(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047979
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】導電性組成物およびそれを用いた導電体、積層構造体並びに電子部品
(51)【国際特許分類】
C08L 101/14 20060101AFI20220317BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20220317BHJP
C08L 53/00 20060101ALI20220317BHJP
H01B 1/20 20060101ALI20220317BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20220317BHJP
【FI】
C08L101/14
C08K3/01
C08L53/00
H01B1/20 A
B32B7/025
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020154058
(22)【出願日】2020-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】310024066
【氏名又は名称】太陽インキ製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(72)【発明者】
【氏名】山藤 征矢
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 直行
(72)【発明者】
【氏名】落合 真二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和也
(72)【発明者】
【氏名】荒井 康昭
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
5G301
【Fターム(参考)】
4F100AB24B
4F100AK01B
4F100AK21B
4F100AK23B
4F100AK25B
4F100AK42A
4F100AK46B
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4F100DE01B
4F100GB41
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4J002AA01W
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4J002HA05
4J002HA08
5G301DA03
5G301DA06
5G301DA10
5G301DA17
5G301DA18
5G301DA19
5G301DA24
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD02
5G301DD03
(57)【要約】
【課題】導電性組成物を固化させて導電体とした場合であっても水に溶解し、水洗浄により下地基材から容易に剥離可能であり、ウェアラブルデバイスに求められる導電性や伸縮性を兼ね備えた導電体を得ることができ、デバイス作製工程に求められる連続印刷性や加工性に優れた導電性組成物を提供する。
【解決手段】本発明の導電性組成物は、(A)水溶性熱可塑性樹脂、(B)ブロック共重合体、および(C)導電性粒子を少なくとも含んでなり、前記(B)ブロック共重合体は、前記(A)水溶性熱可塑性樹脂のSP値に対して±5(J/cm3)1/2のSP値を有することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水溶性熱可塑性樹脂、(B)ブロック共重合体、および(C)導電性粒子を少なくとも含んでなり、
前記(B)ブロック共重合体は、前記(A)水溶性熱可塑性樹脂のSP値に対して±5(J/cm3)1/2のSP値を有することを特徴とする、導電性組成物。
【請求項2】
前記(B)ブロック共重合体が、ハードセグメントブロックとソフトセグメントブロックとを有する、請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項3】
前記(A)水溶性熱可塑性樹脂と(B)ブロック共重合体との割合が、質量基準において15:85~95:5の範囲である、請求項1または2に記載の導電性組成物。
【請求項4】
前記(A)水溶性熱可塑性樹脂が、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリオキサゾリン、およびポリアミドからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂であって、SP値が12(J/cm3)1/2以上、15(J/cm3)1/2以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性組成物。
【請求項5】
導電体の形成に使用される、請求項1~4のいずれか一項に記載の導電性組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の導電性組成物を固化させてなる、導電体。
【請求項7】
基材上に、請求項6に記載の導電体からなる層を設けてなる、積層構造体。
【請求項8】
請求項6に記載の導電体からなる層、または請求項7に記載の積層構造体を備えてなる、電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性組成物、および導電性組成物を固化させた導電体、該導電体の層を有する積層構造体、並びに該導電体または積層構造体を備えた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板等の電極等のパターン状の導電体を形成する材料として、有機バインダーに金属粉末を混合したペースト状の導電性組成物が用いられている。従来の導電性組成物によれば、パターン状に塗布した後に固化させることにより所望の導電体を形成することができるが、得られる導電体は一般的に高い硬度を有する。そのため、フレキシブルプリント配線板においては、固化した導電体が耐屈曲性を有するような導電性組成物が求められている。
【0003】
また、近年のウェアラブルデバイス分野の成長に伴い、導電体に伸縮性を付与することも求められている。特に、体との密着度が高いウェアラブルデバイスほど、高度な伸縮性が要求される。このような要求に対して、例えば、金属粉末を含有させる有機バインダーとしてエラストマーを用い、導電体に屈曲性だけでなく伸縮性を持たせた導電性組成物が提案されている(特許文献1等)。
【0004】
一方、ウェアラブルデバイスにおいては、配線や電極部分に使われる部材が高価であるため再利用することも試みられており、導電体を下地基材から簡易的に剥離し、回収する技術が求められている。導電体を下地基材から剥離する方法はコストや環境負荷の観点から水での洗浄が最も望ましいと考えられるが、特許文献1等において提案されている導電性組成物は水への溶解性を持たず、水による洗浄では下地基材から剥離することが困難であった。
【0005】
ところで、特許文献2には、スクリーン印刷にて電極を形成し得る導電性組成物において、導電性組成物が付着した印刷器具や容器等を水洗にて除去できるようにするため、バインダー樹脂として水溶性の熱硬化性樹脂を使用し、当該樹脂を溶解する水と二価のアルコール溶媒を併用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2015/005204号パンフレット
【特許文献2】特開平9―282937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の水溶性熱硬化性樹脂をバインダーとした導電性組成物では、得られる導電体の伸縮性が十分ではなく、ウェアラブルデバイスが伸縮した際に導電体が追従できず、クラックや抵抗値の著しい上昇が発生してしまう。また、水溶性熱硬化性樹脂をバインダーとした導電性組成物は、固化する前は水溶性であるものの、固化した状態(溶剤が揮発した状態)では水に溶解せず、導電体を下地基材から剥離することは困難であると考えられる。さらに、引用文献2に記載の導電性組成物では、水溶性熱硬化性樹脂を溶解させるための水が含まれているため、デバイス作製工程において組成物中の水が蒸発することで流動性が悪化し、連続印刷性や加工性が著しく低下してしまう。
【0008】
そのため、導電体(導電性組成物が固化したもの)であっても水に溶解し、水洗浄により導電体を下地基材から容易に剥離可能であり、ウェアラブルデバイスに求められる導電性や伸縮性を兼ね備えた導電体を得ることができ、デバイス作製工程に求められる連続印刷性や加工性に優れた導電性組成物が求められている。
【0009】
したがって、本発明の目的は、導電性組成物を固化させて導電体とした場合であっても水に溶解し、水洗浄により下地基材から容易に剥離可能であり、ウェアラブルデバイスに求められる導電性や伸縮性を兼ね備えた導電体を得ることができ、デバイス作製工程に求められる連続印刷性や加工性に優れた導電性組成物を提供することである。
【0010】
また、本発明の他の目的は、このような導電性組成物を固化させた導電体、該導電体の層を有する積層構造体、並びに該導電体または積層構造体を備えた電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、導電性組成物中のバインダー成分として、水溶性熱可塑性樹脂とブロック共重合体とを併用することにより、導電性組成物を固化させて導電体とした場合であっても水に溶解し、水洗浄により下地基材から容易に剥離可能であり、ウェアラブルデバイスに求められる導電性や伸縮性を兼ね備えた導電体を得ることができ、デバイス作製工程に求められる印刷性や加工性に優れた導電性組成物を実現できるとの知見を得た。本発明は係る知見に基づくものである。即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0012】
[1] (A)水溶性熱可塑性樹脂、(B)ブロック共重合体、および(C)導電性粒子を少なくとも含んでなり、
前記ブロック共重合体は、前記水溶性熱可塑性樹脂のSP値に対して±5(J/cm3)1/2のSP値を有することを特徴とする、導電性組成物。
[2] 前記(B)ブロック共重合体が、ハードセグメントブロックとソフトセグメントブロックとを有する、[1]に記載の導電性組成物。
[3]前記(A)水溶性熱可塑性樹脂と(B)ブロック共重合体との割合が、質量基準において15:85~95:5の範囲である、[1]または[2]に記載の導電性組成物。
[4]前記(A)水溶性熱可塑性樹脂が、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリオキサゾリン、およびポリアミドからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂であって、SP値が12(J/cm3)1/2以上、15(J/cm3)1/2以下である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の導電性組成物。
[5] 導電体の形成に使用される、[1]~[4]のいずれか一項に記載の導電性組成物。
[6] [1]~[5]のいずれか一項に記載の導電性組成物を固化させてなる、導電体。
[7] 基材上に、[6]に記載の導電体からなる層を設けてなる、積層構造体。
[8] [6]に記載の導電体からなる層、または[7]に記載の積層構造体を備えてなる、電子部品。
【発明の効果】
【0013】
本発明の導電性組成物によれば、バインダー成分として、(B)ブロック共重合体と(A)水溶性熱可塑性樹脂とを併用することにより、導電性組成物を固化させて導電体とした場合であっても水に溶解し、水洗浄により下地基材から容易に剥離可能であり、ウェアラブルデバイスに求められる導電性や伸縮性を兼ね備えた導電体を得ることができ、デバイス作製工程に求められる印刷性や加工性に優れた導電性組成物を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[導電性組成物]
本発明の導電性組成物は、(A)水溶性熱可塑性樹脂、(B)ブロック共重合体、(C)導電性粒子を含むことにより、水に溶解し下地基材から水での洗浄で容易に剥離可能で、導電性や伸縮性を兼ね備えた導電体等を得ることができる。(A)水溶性熱可塑性樹脂のSP値と近いSP値を有する(B)ブロック共重合体を併用することで、特に印刷性や加工性に優れた導電性組成物を得ることができるのは必ずしも明らかではないが、(A)水溶性熱可塑性樹脂と(B)ブロック共重合体の相溶性が良好であることによるものと推測される。
【0015】
本発明の導電性組成物によれば、上記のような特性を利用して、体外デバイス、体表デバイス、電子皮膚デバイス、体内デバイス等のウェアラブルデバイス用の導電体の形成に好適に用いることができ、デバイスを廃棄する際に配線や電極に使われる高価な導電体が水に溶解し下地基材から簡易的に剥離・回収することができる。以下、本発明の導電性組成物が含有する各成分について詳述する。
【0016】
<(A)水溶性熱可塑性樹脂>
本発明による導電性組成物に含まれる(A)水溶性熱可塑性樹脂は、室温において水溶性と熱可塑性を有する材料であれば特に制限なく使用することができ、例えば水溶性の熱可塑性樹脂、水溶性タンパク質、水溶性ブロック共重合体等を好適に使用することができる。
【0017】
(A)水溶性熱可塑性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリオキサゾリン、ポリアミド、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、セルロースエーテル、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、およびこれらの共重合体の何れでもよく、公知慣用のものを単独または二種以上を混合して用いることができる。
【0018】
上述した(A)水溶性熱可塑性樹脂のなかでも、ポリビニルピロリドンは、後記する(B)ブロック共重合体との相溶性や有機溶剤への溶解性が特に良いため、得られる導電性組成物の印刷性や加工性に優れ、また得られる導電体が伸縮性や水への溶解性に優れるため、好ましい。
【0019】
(A)水溶性熱可塑性樹脂は、市販品であってよい。市販品の例は、三菱ケミカル株式会社製ゴーセノール、株式会社クラレ製クラレポバール、エルバノール、住友精化株式会社製PEO(ポリエチレンオキサイド)、積水化学工業株式会社製エスレック、株式会社日本触媒製ポリビニルピロリドン(粉体製品)、ダイセルファインケム株式会社製CMC(カルボキシメチルセルロース)、HEC(ヒドロキシエチルセルロース)、東レ株式会社製AQナイロン(ペレット)などである。
【0020】
(A)水溶性熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、好ましくは20,000~400,000であり、より好ましくは50,000~300,000である。重量平均分子量が20,000以上であることで、目的とする強靭性および柔軟性の効果が得られる。また、重量平均分子量が400,000以下であることで、導電性組成物が良好な粘度を有し、より高い印刷性および加工性を達成できる。また、重量平均分子量が50,000以上である場合には、外部からの衝撃に対する緩和性において優れた効果が得られる。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定された標準ポリスチレン換算値を意味する。
【0021】
(A)水溶性熱可塑性樹脂のSP値は12(J/cm3)1/2以上、15(J/cm3)1/2以下であることが好ましい。(A)水溶性熱可塑性樹脂のSP値が12(J/cm3)1/2以上であることで導電体の水への溶解性が向上し、導電体が水洗浄で水に溶解し下地基材から剥離しやすくなる。また、(A)水溶性熱可塑性樹脂のSP値が15(J/cm3)1/2以下であることで有機溶剤への溶解性と(B)ブロック共重合体との相溶性が向上し、導電性組成物がデバイス作製プロセスへの適用が容易な印刷性と加工性を得ることができる。なお、SP値は、Polymer Engineeringand Science,Feburuary,1974,Vol.14,No.2,147~154Pに記載のFedors法によって計算される値であり、次式により算出することができる。
SP値=(△H/V)1/2
(式中、ΔHはモル蒸発熱(cal)を、Vはモル体積(cm3)を表す。)
【0022】
<(B)ブロック共重合体>
本発明による導電性組成物に含まれる(B)ブロック共重合体は、室温(25℃)においてゴム弾性を有するものをいう。なお、ゴム弾性とは、ゴム状物質に見られるような外力により変形を生じ外力を取り除くと元の形に戻る可逆的な変形が可能な性質を意味し、例えば、室温において伸張度20%で破断や塑性変形を生じないような性質をいうものとする。導電性組成物がこのような(B)ブロック共重合体を含むことにより、導電性組成物の固化物に伸縮性を付与することができる。ブロック共重合体として、室温においてゴム弾性を有するものであれば特に制限なく公知慣用のものを使用することができるが、ハードセグメントとソフトセグメントとのブロック共重合体を好適に使用することができる。ブロック共重合体は単独または二種以上を混合して用いることができる。
【0023】
上記したような(B)ブロック共重合体は、結晶性が低く分子間力が弱いため、他のゴムと比較してガラス転移温度(Tg)が低く、導電性粒子と混合した場合には柔軟で伸びがよく、(A)水溶性熱可塑性樹脂やアルコール等の高極性溶媒との相溶性がよく、好ましいといえる。そのため、(B)ブロック共重合体はウェアラブルデバイス用の導電体の形成に好適であり、導電性組成物を固化させて導電体とした場合であっても水に溶解し、水洗浄により下地基材から容易に剥離可能であり、ウェアラブルデバイスに求められる導電性や伸縮性を兼ね備えた導電体を得ることができる。特に、ハードセグメントとソフトセグメントとのブロック共重合体がより好適である。なお、本明細書において、「ハードセグメント」とはガラス転移温度(Tg)が30℃以上のものをいい、「ソフトセグメント」とはTgが0℃以下のものをいう。Tgは、JIS K7121の規定に準拠して始点法により測定された値とする。
但し、昇温速度や温度については、40℃以上で観測されるTgは、具体的には、示差走査熱量計(DSC-6100、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを25℃から毎分10℃の昇温速度で200℃まで昇温を複数回繰り返すことで安定させたDSC曲線から得られる。なお、リファレンスにはα-アルミナを用いる。
また、40℃未満で観測されるTgは、示差走査熱量計(DSC-6100、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを-100℃から毎分20℃の昇温速度で100℃まで昇温を複数回繰り返すことで安定させたDSC曲線から得られる。なお、リファレンスは上記と同様にα-アルミナを用いる。
【0024】
このような(B)ブロック共重合体におけるハードセグメントとソフトセグメントとの比率は10:90~70:30の範囲であることが好ましい。この範囲内にあれば、導電性組成物を固化した導電体の伸縮時に断線が生じにくくなるため好ましい。より好ましくは、10:90~40:60である。
【0025】
上記した(B)ブロック共重合体は、ハードセグメントをXブロック、X´ブロック、ソフトセグメントをYブロック、Y´ブロックと表記すると、Xブロック-Yブロック型のジブロック共重合体や、Xブロック-Yブロック-Xブロック型、Xブロック-Yブロック-X´ブロック型、Yブロック-Xブロック-Yブロック型、Yブロック-Xブロック-Y´ブロック型のトリブロック共重合体などが挙げられるが、他の成分との相溶性や柔軟性に優れるといった観点からXブロック-Yブロック-Xブロック型のトリブロック共重合体であることが好ましい。
【0026】
ここで、(B)ブロック共重合体におけるハードセグメントとしては、メチル(メタ)アクリレート単位やスチレン単位などが挙げられる。また、ソフトセグメント単位としては、n-ブチルアクリレートやブタジエン単位などが挙げられる。(B)ブロック共重合体は、ポリメチル(メタ)アクリレート/ポリn-ブチル(メタ)アクリレート/ポリメチル(メタ)アクリレートのトリブロック共重合体であることが好ましい。このような(B)ブロック共重合体は(A)水溶性熱可塑性樹脂や高極性溶媒との相溶性に優れるため、得られる導電性組成物の流動性が良好で連続印刷性や加工性に優れる。(B)ブロック共重合体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本願明細書において(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよびメタクリレートを総称する用語であり、他の類似の表現についても同様である。
【0027】
(B)ブロック共重合体は、市販品であってよい。市販品の例は、アルケマ社製のリビング重合を用いて製造されるアクリル系トリブロックコポリマーである。具体的には、ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリメチルメタアクリレートに代表されるSBMタイプ、ポリメチルメタアクリレート-ポリブチルアクリレート-ポリメチルメタアクリレートに代表されるMAMタイプ、およびカルボン酸変性処理または親水基変性処理されたMAM NタイプまたはMAM Aタイプを使用することができる。SBMタイプの例は、アルケマ社製E41、E40、E21およびE20である。MAMタイプの例は、アルケマ社製M51、M52、M53およびM22である。MAM Nタイプの例は、52Nおよび22Nである。MAM Aタイプの例は、SM4032XM10である。市販品の別の例は、クラレ社製のクラリティである。このクラリティは、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸ブチルから誘導されるブロック共重合体である。
【0028】
上記のような(メタ)アクリレートポリマーブロックを含むブロック共重合体は、例えば、特表2007-516326号公報または特表2005-515281号公報に記載される方法により得ることができる。
【0029】
(B)ブロック共重合体の重量平均分子量は、好ましくは20,000~400,000であり、より好ましくは50,000~300,000である。重量平均分子量が20,000以上であることで、目的とする強靭性および柔軟性の効果が得られる。また、重量平均分子量が400,000以下であることで、導電性組成物が良好な粘度を有し、より高い印刷性および加工性を達成できる。また、重量平均分子量が50,000以上である場合には、外部からの衝撃に対する緩和性において優れた効果が得られる。
【0030】
(B)ブロック共重合体の、国際標準化機構の国際規格ISO 37:2017の測定方法による引っ張り破断伸び率は、好ましくは100~600%である。引っ張り破断伸び率が100~600%だと、導電体の伸縮性および電気抵抗の安定性により優れる。より好ましくは300~600%である。
引っ張り破断伸び率(%)=(破断点伸び(mm)-初期寸法mm)/(初期寸法mm)×100
【0031】
上記した(B)ブロック共重合体は、(A)水溶性熱可塑性樹脂のSP値に対して±5(J/cm3)1/2のSP値を有する必要がある。本発明においては、(B)ブロック共重合体が、(A)水溶性熱可塑性樹脂のSP値に対して±5(J/cm3)1/2のSP値を有していることで、導電性組成物を固化させて導電体とした場合であっても水に溶解し、水洗浄により下地基材から容易に剥離可能であり、ウェアラブルデバイスに求められる導電性や伸縮性を兼ね備えた導電体を得ることができ、デバイス作製工程に求められる印刷性や加工性に優れた導電性組成物とすることができる。(B)ブロック共重合体のSP値は、(A)水溶性熱可塑性樹脂のSP値に対して±3(J/cm3)1/2の範囲内であることが好ましい。より好ましいブロック共重合体のSP値は9(J/cm3)1/2以上、12(J/cm3)1/2未満である。ブロック共重合体のSP値が9(J/cm3)1/2以上、12(J/cm3)1/2未満であることで(B)ブロック共重合体と(A)水溶性熱可塑性樹脂および高極性有機溶剤との相溶性がより一層向上し、導電性組成物がデバイス作製プロセスへの適用が容易な流動性を得ることができる。なお、SP値は上記と同様にして算出することができる。
【0032】
なお、本発明の導電性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、(A)水溶性熱可塑性樹脂、(B)ブロック共重合体以外の非水溶性の熱可塑性樹脂等の他の有機バインダーを併用してもよい。
【0033】
また、(A)水溶性熱可塑性樹脂と(B)ブロック共重合体の質量比を15:85~95:5の割合とすることで、連続印刷性に優れる点において好ましい。より好ましくは、30:70~80:20である。
【0034】
また、(A)水溶性熱可塑性樹脂、(B)ブロック共重合体には、軟化剤、可塑剤等の公知の添加剤が含まれていてもよい。軟化剤としては、鉱物油系軟化剤と植物油系軟化剤が挙げられ、例えば、鉱物油系軟化剤として、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイルなどの各種オイルである。植物油系軟化剤としては、ひまし油、錦実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、パイン油、トール油等が挙げられる。可塑剤としてはカルボン酸エステル、リン酸エステル、アクリルポリマー、イオン液体などが挙げられ、これら軟化剤、可塑剤は単独あるいは二種以上を併用してもよい。軟化剤、可塑剤の添加量により、所望のゴム弾性や伸張性を調整することができる。
【0035】
<(C)導電性粒子>
本発明の導電性組成物に使用される(C)導電性粒子としては、導電性組成物に使用される従来公知の材料を使用することができ、例えば、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等の炭素粒子、銅粒子、ニッケル粒子、銀粒子等の金属粒子、WC、B4C、ZrC、NbC、MoC、TiC、TaC等の金属炭化物、TiN、ZrN、TaN等の金属窒化物、WSi2、MoSi2等の金属ケイ化物などが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。上記した(C)導電性粒子のなかでも、銀粒子やケッチェンブラックを好適に使用することができる。
【0036】
(C)導電性粒子における粒子の形状は、例えば球状、針状、楕円球状、フレーク状、鱗片状、不定形状等挙げられ、特に限定はされない。
【0037】
(C)導電性粒子として銀粉を使用する場合は、その平均一次粒子径が1.0μm以下、好ましくは0.1~1.0μmであり、みかけ空隙率が50~95%、好ましくは60~95%の銀粒子を使用することが好ましい。なお、銀粉の平均一次粒子径とは、粉体状態にある銀粉を走査型電子顕微鏡にて10,000倍の倍率で観察し、ランダムに10個の一次粒子を抽出し、その粒子径を測定した際のそれらの粒子径の平均値を意味する。また、銀粉のみかけ空隙率は、銀粉の一次粒子が連結して適度な空隙が存在する凝集構造(二次粒子)の状態を表す指標となるものであり、以下のようにして測定することができる。
すなわち、
銀の密度をρ0(g/cm3)とし、
質量M(g)の銀粉に、1kg重の荷重をかけたときの銀粉体積をV(cm3)とした場合に、みかけ密度ρ(g/cm3)は、
ρ=M/V
と定義され、みかけ密度から、下記式によりみかけ空隙率(P)を算出することができる。
P=(1-ρ/ρ0)×100
なお、銀の密度ρ0は10.49g/cm3であり、1kg重荷重時の銀粉体積Vは、荷重を付加してから1時間経過した後の銀粉体積とする。
【0038】
また、本発明において、銀粉の一次粒子の形状は略球状であることが好ましい。銀粉の一次粒子の形状は、略球状であるものに限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で略球状以外の形状の銀粉が含まれていてもよいことは言うまでもない。
【0039】
また、本発明において好適に使用できる銀粉は、JIS K 6217-4:2017に準拠して測定されたDBP吸油量が30~200ml/100gであることが好ましい。
【0040】
本発明において、(C)導電性粒子としてケッチェンブラックを使用する場合は、造膜性や、導電性、流動性、伸縮変形に対する電気抵抗値の安定性の観点から、みかけ空隙率が50~95%、好ましくは60~95%であり、DBP吸油量が300~600ml/100gであるものを好適に使用することができる。なお、ケッチェンブラックにおけるみかけ空隙率やDBP吸油量は、上述した銀粉における測定と同様の方法にて測定することができる。
【0041】
導電性組成物中における(C)導電性粒子の配合量は、導電性組成物の不揮発成分を基準として、5~90質量%の範囲とすることができる。より具体的には、(C)導電性粒子として銀粉を用いる場合の(C)導電性粒子の配合量は、導電性組成物の不揮発成分を基準として50~90質量%であることが好ましく、より好ましくは60~85質量%である。また、(C)導電性粒子としてケッチェンブラックを用いる場合の(C)導電性粒子の配合量は、導電性組成物の不揮発成分を基準として5~40質量%であることが好ましく、より好ましくは20~30質量%である。
【0042】
上記のような特徴の(C)導電性粒子を上記範囲の配合量とすることで、伸張前の初期電気抵抗値が低く、且つ伸張時にも電気抵抗値の安定性に優れた導電性を有し、容易に水洗浄で剥離可能な導電体を得ることができる。
【0043】
本発明においては、(C)導電性粒子と(A)水溶性熱可塑性樹脂や(B)ブロック共重合体との親和性を調整するため、表面処理された(C)導電性粒子や分散剤を使用してもよい。(C)導電性粒子の表面処理としては、分散剤を含む溶液中に(C)導電性粒子を投入して撹拌する湿式法や、(C)導電性粒子を撹拌しながら分散剤を含む溶液噴霧する乾式法などの方法が挙げられる。さらに、界面活性剤を併用して表面処理をしてもよい。また、分散剤を配合する方法としては、配合量や配合順序に特に制限はないが、配合量としては(C)導電性粒子に対して0.01~30質量%、配合順序としては(B)ブロック共重合体と分散剤とを混合した後に(C)導電性粒子を配合する方法が挙げられる。
【0044】
上記した表面処理や配合に使用する分散剤としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、(C)導電性粒子が銀粉である場合は、脂肪酸、有機金属、ゼラチン等の保護コロイドを用いることができるが、不純物混入のおそれや疎水基との吸着性の向上を考慮すると、脂肪酸またはその塩であることが好ましい。また、この分散剤としては、脂肪酸またはその塩を界面活性剤でエマルション化したものを用いてもよい。具体的には、炭素原子数6~24の脂肪酸であり、ステアリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、ラウリン酸、リノレン酸等をより好ましく使用することができる。これらの脂肪酸は、導電性組成物を用いた配線層や電極への悪影響が少ないと考えられる。上記した脂肪酸は、単独で使用してもよくまた複数を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
また、(C)導電性粒子がケッチェンブラックである場合は、分散剤として、酸性基または塩基性基またはその両方を有するリン酸エステルやアクリルコポリマー、ポリアミン、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアクリレートおよびそれらのリン酸塩、アルキルアンモニウム塩等を好適に使用することができる。上記した分散剤は、単独で使用してもよくまた複数を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
<その他の成分>
本発明の導電性組成物は、組成物の調整のため、または基板に塗布するための粘度調整のため、有機溶剤を使用することができる。
【0047】
このような有機溶剤としては、ケトン類、芳香族炭化水素類、グリコールエーテル類、グリコールエーテルアセテート類、エステル類、アルコール類、脂肪族炭化水素、石油系溶剤などが挙げることができる。より具体的には、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;セロソルブ、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールブチルエーテルアセテートなどのエステル類;エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、テルピネオール等のアルコール類;オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素;石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサ等の石油系溶剤などである。このような有機溶剤は、単独でまたは2種以上の混合物として用いられる。この中でも、バインダー樹脂の溶解性や塗布性、連続印刷性の観点より、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートやテルピネオールが好ましい。
【0048】
本発明に用いられる有機溶剤の沸点は150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましい。上記沸点の有機溶剤を用いることで、デバイス作製工程において、有機溶剤が揮発して導電性組成物の連続印刷性や加工性が低下することを防ぐことができる。
【0049】
本発明の導電性組成物は、熱硬化成分をさらに含んでよい。熱硬化成分の例は、硬化反応による分子量増加、架橋形成によりフィルム形成可能なポリエステル樹脂(ウレタン変性体、エポキシ変性体、アクリル変性体等)、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ビニル系樹脂、シリコーン樹脂およびブロックイソシアネートである。
【0050】
本発明の導電性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を含んでいてもよい。例えば、カップリング剤、光重合開始剤等の添加剤を含んでいてよい。
【0051】
本発明の導電性組成物は、例えば、溶剤に溶解した樹脂成分と上記した(C)導電性粒子とを混練することで製造することができる。混練方法としては、例えばロールミルといった撹拌混合装置を使用する方法が挙げられる。具体的には、樹脂成分を有機溶剤に溶解した固形分50質量%の樹脂溶液を調製し、この樹脂溶液に(C)導電性粒子を配合し、攪拌機にて予備撹拌混合した後、3本ロールミルにて混練することで、導電性組成物を得ることができる。使用する樹脂成分の種類や有機溶剤の配合割合によって、液状の導電性組成物としたり、ペースト状(半固形状)の導電性組成物としたりすることができる。
【0052】
本発明の導電性組成物は、粘度は特に制限はないが、100~5000dPa・sであることが好ましく、200~1000dPa・sであることがより好ましい。この粘度範囲にすることでデバイス作製プロセスに求められる印刷性や加工性に優れた導電性組成物とすることができる。
【0053】
本発明において、上述したような導電性組成物は、例えば基材上にパターン塗布し、熱処理を行うことで、導電体を形成することができる。この熱処理としては、乾燥処理や熱硬化処理などが挙げられる。
【0054】
このように、本発明の導電性組成物によれば、水に溶解し水洗浄で下地基材から剥離可能で伸縮性および電気抵抗の安定性に優れた導電体を得ることができる。
【0055】
<導電体および導電体層を備えた積層構造体ならびにその用途>
上述した導電性組成物は、固化させて導電体とすることができる。例えば、導電性組成物からなる塗布膜を形成し、乾燥、固化させることにより導電体の層とすることができる。導電性組成物の固化は、導電性組成物を乾燥または熱処理することで行われる。熱処理の例は、熱風乾燥または熱硬化である。熱処理に先立ち、成形を行ってもよい。例えば、導電体の層は、基材上に上記の導電性組成物を所望の形状となるように塗布した後、固化させることにより導電体の層を得ることができる。導電体の層は、使用される用途に応じた種々の形状であってよい。例えば、導体回路および配線などに好適に適用できる。
【0056】
導体回路を製造する場合、上記の導電性組成物を基材上に印刷または塗布して塗膜パターンを形成するパターン形成工程と、パターニングされた塗膜を固化させる工程とを含む。塗膜パターンの形成には、マスキング法またはレジストを用いる方法等を使用できる。
【0057】
パターン形成工程としては、印刷方法およびディスペンス方法が挙げられる。印刷方法としては、例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷等が挙げられ、微細な回路を形成する場合、スクリーン印刷が好ましい。また、大面積の塗布方法としては、グラビア印刷およびオフセット印刷が適している。ディスペンス方法とは、導電性組成物の塗布量をコントロールしてニードルから押し出しパターンを形成する方法であり、アース配線等の部分的なパターン形成や凹凸のある部分へのパターン形成に適している。
【0058】
導電性組成物を塗布する基材としては、電気絶縁性のものであれば特に制限なく使用することができ、紙-フェノール樹脂、紙-エポキシ樹脂、ガラス布-エポキシ樹脂、ガラス-ポリイミド、ガラス布/不織布-エポキシ樹脂、ガラス布/紙-エポキシ樹脂、合成繊維-エポキシ樹脂、フッ素樹脂・ポリエチレン・ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシド・シアネートエステル等の複合材を用いた全てのグレード(FR-4等)の銅張積層板、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドなどのプラスチックからなるシートまたはフィルム、ウレタン、シリコンゴム、アクリルゴム、ブタジエンゴムなどの架橋ゴムからなるシートまたはフィルム、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、スチレン系ブロックコポリマー系などの熱可塑性エラストマーからなるシートまたはフィルムなどが挙げられる。これらの中でも、屈曲性がある材料だけでなく、伸縮性を有する材料(例えば、ゴム、熱可塑性エラストマー、ウレタン等)を基材として用いることにより、後記するような用途に導電体を適用できるようになる。伸縮性を有する材料としては、上記した(B)ブロック共重合体と同様のものを使用することができる。
【0059】
<積層構造体>
上述した導電体は、複数の層を形成することで積層構造体とすることができる。積層構造体の形成方法に特に制限はないが、例えば導電性組成物を固化して得られる導電体を熱や圧力またはその両方によって張り合わせても良いし、導電体の上に導電性組成物を塗布したのち固化させても良い。積層構造体は金属層、絶縁層、保護層、接着層、粘着層、空隙層など上述した導電体以外の層を備えても良い。
【0060】
<電子部品>
上述した導電体や積層構造体を構成要素として電子部品を形成することができる。上述した導電体や積層構造体を構成要素とする電子部品であれば構造、形成方法、用途などに特に制限はないが、あえて用途を例示するとすればセンサー、アクチュエータ、コンデンサー、インダクター、トランジスタ、コンバータ、サーミスタ、コネクター、トランス、キャパシタ、ダイオード、レギュレーター、モーター、アンテナ、スイッチ等であり、これら複数の用途を併せ持つものでも良い。
【0061】
本発明による導電性組成物を固化させた導電体は、上記したように伸縮の繰り返しや伸ばした場合であっても、電気抵抗の安定性に優れているため、導体回路および配線以外にも、体外デバイス、体表デバイス、電子皮膚デバイス、体内デバイス等のウェアラブルデバイス用の導電体の形成に好適に用いることができる。また、導電体の層をフレキシブルプリント基板の電極に適用することもできる。さらに、本発明の導電性組成物は、アクチュエータ電極等の導電体の層を形成するのにも適している。また、形成した導電体は水に溶解し得るため、水洗浄により下地基材から剥離することができる。そのためデバイスを廃棄する際は高価な(C)導電性粒子を容易に回収することができ、経済合理的かつ環境負荷が少ない。また、従来は伸縮性や電気抵抗の安定性が足りずに実現が困難であったデザインの導電体の形成にも適している。例えば、以下のようなものが挙げられる。
【0062】
<ウェアラブル生体センサー>
人間を含めた動植物から発生する活動電位/生体情報を取得/伝達する為に身に着けるウェアラブル生体センサー用配線材料として、本発明の導電体を適用することができる。センサーの装着箇所は、人間を含めた動植物の表層組織に密着ないしは近接する場所であることが必須となるが、表層組織は伸び縮みが発生する。従来の硬質基板やフレキシブル基板では、伸び縮みする装着箇所への追従性が無く、センサーの装着箇所も限定的となり、結果として得られる生体情報も限られていた。本発明の導電体によれば、人間を含めた動植物の表層組織にもセンサー用配線材料を適用できるため、伸び縮みが発生する箇所にも装着可能なウェアラブル生体センサーとすることができる。
【0063】
ウェアラブル生体センサーに使う配線は、スクリーン印刷或いはディスペンス工法によって配線形成が可能であることから、信号配線の微細化も可能となり、センサーデバイスの小型化に寄与すると考えられる。
【0064】
<スマートテキスタイル用配線材料>
近年、布帛生地をセンサーとして用いるいわゆる「スマートテキスタイル」という分野広がりを見せつつある。本発明の導電体を用いて伸縮性があり熱圧着等が可能な基材上に配線形成を行なった配線板ないしセンサーは、伸縮時での電気抵抗の安定性に優れているため、伸縮性を持つ布帛生地の表面に貼りつけることで、エレクトロニクス・デバイスの機能を持った布帛生地、すなわちスマートテキスタイルの開発が可能となる。スマートテキスタイルとしては、感圧センサーやタッチセンサー、アンテナ配線等の機能を布帛生地に付与することができる。
【0065】
<3D造形成形品用配線>
従来のFIM(フィルム・インサート・モールド成型)工法による電子機器の筐体等向けのプラスチック成型品では、ポリカーボネート等のプラスチックフィルムをベース基材とし、意匠印刷の後、熱プレス加工したものが採用されている。本発明の導電体を伸縮性の基材上に設けた積層構造体からなる導体配線は伸長時の断線が無く、抵抗値変化が抑制されている特性を持つため、プラスチック成型品の意匠印刷時に導体配線を形成し、その後の熱プレス(部分的に伸びが発生)による成型加工を行なうことで3D形状の配線を内蔵したエレクトロニクス・デバイスを実現することができる。
【0066】
また、上記したような(B)ブロック共重合体等のような伸縮性の基材を用いて熱プレス加工を行なうことで、柔らかい筐体内に柔らかい配線を備えた伸縮変形可能なエレクトロニクス・デバイスを実現することができる。感圧センサーやタッチセンサー、またはアンテナ配線用等として好適に利用することができる。
【0067】
<伸縮変形可能な配線シートないし配線基板>
本発明の導電体の層を伸縮性の基材上に設けた積層構造体からなる導体配線は、伸縮変形可能な配線板シートとして利用することができる。例えば、このような導体配線を成型加工品などの立体的形状を持つ対象物の表面へ、配線の断線を発生させること無く、伸張ないし変形させながら対象物に貼りつけることが可能となる。したがって、本発明の導電体の層を伸縮性の基材上に設けた積層構造体は、感圧センサーやタッチセンサー、またはアンテナ配線用として好適に利用することができる。
【0068】
<フレキシブル配線シートないし配線基板>
従来の導電性ペーストを使ったフレキシブル配線シートないし配線基板では、爪折りという極端な折り曲げを行なった際、配線の断線が発生するという事象が発生する。この点本発明の導電体を使用した場合、伸び特性を持たせた導電材料であることから、これまでの導電ペーストでは対応仕切れなかった領域の折り曲げ性にも対応することができ、爪折り時でも、配線の断線は発生しないフレキシブル配線シートないし配線基板を実現することができる。
【実施例0069】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0070】
<(A)水溶性熱可塑性樹脂の準備>
導電性組成物を調製するための(A)水溶性熱可塑性樹脂として、以下の2種を準備した。
・樹脂A:ポリビニルピロリドン(株式会社日本触媒製 ポリビニルピロリドンK-30、SP値13(J/cm3)1/2、重量平均分子量100,000)
・樹脂B:ポリエチレンオキサイド(住友精化株式会社製 PEO-1、SP値13(J/cm3)1/2、重量平均分子量200,000)
各樹脂を日本テルペン株式会社製テルピネオールCまたは水に溶解させて、固形分33質量%となるように樹脂溶液を調製した。なお、各樹脂の重量平均分子量は、GPC法(ポリスチレン標準)により測定した。
また、比較のため水溶性熱硬化性樹脂(アイカ工業株式会社製 ショーノールBRL-149、SP値12(J/cm3)1/2)を準備した。
【0071】
<(B)ブロック共重合体の準備>
導電性組成物を調製するための(B)ブロック共重合体として、以下のものを準備した。
ブロック共重合体:アクリルブロック共重合体(アルケマ社製 M52、SP値10(J/cm3)1/2、重量平均分子量50,000)
上記ブロック共重合体をジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートに溶解させて、固形分50質量%となるように樹脂溶液を調製した。
また、比較のため、室温において非ブロック共重合体である非晶性ポリエステルポリオール(東洋紡株式会社製 バイロン-290、SP値11(J/cm3)1/2、重量平均分子量50,000、Tg=72℃)を準備した。なお、ブロック共重合体および非ブロック共重合体の重量平均分子量は、GPC法(ポリスチレン標準)により測定した。
【0072】
<SP値の算出>
なお、上記した樹脂A、B、水溶性熱硬化性樹脂、ブロック共重合体、および非晶性ポリエステルポリオールの各SP値は、Polymer Engineeringand Science,Feburuary,1974,Vol.14,No.2,147~154Pに記載のFedors法によって計算される値であり、次式により算出した。
SP値=(△H/V)1/2
(式中、ΔHはモル蒸発熱(cal)を、Vはモル体積(cm3)を表す。)
上記した(A)水溶性熱可塑性樹脂と(B)ブロック共重合体とのSP値の差の絶対値(ΔSP値)は、下記表1に示されるとおりであった。
【0073】
<(C)導電性粒子の準備>
導電性組成物を調製するための(C)導電性粒子として、以下の2種の導電性粒子を準備した。
導電性粒子A:銀粉(福田金属箔粉工業株式会社製 シルベストAgC-G、平均一次粒子径0.5μm、みかけ空隙率83%、DBP吸油量90ml/100g)
導電性粒子B:カーボンブラック(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製 EC300J、平均一次粒子径39.5μm、みかけ空隙率91%、DBP吸油量360ml/100g)
【0074】
なお、導電性粒子AおよびBの各平均一次粒子径は、を走査型電子顕微鏡にて10,000倍の倍率で観察し、ランダムに10個の一次粒子を抽出し、その粒子径を測定して得られた平均値を算出することにより求めた。また、みかけ空隙率は、導電性粒子Aの密度ρ0を10.49g/cm3、導電性粒子Bの密度を2.2g/cm3として、上記の式:P=(1-ρ/ρ0)×100から算出した。さらに、DBP吸油量は、JIS K 6217-4:2017に準拠して測定した。
【0075】
<導電性組成物の調製>
上記した(C)導電性粒子と各樹脂溶液とを、下記表1に示した組成に従って配合し、攪拌機にて予備撹拌混合した後、3本ロールミル(EXAKT社製、EXAKT50)を用いて、3本ロールミルの混練回数、回転速度、ロール間隔等の条件を変えて混練することで、実施形態に係る導電性組成物を得た。なお、表1中の配合量の数値は固形分換算での質量部を表す。
【0076】
<導電性組成物の評価>
(1)連続印刷性の測定
各導電性組成物を、PETフィルム基材(東レ株式会社製ルミラー)にスクリーン印刷で塗布した際、連続で印刷可能であった枚数を測定した。以下の評価基準に基づいて連続印刷性の評価を行った。
◎:100枚以上の連続印刷が可能
○:10枚以上、100枚未満の連続印刷が可能
×:樹脂成分の分離、版詰まり、導電性組成物はじきなどが起きて印刷不可
評価結果は表1に示されるとおりであった。
【0077】
(2)比抵抗の測定
各導電性組成物を、基材にスクリーン印刷で塗布し、80℃で30分間熱処理して導電体を得た。基材としては、PETフィルム(東レ株式会社製ルミラー)を使用した。得られた導電体の両端の抵抗値を4端子法で測定し、さらに線幅、線長および厚さを測定し、比抵抗(体積抵抗率)を求めた。測定結果は表1に示されるとおりであった。なお、導電性組成物がスクリーン版に弾かれる、印刷中に導電性組成物が乾燥スクリーン版の目詰まりを起こすなどの理由で導電体を形成できず測定できなかった場合は、※と記入した。
【0078】
(3)伸縮性の測定
各導電性組成物を、基材にスクリーン印刷で塗布し、80℃で30分間熱処理して、線幅1mm、厚さ20μm、長さ40mmの導電体を基材上に形成した。基材としては、弾性率が30MPaのウレタン基材(大倉工業株式会社製、ES85、厚さ100μm)を使用した。
導電体を形成した基材を5mm/秒の速度で20%の伸張度となるまで伸張した後、その状態で15秒保持し導電体の比抵抗(体積抵抗率)を測定し、以下の評価基準に基づいて、導電体の伸張時の導電性を評価した。
◎:20%伸張時の比抵抗が、初期値(非伸張時)に対して10倍以下
○:20%伸張時の比抵抗が、初期値(非伸張時)に対して10倍超100倍以下
×:20%伸張時の比抵抗が、初期値(非伸張時)に対して100倍超(断線を含む)
評価結果は表1に示されるとおりであった。なお、導電性組成物がスクリーン版に弾かれる、印刷中に導電性組成物が乾燥スクリーン版の目詰まりを起こすなどの理由で導電体を形成できず測定できなかった場合は、※と記入した。
【0079】
(4)水への溶解性の測定
各導電性組成物を、基材にスクリーン印刷で塗布し、80℃で30分間熱処理して導電体を得た。基材としては、PETフィルム(東レ株式会社製ルミラー)を使用した。得られた導電体を40℃水に30秒間浸漬し、変化の様子を目視にて観察した。以下の評価基準に基づいて、導電体の水への溶解性を評価した。
◎:導電体が自然に崩壊
○:試験後、指で触れると導電体が崩壊
×:試験後、指で触れても導電体保持
評価結果は表1に示されるとおりであった。なお、導電性組成物がスクリーン版に弾かれる、印刷中に導電性組成物が乾燥スクリーン版の目詰まりを起こすなどの理由で導電体を形成できず測定できなかった場合は、※と記入した。
【0080】
【0081】
表1に示す結果からも明らかなように、(A)水溶性熱可塑性樹脂と(B)ブロック共重合体と(C)導電性粒子とを含む導電性組成物(実施例1~6)は、水に溶解し下地基材から水での洗浄で容易に剥離可能で、ウェアラブルデバイスに求められる導電性や伸縮性を兼ね備える導電体を得ることができ、導電性組成物中の成分同士の相溶性が良好なため製造工程に求められる連続印刷性に優れることが分かる。
【0082】
一方、(B)ブロック共重合体に代えて非ブロック共重合体を使用した導電性組成物(比較例1)では、(A)水溶性熱可塑性樹脂と非ブロック共重合体との相溶性が低いと推測され、導電性組成物の調製に適さないことが分かる。また、バインダーとして(A)水溶性熱可塑性樹脂または(B)ブロック共重合体のいずれか一方のみを含む導電性組成物(比較例2および3)では、導電体の伸縮性と溶解性を両立させることができないことが分かる。また、(A)水溶性熱可塑性樹脂ではなく、水溶性熱硬化性樹脂を含む導電性組成物(比較例4)は、導電体の伸縮性と溶解性を得られないことが分かる。