IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本オクラロ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-半導体光素子 図1
  • 特開-半導体光素子 図2
  • 特開-半導体光素子 図3
  • 特開-半導体光素子 図4
  • 特開-半導体光素子 図5
  • 特開-半導体光素子 図6
  • 特開-半導体光素子 図7
  • 特開-半導体光素子 図8
  • 特開-半導体光素子 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022048060
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】半導体光素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/343 20060101AFI20220317BHJP
   H01S 5/227 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
H01S5/343
H01S5/227
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020188541
(22)【出願日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】P 2020153686
(32)【優先日】2020-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301005371
【氏名又は名称】日本ルメンタム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅 一輝
(72)【発明者】
【氏名】中原 宏治
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AA05
5F173AB03
5F173AB13
5F173AF04
5F173AF22
5F173AF29
5F173AF40
5F173AF52
5F173AH14
5F173AJ13
5F173AJ23
5F173AR36
(57)【要約】
【課題】f3dB帯域の向上とロールオフの低減の両立を目的とする。
【解決手段】半導体光素子は、交互に重なる複数の井戸層36及び複数の障壁層38を含み、複数の障壁層38のそれぞれはアンドープ層であり、最外層40が複数の障壁層38の1つである多重量子井戸層26と、最外層40よりも屈折率において大きく、最外層40よりもバンドギャップにおいて小さい光閉じ込め層30と、多重量子井戸層26と光閉じ込め層30の間に介在し、最外層40に接触する第1隣接層42を含み、光閉じ込め層30よりも薄くなっているガイド層28と、を有する。光閉じ込め層30及びガイド層28のそれぞれは、n型半導体層である。ガイド層28の第1隣接層42は、光閉じ込め層30よりもバンドギャップにおいて大きい。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交互に重なる複数の井戸層及び複数の障壁層を含み、前記複数の障壁層のそれぞれはアンドープ層であり、最外層が前記複数の障壁層の1つである多重量子井戸層と、
前記最外層よりも屈折率において大きく、前記最外層よりもバンドギャップにおいて小さい光閉じ込め層と、
前記多重量子井戸層と前記光閉じ込め層の間に介在し、前記最外層に接触する第1隣接層を含み、前記光閉じ込め層よりも薄くなっているガイド層と、
を有し、
前記光閉じ込め層及び前記ガイド層のそれぞれは、n型半導体層であり、
前記ガイド層の前記第1隣接層は、前記光閉じ込め層よりも前記バンドギャップにおいて大きい半導体光素子。
【請求項2】
請求項1に記載された半導体光素子であって、
前記ガイド層の前記第1隣接層は、前記多重量子井戸層の前記最外層と、前記バンドギャップにおいて等しい半導体光素子。
【請求項3】
請求項1に記載された半導体光素子であって、
前記ガイド層の前記第1隣接層は、前記多重量子井戸層の前記最外層よりも、前記バンドギャップにおいて小さい半導体光素子。
【請求項4】
請求項1に記載された半導体光素子であって、
前記ガイド層の前記第1隣接層は、前記多重量子井戸層の前記最外層よりも、前記バンドギャップにおいて大きい半導体光素子。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載された半導体光素子であって、
前記ガイド層は、前記第1隣接層のみからなる半導体光素子。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載された半導体光素子であって、
前記ガイド層は、前記最外層に接触する前記第1隣接層と、前記光閉じ込め層に接触する第2隣接層と、を含む複数層からなり、
前記第2隣接層は、前記光閉じ込め層よりも、前記バンドギャップにおいて大きい半導体光素子。
【請求項7】
請求項6に記載された半導体光素子であって、
前記第2隣接層は、前記多重量子井戸層の前記最外層よりも、前記バンドギャップにおいて小さい半導体光素子。
【請求項8】
請求項6に記載された半導体光素子であって、
前記第2隣接層は、前記多重量子井戸層の前記最外層と、前記バンドギャップにおいて等しい半導体光素子。
【請求項9】
請求項6から8のいずれか1項に記載された半導体光素子であって、
前記ガイド層を構成する前記複数層は、前記第1隣接層と前記第2隣接層の間に、少なくとも1つの中間層をさらに含む半導体光素子。
【請求項10】
請求項9に記載された半導体光素子であって、
前記少なくとも1つの中間層は、前記光閉じ込め層と、前記バンドギャップにおいて等しい半導体光素子。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載された半導体光素子であって、
伝導帯のエネルギー準位において、前記第1隣接層と前記最外層との差は、前記光閉じ込め層と前記最外層との差の半分以下である半導体光素子。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか1項に記載された半導体光素子であって、
伝導帯のエネルギー準位において、前記第1隣接層と前記最外層との差は、前記光閉じ込め層と前記最外層との差の1/3以下である半導体光素子。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載された半導体光素子であって、
伝導帯のエネルギー準位において、前記第1隣接層と前記光閉じ込め層との差は、0.6eV以下である半導体光素子。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載された半導体光素子であって、
前記ガイド層の厚みは、前記多重量子井戸層の厚みの半分以下である半導体光素子。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載された半導体光素子であって、
前記光閉じ込め層の厚みは、前記多重量子井戸層の厚みの半分以上である半導体光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信に用いられる半導体光素子では、活性層に多重量子井戸層が用いられる。キャリアと光の閉じ込めを別々にした分離閉じ込めヘテロ構造(Separate Confinement Heterostructure: SCH)では、多重量子井戸層は、SCH層で挟まれる。近年の高速化への要求に応えるために、多重量子井戸層への光閉じ込め係数を大きくし、緩和振動周波数(fr)を大きくし、f3dB帯域を向上させることが期待されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-56212号公報
【特許文献2】特開平7-183617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多重量子井戸層自体の屈折率を大きくすれば、多重量子井戸層の光閉じ込め係数をより大きくすることができるが、光出力特性や利得特性などの特性に影響を与えてしまう。あるいは、SCH層の屈折率を大きくすれば、上下のSCH層を含む領域の光閉じ込め係数が大きくなるので、多重量子井戸層への光閉じ込め係数が大きくなる。しかし、SCH層と多重量子井戸層(バリア層)との間にエネルギー障壁が生じる。特に、n型SCH層の側でその影響は大きく、エネルギー障壁により電子が停留し、低域での電子のフローが低下する。
【0005】
特許文献2には、電子の停留を利用してキャリア捕獲時間を大きくし、周波数変調効率の増大を図ることが開示されている。しかし、強度変調において当該電子の停留は、低域における電気/光応答特性の劣化(ロールオフ)へとつながり好ましくない。
【0006】
本発明は、f3dB帯域の向上とロールオフの低減の両立を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
半導体光素子は、交互に重なる複数の井戸層及び複数の障壁層を含み、前記複数の障壁層のそれぞれはアンドープ層であり、最外層が前記複数の障壁層の1つである多重量子井戸層と、前記最外層よりも屈折率において大きく、前記最外層よりもバンドギャップにおいて小さい光閉じ込め層と、前記多重量子井戸層と前記光閉じ込め層の間に介在し、前記最外層に接触する第1隣接層を含み、前記光閉じ込め層よりも薄くなっているガイド層と、を有し、前記光閉じ込め層及び前記ガイド層のそれぞれは、n型半導体層であり、前記ガイド層の前記第1隣接層は、前記光閉じ込め層よりも前記バンドギャップにおいて大きい。
【0008】
本発明によれば、光閉じ込め層に光が閉じ込められ、結果的に、多重量子井戸層への光閉じ込め係数を増大させることができる。また、ガイド層があることで、アンドープ層とn型半導体層との間のエネルギー障壁が小さくなり、電子の停留を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態に係る半導体光素子の平面図である。
図2図1に示す半導体光素子のII-II線断面図である。
図3】第1の実施形態における多重量子井戸層、ガイド層及び光閉じ込め層のバンドダイアグラムである。
図4】第2の実施形態における多重量子井戸層、ガイド層及び光閉じ込め層のバンドダイアグラムである。
図5】第3の実施形態における多重量子井戸層、ガイド層及び光閉じ込め層のバンドダイアグラムである。
図6】第4の実施形態における多重量子井戸層、ガイド層及び光閉じ込め層のバンドダイアグラムである。
図7】第5の実施形態における多重量子井戸層、ガイド層及び光閉じ込め層のバンドダイアグラムである。
図8】第6の実施形態に係る半導体光素子の断面図である。
図9】第6の実施形態における多重量子井戸層、ガイド層及び光閉じ込め層のバンドダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図面を参照して、本発明の実施形態を具体的かつ詳細に説明する。全図において同一の符号を付した部材は同一又は同等の機能を有するものであり、その繰り返しの説明を省略する。なお、図形の大きさは倍率に必ずしも一致するものではない。
【0011】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る半導体光素子の平面図である。図2は、図1に示す半導体光素子のII-II線断面図である。
【0012】
半導体光素子は、直接変調型半導体レーザであり、DFB(Distributed Feedback)レーザ、FP(Fabry-Perot)レーザ、DBR(Distributed Bragg Reflector)レーザ及びDR(Distributed Reflector)レーザのいずれであってもよい。
【0013】
半導体光素子は、メサストライプ構造10を有する。半導体光素子は、上面及び下面にそれぞれ、上電極12及び下電極14を有し、これらの間に電圧が印加される(電流が注入される)ようになっている。これにより、メサストライプ構造10の端面から、例えば1.3μm帯又は1.55μm帯で、レーザ光を発振するようになっている。出射側の端面には、誘電体無反射コーティング膜16が形成されている。逆側の端面には、誘電体高反射コーティング膜18が形成されている。
【0014】
半導体光素子は、p型InPからなる半導体基板20を有する。半導体基板20に、p型InPからなるバッファ層22(p型クラッド層)が積層されている。バッファ層22にメサストライプ構造10が設けられている。
【0015】
メサストライプ構造10は、バッファ層22に近い順に、p型SCH層24、多重量子井戸層26、ガイド層28及び光閉じ込め層30を含む。ガイド層28及び光閉じ込め層30は、n型SCH層32と称することもできる。これらは、メサストライプ構造10の下メサ構造34の一部を構成する。
【0016】
半導体光素子は、p型半導体多層とn型半導体多層で、アンドープの多重量子井戸層26を挟み込んだ構造である。なお、p型半導体多層と多重量子井戸層26との間に、他のアンドープ層が挟まれていても構わない。
【0017】
図3は、第1の実施形態における多重量子井戸層26、ガイド層28及び光閉じ込め層30のバンドダイアグラムである。価電子帯の頂上から伝導帯の底までの間のエネルギーの差がバンドギャップである。
【0018】
多重量子井戸層26は、アンドープの歪InGaAlAsからなる。多重量子井戸層26は、交互に重なる複数の井戸層36及び複数の障壁層38(例えば6ペアの井戸層36及び障壁層38)を含む。井戸層36及び障壁層38は、同じ厚み(例えば8nm)であってもよい。複数の障壁層38のそれぞれはアンドープ層である。多重量子井戸層26の最外層40(最上層及び最下層のそれぞれ)は、複数の障壁層38の1つである。
【0019】
光閉じ込め層30は、n型半導体層(例えば、厚さ80nmで組成波長1.15μmのn型InGaAlAs層)である。n型ドーパントとしてSiが用いられる。
【0020】
ガイド層28は、n型半導体層(例えば、厚さ40nmで組成波長0.93μmのn型InGaAlAs層)である。n型ドーパントとしてSiが用いられる。ガイド層28と光閉じ込め層30のドーピング濃度は、同一であっても異なっていても構わないが、電界が十分にかかる程度の濃度差であることが好ましい。ガイド層28は、多重量子井戸層26と光閉じ込め層30の間に介在する。ガイド層28は、多重量子井戸層26の最外層40に接触する第1隣接層42を含む。ガイド層28は、第1隣接層42のみからなる。ガイド層28(第1隣接層42)は、多重量子井戸層26の最外層40と同じ組成波長になっている。
【0021】
図3に示すように、第1隣接層42のバンドギャップEgG1は、光閉じ込め層30のバンドギャップEgよりも大きい。したがって、ガイド層28と光閉じ込め層30との間には、エネルギー障壁(伝導帯におけるエネルギー準位の差)が存在するが、両者ともn型半導体層であるため、n型半導体層とアンドープ層との間のエネルギー障壁と比較すると、電子の停留は少ない。これは、n型層内に十分に電界がかかるためである。このように、ガイド層28と光閉じ込め層30との間には、エネルギー障壁による電子の停留が少ないために、電子はスムーズに移動するので、電気/光応答特性の低域におけるロールオフが問題にならない。なお、第1隣接層42のバンドギャップEgG1は、多重量子井戸層26の最外層40のバンドギャップEgと等しいので、エネルギー障壁が存在しない。
【0022】
一般的に多重量子井戸層で発生した光は、多重量子井戸層内だけに留まらず、その上下の層側(p型半導体多層側、n型半導体多層側)へと広がる。光が主として留まる領域はp型光閉じ込め層、多重量子井戸層、n型光閉じ込め層で囲まれた領域である。光閉じ込め層は、その言葉の通り、光が他の領域に広がることを抑制する働きがある。一般的に光閉じ込め層の屈折率は、多重量子井戸層の最外層(障壁層)の屈折率より小さい。これはキャリアのフローを良くするためである、屈折率が大きいほうが、バンドギャップは小さくなり、上述した構造においては障壁層より光閉じ込め層のほうがバンドギャップが大きく、キャリア、例えば電子の移動においてはエネルギー障壁が生じない。本実施形態においては、図3に示すように、光閉じ込め層30のバンドギャップEgは、多重量子井戸層26の最外層40のバンドギャップEgよりも小さい。InGaAlAs層では、バンドギャップが大きいほど、屈折率が小さい。したがって、光閉じ込め層30の屈折率nは、多重量子井戸層26の最外層40の屈折率nよりも大きい。そのため、光閉じ込め層30の屈折率が多重量子井戸層26の最外層40の屈折率より小さい構造と比較して、光閉じ込め層30から多重量子井戸層26側の領域の光閉じ込め係数を増加させることができる。その結果、多重量子井戸層26の光閉じ込め係数も増大させることができ、frの向上、つまりトータルとしてf3dB帯域の向上を図ることが可能となる。さらに上述したようにガイド層28があるために、光閉じ込め層30と多重量子井戸層26の最外層40間のエネルギー障壁による電子のフローへの影響を低減でき、電子の停留を抑え、ロールオフを低減することができる。なお、第1隣接層42の屈折率nG1は、多重量子井戸層26の最外層40の屈折率nと等しい。光閉じ込め層30の屈折率nは、ガイド層28(第1隣接層42)の屈折率nG1よりも大きい。ここで、第1隣接層42の歪量(無歪含む)と最外層40の歪量は異なっており、実際の出来上がりの組成波長(バンドギャップ)は若干異なる。しかし、その差はロールオフ特性や光閉じ込め係数に大きな影響を与えるものではなく、実質的に同じ組成波長とみなしても問題はない。
【0023】
ガイド層28(第1隣接層42)は、光閉じ込め層30にも接触する。ガイド層28(第1隣接層42)は、多重量子井戸層26に光を強く閉じ込めるためには、光閉じ込め層30よりも薄いことが好ましい。
【0024】
図2に示すように、下メサ構造34は、光閉じ込め層30に隣接して、n型クラッド層44を含む。n型クラッド層44は、第1n型InP層46A、n型InGaAsPからなる回折格子層48、第2n型InP層46B、n型InGaAsP層50を含む。回折格子層48は、周期的な回折格子構造を有し、例えば、紙面に垂直な方向にλ/4シフト構造が導入されている。
【0025】
p型InPからなる埋め込み層52が、下メサ構造34(少なくともその一部)を両側で埋め込んでいる。埋め込み層52は、FeやRuをドーパントとする高抵抗型InPから構成されてもよく、あるいはp型InP、n型InP及び高抵抗型InPからなる群から選択された材料の積層体であってもよい。
【0026】
メサストライプ構造10は、下メサ構造34の上に上メサ構造54を含む。上メサ構造54は、下メサ構造34より幅が狭い。上メサ構造54は、n型InGaAsP層50に近い順に、n型InPからなる電流注入層56及びn型コンタクト層58を含む。電流注入層56は、n型クラッド層44の一部である。上メサ構造54の表面は、その上部を除いて、SiOからなる絶縁層60で覆われている。上電極12は、n型コンタクト層58と電気的・物理的に接続されている。上電極12は、n型コンタクト層58に接する側から、Ti/Pt/Auの3層構造になっている。下電極14は、AuZn系の材料で構成されている。
【0027】
[第2の実施形態]
図4は、第2の実施形態における多重量子井戸層、ガイド層及び光閉じ込め層のバンドダイアグラムである。
【0028】
ガイド層228は、第1隣接層242のみからなる。ガイド層228(第1隣接層242)のバンドギャップEgG1は、光閉じ込め層230のバンドギャップEgより大きい。また、ガイド層228の第1隣接層242のバンドギャップEgG1は、多重量子井戸層226の最外層240のバンドギャップEgよりも小さい。そのため、ガイド層228(第1隣接層242)と多重量子井戸層226の最外層240との間には、伝導帯におけるエネルギー準位の差が生じる。しかし、これは、光閉じ込め層230と多重量子井戸層226の最外層240とのエネルギー準位の差よりは小さい。したがって、ガイド層228(第1隣接層242)があることで、電子の停留は低減される。
【0029】
伝導帯のエネルギー準位において、第1隣接層242と最外層240との差は、光閉じ込め層230と最外層240との差の半分以下(望ましくは1/3以下)である。こうすることで、ロールオフを効果的に減らすことができる。なお、光閉じ込め層230の屈折率n、ガイド層228(第1隣接層242)屈折率nG1、多重量子井戸層226の最外層240の屈折率nの関係は、図4に示す通りである。
【0030】
[第3の実施形態]
図5は、第3の実施形態における多重量子井戸層、ガイド層及び光閉じ込め層のバンドダイアグラムである。
【0031】
ガイド層328は、第1隣接層342のみからなる。ガイド層328(第1隣接層342)のバンドギャップEgG1は、多重量子井戸層326の最外層340のバンドギャップEgよりも大きい。したがって、電子の停留はほとんど起こらず、ロールオフの低減の面で優れている。但し、ガイド層328(第1隣接層342)と光閉じ込め層330と間でエネルギー準位の差が大きすぎると、同じn型半導体層であっても、電子の停留を招く恐れがある。そのため、伝導帯のエネルギー準位において、第1隣接層342と光閉じ込め層330との差は、0.6eV以下である。なお、光閉じ込め層330の屈折率n、ガイド層328(第1隣接層342)屈折率nG1、多重量子井戸層326の最外層340の屈折率nの関係は、図5に示す通りである。
【0032】
[第4の実施形態]
図6は、第4の実施形態における多重量子井戸層、ガイド層及び光閉じ込め層のバンドダイアグラムである。
【0033】
ガイド層428は、複数層からなる。複数層は、最外層440に接触する第1隣接層442を含む。複数層は、光閉じ込め層430に接触する第2隣接層462を含む。第2隣接層462には、第1隣接層442と同じ濃度のSiがドーピングされている。ガイド層428の厚み(第1隣接層442及び第2隣接層462の合計厚み)は、光閉じ込め層430の厚みより薄い。
【0034】
ガイド層428の第1隣接層442のバンドギャップEgG1は、多重量子井戸層426の最外層440のバンドギャップEgと等しい。これにより、n型半導体層とアンドープ層との間で、電子の停留を低減することができる。
【0035】
第2隣接層462のバンドギャップEgG2は、光閉じ込め層430のバンドギャップEgよりも大きい。第2隣接層462のバンドギャップEgG2は、多重量子井戸層426の最外層440のバンドギャップEgよりも小さい。第2隣接層462のバンドギャップEgG2は、第1隣接層442のバンドギャップEgG1より小さい。したがって、ガイド層428(第1隣接層442及び第2隣接層462)で、エネルギー準位が階段状に変化するので、電子の停留を効果的に低減することができる。本実施形態でも、光閉じ込め層430があるために、多重量子井戸層426への光閉じ込め係数を増大させることができている。なお、光閉じ込め層430の屈折率n、第1隣接層442の屈折率nG1、多重量子井戸層426の最外層440の屈折率nGOの関係は、図6に示す通りである。
【0036】
[第5の実施形態]
図7は、第5の実施形態における多重量子井戸層、ガイド層及び光閉じ込め層のバンドダイアグラムである。
【0037】
ガイド層528は、複数層からなる。複数層は、多重量子井戸層526の最外層540に接触する第1隣接層542を含む。複数層は、光閉じ込め層530に接触する第2隣接層562を含む。複数層は、第1隣接層542と第2隣接層562の間に、少なくとも1つの中間層564をさらに含む。第2隣接層562及び中間層564には、第1隣接層542と同じ濃度のSiがドーピングされている。
【0038】
第1隣接層542のバンドギャップEgG1は、多重量子井戸層526の最外層540のバンドギャップEgと等しい。第2隣接層562のバンドギャップEgG2は、光閉じ込め層530のバンドギャップEgよりも大きい。第2隣接層562のバンドギャップEgG2は、多重量子井戸層526の最外層540のバンドギャップEgと等しい。第2隣接層562のバンドギャップEgG2は、第1隣接層542のバンドギャップEgG1と同じである。中間層564のバンドギャップEgG3は、光閉じ込め層530のバンドギャップEgと等しい。
【0039】
ガイド層528の厚みは、多重量子井戸層526の厚みの半分以下である。半分より厚い場合は、光の閉じ込め効果が十分に得られない恐れがある。光閉じ込め層530の厚みは、多重量子井戸層526の厚みの半分以上である。光閉じ込め層530が薄い場合は、多重量子井戸層526に十分に光を閉じ込めることが難しくなる。
【0040】
中間層564の厚みは、第1隣接層542より薄い。そのため、中間層564だけでは多重量子井戸層526への光の閉じ込めを大きくする効果は小さい。しかし、第2隣接層562を挟んで、光閉じ込め層530が配置されているため、全体としては多重量子井戸層526側へ光を閉じ込めることができている。従って、第1隣接層542と光閉じ込め層530との間に、他の層が挟まれていたとしても、効果を得ることはできる。なお、光閉じ込め層530の屈折率n、第1隣接層542の屈折率nG1、第2隣接層562の屈折率nG2、中間層564の屈折率nG3、多重量子井戸層526の最外層540の屈折率nG0の関係は、図7に示す通りである。
【0041】
[第6の実施形態]
図8は、第6の実施形態に係る半導体光素子の断面図である。半導体光素子は、n型InPからなる半導体基板620を有する。半導体基板620に、n型InPからなるバッファ層622(n型クラッド層)が積層されている。バッファ層622には、バッファ層622に近い順に、光閉じ込め層630、ガイド層628、多重量子井戸層626、p型SCH層624、p型クラッド層644が積層されている。光閉じ込め層630及びガイド層628は、n型SCH層632と称することもできる。
【0042】
図9は、第6の実施形態における多重量子井戸層、ガイド層及び光閉じ込め層のバンドダイアグラムである。
【0043】
多重量子井戸層626は、アンドープの歪InGaAlAsからなる。多重量子井戸層626は、交互に重なる複数の井戸層636及び複数の障壁層638(例えば6ペアの井戸層636及び障壁層638)を含む。井戸層636及び障壁層638は、同じ厚み(例えば8nm)であってもよい。複数の障壁層638のそれぞれはアンドープ層である。多重量子井戸層626の最外層640(最上層及び最下層のそれぞれ)は、複数の障壁層638の1つである。
【0044】
ガイド層628は、n型半導体層(例えば、厚さ40nmで組成波長0.93μmのn型InGaAlAs層)である。n型ドーパントとしてSiが用いられる。ガイド層628と光閉じ込め層630のドーピング濃度は、同一であっても異なっていても構わないが、電界が十分にかかる程度の濃度差であることが好ましい。ガイド層628は、多重量子井戸層626と光閉じ込め層630の間に介在する。ガイド層628は、多重量子井戸層626の最外層640に接触する第1隣接層642を含む。ガイド層628は、第1隣接層642のみからなる。ガイド層628(第1隣接層642)は、多重量子井戸層626の最外層640と同じ組成波長になっている。
【0045】
第1隣接層642のバンドギャップEgG1は、光閉じ込め層630のバンドギャップEgよりも大きい。したがって、ガイド層628と光閉じ込め層630との間には、エネルギー障壁(伝導帯におけるエネルギー準位の差)が存在するが、両者ともn型半導体層であるため、n型半導体層とアンドープ層との間のエネルギー障壁と比較すると、電子の停留は少ない。これは、n型層内に十分に電界がかかるためである。このように、ガイド層628と光閉じ込め層630との間には、エネルギー障壁による電子の停留が少ないために、電子はスムーズに移動するので、電気/光応答特性の低域におけるロールオフが問題にならない。なお、第1隣接層642のバンドギャップEgG1は、多重量子井戸層626の最外層640のバンドギャップEgと等しいので、エネルギー障壁が存在しない。
【0046】
光閉じ込め層630は、n型半導体層(例えば、厚さ80nmで組成波長1.15μmのn型InGaAlAs層)である。n型ドーパントとしてSiが用いられる。
【0047】
光閉じ込め層630のバンドギャップEgは、多重量子井戸層626の最外層640のバンドギャップEgよりも小さい。InGaAlAs層では、バンドギャップが大きいほど、屈折率が小さい。したがって、光閉じ込め層630の屈折率nは、多重量子井戸層626の最外層640の屈折率nよりも大きい。本実施形態においても、第1実施形態で説明した通り、多重量子井戸層626への光閉じ込め係数を増大させることができ、frの向上、つまりトータルとしてf3dB帯域の向上を図ることが可能となる。なお、第1隣接層642の屈折率nG1は、多重量子井戸層626の最外層640の屈折率nと等しい。光閉じ込め層630の屈折率nは、ガイド層628(第1隣接層42)の屈折率nG1よりも大きい。
【0048】
ガイド層628(第1隣接層642)は、光閉じ込め層630にも接触する。ガイド層628(第1隣接層642)は、多重量子井戸層626に光を強く閉じ込めるためには、光閉じ込め層630よりも薄いことが好ましい。
【0049】
図8に示すように、p型クラッド層644は、p型SCH層624に近い順に、p型InP層666、p型InGaAsPからなる回折格子層648、p型InPからなる電流注入層656、p型コンタクト層658を含む。回折格子層648は、周期的な回折格子構造を有し、例えば、紙面に垂直な方向にλ/4シフト構造が導入されている。
【0050】
p型InP層666からp型コンタクト層658までの積層体は、メサストライプ構造610に含まれる。メサストライプ構造610の側面からp型SCH層624の上面にかけて、SiOからなる絶縁層660が配置されている。
【0051】
上電極612は、p型コンタクト層658と電気的・物理的に接続されている。上電極612は、p型コンタクト層658に接する側から、Ti/Pt/Auの3層構造になっている。下電極614は、AuZn系の材料で構成されている。
【0052】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、実施形態を説明した構成は、実質的に同一の構成、同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成で置き換えることができる。
【符号の説明】
【0053】
10 メサストライプ構造、12 上電極、14 下電極、16 誘電体無反射コーティング膜、18 誘電体高反射コーティング膜、20 半導体基板、22 バッファ層、24 p型SCH層、26 多重量子井戸層、28 ガイド層、30 光閉じ込め層、32 n型SCH層、34 下メサ構造、36 井戸層、38 障壁層、40 最外層、42 第1隣接層、44 n型クラッド層、46A 第1n型InP層、46B 第2n型InP層層、48 回折格子層、50 n型InGaAsP層、52 埋め込み層、54 上メサ構造、56 電流注入層、58 n型コンタクト層、60 絶縁層、226 多重量子井戸層、228 ガイド層、230 光閉じ込め層、240 最外層、242 第1隣接層、326 多重量子井戸層、328 ガイド層、330 光閉じ込め層、340 最外層、342 第1隣接層、426 多重量子井戸層、428 ガイド層、430 光閉じ込め層、440 最外層、442 第1隣接層、462 第2隣接層、526 多重量子井戸層、528 ガイド層、530 光閉じ込め層、540 最外層、542 第1隣接層、562 第2隣接層、564 中間層、610 メサストライプ構造、612 上電極、614 下電極、620 半導体基板、622 バッファ層、624 p型SCH層、626 多重量子井戸層、628 ガイド層、630 光閉じ込め層、632 n型SCH層、636 井戸層、638 障壁層、640 最外層、642 第1隣接層、644 p型クラッド層、648 回折格子層、656 電流注入層、658 p型コンタクト層、660 絶縁層、666 p型InP層、Eg バンドギャップ、EgG1 バンドギャップ、EgG2 バンドギャップ、EgG3 バンドギャップ、Eg バンドギャップ、n 屈折率、nG1 屈折率、nG2 屈折率、nG3 屈折率、n 屈折率。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9