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特開2022-47972マイクロスコープ歯科診療システム、歯科診療用ドレープ装置及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047972
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】マイクロスコープ歯科診療システム、歯科診療用ドレープ装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 19/00 20060101AFI20220317BHJP
【FI】
A61C19/00 H
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020154048
(22)【出願日】2020-09-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行所:インターアクション株式会社 発行人:畑めぐみ 刊行物名:ミラーに頼らず実践できる! 直視メインのマイクロスコープ活用テクニック 119頁~121頁「緊急付録!!マイクロスコープ吸引ドレープシステム」 発行日:2020年7月27日 著者:長尾 大輔
(71)【出願人】
【識別番号】520356098
【氏名又は名称】長尾 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100079290
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100136375
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 弘実
(72)【発明者】
【氏名】長尾 大輔
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA01
4C052LL04
(57)【要約】
【課題】安定した施術空間を形成可能で、診療中に発生するエアロゾルの施術空間外への拡散を効果的に抑制可能なマイクロスコープ歯科診療システム及び歯科診療用ドレープ装置を提供する。
【解決手段】診療台1に仰臥している患者2の頭部から胸部まで覆う透明シート21と透明シート21を支えるフレーム30とを有し、患者と術者とを隔離する施術空間Sを形成し、かつ施術空間内側にマイクロスコープ10の対物レンズ部12が、外側に接眼レンズ部13が位置するようにマイクロスコープ10に装着され、診療によって発生したエアロゾルを施術空間S外に拡散しないように機能するドレープ装置20を備える。排気システムの排気管25の吸入口をドレープ装置20内の上部に配置している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
診療台に仰臥している患者の頭部から胸部まで覆う透明シートと前記透明シートを支えるフレームとを有し、患者と術者とを隔離する施術空間を形成し、かつ前記施術空間の内側にマイクロスコープの対物レンズ部が、外側に接眼レンズ部が位置するように前記マイクロスコープに装着され、診療によって発生したエアロゾルを前記施術空間外に拡散しないように機能するドレープ装置と、
前記施術空間からエアロゾルを排気する排気システムとを備え、
前記排気システムの排気管が前記ドレープ装置の上部から挿入されて前記施術空間内に開口していることを特徴とするマイクロスコープ歯科診療システム。
【請求項2】
透明シートと前記透明シートを支えるフレームとを有し、患者と術者とを隔離する施術空間を形成し、診療によって発生したエアロゾルを前記施術空間外に拡散しないように機能するマイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置であって、
前記フレームは、前記施術空間を形成する筒状フレーム部と、前記筒状フレーム部をマイクロスコープに装着するための装着部とを有し、
前記筒状フレーム部は、上段リング状フレーム部と、下段リング状フレーム部とを有することを特徴とするマイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置。
【請求項3】
前記筒状フレーム部は、前記上段リング状フレーム部と前記下段リング状フレーム部とを連結する複数の第1連結フレーム部を有することを特徴とする請求項2に記載のマイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置。
【請求項4】
前記第1連結フレーム部は、中間部で切り離し可能であることを特徴とする請求項3に記載のマイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置。
【請求項5】
前記装着部は、ギャップ付リング状フレーム部を有し、前記ギャップ付リング状フレーム部の長さはマイクロスコープの被装着部分の周囲長に適合したサイズであることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか一項に記載のマイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置。
【請求項6】
前記ギャップ付リング状フレーム部は伸縮性を有し、両端部に相互に着脱可能な係合部材を備えていることを特徴とする請求項5に記載のマイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置。
【請求項7】
前記筒状フレーム部は、前記ギャップ付リング状フレーム部と前記上段リング状フレーム部とを連結する複数の第2連結フレーム部を有することを特徴とする請求項5又は6に記載のマイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置。
【請求項8】
前記下段リング状フレーム部は前記上段リング状フレーム部に向かって凹んだ凹部を有することを特徴とする請求項2乃至7のいずれか一項に記載のマイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置。
【請求項9】
前記フレームは前記透明シートの外側に位置している請求項2から8のいずれか一項に記載のマイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置。
【請求項10】
前記装着部の内側から前記施術空間内に挿入されて前記施術空間内に開口する排気管を更に備えることを特徴とする請求項2から9のいずれか一項に記載のマイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置。
【請求項11】
マイクロスコープの被装着部分の周囲長に適合したサイズの筒状又は柱状部材と、前記筒状又は柱状部材が内側となる配置の外側リング部と、前記外側リング部に複数設けられた挟持部品とを有するドレープ装置作製治具を用い、
上段リング状フレーム部及び下段リング状フレーム部を有する筒状フレーム部と、上段リング状フレーム部の内側のギャップ付リング状フレーム部とを有するフレームを裏返し状態にし、
前記ギャップ付リング状フレーム部を前記筒状又は柱状部材の外周に装着して裏返し状態の前記フレームを吊り下げて、前記フレームの外側に透明シートを被せるとともに前記透明シートの上部を前記挟持部品で挟持して前記透明シートを前記外側リング部から吊り下げた状態として、前記透明シートの少なくとも一部を前記上段リング状フレーム部に取り付けた後、
裏返し状態の前記フレームを本来の状態に戻して前記フレームを前記透明シートの外側に位置させることを特徴とする歯科診療用ドレープ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアロゾルの拡散を防止するためのマイクロスコープ歯科診療システム及びマイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロスコープを用いて行う手術において、ドレープでマイクロスコープを覆うと共に患者をも覆う感染症予防対策は従来から行われているが、新型コロナウイルスの感染拡大を防止する効果的方法として更に普及することが切望されている。
【0003】
特に、歯科診療では、エアタービン(歯を削る器具)や超音波スケーラ(歯石除去する器具)などを使用する性格上、唾液・血液・プラークが霧状になって空気中を舞うエアロゾルが発生する。そこで、ドレープでマイクロスコープを覆うと共に患者をも覆うことによってエアロゾル拡散防止を行うマイクロスコープ歯科診療システムが、日本顕微鏡歯科学会の2020年第1回Webセミナーでの「マイクロスコープを用いた感染予防対策について」と題する講演の動画で公開されている。ここでは、上記ドレープによるエアロゾル拡散防止対策の経緯、使用方法、及び作用効果が具体的に紹介されている。
【0004】
上記ドレープによるエアロゾル拡散防止対策は、マイクロスコープの鏡筒に透明ビニールシートからなるドレープの上部を装着し、そのドレープを患者の頭部と胸部付近まで垂らしてスカート状の施術空間を形成して、施術空間内に診療(治療)中に発生するエアロゾルを施術空間の外に拡散しないようにする方法である。この場合、ビニールシートをスカート状に形成するが、施術空間の形状とサイズがビニールシートの取り付けの仕方で変動するという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、その目的は、安定した施術空間を形成可能で、診療中に発生するエアロゾルの施術空間外への拡散を効果的に抑制可能なマイクロスコープ歯科診療システム及びマイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様はマイクロスコープ歯科診療システムである。このマイクロスコープ歯科診療システムは、診療台に仰臥している患者の頭部から胸部まで覆う透明シートと前記透明シートを支えるフレームとを有し、患者と術者とを隔離する施術空間を形成し、かつ前記施術空間の内側にマイクロスコープの対物レンズ部が、外側に接眼レンズ部が位置するように前記マイクロスコープに装着され、診療によって発生したエアロゾルを前記施術空間外に拡散しないように機能するドレープ装置と、
前記施術空間からエアロゾルを排気する排気システムとを備え、
前記排気システムの排気管が前記ドレープ装置の上部から挿入されて前記施術空間内に開口していることを特徴とする。
【0007】
本発明の第2の態様はマイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置である。このマイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置は、透明シートと前記透明シートを支えるフレームとを有し、患者と術者とを隔離する施術空間を形成し、診療によって発生したエアロゾルを前記施術空間外に拡散しないように機能する構成であって、
前記フレームは、前記施術空間を形成する筒状フレーム部と、前記筒状フレーム部をマイクロスコープに装着するための装着部とを有し、
前記筒状フレーム部は、上段リング状フレーム部と、下段リング状フレーム部とを有することを特徴とする。
【0008】
前記筒状フレーム部は、前記上段リング状フレーム部と前記下段リング状フレーム部とを連結する複数の第1連結フレーム部を有するとよい。
【0009】
前記第1連結フレーム部は、中間部で切り離し可能であるとよい。
【0010】
前記装着部は、ギャップ付リング状フレーム部を有し、前記ギャップ付リング状フレーム部の長さはマイクロスコープの被装着部分の周囲長に適合したサイズであるとよい。
【0011】
前記ギャップ付リング状フレーム部は伸縮性を有し、両端部に相互に着脱可能な係合部材を備えているとよい。
【0012】
前記筒状フレーム部は、前記ギャップ付リング状フレーム部と前記上段リング状フレーム部とを連結する複数の第2連結フレーム部を有するとよい。
【0013】
前記下段リング状フレーム部は前記上段リング状フレーム部に向かって凹んだ凹部を有するとよい。
【0014】
前記フレームは前記透明シートの外側に位置しているとよい。
【0015】
前記装着部の内側から前記施術空間内に挿入されて前記施術空間内に開口する排気管を更に備えるとよい。
【0016】
本発明の第3の態様はマイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置の製造方法である。このマイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置の製造方法は、
マイクロスコープの被装着部分の周囲長に適合したサイズの筒状又は柱状部材と、前記筒状又は柱状部材が内側となる配置の外側リング部と、前記外側リング部に複数設けられた挟持部品とを有するドレープ装置作製治具を用い、
上段リング状フレーム部及び下段リング状フレーム部を有する筒状フレーム部と、上段リング状フレーム部の内側のギャップ付リング状フレーム部とを有するフレームを裏返し状態にし、
前記ギャップ付リング状フレーム部を前記筒状又は柱状部材の外周に装着して裏返し状態の前記フレームを吊り下げて、前記フレームの外側に透明シートを被せるとともに前記透明シートの上部を前記挟持部品で挟持して前記透明シートを前記外側リング部から吊り下げた状態として、前記透明シートの少なくとも一部を前記上段リング状フレーム部に取り付けた後、
裏返し状態の前記フレームを本来の状態に戻して前記フレームを前記透明シートの外側に位置させることを特徴とする。
【0017】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法やシステムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、マイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置を用いて安定した施術空間を形成可能で、診療中に発生するエアロゾルの施術空間外への拡散を効果的に抑制可能である。また、ドレープ装置を効率的に製造可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係るマイクロスコープ歯科診療システム及びマイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置の実施の形態を示す概略斜視図。
図2】実施の形態において、マイクロスコープに装着していないときのマイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置であって装着部を上にした懸架状態の斜視図。
図3】前記マイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置のフレーム構成を示す斜視図。
図4】前記フレームと透明樹脂シートとの接触部分又は取付部分であって、(A)は前記フレームにおける装着部のギャップ付リング状フレーム部と透明樹脂シートとの接触部分、(B)は上段リング状フレーム部と透明樹脂シートとの取付部分、及び(C)は下段リング状フレーム部と透明樹脂シートとの取付部分をそれぞれ示す拡大断面図。
図5】実施の形態における、歯科診療用のマイクロスコープに対するフレキシブル排気管及び前記ギャップ付リング状フレーム部(透明樹脂シート省略)の取り付け状態であって、(A)は正面図、(B)は左側面図、(C)は右側面図。
図6】本発明に係るマイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置の製造方法において用いるドレープ装置作製治具としてのフレーム吊り下げ治具を示す斜視図。
図7】本来の状態のフレームを裏返して、フレーム吊り下げ治具に裏返し状態のフレームの装着部を装着して吊り下げた状態を示す斜視図。
図8図7の裏返し状態のフレームの外側に筒状の透明樹脂シートを被せて吊り下げ、上段リング状フレーム部に透明樹脂シートを取り付けた状態を示す斜視図。
図9】フレームへの透明樹脂シートの装着を示し、(A)は裏返し状態のフレームの上段リング状フレーム部への透明樹脂シートの取り付け、(B)は下段リング状フレーム部への透明樹脂シートの取り付け(フレームを本来の状態に戻して行う)をそれぞれ示す断面図。
図10】本発明に係るマイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置の他の実施の形態であって、第1連結フレーム部が中間部で切り離し可能なフレーム構成を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下において、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示である。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0021】
図1乃至図9を用いて本発明に係るマイクロスコープ歯科診療システム、マイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置及びその製造方法の実施の形態を説明する。図1に示すように、診療台1(例えばリクライニング式の歯科用診察椅子)はフラット状にセットされ、その上に患者2が仰臥している場合、歯科診療用のマイクロスコープ(顕微鏡)10は支持アーム15によって患者2の上方に支持されている。つまり、マイクロスコープ10は略L字状の鏡筒部11を有し、鏡筒部11下端部の対物レンズ部12が患者2の口腔の所定部位を観察可能な位置に支持される。鏡筒部11の反対側端部には術者が覗く接眼レンズ部13が設けられている。
【0022】
患者と術者とを隔離する施術空間Sを内部に形成するためのマイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置20は、その上端位置の装着部40においてマイクロスコープ10の被装着部分としての鏡筒部11(対物レンズ部側の鏡筒部の基部)に懸架(装着)されている。詳細は後述するが、ドレープ装置20は診療台1に仰臥している患者2の頭部から胸部まで覆う透明樹脂シート21とこれを支えるフレーム30とを有し、患者と術者とを隔離する施術空間S(釣鐘状乃至上部が閉じた筒状の空間)を形成し、診療によって発生したエアロゾルを施術空間外の周囲に拡散しないように機能する。マイクロスコープ10の接眼レンズ部13はドレープ装置20の外側、つまり施術空間外に位置する。
【0023】
排気システムは外径20mm、内径15mm程度のフレキシブル排気管25を有する。フレキシブル排気管25は診療室外から診療室内に引き込まれ、さらに支持アーム15の上縁に沿ってドレープ装置20の装着部40内側に下向きに挿入されている。つまり、フレキシブル排気管25の吸入口はドレープ装置20内に形成された施術空間Sの上部に開口している。排気システム稼働時は、フレキシブル排気管25は施術空間Sのエアロゾルを含んだ空気を吸入して外部(患者と術者が居る診療室の外)へ排気する。排気は、必要に応じてフィルタ処理や殺菌処理を行うとよい。
【0024】
施術空間Sからエアロゾルを排気する排気システムのフレキシブル排気管25は、支持アーム15及びマイクロスコープ10の鏡筒部11に沿って設けられている。図5(A)~(C)に示すように、フレキシブル排気管25は、その吸入口が施術空間Sの上部に開口するように、鏡筒部11の側面に貼り付けられた(接着された)止め具26で、下向きに保持、位置決めされる。
【0025】
図2はマイクロスコープ10に装着していないときのマイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置20であって装着部40を上にした懸架状態(立体状態)の斜視図、図3はドレープ装置20のフレーム構成を示す斜視図である。これらの図に示すように、ドレープ装置20は透明樹脂シート21とこれを筒状となるように支えるフレーム30とを有する。フレーム30は、施術空間Sを内部に形成するための筒状フレーム部31と、筒状フレーム部31をマイクロスコープ10の鏡筒部11に着脱可能に懸架(装着)する装着部40のギャップ付リング状フレーム部41(略C字状のフレーム部)とを有するハンガー型フレームである。
【0026】
筒状フレーム部31は、上段リング状フレーム部32と、これより大径の下段リング状フレーム部33と、上段リング状フレーム部32と下段リング状フレーム部33とを連結する複数(図示の場合は5個)の第1連結フレーム部35とを有する。上段リング状フレーム部32は所定の筒形状を維持するためのものであり、下段リング状フレーム部33は、図1のように患者2が診療台1上に仰臥している場合に、患者2の頭部から胸部までを囲むことができる形状であり、術者が診療のために施術空間内に手を差し入れたりする便宜上、柔軟性のある軟質樹脂チューブ等で構成されることが望ましい。また、図2のように、術者が手を差し入れるための凹部を形成するために下段リング状フレーム部33には上段リング状フレーム部32に向かって湾曲した凹部33a,33bが形成されている。例えば凹部33aは術者からみてドレープ装置20の右側に、凹部33bは左側にそれぞれ設けられる。上段リング状フレーム部32と下段リング状フレーム部33と第1連結フレーム部35は例えば細めの樹脂チューブを使用することができる。その場合、図3の上段リング状フレーム部32と第1連結フレーム部35との連結部Cには、製造過程を示す図7のように、T型継手37を用いることができ、T型継手37を回転支点としてフレーム30を容易に裏返すことが可能である(フレーム30の裏返しが必要な理由は製造方法の説明において後述する)。なお、図4(B)に示すように、上段リング状フレーム部32は略円形等の所望形状を保持可能なように樹脂チューブ32aの内側にステンレス針金等の芯材32bを通したものを使用できる。下段リング状フレーム部33と第1連結フレーム部35との連結部にもT型継手を使用できる。
【0027】
装着部40は、ある程度の伸縮性(可撓性又は柔軟性を併せ持つとよい)を有するギャップ付リング状フレーム部41を有し、図5(C)のようにギャップ付リング状フレーム部41の両端部に、相互に着脱可能な係合部材としてのカップリング42A,42B(例えばルアーロック)を備えている。ギャップ付リング状フレーム部41は、複数(図示の場合3個)の第2連結フレーム部43で上段リング状フレーム部32に連結されている。ギャップ付リング状フレーム部41の長さは、マイクロスコープ10の被装着部分である鏡筒部11の外周に適合したサイズ、つまり鏡筒部11の外周に略一致するサイズである。フレーム部41,43も細めの樹脂チューブを使用することができる。なお、上段リング状フレーム部32及びギャップ付リング状フレーム部41と、第2連結フレーム部43との連結部にもT型継手が使用可能である。
【0028】
フレーム30によって上側が絞られた筒状に保持される透明樹脂シート21は、薄くて柔らかい材質であり、筒状フレーム部31の外径に適合する筒形状のもの(例えばゴミ袋の底辺を切り開いたもの等)を用いても、平面状透明樹脂シートを筒状に丸めてテープ、接着剤で筒状に形成したものであってもよい。
【0029】
ドレープ装置20の製造方法を示す図6乃至図9を用いて、フレーム30に対する透明樹脂シート21の取り付け手順を以下に説明する。
【0030】
図6はドレープ装置20の製造で用いるフレーム吊り下げ治具50を示す斜視図であり、マイクロスコープ10の被装着部分としての鏡筒部11(対物レンズ部側の鏡筒部の基部)の周囲長に適合したサイズ(具体的には鏡筒部周囲長と略同じ周囲長)の筒状又は柱状部材51と、筒状又は柱状部材51が内側となる配置の外側リング部52と、所定高さに吊り下げ又は保持された外側リング部52に複数設けられた(吊り下げられた)挟持部品53とを有する。図示の場合は洗濯物干しを改造した例であって、外側リング部52と同心で一体の内側リング部55に設けられた挟持部品56で粘着テープ57が保持されており、粘着テープ57の下端部が筒状又は柱状部材51の外周面上部に粘着されている。この結果、筒状又は柱状部材51は外側リング部52よりも下方でかつ外側リング部52と略同心配置となるように内側リング部55から吊り下げられている。専用治具として筒状又は柱状部材51が外側リング部52に対して同心状に一体的に設けられた構造であってもよい。なお、筒状又は柱状部材51の下部51aはフレーム30の装着時の脱落を防止するために大径となっている。
【0031】
前述のように、フレーム30は、上段リング状フレーム部32及び下段リング状フレーム部33を有する筒状フレーム部31と、上段リング状フレーム部32の内側のギャップ付リング状フレーム部41とを有し、さらに第1連結フレーム部35及び第2連結フレーム部43を有している。このようなフレーム30に、透明樹脂シート21を設ける前に、まず図7のように、フレーム30上部の装着部40を筒状又は柱状部材51の外周に装着するのであるが、フレーム30を予め本来の状態から裏返した状態として筒状又は柱状部材51に装着する。つまり、フレーム30を裏返してからギャップ付リング状フレーム部41を筒状又は柱状部材51の外周部に巻き付けギャップ付リング状フレーム部41の両端部のカップリング42A,42B(図2等に図示)を連結する。これによって、裏返し状態のフレーム30の上部が筒状又は柱状部材51に装着されて、これから吊り下げられた状態となる。なお、フレーム30は上段リング状フレーム部32と第1連結フレーム部35との連結部CにT型継手37を用いており、T型継手37は図4(B)及び図9(A)の上段リング状フレーム部32の樹脂チューブ32aに接続されるが内側の芯材32bには接続されないから、容易に回転方向に捻ることが可能である。つまり、フレーム30は裏返し可能な構造となっている。
【0032】
次に図8のようにフレーム30の外側に透明樹脂シート21を被せて(透明樹脂シート21の内側に裏返しのフレーム30を入れて)、透明樹脂シート21の上縁部をフレーム吊り下げ治具50の複数の挟持部品53でそれぞれ挟持する。これによって、透明樹脂シート21及び裏返しのフレーム30がフレーム吊り下げ治具50で吊り下げられた状態となる。そして、図9(A)のように、透明樹脂シート21で上段リング状フレーム部32を囲むようにして透明樹脂シート21同士を挟んで加熱溶着する(例えば市販のシーラーを用いる)。
【0033】
その後、ギャップ付リング状フレーム部41を筒状又は柱状部材51から一旦外し、透明樹脂シート21の上部の余分な部分をギャップ付リング状フレーム部41の内側に入れ、裏返し状態にあったフレーム30を裏返して本来の状態に戻し(透明樹脂シート21の外側にフレーム30を位置させ)、再度ギャップ付リング状フレーム部41を筒状又は柱状部材51の外周部に巻き付けギャップ付リング状フレーム部41の両端部のカップリング42A,42B(図2等に図示)を連結する。このとき、透明樹脂シート21が筒状又は柱状部材51の外周部とギャップ付リング状フレーム部41との間に介在するようにする。その後、図2のように、下段リング状フレーム部33から下方に延在した透明樹脂シート21の長さを整えて適正寸法とする。このとき、下段リング状フレーム部33の凹部33aに対応する部分に透明樹脂シート21の切欠部21aが形成され、術者の右手を施術空間Sに入れる所となる。凹部33bに対応する部分には切欠部21bが形成され、アシスタントの手を施術空間Sに入れる所となる。さらに、切欠部21a,21bの中間位置に透明樹脂シート21の切欠部21cが一カ所形成され、術者の左手を施術空間Sに入れる所となる。透明樹脂シート21の長さを整えた後、図9(B)のように、透明樹脂シート21で下段リング状フレーム部33を囲むようにして透明樹脂シート21同士を挟んで加熱溶着する。下段リング状フレーム部33への透明樹脂シート21の取り付けを最後にすることで、透明樹脂シート21に皺が生じ難くなる。なお、第1連結フレーム部35及び第2連結フレーム部43と透明樹脂シート21との間の取り付け操作は不要である。また、上段リング状フレーム部32と、第1連結フレーム部35及び第2連結フレーム部43との連結部分には透明樹脂シート21の取り付け操作は不要であり、同様に下段リング状フレーム部33と第1連結フレーム部35との連結部分にも透明樹脂シート21の取り付け操作は不要である。
【0034】
その後、透明樹脂シート21を設けたフレーム30をフレーム吊り下げ治具50から外す(ギャップ付リング状フレーム部41の両端部のカップリング42A,42Bを外す)。これにより、フレーム30が透明樹脂シート21の外側に取り付けられ、透明樹脂シート21の下部の適切な位置に切欠部21a,21b,21cが形成されたドレープ装置20が得られる。
【0035】
完成状態のドレープ装置20では、図4(A)のように透明樹脂シート21の上部を外側からギャップ付リング状フレーム部41で絞り込み、同図(B)のように上段リング状フレーム部32を透明樹脂シート21で囲むように透明樹脂シート21同士を熱溶着し、同図(C)のように下段リング状フレーム部33を透明樹脂シート21で囲むように透明樹脂シート21同士を熱溶着した構成となる。つまり、ドレープ装置20の内側に形成される施術空間Sにフレーム30が露出しない構造となっている。
【0036】
ドレープ装置20のマイクロスコープ10の鏡筒部11(被装着部)への装着は、図5(A)~(C)(透明樹脂シート21の図示省略)のように鏡筒部11及びフレキシブル排気管25を囲むようにギャップ付リング状フレーム部41を設け、ギャップ付リング状フレーム部41の伸縮性を利用して伸ばした状態でカップリング42A,42Bを結合する。これにより、鏡筒部11及びフレキシブル排気管25はギャップ付リング状フレーム部41の縮む方向の力で締め付け保持される。さらに、ギャップ付リング状フレーム部41の落下を防止するために鏡筒部11の側面に貼り付けられた(接着された)止め具27でギャップ付リング状フレーム部41を保持する。これによって、ギャップ付リング状フレーム部41の内側に位置する透明樹脂シート21が、折り重なった状態で鏡筒部11及びフレキシブル排気管25を囲んで締め付け保持されることになり、ドレープ装置20の装着部40と、鏡筒部11及びフレキシブル排気管25間には殆ど隙間は生じない。
【0037】
以上の実施の形態の構成において、歯科診療前に診療台1に仰臥している患者2の頭部から胸部まで覆うように、図1のドレープ装置20をマイクロスコープ10の鏡筒部11の被装着部分に装着する{図5(A)~(C)}。これによって、ドレープ装置20の透明樹脂シート21の内側に釣鐘状乃至上部が閉じた筒状の施術空間Sを形成する。この際、施術空間Sは患者2と術者とを隔離するとともに、施術空間Sの内側にマイクロスコープ10の対物レンズ部12が、外側に接眼レンズ部13が位置するように設定する。
【0038】
マイクロスコープ10を用いた歯科診療によって発生したエアロゾルは、ドレープ装置20の内側に閉じ込められ、施術空間外への拡散が防止される。これとともに、診療中及び診療後しばらくは排気システムを作動させ、排気システムが有するフレキシブル排気管25の吸入口から、ドレープ装置20の内側である施術空間S内のエアゾルを含む空気を施術空間S上部から吸引して診療室外に排気する。これによって、診療中のエアゾルの飛散を確実に防止するとともに、次の患者のためにドレープ装置20を交換する際に、ドレープ装置20内のエアロゾルが診療室内に飛散することを無くすことができる。
【0039】
本実施の形態によれば、下記の効果を奏することができる。
【0040】
(1) ドレープ装置20によって患者2と術者とを隔離する施術空間Sを形成するとともに、施術空間内のエアロゾルを含む空気をフレキシブル排気管25を通して診療室外に排気することができる。これにより、診療中のエアロゾルの術者側への拡散を防止できるとともに、ドレープ装置20内部にエアロゾルが残留しないため、ドレープ装置20の交換の際にエアロゾルが飛散してしまうこともない。
【0041】
(2) ドレープ装置20は透明樹脂シート21と透明樹脂シート21を支えるフレーム30とを有し、フレーム30は、上段及び下段リング状フレーム部32,33を有する筒状フレーム部31と、筒状フレーム部31をマイクロスコープ10に装着するための装着部40とを有しており、常に安定した形状とサイズの施術空間Sを実現できる。
【0042】
(3) ドレープ装置20の装着部40が、相互に着脱可能なカップリング42A,42Bを両端部に有する伸縮性のギャップ付リング状フレーム部41を有し、ギャップ付リング状フレーム部41の長さがマイクロスコープ10の被装着部分の周囲長に適合したサイズに設定されているため、マイクロスコープ10に対するドレープ装置20の着脱が容易である(粘着テープ等の併用が必要無い)。また、マイクロスコープ10にドレープ装置20を装着したときには、透明樹脂シート21の内側に釣鐘状乃至上部が閉じた筒状の施術空間Sを形成可能である。なお、カップリング42A,42Bとして、例えばルアーロックのようなワンタッチで着脱可能なものを使用することで、ドレープ装置20のワンタッチ着脱も可能であり、ギャップ付リング状フレーム部41の伸縮性を利用して透明樹脂シート21を囲んで締め付け状態でマイクロスコープ10の被装着部分に取り付けることができるため、ドレープ装置20上部からのエアロゾルの漏出を防止できる。
【0043】
(4) 筒状フレーム部31の下段リング状フレーム部33は上段リング状フレーム部32に向かって凹んだ凹部33a,33bを有しているため、凹部33a,33bに対応する位置の透明樹脂シート21の切欠部21a,21b、さらに追加形成された切欠部21cを利用することで術者やアシスタントが腕を出し入れし易くなる。その他の筒状フレーム部31の下側部分は、上段リング状フレーム部32と下段リング状フレーム部33間の距離が患者2の頭部と胸部を充分覆うことが可能な長さに設定され、さらに透明樹脂シート21が下段リング状フレーム部33の下側に延在し、エアロゾルの漏れ出しを防いでいる。
【0044】
(5) フレーム30が透明樹脂シート21の外側に位置する構造(フレーム30が施術空間Sに露出しない構造)のドレープ装置20となっているため、フレーム30がエアロゾルで汚染されにくい。このため、透明樹脂シート21を交換することでフレーム30を繰り返し利用することが可能であり、フレーム30の消毒、滅菌、ウイルス除去作業も簡単になる。
【0045】
図10は、本発明に係るマイクロスコープ歯科診療用ドレープ装置の他の実施の形態であって、第1連結フレーム部35が中間部で切り離し可能なフレーム構成を示す斜視図である。この場合、上段リング状フレーム部32と、下段リング状フレーム部33とを連結する第1連結フレーム部35の中間位置には、相互に着脱可能なカップリング39A,39B(例えばルアーロック)が設けられている。その他のフレーム構成は図3と同様である。
【0046】
第1連結フレーム部35がカップリング39A,39Bによって中間位置において切り離し可能となっているため、フレーム30を第1連結フレーム部35の中間位置で切り離した状態で保管でき、積み重ね易い状態保管可能で、保管スペースの低減を図ることが可能である。また、エアゾルで汚染される可能性の高い第1連結フレーム部35の下側及び下段リング状フレーム部33をいっそう念入りに消毒、滅菌、ウイルス除去作業を施すことができる。
【0047】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスには請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。以下、変形例について触れる。
【0048】
実施の形態では、フレーム30の上端部に設ける装着部40として、ギャップ付リング状フレーム部41を設けたが、これを省略して透明樹脂シート21の上端縁部に引き剥がし容易な粘着テープ(両面粘着テープ等)を設けて装着部として、フレキシブル排気管25と共にマイクロスコープ10の鏡筒部を囲むように貼り付けてもよい。
【0049】
実施の形態におけるフレーム30の材質は樹脂、金属等を使用でき、とくに材質は問わない。
【符号の説明】
【0050】
1 診療台、2 患者、10 マイクロスコープ、11 鏡筒部、12 対物レンズ部、13 接眼レンズ部、20 ドレープ装置、21 透明樹脂シート、25 フレキシブル排気管、30 フレーム、31 筒状フレーム部、32 上段リング状フレーム部、
33 下段リング状フレーム部、33a,33b 凹部、35 第1連結フレーム部、
39A,39B,42A,42B カップリング、40 装着部、41 ギャップ付リング状フレーム部、43 第2連結フレーム部、50 フレーム吊り下げ治具、51 筒状又は柱状部材、52 外側リング部、53,56 挟持部品。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10