(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022047985
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】抗微生物組成物および抗微生物基体
(51)【国際特許分類】
A01N 59/20 20060101AFI20220317BHJP
A01N 47/44 20060101ALI20220317BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20220317BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20220317BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
A01N59/20 Z
A01N47/44
A01N25/00 101
A01N25/02
A01P1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020154069
(22)【出願日】2020-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 友紀
(72)【発明者】
【氏名】横田 晃章
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA00
4H011AA03
4H011AA04
4H011BA04
4H011BB04
4H011BB18
4H011BB19
4H011BC19
4H011DA11
4H011DA13
4H011DC05
4H011DC10
4H011DH03
4H011DH05
4H011DH08
4H011DH18
(57)【要約】
【課題】 抗微生物性に優れるとともに、抗微生物(抗ウィルス)コートの硬化時間を短くすることができ、さらに塗布面の意匠性を損なうことがなく、樹脂をバインダーとして使用することが可能な抗微生物組成物を提供する。
【解決手段】 樹脂エマルジョンおよび/または水性樹脂からなるバインダー成分と水溶性の抗微生物剤と水とを含むことを特徴とする抗微生物組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂エマルジョンおよび/または水性樹脂からなるバインダー成分と水溶性の抗微生物剤と水とを含むことを特徴とする抗微生物組成物。
【請求項2】
前記バインダー成分は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂およびエポキシ系樹脂から選ばれる少なくとも1種以上の樹脂エマルジョンである請求項1に記載の抗微生物組成物。
【請求項3】
前記バインダー成分は、水性ウレタン系樹脂である請求項1または2に記載の抗微生物組成物。
【請求項4】
前記水溶性の抗微生物剤は、二価の銅化合物である請求項1~3のいずれか1に記載の抗微生物組成物。
【請求項5】
前記水溶性の抗微生物剤は、重合体ビグアニドである請求項1~3のいずれか1に記載の抗微生物組成物。
【請求項6】
前記抗微生物組成物中には、還元剤が含まれている請求項1~5のいずれか1に記載の抗微生物組成物。
【請求項7】
樹脂エマルジョンおよび/または水性樹脂からなる硬化したバインダー成分と水溶性の抗微生物剤とを含むことを特徴とする抗微生物基体。
【請求項8】
前記硬化したバインダー成分は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂およびエポキシ系樹脂から選ばれる少なくとも1種以上である請求項7に記載の抗微生物基体。
【請求項9】
前記硬化したバインダー成分は、水性ウレタン系樹脂である請求項7または8に記載の抗微生物基体。
【請求項10】
前記水溶性の抗微生物剤は、二価の銅化合物である請求項7~9のいずれか1に記載の抗微生物基体。
【請求項11】
前記水溶性の抗微生物剤は、重合体ビグアニドである請求項7~9のいずれか1に記載の抗微生物基体。
【請求項12】
前記抗微生物基体中には、還元剤が含まれている請求項7~11のいずれか1に記載の抗微生物基体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗微生物組成物および抗微生物基体に関し、特には抗ウィルス組成物および抗ウィルス基体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、病原体である種々の微生物を媒介とした感染症が短時間で急激に広がる、いわゆる「パンデミック」が問題になっており、SARS(重症急性呼吸器症候群)や、ノロウィルス、鳥インフルエンザ、コロナウィルス等のウィルス感染による死者も報告されている。
【0003】
そこで、様々なウィルスに対して、抗ウィルス効果を発揮する抗ウィルス剤の開発が活発に行われている。実際に様々な部材に、抗ウィルス効果のあるPd等の金属や有機化合物からなる抗ウィルス剤を含む樹脂等を塗布したり、抗ウィルス剤が担持された材料を含む部材を製造することが行われている。
【0004】
特許文献1には、基材表面に電磁波硬化型樹脂、銅化合物、光重合開始剤および分散媒からなる抗ウィルス組成物を付着させて、紫外線で硬化する抗ウィルス基体の製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、常温で硬化させる無機系抗菌剤が開示されている。
特許文献3には、(a)アクリル系樹脂エマルジョンと、(b)シリカ微粒子と、(c)抗菌剤粒子と、(d)水と、(e)顔料と、を少なくとも含んだ水性塗料組成物であって、前記(a)成分はC2からC7のアルキルアクリレート、C2からC7のアルキルメタクリレートから選択される少なくとも1種以上のモノマーを重合させたものであり、前記(b)成分の平均粒子径が50nm以下であり、前記(c)成分の平均粒子径が50nm以下であり、さらに前記(b)成分が全固形分の10~70重量%であり、前記(c)成分が抗菌金属担持光触媒粒子であり、該抗菌金属担持光触媒粒子の固形分が前記(b)成分に対して1~50重量%であることを特徴とする水性塗料組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2019/074121号
【特許文献2】特開2002-235017号公報
【特許文献3】特開2004-346202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の抗ウィルス基体の製造方法を実用化するためには、メタルハライド紫外線ランプを用いて硬化を行う必要がある。しかしながら、紫外線による硬化時間が長く、壁やドアノブなどに抗ウィルスコートを行うにあたり、作業時間が長くなってしまうという問題が見られた。
また、特許文献2は、無機系のバインダーを使用しており、樹脂製や金属製の部材に塗布した場合、熱膨張、収縮によりクラックが生じやすいという問題を有している。
さらに、特許文献3の抗菌剤では、抗菌剤粒子として光触媒粒子を含んでおり、光触媒粒子は樹脂エマルジョンと混合すると十分な抗菌、抗ウィルス性を発揮できないという問題を有している。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、抗微生物性に優れるとともに、抗微生物(抗ウィルス)コートの硬化時間を短くすることができ、さらに塗布面の意匠性を損なうことがなく、樹脂をバインダーとして使用することが可能な抗微生物組成物を提案することを目的とするものであり、抗微生物組成物の硬化物を基材表面へ固着させるための抗微生物組成物と、それにより得られる抗微生物基体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係る抗微生物組成物は、以下の通りである。
【0010】
(1)樹脂エマルジョンおよび/または水性樹脂からなるバインダー成分と水溶性の抗微生物剤と水とを含むことを特徴とする抗微生物組成物である。
上記抗微生物組成物によれば、この抗微生物組成物は、常温で硬化させることができ、施工性に優れている。
【0011】
(2)上記抗微生物組成物では、上記バインダー成分は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂およびエポキシ系樹脂から選ばれる少なくとも1種以上の樹脂エマルジョンであることが望ましい。
上記のアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂またはエポキシ系樹脂は、市販されており入手しやすく、また、耐候性や強度に優れているからである。
【0012】
(3)上記バインダー成分は、水性ウレタン系樹脂であることが望ましい。
上記水性ウレタン系樹脂は、市販されており入手しやすく、また耐候性や強度に優れているからである。
【0013】
(4)上記水溶性の抗微生物剤は、二価の銅化合物であることが望ましい。
上記二価の銅化合物は、水に対する溶解度が高いからである。
【0014】
(5)上記水溶性の抗微生物剤は、重合体ビグアニドであることが望ましい。
上記重合体ビグアニドは、人体に対する影響が少なく、抗菌、抗ウィルス活性に優れているからである。
【0015】
(6)上記抗微生物組成物中には、還元剤が含まれていることが望ましい。
上記還元剤は、抗微生物剤が酸化して劣化することを防止できるからである。
【0016】
本発明に係る抗微生物基体は、以下の通りである。
(7)樹脂エマルジョンおよび/または水性樹脂からなる硬化したバインダー成分と水溶性の抗微生物剤とを含むことを特徴とする抗微生物基体である。
本発明の抗微生物基体によれば、上記抗微生物剤は水溶性であり、上記樹脂エマルジョンや上記水性樹脂のマトリクス中に上記抗微生物剤が3次元網目状に分散して固定されるか、あるいは、水溶性の抗微生物剤がイオン、分子レベルでバインダー成分と均一混合されるため、高い抗微生物活性が得られるのである。また、水溶性の抗微生物剤は、光触媒粒子とは異なり、樹脂バインダー成分と混合しても失活しない。
【0017】
(8)上記の硬化したバインダー成分は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂およびエポキシ系樹脂から選ばれる少なくとも1種以上であることが望ましい。
上記のアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂またはエポキシ系樹脂は、市販されており入手しやすく、また、耐候性や強度に優れているからである。
【0018】
(9)上記の硬化したバインダー成分は、水性ウレタン系樹脂であるであることが好ましい。
上記の水性ウレタン系樹脂は、市販されており入手しやすく、また、耐候性や強度に優れているからである。
【0019】
(10)上記水溶性の抗微生物剤は、二価の銅化合物であることが好ましい。
上記の二価の銅化合物は、水に対する溶解度が高いからである。
【0020】
(11)上記水溶性の抗微生物剤は、重合体ビグアニドであることが好ましい。
上記重合体ビグアニドは、人体に対する影響が少なく、抗菌、抗ウィルス活性に優れているからである。
【0021】
(12)上記抗微生物基体中には、還元剤を含むことが好ましい。
上記還元剤は、抗微生物剤が酸化して劣化することを防止できるからである。
【0022】
上記(1)~(12)の態様における「抗微生物」とは、抗菌、抗カビ、抗ウィルスが挙げられるが、特に「抗ウィルス」であることが好ましい。本発明の抗微生物組成物及び抗微生物基体は、ウィルスを失活させる効果が特に優れているからである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、抗微生物性に優れるとともに、抗微生物(抗ウィルス)コートの硬化時間を短くすることができる抗微生物組成物、および、それにより得られる抗微生物基体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明における抗微生物基体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、抗微生物特性が要求される領域の写真であって、抗微生物組成物の硬化物が固着した領域と、抗微生物組成物の硬化物が固着せず基材が露出している領域が混在している状態を示す光学顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、抗微生物特性が要求される領域の写真であって、基材表面に抗微生物組成物の硬化物が島状に散在した状態を示す光学顕微鏡写真である。
【
図4】
図4は、比較例1で得られた抗微生物基体の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0025】
(発明の詳細な説明)
以下、本発明について説明する。なお、本発明の抗微生物組成物を基材の抗微生物活性が要求される領域に付着させて硬化させたもの(抗微生物組成物の硬化物)が本発明の抗微生物基体であるから、両者の構成は共通する。そのため、特に断らない限り、以下の抗微生物組成物および抗微生物基体に関する説明は両者に適用されるものとする。
【0026】
本発明の抗微生物組成物は、樹脂エマルジョンおよび/または水性樹脂からなるバインダー成分と水溶性の抗微生物剤と水とを含むことを特徴とする。
本発明の、樹脂エマルジョンおよび/または水性樹脂からなるバインダー成分と水溶性の抗微生物剤と水とを含む抗微生物組成物は、基材表面に付着させた後、20℃~100℃、特に常温で乾燥させることで硬化するため、紫外線硬化のような設備や機器が不要で施工性に優れている。
【0027】
上記抗微生物剤としては、水溶性の抗微生物剤を使用することが必要である。
水溶性の抗微生物剤を使用するため、水分散性の樹脂エマルジョンや水性樹脂中に溶解させることができ、硬化後も樹脂マトリクス中に3次元網目状に分散、もしくは、イオン、分子レベルで均一に分散させることができ、粒子状に凝集する場合や水に不溶性の粒子に比べて、抗微生物活性に優れる。また、水溶性の抗微生物剤は、樹脂バインダー成分と混合しても、抗微生物剤が3次元網目状に分散、もしくは、イオン、分子レベルで均一に分散しているため、樹脂バインダー表面から露出する確率が高く、光触媒粒子のように樹脂に被覆されて失活することがない。
水溶性の抗微生物剤としては、二価の銅化合物もしくは重合体ビグアニドが望ましい。高い抗菌、抗ウィルス活性を持ち、水に対する溶解度が高いからである。
【0028】
本発明における抗微生物組成物は、樹脂エマルジョンおよび/または水性樹脂からなるバインダー成分と水溶性の抗微生物剤と水とを含むので、上記抗微生物組成物を基材表面の抗微生物活性が要求される領域に付着させることにより、以下の(i)、(ii)の状態を基材表面の抗微生物活性が要求される領域に実現できる。
(i)抗微生物組成物の硬化物が固着形成された領域と、抗微生物組成物の硬化物が固着形成されていない領域が混在している状態(
図2参照)。
(ii)基材表面に抗微生物組成物の硬化物が島状に散在した状態(
図3参照)。
なお、上記のように、
図2は、抗微生物特性が要求される領域の写真であって、抗微生物組成物の硬化物が固着された領域と、抗微生物組成物の硬化物が固着せず基材が露出している領域が混在している状態を示す光学顕微鏡写真であり、
図3は、抗微生物特性が要求される領域の写真であって、基材表面に抗微生物組成物の硬化物が島状に散在した状態を示す光学顕微鏡写真である。
【0029】
本発明では、抗微生物組成物が付着した基材を乾燥し、抗微生物組成物を硬化させることにより、基材に対する透明性および基材との密着性に優れた島状の状態の抗微生物組成物の硬化物(抗微生物硬化物)、もしくは、抗微生物組成物の硬化物が固着形成された領域と、抗微生物組成物の硬化物が固着形成されていない領域とが混在している状態の抗微生物硬化物を、基材表面の抗微生物性が要求される領域に形成することができる。
【0030】
また、基材表面の抗微生物活性が要求される領域に、抗微生物組成物の硬化物が島状に散在して固着されている場合か、もしくは、基材表面の抗微生物活性が要求される領域に、抗微生物組成物の硬化物が固着形成された領域と、抗微生物組成物の硬化物が固着形成されていない領域とが混在している場合は、抗微生物組成物の硬化物の表面積が大きくなり、また、ウィルスなどの微生物を抗微生物組成物の硬化物の硬化物間にトラップさせやすくなる。そのため、抗微生物性能を持つ抗微生物組成物の硬化物と微生物との接触確率が高くなり、高い抗微生物性能を発現できる。
【0031】
また、本発明においては、抗微生物組成物を基材表面に連続した膜状に形成することもでき、耐摩耗性に優れ、清掃時の拭き取りでも抗微生物性能が低下しない抗微生物基体が得られる。
なお、上記した態様の抗微生物組成物の硬化物(抗微生物硬化物)が本発明の抗微生物基体である。
【0032】
本発明における抗微生物組成物では、上記抗微生物剤として、光触媒機能を持たない抗微生物剤を用いる。
【0033】
本発明においては、光触媒機能を持つ抗微生物剤は、樹脂バインダー成分を劣化させるおそれがあるため、抗微生物剤としては除外されることが望ましい。ここで、光触媒機能とは、光を吸収して触媒作用を示す機能を意味する。
【0034】
本発明において使用される水溶性の抗微生物剤としては、二価の銅化合物もしくは重合体ビグアニドが望ましい。
抗微生物剤として用いられる水溶性の二価の銅化合物としては、例えば、銅のカルボン酸塩、銅の水溶性無機塩等の銅化合物等が挙げられる。
【0035】
上記銅のカルボン酸塩としては、例えば、二価の銅のカルボン酸塩が挙げられる。具体的には、酢酸銅(II)、安息香酸銅(II)、フタル酸銅(II)等が挙げられる。なお、酢酸銅(II)等は、二価の銅化合物であることを示している。
【0036】
上記銅の水溶性無機塩としては、例えば、硝酸銅(II)、硫酸銅(II)等が挙げられる。
その他の銅化合物としては、二価の銅化合物が好ましく、例えば、銅(II)(メトキシド)、銅(II)エトキシド、銅(II)プロポキシド、銅(II)ブトキシド等が挙げられる。
上記二価の銅化合物は、抗微生物組成物の中に上記二価の銅化合物と還元剤とを添加した際、二価の銅化合物が一価に還元されることが可能なものが好ましい。
【0037】
本発明で使用される重合体ビグアニドは、ポリアルキレンビグアニド化合物であることが望ましく、下記式(1)で示されるものが好ましい。
【化1】
[式中、R
aは炭素数2~8のアルキレン基、nは2~18の整数を示す。]
【0038】
上記式(1)において、Raで示される炭素数2~8のアルキレン基には、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン(ヘキサメチレン)、ヘプチレン(ヘプタメチレン)、オクチレン(オクタメチレン)等の直鎖状のものの他、イソプロピレン、イソブチレン、イソペンチレン、ジメチルプロピレン、ジメチルブチレン等の分岐鎖状のものも含まれるが、直鎖状のアルキレン基が好ましい。
【0039】
また、ウィルス不活化効果の点からは、上記式(1)におけるRaは、炭素数4~8のアルキレン基が好ましく、ヘキサメチレン基が特に好ましい。なお、式(1)におけるnは2~18の整数であり、ウィルス不活化効果、取扱い性等を考慮すると、好ましくは10~14の整数であり、より好ましくは11~13の整数である。
【0040】
式(1)で示されるポリアルキレンビグアニド化合物は、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸との塩の形態、または、酢酸、乳酸、グルコン酸等の有機酸との塩の形態でも用いることができる。かかる塩の中では、塩酸塩、酢酸塩、グルコン酸塩が好ましく、塩酸塩が最も好ましく用いられる。
本発明の抗微生物組成物には、式(1)で示されるポリアルキレンビグアニド化合物およびその塩よりなる群から選ばれる、1種または2種以上を選択して用いることが望ましい。
【0041】
本発明の抗微生物組成物において、ポリアルキレンビグアニド化合物またはその塩としては、公知の方法、たとえば英国特許第702,268号等に記載された方法に従って製造したものを用いることができるが、市販の製品を用いてもよい。市販製品としては、「エクリンサイドBG」(理工協産社製)、「プロキセルIB」(ロンザジャパン社製)、「ロンザバックBG」(ロンザジャパン社製)等が挙げられる。
【0042】
本発明における抗微生物組成物中の抗微生物剤の含有割合は、抗微生物組成物の全重量に対して0.1~30.0重量%が好ましい。
また、「抗微生物剤」と「樹脂エマルジョンおよび/または水性樹脂」の比率は、固形分換算の重量比で「樹脂エマルジョンおよび/または水性樹脂」/「抗微生物剤」=70.0/30.0~99.9/0.1であることが望ましい。特に、「抗微生物剤」と「樹脂エマルジョンおよび/または水性樹脂」の比率は、固形分換算の重量比で「樹脂エマルジョンおよび/または水性樹脂」/「抗微生物剤」=86/5~76.0/3.6であることが好ましい。
【0043】
上記樹脂エマルジョンとしては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂およびエポキシ系樹脂から選ばれる少なくとも1種以上の樹脂エマルジョンが望ましい。上記した樹脂は、いずれも水に分散しているエマルジョンである。
【0044】
アクリル系樹脂エマルジョン:一般に水、(メタ)アクリル酸モノマー、界面活性剤、重合開始剤を主成分として重合する乳化重合を行うことにより製造されたものが挙げられる。通常の乳化重合法は水中に(メタ)アクリル酸モノマーを界面活性剤により乳化させ、この系に水溶性の重合開始剤を添加して行う。重合は界面活性剤により形成されるミセル内で進行する。市販品としては、ダイセル・オクネクス社製VIACRYL/アクリル、アクリルスチレンエマルジョンを使用できる。
【0045】
ウレタン系樹脂エマルジョン:市販品としては、ダイセル・オクネクス社製DAOTAN/ポリウレタンディスパージョンを使用できる。
【0046】
エポキシ系樹脂エマルジョン:市販品としては、ダイセル・オクネクス社製のBECKOPOX/エポキシエマルジョンを使用できる。特にBECKOPOX EM 2120w/45WAやBECKOPOX EP 2384w/57WAを好適に用いることができる。
【0047】
また、水性樹脂としては、水性ウレタン樹脂が望ましい。
ウレタン系樹脂の水性化は、本来疎水性のポリウレタン樹脂の親水性を向上させ、水分散させたものである。分散方法としては、強制乳化型と自己乳化型がある。
強制乳化型は、溶液中で重合したポリウレタンに界面活性剤を添加し水分散させた後、溶媒を除去する方法と末端NCOを有するプレポリマーを界面活性剤で水分散させた後、ジアミンで鎖延長するプレポリマー強制乳化法等がある。
自己乳化型は、ポリウレタン樹脂またはプレポリマーの構造内にイオン基を導入してアイオマー化し、水分散したタイプであり、イオン基の選択によりアニオン、カチオン、ノニオンと変えることが可能である。代表的な製法としては、アセトン法およびプレポリマーミキシング法がある。
市販品としては、サンデーペイント株式会社が販売する一液性の水性ウレタンを好適に使用できる。
【0048】
本発明における抗微生物組成物中のバインダー成分としての樹脂の含有割合は、抗微生物組成物の全重量に対して15~40重量%が好ましい。
【0049】
本発明における抗微生物組成物は、分散媒として水を含んでいることが必要である。上記分散媒である水中にバインダー成分である樹脂エマルジョンおよび/または水性樹脂が分散もしくは溶解し、かつ、水溶性の抗微生物剤も分散媒である水中に溶解するため、バインダー成分と抗微生物剤が良好に分散し、その結果、抗微生物剤が良好に分散した抗微生物組成物の硬化物を形成することができるからである。
【0050】
本発明における抗微生物組成物が分散媒である水を含む場合、水の含有割合は、抗微生物組成物の全重量に対して10~80重量%が好ましい。
【0051】
また、本発明における抗微生物組成物は、還元剤を含んでいてもよい。抗微生物剤の酸化を防止して、抗微生物活性を維持できるからである。特に抗微生物剤として二価の銅化合物を含有している場合は、銅化合物を一価の銅(銅(I))に還元することができるため、好適である。また、銅イオン(I)が酸化して抗微生物の劣る銅イオン(II)に変わることを抑制できる。一般に銅(I)の方が銅(II)よりも抗微生物活性が高く、銅が還元されることで抗微生物活性が改善される。
【0052】
上記還元剤としては、還元糖、ヒドラジン、酢酸鉄(II)、水素化ホウ素ナトリウム、亜硫酸塩などの還元剤を使用できる。還元糖としては、グルコース、フルクトース、グリセルアルデヒドなどの単糖、ラクトース、アラビノース、マルトースなどのマルトース型二糖・オリゴ糖などを使用できる。
また、樹脂エマルジョンまたは水性樹脂の硬化促進剤(重合開始剤や重合触媒)として還元剤が含まれていてもよい。
【0053】
本発明における抗微生物組成物が還元剤を含む場合、還元剤の含有量は、抗微生物組成物の全重量に対して0.1~20重量%であることが好ましい。
本発明における抗微生物組成物は、さらに界面活性剤を含んでいてもよい。抗微生物剤を均一に分散、溶解させることができるからである。界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(市販品は、第一工業製薬社製 商品名 ネオゲン)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(市販品は、花王社製 商品名 エマルゲン)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(市販品は、花王社製 商品名 レオドール)などを使用できる。
界面活性剤の含有量としては、抗微生物組成物の全重量に対して0.1~20重量%であることが好ましい。
【0054】
本発明における抗微生物基体は、樹脂エマルジョンおよび/または水性樹脂からなる硬化したバインダー成分と水溶性の抗微生物剤とを含むことを特徴とする。
図1は、基材表面に本発明の抗微生物基体が形成された抗微生物部材を模式的に示す断面図である。
本発明に係る抗微生物部材10では、基材11の表面に抗微生物基体12が形成されている。
【0055】
上記の抗微生物基体は、上記の抗微生物組成物を基材表面に付着させる付着工程、付着させた抗微生物組成物を乾燥および硬化させる硬化工程を経て、製造される。
【0056】
以下、本発明における抗微生物組成物および抗微生物基体について、上記抗微生物組成物を用いて抗微生物基体を製造する際の各工程を例にとって、工程毎に説明する。
【0057】
(1)付着工程
本発明における抗微生物基体を製造するには、まず、付着工程として、基材の表面に、樹脂エマルジョンおよび/または水性樹脂からなるバインダー成分と水溶性の抗微生物剤と水とを含む抗微生物組成物を付着せしめる。
【0058】
本発明における抗微生物基体に用いられる基材の材料は、特に限定されるものでなく、例えば、金属、ガラス等のセラミック、樹脂、繊維織物、木材等が挙げられる。基材表面は、プライマー層(例えば(株)染Qテクノロジィ社製、商品名:「ミッチャクロンTXF」など)が形成されて親水化処理されているか、コロナ放電処理、プラズマ処理等の処理が施されて親水化されていることが好ましい。抗微生物組成物の硬化物と基材との密着性を改善できるからである。
【0059】
また、本発明における抗微生物基体に使用される基材となる部材の具体例としては、タッチパネルの保護用フィルムやディスプレイ用のフィルム、デスクシートのようなフィルム状、シート状であってもよく、建築物内部の内装材、壁材、窓ガラス、手すり等が挙げられ、特に人間の手が触れる機会が多い部材が望ましい。また、ドアノブ、トイレのスライド鍵などでもよい。さらに事務機器や家具等であってもよく、上記内装材の外、種々の用途に用いられる化粧板等であってもよい。もちろん、衣服、布、紙などの繊維質基材であってもよい。フィルムやシートには、凹凸が形成されていてもよい。またはこれらの基材には、コート層が設けられていてもよい。
【0060】
本発明の抗微生物基体において、上記抗微生物剤は、水溶性の二価の銅化合物もしくは重合性ビグアニドであることが望ましい。
抗微生物剤として用いられる水溶性の二価の銅化合物としては、例えば、銅のカルボン酸塩、銅の水溶性無機塩等の銅化合物等が挙げられる。
【0061】
上記銅のカルボン酸塩としては、例えば、二価の銅のカルボン酸塩が挙げられる。具体的には、酢酸銅(II)、安息香酸銅(II)、フタル酸銅(II)等が挙げられる。
【0062】
上記銅の水溶性無機塩としては、例えば、硝酸銅(II)、硫酸銅(II)等が挙げられる。
その他の銅化合物としては、二価の銅化合物が好ましく、例えば、銅(II)(メトキシド)、銅(II)エトキシド、銅(II)プロポキシド、銅(II)ブトキシド等が挙げられる。
上記二価の銅化合物は、抗微生物組成物の中に上記二価の銅化合物と還元剤とを添加した際、二価の銅化合物が一価に還元されることが可能なものが好ましい。
【0063】
本発明で使用される重合体ビグアニドは、ポリアルキレンビグアニド化合物であることが望ましく、下記式(1)で示されるものが好ましい。
【化2】
[式中、R
aは炭素数2~8のアルキレン基、nは2~18の整数を示す。]
【0064】
上記式(1)において、Raで示される炭素数2~8のアルキレン基には、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン(ヘキサメチレン)、ヘプチレン(ヘプタメチレン)、オクチレン(オクタメチレン)等の直鎖状のものの他、イソプロピレン、イソブチレン、イソペンチレン、ジメチルプロピレン、ジメチルブチレン等の分岐鎖状のものも含まれるが、直鎖状のアルキレン基が好ましい。
【0065】
また、ウィルス不活化効果の点からは、上記式(1)におけるRaは、炭素数4~8のアルキレン基が好ましく、ヘキサメチレン基が特に好ましい。なお、式(1)におけるnは2~18の整数であり、ウィルス不活化効果、取扱い性等を考慮すると、好ましくは10~14の整数であり、より好ましくは11~13の整数である。
【0066】
式(1)で示されるポリアルキレンビグアニド化合物は、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸との塩の形態、または、酢酸、乳酸、グルコン酸等の有機酸との塩の形態でも用いることができる。かかる塩の中では、塩酸塩、酢酸塩、グルコン酸塩が好ましく、塩酸塩が最も好ましく用いられる。
本発明の抗微生物基体には、式(1)で示されるポリアルキレンビグアニド化合物およびその塩よりなる群から、1種または2種以上を選択して用いることが望ましい。
【0067】
本発明の抗微生物基体において、ポリアルキレンビグアニド化合物またはその塩としては、公知の方法、たとえば英国特許第702,268号等に記載された方法に従って製造したものを用いることができるが、市販の製品を用いてもよい。市販製品としては、「エクリンサイドBG」(理工協産社製)、「プロキセルIB」(ロンザジャパン社製)、「ロンザバックBG」(ロンザジャパン社製)等が挙げられる。
【0068】
本発明の抗微生物基体において、上記樹脂エマルジョンとしては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂およびエポキシ系樹脂から選ばれる少なくとも1種以上の樹脂エマルジョンが望ましい。樹脂エマルジョンについては、色材、77[4]、169-176(2004)に詳述されている。
【0069】
アクリル系樹脂エマルジョン:一般に水、(メタ)アクリル酸モノマー、界面活性剤、重合開始剤を主成分として重合する乳化重合を行うことにより製造されたものが挙げられる。通常の乳化重合法は水中に(メタ)アクリル酸モノマーを界面活性剤により乳化させ、この系に水溶性の重合開始剤を添加して行う。重合は界面活性剤により形成されるミセル内で進行する。具体的には特開2000-290539号公報の実施例に記載の方法でアクリル系樹脂エマルジョンを製造できる。市販品としては、ダイセル・オクネクス社製VIACRYL/アクリル、アクリルスチレンエマルジョンを使用できる。
【0070】
ウレタン系樹脂エマルジョン:特開2005-336372号公報の実施例に記載された方法でウレタン系樹脂エマルジョンを製造することができる。
また、市販品としては、ダイセル・オクネクス社製DAOTAN/ポリウレタンディスパージョンを使用できる。
【0071】
エポキシ系樹脂エマルジョン:特開2011-246608号公報の実施例に記載された方法や特開2001-114969号公報の実施例に記載された方法で、エポキシ系樹脂エマルジョンを製造することができる。
また、市販品としては、ダイセル・オクネクス社製BECKOPOX/エポキシエマルジョンを使用できる。特にBECKOPOX EM 2120w/45WAやBECKOPOX EP 2384w/57WAは好適に用いることができる。
【0072】
上記水系ウレタン樹脂の製造方法については、表面技術 Vol.68 No.1 2017 p43-p47や日本接着学会誌 Vol.40 No.6 2004 p257-p264に詳述されている。ウレタン系樹脂の水性化は、本来疎水性のポリウレタン樹脂の親水性を向上させ、水分散させたものである。分散方法としては、強制乳化型と自己乳化型がある。
強制乳化型は、溶液中で重合したポリウレタンに界面活性剤を添加し水分散させた後、溶媒を除去する方法と末端NCOを有するプレポリマーを界面活性剤で水分散させた後、ジアミンで鎖延長するプレポリマー強制乳化法等がある。
自己乳化型は、ポリウレタン樹脂またはプレポリマーの構造内にイオン基を導入してアイオマー化し、水分散したタイプであり、イオン基の選択によりアニオン、カチオン、ノニオンと変えることが可能である。代表的な製法としては、アセトン法およびプレポリマーミキシング法がある。
市販品としては、サンデーペイント株式会社が販売する一液性の水性ウレタンを好適に使用できる。
【0073】
上記分散媒としては水を用いる。水には必要に応じてアルコールを添加してもよい。例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール等のアルコール類が挙げられる。これらのアルコールのなかでは、粘度が高くなりにくいメチルアルコール、エチルアルコールが好ましく、アルコールと水との混合液が好ましい。
【0074】
本発明における抗微生物組成物、抗微生物基体では、さらに、還元剤を含んでいてもよい。上記還元剤としては、還元糖、ヒドラジン、酢酸鉄(II)、水素化ホウ素ナトリウム、亜硫酸塩などの還元剤を使用できる。還元糖としては、グルコース、フルクトース、グリセルアルデヒドなどの単糖、ラクトース、アラビノース、マルトースなどのマルトース型二糖・オリゴ糖などを使用できる。
また、樹脂エマルジョンまたは水性樹脂の硬化促進剤(重合開始剤や重合触媒)として還元剤が含まれていてもよい。
還元剤を含むことで、銅化合物(II)を抗ウィルス効果などの抗微生物効果を持つ銅イオン(I)に還元するとともに、銅イオン(I)が酸化して抗微生物の劣る銅イオン(II)に変わることを抑制できる。本発明における抗微生物組成物は、ウィルス、カビに最も効果的に作用する。
【0075】
本発明における抗微生物組成物、抗微生物基体では、さらに界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(市販品は、第一工業製薬社製 商品名 ネオゲン)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(市販品は、花王社製 商品名 エマルゲン)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(市販品は、花王社製 商品名 レオドール)などを使用できる。
【0076】
上記抗微生物組成物中の水溶性の抗微生物剤の含有割合は、抗微生物組成物の全重量に対して0.1~30.0重量%が好ましい。これにより過剰に抗微生物剤を含まなくとも高い抗微生物性を発現できるからである。
【0077】
バインダー成分である樹脂の含有割合は、抗微生物組成物の全重量に対して15~40重量%が好ましい。これにより抗微生物性を損なうことなく基材との密着性を確保できるからである。
【0078】
分散媒である水の含有割合は、抗微生物組成物の全重量に対して10~80重量%が好ましい。これにより均一に抗微生物剤を分散もしくは溶解させることができるからである。
【0079】
還元剤の含有割合は、抗微生物組成物の全重量に対して0.1~20重量%が好ましい。樹脂バインダー成分に影響を与えることなく、水溶性の抗微生物剤の酸化を防止、あるいは還元を促進できるからである。
【0080】
界面活性剤を含有する場合は、その含有割合は、抗微生物組成物の全重量に対して0.1~20重量%が好ましい。これにより、水溶性の抗微生物剤を樹脂バインダー成分と均一混合できるからである。
【0081】
本発明における抗微生物組成物中には、必要に応じて、pH調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、接着促進剤、レオロジー調整剤、レベリング剤、消泡剤等が配合されていてもよい。
【0082】
上記抗微生物組成物を調製する際には、分散媒である水中に水溶性の抗微生物剤と樹脂エマルジョンおよび/または水性樹脂、必要に応じて界面活性剤を添加した後、ミキサー等で充分に攪拌し、均一な濃度で分散する抗微生物組成物とすることが好ましい。
【0083】
攪拌により粘度を調整する場合は、例えば、1~200mPa・sとすることが好ましい。粘度が1mPa・s未満であると基材表面に塗着せず、また粘度が200mPa・sを超えると噴霧できないからである。粘度の測定方法としては、25℃で回転式粘度計により測定できる。回転式粘度計の羽根の回転速度は、62.5rpmが好ましい。測定装置は、リオン社製のRION VT-04Fが推奨される。
【0084】
本発明においては、基材の表面であって抗微生物性が要求される領域の表面に抗微生物組成物を付着せしめる。上記抗微生物組成物を、分割された状態で基材表面に島状に散在させるか、基材表面に抗微生物組成物が付着された領域と、抗微生物組成物が付着されていない領域とを混在させた状態、すなわち、基材表面(基材表面にプライマー層を形成した場合には基材表面のプライマー層)の一部が露出するような状態となるように抗微生物組成物を付着せしめてもよい。あるいは、上記抗微生物組成物を、基材表面に連続した膜状に形成してもよい。
【0085】
基材表面に抗微生物組成物を付着させるには、例えば、スプレー法、二流体スプレー法、静電スプレー法、グラビア印刷、バーコーターによる塗布、刷毛による塗布等により抗微生物組成物を付着する方法が用いられる。
【0086】
本発明において、スプレー法とは、高圧の空気などのガスや機械的な運動(指やピエゾ素子など)用いて抗微生物組成物を霧の状態で噴霧し、基材表面に上記抗微生物組成物の液滴を付着させることをいう。
【0087】
本発明において、二流体スプレー法とは、スプレー法の一種であり、高圧の空気などのガスと抗微生物組成物とを混合した後、ノズルから霧の状態で噴霧し、基材表面に上記抗微生物組成物の液滴を付着させることをいう。
【0088】
本発明において、静電スプレー法とは、帯電した抗微生物組成物を利用する散布方法であり、上記したスプレー法により抗微生物組成物を霧の状態で噴霧するが、上記抗微生物組成物を霧状にするための方式には、上記抗微生物組成物を噴霧器で噴霧するガン型と、帯電した抗微生物組成物の反発を利用した静電霧化方式があり、さらに、ガン型には帯電した抗微生物組成物を噴霧する方式と、噴霧した霧状の抗微生物組成物に外部電極からコロナ放電で電荷を付与する方式とがある。霧状の液滴は、帯電しているため、基材表面に付着し易く、良好に上記抗微生物組成物を、細かく分割された状態で基材表面に付着させることができる。
【0089】
本発明における抗微生物組成物の散布条件としては、スプレーの圧力は、0.05~5MPa、散布幅は115cm、散布ピッチは1~10cm、スプレーノズルから基材表面までの距離は、5~30cmが好ましい。また、スプレー1本あたりの抗微生物組成物の吐出流量は、0.02~0.1g/秒が好ましい。
【0090】
本発明において、上記スプレー散布される抗微生物組成物の吐出液量は、コスト、生産性の観点から、1g/m2~20g/m2であることが好ましい。吐出液量は、抗微生物組成物の付着塗工に使用した全抗微生物組成物量を塗工面積で除した値である。
【0091】
上記付着工程により、抗微生物組成物が、基材表面であって、抗微生物性が要求される領域に島状に散在した状態か、あるいは、基材表面であって、抗微生物性が要求される領域に、抗微生物組成物が付着された領域と抗微生物組成物が付着されていない領域とが混在した状態となる。もちろん、上記抗微生物組成物が、基材表面に連続的に膜状に形成されていてもよい。
【0092】
(2)硬化工程
硬化工程では、上記付着工程により基材表面に付着させた抗微生物組成物を乾燥させる。かかる乾燥工程により、分散媒である水を蒸発、除去し、樹脂エマルジョンおよび/または水性樹脂の硬化物を基材表面に固着させるとともに、バインダー成分である樹脂の硬化収縮により、抗微生物剤を樹脂の硬化物の表面から露出させることができる。樹脂エマルジョンや水性樹脂は、乾燥により樹脂エマルジョン同士が凝集することで、あるいは、樹脂中に含まれる硬化剤により、架橋反応が進行して硬化する。乾燥条件としては、20~100℃、1~120分が好ましい。乾燥は、室温(25℃)で行うことが望ましいが、赤外線ランプやヒータなどを用いてもよい。また、減圧(真空)乾燥させてもよい。
【0093】
本発明における抗微生物基体では、固着工程で得られる抗微生物組成物の硬化物の厚さの平均値が0.1~20μmであることが望ましい。
【0094】
また、本発明における抗微生物基体では、抗微生物組成物の硬化物の上記基材表面に平行な方向の最大幅を0.1~500μmとすることが望ましい。
【0095】
上記抗微生物組成物の硬化物の基材表面に平行な方向の最大幅やその厚さの平均値は、走査型電子顕微鏡やレーザー顕微鏡を用いることにより、測定することができる。具体的には、画像解析・画像計測ソフトウェアを備えた走査型電子顕微鏡やレーザー顕微鏡を用いることにより、あるいは、走査型電子顕微鏡、レーザー顕微鏡で得られた画像を画像解析・画像計測ソフトウェアを用いて画像解析等を行うことにより、抗微生物組成物の硬化物の基材表面に平行な方向の最大幅やその厚さの平均値を求めることができる。
【0096】
本発明における抗微生物基体において、固着工程で得られる抗微生物組成物の硬化物を含む基材表面のJIS B 0601に準拠した算術平均粗さ(Ra)は、0.1~5μmであることが好ましい。上記算術平均粗さ(Ra)は、(株)東京精密社製の接触式表面粗さ測定機であるHANDYSURFを用い、8mmの測定長さで測定することにより得ることができる。
【0097】
本発明における抗微生物基体において、抗微生物組成物の硬化物(抗微生物基体)の鉛筆硬度は、Hから3Hであることが好ましく、特に2Hから3Hであることが好ましい。耐摩耗性に優れ、抗微生物活性が経時劣化しにくいからである。
【0098】
本発明における抗微生物組成物を用いることで、例えば、ヒトの手が接触する頻度の高いノブ、スライドキー、持ち手、取っ手、手すり、エレベータのボタン等に、表面に形成されたパターン、色彩、意匠、色調等を変えることなく、抗微生物機能を付加することができる。また、建築物内部の、内装材、壁材、窓ガラス、ドア、台所用品等や、事務機器や家具等や、種々の用途に用いられる化粧板、衣服や紙などの繊維質基材等、各種フィルム、シート等に、表面に形成されたパターン、色彩、意匠、色調等を変えることなく、抗微生物機能を付加することができる。
【実施例0099】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0100】
(実施例1)
一液性の水性ポリウレタン樹脂(サンデーペイント社製 固形分濃度:50重量%)と1.75重量%の酢酸銅(II)・一水和物の水溶液と界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(第一工業製薬社製 ネオゲン)とを、抗微生物組成物中の固形分比率で樹脂が86重量%、酢酸銅が5重量%、直鎖ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが9重量%となるように混合して、抗微生物組成物を調製した。
この抗微生物組成物を100mm×100mmの黒色光沢メラミン樹脂化粧基板に刷毛により塗布して、常温(25℃)で60分乾燥させて硬化させ、抗微生物組成物の硬化物が化粧基板(基材)表面に固着した抗微生物基体を製造した。
【0101】
(実施例2)
樹脂エマルジョンとして一液性のエポキシ樹脂エマルジョン(ダイセルオルネクス社製 BECKOPOX EM 2120w/45WA 固形分濃度:45重量%)と1.75重量%の酢酸銅・一水和物の水溶液とを、重量比で樹脂エマルジョン:酢酸銅・一水和物=1:1.3の割合で混合し、抗微生物組成物を調製した。酢酸銅の固形分の割合は、抗微生物組成物中の固形分比率で5重量%である。
この抗微生物組成物を100mm×100mmの黒色光沢メラミン樹脂化粧基板に刷毛により塗布して、常温(25℃)で60分乾燥させて硬化させ、抗微生物組成物の硬化物が表面に固着した抗微生物基体を製造した。
【0102】
(実施例3)
樹脂エマルジョンとして二液性のエポキシ樹脂エマルジョン(ダイセルオルネクス社製 BECKOPOX EP 2384W/57WA 固形分濃度:57重量%)とその硬化剤(ダイセルオルネクス社製 BECKOPOX EH 613W/80WA)と、6000ppmのポリヘキサメチレンビグアニドの塩酸塩水溶液とを、重量比で樹脂エマルジョン:硬化剤:ポリヘキサメチレンビグアニド塩酸塩水溶液=1:0.19:6の割合で混合し、抗微生物組成物を調製した。
この抗微生物組成物を黒色光沢メラミン樹脂化粧基板に刷毛により塗布して、常温(25℃)で60分乾燥させて硬化させ、抗微生物組成物の硬化物が表面に固着した抗微生物基体を製造した。
【0103】
(比較例1)
イソプロピルアルコール5重量部、二酸化ケイ素(シリカゾル)3重量部、シランカップリング剤0.5重量部、2(4-thiazolyl)benzimidazole 0.3重量部、2,3,5,6-tetrachloro-4(methyl sulphonyl)pyridine 0.1重量部、メチルメトキシシロキサン1重量部をエタノール91.1重量部に分散させた液を混合して、抗微生物組成物を得た。
この抗微生物組成物を黒色光沢メラミン樹脂化粧基板に刷毛により塗布して、常温(25℃)で60分乾燥させて硬化させ、抗微生物組成物の硬化物が化粧基板表面に固着した抗微生物基体を製造した。
図4は、得られた比較例1に係る抗微生物基体の断面のSEM写真である。
図4より明らかなように、表面の二酸化ケイ素の層にクラックが発生していることが分かる。
【0104】
(比較例2)
樹脂エマルジョンとして二液性のエポキシ樹脂エマルジョン(ダイセルオルネクス社製 BECKOPOX EP 2384W/57WA 固形分濃度:57重量%)とその硬化剤(ダイセルオルネクス社製 BECKOPOX EH 613W/80WA)と光触媒粒子であるWO3担持TiO2を重量比で樹脂エマルジョン:硬化剤:光触媒=1:0.19:0.37の割合で混合し、抗微生物組成物を調製した。
この抗微生物組成物を黒色光沢メラミン樹脂化粧基板に刷毛により塗布して、常温(25℃)で60分乾燥させて硬化させ、抗微生物組成物の硬化物が表面に固着した抗微生物基体を製造した。
【0105】
(バクテリオファージを用いた抗ウィルス性評価)
実施例1~3および比較例1~2で得られたサンプルにおける加熱加速試験前後の抗ウィルス性を評価するためにJIS Z 2801 抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果を改変した手法を用いた。改変点は、「試験菌液の接種」を「試験ウィルスの接種」に変更した点である。ウィルスを使用することによる変更点については、すべてJIS L 1922繊維製品の抗ウィルス性試験方法に基づき変更した。測定結果は、実施例1~3および比較例1~2で得られた抗微生物基体について、JIS L 1922付属書Bに基づき、大腸菌への感染能力を失ったファージウィルス濃度をウィルス不活度として表示する。ここで、ウィルス濃度の指標として、大腸菌に対して不活性化されたウィルスの濃度(ウィルス不活度)を使用し、このウィルス不活度に基づいて抗ウィルス活性値を算出した。
【0106】
以下、手順を具体的に記載する。
(1)実施例1~3および比較例1~2で得られた抗微生物基体について、当該抗微生物基体を1辺50mm角の正方形に切り出して試験試料とした。この試験試料を滅菌済プラスチックシャーレに置き、試験ウィルス液(>107PFU/mL)を0.4mL接種した。試験ウィルス液は108PFU/mLのストックを精製水で10倍希釈したものを使用した。
(2)対照試料として50mm角のポリエチレンフイルムを用意し、試験試料と同様にウィルス液を接種した。
(3)接種したウィルスの液の上から40mm角のポリエチレンを被せ、試験ウィルス液を均等に接種させた後、25℃で所定時間反応させた。
(4)接種直後または反応後、SCDLP培地10mLを加え、ウィルス液を洗い流した。
(5)JIS L 1922付属書Bによってウィルスの感染値を求めた。
(6)以下の計算式を用いて抗ウィルス活性値を算出した。
Mv=Log(Vb/Vc)
Mv:抗ウィルス活性値
Log(Vb):ポリエチレンフイルムの所定時間反応後の感染値の対数値
Log(Vc):試験試料の所定時間反応後の感染値の対数値
参考規格 JIS L 1922、JIS Z 2801
測定方法は、プラーク測定法によった。得られた抗ウィルス活性値を下記の表1に示す。
【0107】
(抗微生物組成物の硬化物のクラック発生の有無)
抗微生物組成物の硬化物が付着した黒色光沢メラミン化粧板の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することでクラック発生の有無を確認した。結果を下記の表1に示す。
【表1】
【0108】
実施例1~3に係る抗微生物基体は、常温で抗ウィルスコート施工を行うことができ、いずれも抗ウィルス活性値は、5.0と高い水準であった。一方、比較例1に係る抗微生物基体は、無機バインダーを使用しており、
図4に示すように、断面にクラックが発生していた。また、比較例2に係る抗微生物基体は、光触媒を使用しており、光触媒が樹脂に被覆されてしまい、抗ウィルス活性値は1.6と低いことが分かる。