(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047728
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】線条短絡確認装置および線条短絡確認方法
(51)【国際特許分類】
B60M 1/28 20060101AFI20220317BHJP
G01R 31/08 20200101ALI20220317BHJP
G01R 31/52 20200101ALI20220317BHJP
【FI】
B60M1/28 R
G01R31/08
G01R31/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020153657
(22)【出願日】2020-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000196587
【氏名又は名称】西日本旅客鉄道株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000215110
【氏名又は名称】津田電気計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173222
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100151149
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 幸城
(72)【発明者】
【氏名】中井 一成
(72)【発明者】
【氏名】青▲やぎ▼ 亨
(72)【発明者】
【氏名】江川 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】肥山 裕一
(72)【発明者】
【氏名】伊東 和彦
(72)【発明者】
【氏名】川原 敬治
(72)【発明者】
【氏名】西川 敏明
(72)【発明者】
【氏名】長森 正樹
(72)【発明者】
【氏名】山▲さき▼ 洋輔
【テーマコード(参考)】
2G014
2G033
【Fターム(参考)】
2G014AA03
2G014AB31
2G014AC15
2G014AC18
2G033AA02
2G033AB02
2G033AC04
2G033AD11
2G033AD20
2G033AE05
2G033AF00
2G033AF03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】架線の張替え作業終了後速やかに当該作業区間の架線相互間の状態の電気的確認を行い、故障点の探索・除去や復旧を早急に開始させる、架線相互間の状態確認のための線条短絡確認装置および線条短絡確認方法を提供する。
【解決手段】交流電気鉄道のATき電回路の架線状態を確認する線条短絡確認装置であって、200Hzから1kHzの間の少なくとも一つの周波数の検査用交流電圧を発生する交流電圧発生部と、交流電圧発生部によって発生させた検査用交流電圧Vtをき電線、トロリ線、保護線のうち2本の架線間に順次印加させるスイッチ部と、検査用交流電圧を架線間に印加させたときに架線間に流れる交流電流Itを計測する電流計測部と、検査用交流電圧と交流電流の関係から架線間のリアクタンスを演算する演算処理部と、このリアクタンスが容量特性であることによって架線間が短絡していない離隔状態であることを確認する架線状態確認部とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電気鉄道のATき電回路の架線状態を確認する装置であって、200Hzから1kHzの間の少なくとも一つの周波数の検査用交流電圧を発生する交流電圧発生部と、この交流電圧発生部によって発生させた検査用交流電圧をATき電回路を構成するき電線、トロリ線、保護線のうち2本の架線間に順次印加させるスイッチ部と、前記検査用交流電圧を架線間に印加させたときに架線間に流れる交流電流を計測する電流計測部と、前記検査用交流電圧と交流電流の関係から架線間のリアクタンスを演算する演算処理部と、このリアクタンスが容量特性であることによって架線間が短絡していない離隔状態であることを確認する架線状態確認部とを備えることを特徴とする線条短絡確認装置。
【請求項2】
交流電気鉄道のATき電回路の架線状態を確認する装置であって、200Hzから1kHzの間の少なくとも一つの周波数の検査用交流電圧を発生する交流電圧発生部と、この交流電圧発生部によって発生させた検査用交流電圧をATき電回路を構成するき電線、トロリ線、保護線のうち2本の架線間に順次印加させるスイッチ部と、前記検査用交流電圧を架線間に印加させたときに架線間に流れる交流電流を計測する電流計測部と、前記検査用交流電圧の交流電流に対する位相角を演算する演算処理部と、この位相角が遅角であることによって架線間が短絡していない離隔状態であることを確認する架線状態確認部とを備えることを特徴とする線条短絡確認装置。
【請求項3】
交流電気鉄道のATき電回路の架線状態を確認する装置であって、200Hzから1kHzの間の異なる2つの周波数の検査用交流電圧を発生する交流電圧発生部と、この交流電圧発生部によって発生させた検査用交流電圧をATき電回路を構成するき電線、トロリ線、保護線のうち2本の架線間に順次印加させるスイッチ部と、前記2つの周波数の検査用交流電圧を架線間に印加させたときに架線間に流れる交流電流を計測する電流計測部と、前記検査用交流電圧と交流電流の関係から両周波数における架線間のインピーダンスの大きさをそれぞれ演算する演算処理部と、前記高い周波数のときのインピーダンスの大きさが低い周波数のときのインピーダンスの大きさより小さいことによって架線間が短絡していない離隔状態であることを確認する架線状態確認部とを備えることを特徴とする線条短絡確認装置。
【請求項4】
交流電気鉄道のATき電回路の架線状態を確認する方法であって、200Hzから1kHzの間の少なくとも一つの周波数の検査用交流電圧を発生させ、この検査用交流電圧をATき電回路を構成するき電線、トロリ線、保護線のうち2本の架線間に順次印加させた状態で、架線間に流れる交流電流を計測し、前記検査用交流電圧と交流電流の関係から架線間のインピーダンスを求め、このインピーダンスが離隔状態を示す範囲内であるときに架線間が短絡していない離隔状態であることを確認することを特徴とする線条短絡確認方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は交流電気鉄道のATき電回路用の線条短絡確認装置および線条短絡確認方法に関するものであり、より詳細には、電鉄用交流き電回路のATき電回路の架線として、き電線、トロリ線、保護線の張替え作業などの施工に際し、施工後の架線が健全な状態であること、つまり、2次元的には交錯するように配置された架線が3次元的には離隔している健全状態であるか、接触してしまっている短絡状態であるかを簡単に判別することができる線条短絡確認装置および線条短絡確認方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、交流電気鉄道の架線には、近接通信線への電磁誘導障害を軽減させるために、吸上変圧器を用いるBTき電回路と、単巻変圧器を用いるATき電回路とが存在する。BTき電回路においては例えば3~4km等の架線の所定距離毎に吸上変圧器を介在させることにより、吸上変圧器の一次電流と二次電流をほぼ等しくして、レールに流れる電流を無くすことにより大地に流れる漏れ電流を小さくし、近接通信線への電磁誘導障害を軽減させることが行なわれている。
【0003】
他方、架線の例えば10km等の所定間隔毎に単巻変圧器を介在させたATき電回路は、BTき電回路に比べて変電所の送電電圧が約2倍になり、電源の得がたい地域において有用である。
【0004】
加えて、本願出願人は鋭意研究により、特許文献1(特開平4-299272号公報)に示す地絡点標定方法を発明し、実用化されるに至っている。すなわち、既存の架線に通電している状態において短絡故障が発生した場合に、特許文献1の発明を用いることにより、故障発生時に流れる故障電流の電流データと印加電圧の電圧データの関係を一定時間記録して、電流データと電圧データの関係から地絡点が変電所から何km程度の位置であるかを標定することが可能となり、これによって復旧作業を行なうべき地点の目安を得ることができるので、早期復旧に貢献できる。
【0005】
他にも、本出願人は特許文献2(特開平11-227503号公報)に示す短絡故障判別装置を発明し、実用化されるに至っている。この発明を用いることにより、ATき電回路において通電時の短絡故障が発生した場合に故障が発生した架線がトロリ線であるかフィーダ線であるかを判別するために短絡故障時に測定したレールとトロリ線間の電圧波形と、吸上線に流れる電流の電流波形の間に生じる位相差を用いて判別することが可能である。
【0006】
なお、故障発生を予防するためには、老朽化による地絡故障などが発生する前に、架線を定期的に張替えることも行われている。このような計画的な保守作業を行なうことにより、予防的な防災メンテナンスを行なって、健全な架線の状態を保つことができるので、より安全で信頼できる運行が可能である。
【0007】
図14、
図15はATき電回路を張替えた後に装柱した2つの状態を示す図であり、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【0008】
図14、
図15に示すように、前記保守作業において、通常ATき電回路の架線90(90a,90b,90c)はあらかじめ決められた高さに装柱されており、装柱間で架線90a,90b,90c相互間は印加される交流電圧に対して十分に離隔した状態を保つように配線されるものである。
【0009】
また、前記架線90の張替え作業は、張替え対象となるき電線90a,トロリ線90b,保護線90cの区間を交流電源から切り離した状態で行なわれ、かつ、安全確保のために張替え作業対象となる架線のそれぞれを図外の接地線などによって接地電位に接続することにより、万一の事態に備えた状態で行なわれる。次いで、架線90a,90b,90cのうち少なくともいずれか1線の張替え作業を行い、架線90a,90b,90cを再び装柱して既存の架線に接続するのであるが、張替え完了後、その異常の有無を目視によって確認してから、前記接地線を取り外した後に通電を開始して、通常運転を行なっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平4-299272号公報
【特許文献2】特開平11-227503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、
図14、
図15に示すように、ATき電回路のき電線90aや保護線90cやトロリ線90b等は高さ方向に見ると決められた高さで並行に装柱されている架線90でも水平方向に見ると交錯しているところもあり、このような箇所で架線90の張替え作業を実施した場合には新規架線90を装柱する際に、
図15に示すように、偶然ではあるが装柱位置の低い架線90aに装柱位置の高い架線90cが接触してしまう場合がある。このような状況では変電所からのき電が不能となるので、作業終了後にはき電を開始する前に、作業区間内の架線90の状況を目視で点検確認することが実施されているが、この目視確認が極めて困難であった。
【0012】
すなわち、架線90の張替え作業のような保守作業は、通常夜間に実施されるものであるから、目視確認も夜間に行われることになり、架線90の状態を暗闇において目視確認することは困難であった。つまり、架線90は地上からかなり高い位置に配線されるものであるから、夜間に地上からの目視確認では架線90a,90b,90c相互間の接触及び短絡が見逃されることがあった。このような事象が発生した場合には、変電所からき電開始されるまで架線90相互間の接触及び短絡が判明できず、き電開始と共に故障電流が発生して、張替えたばかりの架線を損傷するだけでなく、故障点の探索・除去や復旧の開始時刻が遅くなり、列車の運行に多大な障害をきたすという問題がある。
【0013】
架線90の張替え作業はATき電回路において作業区間を区切って行われるが、ATき電回路の架線90は所定間隔毎に単巻変圧器によって、き電線90aやトロリ線90bが連結されるものであるから、直流電圧を印加した場合には単巻変圧器を通して直流電流が流れるために、健全な状態であったとしても導通状態となり、一般的な絶縁計によっては架線90が健全な状態であることを確認することはできなかった。
【0014】
本発明は上述の事柄を考慮に入れてなされたものであり、その目的は、架線の張替え作業終了後速やかに当該作業区間の架線相互間の状態の電気的確認を行い、異常が認められる場合には故障点の探索・除去や復旧を早急に開始させ、列車の運行への影響を最小限に抑え、架線相互間の状態確認ができる線条短絡確認装置および線条短絡確認方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため、第1発明は、交流電気鉄道のATき電回路の架線状態を確認する装置であって、200Hzから1kHzの間の少なくとも一つの周波数の検査用交流電圧を発生する交流電圧発生部と、この交流電圧発生部によって発生させた検査用交流電圧をATき電回路を構成するき電線、トロリ線、保護線のうち2本の架線間に順次印加させるスイッチ部と、前記検査用交流電圧を架線間に印加させたときに架線間に流れる交流電流を計測する電流計測部と、前記検査用交流電圧と交流電流の関係から架線間のリアクタンスを演算する演算処理部と、このリアクタンスが容量特性であることによって架線間が短絡していない離隔状態であることを確認する架線状態確認部とを備えることを特徴とする線条短絡確認装置を提供する。(請求項1)
【0016】
本発明における架線は交流電気鉄道のATき電回路のき電線、トロリ線、保護線である。これらの架線の保守管理の一環として、老朽化などによる定期的な架線の張替え作業を実施するときには、変電所の交流電源と切り離した状態において、万一の事態に備えて安全を確保するために3本の架線のそれぞれに接地線を接続して張替え作業を行なうのであるが、新たに設けた架線を装柱位置に引き上げて既存の架線に接続したのちに、架線の状態が健全な状態であるかどうかを確認するときに本発明の線条短絡確認装置を用いることにより、容易かつ確実に架線の状態を確認することができる。
【0017】
前記交流電圧発生部は張替えられた架線のうち2本の間に印加することによって安定した交流電流を流すことができる程度の電力を供給できる高さの電圧であると共に、短絡電流が流れたとしても架線に故障を発生させることがない程度の電圧に抑えた検査用の交流電圧を発生する電源部である。つまり、電車を駆動する為の25kV以上の高電圧ではない検査用に低く抑えた交流電圧である。
【0018】
前記検査用交流電圧の周波数は、電車駆動用の交流電圧および近接敷設される高圧配電線の影響を受ける可能性がある3次高調波成分よりも高い200Hz以上で、架線の状態を検知することができる上限となる1kHz以下の周波数の交流電圧である。なお、この検査用交流電圧の周波数は、架線の近傍に通信線が配線されていることを考慮に入れて、通信に用いるキャリア周波数近傍を避けて通信障害を発生させないようにすることが好ましい。また、三相交流の全波整流のリップルによって発生する360Hzおよびその倍周波の高調波成分に相当する周波数(720Hz)を避けることにより近接する直流き電線からのノイズによる誤動作を避けることが好ましい。
【0019】
前記スイッチ部は前記交流電圧発生部によって発生させた検査用交流電圧を、架線のうち2本に順次選択的に接続して2本の架線間に印加させるためのスイッチ素子であって、例えば、電界効果トランジスタなどの半導体スイッチング素子、電磁リレーなどを用いることが可能である。また、例えば、架線との接続部には施工後の架線に接続されている接地線の接地側端部を接地状態から切り離して接続する接続端子を備えることが好ましい。なお、このスイッチ部を省略し、作業者が試験対象となる2本の架線に順次手動で接続するようにすることも容易に考えられる。
【0020】
前記電流計測部は交流電圧発生部から架線に流れる交流電流を計測するものであり、例えば、交流電圧発生部とスイッチ部の間に配置させたものである。あるいは、電流計測部をスイッチ部と各架線の間にそれぞれ設けてもよい。この交流電流は検査用交流電圧を印加している間流れるものであり、検査用交流電圧を印加した初期の段階では過渡現象によって不安定な電流が流れることが考えられるが、短い時間で印加する検査用交流電圧に対して架線の状態に応じて所定の安定した交流電流が流れる。
【0021】
前記演算処理部は検査用交流電圧と交流電流の関係から検査用交流電圧に対して90°位相が異なる交流電流の成分の大きさを求めることにより、これが進みの電流であれば容量特性であることを検出できる。逆に検査用交流電圧に対して遅れの電流が流れている場合ば誘導特性であることを検出できる。
【0022】
すなわち、架線相互間に印加した検査用交流電圧と、これによって架線間に流れる交流電流の関係から、印加した検査用交流電圧の周波数におけるリアクタンスを求めることができ、このリアクタンスが容量特性であるなら、架線相互間は離隔した健全な状態であると判断することができる。他方、リアクタンスが誘導特性であるなら、架線相互間は短絡状態であることを明確に判断することができる。また、前記スイッチ部を順次切り替えて異なる架線相互間においても短絡が発生していないことを検知し、3本の架線相互間のいずれにおいても正常な離隔状態であることを確認し安全性を確保した後に、線条短絡確認装置と架線との接続を切り離して、架線にき電を開始することができる。
【0023】
なお、演算処理部が何れかの架線相互間が短絡していると判断した場合には、音および/または表示による警告発生部を用いて警告を出力しても、通信線を用いた有線または無線の通信によって短絡状態信号を出力してもよい。警告発生部による警告は簡易的には短絡状態の検知時にブザーなどの警告音を出力するものが考えられるが、LEDやLCDなどの表示部による警告表示を行なうものであっても、音と表示の両方による警告を出力するものが考えられ、その何れを用いるものであってもよい。
【0024】
本発明の線条短絡確認装置を用いて架線相互間に異常が認められる場合には、変電所からのき電を開始することなく、速やかに接触点の探索と、異常の除去による復旧を行なうことができるので、列車の運行を開始するまでに確実に健全な状態を回復させることが可能となる。
【0025】
第2発明は、交流電気鉄道のATき電回路の架線状態を確認する装置であって、200Hzから1kHzの間の少なくとも一つの周波数の検査用交流電圧を発生する交流電圧発生部と、この交流電圧発生部によって発生させた検査用交流電圧をATき電回路を構成するき電線、トロリ線、保護線のうち2本の架線間に順次印加させるスイッチ部と、前記検査用交流電圧を架線間に印加させたときに架線間に流れる交流電流を計測する電流計測部と、前記検査用交流電圧の交流電流に対する位相角を演算する演算処理部と、この位相角が遅角であることによって架線間が短絡していない離隔状態であることを確認する架線状態確認部とを備えることを特徴とする線条短絡確認装置を提供する(請求項2)。
【0026】
第2発明における架線は交流電気鉄道のATき電回路のき電線、トロリ線、保護線であり、架線の張替え作業の施工完了後に、架線の状態が健全な状態であるかどうかを確認するときに本発明の線条短絡確認装置を用いることにより、容易かつ確実に架線の状態を確認することができる。
【0027】
前記交流電圧発生部は2本の架線間に印加することによって安定した電流を流すことができ、かつ、たとえ短絡が発生していても架線に故障が発生することがない程度の電圧に抑えた検査用の交流電圧を発生する電源部であり、200Hz以上~1kHz以下の周波数の交流電圧を発生する電源部である。
【0028】
前記スイッチ部は前記交流電圧発生部によって発生させた検査用交流電圧を、架線のうち2本に順次選択的に接続して2本の架線間に印加させる、電界効果トランジスタなどの半導体スイッチング素子、電磁リレーなどからなる。
【0029】
前記電流計測部は交流電圧発生部から架線に流れる交流電流を計測するために、交流電圧発生部とスイッチ部の間、あるいは、スイッチ部と各架線の間にそれぞれ設けられるものである。
【0030】
前記演算処理部は検査用交流電圧と交流電流の関係から、この交流電流に対して検査用交流電圧の位相角を演算する。次いで、この演算によって求められた位相角が遅れである場合は、架線間は離隔した健全な状態である。他方、交流電流に対して検査用交流電圧の位相角が進み(検査用交流電圧に対して交流電流が遅れ)である場合には、架線間は短絡状態であることを明確に判断することができる。なお、演算処理部が架線間の短絡と判断した場合には、音および/または表示による警告手段を用いて警告を出力しても、通信線を用いた有線または無線の通信によって短絡状態信号を出力してもよい。
【0031】
第3発明は、交流電気鉄道のATき電回路の架線状態を確認する装置であって、200Hzから1kHzの間の異なる2つの周波数の検査用交流電圧を発生する交流電圧発生部と、この交流電圧発生部によって発生させた検査用交流電圧をATき電回路を構成するき電線、トロリ線、保護線のうち2本の架線間に順次印加させるスイッチ部と、前記2つの周波数の検査用交流電圧を架線間に印加させたときに架線間に流れる交流電流を計測する電流計測部と、前記検査用交流電圧と交流電流の関係から両周波数における架線間のインピーダンスの大きさをそれぞれ演算する演算処理部と、前記高い周波数のときのインピーダンスの大きさが低い周波数のときのインピーダンスの大きさより小さいことによって架線間が短絡していない離隔状態であることを確認する架線状態確認部とを備えることを特徴とする線条短絡確認装置を提供する。(請求項3)
【0032】
第3発明における架線は交流電気鉄道のATき電回路のき電線、トロリ線、保護線であり、架線の張替え作業の施工完了後に、架線の状態が健全な状態であるかどうかを確認するときに本発明の線条短絡確認装置を用いることにより、容易かつ確実に架線の状態を確認することができる。
【0033】
前記交流電圧発生部は2本の架線間に印加することによって安定した電流を流すことができ、かつ、たとえ短絡が発生していても架線に故障が発生することがない程度の電圧に抑えた検査用の交流電圧を発生する電源部であり、200Hz以上~1kHz以下の周波数のうち、少なくとも異なる2つの周波数の交流電圧を発生する電源部である。検査用交流電圧の周波数は、例えば演算処理部からの制御信号に従って切替えられるものであることが考えられる。
【0034】
前記スイッチ部は前記交流電圧発生部によって発生させた、少なくとも2つの周波数の検査用交流電圧を、架線のうち2本に順次選択的に接続して2本の架線間に印加させる、電界効果トランジスタなどの半導体スイッチング素子、電磁リレーなどからなる。
【0035】
前記電流計測部は交流電圧発生部から架線に流れる交流電流を計測するために、交流電圧発生部とスイッチ部の間、あるいは、スイッチ部と各架線の間にそれぞれ設けられるものである。測定された交流電流は検査用交流電圧の周波数と同じ周波数の安定した交流電流となり、そのそれぞれが電流計測部によって計測される。
【0036】
前記演算処理部は各周波数毎に、検査用交流電圧と交流電流の関係から、架線間のインピーダンスの大きさをそれぞれ演算し、高い周波数のときのインピーダンスの大きさと低い周波数のときのインピーダンスの大きさを比較する。なお、このとき交流電圧発生部に対して発信する検査用交流電圧の周波数を指示する制御信号を出力することはいうまでもない。
【0037】
次いで、高い周波数のときのインピーダンスの大きさが低い周波数のときのインピーダンスの大きさより小さい場合、架線間は短絡していない健全な離隔状態であることを判断し、高い周波数のときのインピーダンスの大きさが低い周波数のときのインピーダンスの大きさより大きい場合、架線間は短絡していると判断する。インピーダンスの大きさによる判断を用いることにより、より明確な判断基準を得ることができるので、信頼性が向上する。
【0038】
なお、演算処理部が架線間の短絡を検知した場合には、音および/または表示による警告手段を用いて警告を出力しても、通信線を用いた有線または無線の通信によって短絡状態信号を出力してもよい。
【0039】
第4発明は、交流電気鉄道のATき電回路の架線状態を確認する方法であって、200Hzから1kHzの間の少なくとも一つの周波数の検査用交流電圧を発生させ、この検査用交流電圧をATき電回路を構成するき電線、トロリ線、保護線のうち2本の架線間に順次印加させた状態で、架線間に流れる交流電流を計測し、前記検査用交流電圧と交流電流の関係から架線間のインピーダンスを求め、このインピーダンスが離隔状態を示す範囲内であるときに架線間が短絡していない離隔状態であることを確認することを特徴とする線条短絡確認方法を提供する。(請求項4)
【0040】
第4発明における架線は交流電気鉄道のATき電回路のき電線、トロリ線、保護線であり、架線の老朽化などによる張替え作業終了後に、この作業箇所において架線の状態が健全な状態であるかどうかを確認するための方法である。前記架線のうち2本の架線間に順次それぞれ接続させて、200Hzから1kHzの間の少なくとも一つの周波数の検査用交流電圧を印加させることにより、架線間が離隔した正常状態であるか、短絡した状態であるかを容易かつ確実に架線の状態を確認することができる方法である。
【0041】
検査用交流電圧は商用の交流電源の周波数である50~60Hzおよびその3次高調波成分近傍であれば、多くの場合架線と平行して施設されている高圧配電線の影響を受けて誤動作を発生させる可能性があるが、検査用交流電圧の周波数を200Hz以上とすることにより、安定した測定を行なうことができる。加えて、この周波数が1kHz以上であれば、共振点が複数存在するために、測定値と周波数の相関関係が弱くなるために使用に適さない。
【0042】
上記周波数帯の間では、架線が接触して短絡した状態である場合、検査用交流電圧の周波数が高くなればなるほどインピーダンスはその大きさが大きく、誘導性リアクアンスが大きくなるのに対し、架線が正常な離隔状態である場合には、周波数が高くなればなるほどインピーダンスはその大きさが小さく、リアクタンスが容量性となる。そこで、検査用交流電圧を印加した状態において流れる交流電流と検査用交流電圧の関係から架線間のインピーダンスを求めることにより、架線の状態(接触しているか離隔しているか)を示す指標を得ることができる。
【0043】
検査用交流電圧として複数の周波数を用いてインピーダンスの変化を確認することにより、架線の状態をより確実に検知することが可能となるが、一つの周波数におけるインピーダンスまたは周波数掃引させたときにおけるインピーダンスの変化を確認するだけであっても架線間の短絡確認を行なうことが可能である。
【0044】
すなわち、前記架線間のインピーダンスが架線の離隔状態を示す範囲内であるときに架線が接触していない離隔状態であることを確認し、3本の架線間のいずれにおいても正常な離隔状態であることを確認し安全性を確保した後に、線条短絡確認装置と架線との接続を切り離して、架線にき電を開始することができる。
【0045】
なお、架線相互間が短絡していると判断した場合には、音および/または表示による警告手段を用いて警告を出力しても、通信線を用いた有線または無線の通信によって短絡状態信号を出力してもよい。いずれにしても、本発明の線条短絡確認方法によって架線相互間に異常が認められた場合には、変電所からのき電を開始することなく、速やかに接触点の探索と、異常の除去による復旧を行ない、線条短絡確認方法によって安全性が確保できるまで原因を追及できるので、列車の運行を開始するまでに確実に健全な状態を回復させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】本発明にかかる線条短絡確認装置によって短絡確認を行なう架線の例を概念的に示す図である。
【
図2】本発明にかかる線条短絡確認装置を用いて架線相互間の絶縁状態を確認する例を説明する図である。
【
図3】第1実施形態の線条短絡確認装置の構成を示す図である。
【
図4】
図3に示す前記線条短絡確認装置における線条短絡確認方法を説明する図である。
【
図5】き電線とトロリ線の相互間の離隔状態のインピーダンスの大きさおよび位相角の周波数特性を示す図である。
【
図6】き電線とトロリ線の相互間の短絡状態のインピーダンスの大きさおよび位相角の周波数特性を示す図である。
【
図7】トロリ線と保護線の相互間の離隔状態のインピーダンスの大きさおよび位相角の周波数特性を示す図である。
【
図8】トロリ線と保護線の相互間の短絡状態のインピーダンスの大きさおよび位相角の周波数特性を示す図である。
【
図9】保護線とき電線の相互間の離隔状態のインピーダンスの大きさおよび位相角の周波数特性を示す図である。
【
図10】保護線とき電線の相互間の短絡状態のインピーダンスの大きさおよび位相角の周波数特性を示す図である。
【
図11】第2実施形態に係る線条短絡確認装置の構成を示す図である。
【
図12】第3実施形態に係る線条短絡確認装置の構成を示す図である。
【
図13】
図12に示す線条短絡確認装置における線条短絡確認方法を説明する図である。
【
図14】架線を装柱するときに架線の配置を説明する図である。
【
図15】架線の装柱するときに架線が接触した短絡状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、
図1~
図4を用いて、本発明の第1実施形態に係る線条短絡確認装置および線条短絡確認方法を説明する。
【0048】
図1に示すように本発明の線条短絡確認装置1は交流電気鉄道のATき電回路用の架線2を構成する、き電線2a、トロリ線2b、保護線2cを張替え施工したときに、施工後の架線2相互間に短絡故障が発生していないことを確認するための装置である。ATき電回路の架線2は、例えば10km毎に単巻変圧器3a,3bによって接続されており、変電所4においては、例えば遮断器5a,5bなどによって電車駆動用の交流電源6と切り離し可能に接続されている。7はレールであり、前記保護線2cに対して例えばATやATとATの中間点付近で接続される連結部7a、7b…を備えることにより、保護線2cはレールとほぼ同電位となるように構成している。
【0049】
8は架線2の老朽化に伴って、更新のための張替え作業の対象となっている施工対象区間を示しており、9はこの施工対象区間8における架線2の張替え作業を行なうために用いられる接地線を示している。なお、以下の説明において、き電線2a、トロリ線2b、保護線2cの接地線9を区別する必要があるときは符号9a,9b,9cを用いる。
【0050】
図2に示すように、架線2は何れも地上数m~10m程度の高さに装柱されるものであり、10はこれらの架線2a~2cを支持する支柱である。10aは支柱10の上端部近傍に形成されて、き電線2bおよび保護線2cを支持する腕金、10bはトロリ線2aを支持する可動ブラケットである。
【0051】
11はレール7に電気的に確実に連結するするように取付けられるバイスであり、このバイス11には前記接地線9の接地側端子を接続する端子台11aを備える。
【0052】
図3に示すように、第1実施形態の線条短絡確認装置1は、交流電気鉄道のATき電回路の架線2の状態を確認する装置であって、電源部20と、200Hzから1kHzの間の少なくとも一つの周波数の検査用交流電圧Vtを発生する交流電圧発生部21と、この交流電圧発生部21によって発生させた検査用交流電圧VtをATき電回路を構成するき電線2a、トロリ線2b、保護線2cのうち2本の架線2間に順次印加させるスイッチ部22と、前記検査用交流電圧Vtを架線2間に印加させたときに架線2間に流れる交流電流Itを計測する電流計測部23と、前記検査用交流電圧Vtと交流電流Itの関係から架線2間のリアクタンスXを演算する演算処理部24と、このリアクタンスXが容量特性であることによって架線間が短絡していない離隔状態であることを確認する架線状態確認部25と、架線2が接触している状態であるときに警告表示を行なう警告発生部26と、操作入力部27とを備える。
【0053】
前記電源部20を構成するバッテリーは好ましくは入手しやすい汎用の乾電池であるが、充電可能な二次電池であってもよい。交流電圧発生部21は電源部20から供給される電力を200Hzから1kHzの間の少なくとも一つの周波数の検査用交流電圧に変換するインバータであるが、その電圧は架線2相互間に印加することにより安定した交流電流を流すことができる程度以上の大きさで、かつ、仮に架線2間が短絡していた場合に大電流が流れることにより張替えたばかりの架線2を損傷することがない程度の大きさに抑えたものである。また、交流電圧発生部21によって発生している検査用交流電圧Vtの信号Svは演算処理部24に出力する。
【0054】
検査用交流電圧Vtの周波数は上述の範囲であればどの周波数を選んでも良いが、各種通信に用いるキャリアの周波数や直流き電線のリップルに発生する高調波成分の周波数を避けることが好ましい。本実施形態の場合、周波数の選択は交流電圧発生部21内の周波数設定回路の時定数によって定められたものであっても、ディップスイッチやロータリースイッチなどによって任意の周波数に変更可能とするものであってもよい。
【0055】
前記スイッチ部22は交流電圧発生部21から供給される交流電圧Vtを2本の架線2間に印加させるものであり、より具体的には、例えば電界効果トランジスタなどの半導体素子を用いて前記架線2(2a,2b,2c)のち何れか1本を選択的に共通電位Comに接続させる一方、残りの2本の架線2のうち1本を選択的に交流電圧発生部21に接続する回路である。なお、検査用交流電圧Vtの大きさを電界効果トランジスタの耐圧電圧以下とすることにより、スイッチ部22を半導体素子によるスイッチング素子を用いて形成できるので、それだけ耐久性や信頼性が高くなるが、スイッチ部22を接点リレーなどを用いて形成してもよいことはいうまでもない。
【0056】
また、前記スイッチ部22は演算処理部24からの制御信号Cによって検査用交流電圧Vtを印加する架線2相互間を順次切替えることにより、3本の架線2a、2b、2cの相互間の離隔状態を確認することができる。加えて、スイッチ部22は前記接地線9の接地側の端子を接続するための端子台22a,22b,22cを備えて、接地線9の接続を容易とすることが好ましい。
【0057】
電流計測部23は架線2に流れる電流Itを計測する電流計であり、交流電圧発生部21とスイッチ部22の間において計測することにより、どの架線2相互間に検査用交流電圧Vtが選択的に印加されている場合であっても、選択された架線2相互間に流れる交流電流Itを計測することができる。なお、計測された交流電流Itの信号Siは演算処理部24に出力する。
【0058】
前記演算処理部24および架線状態確認部25は何れもマイクロコンピュータなどの演算処理装置によって実行可能なプログラムを実行することによって実現するものである。すなわち、演算処理部24は、前記検査用交流電圧Vtおよび交流電流Itの信号Sv,Siをマイクロコンピュータに入力し、検査用交流電圧Vtと交流電流Itの関係を演算処理することにより、検査用交流電圧Vtに対して90°遅れた位相の無効成分(複素成分)のリアクタンスXを求めることができる。
【0059】
ここで、複素成分のリアクタンスXが正の値であるとき、交流電流Itは検査用交流電圧Vtに対して遅れて流れているので架線2相互間は誘導特性であり、リアクタンスXが負の値であるとき、交流電流Itが検査用交流電圧Vtに対して進んで流れているので架線2相互間は容量特性であることが判別できる。なお、検査用交流電圧Vtを印加した直後には交流電流Itは架線2相互間を含む種々の回路の過渡現象によって安定しないことが考えられるが短い時間で安定するので、前記検査用交流電圧Vtと交流電流Itの関係が安定することを確認した時点でリアクタンスの演算を行うことが好ましい。
【0060】
架線状態確認部25は演算処理部24によって求められたリアクタンスXが容量特性(負の値)であるときに、架線2相互間が健全な離隔状態であると判断し、誘導特性(正の値)であるときに、架線2が相互に接触してしまっている短絡状態であると判断するものである。
【0061】
前記警告発生部26は操作者に対して短絡状態となっている架線2間を明示して警告を出力するものであり、例えば、
図1,
図2に示すように配置された赤色の発光ダイオード26a,26b,26cを用いて短絡している架線2間を明示すると同時に、図外のブザーなどを用いて警告音を出力することが好ましい。他方、警告発生部26は全ての架線2相互間において離隔状態を確認した後に、検査完了を示す短い終了音を出力し、緑色の発光ダイオード26dを点灯させる。
【0062】
上記警告発生部26による警告の発生方法はLCD表示部を用いたメッセージ表示や、短絡確認信号および/または離隔確認信号の出力など、種々の変形が考えられるが、どのような形をとったとしても架線2の状態を確認して短絡している場合には警告を出力するものであれば用いることができることはいうまでもない。
【0063】
前記操作入力部27は作業者による操作を入力するためのボタンである。すなわち、操作者は線条短絡確認装置1に接地線9の接地側端を接続した状態で操作入力部27のボタンを押すことにより、線条短絡確認装置1は各架線2相互間の状態を確認するための一連のシーケンスを実行することができる。
【0064】
図4は本実施形態の線条短絡確認装置1において線条短絡確認を行なう線条短絡確認方法を説明する図である。
【0065】
図4に示すように、線条短絡確認装置1を前記操作入力部27のボタンを押すことにより起動すると、演算処理部24を構成するマイクロコンピュータが実行可能な線条短絡確認プログラムPを実行し、前記スイッチ部22に架線2a~2cのうち、選択された2つの架線2間に前記交流電圧発生部21からの検査用交流電圧Vtを供給するように、切替接続させる制御信号Cを出力する(ステップS1)。
【0066】
また、前記交流電圧発生部21は電源部20から供給される直流電力を200Hz以上かつ1kHz以下の1つの周波数の検査用交流電圧Vtに変換して発生し、この検査用交流電圧Vtをスイッチ部22によって選択された架線2間に印加する(ステップS2)。なお、前記交流電圧発生部21は同時に自ら発生させた検査用交流電圧Vtの信号Svを演算処理部24に出力する。
【0067】
次いで、検査用交流電圧Vtを印加することにより安定した交流電流Itが架線2間に流れると、前記電流計測部23がこの交流電流Itを計測して信号Siを演算処理部24に出力する(ステップS3)。
【0068】
演算処理部24は、検査用交流電圧Vtと交流電流Itの関係から、交流電圧Vtに対して90°遅れた位相の交流電流Itの無効電流を求めこれを基に架線間のリアクタンスXを求める。(ステップS4)このとき、リアクタンスXが正であれば遅れ特性であるから誘導特性であり、負であれば進み特性であるから容量特性である。
【0069】
リアクタンスXが求められれば、選択された架線2間の状態はリアクタンスXが容量特性であることにより正常な離隔状態であると判断出来、誘導特性であれば架線2間が接触した短絡状態であると判断できる(ステップS5)。なお、交流電流Itが流れない場合は、架線2に対する接続ができていない状態で計測不能であるから表示または音により接続確認を操作者に促す。
【0070】
架線2間が短絡状態である場合は警告発生部26を構成する発光ダイオード26a~26cの赤色点灯などによって短絡している架線2間を明示するように警告表示を行なうことが可能であり、同時に、ブザー音などの警告音を発生させることにより、音によっても警告を発生する(ステップS6)。なお、架線2間が離隔した正常状態である場合は、警告発生部26は何も警告表示を行なわないか、あるいは、緑色発光ダイオードの点灯、短い発信音などによって健全な離隔状態であることを示すことも可能である。
【0071】
次に、全ての架線2間の状態確認が完了したかどうかを確認する(ステップS7)。状態確認が出来ていない架線2間があれば,ステップS1に戻って短絡確認を実施できていない架線2間にスイッチ部22を切替えて、ステップS2~S6の処理を繰返し行い、全ての架線2間の状態確認が完了した場合は、次のステップS8に進む。
【0072】
全ての架線2間の状態確認が完了すると、線条短絡確認の全てのシーケンスを終了したことを示す、緑色発光ダイオードの点灯および確認終了を示す短いブザー音などによって操作者に検査結果を示す(ステップS8)
【0073】
上述のように構成された線条短絡確認装置1を用いて線条短絡確認方法を実践することにより、張替え施工後の架線2を既存の架線に接続した後に、架線2相互間が離隔した正常状態であることを極めて容易、また確実に確認することができる。これによって、施工後の架線2に安心してき電を開始することが可能となる。
【0074】
前記架線状態確認部25による離隔状態か短絡状態かの判断は、架線2間のリアクタンスXが容量特性であるか誘導特性であるかに基づいて行なわれ、明瞭な判断基準があるので,信頼できるものである。
【0075】
なお、架線2相互間の電気特性による短絡状態の判断は、上述のリアクタンスXのみならず、他の基準で行なうことも可能である。
【0076】
図5~
図10は、架線2相互間の状態と、インピーダンスの大きさ|Z|および交流電流Itに対する交流電圧Vtの位相差θの周波数特性を示す図であって、
図5はき電線2aとトロリ線2bの間が正常な離隔状態であるときにおける周波数特性を示す図であり、
図6はき電線2aとトロリ線2bの間が2km先において短絡状態であるときにおける周波数特性を示す図であり、
図7はトロリ線2bと保護線2cの間が正常な離隔状態であるときにおける周波数特性を示す図であり、
図8はトロリ線2bと保護線2cの間が2km先において短絡状態であるときにおける周波数特性を示す図であり、
図9は保護線2cとき電線2aの間が正常な離隔状態であるときにおける周波数特性を示す図であり、
図10は保護線2cとき電線2aの間が2km先において短絡状態であるときにおける周波数特性を示す図である。
【0077】
図5~
図10が示すように、どの架線2相互間においても架線2間が正常な離隔状態であるときには交流電流Itに対して検査用交流電圧Vtの位相角θが負の値であるのに対し、架線2間が接触している短絡状態では交流電流Itに対して検査用交流電圧Vtの位相角θが正の値である。したがって、この位相差θを判断基準として架線2相互間の状態確認を行なってもよい。
【0078】
図11は第2実施形態に係る線条短絡確認装置30の構成を示す図である。なお,
図11において
図3と同じ符号を付した部材は同一または同等の部材であるから、その詳細な説明を省略する。
【0079】
図11に示すように、本実施形態の線条短絡確認装置30において、31は架線2間に印加する検査用交流電圧Vtとこの検査用交流電圧Vtを印加したときに流れる交流電流Itの関係から交流電流Itに対する検査用交流電圧Vtの位相差θを演算する演算処理部、32は位相差θを用いて架線2間の状態を確認する架線状態確認部であり、本例の場合、架線状態確認部32は位相角θが負であるときに架線2間は離隔状態であると判断し、位相角θが正であるときに架線2間は短絡状態であると判断するものである。
【0080】
図12は本発明の第3実施形態に係る線条短絡確認装置40の構成を示す図である。
図12において、41は電源部20から供給される直流電力を用いて周波数制御信号Cfが示す200Hzから1kHzの間の周波数の検査用交流電圧Vtを発生する交流電圧発生部、42はこの交流電圧発生部41に周波数制御信号Cfを出力することにより2つの異なる発信周波数を順次指定すると共に前記検査用交流電圧Vtと交流電流Itの関係から架線2間のインピーダンスZの大きさ|Z|を演算する演算処理部、43は指定した2つの周波数と各周波数でのインピーダンスZの大きさ|Z|の関係から求めた傾きを用いて架線2間の状態を確認する架線状態確認部である。
【0081】
なお、インピーダンスZの大きさ|Z|の周波数特性は
図5~
図10に示すとおりであるから、前記架線状態確認部43は高い周波数のときのインピーダンスの大きさが低い周波数のときのインピーダンスの大きさより小さいことによって架線間が短絡していない離隔状態であることを判断することができる。その他の点は第1実施形態および第2実施形態の線条短絡確認装置と同様であるから、その詳細な説明を省略する。
【0082】
図13は第3実施形態の線条短絡確認装置40において線条短絡確認を行なう線条短絡確認方法を説明する図である。
【0083】
図13に示すように、線条短絡確認装置1を前記操作入力部27のボタンを押すことにより起動すると、演算処理部42を構成するマイクロコンピュータが実行可能な線条短絡確認プログラムP1を実行し、前記スイッチ部22に架線2a~2cのうち、選択された2つの架線2間に前記交流電圧発生部41からの検査用交流電圧Vtを供給するように、切替接続させる制御信号Cを出力する(ステップS10)。
【0084】
また、前記交流電圧発生部41は演算処理部42からの周波数制御信号Cfに従って、200Hz以上かつ1kHz以下の指定された第1周波数の検査用交流電圧Vtに変換して発生し、この検査用交流電圧Vtをスイッチ部22によって選択された架線2間に印加する(ステップS11)。
【0085】
第1周波数の検査用交流電圧Vtを印加することにより安定した交流電流Itが架線2間に流れると、前記電流計測部23がこの交流電流Itを計測して信号Siを演算処理部42に出力する(ステップS12)。
【0086】
演算処理部42は、検査用交流電圧Vtと交流電流Itの関係から、第1周波数のときの架線2間のインピーダンスZの大きさ|Z|を演算する。(ステップS13)
【0087】
次いで、前記交流電圧発生部41は演算処理部42からの周波数制御信号Cfに従って、200Hz以上かつ1kHz以下の指定された第2周波数の検査用交流電圧Vtに変換して発生し、この検査用交流電圧Vtをスイッチ部22によって選択された架線2間に印加する(ステップS14)。
【0088】
第2周波数の検査用交流電圧Vtを印加することにより安定した交流電流Itが架線2間に流れると、前記電流計測部23がこの交流電流Itを計測して信号Siを演算処理部42に出力する(ステップS15)。
【0089】
演算処理部42は、検査用交流電圧Vtと交流電流Itの関係から、第2周波数のときの架線2間のインピーダンスZの大きさ|Z|を演算する。(ステップS16)
【0090】
2つの周波数でのインピーダンスZの大きさ|Z|が求められれば、選択された架線2間の状態は、高い周波数のときのインピーダンスZの大きさ|Z|と低い周波数のときのインピーダンスZの大きさ|Z|の比較によって行なうことができる。すなわち、高い周波数のときのインピーダンスZの大きさ|Z|が低い周波数のときのインピーダンスZの大きさ|Z|より小さいことによって架線間が短絡していない離隔状態であると判断することができる(ステップS17)。
【0091】
架線2間が短絡状態である場合は警告発生部26に警告表示を行なうことが可能であり、同時に、ブザー音などの警告音を発生させることにより、音によっても警告を発生する(ステップS18)。
【0092】
次に、全ての架線2間の状態確認が完了したかどうかを確認する(ステップS19)。状態確認が出来ていない架線2間があれば,ステップS10に戻って短絡確認を実施できていない架線2間にスイッチ部22を切替えて、ステップS10~S19の処理を繰返し行い、全ての架線2間の状態確認が完了した場合は、次のステップS20に進む。
【0093】
全ての架線2間の状態確認が完了すると、線条短絡確認の全てのシーケンスを終了したことを示す、緑色発光ダイオードの点灯および確認終了を示す短いブザー音などによって操作者に検査結果を示す(ステップS20)
【0094】
上述のように構成された線条短絡確認装置40を用いて線条短絡確認方法を実践することにより、架線2間のインピーダンスZの大きさ|Z|の比較によって、架線状態の確認を行なうことができるので、より確実に短絡状態と離隔状態を確認することができる。これによって、施工後の架線2に安心してき電を開始することが可能となる。
【符号の説明】
【0095】
1,30,40 線条短絡確認装置
2 架線
2a き電線
2b トロリ線
2c 保護線
3a,3b 単巻変圧器
6 交流電源
7 レール
9(9a,9b,9c) 接地線
20 電源部
21,41 交流電圧発生部
22 スイッチ部
23 電流計測部
24,31,42 演算処理部
25,32,43 架線状態確認部
26 警告発生部
27 操作入力部
Vt 検査用交流電圧
It 交流電流
P,P1 線条短絡確認方法を実行させる線条短絡確認プログラム