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特開2022-47877人工多能性幹細胞選別装置、人工多能性幹細胞選別方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047877
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】人工多能性幹細胞選別装置、人工多能性幹細胞選別方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20220317BHJP
【FI】
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020153900
(22)【出願日】2020-09-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「再生医療実現拠点ネットワークプログラム 再生医療の実現化ハイウェイ」委託事業、課題名「iPS細胞を用いた再生心筋細胞移植による重症心不全治療法の確立」について、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(71)【出願人】
【識別番号】516182203
【氏名又は名称】Heartseed株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】福田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 慎介
(72)【発明者】
【氏名】関 倫久
(72)【発明者】
【氏名】楠本 大
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB11
4B029FA01
(57)【要約】
【課題】人工多能性幹細胞を簡便に選別すること。
【解決手段】人工多能性幹細胞選別装置は、人工多能性幹細胞の形態を示す画像データである第1画像データを取得する画像データ取得部と、画像データである第2画像データに基づいて人工多能性幹細胞の形態の特徴が機械学習された結果に基づいて、複数の第1画像データから正常な人工多能性幹細胞の形態を示す第1画像データを選別する選別部とを備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工多能性幹細胞の形態を示す画像データである第1画像データを取得する画像データ取得部と、
前記画像データである第2画像データに基づいて人工多能性幹細胞の形態の特徴が機械学習された結果に基づいて、複数の前記第1画像データから正常な人工多能性幹細胞の形態を示す前記第1画像データを選別する選別部と
を備える人工多能性幹細胞選別装置。
【請求項2】
前記選別部は、核型異常の人工多能性幹細胞の形態を示す前記画像データを教師データにして核型異常の人工多能性幹細胞の形態が機械学習された結果に基づいて、複数の前記第1画像データから核型異常の人工多能性幹細胞の形態を示す前記第1画像データを選別する
請求項1に記載の人工多能性幹細胞選別装置。
【請求項3】
前記画像データとは、人工多能性幹細胞の細胞塊が撮像されている画像である
請求項1または請求項2に記載の人工多能性幹細胞選別装置。
【請求項4】
前記画像データとは、人工多能性幹細胞の単位体積あたりの細胞の個数が所定の範囲内である時に撮像された画像データである
請求項1または請求項3に記載の人工多能性幹細胞選別装置。
【請求項5】
前記画像データとは、当該人工多能性幹細胞の培養が開始されてから所定の日数が経過した時点において当該人工多能性幹細胞が撮像された前記画像データである
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の人工多能性幹細胞選別装置。
【請求項6】
前記第2画像データを教師データにして人工多能性幹細胞の形態の特徴を機械学習する機械学習部をさらに備え、
前記選別部は、前記機械学習部による機械学習の結果に基づいて、複数の前記第1画像データから正常な人工多能性幹細胞の形態を示す前記第1画像データを選別する
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の人工多能性幹細胞選別装置。
【請求項7】
前記機械学習部は、多層のニューラルネットワークを用いて機械学習する
請求項6に記載の人工多能性幹細胞選別装置。
【請求項8】
前記機械学習部は、前記画像データに加えて、人工多能性幹細胞の形態を示す画像とは異なる画像を示す第2の画像データを用いて機械学習する
請求項6または請求項7に記載の人工多能性幹細胞選別装置。
【請求項9】
人工多能性幹細胞選別装置が、人工多能性幹細胞の形態を示す画像データである第1画像データを取得する画像データ取得過程と、
人工多能性幹細胞選別装置が、前記画像データである第2画像データに基づいて人工多能性幹細胞の形態の特徴が機械学習された結果に基づいて、複数の前記第1画像データから正常な人工多能性幹細胞の形態を示す前記第1画像データを選別する選別過程と
を有する人工多能性幹細胞選別方法。
【請求項10】
コンピュータに、
人工多能性幹細胞の形態を示す画像データである第1画像データを取得する画像データ取得手順と、
前記画像データである第2画像データに基づいて人工多能性幹細胞の形態の特徴が機械学習された結果に基づいて、複数の前記第1画像データから正常な人工多能性幹細胞の形態を示す前記第1画像データを選別する選別手順と
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工多能性幹細胞選別装置、人工多能性幹細胞選別方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
人工多能性幹細胞がドナーから提供される人工多能性幹細胞バンクが知られている。しかし、ドナーの数は限られており、人工多能性幹細胞バンクだけでは、全ての人が等しく人工多能性幹細胞細胞を用いた再生医療を受けられるようにはならないと試算されている。そこで、再生医療のために人工多能性幹細胞細胞を培養することが計画されている。
再生医療のための人工多能性幹細胞細胞には、臨床利用についての審査基準が設けられている。この審査基準を満たすため、培養した人工多能性幹細胞について、核型の解析を行い、核型異常の人工多能性幹細胞を除外する必要がある。
臨床利用のための人工多能性幹細胞を準備するためには、審査基準を満たすように核型異常のない人工多能性幹細胞を選別する作業が、時間と費用の両面から問題となる。
【0003】
細胞を選別する技術として、所定の条件を満たすまで細胞集合体を培養し、細胞集合体の培地内の位置と大きさについて所定の条件を満たした細胞集合体を選別した後、所定の条件を満たした細胞集合体を取得する装置が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-231764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、核型異常の人工多能性幹細胞の選別について、どのような条件を検査すれば、審査基準を満たす人工多能性幹細胞を選別できるかは手探りの状態である。上述の技術のように、細胞集合体の培地内の位置と大きさを条件として選別したのでは、核型異常の人工多能性幹細胞の選別をするには不十分である。一方、培養した人工多能性幹細胞毎に核型異常の有無の解析をしたのでは、時間と費用がかかる。このように、人工多能性幹細胞の選別は簡便には行うことができないという問題があった。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、人工多能性幹細胞を簡便に選別することができる人工多能性幹細胞選別装置、人工多能性幹細胞選別方法、及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の一態様は、人工多能性幹細胞の形態を示す画像データである第1画像データを取得する画像データ取得部と、前記画像データである第2画像データに基づいて人工多能性幹細胞の形態の特徴が機械学習された結果に基づいて、複数の前記第1画像データから正常な人工多能性幹細胞の形態を示す前記第1画像データを選別する選別部とを備える人工多能性幹細胞選別装置である。
【0008】
(2)また、本発明の一態様は、上記の人工多能性幹細胞選別装置において、前記選別部は、核型異常の人工多能性幹細胞の形態を示す前記画像データを教師データにして核型異常の人工多能性幹細胞の形態が機械学習された結果に基づいて、複数の前記第1画像データから核型異常の人工多能性幹細胞の形態を示す前記第1画像データを選別する。
【0009】
(3)また、本発明の一態様は、上記の人工多能性幹細胞選別装置において、前記画像データとは、人工多能性幹細胞の細胞塊が撮像されている画像である。
【0010】
(4)また、本発明の一態様は、上記の人工多能性幹細胞選別装置において、前記画像データとは、人工多能性幹細胞の単位体積あたりの細胞の個数が所定の範囲内である時に撮像された画像データである。
【0011】
(5)また、本発明の一態様は、上記の人工多能性幹細胞選別装置において、前記画像データとは、当該人工多能性幹細胞の培養が開始されてから所定の日数が経過した時点において当該人工多能性幹細胞が撮像された前記画像データである。
【0012】
(6)また、本発明の一態様は、上記の人工多能性幹細胞選別装置において、前記第2画像データを教師データにして人工多能性幹細胞の形態の特徴を機械学習する機械学習部をさらに備え、前記選別部は、前記機械学習部による機械学習の結果に基づいて、複数の前記第1画像データから正常な人工多能性幹細胞の形態を示す前記第1画像データを選別する。
【0013】
(7)また、本発明の一態様は、上記の人工多能性幹細胞選別装置において、前記機械学習部は、多層のニューラルネットワークを用いて機械学習する。
【0014】
(8)また、本発明の一態様は、上記の人工多能性幹細胞選別装置において、前記機械学習部は、前記画像データに加えて、人工多能性幹細胞の形態を示す画像とは異なる画像を示す第2の画像データを用いて機械学習する。
【0015】
(9)また、本発明の一態様は、人工多能性幹細胞選別装置が、人工多能性幹細胞の形態を示す画像データである第1画像データを取得する画像データ取得過程と、人工多能性幹細胞選別装置が、前記画像データである第2画像データに基づいて人工多能性幹細胞の形態の特徴が機械学習された結果に基づいて、複数の前記第1画像データから正常な人工多能性幹細胞の形態を示す前記第1画像データを選別する選別過程とを有する人工多能性幹細胞選別方法である。
【0016】
(10)また、本発明の一態様は、コンピュータに、人工多能性幹細胞の形態を示す画像データである第1画像データを取得する画像データ取得手順と、前記画像データである第2画像データに基づいて人工多能性幹細胞の形態の特徴が機械学習された結果に基づいて、複数の前記第1画像データから正常な人工多能性幹細胞の形態を示す前記第1画像データを選別する選別手順とを実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、人工多能性幹細胞を簡便に選別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施形態に係る人工多能性幹細胞の細胞塊の画像の一例を示す第1の図である。
図2】本実施形態に係る人工多能性幹細胞の細胞塊の画像の一例を示す第2の図である。
図3】本実施形態に係る核型異常の人工多能性幹細胞の細胞塊の画像の一例を示す図である。
図4】本実施形態に係る人工多能性幹細胞選別システムの構成の一例を示す概略ブロック図である。
図5】本実施形態に係る人工多能性幹細胞選別装置の学習処理の一例を示すフローチャートである。
図6】本実施形態に係る人工多能性幹細胞選別装置の選別処理の一例を示すフローチャートである。
図7】本実施形態に係る人工多能性幹細胞選別装置の構成の一例を示す概略ブロック図である。
図8】本実施形態に係る人工多能性幹細胞の細胞塊の画像の生成過程の一例を示す図である。
図9】本実施形態に係るタイムラプス顕微鏡の画像生成処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。図1は、本実施形態に係る人工多能性幹細胞の細胞塊の画像の一例を示す第1の図である。以下では、人工多能性幹細胞をiPS(induced pluripotent stem cells)細胞と称する。iPS細胞の細胞塊は、細胞株によって形態の特徴が異なる場合がある。
【0020】
画像データP1は、iPS細胞の細胞塊を、顕微鏡の弱拡大における視野において撮像した画像データである。ここで、顕微鏡の弱拡大における視野とは、iPS細胞の細胞塊の全体が捉えられる程度の所定の倍率における視野である。この一例における画像データP1には、iPS細胞の細胞塊C1~細胞塊C14が撮像されている。
【0021】
図2は、本実施形態に係る人工多能性幹細胞の細胞塊の画像の一例を示す第2の図である。画像データP2は、iPS細胞の細胞塊を、顕微鏡の弱拡大における視野において撮像した画像データである。この一例における画像データP2には、iPS細胞の細胞塊D1~細胞塊D6が撮像されている。図2に示す例では、細胞塊D1と細胞塊D2とは部分的に接し、細胞塊D2と細胞塊D3とは部分的に接し、細胞塊D4と細胞塊D5とは部分的に接し、細胞塊D5と細胞塊D6とは部分的に接している。また、細胞塊D1、細胞塊D2、及び細胞塊D3と、細胞塊D4、細胞塊D5、及び細胞塊D6とは接していない。
細胞塊C1~細胞塊C14(図1)と、細胞塊D1~細胞塊D6(図2)とを比較すると、細胞塊の形態と大きさとが異なっている。ただし、画像データP1(図1)と、画像データP2(図2)とは、iPS細胞の培養開始後、同一の所定の時間が経過した時点においてiPS細胞が撮像された画像データである。
【0022】
図3は、本実施形態に係る核型異常の人工多能性幹細胞の細胞塊の画像の一例を示す図である。画像データP3は、核型異常のiPS細胞の細胞塊を、顕微鏡の弱拡大における視野において撮像した画像データである。一例として、顕微鏡とは、位相差顕微鏡であり、画像データP3は、この位相差顕微鏡を用いた位相差観察によって撮像された位相差顕微鏡画像のデータである。画像データP3には、iPS細胞の細胞塊Eが撮像されている。図3において、細胞塊Eは、細胞塊が分解してできた複数の塊の全体を指す。細胞塊Eは、核型異常のiPS細胞の一例である。核型異常は、例えば、ヒトiPS細胞の場合、12トリソミーの頻度が多いが、これに限定されない。
【0023】
iPS細胞は、培養継代により一定の確率で核型異常のiPS細胞となることが知られている。ある特定の細胞塊においてiPS細胞が核型異常のiPS細胞となった場合、核型異常のiPS細胞は細胞分裂によりこの特定の細胞塊全体に広がってゆく傾向がある。培養開始後十分な時間が経過した時点においては、ある細胞塊に含まれるiPS細胞は、核型異常のものが多数を占めるか、核型異常でないものが多数を占めるかのいずれかである。核型異常のiPS細胞が細胞塊全体に広がっている場合、核型異常のiPS細胞の細胞塊全体の形態は、核型異常のiPS細胞の影響を受ける。
図3に示す細胞塊Eの例では、細胞塊C1~細胞塊C14(図1)や細胞塊D1~細胞塊D6(図2)に比べ、細胞塊がまとまっていないという形態の特徴がある。
【0024】
本実施形態に係る選別装置1は、iPS細胞の形態の特徴に基づいて核型異常のiPS細胞の画像データの選別を行う。その際、選別装置1は、顕微鏡の弱拡大における視野において撮像した画像データを用いる。顕微鏡の弱拡大における視野において撮像された画像データによると、顕微鏡の倍率が低いため、iPS細胞の細胞塊全体を1枚の画像として撮影することができ、これにより、iPS細胞の細胞塊の形態の特徴を確認できる。弱拡大の倍率は、通常10~50倍程度、好ましくは40倍程度であれば、撮影時間がかかりすぎずに十分に細胞の形態の特徴を確認できる。なお、顕微鏡の性能によって、短時間で高倍率の撮影ができるなどの場合には、200倍程度まで撮影倍率を上げてもよい。
【0025】
ここでiPS細胞を1つ1つ核型異常の検査をする場合がある。この場合には、細胞塊全体では核型異常のiPS細胞が多数を占めていたとしても、核型異常でないiPS細胞がたまたま検査対象のiPS細胞として選択されてしまうことがある。そうすると、核型異常のiPS細胞が多数を占めており核型異常と判定すべき細胞塊について核型異常でないと誤判定をしてしまうことが考えられる。選別装置1は、弱拡大における視野において撮像した画像データを用いることにより、このような誤判定を避けることができる。
【0026】
また、iPS細胞の細胞塊は、中心部分と周辺部分とにおいて細胞の形態が異なる傾向がある。iPS細胞の細胞塊の形態の特徴を捉えるには、iPS細胞の細胞塊の全体を観察する必要がある。選別装置1は、弱拡大における視野において撮像した画像データ用いることにより、iPS細胞の細胞塊の全体の形態を観察することができる。
【0027】
図4は、本実施形態に係る人工多能性幹細胞選別システムST1の構成の一例を示す概略ブロック図である。
人工多能性幹細胞選別システムST1は、選別装置1と、転移学習画像データ供給部2と、教師細胞画像データ供給部3と、選別細胞画像データ供給部4と、提示部5とを備える。
【0028】
人工多能性幹細胞選別システムST1は、深層学習による学習結果に基づいて、複数のiPS細胞の形態を示す画像データから正常なiPS細胞の形態を示す画像データを選別するシステムである。ここで、深層学習とは、多層のニューラルネットワークを用いた機械学習の手法である。深層学習では、多層のニューラルネットワークのユニット間の重みを、入力に対して正しい結果を出力するように更新する。以下では、重みを更新することを、学習をする、学習を実行するなどと称することがある。
【0029】
転移学習画像データ供給部2は、転移学習画像データを選別装置1に対して供給する。選別装置1は、深層学習を行う際、転移学習を行い、学習済みの重みを用いて学習を行う。転移学習画像データとは、選別装置1が転移学習を行う際に用いるiPS細胞の形態を示す画像データとは異なる画像データと、各画像データの分類結果とが対応づけられたデータである。iPS細胞の形態を示す画像データとは異なる画像データとは、例えば、様々な種類の物体(動物、乗り物、機械など)が撮像された画像のデータである。
【0030】
転移学習画像データでは、入力(iPS細胞の形態を示す画像データとは異なる画像データ)に対する出力(iPS細胞の形態を示す画像データとは異なる画像データの分類結果)が予めわかっている。そのため、選別装置1は、転移学習画像データを、入力に対して正しい結果を出力する重みの算出に用いることができる。
本実施形態においては、転移学習画像データ供給部2は、一例として、120万枚の画像データと、各画像を1000個に分類した結果とが対応づけられた大規模な画像データセットを、転移学習画像データとして供給する。ここで画像データセットにおいて、各画像を分類した結果とは、各画像に撮像されている対象の種類を分類した結果である。
【0031】
教師細胞画像データ供給部3は、教師細胞画像データを選別装置1に対して供給する。教師細胞画像データとは、選別装置1が深層学習を行う際に用いるiPS細胞の形態を示す画像データと、撮像されたiPS細胞が核型異常のiPS細胞であるか否かを示す情報とが対応づけられたデータである。教師細胞画像データ含まれる画像データには、核型異常のiPS細胞の形態を示す画像データと、核型異常でないiPS細胞の形態を示す画像データとが、所定の比において含まれる。ここで、所定の比とは、例えば1対1である。
【0032】
撮像されたiPS細胞が核型異常のiPS細胞であるか否かを示す情報は、撮像されたiPS細胞について核型異常の検査を行うことにより与えられる。ここで核型異常の検査では、例えば、予め免疫染色、PCR(Polymerase Chain Reaction)による未分化マーカー発現の確認、核型解析、マイクロアレイデータの解析、CGH(Comparative Genomic Hybridization)アレイによるCopy Number Variationの存在、次世代シーケンサを用いたエクソンシークエンスまたは全ゲノムシークエンスによる検証のいずれかの検証によって、臨床応用に適したiPS細胞株、臨床応用に適さないiPS細胞株が分類される。なお、撮像されたiPS細胞が核型異常のiPS細胞であるか否かを示す情報は、人工多能性幹細胞選別システムST1の使用者が、撮像されたiPS細胞の細胞塊の形態を目視で確認し、経験に基づいて判定することにより与えられてもよい。
【0033】
教師細胞画像データでは、入力(iPS細胞の画像データ)に対する出力(撮像されたiPS細胞が核型異常のiPS細胞であるか否か)が予めわかっている。そのため、選別装置1は、教師細胞画像データを、入力に対して正しい結果を出力する重みの算出に用いることができる。
【0034】
選別細胞画像データ供給部4は、選別細胞画像データを選別装置1に対して供給する。選別細胞画像データとは、選別装置1が選別するiPS細胞の形態を示す画像データである。
【0035】
選別装置1は、転移学習画像データ取得部10と、教師細胞画像データ取得部11と、選別細胞画像データ取得部12と、機械学習部13と、選別部14とを備える。
転移学習画像データ取得部10は、転移学習画像データ供給部2が供給する転移学習画像データを取得する。転移学習画像データ取得部10は、取得した転移学習画像データを機械学習部13に供給する。
教師細胞画像データ取得部11は、教師細胞画像データ供給部3が供給する教師細胞画像データを取得する。教師細胞画像データ取得部11は、取得した教師細胞画像データを選別部14に供給する。
選別細胞画像データ取得部12は、選別細胞画像データ供給部4が供給する選別細胞画像データを取得する。選別細胞画像データ取得部12は、取得した選別細胞画像データを機械学習部13に供給する。
【0036】
機械学習部13は、教師細胞画像データ取得部11から取得した教師細胞画像データに含まれるiPS細胞の形態を示す画像データと、撮像されたiPS細胞が核型異常のiPS細胞であるか否かを示す情報とに基づいて、iPS細胞の形態の特徴を、深層学習を実行する。つまり、機械学習部13は、核型異常のiPS細胞の形態を示す画像データを教師データにして、核型異常のiPS細胞の形態を機械学習する。機械学習部13が実行する深層学習では、数百枚から数万枚(例えば、200枚から20000枚)の画像が学習に用いられる。
機械学習部13は、転移学習画像データ取得部10から取得した転移学習画像データに基づいて、深層学習を実行する前に学習を実行する。つまり、機械学習部13は、転移学習を実行する。
【0037】
機械学習部13は、再学習を実行し、選別装置1のiPS細胞の形態を示す画像データの選別の精度を向上させてもよい。再学習では、学習が実行されたニューラルネットワークに対して、新たに別の教師データが用いられて学習が実行される。再学習においては、既に実行した深層学習において用いた教師データとは、同様の種類の別のデータが教師データとして用いられる。つまり、再学習において用いられる教師データは、核型異常のiPS細胞の形態を示す画像データであって、既に実行した深層学習において用いた教師データとは別のデータである。機械学習部13は、この別の教師データを新たに用いて深層学習を再度実行する。
【0038】
選別部14は、機械学習部13が深層学習を実行した結果に基づいて、選別細胞画像データ取得部12から取得した複数の選別細胞画像データから正常なiPS細胞の形態を示す画像データを選別する。選別部14は、選別結果を提示部5に出力する。
【0039】
提示部5は、例えば、ディスプレイやプリンタであり、選別装置1の選別部14から供給される選別結果を、表示や印字などの提示手段により提示する。
なお、提示部5は、ネットワークサーバなどの記憶装置であってもよい。この場合には、提示部5は、選別部14から供給される選別結果を記憶し、記憶した選別結果を他の装置に供給する。
【0040】
図5は、本実施形態に係る人工多能性幹細胞選別装置の学習処理の一例を示すフローチャートである。
【0041】
(ステップS100)転移学習画像データ取得部10は、転移学習画像データ供給部2から転移学習画像データを取得する。転移学習画像データ取得部10は、取得した転移学習画像データを機械学習部13に供給する。
【0042】
(ステップS101)機械学習部13は、転移学習画像データ取得部10から取得した転移学習画像データを用いて学習を実行する。
なお、機械学習部13は、転移学習をしなくてもよい。その場合、選別装置1は、ステップS100、及びステップS101の過程を省略する。
【0043】
(ステップS102)教師細胞画像データ取得部11は、教師細胞画像データ供給部3から教師細胞画像データを取得する。教師細胞画像データ取得部11は、取得した教師細胞画像データを機械学習部13に供給する。
【0044】
(ステップS103)機械学習部13は、教師細胞画像データ取得部11から取得した教師細胞画像データを用いて学習を実行する。機械学習部13は、ステップS101の学習において更新した重みを、学習開始時の重みとして用いる。
機械学習部13は、多層のニューラルネットワークの各層のユニット間の重みの更新を各層について、例えば100エポック行う。ここで、エポックとは、教師細胞画像データを1回ずつ全て用いて重みの更新を行う回数の単位である。
その後、機械学習部13は、出力層のユニットと、出力層に近い側から数えて1層目の層のユニットとの間の重み、及び出力層に近い側から数えて1層目の層のユニットと、出力層に近い側から数えて2層目の層のユニットとの間の重みの更新を、他の重みは固定して例えば1000エポック行う。
機械学習部13は、更新した重みを選別部14に供給する。
なお、機械学習部13が学習に用いる手法は、上記以外であってもよい。
【0045】
図6は、本実施形態に係る人工多能性幹細胞選別装置の選別処理の一例を示すフローチャートである。
【0046】
(ステップS200)選別細胞画像データ取得部12は、選別細胞画像データ供給部4が供給する選別細胞画像データを取得する。選別細胞画像データ取得部12は、取得した選別細胞画像データを選別部14に供給する。
【0047】
(ステップS201)選別部14は、機械学習部13から、ステップS103において更新された重みを取得する。
【0048】
(ステップS202)選別部14は、選別細胞画像データ取得部12から取得した選別細胞画像データを、ステップS201において取得した重みをもつ多層のニューラルネットワークを用いて選別する。
【0049】
(ステップS203)選別部14は、選別した結果を提示部5に出力して、一連の処理を終了する。
【0050】
なお、選別装置1の判定精度を検証する際、十分な数の選別細胞画像データが入手できない場合がある。その場合、教師細胞画像データに含まれる画像データの一部を取り出し選別細胞画像データとして用いて、交差検証を行ってもよい。
【0051】
なお本実施形態では、選別装置1が機械学習を実行する場合の一例について説明したが、これに限られない。選別装置1は、機械学習が実行された結果を外部の装置から取得して選別の処理に用いてもよい。その場合、選別装置1の構成から機械学習部13が省略されてもよい。
【0052】
以上に説明したように、本実施形態に係る人工多能性幹細胞選別装置(選別装置1)は、画像データ取得部(選別細胞画像データ取得部12)と、選別部14とを備える。
画像データ取得部(選別細胞画像データ取得部12)は、iPS細胞の形態を示す画像データである第1画像データ(選別細胞画像データ)を取得する。
選別部14は、iPS細胞の形態を示す画像データである第2画像データ(教師細胞画像データ)に基づいてiPS細胞の形態の特徴が機械学習された結果に基づいて、複数の第1画像データ(選別細胞画像データ)から正常なiPS細胞の形態を示す第1画像データ(選別細胞画像データ)を選別する。
【0053】
この構成により、本実施形態に係る人工多能性幹細胞選別装置(選別装置1)は、iPS細胞の形態の特徴が学習された結果に基づいて、iPS細胞を簡便に選別することができる。
【0054】
また、本実施形態において、機械学習部13は、核型異常のiPS細胞の形態を示す画像データを教師データ(教師細胞画像データ)にして、核型異常のiPS細胞の形態を機械学習する。
選別部14は、核型異常のiPS細胞の形態を示す画像データを教師データにして核型異常のiPS細胞の形態が機械学習された結果に基づいて、複数の第1画像データ(選別細胞画像データ)から核型異常のiPS細胞の形態を示す第1画像データ(選別細胞画像データ)を選別する。
【0055】
この構成により、本実施形態に係る人工多能性幹細胞選別装置(選別装置1)は、核型異常のiPS細胞の形態の特徴を学習することができるため、核型異常のiPS細胞を簡便に選別することができる。
【0056】
また、本実施形態において、画像データとは、人工多能性幹細胞の細胞塊が撮像されている画像である。
この構成により、本実施形態に係る人工多能性幹細胞選別装置(選別装置1)は、iPS細胞の細胞塊の形態の特徴を学習することができるため、iPS細胞の細胞塊の形態の特徴に基づいてiPS細胞の選別をすることができる。
【0057】
また、本実施形態において、人工多能性幹細胞選別装置(選別装置1)は、機械学習部13をさらに備える。
機械学習部13は、第2画像データ(教師細胞画像データ)を教師データにしてiPS細胞の形態の特徴を機械学習する。
選別部14は、機械学習部13による機械学習の結果に基づいて、複数の第1画像データ(選別細胞画像データ)から正常なiPS細胞の形態を示す第1画像データを選別する。
この構成により、本実施形態に係る人工多能性幹細胞選別装置(選別装置1)は、iPS細胞の形態の特徴を学習するための機械学習を実行できるため、外部から機械学習の結果を取得することなくiPS細胞を選別することができる。
【0058】
また、本実施形態において、機械学習部13は、多層のニューラルネットワークを用いて機械学習する。
この構成により、本実施形態に係る人工多能性幹細胞選別装置(選別装置1)は、iPS細胞の形態の特徴が自動的に抽出されるため、iPS細胞の形態の特徴を予め必要とせずにiPS細胞を選別することができる。
【0059】
また、本実施形態において、機械学習部13は、画像データ(教師細胞画像データ)に加えて、iPS細胞の形態を示す画像とは異なる画像を示す第2の画像データ(転移学習画像データ)を用いて機械学習する。
この構成により、本実施形態に係る人工多能性幹細胞選別装置(選別装置1)は、画像データ(教師細胞画像データ)を用いて機械学習をする前に、第2の画像データ(転移学習画像データ)を用いて機械学習をすることができるため、効率よく機械学習することができる。
【0060】
(第2の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の第2の実施形態について詳しく説明する。
上記第1の実施形態では、人工多能性幹細胞選別システムが、選別装置と、画像データを供給する部とから構成される場合について説明をした。本実施形態では、人工多能性幹細胞選別装置がタイムラプス顕微鏡を備え、培養されてから7日目のiPS細胞を撮像した画像データを選別する場合について説明をする。
【0061】
図7は、本実施形態に係る人工多能性幹細胞選別装置T1の構成の一例を示す概略ブロック図である。
人工多能性幹細胞選別装置T1は、転移学習画像データ供給部2と、教師細胞画像データ供給部3と、選別細胞画像データ供給部4と、提示部5と、制御部6と、タイムラプス顕微鏡7とを備える。
本実施形態に係る人工多能性幹細胞選別装置T1(図7)と第1の実施形態に係る人工多能性幹細胞選別システム(図4)とを比較すると、選別装置1が制御部6に置き換わっている点、転移学習画像データ供給部2、教師細胞画像データ供給部3、選別細胞画像データ供給部4、提示部5、制御部6が人工多能性幹細胞選別装置T1に備えられている点、及びタイムラプス顕微鏡7の有無が異なる。しかし、転移学習画像データ供給部2、提示部5、制御部6内の各部(転移学習画像データ取得部10、教師細胞画像データ取得部11、選別細胞画像データ取得部12、機械学習部13、選別部14)が持つ機能は第1の実施形態と同じである。第1の実施形態と同じ機能の説明は省略し、第2の実施形態では、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0062】
教師細胞画像データ供給部3は、タイムラプス顕微鏡7からiPS細胞の形態を示す画像データと、撮像されたiPS細胞についての判定結果との組を、教師細胞画像データとして取得する。
選別細胞画像データ供給部4は、タイムラプス顕微鏡7からiPSの形態を示す画像データを、選別細胞画像データとして取得する。
【0063】
タイムラプス顕微鏡7は、培養容器を備え、iPS細胞を培養する。タイムラプス顕微鏡7は、顕微鏡、カメラ、照明などを備え、iPS細胞の培養の過程を時系列に撮像し画像データを生成する。
タイムラプス顕微鏡7は、撮像されたiPS細胞についての核型異常の判定結果を、人工多能性幹細胞選別装置T1の使用者による撮像されたiPS細胞の核型異常の検査から得る。なお、タイムラプス顕微鏡7は、撮像されたiPS細胞についての核型異常の判定結果を、人工多能性幹細胞選別装置T1の使用者によるiPS細胞の細胞塊の形態の目視による判定から得てもよい。
【0064】
タイムラプス顕微鏡7は、iPS細胞の培養開始後、所定の時間が経過した場合に、培養したiPS細胞を撮像する。タイムラプス顕微鏡7は、培養開始後7日目のiPS細胞を撮像する。タイムラプス顕微鏡7は、培養(または継代)開始後に所定の時間が経過し、コンフルエントとなったiPS細胞が撮像された画像を画像データとして生成する。ここでコンフルエントとは、培養(または継代)から所定の時間が経過してiPS細胞の面積が画像全体の面積の凡そ60パーセントから90パーセントを占める状態である。
なお、タイムラプス顕微鏡7は、iPS細胞の細胞密度が所定の範囲内にある時に、iPS細胞を撮像してもよい。
【0065】
図8は、本実施形態に係る人工多能性幹細胞の細胞塊の画像の生成過程の一例を示す図である。
【0066】
画像データA1-1、画像データA1-3、画像データA1-5及び画像データA1-7は、iPS細胞株4F16を培養してから、各々1日目、3日目、5日目及び7日目に撮像された画像である。画像データB1-1、画像データB1-3、画像データB1-5及び画像データB1-7は、iPS細胞株DiPS03を培養してから、各々1日目、3日目、5日目及び7日目に撮像された画像である。
【0067】
画像データA2-1、画像データA2-3、画像データA2-5及び画像データA2-7は、画像データA1-7のiPS細胞株4F16を継代培養してから、各々1日目、3日目、5日目及び7日目に撮像された画像である。画像データB2-1、画像データB2-3、画像データB2-5及び画像データB2-7は、画像データB1-7のiPS細胞株DiPS03を継代培養してから、各々1日目、3日目、5日目及び7日目に撮像された画像である。
【0068】
画像データA3-1、画像データA3-3、画像データA3-5及び画像データA3-7は、画像データA2-7のiPS細胞株4F16を継代培養してから、各々1日目、3日目、5日目及び7日目に撮像された画像である。画像データB3-1、画像データB3-3、画像データB3-5及び画像データB3-7は、画像データB2-7のiPS細胞株DiPS03を継代培養してから、各々1日目、3日目、5日目及び7日目に撮像された画像である。
【0069】
なお、以下の説明においては、継代培養が開始されてから経過した時間についても、単に「培養開始後」と記載する場合がある。
本実施形態においては、培養開始後7日目のiPS細胞の細胞塊が撮像されている画像データA1-7、画像データB1-7、画像データA2-7、画像データB2-7、画像データA3-7及び画像データB3-7が、教師細胞画像データの画像データ及び選別細胞画像データに用いられる。
【0070】
培養開始後7日目のiPS細胞の細胞塊は、核型異常のiPS細胞が細胞塊全体に広がっているか、核型異常でないiPS細胞が細胞塊全体に広がっているかのいずれかであると考えられる。したがって、人工多能性幹細胞選別装置T1は、培養開始後7日目のiPS細胞の細胞塊が撮像されている画像データを学習に用いることにより、iPS細胞の画像データの選別の精度を向上させることができる。また、培養開始後7日目のiPS細胞の細胞塊は、iPS細胞の細胞塊の形態の特徴を観察するのに、十分な日数が経過していると考えられる。このため、人工多能性幹細胞選別装置T1は、培養開始後7日目のiPS細胞の細胞塊が撮像されている画像データを学習に用いることにより、iPS細胞の細胞塊の形態の特徴を学習することができる。この学習に用いる画像データは例えば、2万~3万枚程度であればよい。
【0071】
なお、細胞塊が撮像されている画像については、培養開始後7日目の画像に限られず、例えば、培養開始後1日目のiPS細胞の細胞塊が撮像されている画像、培養開始後3日目のiPS細胞の細胞塊が撮像されている画像、培養開始後5日目のiPS細胞の細胞塊が撮像されている画像が、各々教師細胞画像データの画像データ、及び選別細胞画像データに用いられてもよい。また、培養開始後1日目のiPS細胞の細胞塊が撮像されている画像、培養開始後3日目のiPS細胞の細胞塊が撮像されている画像、培養開始後5日目のiPS細胞の細胞塊が撮像されている画像、培養開始後7日目のiPS細胞の細胞塊が撮像されている画像の一部、または全部が、教師細胞画像データの画像データ、及び選別細胞画像データに用いられてもよい。
【0072】
培養開始後7日目以前の画像を使用すれば、培地がiPS細胞により埋め尽くされることで細胞塊としてのまとまりが失われにくく、機械学習の学習精度の低下が生じにくい。また、臨床用にiPS細胞を培養する場合、7日より長く培養をすることは一般的ではない。
【0073】
図9は、本実施形態に係るタイムラプス顕微鏡7の画像生成処理の一例を示すフローチャートである。
【0074】
(ステップS300)タイムラプス顕微鏡7は、iPS細胞の培養を開始する。
【0075】
(ステップS301)タイムラプス顕微鏡7は、開始した培養を継続する。
【0076】
(ステップS302)タイムラプス顕微鏡7は、iPS細胞を開始してから7日目であるか否かを判定する。タイムラプス顕微鏡7は、iPS細胞を開始してから7日目であると判定する場合(ステップS302;YES)、ステップS303の処理を実行する。一方、iPS細胞を開始してから7日目でないと判定する場合(ステップS302;NO)、タイムラプス顕微鏡7は、ステップS301の処理を繰り返す。
【0077】
(ステップS303)タイムラプス顕微鏡7は、培養中のiPS細胞の細胞塊を、培養容器毎に弱拡大における視野において撮像する。タイムラプス顕微鏡7は、撮像した結果から画像データを生成する。
【0078】
(ステップS304)タイムラプス顕微鏡7は、画像データを所定の数だけ生成したか否かを判定する。タイムラプス顕微鏡7は、画像データを所定の数だけ生成したと判定する場合(ステップS304;YES)、一連の処理を終了する。一方、画像データを所定の数だけ生成していないと判定する場合(ステップS304;NO)、タイムラプス顕微鏡7は、ステップS305の処理を実行する。
【0079】
(ステップS305)タイムラプス顕微鏡7は、培養中のiPS細胞から継代培養を行う。
【0080】
以上に説明したように、本実施形態の画像データとは、iPS細胞の培養が開始されてから所定の日数が経過した時点においてiPS細胞が撮像された画像データである。
この構成により、本実施形態に係る人工多能性幹細胞選別装置T1は、iPS細胞の細胞塊の形態の特徴を観察するのに適した画像データを用いて学習することができるため、iPS細胞の選別の精度を向上させることができる。
【0081】
上述したように、タイムラプス顕微鏡7は、iPS細胞の培養開始後、所定の時間が経過した場合に、培養したiPS細胞を撮像し、教師細胞画像データ供給部3と選別細胞画像データ供給部4とのそれぞれに、画像データを供給する。したがって、選別細胞画像データに撮像されているiPS細胞と、教師細胞画像データに含まれる画像データに撮像されているiPS細胞とで、培養(または継代)開始後経過した時間は一致している。この構成により、本実施形態に係る人工多能性幹細胞選別装置T1は、iPS細胞の選別の精度を向上させることができる。
【0082】
また、上述したように、タイムラプス顕微鏡7は、培養(または継代)開始後に所定の時間が経過し、コンフルエントとなったiPS細胞が撮像された画像を画像データとして生成する。したがって、選別細胞画像データ及び教師細胞画像データでは、コンフルエントとなったiPS細胞が撮像されている。
細胞画像撮影の培養(または継代)開始から経過した時間を学習と選別とにおいて一致させた条件下で、培養(または継代)から時間が経過し、コンフルエントとなった状態の方が、コンフルエントとなっていない状態に比べて細胞株の選別に適していることが事前の検証で認められている。
【0083】
また、本実施形態において、画像データとは、人工多能性幹細胞の単位体積あたりの細胞の個数が所定の範囲内である時に撮像された画像データであってもよい。
この構成により、本実施形態に係る人工多能性幹細胞選別装置T1は、細胞密度が所定の範囲内であるiPS細胞の形態を示す画像データに基づいて機械学習することができるため、iPS細胞の選別の精度を向上させることができる。
【0084】
なお、上述した実施形態における選別装置1の一部、例えば、転移学習画像データ取得部10、教師細胞画像データ取得部11部、選別細胞画像データ取得部12、機械学習部13をコンピュータで実現するようにしてもよい。上述した実施形態における人工多能性幹細胞選別装置T1の一部、例えば、転移学習画像データ供給部2、教師細胞画像データ供給部3、選別細胞画像データ供給部4、及び制御部6をコンピュータで実現するようにしてもよい。それらの場合、この制御機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、選別装置1又は人工多能性幹細胞選別装置T1に内蔵されたコンピュータシステムであって、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
また、上述した実施形態における選別装置1及び人工多能性幹細胞選別装置T1の一部、または全部を、LSI(Large Scale Integration)等の集積回路として実現してもよい。選別装置1及び人工多能性幹細胞選別装置T1の各機能ブロックは個別にプロセッサ化してもよいし、一部、または全部を集積してプロセッサ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、または汎用プロセッサで実現してもよい。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いてもよい。
【0085】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【符号の説明】
【0086】
ST1…人工多能性幹細胞選別システム、1…選別装置、2…転移学習画像データ供給部、3…教師細胞画像データ供給部、4…選別細胞画像データ供給部、5…提示部、10…転移学習画像データ取得部、11…教師細胞画像データ取得部、12…選別細胞画像データ取得部、13…機械学習部、14…選別部、T1…人工多能性幹細胞選別装置、6…制御部、7…タイムラプス顕微鏡、P1、P2、P3、A1-1、A1-3、A1-5、A1-7、A2-1、A2-3、A2-5、A2-7、A3-1、A3-3、A3-5、A3-7、B1-1、B1-3、B1-5、B1-7、B2-1、B2-3、B2-5、B2-7、B3-1、B3-3、B3-5、B3-7…画像データ、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8、C9、C10、C11、C12、C13、C14、D1、D2、D3、D4、D5、D6、E…細胞塊
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9