(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047795
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】湿式摩擦材、および湿式摩擦材を用いた湿式摩擦板
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20220317BHJP
F16D 69/02 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
C09K3/14 520
F16D69/02 J
C09K3/14 520J
C09K3/14 520M
C09K3/14 520F
C09K3/14 530
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020153773
(22)【出願日】2020-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000102784
【氏名又は名称】NSKワーナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002435
【氏名又は名称】特許業務法人井上国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077919
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100172638
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 隆治
(74)【代理人】
【識別番号】100153899
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100159363
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 淳子
(72)【発明者】
【氏名】高林 秀明
(72)【発明者】
【氏名】北原 俊
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 三沙子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 涼
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA59
3J058BA32
3J058BA41
3J058CA42
3J058GA27
3J058GA92
3J058GA94
(57)【要約】
【課題】湿式クラッチ或いは湿式ブレーキに用いられる湿式摩擦材であって、熱伝導性が向上し、相手側プレートへの攻撃性を緩和し、相手側プレートの耐久性を向上させることができる湿式摩擦材を提供すること。
【解決手段】 繊維基材と充填剤とを用いて形成された基材ペーパーと、基材ペーパーを硬化させるための結合材とを含む湿式摩擦材1であって、基材ペーパーは、カーボン系材料が配合され、珪藻土が無配合であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材と充填剤とを用いて形成された基材ペーパーと、
前記基材ペーパーを硬化させるための結合材とを含む湿式摩擦材であって、
前記基材ペーパーは、カーボン系材料が配合され、珪藻土が無配合であることを特徴とする湿式摩擦材。
【請求項2】
前記カーボン系材料は、カーボン繊維およびグラファイトであることを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦材。
【請求項3】
前記湿式摩擦材中の前記カーボン系材料の重量割合が20%以上であることを特徴とする請求項2に記載の湿式摩擦材。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の湿式摩擦材を有することを特徴とする湿式摩擦板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の自動変速機に組み込まれる湿式クラッチ或いは湿式ブレーキに用いられる湿式摩擦材と、当該湿式摩擦材を用いた湿式摩擦板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の動力源の電動化が進んでいる。動力源を電動モータとすると、従来の動力源と比較して、自動変速機は高速回転の環境となる場合がある。このような高速回転の環境下においては、湿式クラッチ或いは湿式ブレーキの湿式摩擦材は過大に蓄熱される懸念があるとともに、湿式摩擦材の相手側プレートは、湿式摩擦材の蓄熱によって熱変形等の影響を受ける懸念がある。このように高速回転の環境下では、熱負荷によって相手側プレートの耐久性が低下する懸念がある。
【0003】
特許文献1には、湿式摩擦材の基材へ金属粉末を混在させることによって湿式摩擦材の熱伝達を改善し、高温下での相手材への焼き付きを防止することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、基材へ金属粉末が混在された湿式摩擦材は、高速回転環境下において相手側プレートへの攻撃性が高くなり、相手側プレートの耐久性の低下が懸念される。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、湿式クラッチ或いは湿式ブレーキに用いられる湿式摩擦材であって、熱伝導性が向上し、相手側プレートへの攻撃性を緩和し、相手側プレートの耐久性を向上させることができる湿式摩擦材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る湿式摩擦材は、
繊維基材と充填剤とを用いて形成された基材ペーパーと、
前記基材ペーパーを硬化させるための結合材とを含む湿式摩擦材であって、
前記基材ペーパーは、カーボン系材料が配合され、珪藻土が無配合であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、湿式クラッチ或いは湿式ブレーキに用いられる湿式摩擦材であって、熱伝導性が向上し、摩擦材の材質成分に金属粉末を混合していないことから相手側プレートへの攻撃性を緩和し、相手側プレートの耐久性を向上させることができる湿式摩擦材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1(a)は本実施形態に係る湿式摩擦材を用いた湿式摩擦板を模式的に示す正面図であり、
図1(b)は
図1(a)のb-b矢視拡大断面図であり、湿式摩擦材の断面を模式的に示している。
【
図2】
図2は、熱伝導率測定試験の結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、摺動面温度測定評価の結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、相手側プレートの焼き付き状況を示す図であり、
図4(a)は比較例に係る湿式摩擦材の相手側プレートの表面の部分を示し、
図4(b)は実施例に係る湿式摩擦材の相手側プレートの表面の部分を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る湿式摩擦材および湿式摩擦板について説明する。
図1(a)は本実施形態に係る湿式摩擦材を用いた湿式摩擦板を模式的に示す正面図であり、
図1(b)は、
図1(a)のb-b矢視拡大断面図であり、湿式摩擦材の断面を模式的に示している。
【0011】
本実施形態に係る湿式摩擦材1は、自動車等の車両の自動変速機等に組み込まれる湿式クラッチ(図示省略)或いは湿式ブレーキ(図示省略)に用いられるものである。本実施形態に係る湿式摩擦材1および湿式摩擦板3の製法は次のとおりである。すなわち湿式摩擦材1は、繊維基材に充填剤や摩擦調整剤を配合したものを抄紙して基材ペーパーを作製し、得られた基材ペーパーに結合材として、例えば熱硬化性樹脂等を含浸させ、硬化させることにより造られる。湿式摩擦板3は、上記製法によって造られた湿式摩擦材1を所定の形状に打ち抜き、環状の芯金5に接着することにより造られる。
【0012】
繊維基材としては、熱伝導性の高い無機化合物、例えばケイ素系、アルミナ系等の無機化合物を含む繊維、アラミド繊維、カーボン繊維などの有機繊維の一種又は複数を用いることができる。
【0013】
充填剤、摩擦調整剤としては、例えば、カーボン、炭酸カルシウム等の無機化合物、合成ゴム等の有機化合物の一種又は複数を用いることができる。
【0014】
本実施形態の湿式摩擦材1は、アラミド繊維と、カーボン系材料であるカーボン繊維とを用いて繊維基材を構成し、繊維基材に配合される充填剤としてカーボン系材料であるグラファイトを用いている。本実施形態においては、繊維基材に配合される充填剤として従来一般的に用いられている珪藻土を配合していない。すなわち基材ペーパーには珪藻土が配合されていない。カーボン繊維およびグラファイトは何れも、珪藻土より熱伝導率が高い材料である。さらに本実施形態においては、カーボン系材料であるカーボン樹脂およびグラファイトの含有割合を、従来よりも大きくしている。
【0015】
アラミド繊維およびカーボン繊維を用いて作られた繊維基材に、充填剤としてグラファイトを配合したものを従来と同様に抄紙して得られた基材ペーパーに、結合材として例えば熱硬化性樹脂等を含浸させ、硬化させて本実施形態の湿式摩擦材1が得られる。また、実施形態に係る湿式摩擦板3は、上記の製法によって造られた湿式摩擦材1を所定の形状に打ち抜き、熱プレスによって、接着剤を塗布した基板である芯金5と一体化することにより造られる。
【0016】
本実施形態の湿式摩擦材1は、上述したように、繊維基材に配合する充填剤として、珪藻土を用いていない。珪藻土は、断熱材の材料として用いられることもあるように、一般的には熱伝導率の低い材料である。したがって本実施形態は、基材ペーパーに珪藻土を含む場合と比較して、湿式摩擦材1の熱伝導率を高くすることができる。また、繊維基材に充填剤として配合されるグラファイトの配合割合を従来よりも大きくすることにより、湿式摩擦材1の熱伝導率をより高くすることができる。したがって本実施形態によれば、湿式摩擦材1の熱伝導性を向上させることができる。その結果、湿式摩擦材1の過大な蓄熱を防止でき、湿式摩擦材1の蓄熱による相手側プレートの焼き付き、熱変形等を防止することができる。また、本実施形態の湿式摩擦材1は金属粉末が混在されていないので、高速回転の環境下においても、相手側プレートに対する攻撃性を緩和することができる。したがって本実施形態の湿式摩擦材1によれば、相手側プレートの耐久性を向上させることができる。
【0017】
また、本実施形態の湿式摩擦材1は、湿式摩擦材1自体の熱伝導性が向上するので、湿式クラッチまたはブレーキとして使用される湿式摩擦材1の面積を小さくすることができる。ここで湿式摩擦材1の面積を小さくするとは、例えば、湿式摩擦材1の外径を従来の湿式摩擦材の外径と同じ寸法とした場合、本実施形態の湿式摩擦材1は従来の湿式摩擦材よりも内径を大きくすることができる。また、例えば、湿式摩擦材1の内径を従来の湿式摩擦材の内径と同じ寸法とした場合、本実施形態の湿式摩擦材1は従来の湿式摩擦材よりも外径を小さくすることができる。この場合、湿式クラッチまたはブレーキを小型化することができる。また、湿式摩擦材1の面積小に限らず湿式摩擦板3自体の枚数を減らすことも可能となる。
【0018】
(実施例)
以下、本実施形態に係る湿式摩擦材の実施例と、当該実施例および比較例を用いた各種評価について説明する。なお、以下の評価は、本実施形態に係る湿式摩擦材を湿式クラッチとして用いた場合の評価であるが、本実施形態に係る湿式摩擦材を湿式ブレーキとして用いても同様である。
【0019】
上述した製法によって実施例に係る湿式摩擦材と、従来の成分配合の比較例に係る湿式摩擦材を得た。表1に実施例および比較例に係る湿式摩擦材のそれぞれの成分の構成比を示す。なお、構成比は重量の割合を示している。表1に示すように、実施例に係る湿式摩擦材は、充填剤として珪藻土を含んでいない。一方、比較例に係る湿式摩擦材は、従来と同様に珪藻土を含んでいる。また、実施例に係る湿式摩擦材は、カーボン系材料すなわちカーボン繊維およびグラファイトの配合割合が、それぞれ比較例の2倍となっている。
【0020】
【0021】
次に、実施例および比較例に係る湿式摩擦材を用いた熱伝導率の測定試験について説明する。熱伝導率の測定試験は、実施例に係る湿式摩擦材を芯金の両面に接着して湿式クラッチ板とし、湿式クラッチ板の摩擦材の表面に所定の熱量を加え、芯金の温度推移を測定し、この芯金の温度推移から湿式摩擦材の熱伝導率を算出した。比較例に係る湿式摩擦材の熱伝導率も同様に算出した。
【0022】
図2は、熱伝導率測定試験の結果を示すグラフである。なお、熱伝導率の単位はW/(m・K)である。
図2に示すように、比較例の熱伝導率は0.095W/(m・K)であり、実施例の熱伝導率は0.125W/(m・K)であった。実施例の熱伝導率は、比較例の熱伝導率に対して32%の向上が認められた。
【0023】
次に、実施例および比較例に係る湿式摩擦材を用いた摺動面温度測定評価について説明する。ここで摺動面温度とは、湿式摩擦材が接着された湿式クラッチ板と相手側プレートとが係合、解放を所定回数繰り返した時の、相手側プレートの温度である。当該評価は、相手側プレートの厚さ方向に熱電対を固定し、実施例に係る湿式摩擦材を接着した湿式クラッチ板と相手側プレートとを交互に並べた状態で試験機に組み込み、表2に示す評価条件にて、湿式クラッチ板と相手側プレートとの係合、解放を1サイクルとし、250サイクルまで実施した。比較例に係る湿式摩擦材についても同様に実施した。
【0024】
【0025】
図3は、摺動面温度測定評価の結果を示すグラフである。
摺動面温度は、湿式クラッチ板と相手側プレートとの係合、解放が200サイクルで安定するので、評価としては200サイクル時での摺動面温度を比較した。その結果、比較例の摺動面温度は430℃であり、実施例の摺動面温度は380℃であった。実施例の摺動面温度は、比較例の摺動面温度よりも12%低い温度であり、熱伝導性の向上が認められた。尚、摺動面温度は評価時の油温100℃を基準とし、100℃からの上昇温度を確認するという位置付けである。
【0026】
次に、実施例および比較例に係る湿式摩擦材を用いた高エネルギーヒートスポット評価について説明する。
高エネルギーヒートスポット評価は、表3に示す評価条件にて、実施例に係る湿式摩擦材を接着した湿式クラッチ板と相手側プレートとの係合、解放のサイクルを所定回数実施し、相手側プレートを冷却した後、目視にて相手側プレートの焼き付き状況すなわちヒートスポットの有無を確認した。比較例に係る湿式摩擦材についても同様に実施した。
【0027】
【0028】
図4は、相手側プレートの焼き付き状況を示す図であり、
図4(a)は比較例に係る湿式摩擦材の相手側プレートの表面の部分を示し、
図4(b)は実施例に係る湿式摩擦材の相手側プレートの表面の部分を示している。
図4(a)に示すように、比較例に係る湿式摩擦材の相手側プレートの表面にはヒートスポット7の発生が複数認められる。これに対し、
図4(b)に示す実施例に係る湿式摩擦材の相手側プレートの表面には、ヒートスポット7の発生が認められない。これより、実施例に係る湿式摩擦材は、相手側プレートとの係合、解放による蓄熱が抑制され、蓄熱による相手側プレートへの焼き付き、熱変形等の影響を抑制する効果が認められる。
【0029】
以上説明したように、本実施形態によれば、湿式クラッチ或いは湿式ブレーキに用いられる湿式摩擦材であって、熱伝導性が向上し、摩擦材の材質成分に金属粉末を混合していないことから相手側プレートへの攻撃性を緩和し、相手側プレートの耐久性を向上させることができる湿式摩擦材を提供することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 湿式摩擦材
3 湿式摩擦板
5 芯金
7 ヒートスポット