IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社シンクロンの特許一覧

<>
  • 特開-給電装置 図1
  • 特開-給電装置 図2
  • 特開-給電装置 図3
  • 特開-給電装置 図4
  • 特開-給電装置 図5A
  • 特開-給電装置 図5B
  • 特開-給電装置 図5C
  • 特開-給電装置 図5D
  • 特開-給電装置 図5E
  • 特開-給電装置 図6
  • 特開-給電装置 図7
  • 特開-給電装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047890
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】給電装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20220317BHJP
   H02J 50/00 20160101ALI20220317BHJP
【FI】
C23C14/34 V
H02J50/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020153921
(22)【出願日】2020-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】390007216
【氏名又は名称】株式会社シンクロン
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大胡 嘉規
(72)【発明者】
【氏名】青山 貴昭
(72)【発明者】
【氏名】宮内 充祐
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029AA06
4K029AA07
4K029AA09
4K029AA11
4K029AA24
4K029BA01
4K029BA41
4K029CA06
4K029CA13
4K029DC03
4K029DC05
4K029DC06
4K029DC13
4K029DC33
4K029DC39
4K029FA04
4K029FA05
4K029JA02
4K029JA06
(57)【要約】
【課題】電圧を印加した基板Sに対して行う表面処理において、複数の基板Sを順次処理をする場合に、処理される基板Sの電力密度を高め、電力効率を上げることができる給電装置31、及びこれを用いた表面処理機1を提供する。
【解決手段】複数の基板Sに順次表面処理をする表面処理機1に用いられる給電装置31であって、基板Sに電力を供給する回転体22に取り付けられ、電源32から供給される電力を回転体22に保持された基板Sに供給し、回転体22の回転角度によって、給電と非給電とを選択的に切り替える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の基板に順次表面処理をする表面処理機に用いる給電装置であって、
基板に電力を供給する回転体に直接又は間接的に取り付けられ、電源から供給される電力を前記回転体に保持された基板に供給し、
前記回転体の回転方向における回転位置によって、給電と非給電とを選択的に切り替える、表面処理機用給電装置。
【請求項2】
非接触給電により、前記電源から前記回転体に電力を供給する、請求項1に記載の表面処理機用給電装置。
【請求項3】
絶縁体及び複数の導体を備え、
前記複数の導体は、前記絶縁体の間に、前記回転体の回転方向に沿って離散的に配置され、所定の回転位置で前記電源と順次接続する、請求項1又は2に記載の表面処理機用給電装置。
【請求項4】
平面視したときに円形であり、
前記複数の導体が外周部で前記電源と接続し、
前記外周部の両端と回転体の回転中心とが成す、回転体の回転方向の角度が、前記基板に表面処理をする時間と、前記基板に電力を供給する時間とが等しくなる角度である、請求項3に記載の表面処理機用給電装置。
【請求項5】
前記複数の導体は、複数の電源と順次接続する、請求項3又は4に記載の表面処理機用給電装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の給電装置と、
少なくとも前記回転体の一部を真空雰囲気に保持する筐体と、
前記基板を保持し、電力を供給するために前記回転体に設けられた複数のホルダと、
前記複数のホルダと前記複数の導体とを接続する複数の導線と、を備える、表面処理機。
【請求項7】
導体の数が前記ホルダの数と等しく、導体が前記ホルダに一対一で接続している、請求項6に記載の表面処理機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に真空雰囲気で基板の表面処理をする表面処理機に用いて好ましい給電装置、及びこれを用いた表面処理機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
真空室、基板位置選択機構、及び電源を備える成膜装置であって、前記真空室は、スパッタ成膜源を有する成膜領域と、反応ガス源を有する反応領域とを備え、前記基板位置選択機構により、基板の位置を成膜領域とするか反応領域とするかが選択可能であり、前記電源は、基板に対して高周波バイアス電力の供給する成膜装置を用いて、前記成膜領域にて金属薄膜を堆積し、前記反応領域にて金属薄膜を化合物膜に変換する際に、堆積工程と変換工程の両工程に渡って、継続して、基板に高周波バイアス電圧を印加する技術が知られている(特許文献1)。こうすることで、自己バイアスにより基板が負電位となり、反応ガス中の反応種を含むイオンが基板に誘引され、金属薄膜へ確実に付着する。また、正イオンが保持するエネルギーを、金属薄膜の化合物膜への変換に利用でき、化合物の生成反応が促進される。さらに、イオンを引き込むことで反応性が高くなり、成膜速度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4613015号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、基板への給電と非給電を、回転ドラムと電源の間に設けられたスイッチで切り替えることができるが、複数の基板を順次処理する場合には、回転ドラムに保持された複数の基板に同時に電圧を印加することになる。そのため、複数の基板にスパッタリングにより順次薄膜を形成する際に、薄膜形成の処理を行う基板のみならず、処理待ち又は処理後の基板にも電力を供給することになる。この場合に、供給する電力が一定であると、基板の単位面積当たりに供給される電力、すなわち電力密度が下がり、電力効率が低下する。その結果、電力を供給することで得られる表面処理の効果が弱まるという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、バイアススパッタリングなどの、電圧を印加した基板に対して行う表面処理において、複数の基板を順次処理をする場合に、処理される基板の電力密度を高め、電力効率を上げることができる給電装置、及びこれを用いた表面処理機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数の基板に順次表面処理をする表面処理機に用いる給電装置であって、基板に電力を供給する回転体に直接又は間接的に取り付けられ、電源から供給される電力を前記回転体に保持された基板に供給し、前記回転体の回転位置によって、給電と非給電とを選択的に切り替える表面処理機用給電装置によって上記課題を解決する。
【0007】
上記発明において、表面処理機用給電装置は、非接触給電により、前記電源から前記回転体に電力を供給することが好ましい。
【0008】
上記発明において、表面処理機用給電装置は、絶縁体及び複数の導体を備え、前記複数の導体は、前記絶縁体の間に、前記回転体の回転方向に沿って離散的に配置され、所定の回転位置で前記電源と順次接続することが好ましい。
【0009】
上記発明において、平面視したときに給電装置が円形であり、前記複数の導体が外周部で前記電源と接続し、前記外周部の両端と回転体の回転中心とが成す、回転体の回転方向の角度が、前記基板に表面処理をする時間と、前記基板に電力を供給する時間とが等しくなる角度であることが好ましい。
【0010】
上記発明において、前記複数の導体は、複数の前記電源と順次接続することが好ましい。
【0011】
また、本発明は、上記給電装置と、少なくとも前記回転体の一部を真空雰囲気に保持する筐体と、前記基板を保持し、電力を供給するために前記回転体に設けられた複数のホルダと、前記複数のホルダと前記複数の導体とを接続する複数の導線と、を備える表面処理機によって上記課題を解決する。
【0012】
上記発明において、導体の数が前記ホルダの数と等しく、導体が前記ホルダに一対一で接続していることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電圧を印加した基板に対して行う表面処理において、複数の基板を順次処理をする場合に、処理を行う基板に対して選択的に電力を供給することができる。これにより、処理される基板の電力密度を高め、電力効率を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る給電装置を含む表面処理機の第1実施形態を示す正面図である。
図2図1に示す表面処理機の平面図である。
図3図1に示す給電装置の平面図である。
図4図1に示す回転体のAA線に沿う断面図である。
図5A図1の表面処理機を用いた基板の表面処理の工程を示す平面図(その1)である。
図5B図1の表面処理機を用いた基板の表面処理の工程を示す平面図(その2)である。
図5C図1の表面処理機を用いた基板の表面処理の工程を示す平面図(その3)である。
図5D図1の表面処理機を用いた基板の表面処理の工程を示す平面図(その4)である。
図5E図1の表面処理機を用いた基板の表面処理の工程を示す平面図(その5)である。
図6】本発明に係る給電装置を含む表面処理機の第2実施形態を示す正面図である。
図7図6に示す表面処理機の平面図である。
図8図6に示す給電装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する実施形態はあくまで例示であり、本発明を限定するものではなく、適宜の範囲で改変することができる。
【0016】
[第1実施形態]
図1は、本発明に係る給電装置を含む表面処理機の第1実施形態を示す正面図である。本実施形態の表面処理機1は、基板Sに対して、真空雰囲気にて各種の表面処理を行うための装置である。基板Sとしては、樹脂やプラスチックなどの有機物、ガラスやセラミックスなどの無機物、シリコンなどの半導体、及び銅合金やニッケル、チタンなどの金属のうち少なくとも1つを含む基板を用いることができる。また、基板Sの形状は、表面処理機1にて表面処理を行うことができる範囲内の大きさであれば、円形、矩形、その他適宜の形状とすることができる。
【0017】
表面処理機1にて行う表面処理としては、たとえば化学蒸着法(CVD)又はスパッタリングなどの物理蒸着法(PVD)による成膜、プラズマエッチング、及びプラズマを用いたアッシング(灰化)を例示することができる。図1に示す表面処理機1では、表面処理として、プラズマ発生装置11を用いた基板Sの表面の洗浄処理と、スパッタリング装置12及び13を用いた、スパッタリングによる基板Sの表面への薄膜形成処理を、複数の基板Sに対して順次行う。
【0018】
本実施形態の洗浄処理は、超音波やプラズマを用いた物理的洗浄であり、特に、高密度プラズマを用いたプラズマ処理により、基板Sの表面を洗浄することを含む。ただし、物理的洗浄に加えて、洗剤、酸、又はアルカリなどを用いた化学的洗浄を基板Sに別途行ってもよい。一方、薄膜形成処理に用いるスパッタリングとしては、マグネトロンスパッタ、リアクティブスパッタ又はバイアススパッタなどの適宜のスパッタ方式を用いることができる。第1実施形態では、基板Sに対する表面処理として、プラズマ発生装置11で発生させた高密度プラズマを用いる、プラズマ処理による基板Sの洗浄処理と、スパッタリング装置12を用いる、2極スパッタリング方式による薄膜形成処理と、スパッタリング装置13を用いる、2極スパッタリング方式のバイアススパッタによる薄膜形成処理とを行う。
【0019】
これらの表面処理が行われる間、基板Sは、回転体22のホルダHに保持される。回転体22は、基板Sを保持するためのホルダHを複数備える上部221と、この上部221から垂下する軸状の下部222とを含んで構成され、これら上部221と下部222は一体的に回転する。図1に示す回転体22では、上部221はカルーセル式の回転ドラムであり、複数のホルダHが上部221の側面に設けられている。図1に示すホルダHは、機械的に基板Sを保持する。たとえば、ホルダHに備えられたクランプで基板Sを把持する、又はホルダHに備えられた突起部に基板Sを係合させることで、ホルダHは基板Sを保持する。また、ホルダHは、表面処理のために基板Sに電圧を印加することができ、第1実施形態では、少なくとも、プラズマ発生装置11によるプラズマエッチング、つまり洗浄処理と、スパッタリング装置13によるバイアススパッタとにおいて、基板Sにバイアス電圧を印加する。さらに、ホルダHは、回転体22と基板Sとの間を絶縁するために、絶縁体を備えていてもよい。なお、当該絶縁体は、ホルダHと一体である必要はなく、ホルダHから取り外せてもよい。絶縁体がホルダHから取り外しできる場合は、ホルダHに基板Sを搭載するときに、あわせて絶縁体をホルダHに取り付けてもよい。
【0020】
回転体22は、回転体22の中心部を貫通しているシャフト42に取り付けられており、シャフト42が回転すると、シャフト42と共に回転する。シャフト42は、一端が駆動装置41に接続され、他端は固定部43に回転可能に取り付けられている。駆動装置41は、電動機(モータ)、滑車、ベルト及び歯車などを備え、たとえば1rpm~200rpmの回転速度でシャフト42を回転させることで、回転体22を回転させる。駆動装置41によるシャフト42の回転は、連続的な定速回転であってもよく、ステッピングモータのような、所定の回転角度(たとえば45°、90°、180°など)ごとに回転と停止を繰り返す間欠的な回転であってもよい。以下においては、回転体22を定速回転させる例を説明する。
【0021】
基板Sの洗浄処理及び薄膜形成処理は、たとえば真空ポンプを用いて真空雰囲気に保たれた筐体21内で行われる。図1に示す表面処理機1では、回転体22の上部221は、筐体21内に設けられ、筐体21と回転体22の下部222との間は、Oリングシール、ウィルソンシール、磁気流体シール又はベローズシールなどのシール23により封止されている。なお、真空とは、通常の大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間内の状態のことをいう(日本産業規格JIS)が、本実施形態の表面処理機1にて実現される筐体21内の真空度は、処理内容に応じて適宜設定され、たとえば100kPa~100Paの低真空から0.1Pa~10-5Paの高真空など、あらゆる真空度に適用することができる。また、図1に示す表面処理機1では、回転体22の上部221を筐体21内に設けたが、回転体22の一部だけでなく、回転体22の全部を、筐体21内に配置してもよいし、これに加えて、給電装置31及び/又は駆動装置41を、筐体21内に配置してもよい。
【0022】
図2は、図1に示す表面処理機1の平面図である。表面処理機1では、図2に示すように、筐体21の内部が4つの領域R1~R4に区切られており、領域R1では処理済みの基板Sの取り出しと未処理の基板Sの搬入が行われ、領域R2では基板Sの表面の洗浄処理が行われ、領域R3ではスパッタリングによる薄膜形成処理が行われ、そして領域R4ではバイアススパッタによる薄膜形成処理が行われる。各領域R1~R4は、図2に破線で示す仕切り壁211により区切られており、各領域R1~R4における処理が、他の領域の処理に影響を及ぼさないようになっている。また、各領域R1~R4における圧力及び温度は、各領域R1~R4に独立の制御システムを設けることで、独立に制御することができる。以下、領域R1~R4における基板Sに対する処理について、それぞれ説明する。
【0023】
領域R1は、全ての薄膜形成処理が完了した基板Sを表面処理機1の外部へ取り出し、同時に、空になったホルダHに、まだ表面処理がされてない基板Sを搭載するための領域である。領域R1にて、処理済みの基板Sを未処理の基板Sと交換することで、表面処理機1は、連続的に基板Sの表面処理を行うことができる。基板Sの取り出しと搬入は、筐体21の側壁面に設けられた開口部O(図2に端部E1及びE2を示す)を介して行う。なお、筐体21は、開口部Oを介して、図示しないロードロック室などの気密を維持できる設備と連通し、これにより、基板Sを筐体21から取り出す際にも、筐体21内の真空雰囲気は維持される。
【0024】
領域R2は、プラズマ発生装置11を用いた基板Sの洗浄処理を行うための領域である。すなわち、薄膜形成処理をする基板Sの表面に、プラズマ発生装置11により発生させたプラズマの粒子を入射させることで、たとえば基板Sの表面に付着した有機物をアッシングによって分解し、薄膜を形成する基板Sの表面から異物を除去する。これにより、基板Sの表面を清浄にし、緻密な薄膜の形成を促進する。また、本実施形態の洗浄処理では、基板Sにバイアス電圧を印加しているため、アッシングに加えて、プラズマエッチングによって基板Sの表面の酸化層が除去でき、これにより、基板Sの表面に形成される薄膜にアンカー効果が発現する。プラズマエッチングを行うために、領域R2には、たとえばアルゴン(Ar)ガスのような不活性ガスを導入し、さらに、基板Sが熱によって損傷しないように、基板Sの温度を水冷などで適宜制御する。基板Sに電圧を印加する際には、たとえば周波数400kHzの交流電源を用いる。なお、洗浄処理におけるバイアス電圧の印加、及びそれに伴うプラズマエッチングは必須ではなく、バイアス電圧を印加せずにアッシングのみの洗浄処理を行ってもよい。
【0025】
領域R3は、スパッタリング装置12を用いた薄膜形成処理を行うための領域である。スパッタリング装置12は、少なくとも成膜用のスパッタリングターゲット121と、スパッタリングターゲット121を支持するバッキングプレート122とを備える。スパッタリングターゲット121としては、アルミニウム、銀、チタン、ニッケルなどの金属、二酸化チタンなどの酸化物、窒化チタンなどの窒化物、炭化チタン、炭化ケイ素、炭化タングステンなどの炭化物、硫化亜鉛などの硫化物、及びフッ素樹脂などの樹脂のうち少なくとも1つを含むターゲットを用いることができる。また、スパッタリングターゲットの形状は特に限定されず、平板型、円筒型など、任意の形状でよい。スパッタリングを行うために、領域R3には、たとえばアルゴン、酸素、又は窒素のような放電ガスを導入し、さらに、基板Sが熱によって損傷しないように、基板Sの温度を水冷などで適宜制御する。
【0026】
領域R4は、基板Sにバイアス電圧を印加したうえで、スパッタリング装置13を用いてバイアススパッタを行い、基板Sの表面に薄膜を形成するための領域である。バイアススパッタにおいて基板に印加する電圧は、たとえば直流電源(DC)であれば、スパッタリングに用いる陽極に対して-500V~500Vの範囲で適宜の値を設定することができる。また、スパッタリング装置12と同様に、スパッタリング装置13は、少なくともスパッタリングターゲット131とバッキングプレート132とを備える。スパッタリングターゲット131には、スパッタリングターゲット121と同様に金属、酸化物、窒化物、炭化物、硫化物及び樹脂のうち少なくとも1つを含むターゲットを用いることができるが、スパッタリングターゲット131は、スパッタリングターゲット121と同じターゲットでもよいし、異なるターゲットであってもよい。なお、領域R4の環境は、領域R3と同様に、スパッタリング装置13を用いたバイアススパッタによる薄膜形成が行える適宜の条件に保持する。
【0027】
仕切り壁211により4個の領域R1~R4に区切られた筐体21の中心部には、回転体22の上部221が設けられ、回転ドラム形状の上部221の中心部をシャフト42が貫通している。シャフト42は、駆動装置41により点Cを中心に矢印Dの方向に回転し、上部221を含む回転体22は、シャフト42と共に、時計回りの方向(つまり矢印Dの方向)に回転する。回転体22の上部221は、その側面に、反時計回りにH1~H4の4個のホルダHを備え、基板S1~S4を保持するとともに、各ホルダH1~H4には、給電用の導線33a~33dが接続されている。本実施形態の表面処理機1では、シャフト42を介して、駆動装置41で回転体22を点C周りに、矢印Dの方向に回転させることで、複数の基板S1~S4について、基板S1→S2→S3→S4の順で、順次処理を行う。
【0028】
回転体22の上部221は、ホルダH1~H4に基板Sを保持した状態で、領域R1~R4を画定する仕切り壁211と接触することなくシャフト42と共に定速回転し、領域R1→R2→R3→R4→R1→R2→・・・の順に、基板Sを順次搬送する。こうすることで、各基板S1~S4について、洗浄処理(領域R2)→薄膜形成処理(領域R3)→薄膜形成処理(領域R4)→洗浄処理(領域R2)→・・・の順に、繰り返し表面処理を行う。各基板S1~S4の表面処理の一例として、たとえば図2の状況では、各ホルダH1~H4に基板S1~S4が保持されており、領域R1では、ホルダH1に保持された基板S1に表面処理は行わない一方、領域R2では、ホルダH4に保持された基板S4に表面の洗浄処理を行い、領域R3では、ホルダH3に保持された基板S3に薄膜形成処理を行い、領域R4では、ホルダH2に保持された基板S2にバイアススパッタによる薄膜形成処理を行う。
【0029】
こうして、洗浄処理と薄膜形成処理を繰り返し、全ての基板S1~S4について表面処理が完了した後、回転体22の定速回転を停止し、処理済みの基板S1~S4を、開口部Oを介して表面処理機1から取り出する。これと同時に、空になったホルダH1~H4に、まだ表面処理がなされていない基板Sを搭載する。たとえば、図2に示すように、領域R1にて表面処理の完了した基板S1をホルダH1から取り外し、開口部Oを介して表面処理機1から取り出した後に、ホルダH1に未処理の基板S5を搭載する。基板S5を搭載した後は、回転体22を所定の角度(たとえば90°)だけ回転させて、表面処理の完了した基板S2をホルダH2から取り外し、開口部Oを介して表面処理機1から取り出した後に、ホルダH2に未処理の基板S6を搭載する。基板S3及びS4も同様にして表面処理機1から取り出し、ホルダH3及びH4に、それぞれ未処理の基板S7及びS8を搭載する。そして、ホルダH1~H4に基板S5~S8が搭載されて準備が完了すると、回転体22を再び定速回転させ、領域R1→R2→R3→R4→R1→R2→・・・の順に、基板Sを順次搬送し、各基板S5~S8について、洗浄処理(領域R2)→薄膜形成処理(領域R3)→薄膜形成処理(領域R4)→洗浄処理(領域R2)→・・・の順に、繰り返し表面処理を行う。
【0030】
表面処理機1は、回転体22の上部221を回転させることで、複数の基板Sを処理が行われる領域Rに順次搬送するが、図2の例であれば、上部221は、1rpm~200rpmの範囲内の回転速度で常に回転し続ける。またこれに代えて、所定角度(たとえば90°)だけ回転した後、各領域R1~R4での処理が完了するまで回転せずに停止し、各領域R1~R4での処理が完了した後に、再度、所定角度だけ回転して停止してもよい。このような上部221の回転は、たとえば、駆動装置41にステッパー電動機を用いてシャフト42を回転することで実現できる。なお、図2に示す回転体22は4個のホルダHを備えるが、ホルダHの数は特に限定されず、回転体22においてホルダHを配置できる部分の面積と、処理する基板Sの大きさとから、適宜の値を設定することができる。
【0031】
図1に戻り、回転体22に保持された基板Sにバイアス電圧を印加するための電力は、給電装置31を介して、電源32から供給される。給電装置31と電源32との電気的な接続手段(電気接点)としては、ブラシ34を用いることができる。ブラシ34は、導線など適宜の手段により電源32に接続している。電源32は、たとえば50Hz~400MHzの交流電源、特に30kHz~300kHzの長波(LF)又は10kHz~100MHzの高周波(RF)の周波数を有する交流電源のほか、直流電源(DC)、又はこれらを重畳させたものであってもよい。また、交流電源の波形は、正弦波、矩形波、鋸波、三角波のいずれか、又はこれらの組み合わせであってもよい。一方ブラシ34としては、たとえば金属ブラシ又はカーボンブラシを用いることができる。また、ブラシ34に替えてスリップリングを用いることもできる。なお、給電装置31とブラシ34は必ずしも接触していなくともよく、たとえば、給電装置31とブラシ34との間を1~2,000μm離し、非接触方式の給電としてもよい。
【0032】
本実施形態の給電装置31は、図1に示すようにシャフト42に取り付けられており、シャフト42の回転に伴い、回転体22の回転方向における給電装置31の位置、つまり給電装置31の回転位置によって、給電と非給電とを選択的に切り替えることができる。これにより、プラズマ発生装置11による基板Sの洗浄処理、及びスパッタリング装置13によるバイアススパッタといった、基板Sにバイアス電圧を印加して行う表面処理において、当該表面処理を行う基板Sのみに選択的に電圧を印加し、あるいは、当該表面処理を行う基板Sを保持するホルダHのみに、選択的に電力を供給することができる。その結果、表面処理を行わない基板Sにも一様にバイアス電圧を印加する場合と比較して、より少ない電力で基板Sに対し同じ表面処理を行うことができる。なお、本発明の給電装置31は、シャフト42に取り付けることができるほか、回転体22の下部222などのように回転体22に直接取り付けてもよい。
【0033】
給電装置31は、絶縁体311と複数の導体312とを有し、複数の導体312は、絶縁体311により互いに絶縁され、複数の導線33によりホルダHと電気的に接続されている。絶縁体311としては、アルミナ、石英などのセラミックス、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などのエンジニアリングプラスチックをはじめ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルなどを用いることができる。また、導体312同士の間に空気層又は真空層を設けることで、絶縁体311の代わりにすることもできる。一方、導体312としては、アルミニウム、アルミ合金、銅、銅合金、金、銀、白金などの金属、又はカーボンを用いることができる。
【0034】
図3は、給電装置31の平面図である。図3に示す給電装置31は、平面視したときに円形であり、複数の導体312として、導体312a~312dの4個の導体を有し、それらが反時計回りに、円周方向に等配4点で配置されている。導体312a~312dは、絶縁体311により互いに絶縁されている。また、導体312a~312dにはそれぞれ導線33a~33dが電気的に接続されており、これによりホルダHへ電力を供給し、基板Sに電圧を印加することができる。ここで、導線33により接続される導体312とホルダHとの対応関係は特に限定されないが、たとえば図3の給電装置31では、導体312a、312b、312c、312dは、それぞれ、図2に示すホルダH1、ホルダH2、ホルダH3、ホルダH4に対応している。すなわち、導体312aは導線33aを介してホルダH1と、導体312bは導線33bを介してホルダH2と、導体312cは導線33cを介してホルダH3と、そして導体312dは導線33dを介してホルダH4と接続し、複数の導体312の数が複数のホルダHの数と等しく、それらが一対一で接続している。またこれに代えて、複数の導体312の数が複数のホルダHの数より少なくてもよく、1つの導体312に対して、2又はそれ以上のホルダHが接続していてもよい。なお、導体312の数は特に限定されず、ホルダHの数に対して適宜の数とすることができ、また、絶縁体311及び導体312の形状は、図3に示す形状に限定されず、円形や矩形などの適宜の形状とすることができる。
【0035】
本実施形態の表面処理機1において、ブラシ34の数及び配置は特に限定されず、表面処理機1で行う表面処理に応じて、適宜に配置することができる。第1実施形態の表面処理機1では、図3のように平面視したときに右側に位置するブラシ34aと、左側に位置するブラシ34bの2個のブラシを用いて、給電装置31と電源32を接続している。なお、図3に示すブラシ34a及び34bはどちらも電源32に接続されているが、複数のブラシ34を用いる場合に、ブラシ34が全て同じ電源32に接続されている必要はなく、各ブラシ34が異なる電源32に接続していてもよいし、一部のブラシ34が他のブラシ34と異なる電源32と接続していてもよい。各ブラシ34が電圧、電力、又は周波数などの構成が異なる電源と接続することで、表面処理ごとに、電圧、電力、及び/又は周波数を制御することができる。
【0036】
本実施形態の給電装置31は、シャフト42に取り付けられており、シャフト42が点Cを中心に矢印Dの方向に回転すると、シャフト42と共に矢印Dの方向に回転する。給電装置31が回転する際には、導体312に接続している導線33も共に回転する。これに対して、電源32及びブラシ34はシャフト42と分離されて位置が固定されているので、給電装置31と共に回転しない。そのため、給電装置31が矢印Dの方向に回転するにしたがって、ブラシ34aは、導体312a→絶縁体311→導体312b→絶縁体311→導体312c→絶縁体311→導体312d→絶縁体311→導体312a→絶縁体311→導体312b・・・の順に、絶縁体311と複数の導体312に交互に、接触することになる。同様に、ブラシ34bは、導体312c→絶縁体311→導体312d→絶縁体311→導体312a→絶縁体311→導体312b→絶縁体311→導体312c→絶縁体311→導体312d・・・の順に、絶縁体311と複数の導体312とに、順次接触することになる。
【0037】
このように、シャフト42の回転方向における回転位置によって、ブラシ34a及び34bと接触する導体312が切り替わることで、給電装置31は、給電するホルダH、さらには電圧を印加する基板Sを切り替えることができる。図3に示す給電装置31の場合は、導体312とホルダHとの対応関係に鑑みて、給電装置31が矢印Dの方向に回転するにつれて、ホルダH1及びH3→ホルダH2及びH4→ホルダH1及びH3→ホルダH2及びH4→ホルダH1及びH3→・・・の順に給電するホルダHが切り替わる。また、複数の導体312を絶縁体311で互いに絶縁することで、たとえば導体312aがブラシ34aと接続している間は、他の導体312b~312dとブラシ34aが接続することはなく、電源32と接続したホルダH及び基板Sのみに対して給電することができる。さらに、ブラシ34a及び34bは、導体312と接触しない間は絶縁体311と接触しているので、ホルダHが不必要に電源32と接続して給電状態とならない。なお、図3に示す給電装置では、絶縁体311の外周部とブラシ34a及び34bが接触するが、たとえば導体312a~312dの外周部を半径方向に延ばす、又は絶縁体311の外周部を半径方向にへこませることによって、絶縁体311の外周部とブラシ34a及び34bが接触しないようにしてもよい。この場合には、導体312a~312dのそれぞれの間に設けられた空気層が絶縁体となる。
【0038】
ここで、図2に示す領域R2にて洗浄処理が、領域R4にてバイアススパッタが行われるところ、たとえば、図2のホルダH1と図3の導体312aの回転方向Dにおける位置、及び図2のホルダH3及び図3の導体312cの回転方向Dにおける位置が対応していれば、基板S1に洗浄処理を、基板S3にバイアススパッタをそれぞれ行う間、基板S1及びS3に選択的に電圧を印加することができる。さらに、導体312a~312dは互いに絶縁体311で絶縁されているため、基板S1及びS3にバイアス電圧を印加している間、基板S2及びS4には電圧が印加されない。つまり、回転方向Dにおいて、基板S1に洗浄処理が行われる位置と、基板S1を保持しているホルダH1の位置と、ホルダH1と接続している導体312aがブラシ34aと接する位置を対応させれば、本実施形態の給電装置31を用いることで、洗浄処理を行う基板S1に対して選択的に電圧を印加することができる。また、回転方向Dにおいて、基板S3に洗浄処理が行われる位置と、基板S3を保持しているホルダH3の位置と、ホルダH3と接続している導体312cがブラシ34bと接する位置を対応させれば、本実施形態の給電装置31を用いることで、バイアススパッタによる薄膜形成処理を行う基板S3に対して、選択的に電圧を印加することができる。これは、導体312bとホルダH2、導体312dとホルダH4についても同様である。
【0039】
本実施形態の表面処理機1では、シャフト42の回転速度と、給電装置31の導体312の外周部の長さL1とを調整することで、ホルダHに給電する時間を制御することができる。図3の給電装置31であれば、給電装置31の外周部の全周長さをLとし、導体33aの外周部の端部Aを回転位置の始点とすると、端部Aから始まる回転位置0~Lの間において、L1a~L1dの位置(つまり外周部L1a~L1dの長さ)を調整することで、ホルダHに給電する時間を制御することができる。またこれに代えて、本実施形態の表面処理機1では、シャフト42の回転速度と、導体312の外周部の両端と回転体22の回転中心Cとが成す、回転体22の回転方向Dの角度θ1とを調整することで、ホルダHに給電する時間を制御することができる。図3の給電装置31であれば、導体33aの外周部の端部Aを回転位置の始点とすると、端部Aから始まる回転角度0°~360°の間において、導体312a~312dの各外周部の両端と回転体22の回転中心Cとが成す、回転体22の回転方向Dの角度θ1a~θ1dを調整することで、ホルダHに給電する時間を制御することができる。たとえば、ホルダH1に保持された基板S1について洗浄処理する場合に、設定されたシャフト42の回転速度と、洗浄処理に必要な時間とを用いて、ホルダH1に給電する時間と、基板S1の洗浄処理に要する時間とが等しくなるように、導体312aの外周部の長さL1a又は角度θ1aを設定することができる。これは、他の導体312b~312dの外周部の長さL1b~L1d及び角度θ1b~θ1d、並びにバイアススパッタによる薄膜形成処理についても同様である。
【0040】
さらに、図3に示す給電装置31では、導体312の外周部の長さL1a、L1b、L1c及びL1dは等しいが、これらの長さは互いに異なっていてもよく、表面処理機1で行う表面処理の工程、特に工程の数及びその所要時間に応じて、導体312ごとに適宜の長さとすることができる。同様に、導体312a~312dの各外周部の両端と回転体22の回転中心Cとが成す、回転体22の回転方向Dの角度θ1a、θ1b、θ1c及びθ1dは等しいが、これらの角度は互いに異なっていてもよく、表面処理機1で行う表面処理の工程、特に工程の数及びその所要時間に応じて、導体312ごとに適宜の角度とすることができる。つまり、長さL1a~L1d及び角度θ1a~θ1dは互いに異なってもよく、複数の導体312が、回転体22の回転方向Dに沿って、給電装置31の外周部に絶縁体311を挟んで離散的に配置されていればよい。これにより、表面処理の工程ごとに、バイアス電圧を印加する時間を制御することができる。
【0041】
また、絶縁体311についても、導体312aと312bとの間の外周部長さL2a、導体312bと312cとの間の外周部長さL2b、導体312cと312dとの間の外周部長さL2c、及び導体312dと312aとの間の外周部長さL2dを、表面処理機1で行う表面処理の工程に応じて、適宜設定することができる。同様に、導体312aと312bとの間の外周部の両端と回転体22の回転中心Cとが成す、回転体22の回転方向Dの角度θ2a、導体312bと312cとの間の外周部の両端と回転体22の回転中心Cとが成す、回転体22の回転方向Dの角度θ2b、導体312cと312dとの間の外周部の両端と回転体22の回転中心Cとが成す、回転体22の回転方向Dの角度θ2c、及び導体312dと312aとの間の外周部の両端と回転体22の回転中心Cとが成す、回転体22の回転方向Dの角度θ2dを表面処理機1で行う表面処理の工程に応じて、適宜設定することができる。図3に示す給電装置31では、長さL2a、L2b、L2c及びL2dは等しいが、長さL2a~L2dは、互いに異なってもよい。同様に、角度θ2a、θ2b、θ2c及びθ2dは等しいが、角度θ2a~θ2dは、互いに異なってもよい。
【0042】
なお、複数の導体312の外周部の長さL1及び絶縁体311の外周部の長さL2を設定するときは、給電装置31とブラシ34aとが接する部分の長さL3a、及び給電装置31とブラシ34bとが接する部分の長さL3bの長さを考慮する。同様に、角度θ1及び角度θ2を設定するときは、給電装置31とブラシ34aとが接する部分と、回転体22の回転中心Cとが成す、回転体22の回転方向Dの角度θ3a、及び給電装置31とブラシ34bとが接する部分と、回転体22の回転中心Cとが成す、回転体22の回転方向Dの角度θ3bを考慮する。
【0043】
給電装置31の導体312とホルダHとを接続する導線33は、回転体22の外側に配置してもよいが、導線33の長さを短くし、プラズマなどを用いる表面処理が導線33に与える影響を抑制するために、導線33の少なくとも一部を回転体22の内部に配置することがより好ましい。回転体22内の導線33の配置の一例を、図4を用いて説明する。
【0044】
図4は、回転体22の下部222のA-A線(図1参照)に沿う断面図である。図1に示す表面処理機1では、図4に示すように、導線33a~33dがシャフト42の回転軸に対して平行、つまりA-A線に対して垂直に配置されている。導線33a~33dは、接続されている給電装置31がシャフト42と共に回転すると、同様に、点Cを回転中心として矢印Dの向きに回転する。ここで、回転体22内で複数の導線同士が接続すると、表面処理を行う基板が保持されたホルダHのみに選択的に給電することができなくなるため、導線33a~33dと回転体22との間には絶縁体35が設けられている。この絶縁体35としては、絶縁体311と同じ材料を用いることができる。すなわち、セラミックス、フッ素樹脂、及びポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルなどの樹脂である。また、複数の導線33と回転体22内との間に空気層又は真空層を設けることで、導線33同士を絶縁してもよい。
【0045】
次に、図5A~5Eを参照しながら、表面処理機1における基板Sの表面処理の工程を説明する。図5A~5Eは、図1に示す表面処理機1を用いた基板Sに対する表面処理の工程を示す平面図である。図5A~5Eの(A)は、図2と同じく、図1に示す表面処理機1の平面図であり、各工程における基板Sの処理を示している。ただし、図5A~5Eの(A)では、説明のために、筐体21の図示は省略してある。一方、図5A~5Eの(B)は、(A)に示した基板Sの処理工程における、給電装置31及びブラシ34の平面図である。
【0046】
図5Aは、基板Sに対する表面処理工程の初期状態を示す。すなわち、図5A(A)に示すように、ホルダH1~H4に、それぞれ基板S1~S4が搭載されており、基板S1は領域R1に、基板S2は領域R4に、基板S3は領域R3に、そして基板S4は領域R2に位置している。以下、回転体22の上部221が時計回りに定速回転を開始した場合、ホルダH1に保持された基板S1がどのように表面処理されるかを説明する。
【0047】
図5Aにおいて、給電装置31は、図5A(B)に示す配置にあり、ホルダH1と導通する導体312aは、ブラシ34a及び34bと接していない。そのため、ホルダH1には、バイアス電力が供給されていないので、領域R1に位置する基板S1に対しては、プラズマ表面処理は行われない。
【0048】
図5Bは、基板S1に対する表面処理の第1工程を示す。図5Aに示す状態から回転体22が回転中心Cに対して時計回りに角度α1だけ回転し、図5B(A)に示すように、ホルダH1に保持された基板S1が領域R1から領域R2に搬送されると、給電装置31は、図5B(B)に示す配置になる。その結果、ブラシ34aと導体312aが接続することで、導線33aを介してホルダH1に電力が供給される。これにより、ホルダH1に保持された基板S1にバイアス電圧が印加され、プラズマ発生装置11を用いたバイアスエッチングが行われる。
【0049】
図5Cは、基板S1に対する表面処理の第2工程を示す。図5Bに示す状態から回転体22が回転中心Cに対して時計回りに角度α2だけ回転し、図5C(A)に示すように、ホルダH1に保持された基板S1が領域R2から領域R3に搬送されると、給電装置31は、図5C(B)に示す配置になる。その結果、ホルダH1と導通する導体312aは、ブラシ34aにも34bにも接していないため、当該ホルダH1には電力が供給されない。したがって、領域R3に搬送された基板S1には電圧が印加されず、バイアス電圧が印加されない状態で、スパッタリング装置12を用いた薄膜形成処理が行われる。
【0050】
図5Dは、基板S1に対する表面処理の第3工程を示す。図5Cに示す状態から回転体22が回転中心Cに対して時計回りに角度α3だけ回転し、図5D(A)に示すように、ホルダH1に保持された基板S1が領域R3から領域R4に搬送されると、給電装置31は、図5D(B)に示す配置になる。その結果、ブラシ34bと導体312aが接続することで、導線33aを介してホルダH1に電力が供給される。これにより、ホルダH1に保持された基板S1にバイアス電圧が印加され、スパッタリング装置13を用いた、バイアススパッタによる薄膜形成処理が基板S1に対して行われる。
【0051】
図5Eは、基板S1に対する表面処理の第4工程を示す。図5Dに示す状態から回転体22が回転中心Cに対して時計回りに角度α4だけ回転し、図5E(A)に示すように、ホルダH1に保持された基板S1が領域R4から領域R1に搬送されると、給電装置31の配置は、図5Aに示す初期状態に戻る。基板Sの表面処理は上述の第1工程~第4工程で1つのサイクルを形成し、各基板S1~S4の表面処理が完了するまで、表面処理機1にて当該サイクルを繰り返す。
【0052】
このように、本実施形態の給電装置31を用いることで、表面処理において基板Sに電圧を印加する必要がある場合、つまり基板Sが領域R2又はR4に位置する場合のみに、当該基板Sを保持するホルダHに選択的に給電し、当該基板Sに選択的に電圧を印加することができる。一方、表面処理において基板Sに電圧を印加する必要がない場合、つまり基板Sが領域R1又はR3に位置する場合には、本実施形態の給電装置31は、当該基板Sを保持するホルダHについて、選択的に非給電とすることができる。その結果、ホルダH1~H4の全てに一様に給電する場合と比較して、より少ない電力で基板Sに対し同様の表面処理の効果を得ることができる。
【0053】
[第2実施形態]
図6は、本発明に係る給電装置31を含む表面処理機1の第2実施形態を示す正面図である。第1実施形態の表面処理機1と異なり、第2実施形態の表面処理機1は、回転体22の上部221が回転ドラムではなく平板であり、ホルダHは、回転体22の上部の上面に設けられている。図6のホルダHは凹部であり、凹部の上に基板Sを載置できるようになっている。ただし、ホルダHは凹部に限られず、たとえば回転体22の上部の上面に少なくとも1つのピンを設けて、当該ピンにより基板Sを支持してもよいし、回転体22の上部の上面に設けた少なくとも1つのクランプなどを用いて基板Sを把持してもよい。
【0054】
また、第1実施形態の表面処理機1では、プラズマ発生装置11及びスパッタリング装置12、13は筐体21の側面に配置されていたが、第2実施形態の表面処理機1では、これらの装置は、筐体21の上面に配置されている。それぞれの装置からは鉛直方向に仕切り壁211が延びており、プラズマ発生装置11を用いた洗浄処理、及びスパッタリング装置12、13を用いた薄膜形成処理が、他の装置の処理に影響を及ぼさないようになっている。ここで、第1実施形態では、スパッタリング装置13による薄膜形成処理はバイアススパッタ方式であったが、第2実施形態では、スパッタリング装置13による薄膜形成処理において、基板Sにバイアス電圧を印加しない。
【0055】
加えて、給電装置31と電源32との接続箇所は、接点Pの1点のみとなっている。接点Pにおける給電装置31と電源32との電気的な接続には、非接触給電方式を用いる。非接触給電の方式は特に限定されず、基板Sに、洗浄処理又は薄膜形成処理といった表面処理に必要な電圧を印加できる適宜の方式を用いることができる。非接触給電により、給電装置31とブラシ34との接触による摩耗紛の発生を抑制することができる。さらに、第1実施形態の表面処理機1では、回転体22は、シャフト42を介して間接的に駆動装置41に直接取り付けられていたが、第2実施形態の表面処理機1にはシャフト42が存在せず、回転体22の下部222からさらに垂下する軸状の軸部223により、回転体22が駆動装置41に直接取り付けられている。
【0056】
図7は、図6に示す表面処理機1の平面図である。図7に示すように、回転体22の上部221は平面視で円形とされ、反時計回りに、H1~H8の8個のホルダHを備えている。基板Sの表面処理に用いるプラズマ発生装置11及びスパッタリング装置12、13は、図7にて破線で示されており、破線の枠11内に含まれている基板Sに対して洗浄処理が、破線の枠12又は13内に含まれている基板Sに対して薄膜形成処理が行われる。たとえば、図7においてホルダH1~H8のそれぞれに基板S1~S8が保持されていたとすると、破線の枠11内に含まれている基板S8に対して、ホルダH8を介してバイアス電圧が印加され、プラズマ発生装置11により生じたプラズマの粒子を入射させて、基板S8の表面を洗浄する。また、破線の枠12内に含まれている基板S6、及び破線の枠13内に含まれている基板S4に対して、それぞれ、スパッタリング装置12、13による薄膜形成処理が行われる。
【0057】
第2実施形態の表面処理機1では、回転体22を、点Cを中心に矢印Dの方向(つまり時計回りの方向)に回転させることで、複数の基板S1~S8について、基板S1→S2→S3→S4→S5→S6→S7→S8の順で、順次洗浄処理と薄膜形成処理を行う。回転体22の回転には、駆動装置41(図6に図示)を用いる。薄膜形成処理が完了した基板Sは、筐体21の側壁面に設けられた開口部O(図2に端部E1及びE2を示す)から取り出す。そして、空になったホルダHに、表面処理が完了した基板Sの代わりに、また表面処理がされてない基板Sを載置する。こうすることで、連続的に基板Sの表面処理を行うことができる。なお、筐体21は、開口部Oを通じて、図示していないロードロック室などの気密を維持できる設備と連通し、これにより、基板Sを筐体21から取り出す際にも、筐体21内の真空雰囲気は維持される。
【0058】
図8は、図6に示す給電装置31の平面図である。図6に示す給電装置31は、平面視したときに円形の形状であり、複数の導体312として、導体312a~312hの8個の導体を有し、それらが反時計回りに、円周方向に等配8点で配置されている。導体312a~312hは、絶縁体311により互いに絶縁されている。また、導体312a~312hにはそれぞれ導線33a~33hが電気的に接続されており、これによりホルダHへ電力を供給し、基板Sにバイアス電圧を印加することができる。図8の給電装置では、導体312aは導線33aを介してホルダH1と、導体312bは導線33bを介してホルダH2と、導体312cは導線33cを介してホルダH3と、導体312dは導線33dを介してホルダH4と、導体312eは導線33eを介してホルダH5と、導体312fは導線33fを介してホルダH6と、導体312gは導線33gを介してホルダH7と、そして導体312hは導線33hを介してホルダH8と接続し、複数の導体312の数が複数のホルダHの数と等しく、それらが一対一で接続している。なお、ホルダHの数と導体312の数は異なっていてもよく、一つの導体312に対して複数のホルダHが接続されていてもよい。また、一部のホルダHは導体312と接続していなくてもよく、この場合には、導体312と接続していないホルダHに保持された基板Sには、電圧が印加されない。
【0059】
給電装置31は、回転体22の軸部223に取り付けられており、回転体22が点Cを中心に矢印Dの方向に回転すると、回転体22と共に回転する。給電装置31が回転する際には、導体312に接続している導線33も共に回転する。これに対して、電源32及び接点Pは回転体22と分離しており、給電装置31と共に回転することはない。そのため、給電装置31が矢印Dの方向に回転するにつれて、接点Pは、導体312a→絶縁体311→導体312b→絶縁体311→導体312c→絶縁体311→導体312d→絶縁体311→導体312e→絶縁体311→導体312f→絶縁体311→導体312g→絶縁体311→導体312h→絶縁体311→導体312a→絶縁体311→導体312b→・・・の順に、絶縁体311と複数の導体312とに順次接触することになる。
【0060】
このように、回転体22の回転方向における給電装置31の位置と共に、接点Pと接触する導体312が切り替わることで、給電装置31は、給電するホルダH、さらにはバイアス電圧を印加する基板Sを切り替えることができる。図8に示す給電装置31の場合は、導体312とホルダHとの対応関係に鑑みて、給電装置31が矢印Dの方向に回転するにつれて、ホルダH1→H2→H3→H4→H5→H6→H7→H8→H1→H2→・・・の順に給電するホルダHが切り替わる。また、複数の導体312を絶縁体311で互いに絶縁することで、たとえば導体312aが接点Pを介して電源32と接続している間は、他の導体312b~312hと電源32が接続することはなく、電源32と接続したホルダH及び基板Sのみに対して給電することができる。さらに、接点Pは、導体312と接触しない間は絶縁体311と接触しているので、ホルダHが不必要に電源32と接続して給電状態とならない。
【0061】
ここで、上述のとおり、図7に示す破線の枠11に含まれている基板Sについて洗浄処理が行われるところ、たとえば、図7に示すホルダH1の回転方向Dにおける位置と、図8に示す導体312aの回転方向Dにおける位置とが対応していれば、基板S1に洗浄処理を行う間、基板S1にバイアス電圧を印加することができる。さらに、導体312a~312hは互いに絶縁体311で絶縁されているため、基板S1にバイアス電圧を印加している間、他の基板S2~S8には電圧が印加されていない。つまり、回転方向Dにおいて、基板S1に洗浄処理が行われる位置と、基板S1を保持しているホルダH1の位置と、ホルダH1と接続している導体312aが接点Pと接する位置を対応させれば、本実施形態の給電装置31を用いることで、洗浄処理を行う基板S1に対して選択的に電圧を印加することができる。これは、他の導体312b~312h及びホルダH2~H8についても同様である。
【0062】
また、第1実施形態に係る給電装置31と同様に、第2実施形態に係る給電装置31では、回転体22の回転速度と、給電装置31の導体312の外周部の長さL1とを調整することで、ホルダHに給電する時間を制御することができる。図8の給電装置31であれば、給電装置31の外周部の全周長さをLとし、導体33aの外周部の端部Aを回転位置の始点とすると、端部Aから始まる回転位置0~Lの間において、L1a~L1hの位置(つまり外周部L1a~L1hの長さ)を調整することで、ホルダHに給電する時間を制御することができる。またこれに代えて、第2実施形態に係る給電装置31では、回転体22の回転速度と角度θ1とを調整することで、ホルダHに給電する時間を制御することができる。図8の給電装置31であれば、導体33aの外周部の端部Aを回転位置の始点とすると、端部Aから始まる回転角度0°~360°の間において、導体312a~312hの各外周部の両端と回転体22の回転中心Cとが成す、回転体22の回転方向Dの角度θ1a~θ1hを調整することで、ホルダHに給電する時間を制御することができる。たとえば、ホルダH1に保持された基板S1について洗浄処理する場合に、設定された回転体22の回転速度と、洗浄処理に必要な時間とを用いて、ホルダH1に給電する時間と、基板S1の洗浄処理に要する時間とが等しくなるように、導体312aの外周部の長さL1a、又は角度θ1aを設定することができる。さらに、第1実施形態に係る給電装置31と同様に、導体312の外周部の長さL1a~L1h及び角度θ1a~θ1h、並びに絶縁体311の外周部長さL2a~L2h及び角度θ2a~θ2hを、表面処理機1で行う表面処理の工程、特に工程の数及びその所要時間に応じて適宜の長さとすることができる。
【0063】
[本発明の実施態様]
以上のとおり、本実施形態の給電装置31によれば、表面処理機1にて複数の基板Sに順次表面処理をする際に、基板Sに電力を供給する回転体22に直接又は間接的に取り付けられ、電源32から供給される電力を回転体22に保持された基板Sに供給し、回転体22の回転方向における回転位置によって、給電と非給電とを選択的に切り替えることができる。これにより、基板Sに電圧を印加して表面処理を行う場合に、当該表面処理を行う基板Sのみに選択的に電力を供給することができ、その結果として、表面処理を行わない基板S、及び電圧を印加しないで表面処理を行う基板Sにも一様に電力を供給する場合と比較して、より少ない電力で同様の表面処理を行うことができる。
【0064】
また、本実施形態の給電装置31によれば、非接触給電により、電源32から回転体22に電力を供給することができる。これにより、表面処理機1に給電のための配線を設置する必要がなくなる。さらに、給電装置31とブラシ34との接触による摩耗紛(ダスト)の発生を抑制することができ、装置を清浄に保つことができる。
【0065】
また、本実施形態の給電装置31によれば、絶縁体311及び複数の導体312を備え、複数の導体312は、回転体22の回転方向に沿って離散的に配置され、所定の回転位置で電源32と順次接続することができる。これにより、回転体22又はシャフト42の回転に伴い、電圧を印加する必要のある基板Sのみに選択的に電力を供給することができる。またこれに加えて、複数の導体312同士を絶縁体311で絶縁することで、導体312ごとに接続する電源32の種類を変えることもできる。
【0066】
また、本実施形態の給電装置31によれば、平面視したときに給電装置31の形状が円形であり、複数の導体312が外周部で電源32と接続し、前記外周部の両端と回転体の回転中心とが成す、回転体の回転方向の角度が、基板に表面処理をする時間と、基板に電力を供給する時間とが等しくなる角度とすることができる。これにより、基板Sへの不要な電力供給を回避することができる。
【0067】
また、本実施形態の給電装置31によれば、複数の導体312は、複数の電源32と順次接続することができる。表面処理ごとに電圧、電力、及び/又は周波数の異なる電源32を用いることで、表面処理ごとにバイアス電圧及び/又は供給電力を制御することができる。
【0068】
また、本実施形態の給電装置31を用いた表面処理機1によれば、少なくとも回転体22の一部を真空雰囲気に保持するための筐体21を備え、回転体22は、基板Sを保持し、電圧を印加するための複数のホルダHを備え、さらに、複数のホルダHと複数の導体312とを接続する複数の導線33を備えることができる。これにより、回転体22のホルダHに保持された基板Sに対して、真空雰囲気で表面処理を行うことができる。
【0069】
また、本実施形態の給電装置31を用いた表面処理機1によれば、導体312の数がホルダHの数と等しく、導体312がホルダHに一対一で接続している。これにより、回転体22又はシャフト42の回転に伴い、電圧を印加する必要のある基板Sのみに選択的に電力を供給することができる。
【符号の説明】
【0070】
1…表面処理機
11…プラズマ発生装置
12、13…スパッタリング装置
121、131…スパッタリングターゲット
122、132…バッキングプレート
21…筐体
211…仕切り壁
22…回転体
221…上部
222…下部
223…軸部
23…シール
31…給電装置
311…絶縁体
312、312a、312b、312c、312d、312e、312f、312g、312h…導体
32…電源
33、33a、33b、33c、33d、33e、33f、33g、33h…導線
34、34a、34b…ブラシ
35…絶縁体
41…駆動装置
42…シャフト
43…固定部
A…回転位置の始点
C…回転中心
D…回転方向
E1、E2…端部
H、H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8…ホルダ
L1、L1a、L1b、L1c、L1d、L1e、L1f、L1g、L1h…導体の外周部の長さ
L2a、L2b、L2c、L2d、L2e、L2f、L2g、L2h…絶縁体の外周部の長さ
O…開口部
P…接点
R1…第1領域
R2…第2領域
R3…第3領域
R4…第4領域
S、S1、S2、S3、S4、S5、S6、S7、S8…基板
α1、α2、α3、α4…回転角度
θ1a、θ1b、θ1c、θ1d、θ1e、θ1f、θ1g、θ1h…角度(導体)
θ2a、θ2b、θ2c、θ2d、θ2e、θ2f、θ2g、θ2h…角度(絶縁体)
θ3a、θ3b…角度(ブラシ)
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6
図7
図8