(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022048068
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】表面処理方法、表面処理剤、結合体の製造方法、導体被覆を有する物質の製造方法、塗膜が形成された物質の製造方法、及び化合物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20220317BHJP
C07F 7/18 20060101ALI20220317BHJP
C09D 183/00 20060101ALI20220317BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220317BHJP
C23C 18/20 20060101ALI20220317BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
C09K3/18 104
C07F7/18 P CSP
C09D183/00
B05D7/24 301B
B05D7/24 303E
B05D7/24 302Y
C23C18/20 Z
C23C18/20 A
C23C26/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021028010
(22)【出願日】2021-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2020153405
(32)【優先日】2020-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】520206988
【氏名又は名称】豊光社テクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】倉光 宏
(72)【発明者】
【氏名】倉光 秀一
(72)【発明者】
【氏名】安 克彦
【テーマコード(参考)】
4D075
4H020
4H049
4J038
4K022
4K044
【Fターム(参考)】
4D075AC64
4D075AE03
4D075BB21Z
4D075BB34X
4D075BB46X
4D075BB46Z
4D075BB49X
4D075BB60Z
4D075BB65X
4D075BB65Z
4D075BB69X
4D075BB69Z
4D075BB85Z
4D075BB87Z
4D075BB93Z
4D075CA13
4D075CA22
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DB14
4D075DB35
4D075DB36
4D075DB37
4D075DB39
4D075DB43
4D075DB53
4D075DC11
4D075DC16
4D075DC19
4D075DC21
4D075DC30
4D075EA07
4D075EA14
4D075EA39
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4D075EC07
4D075EC10
4D075EC51
4H020BA31
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ37
4H049VQ40
4H049VR21
4H049VR43
4H049VU21
4H049VW01
4H049VW02
4J038DL001
4J038DL002
4J038GA08
4J038GA13
4J038GA15
4J038NA01
4J038NA20
4J038PA17
4J038PB01
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4J038PB09
4J038PC02
4J038PC03
4J038PC08
4K022AA13
4K022AA31
4K022AA41
4K022BA08
4K022BA14
4K022CA09
4K022CA12
4K022CA13
4K022CA22
4K022DA01
4K044AA16
4K044AB10
4K044BA06
4K044BB03
4K044BC05
4K044CA13
4K044CA15
4K044CA16
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】表面処理方法を提供する。
【解決手段】本発明の一形態は、2つの物質の結合体を界面分子結合により形成することを目的として、1種以上の化合物αを含む溶液を塗布することにより、上記化合物αを少なくとも一方の物質の表面に設ける工程を備える表面処理方法であり、上記化合物αは、一分子内に、ベンゼン環と、アルコキシシリル基と、アジド基、アジドスルホニル基及びジアゾメチル基からなる群より選ばれる1つ以上の基とを有する化合物α1、又は上記化合物α1を含む加水分解性シラン化合物を加水分解縮合して得られる化合物α2である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの物質の結合体を界面分子結合により形成することを目的として、1種以上の化合物αを含む溶液を塗布することにより、上記化合物αを少なくとも一方の物質の表面に設ける工程を備える表面処理方法であり、
上記化合物αは、
一分子内に、
ベンゼン環と、
アルコキシシリル基と、
アジド基、アジドスルホニル基及びジアゾメチル基からなる群より選ばれる1つ以上の基と
を有する化合物α1、又は
上記化合物α1を含む加水分解性シラン化合物を加水分解縮合して得られる化合物α2
である表面処理方法。
【請求項2】
上記化合物αは、上記アジド基、アジドスルホニル基及びジアゾメチル基からなる群より選ばれる1つ以上の基が、上記ベンゼン環に直接結合している化合物である請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項3】
上記化合物α1が、下記式(1)又は(2)で表される化合物である請求項1又は2に記載の表面処理方法。
【化1】
式(1)中、R
1は、水素原子、炭素数1から12のアルキル基、フェニル基、炭素数1から12のアルコキシ基、又はヒドロキシ基である。複数のR
2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン、又は1価の有機基である。X
1は、アジド基、アジドスルホニル基、又はジアゾメチル基である。Y
1は、単結合、エステル基、エーテル基、チオエーテル基、アミド基、ウレタン基、ウレア基、-NHR
3-で表される基、又は下記式(3a)若しくは(3b)で表される基である。R
3は、炭素数1から6のアルキル基である。Z
1は、単結合、メチレン基、炭素数2から12のアルキレン基、又は炭素数2から12のアルキレン基の末端若しくは炭素-炭素結合間に-NH-、-O-、-S-及び-S(O)-のうちの1つ以上の基を含む基である。mは、1から3の整数である。R
1、X
1、Y
1及びZ
1が、それぞれ複数の場合、これらはそれぞれ独立して上記定義を満たす。但し、1又は複数のR
1の少なくとも1つは、炭素数1から12のアルコキシ基である。
式(2)中、複数のR
4、R
5及びR
6は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1から12のアルキル基、フェニル基、炭素数1から12のアルコキシ基、又はヒドロキシ基であり、複数のR
4、R
5及びR
6のうちの少なくとも1つは、炭素数1から12のアルコキシ基である。複数のR
7は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン、又は1価の有機基である。X
2は、アジド基、アジドスルホニル基、又はジアゾメチル基である。複数のZ
2は、それぞれ独立して、単結合、メチレン基、炭素数2から12のアルキレン基、又は炭素数2から12のアルキレン基の末端若しくは炭素-炭素結合間に-NH-、-O-、-S-及び-S(O)-のうちの1つ以上の基を含む基である。
【化2】
式(3a)中、R
8は、水素原子又はメチル基である。
【請求項4】
上記化合物αが表面に設けられる物質が、非粒子状の基材である請求項1、2又は3に記載の表面処理方法。
【請求項5】
上記化合物αを少なくとも一方の物質の表面に設ける工程の前に、
洗浄処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射処理及びイトロ処理からなる群より選ばれる1つ以上の前処理を上記少なくとも一方の物質に対して行う工程をさらに備える請求項1~4のいずれかに記載の表面処理方法。
【請求項6】
上記化合物αを少なくとも一方の物質の表面に設ける工程の後に、
上記物質の表面に存在する上記化合物αに紫外線を照射する工程をさらに備える請求項1~5のいずれかに記載の表面処理方法。
【請求項7】
上記化合物αを少なくとも一方の物質の表面に設ける工程の後に、
上記物質の表面に存在する上記化合物αに対する加熱処理を行う工程をさらに備える請求項1~6のいずれかに記載の表面処理方法。
【請求項8】
上記化合物αを少なくとも一方の物質の表面に設ける工程の前に、
化合物βを上記少なくとも一方の物質の表面に設ける工程をさらに備え、
上記化合物βは、
一分子内に、
化学反応により上記少なくとも一方の物質と化学結合可能な官能基と、
化学反応により上記化合物αと化学結合可能な官能基と
を有する化合物である請求項1~7のいずれかに記載の表面処理方法。
【請求項9】
上記化合物αを少なくとも一方の物質の表面に設ける工程において、上記化合物αを一方の物質の表面に設け、この工程の後に、
化合物βを上記一方の物質の表面に設ける工程をさらに備え、
上記化合物βは、
一分子内に、
化学反応により上記化合物αと化学結合可能な官能基と、
化学反応により他方の物質と化学結合可能な官能基と
を有する化合物である請求項1~7のいずれかに記載の表面処理方法。
【請求項10】
上記化合物αを少なくとも一方の物質の表面に設ける工程において、上記化合物αを一方の物質の表面に設け、
化合物βを他方の物質の表面に設ける工程をさらに備え、
上記化合物βは、
一分子内に、
化学反応により上記化合物αと化学結合可能な官能基と、
化学反応により他方の物質と化学結合可能な官能基と、
を有する化合物である請求項1~7のいずれかに記載の表面処理方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の表面処理方法に用いられる表面処理剤であり、請求項1又は請求項2に記載の1種以上の化合物αを含む溶液である表面処理剤。
【請求項12】
物質Aと物質Bとを結合させて結合体を製造する方法であり、
請求項1~10のいずれかに記載の表面処理方法により、物質Aの表面、又は両物質の表面に処理を行う表面処理工程と、
物質Aの上記化合物αが存在する表面に対向して、物質Bの上記処理が行われた表面又は物質Bの表面を配置する配置工程と、
物質A及び物質Bの少なくとも一方に力を加え、両物質が一体的に結合される結合工程と
を備える結合体の製造方法。
【請求項13】
上記結合工程を40℃以上350℃以下の温度下で行う請求項12に記載の結合体の製造方法。
【請求項14】
請求項1~10のいずれかに記載の表面処理方法により、物質の表面に上記化合物αを含む剤を設ける表面処理工程と、
無電解めっき、蒸着又は塗布の手法により、上記物質の上記化合物αが存在する表面に導体被覆を設ける被覆形成工程と
を備える、導体被覆を有する物質の製造方法。
【請求項15】
請求項1~10のいずれかに記載の表面処理方法により、物質の表面に上記化合物αを含む剤を設ける表面処理工程と、
上記物質の上記化合物αが存在する表面に、塗膜を形成する塗膜形成工程と
を備える、塗膜が形成された物質の製造方法。
【請求項16】
塗膜が形成された物質の上記塗膜の表面に、請求項1~10のいずれかに記載の表面処理方法により、上記化合物αを含む剤を設ける工程を備える表面処理方法。
【請求項17】
塗膜が形成された物質Aの上記塗膜の表面に、請求項16に記載の表面処理方法により処理を行う表面処理工程と、
上記塗膜の表面に対向して物質Bの表面を配置する配置工程と、
物質A及び物質Bの少なくとも一方に力を加え、両物質が一体的に結合される結合工程と
を備える結合体の製造方法。
【請求項18】
物質Bの表面に、請求項1~10のいずれかに記載の表面処理方法により処理を行う表面処理工程と、
物質Bの上記表面に対向して、塗膜が形成された物質Aの上記塗膜の表面を配置する配置工程と、
物質A及び物質Bの少なくとも一方に力を加え、両物質が一体的に結合される結合工程と
を備える結合体の製造方法。
【請求項19】
下記式(1)若しくは(2)で表される化合物α1、又は上記化合物α1を含む加水分解性シラン化合物を加水分解縮合して得られる加水分解縮合物α2である化合物。
【化3】
式(1)中、R
1は、水素原子、炭素数1から12のアルキル基、フェニル基、炭素数1から12のアルコキシ基、又はヒドロキシ基である。複数のR
2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン、又は1価の有機基である。X
1は、アジド基、アジドスルホニル基、又はジアゾメチル基である。Y
1は、単結合、エステル基、エーテル基、チオエーテル基、アミド基、ウレタン基、ウレア基、-NHR
3-で表される基、又は下記式(3a)若しくは(3b)で表される基である。R
3は、炭素数1から6のアルキル基である。Z
1は、単結合、メチレン基、炭素数2から12のアルキレン基、又は炭素数2から12のアルキレン基の末端若しくは炭素-炭素結合間に-NH-、-O-、-S-及び-S(O)-のうちの1つ以上の基を含む基である。mは、1から3の整数である。R
1、X
1、Y
1及びZ
1が、それぞれ複数の場合、これらはそれぞれ独立して上記定義を満たす。但し、1又は複数のR
1の少なくとも1つは、炭素数1から12のアルコキシ基である。
式(2)中、複数のR
4、R
5及びR
6は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1から12のアルキル基、フェニル基、炭素数1から12のアルコキシ基、又はヒドロキシ基であり、複数のR
4、R
5及びR
6のうちの少なくとも1つは、炭素数1から12のアルコキシ基である。複数のR
7は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン、又は1価の有機基である。X
2は、アジド基、アジドスルホニル基、又はジアゾメチル基である。複数のZ
2は、それぞれ独立して、単結合、メチレン基、炭素数2から12のアルキレン基、又は炭素数2から12のアルキレン基の末端若しくは炭素-炭素結合間に-NH-、-O-、-S-及び-S(O)-のうちの1つ以上の基を含む基である。
【化4】
式(3a)中、R
8は、水素原子又はメチル基である。
【請求項20】
請求項19に記載の化合物を含む表面処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理方法、表面処理剤、結合体の製造方法、導体被覆を有する物質の製造方法、塗膜が形成された物質の製造方法、及び化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
2種以上の官能基を有する化合物は、それぞれの官能基の特性を利用して化学結合を形成し得ることから、2つの物質の界面に介在させて化学結合により両物質を結合する界面分子結合(IMB;Interface molecular bonding)のための界面分子結合剤として有用である。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリマーからなる物質Aと物質Bとを接合する方法であって、物質Aの表面に特定の界面分子結合剤を配置する工程と、物質Aの当該表面に紫外線を照射する工程と、物質Aの当該表面に対向して物質Bを配置する工程と、物質A及び物質Bに力を加えて、物質Aと物質Bとを接合する工程とを有する接合方法が記載されている。特許文献1に開示された界面分子結合剤は、2,4-ジアジド-6-(3-トリエトキシシリルプロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン(以下、「IMB-P」と呼ぶ)等、一分子内にアジド基と、アルコシキシリル基と、トリアジン環とを有する化合物である。
【0004】
また、特許文献2には、金属膜の形成方法であって、ポリマーからなる物質の表面に特定の界面分子結合剤が設けられる工程と、当該物質の当該表面に、湿式メッキの手法により、金属膜が設けられる工程とを具備する金属膜の形成方法が記載されている。特許文献2に開示された界面分子結合剤は、上記の特許文献1に開示されたものと同様である。
【0005】
また、特許文献3には、樹脂や金属箔と貼り合せる等の目的で、物質の表面に特定の界面分子結合剤が設けられる表面処理方法が記載されている。特許文献3に開示された界面分子結合剤は、6-((3-トリエトキシシリル)プロピルアミノ)-2,4-ビス((2-アミノ)エチルアミノ)-1,3,5-トリアジン(以下、「IMB-A」と呼ぶ)等、一分子内にアミノ基と、アルコシキシリル基と、トリアジン環とを有する化合物である。
【0006】
特許文献4には、熱可塑性樹脂層の片面に特定の界面分子結合剤を配置した接合用積層体が開示されており、当該界面分子結合剤は、アジド基と、加水分解反応によりシラノール基を生成させる基とを有する一般的な化合物であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5083926号公報
【特許文献2】特許第4936344号公報
【特許文献3】特許第5729852号公報
【特許文献4】特許第6674594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2に記載のIMB-Pには、光化学反応を利用した表面処理の際に樹脂等の物質を劣化させる短波長の紫外線を照射する必要がある。また、IMB-Pは、水に難溶であるためエタノール等の可燃性溶剤を用いる必要もある。特許文献3に記載のIMB-Aは、水に易溶であり、一般に、接合用途に向いているが、めっき用途に不向きである。また、特許文献4においては、実施例において具体的に検討されている界面分子結合剤はIMB-Pに限られているため、特許文献4に記載された一般的な界面分子結合剤の水溶性や、樹脂・金属・ガラス・セラミック等の各種物質との相性、接合・めっき・塗布等の各用途での向き不向き、光反応特性等については全く不明である。このようなことから、2つの物質の結合体の形成に好適な新たな界面分子結合剤、このような界面分子結合剤を用いた表面処理方法、結合体の製造方法等が求められている。
【0009】
本発明の目的は、紫外線の照射により、又は紫外線照射なく低温の加熱処理のみにより、表面処理及び界面分子結合に係る化学反応が進行するような新たな化合物を提供することである。本発明の更なる目的は、上述のような化合物の溶液である表面処理剤、及びこのような表面処理剤を用いた表面処理方法を提供することである。本発明の更なる目的は、結合体の製造方法、導体被覆を有する物質の製造方法、及び塗膜が形成された物質の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一形態は、2つの物質の結合体を界面分子結合により形成することを目的として、1種以上の化合物αを含む溶液を塗布することにより、上記化合物αを少なくとも一方の物質の表面に設ける工程を備える表面処理方法であり、上記化合物αは、一分子内に、ベンゼン環と、アルコキシシリル基と、アジド基、アジドスルホニル基及びジアゾメチル基からなる群より選ばれる1つ以上の基とを有する化合物α1、又は上記化合物α1を含む加水分解性シラン化合物を加水分解縮合して得られる化合物α2である。
【0011】
本発明の他の形態は、上記表面処理方法に用いられる表面処理剤であり、上記1種以上の化合物αを含む溶液である表面処理剤である。
【0012】
本発明の他の形態は、物質Aと物質Bとを結合させて結合体を製造する方法であり、上記表面処理方法により、物質Aの表面、又は両物質の表面に処理を行う表面処理工程と、物質Aの上記化合物αが存在する表面に対向して、物質Bの上記処理が行われた表面又は物質Bの表面を配置する配置工程と、物質A及び物質Bの少なくとも一方に力を加え、両物質が一体的に結合される結合工程とを備える結合体の製造方法である。
【0013】
本発明の他の形態は、上記表面処理方法により、物質の表面に上記化合物αを含む剤を設ける表面処理工程と、無電解めっき、蒸着又は塗布の手法により、上記物質の上記化合物αが存在する表面に導体被覆を設ける被覆形成工程とを備える、導体被覆を有する物質の製造方法である。
【0014】
本発明の他の形態は、上記表面処理方法により、物質の表面に上記化合物αを含む剤を設ける表面処理工程と、上記物質の上記化合物αが存在する表面に、塗膜を形成する塗膜形成工程とを備える、塗膜が形成された物質の製造方法である。
【0015】
本発明の他の形態は、下記式(1)若しくは(2)で表される化合物α1、又は上記化合物α1を含む加水分解性シラン化合物を加水分解縮合して得られる加水分解縮合物α2である化合物である。
【化1】
式(1)中、R
1は、水素原子、炭素数1から12のアルキル基、フェニル基、炭素数1から12のアルコキシ基、又はヒドロキシ基である。複数のR
2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン、又は1価の有機基である。X
1は、アジド基、アジドスルホニル基、又はジアゾメチル基である。Y
1は、単結合、エステル基、エーテル基、チオエーテル基、アミド基、ウレタン基、ウレア基、-NHR
3-で表される基、又は下記式(3a)若しくは(3b)で表される基である。R
3は、炭素数1から6のアルキル基である。Z
1は、単結合、メチレン基、炭素数2から12のアルキレン基、又は炭素数2から12のアルキレン基の末端若しくは炭素-炭素結合間に-NH-、-O-、-S-及び-S(O)-のうちの1つ以上の基を含む基である。mは、1から3の整数である。R
1、X
1、Y
1及びZ
1が、それぞれ複数の場合、これらはそれぞれ独立して上記定義を満たす。但し、1又は複数のR
1の少なくとも1つは、炭素数1から12のアルコキシ基である。
式(2)中、複数のR
4、R
5及びR
6は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1から12のアルキル基、フェニル基、炭素数1から12のアルコキシ基、又はヒドロキシ基であり、複数のR
4、R
5及びR
6のうちの少なくとも1つは、炭素数1から12のアルコキシ基である。複数のR
7は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン、又は1価の有機基である。X
2は、アジド基、アジドスルホニル基、又はジアゾメチル基である。複数のZ
2は、それぞれ独立して、単結合、メチレン基、炭素数2から12のアルキレン基、又は炭素数2から12のアルキレン基の末端若しくは炭素-炭素結合間に-NH-、-O-、-S-及び-S(O)-のうちの1つ以上の基を含む基である。
【化2】
式(3a)中、R
8は、水素原子又はメチル基である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一形態によれば、紫外線の照射により、又は紫外線照射なく低温の加熱処理のみにより、表面処理及び界面分子結合に係る化学反応が進行するような新たな化合物を提供することができる。また、本発明の他の形態によれば、上述のような化合物の溶液である表面処理剤、及びこのような表面処理剤を用いた表面処理方法を提供することができる。本発明の他の形態によれば、結合体の製造方法、導体被覆を有する物質の製造方法、及び塗膜が形成された物質の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、無電解めっき処理を用いる本発明の一実施形態に係る全体フロー図である。
【
図2】
図2は、
図1における前処理工程の詳細フロー図である。
【
図3】
図3は、
図1における後処理工程の詳細フロー図である。
【
図4】
図4は、
図1における無電解めっき処理工程の詳細フロー図である。
【
図5】図(5A)及び図(5B)は、それぞれ、熱圧着処理又は塗膜形成処理を用いる本発明の一実施形態に係る全体フロー図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係る製造方法により製造される種々の結合体の構造の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
【0019】
<表面処理方法>
本発明の一実施形態に係る表面処理方法は、2つの物質の結合体を界面分子結合により形成することを目的として、1種以上の化合物αを含む溶液を塗布することにより、上記化合物αを少なくとも一方の物質の表面に設ける工程を備える表面処理方法であり、上記化合物αは、一分子内に、ベンゼン環と、アルコキシシリル基と、アジド基、アジドスルホニル基及びジアゾメチル基からなる群より選ばれる1つ以上の基とを有する化合物α1、又は上記化合物α1を含む加水分解性シラン化合物を加水分解縮合して得られる化合物α2である。上記界面分子結合は、2つの物質の界面に、ある化合物を介在させ、化学反応により各物質と上記化合物とをそれぞれ化学結合させて上記2つの物質を結合させること、又はその結果生じる結合を意味する。
【0020】
当該表面処理方法によれば、紫外線の照射により、又は紫外線照射なく低温の加熱処理のみにより界面分子結合が可能な表面処理を行うことができる。
【0021】
(化合物αを少なくとも一方の物質の表面に設ける工程)
本工程においては、1種以上の化合物αを含む溶液を塗布することにより、化合物αを少なくとも一方の物質の表面に設ける。物質に化合物αを含む溶液を「塗布する」とは、物質の表面に化合物αを含む溶液を「付着させる」又は「接触状態で存在させる」ことを言い、刷毛塗りだけでなく、滴下、スプレー、スピンコート、ロール、インクジェット等の印刷、浸漬等の方法により「付着させる」又は「接触状態で存在させる」ことを含む。なお、「塗布」の後に、化合物αが存在する物質の表面を乾燥させる工程等を追加してもよい。
【0022】
(物質)
当該表面処理方法に供せられる2つの物質は、同一の材料からなるものであってもよく、異なる材料からなるものであってもよい。各物質は、複数の材料から構成されるものであってもよい。各物質は、塗膜等が表面に形成されたものであってもよい。各物質は、複数の材料からなる物体の一部であってもよい。各物質を構成する材料としては、例えば、めっき下地、樹脂材、金属等の導体、エラストマー、ガラス、セラミック等が挙げられる。
【0023】
めっき下地としては、例えば、Pd触媒等が挙げられる。
【0024】
樹脂材としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、汎用樹脂、エンジニアリング樹脂、スーパーエンジニアリング樹脂等が挙げられる。汎用樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、アクリロニトリル・スチレン(AS)、ポリメチルメタアクリル(PMMA)、ポリビニールアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シクロオレフィンポリマー(COP)等が挙げられる。エンジニアリング樹脂としては、例えば、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(PPE(変性PPO))、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、超高分子量ポリエチレン(U-PE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。スーパーエンジニアリング樹脂としては、例えば、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、液晶ポリマー(LCP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、メラミン樹脂(MF)、尿素樹脂(ユリア樹脂、UF)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、アルキド樹脂、ポリウレタン(PUR)、熱硬化性ポリイミド(PI)が挙げられる。また、熱硬化性樹脂の商品形態としては、例えば、ポリイミド(PI)等のCステージ(硬化)シートや、ビルドアップシート、プリプレグ、ダイボンドシート、ACF(異方性導電シート)等のBステージ(未硬化)シートや、導電性又は絶縁性の、コンパウンド、ペースト又はインク等のAステージ材料等が挙げられる。
【0025】
導体としては、例えば、銅、銀、金、ニッケル、アルミニウム、シリコン等の金属の他に、グラファイト、CNT(カーボンナノチューブ)、CNF(カーボンナノファイバー)等が挙げられる。
【0026】
エストラマーとしては、例えば、天然ゴム、合成ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。
【0027】
ガラスとしては、例えば、一般ソーダガラス(白板ガラス等)、硼珪酸ガラス、鉛ガラス、フリント系ガラス、光学ガラス、石英ガラス等が挙げられる。
【0028】
セラミックとしては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、フォルステライト、ステアタイト、コージライト、サイアロン、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、フェライト、ムライト、マイカ等が挙げられる。
【0029】
2つの物質の形状としては特に限定されないが、化合物αが表面に設けられる物質(1種以上の化合物αを含む溶液を塗布する物質;表面処理を行う物質)は、非粒子状の基材であることが好ましい。粒子とは、例えば体積が1mm3未満の固体である。すなわち、化合物αが表面に設けられる物質の体積は、1mm3以上が好ましく、1cm3以上がより好ましい。また、化合物αが表面に設けられる物質においては、分離可能な1つの物質の表面積が1mm2以上であることが好ましく、1cm2以上であることがより好ましい。化合物αが表面に設けられる物質の具体的形状としては、例えば、板状、シート状、膜状、管状、柱状、糸状、不定形の塊状、その他所定形状に成形された任意の形状等が挙げられる。このように比較的大きなサイズの物質に対して表面処理を行うことで、2つの物質の結合体を効率的に得ることなどができる。
【0030】
(化合物α)
化合物αは、一分子内に、ベンゼン環と、アルコキシシリル基と、アジド基、アジドスルホニル基及びジアゾメチル基からなる群より選ばれる1つ以上の基とを有する化合物α1、又は上記化合物α1を含む加水分解性シラン化合物を加水分解縮合して得られる化合物α2である。化合物αは、2種以上を用いることができ、化合物α1と化合物α2とを組み合わせて用いることもできる。
【0031】
アルコキシシリル基とは、ケイ素原子にアルコキシ基(オキシ炭化水素基)が結合した基をいう。アルコキシ基とは、酸素原子に炭化水素基が結合した基をいい、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ビニルオキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基等を挙げることができる。ケイ素原子に結合しているアルコキシ基の数は、1、2又は3であってよく、3が好ましい。アルコキシシリル基においては、ケイ素原子にアルコキシ基以外の基が結合していてもよく、このような基としては、アルキル基、フェニル基、ヒドロキシ基、水素原子等が挙げられる。アルコキシ基としては、炭素数1~3のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基及びプロポキシ基がより好ましい。アルコキシシリル基の例としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリベンジルオキシシリル基などが挙げられる。
【0032】
化合物αが有するアルコキシシリル基は、化学反応により、主に、金属等の無機物Mと「-Si-O-M-タイプ」の化学結合を形成することができる。また、化合物αが有するアジド基、アジドスルホニル基又はジアゾメチル基は、化学反応により、主に、樹脂等の有機物と「-N-C-タイプ」等の化学結合を形成することができる。ここで化学結合とは、共有結合、イオン結合、分子間力による結合等を意味し、好ましくは共有結合又はイオン結合を意味する。したがって、物質が有機物であっても無機物であっても、塗布により物質の表面に化合物αが設けられると、加熱処理又は紫外線照射処理により上記の化学反応が起きれば、化合物αは当該物質と強固に化学結合して、当該物質の表面に担持されることになる。そして、化合物αには、通常、当該物質と未だ化学結合を形成していないアルコキシシリル基、又はアジド基、アジドスルホニル基若しくはジアゾメチル基が存在するから、当該物質の表面は、他の物質と強固な化学結合を形成するのに適した状態となる。
【0033】
化合物αは、アジド基、アジドスルホニル基及びジアゾメチル基からなる群より選ばれる1つ以上の基が、ベンゼン環に直接結合している化合物であることが好ましい。アジド基等がベンゼン環に直接結合している場合、そうでない場合と比べて、紫外線照射処理又は加熱処理により、アジド基等から窒素分子(N2)が脱離する反応の反応速度が大きくなる。また、ベンゼン環に直接結合したアジド基等は、例えば化合物IMB-Pのようにトリアジン環に直接結合したアジド基等と比べて、長波長の紫外線でも光分解反応の反応速度が十分に大きいという特徴をもつ。すなわち、トリアジン環の場合には、光分解反応の反応速度は、短波長紫外線の特定の波長を中心とするある波長幅のピークを有するのに対して、ベンゼン環の場合には、光分解反応の反応速度は、より波長の長い紫外線の特定の波長を中心とする同程度の波長幅のピークを有する。したがって、ベンゼン環にアジド基等が直接結合した化合物αを用いることで、表面処理する物質(例えばフッ素系樹脂等)をあまり劣化させない長波長の紫外線を照射しても、効率的に表面処理を行うことが可能となる。
【0034】
(化合物α1)
化合物α1は、下記式(1)又は(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0035】
【0036】
式(1)中、R1は、水素原子、炭素数1から12のアルキル基、フェニル基、炭素数1から12のアルコキシ基、又はヒドロキシ基である。複数のR2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン、又は1価の有機基である。X1は、アジド基、アジドスルホニル基、又はジアゾメチル基である。Y1は、単結合、エステル基、エーテル基、チオエーテル基、アミド基、ウレタン基、ウレア基、-NHR3-で表される基、又は下記式(3a)若しくは(3b)で表される基である。R3は、炭素数1から6のアルキル基である。Z1は、単結合、メチレン基、炭素数2から12のアルキレン基、又は炭素数2から12のアルキレン基の末端若しくは炭素-炭素結合間に-NH-、-O-、-S-及び-S(O)-のうちの1つ以上の基を含む基である。mは、1から3の整数である。R1、X1、Y1及びZ1が、それぞれ複数の場合、これらはそれぞれ独立して上記定義を満たす。但し、1又は複数のR1の少なくとも1つは、炭素数1から12のアルコキシ基である。
【0037】
式(2)中、複数のR4、R5及びR6は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1から12のアルキル基、フェニル基、炭素数1から12のアルコキシ基、又はヒドロキシ基であり、複数のR4、R5及びR6のうちの少なくとも1つは、炭素数1から12のアルコキシ基である。複数のR7は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン、又は1価の有機基である。X2は、アジド基、アジドスルホニル基、又はジアゾメチル基である。複数のZ2は、それぞれ独立して、単結合、メチレン基、炭素数2から12のアルキレン基、又は炭素数2から12のアルキレン基の末端若しくは炭素-炭素結合間に-NH-、-O-、-S-及び-S(O)-のうちの1つ以上の基を含む基である。
【0038】
【0039】
式(3a)中、R8は、水素原子又はメチル基である。
【0040】
R1、R4、R5及びR6で表される炭素数1から12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基等が挙げられる。
R1、R4、R5及びR6で表される炭素数1から12のアルコキシ基としては、上記したアルコキシ基等が挙げられる。
R2及びR7で表されるハロゲンとしては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
R2及びR7で表される1価の有機基としては、1価の炭化水素基、アルコキシ基、-Y1-Z1-Si-R1
3(Y1、Z1及びR1は、式(1)中のY1、Z1及びR1とそれぞれ同義である。)で表される基、-COO-N-(-Z2-SiR4R5R6)2(Z2、R4、R5及びR6は、式(2)中のZ2、R4、R5及びR6とそれぞれ同義である。)、後述する式(14)で表される基等が挙げられる。
R3で表される炭素数1から6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
【0041】
式(1)で表される化合物の好適な形態は以下の通りである。
R1としては、炭素数1から12のアルコキシ基が好ましく、炭素数1から6のアルコキシ基がより好ましく、炭素数1から3のアルコキシ基がさらに好ましい。
R2としては、水素原子が好ましい。
X1としては、アジド基及びアジドスルホニル基が好ましい。X1は、Y1等を含む基に対してパラ位又はメタ位に結合していることが好ましい。
Y1としては、アミド基が好ましく、*-CONH-(*は、ベンゼン環との結合部位を示す。)で表されるアミド基がより好ましい。
Z1としては、炭素数2から12のアルキレン基が好ましく、炭素数2から6のアルキレン基がより好ましい。
mは、3が好ましい。
【0042】
式(2)で表される化合物の好適な形態は以下の通りである。
R4、R5及びR6としては、炭素数1から12のアルコキシ基が好ましく、炭素数1から6のアルコキシ基がより好ましく、炭素数1から3のアルコキシ基がさらに好ましい。
R7としては、水素原子が好ましい。
X2としては、アジド基及びアジドスルホニル基が好ましい。X2は、-COO-N-(-Z2-SiR4R5R6)2で表される基に対してパラ位又はメタ位に結合していることが好ましい。
Z2としては、炭素数2から12のアルキレン基が好ましく、炭素数2から6のアルキレン基がより好ましい。
【0043】
化合物α1は、下記式(11)、(12)又は(13)で表される化合物(以下、一般に「IMB-K」と呼ぶ。)であることも好ましい。
【0044】
【0045】
式(11)~(14)中、X10、X11及びX12は、それぞれ独立して、アジド基、アジドスルホニル基又はジアゾメチル基である。E11及びE12は、それぞれ独立して、>C=O、メチレン基又は炭素数2~12のアルキレン基である。Y11、Y12、Y13及びY14は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、又は-J13-Si(OA10)3-k(R10)kで表される基である。J11、J12及びJ13は、それぞれ独立して、メチレン基、炭素数2~12のアルキレン基、又は炭素数2~12のアルキレン基の炭素-炭素結合間に酸素原子(-O-)を含む基である。Y15は、-R15又は-OA15で表される基である。Y16は、-R16又は-OA16で表される基である。A10、A15及びA16は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基、ベンジル基又は水素原子である。R10、R15及びR16は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基又はベンジル基である。kは、0以上2以下の整数である。Q10は、水素原子又は式(4)で表される有機基である。式(11)及び(12)において、Y11とY12との少なくとも一方は、酸素原子を含む。式(13)において、Y15とY16との少なくとも一方は酸素原子を含む。式(13)において、ベンゼン環に結合している基X11及びX12は、それぞれ独立して、パラ位又はメタ位に結合している。
【0046】
(化合物α1の合成方法)
化合物α1の合成方法は特に限定されないが、例えば、アルコキシシリル基と、アルコキシシリル基以外の反応性基aとを有するシランカップリング剤Aと、上記反応性基aと結合反応可能な反応性基bと、ベンゼン環と、アジド基、アジドスルホニル基及びジアゾメチル基からなる群より選ばれる1つ以上の基とを有する化合物Bとを公知の方法により反応させることにより得ることができる。反応性基aと反応性基bとの組み合わせとしては、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基等と、カルボキシ基との組み合わせなどが挙げられる。
【0047】
シランカップリング剤Aとしては、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)アミン、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(3-アミノプロピル)ジエトキシシラン、ビス(3-アミノプロピル)ジメトキシシラン等が挙げられる。
【0048】
化合物Bとしては、アジド安息香酸、アジドスルホニル安息香酸、ジアゾメチル安息香酸、3-(4-アジドフェニル)プロピオン酸、これらのカルボン酸の塩化物、アジドアニリン、アジドフェノール等が挙げられる。
【0049】
(化合物α2)
化合物α1を含む加水分解性シラン化合物を加水分解縮合して得られる化合物α2は、化合物α1に由来する構造単位Aを有する。化合物α2は、構造が化合物α1を含む加水分解性シラン化合物を加水分解縮合して得られる化合物と同一であれば、他の合成方法により得られたものであってもよい。化合物α2は、シルセスキオキサン化合物であることが好ましい。化合物α2は、アルコキシシリル基及びヒドロキシシリル基の少なくとも一方を有することが好ましく、ヒドロキシシリル基を有することがより好ましい。
【0050】
構造単位Aとしては、下記式(4)で表される構造単位が挙げられる。下記式(4)で表される構造単位は、mが3である式(1)で表される化合物α1に由来する構造単位である。
【0051】
【0052】
式(4)中、R1、R2、X1、Y1及びZ1は、式(1)中のR1、R2、X1、Y1及びZ1とそれぞれ同義である。aは、0から2の整数である。
【0053】
式(4)中のR1、R2、X1、Y1及びZ1の具体例は、式(1)中のR1、R2、X1、Y1及びZ1の具体例と同様である。式(4)中のR1は、反応性等の観点からはヒドロキシ基又はアルコキシ基であることが好ましく、ヒドロキシ基であることがより好ましい。aは、1が好ましい。
【0054】
化合物α2における全構造単位に対する構造単位Aの含有量の下限は、10モル%が好ましく、20モル%がより好ましく、30モル%がさらに好ましい。一方、この含有量の上限は、90モル%が好ましく、80モル%がより好ましく、70モル%がさらに好ましい。
【0055】
化合物α2は、アミノ基(-NH2)を含む構造単位Bを有することが好ましい。化合物α2が構造単位Bを有する場合、化合物α2の水溶性が向上するなどの利点がある。構造単位Bを与える加水分解性シラン化合物としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0056】
化合物α2における全構造単位に対する構造単位Bの含有量の下限は、10モル%が好ましく、20モル%がより好ましく、30モル%がさらに好ましい。一方、この含有量の上限は、90モル%が好ましく、80モル%がより好ましく、70モル%がさらに好ましい。
【0057】
化合物α2は、構造単位A及び構造単位B以外の構造単位Cを有していてもよい。構造単位Cを与える加水分解性シラン化合物としては、下記式(C)で表される化合物が挙げられる。
【0058】
【0059】
式(C)中、Rdは、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数6~15のアリール基、又は反応性基を有する有機基であり、複数のRdはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。Reは、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~6のアシル基、又は炭素数6~15のアリール基であり、複数のReはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。xは0~3の整数を表す。また、これらのアルキル基、アルケニル基、アリール基はいずれも無置換体及び置換体のどちらでもよく、特性に応じて選択できる。
【0060】
Rd及びReで表されるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、n-デシル基、トリフルオロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-グリシドキシプロピル基、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、〔(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ〕プロピル基、3-メルカプトプロピル基、3-イソシアネートプロピル基等が挙げられる。Rdで表されるアルケニル基の具体例としては、ビニル基、3-アクリロキシプロピル基、3-メタクリロキシプロピル基等が挙げられる。Rd及びReで表されるアリール基の具体例としては、フェニル基、トリル基、p-ヒドロキシフェニル基、p-メトキシフェニル基、1-(p-ヒドロキシフェニル)エチル基、2-(p-ヒドロキシフェニル)エチル基、4-ヒドロキシ-5-(p-ヒドロキシフェニルカルボニルオキシ)ペンチル基、ナフチル基等が挙げられる。Reで表されるアシル基の具体例としては、アセチル基が挙げられる。
【0061】
式(C)において、x=0の場合は4官能性シラン、x=1の場合は3官能性シラン、x=2の場合は2官能性シラン、x=3の場合は1官能性シランである。
【0062】
式(C)で表される加水分解性シラン化合物の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラアセトキシシラン、テトラフェノキシシランなどの4官能性シラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリn-ブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリn-ブトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p-ヒドロキシフェニルトリメトキシシラン、p-メトキシフェニルトリメトキシシラン、1-(p-ヒドロキシフェニル)エチルトリメトキシシラン、2-(p-ヒドロキシフェニル)エチルトリメトキシシラン、4-ヒドロキシ-5-(p-ヒドロキシフェニルカルボニルオキシ)ペンチルトリメトキシシラン、1-ナフチルトリメトキシシラン、2-ナフチルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルトリエトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、〔(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ〕プロピルトリメトキシシラン、〔(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ〕プロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸などの3官能性シラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシラン、ジメチルジアセトキシシラン、ジn-ブチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、(3-グリシドキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3-グリシドキシプロピル)メチルジエトキシシランなどの2官能性シラン、トリメチルメトキシシラン、トリn-ブチルエトキシシラン、(3-グリシドキシプロピル)ジメチルメトキシシラン、(3-グリシドキシプロピル)ジメチルエトキシシランなどの1官能性シランが挙げられる。
【0063】
加水分解性シラン化合物は、1種を単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0064】
化合物α2の重量平均分子量(Mw)は特に制限されないが、好ましくはGPC(ゲルパーミネーションクロマトグラフィ)で測定されるポリスチレン換算で1000~100000、さらに好ましくは2000~50000である。
【0065】
(化合物α2の合成方法)
化合物α2は、(i)化合物α1を含む加水分解性シラン化合物を加水分解縮合して得る方法、(ii)加水分解性シラン化合物の加水分解縮合物であって、構造単位Bを有する化合物に対して、「アミノ基と結合反応可能な反応性基と、ベンゼン環と、アジド基、アジドスルホニル基及びジアゾメチル基からなる群より選ばれる1つ以上の基とを有する化合物X」(アジド安息香酸、アジドスルホニル安息香酸、ジアゾメチル安息香酸等)を反応させて得る方法などが挙げられる。上記(ii)においては、構造単位B中のアミノ基が化合物Xと反応することにより、構造単位Aが形成される。
【0066】
化合物α2を得るための加水分解縮合には、一般的な方法を用いることができる。例えば、加水分解性シラン化合物に溶媒、水、必要に応じて触媒を添加し、50~150℃で0.5~100時間程度加熱撹拌する。なお、撹拌中、必要に応じて、蒸留によって加水分解副生物(メタノールなどのアルコール)及び縮合副生物(水)等の留去を行ってもよい。
【0067】
必要に応じて添加される触媒に特に制限はないが、酸触媒及び塩基触媒が好ましく用いられる。酸触媒の具体例としては塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸、リン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸、多価カルボン酸あるいはその無水物、イオン交換樹脂等が挙げられる。塩基触媒の具体例としては、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アミノ基を有するアルコキシシラン、イオン交換樹脂等が挙げられる。触媒の添加量は、加水分解性シラン化合物100質量部に対して0.01~10質量部が好ましい。
【0068】
化合物α2を含む溶液の貯蔵安定性の観点から、加水分解縮合後の溶液には触媒が含まれないことが好ましく、必要に応じて触媒の除去を行うことができる。除去方法としては特に制限は無いが、好ましくは水洗浄及び/又はイオン交換樹脂の処理が挙げられる。水洗浄とは、溶液を適当な疎水性溶剤で希釈した後、水で数回洗浄して得られた有機層をエバポレーターで濃縮する方法である。イオン交換樹脂での処理とは、溶液を適当なイオン交換樹脂に接触させる方法である。
【0069】
加水分解縮合の反応に用いる溶媒は特に制限はないが、好ましくはアルコール性水酸基を有する化合物が用いられる。アルコール性水酸基を有する化合物は特に制限されないが、好ましくは大気圧下の沸点が110~250℃である化合物である。
【0070】
アルコール性水酸基を有する化合物の具体例としては、アセトール、3-ヒドロキシ-3-メチル-2-ブタノン、4-ヒドロキシ-3-メチル-2-ブタノン、5-ヒドロキシ-2-ペンタノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン(ジアセトンアルコール)、乳酸エチル、乳酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノt-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノールなどが挙げられる。なお、これらのアルコール性水酸基を有する化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0071】
また、溶媒としては、アルコール性水酸基を有する化合物と共にその他の溶媒を用いてもよい。その他の溶媒としては、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシ-1-ブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシ-1-ブチルアセテート、アセト酢酸エチルなどのエステル類、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセチルアセトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジn-ブチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、などのエーテル類、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、炭酸プロピレン、N-メチルピロリドン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノンなどが挙げられる。
【0072】
(化合物αの具体例)
化合物αは、より具体的には下記式(15)、(16)、(17)(18a)、(18b)、(18c)又は(19)で表される化合物を挙げることができる。
【0073】
【0074】
【0075】
式(19)で表される化合物は、式(19)中に示された3種類の構造単位が、それぞれl個、m個、n個結合して構成されるシルセスキオキサン化合物であり、Xはアジド基であり、lは0以上の任意の整数、mは1以上の任意の整数、nは0以上の任意の整数である。Ra、Rb及びRcは、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基又は-O-である。Rfは、水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数6~15のアリール基、又は反応性基を有する有機基であり、複数のRfはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。これらのアルキル基、アルケニル基、アリール基はいずれも無置換体及び置換体のどちらでもよく、特性に応じて選択できる。式(19)で表される化合物(「IMB-4KP」)は、例えば、l:m:n=1:1:0の場合には水溶性である。一般に、この化合物は、比l/(m+n)の値が0に近い場合(例えば、0.2未満又は0.1未満)を除いて水溶性である。すなわち、比l/(m+n)の値の下限は、水溶性の観点から、0.2が好ましく、0.5がより好ましく、1がさらに好ましい。比l/(m+n)の値の上限は、5が好ましく、2がより好ましい。
【0076】
(溶液:表面処理剤)
1種以上の化合物αを含む溶液は、いわゆる表面処理剤である。すなわち、本発明の一実施形態に係る表面処理剤は、当該表面処理方法に用いられる表面処理剤であり、1種以上の化合物αを含む溶液である。当該表面処理剤(1種以上の化合物αを含む溶液)は、例えば、非粒子状の基材に対する下地処理をするための下地処理剤であってもよい。
【0077】
当該溶液(表面処理剤)は、溶媒を含む。溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、セルソルブ、カルビトール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、オクタン、デカン、ドデカン、オクタデカン等の脂肪族炭化水素、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、フタル酸メチル等のエステル、テトラヒドロフラン(THF)、エチルブチルエーテル、アニソール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等のエーテル、水等を用いることができる。また、加水分解縮合に用いられる溶媒として例示した溶媒も用いることができる。これらの中でも、アルコール、エーテル及び水が好ましい。溶媒は、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0078】
溶液は、化合物α及び溶媒以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、界面活性剤等を挙げることができる。但し、当該溶液における全固形分(溶媒以外の全成分)に対する化合物αの含有量としては、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。当該溶液における全固形分に対する化合物αの含有量は100質量%であってもよい。
【0079】
当該表面処理剤は、めっき表面処理剤、めっき前処理剤、難塗装用前処理剤等の塗装用前処理剤、インサート成形剤等に用いることができる。また、当該表面処理剤は、半導体パッケージ、パワーモジュール、電磁波シールド、リチウム電池用電極、リチウム電池用部材、自動車部材、プリント配線板、LEDモジュール、導波管、各種回路基板(高速伝送基板、ヒートシンク回路基板、フレキシブル銅張積層板(FCCL)、セラミック回路基板、ブルドアップ基板、導電性回路等)、電子機器、金属-樹脂接合材又は封止材(電子機器、導電性回路、食品、化粧品、医薬品等の金属-樹脂接合材又は封止材)等の結合体を製造するための表面処理剤として用いることができる。
【0080】
(他の工程等)
当該表面処理方法は、化合物αを少なくとも一方の物質の表面に設ける工程の前に、洗浄処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射処理及びイトロ処理からなる群より選ばれる1つ以上の前処理を上記少なくとも一方の物質に対して行う工程をさらに備えることが好ましい。このような前処理により、結合体の密着性をより高めることなどができる。
【0081】
当該表面処理方法は、化合物αを少なくとも一方の物質の表面に設ける工程の後に、物質の表面に存在する化合物αに紫外線を照射する工程をさらに備えることが好ましい。アジド基(-N3)等は紫外線の作用により分解して窒素分子(N2)が離脱し、残されたN原子等は活性化状態となり、物質の表面のC原子等と当該N原子等とは、強固な化学結合を形成する。したがって、物質の表面に担持された化合物αと当該表面とは、紫外線照射処理により光化学反応を起こして、化学結合を形成する。その際に、LED光源等から紫外線を照射することで、当該物質が劣化しにくい紫外線の波長を選んで、紫外線照射を行うことができる。化合物αのアジド基等は、紫外線照射に対しても窒素分子(N2)が離脱する化学反応を起こして、物質と強固な化学結合を形成する。具体的には230~300nm、好ましくは240~280nmの波長領域を含む紫外線ランプで照射することが好ましい。
【0082】
当該表面処理方法は、化合物αを少なくとも一方の物質の表面に設ける工程の後に、物質の表面に存在する化合物αに対する加熱処理を行う工程をさらに備えることが好ましい。アジド基(-N3)等は加熱により分解して窒素分子(N2)が離脱し、残されたN原子等は活性化状態となり、物質の表面のC原子等と当該N原子等とは、強固な化学結合を形成する。したがって、物質の表面に担持された化合物αと当該表面とは、加熱処理により化学反応を起こして、化学結合を形成する。加熱処理における熱処理温度としては、70℃以上150℃以下が好ましい。一実施形態においては、熱処理温度は80℃以上120℃以下、さらには90℃以上110℃以下がより好ましい場合がある。なお、紫外線照射処理と加熱処理とを併用してもよい。紫外線照射処理と加熱処理とを併用する場合、いずれか一方を先に行ってもよく、同時に行ってもよい。また、紫外線照射処理と加熱処理とを、洗浄処理等の他の処理と組み合わせて、或いは、組み合わせることなく、反復適用してもよい。
【0083】
当該表面処理方法は、化合物αを少なくとも一方の物質の表面に設ける工程の前に、化合物βを上記少なくとも一方の物質の表面に設ける工程をさらに備え、化合物βは、一分子内に、化学反応により少なくとも一方の物質と化学結合可能な官能基と、化学反応により化合物αと化学結合可能な官能基とを有する化合物であることが好ましい。
【0084】
化合物βを介在させることで、化合物αが担持された物質の表面に現れる化合物αの官能基の種類とその割合を制御して、表面処理の後に行われる他方の物質の貼合せ、めっき又は成膜等により形成される結合体における密着強度を高めることができる。
【0085】
化合物βとしては、例えば、3-(トリエトキシシリル)プロピルアミン等のアミン系脂肪族シランカップリング剤、IMB-A等のアミン系芳香族シランカップリング剤、(3-アジドプロピル)トリエトキシシラン等のアジド系脂肪族シランカップリング剤、IMB-P、IMB-K等のアジド系芳香族シランカップリング剤、3-(トリエトキシシリル)プロパンチオール等のチオール系脂肪族シランカップリング剤、6-(3-トリエトキシシリルプロピルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールモノナトリウム塩(以下、「IMB-N」と呼ぶ)等のチオール系芳香族シランカップリング剤等が挙げられる。また、化合物βは、化合物αと同一でもよい。
【0086】
当該表面処理方法は、化合物αを少なくとも一方の物質の表面に設ける工程において、化合物αを一方の物質の表面に設け、この工程の後に、化合物βを上記一方の物質の表面に設ける工程をさらに備え、化合物βは、一分子内に、化学反応により上記化合物αと化学結合可能な官能基と、化学反応により他方の物質と化学結合可能な官能基とを有する化合物であることが好ましい。このような方法によっても、化合物βを介在させることで、化合物αが担持された物質の表面に現れる化合物βの官能基の種類とその割合を制御して、表面処理の後に行われる他方の物質の貼合せ、めっき又は成膜により形成される結合体における密着強度を高めることができる。このとき用いられる化合物βの具体例としては、上記したものと同様の化合物等が挙げられる。また、化合物βは、化合物αと同一でもよい。
【0087】
当該表面処理方法は、化合物αを少なくとも一方の物質の表面に設ける工程において、上記化合物αを一方の物質の表面に設け、化合物βを他方の物質の表面に設ける工程をさらに備え、上記化合物βは、一分子内に、化学反応により上記化合物αと化学結合可能な官能基と、化学反応により他方の物質と化学結合可能な官能基とを有する化合物であることが好ましい。化合物αを一方の物質の表面に設け、化合物βを他方の物質に設けることで、表面処理の後に形成される結合体における密着強度を高めることができる。このとき用いられる化合物βの具体例としては、上記したものと同様の化合物等が挙げられる。また、化合物βは、化合物αと同一でもよい。
【0088】
本発明の他の実施形態に係る表面処理方法は、塗膜が形成された物質の塗膜の表面に、本発明の一実施形態に係る表面処理方法により、化合物αを含む剤を設ける工程を備える。このように、塗膜が形成された物質における塗膜の表面に対しても、本発明の一実施形態に係る表面処理方法を適用することができる。
【0089】
<結合体の製造方法>
本発明の一実施形態に係る結合体の製造方法は、物質Aと物質Bとを結合させて結合体を製造する方法であり、本発明の一実施形態に係る表面処理方法により、物質Aの表面、又は両物質の表面に処理を行う表面処理工程と、物質Aの化合物αが存在する表面に対向して、物質Bの上記処理が行われた表面又は物質Bの表面を配置する配置工程と、物質A及び物質Bの少なくとも一方に力を加え、両物質が一体的に結合される結合工程とを備える。
【0090】
当該結合体の製造方法によれば、両物質が化合物αを介して強固な化学結合により結合された結合体を製造することができる。なお、結合工程においては、物質Aと物質Bとの対向方向(物質Aと物質Bとが密着する方向)に力を加える。他の実施形態における結合工程においても同様である。
【0091】
当該結合体の製造方法においては、結合工程を40℃以上350℃以下の温度下で行うことが好ましく、90℃以上250℃以下で行うことがより好ましい。このような温度下で結合工程を行うことで、より強固に結合された結合体を得ることができる。
【0092】
本発明の他の実施形態に係る結合体の製造方法は、塗膜が形成された物質Aの塗膜の表面に、本発明の一実施形態に係る表面処理方法により処理を行う表面処理工程と、塗膜の表面に対向して物質Bの表面を配置する配置工程と、物質A及び物質Bの少なくとも一方に力を加え、両物質が一体的に結合される結合工程とを備える。
【0093】
本発明の他の実施形態に係る結合体の製造方法は、物質Bの表面に、本発明の一実施形態に係る表面処理方法により処理を行う表面処理工程と、物質Bの上記表面に対向して、塗膜が形成された物質Aの塗膜の表面を配置する配置工程と、物質A及び物質Bの少なくとも一方に力を加え、両物質が一体的に結合される結合工程とを備える。
【0094】
<導体被覆を有する物質の製造方法>
本発明の一実施形態に係る導体被覆を有する物質の製造方法は、本発明の一実施形態に係る表面処理方法により、物質の表面に上記化合物αを含む剤を設ける表面処理工程と、無電解めっき、蒸着又は塗布の手法により、物質の化合物αが存在する表面に導体被覆を設ける被覆形成工程とを備える。
【0095】
当該導体被覆を有する物質の製造方法によれば、物質と導体被覆とが、化合物αを介して化学結合により強固に結合された、導体被覆を有する物質を製造することができる。ここで、塗布の手法により導体被覆を設ける方法の一例としては、化合物αが存在する物質の表面に、導電ペーストを塗布し、加熱することにより導電ペーストを焼結・硬化させて、表面に導体被覆を形成する方法などが挙げられる。導電ペーストとしては、低温焼結タイプの銀ペースト、銀ナノペースト、銀ナノインクなどが利用できる。
【0096】
<塗膜が形成された物質の製造方法>
本発明の一実施形態に係る塗膜が形成された物質の製造方法は、本発明の一実施形態に係る表面処理方法により、物質の表面に化合物αを含む剤を設ける表面処理工程と、物質の化合物αが存在する表面に、塗膜を形成する塗膜形成工程とを備える。
【0097】
当該塗膜が形成された物質の製造方法によれば、物質と塗膜とが、化合物αを介して化学結合により強固に結合された、塗膜が形成された物質を製造することができる。ここで、塗膜を形成する方法としては、例えば、液状材料の熱硬化による成膜、液状材料の紫外線(UV)硬化による成膜、液状材料の湿気硬化による成膜、液状材料の溶媒乾燥による成膜、材料混合が引き起こす常温硬化による成膜、液状材料の空気との接触が引き起こす常温硬化による成膜等が挙げられる。
【0098】
<化合物>
本発明の一実施形態に係る化合物は、上記式(1)若しくは(2)で表される化合物α1、又は上記化合物α1を含む加水分解性シラン化合物を加水分解縮合して得られる加水分解縮合物α2である。当該化合物の具体的形態は、上記した通りである。
【0099】
<表面処理剤>
本発明の一実施形態に係る表面処理剤は、本発明の一実施形態に係る化合物を含む。当該表面処理剤の具体的形態は、上記した通りである。
【0100】
以下、本発明の一実施形態として、導体被膜を有する物質の製造方法、熱圧着処理を用いる結合体の製造方法、塗膜が形成された物質の製造方法、及び得られる結合体について具体的に説明する。
【0101】
<1.導体被覆を有する物質の製造方法の全体フロー>
図1は、本発明の一実施形態に係る導体被覆を有する物質の製造方法の全体フロー図である。無電解めっき処理を用いて、物質に導体被覆を形成する本実施形態は、当該物質の表面に表面処理を施す表面処理工程Sstと、表面処理が施された当該物質の表面に導体被覆を形成する被覆形成工程Scとから構成される。
【0102】
<1-1.表面処理工程Sst(無電解めっきを利用する場合)>
表面処理工程Sstは、脱脂洗浄工程S1と、前処理工程S2と、IMB担持処理工程(単に「担持処理工程」ともいう)S3と、後処理工程S4と、工程S3及びS4を再び繰り返すか否かを判断するステップS5と、IMB後熱処理工程S6とを備える。
【0103】
脱脂洗浄工程S1は、溶剤等を用いて、当該物質を洗浄する工程である。例えば、当該物質をアセトン、エタノール等の溶剤に浸漬して超音波洗浄し、乾燥させる。
【0104】
前処理工程S2は、当該物質に前処理を行う工程である。
図2に示すように、前処理工程S2は、前処理本工程S21と、前処理本工程が実施された当該物質をシリコンクリーナや酸クリーナ等の洗浄溶剤に浸漬して超音波洗浄する前処理後洗浄工程S22とを備える。
【0105】
前処理本工程S21では、当該物質を酸素プラズマ、大気プラズマ等のプラズマで処理するプラズマ処理、当該物質の表面にコロナ放電照射を行うコロナ放電処理、酸処理、アルカリ処理、紫外線照射処理、当該物質の表面をシランカップリング剤等のカップリング剤を混入した燃焼ガスの燃焼炎にさらすイトロ処理、及び当該物質をアルカリ金属溶液に浸漬して脱フッ素化を行う脱フッ素化処理からなる群から選ばれた1つ以上の処理が行われる。
【0106】
IMB担持処理工程S3は、界面分子結合(IMB; Interface Molecular Bonding)のための処理を行う工程である。界面分子結合とは、一般に、2つの物質(物質A及び物質B)の界面に化合物(化合物αとする)を介在させ、化学反応により、物質Aと化合物α、及び、物質Bと化合物αを化学結合させて、物質AとBとを当該化合物αを介して化学結合により結合する技術のことである。ここで化学結合は、共有結合又はイオン結合であることが好ましい。
【0107】
具体的には、IMB担持処理工程S3は、前処理工程S2において処理された当該物質に化合物αを含む溶液(表面処理剤)を塗布することにより、その表面に当該化合物αを担持させる処理を行う工程である。例えば、当該物質を化合物αを含む溶液に浸漬して乾燥させることにより、当該物質の表面に化合物αが担持される。換言すれば、当該物質の表面に化合物αが設けられ、当該物質の表面に化合物αが存在することとなる。
【0108】
後処理工程S4は、当該物質と化合物αを化学反応により化学結合させるために、当該物質に紫外線照射処理及び熱処理のうち少なくとも1つの処理を行う工程である。
図3に示すように、後処理工程S4は、紫外線照射処理を行うか否かを判断するステップS41と、当該処理を行う場合に、化合物αを担持した当該物質の表面に所定の時間、所定の波長分布と強度を有する紫外線を照射する紫外線照射処理工程S42と、熱処理を行うか否かを判断するステップS43と、当該処理を行う場合に、化合物αを担持した当該物質の表面を所定の時間、所定の温度に保持する熱処理工程S44と、洗浄を行うか否かを判断するステップS45と、当該洗浄を行う場合に、未反応の化合物αや副反応生成物を除去するために当該物質の表面をエタノールやアセトン等の溶剤で洗浄する洗浄工程S46とを備える。
【0109】
ステップS5は、反復処理が必要か否かを判断するステップである。反復処理が必要な場合には、上記のIMB担持処理工程S3と後処理工程S4が繰り返される。反復処理が不要な場合には、IMB後熱処理工程S5が行われる。
【0110】
IMB後熱処理工程S6は、当該物質と化合物αを化学反応により化学結合させるための工程であり、予め定められた熱処理温度及び熱処理時間にて熱処理を施す工程である。熱処理温度は80℃以上250℃以下が好ましく、熱処理時間は3分以上60分以下が好ましい。なお、直近に実行された後処理工程S4が、熱処理工程S44を含み、かつ、洗浄工程S46を含まない場合には、当該熱処理工程S44はIMB後熱処理工程S5であると見做される。
【0111】
<1-2.被覆形成工程Sc(無電解めっきを利用する場合)>
無電解めっきを利用して導体被覆を形成する本発明の実施形態においては、
図1に示すように、被覆形成工程Scは、無電解めっき処理工程S7と、オプションで電解めっき処理工程S8とを備える。例えば、めっき皮膜の膜厚が必要な場合には、無電解めっき処理工程S7の後で、電解めっき処理工程S8を行って厚膜化を図ってもよい。電解めっきされる金属は、例えば、Cu、Ni、Ag、Pd、Au、Pt、Zn、Cr、Sn、Biなどが挙げられる。
【0112】
無電解めっき処理工程S7は、
図4に示すように、プレディップ工程S71と、触媒付与工程S72と、アクセラレータ工程S73と、無電解めっき工程S74と、アニール工程S75とを備える。
【0113】
プレディップ工程S71では、IMB後熱処理工程S5を経た当該物質をプレディップ液に浸漬する処理が行われる。続いて、触媒付与工程S72では、当該物質をキャタリスト液に浸漬してPd等の触媒を付与する。キャタリスト液は、例えば、キャタポジット44(ローム&ハース電子材料株式会社製)である。続いて、アクセラレータ工程S73では、当該物質をアクセラレータ液に浸漬するアクセラレータ処理を施してSnコロイドを除去し、触媒を活性化する。アクセラレータ液は、例えば定められた濃度の塩酸であり、その濃度は例えば0.1~10v/v%である。
【0114】
続いて、無電解めっき工程S74では、当該物質に無電解めっきを施す。めっきされる金属は、例えば、Cu、Niなどである。形成されるめっき皮膜は、当該物質の表面に担持された化合物αを介した界面分子結合により、当該物質と化学結合により結合している。続いて、アニール工程S75では、所定の温度で所定の時間、アニール処理を行う。所定の温度及び所定の時間は、例えば、90~130℃及び3~60分である。アニール処理により、めっき応力が低減され、剥離強度が向上する。
【0115】
<2.熱圧着処理を用いる結合体の製造方法の全体フロー>
図(5A)は、本発明の一実施形態に係る2つの物質AとBとの結合体の製造方法の全体フロー図である。熱圧着処理を用いて、2つの物質の結合体を形成する本実施形態は、少なくとも1つの物質Aの表面に表面処理を施す表面処理工程Sstと、物質Aの当該表面に対向して、物質Bの表面が配置される配置工程Spと、物質A及び物質Bの少なくとも一方に熱と力が加えられ、両物質が一体的に結合される結合工程Suとを備える。配置工程Spと結合工程Suとを合わせて熱圧着処理工程Shpと呼ぶ。
【0116】
<2-1.表面処理工程Sst(熱圧着を利用する場合)>
本実施形態において少なくとも1つの物質に対して行われる表面処理工程Sstは、
図1に示す実施形態におけるものと同様であるから、その記載を省略する。なお、両方の物質の表面に表面処理を施してもよく、表面処理によりそれぞれの物質の表面に異なった種類の化合物αや化合物βを設けてもよく、また、表面処理により1つの物質の表面に化合物αを設けた後に更に化合物βを設けてもよく、また、表面処理により1つの物質の表面に化合物βを設けたのちに更に化合物αを設けてもよい。また、1つ以上の物質が、その表面に塗膜が形成された物質であってもよく、その1つ以上の塗膜の表面に各々、表面処理工程Sstを施してもよい。
【0117】
<2-2.配置工程Sp>
配置工程Spにおいては、物質Aの表面処理が施された表面に対向して、物質Bの表面が配置される。
【0118】
<2-3.結合工程Su>
結合工程Suにおいては、物質A及び物質Bの少なくとも一方に、所定の時間の間、所定の温度のもとで所定の圧力を加えて、物質Aと物質Bとを結合する。加温により化合物αを介した界面分子結合に係る化学反応が進行して、物質Aと物質Bとが化学結合により強固に結合される。所定の時間、所定の温度及び所定の圧力は、例えば、3から60分、90から250℃及び0.1から10MPaである。少なくとも1つの物質が導体片であってもよい。導体片には、例えば、各種金属の電解薄板や圧延薄板、黒鉛シートなどが挙げられる。
【0119】
<3.塗膜が形成された物質の製造方法の全体フロー>
図(5B)は、本発明の一実施形態に係る塗膜が形成された物質の製造方法の全体フロー図である。本実施形態は、当該物質の表面に表面処理を施す表面処理工程Sstと、表面処理が施された当該物質の表面に塗膜を形成する塗膜形成工程Sfとを備える。
【0120】
<3-1.表面処理工程Sst(塗膜を形成する場合)>
本実施形態において当該物質に対して行われる表面処理工程Sstは、
図1に示す実施形態におけるものと同様であるから、その記載を省略する。
【0121】
<3-2.塗膜形成工程Sf>
本実施形態においては、図(5B)に示すように、塗膜形成工程Sfは、表面処理工程Sstにおいて表面処理が施された当該物質の表面に液状材料を塗布する塗布工程S96と、前記液状材料を当該表面上で硬化させて成膜する硬化工程S97とを備える。ここで、液状材料を「塗布する」とは、物質の表面に液状材料を「付着させる」又は「接触状態で存在させる」ことをいい、押出しだけでなく、刷毛塗り、滴下、スプレー、スピンコート、ロール、インクジェット等の印刷、浸漬等の方法により「付着させる」又は「接触状態で存在させる」ことを含む。ここで、成膜の方法としては、例えば、液状材料の熱硬化による成膜、液状材料の紫外線(UV)硬化による成膜、液状材料の湿気硬化による成膜、液状材料の溶媒乾燥による成膜、材料混合が引き起こす常温硬化による成膜、液状材料の空気との接触が引き起こす常温硬化による成膜等がある。成膜の過程で、化合物αを介した界面分子接合に係る化学反応が進行して、当該物質と形成される塗膜が化学結合により強固に接合される。液状材料としては、例えば、液状ポリイミド等の液状樹脂が利用できる。
【0122】
<4.結合体>
図6は、本発明の一実施形態に係る製造方法により作製される種々の結合体の構造を示す図である。
【0123】
図(6A)は、物質Aの表面に本発明の一実施形態に係る表面処理方法により化合物αが設けられ、その後、物質Bが、物質Aの前記表面に対向して配置されて、両物質が化合物αを介した界面分子結合により結合された結合体が形成されることを示す。物質Bは、めっき、蒸着、スパッタリング、塗膜形成、接合等、本発明の諸形態に示した種々の方法で、物質Aの前記表面に対向して配置される。
【0124】
図(6B)は、物質Aの表面に本発明の一実施形態に係る表面処理方法により化合物αが設けられ、その後、化合物βが、イトロ処理等の方法で、物質Aの化合物αが存在する表面に設けられ、更に、物質Bが、物質Aの前記表面に対向して配置されて、両物質が化合物α及び化合物βを介した化学結合である界面分子結合により結合された結合体が形成されることを示す。物質Bは、めっき、蒸着、スパッタリング、塗膜形成、接合等の方法で、物質Aの表面に対向して配置される。
【0125】
図(6C)は、物質Aの表面にイトロ処理等の方法で化合物βが設けられ、その後、本発明の一実施形態に係る表面処理方法により化合物αが、物質Aの化合物βが存在する表面に設けられ、更に、物質Bが、物質Aの表面に対向して配置されて、両物質が化合物β及び化合物αを介した化学結合である界面分子結合により結合された結合体が形成されることを示す。物質Bは、めっき、蒸着、スパッタリング、塗膜形成、接合等の方法で、物質Aの表面に対向して配置される。
【0126】
図(6D)は、物質Aの表面に本発明の一実施形態に係る表面処理方法により化合物αが設けられ、又、物質Bの表面にイトロ処理等の方法で化合物βが設けられ、更に、物質Bの表面が、物質Aの表面に対向して配置されて、両物質が化合物α及び化合物βを介した化学結合である界面分子結合により結合された結合体が形成されることを示す。物質Bは、接合等の方法で、物質Aに対向して配置される。
【0127】
図(6E)及び(6F)は、塗膜Cが形成された物質A’を物質Aと見做し、塗膜Cの表面を、物質Aの物質Bと対向する表面として、図(6A)~(6D)の各々に示した態様の結合体が形成できることを示す模式説明図である。
【0128】
当該結合体は、半導体パッケージ、パワーモジュール、電磁波シールド、リチウム電池用電極、リチウム電池用部材、自動車部材、プリント配線板、LEDモジュール、導波管、各種回路基板(高速伝送基板、ヒートシンク回路基板、フレキシブル銅張積層板(FCCL)、セラミック回路基板、ブルドアップ基板、導電性回路等)、電子機器、金属-樹脂接合材又は封止材(電子機器、導電性回路、食品、化粧品、医薬品等の金属-樹脂接合材又は封止材)等として用いることができる。
【実施例0129】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0130】
<化合物「IMB-K」の製造>
本発明に係る種々の化合物IMB-Kの合成方法について説明する。
合成物の同定には、(株)島津製作所製のフーリエ変換赤外分光光度計IRTracer-100、日本電子(株)製の核磁気共鳴スペクトル装置 NMR spectrometer Z、及び(株)島津製作所製のガスクロマトグラフ質量分析計 GCMS-QP2020 NXを用いた。
【0131】
(1)4-アジド安息香酸クロリドの合成(原料物質の製造)
【化10】
塩化メチレン(CH
2Cl
2)30mLとDMF(N,N-ジメチルホルムアミドC
3H
7NO)0.3mLとの混合溶媒に、4-アジド安息香酸(N
3C
6H
4COOH)2.6gを溶解させた。窒素ガスの雰囲気下、撹拌しながら、塩化メチレン20mLに溶かした塩化チオニル(SOCl
2)7.3gを、室温で滴下した。反応を完結させるためさらに2hr撹拌を続けた。反応終了後、塩化メチレンを含む低沸点物を留去し、4-アジド安息香酸クロリド(N
3C
6H
4COCl)を含む黄色油状物を得た。この油状物は、更に精製することなく、直接に次の反応に供した。
【0132】
(2)N-(3-トリエトキシシリルプロピル)-4-アジドベンズアミドの合成(IMB-4K)の合成
【化11】
【0133】
4-アジド安息香酸クロリド(N3C6H4COCl)1.8gをTHF(テトラヒドロフラン)15mLに溶かした。窒素ガスの雰囲気下、3-トリエトキシシリルプロピルアミン3.6g、及びTEA(トリエチルアミン)2.1gをTHF20mLに溶かし、撹拌しながら室温で滴下した。反応を完結させるためさらに2hr撹拌を続けた。反応終了後、THFを含む溶液を留去し、得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィ(溶離液:アセトン/ヘキサン=85/15)により精製し収率66%(2.4g)で淡黄色オイルを得た。
IR、NMR及びQCMSの各分析から、生成物が、N-(3-トリエトキシシリルプロピル)-4-アジドベンズアミドであることを確認した。
【0134】
(3)N-(3-トリエトキシシリルプロピル)-3-アジドベンズアミド(IMB-3K)の合成
【化12】
【0135】
3-アジド安息香酸クロリド(N3C6H4COCl)1.8gをTHF15mLに溶かした。窒素ガスの雰囲気下、3-トリエトキシシリルプロピルアミン(H2N(CH2)2Si(OC2H5)3)3.6g、及びTEA2.1gをTHF20mLに溶かし、撹拌しながら室温で滴下した。反応を完結させるためさらに2hr撹拌を続けた。反応終了後、THFを含む溶液を留去し、得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィ(溶離液:アセトン/ヘキサン=85/15)により精製し収率62%(2.2g)で淡黄色オイルを得た。スペクトル等から、生成物はN-(3-トリエトキシシリルプロピル)-3-アジドベンズアミドであることを確認した。
【0136】
(4)N,N-ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)-4-アジドベンズアミド(IMB-4KB)の合成
【化13】
【0137】
4-アジド安息香酸クロリド(N3C6H4COCl)1.8gをTHF15mLに溶かした。窒素ガスの雰囲気下、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)アミン(HN((CH2)3Si(OC2H5)3)2)6g、及びTEA2.1gをTHF20mLに溶かし、撹拌しながら室温で滴下した。反応を完結させるためさらに2hr撹拌を続けた。反応終了後、THFを含む溶液を留去し、得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィ(溶離液:アセトン/ヘキサン=85/15)により精製し収率61%で淡黄色オイルを得た。スペクトル等から、生成物は、N,N-ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)-4-アジドベンズアミドであることを確認した。
【0138】
(5)N,N-ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)-3-アジドベンズアミド(IMB-3KB)の合成
【化14】
【0139】
3-アジド安息香酸クロリド(N3C6H4COCl)1.8gをTHF15mLに溶かした。窒素ガスの雰囲気下、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)アミン(HN((CH2)3Si(OC2H5)3)2)6g、及びTEA2.1gをTHF20mLに溶かし、撹拌しながら室温で滴下した。反応を完結させるためさらに2hr撹拌を続けた。反応終了後、THFを含む溶液を留去し、得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィ(溶離液:アセトン/ヘキサン=85/15)により精製し収率62%で淡黄色オイルを得た。スペクトル等から、生成物は、N,N-ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)-3-アジドベンズアミドであることを確認した。
【0140】
(6)N,N’-((ジエトキシシランジイル)ビス(3-プロピル-3,1-ジイル)ビス(4-アジドベンズアミド)の合成
【化15】
【0141】
4-アジド安息香酸クロリド(N3C6H4COCl)2.8gをTHF30mLに溶かした。窒素ガスの雰囲気下、ビス(3-アミノプロピル)ジエトキシシラン(2.3mL)と、TEA2.1gをTHF20mLに溶かし、撹拌しながら室温で滴下した。室温で一晩攪拌した。反応を完結させるためさらに2hr撹拌を続けた。反応終了後、THFを含む溶液を留去し、得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィ(溶離液:アセトン/ヘキサン=85/15)により精製し収率50%で淡黄色オイルを得た。スペクトルから、生成物は、N,N’-((ジエトキシシランジイル)ビス(3-プロピル-3,1-ジイル)ビス(4-アジドベンズアミド)であることを確認した。
【0142】
(7)上記式(19)で表されるシルセスキオキサン化合物(IMB-4KP)の製造
3-アジド安息香酸クロリド(N3C6H4COCl)をTHFに溶かした。窒素ガスの雰囲気下、3-アミノプロピルトリエトキシシランの加水分解縮合物である原料オリゴマー(米国Gelest社製)とTEAをTHFに溶かし、撹拌しながら室温で滴下した。反応を完結させるためさらに撹拌を続けた。反応終了後、THFを含む溶液を留去し、得られた粗生成物を精製して目的物を得た。この目的物が、式(19)で表されるシルセスキオキサン化合物であった。スペクトルから、生成物においては、式(19)におけるlとmとnとが、l:m:n=1:1:0であることを確認した。
【0143】
<1.無電解めっきにより物質に導体被覆を形成する実施例>
<1-1.各種樹脂基材に対する無電解めっきにおけるIMB-Kの効果>
図7の表に示す各樹脂基材について、
図1に示すフロー図に従って、20μm厚の銅被覆を形成し、密着性を試験した。
図7の表に示すように、脱脂洗浄工程S1においては、樹脂基材によりアセトン又はエタノールを用いた。前処理工程S2においては、樹脂基材によりコロナ放電処理又は酸素プラズマ処理(100mL/分、5分、200W)を施した。前処理後洗浄工程S22は実施しなかった。IMB担持処理S3においては、IMB-4Kのエタノール溶液に30秒間浸漬した。後処理工程S4においては、試料にUV-LED照射器から被照射エネルギー200mJ/cm
2で紫外線を照射した。熱処理と洗浄は行わなかった。ステップS3とS4は2回反復した。IMB後熱処理工程においては、樹脂基材によって80℃、110℃又は125℃で10分間、保持した。無電解めっき処理工程S7及び電解めっき処理工程S8を経て、20μm厚の銅被覆を得た。めっきの残留応力を緩和するため、150℃で10分間保持するアニール処理を行った。無電解めっき後、電解めっき後、アニール後のそれぞれについて、各樹脂基板に形成された銅被覆の外観を観察した。また、各樹脂基材について銅被覆の剥離強度を測定した。縦型電動計測スタンドMX2-500N(株式会社イマダ製)にフォースゲージZTA-50Nを取り付け、90°剥離のピール強度試験機を構成した。剥離速度は50mm/分とした。各樹脂基材について3つのサンプルを作製して表面と裏面それぞれについて計測を行い、ピール強度の最大値と平均値について、それぞれ平均値を求めた。
【0144】
これらの樹脂基材はいずれも、IMB担持処理なしでは無電解めっき銅被覆が形成されないか、形成されても銅被覆の密着強度が極めて弱い樹脂であるが、無電解めっき処理に先立ってIMB担持処理を行うことで、良好な外観と密着性を有する銅被覆が形成された。また、試料#9のフッ素系複合樹脂基材については、我々は従来、IMB-Pを用いたIMB担持処理と無電解めっき処理を組み合わせたプロセスにより、最大ピール強度6.82N/cmを得ていたが、IMB-4Kを用いたIMB担持処理と無電解めっき処理により、それを大きく上回るピール強度が達成できることが分かった。
【0145】
<1-2.COP樹脂に対する無電解めっきにおけるIMB-Kの効果>
COPシート材(0.1mm厚、試料#21)について、
図1に示すフロー図に従って、25μm厚の銅被覆を形成し、密着性を試験した。脱脂洗浄工程S1においては、アセトンを用いた。前処理工程S2においては、酸素プラズマ処理(100mL/分,5分,200W)を施した。前処理後洗浄工程S22は実施しなかった。IMB担持処理S3においては、IMB-4Kのエタノール溶液に30秒間浸漬した。後処理工程S4においては、試料にUV-LED照射器から被照射エネルギー200mJ/cm
2で紫外線を照射した。熱処理と洗浄処理は行わなかった。ステップS3とS4は反復せず、1回だけ実施した。IMB後熱処理工程においては、試料を135℃に15分間保持した。無電解めっき処理工程S7及び電解めっき処理工程S8を経て、25μm厚の銅被覆を得た。めっきの残留応力を緩和するため、150℃で10分間保持するアニール処理を行った。無電解めっき後、電解めっき後、アニール後のそれぞれについて、試料に各樹脂基板に形成された銅被覆の外観を観察した。また、各樹脂基材について銅被覆の剥離強度を測定した。各試料について3つのサンプルを作製してそれぞれについて計測を行い、ピール強度の平均値について、平均値を求めた。銅被覆の外観は、無電解めっき後、電解めっき後、アニール後のいずれも優良であった。また、ピール強度は、7.27N/cmであった。
【0146】
比較例として、同じ材質と厚みのCOPシート材(試料#921)について、IMB担持処理S3を実施しない点を除いて、上記の試料#21と同様のプロセスで、銅被覆の形成を試みた。しかし、試料#921については、無電解銅めっき被覆が形成されず、銅被覆の形成に失敗した。
【0147】
<1-3.PIフィルムに対する無電解めっきにおけるIMB-Kの効果>
PIフィルム(50μm厚、商品名:カプトン、東レ・デュポン社製、試料#31)について、
図1に示すフロー図に従って、20μm厚の銅被覆を形成し、密着性を試験した。脱脂洗浄工程S1においては、エタノールを用いた。前処理工程S2は、実施しなかった。IMB担持処理S3においては、IMB-4Kのエタノール溶液に30秒間浸漬した。後処理工程S4は行わなかった。ステップS3は反復せず、1回だけ実施した。IMB後熱処理工程においては、試料を110℃に15分間保持した。続いて、無電解めっき処理工程S7及び電解めっき処理工程S8を行った。無電解めっき処理工程S7におけるアニール工程S75では、試料を110℃に60分間保持した。電解めっきにより、20μm厚の銅被覆を得た。試料の銅被覆の剥離強度を測定した。3つのサンプルを作製してそれぞれについて計測を行い、ピール強度の平均値について、平均値を求めた。ピール強度は、4.5N/cmであった。
【0148】
試料31と同じ材質と厚みのPIフィルム(試料#32)について、IMB担持処理S3においてIMB-4KPのイソプロパノール溶液に30秒間浸漬する点を除いて、上記の試料#31と同様のプロセスで、銅被覆の形成を試み、20μm厚の銅被覆を得た。試料の銅被覆の剥離強度を測定した。3つのサンプルを作製してそれぞれについて計測を行い、ピール強度の平均値について、平均値を求めた。ピール強度は、2.0N/cmであった。
【0149】
<1-4.COPの無電解めっきにおける各種IMB-Kの効果>
COPシート材(0.1mm厚、試料#41)について、
図1に示すフロー図に従って、20μm厚の銅被覆を形成し、密着性を試験した。脱脂洗浄工程S1においては、アセトンを用いた。前処理工程S2においては、酸素プラズマ処理(100mL/分、2分、200W)を施した。前処理後洗浄工程S22は実施しなかった。IMB担持処理S3においては、IMB-4Kのエタノール溶液に30秒間浸漬した。後処理工程S4においては、試料にUV-LED照射器から被照射エネルギー200mJ/cm
2で紫外線を照射した。次いで、125℃で15分の熱処理を行った。洗浄処理は行わなかった。ステップS3とS4は反復して、計2回実施した。IMB後熱処理工程は実施しなかった。無電解めっき処理工程S7及び電解めっき処理工程S8を経て、20μm厚の銅被覆を得た。無電解めっき処理工程S7においては、110℃で60分のアニール工程S75を実施した。電解めっき後、銅被覆の剥離強度を測定した。各試料について3つのサンプルを作製してそれぞれについて計測を行い、ピール強度の平均値について、平均値を求めた。ピール強度は、6.09N/cmであった。
【0150】
試料#41と同じ材質と厚みのCOPシート(試料#42~#45)について、IMB担持処理S3で用いるIMB-Kの種類、及び後処理工程S4で熱処理のみを行うのか(「H」と表す)、或いは、紫外線照射処理と熱処理との両方を行うのか(「UV+H」と表す)、という点を除いて、試料#41と同様のプロセスで20μm厚の銅被覆を形成し、ピール強度を求めた。その結果を以下に示す。なお、後処理工程S4における紫外線照射の条件は、試料#41と同じであり、後処理工程S4における熱処理の条件は、125℃で15分であった。
試料 IMB剤 後処理 ピール強度(N/cm)
#41 IMB-4KP UV+H 6.09
#42 IMB-3K UV+H 4.78
#43 IMB-3KB UV+H 4.23
#44 IMB-4K H 4.92
#45 IMB-3KB H 4.91
【0151】
<2.基材(物質)に成膜を行う実施例>
<2-1.PIフィルムへの銀ナノペーストの塗布とIMB-Kの効果>
試料#31と同じ材質と厚みのPIフィルム(試料#51)について、図(5B)に示すフロー図に従って、銀ナノペーストを塗布して熱硬化させることにより導体被覆を形成し、密着性を試験した。銀ナノペーストは、ダイセル社製・高粘度タイプ(品番:DNS-009P、粘度:90~100Pa・s、銀濃度:60~70質量%、基準焼成条件:120℃30分、体積抵抗率:5~10μΩ・cm)をイソプロパノール(IPA)で5倍に希釈したものを使用した。脱脂洗浄工程S1においては、エタノールを用い、試料#51に対して5分間の超音波洗浄を行った。前処理工程S2は、実施しなかった。IMB担持処理S3においては、IMB-4KPのIPA溶液に試料を10分間浸漬した。後処理工程S4は行わなかった。ステップS3は反復せず、1回だけ実施した。IMB後熱処理工程S6においては、試料を100℃に10分間保持した。続いて、塗布工程S96においては、試料に上記の希釈銀ナノペーストをスピンコートした(1500rpm、20秒)。続いて、硬化工程S97においては、試料に対し、120℃で30分の熱処理を行った。その後、試料の導体被覆に17mm幅でカットを入れ、4N/cmの両面テープで試料を固定して、テープ剥離試験を行った。試料#51の導体被覆は、テープ剥離試験に耐える密着性を有していた。
【0152】
試料#51と同じ材質と厚みのPIフィルム(試料#52)について、IMB後熱処理工程S6において試料を150℃で10分保持する点を除いては、試料#51と同一のプロセスに従って導体被覆を形成して、同様のテープ剥離試験を行った。試料#52の導体被覆は、密着性が試料#51と比べて劣る結果となった。
また、比較例として、試料#52と同じ材質と厚みのPIフィルム(試料#53)について、IMB担持処理S3において、IMB-Aの水溶液に試料を10分間浸漬する点を除いては、試料#52と同一のプロセスに従って導体被覆を形成して、同様のテープ剥離試験を行った。試料#53の導体被覆は、テープ剥離試験に耐える密着性を有しなかった。
また、試料#51と同じ材質と厚みのPIフィルム(試料#54、#55、#56)について、IMB担持処理S3においてそれぞれ順に、IMB-4Kのエタノール溶液、IMB-4Kの水溶液、IMB-4KのPGMEA溶液の水溶液に試料を10分間浸漬する点を除いては、試料#51と同一のプロセスに従って導体被覆を形成して、同様のテープ剥離試験を行った。試料#54、#55、#56の導体被覆はいずれも、密着性が試料#51と比べて劣る結果となった。
また、比較例として、試料#51と同じ材質と厚みのPIフィルム(試料#57)について、IMB担持処理S3を行わない点を除いては、試料#51と同一のプロセスに従って導体被覆を形成して、同様のテープ剥離試験を行った。試料#57の導体被覆は、ほとんど密着性を有しなかった。
【0153】
この結果から、本発明の方法で、導電ペーストの塗布と硬化によりPIフィルム上に導体被覆を形成する場合には、IMB担持処理工程S3が必須であることがわかる。また、IMB後熱処理工程S6における熱処理温度は、150℃よりは低めの約100℃程度、例えば、80~120℃か、より好ましくは90~110℃の温度で、3~10分程度の短時間の熱処理を行うべきことがわかる。また、この場合に用いる界面分子結合剤(IMB剤)としては、IMB-4KPを用いることで、密着性の高い導体被覆を形成できる。
【0154】
<2-2.シリコンウェハーに対するPI及びPAIの塗布と各種IMB-Kの効果>
シリコンウェハー(試料#61)に対して、図(5B)に示すフロー図に従って、PI(ユピアAT、宇部興産製、固形分濃度18±1%、粘度5±1Pa・s、溶剤NMP、熱硬化条件350℃20分)を塗布して熱硬化させることにより成膜し、密着性を試験した。脱脂洗浄工程S1においては、エタノールを用い、試料に対して5分間の超音波洗浄を行った。前処理工程S2は、実施しなかった。IMB担持処理S3においては、IMB-4Kのエタノール溶液に試料を10分間浸漬した。後処理工程S4は行わなかった。ステップS3は反復せず、1回だけ実施した。IMB後熱処理工程S6においては、試料を100℃に3分間保持した。続いて、塗布工程S96においては、試料に上記のPIをスピンコートした(1500rpm、20秒)。続いて、硬化工程S97においては、試料に対し、PIの推奨熱硬化条件で熱処理を行った。その後、試料の塗膜に1mm幅、5×5マスでカットを入れ、クロスカット試験を行って、格子の密着数(=25-剥離数)を確認した。密着数は25、塗膜の膜厚は29μmであった。
【0155】
試料#61と同じシリコンウェハー(試料#62~#67)について、IMB担持処理S3において用いるIMB及び溶媒を下記の通りとしたことを除いて、試料#61と全く同じプロセスでPIを塗布して熱硬化させることにより成膜し、密着性を試験した。その結果を以下に示す。なお、試料#67は比較例であり、IMB担持処理S3を行わない試料である。
(PIをシリコンウェハーに塗布した場合)
試料 化合物 溶媒 膜厚(μm) 密着数
#61 IMB-4K エタノール 29 25
#62 IMB-4K 水 25 25
#63 IMB-4K PGMEA 27 25
#64 IMB-4KB エタノール 33 25
#65 IMB-3K エタノール 33 25
#66 IMB-3KB エタノール 25 25
#67 なし なし 20 0
【0156】
また、試料#61~#63、#65~#67と夫々同じシリコンウェハー(試料#71~#73、#75~#77)について、PIの替わりにPAI(HCP-5012-32、日立化成製、固形分濃度30%、粘度3Pa・s、溶剤NMP/MEK=80/20、熱硬化条件270℃20分)を塗布する点と熱硬化条件とを除いて、試料#61~#63、#65~#67と夫々全く同じプロセスでPAIを塗布して熱硬化させることにより成膜し、15分間放冷してから、密着性を試験した。その結果を以下に示す。なお、試料#77は比較例であり、IMB担持処理S3を行わない試料である。
(PAIをシリコンウェハーに塗布した場合)
試料 化合物 溶媒 膜厚(μm) 密着数
#71 IMB-4K エタノール 16 22
#72 IMB-4K 水 19 25
#73 IMB-4K PGMEA 19 25
#75 IMB-3K エタノール 16 25
#76 IMB-3KB エタノール 16 25
#77 なし なし 20 0
【0157】
<2-3.シリコンウェハーへのPI及びPAIの塗布におけるイトロ処理とIMB処理の組合せの効果>
上記<2-2>と同様にして、シリコンウェハーにPI及びPAIを塗布するに当たり、前処理工程S2として、イトロ処理を実施した場合の密着性への効果を調べた。イトロ処理においては、シリコンウェハーから距離5cm付近で表面に5回、燃焼ガスの照射を行った。その結果を以下にまとめる。なお、IMB-KとIMB-Aの溶媒はいずれもエタノールを使用した。
(PIをシリコンウェハーに塗布した場合)
試料 化合物 イトロ処理 膜厚(μm) 密着数
#81 なし なし 12 0
#82 なし あり 14 0
#83 IMB-A あり 13 25
#84 IMB-A なし 15 24
#85 IMB-K あり 11 25
#86 IMB-K なし 13 25
(PAIをシリコンウェハーに塗布した場合)
試料 化合物 イトロ処理 膜厚(μm) 密着数
#91 なし なし 20 0
#92 なし あり 15 0
#93 IMB-A あり 19 25
#94 IMB-A なし 25 13
#95 IMB-4K あり 18 25
#96 IMB-4K なし 19 25
【0158】
この結果からわかることは、まず、IMB担持処理なしで、イトロ処理単独では密着性が確保できないことである。また、シリコンウェハーにイトロ処理を施してIMB担持処理と組み合わせることで、IMB担持処理単独よりも、密着力が向上する傾向がみられる。さらに、イトロ処理と組み合わせても、そうでなくても、IMB-AよりIMB-Kの方が密着性が高い傾向がみられる。
【0159】
<2-4.PIフィルムへのPAI又はPIの塗布とIMB-Kの効果>
試料#31と同じ材質と厚みのPIフィルム(試料#101)について、図(5B)に示すフロー図に従って、PAIを塗布して熱硬化させることにより塗膜を形成し、密着性を試験した。PAIは試料#71と同じものを使用した。脱脂洗浄工程S1においては、エタノールを用い、試料に対して5分間の超音波洗浄を行った。前処理工程S2は、実施しなかった。IMB担持処理S3においては、IMB-4Kのエタノール溶液に試料を10分間浸漬した。後処理工程S4は行わなかった。ステップS3は反復せず、1回だけ実施した。IMB後熱処理工程S6においては、試料を150℃に10分間保持した。続いて、塗布工程S96においては、試料に上記のPAIをスピンコートした(1500rpm、20秒)。続いて、硬化工程S97においては、試料に対し、PAIの推奨熱硬化条件で熱処理を行った。15分間の放冷後、試料の塗膜に2mm幅、10×10マスのカットを入れ、5N/cmの両面テープで試料を固定して、テープ剥離試験を行った。
【0160】
試料#101と同じ材質と厚みのPIフィルム(#102~#104)について、IMB担持処理工程で用いる化合物と塗布する液状樹脂を以下に示す通りとしたことを除いて、試料#101と同様のプロセスで塗膜を形成して、密着性を調べた。その結果を以下に示す。なお、IMB担持処理に係る化合物の溶媒はすべてエタノールを用いた。また、PIは、試料#61に塗布したものと同一である。
試料 塗布 化合物 膜厚(μm) 密着数
#101 PAI IMB-4K 17 100
#102 PAI なし 25 100
#103 PI IMB-4K 18 97
#104 PI なし 21 86
【0161】
この結果からわかることは、PAIを塗布する場合には、IMB担持処理なしでも密着性が確保できているが、PIを塗布する場合には、IMB担持処理なしでは密着性が十分に確保できないことである。
【0162】
<2-5.シート状の物質どうしを熱圧着してなる結合体の密着性試験とIMB-Kの効果>
図(5A)に示される製造方法により、金属箔を熱圧着したPTFEシート(試料#110)を作製して、ピール強度を調べた。PTFEシートは、日東電工製(脱フッ素化処理済、厚み0.18mm)を用いた。金属箔としては、18μm厚の圧延銅箔を用いた。PTFEシートに対する表面処理工程Sstにおいては、脱脂洗浄工程S1及び前処理工程S2を実施することなく、IMB担持処理工程S3において、化合物IMB-4Kの1質量%エタノール溶液をwet厚20μmで塗布した。更に、後処理工程S4において、被照射エネルギー100mJ/cm2の紫外線照射を行った。熱処理工程S44、洗浄工程S46及びIMB後熱処理工程S6は実施しなかった。次いで、熱圧着処理工程Shpにおいては、プレス温度180℃、プレス圧8MPa、プレス時間10分で、PTFEシートの表面に圧延銅箔を熱圧着した。自然冷却後、剥離強度試験を行い、8.0N/cmのピール強度を得た。
【0163】
熱圧着される2つの物質とIBM担持処理工程で用いられる化合物を除くプロセスを試料#110と同様にして、2つの物質の熱圧着による結合体を形成して、剥離強度試験を行った。その結果を以下に示す。各物質の厚みは20μm又は18μmである。また、化合物IMB-4KPの溶媒は水で、他の化合物の溶媒はエタノールである。
試料 物質1 物質2 化合物 ピール強度(N/cm)
#110 PTFE Cu IMB-4K 8.0
#111 PTFE Cu IMB-3K 7.8
#112 PTFE Cu IMB-4KB 8.0
#113 PTFE Al IMB-4KP 6.5
#114 PI PI IMB-4K 7.2
#115 PI PTFE IMB-4K 8.9
#116 PI Cu IMB-4K 3.9
#117 PI Al IMB-4K 2.1
#118 PI Al なし 0.0
【0164】
熱圧着による結合体の形成においては、熱圧着に先立ってIMB担持処理工程を実施することで、樹脂と樹脂、樹脂と金属のいずれの組合せについても、大きな剥離強度が実現できることが分かった。
【0165】
本発明は、上記の実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々の組合せ、変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。