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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047778
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】ロボット装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 13/00 20060101AFI20220317BHJP
【FI】
B25J13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020153744
(22)【出願日】2020-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅村 哲央
(72)【発明者】
【氏名】浅井 雅広
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 亮
(72)【発明者】
【氏名】辰野 仁嗣
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707BS10
3C707DS01
3C707HS21
3C707KS21
3C707KS35
3C707KX05
3C707LV22
3C707MT05
(57)【要約】
【課題】それぞれ液体の供給を受けて作動する複数の人工筋肉を含むロボットアームの始動時における挙動の乱れを良好に抑制する。
【解決手段】本開示のロボット装置は、複数の関節と、複数のリンクと、それぞれ液体の供給を受けて作動すると共に、関節を介して連結された対応する2つのリンクを相対的に回動させる複数の人工筋肉とを含むロボットアームと、複数の人工筋肉に液体を供給する液体供給装置と、当該液体供給装置を制御する制御装置とを含み、制御装置は、ロボットアームの始動要求に応じて液体供給装置から複数の人工筋肉に液体を供給する際に、液体をロボットアームの手先側の人工筋肉から基端側の人工筋肉へと順番に供給するように液体供給装置を制御する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の関節と、複数のリンクと、それぞれ液体の供給を受けて作動すると共に、前記関節を介して連結された対応する2つの前記リンクを相対的に回動させる複数の人工筋肉とを含むロボットアームと、前記複数の人工筋肉に前記液体を供給する液体供給装置とを含むロボット装置であって、
前記ロボットアームの始動要求に応じて前記液体供給装置から前記複数の人工筋肉に前記液体を供給する際に、前記液体を前記ロボットアームの手先側の前記人工筋肉から基端側の前記人工筋肉へと順番に供給するように前記液体供給装置を制御する制御装置を備えるロボット装置。
【請求項2】
請求項1に記載のロボット装置において、
前記液体供給装置は、液体供給源からの前記液体を調圧して前記複数の人工筋肉に供給し、
前記制御装置は、前記ロボットアームの始動要求に応じて前記液体供給装置から前記複数の人工筋肉に前記液体を供給する際に、前記複数の人工筋肉の各々に供給される前記液体の圧力が、前記ロボットアームの姿勢を保持するように前記複数の人工筋肉ごとに定められた保持圧になるように前記液体供給装置を制御するロボット装置。
【請求項3】
請求項2または3に記載のロボット装置において、
前記制御装置は、1つの前記人工筋肉に供給される前記液体の圧力が前記保持圧に達してから予め定められた時間をおいて次の前記人工筋肉への前記液体の供給を開始させるように前記液体供給装置を制御するロボット装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載のロボット装置において、
前記複数の関節ごとに、一対の前記人工筋肉が互いに拮抗するように設けられ、
前記制御装置は、前記複数の関節ごとに、前記一対の人工筋肉の一方であって、他方よりも大きな収縮力を発生したときに前記一対の人工筋肉間の収縮力差に応じた前記関節の可動範囲をより小さくする一方に前記液体を供給するように前記液体供給装置を制御し、前記一対の人工筋肉の前記一方に前記液体が供給され始めた後に前記一対の人工筋肉の他方に前記液体を供給するように前記液体供給装置を制御するロボット装置。
【請求項5】
少なくとも1つの関節と、複数のリンクと、液体の供給を受けて作動すると共に、前記関節を介して連結された2つの前記リンクを相対的に回動させる一対の人工筋肉とを含むロボットアームと、前記一対の人工筋肉に前記液体を供給する液体供給装置とを含むロボット装置であって、
前記ロボットアームの始動要求に応じて前記液体供給装置から前記一対の人工筋肉に前記液体を供給する際に、前記一対の人工筋肉の一方であって、他方よりも大きな収縮力を発生したときに前記一対の人工筋肉間の収縮力差に応じた前記関節の可動範囲をより小さくする一方に前記液体を供給するように前記液体供給装置を制御し、前記一対の人工筋肉の前記一方に前記液体が供給され始めた後に前記一対の人工筋肉の他方に前記液体を供給するように前記液体供給装置を制御する制御装置を備えるロボット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、それぞれ液体の供給を受けて作動する複数の人工筋肉を含むロボットアームと、複数の人工筋肉に液体を供給する液体供給装置とを含むロボット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の弾性膨張収縮構造体(人工筋肉)と、それぞれ対応する一対の弾性膨張収縮構造体により回転駆動される複数の関節軸と、物体把持用のハンドと、複数の3ポート流量制御電磁弁(駆動装置)とを含む2自由度のロボットアームである弾性体アクチュエータ駆動機構が知られている(例えば、特許文献1参照)。この弾性体アクチュエータ駆動機構の各弾性膨張収縮構造体は、ゴム材料で構成された中空の管状弾性体と、当該管状弾性体の外表面を覆う網目状の変形方向規制部材とを含む。管状弾性体の両端部は封止部材により気密封止され、管状弾性体の内部には、一端側の封止部材に設けられた管状の流体通過部材を介して空気等の圧縮性流体が供給される。管状弾性体は、内部に圧縮性流体が供給された際に主に半径方向に膨張しようとするが、変形方向規制部材の作用により管状弾性体の変形方向の運動が軸方向の運動に変換される。これにより、圧縮性流体の供給により管状弾性体を収縮させることで、弾性膨張収縮構造体を直動アクチュエータとして利用することができる。更に、第1および第2関節軸をそれぞれ対応した一対の弾性膨張収縮構造体の拮抗駆動により正逆に回転させることで、物体把持用のハンドを移動させることが可能となる。
【0003】
上記従来の弾性体アクチュエータ駆動機構では、予め作成された動作プログラムに従って設定される目標関節角度ベクトルと、エンコーダにより計測される関節角の現在値(関節角度ベクトル)との差である角度誤差ベクトルから角度誤差修正指令値が算出される。また、目標関節角度ベクトルから目標角加速度が計算により求められ、当該目標角加速度と角度誤差ベクトルとから修正目標角加速度が計算により求められる。また、修正目標角加速度と、弾性体アクチュエータ駆動機構の各リンクまたは搬送物体の質量、重心位置、若しくは慣性行列といったダイナミクスパラメータとから、搬送物体および弾性体アクチュエータ駆動機構の質量にかかる重力項を含む目標関節トルクが算出される。更に、目標関節トルクと上記関節角度ベクトルとから、関節軸ごとに弾性膨張収縮構造体の目標圧力値が算出されると共に、当該目標圧力値と圧力センサにより計測される弾性膨張収縮構造体(管状弾性体)の内圧(空気の圧縮率)との差である圧力誤差が算出される。そして、圧力誤差から圧力差誤差修正出力が算出され、当該圧力差誤差修正出力は、各3ポート流量制御電磁弁に電圧指令値として与えられる。これにより、各関節軸が対応する一対の弾性膨張収縮構造体によって独立して回転駆動されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2012/081197号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載された弾性体アクチュエータ駆動機構の制御手順は、各弾性膨張収縮構造体に空気等の圧縮性流体が充填されていることを前提としたものである。しかしながら、弾性体アクチュエータ駆動機構の始動時には、各弾性膨張収縮構造体に空気等が通常充填されてはおらず、上述のように各3ポート流量制御電磁弁に電圧指令値を与えたとしても、各弾性膨張収縮構造体から要求される力(トルク)を出力させることができない。更に、弾性体アクチュエータ駆動機構の始動に際して各弾性膨張収縮構造体からの出力に遅れを生じると、当該弾性体アクチュエータ駆動機構の挙動に乱れを生じさせてしまうおそれがある。
【0006】
そこで、本開示は、それぞれ液体の供給を受けて作動する複数の人工筋肉を含むロボットアームの始動時における挙動の乱れを良好に抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のロボット装置は、複複数の関節と、複数のリンクと、それぞれ液体の供給を受けて作動すると共に、前記関節を介して連結された対応する2つの前記リンクを相対的に回動させる複数の人工筋肉とを含むロボットアームと、前記複数の人工筋肉に前記液体を供給する液体供給装置とを含むロボット装置であって、前記ロボットアームの始動要求に応じて前記液体供給装置から前記複数の人工筋肉に前記液体を供給する際に、前記液体を前記ロボットアームの手先側の前記人工筋肉から基端側の前記人工筋肉へと順番に供給するように前記液体供給装置を制御する制御装置を含むものである。
【0008】
本開示のロボット装置において、制御装置は、ロボットアームの始動要求に応じて液体供給装置から複数の人工筋肉に液体を供給する際に、液体をロボットアームの手先側の人工筋肉から基端側の人工筋肉へと順番に供給するように液体供給装置を制御する。すなわち、ロボットアームの始動要求がなされると、モーメントが相対的に小さくなる手先側の関節に対応した人工筋肉から、モーメントが相対的に大きくなる基端側の関節に対応した人工筋肉へと順番に液体が供給されていく。これにより、ロボットアームの始動に際して、基端側の関節に対応した人工筋肉に供給される液体の圧力や流量の本来要求されるものに対する過不足が生じたとしても、人工筋肉に供給される液体の圧力等の過不足に起因してロボットアーム全体が動いてしまう範囲を小さくすることができる。この結果、それぞれ液体の供給を受けて作動する複数の人工筋肉を含むロボットアームの始動時における挙動の乱れを良好に抑制することが可能となる。
【0009】
本開示の他のロボット装置は、少なくとも1つの関節と、複数のリンクと、液体の供給を受けて作動すると共に、前記関節を介して連結された2つの前記リンクを相対的に回動させる一対の人工筋肉とを含むロボットアームと、前記一対の人工筋肉に前記液体を供給する液体供給装置とを含むロボット装置であって、前記ロボットアームの始動要求に応じて前記液体供給装置から前記一対の人工筋肉に前記液体を供給する際に、前記一対の人工筋肉の一方であって、他方よりも大きな収縮力を発生したときに前記一対の人工筋肉間の収縮力差に応じた前記関節の可動範囲をより小さくする一方に前記液体を供給するように前記液体供給装置を制御し、前記一対の人工筋肉の前記一方に前記液体が供給され始めた後に前記一対の人工筋肉の他方に前記液体を供給するように前記液体供給装置を制御する制御装置を含むものである。
【0010】
本開示の他のロボット装置において、制御装置は、ロボットアームの始動要求に応じて液体供給装置から一対の人工筋肉に液体を供給する際に、まず、一対の人工筋肉の一方であって、他方よりも大きな収縮力を発生したときに当該一対の人工筋肉間の収縮力差に応じた関節の可動範囲をより小さくする一方に液体を供給するように液体供給装置を制御する。更に、当該制御装置は、一対の人工筋肉の一方に液体が供給され始めた後に、当該一対の人工筋肉の他方に液体を供給するように液体供給装置を制御する。これにより、ロボットアームの始動に際して、一対の人工筋肉に供給される液体の圧力や流量の本来要求されるものに対する過不足が生じたとしても、当該一対の人工筋肉からの収縮力に応じて定まる関節角度の変動を小さくすることができる。この結果、それぞれ液体の供給を受けて作動する一対の人工筋肉を含むロボットアームの始動時における挙動の乱れを良好に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示のロボット装置を示す概略構成図である。
図2】本開示のロボット装置を示す拡大図である。
図3】本開示のロボット装置の液体供給装置を示す概略構成図である。
図4】目標圧力設定マップを例示する説明図である。
図5】本開示のロボット装置の動作停止状態を示す概略構成図である。
図6】本開示のロボット装置の始動時における制御手順を例示するフローチャートである。
図7】本開示のロボット装置における関節の可動範囲を説明するための概略構成図である。
図8】本開示のロボット装置の始動時における制御手順を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、図面を参照しながら、本開示の発明を実施するための形態について説明する。
【0013】
図1は、本開示のロボット装置1を示す概略構成図であり、図2は、ロボット装置1を示す拡大図である。これらの図面に示すロボット装置1は、ロボットアーム(ロボット本体)2と、液体供給装置10と、装置全体を制御する制御装置100とを含む。ロボットアーム2は、複数(本実施形態では、3つ)の関節(ピン結合部)J1,J2,J3と、複数(本実施形態では、3つ)のアーム(リンク)3と、関節J1,J2,J3ごとに例えば偶数個(本実施形態では、4つ)ずつ設けられる人工筋肉としての複数の液圧アクチュエータMと、先端側のアーム3の手先に取り付けられる把持部としてのハンド部(ロボットハンド)4とを含む多関節アームである。ハンド部4は、対象となる物体(以下、「把持対象」という。)を把持するように制御装置100により制御される。また、液体供給装置10は、制御装置100により制御されて各液圧アクチュエータMに液体としての作動油(作動流体)を給排する。これにより、ロボットアーム2を油圧(液圧)により駆動してハンド部4を所望の位置に移動させることができる。
【0014】
ロボットアーム2の各液圧アクチュエータMは、図2に示すように、作動油の圧力によって膨張および収縮するチューブTと、当該チューブTを覆う編組スリーブSとを含む、いわゆるマッキベン型の人工筋肉である。チューブTは、高い耐油性をもった例えばゴム材等の弾性材により円筒状に形成されており、当該チューブTの両端部は、封止部材Cにより封止されている。チューブTの基端側(液体供給装置10側、図2中下端側)の封止部材Cには、作動油の出入口IOが形成されている。編組スリーブSは、所定方向に配向された複数のコードを互いに交差するように編み込むことにより円筒状に形成されており、軸方向および径方向に収縮可能である。編組スリーブSを形成するコードとしては、繊維コード、高強度繊維、極細のフィラメントによって構成される金属製コード等を採用することができる。かかる液圧アクチュエータMのチューブT内に上記出入口IOから作動油を供給してチューブT内の作動油の圧力を高めることで、チューブTは、編組スリーブSの作用により径方向に膨張すると共に軸方向に収縮し、内部の作動油の圧力に応じた収縮力を発生する。
【0015】
図1および図2に示すように、複数のアーム3のうち、最基端側(最も液体供給装置10側)のアーム3は、関節J1を介してリンクとしての支持部材5により回動自在に支持される。また、2つのアーム3同士が、関節J2またはJ3を介して互いに回動自在に連結される。更に、各アーム3の先端部(手先側の端部)には、連結部材6が固定されている。図示するように、支持部材5は、最基端側の関節J1に対応した複数(4つ)の液圧アクチュエータMの基端側の封止部材Cを回動自在に支持する。また、各アーム3の連結部材6は、基端側に位置する関節J1またはJ2に対応した複数(4つ)液圧アクチュエータMの先端側(手先側)の封止部材Cを回動自在に支持する。更に、各連結部材6は、先端側に位置する関節J2またはJ3に対応した複数(4つ)液圧アクチュエータMの基端側の封止部材Cを回動自在に支持する。
【0016】
より詳細には、支持部材5は、関節J1に対応した2つの液圧アクチュエータMの基端側の封止部材Cを第1の連結軸を介して回動自在に支持する。また、最基端側のアーム3の連結部材6は、関節J1に対応した当該2つの液圧アクチュエータMの先端側の封止部材Cを第2の連結軸を介して回動自在に支持する。更に、支持部材5は、関節J1に対応した残り2つの液圧アクチュエータMの基端側の封止部材Cを上記第1の連結軸と平行に延びる第3の連結軸を介して回動自在に支持する。また、最基端側のアーム3の連結部材6は、関節J1に対応した当該残り2つの液圧アクチュエータMの先端側の封止部材Cを上記第2の連結軸と平行に延びる第4の連結軸を介して回動自在に支持する。同様に、関節J2またはJ3を介して互いに連結される2つのアーム3の連結部材6も、上述のような複数の連結軸を介して、当該関節J2またはJ3に対応した複数(4つ)の液圧アクチュエータMの対応する封止部材Cを回動自在に支持する。
【0017】
これにより、関節J1-J3の関節軸から手先側(ハンド部4側)に延びる各アーム3の両側には、液圧アクチュエータMが本実施形態では2つずつ対応するアーム3と平行に配列される。そして、各アーム3の一側に配置される2つの液圧アクチュエータMは、1つの関節J1,J2またはJ3に対応した第1の人工筋肉(一方の拮抗筋)AM1(図3参照)を構成し、各アーム3の他側に配置される2つの液圧アクチュエータMは、当該第1の人工筋肉AM1と対をなす1つの関節J1,J2またはJ3に対応した第2の人工筋肉(他方の拮抗筋)AM2(図3参照)を構成する。ただし、第1の人工筋肉AM1を構成する液圧アクチュエータMの数と、第2の人工筋肉AM2を構成する液圧アクチュエータMの数とが異なっていてもよい。また、本実施形態において、1つの関節J1,J2またはJ3に対して設けられる複数(4つ)の液圧アクチュエータMは、互いに同一の諸元を有する。ただし、1つの関節J1,J2またはJ3に対応した複数の液圧アクチュエータMの諸元は、必ずしも同一である必要はなく、例えば、第1の人工筋肉AM1を構成する液圧アクチュエータMの諸元と、第2の人工筋肉AM2を構成する液圧アクチュエータMの諸元とが異なっていてもよい。更に、各アーム3は、中空に形成されており、各アーム3の内部には、液体供給管としての複数のホースH(図2における破線参照)が配置される。各ホースHは、対応する液圧アクチュエータMの基端側の封止部材Cに形成された出入口IOに接続され、各液圧アクチュエータMのチューブT内には、ホースHを介して液体供給装置10からの作動油(油圧)が供給される。
【0018】
従って、制御装置100により液体供給装置10を制御することで、第1の人工筋肉AM1を構成する2つの液圧アクチュエータMのチューブT内の油圧と、第1の人工筋肉AM1と対をなす第2の人工筋肉AM2を構成する2つの液圧アクチュエータMのチューブT内の油圧とを互いに異ならせることができる。これにより、4つの液圧アクチュエータMすなわち対をなす(1組の)第1および第2の人工筋肉AM1,AM2から連結部材6を介して各アーム3に力(回転トルク)を伝達し、支持部材5または基端側のアーム3に対して各アーム3を回動させて関節J1-J3の関節角度を変化させることが可能となる。本実施形態において、第1の人工筋肉AM1を構成する2つの液圧アクチュエータMと、第1の人工筋肉AM1と対をなす第2の人工筋肉AM2を構成する2つの液圧アクチュエータMとは、チューブTが所定量(例えば、自然長の10%程度)だけ軸方向に収縮した状態を初期状態として液体供給装置10からの油圧により拮抗駆動される。
【0019】
ロボット装置1の液体供給装置10は、図1に示すように、作動油貯留部(液体貯留部)を画成するタンク11と、当該タンク11を上下方向に延びる回動軸(図1における一点鎖線参照)の周りに回動自在に支持するベース部12とを含む。タンク11は、例えば上端および下端が閉鎖された筒体であり、内部に作動油を貯留可能なものである。本実施形態において、ロボットアーム2の支持部材5は、図2に示すように、タンク11の上壁部11uに図示しないボルト等を介して固定される。すなわち、ロボットアーム2は、液体供給装置10のタンク11(上壁部11u)により支持される。
【0020】
ベース部12は、ロボットアーム2およびタンク11の下方に位置するようにロボット装置1の設置箇所に固定されるか、あるいは図示しない無人搬送車(AGV)に搭載(固定)される。また、ベース部12は、タンク11を上記回動軸の周りに回動させる図示しない回動ユニットを支持している。これにより、回動ユニットを作動させることで、ロボットアーム2およびタンク11を当該回動軸の周りに一体に回動させることが可能となる。回動ユニットは、液体供給装置10から供給される油圧により駆動される揺動モータであってもよく、電動モータ等を含むものであってもよい。
【0021】
更に、液体供給装置10は、図3に示すように、タンク11およびベース部12に加えて、液体供給源としてのポンプ13と、タンク11内に配置される図示しないバルブボディと、元圧生成バルブ14と、それぞれ複数の調圧弁(調圧装置)としての第1および第2リニアソレノイドバルブ151,152と、それぞれ複数の供給遮断部としての第1および第2供給遮断弁161,162とを含む。ポンプ13、第1および第2リニアソレノイドバルブ151,152並びに第1および第2供給遮断弁161,162は、何れも制御装置100により制御される。第1および第2リニアソレノイドバルブ151,152と、第1および第2供給遮断弁161,162とは、関節J1,J2,J3ごとにそれぞれ1つずつ設けられる。
【0022】
ポンプ13は、例えば電動ポンプであり、タンク11内に貯留された作動油を吸引して吐出口から吐出する。ポンプ13は、タンク11内に配置されるポンプ部と、電動モータおよび減速ギヤ機構とを有すると共にタンク11内またはタンク11外に配置される駆動部とを含む。元圧生成バルブ14は、図示しない信号圧生成バルブからの信号圧に応じてポンプ13から吐出される作動油の一部をドレン(調圧)して元圧を生成し、元圧をバルブボディに形成された油路(液体通路)L0に供給する。元圧生成バルブRVの信号圧生成バルブとしては、例えば、制御装置100による通電制御されるリニアソレノイドバルブが用いられる。
【0023】
第1および第2リニアソレノイドバルブ151,152は、制御装置100により通電制御される電磁部15eやスプール15s、スプール15sを電磁部15e側(図3中上側)に付勢するスプリングSP等を含み、バルブボディ内に配置される。また、第1および第2リニアソレノイドバルブ151,152は、バルブボディの油路L0に連通する入力ポート15iと、入力ポート15iと連通可能な出力ポート15oと、出力ポート15oに連通するフィードバックポート15fと、出力ポート15oと連通可能なドレンポート15dとを含む。
【0024】
本実施形態において、第1および第2リニアソレノイドバルブ151,152は、電磁部15eに電流が供給される際に開弁する常閉弁であり、各電磁部15eは、印加される電流に応じてスプール15sを軸方向に移動させる。これにより、電磁部15e(コイル)への給電により当該電磁部15eからスプール15sに付与される推力と、スプリングSPの付勢力と、出力ポート5oからフィードバックポート5fに供給された油圧によりスプール5sに作用する電磁部5e側への推力とをバランスさせることで、元圧生成バルブ14(ポンプ13)側から入力ポート15iに供給されて出力ポート15oから流出する作動油を所望の圧力に調圧することができる。また、第1および第2リニアソレノイドバルブ151,152のドレンポート15dは、図3に示すように、それぞれ油路L3を介してタンク11内の作動油貯留部に連通する。
【0025】
第1および第2供給遮断弁161,162は、互いに同一の構造を有する電磁式スプール弁(電磁弁)であり、図3に示すように、入力ポート16i、第1および第2出力ポート16oa,16obを有するスリーブと、当該スリーブの内部に軸方向に摺動自在(移動自在)に配置される図示しないスプールと、制御装置100により通電制御されてスプールを移動させる電磁部16eと、スプールを電磁部16e側に付勢する図示しないスプリングとをそれぞれ含む。第1供給遮断弁161の入力ポート16iは、バルブボディに形成された油路を介して第1リニアソレノイドバルブ151の出力ポート15oに接続され、第2供給遮断弁162の入力ポート16iは、バルブボディに形成された油路を介して第2リニアソレノイドバルブ152の出力ポート15oに接続される。
【0026】
また、第1供給遮断弁161の第1出力ポート16oaは、油路L11を介して対応する上記第1の人工筋肉AM1を構成する一方の液圧アクチュエータM(チューブT)の作動油の出入口IOに接続される。更に、第1供給遮断弁161の第2出力ポート16obは、油路L12を介して当該第1の人工筋肉AM1を構成する他方の液圧アクチュエータM(チューブT)の作動油の出入口IOに接続される。また、第2供給遮断弁162の第1出力ポート16oaは、油路L21を介して対応する上記第2の人工筋肉AM2を構成する一方の液圧アクチュエータM(チューブT)の作動油の出入口IOに接続される。更に、第2供給遮断弁162の第2出力ポート16obは、油路L22を介して当該第2の人工筋肉AM2を構成する他方の液圧アクチュエータM(チューブT)の作動油の出入口IOに接続される。
【0027】
本実施形態において、第1および第2供給遮断弁161,162は、電磁部16eに供給される電流に応じて、完全連通状態、第1部分連通状態、第2部分連通状態および完全遮断状態を選択的に形成する。第1および第2供給遮断弁161,162が完全連通状態を形成した際には、入力ポート16iと第1および第2出力ポート16oa,16obの双方とが連通する。第1および第2供給遮断弁161,162が第1部分連通状態を形成した際には、入力ポート16iと第2出力ポート16obとが連通すると共に入力ポート16iと第1出力ポート16oaとの連通が遮断される。第1および第2供給遮断弁161,162が第2部分連通状態を形成した際には、入力ポート16iと第1出力ポート16oaとが連通すると共に入力ポート16iと第2出力ポート16obとの連通が遮断される。第1および第2供給遮断弁161,162が完全遮断状態を形成した際には、入力ポート16iと第1および第2出力ポート16oa,16obとの連通が遮断される。
【0028】
ロボット装置1の制御装置100は、CPU、ROM、RAM、入出力インターフェース等を含むマイクロコンピュータや各種ロジックIC等(何れも図示省略)を含む。制御装置100は、第1および第2リニアソレノイドバルブ151,152の下流側で油路L0における作動油の圧力を検出する図示しない元圧センサ、第1、第2リニアソレノイドバルブ151,152並びに第1、第2供給遮断弁161,162の電源の電圧を検出する図示しない電圧センサの検出値等を入力する。制御装置100は、元圧センサにより検出される油路L0における油圧が目標値になるように、ポンプ13をデューティ制御すると共に、元圧生成バルブ14の信号圧生成バルブの電磁部に供給される電流を制御する。
【0029】
また、制御装置100は、第1および第2リニアソレノイドバルブ151,152から各液圧アクチュエータMに要求に応じた油圧が供給されるように第1および第2リニアソレノイドバルブ151,152への電流指令値を設定し、当該電流指令値に基づいて各電磁部15eに供給される電流を制御する。更に、制御装置100は、ロボット装置1を作動させる間、基本的に、第1および第2供給遮断弁161,162が上述の完全連通状態を形成するように各電磁部16eに供給される電流を制御する。また、制御装置100は、第1リニアソレノイドバルブ151の電磁部15eを流れる電流を検出する電流検出部と、第2リニアソレノイドバルブ152の電磁部15eを流れる電流を検出する電流検出部とを含み(何れも図示省略)、各電流検出部により検出される電流を監視する。
【0030】
更に、制御装置100は、各液圧アクチュエータMにおける油圧を検出する図示しない圧力センサからの検出値に応じて、第1部分連通状態または第2部分連通状態を形成するように第1および第2供給遮断弁161,162の該当するものを制御する。これにより、破損等により第1および第2リニアソレノイドバルブ151,152の何れかに対応した2つの液圧アクチュエータMの一方から作動油が流出した場合に、当該2つの液圧アクチュエータMの他方に継続して作動油を供給してロボットアーム2の挙動の乱れを抑えつつ、破損した液圧アクチュエータMからの作動油の更なる流出を良好に抑制することが可能となる。また、制御装置100により完全遮断状態を形成するように第1および第2供給遮断弁161,162の該当するものを制御することで、第1または第2リニアソレノイドバルブ151,152からそれに対応した2つの液圧アクチュエータMへの作動油の供給を遮断したり、当該2つの液圧アクチュエータMからの作動油の流出を規制してロボットアーム2の意図しない動作の発生を抑制したりすることができる。
【0031】
ロボット装置1のハンド部4を把持対象まで移動させ、ハンド部4に把持対象を把持させて移送させる際、制御装置100は、ロボットアーム2の作動開始に先立って(ハンド部4の移動開始前に)、ハンド部4の把持対象の位置や、ユーザにより与えられるハンド部4の移動中の目標速度および目標加速度に基づいて、当該ハンド部4の最終的な目標位置である目標到達位置(3次元座標)と、ハンド部4の初期位置から目標到達位置までの軌道であって複数の目標位置すなわち経由位置(3次元座標)を含む目標軌道とを設定する。また、制御装置100は、ロボットアーム2に設けられた複数の関節角度センサ7(図1参照)の対応する何れかにより検出される関節J1-J3の関節角度θ1,θ2,θ3とロボットアーム2(ロボット装置1)の諸元(アーム3の寸法等)とに基づいて、ハンド部4(予め定められた基準点)の現在位置(3次元座標)を導出する。以下、“i”を関節の番号として(ただし、本実施形態において、i=1,2,3である。)、i番目の関節を“関節Ji”といい、関節Jiの関節角度を“θi”という。
【0032】
更に、制御装置100は、関節J1-J3ごとに、関節Jiを介して連結される2つのアーム3(アーム3および支持部材5)を相対的に回動させるための関節トルクの目標値(目標駆動力)である目標トルクTtag(i)を設定する。目標トルクTtag(i)は、ハンド部4が現在位置から目標位置まで移動するように関節Jiを介して連結された2つのアーム3等を相対的に回動させる関節トルクTj(i)と、ロボットアーム2の姿勢を維持するのに必要な重力補償トルクTc(i)との和として導出される。また、制御装置100は、少なくともロボット装置1すなわちハンド部4の目標位置に基づいて、関節J1-J3ごとに、関節Jiがもつべき剛性、すなわち関節Jiを介して連結される2つのアーム3等(リンク)を単位角度だけ相対的に回動させるのに必要な力(トルク)であって、当該2つのアーム3等を相対的に回動させようとする外力に対する関節Jiの動きにくさを示す目標剛性R(i)を設定する。
【0033】
次いで、制御装置100は、関節J1-J3ごとに、ハンド部4の現在位置に応じた関節Jiの関節角度θiに基づいて、当該関節Jiに対応した上記第1の人工筋肉AM1を構成する2つの液圧アクチュエータMの収縮率Cr1(i)と、関節Jiに対応した上記第2の人工筋肉AM2を構成する2つの液圧アクチュエータMの収縮率Cr2(i)とを設定する。収縮率Cr1(i),Cr2(i)は、それぞれ該当する液圧アクチュエータMのチューブTの軸方向における自然長に対する収縮したチューブTの軸長の割合を示す。加えて、制御装置100は、関節J1-J3ごとに、目標トルクTtag(i)と目標剛性R(i)とに基づいて、関節Jiを介して連結された2つのアーム3等を目標トルクTtag(i)で相対的に回動させる際に当該関節Jiに対応した複数(一対)の液圧アクチュエータMに要求される収縮力Fc1(i),Fc2(i)を算出する。収縮力Fc1(i)は、各関節Jiに対応した第1の人工筋肉AM1を構成する2つの液圧アクチュエータMのチューブTの収縮により発生させるべき力であり、収縮力Fc2(i)は、各関節Jiに対応した第2の人工筋肉AM2を構成する2つの液圧アクチュエータMのチューブTの収縮により発生させるべき力である。
【0034】
収縮率Cr1(i),Cr2(i)および収縮力Fc1(i),Fc2(i)を算出した後、制御装置100は、図4に例示する目標圧力設定マップから収縮率Cr1(i)と収縮力Fc1(i)とに対応した圧力を適宜線形補間を行いながら導出して上記第1の人工筋肉AM1を構成する2つの液圧アクチュエータMの目標圧力Ptag1(i)に設定する。更に、制御装置100は、当該目標圧力設定マップから収縮率Cr2(i)と収縮力Fc2(i)とに対応した圧力を導出して上記第2の人工筋肉AM2を構成する2つの液圧アクチュエータMの目標圧力Ptag2(i)に設定する。図4の目標圧力設定マップは、人工筋肉としての液圧アクチュエータMの静特性を示すものであり、液圧アクチュエータMに供給される油圧ごとに、チューブTの収縮率と当該チューブTが発生する収縮力との関係を規定するように予め実験・解析を経て作成されたものである。このように、チューブTの収縮率Cr1(i),Cr2(i)および収縮力Fc1(i),Fc2(i)に対応した圧力を目標圧力Ptag1(i),Ptag2(i)に設定することで、ロボットアーム2への要求に応じて目標圧力Ptag1(i),Ptag2(i)を精度よく設定することが可能となる。
【0035】
そして、制御装置100は、設定した目標圧力Ptag1(i)およびPtag2(i)を第1および第2リニアソレノイドバルブ151,152の電磁部15eへの電流指令値(目標電流)に直接変換し、当該電流指令値に基づいて第1および第2リニアソレノイドバルブ151,152を制御(PWM制御)する。これにより、第1および第2リニアソレノイドバルブ151,152から目標圧力Ptag1(i)またはPtag2(i)に応じた油圧が各液圧アクチュエータMのチューブTに供給され、人工筋肉としての各液圧アクチュエータMに供給される油圧を検出するセンサを用いることなく、各液圧アクチュエータMを要求に対して応答性よく高精度に作動させることが可能となる。この結果、複数の液圧アクチュエータMにより各アーム3を回動させてロボット装置1のハンド部4を所望の位置に移動させることができる。
【0036】
なお、各関節Jiの目標剛性R(i)は、少なくともロボット装置1すなわちハンド部4の現在位置に基づいて設定されてもよく、収縮率Cr1(i),Cr2(i)は、ロボット装置1のハンド部4の目標位置に応じた各関節Jiの目標角度に基づいて設定されてもよい。また、少なくともロボット装置1のハンド部4の目標位置または現在位置に基づいて関節Jiに対応した上記第1および第2の人工筋肉AM1,AM2の一方を構成する2つの液圧アクチュエータMに発生させる第1収縮力が設定されてもよく、目標トルクTtag(i)と当該第1収縮力とに基づいて当該第1および第2の人工筋肉AM1,AM2の他方を構成する2つの液圧アクチュエータMに発生させる第2収縮力が設定されてもよい。更に、ロボット装置1において、目標トルクTtag(i)等に応じて、予め定められた一定の圧力が関節Jiに対応した第1および第2の人工筋肉AM1,AM2の一方を構成する2つの液圧アクチュエータMの目標圧力である第1目標圧力に設定されてもよく、目標トルクTtag(i)と第1目標圧力とに基づいて当該第1および第2の人工筋肉AM1,AM2の他方を構成する2つの液圧アクチュエータMの目標圧力である第2目標圧力が設定されてもよい。
【0037】
ロボット装置1による把持対象の移送が終了すると、制御装置100は、図5に示す支持台B上にハンド部4を載せるように各液圧アクチュエータMすなわち液体供給装置10を制御する。更に、制御装置4は、第1および第2リニアソレノイドバルブ151,152の各々に対する給電を停止させる。これにより、ロボット装置1の停止時(動作停止時)に、ロボットアーム2は、各アーム3等の自重等による力が釣り合う姿勢に維持され、各液圧アクチュエータMは、図5に示すように、チューブT(およびスリーブS)が弛んだ状態に維持される。なお、ロボット装置1の構造によっては、支持台Bを省略して、ロボットアーム2の動作停止時にハンド部4をロボット装置1の設置面等に接触させてもよい。
【0038】
続いて、図6から図8を参照しながら、ロボットアーム2の始動要求がなされたときの液体供給装置10の制御手順について説明する。
【0039】
図6は、動作を停止しているロボットアーム2の始動要求がなされたのに応じて、当該ロボットアーム2によりハンド部4を移動させる前に、制御装置100により実行される始動制御ルーチンを例示するフローチャートである。図6のルーチンの開始に際して、制御装置100は、まず、複数の関節角度センサ7により検出された関節J1-J3の関節角度θ1-θ3(θi)を取得する(ステップS100)。次いで、制御装置100は、関節J1-J3ごとに、対をなす第1および第2の人工筋肉AM1,AM2のうちの一方であって、他方よりも大きな収縮力を発生したときに当該第1および第2の人工筋肉AM1,AM2が発生する収縮力Fc1(i)およびFc2(i)の差に応じた関節Jiの可動範囲をより小さくする一方を特定する(ステップS110)。
【0040】
ステップS110において、制御装置100は、関節J1-J3ごとに、ステップS100にて取得した関節角度θiと、予め判明している関節Jiの中立位置および関節角度θiの最大値とから、第1および第2の人工筋肉AM1,AM2のうちの上記可動範囲をより小さくする一方を特定する。例えば、本実施形態において、関節J1を介して連結された支持部材5およびアーム3が図7において実線で示す状態で静止している場合、第1の人工筋肉AM1の収縮力Fc1(1)を第2の人工筋肉AM2の収縮力Fc2(1)よりも大きくしたときの関節J1の可動範囲(可動角度)は範囲φ1となる。これに対して、第2の人工筋肉AM2の収縮力Fc2(1)を第1の人工筋肉AM1の収縮力Fc1(1)よりも大きくしたときの関節J1の可動範囲(可動角度)は範囲φ2(>φ1)となる。従って、図7に例示するような場合、制御装置100は、関節J1について、上記可動範囲を小さくする一方の人工筋肉として第1の人工筋肉AM1を選択する。
【0041】
ステップS110の処理の後、制御装置100は、ロボット装置1の複数の液圧アクチュエータMへの油圧(作動油)の供給順序を決定する(ステップS120)。ステップS120において、制御装置100は、基本的に、ロボットアーム2の最もハンド部4(手先)側の関節J3に対応した液圧アクチュエータM、中間の関節J2に対応した液圧アクチュエータM、基端側の関節J1に対応した液圧アクチュエータMという順番で各液圧アクチュエータMに油圧が供給されるように油圧の供給順序を決定する。また、ステップS120において、制御装置100は、関節Jiに対応した第1および第2の人工筋肉AM1,AM2について、ステップS110にて特定した第1および第2の人工筋肉AM1,AM2の上記一方に先に油圧が供給され、当該第1および第2の人工筋肉AM1,AM2の一方に油圧が供給され始めた後に他方に油圧が供給されるように油圧の供給順序を決定する。
【0042】
例えば、関節J1-J3の上記可動範囲をより小さくする人工筋肉が何れも第1の人工筋肉AM1である場合、制御装置100は、複数の液圧アクチュエータMに対する油圧の供給順序を、関節J3に対応した第1の人工筋肉AM1を構成する2つの液圧アクチュエータM→関節J3に対応した第2の人工筋肉AM2を構成する2つの液圧アクチュエータM→関節J2に対応した第1の人工筋肉AM1を構成する2つの液圧アクチュエータM→関節J2に対応した第2の人工筋肉AM2を構成する2つの液圧アクチュエータM→関節J1に対応した第1の人工筋肉AM1を構成する2つの液圧アクチュエータM→関節J1に対応した第2の人工筋肉AM2を構成する2つの液圧アクチュエータMといった順序に決定する。
【0043】
油圧の供給順序を決定すると、制御装置100は、変数jを値1に設定する(ステップS130)。変数jは、値1から関節Jiの数の2倍の値である値N(本実施形態では、N=6)までの整数である。続いて、制御装置100は、j番目の人工筋肉(第1または第2の人工筋肉AM1,AM2)を構成する2つの液圧アクチュエータMに対応した第1または第2供給遮断弁161,162が上記完全連通状態を形成するように当該第1または第2供給遮断弁161,162の電磁部16eに供給される電流を制御する(ステップS140)。そして、制御装置100は、j番目の人工筋肉(第1または第2の人工筋肉AM1,AM2)を構成する2つの液圧アクチュエータMへの油圧を調圧するように、当該j番目の人工筋肉に対応した第1または第2リニアソレノイドバルブ151,152を制御する(ステップS150)。
【0044】
ステップS150において、制御装置100は、j番目の人工筋肉(第1または第2の人工筋肉AM1,AM2)を構成する2つの液圧アクチュエータMに供給される油圧を予め定められた勾配で当該j番目の人工筋肉について予め定められた保持圧Phjまで増加させるように該当する第1または第2リニアソレノイドバルブ151,152を制御する(図8参照)。更に、ステップS150において、制御装置100は、該当する第1または第2リニアソレノイドバルブ151,152への油圧指令値が当該保持圧Phjに一致すると、当該油圧指令値を保持圧Phjに固定する。
【0045】
また、保持圧Phjは、関節Jiを介して連結された2つのアーム3等を相対的に回動させることなくロボットアーム2の姿勢を上述の動作停止時の姿勢(図5参照)に保持するための油圧として複数の液圧アクチュエータMごとに(関節J1-J3ごとに)実験・解析を経て予め定められる。本実施形態において、保持圧Phjは、図8に示すように、ロボットアーム2の最もハンド部4(手先)側の関節J3から基端側の関節J1に向かうにつれて大きくなり、かつ1つの関節Jiに対応した第1および第2の人工筋肉AM1,AM2間で同一となるように定められている。すなわち、本実施形態において、保持圧Phjは、P1=P2<P3=P4<P5=P6という関係を満たす。
【0046】
更に、制御装置100は、j番目の人工筋肉についてステップS150の処理を開始してから当該j番目の人工筋肉について予め定められた待機時間δjが経過したか否かを判定する(ステップS160)。待機時間δjは、例えばj番目の人工筋肉を構成する2つの液圧アクチュエータMへの油圧の供給開始から供給油圧が上記保持圧Phjに達するまでの時間あるいはそれよりも若干長い時間として関節J1-J3ごとに実験・解析を経て予め定められる。本実施形態において、待機時間δjは、ロボットアーム2の最もハンド部4(手先)側の関節J3から基端側の関節J1に向かうにつれて長くなり、かつ1つの関節Jiに対応した第1および第2の人工筋肉AM1,AM2間で同一となるように定められている。すなわち、本実施形態において、待機時間δjは、δ1=δ2<δ3=δ4<δ5=δ6という関係を満たす。
【0047】
制御装置100は、ステップS160にてj番目の人工筋肉についてステップS150の処理を開始してから待機時間δjが経過していないと判定した場合(ステップS160:NO)、既に油圧を供給している第1、第2リニアソレノイドバルブ151,152を制御する(ステップS150)。また、制御装置100は、ステップS160にてj番目の人工筋肉についてステップS150の処理を開始してから待機時間δjが経過したと判定した場合(ステップS160:YES)、変数jをインクリメントした上で(ステップS170)、変数jが値N+1以上であるか否かを判定する(ステップS180)。変数jが値N+1未満であると判定した場合(ステップS180:NO)、制御装置100は、上記ステップS100-S180の処理を再度実行し、変数jが値N+1以上であると判定すると(ステップS180:YES)、図6のルーチンを終了させる。
【0048】
以上説明したように、本開示のロボット装置1は、複数の関節J1-J3と、複数のアーム3および支持部材5(リンク)と、それぞれの作動油(液体)の供給を受けて作動すると共に、関節Jiを介して連結された対応する2つのアーム3等を相対的に回動させる複数の液圧アクチュエータ(人工筋肉)Mとを含むロボットアーム2と、複数の液圧アクチュエータMに作動油を供給する液体供給装置10と、当該液体供給装置10を制御する制御装置100とを含む。そして、制御装置100は、ロボットアーム2の始動要求に応じて液体供給装置10から複数の液圧アクチュエータMに作動油を供給する際に、作動油をロボットアーム2のハンド部4(手先)側の液圧アクチュエータMから基端側の液圧アクチュエータMへと順番に供給するように液体供給装置10を制御する(ステップS100-S180)。
【0049】
すなわち、ロボット装置1では、動作を停止しているロボットアーム2の始動要求がなされると、モーメントが相対的に小さくなるハンド部4側の関節J3に対応した液圧アクチュエータMから、モーメントが相対的に大きくなる基端側の関節J1に対応した液圧アクチュエータMへと順番に液体が供給されていく。これにより、ロボットアーム2の始動に際して、応答遅れ等により基端側の関節J1に対応した液圧アクチュエータMに供給される油圧(あるいは作動油の流量)の本来要求されるものに対する過不足が生じたとしても、液圧アクチュエータMに供給される油圧の過不足に起因してロボットアーム2全体のが動いてしまう範囲をより小さくすることができる。この結果、それぞれの作動油の供給を受けて作動する複数の液圧アクチュエータMを含むロボットアーム2の始動時における挙動の乱れを良好に抑制することが可能となる。
【0050】
また、制御装置100は、ロボットアーム2の始動要求に応じて液体供給装置10から複数の液圧アクチュエータMに作動油を供給する際に、複数の液圧アクチュエータMの各々に供給される油圧が、ロボットアーム2の姿勢を動作停止時の姿勢に保持するように当該複数の液圧アクチュエータMごとに定められた保持圧Phjになるように液体供給装置10を制御する(ステップS140-S180)。これにより、ロボットアーム2の始動時における挙動の乱れを抑制しつつ、ロボットアーム2の動き出しをよりスムースにすることが可能となる。
【0051】
更に、制御装置100は、ロボットアーム2を始動させる際、複数の液圧アクチュエータMの各々に供給される油圧を予め定められた勾配で保持圧Phjまで増加させるように液体供給装置10を制御する。これにより、ロボットアーム2の始動に際して、液圧アクチュエータMに過剰な油圧が供給されることに起因したロボットアーム2の挙動の乱れを抑制することが可能となる。加えて、上記実施形態では、複数の液圧アクチュエータMへの保持圧Phjがロボットアーム2のハンド部4(手先)側から基端側に向かうにつれて大きくなるように定められる。これにより、ロボットアーム2の始動に際して、各液圧アクチュエータMへの油圧の過不足によりロボットアーム2が動いてしまう範囲をより狭めることができる。
【0052】
また、制御装置100は、j番目の第1または第2の人工筋肉AM1,AM2を構成する液圧アクチュエータMに供給される油圧が保持圧Phjに達してから予め定められた時間δjをおいてj+1番目の第1または第2の人工筋肉AM1,AM2を構成する液圧アクチュエータMへの油圧の供給を開始させるように液体供給装置10を制御する(ステップS140-S180)。これにより、各液圧アクチュエータMに油圧(作動油)を安定に供給することが可能となる。ただし、1つの関節Jiに対応した第1および第2の人工筋肉AM1,AM2には、同時に油圧が供給され始めてもよい。
【0053】
更に、ロボットアーム2では、関節J1-J3ごとに、対をなす第1および第2の人工筋肉AM1,AM2が互いに拮抗するように設けられる。また、制御装置100は、関節J1-J3ごとに、対をなす第1および第2の人工筋肉AM1,AM2のうちの一方であって、他方よりも大きな収縮力を発生したときに当該第1および第2の人工筋肉AM1,AM2が発生する収縮力Fc1(i)およびFc2(i)の差に応じた関節Jiの可動範囲をより小さくする一方に先に作動油を供給するように液体供給装置10を制御する。更に、制御装置100は、当該第1および第2の人工筋肉AM1,AM2の一方に作動油が供給され始めた後に他方に作動油を供給するように液体供給装置10を制御する(ステップS110-S180)。
【0054】
これにより、ロボットアーム2の始動に際して、各関節Jiに対応した第1および第2の人工筋肉AM1,AM2に供給される油圧(あるいは作動油の流量)の本来要求されるものに対する過不足が生じたとしても、対をなす当該第1および第2の人工筋肉AM1,AM2からの収縮力に応じて定まる関節角度θiの変動を小さくすることができる。この結果、ロボットアームの始動時における挙動の乱れを極めて良好に抑制することが可能となる。なお、上記ステップS110では、関節角度センサ7により検出された関節Jiの関節角度θiに基づいて第1および第2の人工筋肉AM1,AM2のうちの上記可動範囲をより小さくする一方が特定されるが、これに限られるものではない。すなわち、ステップS110では、ロボットアーム2の動作停止時に関節角度センサ7により検出されて所定の記憶領域に格納された関節Jiの関節角度θiに基づいて第1および第2の人工筋肉AM1,AM2のうちの上記可動範囲をより小さくする一方が特定されてもよい。更に、ロボットアーム2の動作停止時における姿勢が常に一定になる場合には、各関節Jiに対応した第1および第2の人工筋肉AM1,AM2のうちの上記可動範囲をより小さくする一方が変わらないことから、ステップS110にて取得される油圧の供給順序をロボットアーム2の動作停止時における姿勢から予め定めておくことができる。
【0055】
また、液体供給装置10において、第1および第2リニアソレノイドバルブ151,152が、電磁部に供給される電流に応じた信号圧を出力するリニアソレノイドバルブ(あるいはオンオフソレノイドバルブ)と、当該信号圧に応じて作動油を調圧するコントロールバルブとで置き換えられてもよい。また、第1および第2リニアソレノイドバルブ151,152は、対応する液圧アクチュエータMに供給される液圧(油圧)が目標圧力になるように制御される流量制御弁で置き換えられてもよい。更に、液体供給装置10から元圧生成バルブ14が省略されてもよく、ポンプ13により発生させられた油圧を蓄えるアキュムレータ(蓄圧器)が液体供給装置10に設けられてもよい。また、液体供給装置10は、水等の作動油以外の液体を液圧アクチュエータMに供給するように構成されてもよい。
【0056】
更に、上記実施形態において、人工筋肉としての液圧アクチュエータMは、内部に作動油が供給されると共に当該内部の油圧の上昇に応じて径方向に膨張しながら軸方向に収縮するチューブTと、当該チューブTを覆う編組スリーブSとを含むマッキベン型の人工筋肉であるが、ロボット装置1における液圧アクチュエータMの構成は、これに限られるものではない。すなわち、液圧アクチュエータMは、液体が供給された際に径方向に膨張しながら軸方向に収縮するチューブを含むものであればよく、例えば弾性体により形成された内側筒状部材と、弾性体により形成されると共に内側筒状部材の外側に同軸に配置され外側筒状部材と、内側筒状部材と外側筒状部材との間に配置された繊維層とを含む軸方向繊維強化型の液圧アクチュエータ(例えば、特開2011-137516号参照)であってもよい。更に、液圧アクチュエータMは、シリンダおよびピストンを含む液体シリンダであってもよい。
【0057】
そして、ロボット装置1は、少なくとも1つの液圧アクチュエータMとハンド部4とを有するロボットアーム2を含むものに限られず、少なくとも1つの液圧アクチュエータMと、例えばドリルビット等の工具や例えばスイッチ等を押圧する押圧部材といったハンド部4以外の要素が手先に取り付けられたロボットアームとを含むものであってもよい。また、ロボットアーム2は、1つの関節と、当該関節に対応した第1および第2の人工筋肉AM1,AM2とを含むものであってもよい。この場合も、ロボットアーム2の始動要求に応じて、上記可動範囲をより小さくする第1および第2の人工筋肉AM1,AM2の一方に先に作動油を供給し、当該第1および第2の人工筋肉AM1,AM2の一方に作動油が供給され始めた後に他方に作動油を供給すればよい。更に、関節Jiを介して連結された2つのアーム3等のすべてに必ずしも対をなす複数の液圧アクチュエータ(人工筋肉)Mが設けられる必要はなく、何れか1組の2つのアーム3等に、1つまたは複数の液圧アクチュエータMと、当該液圧アクチュエータMと拮抗するように配置されるスプリングやゴム材等の弾性体とが連結されてもよい。
【0058】
また、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記実施形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本開示の発明は、人工筋肉を含むロボット装置の製造産業等において利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 ロボット装置、2 ロボットアーム(ロボット本体)、3 アーム(リンク)、4 ハンド部、5 支持部材(リンク)、6 連結部材、7 関節角度センサ、10 液体供給装置、151 第1リニアソレノイドバルブ(調圧装置)、152 第2リニアソレノイドバルブ(調圧装置)、15d ドレンポート、15e 電磁部、15f フィードバックポート、15i 入力ポート、15o 出力ポート、15s スプール、SP スプリング、100 制御装置、AM1 第1の人工筋肉、AM2 第2の人工筋肉、Cr1(i),Cr2(i) 収縮率、Fc1(i),Fc2(i) 収縮力、J1,J2,J3,Ji 関節、M 液圧アクチュエータ(人工筋肉)、Ptag1(i),Ptag2(i) 目標圧力、S 編組スリーブ、T チューブ、Ttag(i) 目標トルク、θi 関節角度。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8