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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047724
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】複層塗膜および複層塗膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/20 20060101AFI20220317BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20220317BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20220317BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220317BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20220317BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220317BHJP
   C09D 201/00 20060101ALN20220317BHJP
【FI】
B32B27/20 A
B05D3/00 D
B05D1/36 Z
B05D7/24 303A
B05D5/06 Z
C09D7/61
C09D201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020153652
(22)【出願日】2020-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】薮下 千聡
(72)【発明者】
【氏名】上林 由佳
(72)【発明者】
【氏名】上原 多麻美
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 由依
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AA02
4D075AE03
4D075AE06
4D075BB25Z
4D075BB26Z
4D075BB60Z
4D075BB75X
4D075BB89X
4D075BB91X
4D075BB91Y
4D075CA47
4D075CA48
4D075CB01
4D075DA06
4D075DB02
4D075DB36
4D075DC11
4D075EA06
4D075EA43
4D075EB14
4D075EB22
4D075EB32
4D075EB35
4D075EC01
4D075EC07
4D075EC11
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4D075EC35
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4D075EC54
4F100AA37A
4F100AB03C
4F100AK25A
4F100AK25B
4F100AK36A
4F100AK36B
4F100AK36E
4F100AK41E
4F100AL05A
4F100AL05B
4F100BA02
4F100BA04
4F100BA05
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4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100CA13A
4F100CA13B
4F100CA30B
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4F100EH46A
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4F100JL10A
4F100JL10B
4F100JM01A
4F100JM01B
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4F100YY00A
4F100YY00B
4J038CG001
4J038DD001
4J038DL031
4J038HA036
4J038HA066
4J038HA216
4J038HA486
4J038HA546
4J038KA08
4J038KA20
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA01
4J038PB07
4J038PC01
(57)【要約】
【課題】 明度が低い塗膜を有する複層塗膜において、従来の意匠とは異なる独特な意匠を提供すること。
【解決手段】 第1塗膜および第2塗膜を少なくとも有する複層塗膜であって、
上記第1塗膜は、第1塗膜形成樹脂および着色顔料を含む第1塗料組成物の硬化塗膜であり、 上記第2塗膜は、第2塗膜形成樹脂および着色顔料を含む第2塗料組成物の硬化塗膜であり、上記第1塗膜は入射角45°受光角45°の彩度C*が10以下であり、明度L*が10以下であり、上記第2塗膜は、単独塗膜の光線透過率として、波長410~440nmおよび510~590nmにおいて3~35%、波長650~700nmにおいて85~95%である、複層塗膜。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1塗膜および第2塗膜を少なくとも有する複層塗膜であって、
前記第1塗膜は、第1塗膜形成樹脂および着色顔料を含む第1塗料組成物の硬化塗膜であり、
前記第2塗膜は、第2塗膜形成樹脂および着色顔料を含む第2塗料組成物の硬化塗膜であり、
前記第1塗膜は、入射角45°受光角45°の彩度C*が10以下であり、明度L*が10以下であり、
前記第2塗膜は、単独塗膜の光線透過率として、波長410~440nmおよび510~590nmにおいて3~35%、波長650~700nmにおいて85~95%である、複層塗膜。
【請求項2】
前記第2塗膜は、単独塗膜として、マンセル表色系の色相が1R~10Rである、請求項1記載の複層塗膜。
【請求項3】
前記複層塗膜の光線反射率は、波長420~570nmにおいて0.4%未満であり、波長580~700nmにおいて0.4%以上2%以下である、
請求項1または2記載の複層塗膜。
【請求項4】
前記第1塗膜に含まれる光輝性顔料の量は、樹脂固形分100質量部に対して3質量部以下である、
請求項1~3いずれかに記載の複層塗膜。
【請求項5】
前記第2塗膜は赤色顔料を含み、前記第2塗膜に含まれる赤色顔料の量は、樹脂固形分100質量部に対して0.1~6質量部である、
請求項1~4いずれかに記載の複層塗膜。
【請求項6】
前記複層塗膜のフリップフロップ値が1.05以上2未満である、請求項1~5いずれかに記載の複層塗膜。
【請求項7】
被塗物に、第1塗料組成物および第2塗料組成物を順次塗装して、複層塗膜を形成する方法であって、
前記第1塗料組成物は、第1塗膜形成樹脂および着色顔料を含み、
前記第2塗料組成物は、第2塗膜形成樹脂および着色顔料を含み、
前記第1塗料組成物を硬化して得られる第1塗膜は、入射角45°受光角45°の彩度C*が10以下であり、明度L*が10以下であり、
前記第2塗料組成物を硬化して得られる第2塗膜は、単独塗膜の光線透過率として、波長410~440nmおよび510~590nmにおいて3~35%、波長650~700nmにおいて85~95%である、
複層塗膜の形成方法。
【請求項8】
被塗物に、第1塗料組成物、第2塗料組成物およびクリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで順次塗装して、複層塗膜を形成する方法であって、
前記第1塗料組成物は、第1塗膜形成樹脂および着色顔料を含み、
前記第2塗料組成物は、第2塗膜形成樹脂および着色顔料を含み、
前記第1塗料組成物を硬化して得られる第1塗膜は、入射角45°受光角45°の彩度C*が10以下であり、明度L*が10以下であり、
前記第2塗料組成物を硬化して得られる第2塗膜は、単独塗膜の光線透過率として、波長410~440nmおよび510~590nmにおいて3~35%、波長650~700nmにおいて85~95%である、
複層塗膜の形成方法。
【請求項9】
前記複層塗膜の光線反射率が、波長420~570nmにおいて0.4%未満であり、波長580~700nmにおいて0.4%以上2%以下である、
請求項7または8記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項10】
請求項1~6いずれかに記載の複層塗膜を有する物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層塗膜および複層塗膜の形成方法に関する。
【0002】
自動車車体などの被塗物の表面には、種々の役割を持つ複数の塗膜を順次形成して、被塗物を保護すると同時に美しい外観および優れた意匠を付与している。このような複数の塗膜の形成方法としては、導電性に優れた被塗物上に電着塗膜などの下塗り塗膜を形成し、その上に、必要に応じた中塗り塗膜、そして上塗り塗膜を順次形成する方法が一般的である。これらの塗膜において、特に塗膜の外観および意匠を大きく左右するのは、ベース塗膜とクリヤー塗膜とからなる上塗り塗膜である。特に自動車において、車体上に形成されるベース塗膜とクリヤー塗膜とからなる上塗り塗膜の外観および意匠は、極めて重要である。
【0003】
近年、自動車塗装の分野では、高い意匠性を有する塗膜の開発が行われている。例えば単色カラーであるソリッドカラーよりも、見る角度などにより明度などが変化する塗色が好まれる傾向などがある。さらに、消費者の好みの多様化および独自性志向により、例えば単なる明度変化だけではなく、より独特な意匠が求められている。
【0004】
特許第5765741号明細書(特許文献1)には、被塗装物表面に対して、着色顔料および光輝材を含むメタリックベース塗膜、着色顔料を含む着色ベース塗膜およびクリヤー塗膜を形成する高意匠複層塗膜形成方法であって、単独メタリックベース塗膜の光線反射率が、波長650~700nmにおいて45~50%、かつ、波長410~440nmおよび510~590nmにおいて20%以下であり、単独着色ベース塗膜の光線透過率が、波長400~700nmにおいて50~70%、波長650~700nmにおいて88~92%、かつ、波長410~440nmおよび510~590nmにおいて20~60%である方法が記載される。この方法によって形成される高意匠複層塗膜は、いわゆるキャンディカラー塗膜であり、第1層および第2層の色相が同系色である塗膜である。
【0005】
特許第6411343号明細書(特許文献2)には、塩素法酸化チタン顔料、黄色酸化鉄顔料、一次平均粒子径が15~80nmの範囲内であるカーボンブラック顔料及びビヒクル形成成分である樹脂組成物を含む塗料組成物であって、塗料組成物を硬化塗膜として25μmとなるように塗装して得られた塗膜の波長420nm~480nmにおける光線透過率の平均値が0.1~1.0%であり、硬化塗膜のL*a*b*表色系におけるL*値が80~95、a*値が-2.0~2.0、b*値が0.1~5.0の範囲内である塗料組成物が記載されている。この特許文献2に記載される発明は、高明度且つ波長420~480nmにおける紫外線透過率が低い塗膜を形成可能な塗料組成物、及び被塗物に前記塗料組成物を塗装して得られた塗膜上に、カラーベース塗膜を積層する塗膜形成方法を提供することを目的とする(第[0005]段落)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5765741号明細書
【特許文献2】特許第6411343号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の複層塗膜は、色ムラが発生しにくく、そして彩度と明度が高く、色に深み感があることが記載される。また特許文献2の塗料組成物は、高明度でありながら紫外線透過率が低いため、促進耐候試験などにおいてはがれが生じないと記載される。
これに対して本発明は、明度L*値が低い第1塗膜を有する複層塗膜において、従来の意匠とは異なる独特な意匠を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
第1塗膜および第2塗膜を少なくとも有する複層塗膜であって、
上記第1塗膜は、第1塗膜形成樹脂および着色顔料を含む第1塗料組成物の硬化塗膜であり、
上記第2塗膜は、第2塗膜形成樹脂および着色顔料を含む第2塗料組成物の硬化塗膜であり、
上記第1塗膜は、入射角45°受光角45°の彩度C*が10以下であり、明度L*が10以下であり、
上記第2塗膜は、単独塗膜の光線透過率として、波長410~440nmおよび510~590nmにおいて3~35%、波長650~700nmにおいて85~95%である、複層塗膜。
[2]
上記第2塗膜は、単独塗膜として、マンセル表色系の色相が1R~10Rである、[1]記載の複層塗膜。
[3]
上記複層塗膜の光線反射率は、波長420~570nmにおいて0.4%未満であり、波長580~700nmにおいて0.4%以上2%以下である、
[1]または[2]記載の複層塗膜。
[4]
上記第1塗膜に含まれる光輝性顔料の量は、樹脂固形分100質量部に対して3質量部以下である、
[1]~[3]いずれかに記載の複層塗膜。
[5]
上記第2塗膜は赤色顔料を含み、上記第2塗膜に含まれる赤色顔料の量は、樹脂固形分100質量部に対して0.1~6質量部である、
[1]~[4]いずれかに記載の複層塗膜。
[6]
上記複層塗膜のフリップフロップ値が1.05以上2未満である、[1]~[5]いずれかに記載の複層塗膜。
[7]
被塗物に、第1塗料組成物および第2塗料組成物を順次塗装して、複層塗膜を形成する方法であって、
上記第1塗料組成物は、第1塗膜形成樹脂および着色顔料を含み、
上記第2塗料組成物は、第2塗膜形成樹脂および着色顔料を含み、
上記第1塗料組成物を硬化して得られる第1塗膜は、入射角45°受光角45°の彩度C*が10以下であり、明度L*が10以下であり、
上記第2塗料組成物を硬化して得られる第2塗膜は、単独塗膜の光線透過率として、波長410~440nmおよび510~590nmにおいて3~35%、波長650~700nmにおいて85~95%である、
複層塗膜の形成方法。
[8]
被塗物に、第1塗料組成物、第2塗料組成物およびクリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで順次塗装して、複層塗膜を形成する方法であって、
上記第1塗料組成物は、第1塗膜形成樹脂および着色顔料を含み、
上記第2塗料組成物は、第2塗膜形成樹脂および着色顔料を含み、
上記第1塗料組成物を硬化して得られる第1塗膜は、入射角45°受光角45°の彩度C*が10以下であり、明度L*が10以下であり、
上記第2塗料組成物を硬化して得られる第2塗膜は、単独塗膜の光線透過率として、波長410~440nmおよび510~590nmにおいて3~35%、波長650~700nmにおいて85~95%である、
複層塗膜の形成方法。
[9]
上記複層塗膜の光線反射率が、波長420~570nmにおいて0.4%未満であり、波長580~700nmにおいて0.4%以上2%以下である、
[7]または[8]記載の複層塗膜の形成方法。
[10]
[1]~[6]いずれかに記載の複層塗膜を有する物品。
【発明の効果】
【0009】
上記複層塗膜は、明度L*値が10以下と低い第1塗膜を有しており、複層塗膜全体としては黒色の色調として認識される塗膜でありながら、入射光の強度および角度に依存して視認される色の印象が変化するという独特な意匠をもたらすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
最初に、本発明に至った経緯を説明する。本発明の研究者らは、黒色のような暗色の色調において独特な意匠を有する塗膜を開発することを目的として研究を行ってきた。その中で、ソリッドカラーと言われる、黒色の色調を有する単色カラー塗膜において、従来のソリッドカラーにはない、陰影感、深み感を付与する手法を検討してきた。
【0011】
塗膜に深み感を付与する手法の1つとして、ハイライト位置およびシェード位置の反射強度明度を変化させて、フリップフロップ値を高くする方法がある。これにより、見る角度により塗膜の明度が変化することとなり、陰影感が感じられるようになる。
【0012】
しかしながら、黒色の塗膜に陰影感を付与することを目的として、光輝性顔料の1種であるアルミニウム顔料を塗膜に加えたところ、アルミニウム顔料自体の色味が加わることにより明度が高くなり、グレーの色相となることが判明した。またアルミニウム顔料を加えることによって、光輝性顔料の粒状感が視認されることとなり、いわゆるメタリック塗膜の意匠となった。一方で、さらなる検討として、光輝性顔料としてマイカを塗膜に加えたところ、塗膜全体に白濁のような濁りが生じてしまい、黒色塗膜が有する締まり感が損なわれることが判明した。このように、黒色の色調の塗膜に、陰影感、深み感を付与することは、従来の技術では困難であった。
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った。その中で、色相が異なる塗膜を積層させることによって、黒色の色調の塗膜に、陰影感、深み感を付与することが可能となることを、実験により見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本開示における複層塗膜は、第1塗膜およびこの第1塗膜の上に設けられた第2塗膜を少なくとも有する複層塗膜である。上記第1塗膜は、彩度C*が10以下、明度L*が10以下であり、上記第2塗膜は、単独塗膜の光線透過率として、波長410~440nmおよび510~590nmにおいて3~35%、波長650~700nmにおいて85~95%であることを特徴とする。以下、第1塗膜を形成する第1塗料組成物、第2塗膜を形成する第2塗料組成物について順次記載する。
【0015】
第1塗料組成物
本開示における第1塗膜は、第1塗料組成物の硬化塗膜である。上記第1塗料組成物は、第1塗膜形成樹脂および着色顔料を含む塗料組成物である。
【0016】
上記第1塗料組成物は第1塗膜形成樹脂を含む。第1塗膜形成樹脂として例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。上記第1塗料組成物は、水性塗料組成物であってもよく、溶剤型塗料組成物であってもよい。
【0017】
上記第1塗料組成物が水性塗料組成物である場合は、第1塗膜形成樹脂として例えば、アクリル樹脂エマルション(アクリルシリコーン樹脂エマルション、アクリルウレタン樹脂エマルションなども含む)、アクリル樹脂ディスパージョン(アクリルシリコーン樹脂ディスパージョン、アクリルウレタン樹脂ディスパージョンなども含む)、水溶性アクリル樹脂、ポリエステル樹脂ディスパージョン、ポリウレタン樹脂ディスパージョン、エポキシ樹脂ディスパージョンなどを含むのが好ましい。これらの樹脂は1種のみを単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。上記樹脂は、当業者において通常用いられる方法により調製することができる。上記樹脂として市販品を用いてもよい。
【0018】
好ましい態様として例えば、アクリル樹脂エマルションおよび水溶性アクリル樹脂のうちいずれかまたは両方を用いる態様、アクリル樹脂エマルション、水溶性アクリル樹脂およびポリエステル樹脂ディスパージョンを用いる態様、アクリル樹脂エマルション、水溶性アクリル樹脂およびポリウレタン樹脂ディスパージョンを用いる態様などが挙げられる。
【0019】
アクリル樹脂エマルションは、例えば、α,β-エチレン性不飽和モノマー混合物の乳化重合によって調製することができる。アクリル樹脂エマルションの調製に用いられる好ましいα,β-エチレン性不飽和モノマーとして、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーおよび水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーが挙げられる。
【0020】
上記(メタ)アクリル酸エステルとして、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸ジヒドロジシクロペンタジエニルなどが挙げられる。なお、本明細書において(メタ)アクリル酸エステルとはアクリル酸エステルとメタアクリル酸エステルとの両方を意味するものとする。
【0021】
酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2-アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-アクリロイルオキシエチルコハク酸、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、イソクロトン酸、α-ハイドロ-ω-((1-オキソ-2-プロペニル)オキシ)ポリ(オキシ(1-オキソ-1,6-ヘキサンジイル))、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、3-ビニルサリチル酸、3-ビニルアセチルサリチル酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、p-ヒドロキシスチレン、2,4-ジヒドロキシ-4’-ビニルベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0022】
水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーとして、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、アリルアルコール、メタリルアルコール、および、これらとε-カプロラクトンとの付加物などが挙げられる。これらの中で好ましいものは、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、および、これらとε-カプロラクトンとの付加物である。
【0023】
上記α,β-エチレン性不飽和モノマー混合物はさらに、その他のα,β-エチレン性不飽和モノマーを用いてもよい。その他のα,β-エチレン性不飽和モノマーとしては、重合性アミド化合物、重合性芳香族化合物、重合性ニトリル、重合性アルキレンオキシド化合物、多官能ビニル化合物、重合性アミン化合物、α-オレフィン、ジエン、重合性カルボニル化合物、重合性アルコキシシリル化合物、重合性のその他の化合物を挙げることができる。上記α,β-エチレン性不飽和モノマーは目的に併せて、必要に応じて種々選択することができる。
【0024】
アクリル樹脂エマルションは、上記α,β-エチレン性不飽和モノマー混合物を乳化重合して調製することができる。乳化重合は、特に限定されず、通常の方法を用いて行うことができる。具体的には、例えば、水、または必要に応じてアルコール、エーテル(例えば、ジプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルなど)などのような有機溶媒を含む水性媒体中に乳化剤を溶解させ、加熱撹拌下、上記α,β-エチレン性不飽和モノマー混合物および重合開始剤を滴下することにより行うことができる。乳化剤と水とを用いて予め乳化したα,β-エチレン性不飽和モノマー混合物を同様に滴下してもよい。
【0025】
上記重合開始剤、乳化剤は、当業者に通常使用されているものを用いることができる。必要に応じて、ラウリルメルカプタンのようなメルカプタンおよびα-メチルスチレンダイマーなどのような連鎖移動剤を用いて分子量を調節してもよい。反応温度、反応時間などは、当業者に通常用いられる範囲で適宜選択することができる。反応により得られたアクリル樹脂エマルションは、必要に応じて塩基で中和してもよい。
【0026】
上記アクリル樹脂エマルションは、数平均分子量の下限が3000であることが好ましい。また、上記アクリル樹脂エマルションは、水酸基価(固形分水酸基価)が下限20mgKOH/g上限180mgKOH/gを有することが好ましく、酸価(固形分酸基価)が下限1mgKOH/g上限80mgKOH/gであることが好ましい。
【0027】
本明細書において数平均分子量は、ポリスチレンを標準とするGPC法において決定される値である。本明細書において酸価および水酸基価は、JISの規定に基づいて、調製に用いられるモノマー組成から算出される値である。
【0028】
水溶性アクリル樹脂は、例えば、上記アクリル樹脂エマルションの調製に用いることができるα,β-エチレン性不飽和モノマーを含むモノマー混合物を溶液重合し、塩基性化合物により水溶化することにより調製することができる。アクリル樹脂ディスパージョンは、例えば、上記アクリル樹脂エマルションの調製に用いることができるα,β-エチレン性不飽和モノマーを含むモノマー混合物を溶液重合し、塩基性化合物でディスパージョン化することにより、調製することができる。
【0029】
ポリエステル樹脂ディスパージョンは、例えば、多価アルコール成分と多塩基酸成分とを縮合し、塩基性化合物でディスパージョン化することにより、調製することができる。ポリウレタン樹脂ディスパージョンは、例えば、ポリオール化合物と、分子内に活性水素基と親水基を有する化合物と、有機ポリイソシアネートとを、必要により鎖伸長剤および重合停止剤を用いてポリマー化し、得られたポリマーを水中に溶解または分散することによって、調製することができる。
【0030】
上記第1塗料組成物が水性塗料組成物である場合は、上記第1塗膜形成樹脂に対して反応する硬化剤を用いるのが好ましい。このような硬化剤は、上記第1塗膜形成樹脂と反応して塗膜を形成する、塗膜形成成分である。硬化剤として、メラミン樹脂、ブロックイソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、金属イオンなどを用いることができる。これらは1種のみを単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。上記成分は、当業者において通常用いられる方法により調製することができる。上記成分として市販品を用いてもよい。硬化剤として、メラミン樹脂およびブロックイソシアネート化合物のいずれかまたは両方を用いるのがより好ましい。
【0031】
メラミン樹脂は、水溶性メラミン樹脂および/または非水溶性メラミン樹脂を用いることができる。メラミン樹脂は、メラミン核(トリアジン核)の周囲に3個の窒素原子を介して水素原子または置換基(アルキルエーテル基、メチロール基など)が結合した構造を含む。上記メラミン樹脂は、一般的には、複数のメラミン核が互いに結合した多核体により構成されるものである。一方で上記メラミン樹脂は1個のメラミン核からなる単核体であってもよい。
【0032】
上記メラミン樹脂として市販品を用いてもよい。市販品の具体例として、例えば、Allnex社製のサイメルシリーズ(商品名)、具体的には、サイメル202、サイメル204、サイメル211、サイメル232、サイメル235、サイメル236、サイメル238、サイメル250、サイメル251、サイメル254、サイメル266、サイメル267、サイメル272、サイメル285、サイメル301、サイメル303、サイメル325、サイメル327、サイメル350、サイメル370、サイメル701、サイメル703、サイメル1141;および、三井化学社製のユーバン(商品名)シリーズなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
ブロックイソシアネート化合物は、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどからなるポリイソシアネートに、活性水素を有するブロック剤を付加させることによって、調製することができる。このようなブロックイソシアネート樹脂は、加熱によりブロック剤が解離してイソシアネート基が発生し、上記樹脂成分中の官能基と反応して硬化する。
【0034】
硬化剤の量は、塗料樹脂固形分質量(上記塗膜形成樹脂および硬化剤を含む塗膜形成成分の固形分質量)を基準にして10~80質量%であるのが好ましく、15~60質量%であるのがより好ましい。
【0035】
上記第1塗料組成物は顔料を含む。顔料として、例えば、着色顔料、体質顔料などが挙げられる。体質顔料として、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルクなどを挙げることができる。上記顔料はさらに、必要に応じて防錆顔料を含んでもよい。
【0036】
着色顔料として、各種無機着色顔料および有機着色顔料を用いることができる。なお本明細書において「着色顔料」は、有彩色の着色顔料および無彩色の着色顔料を含む。
着色顔料として、例えば、カーボンブラック、黒鉛(グラファイト)、鉄黒(アイアンブラック)、鉄クロムやビスマスマンガン等の複合金属酸化物、ペリレン系黒色顔料、アゾメチアゾ系顔料などの黒色系顔料;
紺青、群青、コバルトブルー、銅フタロシアニンブルー、インダンスロンブルーなどの青色系顔料;
黄鉛、合成黄色酸化鉄、ビスマスバナデート、チタンイエロー、亜鉛黄(ジンクエロー)、オーカー、モノアゾイエロー、ジスアゾイエロー、イソインドリノンイエロー、金属錯塩アゾイエロー、キノフタロンイエロー、ベンズイミダゾロンイエローなどの黄色系顔料;
酸化鉄、透明酸化鉄、モノアゾレッド、キナクリドンレッド、アゾレーキ(Mn塩)、ペリレンレッド、ペリレンマルーンなどの赤色系顔料;
キナクリドンマゼンタ、アンサンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ピラゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンオレンジ、ジケトピロロピロールクロムバーミリオンなどの橙色系顔料;
塩素化フタロシアニングリーン、臭素化フタロシアニングリーンなどの緑色系顔料;
ジオキサジンバイオレット、ペリレンバイオレットなどの紫色系顔料;
2酸化チタンなどの白色系顔料;
などを挙げることができる。
【0037】
上記第1塗料組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で光輝性顔料を含んでもよい。ここでいう光輝性顔料は、鱗片形状の顔料であって、アスペクト比(顔料の最大径の平均/顔料の厚みの平均)が、10以上である顔料をいう。光輝性顔料として、例えば、アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、酸化アルミニウムおよびこれらの合金などの金属製光輝性顔料、そして、干渉マイカ顔料、ホワイトマイカ顔料、グラファイト顔料、ガラスフレーク顔料などが挙げられる。上記光輝性顔料が含まれる場合は、本発明の効果を損なわない範囲で含むことを条件として、樹脂固形分(塗膜形成成分の固形分)100質量部に対して例えば0.1~3質量部の範囲で含んでもよい。
【0038】
上記アスペクト比における顔料の最大径の平均および顔料の厚みの平均の測定は、顔料を、形状解析レーザーマイクロスコープ(例えばキーエンス社製 VK-X 250など)を用いて観察し、任意に選択した100個の顔料の最大長さ(長径)の数平均値を求めることによって測定することができる。
【0039】
水性第1塗料組成物は、上記成分に加えて、当業者において通常用いられる添加剤、例えば、表面調整剤、粘性制御剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、消泡剤などを含んでもよい。例えば粘性制御剤を用いることによって、チクソトロピー性を付与することができ、塗装作業性を調整することができる。粘性制御剤として、例えば、架橋あるいは非架橋の樹脂粒子、脂肪酸アマイドの膨潤分散体、アマイド系脂肪酸、長鎖ポリアミノアマイドのリン酸塩などのポリアマイド系のもの、酸化ポリエチレンのコロイド状膨潤分散体などのポリエチレン系などのもの、有機酸スメクタイト粘土、モンモリロナイトなどの有機ベントナイト系のものなどを挙げることができる。これらの添加剤を用いる場合は、当業者において通常用いられる量で用いることができる。
【0040】
上記水性第1塗料組成物は、必要に応じて、上記成分に加えてさらにリン酸基含有有機化合物を含んでもよい。
【0041】
上記水性第1塗料組成物は、溶媒として、水、そして必要に応じた水溶性または水混和性有機溶媒を含んでもよい。
【0042】
上記水性第1塗料組成物の製造は、第1塗膜形成樹脂、着色顔料、硬化剤、そして必要に応じた他の成分、添加剤などを、ディスパー、ホモジナイザー、ニーダーなどを用いて混練・分散するなどの当業者において通常用いられる方法で製造することができる。上記製造方法において、例えば、着色顔料および必要に応じた顔料分散剤を含むペーストを予め調製し、混合するのが好ましい。顔料分散剤として、市販の顔料分散剤などを用いることができる。
【0043】
上記第1塗料組成物が溶剤型塗料組成物である場合は、第1塗膜形成樹脂として例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂(ウレタン変性ポリエステル樹脂なども含む)などが挙げられる。これらの樹脂は1種のみを単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。
【0044】
アクリル樹脂は、例えば、α,β-エチレン性不飽和モノマーを含むモノマー混合物を、溶液重合を行うことにより調製することができる。上記アクリル樹脂は、数平均分子量が1000~20000であるのが好ましい。上記アクリル樹脂はまた、酸価(固形分酸価)が1~80mgKOH/gであるのが好ましく、10~45mgKOH/gであるのがより好ましい。また、水酸基価(固形分水酸基価)が10~200mgKOH/gであるのが好ましい。
【0045】
アクリル樹脂として市販品を用いてもよい。市販品として、例えば、三菱レイヨン社製のダイヤナールHRシリーズなどが挙げられる。
【0046】
アクリル樹脂の量は、塗料樹脂固形分質量(塗膜形成成分の固形分質量)を基準にして30~80質量%であるのが好ましく、35~70質量%であるのがより好ましい。
【0047】
上記ポリエステル樹脂として、例えば水酸基含有ポリエステル樹脂を用いることができる。水酸基含有ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸および/または酸無水物などの酸成分と多価アルコールとを重縮合することによって調製することができる。
【0048】
上記第1塗料組成物が溶剤型塗料組成物である場合は、上記第1塗膜形成樹脂に対して反応する硬化剤を用いるのが好ましい。硬化剤として、メラミン樹脂、ブロックイソシアネート化合物などを用いることができる。これらは1種のみを単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。上記成分は、当業者において通常用いられる方法により調製することができる。上記成分として市販品を用いてもよい。
【0049】
上記硬化剤は、メラミン樹脂を含むのが好ましい。メラミン樹脂としては、特に限定されるものではなく、メチル化メラミン樹脂、ブチル化メラミン樹脂、メチル・ブチル混合型メラミン樹脂などを用いることができる。例えばAllnex社から市販されているサイメルシリーズ、三井化学社から市販されているユーバンシリーズなどが挙げられる。メラミン樹脂の量は、塗料樹脂固形分質量(上記塗膜形成樹脂および硬化剤を含む塗膜形成成分の固形分質量)を基準にして10~50質量%であるのが好ましく、15~40質量%であるのがより好ましい。
【0050】
上記硬化剤はさらに、ブロックイソシアネート化合物を含むのが好ましい。ブロックイソシアネート化合物は、ポリイソシアネートに、活性メチレン基を有する化合物、ケトン化合物またはカプロラクタム化合物などのブロック化合物を付加反応させることによって調製することができる。ブロックイソシアネート化合物として市販品を用いてもよい。市販品として、例えば、旭化成社製のデュラネートシリーズ、住化コベストロウレタン社製のスミジュールシリーズなどが挙げられる。
【0051】
第1塗料組成物に含まれるブロックイソシアネート化合物の量は、塗料樹脂固形分質量(上記塗膜形成樹脂および硬化剤を含む塗膜形成成分の固形分質量)を基準にして10~30質量%であるのが好ましく、15~25質量%であるのがより好ましい。
【0052】
溶剤型第1塗料組成物は、上記第1塗膜形成樹脂および着色顔料を含む。着色顔料として、上記着色顔料を同様に用いることができる。溶剤型第1塗料組成物は、上記成分に加えて、当業者において通常用いられる添加剤、例えば、硬化触媒、表面調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤など、当業者において通常用いられる添加剤などを含んでもよい。
【0053】
溶剤型第1塗料組成物は、塗装時に、有機溶剤を用いて希釈することによって、固形分濃度および粘度を適宜調整することができる。用いることができる有機溶媒として、例えば、エステル系溶剤、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族系溶剤などが挙げられる。
【0054】
上記溶剤型第1塗料組成物は、必要に応じて、上記成分に加えてさらにリン酸基含有有機化合物を含んでもよい。
【0055】
上記溶剤型第1塗料組成物の製造は、第1塗膜形成樹脂、硬化剤、顔料、リン酸基含有有機化合物および添加剤などを、ディスパー、ホモジナイザー、ニーダーなどを用いて混練・分散するなどの当業者において通常用いられる方法で製造することができる。上記製造方法において、例えば、着色顔料および必要に応じた顔料分散剤を含むペーストを予め調製し、混合するのが好ましい。
【0056】
第2塗料組成物
本開示における第2塗膜は、第2塗料組成物の硬化塗膜である。上記第2塗料組成物は、第2塗膜形成樹脂および着色顔料を含む塗料組成物である。第2塗料組成物は、上記第1塗料組成物と同様に、水性塗料組成物であってもよく、溶剤型塗料組成物であってもよい。このような第2塗料組成物は、第1塗料組成物と同様の手順により調製することができる。
【0057】
第2塗膜形成樹脂として、上記第1塗膜形成樹脂と同様の樹脂を用いることができる。上記第1塗膜形成樹脂および第2塗膜形成樹脂は、同一の樹脂組成であってもよく、異なる樹脂組成であってもよい。
【0058】
第2塗料組成物は顔料を含む。顔料として、例えば、着色顔料、体質顔料などが挙げられる。体質顔料として、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルクなどを挙げることができる。
【0059】
第2塗料組成物に含まれる着色顔料として、各種無機着色顔料および有機着色顔料を用いることができる。着色顔料として、上記着色顔料を用いることができる。
【0060】
本開示では、第2塗料組成物を塗装し硬化させることによって形成される第2塗膜は、単独塗膜の光線透過率として、波長410~440nmおよび510~590nmにおいて3~35%、波長650~700nmにおいて85~95%である。このような第2塗膜を形成する第2塗料組成物は、赤色顔料を含むのが好ましい。赤色顔料として、例えば、酸化鉄、透明酸化鉄、モノアゾレッド、キナクリドンレッド、アゾレーキ(Mn塩)、ペリレンレッド、ペリレンマルーンなどを挙げることができる。
【0061】
第2塗料組成物に含まれる赤色顔料の量は、第2塗膜に含まれる赤色顔料の量が樹脂固形分100質量部に対して0.1~6質量部となる量であるのが好ましい。上記含有量は、0.5~5質量部であるのがより好ましく、0.5~3質量部であるのがさらに好ましい。赤色顔料の量が上記範囲であることによって、彩度および透明感が高い第2塗膜を形成することができ、目的の意匠を有する複層塗膜を形成することができる利点がある。
【0062】
上記第2塗料組成物は、上記赤色顔料以外の他の顔料を含んでもよい。他の顔料として例えば、上記第1塗料組成物において例示した、体質顔料、防錆顔料などが挙げられる。第2塗料組成物は、第2塗膜において赤色顔料および他の顔料の合計含有量が樹脂固形分100質量部に対して0.5~10質量部となる量であるのが好ましく、2~7質量部となる量であるのがより好ましい。
【0063】
複層塗膜形成
本開示の複層塗膜は、少なくとも上記第1塗料組成物の硬化塗膜である第1塗膜、および、上記第2塗料組成物の硬化塗膜である第2塗膜を、この順で有する塗膜である。
【0064】
本開示の複層塗膜の形成において、上記塗料組成物を塗装する対象である被塗物は、特に限定されず、例えば、金属、プラスチック、発泡体などを挙げることができる。上記塗料組成物は、特に金属および鋳造物に有利に用いることができ、電着塗装可能な金属に対して特に好適に用いることができる。このような金属としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛などおよびこれらの金属を含む合金が挙げられる。これらの被塗物は、成型物であってもよい。成型物の具体例として、例えば、乗用車、トラック、オートバイ、バスなどの自動車車体およびその部品などが挙げられる。上記金属などの被塗物は、電着塗装する前に、予めリン酸系化成処理剤、ジルコニウム系化成処理剤などで化成処理するのがより好ましい。必要に応じた化成処理がなされた被塗物上に硬化電着塗膜が形成されているのが好ましい。硬化電着塗膜の形成に用いられる電着塗料組成物として、カチオン型およびアニオン型の何れも使用することができる。電着塗料組成物としてカチオン電着塗料組成物を用いることによって、より防食性に優れた塗膜を形成することができるため好ましい。
【0065】
上記被塗物はさらに必要に応じて、硬化電着塗膜の上に中塗り塗膜が形成されてもよい。中塗り塗膜の形成には中塗り塗料組成物が用いられる。中塗り塗料組成物として、例えば、塗膜形成性樹脂、硬化剤、有機系および/または無機系の各種着色成分および体質顔料などを含む塗料組成物を用いることができる。塗膜形成性樹脂および硬化剤は、特に限定されるものではなく、具体的には、上記水性塗料組成物で挙げた塗膜形成性樹脂および硬化剤などを用いることができる。中塗り塗料組成物の塗膜形成樹脂として、得られる中塗り塗膜の諸性能などの観点から、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂と、アミノ樹脂および/またはイソシアネートとの組み合わせが好適に用いられる。
【0066】
上記第1塗料組成物および第2塗料組成物を用いた塗膜形成方法として、例えば以下の方法が挙げられる。
・被塗物に、上記第1塗料組成物をおよび第2塗料組成物を順次塗装する方法。このような塗装において、第1塗料組成物を塗装し加熱硬化させ、次いで第2塗料組成物を塗装し加熱硬化させてもよい。また、第1塗料組成物を塗装し、塗装した塗膜が未硬化の状態で、第2塗料組成物をウェットオンウェットで塗装し、次いで加熱硬化させてもよい。なお上記ウェットオンウェット塗装においては、塗装間に、必要に応じてプレヒートを行ってもよい。また、第1塗料組成物および第2塗料組成物を順次塗装して、常温で乾燥させることにより、複層塗膜を形成してもよい。上記塗装においては、必要に応じて、さらにクリヤー塗膜を設けてもよい。
・被塗物に、第1塗料組成物、第2塗料組成物およびクリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで順次塗装する方法。この塗装は詳しくは、第1塗料組成物、第2塗料組成物およびクリヤー塗膜をウェットオンウェットで順次塗装することにより、未硬化の第1塗膜、第2塗膜およびクリヤー塗膜を形成し、これらの未硬化の塗膜を一度に加熱硬化させる方法である。上記ウェットオンウェット塗装においては、塗装間に、必要に応じてプレヒートを行ってもよい。
【0067】
上記第1塗料組成物および第2塗料組成物は、塗料分野において一般的に用いられる手法によって、被塗物に対して塗装することができる。塗装方法として例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、静電スプレー塗装、エアー静電スプレー塗装による多ステージ塗装(好ましくは2ステージ塗装)、エアー静電スプレー塗装と回転霧化式の静電塗装機とを組み合わせた塗装などが挙げられる。
【0068】
上記第1塗料組成物は、乾燥膜厚として3~20μmの範囲内となるように塗装するのが好ましく、5~10μmの範囲内となるように塗装するのがより好ましい。また第2塗料組成物は、乾燥膜厚として3~20μmの範囲内となるように塗装するのが好ましく、5~10μmの範囲内となるように塗装するのがより好ましい。
【0069】
上記第1塗料組成物、第2塗料組成物を塗装して加熱硬化させる場合における加熱温度および時間は、塗料組成物の組成(水性または溶剤型)および被塗物の種類に応じて適宜選択することができる。加熱温度は例えば80~180℃の範囲、好ましくは100~160℃の範囲などで適宜選択することができる。加熱時間は、例えば5分~60分、好ましくは10分~30分の範囲などで適宜選択することができる。
【0070】
上記クリヤー塗料組成物は、特に限定されず、溶剤型、水性型および粉体型のクリヤー塗料組成物を挙げることができる。
【0071】
上記溶剤型クリヤー塗料組成物の好ましい例としては、透明性あるいは耐酸エッチング性などの点から、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂と、アミノ樹脂および/またはイソシアネートとの組み合わせ、あるいはカルボン酸/エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂などを挙げることができる。
【0072】
水性型クリヤー塗料組成物の例としては、上記溶剤型クリヤー塗料組成物の例として挙げた塗膜形成性樹脂を、塩基で中和して水性化した樹脂を含有するものが挙げることができる。この中和は重合の前または後に、ジメチルエタノールアミンおよびトリエチルアミンのような3級アミンを添加することにより行うことができる。
【0073】
これらの溶剤型クリヤー塗料組成物そして水性型クリヤー塗料組成物は、塗装作業性を確保するために、粘性制御剤を含むのが好ましい。粘性制御剤は、一般にチクソトロピー性を示すものを用いることができる。粘性制御剤の例として、例えば、水性塗料組成物のところで挙げたものを用いることができる。併せて、塗料分野において一般的に用いられる添加剤を必要に応じて含んでもよい。
【0074】
粉体型クリヤー塗料組成物としては、例えば、熱可塑性粉体塗料組成物、熱硬化性粉体塗料組成物などの、塗料分野において一般的に用いられる粉体塗料組成物を用いることができる。これらの中でも、塗膜物性などの点から、熱硬化性粉体塗料組成物が好ましい。熱硬化性粉体塗料組成物の具体例として、エポキシ系、アクリル系およびポリエステル系の粉体クリヤー塗料組成物などが挙げられる。
【0075】
クリヤー塗料組成物の塗装は、クリヤー塗料組成物の塗装形態に従った、当業者に公知の塗装方法を用いて行うことができる。上記クリヤー塗料組成物を塗装することによって形成されるクリヤー塗膜の乾燥膜厚は、一般に10~80μmが好ましく、20~60μmであることがより好ましい。
【0076】
クリヤー塗料組成物の塗装によって得られた未硬化のクリヤー塗膜を加熱硬化させることによって、硬化したクリヤー塗膜を形成することができる。クリヤー塗料組成物を、未硬化の第2ベース塗膜の上に塗装した場合は、加熱させることによって、これらの未硬化塗膜が加熱硬化することとなる。加熱硬化温度は、硬化性および得られる複層塗膜の物性の観点から、80~180℃に設定されていることが好ましく、120~160℃に設定されていることがさらに好ましい。加熱硬化時間は、上記温度に応じて任意に設定することができる。加熱硬化条件として、例えば、加熱硬化温度120℃~160℃で10分~30分間加熱する条件などが挙げられる。
なお、塗料組成物の種類に応じて、上記塗料組成物を塗装した後、常温で乾燥させて塗膜を形成し、次いで、例えば反応硬化型クリヤー塗料組成物を塗装して、クリヤー塗膜を設けてもよい。
【0077】
本開示の複層塗膜において、上記第1塗料組成物を硬化して得られる第1塗膜は、入射角45°受光角45°の彩度C*が10以下であり、明度L*が10以下であることを条件とする。
【0078】
上記彩度C*および明度L*は、L*C*h表色系におけるパラメータであり、JIS Z8729に準拠して求めることができる。このL*C*h表色系は、国際照明委員会により定められた表色系であり、Section 4.2 of CIE Publication 15.2(1986)に記載されている。L*C*h表色系において、L*は明度を表し、C*は彩度を表し、hは色相角度を表す。彩度C*は、その数値が増加するに従い被測定物質のあざやかさが増し、その数値が小さくなるに従いくすみさが増すことを意味する。明度L*は、その数値が増加するに従い被測定物質の明るさが増し、その数値が小さくなるに従い暗さが増すことを意味する。上記彩度C*および明度L*は、市販の多角度分光測色計を用いて測定することができる。多角度分光測色計として、例えばMA-68II(X-Rite社製)などが挙げられる。
【0079】
上記入射角45°受光角45°の彩度C*および明度L*において、入射角および受光角は詳しくは、硬化塗膜の45°の角度から照射した光の正反射光の位置を0°とし、この正反射光から入射角方向へ45°の位置、すなわち硬化塗膜に対して垂直の位置、の受光角を意味する。
【0080】
本明細書において、第1塗膜の彩度C*および明度L*の測定は、上記第1塗料組成物の硬化塗膜であって膜厚8μmである塗膜を用いて測定した値をいう。より具体的には、カチオン電着塗料組成物を塗装した鋼板に、ダークグレー系硬化中塗り塗膜を形成した塗板上に、上記第1塗料組成物を乾燥膜厚が8μmとなるようにスプレー塗装し、その後140℃で20分間加熱硬化させて得られた第1塗膜を用いて測定する。
【0081】
第1塗膜の彩度C*および明度L*を上記範囲に調整する手法として、例えば、
着色顔料として黒色系顔料を用いる手法;
着色顔料として、赤色系顔料、黄色系顔料、橙色系顔料、青色系顔料、緑色系顔料、紫色系顔料等からなる群から選択される2種以上の顔料を、減法混色法により混合することによって、黒色の色調に調色する手法;および
上記手法の組み合わせ;
などが挙げられる。
【0082】
本開示の複層塗膜において、上記第2塗料組成物を硬化して得られる第2塗膜は、単独塗膜の光線透過率として、波長410~440nmおよび510~590nmにおいて3~35%、波長650~700nmにおいて85~95%であることを条件とする。
【0083】
第2塗膜の光線透過率の測定は、以下のように行われる。調製した第2塗料組成物を、ポリプロピレン板上に、所定の乾燥膜厚となるようにスプレー塗装し、140℃で20分間加熱硬化させた後、塗膜をポリプロピレン板より剥離して単独第2塗膜を作成する。光線透過率の測定に用いられる単独第2塗膜とは、上述のように、第2塗膜のみを基材から剥離して得られた塗膜フィルムを意味する。
【0084】
光線透過率は、作成した単独第2塗膜に対して、U-3310型分光光度計(日立社製)を用い、波長スキャンモードで410~700nmの区間をスキャンスピード300nm/min、サンプリング間隔0.5nmの条件で、入射光線が単独第2塗膜を透過した際の透過光線の強度割合によって求めることができる。
【0085】
本開示の複層塗膜においては、上記のように測定した、第2塗膜の単独塗膜の光線透過率が、波長410~440nmおよび510~590nmにおいて3~35%、波長650~700nmにおいて85~95%である。上記単独第2塗膜の光線透過率が、各波長域において上記範囲内であることによって、複層塗膜の意匠性を向上させることができる利点がある。
【0086】
第2塗膜の光線透過率の調整は、第2塗料中に含まれる着色顔料の種類および顔料質量濃度を調整し、そして塗膜の膜厚を調整することにより行われる。具体的には、例えば、着色顔料が、例えば酸化鉄、透明酸化鉄、モノアゾレッド、キナクリドンレッド、アゾレーキ(Mn塩)、ペリレンレッド、ペリレンマルーンなどの、酸化鉄系顔料、ペリレン系顔料、アゾ系顔料およびキナクリドン系顔料からなる群から選択される1種またはそれ以上であり、着色顔料の含有量が樹脂固形分100質量部に対して0.1~6質量部である第2塗料組成物を用いて、乾燥膜厚が3~20μmである第2塗膜を設けることによって、第2塗膜の光線透過率を好適に調整することができ、これにより、本開示において目的とする意匠を有する複層塗膜を良好に得ることができる利点がある。
【0087】
本開示の複層塗膜において、上記第2塗膜は、単独塗膜として、マンセル表色系の色相が1R~10Rであるのが好ましい。第2塗膜の単独塗膜において、光線透過率が上記条件を満たし、かつ、マンセル表色系の色相が上記条件を満たす場合は、単独第2塗膜の色相が、本開示の複層塗膜における意匠発現に特に適した色相であるということができ、複層塗膜においてより好適な意匠を達成することができる利点がある。
【0088】
マンセル表色系は、「三属性による色の表示方法」(JIS Z 8721)として当業者によく知られているものであり、色の三属性である、色相(H)、そして明度および彩度によって色を分類する。
【0089】
マンセル表色系において、色相(H)は、マンセル色相環の記号(R、Y、G、BおよびP)と番号(5および10など)との組み合わせで示される。マンセル色相環において、「R」はレッドを示し、「Y」はイエローを示し、「G」はグリーンを示し、「B」はブルーを示し、「P」はパープルを示す。また、これらの中間の色相である、「YR」はイエローレッドを示し、「GY」はグリーンイエローを示し、「BG」はブルーグリーンを示し、「PB」はパープルブルーを示し、「RP」はレッドパープルを示す。上記の10色がマンセル色相環の10色相となる。そしてこれらの10色相を、それぞれ10等分することにより、マンセル色相環の100色相環(マンセル色相環100)となる。第2塗膜の単独塗膜において、マンセル表色系の色相が1R~10Rである場合は、第2塗膜の単独塗膜は赤色として認識される色相を有するということができる。
【0090】
本開示において、マンセル表色系の色相(H)は、例えば、ミノルタ社製多角度分光光度計「CR-400」によって測定することができる。
【0091】
本開示において、上記複層塗膜の光線反射率は、波長420~570nmにおいて0.4%未満であり、波長580~700nmにおいて0.4%以上2%以下であるのが好ましい。
【0092】
上記複層塗膜の光線反射率の測定は、下記の通り行われる。カチオン電着塗料組成物を塗装した鋼板に、ダークグレー系硬化中塗り塗膜を形成した塗板上に、上記第1塗料組成物を乾燥膜厚が8μmとなるようにスプレー塗装し、次いで上記第2塗料組成物を乾燥膜厚が8μmとなるようにウェットオンウェットでスプレー塗装し、次いでクリヤー塗料組成物を乾燥膜厚が35μmとなるようにウェットオンウェットでスプレー塗装し、その後、未硬化の3層の塗膜を140℃で20分間加熱硬化させて得られた複層塗膜を用いて測定する。
【0093】
光線反射率は、作成した複層塗膜に対してU-3310型分光光度計(日立社製)を用い、波長スキャンモードで420~700nmの区間をスキャンスピード300nm/min、サンプリング間隔0.5nmの条件で、光源から照射された光線と、その光線が複層塗膜に反射する強度の割合を測定することによって求めることができる。
【0094】
複層塗膜において、上記波長域における光線反射率が上記範囲内であることによって、複層塗膜全体として黒色が感じられる一方で、特定条件下において、目視で把握される色の印象が変化する特徴が好適に得られる利点がある。これは、例えば複層塗膜の光線反射率が、波長580~700nmにおいて僅かに上昇することにより、この波長域の色味が、目視において色の印象が変化する程度に僅かに感じられることとなると考えられる。
【0095】
上記塗料組成物の硬化塗膜は、フリップフロップ値が1.05以上2.0以下であるのが好ましい。本明細書においてフリップフロップ値(FF値と記載することもある。)とは、見る角度(受光角)に応じた反射光強の変化の度合いを示す値である。FF値は、受光角15度のL*値(L*(15°)値)および受光角110度のL*値(L*(110°)値)を測定し、下記式
FF値=L*(15°)値/L*(110°)値
によって算出される。なお、上記受光角15度のL*値(L*(15°)値)は、具体的には、測定対象面に垂直な軸に対し45度の角度から測定光を照射し(入射角45度)、この入射角に対する正反射角から測定光の方向に15度の位置で受光した光についてのL*値である。また、上記受光角110度のL*値(L*(110°)値)は、同様に測定光を照射し、正反射角から測定光の方向に110°の角度で受光した光についてのL*値である。
【0096】
上記受光角15度のL*値(L*(15°)値)および受光角110度のL*値(L*(110°)値)は、市販の多角度分光測色計を用いて測定することができる。
【0097】
FF値が大きいほど、観察角度(受光角)によるL*値(明度)の変化が大きいことを示し、FF値が小さい場合は、観察角度(受光角)によるL*値(明度)の変化が小さいことを示す。一般的なメタリック塗膜においては、FF値が大きく、見る角度による明度変化が大きい方が、メタリック塗膜としての陰影感が高いことが多い。一方で、本開示の複層塗膜は、光輝性顔料によってもたらされる金属調光沢(メタリック感)のような意匠ではないため、FF値は大きくはなく、2.0以下程度の範囲となる。
【0098】
例えば従来の自動車塗装分野において、意匠性を大きく左右するベース塗膜は、いわゆるソリッドカラーといわれる、光輝性顔料を含まない塗膜と、金属調光沢(メタリック感)を有する、光輝性顔料を含む塗膜とに大別することができる。これに対して本開示の複層塗膜は、上記構成を有することによって、独特な意匠が奏されるという特徴がある。より具体的には、本開示の複層塗膜は、複層塗膜に入射する光の強度および入射角に依存して、目視により把握される色の印象が微妙に変化するという特徴を有する。本開示の複層塗膜は、目視観察において、複層塗膜に対して強い光を入射させた場合は、ハイライトでは、黒よりも彩度が高い、濁りを伴わないブラウン色を視認することができる。また、シェードでは、目視される光量が少なくなることもあり、黒色が視認される。そして、本開示の複層塗膜に対して弱い光を入射させた場合は、ハイライトにおいても黒色が視認される。
【0099】
本開示の複層塗膜において、上述の色の印象の変化は、極めて繊細な変化であるため、分光測色計などを用いて変化する色そのものを数値化することは、現時点の技術では困難であるものの、目視では認識することができる変化である。本開示の複層塗膜が奏する意匠は、一瞥で把握できるような意匠ではないものの、入射する光の強度および角度に依存して、目視により把握される色の印象が微妙に変化するという、緻密な手作業によって製作される工芸品のような繊細な意匠である。本開示の複層塗膜が奏する意匠は、光輝性顔料によってもたらされる金属調光沢(メタリック感)のような意匠ではなく、また、明度・色相変化など伴わない従来のソリッドカラーのような意匠でもない。本開示の複層塗膜における意匠は、従来のソリッドカラーの意匠とは異なる、いわば工芸品のような意匠であり、アーティスティックソリッドカラー(Artistic Solid color)ということができる。
【0100】
本開示の複層塗膜において、上記のような色の印象の変化が認識できる理由として、理論に拘束されるものではないが、発明者らは以下のように考える。
本開示の複層塗膜は第1塗膜および第2塗膜を少なくとも有する。そして第1塗膜は、彩度C*10以下、明度L*10以下であり、ほぼ黒色として認識される塗膜であり、第2塗膜は、単独塗膜の光線透過率として、波長410~440nmおよび510~590nmにおいて3~35%、波長650~700nmにおいて85~95%である、可視光が部分的に透過する、透け感がある赤色塗膜(赤色クリヤー塗膜)である。
上記構成の複層塗膜に光を照射する(入射させる)場合において、入射光の少なくとも一部は、第2塗膜部に入射した時点で、入射光を構成するそれぞれの波長の光が、第2塗膜の層中において散乱または反射などが生じる。そして第2塗膜において生じた散乱光、反射光などは、各種波長域における弱い可視光となり、彩度を伴う可視光となる。
そして上記構成の複層塗膜においては、複層塗膜に照射(入射させた)光の強度が強い場合は、第2塗膜において生じた散乱光、反射光などに基づく、各種波長域の弱い可視光が目視観察されることにより、黒色以外の有彩色が確認されると考えられる。これは、複層塗膜に照射(入射させた)光の強度が強い場合は、光の絶対量が多いため、第2塗膜部において散乱・反射する光の量も多くなるためと考えられる。
一方で、複層塗膜に照射層(入射させた)光の強度が弱い場合は、光の絶対量が少ないため、第2塗膜部から外に出る散乱・反射する光の量が少なくなる。これは、散乱・反射する光が、第2塗膜部において一定量吸収されてしまうためである。これにより、各種波長域の弱い可視光が目視観察可能となる量に満たなくなり、黒色以外の有彩色が確認されなくなると考えられる
このように本開示の複層塗膜においては、入射光の強度および角度に依存して、視認される色の印象が変化するという、本開示の複層塗膜において独特な意匠がもたらされると考えられる。そしてこのような印象の変化が、黒色の色調の塗膜に、陰影感、深み感をもたらすと考えられる。
【実施例0101】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0102】
製造例1 アクリル樹脂エマルション(塗膜形成樹脂)の製造
反応容器に脱イオン水633部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら80℃に昇温した。次いで、スチレン(ST)75.65質量部、メチルメタクリレート(MMA)178.96質量部、n-ブチルアクリレート(BA)75.94質量部、2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)64.45質量部、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)105.00質量部、の1段目のモノマー混合物、アクアロンHS-10(ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル、第一工業製薬社製)25.00部、アデカリアソープNE-20(α-[1-[(アリルオキシ)メチル]-2-(ノニルフェノキシ)エチル]-ω-ヒドロキシオキシエチレン、旭電化社製)25.00部、および脱イオン水400部からなるモノマー乳化物と、過硫酸アンモニウム1.2部、および脱イオン水500部からなる開始剤溶液とを1.5時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、1時間同温度で熟成を行った。
さらに、80℃で、スチレン(ST)53.65質量部、メチルメタクリレート(MMA)178.96質量部、n-ブチルアクリレート(BA)75.94質量部、2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)64.45質量部、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)105.00質量部、アクリル酸22質量部の2段目のモノマー混合物と、アクアロンHS-10 10部および脱イオン水250部からなるモノマーの乳化物と、過硫酸アンモニウム3.0部および脱イオン水500部からなる開始剤溶液とを1.5時間に渡り併行して、反応容器に滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。
次いで、40℃まで冷却し、400メッシュフィルターで濾過した後、脱イオン水100部およびジメチルアミノエタノール1.6部を加えpH6.5に調整し、平均粒子径150nm、不揮発分35%、固形分酸価20mgKOH/g、水酸基価100mgKOH/gのアクリル樹脂エマルションを得た。
【0103】
製造例2 リン酸基含有有機化合物の製造
攪拌機、温度調整器、冷却管を備えた1リットルの反応容器にエトキシプロパノール40部を仕込み、これにスチレン4部、n-ブチルアクリレート35.96部、エチルヘキシルメタアクリレート18.45部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート13.92部、メタクリル酸7.67部、エトキシプロパノール20部に、ホスマーPP(ユニケミカル社製アシッドホスホオキシヘキサ(オキシプロピレン)モノメタクリレート)20部を溶解した溶液40部、およびアゾビスイソブチロニトリル1.7部からなるモノマー溶液121.7部を120℃で3時間滴下した後、1時間さらに攪拌を継続した。得られたリン酸基含有有機化合物は、酸価105mgKOH/g、うちリン酸基価55mgKOH/g、水酸基価60mgKOH/g、数平均分子量6000、不揮発分が63%であった。
【0104】
なお本明細書実施例において、数平均分子量の測定は、GPC装置として「HLC8220GPC」(商品名、東ソー(株)製)、カラムとして「Shodex KF-606M」、「Shodex KF-603」(いずれも昭和電工(株)製、商品名)の4本を用いて、移動相:テトラヒドロフラン、測定温度:40℃、流速:0.6cc/分、検出器:RIの条件で行なった。
また本明細書実施例において、リン酸基含有有機化合物の酸価およびリン酸基価の算出は、JIS K5601 2-1の酸価の定義(試料(不揮発物)1g中の遊離酸を中和するのに要する、水酸化カリウム(KOH)のmg数)に基づいて計算を行って求めた。また水酸基価の算出は、JIS K0070の水酸基価の定義(試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数)に基づいて計算を行って求めた。
【0105】
実施例1
第1塗料組成物の調製
着色顔料分散ペースト
着色顔料であるカーボンブラック(Raven 5000 Ultra(商品名))10.4部、顔料分散剤であるDispex(登録商標)Ultra PA 4550(BASF社製) 18.6部、イオン交換水36.0部、消泡剤であるBYK-011 0.5部をディスパーなどの撹拌機で混合分散して、着色顔料分散ペーストを得た。
【0106】
第1塗料組成物
製造例1のアクリル樹脂エマルション182部、ジメチルアミノエタノール2.2部、サイメル327(混合アルキル化型メラミン樹脂、Allnex社製、固形分90%)を40部、上記着色顔料分散ペースト38部、製造例2のリン酸基含有有機化合物5部、ラウリルアシッドフォスフェート0.4部、ブチルセロソルブ50部、ノイゲンEA-207D(両親媒性化合物、第一工業製薬社製、数平均分子量4200、固形分55%) 5.5部(固形分換算で3部)、リノール酸(キシダ化学社製)3部を均一分散してpHが8.1となるようジメチルアミノエタノールを添加し、脱イオン水で希釈して、樹脂固形分濃度19質量%である水性塗料組成物を調製した。
第1塗料組成物中に含まれるカーボンブラックの量は、樹脂固形分100質量部に対して6質量部であった。
【0107】
第2塗料組成物の調製
着色顔料分散ペースト
赤色の着色顔料(PERIINDO MAROON 179)15.7部、顔料分散剤であるDisperbyk 190 39.3部、イオン交換水43.7部、消泡剤であるBYK-011 0.5部をディスパーなどの撹拌機で混合したのち、ジルコニアビーズを媒体として充填した分散機にて分散して、着色顔料分散ペーストを得た。
【0108】
第2塗料組成物
製造例1のアクリル樹脂エマルション182部、ジメチルアミノエタノール2.2部、サイメル327(混合アルキル化型メラミン樹脂、Allnex社製、固形分90%)を40部、上記着色顔料分散ペースト 14部、ラウリルアシッドフォスフェート0.4部、ブチルセロソルブ50部、ノイゲンEA-207D(両親媒性化合物、第一工業製4薬社製、数平均分子量4200、固形分55%) 5.5部(固形分換算で3部)、リノール酸(キシダ化学社製)3部を均一分散してpHが8.1となるようジメチルアミノエタノールを添加し、脱イオン水で希釈して、樹脂固形分濃度質量18%である水性塗料組成物を調製した。
第2塗料組成物中に含まれる着色顔料の量は、樹脂固形分100質量部に対して2.25質量部であった。
【0109】
複層塗膜の形成
リン酸亜鉛処理した厚み0.8mm、縦30cm、横40cmのダル鋼板に、カチオン電着塗料組成物である「パワートップU-50)」(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付けた塗板に、中塗り塗料組成物「OP-30P ミドルグレー」(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製、ポリエステル・メラミン系塗料、25秒(No.4フォードカップを使用し、20℃で測定)に予め希釈)を、アネスト岩田製エアスプレーガンW-101-132Gを用いて乾燥膜厚35μmとなるようにエアスプレー塗装し、次いで140℃で30分間焼き付け硬化させて、明度が60である硬化中塗り塗膜を形成した。
次いで、第1塗料組成物を、室温23℃、湿度68%の条件下で乾燥膜厚15μmになるようにエアスプレー塗装した。4分間のセッティングを行った後、80℃で5分間のプレヒートを行った。
プレヒート後に、第2塗料組成物を、室温23℃、湿度68%の条件下で乾燥膜厚15μmになるように、ウェットオンウェットでエアスプレー塗装した。4分間のセッティングを行った後、80℃で5分間のプレヒートを行った。
第2塗料組成物塗装後のプレヒート後に、塗装板を室温まで放冷し、クリヤー塗料としてマックフロー-O-1810(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製溶剤型クリヤー塗料)を、乾燥膜厚35μmとなるようにエアスプレー塗装し、7分間セッティングした。ついで、塗装板を乾燥機で140℃、30分間焼き付けを行うことにより、複層塗膜を有する塗装試験板を得た。
【0110】
実施例2
第2塗料組成物の調製において、着色顔料分散ペーストの量を14部から28部に変更したこと以外は、実施例1と同様の手順により、第2塗料組成物を調製した。
上記より得られた第2塗料組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順により、複層塗膜を形成した。
【0111】
実施例3
第1塗料組成物の調製において、第1塗料組成物中に含まれるカーボンブラックの量が樹脂固形分100質量部に対して4質量部となるように、第1塗料組成物の調製において用いられる着色顔料分散ペーストの量を調整したこと以外は、実施例1と同様の手順により、第1塗料組成物を調製した。
上記より得られた第1塗料組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順により、複層塗膜を形成した。
【0112】
比較例1
第2塗料組成物の調製において、着色顔料分散ペーストを用いなかったこと以外は、実施例1と同様の手順により、第2塗料組成物を調製した。
上記より得られた第2塗料組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順により、複層塗膜を形成した。
【0113】
比較例2
第1塗料組成物の調製
製造例1のアクリル樹脂エマルション182部、ジメチルアミノエタノール2.2部、サイメル327(混合アルキル化型メラミン樹脂、Allnex社製、固形分90%)を40部、アルミペースト93-0647(粉砕型アルミニウム光輝顔料、東洋アルミ社製、有効成分61%、粉砕型アルミニウム顔料)を樹脂固形分100質量部に対して9部、製造例2のリン酸基含有有機化合物 5部、ラウリルアシッドフォスフェート0.4部、ブチルセロソルブ50部、ノイゲンEA-207D(両親媒性化合物、第一工業製薬社製、数平均分子量4200、固形分55%) 5.5部(固形分換算で3部)、リノール酸(キシダ化学社製)3部を均一分散してpHが8.1となるようジメチルアミノエタノールを添加し、脱イン水で希釈して、樹脂固形分濃度33質量%である第1塗料組成物を調製した。
【0114】
第2塗料組成物の調製
着色顔料分散ペーストの調製において、赤色の着色顔料(PERIINDO MAROON)15.7部の代わりに、カーボンブラック10.3部を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順により、第2塗料組成物調製用の着色顔料分散ペーストを調製した。
上記より得られた着色顔料分散ペーストを0.04部加えたこと以外は、実施例1と同様の手順により、第2塗料組成物を調製した。得られた第2塗料組成物中に含まれる着色顔料(カーボンブラック)の量は、樹脂固形分100部に対して0.01部であった。
【0115】
比較例3
第2塗料組成物として、バイブラントレッド(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製、赤色ベース塗料組成物)を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順により、複層塗膜を形成した。
【0116】
上記実施例および比較例で形成した複層塗膜などを用いて、下記評価を行った。評価結果を下記表に示す。
【0117】
第1塗膜の彩度C*および明度L*の測定
第1塗膜を有する試験板の作成
リン酸亜鉛処理した厚み0.8mm、縦30cm、横40cmのダル鋼板に、カチオン電着塗料組成物である「パワートップU-50)」(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付けた塗板に、中塗り塗料組成物「OP-30P ダークグレー」(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製、ポリエステル・メラミン系塗料、25秒(No.4フォードカップを使用し、20℃で測定)に予め希釈)を、アネスト岩田製エアスプレーガンW-101-132Gを用いて乾燥膜厚35μmとなるようにエアスプレー塗装し、次いで140℃で30分間焼き付け硬化させて、ダークグレーの色調(明度30)である硬化中塗り塗膜を形成した。
次いで、実施例または比較例で用いた第1塗料組成物を、室温23℃、湿度68%の条件下で乾燥膜厚15μmになるようにエアスプレー塗装した。7分間セッティングした後、塗装板を乾燥機で140℃、30分間焼き付けを行うことにより、第1塗膜を有する試験板を得た。
【0118】
上記より得られた、単独第1塗膜を有する試験板を用いて、入射角45°受光角45°の彩度C*値および明度L*値を、多角度分光測色計MA-68II(X-Rite社製)により測定した。測定結果を下記表に示す。
【0119】
第2塗膜のマンセル値の測定
第2塗膜を有する試験板の作成
白色ポリプロピレン板上に、第2塗料組成物を、乾燥塗膜が23μmとなるようにスプレー塗装し、熱風乾燥炉にて140℃で20分間加熱硬化させて、白色ポリプロピレン板上に形成された単独第2塗膜を有する試験板を得た。
【0120】
マンセル値の測定
上記より得られた、単独第2塗膜を有する試験板のマンセル値を、ミノルタ社製多角度分光光度計「CR-400」で測定した。測定結果を下記表に示す。
【0121】
第2塗膜の光線透過率の測定
上記で形成した、白色ポリプロピレン板上に形成された単独第2塗膜を有する試験板から、第2塗膜をポリプロピレン板より剥離して、単独第2塗膜を得た。この単独第2塗膜を、U-3310型分光光度計(日立社製)を用い、波長スキャンモードで410~700nmの区間をスキャンスピード300nm/min、サンプリング間隔0.5nmの条件で測定した上で、各波長領域での単独第2塗膜の光線透過率を求めた。測定結果を下記表に示す。
【0122】
複層塗膜の色の印象変化の目視観察
各実施例で形成した複層塗膜を有する塗装試験板に対して、強い光として10万ルクス(屋外)を複層塗膜に照射した場合、および、弱い光として200ルクスの光を複層塗膜に照射した場合を、目視観察し、下記基準により評価した。

○:弱い光を照射した場合はハイライトで黒色と観察される一方で、強い光を照射した場合はハイライトで黄色~赤色の色味が加わったブラウン色が感じられる
×:上記○評価のような独特な意匠を視認することはできない
【0123】
複層塗膜の彩度C*値および明度L*値
各実施例で形成した複層塗膜を有する塗装試験板を用いて、入射角45°受光角45°の彩度C*値および明度L*値を、多角度分光測色計MA-68II(X-Rite社製)により測定した。測定結果を下記表に示す。
【0124】
複層塗膜のFF値の測定
各実施例で形成した複層塗膜を有する塗装試験板について、多角度分光測色計MA-68II(商品名、X-Rite社製)を用いて、入射角45度における受光角15度のL*値(L*(15°)値)および受光角110度のL*値(L*(110°)値)を測定し、下記の式によってFF値を求めた。
FF値=L*(15°)値/L*(110°)値
【0125】
【表1】
【0126】
実施例の複層塗膜はいずれも、弱い光を照射した場合はハイライトで黒色と観察される一方で、強い光を照射した場合はハイライトで黄色~赤色の色味が加わったブラウン色が感じられるという、陰影感を伴う独特な意匠の塗膜であった。実施例の複層塗膜はまた、単独第2塗膜の上記特性により、透け感による深み感が感じられた。
比較例1は、第1塗膜が黒色の塗膜であり、第2塗膜が着色顔料を含まないクリヤー塗膜である例である。この例では、複層塗膜の色調は、いわゆる黒色ソリッドカラーと言われる色調であった。より具体的には、複層塗膜に弱い光を照射した場合はハイライトで黒色と観察され、強い光を照射した場合のハイライトでも黒色として感じられる塗膜であった。
比較例2は、第1塗膜が光輝性顔料であるアルミニウム顔料を含み、第2塗膜が着色顔料として黒色顔料を含む黒色カラークリヤー塗膜である例である。この例では、複層塗膜の色調は、いわゆるメタリックカラーと言われる色調であった。より具体的には、複層塗膜に弱い光および強い光を照射した場合のいずれにおいても、粒子感を伴うメタリック調ダークグレー塗膜の意匠であった。
比較例3は、第2塗膜として、ソリッドカラーである不透明の赤色塗膜を設けた例である。この例では、複層塗膜の色調は、いわゆる赤色ソリッドカラーと言われる色調であった。より具体的には、複層塗膜に弱い光および強い光を照射した場合のいずれにおいても、赤色塗膜の意匠であった。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本開示の複層塗膜は、明度L*値が10以下と低い第1塗膜を有しており、複層塗膜全体としては黒色に近い色調として認識される塗膜でありながら、入射光の強度および角度に依存して視認される色の印象が変化するという独特な意匠を有する。上記複層塗膜は、各種物品の意匠性塗膜として好適に用いることができる。