(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047777
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】印刷物
(51)【国際特許分類】
B41M 3/14 20060101AFI20220317BHJP
B42D 25/337 20140101ALI20220317BHJP
【FI】
B41M3/14
B42D25/337
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020153740
(22)【出願日】2020-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】青木 正幸
(72)【発明者】
【氏名】小川 稔
(72)【発明者】
【氏名】島村 純一
【テーマコード(参考)】
2C005
2H113
【Fターム(参考)】
2C005HA02
2C005JB25
2H113AA06
2H113BA03
2H113BA05
2H113BA09
2H113BB02
2H113BB07
2H113BB22
2H113CA34
2H113CA39
2H113CA44
(57)【要約】
【課題】本発明では、目視では潜像の有無または潜像の内容が確認できないような万線潜像印刷物とすることを課題とする
【解決手段】上記課題を解決するため、本発明は、基材上に検証領域が印刷されてなる印刷物であって、検証領域が、背景領域と潜像領域を有し、背景領域及び潜像領域は万線から構成され、背景領域を形成する万線の方向と潜像領域を形成する万線の方向が同じであり、背景領域を形成する万線のピッチと潜像領域を形成する万線のピッチがずれて形成されてなり、かつ背景領域を形成する万線及び潜像領域を形成する万線が、それぞれ欠損部を有する万線からなることを特徴とする印刷物とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に検証領域が印刷されてなる印刷物であって、
検証領域が、背景領域と潜像領域を有し、
背景領域及び潜像領域は万線から構成され、
背景領域を形成する万線の方向と潜像領域を形成する万線の方向が同じであり、
背景領域を形成する万線のピッチと潜像領域を形成する万線のピッチがずれて形成されてなり、
かつ背景領域を形成する万線及び潜像領域を形成する万線が、それぞれ欠損部を有する万線からなることを特徴とする印刷物。
【請求項2】
前記欠損部の面積が、万線全体に対し30%~70%であることを特徴とする請求項1に記載の印刷物。
【請求項3】
前記欠損部が少なくとも万線の輪郭(線幅方向の両端)を含むように形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の印刷物。
【請求項4】
前記欠損部がランダムなパターンからなることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の印刷物。
【請求項5】
前記欠損部がドット、文字列、彩文、幾何学図形のいずれか又は組み合わせからなるポジパターン又はネガパターンであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、万線フィルター等の顕像化部材を用いて顕像化が可能な潜像を有する印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、
図8、9に示すような、万線で形成される背景と、一部にピッチのずれた万線からなる潜像を印刷した印刷物が知られている(特許文献1等)。
このような印刷物は、目視では潜像の確認が不可能であるが、万線フィルターを用いた時に潜像部分の顕像化を可能にすることができるもので、セキュリティを要する書類の用紙として用いられている。
具体的には、背景と潜像のピッチがずれているため、万線フィルターを重ねた時に、背景部の万線と万線フィルターが重なり、ずれた潜像部が太って強調されて見える、また潜像部の万線と万線フィルターが重なり、ずれた部分が白抜きとして潜像が認識される、また潜像部と万線フィルターのモアレ現象により潜像が認識される、などにより潜像を確認できる技術である。
【0003】
また、万線として方向の異なる複数の万線を用いることで複数種の潜像を設ける技術についても知られている(特許文献1、2等)
しかし、従来の万線潜像では、例えば
図9に示すように背景部と潜像部が連続しているため、慣れた人や、ルーペなどで注意深く見ると、万線のピッチのずれた部分を認識でき、潜像と背景の境界を確認されることがある。そのため、潜像の有無が確認され、また状況によっては潜像の内容まで判る場合もある。
そのため、目視の際の潜像の隠ぺい性を高める工夫として特許文献3のような技術も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭54-138700公報
【特許文献2】特開2001-213042公報
【特許文献3】特開2013-244640公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3の印刷物の場合、目視の際の潜像の隠ぺい性を高めることができるものの、画素構造を用いているため、使用目的によっては意匠性の点などで不向きな場合がある。
そのため、本発明では、高い意匠性を備えるとともに、目視の際の潜像の隠ぺい性が高い万線潜像を備えた印刷物とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基材上に検証領域が印刷されてなる印刷物であって、検証領域が、背景領域と潜像領域を有し、背景領域及び潜像領域は万線から構成され、背景領域を形成する万線の方向と潜像領域を形成する万線の方向が同じであり、背景領域を形成する万線のピッチと潜像領域を形成する万線のピッチがずれて形成されてなり、かつ背景領域を形成する万線及び潜像領域を形成する万線が、それぞれ欠損部を有する万線からなることを特徴とする印刷物とする。
【0007】
また、欠損部の面積が、万線全体に対し30%~70%であることを特徴とする。
【0008】
また、欠損部が少なくとも万線の輪郭(線幅方向の両端)を含むように形成されていることを特徴とする。
【0009】
また、欠損部がランダムなパターンからなることを特徴とする。
【0010】
また、欠損部がドット、文字列、彩文、幾何学図形のいずれか又は組み合わせからなるポジパターン又はネガパターンであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、本発明では、高い意匠性を備えるとともに、目視の際の潜像の隠ぺい性が高い万線潜像を備えた印刷物とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】本発明の印刷物の印刷物に用いる万線の一例を示す概略図である。
【
図4】本発明の印刷物の印刷物に用いる万線の一例を示す概略図である。
【
図5】本発明の印刷物の検証に用いる顕像具の一例を示す概略図である。
【
図6】顕像具を用いて本発明の印刷物を検証した一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
図1は本発明に係る印刷物の一例を示す概略図である。そして
図2は
図1の概略図を詳しく説明したものである。
図3、4は本発明の印刷物に用いる万線の一例を示す概略図である。
図5は、本発明の印刷物の検証に用いる顕像具の一例を示す概略図であり、
図6は
図5の顕像具を用いて本発明の印刷物を検証した一例を示す概略図である。
図8は従来の印刷物の一例を示す説明図である。
図9は
図8の概略図を詳しく説明したものである。
【0014】
本発明の印刷物は、基材と、基材上に印刷により設けられた検証領域1により構成される。
検証領域1は、背景領域(画像)4と潜像領域(画像)6を有し、背景領域(画像)4と潜像領域(画像)6はそれぞれ、一定のピッチで線を形成しているいわゆる万線により構成される。
【0015】
背景領域(画像)4を構成する万線2と潜像領域(画像)3を構成する万線4は、同一の方向、同一のピッチで形成され、ピッチをずらして形成される。
万線2と万線4の角度は略同一とし、具体的には角度差が±1°未満、好ましくは0.1°未満、さらに好ましくは0.01°未満である。
万線2と万線4のピッチは、顕像具を用いて潜像を顕像化できるようにずれていれば特に限定するものではないが、典型的には1/2ピッチずらしてなる。なお、+1/4~-1/4ピッチ程度のずれであれば許容できる。
【0016】
なお、万線2の線幅と万線4の線幅も略同一であることが好ましい。
具体的には、万線2、万線4の線幅は0.01~1mm程度で構成され、万線2の線幅に対する万線4の線幅は95~100%の範囲内、好ましくは99~101%の範囲内、さらには99.9~100.1%の範囲内であることが好ましい。
万線2、万線4のピッチは0.01~2mm程度で構成される。
【0017】
本発明に用いる背景領域(画像)4を構成する万線2と潜像領域(画像)3を構成する万線4は、部分的に欠けている欠損部を有することを特徴とする。
従来の印刷物において、潜像の隠ぺい性が高くなかった原因として、背景領域(画像)を構成する万線と潜像領域(画像)を構成する万線の周期構造が考えられる。従来の印刷物では背景領域(画像)、潜像領域(画像)を構成する各万線が、太い実線により形成されていたため、目視で見た時に万線の周期構造を認識しやすい状況であった。そのため、背景領域(画像)の周期構造と潜像領域(画像)の周期構造のずれを認識されやすい状況であり、潜像の存在が発覚しやすかったと推定される。特に万線を構成する実線のうち、線の中心領域に比べ、線の幅方向の両端の輪郭部分が、周期構造を認識しやすい状況であったとも考えられる。線の幅方向の両端の輪郭部分は万線と非印刷部分の境界であり、高いコントラスト部分であるため、この部分の状態が周期構造の認識性に大きく関わっていると推定される。
【0018】
そこで、本発明では、背景領域(画像)、潜像領域(画像)を構成する万線に欠損部を設けることで、万線の周期構造を目立たなくして目視での潜像の隠ぺい性を向上させるとともに、顕像具を重ねた際には潜像を視認できるようにするものである。
欠損部を持たせることで、万線のパターンが模様のように見えるため、意匠性も高まる。
【0019】
欠損部としては万線の周期構造を目立たなくするものであれば特に限定するものではないが、例えば、ドット、文字列、彩文、幾何学図形の組合せのポジパターン又はネガパターンとして用いることができる。
図3は欠損部の具体的なパターンの一例である。(a)は文字列のネガパターンを欠損部とした例である。(b)は線状模様のネガパターンを欠損部とした例である。(c)は幾何学模様を組み合わせたパターンのネガパターンを欠損部とした例である。(d)は文字列の部分を、(e)はランダムな線状模様の部分を、(f)は幾何学模様を組み合わせたパターンの部分を欠損部とした例である。
【0020】
また、欠損部の割合は潜像の隠蔽性と潜像の濃さの関係を考慮し30%~70%、さらには40%~60%の範囲内が好ましい。
具体的には
図4(a)、(b)に示すように、欠損部の割合は、欠損部を有する万線の任意の線分部分を四角で囲んだ部分を万線面積7とし、この万線の面積7に対する欠損している欠損部9の割合を示す。
【0021】
なお、欠損部は検証領域全体にわたって形成されていることが好ましい。また、欠損部の割合に偏りなく、略均一に形成されていることが好ましい。
また、欠損部は少なくとも万線の輪郭(幅方向の両端)を含むように形成されていることが好ましい。万線の周期性の認識には特に整然と並んだ万線の輪郭(線の幅方向の両端)に起因するため、輪郭(線の幅方向の両端)を欠損させることで周期性を目立たなくし、結果として潜像の隠ぺい性を高めることができる。輪郭(線の幅方向の両端)の欠損割合は30~95%程度であることが好ましい。
【0022】
また、欠損部、欠損部を形成することで残った実線部は規則的なパターン、文字列などでもよいが、ランダムなパターンであることが好ましい。
文字列を用いる場合は文字をランダム配列させたものを用いることができる。ドットの場合はFMスクリーンを用いることができる。
なお、完全ランダムでなくとも一定範囲においてランダムなパターンを繰り返し用いても構わない。例えば文字列を用いる場合、少なくとも10文字以上、好ましくは20文字以上のランダムな文字列を繰り返し用いることができる。
また、規則的な文字列の場合は例えば「TOPPAN」の繰り返しパターンなどを用いることができる。
【0023】
本発明の印刷物に用いる基材としては、主に紙基材を用いることができ、例えば、上質紙、普通紙などを用いることができる。また樹脂系材料などを用いてもよい。
なお、基材には本発明の検証領域の邪魔にならない程度の地紋などを有していてもよい。
【0024】
背景領域と潜像領域を含む検証領域はインキを用いて印刷法により形成される。
印刷に用いるインキとしては通常の有色インキを用いることができる。なお、基材の地色とは異なる色のインキを用いる。
印刷方法としてはオフセット、グラビア、スクリーン、凹版印刷などを用いることができる。
【0025】
欠損部のパターンの形成の方法は、例えば製版データ上で万線のパターンからFMスクリーンや文字列、彩文などのパターンを用い、画像処理ソフトでノイズ加工や濃度を変えてディザリング処理をする、などの方法が考えられる。そして欠損部のパターンを含む万線を基材上に印刷すればよい。
このようにすることで規則正しく配列されている万線の周期性を認識しにくくすることができ、その結果潜像部と背景部のずれを認識しにくくすることができる。
万線の印刷は一般的な印刷方式はもちろん、レーザー・インクジェット方式などさまざまなプリンターでも出力可能である。
【0026】
なお、元となる万線のパターンのデータ生成は特に限定するものではなく、太さ、ピッチが決まれば手作業で配列させてもよいし、自動的に配列するようにしたものを用いてもよい。そして生成した万線パターンを用いて背景領域と潜像領域に当てはめる際、ピッチをずらして当てはめていけばよい。
【0027】
本発明の印刷物の検証領域は、顕像具を用いて潜像を顕像化することにより、目視では確認できない、又は極めて確認しにくい潜像を確認することができる。
顕像具としては、背景領域、潜像領域を構成する万線とピッチ、方向の同じ万線からなる、いわゆる万線フィルターを用いることができる。
このようなものとして例えば樹脂基材や紙基材に万線が形成されたものを用いることができる。
また、
図7に示すような、検証領域を備えた基材(用紙)上の同一面に、万線状の印刷からなる顕像具を顕像具領域として設けたものを用いても構わない。この場合は基材(用紙)を折り曲げて検証領域と顕像具領域を重ねることで潜像を顕像化することができる。なお、顕像具領域は基材(用紙)の検証領域を設けた面と反対側に設けてもよい。この場合基材(用紙)ある程度の透過性、例えば蛍光灯などにかざした場合に透過する程度の透過性を有するものを用いる。
【0028】
なお、検証領域に欠損部を設けると必然的に検証領域の濃度が低下する。そのため、紙など光遮蔽性の基材を用いる場合、用紙を重ねての確認では視認性が悪くなる。そこで、重ねる前は可能な限り潜像が見にくく、重ねた後に出来る限り潜像が確認しやすくなるような、適切な濃度での欠損処理を行う必要がある。
顕像具(万線フィルター)の万線の太さ(線幅)は、潜像の視認性を最大化するために、潜像部の万線に対しての顕像具の万線太さが110%~200%の範囲内にある必要があり、さらには130%~160%の範囲にあることが望ましい。
【0029】
さらに、検証領域と顕像具を重ねた時の潜像の視認性を高める方法として、検証領域と顕像具の万線の太さを調整する。
潜像の濃さを最大化するためには、検証領域と顕像具の万線の太さをイコールにすることが望ましいが、それだと双方の万線が精確に重なった時にだけ潜像が見えることになる。
それに対し、顕像具の万線の太さを、検証領域の万線の太さより太くすることで、潜像の濃さは落ちるものの、潜像の見える重なりが発生する範囲は広くなり、結果的に潜像が確認しやすくなる。
上記の二つの要素は相反するものであるため、潜像の濃さと重なる範囲、双方を考慮し、もっとも効果の高い万線の太さを設定する必要がある。
【実施例0030】
<実施例1>
基材として上質紙を用い、黒色のオフセットインキを用いて、オフセット印刷法により、検証領域として万線からなる背景領域と潜像領域を印刷した。検証領域は
図1に示すような図柄とした。
背景領域(画像)を構成する万線と潜像領域(画像)を構成する万線は、線幅0.1mmで、ピッチを0.2mmとし、背景領域(画像)を構成する万線のピッチと潜像領域(画像)を構成する万線のピッチを半ピッチずらした。なお、背景領域(画像)を構成する万線と潜像領域(画像)を構成する万線の欠損部として、
図3(a)に示すようなランダムな文字列のネガパターンを用いた。
得られた印刷物を、目視で観察したところ、潜像の有無は確認できず、十分な潜像隠ぺい性を有することが確認できた。
そして樹脂フィルム上に線幅0.1mm、ピッチ0.2mmの万線を印刷した
図5に示すような万線フィルターを重ねて観察したところ、潜像であるTの文字が確認できた。
【0031】
<実施例2>
基材として上質紙を用い、黒色のオフセットインキを用いて、オフセット印刷法により、検証領域として万線からなる背景領域と潜像領域を印刷した。検証領域は
図7の左上の検証領域1に示すような図柄とした。
背景領域(画像)を構成する万線と潜像領域(画像)を構成する万線は、線幅0.1mmで、ピッチを0.2mmとし、背景領域(画像)を構成する万線のピッチと潜像領域(画像)を構成する万線のピッチを半ピッチずらした。なお、背景領域(画像)を構成する万線と潜像領域(画像)を構成する万線の欠損部として、
図3(a)に示すようなランダムな文字列のネガパターンを用いた。
また、検証領域を印刷した用紙の同じ面に、顕像化領域として線幅0.1mm、ピッチ0.2mmの万線を印刷した
図5に示すような万線を印刷し、万線フィルターとした。顕像化領域は
図7に示すように検証領域1の線対称となる反対側に形成した。
得られた印刷物を、目視で観察したところ、潜像の有無は確認できず、十分な潜像隠ぺい性を有することが確認できた。
そして検証領域と顕像具領域を重ね、蛍光灯にかざして観察したところ、潜像であるTの文字が確認できた。
【0032】
<比較例1>
基材として上質紙を用い、黒色のオフセットインキを用いて、オフセット印刷法により、検証領域として万線からなる背景領域と潜像領域を印刷した。図柄は
図8に示すような、Tの形状となるような潜像とした。
万線からなる背景と潜像を印刷した。万線の線幅は背景画素潜像画素共に0.1mmで、ピッチを0.2mmとし、背景画素と潜像画素は半ピッチずらした。
得られた印刷物を、目視で観察したところ、背景と潜像の境界を確認でき、潜像の存在を認識することができてしまった。
なお、検証領域と顕像具領域を重ねて観察したところ、潜像であるTの文字が確認できた。