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特開2022-48038材料特性値予測システム及び金属板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022048038
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】材料特性値予測システム及び金属板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/418 20060101AFI20220317BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20220317BHJP
   B21B 37/76 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G05B23/02 R
B21B37/76 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020154166
(22)【出願日】2020-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】小島 真由美
(72)【発明者】
【氏名】船川 義正
【テーマコード(参考)】
3C100
3C223
4E124
【Fターム(参考)】
3C100AA21
3C100AA56
3C100AA70
3C100BB05
3C100BB11
3C100BB27
3C100EE10
3C223BA01
3C223CC01
3C223EB01
3C223FF22
3C223FF26
3C223GG01
3C223GG03
3C223HH02
4E124BB08
4E124EE11
4E124GG10
(57)【要約】
【課題】材料特性値を高精度に予測可能な材料特性値予測システムを提供する。また、その材料特性値予測システムが予測した材料特性値に基づいて後の工程の製造条件を適切に変更することによって、製品の歩留まりを向上させることが可能な金属板の製造方法を提供する。
【解決手段】材料特性値予測システム100は、金属板を製造する設備における設備出力因子、外乱因子及び製造中の金属板の成分値を含む入力データを取得し、入力データを入力する予測モデルを用いて、製造される金属板の材料特性値を予測する、材料特性値予測部を備え、予測モデルは、入力データを入力して製造条件因子を出力する、機械学習によって生成された機械学習モデルと、製造条件因子を入力して材料特性値を出力する金属学モデルと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板を製造する設備における設備出力因子、外乱因子及び製造中の前記金属板の成分値を含む入力データを取得し、前記入力データを入力する予測モデルを用いて、製造される前記金属板の材料特性値を予測する、材料特性値予測部を備え、
前記予測モデルは、
前記入力データを入力して製造条件因子を出力する、機械学習によって生成された機械学習モデルと、
前記製造条件因子を入力して前記材料特性値を出力する金属学モデルと、
を含む、材料特性値予測システム。
【請求項2】
前記金属学モデルは金属の物理化学現象に基づく予測式である、請求項1に記載の材料特性値予測システム。
【請求項3】
前記金属学モデルは、前記製造条件因子を入力して金属学現象因子を出力する第1の金属学モデルと、前記金属学現象因子を入力して前記材料特性値を出力する第2の金属学モデルと、を含み、
前記金属学現象因子は、体積分率、表面性状、析出物寸法、析出物密度、析出物形状、析出物分散状態、再結晶率、相分率、結晶粒形状、集合組織、残留応力、転位密度及び結晶粒径のうち少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載の材料特性値予測システム。
【請求項4】
前記材料特性値は、引張強さ、降伏強さ、伸び、穴広げ率、曲げ性、r値、硬さ、疲労特性、衝撃値、遅れ破壊値、摩耗値、化成処理性、高温特性、低温靭性、耐食性、磁気特性及び表面性状のうち少なくとも1つを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の材料特性値予測システム。
【請求項5】
前記金属板は鉄鋼である、請求項1から4のいずれか一項に記載の材料特性値予測システム。
【請求項6】
熱間圧延工程、冷間圧延工程及び焼鈍工程を含む金属板の製造方法であって、
請求項1から5のいずれか一項に記載の材料特性値予測システムを用いて、前記熱間圧延工程における前記入力データを取得し、前記金属板の材料特性値を予測する工程を備え、
前記製造条件因子は、粗圧延率、仕上圧延率、圧延入側温度、圧延出側温度、圧延パス間温度、冷却開始時間、冷却温度、冷却速度、ライン速度及び巻取温度のうち少なくとも1つを含む、金属板の製造方法。
【請求項7】
前記設備出力因子は、加熱炉ヒーター出力、加熱炉連続出力時間、搬送ロール回転数、バーヒーター出力値、圧延荷重、上下ロール圧延荷重差、スタンド間スプレー圧力、ランナウトテーブル冷却水量及びランナウトテーブル冷却水圧のうち少なくとも1つを含む、請求項6に記載の金属板の製造方法。
【請求項8】
熱間圧延工程、冷間圧延工程及び焼鈍工程を含む金属板の製造方法であって、
請求項1から5のいずれか一項に記載の材料特性値予測システムを用いて、前記冷間圧延工程における前記入力データを取得し、前記金属板の材料特性値を予測する工程を備え、
前記製造条件因子は、圧延率、冷圧率及び摩擦係数のうち少なくとも1つを含む、金属板の製造方法。
【請求項9】
前記設備出力因子は、圧延荷重、上下ロール圧延荷重差、ロール径、ロール回転数及び潤滑条件のうち少なくとも1つを含む、請求項8に記載の金属板の製造方法。
【請求項10】
熱間圧延工程、冷間圧延工程及び焼鈍工程を含む金属板の製造方法であって、
請求項1から5のいずれか一項に記載の材料特性値予測システムを用いて、前記焼鈍工程における前記入力データを取得し、前記金属板の材料特性値を予測する工程を備え、
前記製造条件因子は、ライン速度、焼鈍温度、焼鈍時間、昇温速度、冷却温度、冷却時間、冷却速度、再加熱温度、再加熱速度及び再加熱時間のうち少なくとも1つを含む、金属板の製造方法。
【請求項11】
前記設備出力因子は、焼鈍炉出力値、冷却ガス噴射量、ガス種の分率及び合金化炉出力値のうち少なくとも1つを含む、請求項10に記載の金属板の製造方法。
【請求項12】
焼鈍工程、めっき工程及び再加熱工程を含む金属板の製造方法であって、
請求項1から5のいずれか一項に記載の材料特性値予測システムを用いて、前記焼鈍工程、前記めっき工程及び前記再加熱工程における前記入力データを取得し、前記金属板の材料特性値を予測する工程を備え、
前記製造条件因子は、ライン速度、焼鈍温度、焼鈍時間、昇温速度、冷却温度、冷却時間、冷却速度、再加熱温度、再加熱速度、再加熱時間、合金化温度、合金化時間及び露点のうち少なくとも1つを含む、金属板の製造方法。
【請求項13】
前記設備出力因子は、焼鈍炉出力値、冷却ガス噴射量、ガス種の分率及び合金化炉出力値のうち少なくとも1つを含む、請求項12に記載の金属板の製造方法。
【請求項14】
予測された前記金属板の材料特性値と所望の材料特性値とに基づき、製造条件を修正する工程を含む、請求項6から13のいずれか一項に記載の金属板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、材料特性値予測システム及び金属板の製造方法に関する。本開示は、特に、金属板の製造工程の途中において製造に関するパラメータが設定範囲から外れた場合に、最終的に所望の材料特性値が得られるように、その工程より後の工程の製造条件の適正化を可能にする、材料特性値予測システム及び金属板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板の製造工程において、成分調整後の連続鋳造工程で溶湯がスラブ(鋳片)となる。スラブは加熱されて、熱間圧延(熱延)工程で熱延鋼板となる。熱延鋼板は、冷間圧延(冷延)工程及び連続焼鈍工程を経て冷延鋼板となり得る。また、熱延鋼板は、冷間圧延工程及び連続焼鈍溶融亜鉛めっき工程を経て溶融亜鉛めっき鋼板となり得る。
【0003】
例えば鋼板などの金属板の製造では、所望の材料特性値を得るために、各工程において最適な製造条件が設定される。しかし、製鋼から焼鈍までの長い製造工程ですべての製造条件を目標通りとすることは困難である。その結果、材質のばらつきを低減することは難しかった。
【0004】
このような材質のばらつきを低減するために、特許文献1は、線形回帰モデルなどの統計確率モデルを使って製造実績から品質予測モデルを構築し、品質予測モデルによって製造する鋼の品質管理限界を決定することを開示する。
【0005】
特許文献2は、製造実績データから材質を予測するシステムを開示する。特許文献2は、事前予測モデルを学習データ(教師データ)とし、都度導出される予測モデルとの差異を求めることで、目標値からの外れ値を予測して、高精度に材質制御を行う技術を提案する。
【0006】
特許文献3は、製造実績を基にした品質予測システムで、学習用の予測モデルと、実際の対象製品の操業条件から導き出した品質予測モデルの類似度から、対象製品の品質を予測するシステムを開示する。特許文献3は、予測モデル構築に、従来の線形予測ではなく機械学習アルゴリズムを適用し、欠陥の発生確率を高度に予測する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-84057号公報
【特許文献2】特開2018-10521号公報
【特許文献3】特開2019-74969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示者が検討を重ねた結果、従来技術は以下のような課題があることがわかった。まず、特許文献1~3に記載される技術は、直接的に調整可能な製造条件だけを考慮しており、例えば気温及び水温といった外乱を考慮していない。しかし、このような外乱は最終的な製造物の材料特性値に大きく影響を及ぼす。
【0009】
また、製造設備において新規材料を用いる場合などであって、製造工程の途中で目的の材料特性値を得られないと判定されるときに、後の工程の条件を変えて目的の材料特性値に近づけたいとの要望がある。しかし、特許文献1の技術は、統計確率モデルを用いて、製品品質が目標値に一致するための高精度な製造条件目標値を製造開始前に設定するものであり、製造途中における後の工程の条件変更ができない。また、特許文献2及び特許文献3の技術は、製造途中における後の工程の条件変更を想定していない。さらに、特許文献2及び特許文献3の技術は、精度の高い予測モデルを生成するために数多くの学習データが必要である。そのため、過去の製造実績が少ない又は無いときの適用が困難である。したがって、これらの従来技術と異なる予測モデルを用いて、高精度に材料特性値を予測するシステムが求められている。また、同一規格の材料を異なる日に製造することもあり、気温などの外乱因子により材料特性値がばらつくことがある。
【0010】
かかる点に鑑みてなされた本開示の目的は、材料特性値を高精度に予測可能な材料特性値予測システムを提供することにある。また、本開示の他の目的は、その材料特性値予測システムが予測した材料特性値に基づいて後の工程の製造条件を適切に変更することによって、製品の歩留まりを向上させることが可能な金属板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一実施形態に係る材料特性値予測システムは、
金属板を製造する設備における設備出力因子、外乱因子及び製造中の前記金属板の成分値を含む入力データを取得し、前記入力データを入力する予測モデルを用いて、製造される前記金属板の材料特性値を予測する、材料特性値予測部を備え、
前記予測モデルは、
前記入力データを入力して製造条件因子を出力する、機械学習によって生成された機械学習モデルと、
前記製造条件因子を入力して前記材料特性値を出力する金属学モデルと、
を含む。
【0012】
本開示の一実施形態に係る金属板の製造方法は、
熱間圧延工程、冷間圧延工程及び焼鈍工程を含む金属板の製造方法であって、
上記の材料特性値予測システムを用いて、前記熱間圧延工程における前記入力データを取得し、前記金属板の材料特性値を予測する工程を備え、
前記製造条件因子は、粗圧延率、仕上圧延率、圧延入側温度、圧延出側温度、圧延パス間温度、冷却開始時間、冷却温度、冷却速度、ライン速度及び巻取温度のうち少なくとも1つを含む。
【0013】
また、本開示の一実施形態に係る金属板の製造方法は、
熱間圧延工程、冷間圧延工程及び焼鈍工程を含む金属板の製造方法であって、
上記の材料特性値予測システムを用いて、前記冷間圧延工程における前記入力データを取得し、前記金属板の材料特性値を予測する工程を備え、
前記製造条件因子は、圧延率、冷圧率及び摩擦係数のうち少なくとも1つを含む。
【0014】
また、本開示の一実施形態に係る金属板の製造方法は、
熱間圧延工程、冷間圧延工程及び焼鈍工程を含む金属板の製造方法であって、
上記の材料特性値予測システムを用いて、前記焼鈍工程における前記入力データを取得し、前記金属板の材料特性値を予測する工程を備え、
前記製造条件因子は、ライン速度、焼鈍温度、焼鈍時間、昇温速度、冷却温度、冷却時間、冷却速度、再加熱温度、再加熱速度及び再加熱時間のうち少なくとも1つを含む。
【0015】
また、本開示の一実施形態に係る金属板の製造方法は、
焼鈍工程、めっき工程及び再加熱工程を含む金属板の製造方法であって、
上記の材料特性値予測システムを用いて、前記焼鈍工程、前記めっき工程及び前記再加熱工程における前記入力データを取得し、前記金属板の材料特性値を予測する工程を備え、
前記製造条件因子は、ライン速度、焼鈍温度、焼鈍時間、昇温速度、冷却温度、冷却時間、冷却速度、再加熱温度、再加熱速度、再加熱時間、合金化温度、合金化時間及び露点のうち少なくとも1つを含む。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、材料特性値を高精度に予測可能な材料特性値予測システムを提供することができる。本開示によれば、その材料特性値予測システムが予測した材料特性値に基づいて後の工程の製造条件を適切に変更することによって、製品の歩留まりを向上させることが可能な金属板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、材料特性値予測システムの構成例を示す図である。
図2図2は、材料特性値予測システムの別の構成例を説明するための図である。
図3図3は、情報処理装置のブロック図である。
図4図4は、予測モデルを用いた材料特性値の予測の流れを示す図である。
図5図5は、予測モデルを用いた熱延鋼板の引張強さの予測の流れを示す図である。
図6図6は、金属板の製造において実行される材料特性値の予測に関する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(材料特性値予測システムの構成)
図1は、本開示の一実施形態に係る、例えば鉄鋼における材料特性値予測システム100の構成例を示す。材料特性値予測システム100は、金属板の製造で使用される情報処理装置10を備えて構成される。情報処理装置10は、操業を統括するプロセスコンピュータであってよい。図1の例において、鋼板をコイル状に巻いた鋼帯9が製造物であるが、製造物は鋼帯9に限られない。例えば製造物は鉄鋼材料である金属の平板であってよい。つまり、材料特性値予測システム100は、広義の金属板の製造方法で用いられ得る。また、鉄鋼材料は炭素鋼であってよいし、合金鋼であってよい。また、金属板は鉄鋼に限定されず、例えばアルミ合金、銅、チタン、マグネシウム等を素材としてよい。
【0019】
図1に示すように材料特性値予測システム100は、転炉1と、連続鋳造機2と、加熱炉3と、スケールブレーカー4と、粗圧延機5と、仕上圧延機6と、冷却装置7と、巻取装置8と、鋼帯9と、情報処理装置10とを含む。
【0020】
製造工程において、まず原料の鉄鉱石は、石灰石及びコークスとともに高炉に装入され、溶融状態の銑鉄が生成される。高炉で出銑された銑鉄に対して転炉1において炭素等の成分調整が行われ、二次精錬により最終的な成分調整がなされる。連続鋳造機2では、精錬された鉄鋼を鋳造して鋳片(スラブ)と呼ばれる中間素材を製造する。その後、加熱炉3における加熱工程によりスラブを加熱し、粗圧延機5と仕上圧延機6による熱間圧延工程、冷却装置7による冷却工程、巻取装置8を経て、鋼帯9が製造される。製造工程は、冷却工程の後に、適宜、酸洗工程、冷間圧延工程、焼鈍工程、スキンパス工程及び検査工程等の処理工程を含んでよい。
【0021】
ここで、材料特性値予測システム100は、図1と異なる金属板の製造設備を備えて構成されてよい。材料特性値予測システム100は、例えば図2に示すように、溶融亜鉛めっき鋼板を製造するための連続焼鈍設備(以下、溶融めっきライン)を備えてよい。図2の溶融めっきラインは、冷間圧延された鋼板を溶融亜鉛めっき鋼板にする。
【0022】
溶融めっきラインは、焼鈍部として、加熱帯11、均熱帯12及び冷却帯13を有する。溶融めっきラインにおける焼鈍工程とは、焼鈍部で実行される熱処理工程であって、鋼板を室温付近から昇温させ、所定の温度に保持した後、亜鉛めっきを行うのに適した温度まで鋼板の温度を低下させる。
【0023】
また、溶融めっきラインでは、焼鈍部の下流側にめっき部を有する。溶融めっきラインは、めっき部として、スナウト14、亜鉛めっき槽15及びワイピング装置16を有する。溶融めっきラインにおけるめっき工程とは、めっき部で実行される鋼板に適量のめっきを付着させる工程である。
【0024】
また、溶融めっきラインでは、めっき部の下流側に再加熱部を有する。溶融めっきラインは、再加熱部として、合金化帯17、保熱帯18、最終冷却帯19を有する。溶融めっきラインにおける再加熱工程とは、再加熱部で実行される熱処理工程である。
【0025】
加熱帯11は、鋼板を昇温させるための設備であり、鋼種によって650~950℃程度の範囲で予め設定された温度まで加熱する。均熱帯12は、鋼板を所定温度に保持する設備である。冷却帯13は、亜鉛めっきを行うのに適した温度として450℃程度まで冷却する設備である。
【0026】
スナウト14は、内部に水素、窒素、水蒸気を含む混合ガスが供給され、鋼板が亜鉛めっき槽15に浸漬されるまでの雰囲気ガスを調整する。亜鉛めっき槽15は、内部にシンクロールを有し、スナウト14を通過した鋼板を下方に向けて浸漬し、表面に溶融亜鉛が付着した鋼板をめっき浴の上方に引き上げる。ワイピング装置16は、鋼板の両側に配置されたノズルからワイピングガスを吹き付けて、鋼板の表面に付着した余剰の溶融亜鉛を掻き取り、溶融亜鉛の付着量(目付量)を調節する。
【0027】
合金化帯17は、ワイピング装置16を通過した鋼板を、Zn-Fe合金化反応が進行する温度(通常、500℃程度)まで昇温する。保熱帯18は、合金化反応の進行に必要な時間を確保するために、鋼板の温度を保持する。最終冷却帯19は、合金化処理を行った鋼板を室温付近まで最終冷却する。
【0028】
このように、材料特性値予測システム100は、例えば熱間圧延工程、冷間圧延工程及び焼鈍工程を含む金属板の製造設備を備えて構成され得る。また、材料特性値予測システム100は、例えば焼鈍工程、めっき工程及び再加熱工程を含む金属板の製造設備を備えて構成され得る。
【0029】
(情報処理装置の構成)
図3は情報処理装置10のブロック図を示す。情報処理装置10は、制御部110と、記憶部120と、通信部130と、入力部140と、出力部150とを備える。情報処理装置10は、製造物の所望の材料特性値に基づき必要な製造条件を算出して、各製造装置に対して製造条件因子を設定する。材料特性値は、製造物の強度及び外力等への抵抗性などの物理的特性を示す値である。材料特性値の一例として引張強さが挙げられる。また、製造条件因子は、製造物を製造する工程で調整可能なパラメータ(製造パラメータ)である。製造条件因子の一例として圧延率が挙げられる。
【0030】
本実施形態において、情報処理装置10は、機械学習によって生成された機械学習モデルと金属学モデルとを含む予測モデル122を生成する。情報処理装置10は、予測モデル122を用いて材料特性値を予測する材料特性値予測装置として機能する。また、情報処理装置10は、予測した材料特性値に基づいて、後の工程の製造条件因子を修正することができる。予測モデル122の詳細及び材料特性値の予測の流れについては後述する。
【0031】
制御部110には、少なくとも1つのプロセッサ、少なくとも1つの専用回路又はこれらの組み合わせが含まれる。プロセッサは、CPU(central processing unit)等の汎用プロセッサ又は特定の処理に特化した専用プロセッサである。専用回路は、例えば、FPGA(field-programmable gate array)又はASIC(application specific integrated circuit)である。制御部110は、情報処理装置10の各部を制御しながら、情報処理装置10の動作に関わる処理を実行する。
【0032】
本実施形態において、制御部110は材料特性値予測部111を備える。材料特性値予測部111は、金属板を製造する設備における設備出力因子、外乱因子及び製造中の金属板の成分値を含む入力データを取得し、入力データを入力する予測モデル122を用いて、製造される金属板の材料特性値を予測する。
【0033】
記憶部120には、少なくとも1つの半導体メモリ、少なくとも1つの磁気メモリ、少なくとも1つの光メモリ又はこれらのうち少なくとも2種類の組み合わせが含まれる。半導体メモリは、例えばRAM(random access memory)又はROM(read only memory)である。RAMは、例えばSRAM(static random access memory)又はDRAM(dynamic random access memory)である。ROMは、例えばEEPROM(electrically erasable programmable read only memory)である。記憶部120は、例えば、主記憶装置、補助記憶装置又はキャッシュメモリとして機能する。記憶部120には、情報処理装置10の動作に用いられるデータと、情報処理装置10の動作によって得られたデータとが記憶される。例えば記憶部120は実績データベース121及び予測モデル122を記憶する。実績データベース121は製造設備及びそれを用いた操業に関する様々な測定値及び設定値を記憶する。実績データベース121に記憶される測定値及び設定値は、情報処理装置10が予測モデル122を生成するための学習データとして用いられるものを含む。
【0034】
通信部130には、少なくとも1つの通信用インタフェースが含まれる。通信用インタフェースは、例えばLANインタフェース、WANインタフェース、LTE(Long Term Evolution)、4G(4th generation)又は5G(5th generation)等の移動通信規格に対応したインタフェース又はBluetooth(登録商標)等の近距離無線通信に対応したインタフェースである。通信部130は、情報処理装置10の動作に用いられるデータを受信する。また、通信部130は、情報処理装置10の動作によって得られるデータを送信する。
【0035】
入力部140には、少なくとも1つの入力用インタフェースが含まれる。入力用インタフェースは、例えば物理キー、静電容量キー、ポインティングデバイス、ディスプレイと一体的に設けられたタッチスクリーン又はマイクである。入力部140は、情報処理装置10の動作に用いられるデータを入力する操作を受け付ける。入力部140は、情報処理装置10に備えられる代わりに、外部の入力機器として情報処理装置10に接続されてよい。接続方式としては、例えばUSB(Universal Serial Bus)、HDMI(登録商標)(High-Definition Multimedia Interface)又はBluetooth(登録商標)等の任意の方式を用いることができる。
【0036】
出力部150には、少なくとも1つの出力用インタフェースが含まれる。出力用インタフェースは、例えば、ディスプレイ又はスピーカである。ディスプレイは、例えば、LCD(liquid crystal display)又は有機EL(electro luminescence)ディスプレイである。出力部150は、情報処理装置10の動作によって得られるデータを出力する。出力部150は、情報処理装置10に備えられる代わりに、外部の出力機器として情報処理装置10に接続されてよい。接続方式としては、例えば、USB、HDMI(登録商標)又はBluetooth(登録商標)等の任意の方式を用いることができる。
【0037】
情報処理装置10の機能は、本実施形態に係るプログラムを、制御部110に相当するプロセッサで実行することにより実現される。すなわち、情報処理装置10の機能は、ソフトウェアにより実現される。プログラムは、情報処理装置10の動作をコンピュータに実行させることで、コンピュータを情報処理装置10として機能させる。
【0038】
ここで、情報処理装置10の一部又は全ての機能が、制御部110に相当する専用回路により実現されてよい。すなわち、情報処理装置10の一部又は全ての機能が、ハードウェアにより実現されてよい。
【0039】
(予測モデル)
図4は、予測モデル122を用いた材料特性値の予測の流れを示す図である。本開示者が予測モデル122に関して鋭意検討を重ねた結果、金属学パラメータを実操業パラメータへ変換した、金属学と操業実績のハイブリッドパラメータを用いることにより、材料特性値の予測精度を向上できることがわかった。
【0040】
情報処理装置10が材料特性値を予測するために用いる予測モデル122は、機械学習モデルと金属学モデルとを含んで構成される。本実施形態において、機械学習モデルは、設備出力因子、外乱因子及び製造中の金属板の成分値を含む入力データを入力して、製造条件因子を出力する。製造条件因子は、上記のとおり、製造物を製造する工程で調整可能なパラメータである。本実施形態において、製造条件因子は、金属板の製造工程の一部の工程の製造条件を示し、どの工程を対象とするかによって内容が異なる。製造条件因子の具体例については後述する。機械学習モデルは、機械学習によって生成され、例えば外乱因子を含む学習データを用いることで、製造条件因子に対する外乱因子の影響を反映することができる。機械学習モデルは、金属板を製造する製造設備の操業に関する実操業パラメータ、操業実績のパラメータ及び製造条件因子の関係を精度よく示すことができる。
【0041】
また、本実施形態において、金属学モデルは、製造条件因子を入力して材料特性値を出力する。材料特性値は、引張強さ、降伏強さ、伸び、穴広げ率、曲げ性、r値、硬さ、疲労特性、衝撃値、遅れ破壊値、摩耗値、化成処理性、高温特性、低温靭性、耐食性、磁気特性及び表面性状のうち少なくとも1つを含んでよい。金属学モデルは、金属の物理化学現象に基づく予測式である。ここで、金属学モデルは、複数のモデルで構成されてよい。例えば、金属学モデルは、製造条件因子を入力して金属学現象因子を出力する第1の金属学モデルと、その金属学現象因子を入力して材料特性値を出力する第2の金属学モデルと、を含んでよい。金属学現象因子は、体積分率、表面性状、析出物寸法、析出物密度、析出物形状、析出物分散状態、再結晶率、相分率、結晶粒形状、集合組織、残留応力、転位密度及び結晶粒径のうち少なくとも1つを含んでよい。金属学現象が実測できる場合は、金属学現象因子実測値を用いてよい。金属学現象を測定する方法としては、例えばインラインX線測定器、超音波探傷測定器、磁気測定器などが挙げられる。
【0042】
金属学モデルは、物理化学現象の理論式に基づいて、金属学現象を高精度に示す。金属学モデルは、さらに製造装置の操業実績に基づく経験則を反映するものであってよい。金属学モデルは、金属学パラメータ、製造条件因子及び材料特性値の関係を精度よく示すことができる。また、金属学モデルは、機械学習によらずに生成されるものであり、学習データの数の多少によって精度が変化するものではない。よって、過去の製造実績が少ない又は無いときであっても、金属学モデルを用いて逆解析を行うことによって、製造条件因子の調整を正確に行うことが可能である。逆解析では、例えば、製造条件因子を入力値として構築した金属学モデルによる材料特性値の予測モデルに、モデルの適用範囲でランダムに入力値を与え、材料特性値を推定し目標の材料特性値に近い入力値を最適な製造条件因子とする。
【0043】
図5は、予測モデル122を用いた熱延鋼板の引張強さの予測の流れを示す図である。例えば、製鋼工程で製造されたスラブを熱間圧延工程、冷間圧延工程及び焼鈍工程で処理して最終的に鋼板を製造する過程の途中で、図5に示される引張強さの予測が実行される。
【0044】
材料特性値予測システム100の情報処理装置10は、スラブの成分が設定範囲から外れていると判定した場合に、その後の熱間圧延工程における設備出力因子、外乱因子及び熱延鋼板の成分値を含む入力データを取得する。設備出力因子は、例えば熱間圧延工程における加熱炉ヒーター出力、加熱炉連続出力時間、搬送ロール回転数、バーヒーター出力値、圧延荷重、上下ロール圧延荷重差、スタンド間スプレー圧力、ランナウトテーブル冷却水量及びランナウトテーブル冷却水圧の少なくとも1つを含む。外乱因子は、例えば熱間圧延工程における冷却水温及び気温の少なくとも1つを含む。成分値は、例えば熱延鋼板について測定されたC、Si、Mn、P、S、Al、N、O、Ca、Ni、B、Ti、Nb、Mo、Cr、Sn、W及びTaの少なくとも1つの値を含む。ここで、外乱因子は、例えば、熱延工程での冷却水温、気温、さらに各工程を通過する際の予想される気温などが用いられてよい。また、成分値は、製鋼工程の値が使用されてよい。
【0045】
情報処理装置10は、機械学習モデルに入力データを入力して、製造条件因子を得る。図5の例において、機械学習モデルは熱間圧延工程において設定可能な製造条件因子を出力する。製造条件因子は、例えば熱間圧延工程における粗圧延率、仕上圧延率、圧延入側温度、圧延出側温度、冷却開始時間、冷却速度、ライン速度及び巻取温度のうち少なくとも1つを含む。
【0046】
情報処理装置10は、金属学モデルに製造条件因子を入力して、予測値である鋼板の引張強さを得る。図5の例において、金属学モデルは、製造条件因子を入力して金属学現象因子を出力する第1の金属学モデルと、金属学現象因子を入力して材料特性値を出力する第2の金属学モデルと、を含む。第1の金属学モデルは、例えばZener-Hollomon則をベースとしたモデルである。第2の金属学モデルは、例えばHall-Petch則をベースとしたモデルである。
【0047】
Zener-Hollomon則とは、金属が高温で加工された際の金属組織の再結晶を推定する経験則である。本開示では、入力値に製造実績値を用いたZener-Hollomon則をベースとした改良モデルにより金属学現象因子、例えば結晶粒径を出力する。
【0048】
Hall-Petch則とは、金属組織の結晶粒径から材料強度を推定する経験則である。本開示では、入力値に製造実績値を用いたHall-Petch則をベースとした改良モデルにより金属組織の結晶粒径から引張強さを出力する。
【0049】
機械学習モデル及び金属学モデルを含む予測モデル122は、金属板の製造設備の工程に合わせて生成される。図5は、熱間圧延工程における予測モデル122の例である。例えば冷間圧延工程及び焼鈍工程について、それぞれ異なる予測モデル122が用意される。
【0050】
熱間圧延工程の後の冷間圧延工程における予測モデル122は、例えば熱間圧延工程が実行されて熱延鋼板の圧延条件が設定範囲から外れていると判定された場合に、材料特性値の予測に用いられる。このとき、情報処理装置10は冷間圧延工程における入力データを取得する。機械学習モデルに入力される設備出力因子は、例えば冷間圧延工程における圧延荷重、上下ロール圧延荷重差、ロール径、ロール回転数及び潤滑条件の少なくとも1つを含む。また、機械学習モデルが出力する製造条件因子は、例えば冷間圧延工程における圧延率、冷圧率及び摩擦係数のうち少なくとも1つを含む。
【0051】
また、冷間圧延工程の後の焼鈍工程における予測モデル122は、例えば冷間圧延工程が実行されて冷延鋼板の圧延条件が設定範囲から外れていると判定された場合に、材料特性値の予測に用いられる。このとき、情報処理装置10は焼鈍工程における入力データを取得する。機械学習モデルに入力される設備出力因子は、例えば焼鈍工程における焼鈍炉出力値、冷却ガス噴射量、ガス種の分率及び合金化炉出力値のうち少なくとも1つを含む。また、機械学習モデルが出力する製造条件因子は、例えば焼鈍工程におけるライン速度、焼鈍温度、焼鈍時間、昇温速度、冷却温度、冷却時間、冷却速度、再加熱温度、再加熱速度及び再加熱時間のうち少なくとも1つを含む。
【0052】
また、例えば製鋼工程で製造されたスラブを熱間圧延工程、冷間圧延工程、焼鈍工程、めっき工程及び再加熱工程で処理して最終的にめっき鋼板を製造する過程の途中でも、引張強さの予測が実行され得る。
【0053】
予測モデル122は、例えばスラブの成分が設定範囲から外れていると判定された場合に、めっき鋼板の材料特性値の予測に用いられる。このとき、情報処理装置10は製鋼工程よりも後の工程、すなわち焼鈍工程、めっき工程及び再加熱工程における入力データを取得する。機械学習モデルに入力される設備出力因子は、例えば焼鈍炉出力値、冷却ガス噴射量、ガス種の分率及び合金化炉出力値の少なくとも1つを含む。また、機械学習モデルが出力する製造条件因子は、例えばライン速度、焼鈍温度、焼鈍時間、昇温速度、冷却温度、冷却時間、冷却速度、再加熱温度、再加熱速度、再加熱時間、合金化温度、合金化時間及び露点のうち少なくとも1つを含む。この例において、入力データは、製鋼工程の後の複数の工程の設備出力因子、すなわち焼鈍工程の設備出力因子、めっき工程の設備出力因子及び再加熱工程の設備出力因子を含む。また、機械学習モデルの出力は、製鋼工程の後の複数の工程の製造条件因子、すなわち焼鈍工程の製造条件因子、めっき工程の製造条件因子及び再加熱工程の製造条件因子を含む。機械学習モデルは、後の工程に関する入力データから後の工程に関する製造条件因子を出力するが、後の工程が1つの工程であってよいし、この例のように複数の工程であってよい。
【0054】
(機械学習モデルの生成)
情報処理装置10は、上記の予測を実行する前に、実績データベース121から学習データを取得し、学習データを用いて機械学習モデルを生成する。学習データは、機械学習モデルが用いられる金属板の製造方法の工程に応じて選択される。例えば熱間圧延工程を対象とする機械学習モデルを生成するための学習データは、入力として、加熱炉ヒーター出力、加熱炉連続出力時間、搬送ロール回転数、バーヒーター出力値、圧延荷重、上下ロール圧延荷重差、スタンド間スプレー圧力、ランナウトテーブル冷却水量及びランナウトテーブル冷却水圧を含み、出力として、粗圧延率、仕上圧延率、圧延入側温度、圧延出側温度、圧延パス間温度、冷却開始時間、冷却温度、冷却速度、ライン速度及び巻取温度を含むものが選択されてよい。例えば冷間圧延工程を対象とする機械学習モデルを生成するための学習データは、入力として圧延荷重、上下ロール圧延荷重差、ロール径、ロール回転数及び潤滑条件を含み、出力として圧延率、冷圧率及び摩擦係数を含むものが選択されてよい。例えば冷延鋼板の製造工程を対象とする機械学習モデルを生成するための学習データは、入力として、焼鈍炉出力値及び冷却ガス噴射量を含み、出力として、ライン速度、焼鈍温度、焼鈍時間、昇温速度、冷却温度、冷却時間、冷却速度、再加熱温度、再加熱速度及び再加熱時間を含むものが選択されてよい。例えばめっき鋼板の製造工程を対象とする機械学習モデルを生成するための学習データは、入力として焼鈍炉出力値、冷却ガス噴射量、ガス種の分率及び合金化炉出力値を含み、出力としてライン速度、焼鈍温度、焼鈍時間、昇温速度、冷却温度、冷却時間、冷却速度、再加熱温度、再加熱速度、再加熱時間、合金化温度、合金化時間及び露点を含むものが選択されてよい。
【0055】
ここで、全ての学習データは、入力として少なくとも1つの外乱因子を含む。そのため、機械学習モデルは、製造物の材料特性値に影響を及ぼす外乱を考慮したものになる。また、全ての学習データの入力は少なくとも1つの成分値を含む。このような学習データを用いて機械学習モデルを生成する手法は、例えばニューラルネットワークであってよいが、これに限定されない。別の例として、決定木又はランダムフォレスト等の手法によって機械学習モデルが生成されてよい。
【0056】
(金属板の製造方法)
金属板の製造方法は、上記の材料特性値予測システム100を用いて、金属板の材料特性値を予測する工程を含んで実行され得る。図6は、金属板の製造において実行される材料特性値の予測に関する処理を示すフローチャートである。
【0057】
材料特性値予測システム100は、実行された金属板の製造工程が検証対象工程でなければ待機し(ステップS1のNo)、検証対象工程であればステップS2の処理に進む(ステップS1のYes)。ここで、検証対象工程は、金属板の製造工程から選択される一部の工程であって、ステップS2の判定を実行する工程である。例えば、金属板の製造工程が製鋼工程、熱間圧延工程、第1の酸洗工程、冷間圧延工程、焼鈍工程、第2の酸洗工程、スキンパス工程、検査工程及び出荷工程で構成される場合に、検証対象工程は、製鋼工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程及び焼鈍工程であってよい。検証対象工程は、このように複数であってよいし、1つであってよい。また、検証対象工程は、複数の製造条件因子を有すること、すなわち複数のパラメータで製造条件を調整可能であることを条件に選択されてよい。
【0058】
材料特性値予測システム100は、検証対象工程に関するパラメータが設定範囲を外れていなければステップS1の処理に戻り(ステップS2のNo)、パラメータが設定範囲を外れていればステップS3の処理に進む(ステップS2のYes)。ここで、検証対象工程に関するパラメータは、最終的な製造物の材料特性値が目標(所望の材料特性値)の範囲から外れることを予測させ得る、製造途中の製造物の測定値又は製造設備の測定値である。例えば、検証対象工程である製鋼工程が実行された場合に、パラメータはスラブのCの成分の測定値であってよい。そして、スラブのCの成分の測定値が、通常の基準値から誤差の範囲を大きく超えて外れている場合に、材料特性値予測システム100はステップS3の処理に進んでよい。
【0059】
材料特性値予測システム100は、上記のように、予測モデル122を用いて材料特性値を予測する(ステップS3)。ここで、材料特性値予測システム100は、製造途中の製造物に異常があると判定する場合にだけ材料特性値を予測する。換言すると、製造条件に問題がないと判定される場合には、材料特性値の予測演算を実行せず、後述する製造条件の修正も行わない。そのため、効率的に金属板の製造を進めることができる。
【0060】
材料特性値予測システム100は、予測された材料特性値と所望の材料特性値とに基づき、金属学モデルを用いて、後の工程の製造条件因子を算出する(ステップS4)。材料特性値予測システム100は、金属学モデルを用いて逆解析を行って、例えば予測された材料特性値と所望の材料特性値との差異を小さくするための製造条件因子の修正値を算出する。例えば、製鋼工程が実行されてスラブの成分が設定範囲を外れた場合に、材料特性値予測システム100は、その後の工程である熱間圧延工程における予測モデル122を用いて、最終的な製造物の材料特性値を予測してよい。そして、材料特性値予測システム100は、予測された材料特性値を製造当初の目標値に近づけるために、金属学モデルを逆解析して熱間圧延工程の製造条件因子の修正値を算出してよい。
【0061】
材料特性値予測システム100は、ステップS4で算出した値に基づいて、後の工程の製造条件を修正する(ステップS5)。その後、材料特性値予測システム100はステップS1の処理に戻り、次の検証対象工程で同様の処理を実行する。例えば上記のように熱間圧延工程の製造条件が修正されて、検証対象工程である熱間圧延工程が実行された場合に、一連の処理が実行されてよい。修正された製造条件でも熱延鋼板の成分が設定範囲を外れている場合に、材料特性値予測システム100は、その後の工程である冷間圧延工程における予測モデル122を用いて、最終的な製造物の材料特性値を予測してよい。そして、材料特性値予測システム100は、予測された材料特性値を製造当初の目標値に近づけるために、金属学モデルを逆解析して冷間圧延工程の製造条件因子の修正値を算出してよい。材料特性値予測システム100は、修正値に基づいて冷間圧延工程の製造条件を修正してよい。
【0062】
以上のように、本実施形態に係る材料特性値予測システム100は、上記の構成によって、最終的な製造物の材料特性値に大きく影響を及ぼす外乱を考慮した予測モデル122を用いて、材料特性値を高精度に予測することができる。また、本実施形態に係る金属板の製造方法は、材料特性値予測システム100が予測した材料特性値に基づいて後の工程の製造条件を適切に変更することによって、製品の歩留まりを向上させることが可能である。
【0063】
本開示を図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形及び修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各手段、各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段及びステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0064】
ここで、材料特性値予測システム100を用いて製造される金属板は、特定の分野で使用されるものに限定されない。つまり、材料特性値予測システム100を用いて製造される金属板は、自動車、建機、電車、列車等の輸送機器、医療、食料及び家電など幅広く使用されるものである。
【0065】
また、上記の実施形態において、気温及び冷却水などの水温の予期できない変化を外乱として例示したが、外乱はこれらに限定されない。
【符号の説明】
【0066】
1 転炉
2 連続鋳造機
3 加熱炉
4 スケールブレーカー
5 粗圧延機
6 仕上圧延機
7 冷却装置
8 巻取装置
9 鋼帯
10 情報処理装置
11 加熱帯
12 均熱帯
13 冷却帯
14 スナウト
15 亜鉛めっき槽
16 ワイピング装置
17 合金化帯
18 保熱帯
19 最終冷却帯
100 材料特性値予測システム
110 制御部
111 材料特性値予測部
120 記憶部
121 実績データベース
122 予測モデル
130 通信部
140 入力部
150 出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6