(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022048037
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】鋼帯及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B21C 51/00 20060101AFI20220317BHJP
C21D 9/56 20060101ALN20220317BHJP
C21D 9/46 20060101ALN20220317BHJP
【FI】
B21C51/00 R
C21D9/56 101Z
C21D9/46 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020154165
(22)【出願日】2020-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】小島 真由美
(72)【発明者】
【氏名】船川 義正
【テーマコード(参考)】
4K037
4K043
【Fターム(参考)】
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4K043HA04
(57)【要約】
【課題】精度のよい材質情報を提供可能な鋼帯及びその製造方法を提供する。
【解決手段】鋼帯9は、長手方向及び幅方向の二次元方向における位置と材料特性値とを関連付けた材質分布を含む材質情報を提供する媒体を含む。材質情報は、鋼帯を製造する設備における設備出力因子、外乱因子及び製造中の鋼帯の成分値を含む入力データを入力する予測モデルを用いて、予測され、予測モデルは、入力データを入力して製造条件因子を出力する、機械学習によって生成された機械学習モデルと、製造条件因子を入力して材料特性値を出力する金属学モデルと、を含んでよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向及び幅方向の二次元方向における位置と材料特性値とを関連付けた材質分布を含む材質情報を提供する媒体を含む、鋼帯。
【請求項2】
前記材質情報は、
前記鋼帯を製造する設備における設備出力因子、外乱因子及び製造中の前記鋼帯の成分値を含む入力データを入力する予測モデルを用いて、予測され、
前記予測モデルは、
前記入力データを入力して製造条件因子を出力する、機械学習によって生成された機械学習モデルと、
前記製造条件因子を入力して前記材料特性値を出力する金属学モデルと、
を含む、請求項1に記載の鋼帯。
【請求項3】
前記金属学モデルは金属の物理化学現象に基づく予測式である、請求項2に記載の鋼帯。
【請求項4】
前記金属学モデルは、前記製造条件因子を入力して金属学現象因子を出力する第1の金属学モデルと、前記金属学現象因子を入力して前記材料特性値を出力する第2の金属学モデルと、を含み、
前記金属学現象因子は、体積分率、表面性状、析出物寸法、析出物密度、析出物形状、析出物分散状態、再結晶率、相分率、結晶粒形状、集合組織、残留応力、転位密度及び結晶粒径のうち少なくとも1つを含む、請求項2又は3に記載の鋼帯。
【請求項5】
前記材料特性値は、引張強さ、降伏強さ、伸び、穴広げ率、曲げ性、r値、硬さ、疲労特性、衝撃値、遅れ破壊値、摩耗値、化成処理性、高温特性、低温靭性、耐食性、磁気特性及び表面性状のうち少なくとも1つを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の鋼帯。
【請求項6】
鋼帯を製造する設備における設備出力因子、外乱因子及び製造中の前記鋼帯の成分値を含む入力データを入力する予測モデルを用いて、長手方向及び幅方向の二次元方向における位置と材料特性値とを関連付けた材質分布を含む材質情報を予測する工程と、
前記材質情報を提供する媒体を鋼帯に含める工程と、を含み、
前記予測モデルは、
前記入力データを入力して製造条件因子を出力する、機械学習によって生成された機械学習モデルと、
前記製造条件因子を入力して前記材料特性値を出力する金属学モデルと、
を含む、鋼帯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼帯及びその製造方法に関する。本開示は、特に自動車、建機、電車、列車等の輸送機器、医療、食料及び家庭等の分野で幅広く使用され得る鋼帯及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼帯に表面欠陥の情報を付与した、いわゆるマーキング付き鋼帯が知られている。マーキング付き鋼帯は、例えば鋼帯表面の剥離及び不メッキの位置を示す情報を備える。この情報に基づいて、鋼帯を用いる製品(例えば自動車など)の製造の高効率化を図ることができる。
【0003】
特許文献1は、製造ライン上に設置された欠陥測定計により表面欠陥を計測し、バーコード又は二次元コードを使った欠陥情報記録部を鋼帯に付与することで、欠陥等の異常部を事前にユーザへ知らせる技術を開示する。ユーザが異常部を把握することで、プレス成型時のトラブルを未然に防ぎ歩留まりを向上させることができる。
【0004】
特許文献2は、製造条件、用途、求められる仕様情報及び表面性状の測定結果を照らし合わせ、表面欠陥が顕在化していなくても、後に欠陥が顕在化し得る部位を予測して鋼帯にマーキングする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-076480号公報
【特許文献2】特開2006-218505号公報
【特許文献3】特許第6086155号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鋼帯は、自動車、建機、電車、列車等の輸送機器、医療、食料及び家庭等の分野で幅広く使用される。例えば自動車における骨格部品、外板部品及び足回り部品等、車体を構成する多様な部品で使用される鋼素材では、車体の総重量低減のため、高強度化が進められ、板厚が減じても必要な強度と衝突安全性が得られる素材の製造が進められている。また、機能性及び意匠性の社会的ニーズに合わせて、自動車の車体構造は多様化しており、強度のみならず成型性とのバランス、溶接性、化成性、防錆性等の様々な性能が求められるようになっている。そのため、鋼の製造工程は複雑化している。
【0007】
鋼の製造工程が複雑化すると、例えば鋳造工程で生じる鋼スラブ内の成分ムラ、焼鈍工程において生じる鋼板内の加熱温度、加熱速度、冷却温度、冷却速度の変動により、鋼帯の全域において長手方向と幅方向で引張強さに差が生じることがある。特に、鋼板が高強度化するほど、製造条件に対する材料特性値の依存性は高まる。そのため、鋼帯の材質分布を完全に均一化することは難しい。
【0008】
鋼帯を使用して部品を成型するプレスメーカーにとって、鋼帯が含む予期せぬ材質ムラは部品の歩留まりを悪化させる原因になる。鋼帯の採取位置及び採取方向を適宜選択し、成形時に生じる割れ及び形状不良のトラブルを未然に予防できるように、プレスメーカー等のエンドユーザは、精度のよい鋼帯の材質分布の提供を求めている。ここで、上記の特許文献1及び特許文献2の技術は、欠陥情報を提供するだけであって、精度のよい鋼帯の材質分布を提供するものでない。
【0009】
材料特性値のうち引張強さについては、従来から先端部と尾端部で実施された材料試験の値が代表値として鋼帯に付与されて出荷されることがあったが、先端部と尾端部の値だけで精度のよい材質分布の推定を行うことは困難であった。
【0010】
また、例えば特許文献3は、鋼帯全域の温度分布を測定した実績値と、測定した各位置における材料特性値を関連付けた情報をデータベース化しておき、次に製造された鋼の製造実績値と類似したデータを探索することで、鋼帯の材料特性値を推定する方法を開示する。ただし、特許文献3に記載の技術は、精度の高い予測モデルを生成するために数多くの学習データが必要である。そのため、過去の製造実績が少ない又は無いときの適用が困難である。したがって、これらの従来技術と異なる予測モデルを用いて、高精度に材料特性値を予測するシステムが求められている。
【0011】
かかる点に鑑みてなされた本開示の目的は、精度のよい材質情報を提供可能な鋼帯及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の一実施形態に係る鋼帯は、
長手方向及び幅方向の二次元方向における位置と材料特性値とを関連付けた材質分布を含む材質情報を提供する媒体を含む。
【0013】
本開示の一実施形態に係る鋼帯の製造方法は、
鋼帯を製造する設備における設備出力因子、外乱因子及び製造中の前記鋼帯の成分値を含む入力データを入力する予測モデルを用いて、長手方向及び幅方向の二次元方向における位置と材料特性値とを関連付けた材質分布を含む材質情報を予測する工程と、
前記材質情報を提供する媒体を鋼帯に含める工程と、を含み、
前記予測モデルは、
前記入力データを入力して製造条件因子を出力する、機械学習によって生成された機械学習モデルと、
前記製造条件因子を入力して前記材料特性値を出力する金属学モデルと、
を含む。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、精度のよい材質情報を提供可能な鋼帯及びその製造方法を提供することができる。
【0015】
また、このような鋼帯を製造し、出荷することによって、プレスメーカー等のエンドユーザで発生する不良率の低減及び製造工程の遅延を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、材料特性値予測システムの構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、材料特性値予測システムの別の構成例を説明するための図である。
【
図4】
図4は、予測モデルを用いた材料特性値の予測の流れを示す図である。
【
図5】
図5は、予測モデルを用いた熱延鋼板の引張強さの予測の流れを示す図である。
【
図6】
図6は、鋼帯の製造において実行される材料特性値の予測に関する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(材料特性値予測システムの構成)
図1は、本開示の一実施形態に係る鋼帯9の製造で使用される情報処理装置10を含む材料特性値予測システム100の全体概要を示す模式図である。材料特性値予測システム100は、鋼帯9の製造で使用される情報処理装置10を備えて構成される。情報処理装置10は、操業を統括するプロセスコンピュータであってよい。
図1の例において、鋼板をコイル状に巻いた鋼帯9が製造物であるが、製造物は鋼帯9に限られない。例えば製造物は鉄鋼材料である金属の平板であってよい。また、製造物は鉄鋼材料に限定されず、例えばアルミ合金、銅、チタン、マグネシウム等を素材としてよい。
【0018】
材料特性値予測システム100は、例えば製品メーカ(例えば自動車メーカ)から発注を受ける材料メーカ(ここでは鉄鋼メーカ)が有するシステムである。本開示の着眼の一つは、部品情報が部品を用いる製品メーカに偏在し、材質情報が部品の素材を設計・製造する材料メーカに偏在していることである。つまり、材料メーカが有する材質情報を製品メーカが活用して、効率的な部品の製造を可能にすることが本開示の特徴の1つである。材質情報を活用することによって、製品メーカは成形時に生じる割れ及び形状不良のトラブルを未然に予防することが可能となり、高効率な部品製造が可能となる。ここで、材質情報は鋼帯9の長手方向及び幅方向の二次元方向における材質分布を含む。材質分布は、上記の二次元方向における位置と後述する材料特性値とを関連付けたものである。
【0019】
図1に示すように材料特性値予測システム100は、転炉1と、連続鋳造機2と、加熱炉3と、スケールブレーカー4と、粗圧延機5と、仕上圧延機6と、冷却装置7と、巻取装置8と、鋼帯9と、情報処理装置10とを含む。
【0020】
製造工程において、まず原料の鉄鉱石は、石灰石及びコークスとともに高炉に装入され、溶融状態の銑鉄が生成される。高炉で出銑された銑鉄に対して転炉1において炭素等の成分調整が行われ、二次精錬により最終的な成分調整がなされる。連続鋳造機2では、精錬された鉄鋼を鋳造して鋳片(スラブ)と呼ばれる中間素材を製造する。その後、加熱炉3における加熱工程によりスラブを加熱し、粗圧延機5と仕上圧延機6による熱間圧延工程、冷却装置7による冷却工程、巻取装置8を経て、鋼帯9が製造される。製造工程は、冷却工程の後に、適宜、酸洗工程、冷間圧延工程、焼鈍工程、スキンパス工程及び検査工程等の処理工程を含んでよい。
【0021】
また、材料特性値予測システム100は、鋼帯9の長手方向及び幅方向の二次元方向における材質分布を含む材質情報が鋼帯9から取得可能であるようにする。例えば、材料特性値予測システム100は二次元コードを鋼帯9にマーキングする。製品メーカは携帯通信端末20で二次元コードを読み取ることによって、材料特性値予測システム100の情報処理装置10にアクセスして、その二次元コードが付された鋼帯9の材質分布等を得ることができる。
【0022】
ここで、材料特性値予測システム100は、
図1と異なる鋼帯9の製造設備を備えて構成されてよい。材料特性値予測システム100は、例えば
図2に示すように、溶融亜鉛めっき鋼帯を製造するための連続焼鈍設備(以下、溶融めっきライン)を備えてよい。
【0023】
溶融めっきラインは、焼鈍部として、加熱帯11、均熱帯12及び冷却帯13を有する。溶融めっきラインにおける焼鈍工程とは、焼鈍部で実行される熱処理工程であって、鋼板を室温付近から昇温させ、所定の温度に保持した後、亜鉛めっきを行うのに適した温度まで鋼板の温度を低下させる。
【0024】
また、溶融めっきラインでは、焼鈍部の下流側にめっき部を有する。溶融めっきラインは、めっき部として、スナウト14、亜鉛めっき槽15及びワイピング装置16を有する。溶融めっきラインにおけるめっき工程とは、めっき部で実行される鋼板に適量のめっきを付着させる工程である。
【0025】
また、溶融めっきラインでは、めっき部の下流側に再加熱部を有する。溶融めっきラインは、再加熱部として、合金化帯17、保熱帯18、最終冷却帯19を有する。溶融めっきラインにおける再加熱工程とは、再加熱部で実行される熱処理工程である。
【0026】
加熱帯11は、鋼板を昇温させるための設備であり、鋼種によって650~950℃程度の範囲で予め設定された温度まで加熱する。均熱帯12は、鋼板を所定温度に保持する設備である。冷却帯13は、亜鉛めっきを行うのに適した温度として450℃程度まで冷却する設備である。
【0027】
スナウト14は、内部に水素、窒素、水蒸気を含む混合ガスが供給され、鋼板が亜鉛めっき槽15に浸漬されるまでの雰囲気ガスを調整する。亜鉛めっき槽15は、内部にシンクロールを有し、スナウト14を通過した鋼板を下方に向けて浸漬し、表面に溶融亜鉛が付着した鋼板をめっき浴の上方に引き上げる。ワイピング装置16は、鋼板の両側に配置されたノズルからワイピングガスを吹き付けて、鋼板の表面に付着した余剰の溶融亜鉛を掻き取り、溶融亜鉛の付着量(目付量)を調節する。
【0028】
合金化帯17は、ワイピング装置16を通過した鋼板を、Zn-Fe合金化反応が進行する温度(通常、500℃程度)まで昇温する。保熱帯18は、合金化反応の進行に必要な時間を確保するために、鋼板の温度を保持する。最終冷却帯19は、合金化処理を行った鋼板を室温付近まで最終冷却する。
【0029】
このように、材料特性値予測システム100は、例えば熱間圧延工程、冷間圧延工程及び焼鈍工程を含む鋼帯9の製造設備を備えて構成され得る。また、材料特性値予測システム100は、例えば焼鈍工程、めっき工程及び再加熱工程を含む鋼帯9の製造設備を備えて構成され得る。
【0030】
(情報処理装置の構成)
図3は情報処理装置10のブロック図を示す。情報処理装置10は、制御部110と、記憶部120と、通信部130と、入力部140と、出力部150とを備える。情報処理装置10は、製造物の所望の材料特性値に基づき必要な製造条件を算出して、各製造装置に対して製造条件因子を設定する。材料特性値は、製造物の強度及び外力等への抵抗性などの物理的特性を示す値である。材料特性値の一例として引張強さが挙げられる。また、製造条件因子は、製造物を製造する工程で調整可能なパラメータ(製造パラメータ)である。製造条件因子の一例として圧延率が挙げられる。
【0031】
本実施形態において、情報処理装置10は、機械学習によって生成される機械学習モデルと金属学モデルとを含む予測モデル122を用いる。情報処理装置10は、予測モデル122を用いて材料特性値を予測する材料特性値予測装置として機能する。予測モデル122の詳細及び材料特性値の予測の流れについては後述する。また、本実施形態において、情報処理装置10は、材質分布を含む材質情報が鋼帯9から取得可能であるようにする。
【0032】
制御部110には、少なくとも1つのプロセッサ、少なくとも1つの専用回路又はこれらの組み合わせが含まれる。プロセッサは、CPU(central processing unit)等の汎用プロセッサ又は特定の処理に特化した専用プロセッサである。専用回路は、例えば、FPGA(field-programmable gate array)又はASIC(application specific integrated circuit)である。制御部110は、情報処理装置10の各部を制御しながら、情報処理装置10の動作に関わる処理を実行する。
【0033】
本実施形態において、制御部110は材料特性値予測部111を備える。材料特性値予測部111は、鋼帯9を製造する設備における設備出力因子、外乱因子及び製造中の鋼帯9の成分値を含む入力データを取得し、入力データを入力する予測モデル122を用いて、製造される鋼帯9の材料特性値を予測する。
【0034】
記憶部120には、少なくとも1つの半導体メモリ、少なくとも1つの磁気メモリ、少なくとも1つの光メモリ又はこれらのうち少なくとも2種類の組み合わせが含まれる。半導体メモリは、例えばRAM(random access memory)又はROM(read only memory)である。RAMは、例えばSRAM(static random access memory)又はDRAM(dynamic random access memory)である。ROMは、例えばEEPROM(electrically erasable programmable read only memory)である。記憶部120は、例えば、主記憶装置、補助記憶装置又はキャッシュメモリとして機能する。記憶部120には、情報処理装置10の動作に用いられるデータと、情報処理装置10の動作によって得られたデータとが記憶される。例えば記憶部120は実績データベース121及び予測モデル122を記憶する。実績データベース121は製造設備及びそれを用いた操業に関する様々な測定値及び設定値を記憶する。実績データベース121に記憶される測定値及び設定値は、情報処理装置10が予測モデル122を生成するための学習データとして用いられるものを含む。
【0035】
通信部130には、少なくとも1つの通信用インタフェースが含まれる。通信用インタフェースは、例えばLANインタフェース、WANインタフェース、LTE(Long Term Evolution)、4G(4th generation)又は5G(5th generation)等の移動通信規格に対応したインタフェース又はBluetooth(登録商標)等の近距離無線通信に対応したインタフェースである。通信部130は、情報処理装置10の動作に用いられるデータを受信する。また、通信部130は、情報処理装置10の動作によって得られるデータを送信する。
【0036】
入力部140には、少なくとも1つの入力用インタフェースが含まれる。入力用インタフェースは、例えば物理キー、静電容量キー、ポインティングデバイス、ディスプレイと一体的に設けられたタッチスクリーン又はマイクである。入力部140は、情報処理装置10の動作に用いられるデータを入力する操作を受け付ける。入力部140は、情報処理装置10に備えられる代わりに、外部の入力機器として情報処理装置10に接続されてよい。接続方式としては、例えばUSB(Universal Serial Bus)、HDMI(登録商標)(High-Definition Multimedia Interface)又はBluetooth(登録商標)等の任意の方式を用いることができる。
【0037】
出力部150には、少なくとも1つの出力用インタフェースが含まれる。出力用インタフェースは、例えば、ディスプレイ又はスピーカである。ディスプレイは、例えば、LCD(liquid crystal display)又は有機EL(electro luminescence)ディスプレイである。出力部150は、情報処理装置10の動作によって得られるデータを出力する。出力部150は、情報処理装置10に備えられる代わりに、外部の出力機器として情報処理装置10に接続されてよい。接続方式としては、例えば、USB、HDMI(登録商標)又はBluetooth(登録商標)等の任意の方式を用いることができる。
【0038】
情報処理装置10の機能は、本実施形態に係るプログラムを、制御部110に相当するプロセッサで実行することにより実現される。すなわち、情報処理装置10の機能は、ソフトウェアにより実現される。プログラムは、情報処理装置10の動作をコンピュータに実行させることで、コンピュータを情報処理装置10として機能させる。
【0039】
ここで、情報処理装置10の一部又は全ての機能が、制御部110に相当する専用回路により実現されてよい。すなわち、情報処理装置10の一部又は全ての機能が、ハードウェアにより実現されてよい。
【0040】
(予測モデル)
図4は、予測モデル122を用いた材料特性値の予測の流れを示す図である。本開示者が予測モデル122に関して鋭意検討を重ねた結果、金属学パラメータを実操業パラメータへ変換した、金属学と操業実績のハイブリッドパラメータを用いることにより、材料特性値の予測精度を向上できることがわかった。
【0041】
情報処理装置10が材料特性値を予測するために用いる予測モデル122は、機械学習モデルと金属学モデルとを含んで構成される。本実施形態において、機械学習モデルは、設備出力因子、外乱因子及び製造中の鋼帯9の成分値を含む入力データを入力して、製造条件因子を出力する。製造条件因子は、上記のとおり、製造物を製造する工程で調整可能なパラメータである。製造条件因子の具体例については後述する。機械学習モデルは、鋼帯9を製造する製造設備の操業に関する実操業パラメータ、操業実績のパラメータ及び製造条件因子の関係を精度よく示すことができる。
【0042】
また、本実施形態において、金属学モデルは、製造条件因子を入力して材料特性値を出力する。材料特性値は、引張強さ、降伏強さ、伸び、穴広げ率、曲げ性、r値、硬さ、疲労特性、衝撃値、遅れ破壊値、摩耗値、化成処理性、高温特性、低温靭性、耐食性、磁気特性及び表面性状のうち少なくとも1つを含んでよい。金属学モデルは、金属の物理化学現象に基づく予測式である。ここで、金属学モデルは、複数のモデルで構成されてよい。例えば、金属学モデルは、製造条件因子を入力して金属学現象因子を出力する第1の金属学モデルと、その金属学現象因子を入力して材料特性値を出力する第2の金属学モデルと、を含んでよい。金属学現象因子は、体積分率、表面性状、析出物寸法、析出物密度、析出物形状、析出物分散状態、再結晶率、相分率、結晶粒形状、集合組織、残留応力、転位密度及び結晶粒径のうち少なくとも1つを含んでよい。金属学現象が実測できる場合は、金属学現象因子実測値を用いてよい。金属学現象を測定する方法としては、例えばインラインX線測定器、超音波探傷測定器、磁気測定器などが挙げられる。
【0043】
金属学モデルは、物理化学現象の理論式に基づいて、金属学現象を高精度に示す。金属学モデルは、さらに製造装置の操業実績に基づく経験則を反映するものであってよい。金属学モデルは、金属学パラメータ、製造条件因子及び材料特性値の関係を精度よく示すことができる。
【0044】
図5は、予測モデル122を用いた熱延鋼板の引張強さの予測の流れを示す図である。例えば、製鋼工程で製造されたスラブを熱間圧延工程、冷間圧延工程及び焼鈍工程で処理して最終的に鋼帯9を製造する過程の途中で、
図5に示される引張強さの予測が実行される。
【0045】
材料特性値予測システム100の情報処理装置10は、製鋼工程の後で、熱間圧延工程における設備出力因子、外乱因子及び熱延鋼板の成分値を含む入力データを取得する。設備出力因子は、例えば熱間圧延工程における加熱炉ヒーター出力、加熱炉連続出力時間、搬送ロール回転数、バーヒーター出力値、圧延荷重、上下ロール圧延荷重差、スタンド間スプレー圧力、ランナウトテーブル冷却水量及びランナウトテーブル冷却水圧の少なくとも1つを含む。外乱因子は、例えば熱間圧延工程における冷却水温及び気温の少なくとも1つを含む。成分値は、例えば熱延鋼板について測定されたC、Si、Mn、P、S、Al、N、O、Ca、Ni、B、Ti、Nb、Mo、Cr、Sn、W及びTaの少なくとも1つの値を含む。ここで、外乱因子は、例えば、熱延工程での冷却水温、気温、さらに各工程を通過する際の予想される気温などが用いられてよい。また、成分値は、製鋼工程の値が使用されてよい。
【0046】
情報処理装置10は、機械学習モデルに入力データを入力して、製造条件因子を得る。
図5の例において、機械学習モデルは熱間圧延工程において設定可能な製造条件因子を出力する。製造条件因子は、例えば熱間圧延工程における粗圧延率、仕上圧延率、圧延入側温度、圧延出側温度、冷却開始時間、冷却速度、ライン速度及び巻取温度のうち少なくとも1つを含む。
【0047】
情報処理装置10は、金属学モデルに製造条件因子を入力して、予測値である鋼板の引張強さを得る。
図5の例において、金属学モデルは、製造条件因子を入力して金属学現象因子を出力する第1の金属学モデルと、金属学現象因子を入力して材料特性値を出力する第2の金属学モデルと、を含む。第1の金属学モデルは、例えばZener-Hollomon則をベースとしたモデルである。第2の金属学モデルは、例えばHall-Petch則をベースとしたモデルである。
【0048】
Zener-Hollomon則とは、金属が高温で加工された際の金属組織の再結晶を推定する経験則である。本開示では、入力値に製造実績値を用いたZener-Hollomon則をベースとした改良モデルにより金属学現象因子、例えば結晶粒径を出力する。
【0049】
Hall-Petch則とは、金属組織の結晶粒径から材料強度を推定する経験則である。本開示では、入力値に製造実績値を用いたHall-Petch則をベースとした改良モデルにより金属組織の結晶粒径から引張強さを出力する。
【0050】
機械学習モデル及び金属学モデルを含む予測モデル122は、鋼帯9の製造設備の工程に合わせて生成される。
図5は、熱間圧延工程における予測モデル122の例である。例えば冷間圧延工程において予測する場合には、熱間圧延工程と異なる予測モデル122が用意される。
【0051】
例えば冷間圧延工程における予測モデル122の場合に、機械学習モデルに入力される設備出力因子は、例えば冷間圧延工程における圧延荷重、上下ロール圧延荷重差、ロール径、ロール回転数及び潤滑条件の少なくとも1つを含んでよい。また、機械学習モデルが出力する製造条件因子は、例えば冷間圧延工程における圧延率、冷圧率及び摩擦係数のうち少なくとも1つを含んでよい。
【0052】
(機械学習モデルの生成)
情報処理装置10は、上記の予測を実行する前に、実績データベース121から学習データを取得し、学習データを用いて機械学習モデルを生成する。学習データは、機械学習モデルが用いられる鋼帯9の製造方法の工程に応じて選択される。例えば冷間圧延工程を対象とする機械学習モデルを生成するための学習データは、入力として圧延荷重、上下ロール圧延荷重差、ロール径、ロール回転数及び潤滑条件を含み、出力として圧延率、冷圧率及び摩擦係数を含むものが選択されてよい。
【0053】
ここで、全ての学習データは、入力として少なくとも1つの外乱因子を含む。そのため、機械学習モデルは、製造物の材料特性値に影響を及ぼす外乱を考慮したものになる。また、全ての学習データの入力は少なくとも1つの成分値を含む。このような学習データを用いて機械学習モデルを生成する手法は、例えばニューラルネットワークであってよいが、これに限定されない。別の例として、決定木又はランダムフォレスト等の手法によって機械学習モデルが生成されてよい。
【0054】
(材質分布)
本実施形態において、実績データベース121は、過去の製造工程における鋼帯9の幅方向及び長手方向における温度履歴を含む。鋼帯9の幅方向及び長手方向における温度は、例えばサーモグラフィ又は放射温度計などで計測されてよい。サーモグラフィは、例えば鋼帯9の幅方向に対して少なくとも1/4位置、中央位置、3/4位置に設置されてよい。鋼板は一方向に走行している。そのため、実際の温度測定位置と鋼帯9の位置関係は測定時の通板速度に基づいて決定される。コイル全体の温度測定ができない場合、一般的に用いられる熱伝導率モデルを使って全体温度を予想してよい。
【0055】
先端部と尾端部で実施された材料試験値と温度履歴との関係から得られる予測モデルにより、材料試験を実施していないコイル位置の温度履歴から、材料特性値を推定することが可能となる。
【0056】
情報処理装置10は、上記によって、温度履歴に基づいて、材料特性値の二次元方向における位置と材料特性値とを関連付けることができる。
【0057】
(材質情報の予測方法)
以下、情報処理装置10によって実行される情報処理が説明される。
図6は、鋼帯の製造において実行される材料特性値の予測に関する処理を示すフローチャートである。
図6の情報処理は、大きく分けて、予測モデル122の生成処理(ステップS100及びS200)と、材質情報の予測処理(ステップS300、S400及びS500)を含む。予測モデル122の生成処理では、過去に製造された鋼帯9についての入力データ及び材料特性値、すなわち学習データが用いられる。予測モデル122の生成処理は、鋼帯9の製造と切り離されて(オフラインで)実行される。一方、材質情報の予測処理は、鋼帯9の製造中に(オンラインで)実行されて、製造中の鋼帯9についての入力データ及び生成された予測モデル122が用いられる。
【0058】
情報処理装置10は学習データを取得する(ステップS100)。上記のように、学習データは、過去に製造された鋼帯9についての入力データと材料特性値とを関連付けたデータである。
【0059】
情報処理装置10は予測モデル122を生成する(ステップS200)。上記のように、予測モデル122は学習データによって機械学習によって生成された機械学習モデルと、金属学モデルと、を含む。
【0060】
情報処理装置10は、製造中の鋼帯9についての入力データを取得する(ステップS300)。入力データの具体例は、上記の説明において示した通りである。
【0061】
情報処理装置10は、ステップS300で取得した入力データと、ステップS200で生成した予測モデル122とにより材質情報を予測する(ステップS400)。情報処理装置10は、上記のように、予測モデル122を用いて、例えば引張強さを含む材料特性値を予測する。そして、情報処理装置10は、例えば予測対象となる鋼帯9の幅方向と長手方向の二次元方向における位置と引張強さとを関連付けた材質分布を予測する。
【0062】
情報処理装置10は、ステップS400で予測した材質情報を提供する媒体を鋼帯9に含める(ステップS500)。情報処理装置10は、例えば媒体を電子情報化して鋼帯9に与える。媒体は、バーコード等の1次元コード又はQRコード(登録商標)等の二次元コードであってよい。別の例として、材質情報を提供する媒体として着色等が行われてよい。つまり、媒体は色であって、色に応じて鋼帯9の材質が判定されてよい。ここで、鋼帯9の表面の油分及び、その後の保存環境も鑑み、鋼帯9への刻印でコードが付与されてよい。別の例として、梱包後の鋼帯9に、材質情報を記憶した媒体が取り付けられてよい。材質情報を記憶した媒体は、例えばCD、DVD又は半導体メモリ等の記憶媒体であってよい。
【0063】
以上のように、材料特性値予測システム100は、上記の構成によって、材質分布を含む材質情報を提供する媒体を含む鋼帯9を提供できる。この材質情報は、上記の説明のとおり、精度よく予測された材料特性値に基づいている。そのため、製品メーカは成形時に生じる割れ及び形状不良のトラブルを未然に予防することが可能となり、高効率な部品製造が可能となる。
【0064】
本開示を諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形及び修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成又は各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成又はステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 転炉
2 連続鋳造機
3 加熱炉
4 スケールブレーカー
5 粗圧延機
6 仕上圧延機
7 冷却装置
8 巻取装置
9 鋼帯
10 情報処理装置
11 加熱帯
12 均熱帯
13 冷却帯
14 スナウト
15 亜鉛めっき槽
16 ワイピング装置
17 合金化帯
18 保熱帯
19 最終冷却帯
20 携帯通信端末
100 材料特性値予測システム
110 制御部
111 材料特性値予測部
120 記憶部
121 実績データベース
122 予測モデル
130 通信部
140 入力部
150 出力部