動性が良好かつ、ロタキサン化合物の合成反応が制御しやすいからである。
【0024】
軸分子としては、軸分子の一方末端にCNO基を導入できるものであれば特に限定されず、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン等のポリエーテル類、ポリ乳酸等のポリエステル類、6-ナイロン等のポリアミド類、ポリイソプレン、ポリブタジエン等のジエン系重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリイソブチレン等のビニル重合体や、ポリジメチルシロキサン等を例示できる。
【0025】
軸分子の他方末端の封鎖基としては、特に限定されず、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、置換ベンゼン類(置換基として、アルキル、アルキルオキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、スルホニル、カルボキシル、アミノ、フェニルなどを例示できる。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、置換されていてもよい多核芳香族類(置換基として、上記と同じものを例示できる。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、及びステロイド類等を例示できる。
【0026】
3.EPDMとロタキサン化合物との反応温度
当該反応温度は、40℃以上であれば、一定以上の収率が得られる。好ましくは60℃以上とすることで反応が促進される。当該反応温度の上限は、特に限定されないが、敢えていえば250℃である。
【実施例0027】
以下、本発明を具体化した架橋ゴム組成物及びその製造方法の実施例について、次の順に説明する。但し、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0028】
<1>CNO基との反応性が高いEPDMの探索
<2>CNO基含有ロタキサン化合物架橋剤の合成
<2-1>DB24C8NAの合成
<2-2>[2]Rot-(NA)2)の合成
<2-3>[2]Rot-(CNO)2)の合成
<3>架橋ゴム組成物の作製と引張試験
<3-1>実施例1(RCP)と比較例1(CCP)
<3-2>実施例2~4(RCP)と比較例2(未加硫)と比較例3(過酸化物加硫)
【0029】
<1>CNO基との反応性が高いEPDMの探索
実施例に先立ち、表1に示す試験例1~9のとおり、CNO基との反応性が高いEPDMを探索する試験を行った。
【0030】
【0031】
EPDMとしては、試験例1ではENB-EPDM(ジエン含量5.0質量%)を、試験例2ではジエン成分がTHIであるTHI-EPDM(ジエン含量4.0質量%)を、試験例3ではジエン成分がDCPDであるDCPD-EPDM(ジエン含量2.5質量%)を、試験例4~8ではジエン成分がVNBであるVNB-EPDM(ジエン含量2.5質量%)を、試練例9ではVNB-EPDM(ジエン含量1.4質量%)を、それぞれ用いた。
【0032】
CNO基を有する架橋剤としては、ロタキサンではなく、次の化1で示される1,1,12,12-テトラフェニル-1,12ーN-オキシシアノ- 2,5,8,11-テトラオキサドデカン(以下「二官能CNOという。」を用いた。同試験の目的は、EPDMとCNO基との反応性を調べることにあり、反応性と架橋部分のスライド性とは無関係だからである。
【0033】
【0034】
試験例1~4では、各EPDM 0.1gをトルエン 1.0mlに溶解させ、さらに少量のトルエンに溶解させた二官能CNO 1当量(註:二官能CNO1分子はジエン成分2分子と反応するから、ジエン1モルに対して二官能CNO0.5モルを1当量とする。)を配合して、オイルバス100℃(反応温度)で5時間加熱攪拌した。架橋されて生成した不溶部を、クロロホルムで洗浄し、減圧乾燥することで架橋EPDMゴムを得た。
試験例5,6は、試験例4の方法に対して、二官能CNOを0.5当量、0.2当量に変更した点のみ相違し、その他は同様の方法で行うことで架橋EPDMゴムを得た。
試験例7,8は、試験例4の方法に対して、反応温度を60℃,23℃に変更した点のみ相違し、その他は同様の方法で行うことで架橋EPDMゴムを得た。
試験例9は、試験例4の方法に対して、VNB-EPDMをジエン含量1.4質量%のものに変更した点のみ相違し、その他は同様の方法で行うことで架橋EPDMゴムを得た。
【0035】
試練例1~9における架橋EPDMゴムの収率を、反応後のトルエン不溶EPDMの重量より求めた(表1)。
【0036】
(試験結果)
試験例1では、収率が24%であった。これは、反応後に3/4以上のEPDM成分が非架橋ポリマーとして残っていたことを意味し、1当量添加した架橋剤成分の多くが架橋反応に関与していなかったことを意味する。
試験例2~4では、試験例1に対して収率が顕著に向上しており、特に試験例4~7,9では収率が90%以上と非常に高かった。この結果から、CNO基との反応性が高いEPDMは、VNB-EPDM、DCPD-EPDM又はTHI-EPDMであり、特に反応性が高いのはVNB-EPDMであることが判明した。但し、反応温度を23℃まで下げた試験例8では収率がなかった。
【0037】
<2>CNO基含有ロタキサン化合物架橋剤の合成
本項中の記号及び略号の意味を、以下に示す。
NACOOH:7-ニトロ-6,6-ジフェニル-5-オキサヘプタン酸
DB24C8OH:[1,2]ベンゾ-[13,14](2-ヒドロキシメチル)ベンゾ- 2 4 - クラウン- 8-エーテル
DB24C8NA:[1,2]ベンゾ-[13,14][2-(7-ニトロ-6,6-ジフェニル-5-オキサ-ヘプタノイロキシメチル)]ベンゾ- 2 4 - クラウン- 8-エーテル
[2]Rot-(NA)2:[2]ロタキサン-ニトロアルカン
[2]Rot-(CNO)2:[2]ロタキサン-ニトリルオキシド
【0038】
<2-1>DB24C8NAの合成
まず、ヒドロキシ基を有する環状分子(クラウンエーテル)であるDB24C8OHから、ニトロ基を導入したDB24C8NAを合成した。
【0039】
【0040】
化2のスキームに示すように、NACOOH 0.66g(2.0mmol)とDB24C8OH 0.96g(2.0mmol)とを脱水ジクロロメタンに溶解させ、N,N'-ジイソプロピルカルボジイミド 0.38g(3.0mmol),トリブチルホスフィン 40μg(0.20mmol)を加えて、室温(18~28℃(以下同じ))で24時間撹拌した。1H NMRにより反応を追跡したところ、未反応のNACOOHが残っていたため、さらにN,N'-ジイソプロピルカルボジイミド 0.38g(3.0mmol),トリブチルホスフィン 40μg(0.20mmol)を加えて、室温で24時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル)、(クロロホルム→クロロホルム/メタノール=95/5)で精製することで、白色固体のDB24C8NA 1.0gを得た。
【0041】
<2-2>[2]Rot-(NA)2の合成
次に、1個の前記DB24C8NAを1個の軸分子に保持するとともに該軸分子の一方末端にニトロ基を導入したロタキサン化合物であるRot-(NA)2を合成した。
【0042】
【0043】
化3のスキームに示すように、他方末端に封鎖基を有する軸分子である3,5-ジメルフェニルメチル 12-ヒドロキシドデシルアンモニウム ヘキサフルオロフォスフェート0.86g(1.8mmol)とDB24C8NA 2.2g(2.8mmol)を脱水ジクロロメタン3.7mLに溶解させ、室温で2時間撹拌した。これにより、軸分子に環状分子を1つ保持した。その後、NACOOH 1.2g(3.7mmol)、N,N'-ジイソプロピルカルボジイミド 0.70g(5.5mmol),トリブチルホスフィン 37μg(0.18mmol)を加えて、室温で24時間撹拌した。これにより、軸分子の一方末端にニトロ基を導入した。ヘキサンに沈殿させた後、分取GPC(クロロホルム)で精製することで、[2]Rot-(NA)2 1.5g(51%)を得た。
【0044】
<2-3>[2]Rot-(CNO)2の合成
次に、前記[2]Rot-(NA)2から、環状分子(1個)と軸分子(1個)の一方末端とにCNO基を有するロタキサン化合物である[2]Rot-(CNO)2を合成した。
【0045】
【0046】
化4のスキームに示すように、アルゴン雰囲気下で、[2]Rot-(NA)2 0.96g(0.61mmol)に脱水THF 12mL、フェニルイソシアネート 0.87g(7.3mmol)、トリエチルアミン 1.1g(11mmol)を加え、室温で6時間撹拌した。これにより、環状分子と軸分子の片末端とにCNO基を生成した。不溶部をろ別し、溶媒を留去した後、クロロホルムに溶解させ、不溶部をろ別した。残渣をヘキサンに沈殿させ、分取GPC(クロロホルム)とシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=1/2)で精製することで、[2]Rot-(CNO)2 0.57g(67%)を得た。
【0047】
<3>架橋ゴム組成物の作製と引張試験
本項中の記号及び略号の意味を、以下に示す。
RCP:ロタキサン架橋ポリマー
CCP:共有結合架橋ポリマー
【0048】
<3-1>実施例1(RCP)と比較例1(CCP)
【0049】
【0050】
EPDMとしては、前記<1>の試験例4~8よりもジエン含量が少ないVNB-EPDM(ジエン含量1.4質量%)を用いた。
CNO基を有する架橋剤としては、実施例1では前記[2]Rot-(CNO)2を用い、比較例1では前記<1>の試験と同じ二官能CNOを用いた。
【0051】
実施例1では、VNB-EPDM 1.0gをトルエン 20mLに溶解させ、シャーレに流し込んだ。さらに、少量のトルエンに溶解させた[2]Rot-(CNO)2 40mg(0.5当量に当たる。Rot-(CNO)2 1分子はジエン成分2分子と反応するから、ジエン 1モルに対してRot-(CNO)2 0.5モルを1当量とする。)を配合して、室温で12時間静置した後、100℃に熱したホットプレート上、大気中で12時間反応させた。生成したフィルムをクロロホルムに浸漬させた後、大気中、室温及び真空中で乾燥させることで、RCP-VBN-EPDMのフィルムを得た。
【0052】
比較例1は、実施例1の方法に対して、架橋剤を二官能CNO 1当量に当たる34mgに変更した点のみ相違し、その他は同様の方法で作製したものであり、CCP-EPDMゴムのフィルムを得た。
【0053】
図1(a)に、実施例1のRCP-VBN-EPDMの構造を模式的に示す。Rot-(CNO)
2の環状分子のCNO基は、EPDM分子のVNB基にクリック反応し、軸分子に対してスライド可能な架橋部分をつくる。また、該軸分子の一方末端のCNO基は、別のEPDM分子のVNB基にクリック反応し、固定的な架橋点をつくる。これにより、2つのEPDM分子はスライド架橋されている。
【0054】
図1(b)に、比較例1のCCP-VBN-EPDMの構造を模式的に示す。二官能CNOの軸分子の一方末端のCNO基は、EPDM分子のVNB基にクリック反応し、該軸分子の他方末端のCNO基は、別のEPDM分子のVNB基にクリック反応する。これにより、2つのEPDM分子は固定型に架橋されている。
【0055】
実施例1及び比較例1で得たフィルムの膜厚を測定した(表2)。これらのフィルムをダンベル 7号形(JIS K-6251に準拠)の試料に加工し、引張試験機を用いて、つかみ具間距離20mm、引張速度10mm/分、室温で引張試験を行い、応力-歪み曲線を記録し(
図2)、切断時伸び、切断時引張強さ、ヤング率(歪み30%で算出)を測定した(表2)。
【0056】
(測定結果)
比較例1の切断時伸びは、EPDMとして一般的な範囲内の値である。
実施例1の2263%という切断時伸びは、比較例1に対して3倍以上であり、EPDMとして類を見ない大きさであった。また、実施例1の切断時引張強さは、絶対値としては格別高くはないが、比較例1に対しては伸び増大に伴って3倍以上である。実施例1は前記引張特性の(イ)を満たす。
【0057】
また、表2には掲載していないが、実施例1では前記試験例4等と同様に収率が90%以上と高かった。
【0058】
<3-2>実施例2~4(RCP)と比較例2(未加硫)と比較例3(過酸化物加硫)
【0059】
【0060】
EPDMとしては、前記<1>の試験例4~8よりもジエン量が少ないVNB-EPDM(ジエン含量1.4質量%)を用いた。
架橋剤としては、実施例2~4では前記[2]Rot-(CNO)2を用い、比較例2では用いず、比較例3では次の化5で示されるジクミルパーオキサイド(DCP)を用いた。
【0061】
【0062】
実施例2は、実施例1の方法に対して、オープンコーターを用いて成膜した点と、反応時間を1時間とした点のみ相違し、その他は同様の方法で作製したものであり、RCP-EPDMゴムのフィルムを得た。
実施例3,4は、実施例2の方法に対して、[2]Rot-(CNO)2を2当量、4当量に変更し、その他は同様の方法で作製したものであり、RCP-EPDMゴムのフィルムを得た。
【0063】
比較例2は、未加硫のVNB-EPDMのフィルムである。
比較例3は、実施例2の方法に対して、架橋剤をDCPに変更した点のみ相違し、その他は同様の方法で作製したものであり、過酸化物加硫EPDMゴムのフィルムを得た。
【0064】
実施例2~4及び比較例2,3で得たフィルムの膜厚を測定した(表3)。これらのフィルムについて前記実施例1と同様に引張試験を行い、応力-歪み曲線を記録し(
図3)、切断時伸び、切断時引張強さ、ヤング率(30%で算出)を測定した(表3)。
【0065】
(測定結果)
比較例2は、歪み2500%で破断しなかったため測定を停止し、停止時の応力は極めて低かった。
比較例3は、切断時伸びが比較例1よりも小さく、切断時引張強さが比較例1よりも大きいが、いずれもEPDMとして一般的な範囲内の値である。
実施例2(1当量)は、歪み2500%で破断しなかったため測定を停止し、停止時の応力は実施例1(1当量)の切断時引張強さよりも低かった。これは、実施例1に対して膜厚が相違するためと考えられる。実施例2は前記引張特性の(イ)を満たす。
実施例3(2当量)は、切断時伸びが実施例1よりも小さくなったがEPDMとしては非常に大きく、また、切断時引張強さが実施例1よりも高くなり比較例3(過酸化物加硫)をも上回った。実施例3は前記引張特性の(ウ)(エ)を満たす。
実施例4(4当量)は、切断時伸びが実施例2よりも小さくなったが1000%を優に越えており、また、切断時引張強さが実施例2よりもさらに高くなった。実施例4は前記引張特性の(オ)(カ)を満たす。
【0066】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、例えば次のように、発明の要旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
【0067】
(1)各実施例で用いたVNB-EPDMに代えて、試験例2,3で試験例1に対して収率が向上することが確認されたDCPD-EPDM又はTHI-EPDM(両者のうちではDCPD-EPDMの方が収率が高く好ましい。)を用い、その他は各実施例と同様に実施すること。その場合も、伸び及び引張り強さの向上が得られ、収率は(各実施例に対しては低下するが)ENB-EPDMに対しては顕著に向上する。
(2)本発明の架橋ゴム組成物に、他のゴムポリマーをブレンドすること。
実施例1では、VNB-EPDM 1.0gをトルエン 20mLに溶解させ、シャーレに流し込んだ。さらに、少量のトルエンに溶解させた[2]Rot-(CNO)2 40mg(0.5当量に当たる。Rot-(CNO)2 1分子はジエン成分2分子と反応するから、ジエン 1モルに対してRot-(CNO)2 0.5モルを1当量とする。)を配合して、室温で12時間静置した後、100℃に熱したホットプレート上、大気中で12時間反応させた。生成したフィルムをクロロホルムに浸漬させた後、大気中、室温及び真空中で乾燥させることで、RCP-VNB-EPDMのフィルムを得た。